有機EL素子及びその製造方法、並びに有機EL装置
【課題】 有機EL素子を、高輝度かつ長寿命とする。
【解決手段】
有機EL素子は、基板(10)の一方の面に積層された複数個の積層体(20)と、複数個の積層体同士の各間に夫々挿入された透明絶縁層(30)とを備える。積層体は、少なくとも一方が透明な一対の電極層(11a、21、24)と該一対の電極層間に挟持された有機層(23)とを含んで構成されている。
【解決手段】
有機EL素子は、基板(10)の一方の面に積層された複数個の積層体(20)と、複数個の積層体同士の各間に夫々挿入された透明絶縁層(30)とを備える。積層体は、少なくとも一方が透明な一対の電極層(11a、21、24)と該一対の電極層間に挟持された有機層(23)とを含んで構成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、基板上に有機EL(Electroluminescence)膜及び電極膜が順次積層されてなる有機EL素子及びその製造方法、並びに、そのような有機EL素子を備えた、照明光源、カラーディスプレイ、プリンタヘッド等の有機EL装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の有機EL素子は、基板上に、少なくとも発光層を含む有機薄膜を一対の電極膜で挟んだ積層構造を有し、一対の電極膜から注入されたキャリアが発光層内で再結合することにより発光する。一対の電極膜は、素子外部に光を取り出すために、少なくとも一方がITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極となっている。
【0003】
このような有機EL素子は、ディスプレイ等への応用が期待されているが、高輝度化に伴って寿命が極端に短くなるという問題がある。例えば、ディスプレイに必要とされる数千cd/m2程度に発光させた場合には素子の劣化が著しく、実用に供することは未だに容易ではない。
【0004】
これに対し、特許文献1には、有機EL素子を、一対の電極間に複数の発光ユニットが積層された構成とすることで、実質的な輝度を倍加させる技術が記載されている。これらの発光ユニットは、等電位面を形成する層によって夫々が仕切られると共に、直列に接続されている。このような有機EL素子では、両電極間に所定電圧が印加されたときに各発光ユニットが同時に光るために、これまで実現困難とされた高輝度、高効率な発光が得られる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−45676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の構成においては、各発光ユニットが直列に接続されているために、発光ユニットの数に従い駆動電圧が増大することから、高圧の駆動回路が必要となるという技術的問題点がある。即ち、既存の駆動回路をそのまま適用することは技術的に困難であり、また高圧用の駆動回路素子が高価なために、この有機EL素子の適用が必然的に高級な装置に限定されることになる。
【0007】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、高輝度かつ長寿命であり、しかも比較的容易に適用可能な有機EL素子及びその製造方法、並びに、このような有機EL素子を備えた有機EL装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機EL素子は、上記課題を解決するために、基板の一方の面に積層されており、少なくとも一方が透明な一対の電極層と該一対の電極層間に挟持された有機層とを含んで構成されたn個(但し、nは2以上の自然数)の積層体と、前記n個の積層体の各間に夫々挿入された透明絶縁層とを備える。
【0009】
本発明の有機EL素子によれば、本来ならば個々の発光素子として機能し得る積層体が、複数個、基板の一方の面に積層された構造を有している。各積層体は、一対の電極層の間に、単層又は多層の有機層が挟まれてなる。有機層は発光層を含んでおり、その他にも例えばホール注入層やホール輸送層、或いは電子注入層や電子輸送層などを含むことがある。発光層で生じる光は、積層体の光出射側から取り出されるが、このような有機EL素子では、光は複数の積層体を透過しなければ素子外には取り出せない。そのため、少なくとも素子の光出射側に位置する電極層は、全てITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極である必要がある。素子の光出射方向は、素子が面発光するように、積層体の層面に垂直方向を中心に設定されることが望ましく、光は基板の上面側又は下面側の一方から出射されてもよいし、上面側及び下面側の両方から出射されてもよい。
【0010】
尚、積層体が基板の一方の面上に形成されるのは、主に、製造効率がよいという利点による。
【0011】
このような有機EL素子は、発光ユニットとしての積層体が複数個重ねられているので、これらの積層体を同時駆動すれば、これらが重なって発光することで高輝度化が実現可能である。この場合に、各積層体では、相対的に電流供給量を抑えることができるために素子の長寿命化が可能である。
【0012】
また、本発明においては、積層体同士の間は、透明絶縁層によって仕切られる。絶縁層が透明であるのは、上記電極層と同じ理由による。積層体同士を電気的に絶縁させることで、積層体同士が並列に接続された状態とすることが可能となる。並列に接続された積層体は、原理的に、いずれも素子全体に印加される電圧と同電圧で駆動される。そのため、この有機EL素子は、配線を工夫するだけで、高圧用の駆動回路を用いずに既存の駆動回路で駆動させることが可能である。高圧用の駆動回路はかなり高価なため、装置のコストを大幅に上昇させてしまうが、本発明の有機EL素子を用いる場合には、そうしたおそれを回避でき、各種装置に広く適用可能である。
【0013】
以上の結果、本発明の有機EL素子によれば、高輝度化、長寿命化が可能であり、各種装置に対し容易に適用可能である。
【0014】
本発明の有機EL素子の一態様では、前記透明な電極層及び前記透明絶縁層は夫々、イオンプレーティング法により形成されている。
【0015】
この態様によれば、透明な電極層がイオンプレーティング法により形成される。前述したように、この有機EL素子内では、素子の光出射方向に光を透過させるために、光出射側に位置する電極層にITO等の透明電極が用いられる。こうした透明電極材料は、通常はスパッタ法によって成膜される。しかしながら、スパッタによる電極形成に際しては、下層側に堆積された有機層に損傷を与えるおそれがある。そのため、基板上面側から光を取り出す、所謂“トップエミッション型”の有機EL素子や、上記特許文献1の有機EL素子のように、有機層の上に透明電極を設ける構造を形成する場合には、実際上、電極層はITOではなく、金属を用いて形成される。金属薄膜は、蒸着等の有機層に損傷を与えない方法で形成できるからである。但し、その場合は、ITO等の透明電極材料を用いた場合に比べて透過率が格段に低くなってしまう。
【0016】
これに対し、本発明では、透明な電極層をイオンプレーティング法により形成するようにしたので、有機層に殆ど損傷を与えずに、透明な電極層をITO等の透明電極材料で形成することが可能となる。本発明の有機EL素子では、こうした透明な電極層が一層ならず複数存在するために、その全てにおいて透過率が良好であり、有機層のいずれにも殆ど損傷がないことによる効果は多大であり、素子の輝度を十分に引き上げることが可能となる。
【0017】
また、ここでは、透明絶縁層もイオンプレーティング法により形成するようにしたので、有機層の損傷防止に関する信頼性を高めることができると共に、透明絶縁層とその上下に位置する透明な電極層とを同じイオンプレーティング装置で連続して成膜することができ、成膜スループットを向上させることができる。
【0018】
本発明の有機EL素子の他の態様では、前記n個の積層体において前記一方の面上で最下層となる前記電極層は金属膜からなり、該金属膜以外の前記電極層は透明導電膜からなる。
【0019】
この態様によれば、有機EL素子は、基板上面側から光を取り出す、所謂“トップエミッション型”である。素子を構成する複数個の積層体の各層のうち、最も基板側に位置する最下層の電極層が、光を反射させるように金属膜からなる一方、光射出側となる上層の電極層は、光を取り出すために透明導電膜からなる。
【0020】
このように、積層体の積層方向における一方(上面側)から光を取り出すことで、効率よく高輝度化を図ることができる。
【0021】
本発明の有機EL素子の他の態様では、前記n個の積層体において前記一方の面上で最上層となる前記電極層は金属膜からなり、該金属膜以外の前記電極層は透明導電膜からなる。
【0022】
この態様によれば、有機EL素子は、基板下面側から光を取り出す、所謂“ボトムエミッション型”である。素子を構成する複数個の積層体の各層のうち、基板上で最上層に位置する電極層が光を反射させるように金属膜からなる一方、光射出側の下層の電極層は、光を取り出すために透明導電膜からなる。
【0023】
このように、積層体の積層方向における一方(下面側)から光を取り出すことで、効率よく高輝度化を図ることができる。
【0024】
本発明の有機EL素子の他の態様では、前記n個の積層体は夫々、前記一対の電極層間に、前記有機層に電子を注入するための電子注入層を含む。
【0025】
この態様によれば、各積層体には、電子注入層が含まれる。本発明の有機EL素子では、光出射側に位置する電極層は透明電極層とされるが、陰極をITO等で形成する場合、その仕事関数が高いために有機層に電子を供給することが難しい。そこで、電子の注入効率を上げるために、有機層と陰極との間に電子注入層を設ける。これにより、各積層体の発光効率を維持ないし向上させることが可能である。
【0026】
本発明の有機EL装置は、上記課題を解決するために、本発明の有機EL素子(但し、その各種態様を含む)と、一端側において前記n個の積層体の夫々における前記一対の電極層の一方と電気的に接続されると共に、他端側は前記n個の積層体の夫々を駆動するための電源と電気的に接続される電源供給用配線と、前記n個の積層体の夫々における前記一対の電極層の他方と電気的に接続される電極用配線とを備え、前記電源供給用配線及び前記電極用配線により前記n個の積層体の夫々が電気的に前記電源に対して並列に接続されるように構成されている。
【0027】
本発明の有機EL装置によれば、上述した本発明に係る有機EL素子を備えるので、高輝度化、長寿命化が達成できる。また、この装置では、有機EL素子が、電源供給用配線及び電極用配線によって、その内部の各積層体が電源に対して並列に電気的に接続されるように構成されている。互いに並列接続された積層体は同一電圧下で駆動され、素子全体もこの電圧で駆動される。よって、この有機EL装置は、高圧用の電源回路を用いずに既存の電源回路で駆動させることができ、装置のコスト上昇を抑えると共に、各種の装置に広く適用可能である。
【0028】
このような有機EL装置は、例えば、低消費電力で高輝度の照明光源や、高品質な画像表示を行うことが可能な、投射型表示装置、テレビ、携帯電話、電子手帳、ワードプロセッサ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルなど、更には有機EL装置を露光用ヘッドとして用いたプリンタ、コピー、ファクシミリ等の画像形成装置など、各種電子機器を実現できる。
【0029】
本発明の有機EL装置の一態様では、前記有機EL素子は、前記有機層における発光色が夫々R(赤)、G(緑)及びB(青)に対応する3個の前記積層体が積層されてなり、前記3個の積層体の夫々が独立して駆動されるように、前記電源供給用配線上に前記3個の積層体の夫々に対応して設けられたスイッチング素子を更に備える。
【0030】
この態様では、有機EL装置が備える有機EL素子が、R、G及びBに対応する3個の前記積層体で構成されている。これら3個の積層体は、並列に接続されており、またスイッチング素子が夫々に対応して設けられているために、互いに独立して駆動させることができる。よって、通常はR、G及びBに対応する3個の発光素子に対応する3画素を平面状に配置することで構成される絵素を、この場合には、1画素分の領域で表示させることができる。その結果、高精細化が可能である。
【0031】
本発明の有機EL素子の製造方法は、上記課題を解決するために、基板の一方の面に積層されており、少なくとも一方が透明な一対の電極層と該一対の電極層間に挟持された有機層とを含んで構成されたn個(但し、nは2以上の自然数)の積層体と、前記n個の積層体の各間に夫々挿入された透明絶縁層とを備えた有機EL素子を製造するための有機EL素子の製造方法であって、前記一対の電極層の少なくとも一方である透明な電極層をイオンプレーティング法により透明導電膜として形成する導電層形成工程と、前記有機層を形成する有機層形成工程とを含んで前記積層体を前記一方の面上に形成し、n回繰り返される積層工程と、前記積層工程の後に、前記透明絶縁層をイオンプレーティング法により前記積層体上に形成する絶縁層形成工程とを含む。
【0032】
本発明の有機EL素子の製造方法によれば、複数積層される透明な電極層及び透明絶縁層が、イオンプレーティング法により形成される。透明な電極層の形成には、ITO等の透明電極材料が用いられ、透明絶縁層の形成には、SiO2、SiNX、AlO2等の透明な絶縁材料が用いられる。こうした材料は通常、スパッタ法等により成膜される。仮に、有機EL素子の製造において、これらの透明材料をスパッタ法等で成膜すれば、プラズマに曝されることで下地となる有機層が損傷することがある。
【0033】
これに対し、本発明の製造方法では、透明な電極層及び透明絶縁層をイオンプレーティング法により形成するようにしたので、有機層に殆ど損傷を与えずに、これらの各層を透過性良好な透明材料で形成することが可能となる。本発明の有機EL素子では、こうした透明な電極層が複数存在するために、その全てにおいて透過率が良好であり、有機層のいずれにも殆ど損傷がないことによる効果は多大であり、素子の輝度を十分に引き上げることが可能となる。即ち、本発明の有機EL素子の製造方法によれば、上述した本発明の有機EL素子を特性良好に製造可能である。
【0034】
また、この場合に、少なくとも透明絶縁層とその上下に位置する透明な電極層とは、同じイオンプレーティング装置内で連続して成膜でき、成膜スループットを向上させることができる。本発明の有機EL素子を製造するには、通常より多くの層を成膜する必要があるために、こうした製造効率の向上は重要である。
【0035】
本発明の有機EL素子の製造方法の一態様では、少なくとも一部の工程を、真空蒸着装置とイオンプレーティング装置とが共に密閉空間を構成可能なように真空搬送室を介して連結されてなる成膜装置を用いて実行し、前記導電層形成工程及び前記絶縁層形成工程を前記イオンプレーティング装置において実行する。
