有機EL発光装置の製造方法、プラズマ処理装置及び電子機器
【課題】マスキング部材を使用することなく、塗布領域のみに平坦かつ所望の厚みの有機EL層を備える有機EL発光装置の製造方法及びこれに用いられるプラズマ処理装置並びに電子機器を提供する。
【解決手段】有機EL発光装置の製造方法は、基板上の画素形成領域に有機EL材料を塗布して有機EL層を有する複数の画素を形成する第1の塗布工程と、プラズマガスを用いて複数の画素のうちの一部の画素から少なくとも有機EL層を除去する除去工程と、を備える。また、プラズマ処理装置はプラズマガスPgを生成するプラズマ生成手段と、プラズマ生成手段から供給されたプラズマガスPgを射出するノズル部を有するプラズマヘッド660と、ノズル部とプラズマ処理されるべき画素とを対向させる位置合わせ手段と、を備え、ノズル部のプラズマ射出口の面積は画素の開口部面積以下である。
【解決手段】有機EL発光装置の製造方法は、基板上の画素形成領域に有機EL材料を塗布して有機EL層を有する複数の画素を形成する第1の塗布工程と、プラズマガスを用いて複数の画素のうちの一部の画素から少なくとも有機EL層を除去する除去工程と、を備える。また、プラズマ処理装置はプラズマガスPgを生成するプラズマ生成手段と、プラズマ生成手段から供給されたプラズマガスPgを射出するノズル部を有するプラズマヘッド660と、ノズル部とプラズマ処理されるべき画素とを対向させる位置合わせ手段と、を備え、ノズル部のプラズマ射出口の面積は画素の開口部面積以下である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス(有機EL)発光装置の製造方法、プラズマ処理装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光装置は、有機EL素子を備える発光装置である。画素として複数の有機EL素子を備える有機EL発光装置は、表示装置としても用いられる。有機EL素子は電流を供給されることにより発光する有機EL層を有している。有機EL層は、一般的には有機EL材料を基板上に塗布することにより形成される。
【0003】
特許文献1には、有機EL材料を塗布すべき所定のパターン形状に応じた溝を基板上に形成しておき、この溝にノズルを沿わせるように基板とノズルとを相対的に移動させて、前記ノズルからの有機EL材料を前記溝内に流し込んで塗布する過程を備えた有機EL表示装置の製造方法が開示されている。この方法では、液状の有機EL材料又は有機EL材料の溶液がノズルから連続的に吐出され、塗布される。この方法はノズルプリンティングと呼ばれる。
【0004】
高性能の有機EL発光装置を得るためには、有機EL層が所定の領域に選択的に形成されていること、形成されている有機EL層が平坦でかつ所望の厚みを有すること、が必要となる。このような有機EL層を形成するためには、液状の有機EL材料又は有機EL材料の溶液が有機EL層が形成されるべき領域(以下、塗布領域と呼称する。)にのみ素早くかつ均一に広がり、それ以外の領域(以下、非塗布領域と呼称する。)には広がらないことが好ましい。このため、基板には必要に応じて親液化処理や撥液化処理が行われる。
【0005】
ここで親液化処理とは、ある材料に対して、ある液体との間の接触角を小さくすることを目的に行われる処理又は操作を言う。これに対し撥液化処理とは、ある材料に対して、ある液体との間の接触角を大きくすることを目的に行われる処理又は操作を言う。例えば、基板上の複数の画素形成領域が隔壁によって仕切られている場合、塗布領域である画素形成領域の底部に対しては親液化処理が行われ、非塗布領域である隔壁の表面に対しては撥液化処理が行われる。このようにすることで、塗布された有機EL材料が隔壁上から弾かれて画素形成領域へ流入する。この結果、非塗布領域における有機EL層の形成を防ぎ、平坦で所望の厚みを有する有機EL層を塗布領域に形成することができる。
【0006】
特許文献2には、有機EL材料溶液の接触角が基材表面との接触角よりも大きくなる材料で形成されたマスキング部材を基材表面の非塗布領域に密着させた後に、塗布領域に溶液を塗布する有機EL素子の製造方法が開示されている。この方法では、マスキングによって非塗布領域への有機EL層の形成を防ぎ、さらにマスキング部材の撥液性を利用してその表面に塗布された有機EL材料溶液を塗布領域へと流入させる。この結果、塗布領域内に平坦で所望の厚みを有する有機EL層を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−75640号公報
【特許文献2】特開2006−216414号公報
【特許文献3】特開2001−297876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の方法では、非塗布領域にマスキングテープ等を貼付しなければならない。このため、生産性が低下するという問題がある。また、使用済みのマスキングテープは廃棄物となるため、生産コストが増大するという問題もある。
【0009】
特許文献3には、塗布領域に対応する位置に開口部を有するマスク板を用い、塗布領域に選択的に有機EL材料を塗布する方法が開示されている。この方法ではマスク板を表面に密着させればよいため、マスキングテープを用いる方法に比べれば簡便である。しかし、マスク板と基板との密着が充分でないと隙間から有機EL材料が入り込んでしまい、マスク板開口の近傍の有機EL層の平坦性が損なわれたり、厚みが好ましい範囲から逸脱したりするという問題がある。また、マスク板を再利用するためには有機溶剤等による洗浄が必要であり、環境負荷の点でも問題がある。
【0010】
マスキング部材を用いる代わりに、プラズマ処理等によって各領域の表面を化学的に親液化又は撥液化する方法も広く採用されている。この方法は生産性や環境負荷の点で優れている。しかし、化学的処理では被処理面の材質や形状等の影響で部分的に親液化や撥液化が充分でない箇所が残る場合がある。すると塗布された有機EL材料の分布に偏りが生じ、複数の有機EL素子間で有機EL層の厚みにバラつきが生じたり、有機EL層が平坦に形成されていない画素が生じたりする(以下、これらを総称して印刷不良画素と呼称する。)。
【0011】
さらに、非塗布領域が比較的広い面積を占めている箇所、例えば基板周辺部ではその近傍に親液化された塗布領域がないため、塗布され弾かれた有機EL材料が流入する先が存在しない。このような箇所には有機EL材料がそのまま残るため、非塗布領域に有機物の膜が形成されてしまう。これは、後に電子部品を実装したり、封止基板を接合して封止する際に障害となる。
【0012】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、マスキング部材を使用することなく、平坦かつ所望の厚みの有機EL層を塗布領域に選択的に形成することのできる有機EL発光装置の製造方法及びこれに用いられるプラズマ処理装置並びに電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の観点に係る有機EL発光装置の製造方法は、
基板上の画素形成領域に有機EL材料を塗布して有機EL層を有する複数の画素を形成する第1の塗布工程と、
プラズマガスを用いて前記複数の画素のうちの一部の画素から少なくとも前記有機EL層を除去する除去工程と、
を備える。
【0014】
本発明の第1の観点に係る有機EL発光装置の製造方法は、
前記複数の画素の中から前記有機EL層に欠陥を有する画素の有無を検出する検出工程をさらに備えていてもよい。
【0015】
また、本発明の第1の観点に係る有機EL発光装置の製造方法は、
前記除去工程において前記有機EL層が除去された部分を前記プラズマガスを用いて前記有機EL材料に対して親液性を有するように親液化処理する再親液化工程と、
前記除去工程において前記有機EL層が除去された部分の近傍を前記プラズマガスとは異なる他のプラズマガスを用いて前記有機EL材料に対して撥液性を有するように撥液化処理する再撥液化工程と、
をさらに備えていてもよい。
【0016】
前記除去工程において、前記プラズマガスは前記画素の開口部面積よりも小さい面積を有するプラズマ射出口から射出される、
ことが好ましい。
【0017】
前記プラズマ射出口は吸引口によって取り囲まれ、
少なくとも前記除去工程の間、前記吸引口を通じて前記吸引口周囲の吸引が連続的に行われる、
ことが好ましい。
【0018】
前記プラズマ射出口及び前記吸引口は不活性ガス吐出口により取り囲まれ、
少なくとも前記除去工程の間、前記不活性ガス吐出口から不活性ガスが連続的に吐出される、
ことがさらに好ましい。
【0019】
前記再親液化工程と前記除去工程とは1つの工程として行われることが好ましい。
【0020】
前記再親液化工程及び前記再撥液化工程において、前記プラズマガス及び前記プラズマガスとは異なる他のプラズマガスはいずれも前記画素の開口部面積よりも小さい面積を有するプラズマ射出口から射出されることが特に好ましい。
【0021】
また、本発明の第1の観点に係る有機EL発光装置の製造方法は、
前記除去工程において有機EL層が除去された部分に再び有機EL層を形成する第2の塗布工程をさらに含んでいてもよい。
【0022】
前記除去工程は前記基板上の前記画素形成領域以外の領域に付着している前記有機EL材料を前記プラズマガスを用いて除去する工程をさらに含んでいてもよい。
【0023】
本発明の第2の観点に係るプラズマ処理装置は、
複数の画素を有する有機EL発光装置の製造に用いられ、
プラズマガスを生成するプラズマ生成手段と、
前記プラズマガスを射出するノズル部を有するプラズマヘッドと、
前記プラズマヘッドとプラズマ処理されるべき画素とを対向させる位置合わせ手段と、
を備え、
前記ノズル部のプラズマ射出口の面積は前記画素の開口部面積以下である。
【0024】
本発明の第2の観点に係るプラズマ処理装置は、
