説明

有機EL素子及びその製造方法

【課題】高発光効率且つ色純度の良好な有機EL素子及びその製造方法を提供する。
【解決手段】基板2と、基板2上に形成され且つ少なくとも第一電極4を含む複数の層を有する中間層10と、中間層10上に形成された発光媒体層8と、発光媒体層8上に形成された第二電極12を備える有機EL素子1であって、発光媒体層8は、異なる色毎にパターニングして形成された有機発光層30を含み、中間層10の膜厚dを、400[nm]以上900nm[nm]の範囲内とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子と、その製造方法に関するものであり、特に、有機薄膜のEL現象を利用した有機EL素子及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子は、陽極としての電極と、陰極としての電極との間に、少なくともEL現象を呈する有機発光層を挟持した構造を有しており、電極(陽極と陰極)間に電圧が印加されると、有機発光層に正孔と電子が注入され、この正孔と電子とが有機発光層で再結合することにより、有機発光層が発光する自発光型の素子である。
上記のような有機EL素子には、発光効率を増大させる等の目的から、陽極と有機発光層との間に、正孔注入層、正孔輸送層、または、有機発光層と陰極との間に、電子輸送層、電子注入層等が、適宜選択して設けられている。
上述した各層は、有機材料や無機材料を用いて形成されている。
【0003】
ここで、有機材料としては、低分子材料と高分子材料とがある。
低分子材料としては、例えば、正孔注入層に銅フタロシアニン(CuPc)、正孔輸送層にN,N’―ジフェニル―N,N’―ビス(3―メチルフェニル)―1,1’―ビフェニル―4,4’ジアミン(TPD)、有機発光層にトリス(8―キノリノール)アルミニウム(Alq3)、電子輸送層に2―(4―ビフェニリル)―5―(4―tert―ブチル―フェニル)―1,3,4,―オキサジゾール(PBD)、電子注入層にLiF等を用いたものが挙げられる。
【0004】
これらの低分子材料よりなる各層は、一般的に、0.1[nm]以上200[nm]以下の範囲内程度の膜厚で、主に、抵抗加熱方式等の真空蒸着法や、スパッタ法等の真空中の乾式法(ドライプロセス)によって成膜されている。
また、低分子系材料は種類が豊富であるため、その組み合わせによって、発光効率や発光輝度、寿命等の向上が期待されている。
【0005】
一方、高分子材料としては、例えば、有機発光層にポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に低分子の発光色素を溶解させたものや、ポリフェニレンビニレン誘導体(以下、「PPV」と記載する場合がある)、ポリアルキルフルオレン誘導体(以下、「PAF」と記載する場合がある)等の高分子蛍光体、希土類金属系等の高分子燐光体が用いられている。
【0006】
これらの高分子材料は、一般的に、溶剤に溶解または分散され、塗布や印刷等の湿式法(ウェットプロセス法)を用いて、1[nm]以上100[nm]以下の範囲内程度の膜厚で成膜されている。
上記のような湿式法を用いた場合、真空蒸着法等、真空中の乾式法を用いた場合と比較して、大気中で成膜が可能、設備が安価、大型化が容易、短時間に効率良く成膜可能である、等の利点がある。
【0007】
また、上記のような高分子材料を用いて成膜した有機薄膜は、結晶化や凝集が起こりにくく、さらには、他層のピンホールや異物を被覆するため、短絡やダークスポット等の不良を防ぐことが可能となるという利点もある。
そして、有機EL素子の発光効率や色純度を向上させるための技術として、例えば、特許文献1に記載されている技術を用いることにより、有機発光層から光取り出し方向へ向う光と、有機発光層から反射電極によって反射されてから取り出される光との干渉を引き起こす素子において、光を共振させる共振層を設けることで、高効率且つ視野角依存性の小さい発光素子が得られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特願2008−304607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に記載されている技術では、例えば、カラーディスプレイのように、青色、緑色、赤色の三色を同時に発光させる表示パネルにおいては、各色の特性を向上させるために、共振層の膜厚を色毎に最適化して設けることが可能だが、成膜工程が煩雑となるという問題がある。
本発明では、成膜工程を簡略化することが可能な、有機EL素子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のうち、請求項1に記載した発明は、基板と、当該基板上に形成され且つ少なくとも第一電極を含む複数の層を有する中間層と、当該中間層上に形成された発光媒体層と、当該発光媒体層上に形成された第二電極と、を備える有機EL素子であって、
前記発光媒体層は、異なる色毎にパターニングして形成された有機発光層を含み、
前記中間層の膜厚は、400nm以上900nm以下の範囲内であることを特徴とするものである。
【0011】
次に、本発明のうち、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した発明であって、前記中間層が有する各層の屈折率は、波長成分が550nmの条件下において、1.8以上2.3以下の範囲内であり、
前記各層間における屈折率差は、0.3以下であることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項3に記載した発明は、請求項1または請求項2に記載した発明であって、前記基板、前記中間層、前記発光媒体層及び前記第二電極から形成される多重膜干渉スペクトルの極大波長が、少なくとも三つ存在することを特徴とするものである。
【0012】