【0036】
この態様によれば、層形成の少なくとも一部が独自の成膜装置を用いてなされる。この成膜装置は、イオンプレーティングと真空蒸着とを行うことができ、透明導電層及び透明絶縁層の形成は、この装置内で実行される。また、例えば、有機層の一部又は全部、或いは“トップエミッション型”や“ボトムエミッション型”における金属電極などの素子の一部は、この装置内で真空蒸着により形成される。
【0037】
ここで、成膜装置は全体として密閉されていることから、イオンプレーティング又は真空蒸着の後に装置内から基板を取り出すことで基板表面が大気に晒され、酸化或いは不純物の吸着等の悪影響をこうむるおそれを未然に防止することが可能である。
【0038】
この成膜装置を用いる態様では、前記n個の積層体の夫々を、前記一対の電極層間に、前記有機層に電子を注入するための電子注入層を含むように形成する場合に、前記積層工程は、前記真空蒸着装置において前記電子注入層を真空蒸着法により形成する電子注入層形成工程と、前記電子注入層形成工程の後且つ前記導電層形成工程の前に、前記真空搬送室を通じて前記基板を前記真空蒸着装置から前記イオンプレーティング装置へ搬送する搬送工程とを更に含むようにしてもよい。
【0039】
この態様では、各積層体が電子注入層を備えた構造の有機EL素子を製造する場合に、電子注入層は上記成膜装置にて真空蒸着により形成され、その後、同じ成膜装置内において、イオンプレーティングにより電子注入層の上層に透明な電極層が形成される。
【0040】
この一連の工程において、仮に、基板を真空蒸着装置から外気中に取り出してイオンプレーティング装置に設置すると、外気に曝露されることで電子注入層が酸化されることがある。これに対し、本態様では、各工程間において成膜装置内の真空蒸着装置からイオンプレーティング装置へと、真空搬送室を介して基板が搬送される。このとき、基板は、各装置間を大気に曝露されることなく搬送されるために、基板表面の電子注入層が大気に晒されることで酸化或いは不純物の吸着等の悪影響をこうむるおそれを未然に防止することが可能である。よって、特性良好な素子を製造することができる。
【0041】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0043】
<1:有機EL素子>
先ず、図1から図3を参照して、本発明の実施形態に係る有機EL素子の基本的な構成について説明する。図1から図3の夫々は、本実施形態に係る有機EL素子の概略構成を表す断面図である。
【0044】
<1−1:トップエミッション型有機EL素子>
図1において、有機EL素子1は、素子基板10の上面側から光を取り出すトップエミッション型の発光素子であり、ガラス基板、樹脂製のフィルム基板、或いは半導体基板等からなる素子基板10の一面上に複数個の積層体20が形成され、積層体20同士の間に、透明絶縁層30が挿入されて構成されている。因みに、素子基板10の一面に素子構造を形成するようにしたのは、複数の積層体を基板の両面ではなく一面に積層させるほうが一般的に製造しやすいためである。
【0045】
積層体20は、陰極11a又は陰極21と、陽極24との間に、電子注入層22及び発光源となる有機層23が挟まれた構造を有しており、各層が素子基板10の一面に積層されてなる。
【0046】
陰極11a及び21は、電子注入電極として機能する。陰極11aは、この有機EL素子1を構成する各層のうち最下層にあたり、素子基板10の直上に形成される陰極である。陰極11aは、光射出側とは反対側に配置されることから、光取り出し効率を高めるために高反射率のアルミニウム等による金属電極とされる。陰極21は、陰極11a以外の陰極であり、光射出側に配置されることから、光取り出し効率を高めるために高透過率の透明導電材料(例えばITOや窒化チタン)を用いた透明電極とされる。
【0047】
電子注入層22は、発光層と陰極との間に設けられるバッファ層であり、発光層と陰極との接合性を高め、電子の注入効率を高める機能を有する。ここで、透明な陰極21には仕事関数が低い材料を選ぶことが難しいために、電子注入層22を設けることで電子注入効率を上げる必要がある。電子注入層22の材料としては、例えばバソクプロインとセシウムの共蒸着膜やマグネシウムと銀との共蒸着膜、LiF/Ca/Alなどを用いることができる。
【0048】
有機層23は、発光層を含む単層又は多層の有機薄膜であり、例えばホール注入/輸送層等が含まれる。発光層は、陰極11a又は21と陽極24とから注入される電子と正孔とが再結合して光が発生する層である。正孔注入層は、発光層と陽極24との間に設けられるバッファ層であり、発光層と陽極24との接合性を高める。正孔輸送層は、正孔の注入効率を高めるとともに、注入された正孔の移動速度を高める機能を有する。正孔注入/輸送層を形成する有機化合物としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン等のポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルホン酸等の混合物を用いることができる。尚、有機層23の構成は、発光層を含むこと以外は特に制限されない。
【0049】
陽極24は、正孔注入電極として機能し、光射出側に位置することから、例えばITO等による透明電極とされる。
【0050】
透明絶縁層30は、積層体20同士を電気的に仕切るために設けられており、層間に配置されるためにSiO2、SiNX、AlO2等の透明な絶縁材料から形成される。この透明絶縁層30の効果については、後述する。
【0051】
また、本実施形態においては、透明電極である陰極21及び陽極24、そして透明絶縁層30の夫々は、イオンプレーティング法により形成されている。そのため、これらの成膜時に、電子注入層22や有機層23に損傷を与えるおそれが回避され、こうした構造の有機EL素子1の製造を現実に可能ならしめている。
【0052】
積層体20は、素子基板10側から順に、陰極11a又は21、電子注入層22、有機層23、及び陽極24が積層されて構成されている。また、ここでは、透明絶縁層30を介して積層されているために、積層体20の夫々を電源50に対して並列に接続することが可能となる。これにより、各積層体20は、電源50より印加される同一電圧下で、積層体20毎に異なる電流経路で電流が流れることによって駆動される。
【0053】
この有機EL素子1では、各積層体20の有機層23で生じる光はいずれも、素子基板10の上面側から素子外に取り出される。このとき、積層体20を同時駆動すれば、各積層体20が発する光は重なり合って出射されるので、有機EL素子1としての発光輝度は、積層体20の個数に応じて倍加することになる。よって、有機EL素子1によれば、高輝度の発光ないし表示が可能となる。同時に、このような有機EL素子1では、相対的に各積層体20に対する電流供給量を抑えることができる。よって、素子の長寿命化が可能である。
【0054】
また、有機EL素子1では、各積層体20が電源50に対して並列に接続されており、その駆動電圧は積層体20の個数に関わらず一定であることから、電源50には高圧用の電源ではなく既存の電源を用いることができる。仮に、3個の積層体20を電源に対して直列に接続して駆動すると、各積層体20に対する印加電圧が例えば10Vであれば、素子全体の駆動電圧は30Vにもなる。この場合は、既存の駆動回路は使用できないために、高圧用の駆動回路が必要となってくる。即ち、駆動回路側に大幅な改変を余儀なくされる。また、高圧用の駆動回路はかなり高価なため、この素子を用いた装置のコストは大幅に上昇してしまう。一方、本実施形態の有機EL素子1のように、積層体20を並列接続する場合には、積層体20に対する印加電圧が例えば10Vであれば、素子全体の駆動電圧も10Vに収まるために上記のような問題は生じず、各種装置に対して広く適用可能である。
【0055】
<1−2:ボトムエミッション型有機EL素子>
図2において、有機EL素子2は、素子基板10の下面側から光を取り出すボトムエミッション型の発光素子である。この場合、積層体20は、素子基板10に面した下面側が光出射側となるために、素子基板10上に、有機EL素子1の場合とは上下方向に逆の順序で各層が積層されている。ここで陰極11bは、有機EL素子2を構成する各層の最上層にあたる陰極である。また、素子基板10は、光出射側に配置されているために、ガラス基板や樹脂製のフィルム基板等の透明基板とされる。
【0056】
この有機EL素子2においても、積層体20が素子基板10上に複数個積層されており、しかも各積層体20が電源50に対して並列に接続されていることから、有機EL素子1と同様の作用及び効果を奏する。
【0057】
<1−3:両面発光型有機EL素子>
図3において、有機EL素子3は、有機EL素子1とほぼ同様に構成されている。但し、この場合は、素子基板10の直上に、素子基板10側に透過する光を反射させるために配置される陰極11aの代わりに、透明導電材料からなる陰極21が形成されている。そのため、有機EL素子3は、素子基板10の両面から同時に光を取り出すことができる。
【0058】
有機EL素子3は、上記以外の構成は有機EL素子1と同様であり、有機EL素子1と同様の作用及び効果を奏する。
【0059】
<2:有機EL素子の製造方法>
次に、図4及び図5を更に参照し、本実施形態に係る有機EL素子の製造方法について説明する。図4は、本実施形態に係る製造方法に適用される成膜装置の概略構成を示している。図5は、本実施形態に係る有機EL素子の製造方法を表すフローチャートである。尚、以下では、代表的に“ボトムエミッション型”の有機EL素子2を製造する場合について説明するが、その他の態様の素子もほぼ同様の方法で製造することができる。
【0060】
<2−1:成膜装置>
具体的な製造工程を説明する前に、本実施形態に係る成膜装置200の構成について説明する。
【0061】
図4において、成膜装置200は、真空蒸着装置201と、イオンプレーティング装置202と、真空蒸着装置201とイオンプレーティング装置202との間を接続し、両装置間で素子基板10を搬送する真空搬送室203とから概略構成されている。真空蒸着装置201と真空搬送室203との接合部、及びイオンプレーティング装置202と真空搬送室203との接合部には、それぞれ真空ゲート204a、204bが配置されている。
【0062】
真空蒸着装置201は、成膜材料210を載置する台部211と、成膜材料210を加熱蒸発させるヒーターなどの加熱装置212とが、装置底部に配置されている。一方、台部211と対向する位置に、図示しない基板保持部が配置され、素子基板10が基板保持部に搬送され配置されている。また、台部211と素子基板10との間には、蒸発した成膜材料210が素子基板10に到達する経路を遮断する、開閉可能なシャッター213が配置されている。
【0063】
また、真空蒸着装置201は、真空ゲート220aと排気ポンプ220bから構成される排気装置220により気体が吸引排気されることにより、内部の真空度が保たれるように構成されている。
【0064】
イオンプレーティング装置202は、プラズマ生成部250、成膜を行う成膜部260、電子注入層15まで積層された素子基板10を搬送する基板搬送部270、及び成膜部260内の気体を排気する排気装置280とから概略構成されている。
【0065】
プラズマ生成部250は、直流電源251、磁場発生コイル252及び放電陽極253を備え、導入されるアルゴンガスをプラズマ化して成膜材料261へと導入する機能を有している。成膜部260には、ITO等の成膜材料261を載置する台部262と、雰囲気ガスを供給するガス供給部263とが配置され、台部262と対向する位置に素子基板10が配置される。
【0066】
また、イオンプレーティング装置202は、真空ゲート280aと排気ポンプ280bから構成される排気装置280により気体が吸引排気されることにより、内部の真空度が保たれるように構成されている。尚、このイオンプレーティング装置202は、プラズマ発生領域の外部に素子基板10を配置する形態のものであり、後述するように、透明導電層たる陰極21の成膜時に素子基板10がプラズマに直接曝されないため、下層の有機層23や電子注入層22に損傷を与えることなく、高輝度で信頼性の高い有機EL素子を得ることができる。
【0067】
真空搬送室203には、真空ゲート230aと排気ポンプ230bから構成される排気装置230が付設されており、気体を排気して内部の真空度を保つことが可能に構成されている。
【0068】
<2−2:製造工程>
次に、成膜装置200を用いた有機EL素子2の各製造工程を具体的に説明する。
【0069】
図5のフローチャートにおいて、先ずイオンプレーティング装置202を用いて、素子基板10の一面上に、透明導電層たる陽極24を成膜する(ステップS11)。即ち、台部262と対向する位置に素子基板10を配置し、プラズマ生成部250で生成されたアルゴンプラズマを導入することで、ITO等の成膜材料261を蒸発させ、素子基板10の上に堆積させる。
【0070】
次に、陽極24上に、有機層23を形成する(ステップS12)。有機層23は、例えば正孔注入/輸送層、発光層を含んで構成され、各層の材料に応じて真空蒸着或いはスピンコート法やインクジェット法などの塗布法により形成することができる。そのため、有機層23の形成前に、素子基板10は、イオンプレーティング装置202から真空蒸着装置201へと真空搬送室203を通じて搬送される。或いは、塗布法により有機層23を形成する場合は、素子基板10は成膜装置200内から一旦取り出される。
【0071】
有機層23として形成される正孔注入/輸送層は、例えば、インクジェット装置により正孔注入/輸送層形成材料を含む組成物を液滴吐出し、乾燥処理及び熱処理を行うことによって形成される。
【0072】
発光層の形成は、例えば、表面改質工程、発光層形成材料吐出工程及び乾燥工程からなる。表面改質工程は、発光層形成の際に用いる組成物の非極性溶媒と同一の溶媒またはこれに類する溶媒である表面改質材を、インクジェット法、スピンコート法またはディップ法により正孔注入/輸送層上に塗布した後に乾燥することにより行う。表面改質材としては、組成物の非極性溶媒同一なものとして例えば、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等が採用でき、組成物の非極性溶媒に類するものとして例えば、トルエン、キシレン等を採用できる。発光層形成材料吐出工程は、インクジェット法により、発光層形成材料を含む組成物を、正孔注入/輸送層上に吐出する。その後、乾燥処理して、組成物に含まれる非極性溶媒を蒸発させ、発光層形成材料を析出させて、発光層を形成する。尚、このような有機層23の形成は、水蒸気及び酸素の無い雰囲気下で行うことが好ましく、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で作業を行うことが好ましい。