前記複数の画素の中から有機EL層に欠陥を有する画素の有無を検出して前記プラズマ処理されるべき画素を特定する検出手段をさらに備え、
前記位置合わせ手段は前記検出手段による検出結果に基づいて前記プラズマヘッドと前記プラズマ処理されるべき画素とを対向させる、
ことが好ましい。
【0025】
本発明の第2の観点に係るプラズマ処理装置は、
吸引口を通じて気体を吸引する吸引手段をさらに備え、
前記吸引口は前記プラズマヘッドに前記プラズマ射出口を取り囲むように形成されている、
ことが好ましい。
【0026】
前記プラズマヘッドは前記ノズル部及び前記吸引口を取り囲むように配置されたカバー部を有し、
前記カバー部の先端は、前記ノズル部と前記処理されるべき画素とを対向させた際に前記ノズル部の先端よりも前記処理されるべき画素に近くなるよう配置されている、
ことがさらに好ましい。
【0027】
本発明の第2の観点に係るプラズマ処理装置は、
不活性ガス吐出口を通じて不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段をさらに備え、
前記不活性ガス吐出口は前記プラズマヘッドに前記プラズマ射出口及び前記吸引口を取り囲むように形成されていてもよい。
【0028】
本発明の第3の観点に係る電子機器は、本発明の第1の観点に係る有機EL発光装置の製造方法によって製造された有機EL発光装置を備える。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、マスキング部材を使用することなく、平坦かつ所望の厚みの有機EL層を塗布領域に選択的に形成することのできる有機EL発光装置の製造方法及びこれに用いられるプラズマ処理装置を提供できる。この有機EL発光装置は、電子機器に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a),(b)は有機EL発光装置を有するデジタルカメラを示した図である。
【図2】有機EL発光装置を有するパーソナルコンピュータを示した図である。
【図3】有機EL発光装置を有する携帯電話機を示した図である。
【図4】有機EL発光装置を有するテレビを示した図である。
【図5】有機EL発光装置の構造を説明するために一部を切り欠いて示した模式図である。
【図6】図5に示した有機EL発光装置の一部を拡大して示した平面図である。
【図7】有機EL発光装置の画素の1つを拡大して示した平面図である。
【図8】図7のB−B’線断面図である。
【図9A】有機EL発光装置の製造方法を説明するための断面図である。
【図9B】有機EL発光装置の製造方法を説明するための断面図である。
【図9C】有機EL発光装置の製造方法を説明するための断面図である。
【図10】ノズルプリンティング法における有機EL材料の溶液の塗布工程を説明するための模式図である。
【図11】印刷不良画素を含む複数の画素の断面図である。
【図12】本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理装置の構成を示す模式図である。
【図13】(a),(b)は本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理装置に備えられるプラズマヘッドの構造を説明するための図であり、(a)は横断面図、(b)は(a)のC−C’線断面図である。
【図14】(a),(b)は図13に示したプラズマヘッドの変形例を示す図であり、(a)は横断面図、(b)は(a)のD−D’線断面図である。
【図15A】本発明の第1実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法を説明するための図であって、印刷不良画素を含む複数の画素の断面図である。
【図15B】本発明の第1実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法において、プラズマガスにより有機EL層を除去する工程を示す図である。
【図15C】本発明の第1実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法において、プラズマ処理により印刷不良画素の有機EL層が除去されて画素電極が露出した状態を示す図である。
【図15D】本発明の第1実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法において、有機EL層が除去された領域に有機EL層が再形成された状態を示す図である。
【図16】(a),(b)は本発明の第2実施形態に係るプラズマ処理装置に備えられるプラズマヘッドの構造を説明するための模式図であり、(a)は横断面図、(b)は(a)のE−E’線断面図である。
【図17】(a),(b)は第2実施形態の第1の変形例に係るプラズマ処理装置に備えられるプラズマヘッドの構造を説明するための模式図であり、(a)は横断面図、(b)は(a)のF−F’線断面図である。
【図18】(a),(b)は第2実施形態の第2の変形例に係るプラズマ処理装置に備えられるプラズマヘッドの構造を説明するための模式図であり、(a)は横断面図、(b)は(a)のG−G’線断面図である。
【図19】素子形成領域外に有機膜が形成された薄膜素子基板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る有機EL発光装置の製造方法及びこれに用いられるプラズマ処理装置の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0032】
本発明に係る製造方法により製造される有機EL発光装置は、例えばデジタルカメラ、パーソナルコンピュータ、携帯電話、テレビ等の電子機器の表示部(ディスプレイ)に用いられる。具体例について図1〜4を参照しながら説明する。カメラ1200は図1(a)及び(b)に示すように、レンズ部1201と、操作部1202と、表示部1203と、ファインダー1204と、を備える。有機EL発光装置は、表示部1203に用いられる。同様に、パーソナルコンピュータ1210は図2に示すように、表示部1211と操作部1212とを備える。有機EL発光装置は、表示部1211に用いられる。更に、図3に示すように、携帯電話機1220は表示部1221と、操作部1222と、受話部1223と、送話部1224と、を備える。有機EL発光装置は、表示部1221に用いられる。更に、図4に示すように、テレビ1230は表示部1231を備える。有機EL発光装置は、表示部1231に用いられる。
【0033】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法及びこれに用いられるプラズマ処理装置について、発光装置800の製造工程を例として説明する。図5に示すように、発光装置800は薄膜素子基板10と封止基板160とを有する。ガラス基板100の素子形成領域110内には、複数の画素120が配列されている。薄膜素子基板10と封止基板160とは、シール部140を介して貼り合わせられている。ここでは、画素120は3種類の画素120R、120G、120Bからなる。3種類の画素120R、120G、120Bは図6に示すように一定の順番で繰り返し並べられている。画素120R、120G及び120Bの間は、隔壁130で仕切られている。
【0034】
画素120は有機EL素子である。画素120は図8に示すように、有機EL層45を備える。有機EL層45は電流を供給されることにより発光する。このため、画素120は図7に示すように、有機EL層45に電流を供給するためのアノード線La及び駆動トランジスタTr12と、画素120の動作や輝度を制御するための走査線Ls、信号線Ld及びスイッチトランジスタTr11と、を有している。
【0035】
本実施形態では、発光に寄与する有機EL層(有機層)として発光層のみを備える構成を一例として挙げているが、これに限られず、有機EL層は、正孔注入層と発光層とを備えてもよく、正孔注入層とインターレイヤと発光層とを備えてもよい。
【0036】
ここで、有機EL層の一部として正孔注入層を設ける場合、正孔注入層は、画素電極42と発光層との間に設けられる。正孔注入層は発光層に正孔を供給する機能を有する。正孔注入層は正孔(ホール)注入・輸送が可能な有機高分子系の材料、例えば導電性ポリマーであるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とドーパントであるポリスチレンスルホン酸(PSS)から構成される。
【0037】
更に、インターレイヤを設ける場合、インターレイヤは正孔注入層と発光層との間に設けられる。インターレイヤは、発光層から正孔注入層への電子注入を抑制して発光層内において電子と正孔とを再結合させやすくする機能を有し、発光層の発光効率を高める。
【0038】
アノード線La、走査線Ls、信号線Ld、スイッチトランジスタTr11及び駆動トランジスタTr12のそれぞれ少なくとも一部は、図7及び図8に示すように、隔壁130の下に配置されている。
【0039】
アノード線La、走査線Ls、信号線Ld、スイッチトランジスタTr11及び駆動トランジスタTr12は、公知の方法により形成される。すなわち、図9Aに示すように、ガラス等からなる基板10上に駆動トランジスタTr12のゲート電極Tr12g、信号線Ldが形成される。この際、図面では省略されているが、スイッチトランジスタTr11のゲート電極Tr11gも合わせて形成される。ゲート電極Tr12g、信号線Ld及びゲート電極Tr11gは、例えばCr膜、Al膜、Cr/Al積層膜、AlTi合金膜又はAlTiNb合金膜等からなる。
【0040】
次に図9Bに示すように、ゲート電極Tr12g、信号線Ld及びゲート電極Tr11gを覆うように、ゲート絶縁膜106がCVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。続いて半導体層112、ストッパ膜115、半導体層117が形成され、さらに画素電極42が形成される。画素電極42は、例えばITO(Indium Tin Oxide)、ZnO等からなる。