次に、本発明のうち、請求項4に記載した発明は、請求項3に記載した発明であって、前記極大波長は、第一波長、第二波長及び第三波長であり、
前記中間層の膜厚は、前記第一波長が480nm以下、前記第二波長が510nm以上610nm以下の範囲内、前記第三波長が650nm以上となるように設定されていることを特徴とするものである。
【0013】
次に、本発明のうち、請求項5に記載した発明は、請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載した発明であって、前記有機EL素子は、TFT層を用いたアクティブマトリックス駆動型の素子であり、
前記TFT層を構成する複数の層のうち少なくとも一層は、前記中間層が有する層であることを特徴とするものである。
次に、本発明のうち、請求項6に記載した発明は、請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載した有機EL素子を製造する有機EL素子の製造方法であって、
前記発光媒体層の形成方法として凸版印刷法を用いることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、中間層の膜厚を、適切な厚さとすることにより、多重膜干渉効果の制御を行うことが可能となるため、高発光効率且つ色純度の良好な有機EL素子の成膜工程を簡略化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第一実施形態における、有機EL素子の概略構成を示す断面図である。
【図2】多重膜干渉スペクトルの例を示す図である。
【図3】凸版印刷法に用いる凸版印刷装置の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態(以下、「本実施形態」と記載する)について、図面を参照しつつ、本実施形態に係る有機EL素子の構成と、有機EL素子の製造方法について説明する。
(構成)
まず、図1を用いて、本実施形態の有機EL素子1の構成を説明する。
図1は、本実施形態における有機EL素子1の概略構成を示す断面図である。
図1中に示すように、有機EL素子1は、基板2と、第一電極4と、隔壁6と、発光媒体層8と、中間層10と、第二電極12を備えている。
【0017】
なお、本実施形態では、一例として、有機EL素子1を、第一電極4を陽極とし、第二電極12を陰極としたアクティブマトリクス駆動型の有機EL素子とした場合について説明する。この場合、第一電極4は、画素ごとに隔壁6で区画された画素電極として形成され、第二電極12は、素子全面に形成した対向電極として形成される。
また、有機EL素子1の構成は、上記の構成に限定するものではなく、例えば、各電極(第一電極4、第二電極12)がそれぞれ直交するストライプ状とした、パッシプマトリクス駆動型の有機EL素子であってもよい。
また、第一電極4を陰極とし、第二電極12を陽極とした逆構造としてもよい。
【0018】
(基板2の詳細な構成)
以下、図1を参照して、基板2の詳細な構成について説明する。
なお、本実施形態では、基板2として、第一電極4が設けられたTFT基板を用いた場合を例に挙げて説明する。
本実施形態の有機EL素子1が備える基板2は、画素毎に設けられた薄膜トランジスタ(TFT層)と第一電極4(画素電極)が設けられている。
薄膜トランジスタと第一電極4とは、電気接続している。
【0019】
また、薄膜トランジスタは、支持体14上に設けられている。
支持体14としては、機械的強度及び絶縁性を有し、寸法安定性に優れていれば如何なる材料も使用することが可能である。
ここで、支持体14の材料としては、例えば、ガラスや石英、ポリプロピレン、ポリエーテルサルフォン、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマー、ポリアリレート、ポリアミド、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のプラスチックフィルムやシートを用いることが可能である。
【0020】
また、支持体14の材料としては、例えば、上記のプラスチックフィルムやシートに、酸化珪素、酸化アルミニウム等の金属酸化物や、弗化アルミニウム、弗化マグネシウム等の金属弗化物、窒化珪素、窒化アルミニウム等の金属窒化物、酸窒化珪素等の金属酸窒化物、アクリル樹脂やエポキシ樹脂、シリコン樹脂、ポリエステル樹脂等の高分子樹脂膜を単層もしくは積層させた透光性基材や、アルミニウムやステンレス等の金属箔、シート、板等を用いることが可能である。
【0021】
さらに、支持体14の材料としては、例えば、上記のプラスチックフィルムやシートにアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレス等の金属膜を積層させた非透光性基材等を用いることが可能である。
ここで、支持体14の透光性は、光の取出しをどちらの面から行うかに応じて選択すればよい。
上記の材料からなる支持体14は、有機EL素子1内への水分の侵入を避けるために、無機膜を形成したり、フッ素樹脂を塗布したりして、防湿処理や疎水性処理を施してあることが好適である。特に、発光媒体層8への水分の侵入を避けるために、支持体14における含水率及びガス透過係数を小さくすることが好適である。
薄膜トランジスタとしては、公知の薄膜トランジスタを用いることが可能である。
【0022】
具体的には、主として、ゲート電極16及びゲート絶縁膜18、チャネル領域が形成される活性層20、オーミックコンタクト層22、ドレイン電極24、ソース電極26から構成される薄膜トランジスタが挙げられる。
ここで、薄膜トランジスタの構造は、特に限定されるものではなく、例えば、スタガ型、逆スタガ型、トップゲート型、コプレーナ型等が挙げられる。
ゲート電極16としては、一般的にゲート電極として使用されているものを用いることが可能である。すなわち、ゲート電極16の材料としては、例えば、アルミ、銅等の金属(チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属)や、ポリシリコン、高融点金属のシリサイド、ポリサイド等が挙げられる。
