説明

有機EL装置

【課題】 フォトリソグラフィを用いて有機化合物層をパターニングして形成される発光装置において、素子領域の外側の領域における有機化合物層の端部を素子領域内の発光層の端部と同じ条件でエッチングすると、大きな角度になってしまい、その上に形成される第2電極が途切れたり膜厚が薄くなったりして素子を流れる電流の配線抵抗が高くなり、発光装置の非点灯、シェーディングなどの発光不良や高電圧化などの課題が生じる。
【解決手段】 フォトリソグラフィにてパターニングされる複数の有機化合物層の端部のうち、発光素子間に位置せず、かつ、前記第2電極で覆われる領域に位置する端部の傾斜角を、発光素子間に位置する端部の傾斜角よりも小さくする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも2つ以上の異なる色を表示可能な発光装置であって、特に、互いに異なる色を発光する少なくとも第1および第2の有機EL素子を備える有機EL装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の色を表示可能な有機EL装置の製造方法には、シャドウマスクを用いて特定の領域に特定の色を発する発光層を選択的に形成する方法が広く用いられている。近年は、300ppiを超える高精細な発光装置が求められており、従来のシャドウマスクを用いた方法では実現が困難になってきている。そこで、特許文献1では、微細化が可能な技術として、フォトリソグラフィを用いたパターニングにより、発光層を選択的に形成する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4578026号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1によれば、フォトリソグラフィを用いて発光層の上にレジストを所望のパターンに形成し、レジストが形成されていない領域の発光層をウェットエッチングまたはドライエッチングによって除去することにより発光層を選択的に形成することができる。このような方法でパターニングされた発光層の端部は、シャドウマスクを用いて選択的に形成した発光層の端部に比べて、傾斜領域を小さくすることが可能である。ここでいう傾斜領域とは、膜の端部に向かって膜厚が薄くなっている領域、言い換えると、基板に対して傾斜している領域を言う。
【0005】
シャドウマスクを用いて形成した膜の場合、シャドウマスクと被成膜面との距離、および、蒸着粒子が被成膜面に入射する角度に応じて、シャドウマスクの開口部に形成される膜の端部には、形成された膜の膜厚の数倍〜数十倍の幅の傾斜領域が形成される。これに対して、フォトリソグラフィとエッチングによって膜をパターニングする場合、傾斜領域を形成された膜の膜厚と同程度かそれ以下の幅にすることが可能となる。特に、基板に対してほぼ垂直方向にエッチングを進行させることができるドライエッチングを用いると、基板に対する膜端部の傾斜角を60〜90度と大きくすることができ、傾斜領域の幅を膜厚よりも狭くすることができる。発光装置の素子領域に配置される発光層を、フォトリソグラフィを用いてパターニングすれば、互いに隣接する発光層間の距離を小さくすることができるため有機EL素子を密に配置することが可能となり、発光装置の細密化や発光素子の開口率向上に有利である。本発明において、素子領域とは、表示に関わる有機EL素子が複数配置される領域をいう。また、形成された膜の膜厚とは、傾斜領域を除く複数箇所で測定した膜厚を平均化した値をいう。
【0006】
ところで、発光装置を駆動するための電力は、素子領域の外側にあらかじめ設けられた外部接続端子を介して外部電源から供給される。外部接続端子と有機EL素子の2つの電極とは配線を介して電気的に接続されている。なお、必要な時に外部接続端子と有機EL素子の2つの電極を電気的に接続できれば、前記配線の途中にトランジスタなどのスイッチング素子が設けられていても良い。一般に、配線と発光層のパターニング後に形成される第2電極との接続は、素子領域の外側に配線層の上に形成される発光層等の高抵抗材料を除去したコンタクト部を設けておき、コンタクト部で両者を電気的に接続する構成が用いられる。また、発光層などの有機材料は、外部電源との電気接続のために外部接続端子の表面からは除去され、さらに外部から有機EL素子への水分侵入経路を断つために発光領域を取り囲むように除去される。
【0007】
コンタクト部など素子領域の外側における発光層の除去を、素子領域内の発光層のパターニングと同時に行えば、製造工程を簡略化できるため好ましい。しかしこの場合、素子領域の外側における発光層の端部の基板に対する傾斜角は、素子領域内の発光層の端部と同じ条件でエッチングされるため、素子領域内と同様に大きくなってしまう。このように、第2電極を形成する面に、基板に対して大きな傾斜角を有する領域があると、第2電極が途切れてしまったり、第2電極の膜厚が薄くなってしまったりして、抵抗が高くなる可能性がある。特に、第2電極を、指向性の高い蒸着法で形成する場合や薄い膜厚で形成する場合、第2電極を形成する面に90度に近い傾斜角がある場合は、第2電極の抵抗が高くなる可能性が特に高い。第2電極が途切れたり膜厚が薄くなっている箇所があると、発光素子を流れる電流が第2電極から配線層へ流れ込むまでの配線抵抗が高くなり、発光装置の非点灯、シェーディングなどの発光不良や高電圧化などの課題が生じてしまう。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明は、フォトリソグラフィを用いて発光層がパターニングされる発光装置において、画素の微細化や開口率向上などのフォトリソグラフィの利点を活用しつつ、第2電極の断線や高抵抗化等による発光装置の発光不良や高電圧化を抑制する。
【0009】
本発明にかかる発光装置は、第1電極と少なくとも発光層を含む有機化合物層と第2電極とがこの順に積層され、基板の所定の領域に配置された複数の有機EL素子と、
前記基板の所定の領域の外に配置された外部接続端子と前記外部接続端子に電気的に接続されコンタクト部を有する配線と、を備え、
前記第1電極が有機EL素子ごとに分割され、
前記有機化合物層が1または複数の有機EL素子ごとに分割され、
前記第2電極が複数の有機EL素子に共通して設けられ、前記コンタクト部で前記配線と電気的に接続されている有機EL装置であって、
前記分割された有機化合物層の端部のうち、有機EL素子間に位置せず、且つ、前記第2電極が設けられる領域に位置する有機化合物層の端部の前記基板に対する傾斜角は、前記有機EL素子間に位置する有機化合物層の端部の前記基板に対する傾斜角よりも小さい