【0041】
さらに図9Cに示すように、駆動トランジスタTr12、信号線Ldとそれぞれ対応する位置に、シリコン窒化膜等からなるオーバーコート膜125、ポリイミド等からなる隔壁130が形成される。オーバーコート膜125及び隔壁130の画素電極42と対応する位置には、図9Cに示すように開口部Apが形成されている。
【0042】
次に、ノズルプリンティングによる有機EL層45の形成工程について説明する。先に図6に示したように、画素120の間は隔壁130によって仕切られている。有機EL層45は、この隔壁130の間に有機EL材料を流し込むことによって形成される。
【0043】
まず、画素電極42の表面を例えば酸素をプロセスガスとして、窒素をキャリアガスとして用いたプラズマ処理により親液化する。一方、隔壁130の表面を例えば四フッ化炭素をプロセスガスとして、窒素をキャリアガスとして用いたプラズマ処理により撥液化する。
【0044】
次に、図10に示すように、基板100上に形成されている隔壁130(図示せず)の間に有機EL材料の溶液52を塗布する。溶液52はプリントノズル50から連続的に吐出され、隔壁130の間に流し込まれる。この際、図10に示すように、プリントノズル50は隔壁130と平行方向(図10では横方向)に動かされる。一方、基板100はプリントノズル50の移動方向とは直交する方向に、断続的に動かされる。その後、必要に応じて溶液52から溶媒を除去することで、画素電極42上に有機EL層45が形成される。その後、対向電極46を形成することによって、図8に示すような画素120が形成される。
【0045】
画素120の形成において、画素電極42の親液化処理や隔壁130の撥液化処理が均一に行われなかったり、プリントノズル50からの溶液52の吐出量にバラつきが生じたりすると、画素120のうちの一部において印刷不良が生じる場合がある。例えば図11に示すように、複数の画素120a,120x及び120bのうち、画素120xの有機EL層45xの厚みに偏りが生じる場合がある(以下、このような画素を印刷不良画素と総称する。)。この結果、画素120a,120bと比較して画素120xの発光効率や輝度が低下したりする。このような印刷不良画素がある一定の割合を超えて存在すると、有機EL発光装置800全体の発光効率や表示品質が低下する。
【0046】
ここで、本発明に係る有機EL発光装置の製造方法は、プラズマガスを用いた有機EL層の除去工程を備える。本発明に係る有機EL発光装置の製造方法では、印刷不良画素の有機EL層はプラズマヘッドから射出されるプラズマガスによって選択的に除去される。
【0047】
(プラズマ処理装置)
本実施形態に係るプラズマ処理装置について、図面を参照しながら説明する。本実施形態において、有機EL層の除去にはプラズマ処理装置700が用いられる。プラズマ処理装置700は図12に示すように、ガス供給ユニット620と、プラズマ生成部630と、制御部640と、リニア駆動部650と、プラズマヘッド660と、ステージ680と、吸気ユニット690と、を備える。ステージ680上には被処理基板670が配置される。
【0048】
ガス供給ユニット620は、プロセスガスとキャリアガスとをプラズマ生成部630に供給する。プラズマ生成部630は供給されたガスに電圧を印加し、常圧でプラズマを発生させる。発生したプラズマは、図12に示すようにプラズマヘッド660の開口部からプラズマガスPgとして射出され、被処理基板670に吹き付けられる。このようにして、被処理基板670のプラズマ処理が行われる。
【0049】
例えば、有機EL層の除去や画素電極表面の親液化を目的とする処理においては、窒素をキャリアガスとして、酸素をプロセスガスとして用いることができる。一方、隔壁表面の撥液化を目的とする処理においては、例えば窒素をキャリアガスとして、四フッ化炭素をプロセスガスとして用いることができる。プロセスガス及びキャリアガスの種類はこれらに限定されず、プラズマ処理の目的に応じて選択される。
【0050】
プラズマヘッド660は図13に示すように、プラズマ射出口661と、吸引口662とを備える。吸引口662はプラズマ射出口661を取り囲むように配置されている。プラズマ射出口661はプラズマ生成部630に接続されている。吸引口662は吸気ユニット690に接続されている。ここで、プラズマ射出口661の開口部面積は、被処理基板670に形成されている画素120の開口部面積よりも小さい。
【0051】
本実施形態においてはプラズマ射出口661が円形である例を示したが、プラズマ射出口661の形状はこれに限定されない。画素120の開口部に対応した形状、例えば長方形であってもよい。いずれの場合においても、プラズマ射出口661の面積は画素120の開口部の面積よりも小さい。好ましくは、プラズマ射出口661の開口部の最大径は、画素120の開口部の短辺よりも短い。例えば、プラズマ射出口661が円形である場合においてはその直径、長方形である場合においてはその長辺の長さは、画素120の開口部の短辺よりも短いことが好ましい。
【0052】
また、本実施形態においては吸引口662が単一である例を示したが、吸引口662は複数形成されていてもよい。例えば、図14(a)及び図14(b)に示すように、径の小さい吸引口662が複数形成され、プラズマ射出口661を取り囲むように配置されていてもよい。吸引口662の径を小さくすることで、吸引効率を高めることができる。
【0053】
(有機EL層除去工程)
印刷不良画素である画素120xを例として、本実施形態に係るプラズマ処理装置700を用いたプラズマ処理について説明する。図15Aに示すように、画素120xは画素120aと画素120bとの間に存在する。画素120xは平坦でない有機EL層45xを有する印刷不良画素である。これに対し、画素120a,120bは共に良好な有機EL層45a,45bを有している。
【0054】
印刷不良画素である画素120xは、目視又はその他公知の検出手段によって検出される。検出手段の一例として、白色光干渉法を用いた非接触3次元表面形状・粗さ測定機(例えば、ザイゴ社製、New View6000シリーズ)による手法がある。画素120xが検出されると、その位置情報が検出結果として制御部640に入力される。制御部640は入力された位置情報に基づいてリニア駆動部650に沿ってプラズマヘッド660を移動させると共に、プラズマヘッド660の移動方向と直交する方向にステージ680を移動させ、プラズマヘッド660と画素120xとを対向させる。
【0055】
次に制御部640はガス供給ユニット620を制御して酸素と窒素の混合ガスをプラズマ生成部630へと供給する。さらに、制御部640はプラズマ生成部630を制御して混合ガスに電圧を印加し、プラズマを発生させる。発生したプラズマは図15Bに示すように、プラズマガスPgとしてプラズマ射出口661から画素120xの有機EL層45xに向けて射出される。有機EL層45xはプラズマガスPgによって分解され、除去される。ここでプラズマ射出口661の開口部面積は、画素120xの開口部面積よりも小さい。このため図15Cに示すように、プラズマ処理装置700は画素120a,120bの有機EL層45a,45bを分解させることなく、印刷不良画素である画素120xの有機EL層45xのみを選択的に除去することができる。すなわち、選択的なスポットプラズマ処理が可能となる。
【0056】
また、制御部640は吸気ユニット690を作動させて、プラズマヘッドの吸引口662から周囲の気体を吸引する。制御部640は少なくともプラズマ射出口661からプラズマガスPgが射出されている間、吸気ユニット690を作動させる。分解された有機EL層45xは周囲に飛散する前に吸引口662から吸引されて外部へと排出されるため、周囲を汚染することがない。このようにして、プラズマ処理装置700は周囲の画素に影響を与えることなく印刷不良画素の有機EL層のみを選択的に除去することができる。
【0057】
なお、有機EL層45xが除去された後、露出した画素電極42の表面を再び親液化することが好ましい。画素電極42の表面を再び親液化され、有機EL層の再形成が容易となる。この場合、有機EL層45xの除去と画素電極42の表面の親液化とは別の工程として行ってもよいが、これらの処理を合わせて1つの工程として行うことが作業効率の面から好ましい。この場合、例えば酸素をプロセスガスとして用いたプラズマガスPgを吹き付けて有機EL層45xを除去した後、プラズマガスPgの射出を継続すればよい。このようにすることで、1つの工程内で有機EL層45xの除去と露出した画素電極42の再親液化とを行うことができる。
【0058】
また、除去工程が行われた後、プラズマ処理装置700を用いて有機EL層45xが除去されて露出した隔壁130を再び撥液化処理してもよい。この場合、プロセスガスとしては例えば四フッ化炭素が用いられる。隔壁130の表面を再び撥液化することで、有機EL層の再形成がさらに容易となる。
【0059】
有機EL層の再形成は、公知の方法により行うことができる。方法は特に限定されないが、特定の領域に対して選択的に塗布を行うことができる方法が好ましい。このような方法として、例えば、インクジェット方式が挙げられる。
【0060】
ここまで本発明に係る有機EL発光装置の製造方法及びこれに用いられるプラズマ処理装置について第1実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の実施形態及びその変形例が本発明の範囲に含まれる。以下、その他の実施形態及びその変形例について説明する。