【0073】
有機層23の形成後、成膜装置200外にある素子基板10を、真空蒸着装置201内に搬送し、所定位置に配置しておく。
【0074】
次に、真空蒸着装置201を用いて、有機層23上に、電子注入層22を形成する(ステップS13)。真空蒸着装置201内は、排気装置220により所定の真空状態に保たれている。台部211に載置した成膜材料210は、加熱装置212により加熱されて蒸発し、有機層23上に堆積される。形成される電子注入層22の厚さは、シャッター213を閉じ、蒸発した成膜材料210が素子基板10に到達する経路を遮断することで調節できる。
【0075】
ここで、図5において、積層体20はn個(但し、nは2以上の自然数)積層されるものとし、この時点で途中まで形成された積層体20がY番目であるとする(即ち、現時点ではY=1)。後述するように、ここで説明する一連の工程は、積層体20に対応して複数回繰り返される。その際に、最上部の積層体20の形成に着手するまでは(ステップS14:N)、これ以降に説明するように陰極21と透明絶縁層30とが形成される(ステップS14:Y)。
【0076】
次に、電子注入層22まで形成された素子基板10を、真空蒸着装置201からイオンプレーティング装置202へと搬送する(ステップS15)。具体的には、予め真空搬送室203内の気体を、真空ゲート230aと排気ポンプ230bから構成される排気装置230により排気し、真空搬送室203内を真空蒸着装置201と同様の真空状態としておく。電子注入層22の形成終了後、真空ゲート204aを開け、素子基板10を真空蒸着装置201から真空搬送室203へ搬送し、真空ゲート204aを閉じる。この時、イオンプレーティング装置202内も排気装置280により排気し、同様の真空状態としておく。続いて、真空ゲート204bを開け、素子基板10を真空搬送室203からイオンプレーティング装置202へ搬送し、真空ゲート204bを閉じる。
【0077】
こうすることによって、真空蒸着法による電子注入層22の形成後、所定の真空状態を保持したまま、次の工程である陰極21の形成工程に移行することができる。このため、電子注入層22表面の酸化、並びに、他の不要なガス等の吸着を防止することが可能となる。
【0078】
次に、イオンプレーティング装置202を用いて、電子注入層22上に透明導電層たる陰極21を形成する(ステップS16)。例えば、陰極21は、以下のように上層と下層とに分けて形成することができる。先ず、電子注入層22上に、ITOからなる下層を成膜する。この場合、台部262上に成膜材料261としてITOを載置し、酸素を含まないアルゴンガス雰囲気下でITOを電子注入層22の全面に堆積させ、下層を成膜する。アルゴンガスはプラズマ生成部250に導入され、直流電源251によりアルゴンプラズマとされて、磁場発生コイル252及び放電陽極253により台部262の成膜材料261へ導入される。ITOはアルゴンプラズマに加熱されて蒸発する。蒸発したITOはアルゴンガス雰囲気の中、電子注入層22上に堆積する。
【0079】
尚、ここでは、下層を堆積させる時には成膜材料261と素子基板10との間にはバイアスをかけないようにしている。そのために、蒸発した成膜材料261は加速されることなく堆積される。成膜材料が加速されないことで、成膜材料が堆積した膜、及びその下地となる電子注入層22等に対して与えるダメージを抑えることができる。
【0080】
下層の成膜が終了すると、引き続き、成膜部260に酸素を導入して上層を成膜する。酸素ガスは、ガス供給部263から内部に導入され、酸素を含んだアルゴンガス雰囲気を作り出す。蒸発したITOは酸素ガスと結びつき、酸素を多く含んだ低抵抗、高透過率の上層が形成される。こうして、陰極21が形成される。
【0081】
以上の工程により、素子基板10の一面上に、最初の積層体20が完成される。
【0082】
次に、引き続きイオンプレーティング装置202を用い、陰極21上に透明絶縁層30を形成する(ステップS17)。この透明絶縁層30は、成膜材料261としてSiO2、SiNX、AlO2等の透明絶縁材料を用いる他は、陰極21と同様にして形成される。
【0083】
その後、以上と同様にして、積層体20の形成工程、及び透明絶縁層30の形成工程を繰り返す。このとき、陰極21、透明絶縁層30及び陽極24が順次形成される際には、これらの各層はイオンプレーティング装置202を用いて連続的に形成されるので、成膜スループットを向上させることができる。
【0084】
そして、n番目、つまり最上部の積層体20(即ち、Y=n)の形成工程においては、陽極24、有機層23及び電子注入層22までを前述の通りに形成した時点で、陰極11bの形成工程に移行する(ステップS14:N)。図2に示した有機EL素子2の場合は、積層体20は3個積層されているので、上記一連の工程を2度繰り返し、最上部の積層体20(即ち、Y=3)の形成工程では陰極21に代えて陰極11bを形成する。
【0085】
即ち、有機EL素子2の最上層として、蒸着装置201を用いて、電子注入層22上に陰極11bを形成する(ステップS18)。よって、陰極11bは、電子注入層22に引き続いて連続的に蒸着することが可能である。この場合の成膜材料210には、例えば、アルミニウム(Al)を含む金属材料、又はカルシウム(Ca)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)等のうち少なくとも一つを含む金属材料が用いられる。
【0086】
以上の工程により、図2に示した有機EL装置2が得られる。
【0087】
尚、上記陰極11bの形成工程に続いて、陰極11b上に酸化窒化シリコン等からなる封止膜を、イオンプレーティング装置202により形成してもよい。具体的には、先ず、成膜部260内の気体を排気装置280により排気する。続いて成膜部260に窒素ガスなどの雰囲気ガスをガス供給部263から導入する。また、成膜材料261をITOから酸化シリコンに交換する。
【0088】
アルゴンガスはプラズマ生成部250に導入され、直流電源251によりアルゴンプラズマとされて、磁場発生コイル252及び放電陽極253により台部262の成膜材料261へ導入される。酸化シリコンはアルゴンプラズマに加熱されて蒸発する。蒸発した酸化シリコン粒子はアルゴンプラズマによりイオン化され、活性度の高い状態となって陰極11b表面に入射する。陰極11b上に堆積した酸化シリコンは、雰囲気ガス中の窒素ガスと反応して酸化窒化シリコンとなり、緻密で均一な封止膜を形成することができる。
【0089】
以上説明したように、本実施形態における有機EL装置の製造方法によれば、透明な電極層たる陽極24及び陰極21、更に透明絶縁層30をイオンプレーティング装置202により形成するようにしたので、電子注入層22や有機層23に損傷を与えることがなく、損傷に起因する非発光点の出現が防止され、高輝度で信頼性の高い有機EL素子2を得ることが可能となる。とりわけ、本イオンプレーティング装置202は、プラズマ発生領域の外部に素子基板10を配置する構造をしているために、素子基板10がプラズマに直接曝されないため、発光層や電子注入層の損傷が殆ど或いは実践上全くない。
【0090】
また、これら陽極24及び陰極21、透明絶縁層30は、同一のイオンプレーティング装置202で形成されることから、3つの膜形成工程を連続して行うことができ、基板の搬送などの工程を削減でき、成膜スループットを向上させることができる。
【0091】
更に、真空蒸着装置201により電子注入層22を形成した後、素子基板10を真空雰囲気下に置いて搬送し、次工程であるイオンプレーティング装置202による陰極21の形成に移行するようにしたので、電子注入層22の酸化を防止することができる。従って、電子注入層22の特性が劣化せず、ひいては良好な特性を有する有機EL素子2を製造することが可能となる。
【0092】
<3:有機EL装置>
次に、図6から図8を参照して、上記実施形態の有機EL素子を備えた有機EL装置に係る実施形態について説明する。尚、以下では、図2のような“ボトムエミッション型”の有機EL素子2aを備えた場合を例にとり、具体的に説明する。但し、ここでは説明の簡便のために、有機EL素子2aは積層体20が2個積層された構成とする。
【0093】
<3−1:有機EL装置の全体構成>
図6を参照して有機EL装置の全体構成について説明する。図6は、素子基板10を封止基板の側から見た有機EL装置の概略的な平面図である。ここでは、駆動回路内蔵型のアクティブマトリクス駆動方式の有機EL装置を例にとる。
【0094】
図6において、素子基板10上の画像表示領域110には、複数の画素駆動用信号線116aが配線されると共に、夫々画素駆動用信号線116aに電気的に接続される複数の画素部が所定パターンで配列されている。複数の画素部は夫々有機EL素子2aを含んでいる。尚、図6中、画像表示領域110における画素駆動用信号線116aや画素部の具体的な構成については図示を省略し、その詳細については後述する。
【0095】
画像表示領域110の周辺に位置する周辺領域には、画像表示領域110を挟んで対向する素子基板10の2辺に沿って、Y側駆動回路部132が設けられると共に、この2辺に隣接する一辺に沿ってX側駆動回路部152が設けられている。複数の画素駆動用信号線116aは、Y側駆動回路部132及びX側駆動回路部152に電気的に接続されている。図6には、複数の画素駆動用信号線116aのうち、X側駆動回路部152と電気的に接続される画素駆動用信号線116aについて、画像表示領域110の一辺からX側駆動回路部152に延びて配線される一部分について示してある。
【0096】
更に、X側駆動回路部152が設けられた素子基板10の一辺に沿って、複数の実装端子102が設けられている。これらの実装端子102には、例えばTAB(Tape Automated Bonding)方式やCOG(Chip On Grass)方式により配線基材300が実装される。配線基材300には、走査線駆動回路やデータ線駆動回路を駆動するための各種信号を供給する外部回路が形成されている。
【0097】
Y側駆動回路部132には、走査線駆動回路が設けられると共に、例えば画素駆動用信号線116aと走査線駆動回路内の回路素子等とを電気的に接続するための配線や、走査線駆動回路を駆動するための各種信号の供給経路となる配線等が設けられる。X側駆動回路部152には、データ線駆動回路が設けられると共に、例えば画素駆動用信号線116aとデータ線駆動回路内の回路素子等とを電気的に接続するための配線や、データ線駆動回路を駆動するための各種信号の供給経路となる配線等が設けられる。配線116bは、X側駆動回路部152を介して入出力信号線118に電気的に接続されている。
【0098】
入出力信号線118は、外部回路に入出力される信号の種類に対応して、複数種類設けられる。例えば、複数の入出力信号線118には、以下のような画素駆動用電源線118aや駆動回路用信号線が設けられる。画素駆動用電源線118aには、外部回路から画素駆動用電源が供給される。画素駆動用電源線118aの一端側は、X側駆動回路部152又はY側駆動回路部132を介して、画素駆動用信号線116aとしての電源供給線に電気的に接続される。また、駆動回路用信号線には、外部回路から走査線駆動回路やデータ線駆動回路を駆動するための駆動回路用信号が供給される。このような駆動回路用信号線には、例えば、図6に示すように、駆動回路用信号として、走査線駆動回路やデータ線駆動回路の電源となる駆動回路用電源が供給される駆動回路用電源線118bが含まれる。
【0099】
<3−2:画素部の構成>
次に、図6に加え、図7及び図8を参照して、有機EL装置の画像表示領域110における画素部の構成について具体的に説明する。図7は、有機EL装置の全体構成を示すブロック図であり、図8は、データ線、走査線、有機EL素子等が形成された素子基板上の任意の画素部の断面図である。
【0100】
先ず、図7を参照して、有機EL装置の画像表示領域110の電気的な構成について説明する。
【0101】
画像表示領域110には、図6の画素駆動用信号線116aに相当するデータ線114及び走査線112が縦横に延設され、それらの交点に対応する各画素部70はマトリクス状に配列されている。更に、画像表示領域110には、各データ線114に対して配列された画素部70に対応する電源供給線117が延在している。電源供給線117もまた、図6の画素駆動用信号線116aに相当する。
【0102】
尚、本実施形態では、カラー表示を行うために、画像表示領域110には例えば、R用、G用及びB用の3種の画素部70が設けられると共に、3種の画素部70に対応する3種のデータ線114及び3種の電源供給線117が設けられる。図7において、例えば隣接する3本のデータ線114毎に3種の画素部70が設けられる。3本のデータ線114のうち、いずれか1本のデータ線114には、3種のうちいずれか1種の画素部70が配列される。また、このように配列された画素部70には、対応する種類の電源供給線117が電気的に接続される。
【0103】
前述したように、素子基板10上の周辺領域には、走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150が設けられている。走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150は、図6における実装端子102及び入出力信号線118としての駆動回路用信号線を介して、外部回路から供給される駆動回路用信号に基づいて駆動される。そして、走査線駆動回路130は、複数の走査線112に走査信号を順次供給する。また、データ線駆動回路150は、画像表示領域110に配線された3種のデータ線114に、R用、G用及びB用の3種の画像信号を供給する。尚、2種の走査線駆動回路130の動作と、データ線駆動回路150の動作とは、外部回路から供給される同期信号160によって相互に同期が図られる。
【0104】
また、周辺領域には、3種の電源供給線117に対応して3種の画素駆動用電源線118aが設けられる。3種の電源供給線117には夫々、外部回路から実装端子102及び対応する画素駆動用電源線118aを介して画素駆動用電源が供給される。
【0105】
ここで、図7中、一つの画素部70に着目すれば、画素部70には、有機EL素子2aが設けられると共に、例えばTFTを用いて構成されるスイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74、並びに保持容量78が設けられている。画素部70において、各トランジスタは、例えば、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor;以下適宜、“TFT”と称する)等により構成される。
【0106】