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によって得られる発光装置は、フォトリソグラフィにて発光層がパターニングされている発光装置であって、有機EL素子間に位置しない有機化合物層の端部の傾斜領域の基板に対する傾斜角(以下、単に傾斜角と記述する)が小さく抑えられている。従って、微細化や開口率向上などのフォトリソグラフィの利点を活用しつつ、素子領域の外側の領域にある傾斜領域で生じる第2電極の断線や高抵抗化による発光不良や高電圧化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明にかかる発光装置を示した模式図。
【図2】本発明の製造方法の一例を簡略に示した断面模式図。
【図3】本発明の製造方法の他の例を簡略に示した断面模式図。
【図4】本発明の平面レイアウトの例を示した平面模式図。
【図5】本発明における有機化合物層の端部の傾斜角を説明するための模式図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る発光装置の実施形態について、図面を参照して説明する。明細書中で特に図示または記載されない部分に関しては、当該技術分野の周知または公知技術を適用することができる。また、以下に説明する実施形態は好ましい例であってこれらに限定されるものではない。本発明の技術範囲の中で適宜変更して実施することができる。
【0013】
図1(a)は本発明に係る発光装置の平面模式図、図1(b)は図1(a)のX I−X IIラインにおける断面模式図である。基板10には、外部接続端子15と外部接続端子に電気的に接続された配線14とが、有機EL素子が形成される素子領域12の外側に設けられている。図示していないが、基板10は、支持体と、有機EL素子を制御するためのトランジスタやトランジスタに信号を供給する制御線や信号線、外部接続端子15と第1電極とを接続する配線等からなる回路層と、回路層を覆う絶縁層を有している。外部配線と電気的に接続する外部接続端子15、第2電極と電気的に接続する配線14の一部分(コンタクト部11)は、それぞれ表面の絶縁層が除去されている。
【0014】
基板10の上には、行方向および列方向に複数の第1電極(下部電極)21〜23が有機EL素子毎に形成されており、各第1電極は、回路層を覆う絶縁層に設けられたコンタクトホール(不図示)を介して回路層と電気的に接続されている。第1電極21の上には少なくとも第1発光層を含む第1有機化合物層31、第1電極22の上には少なくとも第2発光層を含む第2有機化合物層32、第1電極23の上には少なくとも第3発光層を含む第3有機化合物層33がそれぞれ設けられている。第1発光層、第2発光層、第3発光層は互いに異なる色を発光する層であり、それぞれに赤(R)、緑(G)、青(B)を発光する層を用いれば、フルカラーを表示することができる。
【0015】
第1〜第3発光層の上には、複数の有機EL素子に跨って連続する第2電極(上部電極)70が形成され、有機EL素子が完成する。ここで言う有機EL素子とは、第1電極と、第2電極と、第1電極と第2電極とに挟まれた有機化合物層とを含む構成であって、外部から回路層に入力される信号に応じて発光する。また、第2電極70は、素子領域から配線14のコンタクト部11にかけて連続して設けられており、コンタクト部11で配線14と電気的に接続されている。このような構成により、外部接続端子15を介して、有機EL素子を発光させるための電流を流すことができる。
【0016】
有機化合物層を備える有機EL素子は水分による劣化が著しいため、外部から素子領域12へ水分が浸入するのを抑制する封止層90が有機EL素子を覆って設けられる。また、有機化合物層などの有機材料は水分を浸透し易いことから、有機化合物層を介して外部から素子領域に水分が浸入するのを抑制するため、素子領域12を取り囲むように有機化合物層を除去して水分侵入経路を断っておく必要がある。
【0017】
従って、第2電極を素子領域からコンタクト部11にかけて連続して設けると、第2電極は必ず有機EL素子間に位置しない有機化合物層の端部を跨いで形成されることになる。つまり、有機EL素子間に位置しない有機化合物層の端部の傾斜角の大きさが、有機EL素子を流れる電流が第2電極から配線層へ流れ込むまでの電流経路の抵抗(有機EL素子とコンタクト部との間の配線抵抗)に影響を与えることになる。
【0018】
本発明において、各有機化合物層はフォトリソグラフィを用いてパターニングされる。一般に、フォトリソグラフィを用いて膜をパターニングする場合、各膜は1回のフォトリソ工程で所望のパターンに形成される。従って、1回のフォトリソ工程でパターニングされる膜の端部は、いずれも同じ条件でエッチングされるためほぼ同じ傾斜角を有することになる。本発明において、各有機化合物層をそれぞれ1回のフォトリソ工程で所望のパターンに形成すると、素子領域に設けられる有機化合物層の端部も素子領域の外に設けられる有機化合物層の端部も同じ条件でエッチングされ、ほぼ同じ傾斜角になる。即ち、素子領域内、素子領域外にかかわらず、どちらの有機化合物層の端部の傾斜角も大きくなる。そのため、有機化合物層の端部を跨いで連続して形成される第2電極が傾斜角の大きな有機化合物層端部で途切れたり膜厚が薄くなったりして、有機EL素子とコンタクト部との間の配線抵抗が高くなる可能性がある。
【0019】
本発明におけるフォトリソグラフィを用いた有機化合物層のパターニング法については後に詳細に説明するが、有機EL素子間に位置する有機化合物層の端部の傾斜部は、図1(b)のように隣接して設けられる有機EL素子の有機化合物層に接して形成される。そのため、第2電極が途切れたり膜厚が薄くなったりする原因となる傾斜角の大きな有機化合物層の端部が露出することがなく、素子領域内で有機EL素子とコンタクト部との間の配線抵抗が大きく上昇することはない。一方、有機EL素子間に位置しない有機化合物層の端部には隣接する有機化合層がないため、パターニングしたままの端部が露出することになる。前述したように、第2電極は、素子領域の外側にあって有機EL素子間に位置しない有機化合物層の端部を跨いで形成される。つまり、有機EL素子間に位置しない傾斜角の大きな有機化合物層の端部で第2電極が途切れたり膜厚が薄くなったりして、有機EL素子とコンタクト部との間の配線抵抗が大きく上昇してしまう可能性がある。
【0020】
そこで、本発明にかかる表示装置では、図1(b)に示したように、有機EL素子間に位置しない有機化合物層の端部の基板10に対する傾斜角を、有機EL素子間に位置する傾斜角よりも小さくしている。このような構成により、第2電極70を素子領域12からコンタクト部11にかけて連続して設けた際に、第2電極70が有機EL素子間に位置しない有機化合物層の端部で途切れたり膜厚が薄くなるのを抑制できる。その結果、有機EL素子とコンタクト部11との間の配線抵抗が大きく上昇するのが抑制され、発光不良や高電圧化が抑制され、低電力で均質な発光が可能な発光装置を提供することができる。