【0023】
ゲート絶縁膜18としては、例えば、PECVD法、LPCVD法等により形成されたSiNx膜を用いることができる。この場合、例えば、このゲート絶縁膜18と、後述する誘電体層28の成膜工程を簡略化するために、同じ膜層で形成することが好適であるが、TFT層を構成するその他の層が、中間層10を構成する層と同じ膜層で形成されてもよい。
活性層20及びオーミックコンタクト層22の構成は、特に限定されるものではなく、例えば、非晶質シリコン、多結晶シリコン、微結晶シリコン、セレン化カドミウム等の無機半導体材料、または、チオフエンオリゴマー、ポリ(p−フェリレンビニレン)等の有機半導体材料により形成することが可能である。
【0024】
また、上記の活性層20及びオーミックコンタクト層22は、例えば、以下の(a)から(c)に記載する方法を用いて形成する。
(a)アモルファスシリコンをプラズマCVD法により積層し、イオンドーピングする方
法。具体的には、SiHガスを用いて、LPCVD法によりアモルファスシリコンを形成し、固相成長法によりアモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法。
(b)Siガスを用いたLPCVD法により、また、SiHガスを用いたPECVD法によりアモルファスシリコンを形成し、エキシマレーザー等のレーザーによりアニールし、さらに、アモルファスシリコンを結晶化してポリシリコンを得た後、イオンドーピング法によりイオンドーピングする方法(低温プロセス)。
【0025】
(c)減圧CVD法またはLPCVD法によりポリシリコンを積層し、1000[℃]以上で熱酸化してゲート絶縁膜を形成し、その上にn+ポリシリコンのゲート電極8を形成し、その後、イオン打ち込み法によりイオンドーピングする方法(高温プロセス)。
ドレイン電極24及びソース電極26には、ゲート電極16と同様な材料を用いるとともに、低抵抗であり、加工性があること、オーミックコンタクト層22と良好なコンタクトが取れること等が要求される。
したがって、ドレイン電極24及びソース電極26の材料としては、例えば、アルミ、銅等の金属(チタン、タンタル、タングステン等の高融点金属)や、ポリシリコン、高融点金属のシリサイド、ポリサイド等が挙げられる。また、ドレイン電極24及びソース電極26は、スパッタ法等で形成される。
【0026】
また、本実施形態の有機EL素子1は、薄膜トランジスタが有機EL素子1のスイッチング素子として機能するように接続されている必要がある。このため、薄膜トランジスタのソース電極26と第一電極4を、電気的に接続している。
なお、薄膜トランジスタの構造は、シングルゲート構造、ダブルゲート構造、ゲート電極が三つ以上のマルチゲート構造であってもよい。また、LDD構造、オフセット構造を有していてもよい。さらに、一つの画素中に二つ以上の薄膜トランジスタが配置されていてもよい。
【0027】
(第一電極4の詳細な構成)
以下、図1を参照して、第一電極4の詳細な構成について説明する。
第一電極4は、透明な電極(透明電極)であり、後述する誘電体層28上において、画素に応じてパターン化して形成されており、隔壁6によって区画されて、各画素に対応した画素電極(透明電極)を形成している。
【0028】
第一電極4の材料としては、ITO(インジウムスズ複合酸化物)やインジウム亜鉛複合酸化物、亜鉛アルミニウム複合酸化物等の金属複合酸化物や、金、白金等の金属材料や、これら金属酸化物や金属材料の微粒子をエポキシ樹脂やアクリル樹脂等に分散した微粒子分散膜を、単層もしくは積層したものを、いずれも使用することが可能である。
ここで、第一電極4を透明電極とする場合には、ITO等の仕事関数の高い材料を選択することが好適である。
【0029】
また、有機EL素子1が、下方から光を取り出す、いわゆるボトムエミッション構造の場合は、透光性のある材料を選択する必要がある。さらに、必要に応じて、第一電極4の配線抵抗を低くするために、銅やアルミニウム等の金属材料を補助電極として併設してもよい。
また、有機EL素子1が、上方から光を取り出す、いわゆるトップエミッション構造の場合は、透明であることは必要ではないが、ITO、IZO(インジウムと亜鉛の複合酸化物)等の導電性金属酸化物を用いて、第一電極4を形成してもよい。
【0030】
さらに、第一電極4の材料として、ITO等の導電性金属酸化物を用いる場合、その下に反射率の高い反射電極(Cr、 Al、Ag、Mo、W等)を用いることが好適である。この場合、第二電極12(反射電極)は、導電性金属酸化物よりも抵抗率が低いため、補助電極として機能するとともに、後述する有機発光層30にて発光される光を、第二電極12側に反射して、光の有効利用を図ることが可能となる。
【0031】
(隔壁6の詳細な構成)
以下、図1を参照して、隔壁6の詳細な構成について説明する。
隔壁6は、基板2上に形成されており、第一電極4の周囲(側面)を囲むことにより、画素に対応した発光領域を区画するように形成されている。これは、第一電極4の端部が露出していると、第一電極4の端部に電場が集中し、素子の短絡等の性能劣化が生じるおそれがあるが、絶縁体である隔壁6によって第一電極4の端部を覆うことにより、上記の性能劣化を抑制することが可能となるためである。
【0032】
ここで、一般的に、アクティブマトリクス駆動型の有機EL素子1は、各画素(サブピクセル)に対して第一電極4が形成されており、それぞれの画素が、できるだけ広い面積を占有しようとするため、第一電極4の端部(側面)を覆うように形成される隔壁6の最も好適な形状は、第一電極4を最短距離で区切る格子状を基本とする。
また、隔壁6の材料は、少なくとも、エチレン性不飽和化合物、光重合開始剤及びアルカリ可溶性バインダーを含有する。さらに、隔壁6の材料は、界面活性剤等を含有することが好適であり、溶剤も含有している。
