説明

有機EL表示装置およびその製造方法

【課題】各有機EL素子における発光効率の差および色度のずれを低減することが可能な有機EL表示装置およびその製造方法を提供する。
【解決手段】下部電極14上に正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する。赤色および緑色有機EL素子10R,10Gについて、正孔輸送層16BR,16BG,低分子材料を含む赤色および緑色発光層16CR,16CGを、青色有機EL素子10Bの正孔注入層16ABの上に正孔輸送層16BBを個別層として塗布法により形成する。赤色,緑色発光層16CR,16CGおよび青色用の正孔輸送層16BBの全面に青色発光層16CBを、青色発光層16CBの全面に電子輸送層16Dを形成したのち電子注入層16Eを共通層として蒸着法により形成する。ここで共通層は個別層よりも厚く成膜する。最後に上部電極17を形成し有機EL表示装置1を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機エレクトロルミネセンス(EL;Electro Luminescence)現象を利用して発光する有機EL表示装置およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
情報通信産業の発達が加速するにつれて、高度な性能を有する表示素子が要求されている。その中で、次世代表示素子として注目されている有機EL素子は自発発光型表示素子として視野角が広くてコントラストが優秀なだけでなく応答時間が速いという長所がある。
【0003】
有機EL素子を形成する発光層等に用いられる材料は、低分子材料と高分子材料に大別される。一般に、低分子材料の方がより高い発光効率、長寿命を示すことが知られており、特に青色の性能は高いとされる。
【0004】
また、その有機膜は低分子材料では真空蒸着法等の乾式法(蒸着法)、高分子材料ではスピンコーティング方式、インクジェット方式またはノズルコート方式等の湿式法(塗付法)により成膜されている。
【0005】
真空蒸着法は、有機薄膜の形成材料を溶媒に溶解させる必要がなく、成膜後に溶媒を除去する工程が不要という利点がある。但し、真空蒸着法はメタルマスクによる塗り分けが難しく、特に大型のパネルの作製における設備製造コストが高いため、大画面基板への適用が難しく、量産にも難があるなどの欠点を有していた。そこで表示画面の大面積化が比較的容易なインクジェット方式やノズルコート方式が注目されている。
【0006】
しかしながら、インクジェット方式やノズルコート方式において用いられる高分子材料の中で、特に青色の発光材料は発光輝度および寿命特性が低く実用的ではないため、青色発光層の塗付法によるパターニングは困難とされていた。
【0007】
そこで例えば特許文献1,2において、インクジェット法などの塗付法で形成された赤色発光層および緑色発光層の上部に、塗布法では特性が不十分な青色発光層以降を共通層として真空蒸着法で形成した表示装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許4062352号公報(特開2007−073532号公報)
【特許文献2】特許3899566号公報(特開平10−153967号公報)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1,2に挙げた有機EL表示装置では、パネル面内において輝度むらや色むらが生じるという問題があった。これは有機EL素子ごとの発光効率の差や色度のばらつきによる。微小共振器構造を備えた有機EL表示装置では、微小共振器の特性上、画素電極および対向電極に挟まれた発光層等を含む有機層の膜厚を厳密に制御する必要がある。一般に、塗付法を用いた成膜方法では成膜後に溶媒を除去する乾燥処理や加熱処理が必要なため膜厚の制御が困難であった。具体的には、蒸着法を用いた場合と比較して数倍〜10倍程度の膜厚ずれが生じる。このため、塗布工程や周辺工程の見直しや改善、デバイス自体の構造の改良が求められてきたが、装置が複雑化することや、ディスプレイの電気特性を落とさざるを得ないことから、新たな改善方法が求められていた。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、素子間の発光効率の差および色度のずれを低減することが可能な有機EL表示装置およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明による有機EL表示装置は、基板に、複数の色の有機EL素子の各々ごとに設けられた複数の下部電極と、下部電極上に設けられると共に、正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層、有機発光層および電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層を含む有機層と、有機層上に設けられた上部電極とを備え、正孔注入・輸送層、有機発光層および電子注入・輸送層は、各色の有機EL素子ごとに設けられた個別層と、各色の有機EL素子の全面に設けられた共通層とに分けられ、共通層の膜厚は個別層の膜厚よりも厚いものである。
【0012】
本発明による第1の有機EL表示装置の製造方法は、以下の(A)〜(F)の工程を含むものである。
(A)基板に下部電極を青色の第1有機EL素子およびその他の色の第2有機EL素子の各々ごとに形成する工程
(B)下部電極の上に正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する正孔注入・輸送層を第1有機EL素子および第2有機EL素子の各々ごとに塗布法により形成する工程
(C)第2有機EL素子用の正孔注入・輸送層の上にその他の色の第2有機発光層を塗布法により形成する工程
(D)第2有機発光層および第1有機EL素子用の正孔注入・輸送層の全面に青色の第1有機発光層を蒸着法により形成する工程
(E)第1有機発光層および第2有機発光層上に電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有電子注入・輸送層を蒸着法により形成する工程
(F)電子注入・輸送層の全面に上部電極を形成する工程
【0013】
本発明による第2の有機EL表示装置の製造方法は、以下の(A)〜(E)の工程を含むものである。
(A)基板に複数の下部電極を複数の有機EL素子の各々ごとに形成する工程
(B)下部電極上に正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層を有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程
(C)正孔有入・輸送層上に複数の有機発光層を有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程
(D)複数の有機発光層の全面に電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層を蒸着法により形成する工程
(E)電子注入・輸送層の全面に上部電極を形成する工程
【0014】
本発明の有機EL表示装置およびその製造方法では、蒸着法により形成した共通層の膜厚を塗付法により形成した個別層の膜厚よりも厚くすることにより、各有機EL素子の膜厚のばらつきが低減される。
【発明の効果】
【0015】
本発明の有機EL表示装置およびその製造方法によれば、蒸着法により形成した共通層の膜厚が塗付法により形成した個別層の膜厚よりも厚くなるようにしたので、有機EL素子間の膜厚のばらつきが低減される。これにより、有機EL素子間の発光効率の差および色度のずれを抑えることが可能となる。即ち、有機EL素子を複数備えた有機EL表示装置における輝度むらおよび色むらが低減される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る有機EL表示装置の構成を表す図である。
【図2】図1に示した画素駆動回路の一例を表す図である。
【図3】図1に示した表示領域の構成を表す断面図である。
【図4】図1に示した有機EL表示装置の製造方法の流れを表す図である。
【図5】図4に示した製造方法を工程順に表す断面図である。
【図6】図5に続く工程を表す断面図である。
【図7】図6に続く工程を表す断面図である。
【図8】本発明の第2の実施の形態に係る有機EL表示装置の構成を表す断面図である。
【図9】図8に示した有機EL表示装置の製造方法の流れを表す図である。
【図10】上記実施の形態の表示装置を含むモジュールの概略構成を表す平面図である。
【図11】上記実施の形態の表示装置の適用例1の外観を表す斜視図である。
【図12】(A)は適用例2の表側から見た外観を表す斜視図であり、(B)は裏側から見た外観を表す斜視図である。
【図13】適用例3の外観を表す斜視図である。
【図14】適用例4の外観を表す斜視図である。
【図15】(A)は適用例5の開いた状態の正面図、(B)はその側面図、(C)は閉じた状態の正面図、(D)は左側面図、(E)は右側面図、(F)は上面図、(G)は下面図である。
【図16】実施例および比較例における色度のばらつきを表す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して以下の順に詳細に説明する。
1.第1の実施の形態
(青色発光層を共通層として全面に形成した有機EL表示装置)
2.第2の実施の形態
(青色発光層を青色有機EL素子上にのみ形成した有機EL表示装置)
【0018】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る有機EL表示装置の構成を表すものである。この有機EL表示装置は、有機ELテレビジョン装置などとして用いられるものであり、例えば、基板11の上に、表示領域110として、後述する複数の赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bがマトリクス状に配置されたものである。表示領域110の周辺には、映像表示用のドライバである信号線駆動回路120および走査線駆動回路130が設けられている。
【0019】
表示領域110内には画素駆動回路140が設けられている。図2は、画素駆動回路140の一例を表したものである。画素駆動回路140は、後述する下部電極14の下層に形成されたアクティブ型の駆動回路である。すなわち、この画素駆動回路140は、駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2と、これらトランジスタTr1,Tr2の間のキャパシタ(保持容量)Csと、第1の電源ライン(Vcc)および第2の電源ライン(GND)の間において駆動トランジスタTr1に直列に接続された赤色有機EL素子10R(または緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10B)とを有する。駆動トランジスタTr1および書き込みトランジスタTr2は、一般的な薄膜トランジスタ(TFT(Thin Film Transistor))により構成され、その構成は例えば逆スタガ構造(いわゆるボトムゲート型)でもよいしスタガ構造(トップゲート型)でもよく特に限定されない。
【0020】
画素駆動回路140において、列方向には信号線120Aが複数配置され、行方向には走査線130Aが複数配置されている。各信号線120Aと各走査線130Aとの交差点が、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bのいずれか一つ(サブピクセル)に対応している。各信号線120Aは、信号線駆動回路120に接続され、この信号線駆動回路120から信号線120Aを介して書き込みトランジスタTr2のソース電極に画像信号が供給されるようになっている。各走査線130Aは走査線駆動回路130に接続され、この走査線駆動回路130から走査線130Aを介して書き込みトランジスタTr2のゲート電極に走査信号が順次供給されるようになっている。
【0021】
また、表示領域110には、赤色の光を発生する赤色有機EL素子(第2有機EL素子)10Rと、緑色の光を発生する緑色有機EL素子(第2有機EL素子)10Gと、青色の光を発生する青色有機EL素子(第1有機EL素子)10Bとが、順に全体としてマトリクス状に配置されている。なお、隣り合う赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0022】
図3は図1に示した表示領域110の断面構成を表したものである。赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bは、それぞれ、基板11の側から、上述した画素駆動回路140の駆動トランジスタTr1および平坦化絶縁膜(図示せず)を間にして、陽極としての下部電極14、隔壁15、後述する発光層16Cを含む有機層16および陰極としての上部電極17がこの順に積層された構成を有している。
【0023】
このような赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bは、保護層30により被覆され、更にこの保護層30上に熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂などの接着層(図示せず)を間にしてガラスなどよりなる封止用基板40が全面にわたって貼り合わされることにより封止されている。
【0024】
基板11は、その一主面側に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bが配列形成される支持体であって、公知のものであってよく、例えば、石英、ガラス、シリコン、金属箔、もしくは樹脂製のフィルムやシートなどが用いられる。この中でも石英やガラスが好ましく、樹脂製の場合には、その材質としてポリメチルメタクリレート(PMMA)に代表されるメタクリル樹脂類、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリブチレンナフタレート(PBN)などのポリエステル類、もしくはポリカーボネート樹脂などが挙げられるが、透水性や透ガス性を抑える積層構造、表面処理を行うことが必要である。
【0025】
下部電極14は、基板11上に、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの各々ごとに設けられている。下部電極14は、例えば、積層方向の厚み(以下、単に厚みと言う)が10nm以上1000nm以下であり、クロム(Cr),金(Au),白金(Pt),ニッケル(Ni),銅(Cu),タングステン(W)あるいは銀(Ag)などの金属元素の単体または合金により形成されている。また、下部電極14は、これらの金属元素の単体または合金よりなる金属膜と、インジウムとスズの酸化物(ITO)、InZnO(インジウム亜鉛オキシド)、酸化亜鉛(ZnO)とアルミニウム(Al)との合金などの透明導電膜との積層構造を有していてもよい。なお、下部電極14が陽極として使われる場合には、下部電極14は正孔注入性の高い材料により構成されていることが望ましい。但し、アルミニウム(Al)合金のように、表面の酸化皮膜の存在や、仕事関数が大きくないことによる正孔注入障壁が問題となる材料においても、適切な正孔注入層16Aを設けることによって下部電極14として使用することが可能である。また、発光層16Cにおいて発生した光を基板11とは反対側の後述する上部電極17から取り出す、いわゆるトップエミッション型の場合には、下部電極14は光反射性に優れた導電性材料をミラーとして用いる。この際の下部電極14の反射率は40%以上が望ましい。
【0026】
隔壁15は、下部電極14と上部電極17との絶縁性を確保すると共に発光領域を所望の形状にするためのものである。更に、後述する製造工程においてインクジェットまたはノズルコート方式等による塗布を行う際の隔壁としての機能も有している。隔壁15は、例えば、SiO2等の無機絶縁材料よりなる下部隔壁15Aの上に、ポジ型感光性ポリベンゾオキサゾール,ポジ型感光性ポリイミドなどの感光性樹脂よりなる上部隔壁15Bを有している。隔壁15には、発光領域に対応して開口が設けられている。なお、有機層16ないし上部電極17は、開口だけでなく隔壁15の上にも設けられていてもよいが、発光が生じるのは隔壁15の開口だけである。
【0027】
赤色有機EL素子10Rの有機層16は、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層16AR,正孔輸送層16BR,赤色発光層16CR,青色発光層16CB,電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eを積層した構成を有する。緑色有機EL素子10Gの有機層16は、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層16AG,正孔輸送層16BG,緑色発光層16CG,青色発光層16CB,電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eを積層した構成を有する。青色有機EL素子10Bの有機層16は、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層16AB,正孔輸送層16BB,青色発光層16CB,電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eを積層した構成を有する。ここで、有機EL素子10R,10G,10Bを構成する層のうち各色の素子にのみに形成されている層、即ち、正孔注入層16AR,16AG,16AB、正孔輸送層16BR,16BG,16BB、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGを個別層とする。また、各色の有機EL素子の全面に設けられている層、即ち、青色発光層16CB,電子輸送層16Dおよび電子注入層16Eはそれぞれ、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの全ての素子に共通する共通層とする。
【0028】
正孔注入層16AR,16AG,16ABは、各発光層16C(赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CB)への正孔注入効率を高めるためのものであると共に、リークを防止するためのバッファ層であり、下部電極14の上に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの各々ごとに設けられている。
【0029】
正孔注入層16AR,16AG,16ABの厚みは例えば5nm〜100nmであることが好ましく、より好ましくは8nm〜50nmである。正孔注入層16AR,16AG,16ABの構成材料は、電極や隣接する層の材料との関係で適宜選択すればよく、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリキノリン、ポリキノキサリンおよびそれらの誘導体、芳香族アミン構造を主鎖又は側鎖に含む重合体などの導電性高分子、金属フタロシアニン(銅フタロシアニン等)、カーボンなどが挙げられる。
【0030】
正孔注入層16AR,16AG,16ABに用いられる材料が高分子材料である場合には、その高分子材料の重量平均分子量(Mw)は1万〜30万の範囲であればよく、特に5000〜20万程度が好ましい。また、2000〜1万程度のオリゴマーを用いてもよいが、Mwが5000未満では正孔輸送層以後の層を形成する際に、正孔注入層が溶解してしまう虞がある。また30万を超えると材料がゲル化し、成膜が困難になる虞がある。
【0031】
正孔注入層16AR,16AG,16ABの構成材料として使用される典型的な導電性高分子としては、例えばポリアニリン、オリゴアニリンおよびポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)などのポリジオキシチオフェンが挙げられる。この他、エイチ・シー・スタルク製Nafion(商標)で市販されているポリマー、または商品名Liquion(商標)で溶解形態で市販されているポリマーや、日産化学製エルソース(商標)や、綜研化学製導電性ポリマーベラゾール(商標)などがある。
【0032】
赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gの正孔輸送層16BR,16BGは、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGへの正孔輸送効率を高めるためのものである。正孔輸送層16BR,16BGは、正孔注入層16AR,16AGの上に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gの各々ごとに設けられている。
【0033】
正孔輸送層16BR,16BGの厚みは、素子の全体構成にもよるが、例えば10nm〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは15nm〜150nmである。正孔輸送層16BR,16BGを構成する高分子材料としては、有機溶媒に可溶な発光材料、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン、ポリアニリン、ポリシランまたはそれらの誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールなどを用いることができる。
【0034】
正孔輸送層16BR,16BGに用いられる材料が高分子材料である場合には、その重量平均分子量(Mw)は5万〜30万であることが好ましく、特に、10万〜20万であることが好ましい。Mwが5万未満では、発光層16Cを形成するときに、高分子材料中の低分子成分が脱落し、正孔注入層16A,正孔輸送層16Bにドットが生じるため、有機EL素子の初期性能が低下したり、素子の劣化を引き起こすおそれがある。一方、30万を越えると、材料がゲル化するため、成膜が困難になるおそれがある。なお、重量平均分子量(Mw)は、テトラヒドロフランを溶媒として、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC;Gel Permiation Chromatography)により、ポリスチレン換算の重量平均分子量を求めた値である。
【0035】
赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGでは、電界をかけることにより電子と正孔との再結合が起こり発光する。赤色発光層16CR,緑色発光層16CGの厚みは、素子の全体構成にもよるが、例えば10nm〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは15nm〜150nmである。赤色発光層16CR,緑色発光層16CGは高分子(発光)材料に低分子材料が添加された混合材料により構成されている。ここで低分子材料とは、モノマーまたはこのモノマーを2〜10個結合したオリゴマーとし、1万以下の重量平均分子量を有するものが好ましい。なお、重量平均分子量が上記範囲を超えた低分子材料を必ずしも除外するものではない。
【0036】
赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGは、詳細は後述するが、例えばインクジェット等の塗付法により形成する。その際、高分子材料および低分子材料を例えばトルエン、キシレン、アニソール、シクロヘキサノン、メシチレン(1,3,5−トリメチルベンゼン)、ブサイドクメン(1,2,4−トリメチルベンゼン)、ジハイドロベンゾフラン、1,2,3,4−テトラメチルベンゼン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン、1−メチルナフタレン、p−アニシルアルコール、ジメチルナフタレン、3-メチルビフェニル、4−メチルビフェニル、3−イソプロピルビフェニル、モノイソプロピルナフタレンなどの有機溶媒に少なくとも1種類以上使って溶解し、この混合溶液を用いて形成する。
【0037】
赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGを構成する高分子材料としては、例えばポリフルオレン系高分子誘導体や、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリフェニレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体等の発光性高分子が挙げられる。特に本実施の形態では、一重項励起子から発光する高分子発光層として、赤色発光層16CRにAmerican Dye Source社製の商品名ADS111RE(商標;式(1−1))、緑色発光層16CGに同社製の商品名ADS109GE(商標;式(1−2))が挙げられる。なお、ここで用いられる高分子材料は共役系高分子だけに限らず、ペンダント形の非共役系高分子および色素混合型の非共役系高分子も含み、近年開発がすすめられている中心にコアの分子を配し、デンドロンと呼ばれる側鎖から構成されるデンドリマー型の高分子発光材料であってもよい。また、高分子材料に含まれる置換基は限定されず、式(1−1),式(1−2)に示した主骨格に対して必要に応じて電子輸送性および/または正孔輸送性を有する置換基を含んでいてもよい。更に、発光部位に関しては、一重項励起子から発光するもの、三重項励起子から発光するものおよびこの両者から発光するものがあるが、本実施の形態の発光層16Cはいずれの発光部位を含んでいてもよい。
【0038】
【化1】

