説明

木造真壁の耐火構造

【課題】建物のリフォーム時に容易に設けることができると共に、火災時に真壁の壁面が加熱を受けた際に、柱の座屈耐力の低下を効果的に補うことのできる木造真壁の耐火構造を提供する。
【解決手段】間仕切り耐力壁11の壁面11a,11bに正面部12aが現れて真壁13を形成する柱12の、火災時における座屈耐力を向上させる木造真壁の耐火構造10であって、柱12の側面部12bに沿って、壁用面材15が接合される木受け材16が、柱12の略全長に亘って取り付けられており、且つ直角に連設する2辺部17a,17bを含むコの字断面形状を備える添設補強金物17が、一方の辺部17aを木受け材16の外方の側面部16aにビス18を用いて接合することにより、他方の辺部17bを壁用面材15の内側面に沿って配置した状態で、木受け材16に沿って柱12の30%以上の長さ領域に亘って取り付けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木造真壁の耐火構造に関し、特に壁面に正面部が現れて真壁を形成する角形断面を備える柱の火災時における座屈耐力を向上させるための木造真壁の耐火構造に関する。
【背景技術】
【0002】
和室意匠などにみられる日本の伝統的な住宅は、柱や梁を現した真壁造であるが、真壁は火災時に構造材が直接加熱を受けて燃焼・炭化し、断面欠損するため、防耐火性能上の非損傷性(火災加熱を受けても建物を支える荷重に耐えたまま、崩壊しない性能)についての確保が難しい。このような真壁の非損傷性の確保は、特に室内火災に対する安全性が要求される準耐火建築物や耐火建築物では困難であるが、例えば準防火地域の3階建て以上の建築物や防火地域の建築物の耐力壁は、準耐火構造に相当する性能が必要であるため、これらの地域でも真壁を設計できるようにする技術が種々開発されている(例えば、非特許文献1、特許文献1、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】平成12年建設省告示第1358号第ニ項ニのハ
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−132163号公報
【特許文献2】特開2010−7411号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1の燃えしろ設計は、燃焼により欠損する断面を考慮して柱断面を太くするものであり、特許文献1の内装壁構造は、熱膨張性耐火材を用いて柱の燃焼を抑制するものであるが、一般的な木造住宅の柱は、断面が105mm角や120mm角のものが使用されているのに対して、非特許文献1の燃えしろ設計では175mm角以上、特許文献1の内装壁構造では455×105mm以上の中断面の柱材を使用する必要があるため、小規模になりがちな住宅の居室では採用し難いといった課題がある。
【0006】
また、特許文献2の木造真壁の柱耐火構造は、断面が105mm角の柱材を使用し、片側を大壁仕様にして、柱の側面に太い受け材(75×105mm)を所定の接着剤を用いて取り付けたり、柱の大壁側に半柱材やL字金物を所定の接着剤を用いて取り付けたりすることによって構成されるものであるが、これらの受け材や半柱材やL字金物の取り付けは、接合面の略全域に接着剤を塗布してこれらの部材が柱と一体として変形できるようにする必要があることから、施工に多くの時間と手間がかかることになる。
【0007】
さらに、特許文献2の木造真壁の柱耐火構造は、主として壁の片側が大壁仕様となっている外壁を対象とするものであり、主として壁の両側が真壁仕様となった間仕切り耐力壁等に適用する際には、さらに新たな技術の開発が必要である。
【0008】
