木製成形体および木製成形体の製造方法
【課題】主として木材で形成され3次元的に立体成形された木製成形体において、所定の強度を満たすための十分な厚みを有し、かつ歪みや反りが発生しにくい木製成形体を提供する。
【解決手段】厚さが140μm以下である複数枚の天然木の板3と、繊維材料を含む薄板状の基材5とを交互に重ね合わせて所定形状に成形されているとともに、各天然木の板3おける木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、各天然木の板3における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板3において一致し、他の天然木の板3では異なっている木製成形体1である。
【解決手段】厚さが140μm以下である複数枚の天然木の板3と、繊維材料を含む薄板状の基材5とを交互に重ね合わせて所定形状に成形されているとともに、各天然木の板3おける木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、各天然木の板3における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板3において一致し、他の天然木の板3では異なっている木製成形体1である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体状に加工されたシート状の木製成形体およびこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然(自然)の木材を用いた製品は、家具、室内照明などの様々な用途に用いられている。また、最近では、家電製品の筐体やスピーカの素材に天然の木を用いる場合もある。室内環境をより自然に近くすることで、おちつきやゆとりを得る空間となることから、天然木を使った木材製品の重要性がますます増加してきている。さらに、近年の環境問題の観点から、従来樹脂などの石油材料から作られるものを、たとえば木(天然木)の間伐材などに置き換えることで、化石資源の使用量低減とともに木材固化による二酸化炭素排出低減による環境配慮を積極的に進めるべき状況に来ている。
【0003】
一般に、木材(天然木)の立体形状のものは、無垢の木材を削り出して加工することで作製される。しかしながら、この方法では、多くの木材を使用することになり、森林資源の維持の点からも良くはない。また、削り出し加工では、1個づつ加工するので、加工コストを低減することが難しく、特にその形状が複雑であれば、ろくろ、旋盤などではなく、NC加工機などを用いる必要があるため、余計にコストがかかると言う問題がある。その為、薄くスライスした木材を丸めたり、立体形状にプレス加工するなどの方法が提案されている。
【0004】
薄い木材を立体的にプレス加工をする技術の一つとして、木材を用いたスピーカの振動板を薄い突き板で加工する技術が開示されている。この技術では、突き板の曲面成形における割れを防止するために、木と紙を張り合わせたシートに潤滑材を含浸させて木を柔らかくし、プレス成形時の割れを防止している。
【0005】
具体的には、柔軟剤(日本酒など)で軟化させた木をプレスで成形し、水分を蒸発させると共に仮成形する。その後、木の形状をより安定化させるために、木に熱硬化性樹脂を含浸させ、複数回に分けて高温プレス成形を行っている。
【0006】
しかしながら、突き板が薄い場合は成形可能であっても、板厚が厚い場合には曲面に曲げることは困難になり、われが生じてしまう。特に、木材を用いた筐体などの用途の場合は、強度が必要とされるため、0.5mmから数ミリ程度の厚みが必要となる場合が多い。
【0007】
厚みを増やして強度を上げるためには、立体成形された薄い成形体を重ね合わせて接着する方法が最も単純である。しかし、木材板はその繊維方向に向きがあるため、等方的ではなく、異方性を有し、単純に重ね合わせただけでは反り、歪みが生じてしまう。一般的な合板では、反りを低減するために、薄い木板をその繊維方向が直交方向になるように交互に重ねて接着されている。
【0008】
ここで、従来の技術に関する文献としてたとえば特許文献1を掲げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−248534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、立体成形された薄い木材成形体を上述の合板のように、繊維方向が直交になるように重ね合わせれば、合板同様にそりなどが低減されるように思われる。しかしながら、実際には、木材が3次元的な立体形状に成形される場合、凹凸形状や、非対称形状などに起因する形状異方性も加わるため、斜めにゆがんだ形状になったりする場合が発生する。たとえば、1枚の薄い木材成形体の形状に対して、他の1枚の木材成形体(繊維の方向が前記1枚の木材成形体の繊維の方向に対して直交している木材成形体)の形状が許容値以上に異なってしまう。そして、上記1枚の木材成形体と上記他の1枚の木材成形体とを重ね合わせることが困難になる。そこで、木材成形体を所定の厚みにまで厚くしつつ、形状が歪んだり、反ったりしないような木製成形体の最適構成を見出す必要がある。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、主として木材で形成され3次元的に立体成形された木製成形体において、所定の強度を満たすための十分な厚みを有し、かつ歪みや反りが発生しにくい木製成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、厚さが140μm以下である複数枚の天然木の板(3)と、繊維材料を含む薄板状の基材(5)とを交互に重ね合わせて所定形状に成形されているとともに、前記各天然木の板(3)における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板(3)における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板(3)において一致し、他の天然木の板(3)では異なっている木製成形体(1)である。
【0013】
第2の発明は、所定形状に成形されてなる木製成形体(1)であって、繊維材料を含み、第1面と前記第1面に対向する第2面を有する第1の層(5)と、1枚のシート状にスライスされた厚さ140μm以下の天然木の板を含み、この天然木の板の木材繊維間に形成された隙間(15)を有し、前記第1の層(5)の第2面上に配置される第3面と、前記第3面に対向する第4面とを有する第2の層(3)とを具備し、前記第1の層(5)と前記第2の層(3)とが交互に重ねられて成形され、前記第1の層中(5)および前記第2の層(3)中に設けられた樹脂部(7)によって前記第1の層(5)と前記第2の層(3)とが接着されており、前記各天然木の板における木目の繊維(11)方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維(11)方向が、少なくとも2枚の天然木の板の組において一致し、他の天然木の板では異なっている木製成形体(1)である。
【0014】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記繊維材料における引っ張り強度が大きい方の方向と、前記天然木の板における木目の繊維方向とのなす角度が45°から135°の範囲内となっている木製成形体である。
【0015】
第4の発明は、第1〜第3のいずれか1の発明において、前記天然木の板のうちの第1の天然木(3)の板における木目の繊維(11)方向に対して、前記天然木の板のうちの第2の天然木の板(3)における木目の繊維(11)方向が、0°よりも大きく、かつ、20°よりも小さい角度で交差して、前記第1の天然木の板と前記第2の天然木の板とが積層されている木製成形体(1)である。
【0016】
第5の発明は、第1〜第4のいずれか1の発明において、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の木製成形体(1)において、前記天然木の板がN層分重ね合わされたとき、最裏面の層を除き、それぞれの天然木の板における木目の繊維(11)方向のなす角度がおよそ180°/(N−1)となっており、かつ、最も裏側の天然木の板における木目の繊維(11)方向が、最おもて側の天然木の板における木目の繊維方向に対し、0°よりも大きく、かつ、20°よりも小さくなっている木製成形体(1)である。
【0017】
第6の発明は、繊維材料を含み、第1面とこの第1面に対向する第2面を有する第1の層中に樹脂を含浸させる工程と、前記樹脂を含浸させた前記第1の層を乾燥させる工程と、前記第1の層と、シート状にスライスされた厚さ140μm以下の天然木の板を含み前記第2面上に配置される第3面と前記第3面に対向する第4面とを有する複数の第2の層とを、前記第2の層の天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板の組において一致し、他の天然木の板では異なるように交互に重ね合わせる工程と、前記重ね合わせた第1の層と第2の層とを水蒸気で軟化させ、この軟化させた第1の層と第2の層とを重ね合わせた状態で熱プレスし、前記第1の層中の樹脂を前記第2の層中へ充填させ、前記樹脂を介して前記第1の層と前記第2の層とをお互いに接着する工程とを有する木製成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、主として木材で形成され3次元的に立体成形された木製成形体において、所定の強度を満たすための十分な厚みを有し、かつ歪みや反りが発生しにくい木製成形体を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】木製成形体を示す図である。
【図2】木材積層体を示す図である。
【図3】木製成形体の製造方法を示す図である。
【図4】木製成形体の製造方法を示す図である。
【図5】木製成形体の製造方法を示す図である。
【図6】木製成形体の製造方法を示す図である。
【図7】変形例に係る木製成形体を示す図である。
【図8】変形例に係る木製成形体を示す図である。
【図9】参考例に係る木製成形体を示す図である。
【図10】参考例に係る木製成形体を示す図である。
【図11】変形例に係る木製成形体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る木製成形体(木製シート;木材成形体)1を示す図である。図1の(a)は、成形体(木製成形体)1の斜視図であり、図1の(b)は、図1の(a)におけるI−I断面を示す図であり、図1の(c)は、成形体1の分解斜視図である。なお、図1の(c)では、木材層3のみを示してあり、基材層5の表示は省略してある。
【0022】
成形体1は、たとえば、携帯電話、テレビ、音響機器の筐体表面、スピーカユニットのフレーム表面、棺桶の表面等に貼着することにより使用される。これにより、貼着対象物の軽量化が可能となる。