スイッチング用トランジスタ76のゲート電極には走査線112が電気的に接続されており、スイッチング用トランジスタ76のソース電極にはデータ線114が電気的に接続され、スイッチング用トランジスタ76のドレイン電極には駆動用トランジスタ74のゲート電極が電気的に接続されている。また、駆動用トランジスタ74のソース電極には、電源供給線117が電気的に接続されており、駆動用トランジスタ74のドレイン電極には有機EL素子2aを構成する各積層体20の陽極が電気的に接続されている。ここでは、各積層体20は、駆動用トランジスタ74を介して電源供給線117に対して並列に接続されている。
【0107】
尚、このような有機EL装置では、図7に例示した画素回路の構成の他にも、電流プログラム方式の画素回路、電圧プログラム型の画素回路、電圧比較方式の画素回路、サブフレーム方式の画素回路等の各種方式の画素回路を採用することが可能である。
【0108】
次に、図8を参照して、画素部70の更に詳細な構成について説明する。
【0109】
例えば透明樹脂やガラス基板等の透明基板を用いて構成される素子基板10上には、スイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74の半導体層3が形成されている。半導体層3は例えば低温ポリシリコン膜を用いて形成されている。また、半導体層3上には、半導体層3を埋め込むようにスイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74のゲート絶縁層2が形成されている。そして、ゲート絶縁層2上に、駆動用トランジスタ74のゲート電極3a及び走査線112(ここでは図示せず)が同一膜として形成されている。ゲート電極3a及び走査線112は、Al(アルミニウム)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、銅(Cu)等のうち少なくとも一つを含む金属材料を用いて形成されている。
【0110】
また、走査線112や駆動用トランジスタ74のゲート電極3aを埋め込むように、ゲート絶縁層2上には層間絶縁層41が形成されている。層間絶縁層41及びゲート絶縁層2は例えばシリコン酸化膜から構成されている。
【0111】
層間絶縁層41上には、電源供給線117、駆動用トランジスタ74のドレイン電極42、及びデータ線114(ここでは図示せず)が同一膜として形成されている。これらは、例えばアルミニウム(Al)又はITO(Indium Tin Oxide)を含む導電材料から夫々構成される。層間絶縁層41には、層間絶縁層41及びゲート絶縁層2を貫通して、駆動用トランジスタ74の半導体層3に至るコンタクトホール501及び502が形成されている。図8に示すように、電源供給線117及びドレイン電極42を構成する導電膜は、コンタクトホール501及び502の各々の内壁に沿って半導体層3の表面に至るように連続的に形成されている。
【0112】
層間絶縁層41上には、電源供給線117及びドレイン電極42を埋め込むように、保護層45として例えばシリコン窒化膜(SiN)が形成されている。保護層45上には、絶縁層46及び47が構成するバンクの間に、画素部70における開口領域が形成されている。この開口領域には、有機EL素子2aが形成されている。その製造手順は、前述した製造方法に準じている。
【0113】
絶縁層46からなるバンクの間には、保護層45を下地として陽極24、有機層23、電子注入層22及び陰極21がこの順に積層されている。陽極24は、透明性導電材料としてITOを用いて、開口領域から延びてドレイン電極42の一部と重畳するように形成されている。陽極24上には、有機層23が形成されている。そのうち、発光層の発光材料は、有機EL素子2aのR、G及びBの別に応じて選定される。陰極21は、透明性導電材料を用いて形成されており、開口領域外に引き出されて接地されている。
【0114】
その上層側には、透明絶縁層30が一面に形成され、絶縁層47からなるバンクの間には、透明絶縁層30を下地として陽極24、有機層23、電子注入層22及び陰極11bがこの順に積層されている。陽極24は、開口領域から延びてコンタクトホールを介してドレイン電極42の一部と重畳するように形成されている。また、この上側の有機層23の発光材料は、下側の有機層23と同一材料が用いられている。陰極11bは開口領域外に引き出され、接地されている。尚、図7には、封止基板について図示を省略してある。
【0115】
<3−3:有機EL装置の動作>
有機EL装置の駆動時、走査線112を介して走査信号が供給されることにより、スイッチング用トランジスタ76がオン状態になる。よって、データ線114から供給される画像信号は、駆動用トランジスタ74のゲートに印加されると共に、保持容量78に書き込まれる。このとき、駆動用トランジスタ74はオン状態となり、電源供給線117から駆動電流が、駆動用トランジスタ74を介して有機EL素子2aに印加される。その際、駆動用トランジスタ74のゲート電圧は、保持容量78に書き込まれた画像信号により固定されるために、有機EL素子2a側には、画像信号に応じた一定の電流が流れる。
【0116】
ここでは、有機EL素子2aの2つの積層体20が、ドレイン電極42に対して並列に接続されているために、各積層体20には同じ値の電流が流れ、同様に発光する。
【0117】
発光層で生じた光は、素子基板10側(図8中、矢印Xの方向)に取り出される。このとき、積層された2つの積層体20が同時に発光しているために、発光効率は単純に2倍になり、高輝度化される。
【0118】
逆に、本実施形態における有機EL素子2aは、駆動電流を小さくしても従来と同等の輝度を得ることができ、電流の減少分だけ、素子の寿命を延ばすことができる。或いは、低消費電力化にも寄与する。
【0119】
<3−4:有機EL装置の第2実施形態>
次に、図9を参照して、本発明の有機EL装置の他の実施形態について説明する。図9は、第2実施形態に係る有機EL装置の画素部の構成を概念的に表している。
【0120】
図9において、画素部内の有機EL素子2bは、有機EL素子2と同様の“ボトムエミッション型”であり、積層された3個の積層体20は電源50に対して並列に接続されている。有機EL素子2bを含んだ画素部の具体的構成は、積層体20の個数が異なることを除けば、概ね図7及び図8に示したように構成される。
【0121】
並列に接続された積層体20は、夫々独立した電流経路を有しているために、原理的に、互いに独立に駆動させることができる。そこで、本実施形態の有機EL装置では、3個の積層体20の夫々の陽極と電源50との間にスイッチング素子51、52及び53を設け、積層体20を夫々独立して駆動制御されるように構成されている。スイッチング素子51〜53は、例えば駆動用トランジスタ74のようなTFTであってよい。この場合、発光時間や駆動電流量等の兼ね合いによって積層体20を連動させるように駆動すれば、素子の寿命を延ばすのに寄与する。
【0122】
更に、これら3個の積層体20の夫々を、R、G及びBの各色に発光するようにすれば、1絵素を一つの画素で表現することが可能となる。即ち、有機EL素子2bは、図9に示したように、有機層23に夫々R、G及びBの発光材料を用いた積層体20R、20G及び20Bによって構成される。この場合の有機EL装置では、画素の高精細化が可能である。
【0123】
尚、以上の実施形態では、ボトムエミッション型の有機EL装置について説明したが、本発明の有機EL装置は、封止基板側から表示光として有機EL素子1(図1を参照)の発光を出射させるトップエミッション型として構成されてもよい。
【0124】
<4:電子機器>
次に、図10及び図11を参照して、上記実施形態の有機EL装置が適用された電子機器について説明する。
【0125】
<4−1:モバイル型コンピュータ>
先ず、上述した有機EL装置を、モバイル型のパーソナルコンピュータに適用した例について説明する。図10は、このパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。図10において、コンピュータ1200は、キーボード1202を備えた本体部1204と、有機EL装置を用いて構成された表示ユニット1206とを備えている。
【0126】
<4−2:携帯電話>
さらに、この有機EL装置を、携帯電話に適用した例について説明する。図11は、この携帯電話の構成を示す斜視図である。図11において、携帯電話1300は、複数の操作ボタン1302とともに有機EL装置を備えるものである。
【0127】
この他にも、上記実施形態に係る有機EL装置は、ノート型のパーソナルコンピュータ、PDA、テレビ、ビューファインダ、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、POS端末、タッチパネル、プリンタを備えた装置等に適用することができる。
【0128】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨、あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う有機EL素子、及びこれを備えた有機EL装置もまた、本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の第1の基本構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る有機EL素子の第2の基本構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る有機EL素子の第3の基本構成を示す断面図である。
【図4】実施形態に係る有機EL素子の製造に用いられる成膜装置の構成を概略的に表す断面図である。
【図5】実施形態に係る有機EL素子の製造手順を表すフローチャートである。
【図6】素子基板を封止基板の側から見た有機EL装置の概略的な平面図である。
【図7】有機EL装置の全体構成を示すブロック図である。
【図8】データ線、走査線、陽極や発光層等が形成された素子基板の任意の画素部の断面図である。
【図9】第2実施形態に係る有機EL装置の画素部の構成を概略的に表す断面図である。
【図10】有機EL装置を適用した電子機器の一例たるパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図11】有機EL装置を適用した電子機器の一例たる携帯電話の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0130】
1、2、3…有機EL素子、10…素子基板、11a、11b…(金属)陰極、20…積層体、21…(透明)陰極、22…電子注入層、23…有機層、24…陽極、30…透明絶縁層、50…電源、70…画素部、200…成膜装置、201…真空蒸着装置、202…イオンプレーティング装置、203…搬送装置。
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、基板上に有機EL(Electroluminescence)膜及び電極膜が順次積層されてなる有機EL素子及びその製造方法、並びに、そのような有機EL素子を備えた、照明光源、カラーディスプレイ、プリンタヘッド等の有機EL装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の有機EL素子は、基板上に、少なくとも発光層を含む有機薄膜を一対の電極膜で挟んだ積層構造を有し、一対の電極膜から注入されたキャリアが発光層内で再結合することにより発光する。一対の電極膜は、素子外部に光を取り出すために、少なくとも一方がITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極となっている。
【0003】
このような有機EL素子は、ディスプレイ等への応用が期待されているが、高輝度化に伴って寿命が極端に短くなるという問題がある。例えば、ディスプレイに必要とされる数千cd/m2程度に発光させた場合には素子の劣化が著しく、実用に供することは未だに容易ではない。
【0004】
これに対し、特許文献1には、有機EL素子を、一対の電極間に複数の発光ユニットが積層された構成とすることで、実質的な輝度を倍加させる技術が記載されている。これらの発光ユニットは、等電位面を形成する層によって夫々が仕切られると共に、直列に接続されている。このような有機EL素子では、両電極間に所定電圧が印加されたときに各発光ユニットが同時に光るために、これまで実現困難とされた高輝度、高効率な発光が得られる。
【0005】
【特許文献1】特開2003−45676号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の構成においては、各発光ユニットが直列に接続されているために、発光ユニットの数に従い駆動電圧が増大することから、高圧の駆動回路が必要となるという技術的問題点がある。即ち、既存の駆動回路をそのまま適用することは技術的に困難であり、また高圧用の駆動回路素子が高価なために、この有機EL素子の適用が必然的に高級な装置に限定されることになる。
【0007】
本発明は、例えば上記問題点に鑑みてなされたものであり、高輝度かつ長寿命であり、しかも比較的容易に適用可能な有機EL素子及びその製造方法、並びに、このような有機EL素子を備えた有機EL装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の有機EL素子は、上記課題を解決するために、基板の一方の面に積層されており、少なくとも一方が透明な一対の電極層と該一対の電極層間に挟持された有機層とを含んで構成されたn個(但し、nは2以上の自然数)の積層体と、前記n個の積層体の各間に夫々挿入された透明絶縁層とを備える。
【0009】
本発明の有機EL素子によれば、本来ならば個々の発光素子として機能し得る積層体が、複数個、基板の一方の面に積層された構造を有している。各積層体は、一対の電極層の間に、単層又は多層の有機層が挟まれてなる。有機層は発光層を含んでおり、その他にも例えばホール注入層やホール輸送層、或いは電子注入層や電子輸送層などを含むことがある。発光層で生じる光は、積層体の光出射側から取り出されるが、このような有機EL素子では、光は複数の積層体を透過しなければ素子外には取り出せない。そのため、少なくとも素子の光出射側に位置する電極層は、全てITO(Indium Tin Oxide)等の透明電極である必要がある。素子の光出射方向は、素子が面発光するように、積層体の層面に垂直方向を中心に設定されることが望ましく、光は基板の上面側又は下面側の一方から出射されてもよいし、上面側及び下面側の両方から出射されてもよい。
【0010】
尚、積層体が基板の一方の面上に形成されるのは、主に、製造効率がよいという利点による。
【0011】
