説明

木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法

【課題】本発明の解決しようとする課題は、ポリ乳酸樹脂と木粉を配合した樹脂組成物を用いた成形品において、事前のペレット化を必要とせず、物性の改善効果の優れたポリ乳酸樹脂成形品ならびにその製造方法を提案しようとするものである。
【解決手段】ポリ乳酸樹脂と、木粉を含む樹脂混合物を成形してなる成形品であって、前記木粉は20メッシュの篩を通過し、50メッシュの篩を通過しない木粉であり、木粉の樹脂混合物全体に対する含有量は、3質量%以上60質量%未満であることを特徴とする、木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
環境意識の高まりを背景に、天然物から生産することができるバイオプラスチックの代表としてポリ乳酸樹脂が注目されている。ポリ乳酸樹脂は、当初生分解性を有する点が注目されていたが、現在ではむしろ製造から廃棄の過程において大気中の二酸化炭素を増やさない点が評価されている。ポリ乳酸樹脂は、とうもろこしやさとうきびなどの天然物を出発原料として、乳酸菌の働きによって産出される乳酸を縮重合して合成することができる。このような製造方法によって製造されたポリ乳酸樹脂は、原料が大気中の二酸化炭素から作られたと考えることができるため、カーボンニュートラルなプラスチックであるとみなされている。
【0003】
ポリ乳酸樹脂は、単体では必ずしも物性的に十分なものではないため、さまざまな添加物を加えることにより、物性を改質する試みがなされている。特許文献1に記載された複合生分解性成形品は、少量の生分解性樹脂と多量の植物系粉粒体を使用して、機械的物性や耐湿性に優れた生分解性成形品を、成形性よく得ることを目的としており、植物系材料60〜90重量%及びヒドロキシカルボン酸系樹脂40〜10重量%からなる複合生分解性組成物を成形してなる複合生分解性成形品である。乳酸はヒドロキシカルボン酸に含まれるので、ポリ乳酸樹脂はヒドロキシカルボン酸系樹脂とも表現できる。植物系材料として、さまざまな材料が挙げられており、その中に木粉も含まれている。樹脂組成物に配合する植物系材料の説明としては、20メッシュ以下、好ましくは50メッシュ以下、さらに好ましくは100メッシュ以下の粉末のものを使用することができると記載されている。また、複合生分解性成形品の成形方法として、押出成形特に異形押出成形、射出成形、圧縮成形、真空及び/又は圧空成形、エンボス成形、ブロー成形、カレンダー成形など各種成形機による成形加工が可能であると記載されている。
【0004】
特許文献2に記載された樹脂組成物およびそれからなる成形品は、ポリ乳酸樹脂および天然由来の有機充填剤に対し、結晶化促進剤、ポリ乳酸以外の熱可塑性樹脂、天然由来の有機充填剤以外の充填剤、安定剤、離型剤、カルボキシル基反応性末端封鎖剤から選ばれる少なくとも1種を配合してなる樹脂組成物およびこれからなる成形品である。この発明は、従来ポリ乳酸樹脂において問題となっていた結晶化速度が遅いという問題を解決することを目的としており、優れた結晶化特性による成形性、機械特性、耐熱性、耐久性などに優れた樹脂組成物および成形品を提供することを目的としている。天然由来の有機充填剤としては、木粉を含むさまざまな材料が列挙されている。
【0005】
特許文献3に記載された樹脂組成物およびそれからなる成形体は、生分解性樹脂50〜90質量%と、脱リグニン処理を施した植物性繊維材料50〜5質量%とからなる樹脂組成物およびこれを成形してなる成形体である。この発明は、生分解性樹脂と植物性繊維材料とを主体とする樹脂組成物において、色調と機械物性を両立することを目的としたものであり、生分解性樹脂のひとつとしてポリ乳酸が、また植物性繊維材料のひとつとして木粉が挙げられている。
【0006】
特許文献4に記載された樹脂組成物およびそれからなる成形品は、ポリエステル樹脂100重量部に対して、天然由来の有機充填剤1〜350重量部および、重量平均分子量が1000〜20000の範囲であり、かつエポキシ基含有ビニル系単位を含む重合体0.01〜30重量部を配合してなる樹脂組成物およびこれからなる成形品である。この発明は、成形性、表面外観性、耐衝撃性および耐久性に優れた樹脂組成物を目的としている。ポリエステル樹脂のひとつとして、ポリ乳酸樹脂が、また有機充填剤のひとつとして木粉が挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004-143438号公報