【0023】
図1で示すように、本発明の実施の形態に係る成形体1は、椀状等の立体状に成形加工された、天然木の無垢材を1枚のシート状にスライスした材料からなる木材層(天然木の板)3と、その裏面に積層された繊維材料などからなる基材層5と、木材層3および基材層5の内部に埋設されるとともに両者を接着する樹脂部7とを備える1組の木材積層体9(図2参照)が複数組積層され、たとえば、最表面および最裏面には木材層3が現われた構成となっている。したがって、木材層3は基材層5よりも1枚多くなっており、複数組の木材積層体9の最裏面の基材層5側に1枚の木材層3を追加した構成である。成形体1は、複数枚の木材シート(木材層)3を重ね合わせて厚みを持たせて成形し、かつ立体形状を強度が高く歪み変形の少ない成形体を得るための構成である。
【0024】
木材層3としては、上述したように天然木の無垢材を1枚のシート状にスライスした材料が用いられる。天然木としては、針葉樹、広葉樹のほとんどが使用可能である。すなわち、天然木として、ブナ、シナ、オーク、チェリー、ケヤキ、桜、ラワン、カバ、カエデなどの広葉樹が好適に使用される。また、針葉樹としては、松、スギ、檜が好適に使用される。木材資源、環境の有効活用という点からは、スギなどの間伐材を用いれば一層好ましい。その他、例えば特開2004−254013号公報に記載されるような木材を用いてもよい。
【0025】
木材層3は、丸太状の木材を回転させながら切削刃をあて、ロータリスライス、所謂、かつらむきを行うことで作ることができる。木材層3は、板目板材もしくは柾目板材からのスライス加工より作製してもよい。木材層3として広葉樹を用いる場合は、心材を用いるよりも辺材が用いることが好ましい。辺材は、肌理が細かく成形時に割れにくい特徴があり、ある程度の強度(剛性)及び耐久性が必要とされる成形体に対しては、特に好適である。
【0026】
曲率の大きな立体形状、複雑な立体形状を有する成形体1の作製を可能とするためには、超仕上げかんな盤を用いて加工を行うことによって、極薄の木材シート(木材層)3を作成するのが好ましい。
【0027】
木材層3は、図2に示すように、天然木が有する導管や仮導管などを含む細胞組織(木材繊維)11と、細胞組織11の内部及び細胞組織11間に形成された図2の断面方向(木材繊維11の長手方向に対して直交する平面による断面の展開方向)に不連続な隙間13を有している。木材層3を一定以下の厚みにすると、厚み方向の木材繊維(導管)11の個数(厚さ方向での重なり)が少なくなり、木材繊維11間の微小な隙間13が、一定以上の確率で、木材層3の表面(厚さ方向の一方の面)から裏面(厚さ方向の他方の面)を貫通する隙間(貫通孔)15となってあらわれる。木の材質による程度の差はあるが、例えば、木材層3の厚みを140μm以下とすると、木材層(天然木の薄板)3の至る所に貫通孔15が発生してくるため、大きな曲げに対しても割れにくく柔軟な構造になる。
【0028】
例えば、木材層3としてカバ材を厚さ約80μmとなるようにシート状にスライスした場合には、木材層3の表面上に現れた貫通孔15の長さは、長くても約500μm以下となる。しかしながら、木材層3の全体の表面積に対する貫通孔15の面積の割合を考慮すれば、木材層3上に500μmの貫通孔15が複数個形成されていたとしても、木材繊維11同士が繋がっている部分の方が大きいので、木材層3としてのシート状の形状は、十分に維持できる。
【0029】
なお、木材層3を構成している木材は天然物のため、繊維密度は必ずしも一定ではない。そのため、例えばカバ材の厚みを50μm以下まで薄くすると、木材層3のある場所によっては木材繊維11同士がばらばらになり、シート状の形状が維持できなくなる。木材の種類による木材繊維11の大きさの影響もあり、材料毎に最適な厚みはそれぞれ異なるが、木材層3としての厚みは、一般的には、厚さ50μm〜140μm、更には80〜120μm程度とするのが好ましい。
【0030】
これにより、シート形状を維持しながらも、木材繊維11同士の間に木材層3の両面を貫通する貫通孔15を複数有する木材層3が形成できる(図2参照)。この貫通孔15が、成形体1の成形時に緩衝作用をもたらすとともに、貫通孔15及び隙間13の一部を樹脂部17が埋めることによって、成形体1が大きく裂けることなく補強され、シート状もしくは立体状に成形可能となるものである。なお、図2で示す木材層3には、基材層5が設けられており、これにより、木材積層体9が生成されている。
【0031】
より大きな曲率の立体形状を成形する場合、木材層3の厚みが薄くても前述のような貫通孔15による緩衝作用だけでは曲げることは出来ない。木材(木材層3)は、樹脂のような延び縮みがわずかしか発生しないので、薄い木材を立体状に成形加工する場合、絞られる部分は木材同士が重なり合って圧縮成形される。この重なり合う部分は、たとえばあらかじめ木材シートの一部に切り込みを入れることで、その切り込んだ部分の両端同士が重なり合って成形することが出来る(たとえば、特開2003−158798号公報)。しかし、工程数が増えることと、厚みを増やすために複数層(複数枚の木材層3)の総てに切り込みを入れることは作業性に問題がある。
【0032】
一方、たとえば木材シート部分(木材層3)の厚みが例えば140ミクロン以下になると、高圧水蒸気などにより木材部分を軟化させることで、特に木材シートの一部に切り込みを入れなくても、木材繊維の平行方向部分が自然に重なり合って(木材層3の一部における繊維等がお互いに重なり合って)成形される。この重なり合った部分(重なり部分)19(図1等参照)はより木材が圧縮されて成形される。このとき、木材繊維の導管内は空隙を有しているので、成形時に圧縮されると全体の厚みはほぼ均一になるが、その重なり部分の圧縮率が高くなってより硬くなる。
【0033】
従って、所定の厚みになるよう1組の木材積層体9を重ね合わせて成形体1を生成する場合、この重なり部分19が同じ場所に集中しないよう分散させることで、重なりの強度が高い部分を全方向に平均化させ、成形体1の反りや歪みを低減させることが出来る。具体的には、重ね合わせる成形体1の木材の繊維方向を各層(木材積層体9)ごとに異なる角度になるようにすることで、強度の強い部分が分散され、成形体1の反りや歪みを低減することができる。
【0034】
なお、図2等で示す基材層5としては、和紙、不織布等の繊維質の材料が好適に用いられる。不織布の中でも強度の強い材料としては、雁皮、マニラ麻、コウゾなどが挙げられる。基材層5の厚みは、成形体1として必要な強度を有する材質、厚みを適宜選択すればよい。基材層5の厚みを例えば10〜15μm程度にすることにより、軽量化が可能になる。
【0035】
樹脂部17としては、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が好適に用いられる。樹脂部17は、基材層5繊維の内部(隙間)に分散して入り込んでいるとともに、木材層3の木材繊維11の内部及び木材繊維11の間に形成された隙間13及び貫通孔15に埋設された構成となっており、基材層5と木材層3とが樹脂部17を介して一体化するように接着されている(図1(b)も併せて参照)。
【0036】
木製成形体(木の成形体)1の製造方法を図3〜図6に示す。まず、図3で示すように、木材層3、基材層5に樹脂を浸透させる。なお、図3では、基材層5のみに樹脂を浸透させているが、木材層3、基材層5の少なくともいずれかに樹脂を浸透させればよい。この浸透は、例えばこれらの材料(木材層3、基材層5)を熱硬化型のレゾール型フェノール樹脂溶液中に浸漬させて材料内の空隙部分(木材導管中の空間部分や、繊維材料の繊維間隙間など)に含浸させることで作成できる。もしくは、木材層3、基材層5の表面に樹脂を塗布し、後述のプレス工程などで圧力をかけて材料内に浸透させる方法でもよい。ここで、熱硬化型の樹脂を用いたのは、加熱成形後にあまり収縮しないからであり、木材自体が熱可塑性樹脂のように冷却すると収縮することはないので、もし熱可塑性樹脂を用いると冷却工程で木製成形体1が変形してしまうからである。もちろん、その変形が許容範囲内であれば、熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0037】
次に、この木材層3と基材層5とを重ね合わせて1組の木材積層体9とする(図4(a)参照)。そして、同じ組合せの木材積層体9を、木材層3と基材層5とが交互になるように重ね合わせる(図4(b)参照)。このとき、木材積層体9における各組の木材層3は、その繊維方向が全て異なるように向きを変えて重ねる。そして、最後の層の基材層5(5A)面側に、単体の木材層3(3A)を重ね合わせる。なお、この時点ではそれぞれの層は重ねているだけであり、接着はされていない。
【0038】
そして、これらの重ね合わせた木材積層体9は、曲面成形のために軟化処理を行う。具体的には、図4(b)で示すように、高圧水蒸気を用いる。この高圧水蒸気は、例えば木材積層体9を水もしくはお湯で浸漬させ、後述の熱プレスの過程で木材積層体9が高圧および水蒸気下にさらされることになる。また、木材層3は水分を含有することで膨張するが、木材積層体9における各層の木材層3部分および基材層5部分はこの時点では接着されていないので、各重ね合わせた層間に空間が形成されている。
【0039】
この状態でプレス金型21を用いて熱プレスを行う(上型21Aをゆっくり降下させ、上型21Aと下型21Bとで重ねあわされた各木材積層体9に熱プレスを行う)と、この積層シート(重ねあわされた各木材積層体9)が金型21の形状に沿うように曲げられる(図5(a)参照)。このとき、各木材層3部分には空間があるので、それぞれの木材層3がもつ繊維方向に沿った部分が絞られて重なりあい、圧縮成形される。つまり、熱プレス終了後は木材層3の各層ごとに異なる場所で、重なり合って圧縮される部分(重なり部分)19が分散されるので、全体として強度が分散し平均化されるので(図1(c)参照)、非常に強固な成形体1を得ることができる。
【0040】
ところで、もしも、熱プレス成形前に各木材層3および基材層5が接着されていると、熱プレス時に絞られて重なる部分は、木材の繊維方向に関係なく、同一箇所になってしまう。これは、木材層3が1枚や2枚程度であれば影響が少ないが、さらに層が増えると、成形時に重なり合った部分と層でない部分との厚み差が大きくなってしまい、また強度分布も極端に歪んでしまうため、成形後に厚みのばらつきが生じたり、成形体1に大きな反りや歪みが生じてしまう。従って、プレス成形前には、木材層3の各層が接着されていない状態で、個々の木材層3ごとの繊維方向に重なる部分を生じさせることが重要である。
【0041】
なお、上記説明では、一度に複数枚の木材積層体9を重ね合わせて成形体1を成形しているが、木材積層体9を1層づつ成形したのち、これらの成形された木材積層体9を木材の繊維方向が一致しないように配置して、接着剤などで積層接着し、成形体1を形成してもよい。