【0021】
なお、図1(a)、(b)の発光装置は、互いに異なる発光層を備える3種類の有機EL素子を有しているが、2種類の有機EL素子からなる発光装置や4種類以上の有機EL素子からなる発光装置であってもよい。ここで、互いに「異なる発光層」とは、発光層を構成する材料あるいは膜厚の少なくともいずれか一方が異なることを言う。
【0022】
続いて、本発明にかかる発光装置の製法について説明する。図2(a)〜(p)は、本発明にかかる発光装置の製造方法の一例を示した断面模式図である。図2では、図面の簡略化のため、発光装置の一部分即ちコンタクト部11と3種類の有機EL素子が1つずつ設けられた領域を示している。
【0023】
(第1電極形成工程)
まず、複数の第1電極21、22、23と、外部接続端子に電気的に接続された不図示の配線と後に形成する第2電極70とのコンタクト部11とが形成された基板10の上に、少なくとも第1発光層を含む第1有機化合物層31を形成する(図2(a))。基板10には、支持体と、支持体上に設けられる回路層と、回路層上に形成される絶縁層、回路層と有機EL素子とを電気的に接続するコンタクトホールなども含まれている。支持体にはガラス基板などの絶縁性基板やシリコン基板の半導体基板、金属基板の表面に絶縁層を設けた基板などを好適に用いることができる。
【0024】
第1電極は、トップエミッション型の発光装置であれば、例えばAlやAgやそれらの合金など光を反射する金属材料で構成されるのが好ましい。また、金属層とインジウム酸化物等の導電性酸化層との積層電極も好適に用いられる。ボトムエミッション型の発光装置であれば、第1電極は光を透過する材料でなければならず、例えばとインジウム酸化物やインジウム亜鉛酸化物等が好適である。ボトムエミッション型の場合は、支持基板にもガラス等の透明基材を用いる。
【0025】
(第1有機化合物層形成工程)
基板10の第1電極21〜23が形成された素子領域に、第1有機化合物層31を形成する。有機化合物層31の形成方法は、真空蒸着法、スピンコート法など公知の方法を用いる事ができる。真空蒸着法を用いる場合、第1電極21〜23が形成された素子領域に対応する開口を有するエリアマスクを用いて選択的に形成しても良いし、マスクを用いずに基板10全体に形成してもよい。
【0026】
各有機EL素子に含まれる有機化合物層は、それぞれ少なくとも所定の色を発光する発光層を含んでいる。つまり、本発明において、有機化合物層は、1層若しくは複数層の発光層から構成される場合、またはこのような発光層に加えて更に電子注入層、電子輸送層、正孔注入層、正孔輸送層などから成る他の層を1層以上含んだ複数の層の積層体から構成される場合を包含するものである。第1有機EL素子、第2有機EL素子、第3有機EL素子に互いに異なる色を表示させる場合、それぞれの有機EL素子が互いに異なる有機化合物層を含むように形成する。本発明において、互いに「異なる有機化合物層」とは、発光層の材料、組成、膜厚、発光層を形成する場合の成膜方法、成膜条件、発光層以外の他の層の材料、組成、膜厚、他の層を形成する場合の成膜方法、成膜条件等のうち、少なくとも一つが互いに異なる有機化合物層のことを言う。例えば、有機化合物層を発光層と機能層との積層体から構成する場合、発光層のみを第1〜第3有機EL素子間で互いに異ならせる構成もあり得る。このような場合は、発光層までを積層した有機化合物層をパターニングするフォトリソグラフィを用いた工程を繰り返した後、最後に第1〜第3有機EL素子に共通する機能層を、第1〜第3有機EL素子に連続して形成しても良い。
【0027】
各有機化合物層に含まれる発光層の発光色の組み合わせは特に限定されないが、R、G、Bの3色の組み合わせが最も一般的である。
【0028】
(第1有機化合物層のパターニング工程)
第1有機化合物層31の上に第1中間層41を形成し(図2(b))、さらに第1レジスト層51を形成する(図2(c))。第1中間層41は、第1レジスト層51のレジスト材料に含まれる溶媒やレジスト現像液が第1有機化合物層31に与える影響を抑制する保護層の役割を有している。さらに、後の工程では、第1中間層41を溶解して第1中間層の上に設けられた層を除去するための層としての役割も有している。従って、第1中間層には、レジスト材料に含まれる溶媒やレジスト現像液の浸透を抑制し、かつ、第1中間層41を除去する際に用いる溶解液が第1有機化合物層31に影響を与えない材料を選択して用いる。
【0029】
第1中間層の上に設けられた層を除去するための層としての役割を担うという点では、例えば、水溶性高分子や水溶性無機塩などが好適である。しかし、第1中間層を水溶性材料で形成した場合、第1レジスト層51を形成する工程や現像工程で、第1中間層自体が溶解や膨潤などの影響を受けてしまう可能性が懸念される。その場合は、第1中間層を、水溶性材料からなる層と水溶性材料からなる層を工程から保護する役割を担う層との積層体とし、第1有機化層物層31に近い側に水溶性材料からなる層を設けるとよい。水溶性材料からなる層を工程から保護する層としては非水溶性材料が好ましく、具体的には酸化珪素や窒化珪素などが好適に用いられる。
【0030】
中間層の形成方法は、例えば、水溶性高分子からなる層はスピンコート法やディップコート法などの塗布法、水溶性無機塩からなる層は塗布法や真空蒸着法など、形成する層の材料によって公知の方法から適宜選択することができる。非水溶性材料からなる層を形成する場合は、塗布法の他に、真空蒸着法、スパッタ法、CVD法などの真空成膜法から選択して用いることができる。
【0031】
もし、第1レジスト層51のレジスト材料に含まれる溶媒やレジスト現像液に対して第1有機化合物層31が不溶であれば、第1中間層41の形成は省略してもよい。他の有機化合物層のフォトリソ工程においても同様である。
【0032】
第1レジスト層51には、公知の感光性材料を使用することができる。図2に示した製造方法では、ポジ型レジストを用いた場合を示しているが、ネガ型レジストを用いてもよい。第1レジスト層51成膜方法は、スピンコート法、ディップコート法、インクジェット法など、既存の方法を用いることができる。
【0033】
次に、第1電極21が形成された領域を遮蔽する第1フォトマスク61を介して基板10に紫外線60を照射し、第1電極21以外の領域の第1レジスト層51を露光する(図2(d))。第1レジスト層51がネガ型レジストの場合は、第1電極21が形成された領域に開口を有するフォトマスクを用いる。
【0034】