本発明は、主として壁の両側が真壁仕様となった間仕切り耐力壁に施工されて、例えば建物のリフォーム時に容易に設けることができると共に、火災時に真壁の壁面が室内側から直接加熱を受けた際に、柱の座屈耐力の低下を効果的に補って、上方からの荷重を長い間支え続けることのできる木造真壁の耐火構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、壁面に正面部が現れて真壁を形成する角形断面を備える木製の柱の、火災時における座屈耐力を向上させるための木造真壁の耐火構造であって、前記柱の側面部に沿って、壁用面材が接合される角形断面を有する木受け材が、前記柱の略全長に亘ってビス又は釘を用いて取り付けられており、且つ直角に連設する2辺部を含むコの字断面形状(C字断面形状を含む)、L字断面形状、又はロの字断面形状を備える添設補強金物が、前記直角に連設する2辺部のうちの一方の辺部を前記木受け材の外方の側面部にビスを用いて接合することにより、他方の辺部を前記壁用面材の内側面に沿って配置した状態で、前記木受け材の外方の側面部に沿って前記柱の30%以上の長さ領域に亘って取り付けられている木造真壁の耐火構造を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【0010】
そして、本発明の木造真壁の耐火構造は、前記木受け材及び前記添設補強金物が、前記柱の両側の側面部に沿って取り付けられていることが好ましい。
【0011】
また、本発明の木造真壁の耐火構造は、前記柱の表裏一対の正面部が何れも壁面に現れて真壁を構成しており、表裏一対の前記壁用面材は、端面を前記柱の側面部に各々当接させると共に、端部の内側面を前記木受け材の側方の側面部に各々密着させた状態で取り付けられていることが好ましい。
【0012】
さらに、本発明の木造真壁の耐火構造は、前記添設補強金物が、中間辺部の両側の側縁部から各々直角に連設する一対の張出し辺部を含むコの字断面形状(C字断面形状を含む)又はロの字断面形状を備えており、前記中間辺部を前記木受け材の外方の側面部に沿って接合すると共に、一対の前記張出し辺部を表裏一対の前記壁用面材の内側面に沿って各々配置した状態で取り付けられていることが好ましい。
【0013】
さらにまた、本発明の木造真壁の耐火構造は、前記添設補強金物を前記木受け材に接合するビスが、前記添設補強金物及び前記木受け材を貫通して前記柱に至る長さを有しており、前記添設補強金物の長さ方向に所定のピッチで複数打ち込まれていることが好ましい。
【0014】
また、本発明の木造真壁の耐火構造は、前記添設補強金物を前記木受け材に接合するビスが、前記添設補強金物の長さ方向に2列に千鳥状に配置されて打ち込まれていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の木造真壁の耐火構造によれば、主として壁の両側が真壁仕様となった間仕切り耐力壁に施工されて、例えば建物のリフォーム時に容易に設けることができると共に、火災時に真壁の壁面が室内側から直接加熱を受けた際に、柱の座屈耐力の低下を効果的に補って、上方からの荷重を長い間支え続けることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の好ましい一実施形態に係る木造真壁の耐火構造を採用した真壁の構成を説明する要部斜視図である。
【図2】本発明の好ましい一実施形態に係る木造真壁の耐火構造の構成を説明する要部断面図である。
【図3】(a),(b)は、添設補強金物の取り付け位置を説明する、壁用面材を取り除いた状態の柱の正面図である。
【図4】(a),(b)は、本発明の木造真壁の耐火構造の他の形態を示す要部断面図である。
【図5】(a)〜(d)は、本発明の木造真壁の耐火構造のさらに他の形態を例示する要部断面図である。
【図6】間仕切り耐力壁の品質性能試験に用いた試験体の略示正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい一実施形態に係る木造真壁の耐火構造10は、図1に示すように、例えば防災地域等に設けられた建物として、好ましくは在来軸組み工法による木造住宅建築物において、屋内の居室部を仕切る間仕切り耐力壁11を、角形断面を備える木製の柱12の正面部12aを表裏一対の壁面11a,11bの双方に現した真壁13とし、両側の居室部を例えば趣のある和室や洋室として使用できるようにすると共に、このような真壁13が、火災時に居室部から加熱を受けても建物を支え続ける性能である非損傷性について、好ましくは準耐火構造45分の防火性能を備えるように、当該真壁13の柱12を効果的に補強できるようにするために採用されたものである。