【0039】
また、上記以外の発光ユニットとしては、アントラセン,ナフタレン,フェナントレン,ピレン,テトラセン,コロネン,クリセン,フルオレセイン,ペリレン,フタロペリレン,ナフタロペリレン,ペリノン,フタロペリノン,ナフタロペリノン,ジフェニルブタジエン、テトラフェニルブタジエン,クマリンモキサジアゾール,アルダジン,ビスベンゾキサゾリン,ビススチリル,ピラジン,シクロペンタジエン,キノリン金属錯体,アミノキノリン金属錯体,ベンゾキノリン金属錯体,イミン,ジフェニルエチレン,ビニルアントラセン,ジアミノカルバゾール,ピラン,チオピラン,ポリメチン,メロシアニン,イミダゾールキレート化オキシノイド化合物,キナクリドン,ルブレン等の芳香族炭化水素、または複素環式化合物が挙げられる。更に、三重項励起状態を伴う発光ユニットを用いることができる。三重項励起状態を伴う発光ユニットとしては、イリジウム金属錯体等の金属錯体を含む化合物が多いが、金属錯体の含有も含めこの限りではない。三重項励起状態から発光する高分子発光材料の具体例としては、赤色りん光発光材料としてRPP(式(2−1))、緑色りん光発光材料としてGPP(式(2−2))等が挙げられる。
【0040】
【化2】

【0041】
また、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGを構成する高分子材料には低分子材料を添加することが好ましい。これにより、電子注入・輸送層16Dから赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGへの正孔および電子の注入効率が向上する。以下にその原理を説明する。
【0042】
高分子材料のみから構成される赤色発光層16CR,緑色発光層16CGの上部に共通層として低分子材料からなる青色発光層16CBを形成しており、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGのエネルギー準位と、青色発光層16CBのエネルギー準位との差は大きい。このため、青色発光層16CBと赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CG各々との間の正孔または電子の注入効率は非常に低く、前述のように、本来の高分子材料からなる発光層が有する特性を十分に得ることができないという問題があった。本実施の形態では、この正孔または電子の注入特性を向上させるために、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGが有するエネルギー準位と、青色発光層16CBが有するエネルギー準位との差を小さくする低分子材料(モノマーまたはオリゴマー)を赤色発光層16CR,緑色発光層16CGに添加するものである。ここでは、赤色発光層16CR,緑色発光層16CRの最高占有分子軌道(Highest Occupied Molecular Orbital;HOMO)準位および最低非占有分子軌道(Lowest Unoccupied Molecular Orbital;LUMO)準位と、青色発光層16CBのHOMO(最高占有分子軌道)準位および最低非占有分子軌道(LUMO)準位と赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGに添加する低分子材料のHOMO(最高占有分子軌道)準位および最低非占有分子軌道(LUMO)準位との関係を考慮する。具体的な添加する低分子材料としては、赤色発光層16CRまたは緑色発光層16CGのそれぞれのLUMOより深い値を有すると共に、青色発光層16CBのLUMOより浅い値を有し、かつ、赤色発光層16CRまたは緑色発光層16CGのそれぞれのHOMOより深い値を有すると共に、青色発光層のHOMOより浅い値を有する化合物を選択する。
【0043】
また、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGに添加する低分子材料は、低分子化合物が同じ反応または類似の反応を連鎖的に繰り返すことにより生じた高分子量の重合体または縮合体の分子からなる化合物以外のものであって、分子量が実質的に単一であるものを指す。また、上記低分子材料は加熱による分子間の新たな化学結合は生じず、単分子で存在する。このような低分子材料の重量平均分子量(Mw)は1万以下であることが好ましい。更に、高分子材料/低分子材料の分子量比が10以上であることが好ましい。これは分子量の大きい、例えば5万以上の材料に比べてある程度小さい分子量の材料のほうが多様な特性を有し、正孔または電子の移動度やバンドギャップあるいは溶媒への溶解度などを調整しやすいためである。高分子材料:低分子材料の混合比率が10:1未満では、低分子材料の添加による効果が低くなるためである。また、この混合比率が1:2を超える場合には、発光材料としての高分子材料が有する特性が得られにくくなるためである。
【0044】
上述のように、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGへ低分子材料を添加することにより、正孔および電子のキャリアバランスを調整することがより簡易になる。これにより、後述する低分子材料からなる青色発光層16CBを形成することによって起こる、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGへの電子注入性の低下および正孔輸送性の低下が抑制される。即ち、赤色有機EL素子10Rおよび緑色有機EL素子10Gの発光効率および寿命の低下、駆動電圧の上昇および発光色度の変化が抑制される。
【0045】
このような低分子材料としては、正孔輸送性を有する、例えばベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリフェニレン、アザトリフェニレン、テトラシアノキノジメタン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキザゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベンあるいはこれらの誘導体、または、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマーあるいはオリゴマーを用いることができる。
【0046】
さらに具体的な材料としては、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属ナフタロシアニン、ヘキサシアノアザトリフェニレン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6-テトラフルオロキノジメタン(F4−TCNQ)、テトラシアノ4、4、4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、N、N、N’、N’−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン、N、N、N’、N’−テトラフェニル−4、4’−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール、4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(2、2’−チエニルピロール)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
さらに好ましくは、下記の式(3)〜式(5)で表わされる低分子材料が挙げられる。
【0048】
【化3】