【0061】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るプラズマ処理装置は、図16(a)及び図16(b)に示すプラズマヘッド665を備える。プラズマヘッド665は不活性ガス吐出口663を有する。図16(a)に示すように、不活性ガス吐出口663は、プラズマ射出口661及び吸引口662を囲むように形成されている。プラズマヘッド665以外の構成は、本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理装置700と同様である。
【0062】
本実施形態に係るプラズマ処理装置では、ガス供給ユニット620又は別途備えられている不活性ガスライン(図示せず)から窒素、アルゴン等の不活性ガスが供給され、不活性ガス吐出口663から吐出される。吐出された不活性ガスはエアーカーテンのように機能し、プラズマ射出口661から射出されたプラズマガスPgや、プラズマガスPgによって分解された有機EL層45xが周囲に拡散するのを防ぐ。このようにして、画素120xの周辺に形成されている正常な画素120a,120b等が損傷したり、汚染されたりすることをより確実に防止することができる。
【0063】
(第2実施形態の第1の変形例)
本実施形態においては不活性ガス吐出口663が単一である例を示したが、不活性ガス吐出口663は複数形成されていてもよい。例えば図17に示すように、径の小さな不活性ガス吐出口663が複数形成され、プラズマ射出口661及び吸引口662を取り囲むように配置されていてもよい。不活性ガス吐出口663の径を小さくすることで、吐出される不活性ガスの流速を高めることができる。
【0064】
(第2実施形態の第2の変形例)
本実施形態の第2の変形例では、プラズマヘッド665の代わりに図18に示すプラズマヘッド667が用いられる。プラズマヘッド667はプラズマヘッド665と同様にプラズマ射出口661、吸引口662及び不活性ガス吐出口663を有する。プラズマヘッド665との違いは、図18(b)に示すように吸引口662と不活性ガス吐出口663とを区切る管壁が他の管壁よりも長く形成され、カバー部664を形成している点である。
【0065】
本変形例に係るプラズマ処理装置では、プラズマヘッド667にカバー部664が形成されているため、プラズマ射出口661から射出されたプラズマガスPgや、プラズマガスPgによって分解された有機EL層45xが周囲に拡散するおそれをさらに小さくすることができる。この結果、画素120xの周辺に形成されている正常な画素120a,120b等が損傷したり、汚染されたりすることをさらに確実に防止することができる。
【0066】
ここまで、印刷不良画素である画素120xから有機EL層42xを除去する方法について説明したが、本発明に係るプラズマ処理装置は、印刷不良画素からの有機EL層除去以外にも応用することができる。図17は、ノズルプリンティング法により複数の有機EL素子120が形成された薄膜素子基板10の平面図である。先に述べたように、ノズルプリンティング法では有機EL材料の溶液が連続的に吐出される。このため、素子形成領域110の外部にも溶液が付着する。この結果、図19に示すように、有機膜不要領域111にも有機膜が形成される。
【0067】
先に述べたように、本発明の実施形態に係るプラズマ処理装置700によれば選択的なスポットプラズマ処理が可能である。このため、プラズマ処理装置700を用いることで、周囲の素子や配線を損傷させたり汚染したりすることなく、有機膜不要領域111に形成された有機膜のみを除去することができる。
【0068】
以上、本発明に係る有機EL発光装置の製造方法、これに用いられるプラズマ処理装置及び電子機器の実施形態について図面を参照しながら詳しく説明したが、本発明の技術的範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0069】
10…薄膜素子基板、La…アノード線、Ls…走査線、Ld…信号線、Tr11…スイッチトランジスタ、Tr12…駆動トランジスタ、Tr11g,Tr12g…ゲート電極、Tr11s,Tr12s…ソース電極、Tr11d,Tr12d…ドレイン電極、42…画素電極、45…有機EL層、46…対向電極、50…プリントノズル、52…溶液、100…ガラス基板、105…ゲート導電膜、106…ゲート絶縁膜、110…素子形成領域、111…有機膜不要領域、112…半導体層、115…ストッパ膜、117…半導体層、120…画素、125…オーバーコート膜、130…隔壁、140…シール部、160…封止基板、320…発光部、620…ガス供給ユニット、630…プラズマ生成部、640…制御部、650…リニア駆動部、660,665,667…プラズマヘッド、661…プラズマ射出口、662…吸引口、663…不活性ガス吐出口、670…被処理基板、680…ステージ、690…吸気ユニット、700…プラズマ処理装置、800…発光装置、1200…カメラ、1201…レンズ部、1202…操作部、1203…表示部、1204…ファインダー、1210…パーソナルコンピュータ、1211…表示部、1212…操作部、1220…携帯電話機、1221…表示部、1222…操作部、1223…受話部、1224…送話部、1230…テレビ、1231…表示部
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス(有機EL)発光装置の製造方法、プラズマ処理装置及び電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL発光装置は、有機EL素子を備える発光装置である。画素として複数の有機EL素子を備える有機EL発光装置は、表示装置としても用いられる。有機EL素子は電流を供給されることにより発光する有機EL層を有している。有機EL層は、一般的には有機EL材料を基板上に塗布することにより形成される。
【0003】
特許文献1には、有機EL材料を塗布すべき所定のパターン形状に応じた溝を基板上に形成しておき、この溝にノズルを沿わせるように基板とノズルとを相対的に移動させて、前記ノズルからの有機EL材料を前記溝内に流し込んで塗布する過程を備えた有機EL表示装置の製造方法が開示されている。この方法では、液状の有機EL材料又は有機EL材料の溶液がノズルから連続的に吐出され、塗布される。この方法はノズルプリンティングと呼ばれる。
【0004】
高性能の有機EL発光装置を得るためには、有機EL層が所定の領域に選択的に形成されていること、形成されている有機EL層が平坦でかつ所望の厚みを有すること、が必要となる。このような有機EL層を形成するためには、液状の有機EL材料又は有機EL材料の溶液が有機EL層が形成されるべき領域(以下、塗布領域と呼称する。)にのみ素早くかつ均一に広がり、それ以外の領域(以下、非塗布領域と呼称する。)には広がらないことが好ましい。このため、基板には必要に応じて親液化処理や撥液化処理が行われる。
【0005】
ここで親液化処理とは、ある材料に対して、ある液体との間の接触角を小さくすることを目的に行われる処理又は操作を言う。これに対し撥液化処理とは、ある材料に対して、ある液体との間の接触角を大きくすることを目的に行われる処理又は操作を言う。例えば、基板上の複数の画素形成領域が隔壁によって仕切られている場合、塗布領域である画素形成領域の底部に対しては親液化処理が行われ、非塗布領域である隔壁の表面に対しては撥液化処理が行われる。このようにすることで、塗布された有機EL材料が隔壁上から弾かれて画素形成領域へ流入する。この結果、非塗布領域における有機EL層の形成を防ぎ、平坦で所望の厚みを有する有機EL層を塗布領域に形成することができる。
【0006】
特許文献2には、有機EL材料溶液の接触角が基材表面との接触角よりも大きくなる材料で形成されたマスキング部材を基材表面の非塗布領域に密着させた後に、塗布領域に溶液を塗布する有機EL素子の製造方法が開示されている。この方法では、マスキングによって非塗布領域への有機EL層の形成を防ぎ、さらにマスキング部材の撥液性を利用してその表面に塗布された有機EL材料溶液を塗布領域へと流入させる。この結果、塗布領域内に平坦で所望の厚みを有する有機EL層を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−75640号公報
【特許文献2】特開2006−216414号公報
【特許文献3】特開2001−297876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載の方法では、非塗布領域にマスキングテープ等を貼付しなければならない。このため、生産性が低下するという問題がある。また、使用済みのマスキングテープは廃棄物となるため、生産コストが増大するという問題もある。
【0009】
特許文献3には、塗布領域に対応する位置に開口部を有するマスク板を用い、塗布領域に選択的に有機EL材料を塗布する方法が開示されている。この方法ではマスク板を表面に密着させればよいため、マスキングテープを用いる方法に比べれば簡便である。しかし、マスク板と基板との密着が充分でないと隙間から有機EL材料が入り込んでしまい、マスク板開口の近傍の有機EL層の平坦性が損なわれたり、厚みが好ましい範囲から逸脱したりするという問題がある。また、マスク板を再利用するためには有機溶剤等による洗浄が必要であり、環境負荷の点でも問題がある。
【0010】
マスキング部材を用いる代わりに、プラズマ処理等によって各領域の表面を化学的に親液化又は撥液化する方法も広く採用されている。この方法は生産性や環境負荷の点で優れている。しかし、化学的処理では被処理面の材質や形状等の影響で部分的に親液化や撥液化が充分でない箇所が残る場合がある。すると塗布された有機EL材料の分布に偏りが生じ、複数の有機EL素子間で有機EL層の厚みにバラつきが生じたり、有機EL層が平坦に形成されていない画素が生じたりする(以下、これらを総称して印刷不良画素と呼称する。)。
【0011】