次に、露光後の基板10を現像液に浸し、露光された領域の第1レジスト層51を除去(図2(e))する。残った第1レジスト層51をマスクとして、第1レジスト層51が除去された領域の第1中間層41と第1有機化合物層31をエッチングにより除去する(図1(f))。この時、第1電極21上の第1有機化合物層31に影響を与えない範囲であれば、マスクとして残された第1レジスト層51と、その下の第1中間層41の一部が同時に除去されてもよい。
【0035】
第1有機化合物層31のエッチングには、第1有機化合物層31を溶かす溶剤を用いたウェットエッチングや、第1有機化合物層31の材料と反応するガスを用いたドライエッチングを用いることができる。ただし、溶剤を用いたウェットエッチングは、第1レジスト層51の下の第1有機化合物層31がある程度サイドエッチングされてしまうため、ほとんどサイドエッチングの心配のないドライエッチングの方が好適である。ドライエッチングは、ウェットエッチングに比べて第1有機化合物層31の端部の傾斜角を大きくできる点でも好ましい。
【0036】
(第2有機化合物層の形成工程)
パターニングされた第1有機化合物層31の上に第1中間層41を残したまま、第2発光層を含む第2有機化合物層32を、少なくとも第1電極22の上に形成する(図2(g))。第2有機化合物層32は、第1有機化合物層31と同様にして形成することができる。第2有機化合物層32は、第1有機化合物層31の端部を覆って形成されるため、第1有機EL素子と第2有機EL素子との間に位置する第1有機化合物層31の端部と第2有機化合物層32の端部は互いに接することになる。その結果、第1有機化合物層31の傾斜角の大きな端部がそのまま露出することがない。
【0037】
(第2有機化合物層のパターニング工程)
第2有機化合物層32までが形成された基板10を第1中間層41の溶媒に浸漬し、第1中間層41を、その上に形成された第2有機化合物層32と共に除去する(図2(h))。その結果、第1電極21の上には第1有機化合物層31が形成され、他の第1電極22、23の上には第2有機化合物32が形成された状態となる。
【0038】
次に、第1有機化合物層31および第2有機化合物層32の上に、第2中間層42を形成し(図2(i))、その上にポジ型の第2レジスト層52を形成する(図2(j))。第2中間層42の材料および形成方法は、第1中間層41と同様である。第2レジスト層52の溶媒と現像液に対して第1および第2有機化合物層が不溶であれば、第2中間層42の形成を省略してもよい。
【0039】
続いて、第2フォトマスク62にて第1電極21、22が設けられた領域を遮蔽して紫外線60を照射し、第1電極21、22が設けられた領域以外に設けられた第2レジスト層52を露光する(図2(k))。その後、現像液に浸漬して露光された領域の第2レジスト層52を除去し(図2(l))、残った第2レジスト層をマスクとして、第2レジスト層52が除去された領域の第2中間層42と第2有機化合物層32を除去する(図2(m))。第2有機化合物層32の除去は、第1有機化合物層31と同様に行うことができる。この時、第1電極21および22の上の第1有機化合物層31と第2有機化合物層32に影響を与えない範囲で、マスクとして残された第2レジスト層52とその下の第2中間層42の一部を同時に除去してもよい。
【0040】
(第3有機化合物層の形成工程)
次に、第3発光層を含む第3有機化合物層33を、第1電極23の上に形成する(図2(n))。本実施例では図2の通り、最後に形成する第3有機化合物層33は、有機EL素子間に位置しないため他の有機化合物層と接していない端部を有している。そこで、第3有機化合物層33の有機EL素子間に位置しない端部の傾斜角が、フォトリソグラフィにてパターニングした時の端部の傾斜角よりも小さくなるように、マスク65を用いた真空蒸着法にて第3有機化合物層33を形成している。具体的には、素子領域12に対応する開口を備えたマスク65を用意し、コンタクト部11と素子領域12との間にマスク65の開口端がくるようにマスク65と基板10とをアライメントして、第3有機化合物層33を真空蒸着する。
【0041】
一般に、マスクを用いた真空成膜法では、マスクと被成膜面との間にできる隙間に成膜粒子が回り込み、マスクと被成膜面との距離や、被成膜面に付着する成膜粒子の入射角に応じて、マスクの開口端の近傍に膜厚が徐々に薄くなる傾斜部が形成される。従って、マスクと被成膜面との距離や被成膜面に付着する成膜粒子の入射角を調整して、有機化合物層の端部の傾斜角を制御することが可能である。また、マスクを用いることで、不要な領域には第3有機化合物層33が形成されないため、有機化合物層を介して外部から素子領域に水分が侵入する心配がなく、素子領域を取囲むように有機化合物層を除去する工程を省くことができる。
【0042】
第3有機化合物層33は、第1有機化合物層31および第2有機化合物層32の端部を覆うように形成されるため、第3有機EL素子と、第1有機EL素子および第2有機EL素子との間に位置する各発光層の端部は互いに接し、傾斜角の大きな端部が露出することがない。
【0043】
(第3有機化合物層のパターニング工程)
第3有機化合物層33までが形成された基板10を第2中間層52の溶媒に浸漬し、第1電極21、22の上に形成された第2中間層42を溶解して、その上に形成された第3有機化合物層33を剥離除去する(図2(o))。
【0044】
(第2電極の形成工程)
最後に、第1、第2、第3の有機化合物層31〜33の上に、複数の有機EL素子およびコンタクト部11に連続する第2電極70を形成し、本発明の有機EL素子が完成する(図2(p))。
【0045】
図2(p)の通り、有機EL素子間に位置せず、かつ、第2電極が形成された領域における第3有機化合物層33の端部の傾斜角は、マスクを用いて成膜した際に形成される端部そのままであるため、有機EL素子間に位置する端部の傾斜角よりも小さくなっている。つまり、パターニングされた有機化合物層の端部のうち、有機EL素子間に位置せず、かつ、第2電極が形成された領域に位置する有機化合物層の端部の傾斜角は、前記有機EL素子間に位置する端部の傾斜角よりも小さくなっている。ここで、有機EL素子間に位置せず、かつ、第2電極が形成された領域に位置する有機化合物層の端部は、図2(p)に示された領域以外にも存在する。その領域全てにおいて有機EL素子間に位置する有機化合物層の端部の傾斜角よりも小さくなっている必要はなく、少なくとも一部が小さくなっていればよい。また、図2(p)のように、必ずしもコンタクト部11が設けられた辺において、有機化合物層の端部の傾斜角が小さくなっているのは、配線抵抗を低減する点で好ましいが、必須の要件ではない。なぜなら、少なくとも一部分で素子領域12とコンタクト部11との電気的な接続が確保されており、有機EL素子とコンタクト部との間の配線抵抗が十分低くなっていればよいからである。