(A1〜A3は芳香族炭化水素基、複素環基またはそれらの誘導体である。)
【0049】
【化4】

(Zは含窒素炭化水素基あるいはその誘導体である。L1は2価の芳香族環基が1ないし4個結合した基、具体的には1〜4個の芳香族環が連結した2価の基、またはその誘導体である。A4およびA5は、芳香族炭化水素基あるいは芳香族複素環基、またはその誘導体である。但し、A4およびA5は互いに結合して環状構造を形成してもよい。)
【0050】
【化5】

(L2は2価の芳香族環基が2ないし6個結合した基である。具体的には2〜6個の芳香族環が連結した2価の基、またはその誘導体である。A6〜A9は、芳香族炭化水素基あるいは複素環基、またはその誘導体が1〜10個結合した基である。)
【0051】
式(3)に示した化合物の具体例としては、以下の式(3−1)〜式(3−48)などの化合物が挙げられる。
【0052】
【化6】

【0053】
【化7】

【0054】
【化8】

【0055】
式(4)に示した化合物の具体例としては、以下の式(4−1)〜式(4−69)などの化合物が挙げられる。なお、ここでL1に結合する含窒素炭化水素基として、例えばカルバゾール基やインドール基を有する化合物を挙げたがこれに限らない。例えばイミダゾール基を用いてもよい。
【0056】
【化9】

【0057】
【化10】

【0058】
【化11】

【0059】
【化12】

【0060】
【化13】

【0061】
式(5)に示した化合物の具体例としては、以下の式(5−1)〜式(5−45)などの化合物が挙げられる。
【0062】
【化14】

【0063】
【化15】

【0064】
【化16】

【0065】
【化17】

【0066】
更に、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGへ添加する低分子材料としては、電子輸送能を有する化合物を用いることができる。具体的には、下記の式(6)〜式(8)で表わされるベンゾイミダゾール誘導体(式(6)),ピリジルフェニル誘導体(式(7)),ビピリジン誘導体(式(8))が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0067】
【化18】

(A1は水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、3〜40個の芳香族環が縮合した多環芳香族炭化水素基を有する炭素数6〜60個の炭化水素基または含窒素複素環基あるいはそれらの誘導体である。Bは単結合、2価の芳香族環基あるいはその誘導体である。R1,2は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基、含窒素複素環基または炭素数1〜20個のアルコキシ基あるいはそれらの誘導体である。)
【0068】
【化19】

(A2は芳香族環が2ないし5個縮合したn価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R3〜R8は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、A2またはR9〜R13のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R9〜R13は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR3〜8のいずれか1つに結合する遊離原子価である。nは2以上の整数であり、n個のピリジルフェニル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【0069】
【化20】

(A3は芳香族環が2ないし5個縮合したm価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R14〜R18は各々独立して水素原子あるはハロゲン原子、A3またはR19〜R23のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R19〜R23は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR14〜18のいずれか1つに結合する遊離原子価である。mは2以上の整数であり、m個のビピリジル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【0070】
式(6)に示した化合物の具体例としては、以下の式(6−1)〜式(6−43)などの化合物が挙げられる。なお、Ar(α)は式(6)中のR1,R2を含むベンゾイミダゾール骨格に、Bは式(6)中のBに対応する。Ar(1)およびAr(2)は式(6)中のA1に対応し、Ar(1),Ar(2)の順にBに結合する。
【0071】
【化21】

【0072】
【化22】

【0073】
【化23】

【0074】
【化24】

【0075】
【化25】

【0076】
式(7)に示した化合物の具体例としては、以下の式(7−1)〜式(7−81)などの化合物が挙げられる。
【0077】
【化26】

【0078】
【化27】

【0079】
【化28】

【0080】
【化29】

【0081】
【化30】

【0082】
式(8)に示した化合物の具体例としては、以下の式(8−1)〜式(8−17)などの化合物が挙げられる。
【0083】
【化31】

【0084】
また、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGへ添加する低分子材料としては、上記式(6)〜式(8)で表わされる化合物の他に、例えば下記の式(9)で表わされるピラゾール誘導体が挙げられる。
【0085】
【化32】


(R30〜R32は水素原子、1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体、炭素数1〜6個の炭化水素基を有する1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体、炭素数6〜12個の芳香族炭化水素基を有する1〜3個の芳香族環が縮合した芳香族炭化水素基あるいはそれらの誘導体である。)
【0086】
式(9)で表わされる化合物におけるR30〜R32が示す芳香族炭化水素基を有する基としては、例えば、フェニル基、2-メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4
−メチルフェニル基、2,4−ジメチルフェニル基、3,4−ジメチルフェニル基、2、4,5−トリメチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−tert−ブチルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アンスラセニル基、2−アンスラセニル基、9−アンスラセニル基、9−フェンスレニル基等が挙げられるが上記に限定されるものでもない。なお、R30〜R32は同一であっても、異なっていてもよい。
【0087】
式(9)に示した化合物の具体例としては、同一分子中に2個以上4個未満のピラゾール構造を含む以下の式(9−1)〜式(9−5)等の化合物が挙げられる。
【0088】
【化33】

【0089】
更にまた、りん光発光材料を用いることができる。具体的には、ベリリウム(Be),ホウ素(B),亜鉛(Zn),カドミウム(Cd),マグネシウム(Mg),金(Au),銀(Ag),パラジウム(Pd),白金(Pt),アルミニウム(Al),ガドリニウム(Ga),イットリウム(Y),スカンジウム(Sc),ルテニウム(Ru),ロジウム(Rh),オスミウム(Os),イリジウム(Ir)等の金属元素を少なくとも1種含む金属錯体が挙げられる。更に具体的には、式(10−1)〜式(10−29)に表わされる化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0090】
【化34】

【0091】
【化35】

【0092】
【化36】

【0093】
なお、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色発光層16CBに添加する低分子材料は1種類だけでなく、複数種類を混合して用いてもよい。
【0094】
青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BBは、青色発光層16CBへの正孔輸送効率を高めるためのものであり、正孔注入層16ABの上に設けられている。正孔輸送層16BBの厚みは、素子の全体構成にもよるが、例えば10nm〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは15nm〜150nmである。
【0095】
正孔輸送層16BBは、低分子材料(モノマーおよびオリゴマー)または高分子材料のいずれでもよい。ここで用いる低分子材料のうちモノマーは赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGに添加する低分子材料と同様の低分子化合物の重合体または縮合体等の化合物以外のものであって、分子量が単一であるものであり、単分子で存在するものである。また、オリゴマーはモノマーが複数個結合したものであり、重量平均分子量(Mw)は5万以下のものを指す。更に高分子材料は正孔輸送層16BR,16BGに用いられる高分子材料と同様に、重量平均分子量が5万〜30万の範囲であればよく、と特に10万〜20万程度が好ましい。なお、正孔輸送層16BBに用いる低分子材料および高分子材料は分子量および重量平均分子量の異なる2種以上の材料を混合して用いてもよい。
【0096】
正孔輸送層16BBに用いられる低分子材料としては、例えば、ベンジン、スチリルアミン、トリフェニルアミン、ポルフィリン、トリフェニレン、アザトリフェニレン、テトラシアノキノジメタン、トリアゾール、イミダゾール、オキサジアゾール、ポリアリールアルカン、フェニレンジアミン、アリールアミン、オキザゾール、アントラセン、フルオレノン、ヒドラゾン、スチルベンあるいはこれらの誘導体、または、ポリシラン系化合物、ビニルカルバゾール系化合物、チオフェン系化合物あるいはアニリン系化合物等の複素環式共役系のモノマー、オリゴマーまたはポリマーを用いることができる。
【0097】
さらに具体的な材料としては、α−ナフチルフェニルフェニレンジアミン、ポルフィリン、金属テトラフェニルポルフィリン、金属ナフタロシアニン、ヘキサシアノアザトリフェニレン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)、7,7,8,8−テトラシアノ−2,3,5,6-テトラフルオロキノジメタン(F4−TCNQ)、テトラシアノ4、4、4−トリス(3−メチルフェニルフェニルアミノ)トリフェニルアミン、N、N、N’、N’−テトラキス(p−トリル)p−フェニレンジアミン、N、N、N’、N’−テトラフェニル−4、4’−ジアミノビフェニル、N−フェニルカルバゾール、4−ジ−p−トリルアミノスチルベン、ポリ(パラフェニレンビニレン)、ポリ(チオフェンビニレン)、ポリ(2、2’−チエニルピロール)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0098】
さらに上記の式(1)〜式(3)で表わされる低分子材料を用いて構成されているものが好ましく、具体例としては、上記の式(1−1)〜式(1−48)、式(2−1)〜式(2−69)および式(3−1)〜式(3−49)に示した化合物が挙げられる。
【0099】
高分子材料としては、電極や隣接する層の材料との関係で適宜選択すればよく、有機溶媒に可溶な発光材料、例えば、ポリビニルカルバゾール、ポリフルオレン、ポリアニリン、ポリシランまたはそれらの誘導体、側鎖または主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリチオフェンおよびその誘導体、ポリピロールなどを用いることができる。
【0100】
さらに好ましくは、隣接する有機層との密着性が良好であり、有機溶媒に可溶な性質を有する式(11)で表わされる高分子材料が挙げられる。
【0101】
【化37】


(A10〜A13は、芳香族炭化水素基またはその誘導体が1〜10個結合した基、あるいは複素環基またはその誘導体が1〜15個結合した基である。nおよびmは0〜10000の整数であり、n+mは10〜20000の整数である。)
【0102】
また、n部およびm部の配列順序は任意であり、例えばランダム重合体、交互共重合体、周期的共重合体、ブロック共重合体のいずれであってもよい。更に、nおよびmは5〜5000の整数であることが好ましく、更に好ましくは10〜3000の整数である。また、n+mは10〜10000の整数であることが好ましく、更に好ましくは20〜6000の整数である。
【0103】
上記式(11)のA10〜A13における芳香族炭化水素基の具体例としては、例えばベンゼン、フルオレン、ナフタレン、アントラセン、あるいはこれらの誘導体、またはフェニレンビニレン誘導体、スチリル誘導体等が挙げられる。複素環基の具体例としては、例えばチオフェン、ピリジン、ピロール、カルバゾール、あるいはこれらの誘導体が挙げられる。
【0104】
また、上記式(11)のA10〜A13が置換基を有する場合、この置換基は、例えば炭素数1〜12の直鎖あるいは分岐のアルキル基、アルケニル基である。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、ビニル基、アリル基等であることが好ましい。
【0105】
式(11)に示した化合物の具体例としては、例えば以下の式(11−1)〜式(10−3)に示した化合物、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−co−(4,4'−(N−(4−sec−ブチルフェニル))ジフェニルアミン)](TFB,式(11−1))、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)−alt−co−(N,N'−ビス{4−ブチルフェニル}−ベンジジンN,N'−{1,4−ジフェニレン})](式(11−2))、ポリ[(9,9−ジオクチルフルオレニル−2,7−ジイル)](PFO,式(11−3))が好ましいが、この限りではない。
【0106】
【化38】