このような有機EL素子は、発光ユニットとしての積層体が複数個重ねられているので、これらの積層体を同時駆動すれば、これらが重なって発光することで高輝度化が実現可能である。この場合に、各積層体では、相対的に電流供給量を抑えることができるために素子の長寿命化が可能である。
【0012】
また、本発明においては、積層体同士の間は、透明絶縁層によって仕切られる。絶縁層が透明であるのは、上記電極層と同じ理由による。積層体同士を電気的に絶縁させることで、積層体同士が並列に接続された状態とすることが可能となる。並列に接続された積層体は、原理的に、いずれも素子全体に印加される電圧と同電圧で駆動される。そのため、この有機EL素子は、配線を工夫するだけで、高圧用の駆動回路を用いずに既存の駆動回路で駆動させることが可能である。高圧用の駆動回路はかなり高価なため、装置のコストを大幅に上昇させてしまうが、本発明の有機EL素子を用いる場合には、そうしたおそれを回避でき、各種装置に広く適用可能である。
【0013】
以上の結果、本発明の有機EL素子によれば、高輝度化、長寿命化が可能であり、各種装置に対し容易に適用可能である。
【0014】
本発明の有機EL素子の一態様では、前記透明な電極層及び前記透明絶縁層は夫々、イオンプレーティング法により形成されている。
【0015】
この態様によれば、透明な電極層がイオンプレーティング法により形成される。前述したように、この有機EL素子内では、素子の光出射方向に光を透過させるために、光出射側に位置する電極層にITO等の透明電極が用いられる。こうした透明電極材料は、通常はスパッタ法によって成膜される。しかしながら、スパッタによる電極形成に際しては、下層側に堆積された有機層に損傷を与えるおそれがある。そのため、基板上面側から光を取り出す、所謂“トップエミッション型”の有機EL素子や、上記特許文献1の有機EL素子のように、有機層の上に透明電極を設ける構造を形成する場合には、実際上、電極層はITOではなく、金属を用いて形成される。金属薄膜は、蒸着等の有機層に損傷を与えない方法で形成できるからである。但し、その場合は、ITO等の透明電極材料を用いた場合に比べて透過率が格段に低くなってしまう。
【0016】
これに対し、本発明では、透明な電極層をイオンプレーティング法により形成するようにしたので、有機層に殆ど損傷を与えずに、透明な電極層をITO等の透明電極材料で形成することが可能となる。本発明の有機EL素子では、こうした透明な電極層が一層ならず複数存在するために、その全てにおいて透過率が良好であり、有機層のいずれにも殆ど損傷がないことによる効果は多大であり、素子の輝度を十分に引き上げることが可能となる。
【0017】
また、ここでは、透明絶縁層もイオンプレーティング法により形成するようにしたので、有機層の損傷防止に関する信頼性を高めることができると共に、透明絶縁層とその上下に位置する透明な電極層とを同じイオンプレーティング装置で連続して成膜することができ、成膜スループットを向上させることができる。
【0018】
本発明の有機EL素子の他の態様では、前記n個の積層体において前記一方の面上で最下層となる前記電極層は金属膜からなり、該金属膜以外の前記電極層は透明導電膜からなる。
【0019】
この態様によれば、有機EL素子は、基板上面側から光を取り出す、所謂“トップエミッション型”である。素子を構成する複数個の積層体の各層のうち、最も基板側に位置する最下層の電極層が、光を反射させるように金属膜からなる一方、光射出側となる上層の電極層は、光を取り出すために透明導電膜からなる。
【0020】
このように、積層体の積層方向における一方(上面側)から光を取り出すことで、効率よく高輝度化を図ることができる。
【0021】
本発明の有機EL素子の他の態様では、前記n個の積層体において前記一方の面上で最上層となる前記電極層は金属膜からなり、該金属膜以外の前記電極層は透明導電膜からなる。
【0022】
この態様によれば、有機EL素子は、基板下面側から光を取り出す、所謂“ボトムエミッション型”である。素子を構成する複数個の積層体の各層のうち、基板上で最上層に位置する電極層が光を反射させるように金属膜からなる一方、光射出側の下層の電極層は、光を取り出すために透明導電膜からなる。
【0023】
このように、積層体の積層方向における一方(下面側)から光を取り出すことで、効率よく高輝度化を図ることができる。
【0024】
本発明の有機EL素子の他の態様では、前記n個の積層体は夫々、前記一対の電極層間に、前記有機層に電子を注入するための電子注入層を含む。
【0025】
この態様によれば、各積層体には、電子注入層が含まれる。本発明の有機EL素子では、光出射側に位置する電極層は透明電極層とされるが、陰極をITO等で形成する場合、その仕事関数が高いために有機層に電子を供給することが難しい。そこで、電子の注入効率を上げるために、有機層と陰極との間に電子注入層を設ける。これにより、各積層体の発光効率を維持ないし向上させることが可能である。
【0026】
本発明の有機EL装置は、上記課題を解決するために、本発明の有機EL素子(但し、その各種態様を含む)と、一端側において前記n個の積層体の夫々における前記一対の電極層の一方と電気的に接続されると共に、他端側は前記n個の積層体の夫々を駆動するための電源と電気的に接続される電源供給用配線と、前記n個の積層体の夫々における前記一対の電極層の他方と電気的に接続される電極用配線とを備え、前記電源供給用配線及び前記電極用配線により前記n個の積層体の夫々が電気的に前記電源に対して並列に接続されるように構成されている。
【0027】
本発明の有機EL装置によれば、上述した本発明に係る有機EL素子を備えるので、高輝度化、長寿命化が達成できる。また、この装置では、有機EL素子が、電源供給用配線及び電極用配線によって、その内部の各積層体が電源に対して並列に電気的に接続されるように構成されている。互いに並列接続された積層体は同一電圧下で駆動され、素子全体もこの電圧で駆動される。よって、この有機EL装置は、高圧用の電源回路を用いずに既存の電源回路で駆動させることができ、装置のコスト上昇を抑えると共に、各種の装置に広く適用可能である。
【0028】
このような有機EL装置は、例えば、低消費電力で高輝度の照明光源や、高品質な画像表示を行うことが可能な、投射型表示装置、テレビ、携帯電話、電子手帳、ワードプロセッサ、ビューファインダ型又はモニタ直視型のビデオテープレコーダ、ワークステーション、テレビ電話、POS端末、タッチパネルなど、更には有機EL装置を露光用ヘッドとして用いたプリンタ、コピー、ファクシミリ等の画像形成装置など、各種電子機器を実現できる。
【0029】
本発明の有機EL装置の一態様では、前記有機EL素子は、前記有機層における発光色が夫々R(赤)、G(緑)及びB(青)に対応する3個の前記積層体が積層されてなり、前記3個の積層体の夫々が独立して駆動されるように、前記電源供給用配線上に前記3個の積層体の夫々に対応して設けられたスイッチング素子を更に備える。
【0030】
この態様では、有機EL装置が備える有機EL素子が、R、G及びBに対応する3個の前記積層体で構成されている。これら3個の積層体は、並列に接続されており、またスイッチング素子が夫々に対応して設けられているために、互いに独立して駆動させることができる。よって、通常はR、G及びBに対応する3個の発光素子に対応する3画素を平面状に配置することで構成される絵素を、この場合には、1画素分の領域で表示させることができる。その結果、高精細化が可能である。
【0031】
本発明の有機EL素子の製造方法は、上記課題を解決するために、基板の一方の面に積層されており、少なくとも一方が透明な一対の電極層と該一対の電極層間に挟持された有機層とを含んで構成されたn個(但し、nは2以上の自然数)の積層体と、前記n個の積層体の各間に夫々挿入された透明絶縁層とを備えた有機EL素子を製造するための有機EL素子の製造方法であって、前記一対の電極層の少なくとも一方である透明な電極層をイオンプレーティング法により透明導電膜として形成する導電層形成工程と、前記有機層を形成する有機層形成工程とを含んで前記積層体を前記一方の面上に形成し、n回繰り返される積層工程と、前記積層工程の後に、前記透明絶縁層をイオンプレーティング法により前記積層体上に形成する絶縁層形成工程とを含む。
【0032】
本発明の有機EL素子の製造方法によれば、複数積層される透明な電極層及び透明絶縁層が、イオンプレーティング法により形成される。透明な電極層の形成には、ITO等の透明電極材料が用いられ、透明絶縁層の形成には、SiO2、SiNX、AlO2等の透明な絶縁材料が用いられる。こうした材料は通常、スパッタ法等により成膜される。仮に、有機EL素子の製造において、これらの透明材料をスパッタ法等で成膜すれば、プラズマに曝されることで下地となる有機層が損傷することがある。
【0033】
これに対し、本発明の製造方法では、透明な電極層及び透明絶縁層をイオンプレーティング法により形成するようにしたので、有機層に殆ど損傷を与えずに、これらの各層を透過性良好な透明材料で形成することが可能となる。本発明の有機EL素子では、こうした透明な電極層が複数存在するために、その全てにおいて透過率が良好であり、有機層のいずれにも殆ど損傷がないことによる効果は多大であり、素子の輝度を十分に引き上げることが可能となる。即ち、本発明の有機EL素子の製造方法によれば、上述した本発明の有機EL素子を特性良好に製造可能である。
【0034】
また、この場合に、少なくとも透明絶縁層とその上下に位置する透明な電極層とは、同じイオンプレーティング装置内で連続して成膜でき、成膜スループットを向上させることができる。本発明の有機EL素子を製造するには、通常より多くの層を成膜する必要があるために、こうした製造効率の向上は重要である。
【0035】
本発明の有機EL素子の製造方法の一態様では、少なくとも一部の工程を、真空蒸着装置とイオンプレーティング装置とが共に密閉空間を構成可能なように真空搬送室を介して連結されてなる成膜装置を用いて実行し、前記導電層形成工程及び前記絶縁層形成工程を前記イオンプレーティング装置において実行する。
【0036】
この態様によれば、層形成の少なくとも一部が独自の成膜装置を用いてなされる。この成膜装置は、イオンプレーティングと真空蒸着とを行うことができ、透明導電層及び透明絶縁層の形成は、この装置内で実行される。また、例えば、有機層の一部又は全部、或いは“トップエミッション型”や“ボトムエミッション型”における金属電極などの素子の一部は、この装置内で真空蒸着により形成される。
【0037】
ここで、成膜装置は全体として密閉されていることから、イオンプレーティング又は真空蒸着の後に装置内から基板を取り出すことで基板表面が大気に晒され、酸化或いは不純物の吸着等の悪影響をこうむるおそれを未然に防止することが可能である。
【0038】
この成膜装置を用いる態様では、前記n個の積層体の夫々を、前記一対の電極層間に、前記有機層に電子を注入するための電子注入層を含むように形成する場合に、前記積層工程は、前記真空蒸着装置において前記電子注入層を真空蒸着法により形成する電子注入層形成工程と、前記電子注入層形成工程の後且つ前記導電層形成工程の前に、前記真空搬送室を通じて前記基板を前記真空蒸着装置から前記イオンプレーティング装置へ搬送する搬送工程とを更に含むようにしてもよい。
【0039】
この態様では、各積層体が電子注入層を備えた構造の有機EL素子を製造する場合に、電子注入層は上記成膜装置にて真空蒸着により形成され、その後、同じ成膜装置内において、イオンプレーティングにより電子注入層の上層に透明な電極層が形成される。
【0040】
この一連の工程において、仮に、基板を真空蒸着装置から外気中に取り出してイオンプレーティング装置に設置すると、外気に曝露されることで電子注入層が酸化されることがある。これに対し、本態様では、各工程間において成膜装置内の真空蒸着装置からイオンプレーティング装置へと、真空搬送室を介して基板が搬送される。このとき、基板は、各装置間を大気に曝露されることなく搬送されるために、基板表面の電子注入層が大気に晒されることで酸化或いは不純物の吸着等の悪影響をこうむるおそれを未然に防止することが可能である。よって、特性良好な素子を製造することができる。
【0041】
本発明のこのような作用及び他の利得は次に説明する実施形態から明らかにされる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0043】
<1:有機EL素子>
先ず、図1から図3を参照して、本発明の実施形態に係る有機EL素子の基本的な構成について説明する。図1から図3の夫々は、本実施形態に係る有機EL素子の概略構成を表す断面図である。
【0044】
<1−1:トップエミッション型有機EL素子>
図1において、有機EL素子1は、素子基板10の上面側から光を取り出すトップエミッション型の発光素子であり、ガラス基板、樹脂製のフィルム基板、或いは半導体基板等からなる素子基板10の一面上に複数個の積層体20が形成され、積層体20同士の間に、透明絶縁層30が挿入されて構成されている。因みに、素子基板10の一面に素子構造を形成するようにしたのは、複数の積層体を基板の両面ではなく一面に積層させるほうが一般的に製造しやすいためである。
【0045】
積層体20は、陰極11a又は陰極21と、陽極24との間に、電子注入層22及び発光源となる有機層23が挟まれた構造を有しており、各層が素子基板10の一面に積層されてなる。
【0046】
陰極11a及び21は、電子注入電極として機能する。陰極11aは、この有機EL素子1を構成する各層のうち最下層にあたり、素子基板10の直上に形成される陰極である。陰極11aは、光射出側とは反対側に配置されることから、光取り出し効率を高めるために高反射率のアルミニウム等による金属電極とされる。陰極21は、陰極11a以外の陰極であり、光射出側に配置されることから、光取り出し効率を高めるために高透過率の透明導電材料(例えばITOや窒化チタン)を用いた透明電極とされる。
【0047】
電子注入層22は、発光層と陰極との間に設けられるバッファ層であり、発光層と陰極との接合性を高め、電子の注入効率を高める機能を有する。ここで、透明な陰極21には仕事関数が低い材料を選ぶことが難しいために、電子注入層22を設けることで電子注入効率を上げる必要がある。電子注入層22の材料としては、例えばバソクプロインとセシウムの共蒸着膜やマグネシウムと銀との共蒸着膜、LiF/Ca/Alなどを用いることができる。
【0048】
有機層23は、発光層を含む単層又は多層の有機薄膜であり、例えばホール注入/輸送層等が含まれる。発光層は、陰極11a又は21と陽極24とから注入される電子と正孔とが再結合して光が発生する層である。正孔注入層は、発光層と陽極24との間に設けられるバッファ層であり、発光層と陽極24との接合性を高める。正孔輸送層は、正孔の注入効率を高めるとともに、注入された正孔の移動速度を高める機能を有する。正孔注入/輸送層を形成する有機化合物としては、例えば、ポリエチレンジオキシチオフェン等のポリチオフェン誘導体とポリスチレンスルホン酸等の混合物を用いることができる。尚、有機層23の構成は、発光層を含むこと以外は特に制限されない。