【特許文献2】特開2005-2174号公報
【特許文献3】特開2005-60556号公報
【特許文献4】特開2006-117768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、植物系材料の好ましい配合比率として70重量%以上90重量%以下と総括的に記載されているが、木粉に関しての最適値は特に記載されていない。実施例として示された3例には、120メッシュの杉の木粉が70%の場合と80%の場合が記載されているのみであり、いずれも押出成形によるものである。
【0009】
特許文献2には、木粉の最適な粒度や配合比率に関する記載がなく、木粉を使用した実施例としては、ポリ乳酸樹脂70部に対して粒度200メッシュ以下の木粉を30部添加した例が唯一記載されているのみである。
【0010】
特許文献3にも、木粉の最適な粒度に関する記載がなく、木粉を使用した実施例に記載されている木粉は、市販の昆虫用くち木をターボミルを用いて粉状になるまで粉砕したものを水酸化ナトリウム溶液によって脱リグニン処理したものとしか記載されていない。
【0011】
特許文献4にも、木粉を使用した場合の最適な粒度に関する記載はなく、実施例として用いられた木粉は、ただ1種類であり、粒度に関するデータは記載されていない。またいずれの文献においても、成形にあたっては、ポリ乳酸樹脂と木粉を混合した後、押出機などで混練してペレット化し、このペレットを用いて実際の成形を行うことが行われている。このようにペレット化のための工程が必要なため、成形品は高価なものとならざるを得なかった。
【0012】
本発明の解決しようとする課題は、ポリ乳酸樹脂と木粉を配合した樹脂組成物を用いた成形品において、事前のペレット化を必要とせず、物性の改善効果の優れたポリ乳酸樹脂成形品ならびにその製造方法を提案しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するための手段として、請求項1に記載の発明は、ポリ乳酸樹脂と、木粉を含む樹脂混合物を成形してなる成形品であって、前記木粉は20メッシュの篩を通過し、50メッシュの篩を通過しない木粉であり、木粉の樹脂混合物全体に対する含有量は、3質量%以上60質量%未満であることを特徴とする、木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品である。
【0014】
また、請求項2に記載の発明は、木粉の樹脂混合物全体に対する含有量が、30質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の、木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品である。
【0015】
また、請求項3に記載の発明は、成形機のホッパーにポリ乳酸樹脂ペレットと木粉を投入し、撹拌して混合した後、成型することを特徴とする請求項1または2に記載の、木粉
を含有するポリ乳酸樹脂成形品の製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る成形品は、ポリ乳酸樹脂に配合する木粉の粒径と配合量を特定したことにより、ポリ乳酸樹脂ペレットと木粉の混合物を直接成形機に投入して成形品を得ることが可能となり、一般的に行われている樹脂と木粉を混練してペレット化する工程を省略することが可能となった。
【0017】
また、ポリ乳酸樹脂に配合する木粉の粒径と配合量を特定したことにより、物性の改善効果を最大限に発揮することが可能となった。また、成形品表面には、木粉が露出せず、成形品の表面はポリ乳酸樹脂で覆われるため、成形品の外観が良好である。
【0018】
また、別の効果として、ポリ乳酸樹脂を生分解性プラスチックとしてとらえた場合には、木粉を添加することにより、成形品中への水分の吸収が多くなり、土中での分解速度が速くなる効果もある。
【0019】
ポリ乳酸樹脂は、カーボンニュートラルなプラスチックであるが、木粉もまたカーボンニュートラルであるから、木粉を添加しても、ポリ乳酸樹脂のこの特性が失われることはない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る成形品を射出成形法によって製造する方法について示した断面説明図である。