【0018】
そして、本実施形態の木造真壁の耐火構造10は、間仕切り耐力壁11の壁面11a,11bに正面部12aが現れて真壁13を形成する角形断面を備える木製の柱12の、火災時における座屈耐力を向上させるための耐火構造であって、図2に示すように、柱12の側面部12bに沿って、壁用面材15が接合される角形断面を有する木受け材16が、柱12の略全長に亘ってビス又は釘を用いて取り付けられており(図3(a),(b)参照)、且つ直角に連設する2辺部17a,17bを含むコの字断面形状を備える添設補強金物17が、直角に連設する2辺部17a,17bのうちの一方の辺部17aを木受け材16の外方の側面部16aにビス18を用いて接合することにより、他方の辺部17bを壁用面材15の内側面に沿って配置した状態で、木受け材16の外方の側面部16aに沿って柱12の30%以上の長さ領域に亘って取り付けられている(図3(a),(b)参照)。
【0019】
また、本実施形態では、上述のように、柱12の表裏一対の正面部12aが何れも間仕切り耐力壁11の壁面11a,11bに現れて真壁13を構成しており、表裏一対の壁用面材15は、端面15aを柱12の側面部12bに各々当接させると共に、端部の内側面を木受け材16の側方の側面部16bに各々密着させた状態で取り付けられている。
【0020】
さらに、本実施形態では、添設補強金物17は、中間辺部(一方の辺部)17aの両側の側縁部から各々直角に連設する一対の張出し辺部(他方の辺部)17bを含むコの字断面形状を備えており、中間辺部17aを木受け材16の外方の側面部16aに沿って接合すると共に、一対の張出し辺部17bを表裏一対の壁用面材15の内側面に沿って各々配置した状態で取り付けられている。
【0021】
本実施形態では、間仕切り耐力壁11は、図1に示すように、柱12と、表裏の壁用面材15と、こられの壁用面材15の間に挟まれて、隣接する柱12の間に配置される間柱19とによって構成される。また、表裏の壁用面材15の間の間隔部分20には、耐火性能を高めるための、例えばグラスウール等からなる断熱材21が充填されている。
【0022】
柱12は、例えば105×105mmの角形断面を備える木製の角材からなる。柱12は、図3(a),(b)に示すように、例えば下方の土台22と上方の梁23との間に跨る例えば2880mm程度の長さを有すると共に、取付治具を含めた座屈長さが3000mmとなっており、梁23を介して上方から負荷される荷重を支持して、下方の土台22に伝達できるようになっている。また、柱12は、図1及び図2に示すように、表裏一対の正面部12aを壁用面材15よりも外側に僅かに突出させた状態で、間仕切り耐力壁11の両側の壁面11a,11bに正面部12aが各々現れるように取り付けられて、間仕切り耐力壁11の両面を真壁仕様としている。
【0023】
表裏一対の壁面11a,11bを構成する壁用面材15は、各々例えば厚さが12.5mm程度の石膏ボードからなり、図2に示すように、端面15aを柱12の側面部12bに各々当接させると共に、端部の内側面を、後述する木受け材16の側方の側面部16bに各々密着させた状態で、固定ネジ、固定ビス、固定釘等の固定金具を木受け材16や間柱18に向けて打ち込むことにより固定されて、間仕切り耐力壁11の両側の壁面11a,11bを形成する。
【0024】
そして、本実施形態では、表裏の壁用面材15の間の例えば40〜45mm程度の幅の間隔部分20において、木受け材16及び添設補強金物17が、柱12の両側の側面部12bに沿って取り付けられる。
【0025】