【0042】
ここで、木製成形体1の製造方法について例を掲げてさらに詳しく説明する。
【0043】
まず、シート状の木材層3と基材層5とを用意する(図3(a)参照)。木材層3としては、前述したように、例えば両面を貫通する木材繊維の隙間を有し、厚さ140μm以下、更には厚さ50〜120μm程度の無垢材の広葉樹(カバ材)をスライスした1枚のシートが好適に用いられる。基材層5としては不織布等が用いられる。
【0044】
続いて、図3(b)に示すように、用意した木材層3及び基材層5のうち、基材層5のみを樹脂溶液23を収容した容器25の中に一定期間(例えば10分〜1時間、30℃以下の室温で)浸し、樹脂を基材層5の内部まで十分に含浸させる。なお、木材層3を含浸すると樹脂が表面全体に付着して重量が増す上、プレス成形時に木材層3と金型21の間で硬化した樹脂が張り付き、金型21と木材層3との離型が難しくなるので、木材層3には含浸しないのが好ましい。
【0045】
図3(b)の樹脂溶液23としては、例えば熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂が利用できる。樹脂の量が多すぎる場合は、たとえばメタノールなどの溶液に溶かして希釈して用いればよい。樹脂の最適な濃度は、基材層5及び木材層3の厚みにより異なるが、一般的には含浸させる材料の厚みが薄いほど、濃度が薄いほうが好ましい。
【0046】
続いて、図3(c)に示すように、容器25の中から基材層5を取り出し、基材層5を温風により乾燥させる。一旦基材層5を乾燥させることにより、乾燥させない場合に比べて基材層5の取り扱いが容易となり、製造作業の能率の向上が図れる。なお、基材層5は自然乾燥させてもよい。
【0047】
続いて、図4(a)に示すように、基材層5と木材層3とを、交互にしかも厚さ方向の両側には木材層3が存在するように積層し、これらを所定の温度に設定したプレス金型21内に配置する。プレス金型21は、雄型21Aと雌型21Bとを有する。この際、雄型21Aと雌型21Bの表面には、木材層3、樹脂溶液23、基材層5が金型21に貼り付きにくいように、離型処理をしておくのが望ましい。離型処理とは、たとえば金型21の表面に離型剤を塗布しておく、テフロン(登録商標)などのフィルムを貼り付けておく、などの方法が挙げられる。これは、樹脂が木材層3の両面を貫通する天然木の微小の隙間(図2の隙間15)から表面へ染み出し、部分的に樹脂が金型21の表面へ到達するためである。金型21の温度は、樹脂が十分に硬化する温度が必要であり、例えば160〜220℃程度が適当である。
【0048】
続いて、図4(b)で示すように、基材層5及び木材層3を水蒸気雰囲気下に晒し、基材層5及び木材層3を軟化させる。「水蒸気雰囲気化に晒す」とは、例えば、基材層5及び木材層3に水蒸気又は水を噴霧することで金型21に蒸気を吹き付けること等を意味する。或いは、「水蒸気雰囲気化に晒す」とは、基材層5及び木材層3に水分を含ませる等の方法により作り出してもよい。曲率の大きい成形体1への加工容易性を考慮すれば、基材層5及び木材層3の含水率は、多ければ多いほど、基材層5及び木材層3を膨張させることができるので好ましい。
【0049】
続いて、図5(a)に示すように、基材層5及び木材層3を所定の圧力でプレスし、変形させる。図5(a)に示すようにして、天然木である木材層3が曲げられるとき、水蒸気による木の軟化と共に、木材層3の両面を貫通する隙間部分15が緩衝領域として作用するため、木材部分が大きく裂けることがなく、曲面形状を成形しやすくなる。
【0050】
続いて、図5(b)に示すように、一度プレスして所定の時間が経過した後、金型21(雄型21A、雌型21B)を開いて水蒸気を開放させる。これにより、基材層5及び木材層3の中に封じ込まれた水分及び樹脂の溶剤成分のガスが開放される。その結果、基材層5及び木材層3(積層された木材積層体9)の中にガスが溜まるのを抑制できる。開放時間は、圧力値や金型温度により最適値が異なるが、具体的には、例えば金型21の温度を200℃とし、圧力を0.5MPaとした場合には、約10秒プレスした後に約10秒間、1回だけ開放することにより、木材層3及び基材層5の水分及び溶剤成分は、十分に蒸発する。
【0051】
続いて、図6(a)に示すように、再度プレスを行い、基材層5内の樹脂を木材層3へ徐々に浸透させつつ硬化するまで、所定の時間及び圧力を保つ。例えば、蒸気の温度、圧力であれば、約30秒で十分に樹脂が硬化する。プレスの圧力により樹脂は延ばされて、木材層3及び基材層5全体にいっそう浸透する。この際、基材層5に含浸した樹脂が木材層3の表面全体(成形体1の最もおもて側の木材層3と最も裏側の木材層3の表面全体)に染み出さないようにして、樹脂を木材層3が有する隙間の一部に埋設させるように制御するのが好ましい。
【0052】
このように、基材層5内の樹脂を木材層3へ徐々に浸透させるようにプレス成形時の温度、圧力、時間を適切に制御することにより、天然木からなる木材層3の内部の樹脂の充填量が、基材層5と接する側の面から木材層3の内部に向かうに従って低下(漸減)するような勾配を設けることが出来る。また、プレス成形時の温度、圧力、時間を適切に制御することにより、表面(図5(a)で最も上側に位置している木材層3の上面と、図5(a)で最も下側に位置している木材層3の下面)全体への樹脂の染み出しを制御し、木材層3の樹脂の充填量を一定範囲に制御することが出来る。結果、金型21に付着する樹脂の量も低減できるため、樹脂の付着を防ぐことができ、加工性が向上する。
【0053】
続いて、図6(b)に示すように、金型21から成形された積層物(木材積層体9の積層物)を取り出し、冷却する。その後、上記成形された積層物をたとえば適宜切断することで、成形体1を得る。
【0054】
このような成形体1の製造方法によれば、木材層3を水蒸気で軟化させると同時にプレス加熱で木材層3と基材層5との貼付けおよび成形ができるので、プレス工程が簡略化され、生産性が良くなる。また、図5、図6に示すプレス工程において、樹脂部17(図2参照)が木材層3の表面(成形体1の表面と裏面)に染み出さないように制御すると同時に、基材層5に含浸された樹脂を木材層3を貫通する隙間15に埋設する。その結果、プレス加工時に樹脂部17が金型21に付着せず、成形体1が割れたり破れたりすることなく加工でき、かつ作業の効率化が図れる。さらに、製造後の成形体1の木材層3の表面全体が樹脂により被覆されていないので、木が本来備える有利な特性をより効果的に発揮させることが可能となる。
【0055】
図3〜図6に示す製造方法では、樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合を説明している。しかし、例えば熱可塑性樹脂が用いられる場合には、たとえば加熱した金型でプレスした状態で一定時間保ち、その状態のままで金型を冷却した後に積層され成形された木材積層体9を取り出すとよい。
【0056】
上述したように、薄くスライスされたシート状の天然木(木材層3)を2層以上に重ね合わせ、木材(木材層3)を柔軟化させながら高温・高圧下でプレス加工を行い、3次元形状に立体加工した成形体1において、各木材層3ごとの繊維方向の向きの重ねあわせ方向を、形状異方性による歪みを防止しつつ、曲げ加工されるときに木材部分が重なり合う部分が各木材層3ごとに異なるよう、重ねあわせ方向の角度を規定することで、この重なった部分が面方向に分散され、立体形状の強度を高くすることが出来つつ、成形後の歪み変形を防止することが出来る。
【0057】
(第1変形例)
図7は、第1変形例に係る成形体1aを示す図であり、図7の(a)は、1組の木材積層体9において、1枚の基材層5と1枚の木材層3とを重ね合わせる前の状態を示しており、図7の(b)は、複数組の木材積層体9において、各基材層5と各木材層3とを重ね合わせる前の状態を示しており、図7の(c)は、木製成形体1aを示す斜視図であり、図1の(a)に対応した図である。
【0058】
図7に示すように、第1変形例の係る成形体1aは、基材層5の繊維材料における引っ張り強度が大きい方の方向と、木材層3の天然木の板の木目の繊維方向とのなす角度が45°から135°の範囲内となるよう、重ねあわされた木材積層体9を一つの層として、複数の層で形成されてなり、かつそれぞれの木材積層体9(木材層3)における木目の繊維方向がすべて異なる方向に向くよう重ねられて、熱硬化性の樹脂を介して積層接合されたことを特徴としている。
【0059】
成形体1aにおいては、複数の木材層3の木材の繊維方向は、全ての層で異なる角度になるよう重ねあわされた構造になっている。この場合は、たとえば、総ての木材層3の繊維方向が、ある一方向に近い側に集中した場合(木材繊維方向が直交方向に近い側の層が少ない場合)、成形体に引き裂く力を加えたとき、木材繊維方向の集中した方向側が引き裂かれやすく、したがって破壊強度が弱くなってしまう。そのようにならないためにも、詳しくは後述する第3変形例に係る成形体1c(図11参照)のように、繊維方向の角度をより均等にすることが望ましい。しかしながら、構成上そのようにせざるを得ない場合がある。
【0060】
たとえば、後述する第2変形例に係る成形体1b(図8参照)のように、木材層3が2層で曲面形状に成形された場合、木材繊維方向の強度的には直交方向に重ね合わせたほうが良いが、曲面成形された場合、凹凸方向に形状異方性が生じるので、歪んでしまう。そのゆがみを補正するためには、2層の木材層3の繊維方向が同じになるよう向かいあわせて成形すると、ゆがみの方向が相殺されて、形状が安定する。しかしながら、木材繊維方向はほぼ同じ向きになるので(各繊維方向の交差角度が小さいので)、その繊維方向の向きが引き裂きの力に弱くなり、敗れやすくなってしまうという欠点がある。
【0061】
そこで、成形体1aでは、基材層5側に引っ張り強度が強い方向を、木材繊維の方向に近づけることで、木材部分の引き裂きに弱い方向を補強し、成形体1aが割れたり敗れたりしにくい構造にしている。
【0062】
基材層5の強度の異方性に付いては、たとえば不織紙などを基材層として用いる場合、不織紙は通常製紙糸工場にてロール状に巻き取られながら作成されてゆく。このとき、一般的には巻き取り方向が強度の強い方向になり、手で引き裂いた場合、巻き取り方向に沿っては破れやすいが、その直交方向には破れにくくなっている。したがって、基材層5の破れやすい方向(引っ張り強度の強い方向)と木材層3の破れやすい方向(繊維方向)をおおよそ直交させることで、それぞれが強度を補間しあい、破損しにくい成形体を作成することが可能になる。
【0063】
その方向は(木材層3の繊維の方向と基材層5の引っ張り強度が大きい方向との交差角度は)、直交方向(90°)が最も強度を強くすることが出来るが、45°から135°の範囲であれは、木材の破れやすい方向をある程度補完することが出来るので、強度向上の効果が生じる。
【0064】
(第2変形例)