【0046】
従って、第1または第2有機化合物層をマスクを用いて真空蒸着法により形成し、有機EL素子間に位置しない領域に、真空成膜法にて形成された有機化合物層の端部の少なくとも一部がそのままの形状で残るように、エッチングでパターニングしてもよい。
【0047】
マスクを用いた真空蒸着法は、工程数を増やさずに有機EL素子間に位置しない有機化合物層の端部の傾斜角を小さくすることができるため、好適である。
【0048】
本発明にかかる発光装置は、有機EL素子間に位置する各有機化合物層の端部は互いに接しているために傾斜角の大きな領域が形成されない。また、有機EL素子間に位置しない第3有機化合物層33の端部の傾斜角は小さいため、第2電極が途切れたり膜厚が薄くなったりする恐れもない。その結果、第2電極とコンタクト部11との間おいて、第2電極のシート抵抗が高くなるのを抑制し、発光装置の発光不良や高電圧化を抑制することができる。
【0049】
4種類の有機化合物層からなる発光装置、即ち、第4有機化合物層を有する有機EL素子を備える有機EL発光装置を作製する場合は、図2(g)から図2(m)と同様の工程を追加することによって、同様に作製することができる。また、2種類の有機化合物層からなる有機EL発光装置を作製する場合は、図2(g)から図2(m)までの工程を省略することによって作製することができる。
【0050】
以上、本発明にかかる発光装置の一製造方法を説明したが、他に、有機化合物層の有機EL素子間に位置しない端部の傾斜角を、ドライエッチングのプロセス条件を調節し作製することもできる。以下、図3を用いて、他の製造方法を説明する。ただし、図2に示した製造方法と共通する点は説明を省略し、異なる点を中心に説明する。さらに、図3において図2と同じ部材には同じ符号を付し、説明を省略する。
【0051】
第2有機化合物層32を形成するまでは図2の製造方法と同様に行う。第1電極23を露出させた後、図2と異なり蒸着マスクを使用せずに第3の有機化合物層33を基板10の全面に形成し(図3(a))、第1電極21、22に形成された第3有機化合物層を、第2中間層42とともに除去する(図3(b))。
【0052】
次に、第3中間層43と第3レジスト層53を形成し(図3(c))、第3のフォトマスクの遮蔽領域63で素子領域12を遮蔽して露光を行う(図3(d))。その後基板10を現像液に浸漬し、露光された領域の第3レジスト層53を現像して、素子領域を取囲む領域およびコンタクト部11の上の、第3レジスト層53を除去する(図3(e))。
【0053】
続いて、残った第3レジスト層53をマスクとして、第3中間層43と第3有機化合物層33をドライエッチングにより除去する(図3(f))。この時、ドライエッチング工程における圧力を調節するなどにより、パターニングされる有機化合物層の端部の傾斜角を小さくすることができる。
【0054】
第3有機化合物層33のパターニング後、第3中間層を溶解して除去し(図3(g))、最後に、図2と同様にして第2電極70を形成し、本発明の発光装置が完成する(図3(h))。図3(g)では、ドライエッチング工程中に、第3レジスト層53がエッチングされて除去された場合を示しているが、ドライエッチング工程後に第3レジスト層53が残っている場合は、第3中間層を溶解して除去する際に同時に除去することができる。
【0055】
図3に示した製造方法を用いた場合、図2の製造方法よりは工程数は増えるが、有機化合物層の端部の位置精度と角度制御を図2の製造方法よりも向上させることができるため、端部の傾斜領域の幅を狭くして周辺領域、即ち額縁を小さくすることができる。
【0056】
なお、1回のパターニングで形成される有機化合物層の端部の傾斜角は平面内のどの位置でもほぼ同一に形成される。従って、本発明における傾斜角として、それぞれの代表的な一箇所における傾斜角を用いてもよい。もし、パターニング条件によって傾斜角がばらつく場合は、複数箇所の平均を用いても良い。図5に示すように、ある有機化合物層24の端部における傾斜角が一定でない場合は、傾斜部の各点における接線が基板となす角のうち、最も大きな傾斜角を意味する。図5の場合は、θ1を有機化合物層24の傾斜角とする。
【0057】
第1〜第3有機化合物層のパターニングの後、かつ、第2電極の形成前に、素子領域に連続する共通有機化合物層をさらに積層しても良い。この場合も、元からある有機化合物層の端部の上に積層した最上層の有機化合物層を含んで有機化合物層の端部と呼び、最も大きな傾斜角を端部の傾斜角とする。有機化合物層の端部の断面は集束イオンビーム(FIB)加工などの公知の方法で露出させることができ、SEMなどを用いて公知の方法で観測して傾斜角を確認することができる。
【0058】
次に、本発明の発光装置における各有機化合物層のパターニングレイアウトについて説明する。図4は本発明に適用できる有機化合物層の平面レイアウトの例を示す模式図である。図中、有機化合物層の有機EL素子間に位置しない端面のうち、有機EL素子間に位置する端面より最大傾斜角が小さい端面を点線81で示している。
【0059】
図4(a)の場合、1番目にパターニングされる第1有機化合物層31、2番目にパターニングされる第2有機化合物層32は、それぞれ一方向に配列した複数の不図示の第一電極に連続する短冊状にパターニングされている。このとき、第1有機化合物層31および第2有機化合物層32のすべての端部は、フォトリソグラフィを用いてドライエッチングによってパターニングされているため、傾斜角が大きくなっている。最後にパターニングされる第3有機化合物層は、素子領域12よりも大きな領域に形成され、最外周の全周の端部の傾斜角が有機EL素子間に位置する端部の傾斜角より小さくなっている。そのため、第2電極を経由してコンタクト部へ流れる電流の経路を全方向に確保することができる構成になっている。この平面レイアウトは、第3の有機化合物層を素子領域よりも大きな開口を有する蒸着マスクを用いた真空蒸着法にて形成し、かつその膜の最外周の端部の形状を残すようにパターニングすれば、工程数を増やすことなく作製することができる。
【0060】