【0033】
隔壁6の好適な高さは、0.1[μm]以上10[μm]以下の範囲内であり、より好適には、0.5[μm]以上2[μm]以下の範囲内程度である。その理由は、隔壁6の高さが高すぎる場合、第二電極12(対向電極)の形成及び封止を妨げ、隔壁6の高さが低すぎる場合、第一電極4の端部を覆い切れない、または、発光媒体層8の形成時に、隣接する画素と混色してしまうためである。
【0034】
隔壁6の断面形状としては、順テーパ形状、逆テーパ形状等の台形状や、半円形等が挙げられ、また、多段状になっていても良い。
ここで、隔壁6の断面形状が多段状である場合には、下の基板側の下段と上の基板側の上段とが異なる材料・形成方法であっても、同じ材料・形成方法であってもよい。この場合、例えば、下段はSiN等の無機材料からなり、上段は上述した材料からなる構成等が挙げられる。
【0035】
(発光媒体層8の詳細な構成)
以下、図1を参照して、発光媒体層8の詳細な構成について説明する。
発光媒体層8は、隔壁6内で第一電極4上に形成されて、第一電極4と第二電極12との間に挟持されており、有機発光層30と、インターレイヤー層32を含んでいる。
有機発光層30は、発光に寄与する層であり、中間層10上に形成されている。すなわい、発光媒体層8は、中間層10上に形成されている。なお、有機発光層30の詳細な構成については、後述する。
インターレイヤー層32は、有機発光層30上に形成されて、有機発光層30と積層している。
インターレイヤー層32の膜厚は、1[nm]以上100[nm]以下の範囲内であることが好適である。
【0036】
(有機発光層30の詳細な構成)
以下、図1を参照して、有機発光層30の詳細な構成について説明する。
有機発光層30は、異なる色毎にパターニングされた層であり、電流を流すことにより発光する層である。
有機発光層30を形成する有機発光材料は、例えば、クマリン系、ペリレン系、ピラン系、アンスロン系、ポルフィレン系、キナクリドン系、N,N’−ジアルキル置換キナクリドン系、ナフタルイミド系、N,N’−ジアリール置換ピロロピロール系、イリジウム錯体系等の発光性色素を、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリビニルカルバゾール等の高分子中に分散させたものや、ポリアリーレン系、ポリアリーレンビニレン系やポリフルオレン系の高分子材料が挙げられるが、本実施形態では、これらの材料に限定するわけではない。
【0037】
上記の有機発光材料は、溶媒に溶解または安定に分散させることにより、有機発光インキとなる。
ここで、有機発光材料を溶解または分散する溶媒としては、トルエン、キシレン、アセトン、アニソール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等の単独、または、これらの混合溶媒が挙げられる。特に、トルエン、キシレン、アニソールといった芳香族有機溶媒が、有機発光材料の溶解性の面から好適である。また、上記の有機発光インキには、必要に応じて、界面活性剤、酸化防止剤、粘度調整剤、紫外線吸収剤等が添加されていてもよい。
有機発光層30の膜厚は、1[nm]以上100[nm]以下の範囲内であることが好適である。
【0038】
(中間層10の詳細な構成)
以下、図1を参照して、中間層10の詳細な構成について説明する。
中間層10は、基板2上に形成されて、基板2と発光媒体層8との間に形成されており、誘電体層28と、上述した第一電極4と、正孔輸送層34を有している。
誘電体層28は、基板2が備える支持体14と第一電極との間に設けられている。
第一電極4の構成は、上述した構成である。
【0039】
正孔輸送層34は、第一電極4上に形成されており、正孔を輸送する層である。
正孔輸送層34の材料としては、例えば、ポリアニリン誘導体、ポリチオフェン誘導体、ポリビニルカルバゾール(PVK)誘導体、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)等が挙げられる。
これらの材料は、溶媒に溶解または分散させ、スピンコーター等を用いた各種塗布方法や凸版印刷方法を用いることにより、正孔輸送層34を形成する。
【0040】
また、正孔輸送層34の材料として無機材料を用いる場合、無機材料としては、例えば、CuO、Cr、Mn、FeOx(x〜0.1)、NiO、CoO、Pr、AgO、MoO、Bi、ZnO、TiO、SnO、ThO、V、Nb、Ta、MoO、WO、MnO等の無機材料を用いる。
なお、正孔輸送層34の材料は、上述した材料に限定するものではない。
ここで、正孔輸送層34は、隔壁6を形成した後に、真空中における抵抗加熱やエレクトロンビーム(EB)によって蒸着する方法、または、ArガスとOガスを用いた反応性スパッタによる方法や、CVD法等の方法にて形成する。
【0041】
(中間層10の膜厚)
中間層10の膜厚dは、400[nm]以上900[nm]以下の範囲内とする。
ここで、中間層10が有する各層(誘電体層28、第一電極4、正孔輸送層34)間における、多重反射の増幅を抑制するためには、各層の屈折率の差を小さくすることが望ましい。
このため、中間層10が有する第一電極4を主として、各層の屈折率を、波長成分が550[nm]の条件下において、1.8以上2.3以下の範囲内とし、さらに、各層間における屈折率差を、0.3以下とするように、誘電体層28、第一電極4及び正孔輸送層34を形成する。
したがって、各層の形成方法としては、屈折率に相関のある膜密度を制御可能な方法である、スパッタ法やCVD法等の乾式法を選択することが望ましい。
【0042】
上記のように、中間層10の膜厚dを、400[nm]以上900[nm]以下の範囲内とすることにより、例えば、図2中に示すように、基板2、中間層10、発光媒体層8及び第二電極12から形成される多重膜干渉スペクトルの極大波長が少なくとも三つ(λ1、λ2、λ3)存在する、干渉スペクトルを得ることが可能となる。