木受け材16は、各々、柱12よりも小さな断面として、例えば30×45mmの角形断面を備える木製の角材からなる。木受け材16は、柱12よりも若干短く、且つこれと略同じ長さとして、例えば2660mm程度の長さを有しており(図3(a),(b)参照)、梁23を介して上方から負荷される荷重を支持しない状態で、柱12を挟んだ両側の側面部12bに取付けられる。また、木受け材16は、その内方の側面部16cを柱12の側面部12bに密着させた状態で(図2参照)、柱12に向けてビス又は釘(図示せず。)を所定のピッチで複数打ち込むことにより、柱12の側面部12bの幅方向中央部分に取り付けられて、柱12の長手方向に沿って略全長に亘って接合一体化される。
【0026】
ここで、木受け材16は、上方から負荷される荷重を支持しない状態で柱12に取り付けられるので、例えば建物のリフォーム時の改修工事として、既設の柱12に容易に接合することができる。また、木受け材16は、ビス又は釘を用いて柱12の側面部12bに取り付けられるので、接合面の略全域に接着剤を塗布して柱12に一体として接合する場合と比較して、多くの時間と手間を要することなく簡易に施工することが可能になる。さらに、木受け材16は、壁用面材15を留め付けるための下地部材として機能する他、火災時に柱12の側面部12bの燃え込みを抑制する機能や、燃焼してなくなるまで柱12の圧縮耐力を負担する機能をも発揮する。
【0027】
添設補強金物17は、各々、例えば3.2mm程度の厚さの溶融亜鉛メッキ鋼板を折り曲げ加工して形成された金属製の金物であり、例えば中間辺部17a及び一対の張出し辺部17bが40mm程度の長さを備えると共に、2箇所の角部がR部を介して直角に折れ曲がった、コの字断面形状を備える。添設補強金物17は、柱12の長さ(上下の梁と土台との間の長さ、或いは上下の梁と梁との間の長さ)の30%以上の長さ、好ましくは60%以上の長さとして、例えば2000mm程度の長さを有しており(図3(a),(b)参照)、その中間辺部17aを木受け材16の外方の側面部16aに密着させると共に、一対の張出し辺部17bを表裏の壁用面材15の内側面に沿って各々配置した状態で(図2参照)、中間辺部17aを貫通させて複数のビス18を木受け材16及び柱12に向けて打ち込むことにより、木受け材16の外方の側面部16aに重ね合わせるようにして、木受け材16の長手方向に沿って接合一体化される。
【0028】
ここで、本実施形態では、添設補強金物17を木受け材16に接合するビス18は、添設補強金物17の中間辺部17a及び木受け材16を貫通して柱12に至る長さを有しており、添設補強金物17の長さ方向に例えば50〜200mm程度の所定のピッチで複数打ち込まれるようになっている。また、ビス18は、添設補強金物17の長さ方向に2列に千鳥状に配置されて打ち込まれることが好ましい。
【0029】
ビス18が添設補強金物17及び木受け材16を貫通して柱12に至る長さを有していることにより、添設補強金物17及び木受け材16が柱12と一体となって座屈に抵抗することが可能になる。また、ビス18が千鳥状に2列に打ち込まれることにより、加熱側1列のビス18が周囲の柱12や木受け材16が燃えることで機能しなくなっても、非加熱側1列のビス18で接合状態を一定期間確保できるため、1列にビス18を打ち込んだ場合よりも長い時間、添設補強金物17と木受け材16による補強効果を持続させることが可能になる。
【0030】
本実施形態では、添設補強金物17は、図3(a),(b)に示すように、木受け材16の外方の側面部16aに沿って柱12の30〜100%の長さ領域に亘って取り付けられる。また、添設補強金物17は、柱12の60〜100%の長さ領域に亘って取り付けられることが好ましく、柱12の60〜90%の長さ領域に亘って取り付けられることがさらに好ましい。添設補強金物17が取り付けられる長さ領域が長すぎると、柱頭や柱脚にしばしば用いられるホールダウン金物や筋交い金物等の補強金物と干渉する場合があるという不具合が生じることになり、短すぎると、座屈耐力を向上させる機能を十分に発揮できなくなるという不具合が生じることになる。添設補強金物17が木受け材16に取り付けられる位置は、上下方向の中央部でも良く(図3(a)参照)、上部又は下部でも良い(図3(b)参照)。
【0031】
添設補強金物17は、木受け材16の外側に一体として取り付けられて、柱12の座屈耐力を向上させることにより木造真壁の非損傷性を向上させるという機能を発揮する。