【図2】引張試験に用いた成形品の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品について詳細に説明する。本発明に係る木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品は、ポリ乳酸樹脂と、木粉を含む樹脂混合物を成形してなる成形品であって、前記木粉は20メッシュの篩を通過し、50メッシュの篩を通過しない木粉であり、木粉の樹脂混合物全体に対する含有量は、3質量%以上60質量%未満であることを特徴とする。
【0022】
乳酸には、L体とD体の2つの光学異性体が存在する。ポリ乳酸樹脂としては、環境的側面を重視する考え方からとうもろこしやじゃがいもの澱粉やさとうきびの糖類などから乳酸発酵によって得られるL−乳酸を出発原料とするL−乳酸樹脂が賞用されているが、本発明を実施するに当たっては、化学合成によって得られるD−乳酸を原料とするD−乳酸樹脂でも良い。ただし、光学純度が低いと、樹脂としての物性が劣るので、L、Dいずれかのポリ乳酸樹脂が少なくとも90%以上含まれるポリ乳酸樹脂であることが望ましい。
【0023】
ポリ乳酸樹脂は、木粉との相溶性が良好であり、木粉の分散性が良い。これは、木粉を構成するセルロース繊維とポリ乳酸樹脂のらせん構造がうまくからまり合い易い事と、木粉に含まれる水分によってポリ乳酸樹脂の一部が加水分解し、低分子化したポリ乳酸樹脂や乳酸が木粉と馴染みやすいことに起因しているものと考えられる。
【0024】
ポリ乳酸樹脂は、硬くてもろい性質があり、単体では耐熱性や衝撃強度に難点がある。この点を改善する目的で、ガラス繊維などを混合しても、他の樹脂にガラス繊維を混合した場合のような改善効果は、期待できないのであるが、木粉を添加した場合は、改善効果
が見られる。
【0025】
本発明に係る木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品に用いる木粉としては、一般に使用されている杉、檜、栂などの木材をのこぎりでカットした時に発生する鋸屑を有効に利用することができる。木粉の粒度としては、粗すぎても細かすぎても成形性が悪くなり、20メッシュの篩を通過し、50メッシュの篩を通過しない粒度であることが望ましい。これは、粒径に換算すると、300μm以上780μm以下と表現することもできる。20メッシュの篩を通過するような大きな粒径の木粉であると成形する時に木粉同士がからまって樹脂と木粉が均一に分散せず、木粉が偏在してしまうことがある。逆に50メッシュの篩を通過するような細かさであると、やはり分散性が悪くなり、木粉が塊状に固まってしまうことがある。最も分散性の良い範囲が、20メッシュの篩を通過し、50メッシュの篩を通過しない粒径の範囲である。
【0026】
製材所から排出される木粉には、通常10%程度の水分が含まれているが、この程度の水分は、木粉とポリ乳酸樹脂との分散性をむしろ高める効果がある。これは、ポリ乳酸樹脂の一部が加水分解して低分子化したり、酸成分が生成したりするのを助長し、これらの成分が木粉とよく馴染んで、相溶性を発揮することによるものと推定される。
【0027】
図1は、本発明に係る成形品を射出成形法によって製造する方法について示した断面説明図である。射出成形機1のホッパー4には、攪拌機5が取り付けてあり、一定の割合で投入されるポリ乳酸樹脂ペレット3と木粉2が、ホッパー内で撹拌混合され、スクリュー7によってシリンダー6内に押し込まれる。ポリ乳酸樹脂と木粉の混合物は、ヒーター8によって加熱されまた同時にスクリューによって混練されて成形型9に射出される。木粉の粒度が上記の範囲内であると、このような簡単な構造の成形機によって直接成形することが可能となり、通常必要とされる事前のペレタイズ工程を省略することができる。
【0028】
本発明に係る成形品の成型方法については、射出成形法の他、押出成形法、圧縮成形法、カレンダー成形法等を用いることができる。成形に当たっては、混練性や流動性を改善する目的で、パラフィンやワックス等、公知の潤滑剤を少量添加しても良い。
【0029】
ポリ乳酸樹脂に添加する木粉の配合量については、全体量に対する質量%において3%以上60%未満であることが望ましい。衝撃強度については、3%未満では、改善効果が見られず、60%以上では、かえって脆くなる傾向が見られ、衝撃強度が元々のポリ乳酸樹脂よりもかえって悪くなることがある。
【0030】
引張強度の改善には、10%〜40%の添加が良好である。引張強度に関しては、良好な結果を与える配合量の範囲が衝撃強度の場合よりも狭くなる傾向が見られる。いずれの場合も、木粉の配合量が15%〜35%において、ピーク値が見られ、衝撃強度については、未添加の1.1倍〜4倍の改善効果が見られる。引張強度については、1.1倍〜1.35倍の改善効果が見られる。