【0049】
陽極24は、正孔注入電極として機能し、光射出側に位置することから、例えばITO等による透明電極とされる。
【0050】
透明絶縁層30は、積層体20同士を電気的に仕切るために設けられており、層間に配置されるためにSiO2、SiNX、AlO2等の透明な絶縁材料から形成される。この透明絶縁層30の効果については、後述する。
【0051】
また、本実施形態においては、透明電極である陰極21及び陽極24、そして透明絶縁層30の夫々は、イオンプレーティング法により形成されている。そのため、これらの成膜時に、電子注入層22や有機層23に損傷を与えるおそれが回避され、こうした構造の有機EL素子1の製造を現実に可能ならしめている。
【0052】
積層体20は、素子基板10側から順に、陰極11a又は21、電子注入層22、有機層23、及び陽極24が積層されて構成されている。また、ここでは、透明絶縁層30を介して積層されているために、積層体20の夫々を電源50に対して並列に接続することが可能となる。これにより、各積層体20は、電源50より印加される同一電圧下で、積層体20毎に異なる電流経路で電流が流れることによって駆動される。
【0053】
この有機EL素子1では、各積層体20の有機層23で生じる光はいずれも、素子基板10の上面側から素子外に取り出される。このとき、積層体20を同時駆動すれば、各積層体20が発する光は重なり合って出射されるので、有機EL素子1としての発光輝度は、積層体20の個数に応じて倍加することになる。よって、有機EL素子1によれば、高輝度の発光ないし表示が可能となる。同時に、このような有機EL素子1では、相対的に各積層体20に対する電流供給量を抑えることができる。よって、素子の長寿命化が可能である。
【0054】
また、有機EL素子1では、各積層体20が電源50に対して並列に接続されており、その駆動電圧は積層体20の個数に関わらず一定であることから、電源50には高圧用の電源ではなく既存の電源を用いることができる。仮に、3個の積層体20を電源に対して直列に接続して駆動すると、各積層体20に対する印加電圧が例えば10Vであれば、素子全体の駆動電圧は30Vにもなる。この場合は、既存の駆動回路は使用できないために、高圧用の駆動回路が必要となってくる。即ち、駆動回路側に大幅な改変を余儀なくされる。また、高圧用の駆動回路はかなり高価なため、この素子を用いた装置のコストは大幅に上昇してしまう。一方、本実施形態の有機EL素子1のように、積層体20を並列接続する場合には、積層体20に対する印加電圧が例えば10Vであれば、素子全体の駆動電圧も10Vに収まるために上記のような問題は生じず、各種装置に対して広く適用可能である。
【0055】
<1−2:ボトムエミッション型有機EL素子>
図2において、有機EL素子2は、素子基板10の下面側から光を取り出すボトムエミッション型の発光素子である。この場合、積層体20は、素子基板10に面した下面側が光出射側となるために、素子基板10上に、有機EL素子1の場合とは上下方向に逆の順序で各層が積層されている。ここで陰極11bは、有機EL素子2を構成する各層の最上層にあたる陰極である。また、素子基板10は、光出射側に配置されているために、ガラス基板や樹脂製のフィルム基板等の透明基板とされる。
【0056】
この有機EL素子2においても、積層体20が素子基板10上に複数個積層されており、しかも各積層体20が電源50に対して並列に接続されていることから、有機EL素子1と同様の作用及び効果を奏する。
【0057】
<1−3:両面発光型有機EL素子>
図3において、有機EL素子3は、有機EL素子1とほぼ同様に構成されている。但し、この場合は、素子基板10の直上に、素子基板10側に透過する光を反射させるために配置される陰極11aの代わりに、透明導電材料からなる陰極21が形成されている。そのため、有機EL素子3は、素子基板10の両面から同時に光を取り出すことができる。
【0058】
有機EL素子3は、上記以外の構成は有機EL素子1と同様であり、有機EL素子1と同様の作用及び効果を奏する。
【0059】
<2:有機EL素子の製造方法>
次に、図4及び図5を更に参照し、本実施形態に係る有機EL素子の製造方法について説明する。図4は、本実施形態に係る製造方法に適用される成膜装置の概略構成を示している。図5は、本実施形態に係る有機EL素子の製造方法を表すフローチャートである。尚、以下では、代表的に“ボトムエミッション型”の有機EL素子2を製造する場合について説明するが、その他の態様の素子もほぼ同様の方法で製造することができる。
【0060】
<2−1:成膜装置>
具体的な製造工程を説明する前に、本実施形態に係る成膜装置200の構成について説明する。
【0061】
図4において、成膜装置200は、真空蒸着装置201と、イオンプレーティング装置202と、真空蒸着装置201とイオンプレーティング装置202との間を接続し、両装置間で素子基板10を搬送する真空搬送室203とから概略構成されている。真空蒸着装置201と真空搬送室203との接合部、及びイオンプレーティング装置202と真空搬送室203との接合部には、それぞれ真空ゲート204a、204bが配置されている。
【0062】
真空蒸着装置201は、成膜材料210を載置する台部211と、成膜材料210を加熱蒸発させるヒーターなどの加熱装置212とが、装置底部に配置されている。一方、台部211と対向する位置に、図示しない基板保持部が配置され、素子基板10が基板保持部に搬送され配置されている。また、台部211と素子基板10との間には、蒸発した成膜材料210が素子基板10に到達する経路を遮断する、開閉可能なシャッター213が配置されている。
【0063】
また、真空蒸着装置201は、真空ゲート220aと排気ポンプ220bから構成される排気装置220により気体が吸引排気されることにより、内部の真空度が保たれるように構成されている。
【0064】
イオンプレーティング装置202は、プラズマ生成部250、成膜を行う成膜部260、電子注入層15まで積層された素子基板10を搬送する基板搬送部270、及び成膜部260内の気体を排気する排気装置280とから概略構成されている。
【0065】
プラズマ生成部250は、直流電源251、磁場発生コイル252及び放電陽極253を備え、導入されるアルゴンガスをプラズマ化して成膜材料261へと導入する機能を有している。成膜部260には、ITO等の成膜材料261を載置する台部262と、雰囲気ガスを供給するガス供給部263とが配置され、台部262と対向する位置に素子基板10が配置される。
【0066】
また、イオンプレーティング装置202は、真空ゲート280aと排気ポンプ280bから構成される排気装置280により気体が吸引排気されることにより、内部の真空度が保たれるように構成されている。尚、このイオンプレーティング装置202は、プラズマ発生領域の外部に素子基板10を配置する形態のものであり、後述するように、透明導電層たる陰極21の成膜時に素子基板10がプラズマに直接曝されないため、下層の有機層23や電子注入層22に損傷を与えることなく、高輝度で信頼性の高い有機EL素子を得ることができる。
【0067】
真空搬送室203には、真空ゲート230aと排気ポンプ230bから構成される排気装置230が付設されており、気体を排気して内部の真空度を保つことが可能に構成されている。
【0068】
<2−2:製造工程>
次に、成膜装置200を用いた有機EL素子2の各製造工程を具体的に説明する。
【0069】
図5のフローチャートにおいて、先ずイオンプレーティング装置202を用いて、素子基板10の一面上に、透明導電層たる陽極24を成膜する(ステップS11)。即ち、台部262と対向する位置に素子基板10を配置し、プラズマ生成部250で生成されたアルゴンプラズマを導入することで、ITO等の成膜材料261を蒸発させ、素子基板10の上に堆積させる。
【0070】
次に、陽極24上に、有機層23を形成する(ステップS12)。有機層23は、例えば正孔注入/輸送層、発光層を含んで構成され、各層の材料に応じて真空蒸着或いはスピンコート法やインクジェット法などの塗布法により形成することができる。そのため、有機層23の形成前に、素子基板10は、イオンプレーティング装置202から真空蒸着装置201へと真空搬送室203を通じて搬送される。或いは、塗布法により有機層23を形成する場合は、素子基板10は成膜装置200内から一旦取り出される。
【0071】
有機層23として形成される正孔注入/輸送層は、例えば、インクジェット装置により正孔注入/輸送層形成材料を含む組成物を液滴吐出し、乾燥処理及び熱処理を行うことによって形成される。
【0072】
発光層の形成は、例えば、表面改質工程、発光層形成材料吐出工程及び乾燥工程からなる。表面改質工程は、発光層形成の際に用いる組成物の非極性溶媒と同一の溶媒またはこれに類する溶媒である表面改質材を、インクジェット法、スピンコート法またはディップ法により正孔注入/輸送層上に塗布した後に乾燥することにより行う。表面改質材としては、組成物の非極性溶媒同一なものとして例えば、シクロヘキシルベンゼン、ジハイドロベンゾフラン、トリメチルベンゼン、テトラメチルベンゼン等が採用でき、組成物の非極性溶媒に類するものとして例えば、トルエン、キシレン等を採用できる。発光層形成材料吐出工程は、インクジェット法により、発光層形成材料を含む組成物を、正孔注入/輸送層上に吐出する。その後、乾燥処理して、組成物に含まれる非極性溶媒を蒸発させ、発光層形成材料を析出させて、発光層を形成する。尚、このような有機層23の形成は、水蒸気及び酸素の無い雰囲気下で行うことが好ましく、窒素やアルゴン等の不活性ガス雰囲気下で作業を行うことが好ましい。
【0073】
有機層23の形成後、成膜装置200外にある素子基板10を、真空蒸着装置201内に搬送し、所定位置に配置しておく。
【0074】
次に、真空蒸着装置201を用いて、有機層23上に、電子注入層22を形成する(ステップS13)。真空蒸着装置201内は、排気装置220により所定の真空状態に保たれている。台部211に載置した成膜材料210は、加熱装置212により加熱されて蒸発し、有機層23上に堆積される。形成される電子注入層22の厚さは、シャッター213を閉じ、蒸発した成膜材料210が素子基板10に到達する経路を遮断することで調節できる。
【0075】
ここで、図5において、積層体20はn個(但し、nは2以上の自然数)積層されるものとし、この時点で途中まで形成された積層体20がY番目であるとする(即ち、現時点ではY=1)。後述するように、ここで説明する一連の工程は、積層体20に対応して複数回繰り返される。その際に、最上部の積層体20の形成に着手するまでは(ステップS14:N)、これ以降に説明するように陰極21と透明絶縁層30とが形成される(ステップS14:Y)。
【0076】
次に、電子注入層22まで形成された素子基板10を、真空蒸着装置201からイオンプレーティング装置202へと搬送する(ステップS15)。具体的には、予め真空搬送室203内の気体を、真空ゲート230aと排気ポンプ230bから構成される排気装置230により排気し、真空搬送室203内を真空蒸着装置201と同様の真空状態としておく。電子注入層22の形成終了後、真空ゲート204aを開け、素子基板10を真空蒸着装置201から真空搬送室203へ搬送し、真空ゲート204aを閉じる。この時、イオンプレーティング装置202内も排気装置280により排気し、同様の真空状態としておく。続いて、真空ゲート204bを開け、素子基板10を真空搬送室203からイオンプレーティング装置202へ搬送し、真空ゲート204bを閉じる。
【0077】
こうすることによって、真空蒸着法による電子注入層22の形成後、所定の真空状態を保持したまま、次の工程である陰極21の形成工程に移行することができる。このため、電子注入層22表面の酸化、並びに、他の不要なガス等の吸着を防止することが可能となる。
【0078】
次に、イオンプレーティング装置202を用いて、電子注入層22上に透明導電層たる陰極21を形成する(ステップS16)。例えば、陰極21は、以下のように上層と下層とに分けて形成することができる。先ず、電子注入層22上に、ITOからなる下層を成膜する。この場合、台部262上に成膜材料261としてITOを載置し、酸素を含まないアルゴンガス雰囲気下でITOを電子注入層22の全面に堆積させ、下層を成膜する。アルゴンガスはプラズマ生成部250に導入され、直流電源251によりアルゴンプラズマとされて、磁場発生コイル252及び放電陽極253により台部262の成膜材料261へ導入される。ITOはアルゴンプラズマに加熱されて蒸発する。蒸発したITOはアルゴンガス雰囲気の中、電子注入層22上に堆積する。
【0079】
尚、ここでは、下層を堆積させる時には成膜材料261と素子基板10との間にはバイアスをかけないようにしている。そのために、蒸発した成膜材料261は加速されることなく堆積される。成膜材料が加速されないことで、成膜材料が堆積した膜、及びその下地となる電子注入層22等に対して与えるダメージを抑えることができる。
【0080】
下層の成膜が終了すると、引き続き、成膜部260に酸素を導入して上層を成膜する。酸素ガスは、ガス供給部263から内部に導入され、酸素を含んだアルゴンガス雰囲気を作り出す。蒸発したITOは酸素ガスと結びつき、酸素を多く含んだ低抵抗、高透過率の上層が形成される。こうして、陰極21が形成される。
【0081】
以上の工程により、素子基板10の一面上に、最初の積層体20が完成される。
【0082】
次に、引き続きイオンプレーティング装置202を用い、陰極21上に透明絶縁層30を形成する(ステップS17)。この透明絶縁層30は、成膜材料261としてSiO2、SiNX、AlO2等の透明絶縁材料を用いる他は、陰極21と同様にして形成される。
【0083】
その後、以上と同様にして、積層体20の形成工程、及び透明絶縁層30の形成工程を繰り返す。このとき、陰極21、透明絶縁層30及び陽極24が順次形成される際には、これらの各層はイオンプレーティング装置202を用いて連続的に形成されるので、成膜スループットを向上させることができる。
【0084】
そして、n番目、つまり最上部の積層体20(即ち、Y=n)の形成工程においては、陽極24、有機層23及び電子注入層22までを前述の通りに形成した時点で、陰極11bの形成工程に移行する(ステップS14:N)。図2に示した有機EL素子2の場合は、積層体20は3個積層されているので、上記一連の工程を2度繰り返し、最上部の積層体20(即ち、Y=3)の形成工程では陰極21に代えて陰極11bを形成する。
【0085】