なお、図2は、多重膜干渉スペクトルの例を示す図である。また、図2中では、破線及び実線により、多重膜干渉スペクトルの一例を示している。また、図2中では、三つの極大波長を、それぞれ、第一波長を符号「λ1」、第二波長を符号「λ2」、第三波長を符号「λ3」により示している。
【0043】
ここで、例えば、カラーディスプレイのように、青色(B)、緑色(G)、赤色(R)の三色を同時に発光させる表示パネルにおいては、各色の特性を向上させるために、中間層10の膜厚dを、異なる色毎に最適化し設けることも可能であるが、この場合、成膜工程が煩雑となる。
このため、中間層10の膜厚を一種類に絞り、さらに、各色の特性を同時に向上させるように、三つの極大波長λ1、λ2、λ3の範囲を限定することが望ましい。
【0044】
ここで、第一波長λ1は、青色(B)の色純度を向上させるために、480[nm]以下とする。
また、第二波長λ2は、緑色(G)の色純度及び全色の輝度を向上させるために、510[nm]以上610[nm]以下の範囲内とする。
さらに、第三波長λ3は、赤色(R)の色純度を向上させるために、630[nm]以下とする。
【0045】
そして、三つの極大波長λ1、λ2、λ3が、それぞれの範囲に位置するように、中間層10の膜厚を一種類に絞る。
なお、中間層10の膜厚dは、400[nm]以上900[nm]以下の範囲内であれば、任意の厚さとすることが可能であるが、誘電体層28は、10[nm]以上1[μm]以下の範囲内とすることが好適である。さらに、上述したゲート絶縁膜18と併用する場合は、TFT側で膜が薄すぎると、絶縁性が確保できずに電流のリークが生じることや、膜を厚くすると電流を流すためにゲート電圧が上昇し、消費電力が増大する等の問題が発生するため、これらの問題を考慮して、中間層10の膜厚dを設定することが好適である。
【0046】
また、第一電極4の膜厚も、誘電体層28と同様、10[nm]以上1[μm]以下の範囲内とすることが好適である。
さらに、正孔輸送層34の膜厚は、配線抵抗やクラック等、膜質劣化の問題を考慮して、電圧降下と、透過率の低下の抑制や劣化要因因子に対するバリア性の十分な確保を両立するために、5[nm]以上70[nm]以下の範囲内とすることが好適である。
【0047】
(第二電極12の詳細な構成)
以下、図1を参照して、第二電極12の詳細な構成について説明する。
第二電極12は、中間層10及び発光媒体層8上に形成されており、第一電極4と対向している。
また、第二電極12は、電子を注入する層である電子注入層、または、電子を輸送する層である電子輸送層と、陰極層を含んで形成されている。
第二電極12の材料として、電子注入層または電子輸送層には、無機材料を用いて、電子注入効率と安定性を両立することが可能な、仕事関数の小さいアルカリ金属やアルカリ土類金属の単体または化合物、合金系を選択する。
【0048】
また、電子注入層または電子輸送層の厚さは、数[nm]の厚さとする。
また、第二電極12の材料として、陰極層には、仕事関数の低い無機材料として、Mg、Al、Yb等の金属単体を用いてもよい。
また、第二電極12の材料として、陰極層には、電子注入効率と安定性を両立させるために、仕事関数が低い材料、具体的には、Li、Mg、Ca、Sr、La、Ce、Er、Eu、Sc、Y、Yb等の金属材料を一種以上と、安定なAg、Al、Cu等の金属元素との合金系を用いてもよい。この場合、具体的には、MgAg、AlLi,CuLi等の合金系が使用することが可能である。
【0049】
(封止体について)
有機EL素子1は、電極(第一電極4、第二電極12)間に発光材料(発光媒体層8)を挟み、電流を流すことで発光させることが可能であるが、有機発光層30の材料である有機発光材料は、大気中の水分や酸素によって容易に劣化してしまう。
このため、通常、有機EL素子1には、外部と遮断するための封止体(図示せず)を設ける。このような封止体は、例えば、封止材上に樹脂層を設けて形成することが可能である。
【0050】
上記の封止材の材料としては、水分や酸素の透過性が低い基材を用いる必要がある。
ここで、封止材の材料としては、例えば、アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素等のセラミックス、無アルカリガラス、アルカリガラス等のガラス、石英、耐湿性フィルム等を挙げることができる。
耐湿性フィルムとしては、例えば、プラスチック基材の両面にSiOxをCVD法で形成したフィルムや、透過性の小さいフィルムと吸水性のあるフィルム、または、吸水剤を塗布した重合体フィルム等がある。ここで、耐湿性フィルムの水蒸気透過率は、10−6[g/m/day]以下であることが好適である。
【0051】
樹脂層の材料としては、例えば、エポキシ系樹脂、アクリル系樹脂、シリコン樹脂等からなる光硬化型接着性樹脂、熱硬化型接着性樹脂、二液硬化型接着性樹脂や、エチレンエチルアクリレート(EEA)ポリマー等のアクリル系樹脂、エチレンビニルアセテート(EVA)等のビニル系樹脂、ポリアミド、合成ゴム等の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレンの酸変性物等の熱可塑性接着性樹脂を挙げることができる。
【0052】
また、樹脂層を封止材の上に形成する方法としては、例えば、溶剤溶液法、押出ラミネーション法、溶融・ホットメルト法、カレンダー法、ノズル塗布法、スクリーン印刷法、真空ラミネート法、熱ロールラミネート法等を挙げることができる。
この場合、必要に応じて、吸湿性や吸酸素性を有する材料を含有させることも可能である。ここで、封止材上に形成する樹脂層の厚みは、封止する有機EL表示装置の大きさや形状により任意に決定されるが、5[μm]以上500[μm]以下の範囲内程度が好適である。
なお、上記の説明では、封止体を、封止材上に樹脂層として形成したが、封止体を、有機EL素子1側に、直接形成することも可能である。
【0053】
また、有機EL素子1と封止体との貼り合わせは、封止室で行う。
