有機EL装置及びその製造方法
【課題】ダークスポットの発生を食い止め、歩留まりが高い有機EL装置を開発する。
【解決手段】
基板2上に少なくとも第1電極層3と、機能層5と、第2電極層6が積層され、第1電極層3が第1電極層分離溝15によって複数に分離された有機EL装置1において、前記第1電極層分離溝15の底部に基板2の素材と第1電極層3の素材が混じった絶縁層25が存在する構成とすることによって、絶縁性を高め、ショートすることを防止している。
【解決手段】
基板2上に少なくとも第1電極層3と、機能層5と、第2電極層6が積層され、第1電極層3が第1電極層分離溝15によって複数に分離された有機EL装置1において、前記第1電極層分離溝15の底部に基板2の素材と第1電極層3の素材が混じった絶縁層25が存在する構成とすることによって、絶縁性を高め、ショートすることを防止している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminesence)装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱灯や蛍光灯に代わる照明装置として有機EL装置が注目され、多くの研究がなされている。また、テレビに代表されるディスプレイ部材においても液晶方式やプラズマ方式に変わる方式として有機EL方式が注目されている。
【0003】
ここで、有機EL装置は、ガラス基板や透明樹脂フィルム等の基材に、有機EL素子を積層したものである。
また、有機EL素子は、一方又は双方が透光性を有する2つの電極を対向させ、この電極の間に有機化合物からなる発光層を積層したものである。有機EL装置は、電気的に励起された電子と正孔との再結合のエネルギーによって発光する。
有機EL装置は、自発光デバイスであるため、ディスプレイ材料として使用すると高コントラストの画像を得ることができる。また、発光層の材料を適宜選択することにより、種々の波長の光を発光することができる。また、白熱灯や蛍光灯に比べて厚さが極めて薄く、且つ面状に発光するので、設置場所の制約が少ない。
【0004】
有機EL装置の代表的な層構成は、図12の通りである。図12に示される有機EL装置200は、ボトムエミッション型と称される構成であり、基板201に、透明電極層202と、機能層203と、裏面電極層205が積層され、これらが封止部206によって封止されたものである。(例えば、特許文献1)
また、機能層203は、複数の有機化合物の薄膜が積層されたものである。機能層203の膜厚は通常、数百nmと言う極めて薄い膜厚で形成される。
【0005】
代表的な機能層203の層構成は、図13の通りであり、基板201側から順に正孔注入層210、正孔輸送層211、発光層212、及び電子輸送層213が積層している。
【0006】
即ち、発光層で発光された光が有機EL装置を構成する積層構造を透過して出光され、自発光デバイスとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−363034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、有機EL装置は長期間点灯すると、ダークスポットと呼ばれる非発光点が発生する。発生したダークスポットは、成長し拡大化すると、有機EL装置の耐久性や品質に悪影響を及ぼす。一般的に、点灯直後のダークスポットは、肉眼では見えない程度の大きさであり、さらに点灯を続けることで、これを核として成長していくことが知られている。また、ダークスポットは、点灯を行わない保存状態でも発生し、経時的に成長することが知られている。
【0009】
また、有機EL装置を製品として出荷するためには良好な視認性が求められる。そのため、出荷時に基準以上のダークスポットが発生していると、視覚性が悪くなるため、製品として欠陥品として扱われる。
即ち、このダークスポットの発生を可能な限り食い止めることは有機EL装置の早急に課せられた課題となっている。
【0010】
そこで、本発明は、上記した問題点を解決するものであり、ダークスポットの発生を食い止め、歩留まりが高い有機EL装置を開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、小発光領域が直列に接続された構造の有機EL装置を試作した。試作に用いたパターンニング形成方法は、エッチングによる方法と、レーザースクライブによる方法を採用し、条件設定を変えて多数の有機EL装置を作った。
ここで、エッチングによる方法は、基板201上に透明導電膜202を成膜し、この膜にエッチングして溝230(図14)を形成する。レーザースクライブによる方法は、基板201上に透明導電膜202を成膜し、この膜にレーザーを照射して溝240(図15)を形成する。
【0012】
試作した有機EL装置に通電して点灯し、一定時間が経過した後のダークスポットの発生状況を調べたところ、エッチングによって溝230を形成したものは、レーザースクライブによって溝240を形成した場合に比べてダークスポットが多く見られた。
この原因として、次の様な仮説が考えられる。
即ち、エッチングによる場合は、図14のように、基板201も一部浸食され、基板201に凹部231ができてしまう。即ち溝の底の部位に、基板201の他の部位に比べて凹んだ部分(凹部231)が生じてしまう。
また透明導電膜202が凹部231の上に被さってオーバーハング状となる。即ち、透明導電膜202が庇のように迫り出す。
その上に機能層203を成膜するが、機能層203の一部が本来の溝230だけでなく、浸食によって形成された凹部231にも侵入し、図14のように機能層203が大きく凹む。さらにその上に裏面電極層205を成膜すると、裏面電極層205が機能層203の凹みに落ち込み、透明導電膜202の庇の突端220と、裏面電極層205の落ち込み部分221が近接し、一部の機能層203に局所的な電界がかかり、ショートする。その結果、長時間点灯を続けると、当該部分がダークスポットになってしまう。
【0013】
一方、レーザースクライブによる場合は、ダークスポットが多く発生する試作品と、ダークスポットの少ない試作品があった。
そこでダークスポットの発生が少なかった有機EL装置の断面を拡大して観察したところ、図15のように、溝の内部に基板201と透明導電膜202との混合物層215が形成され、溝240の底の高さが、基板201の他の高さと同一またはそれ以上となっていることが判った。
即ちレーザー光を照射することによって、ガラス製の基板201が溶解するが、周囲の透明導電膜202の溶解物と混合されて絶縁体を形成している。そのため、基板201の溶解部分が、絶縁体で埋められ、溝240の底の高さが、基板201の他の高さと同一またはそれ以上となるのであった。
そのため、溝240の内部に基板201と透明導電膜202との混合物が存在する場合には、基板201に凹みができないために、機能層203の落ち込みが小さく、裏面電極層205の落ち込み量も小さい。その結果、透明導電膜202と裏面電極層205との間に適切な距離が保たれ、局所的な電界が発生せず、ショートが起きず、ダークスポットが生じない。
【0014】
この知見に基づいて開発された請求項1に記載の発明は、基材上に少なくとも第1電極層と、有機発光層と、第2電極層が積層され、第1電極層が第1電極層分離溝によって複数に分離された有機EL装置において、前記第1電極層分離溝の底部に基材の素材と第1電極層の素材が混じった絶縁層が存在することを特徴とする有機EL装置である。
【0015】
本発明の有機EL装置では、前記第1電極層分離溝の底部に基材の素材と第1電極層の素材が混じった絶縁層が存在するため、有機発光層が第1電極層分離溝に落ち込みにくく、第1電極層と第2電極層との距離を維持できる。それ故に、一部の有機発光層に局所的に高い電界が生じることを防ぐことができる。また、絶縁層が存在するため、絶縁性が高い。それ故にショートを防止でき、ダークスポットの発生を抑制できる。また、ダークスポットの発生を抑制できるので歩溜まりもよい。
【0016】