【0107】
青色発光層16CBは、電界をかけることにより電子と正孔との再結合が起こり、光を発生するものであり、共通正孔輸送層16D上の全面に設けられている。青色発光層16CBは、アントラセン化合物をホスト材料として青色もしくは緑色の蛍光性色素のゲスト材料がドーピングされており、青色もしくは緑色の発光光を発生する。
【0108】
このうち、青色発光層16CBを構成するホスト材料は、式(12)に表わされる化合物をホスト材料として用いることが好ましい。
【0109】
【化39】

(R1〜R6は、水素原子、ハロゲン原子、水酸基、または炭素数20以下のアルキル基、アルケニル基、カルボニル基を有する基、カルボニルエステル基を有する基、アルコキシル基を有する基、シアノ基を有する基、ニトロ基を有する基、あるいはそれらの誘導体、炭素数30以下のシリル基を有する基、アリール基を有する基、複素環基を有する基、アミノ基を有する基あるいはそれらの誘導体である。)
【0110】
式(12)で表わされる化合物におけるR1〜R6が示すアリール基を有する基としては、例えば、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、フルオレニル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基、1−ナフタセニル基、2−ナフタセニル基、9−ナフタセニル基、1−ピレニル基、2−ピレニル基、4−ピレニル基、1−クリセニル基、6−クリセニル基、2−フルオランテニル基、3−フルオランテニル基、2−ビフェニルイル基、3−ビフェニルイル基、4−ビフェニルイル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基、p−t−ブチルフェニル基等が挙げられる。
【0111】
また、R1〜R6が示す複素環基を有する基としては、ヘテロ原子として酸素原子(O)、窒素原子(N)、硫黄原子(S)を含有する5員環または6員環の芳香環基であり、炭素数2〜20の縮合多環芳香環基が挙げられる。このような複素環基としては、例えばチエニル基、フリル基、ピロリル基、ピリジル基、キノリル基、キノキサリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾチアゾール基が挙げられる。代表的なものとしては,1−ピロリル基、2−ピロリル基、3−ピロリル基、ピラジニル基、2−ピリジニル基、3−ピリジニル基、4−ピリジニル基、1−インドリル基、2−インドリル基、3−インドリル基、4−インドリル基、5−インドリル基、6−インドリル基、7−インドリル基、1−イソインドリル基、2−イソインドリル基、3−イソインドリル基、4−イソインドリル基、5−イソインドリル基、6−イソインドリル基、7−イソインドリル基、2−フリル基、3−フリル基、2−ベンゾフラニル基、3−ベンゾフラニル基、4−ベンゾフラニル基、5−ベンゾフラニル基、6−ベンゾフラニル基、7−ベンゾフラニル基、1−イソベンゾフラニル基、3−イソベンゾフラニル基、4−イソベンゾフラニル基、5−イソベンゾフラニル基、6−イソベンゾフラニル基、7−イソベンゾフラニル基、キノリル基、3−キノリル基、4−キノリル基、5−キノリル基、6−キノリル基、7−キノリル基、8−キノリル基、1−イソキノリル基、3−イソキノリル基、4−イソキノリル基、5−イソキノリル基、6−イソキノリル基、7−イソキノリル基、8−イソキノリル基、2−キノキサリニル基、5−キノキサリニル基、6−キノキサリニル基、1−カルバゾリル基、2−カルバゾリル基、3−カルバゾリル基、4−カルバゾリル基、9−カルバゾリル基、1−フェナンスリジニル基、2−フェナンスリジニル基、3−フェナンスリジニル基、4−フェナンスリジニル基、6−フェナンスリジニル基、7−フェナンスリジニル基、8−フェナンスリジニル基、9−フェナンスリジニル基、10−フェナンスリジニル基、1−アクリジニル基、2−アクリジニル基、3−アクリジニル基、4−アクリジニル基、9−アクリジニル基、などが挙げられる。
【0112】
R1〜R6が示すアミノ基を有する基としては、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、アラルキルアミノ基などのいずれでもよい。これらは、炭素数1〜6個の脂肪族炭化水素基および/または1〜4個の芳香環基を有することが好ましい。このような基としては、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基、ビスビフェニリルアミノ基、ジナフチルアミノ基が挙げられる。なお、上記置換基は2以上の置換基からなる縮合環を形成していてもよく、さらにその誘導体でもよい。
【0113】
式(12)に示した化合物の具体例としては、以下の式(12−1)〜式(12−51)などの化合物が挙げられる。
【0114】
【化40】