図8は、第2変形例に係る成形体1bを示す図であり、図8の(a)は、1枚の基材層5と2枚の木材層3とを重ね合わせる前の状態を示しており、図7の(b)は、木製成形体1bを示す平面図、背面図、断面図である。
【0065】
図8に示すように、第2変形例の係る成形体1bは、たとえば、1枚の基材層5を介して木材層3が2層重ねあわされたとき、それぞれの木材層3の木目の繊維方向のなす角度が0°よりも大きく、かつ20°よりも小さく(20°以下でもよい)なるよう重ねられて、熱硬化性の樹脂を介して積層接合されている。
【0066】
すなわち、成形体1bでは、天然木の板3のうちの1枚の天然木の板である第1の天然木の板と、天然木の板3のうちの他の1枚の天然木の板である第2の天然木の板とが重ね合わされたとき、第1の天然木の板における木目の繊維(11)方向に対して、第2の天然木の板における木目の繊維(11)方向が、0°よりも大きく、かつ、20°よりも小さい角度で交差している。
【0067】
上述のように、木材層3が2層で曲面形状に成形体1bが成形された場合、木材繊維方向の強度的には直交方向に重ね合わせたほうが良いが、曲面成形された場合、凹凸方向に形状異方性が生じるので、歪んでしまう(図10参照)。そのゆがみを補正するためには、2層の木材層3の繊維方向が同じになるよう向かいあわせて成形すると、ゆがみの方向が相殺されて、形状が安定する(図9参照)。
【0068】
しかしながら、各木材層3における木材部分の木材繊維方向を2層とも同じ向きにすると、曲面形状の成形時に木材層3の重なり合う部分19が同じ場所になってしまうので、その部分のみが厚くなったり、強度が極端に強くなって成形体全体の強度分布が悪くなってしまうことが考えられる。
【0069】
このため、これら2層の木材層3の繊維方向のなす角度を0°より大きく、かつ20°よりも小さくすることで、各層の木材の重なり合う部分19をずらすことができる。そして、厚み分布や強度分布が1箇所に集中せず、良好な形状の成形体1bを得ることができる。なお、ここで、20°よりも小さくした理由は、その角度より大きくなると、凹凸方向の形状異方性を補完できなくなり、斜め方向に歪みが生じてしまうからである。
【0070】
(第3変形例)
図11は、第3変形例に係る木製成形体1cを示す図である。図11の(a)は、成形体1cの斜視図であり、図1の(b)は、成形体1cの断面図であって図1の(b)に対応する図であり、図11の(c)は、成形体1cの分解斜視図であって図1の(c)に対応する図である。
【0071】
図11に示すように、第3変形例の係る成形体1cは、1組の木材積層体9がN層分重ねあわされたとき(ただしN>2)、最裏面の層を除き、木材層3の木目の繊維方向のなす角度がおよそ180°/(N−1)となるよう、均等に重ねられて、かつ最裏面の木材層3の木材繊維方向は最表面の層の木材繊維方向に対し、0°から20°の範囲内になるよう重ねられて、熱硬化性の樹脂を介して積層接合されている。
【0072】
前述したように、曲面形状に立体成形された木製成形体1cは、それぞれの木材層3の繊維方向に絞られて重なり合った部分19が形成されている。その重なり合った部分19では木材(木材の組織)がより圧縮されているので、強度が向上している。したがって、その強度をより均一に分散させて、成形体1c全体の強度を向上させるためには、その重なり合った部分の方向がほぼ均等な角度割で配置されていればよい。ただし、前述のように、凹凸形状に成形されたときに生じる形状異方性を除去するためには、成形体1cの最表面と最裏面の木材層の繊維方向は同等の方向にしなければならない。これは、第2変形例に係る成形体1aで示したことと同一で、つまり、最おもて面と最裏面の木材層3の繊維方向のなす角度が、0°から20°の範囲内になるよう重ねられていれば、形状異方性による歪み変形を相殺することが出来る。
【0073】
そして、他の木材層(最おもて面と最裏面以外の木材層;厚さ方向の両面が基材層5と接している木材層)3で、各木材層3の絞られて重なり合う部分19を均等な角度で配置するには、木材層3の枚数をNとすると、最裏面の木材層3を除外して均等角度割りすればよいので、その角度は180°/(N−1)となる。
【0074】
このように、積層された木製成形体1cは、木材密度が高くなる部分を均等に配分しつつ、凹凸形状の形状異方性によるゆがみの発生を抑えることが出来るので、非常に安定して強度分布の良好な木製成形体1cが得られる。ただし、木材層3の積層数が2層の場合は、第2変形例に係る成形体1aの構成に従うので、N>2(N≧3)であることを必要用件としている。さらには、Nは、3以上の自然数であって、好ましくは、Nは5以上であり、より好ましくは、Nは10以上である。
【0075】
また、成形体1cでは、N枚の木材層3が重ね合わされているのであるが、お互いの隣接している1組の木材層3では、繊維方向の交差角度が、180°/(N−1)になっている。すなわち、最おもての木材層3から裏の木材層3に移行するにしたがって、繊維方向の各同が次第に変化している。具体的に説明する。Nを10とし最おもての木材層(1枚目の木材層)3の繊維方向を0°とすると、1枚目の木材層3の隣の木材層(2枚目の木材層)3の繊維方向が20°になっており、2枚目の木材層3の隣の木材層(3枚目の木材層)3の繊維方向が40°になっている。同様にして、繊維方向が20°づつ変化している。
【0076】
なお、上述した成形体1〜1cは、所定形状に成形されてなる木製成形体であって、繊維材料を含み、第1面(厚さ方向の一方の面)と前記第1面に対向する第2面(厚さ方向の他方の面)を有する第1の層と、1枚のシート状にスライスされた厚さ140μm以下の天然木の板を含み、この天然木の板の木材繊維間に形成された隙間を有し、前記第1の層の第2面上に配置される第3面(厚さ方向の一方の面)と、前記第3面に対向する第4面(厚さ方向の他方の面)とを有する第2の層とを具備し、前記第1の層と前記第2の層とが交互に重ねられて成形され、前記第1の層中および前記第2の層中に設けられた樹脂部によって前記第1の層と前記第2の層とが接着されており、前記各天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板の組において一致し、他の天然木の板では異なっている木製成形体の例である。
【0077】
上述した木製成形体1〜1cでは、前述したように、この厚さ方向の両側は、天然木の板になっている。すなわち、木製成形体の厚さ方向の一方の面(おもて面)と、厚さ方向の他方の面(裏面)では、天然木の板が露出している。
【0078】
また、1枚の天然木の板では、各導管や各仮導管はお互いがほぼ平行になって延伸している。したがって、1枚の天然木の板では、この天然木の板における木目の繊維はほぼ一方向に直線状に延びている。したがって、各天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているということは、たとえば、1枚目の天然木の板の木目の繊維の延伸方向と、2枚目の天然木の板の木目の繊維の延伸方向とがお互いに異なっているということであり、1枚の天然木の板において、木目の繊維の延伸方向が異なっているということではない。
【0079】
また、上述した成形体1〜1cは、厚さが140μm以下である複数枚の天然木の板(薄板)と、繊維材料を含む薄板状の基材(不織布+合成樹脂の接着剤)とを交互に重ね合わせて所定形状に成形されているとともに、前記各天然木の板おける木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板において一致し、他の天然木の板では異なっている木製成形体の例である。
【符号の説明】
【0080】
1 木製成形体
3 天然木(天然木の板、第2の層、木材層)
5 基材(第1の層、基材層)
7 樹脂部
9 木材積層体
11 木材の繊維
15 隙間
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体状に加工されたシート状の木製成形体およびこの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然(自然)の木材を用いた製品は、家具、室内照明などの様々な用途に用いられている。また、最近では、家電製品の筐体やスピーカの素材に天然の木を用いる場合もある。室内環境をより自然に近くすることで、おちつきやゆとりを得る空間となることから、天然木を使った木材製品の重要性がますます増加してきている。さらに、近年の環境問題の観点から、従来樹脂などの石油材料から作られるものを、たとえば木(天然木)の間伐材などに置き換えることで、化石資源の使用量低減とともに木材固化による二酸化炭素排出低減による環境配慮を積極的に進めるべき状況に来ている。
【0003】
一般に、木材(天然木)の立体形状のものは、無垢の木材を削り出して加工することで作製される。しかしながら、この方法では、多くの木材を使用することになり、森林資源の維持の点からも良くはない。また、削り出し加工では、1個づつ加工するので、加工コストを低減することが難しく、特にその形状が複雑であれば、ろくろ、旋盤などではなく、NC加工機などを用いる必要があるため、余計にコストがかかると言う問題がある。その為、薄くスライスした木材を丸めたり、立体形状にプレス加工するなどの方法が提案されている。
【0004】
薄い木材を立体的にプレス加工をする技術の一つとして、木材を用いたスピーカの振動板を薄い突き板で加工する技術が開示されている。この技術では、突き板の曲面成形における割れを防止するために、木と紙を張り合わせたシートに潤滑材を含浸させて木を柔らかくし、プレス成形時の割れを防止している。
【0005】
具体的には、柔軟剤(日本酒など)で軟化させた木をプレスで成形し、水分を蒸発させると共に仮成形する。その後、木の形状をより安定化させるために、木に熱硬化性樹脂を含浸させ、複数回に分けて高温プレス成形を行っている。
【0006】
しかしながら、突き板が薄い場合は成形可能であっても、板厚が厚い場合には曲面に曲げることは困難になり、われが生じてしまう。特に、木材を用いた筐体などの用途の場合は、強度が必要とされるため、0.5mmから数ミリ程度の厚みが必要となる場合が多い。
【0007】
厚みを増やして強度を上げるためには、立体成形された薄い成形体を重ね合わせて接着する方法が最も単純である。しかし、木材板はその繊維方向に向きがあるため、等方的ではなく、異方性を有し、単純に重ね合わせただけでは反り、歪みが生じてしまう。一般的な合板では、反りを低減するために、薄い木板をその繊維方向が直交方向になるように交互に重ねて接着されている。
【0008】