ここで、封止体を、封止材と樹脂層の二層構造とし、樹脂層に熱可塑性樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着のみ行うことが好適である。一方、樹脂層に熱硬化型接着樹脂を使用した場合は、加熱したロールで圧着した後、さらに、硬化温度で加熱硬化を行うことが好適である。また、樹脂層に光硬化性接着樹脂を使用した場合は、ロールで圧着した後、さらに光を照射することで硬化を行うことが可能である。
【0054】
なお、上述したような封止材を用いて封止を行う前や、その代わりに、例えば、パッシベーション膜として、EB蒸着法やCVD法等のドライプロセスを用いて、窒化珪素膜等無機薄膜による封止体を用いることも可能である。また、これらを組み合わせた封止体を用いることも可能である。
この場合、上述したパシベーション膜の膜厚は、100[nm]以上500[nm]以下の範囲内とすることが可能である。特に、材料の透湿性や、水蒸気光透過性等により異なるが、パシベーション膜の膜厚を、150[nm]以上300[nm]以下の範囲内とすることが好適である。
【0055】
(有機EL素子1の製造方法)
以下、図1及び2を参照しつつ、図3を用いて、有機EL素子1の製造方法を説明する。
有機EL素子1を製造する際には、まず、基板2上に第一電極4を形成する、第一電極形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、第一電極形成工程を含む。
第一電極形成工程において、第一電極4を形成する方法としては、第一電極4の材料に応じて、抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることが可能である。また、第一電極4を形成する方法としては、乾式成膜法以外にも、グラビア印刷法や、スクリーン印刷法等の湿式成膜法等を用いることが可能である。
ここで、第一電極4のパターニング方法としては、第一電極4の材料や成膜方法に応じて、マスク蒸着法、フォトリソグラフィ法、ウェットエッチング法、ドライエッチング法等の既存のパターニング法を用いることが可能である。
【0056】
そして、基板2上に第一電極4を形成した後、第一電極4の周囲を囲む隔壁6を基板2上に形成する、隔壁形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、隔壁形成工程を含む。
隔壁形成工程では、第一電極4を形成した基板2上に隔壁6を形成する方法としては、例えば、第一電極4を形成した基板2上に無機膜を一様に形成し、レジストでマスキングした後、ドライエッチングを行う方法や、第一電極4を形成した基板2上に感光性樹脂を積層し、フォトリソ法により所定のパターンとする方法が挙げられる。
【0057】
また、必要に応じて、隔壁6の材料に、撥水剤を添加することや、プラズマやUVを照射して、隔壁6の形成後に、隔壁6に対して、インクに対する撥液性を付与することも可能である。
隔壁形成工程により基板2上に隔壁6を形成した後、発光媒体層8を第一電極4上に形成する、発光媒体層形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、発光媒体層形成工程を含む。
発光媒体層形成工程は、有機発光層30を中間層10上に形成する有機発光層形成工程を含む。
【0058】
本実施形態の有機発光層形成工程では、上記のインターレイヤー層32を形成した後、このインターレイヤー層32上に、有機発光層30を、青色(B)、緑色(G)、赤色(R)の順にパターニングして形成する。
具体的には、有機発光層30の材料に応じて、インクジェット印刷法、ノズルプリント印刷法、凸版印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法等のウェット成膜法等既存の成膜法を用いる。
【0059】
上述した方法の中でも、特に、有機発光材料を、溶媒に溶解、または、安定に分散させた有機発光インキを塗布する方法である凸版印刷法は、塗布液の粘性特性が良好な粘度範囲で、基材を傷つけることなく印刷することが可能であり、塗布液材料の利用効率が良いため、有機EL素子1の製造に好適である。
なお、上述した成膜法以外の方法を用いて、有機発光層30を形成してもよい。
【0060】
ここで、図3を用いて、上記の凸版印刷法により、有機発光層30を形成する手順を説明する。
図3は、凸版印刷法に用いる凸版印刷装置36の概略構成を示す図である。
図3中に示すように、凸版印刷装置36は、有機発光材料からなる有機発光インキを、第一電極4及び中間層10が形成された基板2上にパターン印刷する際に用いる装置であり、インクタンク38と、インキチャンバー40と、アニロックスロール42と、凸部が設けられた凸版44がマウントされた版胴46を有している。
【0061】
インクタンク38には、溶剤で希釈された有機発光インキが収容されており、インキチャンバー40には、インクタンク38から、有機発光インキが送り込まれるようになっている。
アニロックスロール42は、インキチャンバー40のインキ供給部に接して、インキチャンバー40へ回転可能に支持されている。
上記のパターン印刷を行う際には、アニロックスロール42の回転に伴い、アニロックスロール42の表面に供給された有機発光インキのインキ層48が、均一な膜厚に形成される。このインキ層48のインキは、アニロックスロール42に近接して回転駆動される版胴46にマウントされた凸版44の凸部に転移する。
【0062】
そして、凸版44の凸部にあるインキが、ステージ50(平台)に設置された基板2に対して印刷され、必要に応じて乾燥工程を経て、基板2上に有機発光層30が形成されることとなる。
なお、発光媒体層8が含む他の層(例えば、インターレイヤー層32)をインキ化して塗工する場合についても、上記と同様の形成方法を用いて、基板2上に層を形成することが可能である。
【0063】