請求項2に記載の発明は、有機発光層は発光層分離溝によって複数の小発光領域に分割され、第2電極層は第2電極分離溝によって複数に分離されており、前記基材上で前記小発光領域が直列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置である。
【0017】
かかる構成によれば、小発光領域が直列に接続されているため、各小発光領域にかかる電圧が小さくになり、有機EL装置全体にかける電圧を大きくすることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、第1電極層の第1電極層分離溝の近傍の平滑度が他の領域と同等であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置である。
【0019】
かかる構成によれば、凹凸が少なく、一部の有機発光層に局所的な電界が生じにくい。
【0020】
請求項4に記載の発明は、第1電極層分離溝はレーザースクライブによって形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL装置である。
【0021】
かかる構成によれば、良質の絶縁層が形成しやすい。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の有機EL装置を製造する方法であって、基材上に第1電極層を成膜する第1電極層成膜工程と、第1電極層にレーザーを照射して第1電極層分離溝を形成する第1スクライブ工程と、前記第1スクライブ工程の後に基材を洗浄する洗浄工程を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0023】
係る方法によれば、有機EL装置を効率良く製造できる。
【0024】
また、洗浄工程は、次の工程の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置の製造方法であることが好ましい。(請求項6)
(1)ブラシによる洗浄
(2)リンス洗浄
(3)研磨剤を使用した研磨
(4)超音波洗浄
(5)高圧純水洗浄
(6)真空乾燥
(7)プラズマ洗浄
【0025】
請求項7に記載の発明は、洗浄工程は、第1電極層の算術平均粗さが1nm以下となるように行うことを特徴とする請求項5又は6に記載の有機EL装置の製造方法である。
【0026】
ここでいう算術平均粗さとは定量面で中心面から表面までの偏差の絶対値の平均値を示している。
【0027】
かかる方法によれば、第1電極層のバリの残存を防止でき、第1電極層の第1電極層分離溝の近傍の平滑度が均一にできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、前記第1電極層分離溝の底部に基材の素材と第1電極層の素材が混じった絶縁層が存在するため、有機発光層が第1電極層分離溝に落ち込みにくく、第1電極層と第2電極層との距離を維持できる。それ故に、一部の有機発光層に局所的に高い電界が生じることを防ぐことができる。また、絶縁層が存在するため、絶縁性が高い。それ故にショートを防止でき、ダークスポットの発生を抑制できる。また、ダークスポットの発生を抑制できるので歩溜まりもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態の有機EL装置の断面図である。
【図2】図1の有機EL装置の部分斜視図を示す。
【図3】図1の有機EL装置のA領域の拡大図である。
【図4】第1実施形態の有機EL装置の製造工程の説明図であり、(a)は第1電極層積層工程の開始時における図、(b)は第一レーザースクライブ工程の開始時における図、(c)は第一レーザースクライブ工程の終了時における図、(d)は洗浄工程の終了時における図、(e)は機能層積層工程の終了時における図、(f)は第二レーザースクライブ工程の終了時における図、(g)は第二電極層工程の終了時における図、(h)は第三レーザースクライブ工程の終了時における図である。
【図5】図4の有機EL装置における拡大図であり、(a)は第一レーザースクライブ工程の開始時における破線部分の拡大図、(b)は第一レーザースクライブ工程の終了時における破線部分の拡大図、(c)は洗浄工程の終了時における破線部分の拡大図である。
【図6】実施例における有機EL装置の低倍で観察して得られたTEM像である。
【図7】図6の有機EL装置のB領域を拡大したTEM像である。
【図8】図7の有機EL装置のTEM像をスケッチした図である。
【図9】比較例1の有機EL装置を低倍で観察して得られたTEM像である。
【図10】図9の有機EL装置のC領域の拡大TEM像である。
【図11】図10の有機EL装置のTEM像をスケッチした図である。
【図12】有機EL装置の代表的な層構成を示す断面図である。
【図13】有機EL素子の代表的な層構成を示す断面図である。
【図14】試作時にエッチング処理によって作製した有機EL素子を示す断面図である。
【図15】試作時にスクライブ処理によって作製した有機EL素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、有機EL装置と当該有機EL装置の製造方法に係るものである。図1は、本発明の第1実施形態に係る有機EL装置1を示している。
【0031】
図1及び図2に示すように、有機EL装置1は、基板2(基材)の片面上に、第1電極層3と、機能層5と、第2電極層6がこの順番に積層された構造を有しており、これらが封止部8によって封止されている。なお、本実施形態では、有機EL装置1の内、第1電極層3と機能層5と第2電極層6の3層を総称して有機EL素子11と称している。
【0032】
また、図1及び図2のように、第1電極層3には、部分的に第1電極層3を除去した第1電極層分離溝15が設けられている。機能層5には、部分的に機能層5を除去した機能層分離溝16が設けられている。第2電極層6と機能層5の双方には、部分的に第2電極層6と機能層5の双方を除去した単位発光素子分離溝17が設けられている。
そして、第1電極層分離溝15の底部には絶縁層25が形成されている。
【0033】
また、有機EL装置1は、第1電極層分離溝15と機能層分離溝16と単位発光素子分離溝17とによって各薄層が区画され、独立した単位EL素子20a,20b・・・が形成されている。
即ち、図2の様に、第1電極層分離溝15によって区画された複数の第1電極層3の内の一つと、この区画された第1電極層3に積層された機能層5の区画と、第2電極層6の区画とによって単位EL素子20が構成されている。
【0034】
そして、図2の様に、機能層分離溝16の中に第2電極層6の一部が進入し、第2電極層6の一部が第1電極層3bと接しており、一つの単位EL素子20aは隣接する単位EL素子20bと電気的に直列に接続されている。
即ち、第1電極層分離溝15と機能層分離溝16とが異なる位置にあるために一つの単位EL素子20aに属する機能層5aと、第2電極層6が第1電極層3aからはみ出し、隣接する単位EL素子20bに跨がっている。そして、第2電極層6aの機能層分離溝16内に侵入した侵入部13aが、隣接する単位EL素子20bの第1電極層3bに接している。
【0035】
その結果、基板2上の単位EL素子20aは、第2電極層6aの侵入部13aを介して隣接する単位EL素子20bと直列に接続されている。
【0036】
外部から供給される電流は、第1電極層3a側から機能層5aを経て第2電極層6a側に向かって流れるが、第2電極層6aの一部が機能層分離溝16内の侵入部13aを介して隣の第1電極層3bと接しており、最初の単位EL素子20aを経て隣の単位EL素子20bの第1電極層3bに電流が流れる。この様に、有機EL装置1では、各単位EL素子20が全て直列に電気接続され、全ての単位EL素子20が発光する。また、この時、第1電極層分離溝15の底部に絶縁層が形成されているため、第1電極層3bから第1電極層3aに電流が流れることはない。
【0037】
そして、ここで、本発明の特徴たる絶縁体層25について詳説する。