【0115】
【化41】

【0116】
【化42】

【0117】
一方、青色発光層16CBを構成する発光性ゲスト材料としては、発光効率が高い材料、例えば、低分子蛍光材料、りん光色素あるいは金属錯体等の有機発光材料が用いられる。
【0118】
ここで青色の発光性ゲスト材料とは、発光の波長範囲が約400nm〜490nmの範囲にピークを有する化合物を示す。このよう化合物として、ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、ナフタセン誘導体、スチリルアミン誘導体、ビス(アジニル)メテンホウ素錯体などの有機物質が用いられる。なかでも、アミノナフタレン誘導体、アミノアントラセン誘導体、アミノクリセン誘導体、アミノピレン誘導体、スチリルアミン誘導体、ビス(アジニル)メテンホウ素錯体から選択されることが好ましい。
【0119】
電子輸送層16Dは、赤色発光層16CR,緑色発光層16CG,青色発光層16CBへの電子輸送効率を高めるためのものであり、青色発光層16CB上の全面に共通層として設けられている。電子輸送層16Dの厚みは素子の全体構成にもよるが、例えば5nm〜300nmであることが好ましく、さらに好ましくは10nm〜200nmである。
【0120】
電子輸送層16Dの材料としては、優れた電子輸送能を有する有機材料を用いることが好ましい。発光層16C、特に赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGへの電子の輸送効率を高めることにより、後述する電界強度による赤色有機EL素子10Rおよび緑色有機EL素子10Gにおける発光色の変化が抑制される。このような有機材料としては、具体的には電子移動度が10-6cm2/Vs以上1.0×10-1cm2/Vs以下の含窒素複素環誘導体を用いることができる。
【0121】
更に具体的な材料としては、上記の式(6)〜式(8)で表わされるベンゾイミダゾール誘導体(式(6)),ピリジルフェニル誘導体(式(7)),ビピリジン誘導体(式(8))が挙げられる。更に具体的には、上記式(6−1)〜式(6−43)、式(7−1)〜式(7−81)および式(8−1)〜式(8−17)などの化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0122】
なお、電子輸送層16Dに用いる有機材料は上記化合物のようにアントラセン骨格を有する化合物が好ましいが、これに限らない。例えばアントラセン骨格に変えて、ピレン骨格またはクリセン骨格を備えたベンゾイミダゾール誘導体、ピリジルフェニル誘導体、ビピリジル誘導体を用いてもよい。また、電子輸送層16Dに用いる有機材料は1種類だけでなく、複数種類を混合または積層して用いてもよい。更にまた、上記化合物は後述する電子注入層16Eに用いてもよい。
【0123】
電子注入層16Eは、電子注入効率を高めるためのものであり、電子輸送層16Dの全面に共通層として設けられている。電子注入層16Eの材料としては、例えばリチウム(Li)の酸化物である酸化リチウム(LiO2)や、セシウム(Cs)の複合酸化物である炭酸セシウム(Cs2CO3)、さらにはこれらの酸化物及び複合酸化物の混合物を用いることができる。また、電子注入層16Eは、このような材料に限定されることはなく、例えば、カルシウム(Ca)、バリウム(Ba)等のアルカリ土類金属、リチウム、セシウム等のアルカリ金属、さらにはインジウム(In)、マグネシウム(Mg)等の仕事関数の小さい金属、さらにはこれらの金属の酸化物及び複合酸化物、フッ化物等を、単体でまたはこれらの金属および酸化物及び複合酸化物、フッ化の混合物や合金として安定性を高めて使用してもよい。更に、上記電子輸送層16Dの材料として挙げた式(6)〜式(8)に示した有機材料を用いてもよい。
【0124】
以上、有機層16を構成する各層について述べたが、有機層16全体の膜厚は、150nm以上500nm以下であることが望ましい。また、赤色有機EL素子10R、緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bの全面に共通して設けられた共通層16(青色発光層16CB,電子輸送層16Dおよび電子注入層16各層)の膜厚は100nm以上250nm以下とすることが望ましい。更に、個別層の膜厚(Dw)と共通層の膜厚(De)とは数式(1)で示される関係を満たすことが好ましい。理由を以下に説明する。
【0125】
(数1)
Dw>De×0.1・・・・・・・・(1)
【0126】
有機層16Cの膜厚が150nmより薄い場合には、欠陥などによる絶縁耐性の低下などにより有機層16Cでの局所的な短絡破壊の確率が増加し、有機EL素子の信頼性が低くなる。また、有機層16Cの膜厚の上限には特に規定はないが、例えば500nmより厚くした場合には有機EL素子を発光させるために必要な駆動電圧が増大し、発光効率の低下や寿命の低下が促進されるため現実的ではない。これらのことから、有機層16Cの膜厚は150nm以上500nm以下の範囲とすることが好ましい。
【0127】
各発光層16C(16CR,16CG,16CB)において生じる発光光hは、それぞれ赤色,緑色,青色の波長領域で発光強度を有している必要があり、有機層16は赤色,緑色,青色の取り出したい波長領域の全てに発光強度の極大を持ち、不要な波長領域の発光強度が小さい構成であることが望ましい。このような有機層16を用いることにより、必要な発光領域の光の取り出し効率が高く、色純度の高い有機EL表示装置1が得られる。有機層16の膜厚は、下部電極14と上部電極17との間が目的とする波長を共振させる共振部となるように詳細に設定されていることが重要である。
【0128】
また、各有機EL素子10(10R,10G,10B)において、下部電極14と上部電極17との間の共振部の光学的距離Lは、各有機EL素子10(10R,10G,10B)に設定した所望の波長領域の光が共振部の両端で共振する値にそれぞれ設定されている。このため、例えば共振部の両端において発光層16Cで発光した発光光hが反射する際に生じる位相シフトをφラジアン、共振部の光学的距離L、発光層で発光した発光光hのうち取り出したい光のスペクトルのピーク波長をλとした場合には、下記数式(2)を満たす範囲で共振部の光学的距離Lが構成されていることとする。この場合、光の取り出し効率を最大限とるためには、数式(2)のmは正の整数であることからLはこのmを満たす設定とする必要がある。
【0129】
(数2)
(2L)/λ+φ/(2π)=m・・・・・・・(2)
(φ;発光光hが反射する際に生じる位相シフト,L;共振部の光学的距離,m;正の整数)
【0130】
また、上部電極17と下部電極14との短絡を防止するためには、有機層16の膜厚を厚くする必要があるため、光学的距離Lを大きく取る必要がある。この際にはmを増加させて光学的距離Lを大きくする。従って、mを1以上とすることにより有機層16の広角的距離Lを厚くする。但し、赤色,緑色,青色の波長はそれぞれ異なるため光学的距離Lは異なる。光学的距離は異なるが、mの値は揃える必要があり、赤色のmをmR,緑色のmをmG,青色のmをmBとした場合には、mR=mG=mBとなるようにそれぞれの光学的距離Lを設定する。下部電極14および上部電極17を固定し、取り出したい波長λ(例えば、赤色λ=630nm,緑色λ=530nm,青色λ=460nm)は各有機EL素子10R,10G,10Bによって固定されるため、数式(2)のmは光学的距離Lによって規定される。
【0131】
本実施の形態の有機EL表示装置1は複数の有機EL素子10R,10G,10Bによって構成されており、これら有機EL素子10R,10G,10Bの有機層16Cは塗付法と蒸着法によって形成されている。塗付法は前述したように、成膜材料を溶媒に溶解させて素材(ここでは基板11)に塗布し、加熱処理を行って溶媒を除去する。このため膜厚の厳密な制御が難しく各有機EL素子ごとにおいて膜厚の差が生じる。これに対して、蒸着法は成膜材料を蒸発させて素材の表面に付着させるため、膜厚の制御が容易であり各有機EL素子における膜厚の差が生じにくい。
【0132】
有機EL表示装置では、共振部、即ち有機層16Cにおいて目的とする波長を得るためには、上述したように膜厚を厳密に設定する必要がある。しかしながら、高分子材料を蒸着法によって成膜することは難しく、正孔注入層16A(16AR,16AG,16AC)、正孔輸送層16B(16BR,16BG,16BB)および赤色発光層16CR,緑色発光層16CGは塗付法により形成する必要がある。但し、上記理由から塗付法によって形成した層(個別層)の膜厚を制御することは難しい。本実施の形態では、個別層の膜厚は薄くし、蒸着法によって形成した層(共通層)の比率を高くすることによって各有機EL素子10R,10G,10Bの膜厚のばらつきを抑えるものである。具体的には、光学的に効率よく各色の発光光を取り出せるように設定し、且つ共通層の膜厚を有機層16全体の膜厚に対して50%以上とすることによって表示品位が高く、表示領域において均一な発光を得ることができるようになる。
【0133】
なお、各正孔注入層16A(16AR,16AG,16AC)、各正孔輸送層(16BR,16BG,16BB)および赤色発光層16CR,緑色発光層16CGが機能するための最低限の膜厚は30nm以上とすることが好ましい。
【0134】
以上より、有機層16全体の膜厚は、150nm以上500nm以下であることが望ましく、塗付法により形成される個別層の膜厚(Dw)よりも蒸着法によって形成される共通層の膜厚(De)を厚くすることが好ましい。また、個別層と共通層との関係は上記数式(1)を満たすように調整することが好ましい。
【0135】
上部電極17は、例えば、厚みが2nm以上15nm以下であり、金属導電膜により構成されている。具体的には、上部電極17を陽極として用いる場合には、Ni,Ag,Au,Pt,パラジウム(Pd),セレン(Se),ロジウム(Rh),ルテニウム(Ru),イリジウム(Ir),レニウム(Re),W,モリブデン(Mo),Cr,タンタル(Ta),ニオブ(Nb)およびこれらの合金、あるいはSnOx,ITO,ZnOx,TiO等の仕事関数の大きな導電性材料が挙げられる。また、上部電極17を陰極として用いる場合には、リチウム(Li),Mg,カルシウム(Ca)等の活性な金属と、Ag,Al,インジウム(In)等の金属との合金等の仕事関数の小さな導電性材料が挙げられる。また、上記金属および導電性材料を積層した構造としてもよい。また、上部電極17と電子注入層16Eとの間に、例えばLi,Mg,Ca等の活性な金属とフッ素(F),臭素(Br)等のハロゲン元素や酸素との化合物層を挿入してもよい。
【0136】
更に、上部電極17は、アルミキノリン錯体、スチリルアミン誘導体、フタロシアニン誘導体等の有機発光材料を含有した混合層でもよい。この場合には、さらに第3層としてMgAgのような光透過性を有する層を別途有していてもよい。なお、上部電極17は、アクティブマトリックス駆動方式の場合、有機層16と隔壁15とによって、下部電極14と絶縁された状態で基板11上にベタ膜状に形成され、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの共通電極として用いられる。なお、トップエミッション型の場合には上部電極17は有機層16で生じた光を取り出す側となるため、光透過率は膜厚等で調整される。また、上部電極17の反射率は0.1%以上50%未満であることが好ましい。これにより、微小共振器構造の共振強度が適切な条件となり、表示装置の正面取り出し光の色選択性と光強度とが大きくなると共に、輝度および色度の視野角依存性を低く保つことができる。
【0137】
保護層30は、例えば厚みが2〜3μmであり、絶縁性材料または導電性材料のいずれにより構成されていてもよい。絶縁性材料としては、無機アモルファス性の絶縁性材料、例えばアモルファスシリコン(α−Si),アモルファス炭化シリコン(α−SiC),アモルファス窒化シリコン(α−Si1-xx)、アモルファスカーボン(α−C)などが好ましい。このような無機アモルファス性の絶縁性材料は、グレインを構成しないため透水性が低く、良好な保護膜となる。
【0138】
封止用基板40は、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの上部電極17の側に位置しており、接着層(図示せず)と共に赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bを封止するものである。封止用基板40は、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bで発生した光に対して透明なガラスなどの材料により構成されている。封止用基板40には、例えば、カラーフィルタおよびブラックマトリクスとしての遮光膜(いずれも図示せず)が設けられており、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bで発生した光を取り出すと共に、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10B並びにその間の配線において反射された外光を吸収し、コントラストを改善するようになっている。
【0139】
カラーフィルタは、赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタ(いずれも図示せず)を有しており、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bに対応して順に配置されている。赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、それぞれ例えば矩形形状で隙間なく形成されている。これら赤色フィルタ,緑色フィルタおよび青色フィルタは、顔料を混入した樹脂によりそれぞれ構成されており、顔料を選択することにより、目的とする赤,緑あるいは青の波長域における光透過率が高く、他の波長域における光透過率が低くなるように調整されている。
【0140】
更に、カラーフィルタにおける透過率の高い波長範囲と、共振器構造MC1から取り出したい光のスペクトルのピーク波長λとは一致している。これにより、封止用基板40から入射する外光のうち、取り出したい光のスペクトルのピーク波長λに等しい波長を有するもののみがカラーフィルタを透過し、その他の波長の外光が各色の有機EL素子10R,10G,10Bに侵入することが防止される。
【0141】
遮光膜は、例えば黒色の着色剤を混入した光学濃度が1以上の黒色の樹脂膜、または薄膜の干渉を利用した薄膜フィルタにより構成されている。このうち黒色の樹脂膜により構成するようにすれば、安価で容易に形成することができるので好ましい。薄膜フィルタは、例えば、金属,金属窒化物あるいは金属酸化物よりなる薄膜を1層以上積層し、薄膜の干渉を利用して光を減衰させるものである。薄膜フィルタとしては、具体的には、Crと酸化クロム(III)(Cr23)とを交互に積層したものが挙げられる。
【0142】
この有機EL表示装置1は、例えば次のようにして製造することができる。
【0143】
図4は、この有機EL表示装置1の製造方法の流れを表したものであり、図5ないし図7は図4に示した製造方法を工程順に表したものである。まず、上述した材料よりなる基板11の上に駆動トランジスタTr1を含む画素駆動回路140を形成し、例えば感光性樹脂よりなる平坦化絶縁膜(図示せず)を設ける。
【0144】
(下部電極14を形成する工程)
次いで、基板11の全面に例えばITOよりなる透明導電膜を形成し、この透明導電膜をパターニングすることにより、図5(A)に示したように、下部電極14を赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bの各々ごとに形成する(ステップS101)。その際、下部電極14を、平坦化絶縁膜(図示せず)のコンタクトホール(図示せず)を介して駆動トランジスタTr1のドレイン電極と導通させる。
【0145】
(隔壁15を形成する工程)
続いて、同じく図5(A)に示したように、下部電極14上および平坦化絶縁膜(図示せず)上に、例えばCVD(Chemical Vapor Deposition;化学気相成長)法により、SiO2等の無機絶縁材料を成膜し、フォトリソグラフィ技術およびエッチング技術を用いてパターニングすることにより、下部隔壁15Aを形成する。
【0146】
そののち、同じく図5(A)に示したように、下部隔壁15Aの所定位置、詳しくは画素の発光領域を囲む位置に、上述した感光性樹脂よりなる上部隔壁15Bを形成する。これにより、上部隔壁15Aおよび下部隔壁15Bよりなる隔壁15が形成される(ステップS102)。
【0147】
隔壁15を形成したのち、基板11の下部電極14および隔壁15を形成した側の表面を酸素プラズマ処理し、その表面に付着した有機物等の汚染物を除去して濡れ性を向上させる。具体的には、基板11を所定温度、例えば70〜80℃程度に加熱し、続いて大気圧下で酸素を反応ガスとするプラズマ処理(O2プラズマ処理)を行う。
【0148】
(撥水化処理を行う工程)
プラズマ処理を行ったのち、撥水化処理(撥液化処理)を行う(ステップS103)ことにより、特に上部隔壁15Bの上面及び側面の濡れ性を低下させる。具体的には、大気圧下で4フッ化メタンを反応ガスとするプラズマ処理(CF4プラズマ処理)を行い、その後、プラズマ処理のために加熱された基板11を室温まで冷却することで、上部隔壁15Bの上面及び側面を撥液化し、その濡れ性を低下させる。
【0149】
なお、このCF4プラズマ処理においては、下部電極14の露出面および下部隔壁15Aについても多少の影響を受けるが、下部電極14の材料であるITOおよび下部隔壁15Aの構成材料であるSiO2などはフッ素に対する親和性に乏しいため、酸素プラズマ処理で濡れ性が向上した面は濡れ性がそのままに保持される。
【0150】
(正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する工程)
撥水化処理を行ったのち、図5(B)に示したように、上部隔壁15Bに囲まれた領域内に、上述した材料よりなる正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する(ステップS104)。この正孔注入層16AR,16AG,16ABは、スピンコート法や液滴吐出法などの塗布法により形成する。特に、上部隔壁15Bに囲まれた領域に正孔注入層16AR,16AG,16ABの形成材料を選択的に配する必要上、液滴吐出法であるインクジェット方式や、ノズルコート方式を用いることが好ましい。