図4(b)の場合も、図4(a)と同様に、第1有機化合物層31と第2有機化合物層は、短冊状にパターニングされ、すべての端部において傾斜角が大きくなっている。図4(a)と異なる点は、第3有機化合物層の有機EL素子間に位置しない端部のうち、一辺の傾斜角が有機EL素子間に位置する端部の傾斜角より小さくなっており、第2電極を流れる電流の経路が一方向で確保している構成である。この平面レイアウトは、有機化合物層の有機EL素子間に位置しない端部のうち、電流の経路となる端部以外の傾斜角を大きくすることができる。そのため周辺領域に占める有機化合物の傾斜領域の面積を小さくしたり、素子領域12とコンタクト部11との距離を縮めたりすることができる。従って有機EL素子部周辺の、有機EL素子が配置されていない領域、いわゆる額縁領域を狭くするのに有利である。なお、傾斜角の小さな辺はどの一辺でもよい。図4(b)では一辺において傾斜角が小さくなっている例を示しているが、少なくとも一辺において傾斜角が小さくなっていれば良く、複数の辺で傾斜角が小さくなっていてもよい。図4(b)のように、少なくともコンタクト部11が設けられた辺の端部の傾斜角が小さくなっている構成は、有機EL素子とコンタクト部との間の配線抵抗を低減する点で特に好ましい。このような平面レイアウトも、第3有機化合物層を素子領域よりも大きな開口を有する蒸着マスクを用いた真空蒸着法にて形成した後、素子内のパターニング時に電流の経路となる辺の端部形状がそのまま維持されるようにパターニングして作製することができる。
【0061】
図4(c)の場合は、行方向に配列した複数の第1電極に連続する短冊状にパターニングされた有機化合物層それぞれの一端において、端部の傾斜角が有機EL素子間に位置する端面の傾斜角より小さくなっている。他の例とは異なって、フォトリソ工程によってパターニングされた各短冊状の有機化合物層の間の端部が、隣接する有機化合物層に覆われずに露出している。
【0062】
この平面レイアウトは、素子領域とコンタクト部11との間に蒸着マスクの開口の端部を合わせて各有機化合物層を素子領域全体に真空蒸着法にて形成する。その後、蒸着法にて形成された膜の端部を有機EL素子間に位置しない端部としてそのまま残すようにパターニングして作製することができる。例えば、第2有機化合物層の場合、図2(h)の工程において、中間層層41を利用して第2有機化合物を剥離するのではなく、中間層層41を残したまま第1有機化合物層と同様にフォトリソグラフィを用いて第1電極22の上の第2有機化合物層を除去すればよい。ただしその際、蒸着法にて形成された膜の端部の所定の位置がエッチングされないよう保護しながら有機化合物層をパターニングし、第2電極を経由してコンタクト部へ流れる電流の経路を確保する。
【0063】
図4(c)の構成によれば、パターニングされた第1乃至第3有機化合物層の上に第2電極を形成すると、他の有機化合物層との間に位置する有機化合物層の端部の傾斜角が大きいため、第2電極が途切れたり高抵抗化したりする可能性がある。しかし、それぞれの有機化合物層は一方向に配置された複数の第1電極に連続して形成されているため、第2電極も前記一方向には途切れる等の問題が発生せず、取り出し側の電流経路を確保することができる。
【0064】
図4(d)は、各有機化合物層を第1電極に応じて、有機EL素子毎にパターニングした例である。この場合、図2を用いて説明した製造方法を用いて、パターニングされた有機化合物層の有機EL素子間に位置する端部が少なくとも一方向で隣接する有機EL素子の有機化合物層と接するように、各有機化合物層を形成する。その際、図4(a)と同様に、第3有機化合物層は、素子領域とコンタクト部11との間に開口の端部が位置するように蒸着マスクを位置合わせし、素子領域全体に真空蒸着法にて形成する。そして、その後、蒸着マスクを用いて成膜した膜の最外周の端部をそのまま残すようにパターニングを行えば、第2電極を経由してコンタクト部へ流れる電流の経路を確保することができる。
【0065】
以上のように、本願発明は、様々なレイアウトの有機EL発光装置にアレンジして適用することができる。
【0066】
以下、本発明にかかる有機発光装置を製造する例を詳細に説明する。
【0067】
(実施例1)
本実施例では、図2に示した製造方法と同様に、有機EL素子間に位置せず、かつ、第2電極が形成される領域に位置する有機化合物層の端部の傾斜角を、蒸着マスクを用いた真空蒸着法にて形成した例について説明する。作製した有機EL発光装置は、図1と同様の構成のR、G、Bによる多色表示の有機EL発光装置である。
【0068】
まず、複数の第1電極21、22、23が形成された基板10を準備する。ガラス板の上に、トランジスタ(Tr)を用いた回路と、回路上に形成される層間絶縁層と、回路層と配線層を電気的に接続するコンタクトホールと、を含む回路層が形成されたものを基板10として用いた。基板10の回路層が設けられた表面全体に配線層としてAlを成膜し、フォトリソ工程を用いて所定の形状にパターニングした。その上に、絶縁体層(平坦化膜)として、スピンコーターを用いてポリイミド樹脂を形成し、フォトリソ工程によりパターニングして、絶縁体層にコンタクトホールを形成すると同時に、コンタクト部11や外部接続端子部の表面を露出させた。
【0069】
次に第1電極層としてAlとITOの積層膜を、スパッタリング法を用いて成膜し、フォトリソ工程により有機EL素子毎に分割された複数の第1電極21〜23を形成した。AlとITOの膜厚はそれぞれ100nmと30nmとした。
【0070】
基板10の第1電極21〜23が形成された面全体に、水に不溶な公知材料を用いて、第1ホール輸送層、青色を発光する第1発光層、第1電子輸送層を真空蒸着法により順次堆積し、第1有機化合物層を形成した。
【0071】
次に、第1有機化合物層を保護するための第1中間層を形成した。第1中間層は水溶性高分子と窒化シリコン膜の積層体とし、まず、ポリビニルピロリドン水溶液をスピンコート法によって塗布し、アニールして水溶性高分子膜を1μm成膜し、その上に窒化シリコン膜をCVD法によって1μm成膜した。
【0072】
続いて、第1中間層の上の全体に、ポジ型のフォトレジスト材料である、AZエレクトロニックマテリアルズ社製AZ1500をスピンコート法にて塗布した後にアニールし、膜厚1000nmの第1フォトレジスト層を成膜した(図2(c))。
【0073】
次に、第1レジスト層をパターニングするため、キヤノン製露光装置MPA600を用いて、第1フォトマスクで第1電極21上の領域を遮蔽し、紫外線を照射する露光を行った。露光時間は40sとした。
【0074】
露光後の基板10を現像液(AZ社製312MIF溶液の50%水溶液)に浸して1分現像し、紫外線が照射された領域の第1レジスト層を現像液に浸漬して溶解させ、第1レジスト層をパターニングした。その結果、図2(e)のように、第1フォトマスクの遮蔽領域に対応して第1電極21上の領域にのみ第1レジスト層が残っている状態となった。
【0075】
第1レジスト層が表面に残った状態の基板10をドライエッチング装置に投入し、第1レジスト層が除去された領域の第1中間層と第1有機化合物層とを除去した。ドライエッチングは、第1中間層のうち窒化シリコン層はCF4を反応ガスとして行い、第1中間層41の水溶性高分子層と有機化合物層は酸素を反応ガスとし、流量20sccm、圧力8Pa、出力150W、5分の条件で行った。この時、第1レジスト層が残っていた領域でもエッチングが進行し、第1レジスト層と第1中間層の一部が除去された。この工程により、図2(f)のように第1電極22、23の表面が露出した。