即ち、有機EL素子2の最上層として、蒸着装置201を用いて、電子注入層22上に陰極11bを形成する(ステップS18)。よって、陰極11bは、電子注入層22に引き続いて連続的に蒸着することが可能である。この場合の成膜材料210には、例えば、アルミニウム(Al)を含む金属材料、又はカルシウム(Ca)、フッ化リチウム(LiF)、フッ化ストロンチウム(SrF2)、マグネシウム(Mg)、銀(Ag)等のうち少なくとも一つを含む金属材料が用いられる。
【0086】
以上の工程により、図2に示した有機EL装置2が得られる。
【0087】
尚、上記陰極11bの形成工程に続いて、陰極11b上に酸化窒化シリコン等からなる封止膜を、イオンプレーティング装置202により形成してもよい。具体的には、先ず、成膜部260内の気体を排気装置280により排気する。続いて成膜部260に窒素ガスなどの雰囲気ガスをガス供給部263から導入する。また、成膜材料261をITOから酸化シリコンに交換する。
【0088】
アルゴンガスはプラズマ生成部250に導入され、直流電源251によりアルゴンプラズマとされて、磁場発生コイル252及び放電陽極253により台部262の成膜材料261へ導入される。酸化シリコンはアルゴンプラズマに加熱されて蒸発する。蒸発した酸化シリコン粒子はアルゴンプラズマによりイオン化され、活性度の高い状態となって陰極11b表面に入射する。陰極11b上に堆積した酸化シリコンは、雰囲気ガス中の窒素ガスと反応して酸化窒化シリコンとなり、緻密で均一な封止膜を形成することができる。
【0089】
以上説明したように、本実施形態における有機EL装置の製造方法によれば、透明な電極層たる陽極24及び陰極21、更に透明絶縁層30をイオンプレーティング装置202により形成するようにしたので、電子注入層22や有機層23に損傷を与えることがなく、損傷に起因する非発光点の出現が防止され、高輝度で信頼性の高い有機EL素子2を得ることが可能となる。とりわけ、本イオンプレーティング装置202は、プラズマ発生領域の外部に素子基板10を配置する構造をしているために、素子基板10がプラズマに直接曝されないため、発光層や電子注入層の損傷が殆ど或いは実践上全くない。
【0090】
また、これら陽極24及び陰極21、透明絶縁層30は、同一のイオンプレーティング装置202で形成されることから、3つの膜形成工程を連続して行うことができ、基板の搬送などの工程を削減でき、成膜スループットを向上させることができる。
【0091】
更に、真空蒸着装置201により電子注入層22を形成した後、素子基板10を真空雰囲気下に置いて搬送し、次工程であるイオンプレーティング装置202による陰極21の形成に移行するようにしたので、電子注入層22の酸化を防止することができる。従って、電子注入層22の特性が劣化せず、ひいては良好な特性を有する有機EL素子2を製造することが可能となる。
【0092】
<3:有機EL装置>
次に、図6から図8を参照して、上記実施形態の有機EL素子を備えた有機EL装置に係る実施形態について説明する。尚、以下では、図2のような“ボトムエミッション型”の有機EL素子2aを備えた場合を例にとり、具体的に説明する。但し、ここでは説明の簡便のために、有機EL素子2aは積層体20が2個積層された構成とする。
【0093】
<3−1:有機EL装置の全体構成>
図6を参照して有機EL装置の全体構成について説明する。図6は、素子基板10を封止基板の側から見た有機EL装置の概略的な平面図である。ここでは、駆動回路内蔵型のアクティブマトリクス駆動方式の有機EL装置を例にとる。
【0094】
図6において、素子基板10上の画像表示領域110には、複数の画素駆動用信号線116aが配線されると共に、夫々画素駆動用信号線116aに電気的に接続される複数の画素部が所定パターンで配列されている。複数の画素部は夫々有機EL素子2aを含んでいる。尚、図6中、画像表示領域110における画素駆動用信号線116aや画素部の具体的な構成については図示を省略し、その詳細については後述する。
【0095】
画像表示領域110の周辺に位置する周辺領域には、画像表示領域110を挟んで対向する素子基板10の2辺に沿って、Y側駆動回路部132が設けられると共に、この2辺に隣接する一辺に沿ってX側駆動回路部152が設けられている。複数の画素駆動用信号線116aは、Y側駆動回路部132及びX側駆動回路部152に電気的に接続されている。図6には、複数の画素駆動用信号線116aのうち、X側駆動回路部152と電気的に接続される画素駆動用信号線116aについて、画像表示領域110の一辺からX側駆動回路部152に延びて配線される一部分について示してある。
【0096】
更に、X側駆動回路部152が設けられた素子基板10の一辺に沿って、複数の実装端子102が設けられている。これらの実装端子102には、例えばTAB(Tape Automated Bonding)方式やCOG(Chip On Grass)方式により配線基材300が実装される。配線基材300には、走査線駆動回路やデータ線駆動回路を駆動するための各種信号を供給する外部回路が形成されている。
【0097】
Y側駆動回路部132には、走査線駆動回路が設けられると共に、例えば画素駆動用信号線116aと走査線駆動回路内の回路素子等とを電気的に接続するための配線や、走査線駆動回路を駆動するための各種信号の供給経路となる配線等が設けられる。X側駆動回路部152には、データ線駆動回路が設けられると共に、例えば画素駆動用信号線116aとデータ線駆動回路内の回路素子等とを電気的に接続するための配線や、データ線駆動回路を駆動するための各種信号の供給経路となる配線等が設けられる。配線116bは、X側駆動回路部152を介して入出力信号線118に電気的に接続されている。
【0098】
入出力信号線118は、外部回路に入出力される信号の種類に対応して、複数種類設けられる。例えば、複数の入出力信号線118には、以下のような画素駆動用電源線118aや駆動回路用信号線が設けられる。画素駆動用電源線118aには、外部回路から画素駆動用電源が供給される。画素駆動用電源線118aの一端側は、X側駆動回路部152又はY側駆動回路部132を介して、画素駆動用信号線116aとしての電源供給線に電気的に接続される。また、駆動回路用信号線には、外部回路から走査線駆動回路やデータ線駆動回路を駆動するための駆動回路用信号が供給される。このような駆動回路用信号線には、例えば、図6に示すように、駆動回路用信号として、走査線駆動回路やデータ線駆動回路の電源となる駆動回路用電源が供給される駆動回路用電源線118bが含まれる。
【0099】
<3−2:画素部の構成>
次に、図6に加え、図7及び図8を参照して、有機EL装置の画像表示領域110における画素部の構成について具体的に説明する。図7は、有機EL装置の全体構成を示すブロック図であり、図8は、データ線、走査線、有機EL素子等が形成された素子基板上の任意の画素部の断面図である。
【0100】
先ず、図7を参照して、有機EL装置の画像表示領域110の電気的な構成について説明する。
【0101】
画像表示領域110には、図6の画素駆動用信号線116aに相当するデータ線114及び走査線112が縦横に延設され、それらの交点に対応する各画素部70はマトリクス状に配列されている。更に、画像表示領域110には、各データ線114に対して配列された画素部70に対応する電源供給線117が延在している。電源供給線117もまた、図6の画素駆動用信号線116aに相当する。
【0102】
尚、本実施形態では、カラー表示を行うために、画像表示領域110には例えば、R用、G用及びB用の3種の画素部70が設けられると共に、3種の画素部70に対応する3種のデータ線114及び3種の電源供給線117が設けられる。図7において、例えば隣接する3本のデータ線114毎に3種の画素部70が設けられる。3本のデータ線114のうち、いずれか1本のデータ線114には、3種のうちいずれか1種の画素部70が配列される。また、このように配列された画素部70には、対応する種類の電源供給線117が電気的に接続される。
【0103】
前述したように、素子基板10上の周辺領域には、走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150が設けられている。走査線駆動回路130及びデータ線駆動回路150は、図6における実装端子102及び入出力信号線118としての駆動回路用信号線を介して、外部回路から供給される駆動回路用信号に基づいて駆動される。そして、走査線駆動回路130は、複数の走査線112に走査信号を順次供給する。また、データ線駆動回路150は、画像表示領域110に配線された3種のデータ線114に、R用、G用及びB用の3種の画像信号を供給する。尚、2種の走査線駆動回路130の動作と、データ線駆動回路150の動作とは、外部回路から供給される同期信号160によって相互に同期が図られる。
【0104】
また、周辺領域には、3種の電源供給線117に対応して3種の画素駆動用電源線118aが設けられる。3種の電源供給線117には夫々、外部回路から実装端子102及び対応する画素駆動用電源線118aを介して画素駆動用電源が供給される。
【0105】
ここで、図7中、一つの画素部70に着目すれば、画素部70には、有機EL素子2aが設けられると共に、例えばTFTを用いて構成されるスイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74、並びに保持容量78が設けられている。画素部70において、各トランジスタは、例えば、薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor;以下適宜、“TFT”と称する)等により構成される。
【0106】
スイッチング用トランジスタ76のゲート電極には走査線112が電気的に接続されており、スイッチング用トランジスタ76のソース電極にはデータ線114が電気的に接続され、スイッチング用トランジスタ76のドレイン電極には駆動用トランジスタ74のゲート電極が電気的に接続されている。また、駆動用トランジスタ74のソース電極には、電源供給線117が電気的に接続されており、駆動用トランジスタ74のドレイン電極には有機EL素子2aを構成する各積層体20の陽極が電気的に接続されている。ここでは、各積層体20は、駆動用トランジスタ74を介して電源供給線117に対して並列に接続されている。
【0107】
尚、このような有機EL装置では、図7に例示した画素回路の構成の他にも、電流プログラム方式の画素回路、電圧プログラム型の画素回路、電圧比較方式の画素回路、サブフレーム方式の画素回路等の各種方式の画素回路を採用することが可能である。
【0108】
次に、図8を参照して、画素部70の更に詳細な構成について説明する。
【0109】
例えば透明樹脂やガラス基板等の透明基板を用いて構成される素子基板10上には、スイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74の半導体層3が形成されている。半導体層3は例えば低温ポリシリコン膜を用いて形成されている。また、半導体層3上には、半導体層3を埋め込むようにスイッチング用トランジスタ76及び駆動用トランジスタ74のゲート絶縁層2が形成されている。そして、ゲート絶縁層2上に、駆動用トランジスタ74のゲート電極3a及び走査線112(ここでは図示せず)が同一膜として形成されている。ゲート電極3a及び走査線112は、Al(アルミニウム)、W(タングステン)、Ta(タンタル)、Mo(モリブデン)、Ti(チタン)、銅(Cu)等のうち少なくとも一つを含む金属材料を用いて形成されている。
【0110】
また、走査線112や駆動用トランジスタ74のゲート電極3aを埋め込むように、ゲート絶縁層2上には層間絶縁層41が形成されている。層間絶縁層41及びゲート絶縁層2は例えばシリコン酸化膜から構成されている。
【0111】
層間絶縁層41上には、電源供給線117、駆動用トランジスタ74のドレイン電極42、及びデータ線114(ここでは図示せず)が同一膜として形成されている。これらは、例えばアルミニウム(Al)又はITO(Indium Tin Oxide)を含む導電材料から夫々構成される。層間絶縁層41には、層間絶縁層41及びゲート絶縁層2を貫通して、駆動用トランジスタ74の半導体層3に至るコンタクトホール501及び502が形成されている。図8に示すように、電源供給線117及びドレイン電極42を構成する導電膜は、コンタクトホール501及び502の各々の内壁に沿って半導体層3の表面に至るように連続的に形成されている。
【0112】
層間絶縁層41上には、電源供給線117及びドレイン電極42を埋め込むように、保護層45として例えばシリコン窒化膜(SiN)が形成されている。保護層45上には、絶縁層46及び47が構成するバンクの間に、画素部70における開口領域が形成されている。この開口領域には、有機EL素子2aが形成されている。その製造手順は、前述した製造方法に準じている。
【0113】
絶縁層46からなるバンクの間には、保護層45を下地として陽極24、有機層23、電子注入層22及び陰極21がこの順に積層されている。陽極24は、透明性導電材料としてITOを用いて、開口領域から延びてドレイン電極42の一部と重畳するように形成されている。陽極24上には、有機層23が形成されている。そのうち、発光層の発光材料は、有機EL素子2aのR、G及びBの別に応じて選定される。陰極21は、透明性導電材料を用いて形成されており、開口領域外に引き出されて接地されている。
【0114】
その上層側には、透明絶縁層30が一面に形成され、絶縁層47からなるバンクの間には、透明絶縁層30を下地として陽極24、有機層23、電子注入層22及び陰極11bがこの順に積層されている。陽極24は、開口領域から延びてコンタクトホールを介してドレイン電極42の一部と重畳するように形成されている。また、この上側の有機層23の発光材料は、下側の有機層23と同一材料が用いられている。陰極11bは開口領域外に引き出され、接地されている。尚、図7には、封止基板について図示を省略してある。
【0115】
<3−3:有機EL装置の動作>
有機EL装置の駆動時、走査線112を介して走査信号が供給されることにより、スイッチング用トランジスタ76がオン状態になる。よって、データ線114から供給される画像信号は、駆動用トランジスタ74のゲートに印加されると共に、保持容量78に書き込まれる。このとき、駆動用トランジスタ74はオン状態となり、電源供給線117から駆動電流が、駆動用トランジスタ74を介して有機EL素子2aに印加される。その際、駆動用トランジスタ74のゲート電圧は、保持容量78に書き込まれた画像信号により固定されるために、有機EL素子2a側には、画像信号に応じた一定の電流が流れる。
【0116】
ここでは、有機EL素子2aの2つの積層体20が、ドレイン電極42に対して並列に接続されているために、各積層体20には同じ値の電流が流れ、同様に発光する。
【0117】