【0151】
具体的には、例えばインクジェット方式により、正孔注入層16AR,16AG,16ABの形成材料であるポリアニリンやポリチオフェン等の溶液または分散液を下部電極14の露出面上に配する。その後、熱処理(乾燥処理)を行うことにより、正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成する。
【0152】
熱処理においては、溶媒または分散媒を乾燥後、高温で加熱する。ポリアニリンやポリチオフェン等の導電性高分子を用いる場合、大気雰囲気、もしくは酸素雰囲気が好ましい。酸素による導電性高分子の酸化により、導電性が発現しやすくなるためである。
【0153】
加熱温度は、150℃〜300℃が好ましく、さらに好ましくは180℃〜250℃である。時間は、温度、雰囲気にもよるが、5分〜300分程度が好ましく、さらに好ましくは、10分〜240分である。この乾燥後の膜厚みは、5nm〜100nmが好ましい。さらに好ましくは、8nm〜50nmである。
【0154】
(赤色有機EL素子10Rおよび緑色有機EL素子10Gの正孔輸送層16BR,16BGを形成する工程)
正孔注入層16AR,16AG,16ABを形成したのち、図5(C)に示したように、正孔注入層16AR,16AGの上に、上述した高分子材料よりなる正孔輸送層16BR,16BGを赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gの各々ごとに形成する(ステップS105)。この正孔輸送層16BR,16BGは、スピンコート法や液滴吐出法などの塗布法により形成する。特に、上部隔壁15Bに囲まれた領域に正孔輸送層16BR,16BGの形成材料を選択的に配する必要上、液滴吐出法であるインクジェット方式や、ノズルコート方式を用いることが好ましい。
【0155】
具体的には、例えばインクジェット方式により、正孔輸送層16BR,16BGの形成材料である高分子ポリマーおよび低分子材料の混合溶液または分散液を正孔注入層16AR,16AGの露出面上に配する。その後、熱処理(乾燥処理)を行うことにより、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gの正孔輸送層16BR,16BGを形成する。
【0156】
熱処理においては、溶媒または分散媒を乾燥後、高温で加熱する。塗布する雰囲気や溶媒を乾燥、加熱する雰囲気としては、窒素(N2)を主成分とする雰囲気中が好ましい。酸素や水分があると、作成された有機EL表示装置の発光効率や寿命が低下する虞がある。特に、加熱工程においては、酸素や水分の影響が大きいため、注意が必要である。酸素濃度は、0.1ppm以上100ppm以下が好ましく、50ppm以下であればより好ましい。100ppmより多い酸素があると、形成した薄膜の界面が汚染され、得られた有機EL表示装置の発行効率や寿命が低下する虞がある。また、0.1ppm未満の酸素濃度の場合、素子の特性は問題ないが、現状の量産のプロセスとして、雰囲気を0.1ppm未満に保持するための装置コストが多大になる可能性がある。
【0157】
また、水分については、露点が例えば−80℃以上−40℃以下であることが好ましい。更に、−50℃以下であればより好ましく、−60℃以下であれば更に好ましい。−40℃より高い水分があると、形成した薄膜の界面が汚染され、得られた有機EL表示装置の発光効率や寿命が低下する虞がある。また、−80℃未満の水分の場合、素子の特性は問題ないが、現状の量産のプロセスとして、雰囲気を−80℃未満に保持するための装置コストが多大になる可能性がある。
【0158】
加熱温度は、100℃〜230℃が好ましく、さらに好ましくは100℃〜200℃である。少なくとも、正孔注入層16AR,16AG,16AB形成時の温度よりも低いことが好ましい。時間は、温度、雰囲気にもよるが、5分〜300分程度が好ましく、さらに好ましくは、10分〜240分である。乾燥後の膜厚みは、素子の全体構成にもよるが、10nm〜200nmが好ましい。さらに、15nm〜150nmであればより好ましい。
【0159】
(赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGを形成する工程)
赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gの正孔輸送層16BR,16BGを形成したのち、図6(A)に示したように、赤色有機EL素子の正孔輸送層16BRの上に上述した高分子材料および低分子材料の混合材料よりなる赤色発光層16CRを形成する。また、緑色有機EL素子の正孔輸送層16BGの上に上述した高分子材料および低分子材料の混合材料よりなる緑色発光層16CGを形成する(ステップS106)。赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGは、スピンコート法や液滴吐出法などの塗布法により形成する。特に、上部隔壁15Bに囲まれた領域に赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGの形成材料を選択的に配する必要上、液滴吐出法であるインクジェット方式や、ノズルコート方式を用いることが好ましい。
【0160】
具体的には、例えばインクジェット方式により、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGの形成材料である高分子材料および低分子材料を、例えば1重量%になるように、キシレンとシクロヘキシルベンゼンを2:8に混合した溶媒に溶解した混合溶液または分散液を正孔輸送層16BR,16BGの露出面上に配する。その後、上記赤色有機EL素子10Rおよび緑色有機EL素子10Gの正孔輸送層16BR,16BGを形成する工程で説明した熱処理(乾燥処理)と同様の方法および条件の熱処理を行うことにより、赤色発光層16BRおよび緑色発光層16BGを形成する。
【0161】
(青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BBを形成する工程)
赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGを形成したのち、図6(B)に示したように、青色有機発光素子10B用の正孔注入層16ABの上に、上述した低分子材料よりなる正孔輸送層16BBを形成する(ステップS107)。正孔輸送層16BBは、スピンコート法や液滴吐出法などの塗布法により形成する。特に、上部隔壁15Bに囲まれた領域に正孔輸送層16BBの形成材料を選択的に配する必要上、液滴吐出法であるインクジェット方式や、ノズルコート方式を用いることが好ましい。
【0162】
具体的には、例えばインクジェット方式により、正孔輸送層16BBの形成材料である低分子の溶液または分散液を正孔注入層16ABの露出面上に配する。その後、上記赤色有機EL素子10Rおよび緑色有機EL素子10Gの正孔輸送層16BR,16BGを形成する工程で説明した熱処理(乾燥処理)と同様の方法および条件の熱処理を行うことにより、正孔輸送層16BBを形成する。
【0163】
(工程の順序について)
赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gの正孔輸送層16BR,16BGを形成する工程と、青色有機EL素子10Bの正孔輸送層16BBを形成する工程と、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGを形成する工程とは、いずれの順番で行ってもよいが、少なくとも、形成する層を展開する下地が先に形成されており、加熱乾燥各工程の加熱工程を経ていることが必要である。また、加熱工程時の温度が、前工程よりも少なくとも同等もしくは低い温度で行うように、塗布する必要がある。例えば、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGの加熱温度が、130℃であり、青色有機EL素子10B用の正孔輸送層16BBの加熱温度が同じ130℃である場合、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGの塗布を行い、乾燥せずに、続けて、青色有機EL素子10B用の正孔輸送層16BBの塗布をした後、赤色発光層16CR,緑色発光層16CGおよび青色有機EL素子10B用の正孔輸送層16BBの乾燥、加熱工程を行ってもよい。
【0164】
また、上記各工程において、乾燥と加熱とは別個の工程として分けて行うことが好ましい。理由として、乾燥工程では、塗布したウエット膜が、非常に流動しやすいために、膜ムラが起きやすいからである。好ましい乾燥工程は、常圧で均一に真空乾燥する方法であり、さらに、乾燥中に風などをあてずに乾燥させることが望ましい。加熱工程では、ある程度、溶媒が飛んで流動性が低下し、硬化した膜になっており、そこからゆっくりと、熱をかけることにより、微量に残存している溶媒を取り除いたり、発光材料や正孔輸送層の材料を分子レベルで再配列を起こさせることが可能となる。
【0165】
(青色発光層16CBを形成する工程)
赤色発光層16CR、緑色発光層16CGおよび青色正孔輸送層16BBを形成したのち、図6(C)に示したように、蒸着法により、上記各層16CR,16CG,16BBの全面に、上述した低分子材料よりなる青色発光層16CBを共通層として形成する(ステップS108)。
【0166】
(電子輸送層16D,電子注入層16Eおよび上部電極17を形成する工程)
青色発光層16CBを形成したのち、図7(A),図7(B)および図7(C)に示したように、この青色発光層16CBの全面に、蒸着法により、上述した材料よりなる電子輸送層16D,電子注入層16Eおよび上部電極17を形成する(ステップS109,S110,S111)。
【0167】
上部電極17を形成したのち、図3に示したように、下地に対して影響を及ぼすことのない程度に、成膜粒子のエネルギーが小さい成膜方法、例えば蒸着法やCVD法により、保護層30を形成する。例えば、アモルファス窒化シリコンからなる保護層30を形成する場合には、CVD法によって2〜3μmの膜厚に形成する。この際、有機層16の劣化による輝度の低下を防止するため、成膜温度を常温に設定すると共に、保護層30の剥がれを防止するために膜のストレスが最小になる条件で成膜することが望ましい。
【0168】
青色発光層16CB,電子輸送層16D,電子注入層16E,上部電極17および保護層30は、マスクを用いることなく全面にベタ膜として形成される。また、青色発光層16CB,電子輸送層16D,電子注入層16E,上部電極17および保護層30の形成は、望ましくは、大気に暴露されることなく同一の成膜装置内において連続して行われる。これにより大気中の水分による有機層16の劣化が防止される。
【0169】
なお、下部電極14と同一工程で補助電極(図示せず)を形成した場合、補助電極の上部にベタ膜で形成された有機層16を、上部電極17を形成する前にレーザアブレーションなどの手法によって除去してもよい。これにより上部電極17を補助電極に直接接続させることが可能となり、接触性が向上する。
【0170】
保護層30を形成したのち、例えば、上述した材料よりなる封止用基板40に、上述した材料よりなる遮光膜を形成する。続いて、封止用基板40に赤色フィルタ(図示せず)の材料をスピンコートなどにより塗布し、フォトリソグラフィ技術によりパターニングして焼成することにより赤色フィルタを形成する。続いて、赤色フィルタ(図示せず)と同様にして、青色フィルタ(図示せず)および緑色フィルタ(図示せず)を順次形成する。
【0171】
そののち、保護層30の上に、接着層(図示せず)を形成し、この接着層を間にして封止用基板40を貼り合わせる。以上により図1ないし図3に示した有機EL表示装置1が完成する。
【0172】
この有機EL表示装置1では、各画素に対して走査線駆動回路130から書き込みトランジスタTr2のゲート電極を介して走査信号が供給されると共に、信号線駆動回路120から画像信号が書き込みトランジスタTr2を介して保持容量Csに保持される。すなわち、この保持容量Csに保持された信号に応じて駆動トランジスタTr1がオンオフ制御され、これにより、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bに駆動電流Idが注入され、正孔と電子とが再結合して発光が起こる。この光は、下面発光(ボトムエミッション)の場合には下部電極14および基板11を透過して、上面発光(トップエミッション)の場合には上部電極17,カラーフィルタ(図示せず)および封止用基板40を透過して取り出される。
【0173】
従来用いられている各有機EL素子では、前述したように塗付法における溶媒除去のための加熱処理等による溶媒の除去工程が必要なため、膜厚の制御が難しく膜厚のずれが発生する。この膜厚ずれにより発光効率の低下や発光スペクトルの変化が発生していた。また、有機EL素子ごとにおいて膜厚にばらつきが生じるため、複数の有機EL素子で構成される有機EL表示装置では輝度むらおよび色むらが生じていた。
【0174】
これに対して本実施の形態では、青色発光層16CB,電子輸送層16Dおよび電子注入層16E等の共通層を膜厚の制御が容易な蒸着法により形成する一方、各色の正孔注入層16AR,16AG,16AB、正孔輸送層16BR,16BG,16BB、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CG等の個別層を塗付法により形成し、共通層の膜厚を塗付法により形成される個別層の膜厚よりも厚くなるようにしたため、各有機EL素子10R,10G,10Bの膜厚のばらつきが低減される。即ち、有機EL表示装置1を構成する複数の有機EL表示素子における発光効率および色度のばらつきが抑えられる。
【0175】
このように、本実施の形態の有機EL表示装置1では、蒸着法により形成される共通層の膜厚を塗付法により形成される個別層の膜厚よりも厚くなるようにしたので、各有機EL素子10R,10G,10Bの膜厚のばらつきが低減される。従って、各有機EL素子10R,10G,10Bごとの発光効率の差および色度ずれを抑えることが可能となる。即ち、各有機EL素子10R,10G,10Bの膜厚の不均一さによって生じる表示領域内の輝度むらおよび色むらが低減され、有機EL表示装置の高品位のディスプレイを作製することが可能となる。
【0176】
(第2の実施の形態)
以下、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同一の構成要素については同一符号を付してその説明は省略する。本発明の第2の実施の形態に係る有機EL表示装置の全体構成は図示しないが、第1の実施の形態と同様に、例えば基板11の上に複数の赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20G,青色有機EL素子20Bがマトリクス状に配置された表示領域が形成されている。表示領域内には画素駆動回路が設けられている。
【0177】
また、表示領域には、赤色の光を発生する赤色有機EL素子20Rと、緑色の光を発生する緑色有機EL素子20Gと、青色の光を発生する青色有機EL素子20Bとが、順に全体としてマトリクス状に配置されている。なお、隣り合う赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20G,青色有機EL素子20Bの組み合わせが一つの画素(ピクセル)を構成している。
【0178】
また、表示領域の周辺には第1の実施の形態と同様に、映像表示用のドライバである信号線駆動回路および走査線駆動回路が設けられている。
【0179】
図8は第2の実施の形態における有機EL表示装置2の表示領域の断面構成を表したものである。赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20G,青色有機EL素子20Bは、第1の実施の形態と同様に、それぞれ、基板11の側から、画素駆動回路の駆動トランジスタTr1および平坦化絶縁膜(図示せず)を間にして、陽極としての下部電極14、隔壁15、後述する発光層26Cを含む有機層26および陰極としての上部電極17がこの順に積層された構成を有している。有機層26を除く基板11,下部電極14,隔壁15,上部電極17,保護層30および封止用基板40は第1の実施の形態と同様の構成であり、蒸着法により形成される共通層の膜厚を塗付法により形成される個別層の膜厚よりも厚くなるようにしている。
【0180】
本実施の形態における有機EL表示装置2は、青色発光層26CBが青色有機EL素子20Bにのみ設けられている点が第1の実施の形態と異なる。即ち、本実施の形態の有機EL表示装置2では、個別層は各正孔注入層26A(26AR,26AG,26AB)、各正孔輸送層26B(26BR,26BG,26BB)および各発光層26C(26CR,26CG,26CB)であり、共通層は電子輸送層26Dおよび電子注入層26Eである。
【0181】
具体的には、赤色有機EL素子20Rの有機層26は、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層26AR,正孔輸送層26BR,赤色発光層26CR,電子輸送層26Dおよび電子注入層26Eを積層した構成を有する。緑色有機EL素子20G(および青色有機EL素子20B)の有機層26も赤色有機EL素子20Rと同様に、例えば、下部電極14の側から順に、正孔注入層26AG(26AB),正孔輸送層26B(26BB)G,緑色発光層26CG(青色発光層26CB),電子輸送層26Dおよび電子注入層26Fを積層した構成を有する。
【0182】
青色発光層26CBは、第1の実施の形態において説明した赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGに用いた同様の材料を用いることができ、塗付法によって形成される。また、有機発光層26CBの厚みも上記赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGと同様に例えば10nm〜200nmであることが好ましく、さらに好ましくは15nm〜150nmである。なお、青色発光層16CBに用いられる高分子材料としては式(13)で表わされるAmerican Dye Source社製の商品名ADS136BE(商標)や式(14)で表わされる青色りん光発光材料を用いることができる。
【0183】
【化43】