絶縁体層25は、絶縁性を有する混合層である。即ち、絶縁体層25には、基板2の素材と第1電極層3の素材が混合している。絶縁体層25は、図3のように基板2の表面付近に進入しており、一部基板2内に入り込んでいる。また、絶縁体層25の上面の位置は、第1電極層分離溝15よりも外側の基板2の上面の位置に比べて、同一またはそれ以上となっている。即ち、第1電極層分離溝15を形成した際に、削り取られた基板2の表面に形成された凹部26に絶縁体層25が埋まっており、第1電極層分離溝15の底部の高さが底上げされている。それ故に、機能層5の落ち込みが小さく、第2電極層6の落ち込み量が小さい。また、絶縁体層25付近の第1電極層3は、その他の領域の第1電極層3と緩やかに連続している。また、絶縁体層25付近の第1電極層3の上面は、その他の領域の第1電極層3と同等の平滑度を有しており、凹凸が少ない。
そのため、第2電極層6と第1電極層3との距離が確保され、局所的な電界が発生せず、両者がショートを起こしにくい。それ故にダークスポットが生じにくい。
【0038】
次に、有機EL装置1の構成部材の構成部材について説明する。
【0039】
基板2は、材質については特に限定されるものではなく、例えば、フレキシブルなフィルム基板やプラスチック基板などから適宜選択され用いられる。特にガラス基板や透明なフィルム基板は透明性や加工性の良さの点から好適である。
【0040】
第1電極層3の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物や、銀(Ag)、クロム(Cr)等のような金属などが採用される。機能層5内の発光層から発生した光を効果的に取り出せる点では、透明性が高いITOあるいはIZOを特に好ましく使用することができる。
【0041】
機能層5は、第1電極層3と第2電極層6との間に設けられ、少なくとも一つの発光層を有している層である。機能層5は、主に有機化合物からなる複数の層から構成されている。この機能層5は、一般な有機EL装置に用いられている低分子系色素材料や、共役高分子系材料などの公知なもので形成することができる。また、この機能層はホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などの複数の層からなる積層多層構造であってもよい。
【0042】
特にこのような積層多層構造を採用した場合、機能層内の電子注入層に、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化カルシウム(CaF2)等のようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属の化合物等を採用し、機能層5内の電子注入層を第2電極層6と隣接するように積層することが好ましい。この電子注入層により、第2電極層6と電子注入層間の仕事関数の大小に関わらず、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、ITO、珪素を含むITO、等の様々な導電性材料を第2電極層6として用いることができる。
【0043】
また、機能層5の発光層に異なる発光を示す複数のドーパントを添加してもよい。また、発光層以外の層、例えば電子輸送層やホール輸送層などにもドーパントを添加しても良い。
【0044】
機能層5を構成する各層の成膜方法については、特に制限は無く、真空蒸着法やスパッタ法、CVD法、ディッピング法、ロールコート法(印刷法)、スピンコート法、バーコード法、スプレー法、ダイコート法、フローコート法など適宜公知の方法によって成膜できる。このとき、各層を同じ成膜方法で成膜してもよく、また、異なる成膜方法で成膜してもよい。
【0045】
第2電極層6に目を移すと、第2電極層6の材料としては、公知の物質を使用することができる。例えば銀やアルミニウムなどが挙げられる。また、これらの材料はスパッタ法又は真空蒸着法によって堆積されることが好ましい。
【0046】
封止部材8の材質は特に制限するものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、シクロオレフィン系樹脂、アルミニウムやステンレスなどの金属箔や樹脂フィルムにアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属膜を積層させたフィルムなどを用いることができる。
【0047】
次に、本実施形態に係る有機EL装置1の製造方法について説明する。
有機EL装置1は、図示しない真空蒸着装置と、図示しないレーザースクライブ装置を使用して製造される。
【0048】
有機EL装置1の製造の最初の工程として、基板2の上に、第1電極層3を成膜する。(第1電極成膜工程)(図4(a)から図4(b))
この時、用いる基板2の表面は基板全体の平滑度が均一であり、第1電極層3を成膜した後でも、図5(a)のように全体の平滑度は均一となっている。
なお、第1電極層3には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化錫(SnO2)酸化亜鉛(ZnO)等が用いられる。第1電極層3は、スパッタ法やCVD法によって基板2に形成される。
【0049】
続いて、第一レーザースクライブ工程を行い、第1電極層3に対して第1電極層分離溝15を形成する。(図4(b)から図4(c))
【0050】
なお、レーザースクライブ装置は、X・Yテーブルと、レーザー発生装置及び光学係部材を有するものである。第一レーザースクライブ工程は、基板2をX・Yテーブル上に設置し、レーザー光線を照射しつつ、基板2を縦方向に一定の速度で直線移動させることによって行う。そしてX・Yテーブルを横方向に移動してレーザー光線の照射位置をずらし、レーザー光線を照射しつつ基板2を再度縦方向に直線移動させることによって行う。
【0051】
第一レーザースクライブ工程を終えた直後は、図5(b)の様に、第1電極層分離溝15の開口端にバリ30が生じている。また、第1電極層分離溝15の底部には、絶縁性を有した絶縁層25が形成されている。
そして第一レーザースクライブ工程を終えた基板は、飛散した皮膜や前記したバリ30を除去するために、表面を洗浄する。(図4(c)から図4(d))(洗浄工程)
【0052】
洗浄は第1電極層3の算術平均粗さが1nm以下になるまで、以下の(1)から(7)のいずれかの内、少なくとも1つ以上の方法で行う。ここでいう算術平均粗さとは定量面で中心面から表面までの偏差の絶対値の平均値を示している。
(1)ブラシによる洗浄
(2)リンス洗浄
(3)研磨剤を使用した研磨
(4)超音波洗浄
(5)高圧純水洗浄
(6)真空乾燥
(7)プラズマ洗浄
【0053】
ここで、「ブラシによる洗浄」には、例えばナイロン等の洗浄ブラシを回転させながらこすり汚れを落とすことが含まれる。
「リンス洗浄」とは溶剤によって汚れ浮かし取る洗浄を示し、例えば超純水やアルコール等のリンス溶剤で洗浄することが含まれる。
「研磨剤を使用した研磨」には、例えばシリカ等の研磨剤を使用し、研磨を行うことが含まれる。
「超音波洗浄」には、例えば超音波を照射し、汚れ等を浮かし洗浄することが含まれる。
「高圧純水洗浄」には、例えば高圧の超純水をかけ、汚れ等を浮かし洗浄することが含まれる。
「真空乾燥」には、例えば真空乾燥機に基板を入れ、真空引きを行いながら真空乾燥機を昇温させ乾燥させることが含まれる。
「プラズマ洗浄」には、例えば酸素プラズマで洗浄することが含まれる。
【0054】
この時、洗浄工程により、図5(c)のようにレーザースクライブによって生じたバリ30が取り除かれる。
【0055】
次に、この基板に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層等を順次堆積し、機能層5を形成する。(図4(d)から図4(e))
【0056】
そして、真空蒸着装置から取り出した基板に対して第二レーザースクライブ工程を行い、機能層5に機能層分離溝16を形成する。(図4(e)から図4(f))
【0057】
続いて、真空蒸着装置に前記基板を挿入し、機能層5の上に、第2電極層6を形成する。(図4(f)から図4(g))
【0058】
さらに続いて第三レーザースクライブ工程を行い、第2電極層6と機能層5の双方に単位発光素子分離溝17を形成する。(図4(g)から図4(h))
【0059】
そして、さらに給電電極の成形(図示せず)や、その外側における分離溝(図示せず)の成形、分離溝の外側部分の第2電極層6等の除去を行う。