ここで、従来の技術に関する文献としてたとえば特許文献1を掲げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2009−248534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ところで、立体成形された薄い木材成形体を上述の合板のように、繊維方向が直交になるように重ね合わせれば、合板同様にそりなどが低減されるように思われる。しかしながら、実際には、木材が3次元的な立体形状に成形される場合、凹凸形状や、非対称形状などに起因する形状異方性も加わるため、斜めにゆがんだ形状になったりする場合が発生する。たとえば、1枚の薄い木材成形体の形状に対して、他の1枚の木材成形体(繊維の方向が前記1枚の木材成形体の繊維の方向に対して直交している木材成形体)の形状が許容値以上に異なってしまう。そして、上記1枚の木材成形体と上記他の1枚の木材成形体とを重ね合わせることが困難になる。そこで、木材成形体を所定の厚みにまで厚くしつつ、形状が歪んだり、反ったりしないような木製成形体の最適構成を見出す必要がある。
【0011】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、主として木材で形成され3次元的に立体成形された木製成形体において、所定の強度を満たすための十分な厚みを有し、かつ歪みや反りが発生しにくい木製成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第1の発明は、厚さが140μm以下である複数枚の天然木の板(3)と、繊維材料を含む薄板状の基材(5)とを交互に重ね合わせて所定形状に成形されているとともに、前記各天然木の板(3)における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板(3)における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板(3)において一致し、他の天然木の板(3)では異なっている木製成形体(1)である。
【0013】
第2の発明は、所定形状に成形されてなる木製成形体(1)であって、繊維材料を含み、第1面と前記第1面に対向する第2面を有する第1の層(5)と、1枚のシート状にスライスされた厚さ140μm以下の天然木の板を含み、この天然木の板の木材繊維間に形成された隙間(15)を有し、前記第1の層(5)の第2面上に配置される第3面と、前記第3面に対向する第4面とを有する第2の層(3)とを具備し、前記第1の層(5)と前記第2の層(3)とが交互に重ねられて成形され、前記第1の層中(5)および前記第2の層(3)中に設けられた樹脂部(7)によって前記第1の層(5)と前記第2の層(3)とが接着されており、前記各天然木の板における木目の繊維(11)方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維(11)方向が、少なくとも2枚の天然木の板の組において一致し、他の天然木の板では異なっている木製成形体(1)である。
【0014】
第3の発明は、第1または第2の発明において、前記繊維材料における引っ張り強度が大きい方の方向と、前記天然木の板における木目の繊維方向とのなす角度が45°から135°の範囲内となっている木製成形体である。
【0015】
第4の発明は、第1〜第3のいずれか1の発明において、前記天然木の板のうちの第1の天然木(3)の板における木目の繊維(11)方向に対して、前記天然木の板のうちの第2の天然木の板(3)における木目の繊維(11)方向が、0°よりも大きく、かつ、20°よりも小さい角度で交差して、前記第1の天然木の板と前記第2の天然木の板とが積層されている木製成形体(1)である。
【0016】
第5の発明は、第1〜第4のいずれか1の発明において、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の木製成形体(1)において、前記天然木の板がN層分重ね合わされたとき、最裏面の層を除き、それぞれの天然木の板における木目の繊維(11)方向のなす角度がおよそ180°/(N−1)となっており、かつ、最も裏側の天然木の板における木目の繊維(11)方向が、最おもて側の天然木の板における木目の繊維方向に対し、0°よりも大きく、かつ、20°よりも小さくなっている木製成形体(1)である。
【0017】
第6の発明は、繊維材料を含み、第1面とこの第1面に対向する第2面を有する第1の層中に樹脂を含浸させる工程と、前記樹脂を含浸させた前記第1の層を乾燥させる工程と、前記第1の層と、シート状にスライスされた厚さ140μm以下の天然木の板を含み前記第2面上に配置される第3面と前記第3面に対向する第4面とを有する複数の第2の層とを、前記第2の層の天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板の組において一致し、他の天然木の板では異なるように交互に重ね合わせる工程と、前記重ね合わせた第1の層と第2の層とを水蒸気で軟化させ、この軟化させた第1の層と第2の層とを重ね合わせた状態で熱プレスし、前記第1の層中の樹脂を前記第2の層中へ充填させ、前記樹脂を介して前記第1の層と前記第2の層とをお互いに接着する工程とを有する木製成形体の製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、主として木材で形成され3次元的に立体成形された木製成形体において、所定の強度を満たすための十分な厚みを有し、かつ歪みや反りが発生しにくい木製成形体を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】木製成形体を示す図である。
【図2】木材積層体を示す図である。
【図3】木製成形体の製造方法を示す図である。
【図4】木製成形体の製造方法を示す図である。
【図5】木製成形体の製造方法を示す図である。
【図6】木製成形体の製造方法を示す図である。
【図7】変形例に係る木製成形体を示す図である。
【図8】変形例に係る木製成形体を示す図である。
【図9】参考例に係る木製成形体を示す図である。
【図10】参考例に係る木製成形体を示す図である。
【図11】変形例に係る木製成形体を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載においては、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0021】
図1は、本発明の実施の形態に係る木製成形体(木製シート;木材成形体)1を示す図である。図1の(a)は、成形体(木製成形体)1の斜視図であり、図1の(b)は、図1の(a)におけるI−I断面を示す図であり、図1の(c)は、成形体1の分解斜視図である。なお、図1の(c)では、木材層3のみを示してあり、基材層5の表示は省略してある。
【0022】
成形体1は、たとえば、携帯電話、テレビ、音響機器の筐体表面、スピーカユニットのフレーム表面、棺桶の表面等に貼着することにより使用される。これにより、貼着対象物の軽量化が可能となる。
【0023】
図1で示すように、本発明の実施の形態に係る成形体1は、椀状等の立体状に成形加工された、天然木の無垢材を1枚のシート状にスライスした材料からなる木材層(天然木の板)3と、その裏面に積層された繊維材料などからなる基材層5と、木材層3および基材層5の内部に埋設されるとともに両者を接着する樹脂部7とを備える1組の木材積層体9(図2参照)が複数組積層され、たとえば、最表面および最裏面には木材層3が現われた構成となっている。したがって、木材層3は基材層5よりも1枚多くなっており、複数組の木材積層体9の最裏面の基材層5側に1枚の木材層3を追加した構成である。成形体1は、複数枚の木材シート(木材層)3を重ね合わせて厚みを持たせて成形し、かつ立体形状を強度が高く歪み変形の少ない成形体を得るための構成である。
【0024】
木材層3としては、上述したように天然木の無垢材を1枚のシート状にスライスした材料が用いられる。天然木としては、針葉樹、広葉樹のほとんどが使用可能である。すなわち、天然木として、ブナ、シナ、オーク、チェリー、ケヤキ、桜、ラワン、カバ、カエデなどの広葉樹が好適に使用される。また、針葉樹としては、松、スギ、檜が好適に使用される。木材資源、環境の有効活用という点からは、スギなどの間伐材を用いれば一層好ましい。その他、例えば特開2004−254013号公報に記載されるような木材を用いてもよい。
【0025】
木材層3は、丸太状の木材を回転させながら切削刃をあて、ロータリスライス、所謂、かつらむきを行うことで作ることができる。木材層3は、板目板材もしくは柾目板材からのスライス加工より作製してもよい。木材層3として広葉樹を用いる場合は、心材を用いるよりも辺材が用いることが好ましい。辺材は、肌理が細かく成形時に割れにくい特徴があり、ある程度の強度(剛性)及び耐久性が必要とされる成形体に対しては、特に好適である。
【0026】
曲率の大きな立体形状、複雑な立体形状を有する成形体1の作製を可能とするためには、超仕上げかんな盤を用いて加工を行うことによって、極薄の木材シート(木材層)3を作成するのが好ましい。
【0027】
木材層3は、図2に示すように、天然木が有する導管や仮導管などを含む細胞組織(木材繊維)11と、細胞組織11の内部及び細胞組織11間に形成された図2の断面方向(木材繊維11の長手方向に対して直交する平面による断面の展開方向)に不連続な隙間13を有している。木材層3を一定以下の厚みにすると、厚み方向の木材繊維(導管)11の個数(厚さ方向での重なり)が少なくなり、木材繊維11間の微小な隙間13が、一定以上の確率で、木材層3の表面(厚さ方向の一方の面)から裏面(厚さ方向の他方の面)を貫通する隙間(貫通孔)15となってあらわれる。木の材質による程度の差はあるが、例えば、木材層3の厚みを140μm以下とすると、木材層(天然木の薄板)3の至る所に貫通孔15が発生してくるため、大きな曲げに対しても割れにくく柔軟な構造になる。
【0028】
例えば、木材層3としてカバ材を厚さ約80μmとなるようにシート状にスライスした場合には、木材層3の表面上に現れた貫通孔15の長さは、長くても約500μm以下となる。しかしながら、木材層3の全体の表面積に対する貫通孔15の面積の割合を考慮すれば、木材層3上に500μmの貫通孔15が複数個形成されていたとしても、木材繊維11同士が繋がっている部分の方が大きいので、木材層3としてのシート状の形状は、十分に維持できる。
【0029】
なお、木材層3を構成している木材は天然物のため、繊維密度は必ずしも一定ではない。そのため、例えばカバ材の厚みを50μm以下まで薄くすると、木材層3のある場所によっては木材繊維11同士がばらばらになり、シート状の形状が維持できなくなる。木材の種類による木材繊維11の大きさの影響もあり、材料毎に最適な厚みはそれぞれ異なるが、木材層3としての厚みは、一般的には、厚さ50μm〜140μm、更には80〜120μm程度とするのが好ましい。
【0030】
これにより、シート形状を維持しながらも、木材繊維11同士の間に木材層3の両面を貫通する貫通孔15を複数有する木材層3が形成できる(図2参照)。この貫通孔15が、成形体1の成形時に緩衝作用をもたらすとともに、貫通孔15及び隙間13の一部を樹脂部17が埋めることによって、成形体1が大きく裂けることなく補強され、シート状もしくは立体状に成形可能となるものである。なお、図2で示す木材層3には、基材層5が設けられており、これにより、木材積層体9が生成されている。