さらに、非塗布領域が比較的広い面積を占めている箇所、例えば基板周辺部ではその近傍に親液化された塗布領域がないため、塗布され弾かれた有機EL材料が流入する先が存在しない。このような箇所には有機EL材料がそのまま残るため、非塗布領域に有機物の膜が形成されてしまう。これは、後に電子部品を実装したり、封止基板を接合して封止する際に障害となる。
【0012】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、マスキング部材を使用することなく、平坦かつ所望の厚みの有機EL層を塗布領域に選択的に形成することのできる有機EL発光装置の製造方法及びこれに用いられるプラズマ処理装置並びに電子機器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の観点に係る有機EL発光装置の製造方法は、
基板上の画素形成領域に有機EL材料を塗布して有機EL層を有する複数の画素を形成する第1の塗布工程と、
プラズマガスを用いて前記複数の画素のうちの一部の画素から少なくとも前記有機EL層を除去する除去工程と、
を備える。
【0014】
本発明の第1の観点に係る有機EL発光装置の製造方法は、
前記複数の画素の中から前記有機EL層に欠陥を有する画素の有無を検出する検出工程をさらに備えていてもよい。
【0015】
また、本発明の第1の観点に係る有機EL発光装置の製造方法は、
前記除去工程において前記有機EL層が除去された部分を前記プラズマガスを用いて前記有機EL材料に対して親液性を有するように親液化処理する再親液化工程と、
前記除去工程において前記有機EL層が除去された部分の近傍を前記プラズマガスとは異なる他のプラズマガスを用いて前記有機EL材料に対して撥液性を有するように撥液化処理する再撥液化工程と、
をさらに備えていてもよい。
【0016】
前記除去工程において、前記プラズマガスは前記画素の開口部面積よりも小さい面積を有するプラズマ射出口から射出される、
ことが好ましい。
【0017】
前記プラズマ射出口は吸引口によって取り囲まれ、
少なくとも前記除去工程の間、前記吸引口を通じて前記吸引口周囲の吸引が連続的に行われる、
ことが好ましい。
【0018】
前記プラズマ射出口及び前記吸引口は不活性ガス吐出口により取り囲まれ、
少なくとも前記除去工程の間、前記不活性ガス吐出口から不活性ガスが連続的に吐出される、
ことがさらに好ましい。
【0019】
前記再親液化工程と前記除去工程とは1つの工程として行われることが好ましい。
【0020】
前記再親液化工程及び前記再撥液化工程において、前記プラズマガス及び前記プラズマガスとは異なる他のプラズマガスはいずれも前記画素の開口部面積よりも小さい面積を有するプラズマ射出口から射出されることが特に好ましい。
【0021】
また、本発明の第1の観点に係る有機EL発光装置の製造方法は、
前記除去工程において有機EL層が除去された部分に再び有機EL層を形成する第2の塗布工程をさらに含んでいてもよい。
【0022】
前記除去工程は前記基板上の前記画素形成領域以外の領域に付着している前記有機EL材料を前記プラズマガスを用いて除去する工程をさらに含んでいてもよい。
【0023】
本発明の第2の観点に係るプラズマ処理装置は、
複数の画素を有する有機EL発光装置の製造に用いられ、
プラズマガスを生成するプラズマ生成手段と、
前記プラズマガスを射出するノズル部を有するプラズマヘッドと、
前記プラズマヘッドとプラズマ処理されるべき画素とを対向させる位置合わせ手段と、
を備え、
前記ノズル部のプラズマ射出口の面積は前記画素の開口部面積以下である。
【0024】
本発明の第2の観点に係るプラズマ処理装置は、
前記複数の画素の中から有機EL層に欠陥を有する画素の有無を検出して前記プラズマ処理されるべき画素を特定する検出手段をさらに備え、
前記位置合わせ手段は前記検出手段による検出結果に基づいて前記プラズマヘッドと前記プラズマ処理されるべき画素とを対向させる、
ことが好ましい。
【0025】
本発明の第2の観点に係るプラズマ処理装置は、
吸引口を通じて気体を吸引する吸引手段をさらに備え、
前記吸引口は前記プラズマヘッドに前記プラズマ射出口を取り囲むように形成されている、
ことが好ましい。
【0026】
前記プラズマヘッドは前記ノズル部及び前記吸引口を取り囲むように配置されたカバー部を有し、
前記カバー部の先端は、前記ノズル部と前記処理されるべき画素とを対向させた際に前記ノズル部の先端よりも前記処理されるべき画素に近くなるよう配置されている、
ことがさらに好ましい。
【0027】
本発明の第2の観点に係るプラズマ処理装置は、
不活性ガス吐出口を通じて不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段をさらに備え、
前記不活性ガス吐出口は前記プラズマヘッドに前記プラズマ射出口及び前記吸引口を取り囲むように形成されていてもよい。
【0028】
本発明の第3の観点に係る電子機器は、本発明の第1の観点に係る有機EL発光装置の製造方法によって製造された有機EL発光装置を備える。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、マスキング部材を使用することなく、平坦かつ所望の厚みの有機EL層を塗布領域に選択的に形成することのできる有機EL発光装置の製造方法及びこれに用いられるプラズマ処理装置を提供できる。この有機EL発光装置は、電子機器に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(a),(b)は有機EL発光装置を有するデジタルカメラを示した図である。
【図2】有機EL発光装置を有するパーソナルコンピュータを示した図である。
【図3】有機EL発光装置を有する携帯電話機を示した図である。
【図4】有機EL発光装置を有するテレビを示した図である。
【図5】有機EL発光装置の構造を説明するために一部を切り欠いて示した模式図である。
【図6】図5に示した有機EL発光装置の一部を拡大して示した平面図である。
【図7】有機EL発光装置の画素の1つを拡大して示した平面図である。
【図8】図7のB−B’線断面図である。
【図9A】有機EL発光装置の製造方法を説明するための断面図である。
【図9B】有機EL発光装置の製造方法を説明するための断面図である。
【図9C】有機EL発光装置の製造方法を説明するための断面図である。
【図10】ノズルプリンティング法における有機EL材料の溶液の塗布工程を説明するための模式図である。
【図11】印刷不良画素を含む複数の画素の断面図である。
【図12】本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理装置の構成を示す模式図である。
【図13】(a),(b)は本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理装置に備えられるプラズマヘッドの構造を説明するための図であり、(a)は横断面図、(b)は(a)のC−C’線断面図である。
【図14】(a),(b)は図13に示したプラズマヘッドの変形例を示す図であり、(a)は横断面図、(b)は(a)のD−D’線断面図である。
【図15A】本発明の第1実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法を説明するための図であって、印刷不良画素を含む複数の画素の断面図である。
【図15B】本発明の第1実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法において、プラズマガスにより有機EL層を除去する工程を示す図である。
【図15C】本発明の第1実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法において、プラズマ処理により印刷不良画素の有機EL層が除去されて画素電極が露出した状態を示す図である。
【図15D】本発明の第1実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法において、有機EL層が除去された領域に有機EL層が再形成された状態を示す図である。
【図16】(a),(b)は本発明の第2実施形態に係るプラズマ処理装置に備えられるプラズマヘッドの構造を説明するための模式図であり、(a)は横断面図、(b)は(a)のE−E’線断面図である。
【図17】(a),(b)は第2実施形態の第1の変形例に係るプラズマ処理装置に備えられるプラズマヘッドの構造を説明するための模式図であり、(a)は横断面図、(b)は(a)のF−F’線断面図である。
【図18】(a),(b)は第2実施形態の第2の変形例に係るプラズマ処理装置に備えられるプラズマヘッドの構造を説明するための模式図であり、(a)は横断面図、(b)は(a)のG−G’線断面図である。
【図19】素子形成領域外に有機膜が形成された薄膜素子基板の平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明に係る有機EL発光装置の製造方法及びこれに用いられるプラズマ処理装置の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0032】
本発明に係る製造方法により製造される有機EL発光装置は、例えばデジタルカメラ、パーソナルコンピュータ、携帯電話、テレビ等の電子機器の表示部(ディスプレイ)に用いられる。具体例について図1〜4を参照しながら説明する。カメラ1200は図1(a)及び(b)に示すように、レンズ部1201と、操作部1202と、表示部1203と、ファインダー1204と、を備える。有機EL発光装置は、表示部1203に用いられる。同様に、パーソナルコンピュータ1210は図2に示すように、表示部1211と操作部1212とを備える。有機EL発光装置は、表示部1211に用いられる。更に、図3に示すように、携帯電話機1220は表示部1221と、操作部1222と、受話部1223と、送話部1224と、を備える。有機EL発光装置は、表示部1221に用いられる。更に、図4に示すように、テレビ1230は表示部1231を備える。有機EL発光装置は、表示部1231に用いられる。