その後、封止部材8による封止の作業を行い本実施形態の有機EL装置1が完成する。
【0060】
上記のように形成された有機EL装置1は、第1電極層分離溝15の底部に基板2の素材と第1電極層3の素材が混じった絶縁層25が存在するため、機能層5が第1電極層分離溝15に落ち込みにくく、第1電極層3と第2電極層6との距離を維持できる。それ故に、第1電極層分離溝15近傍の機能層5の端部に局所的に高い電界が生じることを防ぐことができる。
【0061】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
本発明の具体的な実施例および実施例に対する比較例の有機EL装置の作製手順と、これらの評価結果を説明する。
【0063】
〔実施例〕
有機EL装置を形成するための基板としては、第1電極層としてITO(インジウム・錫酸化物、膜厚150nm)が積層されているガラス基板を用いた。この基板にレーザースクライブ処理を施し、0.5mm間隔のパターニング形成を行った。
この基板を界面活性剤によりブラシを用いて洗浄し、純水にて超音波洗浄した後、基板をオーブン中で乾燥した。この基板を真空蒸着装置に移動させ、真空中で以下のように材料を成膜した。
【0064】
第1電極層上に、正孔注入層として4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(以下、NPBと略す)と三酸化モリブデンの混合層を用い、真空蒸着法にて10nmの膜厚で成膜した。正孔注入層のNPBと三酸化モリブデンは共蒸着法にて膜厚比率で9:1となるように成膜した。
【0065】
次いで、正孔輸送層としてNPBを、真空蒸着法により50nm(蒸着速度0.08nm/sec〜0.12nm/sec)の膜厚で成膜した。
【0066】
次いで、発光層兼電子輸送層としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Alq3と略す)を、真空蒸着法により、70nm(蒸着速度0.24nm/sec〜0.28nm/sec)の膜厚で成膜した。
【0067】
次いで、電子注入層としてLiFを用い、真空蒸着法にて1nm(蒸着速度0.03nm/sec〜0.05nm/sec)の膜厚で成膜した。
最後に陰極としてAlを真空蒸着法にて150nm(蒸着速度0.3nm/sec〜0.5nm/sec)の膜厚で成膜し、単位形状30mm×30mm、発光面積18mm×18mmの有機EL素子を作製した。
その後、この有機EL素子を真空雰囲気から窒素雰囲気で満たされたグローブボックスに移動させて封止を行なった。
【0068】
〔比較例1〕
実施例の作製手順において、この基板にレーザースクライブ処理ではなく、ウェットエッチング処理を施し、パターニング形成を行った。
【0069】
〔発光欠陥測定〕
実施例及び比較例1の有機EL装置について高温高湿発光試験を行い、レーザースクライブあるいはウェットエッチングでパターニング形成された第1電極分離溝の端部で発生する発光欠陥を評価した。試験条件は雰囲気85℃/85%RHで印加電圧5Vであり、評価は室温で約10倍の実体顕微鏡で観察し、溝の長さ当たりの発光欠陥の数を評価した。試験時間1000時間経過後、実施例のレーザースクライブでは発光欠陥は6コ/mとなった。一方、比較例1では、ウェットエッチングでは発光欠陥は190コ/mとなった。比較例1に比べて実施例の発光欠陥量は減少した。
【0070】
実施例及び比較例1の有機EL装置の断面を透過型電子顕微鏡で観察を行った。その測定結果を図6〜図11に示す。
【0071】
実施例では、図6に示すように、第1電極層分離溝の近傍のガラス基板とITOの境界付近に底部にガラス基板の素材とITOの素材が混じった黒い層が確認された。図7のTEM像に沿ってスケッチした図8に示すように、黒い層付近のガラス基板の高さは、その他のガラス基板の高さに比べて、低くなっており、レーザースクライブによって、ガラス基板が削られている。そして、黒い層が削られたところを埋めて、第1電極層分離溝の深さが浅くなり、結果的にガラス基板の高さは他の部分と揃っており、ITOの溝への潜り込みが小さい。また、溝近傍のITOの上面は、他の領域のITOの上面と緩やかに連続しており、平滑度が同等である。ITOとAlの接触距離が一定以上に保たれている。
また、絶縁層上に積層したITOは、図8に示すように第1電極層分離溝の内側(図8の左側)から第1電極層分離溝の外側(図8の右側)に向かって徐々に盛り上がって、厚みが増加し、絶縁層の端部近傍を境に絶縁層の端部近傍から端部に向けて急激に厚みが減少する。即ち、絶縁層上に積層したITOの頂点(最も盛り上がっている部位)は、絶縁層の端部近傍側に存在する。また、絶縁層上に積層したITOの上部は連続しており、その頂点付近は丸みを帯びている。絶縁層上に積層したITOの上部とガラス基板上に積層したITOの上部は連続している。絶縁層の端部近傍のITOの厚さは、ガラス基板上に積層したITOの厚さに比べて厚い。
【0072】
比較例1では、図9、10に示すように、ガラス基板がウェットエッチングにより一部浸食されている。溝付近のガラス基板の高さは、他のガラス基板の高さに比べて低い。また、溝近傍のITOの上面は凹凸が形成され、他の領域のITOの上面に比べて、平滑度が低い。また、図11に示すように、溝近傍のITOの上面の凹凸に伴って、ITOとAlとの距離が不規則に変化している。また、ITOがオーバーハング状となっており、ITOとAlが接触し、ショートしている部分が確認された。
【符号の説明】
【0073】
1 有機EL装置
2 基板(基材)
3 第1電極層
5 機能層(有機発光層)
6 第2電極層
15 第1電極分離溝
16 機能層分離溝(発光層分離溝)
17 単位発光素子分離溝(第2電極分離溝)
25 絶縁層
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機EL(Electro Luminesence)装置及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、白熱灯や蛍光灯に代わる照明装置として有機EL装置が注目され、多くの研究がなされている。また、テレビに代表されるディスプレイ部材においても液晶方式やプラズマ方式に変わる方式として有機EL方式が注目されている。
【0003】
ここで、有機EL装置は、ガラス基板や透明樹脂フィルム等の基材に、有機EL素子を積層したものである。
また、有機EL素子は、一方又は双方が透光性を有する2つの電極を対向させ、この電極の間に有機化合物からなる発光層を積層したものである。有機EL装置は、電気的に励起された電子と正孔との再結合のエネルギーによって発光する。
有機EL装置は、自発光デバイスであるため、ディスプレイ材料として使用すると高コントラストの画像を得ることができる。また、発光層の材料を適宜選択することにより、種々の波長の光を発光することができる。また、白熱灯や蛍光灯に比べて厚さが極めて薄く、且つ面状に発光するので、設置場所の制約が少ない。
【0004】
有機EL装置の代表的な層構成は、図12の通りである。図12に示される有機EL装置200は、ボトムエミッション型と称される構成であり、基板201に、透明電極層202と、機能層203と、裏面電極層205が積層され、これらが封止部206によって封止されたものである。(例えば、特許文献1)
また、機能層203は、複数の有機化合物の薄膜が積層されたものである。機能層203の膜厚は通常、数百nmと言う極めて薄い膜厚で形成される。
【0005】
代表的な機能層203の層構成は、図13の通りであり、基板201側から順に正孔注入層210、正孔輸送層211、発光層212、及び電子輸送層213が積層している。
【0006】
即ち、発光層で発光された光が有機EL装置を構成する積層構造を透過して出光され、自発光デバイスとして機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−363034号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、有機EL装置は長期間点灯すると、ダークスポットと呼ばれる非発光点が発生する。発生したダークスポットは、成長し拡大化すると、有機EL装置の耐久性や品質に悪影響を及ぼす。一般的に、点灯直後のダークスポットは、肉眼では見えない程度の大きさであり、さらに点灯を続けることで、これを核として成長していくことが知られている。また、ダークスポットは、点灯を行わない保存状態でも発生し、経時的に成長することが知られている。