【0031】
より大きな曲率の立体形状を成形する場合、木材層3の厚みが薄くても前述のような貫通孔15による緩衝作用だけでは曲げることは出来ない。木材(木材層3)は、樹脂のような延び縮みがわずかしか発生しないので、薄い木材を立体状に成形加工する場合、絞られる部分は木材同士が重なり合って圧縮成形される。この重なり合う部分は、たとえばあらかじめ木材シートの一部に切り込みを入れることで、その切り込んだ部分の両端同士が重なり合って成形することが出来る(たとえば、特開2003−158798号公報)。しかし、工程数が増えることと、厚みを増やすために複数層(複数枚の木材層3)の総てに切り込みを入れることは作業性に問題がある。
【0032】
一方、たとえば木材シート部分(木材層3)の厚みが例えば140ミクロン以下になると、高圧水蒸気などにより木材部分を軟化させることで、特に木材シートの一部に切り込みを入れなくても、木材繊維の平行方向部分が自然に重なり合って(木材層3の一部における繊維等がお互いに重なり合って)成形される。この重なり合った部分(重なり部分)19(図1等参照)はより木材が圧縮されて成形される。このとき、木材繊維の導管内は空隙を有しているので、成形時に圧縮されると全体の厚みはほぼ均一になるが、その重なり部分の圧縮率が高くなってより硬くなる。
【0033】
従って、所定の厚みになるよう1組の木材積層体9を重ね合わせて成形体1を生成する場合、この重なり部分19が同じ場所に集中しないよう分散させることで、重なりの強度が高い部分を全方向に平均化させ、成形体1の反りや歪みを低減させることが出来る。具体的には、重ね合わせる成形体1の木材の繊維方向を各層(木材積層体9)ごとに異なる角度になるようにすることで、強度の強い部分が分散され、成形体1の反りや歪みを低減することができる。
【0034】
なお、図2等で示す基材層5としては、和紙、不織布等の繊維質の材料が好適に用いられる。不織布の中でも強度の強い材料としては、雁皮、マニラ麻、コウゾなどが挙げられる。基材層5の厚みは、成形体1として必要な強度を有する材質、厚みを適宜選択すればよい。基材層5の厚みを例えば10〜15μm程度にすることにより、軽量化が可能になる。
【0035】
樹脂部17としては、レゾール型フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が好適に用いられる。樹脂部17は、基材層5繊維の内部(隙間)に分散して入り込んでいるとともに、木材層3の木材繊維11の内部及び木材繊維11の間に形成された隙間13及び貫通孔15に埋設された構成となっており、基材層5と木材層3とが樹脂部17を介して一体化するように接着されている(図1(b)も併せて参照)。
【0036】
木製成形体(木の成形体)1の製造方法を図3〜図6に示す。まず、図3で示すように、木材層3、基材層5に樹脂を浸透させる。なお、図3では、基材層5のみに樹脂を浸透させているが、木材層3、基材層5の少なくともいずれかに樹脂を浸透させればよい。この浸透は、例えばこれらの材料(木材層3、基材層5)を熱硬化型のレゾール型フェノール樹脂溶液中に浸漬させて材料内の空隙部分(木材導管中の空間部分や、繊維材料の繊維間隙間など)に含浸させることで作成できる。もしくは、木材層3、基材層5の表面に樹脂を塗布し、後述のプレス工程などで圧力をかけて材料内に浸透させる方法でもよい。ここで、熱硬化型の樹脂を用いたのは、加熱成形後にあまり収縮しないからであり、木材自体が熱可塑性樹脂のように冷却すると収縮することはないので、もし熱可塑性樹脂を用いると冷却工程で木製成形体1が変形してしまうからである。もちろん、その変形が許容範囲内であれば、熱可塑性樹脂を用いてもよい。
【0037】
次に、この木材層3と基材層5とを重ね合わせて1組の木材積層体9とする(図4(a)参照)。そして、同じ組合せの木材積層体9を、木材層3と基材層5とが交互になるように重ね合わせる(図4(b)参照)。このとき、木材積層体9における各組の木材層3は、その繊維方向が全て異なるように向きを変えて重ねる。そして、最後の層の基材層5(5A)面側に、単体の木材層3(3A)を重ね合わせる。なお、この時点ではそれぞれの層は重ねているだけであり、接着はされていない。
【0038】
そして、これらの重ね合わせた木材積層体9は、曲面成形のために軟化処理を行う。具体的には、図4(b)で示すように、高圧水蒸気を用いる。この高圧水蒸気は、例えば木材積層体9を水もしくはお湯で浸漬させ、後述の熱プレスの過程で木材積層体9が高圧および水蒸気下にさらされることになる。また、木材層3は水分を含有することで膨張するが、木材積層体9における各層の木材層3部分および基材層5部分はこの時点では接着されていないので、各重ね合わせた層間に空間が形成されている。
【0039】
この状態でプレス金型21を用いて熱プレスを行う(上型21Aをゆっくり降下させ、上型21Aと下型21Bとで重ねあわされた各木材積層体9に熱プレスを行う)と、この積層シート(重ねあわされた各木材積層体9)が金型21の形状に沿うように曲げられる(図5(a)参照)。このとき、各木材層3部分には空間があるので、それぞれの木材層3がもつ繊維方向に沿った部分が絞られて重なりあい、圧縮成形される。つまり、熱プレス終了後は木材層3の各層ごとに異なる場所で、重なり合って圧縮される部分(重なり部分)19が分散されるので、全体として強度が分散し平均化されるので(図1(c)参照)、非常に強固な成形体1を得ることができる。
【0040】
ところで、もしも、熱プレス成形前に各木材層3および基材層5が接着されていると、熱プレス時に絞られて重なる部分は、木材の繊維方向に関係なく、同一箇所になってしまう。これは、木材層3が1枚や2枚程度であれば影響が少ないが、さらに層が増えると、成形時に重なり合った部分と層でない部分との厚み差が大きくなってしまい、また強度分布も極端に歪んでしまうため、成形後に厚みのばらつきが生じたり、成形体1に大きな反りや歪みが生じてしまう。従って、プレス成形前には、木材層3の各層が接着されていない状態で、個々の木材層3ごとの繊維方向に重なる部分を生じさせることが重要である。
【0041】
なお、上記説明では、一度に複数枚の木材積層体9を重ね合わせて成形体1を成形しているが、木材積層体9を1層づつ成形したのち、これらの成形された木材積層体9を木材の繊維方向が一致しないように配置して、接着剤などで積層接着し、成形体1を形成してもよい。
【0042】
ここで、木製成形体1の製造方法について例を掲げてさらに詳しく説明する。
【0043】
まず、シート状の木材層3と基材層5とを用意する(図3(a)参照)。木材層3としては、前述したように、例えば両面を貫通する木材繊維の隙間を有し、厚さ140μm以下、更には厚さ50〜120μm程度の無垢材の広葉樹(カバ材)をスライスした1枚のシートが好適に用いられる。基材層5としては不織布等が用いられる。
【0044】
続いて、図3(b)に示すように、用意した木材層3及び基材層5のうち、基材層5のみを樹脂溶液23を収容した容器25の中に一定期間(例えば10分〜1時間、30℃以下の室温で)浸し、樹脂を基材層5の内部まで十分に含浸させる。なお、木材層3を含浸すると樹脂が表面全体に付着して重量が増す上、プレス成形時に木材層3と金型21の間で硬化した樹脂が張り付き、金型21と木材層3との離型が難しくなるので、木材層3には含浸しないのが好ましい。
【0045】
図3(b)の樹脂溶液23としては、例えば熱硬化性樹脂であるフェノール樹脂が利用できる。樹脂の量が多すぎる場合は、たとえばメタノールなどの溶液に溶かして希釈して用いればよい。樹脂の最適な濃度は、基材層5及び木材層3の厚みにより異なるが、一般的には含浸させる材料の厚みが薄いほど、濃度が薄いほうが好ましい。
【0046】
続いて、図3(c)に示すように、容器25の中から基材層5を取り出し、基材層5を温風により乾燥させる。一旦基材層5を乾燥させることにより、乾燥させない場合に比べて基材層5の取り扱いが容易となり、製造作業の能率の向上が図れる。なお、基材層5は自然乾燥させてもよい。
【0047】
続いて、図4(a)に示すように、基材層5と木材層3とを、交互にしかも厚さ方向の両側には木材層3が存在するように積層し、これらを所定の温度に設定したプレス金型21内に配置する。プレス金型21は、雄型21Aと雌型21Bとを有する。この際、雄型21Aと雌型21Bの表面には、木材層3、樹脂溶液23、基材層5が金型21に貼り付きにくいように、離型処理をしておくのが望ましい。離型処理とは、たとえば金型21の表面に離型剤を塗布しておく、テフロン(登録商標)などのフィルムを貼り付けておく、などの方法が挙げられる。これは、樹脂が木材層3の両面を貫通する天然木の微小の隙間(図2の隙間15)から表面へ染み出し、部分的に樹脂が金型21の表面へ到達するためである。金型21の温度は、樹脂が十分に硬化する温度が必要であり、例えば160〜220℃程度が適当である。
【0048】
続いて、図4(b)で示すように、基材層5及び木材層3を水蒸気雰囲気下に晒し、基材層5及び木材層3を軟化させる。「水蒸気雰囲気化に晒す」とは、例えば、基材層5及び木材層3に水蒸気又は水を噴霧することで金型21に蒸気を吹き付けること等を意味する。或いは、「水蒸気雰囲気化に晒す」とは、基材層5及び木材層3に水分を含ませる等の方法により作り出してもよい。曲率の大きい成形体1への加工容易性を考慮すれば、基材層5及び木材層3の含水率は、多ければ多いほど、基材層5及び木材層3を膨張させることができるので好ましい。
【0049】
続いて、図5(a)に示すように、基材層5及び木材層3を所定の圧力でプレスし、変形させる。図5(a)に示すようにして、天然木である木材層3が曲げられるとき、水蒸気による木の軟化と共に、木材層3の両面を貫通する隙間部分15が緩衝領域として作用するため、木材部分が大きく裂けることがなく、曲面形状を成形しやすくなる。
【0050】
続いて、図5(b)に示すように、一度プレスして所定の時間が経過した後、金型21(雄型21A、雌型21B)を開いて水蒸気を開放させる。これにより、基材層5及び木材層3の中に封じ込まれた水分及び樹脂の溶剤成分のガスが開放される。その結果、基材層5及び木材層3(積層された木材積層体9)の中にガスが溜まるのを抑制できる。開放時間は、圧力値や金型温度により最適値が異なるが、具体的には、例えば金型21の温度を200℃とし、圧力を0.5MPaとした場合には、約10秒プレスした後に約10秒間、1回だけ開放することにより、木材層3及び基材層5の水分及び溶剤成分は、十分に蒸発する。
【0051】