発光層で生じた光は、素子基板10側(図8中、矢印Xの方向)に取り出される。このとき、積層された2つの積層体20が同時に発光しているために、発光効率は単純に2倍になり、高輝度化される。
【0118】
逆に、本実施形態における有機EL素子2aは、駆動電流を小さくしても従来と同等の輝度を得ることができ、電流の減少分だけ、素子の寿命を延ばすことができる。或いは、低消費電力化にも寄与する。
【0119】
<3−4:有機EL装置の第2実施形態>
次に、図9を参照して、本発明の有機EL装置の他の実施形態について説明する。図9は、第2実施形態に係る有機EL装置の画素部の構成を概念的に表している。
【0120】
図9において、画素部内の有機EL素子2bは、有機EL素子2と同様の“ボトムエミッション型”であり、積層された3個の積層体20は電源50に対して並列に接続されている。有機EL素子2bを含んだ画素部の具体的構成は、積層体20の個数が異なることを除けば、概ね図7及び図8に示したように構成される。
【0121】
並列に接続された積層体20は、夫々独立した電流経路を有しているために、原理的に、互いに独立に駆動させることができる。そこで、本実施形態の有機EL装置では、3個の積層体20の夫々の陽極と電源50との間にスイッチング素子51、52及び53を設け、積層体20を夫々独立して駆動制御されるように構成されている。スイッチング素子51〜53は、例えば駆動用トランジスタ74のようなTFTであってよい。この場合、発光時間や駆動電流量等の兼ね合いによって積層体20を連動させるように駆動すれば、素子の寿命を延ばすのに寄与する。
【0122】
更に、これら3個の積層体20の夫々を、R、G及びBの各色に発光するようにすれば、1絵素を一つの画素で表現することが可能となる。即ち、有機EL素子2bは、図9に示したように、有機層23に夫々R、G及びBの発光材料を用いた積層体20R、20G及び20Bによって構成される。この場合の有機EL装置では、画素の高精細化が可能である。
【0123】
尚、以上の実施形態では、ボトムエミッション型の有機EL装置について説明したが、本発明の有機EL装置は、封止基板側から表示光として有機EL素子1(図1を参照)の発光を出射させるトップエミッション型として構成されてもよい。
【0124】
<4:電子機器>
次に、図10及び図11を参照して、上記実施形態の有機EL装置が適用された電子機器について説明する。
【0125】
<4−1:モバイル型コンピュータ>
先ず、上述した有機EL装置を、モバイル型のパーソナルコンピュータに適用した例について説明する。図10は、このパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。図10において、コンピュータ1200は、キーボード1202を備えた本体部1204と、有機EL装置を用いて構成された表示ユニット1206とを備えている。
【0126】
<4−2:携帯電話>
さらに、この有機EL装置を、携帯電話に適用した例について説明する。図11は、この携帯電話の構成を示す斜視図である。図11において、携帯電話1300は、複数の操作ボタン1302とともに有機EL装置を備えるものである。
【0127】
この他にも、上記実施形態に係る有機EL装置は、ノート型のパーソナルコンピュータ、PDA、テレビ、ビューファインダ、モニタ直視型のビデオテープレコーダ、カーナビゲーション装置、ページャ、電子手帳、電卓、ワードプロセッサ、ワークステーション、POS端末、タッチパネル、プリンタを備えた装置等に適用することができる。
【0128】
本発明は、上述した実施形態に限られるものではなく、請求の範囲及び明細書全体から読み取れる発明の要旨、あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う有機EL素子、及びこれを備えた有機EL装置もまた、本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【図面の簡単な説明】
【0129】
【図1】本発明の実施形態に係る有機EL素子の第1の基本構成を示す断面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る有機EL素子の第2の基本構成を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る有機EL素子の第3の基本構成を示す断面図である。
【図4】実施形態に係る有機EL素子の製造に用いられる成膜装置の構成を概略的に表す断面図である。
【図5】実施形態に係る有機EL素子の製造手順を表すフローチャートである。
【図6】素子基板を封止基板の側から見た有機EL装置の概略的な平面図である。
【図7】有機EL装置の全体構成を示すブロック図である。
【図8】データ線、走査線、陽極や発光層等が形成された素子基板の任意の画素部の断面図である。
【図9】第2実施形態に係る有機EL装置の画素部の構成を概略的に表す断面図である。
【図10】有機EL装置を適用した電子機器の一例たるパーソナルコンピュータの構成を示す斜視図である。
【図11】有機EL装置を適用した電子機器の一例たる携帯電話の構成を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0130】
1、2、3…有機EL素子、10…素子基板、11a、11b…(金属)陰極、20…積層体、21…(透明)陰極、22…電子注入層、23…有機層、24…陽極、30…透明絶縁層、50…電源、70…画素部、200…成膜装置、201…真空蒸着装置、202…イオンプレーティング装置、203…搬送装置。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の一方の面に積層されており、少なくとも一方が透明な一対の電極層と該一対の電極層間に挟持された有機層とを含んで構成されたn個(但し、nは2以上の自然数)の積層体と、
前記n個の積層体の各間に夫々挿入された透明絶縁層と
を備えたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記透明な電極層及び前記透明絶縁層は夫々、イオンプレーティング法により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記n個の積層体において前記一方の面上で最下層となる前記電極層は金属膜からなり、該金属膜以外の前記電極層は透明導電膜からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記n個の積層体において前記一方の面上で最上層となる前記電極層は金属膜からなり、該金属膜以外の前記電極層は透明導電膜からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記n個の積層体は夫々、前記一対の電極層間に、前記有機層に電子を注入するための電子注入層を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の有機EL素子と、
一端側において前記n個の積層体の夫々における前記一対の電極層の一方と電気的に接続されると共に、他端側は前記n個の積層体の夫々を駆動するための電源と電気的に接続される電源供給用配線と、
前記n個の積層体の夫々における前記一対の電極層の他方と電気的に接続される電極用配線と
を備え、
前記電源供給用配線及び前記電極用配線により前記n個の積層体の夫々が電気的に前記電源に対して並列に接続されるように構成されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項7】
前記有機EL素子は、前記有機層における発光色が夫々R(赤)、G(緑)及びB(青)に対応する3個の前記積層体が積層されてなり、
前記3個の積層体の夫々が独立して駆動されるように、前記電源供給用配線上に前記3個の積層体の夫々に対応して設けられたスイッチング素子を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の有機EL装置。
【請求項8】
基板の一方の面に積層されており、少なくとも一方が透明な一対の電極層と該一対の電極層間に挟持された有機層とを含んで構成されたn個(但し、nは2以上の自然数)の積層体と、前記n個の積層体の各間に夫々挿入された透明絶縁層とを備えた有機EL素子を製造するための有機EL素子の製造方法であって、
前記一対の電極層の少なくとも一方である透明な電極層をイオンプレーティング法により透明導電膜として形成する導電層形成工程と、前記有機層を形成する有機層形成工程とを含んで前記積層体を前記一方の面上に形成し、n回繰り返される積層工程と、
前記積層工程の後に、前記透明絶縁層をイオンプレーティング法により前記積層体上に形成する絶縁層形成工程と
を含むことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
少なくとも一部の工程を、真空蒸着装置とイオンプレーティング装置とが共に密閉空間を構成可能なように真空搬送室を介して連結されてなる成膜装置を用いて実行し、
前記導電層形成工程及び前記絶縁層形成工程を前記イオンプレーティング装置において実行する
ことを特徴とする請求項8に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記n個の積層体の夫々を、前記一対の電極層間に、前記有機層に電子を注入するための電子注入層を含むように形成する場合に、
前記積層工程は、
前記真空蒸着装置において前記電子注入層を真空蒸着法により形成する電子注入層形成工程と、
前記電子注入層形成工程の後且つ前記導電層形成工程の前に、前記真空搬送室を通じて前記基板を前記真空蒸着装置から前記イオンプレーティング装置へ搬送する搬送工程と
を更に含むことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項1】
基板の一方の面に積層されており、少なくとも一方が透明な一対の電極層と該一対の電極層間に挟持された有機層とを含んで構成されたn個(但し、nは2以上の自然数)の積層体と、
前記n個の積層体の各間に夫々挿入された透明絶縁層と
を備えたことを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記透明な電極層及び前記透明絶縁層は夫々、イオンプレーティング法により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL素子。
【請求項3】
前記n個の積層体において前記一方の面上で最下層となる前記電極層は金属膜からなり、該金属膜以外の前記電極層は透明導電膜からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL素子。
【請求項4】
前記n個の積層体において前記一方の面上で最上層となる前記電極層は金属膜からなり、該金属膜以外の前記電極層は透明導電膜からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL素子。
【請求項5】
前記n個の積層体は夫々、前記一対の電極層間に、前記有機層に電子を注入するための電子注入層を含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の有機EL素子。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか一項に記載の有機EL素子と、
一端側において前記n個の積層体の夫々における前記一対の電極層の一方と電気的に接続されると共に、他端側は前記n個の積層体の夫々を駆動するための電源と電気的に接続される電源供給用配線と、
前記n個の積層体の夫々における前記一対の電極層の他方と電気的に接続される電極用配線と
を備え、
前記電源供給用配線及び前記電極用配線により前記n個の積層体の夫々が電気的に前記電源に対して並列に接続されるように構成されていることを特徴とする有機EL装置。
【請求項7】
前記有機EL素子は、前記有機層における発光色が夫々R(赤)、G(緑)及びB(青)に対応する3個の前記積層体が積層されてなり、
前記3個の積層体の夫々が独立して駆動されるように、前記電源供給用配線上に前記3個の積層体の夫々に対応して設けられたスイッチング素子を更に備えることを特徴とする請求項6に記載の有機EL装置。
【請求項8】
基板の一方の面に積層されており、少なくとも一方が透明な一対の電極層と該一対の電極層間に挟持された有機層とを含んで構成されたn個(但し、nは2以上の自然数)の積層体と、前記n個の積層体の各間に夫々挿入された透明絶縁層とを備えた有機EL素子を製造するための有機EL素子の製造方法であって、
前記一対の電極層の少なくとも一方である透明な電極層をイオンプレーティング法により透明導電膜として形成する導電層形成工程と、前記有機層を形成する有機層形成工程とを含んで前記積層体を前記一方の面上に形成し、n回繰り返される積層工程と、
前記積層工程の後に、前記透明絶縁層をイオンプレーティング法により前記積層体上に形成する絶縁層形成工程と
を含むことを特徴とする有機EL素子の製造方法。
【請求項9】
少なくとも一部の工程を、真空蒸着装置とイオンプレーティング装置とが共に密閉空間を構成可能なように真空搬送室を介して連結されてなる成膜装置を用いて実行し、
前記導電層形成工程及び前記絶縁層形成工程を前記イオンプレーティング装置において実行する
ことを特徴とする請求項8に記載の有機EL素子の製造方法。
【請求項10】
前記n個の積層体の夫々を、前記一対の電極層間に、前記有機層に電子を注入するための電子注入層を含むように形成する場合に、
前記積層工程は、
前記真空蒸着装置において前記電子注入層を真空蒸着法により形成する電子注入層形成工程と、
前記電子注入層形成工程の後且つ前記導電層形成工程の前に、前記真空搬送室を通じて前記基板を前記真空蒸着装置から前記イオンプレーティング装置へ搬送する搬送工程と
を更に含むことを特徴とする請求項9に記載の有機EL素子の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−114452(P2006−114452A)
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−303323(P2004−303323)
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年4月27日(2006.4.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月18日(2004.10.18)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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