【0009】
また、有機EL装置を製品として出荷するためには良好な視認性が求められる。そのため、出荷時に基準以上のダークスポットが発生していると、視覚性が悪くなるため、製品として欠陥品として扱われる。
即ち、このダークスポットの発生を可能な限り食い止めることは有機EL装置の早急に課せられた課題となっている。
【0010】
そこで、本発明は、上記した問題点を解決するものであり、ダークスポットの発生を食い止め、歩留まりが高い有機EL装置を開発することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、小発光領域が直列に接続された構造の有機EL装置を試作した。試作に用いたパターンニング形成方法は、エッチングによる方法と、レーザースクライブによる方法を採用し、条件設定を変えて多数の有機EL装置を作った。
ここで、エッチングによる方法は、基板201上に透明導電膜202を成膜し、この膜にエッチングして溝230(図14)を形成する。レーザースクライブによる方法は、基板201上に透明導電膜202を成膜し、この膜にレーザーを照射して溝240(図15)を形成する。
【0012】
試作した有機EL装置に通電して点灯し、一定時間が経過した後のダークスポットの発生状況を調べたところ、エッチングによって溝230を形成したものは、レーザースクライブによって溝240を形成した場合に比べてダークスポットが多く見られた。
この原因として、次の様な仮説が考えられる。
即ち、エッチングによる場合は、図14のように、基板201も一部浸食され、基板201に凹部231ができてしまう。即ち溝の底の部位に、基板201の他の部位に比べて凹んだ部分(凹部231)が生じてしまう。
また透明導電膜202が凹部231の上に被さってオーバーハング状となる。即ち、透明導電膜202が庇のように迫り出す。
その上に機能層203を成膜するが、機能層203の一部が本来の溝230だけでなく、浸食によって形成された凹部231にも侵入し、図14のように機能層203が大きく凹む。さらにその上に裏面電極層205を成膜すると、裏面電極層205が機能層203の凹みに落ち込み、透明導電膜202の庇の突端220と、裏面電極層205の落ち込み部分221が近接し、一部の機能層203に局所的な電界がかかり、ショートする。その結果、長時間点灯を続けると、当該部分がダークスポットになってしまう。
【0013】
一方、レーザースクライブによる場合は、ダークスポットが多く発生する試作品と、ダークスポットの少ない試作品があった。
そこでダークスポットの発生が少なかった有機EL装置の断面を拡大して観察したところ、図15のように、溝の内部に基板201と透明導電膜202との混合物層215が形成され、溝240の底の高さが、基板201の他の高さと同一またはそれ以上となっていることが判った。
即ちレーザー光を照射することによって、ガラス製の基板201が溶解するが、周囲の透明導電膜202の溶解物と混合されて絶縁体を形成している。そのため、基板201の溶解部分が、絶縁体で埋められ、溝240の底の高さが、基板201の他の高さと同一またはそれ以上となるのであった。
そのため、溝240の内部に基板201と透明導電膜202との混合物が存在する場合には、基板201に凹みができないために、機能層203の落ち込みが小さく、裏面電極層205の落ち込み量も小さい。その結果、透明導電膜202と裏面電極層205との間に適切な距離が保たれ、局所的な電界が発生せず、ショートが起きず、ダークスポットが生じない。
【0014】
この知見に基づいて開発された請求項1に記載の発明は、基材上に少なくとも第1電極層と、有機発光層と、第2電極層が積層され、第1電極層が第1電極層分離溝によって複数に分離された有機EL装置において、前記第1電極層分離溝の底部に基材の素材と第1電極層の素材が混じった絶縁層が存在することを特徴とする有機EL装置である。
【0015】
本発明の有機EL装置では、前記第1電極層分離溝の底部に基材の素材と第1電極層の素材が混じった絶縁層が存在するため、有機発光層が第1電極層分離溝に落ち込みにくく、第1電極層と第2電極層との距離を維持できる。それ故に、一部の有機発光層に局所的に高い電界が生じることを防ぐことができる。また、絶縁層が存在するため、絶縁性が高い。それ故にショートを防止でき、ダークスポットの発生を抑制できる。また、ダークスポットの発生を抑制できるので歩溜まりもよい。
【0016】
請求項2に記載の発明は、有機発光層は発光層分離溝によって複数の小発光領域に分割され、第2電極層は第2電極分離溝によって複数に分離されており、前記基材上で前記小発光領域が直列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置である。
【0017】
かかる構成によれば、小発光領域が直列に接続されているため、各小発光領域にかかる電圧が小さくになり、有機EL装置全体にかける電圧を大きくすることができる。
【0018】
請求項3に記載の発明は、第1電極層の第1電極層分離溝の近傍の平滑度が他の領域と同等であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置である。
【0019】
かかる構成によれば、凹凸が少なく、一部の有機発光層に局所的な電界が生じにくい。
【0020】
請求項4に記載の発明は、第1電極層分離溝はレーザースクライブによって形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL装置である。
【0021】
かかる構成によれば、良質の絶縁層が形成しやすい。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の有機EL装置を製造する方法であって、基材上に第1電極層を成膜する第1電極層成膜工程と、第1電極層にレーザーを照射して第1電極層分離溝を形成する第1スクライブ工程と、前記第1スクライブ工程の後に基材を洗浄する洗浄工程を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【0023】
係る方法によれば、有機EL装置を効率良く製造できる。
【0024】
また、洗浄工程は、次の工程の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置の製造方法であることが好ましい。(請求項6)
(1)ブラシによる洗浄
(2)リンス洗浄
(3)研磨剤を使用した研磨
(4)超音波洗浄
(5)高圧純水洗浄
(6)真空乾燥
(7)プラズマ洗浄
【0025】
請求項7に記載の発明は、洗浄工程は、第1電極層の算術平均粗さが1nm以下となるように行うことを特徴とする請求項5又は6に記載の有機EL装置の製造方法である。
【0026】
ここでいう算術平均粗さとは定量面で中心面から表面までの偏差の絶対値の平均値を示している。
【0027】
かかる方法によれば、第1電極層のバリの残存を防止でき、第1電極層の第1電極層分離溝の近傍の平滑度が均一にできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、前記第1電極層分離溝の底部に基材の素材と第1電極層の素材が混じった絶縁層が存在するため、有機発光層が第1電極層分離溝に落ち込みにくく、第1電極層と第2電極層との距離を維持できる。それ故に、一部の有機発光層に局所的に高い電界が生じることを防ぐことができる。また、絶縁層が存在するため、絶縁性が高い。それ故にショートを防止でき、ダークスポットの発生を抑制できる。また、ダークスポットの発生を抑制できるので歩溜まりもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態の有機EL装置の断面図である。
【図2】図1の有機EL装置の部分斜視図を示す。