【0076】
第1有機化合物層31と同様の手順で、真空蒸着法により第2有機化合物層32を基板10の第1電極が形成された面全体に形成した。第2有機化合物層32は、第1ホール輸送層と同じ材料からなる第2ホール輸送層(膜厚150nm)、水に不溶な公知の緑色の発光材料からなる第2発光層(膜厚20nm)の積層体とした。
【0077】
第2有機化合物層32までが形成された基板10を水に10分間浸漬して水溶性高分子層を溶解させ、第1電極21上の第1中間層41と共に第2有機化合物層32を除去した。その結果、第1電極21の上に第1有機化合物層31が形成され、第1電極22および23の上に第2有機化合物層32が形成された状態となった(図2(h))。
【0078】
続いて、第1中間41層と同様に、水溶性高分子層と窒化シリコン層の2層から成る第2中間層42を基板10の全体に形成した(図2(i))。その後、第1レジスト層51と同様の方法により、第2中間層42の上に第2レジスト層52を基板上の全面に成膜した(図2(j))。続いて、第1レジスト層51と同様にして、第2フォトマスク62を用いて第1電極21および22上の領域を遮蔽して露光を行った(図2(k))。その後、基板10を現像液に浸して1分現像し、紫外線が照射された領域の第2レジスト層52を現像液に浸漬して溶解させた。その結果、第2フォトマスク62の遮蔽領域に対応して第1電極21および22上の領域にのみ第2レジスト層52が残っている状態となった(図2(l))。
【0079】
残った第2レジスト層52をマスクとして、ドライエッチングにより第2レジスト層52を除去した領域の第2中間層42と第2有機化合物層32を除去した。エッチング条件は第1有機化合物層31を除去した条件と同様とした。以上の工程により、第1電極23が露出した状態となった(図2(m))。
【0080】
次に、素子領域12よりも大きな開口を有する蒸着マスクでコンタクト部11を遮蔽しながら、第1および第2有機化合物層31、32と同様の手順で真空蒸着法により、素子領域12を含む領域に第3有機化合物層33を形成した。第3有機化合物層33は、第1ホール輸送層と同じ材料からなる第3ホール輸送層(膜厚20nm)、公知の赤色の発光材料からなる第3発光層(膜厚30nm)の積層体とした。
【0081】
第3有機化合物層33が形成された基板10を水に10分間浸漬して水溶性高分子を溶解させ、第1電極21、22の上に形成された第2中間層42と共に第3有機化合物層33を除去した。以上の工程により、第1電極21の上に第1有機化合物層31、第1電極22の上に第2有機化合物層32、第1電極23上に第3有機化合物層33が形成された状態となった(図2(o))。
【0082】
パターニングされた第1〜第3有機化合物層31〜33の上に、素子領域12からコンタクト部11にわたって連続する第2電極70を形成した。第2電極は、膜厚20nmのAgMg合金膜をスパッタリング法にて成膜した。最後に、CVD法を用いて窒化シリコン膜を外部接続端子部以外に形成して封止し、有機EL発光装置を完成させた(図2(p))。
【0083】
完成した有機EL発光装置を駆動させたところ、第2電極の断線や高電圧化は発生せず、良好な多色発光が得られた。また、この有機EL素子の断面形状を電子顕微鏡で観察し、有機化合物層の端部の傾斜角を複数箇所で評価したところ、第1〜第3の有機化合物層の有機EL素子間に位置する端部の傾斜角は平均で約85°であった。第3の有機化合物層の有機EL素子間に位置しない端部の傾斜角は平均で約30°であり、第2電極が極端に薄くなったり、途切れたりしている箇所は見当たらなかった。
【0084】
(実施例2)
本実施例では、有機EL素子間に位置せず、かつ、第2電極が形成される領域に位置する有機化合物層の端部の傾斜角を、ドライエッチングを用いて制御した例について説明する。
【0085】
まず、第1電極23が露出した状態が形成された状態とする(図2(m))までの工程を実施例1と同様に行った。
【0086】
蒸着マスクを使用しない真空蒸着法にて、第1電極23が露出した基板10の全面に第3有機化合物層33を成膜した(図3(a))。次に、実施例1と同様にして、第3有機化合物層33が形成された基板10を水に浸漬して水溶性高分子層を溶解させ、第1電極21および第1電極22上の第2中間層42と共に第3有機化合物層33を除去した(図3(b))。
【0087】
第1〜第3有機化合物層の上に、水溶性高分子層と窒化シリコン層の2層からなる第3中間層43を形成した後、第3レジスト層53を形成した(図3(c))。続いて、素子領域12を遮蔽しコンタクト部11を含む領域13に開口を有するフォトマスクを用いて第3レジスト層53を露光し(図3(d))、現像工程を行ってフォトマスクで遮蔽されていない周辺領域の第3レジスト層を除去した(図3(e))。
【0088】
次に、ドライエッチングにより、第3レジスト層が除去された領域の第3中間層と第3有機化合物層を除去した(図3(f))。この時、ドライエッチング工程の条件は、傾斜角が緩くなるように調整した。具体的には、酸素を反応ガスとするドライエッチングの圧力を30Paとしたことを除いては実施例1と同様の条件で行った。
【0089】
ドライエッチング後の基板10を水に浸漬して第3中間層43の水溶性高分子層を溶解させることにより第3中間層43を除去し、第2電極として、素子領域12からコンタクト部11にかけて連続するAgMg合金を膜厚20nmで成膜した。最後に不図示のガラスキャップによる封止を行ってフルカラーの発光の可能な有機EL装置を完成させた。
【0090】
完成した有機EL装置に外部接続端子から電圧および信号を供給して駆動させた結果、第2電極の断線や高電圧化は発生せず、良好な3色発光が得られた。
【0091】
また、この有機EL装置の断面形状を観察したところ、第1〜第3有機化合物層の有機EL素子間に位置する端部の最大傾斜角は約85°であった。また、有機EL素子間に位置しない第3有機化合物層の端部のうち、ドライエッチング工程でパターニングされた端部の最大傾斜角は約60°であった。
【0092】
(実施例3)
第2電極としてAgMg合金を成膜する工程の前に、共通有機化合物層として公知の電子注入層を、第1〜第3有機化合物層の表面全体に膜厚20nmで成膜したことを除いては、実施例1と同様にして有機EL発光装置を作製した。完成した有機EL発光装置を駆動させた結果、第2電極の断線や高電圧化は発生せず、良好な3色発光が得られた。
【0093】