ここで、本実施形態の有機EL素子1は、発光媒体層8が、有機発光層30に加え、インターレイヤー層32を含んでいる。
このため、本実施形態では、有機発光層形成工程の前工程として、インターレイヤー層32を形成するインターレイヤー層形成工程を行う。すなわち、本実施形態では、発光媒体層形成工程が、インターレイヤー層32を形成するインターレイヤー層形成工程を含んでいる。
【0064】
インターレイヤー層形成工程において、インターレイヤー層32を形成する際には、インターレイヤー層32の材料として、ポリビニルカルバゾール、またはその誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリアリーレン誘導体、アリールアミン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体等の、芳香族アミンを含むポリマー等を用い、これらの材料を、溶媒に溶解または分散させ、スピンコーター等を用いた各種塗布方法や凸版印刷法、フレキソ印刷法等の公知の印刷方法といった湿式法を用いて形成する。
【0065】
上述した発光媒体層形成工程により発光媒体層8を形成した後、隔壁6及び発光媒体層8上に、第二電極12を形成する、第二電極形成工程を行う。すなわち、有機EL素子1の製造方法には、第二電極形成工程を含む。
第二電極形成工程において、第二電極12を形成する方法としては、第二電極12の材料に応じて、チャンバ内における抵抗加熱蒸着法、電子ビーム蒸着法、反応性蒸着法、イオンプレーティング法、スパッタリング法等の乾式成膜法を用いることが可能である。
第二電極12を形成した後、上述した封止体を形成して、有機EL素子1の製造を終了する。
【0066】
(第一実施形態の効果)
以下、第一実施形態の効果を列挙する。
(1)本実施形態の有機EL素子1であれば、中間層の膜厚を、適切な厚さとすることにより、多重膜干渉効果の制御を行うことが可能となるため、高発光効率且つ色純度の良好な有機EL素子の成膜工程を簡略化することが可能となる。
(2)本実施形態の有機EL素子1の製造方法であれば、塗布液の粘性特性が良好な粘度範囲で、基材を傷つけることなく印刷することが可能であるため、塗布液材料の利用効率を向上させることが可能となる。
【0067】
(変形例)
以下、第一実施形態の変形例を列挙する。
(1)本実施形態の有機EL素子1では、発光媒体層8の構成を、有機発光層30と、インターレイヤー層32を含んでいる構成としたが、これに限定するものではなく、発光媒体層8の構成を、インターレイヤー層32を含んでいない構成としてもよい。
(2)本実施形態の有機EL素子1の製造方法では、発光媒体層形成工程が、インターレイヤー層32を形成するインターレイヤー層形成工程を含んでいるが、これに限定するものではなく、発光媒体層形成工程が、インターレイヤー層形成工程を含んでいなくともよい。
【0068】
(実施例)
以下、図1から図3を参照して、上述した第一実施形態の有機EL素子1と、比較例の有機EL素子を製造し、両者に対する物性の評価を行った結果について説明する。
なお、以下の説明では、第一実施形態の有機EL素子1を、「本発明例の有機EL素子」と記載し、比較例の有機EL素子1を、「比較例の有機EL素子」と記載する。
(本発明例)
本発明例の有機EL素子1を製造する際には、基板2として、基板2上に設けられたスイッチング素子として機能する薄膜トランジスタと、その上方に形成された第一電極4(画素電極)とを備えたアクティブマトリクス基板を用いた。
【0069】
また、アクティブマトリクス基板(基板2)のサイズは、200[mm]×200[mm]である。さらに、上記のアクティブマトリクス基板は、その中に対角が5インチであり、画素数が320×240のディスプレイが中央に配置されている。
ここで、誘電体層28及びゲート絶縁膜18は、SiN膜を用いたPECVD法により、膜厚を350[nm]とし、屈折率を1.95(波長成分550[nm]時)として形成した。
【0070】
さらに、誘電体層28上に第一電極4を形成した。
第一電極4の形成方法としては、まず、スパッタ法を用いて、厚さが280[nm]であり、屈折率が1.9(波長成分550[nm]時)のITO膜を形成し、そのITO膜を、フォトリソグラフィー法と酸溶液によるエッチングで、幅が25[μm]となるようにパターニングし、画素数が320×240の第一電極4を形成した。
【0071】
さらに、第一電極4の周囲を囲んで画素を区画するような形状で、隔壁6を形成した。
ここで、隔壁6を形成する際には、まず、アクリル系のフォトレジスト材料を、アクティブマトリクス基板の全面にスピンコートした。ここで、スピンコートの条件は、150[rpm]で5秒間回転させた後、500[rpm]で20秒間回転させる条件とした。これにより、高さが1.5[μm]の塗膜を得た。その後、フォトリソ法により、電極間にライン状の絶縁層を形成して、隔壁6を形成した。
【0072】
次に、上記のように形成した第一電極4及び隔壁6上に、厚さが20[nm]であり、屈折率が2.0(波長成分550[nm]時)の酸化モリブデン(MoOx)を、スパッタリング法により積層して、正孔輸送層34を形成した。
以上により、誘電体層28、第一電極4及び正孔輸送層34を含んで形成した中間層10の膜厚dを、650[nm]とした。
【0073】
そして、インターレイヤー層32の材料であるポリビニルカルバゾール誘導体を、濃度が0.5[%]となるように、トルエンに溶解させたインキを用いて、上記のアクティブマトリクス基板を印刷機にセッティングし、絶縁層に挟まれた第一電極4の真上に、そのラインパターンに合わせて、凸版印刷法で印刷を行った。その結果、印刷・乾燥後のインターレイヤー層32の膜厚は、20[nm]となった。
【0074】