【図3】図1の有機EL装置のA領域の拡大図である。
【図4】第1実施形態の有機EL装置の製造工程の説明図であり、(a)は第1電極層積層工程の開始時における図、(b)は第一レーザースクライブ工程の開始時における図、(c)は第一レーザースクライブ工程の終了時における図、(d)は洗浄工程の終了時における図、(e)は機能層積層工程の終了時における図、(f)は第二レーザースクライブ工程の終了時における図、(g)は第二電極層工程の終了時における図、(h)は第三レーザースクライブ工程の終了時における図である。
【図5】図4の有機EL装置における拡大図であり、(a)は第一レーザースクライブ工程の開始時における破線部分の拡大図、(b)は第一レーザースクライブ工程の終了時における破線部分の拡大図、(c)は洗浄工程の終了時における破線部分の拡大図である。
【図6】実施例における有機EL装置の低倍で観察して得られたTEM像である。
【図7】図6の有機EL装置のB領域を拡大したTEM像である。
【図8】図7の有機EL装置のTEM像をスケッチした図である。
【図9】比較例1の有機EL装置を低倍で観察して得られたTEM像である。
【図10】図9の有機EL装置のC領域の拡大TEM像である。
【図11】図10の有機EL装置のTEM像をスケッチした図である。
【図12】有機EL装置の代表的な層構成を示す断面図である。
【図13】有機EL素子の代表的な層構成を示す断面図である。
【図14】試作時にエッチング処理によって作製した有機EL素子を示す断面図である。
【図15】試作時にスクライブ処理によって作製した有機EL素子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明は、有機EL装置と当該有機EL装置の製造方法に係るものである。図1は、本発明の第1実施形態に係る有機EL装置1を示している。
【0031】
図1及び図2に示すように、有機EL装置1は、基板2(基材)の片面上に、第1電極層3と、機能層5と、第2電極層6がこの順番に積層された構造を有しており、これらが封止部8によって封止されている。なお、本実施形態では、有機EL装置1の内、第1電極層3と機能層5と第2電極層6の3層を総称して有機EL素子11と称している。
【0032】
また、図1及び図2のように、第1電極層3には、部分的に第1電極層3を除去した第1電極層分離溝15が設けられている。機能層5には、部分的に機能層5を除去した機能層分離溝16が設けられている。第2電極層6と機能層5の双方には、部分的に第2電極層6と機能層5の双方を除去した単位発光素子分離溝17が設けられている。
そして、第1電極層分離溝15の底部には絶縁層25が形成されている。
【0033】
また、有機EL装置1は、第1電極層分離溝15と機能層分離溝16と単位発光素子分離溝17とによって各薄層が区画され、独立した単位EL素子20a,20b・・・が形成されている。
即ち、図2の様に、第1電極層分離溝15によって区画された複数の第1電極層3の内の一つと、この区画された第1電極層3に積層された機能層5の区画と、第2電極層6の区画とによって単位EL素子20が構成されている。
【0034】
そして、図2の様に、機能層分離溝16の中に第2電極層6の一部が進入し、第2電極層6の一部が第1電極層3bと接しており、一つの単位EL素子20aは隣接する単位EL素子20bと電気的に直列に接続されている。
即ち、第1電極層分離溝15と機能層分離溝16とが異なる位置にあるために一つの単位EL素子20aに属する機能層5aと、第2電極層6が第1電極層3aからはみ出し、隣接する単位EL素子20bに跨がっている。そして、第2電極層6aの機能層分離溝16内に侵入した侵入部13aが、隣接する単位EL素子20bの第1電極層3bに接している。
【0035】
その結果、基板2上の単位EL素子20aは、第2電極層6aの侵入部13aを介して隣接する単位EL素子20bと直列に接続されている。
【0036】
外部から供給される電流は、第1電極層3a側から機能層5aを経て第2電極層6a側に向かって流れるが、第2電極層6aの一部が機能層分離溝16内の侵入部13aを介して隣の第1電極層3bと接しており、最初の単位EL素子20aを経て隣の単位EL素子20bの第1電極層3bに電流が流れる。この様に、有機EL装置1では、各単位EL素子20が全て直列に電気接続され、全ての単位EL素子20が発光する。また、この時、第1電極層分離溝15の底部に絶縁層が形成されているため、第1電極層3bから第1電極層3aに電流が流れることはない。
【0037】
そして、ここで、本発明の特徴たる絶縁体層25について詳説する。
絶縁体層25は、絶縁性を有する混合層である。即ち、絶縁体層25には、基板2の素材と第1電極層3の素材が混合している。絶縁体層25は、図3のように基板2の表面付近に進入しており、一部基板2内に入り込んでいる。また、絶縁体層25の上面の位置は、第1電極層分離溝15よりも外側の基板2の上面の位置に比べて、同一またはそれ以上となっている。即ち、第1電極層分離溝15を形成した際に、削り取られた基板2の表面に形成された凹部26に絶縁体層25が埋まっており、第1電極層分離溝15の底部の高さが底上げされている。それ故に、機能層5の落ち込みが小さく、第2電極層6の落ち込み量が小さい。また、絶縁体層25付近の第1電極層3は、その他の領域の第1電極層3と緩やかに連続している。また、絶縁体層25付近の第1電極層3の上面は、その他の領域の第1電極層3と同等の平滑度を有しており、凹凸が少ない。
そのため、第2電極層6と第1電極層3との距離が確保され、局所的な電界が発生せず、両者がショートを起こしにくい。それ故にダークスポットが生じにくい。
【0038】
次に、有機EL装置1の構成部材の構成部材について説明する。
【0039】
基板2は、材質については特に限定されるものではなく、例えば、フレキシブルなフィルム基板やプラスチック基板などから適宜選択され用いられる。特にガラス基板や透明なフィルム基板は透明性や加工性の良さの点から好適である。
【0040】
第1電極層3の材質は、特に限定されるものではなく、例えば、インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、酸化錫(SnO2)、酸化亜鉛(ZnO)等の金属酸化物や、銀(Ag)、クロム(Cr)等のような金属などが採用される。機能層5内の発光層から発生した光を効果的に取り出せる点では、透明性が高いITOあるいはIZOを特に好ましく使用することができる。
【0041】
機能層5は、第1電極層3と第2電極層6との間に設けられ、少なくとも一つの発光層を有している層である。機能層5は、主に有機化合物からなる複数の層から構成されている。この機能層5は、一般な有機EL装置に用いられている低分子系色素材料や、共役高分子系材料などの公知なもので形成することができる。また、この機能層はホール注入層、ホール輸送層、発光層、電子輸送層、電子注入層などの複数の層からなる積層多層構造であってもよい。
【0042】
特にこのような積層多層構造を採用した場合、機能層内の電子注入層に、フッ化リチウム(LiF)、フッ化セシウム(CsF)、フッ化カルシウム(CaF2)等のようなアルカリ金属又はアルカリ土類金属の化合物等を採用し、機能層5内の電子注入層を第2電極層6と隣接するように積層することが好ましい。この電子注入層により、第2電極層6と電子注入層間の仕事関数の大小に関わらず、アルミニウム(Al)、銀(Ag)、ITO、珪素を含むITO、等の様々な導電性材料を第2電極層6として用いることができる。
【0043】
また、機能層5の発光層に異なる発光を示す複数のドーパントを添加してもよい。また、発光層以外の層、例えば電子輸送層やホール輸送層などにもドーパントを添加しても良い。
【0044】
機能層5を構成する各層の成膜方法については、特に制限は無く、真空蒸着法やスパッタ法、CVD法、ディッピング法、ロールコート法(印刷法)、スピンコート法、バーコード法、スプレー法、ダイコート法、フローコート法など適宜公知の方法によって成膜できる。このとき、各層を同じ成膜方法で成膜してもよく、また、異なる成膜方法で成膜してもよい。
【0045】