続いて、図6(a)に示すように、再度プレスを行い、基材層5内の樹脂を木材層3へ徐々に浸透させつつ硬化するまで、所定の時間及び圧力を保つ。例えば、蒸気の温度、圧力であれば、約30秒で十分に樹脂が硬化する。プレスの圧力により樹脂は延ばされて、木材層3及び基材層5全体にいっそう浸透する。この際、基材層5に含浸した樹脂が木材層3の表面全体(成形体1の最もおもて側の木材層3と最も裏側の木材層3の表面全体)に染み出さないようにして、樹脂を木材層3が有する隙間の一部に埋設させるように制御するのが好ましい。
【0052】
このように、基材層5内の樹脂を木材層3へ徐々に浸透させるようにプレス成形時の温度、圧力、時間を適切に制御することにより、天然木からなる木材層3の内部の樹脂の充填量が、基材層5と接する側の面から木材層3の内部に向かうに従って低下(漸減)するような勾配を設けることが出来る。また、プレス成形時の温度、圧力、時間を適切に制御することにより、表面(図5(a)で最も上側に位置している木材層3の上面と、図5(a)で最も下側に位置している木材層3の下面)全体への樹脂の染み出しを制御し、木材層3の樹脂の充填量を一定範囲に制御することが出来る。結果、金型21に付着する樹脂の量も低減できるため、樹脂の付着を防ぐことができ、加工性が向上する。
【0053】
続いて、図6(b)に示すように、金型21から成形された積層物(木材積層体9の積層物)を取り出し、冷却する。その後、上記成形された積層物をたとえば適宜切断することで、成形体1を得る。
【0054】
このような成形体1の製造方法によれば、木材層3を水蒸気で軟化させると同時にプレス加熱で木材層3と基材層5との貼付けおよび成形ができるので、プレス工程が簡略化され、生産性が良くなる。また、図5、図6に示すプレス工程において、樹脂部17(図2参照)が木材層3の表面(成形体1の表面と裏面)に染み出さないように制御すると同時に、基材層5に含浸された樹脂を木材層3を貫通する隙間15に埋設する。その結果、プレス加工時に樹脂部17が金型21に付着せず、成形体1が割れたり破れたりすることなく加工でき、かつ作業の効率化が図れる。さらに、製造後の成形体1の木材層3の表面全体が樹脂により被覆されていないので、木が本来備える有利な特性をより効果的に発揮させることが可能となる。
【0055】
図3〜図6に示す製造方法では、樹脂として熱硬化性樹脂を用いた場合を説明している。しかし、例えば熱可塑性樹脂が用いられる場合には、たとえば加熱した金型でプレスした状態で一定時間保ち、その状態のままで金型を冷却した後に積層され成形された木材積層体9を取り出すとよい。
【0056】
上述したように、薄くスライスされたシート状の天然木(木材層3)を2層以上に重ね合わせ、木材(木材層3)を柔軟化させながら高温・高圧下でプレス加工を行い、3次元形状に立体加工した成形体1において、各木材層3ごとの繊維方向の向きの重ねあわせ方向を、形状異方性による歪みを防止しつつ、曲げ加工されるときに木材部分が重なり合う部分が各木材層3ごとに異なるよう、重ねあわせ方向の角度を規定することで、この重なった部分が面方向に分散され、立体形状の強度を高くすることが出来つつ、成形後の歪み変形を防止することが出来る。
【0057】
(第1変形例)
図7は、第1変形例に係る成形体1aを示す図であり、図7の(a)は、1組の木材積層体9において、1枚の基材層5と1枚の木材層3とを重ね合わせる前の状態を示しており、図7の(b)は、複数組の木材積層体9において、各基材層5と各木材層3とを重ね合わせる前の状態を示しており、図7の(c)は、木製成形体1aを示す斜視図であり、図1の(a)に対応した図である。
【0058】
図7に示すように、第1変形例の係る成形体1aは、基材層5の繊維材料における引っ張り強度が大きい方の方向と、木材層3の天然木の板の木目の繊維方向とのなす角度が45°から135°の範囲内となるよう、重ねあわされた木材積層体9を一つの層として、複数の層で形成されてなり、かつそれぞれの木材積層体9(木材層3)における木目の繊維方向がすべて異なる方向に向くよう重ねられて、熱硬化性の樹脂を介して積層接合されたことを特徴としている。
【0059】
成形体1aにおいては、複数の木材層3の木材の繊維方向は、全ての層で異なる角度になるよう重ねあわされた構造になっている。この場合は、たとえば、総ての木材層3の繊維方向が、ある一方向に近い側に集中した場合(木材繊維方向が直交方向に近い側の層が少ない場合)、成形体に引き裂く力を加えたとき、木材繊維方向の集中した方向側が引き裂かれやすく、したがって破壊強度が弱くなってしまう。そのようにならないためにも、詳しくは後述する第3変形例に係る成形体1c(図11参照)のように、繊維方向の角度をより均等にすることが望ましい。しかしながら、構成上そのようにせざるを得ない場合がある。
【0060】
たとえば、後述する第2変形例に係る成形体1b(図8参照)のように、木材層3が2層で曲面形状に成形された場合、木材繊維方向の強度的には直交方向に重ね合わせたほうが良いが、曲面成形された場合、凹凸方向に形状異方性が生じるので、歪んでしまう。そのゆがみを補正するためには、2層の木材層3の繊維方向が同じになるよう向かいあわせて成形すると、ゆがみの方向が相殺されて、形状が安定する。しかしながら、木材繊維方向はほぼ同じ向きになるので(各繊維方向の交差角度が小さいので)、その繊維方向の向きが引き裂きの力に弱くなり、敗れやすくなってしまうという欠点がある。
【0061】
そこで、成形体1aでは、基材層5側に引っ張り強度が強い方向を、木材繊維の方向に近づけることで、木材部分の引き裂きに弱い方向を補強し、成形体1aが割れたり敗れたりしにくい構造にしている。
【0062】
基材層5の強度の異方性に付いては、たとえば不織紙などを基材層として用いる場合、不織紙は通常製紙糸工場にてロール状に巻き取られながら作成されてゆく。このとき、一般的には巻き取り方向が強度の強い方向になり、手で引き裂いた場合、巻き取り方向に沿っては破れやすいが、その直交方向には破れにくくなっている。したがって、基材層5の破れやすい方向(引っ張り強度の強い方向)と木材層3の破れやすい方向(繊維方向)をおおよそ直交させることで、それぞれが強度を補間しあい、破損しにくい成形体を作成することが可能になる。
【0063】
その方向は(木材層3の繊維の方向と基材層5の引っ張り強度が大きい方向との交差角度は)、直交方向(90°)が最も強度を強くすることが出来るが、45°から135°の範囲であれは、木材の破れやすい方向をある程度補完することが出来るので、強度向上の効果が生じる。
【0064】
(第2変形例)
図8は、第2変形例に係る成形体1bを示す図であり、図8の(a)は、1枚の基材層5と2枚の木材層3とを重ね合わせる前の状態を示しており、図7の(b)は、木製成形体1bを示す平面図、背面図、断面図である。
【0065】
図8に示すように、第2変形例の係る成形体1bは、たとえば、1枚の基材層5を介して木材層3が2層重ねあわされたとき、それぞれの木材層3の木目の繊維方向のなす角度が0°よりも大きく、かつ20°よりも小さく(20°以下でもよい)なるよう重ねられて、熱硬化性の樹脂を介して積層接合されている。
【0066】
すなわち、成形体1bでは、天然木の板3のうちの1枚の天然木の板である第1の天然木の板と、天然木の板3のうちの他の1枚の天然木の板である第2の天然木の板とが重ね合わされたとき、第1の天然木の板における木目の繊維(11)方向に対して、第2の天然木の板における木目の繊維(11)方向が、0°よりも大きく、かつ、20°よりも小さい角度で交差している。
【0067】
上述のように、木材層3が2層で曲面形状に成形体1bが成形された場合、木材繊維方向の強度的には直交方向に重ね合わせたほうが良いが、曲面成形された場合、凹凸方向に形状異方性が生じるので、歪んでしまう(図10参照)。そのゆがみを補正するためには、2層の木材層3の繊維方向が同じになるよう向かいあわせて成形すると、ゆがみの方向が相殺されて、形状が安定する(図9参照)。
【0068】
しかしながら、各木材層3における木材部分の木材繊維方向を2層とも同じ向きにすると、曲面形状の成形時に木材層3の重なり合う部分19が同じ場所になってしまうので、その部分のみが厚くなったり、強度が極端に強くなって成形体全体の強度分布が悪くなってしまうことが考えられる。
【0069】
このため、これら2層の木材層3の繊維方向のなす角度を0°より大きく、かつ20°よりも小さくすることで、各層の木材の重なり合う部分19をずらすことができる。そして、厚み分布や強度分布が1箇所に集中せず、良好な形状の成形体1bを得ることができる。なお、ここで、20°よりも小さくした理由は、その角度より大きくなると、凹凸方向の形状異方性を補完できなくなり、斜め方向に歪みが生じてしまうからである。
【0070】
(第3変形例)
図11は、第3変形例に係る木製成形体1cを示す図である。図11の(a)は、成形体1cの斜視図であり、図1の(b)は、成形体1cの断面図であって図1の(b)に対応する図であり、図11の(c)は、成形体1cの分解斜視図であって図1の(c)に対応する図である。
【0071】
図11に示すように、第3変形例の係る成形体1cは、1組の木材積層体9がN層分重ねあわされたとき(ただしN>2)、最裏面の層を除き、木材層3の木目の繊維方向のなす角度がおよそ180°/(N−1)となるよう、均等に重ねられて、かつ最裏面の木材層3の木材繊維方向は最表面の層の木材繊維方向に対し、0°から20°の範囲内になるよう重ねられて、熱硬化性の樹脂を介して積層接合されている。
【0072】
前述したように、曲面形状に立体成形された木製成形体1cは、それぞれの木材層3の繊維方向に絞られて重なり合った部分19が形成されている。その重なり合った部分19では木材(木材の組織)がより圧縮されているので、強度が向上している。したがって、その強度をより均一に分散させて、成形体1c全体の強度を向上させるためには、その重なり合った部分の方向がほぼ均等な角度割で配置されていればよい。ただし、前述のように、凹凸形状に成形されたときに生じる形状異方性を除去するためには、成形体1cの最表面と最裏面の木材層の繊維方向は同等の方向にしなければならない。これは、第2変形例に係る成形体1aで示したことと同一で、つまり、最おもて面と最裏面の木材層3の繊維方向のなす角度が、0°から20°の範囲内になるよう重ねられていれば、形状異方性による歪み変形を相殺することが出来る。
【0073】
そして、他の木材層(最おもて面と最裏面以外の木材層;厚さ方向の両面が基材層5と接している木材層)3で、各木材層3の絞られて重なり合う部分19を均等な角度で配置するには、木材層3の枚数をNとすると、最裏面の木材層3を除外して均等角度割りすればよいので、その角度は180°/(N−1)となる。
【0074】
このように、積層された木製成形体1cは、木材密度が高くなる部分を均等に配分しつつ、凹凸形状の形状異方性によるゆがみの発生を抑えることが出来るので、非常に安定して強度分布の良好な木製成形体1cが得られる。ただし、木材層3の積層数が2層の場合は、第2変形例に係る成形体1aの構成に従うので、N>2(N≧3)であることを必要用件としている。さらには、Nは、3以上の自然数であって、好ましくは、Nは5以上であり、より好ましくは、Nは10以上である。