【0033】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る有機EL発光装置の製造方法及びこれに用いられるプラズマ処理装置について、発光装置800の製造工程を例として説明する。図5に示すように、発光装置800は薄膜素子基板10と封止基板160とを有する。ガラス基板100の素子形成領域110内には、複数の画素120が配列されている。薄膜素子基板10と封止基板160とは、シール部140を介して貼り合わせられている。ここでは、画素120は3種類の画素120R、120G、120Bからなる。3種類の画素120R、120G、120Bは図6に示すように一定の順番で繰り返し並べられている。画素120R、120G及び120Bの間は、隔壁130で仕切られている。
【0034】
画素120は有機EL素子である。画素120は図8に示すように、有機EL層45を備える。有機EL層45は電流を供給されることにより発光する。このため、画素120は図7に示すように、有機EL層45に電流を供給するためのアノード線La及び駆動トランジスタTr12と、画素120の動作や輝度を制御するための走査線Ls、信号線Ld及びスイッチトランジスタTr11と、を有している。
【0035】
本実施形態では、発光に寄与する有機EL層(有機層)として発光層のみを備える構成を一例として挙げているが、これに限られず、有機EL層は、正孔注入層と発光層とを備えてもよく、正孔注入層とインターレイヤと発光層とを備えてもよい。
【0036】
ここで、有機EL層の一部として正孔注入層を設ける場合、正孔注入層は、画素電極42と発光層との間に設けられる。正孔注入層は発光層に正孔を供給する機能を有する。正孔注入層は正孔(ホール)注入・輸送が可能な有機高分子系の材料、例えば導電性ポリマーであるポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)とドーパントであるポリスチレンスルホン酸(PSS)から構成される。
【0037】
更に、インターレイヤを設ける場合、インターレイヤは正孔注入層と発光層との間に設けられる。インターレイヤは、発光層から正孔注入層への電子注入を抑制して発光層内において電子と正孔とを再結合させやすくする機能を有し、発光層の発光効率を高める。
【0038】
アノード線La、走査線Ls、信号線Ld、スイッチトランジスタTr11及び駆動トランジスタTr12のそれぞれ少なくとも一部は、図7及び図8に示すように、隔壁130の下に配置されている。
【0039】
アノード線La、走査線Ls、信号線Ld、スイッチトランジスタTr11及び駆動トランジスタTr12は、公知の方法により形成される。すなわち、図9Aに示すように、ガラス等からなる基板10上に駆動トランジスタTr12のゲート電極Tr12g、信号線Ldが形成される。この際、図面では省略されているが、スイッチトランジスタTr11のゲート電極Tr11gも合わせて形成される。ゲート電極Tr12g、信号線Ld及びゲート電極Tr11gは、例えばCr膜、Al膜、Cr/Al積層膜、AlTi合金膜又はAlTiNb合金膜等からなる。
【0040】
次に図9Bに示すように、ゲート電極Tr12g、信号線Ld及びゲート電極Tr11gを覆うように、ゲート絶縁膜106がCVD(Chemical Vapor Deposition)法等により形成される。続いて半導体層112、ストッパ膜115、半導体層117が形成され、さらに画素電極42が形成される。画素電極42は、例えばITO(Indium Tin Oxide)、ZnO等からなる。
【0041】
さらに図9Cに示すように、駆動トランジスタTr12、信号線Ldとそれぞれ対応する位置に、シリコン窒化膜等からなるオーバーコート膜125、ポリイミド等からなる隔壁130が形成される。オーバーコート膜125及び隔壁130の画素電極42と対応する位置には、図9Cに示すように開口部Apが形成されている。
【0042】
次に、ノズルプリンティングによる有機EL層45の形成工程について説明する。先に図6に示したように、画素120の間は隔壁130によって仕切られている。有機EL層45は、この隔壁130の間に有機EL材料を流し込むことによって形成される。
【0043】
まず、画素電極42の表面を例えば酸素をプロセスガスとして、窒素をキャリアガスとして用いたプラズマ処理により親液化する。一方、隔壁130の表面を例えば四フッ化炭素をプロセスガスとして、窒素をキャリアガスとして用いたプラズマ処理により撥液化する。
【0044】
次に、図10に示すように、基板100上に形成されている隔壁130(図示せず)の間に有機EL材料の溶液52を塗布する。溶液52はプリントノズル50から連続的に吐出され、隔壁130の間に流し込まれる。この際、図10に示すように、プリントノズル50は隔壁130と平行方向(図10では横方向)に動かされる。一方、基板100はプリントノズル50の移動方向とは直交する方向に、断続的に動かされる。その後、必要に応じて溶液52から溶媒を除去することで、画素電極42上に有機EL層45が形成される。その後、対向電極46を形成することによって、図8に示すような画素120が形成される。
【0045】
画素120の形成において、画素電極42の親液化処理や隔壁130の撥液化処理が均一に行われなかったり、プリントノズル50からの溶液52の吐出量にバラつきが生じたりすると、画素120のうちの一部において印刷不良が生じる場合がある。例えば図11に示すように、複数の画素120a,120x及び120bのうち、画素120xの有機EL層45xの厚みに偏りが生じる場合がある(以下、このような画素を印刷不良画素と総称する。)。この結果、画素120a,120bと比較して画素120xの発光効率や輝度が低下したりする。このような印刷不良画素がある一定の割合を超えて存在すると、有機EL発光装置800全体の発光効率や表示品質が低下する。
【0046】
ここで、本発明に係る有機EL発光装置の製造方法は、プラズマガスを用いた有機EL層の除去工程を備える。本発明に係る有機EL発光装置の製造方法では、印刷不良画素の有機EL層はプラズマヘッドから射出されるプラズマガスによって選択的に除去される。
【0047】
(プラズマ処理装置)
本実施形態に係るプラズマ処理装置について、図面を参照しながら説明する。本実施形態において、有機EL層の除去にはプラズマ処理装置700が用いられる。プラズマ処理装置700は図12に示すように、ガス供給ユニット620と、プラズマ生成部630と、制御部640と、リニア駆動部650と、プラズマヘッド660と、ステージ680と、吸気ユニット690と、を備える。ステージ680上には被処理基板670が配置される。
【0048】
ガス供給ユニット620は、プロセスガスとキャリアガスとをプラズマ生成部630に供給する。プラズマ生成部630は供給されたガスに電圧を印加し、常圧でプラズマを発生させる。発生したプラズマは、図12に示すようにプラズマヘッド660の開口部からプラズマガスPgとして射出され、被処理基板670に吹き付けられる。このようにして、被処理基板670のプラズマ処理が行われる。
【0049】
例えば、有機EL層の除去や画素電極表面の親液化を目的とする処理においては、窒素をキャリアガスとして、酸素をプロセスガスとして用いることができる。一方、隔壁表面の撥液化を目的とする処理においては、例えば窒素をキャリアガスとして、四フッ化炭素をプロセスガスとして用いることができる。プロセスガス及びキャリアガスの種類はこれらに限定されず、プラズマ処理の目的に応じて選択される。
【0050】
プラズマヘッド660は図13に示すように、プラズマ射出口661と、吸引口662とを備える。吸引口662はプラズマ射出口661を取り囲むように配置されている。プラズマ射出口661はプラズマ生成部630に接続されている。吸引口662は吸気ユニット690に接続されている。ここで、プラズマ射出口661の開口部面積は、被処理基板670に形成されている画素120の開口部面積よりも小さい。
【0051】
本実施形態においてはプラズマ射出口661が円形である例を示したが、プラズマ射出口661の形状はこれに限定されない。画素120の開口部に対応した形状、例えば長方形であってもよい。いずれの場合においても、プラズマ射出口661の面積は画素120の開口部の面積よりも小さい。好ましくは、プラズマ射出口661の開口部の最大径は、画素120の開口部の短辺よりも短い。例えば、プラズマ射出口661が円形である場合においてはその直径、長方形である場合においてはその長辺の長さは、画素120の開口部の短辺よりも短いことが好ましい。
【0052】
また、本実施形態においては吸引口662が単一である例を示したが、吸引口662は複数形成されていてもよい。例えば、図14(a)及び図14(b)に示すように、径の小さい吸引口662が複数形成され、プラズマ射出口661を取り囲むように配置されていてもよい。吸引口662の径を小さくすることで、吸引効率を高めることができる。
【0053】
(有機EL層除去工程)
印刷不良画素である画素120xを例として、本実施形態に係るプラズマ処理装置700を用いたプラズマ処理について説明する。図15Aに示すように、画素120xは画素120aと画素120bとの間に存在する。画素120xは平坦でない有機EL層45xを有する印刷不良画素である。これに対し、画素120a,120bは共に良好な有機EL層45a,45bを有している。
【0054】