次に、有機発光材料であるポリフェニレンビニレン誘導体を、その濃度が1[%]となるようにトルエンに溶解させた有機発光インキを用いて、上記のアクティブマトリクス基板を印刷機にセッティングし、隔壁6に挟まれた第一電極4の真上に、そのラインパターンに合わせて、有機発光層30を、凸版印刷法により、青色(B)、緑色(G)、赤色(R)の順でパターニング成膜した。その結果、印刷・乾燥後の有機発光層30の膜厚は、各色共に70[nm]となった。
【0075】
次に、第二電極12として、Ba膜を、メタルマスクを用いた真空蒸着法により、厚みが4[nm]となるように成膜した後、アルミニウム膜を、メタルマスクを用いた真空蒸着法により、厚みが150[nm]となるように成膜した。
そして、上記のように第二電極12を成膜したアクティブマトリクス基板に対し、封止材としたガラス板を、発光領域全てをカバーするように載せた後、約90[℃]で一時間程度、接着剤を熱硬化させて封止を行った。
上記のように製造した、本発明例の有機EL素子1は、中間層10の膜厚dを650[nm]とすることで、図2中に実線で示すように、極大波長が3つ(λ1、λ2、λ3)存在することとなった。
【0076】
また、図2中に示すように、第一波長λ1=470[nm]、第二波長λ2=560[nm]、第三波長λ3=700[nm]に位置する干渉スペクトルを得ることが可能となった。
さらに、印加電圧が7Vの際に、青色で、発光効率が7[cd/A]、CIE色度がx=0.143、y=0.171であり、緑色で、発光効率が14[cd/A]、CIE色度がx=0.271、y=0.635であり、赤色で、発光効率が8[cd/A]、CIE色度がx=0.66、y=0.311となり、三色同時に、高発光効率、色純度の良い特性を実現したことが確認された。
【0077】
(比較例)
比較例の有機EL素子1は、中間層10の膜厚dを、300[nm]とした。
具体的には、誘電体層28を、膜厚を200[nm]とし、屈折率を2.35(波長成分550[nm]時)として形成した。
また、第一電極4を、膜厚を80[nm]とし、屈折率を1.75(波長成分550[nm]時)として形成した。
さらに、正孔輸送層34を、膜厚を20[nm]とし、屈折率を2.5(波長成分550[nm]時)として形成した。
その他の材料、各層の厚さ、工程は、上述した本発明例と同様とした。
したがって、比較例の有機EL素子1は、中間層10の膜厚dが、400[nm]以上900[nm]以下の範囲外であり、さらに、中間層10が有する各層の屈折率が、1.8以上2.3以下の範囲外(波長成分550[nm]時)であり、各層間における屈折率差を、0.3を超える構成とした。
【0078】
これにより、比較例の有機EL素子1では、極大波長が2つしか存在しない干渉スペクトルが得られた。
上記のように製造した、比較例の有機EL素子1は、本発明例の有機EL素子1に対して、印加電圧が7Vの際に、青色で、発光効率が4[cd/A]、CIE色度がx=0.16、y=0.22であり、緑色で、発光効率が10[cd/A]、CIE色度がx=0.35、y=0.6であり、赤色で、発光効率が6[cd/A]、CIE色度がx=0.62、y=0.31となり、本発明例の有機EL素子1と比較して、発光効率が低く、また、色純度が悪い特性となっていることが確認された。
【符号の説明】
【0079】
1 有機EL素子
2 基板
4 第一電極
6 隔壁
8 発光媒体層
10 中間層
12 第二電極
14 支持体
16 ゲート電極
18 ゲート絶縁膜
20 活性層
22 オーミックコンタクト層
24 ドレイン電極
26 ソース電極
28 誘電体層
30 有機発光層
32 インターレイヤー層
34 正孔輸送層
36 凸版印刷装置
38 インクタンク
40 インキチャンバー
42 アニロックスロール
44 凸版
46 版胴
48 インキ層
50 ステージ
d 中間層10の膜厚
λ1 第一波長
λ2 第二波長
λ3 第三波長

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、当該基板上に形成され且つ少なくとも第一電極を含む複数の層を有する中間層と、当該中間層上に形成された発光媒体層と、当該発光媒体層上に形成された第二電極と、を備える有機EL素子であって、
前記発光媒体層は、異なる色毎にパターニングして形成された有機発光層を含み、
前記中間層の膜厚は、400nm以上900nm以下の範囲内であることを特徴とする有機EL素子。
【請求項2】
前記中間層が有する各層の屈折率は、波長成分が550nmの条件下において、1.8以上2.3以下の範囲内であり、
前記各層間における屈折率差は、0.3以下であることを特徴とする請求項1に記載した有機EL素子。
【請求項3】
前記基板、前記中間層、前記発光媒体層及び前記第二電極から形成される多重膜干渉スペクトルの極大波長が、少なくとも三つ存在することを特徴とする請求項1または請求項2に記載した有機EL素子。
【請求項4】
前記極大波長は、第一波長、第二波長及び第三波長であり、
前記中間層の膜厚は、前記第一波長が480nm以下、前記第二波長が510nm以上610nm以下の範囲内、前記第三波長が650nm以上となるように設定されていることを特徴とする請求項3に記載した有機EL素子。
【請求項5】
前記有機EL素子は、TFT層を用いたアクティブマトリックス駆動型の素子であり、
前記TFT層を構成する複数の層のうち少なくとも一層は、前記中間層が有する層であることを特徴とする請求項1から請求項4のうちいずれか1項に記載した有機EL素子。
【請求項6】
請求項1から請求項5のうちいずれか1項に記載した有機EL素子を製造する有機EL素子の製造方法であって、
前記発光媒体層の形成方法として凸版印刷法を用いることを特徴とする有機EL素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−74237(P2012−74237A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217815(P2010−217815)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】