第2電極層6に目を移すと、第2電極層6の材料としては、公知の物質を使用することができる。例えば銀やアルミニウムなどが挙げられる。また、これらの材料はスパッタ法又は真空蒸着法によって堆積されることが好ましい。
【0046】
封止部材8の材質は特に制限するものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、セロファン、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートブチレート、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)、セルロースアセテートフタレート(TAC)、セルロースナイトレート等のセルロースエステル類またはそれらの誘導体、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエチレンビニルアルコール、シンジオタクティックポリスチレン、ポリカーボネート、ノルボルネン樹脂、ポリメチルペンテン、ポリエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルスルホン(PES)、ポリフェニレンスルフィド、ポリスルホン類、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトンイミド、ポリアミド、フッ素樹脂、ナイロン、ポリメチルメタクリレート、アクリルあるいはポリアリレート類、シクロオレフィン系樹脂、アルミニウムやステンレスなどの金属箔や樹脂フィルムにアルミニウム、銅、ニッケル、ステンレスなどの金属膜を積層させたフィルムなどを用いることができる。
【0047】
次に、本実施形態に係る有機EL装置1の製造方法について説明する。
有機EL装置1は、図示しない真空蒸着装置と、図示しないレーザースクライブ装置を使用して製造される。
【0048】
有機EL装置1の製造の最初の工程として、基板2の上に、第1電極層3を成膜する。(第1電極成膜工程)(図4(a)から図4(b))
この時、用いる基板2の表面は基板全体の平滑度が均一であり、第1電極層3を成膜した後でも、図5(a)のように全体の平滑度は均一となっている。
なお、第1電極層3には、酸化インジウム錫(ITO)、酸化錫(SnO2)酸化亜鉛(ZnO)等が用いられる。第1電極層3は、スパッタ法やCVD法によって基板2に形成される。
【0049】
続いて、第一レーザースクライブ工程を行い、第1電極層3に対して第1電極層分離溝15を形成する。(図4(b)から図4(c))
【0050】
なお、レーザースクライブ装置は、X・Yテーブルと、レーザー発生装置及び光学係部材を有するものである。第一レーザースクライブ工程は、基板2をX・Yテーブル上に設置し、レーザー光線を照射しつつ、基板2を縦方向に一定の速度で直線移動させることによって行う。そしてX・Yテーブルを横方向に移動してレーザー光線の照射位置をずらし、レーザー光線を照射しつつ基板2を再度縦方向に直線移動させることによって行う。
【0051】
第一レーザースクライブ工程を終えた直後は、図5(b)の様に、第1電極層分離溝15の開口端にバリ30が生じている。また、第1電極層分離溝15の底部には、絶縁性を有した絶縁層25が形成されている。
そして第一レーザースクライブ工程を終えた基板は、飛散した皮膜や前記したバリ30を除去するために、表面を洗浄する。(図4(c)から図4(d))(洗浄工程)
【0052】
洗浄は第1電極層3の算術平均粗さが1nm以下になるまで、以下の(1)から(7)のいずれかの内、少なくとも1つ以上の方法で行う。ここでいう算術平均粗さとは定量面で中心面から表面までの偏差の絶対値の平均値を示している。
(1)ブラシによる洗浄
(2)リンス洗浄
(3)研磨剤を使用した研磨
(4)超音波洗浄
(5)高圧純水洗浄
(6)真空乾燥
(7)プラズマ洗浄
【0053】
ここで、「ブラシによる洗浄」には、例えばナイロン等の洗浄ブラシを回転させながらこすり汚れを落とすことが含まれる。
「リンス洗浄」とは溶剤によって汚れ浮かし取る洗浄を示し、例えば超純水やアルコール等のリンス溶剤で洗浄することが含まれる。
「研磨剤を使用した研磨」には、例えばシリカ等の研磨剤を使用し、研磨を行うことが含まれる。
「超音波洗浄」には、例えば超音波を照射し、汚れ等を浮かし洗浄することが含まれる。
「高圧純水洗浄」には、例えば高圧の超純水をかけ、汚れ等を浮かし洗浄することが含まれる。
「真空乾燥」には、例えば真空乾燥機に基板を入れ、真空引きを行いながら真空乾燥機を昇温させ乾燥させることが含まれる。
「プラズマ洗浄」には、例えば酸素プラズマで洗浄することが含まれる。
【0054】
この時、洗浄工程により、図5(c)のようにレーザースクライブによって生じたバリ30が取り除かれる。
【0055】
次に、この基板に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層等を順次堆積し、機能層5を形成する。(図4(d)から図4(e))
【0056】
そして、真空蒸着装置から取り出した基板に対して第二レーザースクライブ工程を行い、機能層5に機能層分離溝16を形成する。(図4(e)から図4(f))
【0057】
続いて、真空蒸着装置に前記基板を挿入し、機能層5の上に、第2電極層6を形成する。(図4(f)から図4(g))
【0058】
さらに続いて第三レーザースクライブ工程を行い、第2電極層6と機能層5の双方に単位発光素子分離溝17を形成する。(図4(g)から図4(h))
【0059】
そして、さらに給電電極の成形(図示せず)や、その外側における分離溝(図示せず)の成形、分離溝の外側部分の第2電極層6等の除去を行う。
その後、封止部材8による封止の作業を行い本実施形態の有機EL装置1が完成する。
【0060】
上記のように形成された有機EL装置1は、第1電極層分離溝15の底部に基板2の素材と第1電極層3の素材が混じった絶縁層25が存在するため、機能層5が第1電極層分離溝15に落ち込みにくく、第1電極層3と第2電極層6との距離を維持できる。それ故に、第1電極層分離溝15近傍の機能層5の端部に局所的に高い電界が生じることを防ぐことができる。
【0061】
以下に、実施例をもって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0062】
本発明の具体的な実施例および実施例に対する比較例の有機EL装置の作製手順と、これらの評価結果を説明する。
【0063】
〔実施例〕
有機EL装置を形成するための基板としては、第1電極層としてITO(インジウム・錫酸化物、膜厚150nm)が積層されているガラス基板を用いた。この基板にレーザースクライブ処理を施し、0.5mm間隔のパターニング形成を行った。
この基板を界面活性剤によりブラシを用いて洗浄し、純水にて超音波洗浄した後、基板をオーブン中で乾燥した。この基板を真空蒸着装置に移動させ、真空中で以下のように材料を成膜した。
【0064】
第1電極層上に、正孔注入層として4,4’−ビス[N−(2−ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(以下、NPBと略す)と三酸化モリブデンの混合層を用い、真空蒸着法にて10nmの膜厚で成膜した。正孔注入層のNPBと三酸化モリブデンは共蒸着法にて膜厚比率で9:1となるように成膜した。
【0065】
次いで、正孔輸送層としてNPBを、真空蒸着法により50nm(蒸着速度0.08nm/sec〜0.12nm/sec)の膜厚で成膜した。
【0066】
次いで、発光層兼電子輸送層としてトリス(8−キノリノラト)アルミニウム(以下、Alq3と略す)を、真空蒸着法により、70nm(蒸着速度0.24nm/sec〜0.28nm/sec)の膜厚で成膜した。
【0067】
次いで、電子注入層としてLiFを用い、真空蒸着法にて1nm(蒸着速度0.03nm/sec〜0.05nm/sec)の膜厚で成膜した。
最後に陰極としてAlを真空蒸着法にて150nm(蒸着速度0.3nm/sec〜0.5nm/sec)の膜厚で成膜し、単位形状30mm×30mm、発光面積18mm×18mmの有機EL素子を作製した。