印刷不良画素である画素120xは、目視又はその他公知の検出手段によって検出される。検出手段の一例として、白色光干渉法を用いた非接触3次元表面形状・粗さ測定機(例えば、ザイゴ社製、New View6000シリーズ)による手法がある。画素120xが検出されると、その位置情報が検出結果として制御部640に入力される。制御部640は入力された位置情報に基づいてリニア駆動部650に沿ってプラズマヘッド660を移動させると共に、プラズマヘッド660の移動方向と直交する方向にステージ680を移動させ、プラズマヘッド660と画素120xとを対向させる。
【0055】
次に制御部640はガス供給ユニット620を制御して酸素と窒素の混合ガスをプラズマ生成部630へと供給する。さらに、制御部640はプラズマ生成部630を制御して混合ガスに電圧を印加し、プラズマを発生させる。発生したプラズマは図15Bに示すように、プラズマガスPgとしてプラズマ射出口661から画素120xの有機EL層45xに向けて射出される。有機EL層45xはプラズマガスPgによって分解され、除去される。ここでプラズマ射出口661の開口部面積は、画素120xの開口部面積よりも小さい。このため図15Cに示すように、プラズマ処理装置700は画素120a,120bの有機EL層45a,45bを分解させることなく、印刷不良画素である画素120xの有機EL層45xのみを選択的に除去することができる。すなわち、選択的なスポットプラズマ処理が可能となる。
【0056】
また、制御部640は吸気ユニット690を作動させて、プラズマヘッドの吸引口662から周囲の気体を吸引する。制御部640は少なくともプラズマ射出口661からプラズマガスPgが射出されている間、吸気ユニット690を作動させる。分解された有機EL層45xは周囲に飛散する前に吸引口662から吸引されて外部へと排出されるため、周囲を汚染することがない。このようにして、プラズマ処理装置700は周囲の画素に影響を与えることなく印刷不良画素の有機EL層のみを選択的に除去することができる。
【0057】
なお、有機EL層45xが除去された後、露出した画素電極42の表面を再び親液化することが好ましい。画素電極42の表面を再び親液化され、有機EL層の再形成が容易となる。この場合、有機EL層45xの除去と画素電極42の表面の親液化とは別の工程として行ってもよいが、これらの処理を合わせて1つの工程として行うことが作業効率の面から好ましい。この場合、例えば酸素をプロセスガスとして用いたプラズマガスPgを吹き付けて有機EL層45xを除去した後、プラズマガスPgの射出を継続すればよい。このようにすることで、1つの工程内で有機EL層45xの除去と露出した画素電極42の再親液化とを行うことができる。
【0058】
また、除去工程が行われた後、プラズマ処理装置700を用いて有機EL層45xが除去されて露出した隔壁130を再び撥液化処理してもよい。この場合、プロセスガスとしては例えば四フッ化炭素が用いられる。隔壁130の表面を再び撥液化することで、有機EL層の再形成がさらに容易となる。
【0059】
有機EL層の再形成は、公知の方法により行うことができる。方法は特に限定されないが、特定の領域に対して選択的に塗布を行うことができる方法が好ましい。このような方法として、例えば、インクジェット方式が挙げられる。
【0060】
ここまで本発明に係る有機EL発光装置の製造方法及びこれに用いられるプラズマ処理装置について第1実施形態に基づいて詳細に説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、種々の実施形態及びその変形例が本発明の範囲に含まれる。以下、その他の実施形態及びその変形例について説明する。
【0061】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係るプラズマ処理装置は、図16(a)及び図16(b)に示すプラズマヘッド665を備える。プラズマヘッド665は不活性ガス吐出口663を有する。図16(a)に示すように、不活性ガス吐出口663は、プラズマ射出口661及び吸引口662を囲むように形成されている。プラズマヘッド665以外の構成は、本発明の第1実施形態に係るプラズマ処理装置700と同様である。
【0062】
本実施形態に係るプラズマ処理装置では、ガス供給ユニット620又は別途備えられている不活性ガスライン(図示せず)から窒素、アルゴン等の不活性ガスが供給され、不活性ガス吐出口663から吐出される。吐出された不活性ガスはエアーカーテンのように機能し、プラズマ射出口661から射出されたプラズマガスPgや、プラズマガスPgによって分解された有機EL層45xが周囲に拡散するのを防ぐ。このようにして、画素120xの周辺に形成されている正常な画素120a,120b等が損傷したり、汚染されたりすることをより確実に防止することができる。
【0063】
(第2実施形態の第1の変形例)
本実施形態においては不活性ガス吐出口663が単一である例を示したが、不活性ガス吐出口663は複数形成されていてもよい。例えば図17に示すように、径の小さな不活性ガス吐出口663が複数形成され、プラズマ射出口661及び吸引口662を取り囲むように配置されていてもよい。不活性ガス吐出口663の径を小さくすることで、吐出される不活性ガスの流速を高めることができる。
【0064】
(第2実施形態の第2の変形例)
本実施形態の第2の変形例では、プラズマヘッド665の代わりに図18に示すプラズマヘッド667が用いられる。プラズマヘッド667はプラズマヘッド665と同様にプラズマ射出口661、吸引口662及び不活性ガス吐出口663を有する。プラズマヘッド665との違いは、図18(b)に示すように吸引口662と不活性ガス吐出口663とを区切る管壁が他の管壁よりも長く形成され、カバー部664を形成している点である。
【0065】
本変形例に係るプラズマ処理装置では、プラズマヘッド667にカバー部664が形成されているため、プラズマ射出口661から射出されたプラズマガスPgや、プラズマガスPgによって分解された有機EL層45xが周囲に拡散するおそれをさらに小さくすることができる。この結果、画素120xの周辺に形成されている正常な画素120a,120b等が損傷したり、汚染されたりすることをさらに確実に防止することができる。
【0066】
ここまで、印刷不良画素である画素120xから有機EL層42xを除去する方法について説明したが、本発明に係るプラズマ処理装置は、印刷不良画素からの有機EL層除去以外にも応用することができる。図17は、ノズルプリンティング法により複数の有機EL素子120が形成された薄膜素子基板10の平面図である。先に述べたように、ノズルプリンティング法では有機EL材料の溶液が連続的に吐出される。このため、素子形成領域110の外部にも溶液が付着する。この結果、図19に示すように、有機膜不要領域111にも有機膜が形成される。
【0067】
先に述べたように、本発明の実施形態に係るプラズマ処理装置700によれば選択的なスポットプラズマ処理が可能である。このため、プラズマ処理装置700を用いることで、周囲の素子や配線を損傷させたり汚染したりすることなく、有機膜不要領域111に形成された有機膜のみを除去することができる。
【0068】
以上、本発明に係る有機EL発光装置の製造方法、これに用いられるプラズマ処理装置及び電子機器の実施形態について図面を参照しながら詳しく説明したが、本発明の技術的範囲はこれらの実施形態に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0069】
10…薄膜素子基板、La…アノード線、Ls…走査線、Ld…信号線、Tr11…スイッチトランジスタ、Tr12…駆動トランジスタ、Tr11g,Tr12g…ゲート電極、Tr11s,Tr12s…ソース電極、Tr11d,Tr12d…ドレイン電極、42…画素電極、45…有機EL層、46…対向電極、50…プリントノズル、52…溶液、100…ガラス基板、105…ゲート導電膜、106…ゲート絶縁膜、110…素子形成領域、111…有機膜不要領域、112…半導体層、115…ストッパ膜、117…半導体層、120…画素、125…オーバーコート膜、130…隔壁、140…シール部、160…封止基板、320…発光部、620…ガス供給ユニット、630…プラズマ生成部、640…制御部、650…リニア駆動部、660,665,667…プラズマヘッド、661…プラズマ射出口、662…吸引口、663…不活性ガス吐出口、670…被処理基板、680…ステージ、690…吸気ユニット、700…プラズマ処理装置、800…発光装置、1200…カメラ、1201…レンズ部、1202…操作部、1203…表示部、1204…ファインダー、1210…パーソナルコンピュータ、1211…表示部、1212…操作部、1220…携帯電話機、1221…表示部、1222…操作部、1223…受話部、1224…送話部、1230…テレビ、1231…表示部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上の画素形成領域に有機EL材料を塗布して有機EL層を有する複数の画素を形成する第1の塗布工程と、
プラズマガスを用いて前記複数の画素のうちの一部の画素から少なくとも前記有機EL層を除去する除去工程と、
を備えることを特徴とする有機EL発光装置の製造方法。
【請求項2】
前記複数の画素の中から前記有機EL層に欠陥を有する画素の有無を検出する検出工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項3】
前記除去工程において前記有機EL層が除去された部分を前記プラズマガスを用いて前記有機EL材料に対して親液性を有するように親液化処理する再親液化工程と、
前記除去工程において前記有機EL層が除去された部分の近傍を前記プラズマガスとは異なる他のプラズマガスを用いて前記有機EL材料に対して撥液性を有するように撥液化処理する再撥液化工程と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項4】