【0184】
【化44】

【0185】
有機EL表示装置2は、図9に示した流れ図のように上記第1の実施の形態で記載したステップS104とステップS109との間に、ステップS201(赤色,緑色,青色の正孔輸送層26BR,26BG,26BBの形成)、ステップS202(発光層26CR,26CG,26CBの形成)をこの順に加えることにより製造することができる。
【0186】
(正孔輸送層26BR,26BG,26BBを形成する工程)
正孔注入層26AR,26AG,26ABを形成したのち、正孔注入層26AR,26AG,26ABの上に、上述した高分子材料および低分子材料を含む正孔輸送層26BR,26BG,26BBを赤色有機EL素子20R,緑色有機EL素子20Gおよび青色有機EL素子20Bの各々ごとに塗付法により形成する(ステップS201)。
【0187】
(赤色発光層26CR,緑色発光層26CGおよび青色発光層26CBを形成する工程)
正孔輸送層26BR,26BG,26BBを形成したのち、赤色有機EL素子20Rの正孔輸送層26BRの上に上述した高分子材料および低分子材料の混合材料よりなる赤色発光層26CRを塗付法により形成する。また、同様に緑色有機EL素子20Gおよび青色有機EL素子20Bの正孔輸送層26BG,26BBの上にそれぞれ上述した高分子材料および低分子材料の混合材料よりなる緑色発光層26CGおよび青色発光層26CBを塗付法により形成する(ステップS202)。
【0188】
以上のように、本実施の形態の有機EL表示装置2では、青色発光層26CBを塗付法によって青色有機EL素子20Bにのみ設けるようにした。このような構成の有機EL表示装置2においても、蒸着法により形成される共通層26bの膜厚を塗付法により形成される個別層26aの膜厚よりも厚くすることによって第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0189】
(モジュールおよび適用例)
以下、上記実施の形態で説明した有機EL表示装置の適用例について説明する。上記実施の形態の有機EL表示装置は、テレビジョン装置,デジタルカメラ,ノート型パーソナルコンピュータ、携帯電話等の携帯端末装置あるいはビデオカメラなど、外部から入力された映像信号あるいは内部で生成した映像信号を、画像あるいは映像として表示するあらゆる分野の電子機器の表示装置に適用することが可能である。
【0190】
(モジュール)
上記実施の形態の有機EL表示装置は、例えば、図10に示したようなモジュールとして、後述する適用例1〜5などの種々の電子機器に組み込まれる。このモジュールは、例えば、基板11の一辺に、保護層30および封止用基板40から露出した領域210を設け、この露出した領域210に、信号線駆動回路120および走査線駆動回路130の配線を延長して外部接続端子(図示せず)を形成したものである。外部接続端子には、信号の入出力のためのフレキシブルプリント配線基板(FPC;Flexible Printed Circuit)220が設けられていてもよい。
【0191】
(適用例1)
図11は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるテレビジョン装置の外観を表したものである。このテレビジョン装置は、例えば、フロントパネル310およびフィルターガラス320を含む映像表示画面部300を有しており、この映像表示画面部300は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0192】
(適用例2)
図12は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるデジタルカメラの外観を表したものである。このデジタルカメラは、例えば、フラッシュ用の発光部410、表示部420、メニュースイッチ430およびシャッターボタン440を有しており、その表示部420は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0193】
(適用例3)
図13は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるノート型パーソナルコンピュータの外観を表したものである。このノート型パーソナルコンピュータは、例えば、本体510,文字等の入力操作のためのキーボード520および画像を表示する表示部530を有しており、その表示部530は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0194】
(適用例4)
図14は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用されるビデオカメラの外観を表したものである。このビデオカメラは、例えば、本体部610,この本体部610の前方側面に設けられた被写体撮影用のレンズ620,撮影時のスタート/ストップスイッチ630および表示部640を有しており、その表示部640は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0195】
(適用例5)
図15は、上記実施の形態の有機EL表示装置が適用される携帯電話機の外観を表したものである。この携帯電話機は、例えば、上側筐体710と下側筐体720とを連結部(ヒンジ部)730で連結したものであり、ディスプレイ740,サブディスプレイ750,ピクチャーライト760およびカメラ770を有している。そのディスプレイ740またはサブディスプレイ750は、上記実施の形態に係る有機EL表示装置により構成されている。
【0196】
(実施例1)
赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10Gおよび青色有機EL素子10Bそれぞれを、25mm×25mmの基板11上に作製した。
【0197】
まず、基板11としてガラス基板(25mm×25mm)を用意し、この基板11に、下部電極14として、厚み120nmのAlおよびネオジウム(Nd)よりなるAl−Nd合金層を成膜した。こののち、フォトリソグラフィにて、R,G,Bの画素を形成するためにパターニングを行い、ウェットエッチングを実施したのちフォトレジストを剥離し下部電極14を形成した(ステップS101)。
【0198】
次に、各画素を隔てる隔壁15としてCVD(Chemical Vapor Deposition)にて50nmの厚みでSiO2を成膜し、フォトリソグラフィによりパターニング、ドライエッチングを実施したのちフォトレジストを除去した(ステップS102)。
【0199】
続いて、正孔注入層16AR,16AG,16ABとして、大気中でスピンコート法により、ND1501(日産化学製ポリアニリン)を15nmの厚みで塗布したのち、220℃、30分間、ホットプレート上で熱硬化させた(ステップS104)。
【0200】
そののち、N2雰囲気下(露点−60℃、酸素濃度10ppm)において、正孔注入層16AR,16AGの上に、正孔輸送層16BR,16BGとして、式(15)に示したポリマー(ポリビニルカルバゾール)をスピンコート法により塗布した。厚みは、赤色有機EL素子10R用の正孔輸送層16BRについては150nm、緑色有機EL素子10G用の正孔輸送層16BGについては20nmとした。そののち、N2雰囲気下(露点−60℃、酸素濃度10ppm)において、180℃、60分、ホットプレート上で熱硬化させた(ステップS105)。
【0201】
【化45】

【0202】
正孔輸送層16BR,16BGを形成したのち、赤色有機EL素子10Rの正孔輸送層10BRの上に赤色発光層16CRとしてベンゾチアジアゾールをブロックに持つフルオレノン系ポリアリーレン材料に、例えば式(4−6)に示した低分子材料を重量比2:1の割合で混合した混合材料をキシレンに溶解させ、80nmの厚みでスピンコート法により塗布した。また、緑色有機EL素子10Gの正孔輸送層16BGの上に緑色発光層16CGとしてアントラセンをブロックに持つフルオレノン系ポリアリーレン材料に、例えば式(4−6)に示した低分子材料を重量比2:1の割合で混合した混合材料をキシレンに溶解させ、80nmの厚みでスピンコート法により塗布した。続いて、N2雰囲気下(露点−60℃、酸素濃度10ppm)において、130℃、10分、ホットプレート上で熱硬化させた(ステップS106)。
【0203】
赤色発光層16CR,緑色発光層16CGを形成したのち、青色有機EL素子10B用の正孔注入層16ABの上に正孔輸送層16BBとして、例えば式(4−38)に示した低分子材料を50nmの厚みでスピンコート法により塗布した。そののち、N2雰囲気下(露点−60℃、酸素濃度10ppm)において、100℃、60分、ホットプレート上で加熱した(ステップS107)。
【0204】
正孔輸送層16BBを形成したのち、赤色発光層16CRまで形成した赤色有機EL素子10R用の基板11と、緑色発光層16CGまで形成した緑色有機EL素子10G用の基板11と、正孔輸送層16BBまで形成した青色有機EL素子10B用の基板11とを真空蒸着機に移動させ、共通正孔輸送層16D以降の層を形成した。
【0205】
まず、青色発光層16CBとして式(12−20)に示したADN(9,10−ジ(2−ナフチル)アントラセン)と、式(16)に示した青色ドーパントとを重量比95:5の割合で共蒸着した(ステップS108)。
【0206】
【化46】