その後、この有機EL素子を真空雰囲気から窒素雰囲気で満たされたグローブボックスに移動させて封止を行なった。
【0068】
〔比較例1〕
実施例の作製手順において、この基板にレーザースクライブ処理ではなく、ウェットエッチング処理を施し、パターニング形成を行った。
【0069】
〔発光欠陥測定〕
実施例及び比較例1の有機EL装置について高温高湿発光試験を行い、レーザースクライブあるいはウェットエッチングでパターニング形成された第1電極分離溝の端部で発生する発光欠陥を評価した。試験条件は雰囲気85℃/85%RHで印加電圧5Vであり、評価は室温で約10倍の実体顕微鏡で観察し、溝の長さ当たりの発光欠陥の数を評価した。試験時間1000時間経過後、実施例のレーザースクライブでは発光欠陥は6コ/mとなった。一方、比較例1では、ウェットエッチングでは発光欠陥は190コ/mとなった。比較例1に比べて実施例の発光欠陥量は減少した。
【0070】
実施例及び比較例1の有機EL装置の断面を透過型電子顕微鏡で観察を行った。その測定結果を図6〜図11に示す。
【0071】
実施例では、図6に示すように、第1電極層分離溝の近傍のガラス基板とITOの境界付近に底部にガラス基板の素材とITOの素材が混じった黒い層が確認された。図7のTEM像に沿ってスケッチした図8に示すように、黒い層付近のガラス基板の高さは、その他のガラス基板の高さに比べて、低くなっており、レーザースクライブによって、ガラス基板が削られている。そして、黒い層が削られたところを埋めて、第1電極層分離溝の深さが浅くなり、結果的にガラス基板の高さは他の部分と揃っており、ITOの溝への潜り込みが小さい。また、溝近傍のITOの上面は、他の領域のITOの上面と緩やかに連続しており、平滑度が同等である。ITOとAlの接触距離が一定以上に保たれている。
また、絶縁層上に積層したITOは、図8に示すように第1電極層分離溝の内側(図8の左側)から第1電極層分離溝の外側(図8の右側)に向かって徐々に盛り上がって、厚みが増加し、絶縁層の端部近傍を境に絶縁層の端部近傍から端部に向けて急激に厚みが減少する。即ち、絶縁層上に積層したITOの頂点(最も盛り上がっている部位)は、絶縁層の端部近傍側に存在する。また、絶縁層上に積層したITOの上部は連続しており、その頂点付近は丸みを帯びている。絶縁層上に積層したITOの上部とガラス基板上に積層したITOの上部は連続している。絶縁層の端部近傍のITOの厚さは、ガラス基板上に積層したITOの厚さに比べて厚い。
【0072】
比較例1では、図9、10に示すように、ガラス基板がウェットエッチングにより一部浸食されている。溝付近のガラス基板の高さは、他のガラス基板の高さに比べて低い。また、溝近傍のITOの上面は凹凸が形成され、他の領域のITOの上面に比べて、平滑度が低い。また、図11に示すように、溝近傍のITOの上面の凹凸に伴って、ITOとAlとの距離が不規則に変化している。また、ITOがオーバーハング状となっており、ITOとAlが接触し、ショートしている部分が確認された。
【符号の説明】
【0073】
1 有機EL装置
2 基板(基材)
3 第1電極層
5 機能層(有機発光層)
6 第2電極層
15 第1電極分離溝
16 機能層分離溝(発光層分離溝)
17 単位発光素子分離溝(第2電極分離溝)
25 絶縁層
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に少なくとも第1電極層と、有機発光層と、第2電極層が積層され、第1電極層が第1電極層分離溝によって複数に分離された有機EL装置において、
前記第1電極層分離溝の底部に基材の素材と第1電極層の素材が混じった絶縁層が存在することを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
有機発光層は発光層分離溝によって複数の小発光領域に分割され、第2電極層は第2電極分離溝によって複数に分離されており、前記基材上で前記小発光領域が直列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
第1電極層の第1電極層分離溝の近傍の平滑度が他の領域と同等であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
第1電極層分離溝はレーザースクライブによって形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL装置。
【請求項5】
請求項4に記載の有機EL装置を製造する方法であって、
基材上に第1電極層を成膜する第1電極層成膜工程と、第1電極層にレーザーを照射して第1電極層分離溝を形成する第1スクライブ工程と、前記第1スクライブ工程の後に基材を洗浄する洗浄工程を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
洗浄工程は、次の工程の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置の製造方法。
(1)ブラシによる洗浄
(2)リンス洗浄
(3)研磨剤を使用した研磨
(4)超音波洗浄
(5)高圧純水洗浄
(6)真空乾燥
(7)プラズマ洗浄
【請求項7】
洗浄工程は、第1電極層の算術平均粗さが1nm以下となるように行うことを特徴とする請求項5又は6に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項1】
基材上に少なくとも第1電極層と、有機発光層と、第2電極層が積層され、第1電極層が第1電極層分離溝によって複数に分離された有機EL装置において、
前記第1電極層分離溝の底部に基材の素材と第1電極層の素材が混じった絶縁層が存在することを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
有機発光層は発光層分離溝によって複数の小発光領域に分割され、第2電極層は第2電極分離溝によって複数に分離されており、前記基材上で前記小発光領域が直列に接続されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
第1電極層の第1電極層分離溝の近傍の平滑度が他の領域と同等であることを特徴とする請求項1又は2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
第1電極層分離溝はレーザースクライブによって形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の有機EL装置。
【請求項5】
請求項4に記載の有機EL装置を製造する方法であって、
基材上に第1電極層を成膜する第1電極層成膜工程と、第1電極層にレーザーを照射して第1電極層分離溝を形成する第1スクライブ工程と、前記第1スクライブ工程の後に基材を洗浄する洗浄工程を有することを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項6】
洗浄工程は、次の工程の少なくとも1つを含むことを特徴とする請求項5に記載の有機EL装置の製造方法。
(1)ブラシによる洗浄
(2)リンス洗浄
(3)研磨剤を使用した研磨
(4)超音波洗浄
(5)高圧純水洗浄
(6)真空乾燥
(7)プラズマ洗浄
【請求項7】
洗浄工程は、第1電極層の算術平均粗さが1nm以下となるように行うことを特徴とする請求項5又は6に記載の有機EL装置の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図8】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図6】
【図7】
【図9】
【図10】
【公開番号】特開2012−164574(P2012−164574A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−25220(P2011−25220)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】
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