また、この有機EL発光装置の複数箇所で断面形状を観察したところ、第1〜第3有機化合物層の有機EL素子間に位置する端部のそれぞれは最大傾斜角は約85°であり、隣接する有機化合物層に覆われていた。また、第3の有機化合物層の有機EL素子間に位置しない端部には電子注入層が積層されており、その表層の傾斜角は第3有機化合物層の端部に倣った形状をしており、最大傾斜角は約30°であった。
【符号の説明】
【0094】
10 基板
11 コンタクト部
12 素子領域
14 配線層
15 外部接続端子
21〜23 第1電極
31 第1有機化合物層
32 第2有機化合物層
33 第3有機化合物層
41 第1中間層
42 第2中間層
43 第3中間層
51 第1レジスト層
52 第2レジスト層
53 第3レジスト層
70 第2電極
80 有機EL素子間に位置する端部
81 有機EL素子間に位置しない端部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1電極と少なくとも発光層を含む有機化合物層と第2電極とがこの順に積層され、基板の所定の領域に配置された複数の有機EL素子と、
前記基板の所定の領域の外に配置された外部接続端子と前記外部接続端子に電気的に接続されコンタクト部を有する配線と、を備え、
前記第1電極が有機EL素子ごとに分割され、
前記有機化合物層が1または複数の有機EL素子ごとに分割され、
前記第2電極が複数の有機EL素子に共通して設けられ、前記コンタクト部で前記配線と電気的に接続されている有機EL装置であって、
前記分割された有機化合物層の端部のうち、有機EL素子間に位置せず、且つ、前記第2電極が設けられる領域に位置する有機化合物層の端部の前記基板に対する傾斜角は、前記有機EL素子間に位置する有機化合物層の端部の前記基板に対する傾斜角よりも小さいことを特徴とする有機EL装置。
【請求項2】
前記有機EL素子間に位置する有機化合物層の端部の前記基板に対する傾斜角よりも小さい傾斜角を有する有機化合物層の端部は、前記所定の領域と前記コンタクト部との間に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の有機EL装置。
【請求項3】
前記有機EL装置は、互いに異なる発光層を含む複数種類の有機EL素子を含んでおり、
前記有機EL素子は行方向および列方向に配置されており、
列方向または行方向で互いに隣接する分割された有機化合物層は、それぞれ異なる発光層を含んでいることを特徴とする請求項1または2に記載の有機EL装置。
【請求項4】
有機EL素子間に位置する前記有機化合物層の端部の前記基板に対して傾斜している領域の幅は、前記有機化合物層の膜厚よりも小さいことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の有機EL装置。
【請求項5】
有機EL素子間に位置する前記有機化合物層の端部は、隣接する他の有機化合物層によって覆われていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の有機EL装置。
【請求項6】
前記前記有機EL素子間に位置する有機化合物層の端部は、フォトリソグラフィを用いて形成されることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の有機EL装置。
【請求項7】
前記前記有機EL素子間に位置しない有機化合物層の端部は、マスクを用いた真空蒸着法にて形成されることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の有機EL装置。
【請求項8】
外部接続端子と配線と複数の第1電極とが形成された基板を準備する第1の工程と、
前記複数の第1電極のうち、一部の第1電極の上に第1有機化合物層を選択的に形成する第2の工程と、
前記複数の第1電極のうち、有機化合物層が形成されていない第1電極の上に、前記第1有機化合物層とは異なる発光層を含む第2有機化合物層を形成する第3の工程と、
前記第1有機化合物層および前記第2有機化合物層および前記コンタクト部を含む領域の上に第2電極を形成する第4の工程と、を有し、
前記第2の工程は、フォトリソグラフィを用いて前記第1有機化合物層をパターニングする工程を含み、前記第3の工程は、前記複数の第1電極が設けられた領域に対応する開口を有するマスクを用いて前記第2有機化合物層を形成する工程を含むことを特徴とする有機EL装置の製造方法。
【請求項9】
前記第2の工程は、
複数の第1電極が設けられた基板の上に第1有機化合物層および中間層をこの順に形成する工程と、
前記複数の第1電極のうち一部の第1電極の上にフォトリソグラフィを用いてレジスト層を形成する工程と、
前記レジスト層が設けられていない第1電極の上の第1有機化合物層および中間層をドライエッチングにて除去する工程と、含み、
前記第3の工程は、
前記複数の第1電極が設けられた領域に対応する開口を有するマスクを用いて、前記第1有機化合物層および前記中間層が除去された第1電極の上に第2有機化合物層を形成する工程と、
前記中間層を溶解して、前記中間層の上に形成された前記第2有機化合物層を除去する工程と、
を含むことを特徴とする請求項8に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項10】
前記中間層は水溶性材料からなることを特徴とする請求項9に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項11】
前記第2の工程は、前記中間層と前記レジスト層との間に非水溶性材料からなる層を形成する工程をさらに含むことを特徴とする請求項10に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項12】
前記第2の工程と、前記第3の工程との間に、
前記第2の工程にて前記第1有機化合物層が選択的に形成されなかった複数の第1電極のうち、一部の第1電極の上に前記第1有機化合物層および前記第2有機化合物層とは異なる発光層を含む第3有機化合物層を選択的に形成する第5の工程を有することを特徴とする請求項8乃至11のいずれか1項に記載の有機EL装置の製造方法。
【請求項13】
前記第5の工程は、フォトリソグラフィを用いて前記第1有機化合物層をパターニングする工程を含むことを特徴とする請求項12に記載の有機EL装置の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−65830(P2013−65830A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−176006(P2012−176006)
【出願日】平成24年8月8日(2012.8.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】