【0207】
続いて、青色発光層16CBを形成したのち、電子輸送層16Dとして、例えば式(7−15)に示した有機材料を真空蒸着法により、150nmの厚みで蒸着させた(ステップS109)。続いて、同じく蒸着法により、電子注入層16EとしてLiFを0.3nmの厚みで成膜し(ステップS110)、上部電極17としてMg−Agを10nmの厚みで形成した(ステップS111)。最後に、CVD法によりSiNよりなる保護層30を形成し、透明樹脂を用いて固体封止を行った。
【0208】
以上のようにして得られた赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bを種作製したのち、個別層の膜厚(Dw)よりも共通層の膜厚(De)が厚い、即ちDw<Deのサンプルを実施例とし、個別層の膜厚(Dw)よりも共通層の膜厚(De)が薄い、即ちDw>Deのサンプルを比較例とした。更に、実施例および比較例の発光スペクトル、電流密度10mA/cm2での駆動時における発光効率(cd/A)、色度座標(x,y)を測定した。また、パネル面内において観察された色度ずれについてUSC色度(u’,v’)を測定してその差Δu’v’を算出して、面内で観察される色度変化を確認した。USC色度はxy色度よりも色度図上での距離と人間の感覚が均等であり、発光色の変化の度合いを見る指標として適している。
【0209】
表1は比較例、表2は実施例における膜厚比および測定結果の一覧である。表3は比較例1−1,1−2および実施例1−1,1−2における全体の輝度差および色度の差の一覧である。図16は、標準サンプル、比較例および実施例における赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bそれぞれの色度の分布を表した特性図である。なお、標準サンプルとは各設定膜厚に対して適切に光学設計された膜厚を有するものである。
【0210】
【表1】

【0211】
【表2】

【0212】
【表3】

【0213】
表1および表2からわかるように、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bそれぞれにおいて、個別層よりも共通層の膜厚を厚くしたことにより、標準サンプルに対する発光効率の差および色度のずれが小さいことがわかる。赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bにおける比較例(表1)では標準サンプルに対する発光スペクトルのずれが大きいのに対し、実施例(表2)では標準サンプルに対する発光効率のずれは非常に小さい。また、表3からわかるように、赤色有機EL素子10R,緑色有機EL素子10G,青色有機EL素子10Bにおける輝度差および色度の差が小さくなったことがわかる。特に現在流通している有機EL表示装置の輝度差が20%前後であることを考慮すると、複数の有機EL素子ごとの発光効率の差が十分に低減されているといえる。即ち、膜厚の制御が容易となるため有機EL素子ごとの膜厚のばらつきが低減され、素子間の発光効率の差および色度のずれを抑えられた。
【0214】
なお、以上のような効果は上記実施例に示した青色発光層16DBを共通層として蒸着法によって形成した場合に限らず、青色発光層16CBを個別層として塗付法によって形成した場合においても同様に得られた。また、実施例では塗付法としてスピンコート方式を用いて形成したが、塗付方式は限定しない。インクジェット方式、ノズルジェット方式、オフセット方式、フレキソ方式、グラビア方式または凸版方式等の各種印刷方式並びにスプレイコート等によって有機EL材料を噴霧し、高精細のマスク等で塗訳を行う噴霧方式を用いて形成した有機EL表示装置でも本実施例の結果と同様の結果が得られた。
【0215】
以上、実施の形態および実施例を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態および実施例に限定されるものではなく、種々変形が可能である。
【0216】
例えば、上記実施の形態および実施例において説明した各層の材料および厚み、または成膜方法および成膜条件などは限定されるものではなく、他の材料および厚みとしてもよく、または他の成膜方法および成膜条件としてもよい。
【0217】
また、上記実施例1、2では青色正孔輸送層16BBとして低分子材料(モノマー)を用いたがこれに限らず、重合化されたオリゴマー材料や高分子材料を用いてもよい。なお、スピンコート方式やインクジェット方式等の塗付法において低分子材料を用いた場合には、一般的に塗布する溶液の粘度が小さくなってしまうため膜厚の調整範囲が限定されてしまうことがある。この問題は、分子量を増加させたオリゴマー材料やポリマー材料を用いることによって解決する。
【0218】
更に、上記実施の形態および実施例では赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGに低分子材料を添加して正孔輸送特性を向上させたが、赤色発光層16CRおよび緑色発光層16CGを構成する高分子材料として正孔輸送を担う構造部や置換基を有する高分子材料を用いることによっても同様の効果を得ることができる。
【0219】
また、上記実施の形態および実施例では、有機EL素子10R,10G,10Bの構成を具体的に挙げて説明したが、全ての層を備える必要はなく、また、他の層を更に備えていてもよい。例えば青色有機EL素子16B,26Bの正孔輸送層16BB,26BBを省き、正孔注入層16AB,26AB上に直接共通正孔輸送層26Dを設けてもよい。これにより製造工程数が削減されると共に、コストを抑えることも可能となる。また、それぞれ個別層26aとして形成した赤色発光層26CR,緑色発光層26CG,青色発光層26CBと共通層26bである電子輸送層26Dとの間にホールブロック特性を有する層を共通層として設けてもよい。これにより、電子輸送層26Dへの正孔の移動が抑制され、発光効率が向上すると共に、発光領域の移動による色度の変化も抑制される。
【0220】
また、上記実施の形態および実施例では、青色以外の有機EL素子として赤色および緑色の有機EL素子を備えた表示装置について説明したが、例えば本発明は青色有機EL素子と黄色有機EL素子からなる表示装置への適用も可能である。
【0221】
更にまた、上記実施の形態では、アクティブマトリクス型の表示装置の場合について説明したが、本発明はパッシブマトリクス型の表示装置への適用も可能である。更にまた、アクティブマトリクス駆動のための画素駆動回路の構成は、上記実施の形態で説明したものに限られず、必要に応じて容量素子やトランジスタを追加してもよい。その場合、画素駆動回路の変更に応じて、上述した信号線駆動回路120や走査線駆動回路130のほかに、必要な駆動回路を追加してもよい。
【符号の説明】
【0222】
10R,20R…赤色有機EL素子、10G,20G…緑色有機EL素子、10B,20B…青色有機EL素子、11…基板、14…下部電極、15…隔壁、16,26…有機層、16AR,16AG,16AB,26AR,26AG,26AB…正孔注入層、16BR,16BG,16BB,26BR,26BG…正孔輸送層、16CR,26CR…赤色発光層、16CG,26CG…緑色発光層、16CB,26CB…青色発光層、16D,26D…電子輸送層、16E,26E…電子注入層、26F…共通正孔輸送層、17…上部電極、30…保護層、40…封止用基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に、複数の色の有機EL素子の各々ごとに設けられた複数の下部電極と、
前記下部電極上に設けられると共に、正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層、有機発光層および電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層を含む有機層と、
前記有機層上に設けられた上部電極とを備え、
前記正孔注入・輸送層、前記有機発光層および前記電子注入・輸送層は、前記各色の有機EL素子ごとに設けられた個別層と、前記各色の有機EL素子の全面に設けられた共通層とに分けられ、
前記共通層の膜厚は前記個別層の膜厚よりも厚い
有機EL表示装置。
【請求項2】
前記有機EL素子は、青色の第1有機EL素子およびその他の色の第2有機EL素子からなる、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項3】
前記有機層は、前記第1有機EL素子および第2有機EL素子の各々ごとに設けられた正孔注入・輸送層と、前記第2有機EL素子用の正孔注入・輸送層上に設けられた第2有機発光層と、前記第2有機発光層および前記第1有機EL素子用の正孔注入・輸送層の全面に設けられた青色の第1有機発光層と、前記第1有機発光層上に設けられた電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層とからなる、請求項2に記載の有機EL表示装置。
【請求項4】
前記有機層は、前記第1有機EL素子および第2有機EL素子の各々ごとに設けられた前記正孔注入・輸送層と、前記正孔注入・輸送層上に前記第1有機EL素子および第2有機EL素子ごとに設けられた第1有機発光層および第2有機発光層と、前記第1有機発光層および前記第2有機発光層上に設けられた電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層とからなる、請求項2に記載の有機EL表示装置。
【請求項5】
前記個別層は塗付法により形成されたものである、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。
【請求項6】
前記共通層は蒸着法により形成されたものである、請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機EL表示装置。
【請求項7】
前記有機層の膜厚は150nm以上500nm以下である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項8】
前記共通層の膜厚は100nm以上250nm以下である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【請求項9】
前記共通層の膜厚(Dw)および前記個別層の膜厚(De)は数式1で示される関係を有する、請求項1に記載の有機EL表示装置。
(数1)
Dw>De×0.1・・・・・・・・(1)
【請求項10】
前記電子注入・輸送層に用いられる含窒素複素環式化合物は、式(1)で表わされる化合物である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化1】

(A1は水素原子あるはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、3〜40個の芳香族環が縮合した多環芳香族炭化水素基を有する炭素数6〜60個の炭化水素基または含窒素複素環基あるいはそれらの誘導体である。Bは単結合、2価の芳香族環基あるいはその誘導体である。R1,2は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、炭素数1〜20個のアルキル基、炭素数6〜60個の芳香族炭化水素基、含窒素複素環基または炭素数1〜20個のアルコキシ基あるいはそれらの誘導体である。)
【請求項11】
前記電子注入・輸送層に用いられる含窒素複素環式化合物は、式(2)で表わされる化合物である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化2】

(A2は芳香族環が2ないし5個縮合したn価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R3〜R8は各々独立して水素原子あるはハロゲン原子、A2またはR9〜R13のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R9〜R13は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR3〜8のいずれか1つに結合する遊離原子価である。nは2以上の整数であり、n個のピリジルフェニル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【請求項12】
前記電子注入・輸送層に用いられる含窒素複素環式化合物は、式(3)で表わされる化合物である、請求項1に記載の有機EL表示装置。
【化3】

(A3は芳香族環が2ないし5個縮合したm価の基である。具体的には3個の芳香族環が縮合したn価のアセン系芳香族環基、またはその誘導体である。R14〜R18は各々独立して水素原子あるいはハロゲン原子、A3またはR19〜R23のいずれか1つに結合する遊離原子価である。R19〜R23は各々独立して水素原子、ハロゲン原子またはR14〜18のいずれか1つに結合する遊離原子価である。mは2以上の整数であり、m個のビピリジル基は同一でもよく、異なっていてもよい。)
【請求項13】
前記その他の色の第2有機EL素子は、赤色有機EL素子、緑色有機EL素子または白色有機EL素子のうちの少なくとも1種である、請求項2に記載の有機EL表示装置。
【請求項14】
基板に下部電極を青色の第1有機EL素子およびその他の色の第2有機EL素子の各々ごとに形成する工程と、
前記下部電極の上に正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する正孔注入・輸送層を第1有機EL素子および第2有機EL素子の各々ごとに塗布法により形成する工程と、
前記第2有機EL素子用の正孔注入・輸送層の上にその他の色の第2有機発光層を塗布法により形成する工程と、
前記第2有機発光層および前記第1有機EL素子用の前記正孔注入・輸送層の全面に青色の第1有機発光層を蒸着法により形成する工程と、
前記第1有機発光層および前記第2有機発光層上に電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有電子注入・輸送層を蒸着法により形成する工程と、
前記電子注入・輸送層の全面に上部電極を形成する工程と
を含む有機EL表示装置の製造方法。
【請求項15】
基板に複数の下部電極を複数の有機EL素子の各々ごとに形成する工程と、
前記下部電極上に正孔注入または正孔輸送の少なくとも一方の特性を有する複数の正孔注入・輸送層を前記有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程と、
前記正孔有入・輸送層上に複数の有機発光層を前記有機EL素子ごとに塗付法により形成する工程と、
前記複数の有機発光層の全面に電子注入または電子輸送の少なくとも一方の特性を有する電子注入・輸送層を蒸着法により形成する工程と、
前記電子注入・輸送層の全面に上部電極を形成する工程と
を含む有機EL表示装置の製法方法。
【請求項16】
前記塗布法として、インクジェット方式、ノズルコート方式、スピンコート方式、オフセット方式、フレキソ方式または凸版方式を用いる、請求項14または請求項15に記載の有機EL表示装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2012−151033(P2012−151033A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−9853(P2011−9853)
【出願日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】