【0075】
また、成形体1cでは、N枚の木材層3が重ね合わされているのであるが、お互いの隣接している1組の木材層3では、繊維方向の交差角度が、180°/(N−1)になっている。すなわち、最おもての木材層3から裏の木材層3に移行するにしたがって、繊維方向の各同が次第に変化している。具体的に説明する。Nを10とし最おもての木材層(1枚目の木材層)3の繊維方向を0°とすると、1枚目の木材層3の隣の木材層(2枚目の木材層)3の繊維方向が20°になっており、2枚目の木材層3の隣の木材層(3枚目の木材層)3の繊維方向が40°になっている。同様にして、繊維方向が20°づつ変化している。
【0076】
なお、上述した成形体1〜1cは、所定形状に成形されてなる木製成形体であって、繊維材料を含み、第1面(厚さ方向の一方の面)と前記第1面に対向する第2面(厚さ方向の他方の面)を有する第1の層と、1枚のシート状にスライスされた厚さ140μm以下の天然木の板を含み、この天然木の板の木材繊維間に形成された隙間を有し、前記第1の層の第2面上に配置される第3面(厚さ方向の一方の面)と、前記第3面に対向する第4面(厚さ方向の他方の面)とを有する第2の層とを具備し、前記第1の層と前記第2の層とが交互に重ねられて成形され、前記第1の層中および前記第2の層中に設けられた樹脂部によって前記第1の層と前記第2の層とが接着されており、前記各天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板の組において一致し、他の天然木の板では異なっている木製成形体の例である。
【0077】
上述した木製成形体1〜1cでは、前述したように、この厚さ方向の両側は、天然木の板になっている。すなわち、木製成形体の厚さ方向の一方の面(おもて面)と、厚さ方向の他方の面(裏面)では、天然木の板が露出している。
【0078】
また、1枚の天然木の板では、各導管や各仮導管はお互いがほぼ平行になって延伸している。したがって、1枚の天然木の板では、この天然木の板における木目の繊維はほぼ一方向に直線状に延びている。したがって、各天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているということは、たとえば、1枚目の天然木の板の木目の繊維の延伸方向と、2枚目の天然木の板の木目の繊維の延伸方向とがお互いに異なっているということであり、1枚の天然木の板において、木目の繊維の延伸方向が異なっているということではない。
【0079】
また、上述した成形体1〜1cは、厚さが140μm以下である複数枚の天然木の板(薄板)と、繊維材料を含む薄板状の基材(不織布+合成樹脂の接着剤)とを交互に重ね合わせて所定形状に成形されているとともに、前記各天然木の板おける木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板において一致し、他の天然木の板では異なっている木製成形体の例である。
【符号の説明】
【0080】
1 木製成形体
3 天然木(天然木の板、第2の層、木材層)
5 基材(第1の層、基材層)
7 樹脂部
9 木材積層体
11 木材の繊維
15 隙間
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さが140μm以下である複数枚の天然木の板と、繊維材料を含む薄板状の基材とを交互に重ね合わせて所定形状に成形されているとともに、前記各天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板において一致し、他の天然木の板では異なっていることを特徴とする木製成形体。
【請求項2】
所定形状に成形されてなる木製成形体であって、
繊維材料を含み、第1面と前記第1面に対向する第2面を有する第1の層と、
1枚のシート状にスライスされた厚さ140μm以下の天然木の板を含み、この天然木の板の木材繊維間に形成された隙間を有し、前記第1の層の第2面上に配置される第3面と、前記第3面に対向する第4面とを有する第2の層とを具備し、
前記第1の層と前記第2の層とが交互に重ねられて成形され、前記第1の層中および前記第2の層中に設けられた樹脂部によって前記第1の層と前記第2の層とが接着されており、
前記各天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板の組において一致し、他の天然木の板では異なっていることを特徴とする木製成形体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の木製成形体において、
前記繊維材料における引っ張り強度が大きい方の方向と、前記天然木の板における木目の繊維方向とのなす角度が45°から135°の範囲内となっていることを特徴とする木製成形体。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の木製成形体において、前記天然木の板のうちの第1の天然木の板における木目の繊維方向に対して、前記天然木の板のうちの第2の天然木の板における木目の繊維方向が、0°よりも大きく、かつ、20°よりも小さい角度で交差して、前記第1の天然木の板と前記第2の天然木の板とが積層されていることを特徴とする木製成形体。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の木製成形体において、
前記天然木の板がN層分重ね合わされたとき、最裏面の層を除き、それぞれの天然木の板における木目の繊維方向のなす角度がおよそ180°/(N−1)となっており、かつ、最も裏側の天然木の板における木目の繊維方向が、最おもて側の天然木の板における木目の繊維方向に対し、0°よりも大きく、かつ、20°よりも小さくなっていることを特徴とする木製成形体。
【請求項6】
繊維材料を含み、第1面とこの第1面に対向する第2面を有する第1の層中に樹脂を含浸させる工程と、
前記樹脂を含浸させた前記第1の層を乾燥させる工程と、
前記第1の層と、シート状にスライスされた厚さ140μm以下の天然木の板を含み前記第2面上に配置される第3面と前記第3面に対向する第4面とを有する複数の第2の層とを、前記第2の層の天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板の組において一致し、他の天然木の板では異なるように交互に重ね合わせる工程と、
前記重ね合わせた第1の層と第2の層とを水蒸気で軟化させ、この軟化させた第1の層と第2の層とを重ね合わせた状態で熱プレスし、前記第1の層中の樹脂を前記第2の層中へ充填させ、前記樹脂を介して前記第1の層と前記第2の層とをお互いに接着する工程と、
を有することを特徴とする木製成形体の製造方法。
【請求項1】
厚さが140μm以下である複数枚の天然木の板と、繊維材料を含む薄板状の基材とを交互に重ね合わせて所定形状に成形されているとともに、前記各天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板において一致し、他の天然木の板では異なっていることを特徴とする木製成形体。
【請求項2】
所定形状に成形されてなる木製成形体であって、
繊維材料を含み、第1面と前記第1面に対向する第2面を有する第1の層と、
1枚のシート状にスライスされた厚さ140μm以下の天然木の板を含み、この天然木の板の木材繊維間に形成された隙間を有し、前記第1の層の第2面上に配置される第3面と、前記第3面に対向する第4面とを有する第2の層とを具備し、
前記第1の層と前記第2の層とが交互に重ねられて成形され、前記第1の層中および前記第2の層中に設けられた樹脂部によって前記第1の層と前記第2の層とが接着されており、
前記各天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板の組において一致し、他の天然木の板では異なっていることを特徴とする木製成形体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の木製成形体において、
前記繊維材料における引っ張り強度が大きい方の方向と、前記天然木の板における木目の繊維方向とのなす角度が45°から135°の範囲内となっていることを特徴とする木製成形体。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の木製成形体において、前記天然木の板のうちの第1の天然木の板における木目の繊維方向に対して、前記天然木の板のうちの第2の天然木の板における木目の繊維方向が、0°よりも大きく、かつ、20°よりも小さい角度で交差して、前記第1の天然木の板と前記第2の天然木の板とが積層されていることを特徴とする木製成形体。
【請求項5】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の木製成形体において、
前記天然木の板がN層分重ね合わされたとき、最裏面の層を除き、それぞれの天然木の板における木目の繊維方向のなす角度がおよそ180°/(N−1)となっており、かつ、最も裏側の天然木の板における木目の繊維方向が、最おもて側の天然木の板における木目の繊維方向に対し、0°よりも大きく、かつ、20°よりも小さくなっていることを特徴とする木製成形体。
【請求項6】
繊維材料を含み、第1面とこの第1面に対向する第2面を有する第1の層中に樹脂を含浸させる工程と、
前記樹脂を含浸させた前記第1の層を乾燥させる工程と、
前記第1の層と、シート状にスライスされた厚さ140μm以下の天然木の板を含み前記第2面上に配置される第3面と前記第3面に対向する第4面とを有する複数の第2の層とを、前記第2の層の天然木の板における木目の繊維方向がお互いに異なっているか、もしくは、前記各天然木の板における木目の繊維方向が、少なくとも2枚の天然木の板の組において一致し、他の天然木の板では異なるように交互に重ね合わせる工程と、
前記重ね合わせた第1の層と第2の層とを水蒸気で軟化させ、この軟化させた第1の層と第2の層とを重ね合わせた状態で熱プレスし、前記第1の層中の樹脂を前記第2の層中へ充填させ、前記樹脂を介して前記第1の層と前記第2の層とをお互いに接着する工程と、
を有することを特徴とする木製成形体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2012−131055(P2012−131055A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−283045(P2010−283045)
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年12月20日(2010.12.20)
【出願人】(308036402)株式会社JVCケンウッド (1,152)
【Fターム(参考)】
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