【0031】
物性の改善に与える、木粉の粒度の関係を調べたところ、50メッシュを通過するような細かい木粉では、繊維の長さも短くなるため、物性改善の効果が見られなくなることが分かった。
【0032】
ポリ乳酸樹脂に木粉を添加する効果としては、燃焼時の燃焼カロリーを低減する効果も認められる。例えば、ポリ乳酸樹脂単体の燃焼カロリーは、19kJ/gであり、ポリエチレン(48kJ/g)やポリプロピレン(45kJ/g)に比較すれば、もともと低い値であるが、木粉は15kJ/g程度であり、これを添加することにより、燃焼カロリーをさらに低減することができる。
【0033】
また、ポリ乳酸樹脂は、もともと高価な樹脂であるので、これに安価な木粉を添加することは、樹脂単価の低減にも大きな効果がある。また木粉として、製材所から排出される鋸くずを使用した場合、配合量が30%以上である場合には、エコマーク(登録商標)の取得が可能となる。
以下実施例に基づいて、本発明に係る木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品について具体的に説明する。
【実施例1】
【0034】
ポリ乳酸樹脂として三井化学社製レイシアH−100Jを使用し、これに製材所から排出された杉の木粉を篩い分けして30メッシュの篩を通過し、50メッシュの篩を通過しない範囲に調整した木粉を15重量%となるように添加した。木粉の含水率は、10%であった。図1に示したような射出成形機によってポリ乳酸樹脂ペレットと木粉とをホッパー中で撹拌混合し、図2に示したような10mm×1mm×100mmの板状の成形品を作成した。この成形品を試験片として、引張強度試験を実施した。引張速度30mm/分での引張強度試験の結果は、43.1MPaであった。また、アイゾット衝撃試験の結果は、20J/mであった。
【実施例2】
【0035】
実施例1と同様にして、木粉の含有量が30質量%となるようにしたところ、引張強度試験の結果は、39.2MPaであった。またアイゾット衝撃試験の結果は、35J/mであった。
【実施例3】
【0036】
実施例1と同様にして、木粉の含有量が40質量%となるようにしたところ、引張強度試験の結果は、37.2MPaであった。またアイゾット衝撃試験の結果は、25J/mであった。
<比較例1>
【0037】
実施例1と同様にして、木粉を添加しないポリ乳酸樹脂だけの成形品を作成したところ、引張強度試験の結果は、33.3MPaであった。またアイゾット衝撃試験の結果は、15J/mであった。
【0038】
このように、本発明に係る木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品は、何も添加しないポリ乳酸樹脂単体に比較して、引張強度、衝撃強度が向上することが分かる。
【符号の説明】
【0039】
1・・・射出成形機
2・・・木粉
3・・・樹脂ペレット
4・・・ホッパー
5・・・攪拌機
6・・・シリンダー
7・・・スクリュー
8・・・ヒーター
9・・・成形型
10・・・成形品

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸樹脂と、木粉を含む樹脂混合物を成形してなる成形品であって、前記木粉は20メッシュの篩を通過し、50メッシュの篩を通過しない木粉であり、木粉の樹脂混合物全体に対する含有量は、3質量%以上60質量%未満であることを特徴とする、木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品。
【請求項2】
木粉の樹脂混合物全体に対する含有量が、30質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の、木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品。
【請求項3】
成形機のホッパーにポリ乳酸樹脂ペレットと木粉を投入し、撹拌して混合した後、成型することを特徴とする請求項1または2に記載の、木粉を含有するポリ乳酸樹脂成形品の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2010−280152(P2010−280152A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135935(P2009−135935)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】