前記除去工程において、前記プラズマガスは前記画素の開口部面積よりも小さい面積を有するプラズマ射出口から射出される、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項5】
前記プラズマ射出口は吸引口によって取り囲まれ、
少なくとも前記除去工程の間、前記吸引口を通じて前記吸引口周囲の吸引が連続的に行われる、
ことを特徴とする請求項4に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項6】
前記プラズマ射出口及び前記吸引口は不活性ガス吐出口により取り囲まれ、
少なくとも前記除去工程の間、前記不活性ガス吐出口から不活性ガスが連続的に吐出される、
ことを特徴とする請求項5に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項7】
前記再親液化工程と前記除去工程とは1つの工程として行われる、
ことを特徴とする請求項3に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項8】
前記再親液化工程及び前記再撥液化工程において、前記プラズマガス及び前記プラズマガスとは異なる他のプラズマガスはいずれも前記画素の開口部面積よりも小さい面積を有するプラズマ射出口から射出される、
ことを特徴とする請求項3又は7に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項9】
前記除去工程において前記有機EL層が除去された部分に再び有機EL層を形成する第2の塗布工程をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項10】
前記除去工程は前記基板上の前記画素形成領域以外の領域に付着している前記有機EL材料を前記プラズマガスを用いて除去する工程をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項11】
複数の画素を有する有機EL発光装置の製造に用いられ、
プラズマガスを生成するプラズマ生成手段と、
前記プラズマガスを射出するノズル部を有するプラズマヘッドと、
前記プラズマヘッドとプラズマ処理されるべき画素とを対向させる位置合わせ手段と、
を備え、
前記ノズル部のプラズマ射出口の面積は前記画素の開口部面積以下である、
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記複数の画素の中から有機EL層に欠陥を有する画素の有無を検出して前記プラズマ処理されるべき画素を特定する検出手段をさらに備え、
前記位置合わせ手段は前記検出手段による検出結果に基づいて前記プラズマヘッドと前記プラズマ処理されるべき画素とを対向させる、
ことを特徴とする請求項11に記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
吸引口を通じて気体を吸引する吸引手段をさらに備え、
前記吸引口は前記プラズマヘッドに前記プラズマ射出口を取り囲むように形成されている、
ことを特徴とする請求項11又は12に記載のプラズマ処理装置。
【請求項14】
前記プラズマヘッドは前記ノズル部及び前記吸引口を取り囲むように配置されたカバー部を有し、
前記カバー部の先端は、前記ノズル部と前記処理されるべき画素とを対向させた際に前記ノズル部の先端よりも前記処理されるべき画素に近くなるよう配置されている、
ことを特徴とする請求項13に記載のプラズマ処理装置。
【請求項15】
不活性ガス吐出口を通じて不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段をさらに備え、
前記不活性ガス吐出口は前記プラズマヘッドに前記プラズマ射出口及び前記吸引口を取り囲むように形成されている、
ことを特徴とする請求項13又は14に記載のプラズマ処理装置。
【請求項16】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法によって製造された有機EL発光装置を備える電子機器。
【請求項1】
基板上の画素形成領域に有機EL材料を塗布して有機EL層を有する複数の画素を形成する第1の塗布工程と、
プラズマガスを用いて前記複数の画素のうちの一部の画素から少なくとも前記有機EL層を除去する除去工程と、
を備えることを特徴とする有機EL発光装置の製造方法。
【請求項2】
前記複数の画素の中から前記有機EL層に欠陥を有する画素の有無を検出する検出工程をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項3】
前記除去工程において前記有機EL層が除去された部分を前記プラズマガスを用いて前記有機EL材料に対して親液性を有するように親液化処理する再親液化工程と、
前記除去工程において前記有機EL層が除去された部分の近傍を前記プラズマガスとは異なる他のプラズマガスを用いて前記有機EL材料に対して撥液性を有するように撥液化処理する再撥液化工程と、
をさらに備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項4】
前記除去工程において、前記プラズマガスは前記画素の開口部面積よりも小さい面積を有するプラズマ射出口から射出される、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項5】
前記プラズマ射出口は吸引口によって取り囲まれ、
少なくとも前記除去工程の間、前記吸引口を通じて前記吸引口周囲の吸引が連続的に行われる、
ことを特徴とする請求項4に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項6】
前記プラズマ射出口及び前記吸引口は不活性ガス吐出口により取り囲まれ、
少なくとも前記除去工程の間、前記不活性ガス吐出口から不活性ガスが連続的に吐出される、
ことを特徴とする請求項5に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項7】
前記再親液化工程と前記除去工程とは1つの工程として行われる、
ことを特徴とする請求項3に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項8】
前記再親液化工程及び前記再撥液化工程において、前記プラズマガス及び前記プラズマガスとは異なる他のプラズマガスはいずれも前記画素の開口部面積よりも小さい面積を有するプラズマ射出口から射出される、
ことを特徴とする請求項3又は7に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項9】
前記除去工程において前記有機EL層が除去された部分に再び有機EL層を形成する第2の塗布工程をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項10】
前記除去工程は前記基板上の前記画素形成領域以外の領域に付着している前記有機EL材料を前記プラズマガスを用いて除去する工程をさらに含む、
ことを特徴とする請求項1乃至9のいずれか1項に記載の有機EL発光装置の製造方法。
【請求項11】
複数の画素を有する有機EL発光装置の製造に用いられ、
プラズマガスを生成するプラズマ生成手段と、
前記プラズマガスを射出するノズル部を有するプラズマヘッドと、
前記プラズマヘッドとプラズマ処理されるべき画素とを対向させる位置合わせ手段と、
を備え、
前記ノズル部のプラズマ射出口の面積は前記画素の開口部面積以下である、
ことを特徴とするプラズマ処理装置。
【請求項12】
前記複数の画素の中から有機EL層に欠陥を有する画素の有無を検出して前記プラズマ処理されるべき画素を特定する検出手段をさらに備え、
前記位置合わせ手段は前記検出手段による検出結果に基づいて前記プラズマヘッドと前記プラズマ処理されるべき画素とを対向させる、
ことを特徴とする請求項11に記載のプラズマ処理装置。
【請求項13】
吸引口を通じて気体を吸引する吸引手段をさらに備え、
前記吸引口は前記プラズマヘッドに前記プラズマ射出口を取り囲むように形成されている、
ことを特徴とする請求項11又は12に記載のプラズマ処理装置。
【請求項14】
前記プラズマヘッドは前記ノズル部及び前記吸引口を取り囲むように配置されたカバー部を有し、
前記カバー部の先端は、前記ノズル部と前記処理されるべき画素とを対向させた際に前記ノズル部の先端よりも前記処理されるべき画素に近くなるよう配置されている、
ことを特徴とする請求項13に記載のプラズマ処理装置。
【請求項15】
不活性ガス吐出口を通じて不活性ガスを供給する不活性ガス供給手段をさらに備え、
前記不活性ガス吐出口は前記プラズマヘッドに前記プラズマ射出口及び前記吸引口を取り囲むように形成されている、
ことを特徴とする請求項13又は14に記載のプラズマ処理装置。
【請求項16】
請求項1乃至10のいずれか1項に記載の方法によって製造された有機EL発光装置を備える電子機器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9A】
【図9B】
【図9C】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2011−210531(P2011−210531A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−77048(P2010−77048)
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年3月30日(2010.3.30)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】
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