【0032】
そして、上述の構成を備える本実施形態の木造真壁の耐火構造10によれば、例えば建物のリフォーム時に容易に設けることができると共に、火災時に真壁13の壁面11a,11bが室内側から直接加熱を受けた際に、柱12の座屈耐力の低下を効果的に補って、上方からの荷重を長い間支え続けることができる。
【0033】
すなわち、本実施形態によれば、真壁13の柱12を補強する木受け材16や添設補強金物17は、何れも上方から負荷される荷重を支持しない状態で柱12に取り付けられると共に、これらの接合面の略全域に接着剤を塗布することなく、釘やビス18を用いて柱12の側面部12bに容易に取り付けることができるので、既存の柱や、構造材を組んだ後の新設の柱を効果的に補強して、真壁13の非損傷性を向上させることが可能になる。またこれによって、既存の大壁仕様の仕切り壁を、防火構造や準耐火構造の性能を維持したまま真壁仕様に変更することが可能になると共に、例えば歴史的建造物で既存の状態では非損傷性が不適格となっている真壁を、法令に適合する防火構造や準耐火構造に容易にグレードアップすることが可能になる。
【0034】
また、本実施形態によれば、表裏の壁用面材15の間の間隔部分20において、木受け材16及び添設補強金物17が柱12の側面部12bに取り付けられているので、真壁13の外観に影響を与えることなく、接合一体化された木受け材16及び添設補強金物17による、火災時に柱12の残存断面に集中する圧縮・偏心曲げ応力を分散・吸収させる作用によって、柱12の正面部12aにおける引張耐力を効果的に補強することが可能になる。これによって、火災時に柱12の正面部12aが直接加熱を受けることで燃焼・炭化して断面欠損を生じると共に、柱12の内部温度が上昇してヤング係数が低下しても、当該断面欠損を生じた正面部12aを内側に湾曲させた状態で柱12が座屈し易くなるのを、木受け材16及び添設補強金物17による引張耐力の向上によって効果的に抵抗することが可能になり、これにより座屈耐力の低下を補って、火災加熱を受けても建物を支える荷重に耐えたまま、崩壊しない性能である真壁13の非損傷性を向上させて、建物からの荷重をできるだけ長い間支え続けることが可能になる。
【0035】
図4(a),(b)は、本発明の好ましい他の実施形態に係る木造真壁の耐火構造10',10”を示すものである。図4(a),(b)に示す耐火構造10',10”は、上記実施形態の耐火構造10と略同様の構成を備えているが、木受け材16の外方の側面部16aにビス18を用いて接合される添設補強金物17’,17”の構成が相違している。すなわち、図4(a)に示す耐火構造10'では、添設補強金物17’は、直角に連設する2辺部17a’,17b’を含むL字断面形状を備えており、一方の辺部17a’を木受け材16の外方の側面部16aにビス18を用いて接合することにより、他方の辺部17b’を一方の壁用面材15の内側面に沿って配置した状態で、木受け材16の外方の側面部16aに沿って取り付けられている。また、図4(b)に示す耐火構造10”では、添設補強金物17”は、中間辺部(一方の辺部)17a”の両側の側縁部から各々直角に連設する一対の張出し辺部(他方の辺部)17b”を含むロの字断面形状を備えており、中間辺部17a”を木受け材16の外方の側面部16aに沿って接合すると共に、一対の張出し辺部17b”を表裏の壁用面材15の内側面に沿って各々配置した状態で取り付けられている。
【0036】
図4(a),(b)に示す木造真壁の耐火構造10',10”によっても、柱12の側面部12bに取り付けられた木受け材16及び添設補強金物17’,17”による、火災時に柱12の残存断面に集中する圧縮・偏心曲げ応力を分散・吸収させる作用によって、柱12の引張耐力を補強することで、上記実施形態の耐火構造10と同様の作用効果が奏される。
【0037】
なお、本発明は上記各実施形態に限定されることなく種々の変更が可能である。例えば、本発明の木造真壁の耐火構造は、図5(a)に示すように、表裏の壁用面材15の間の間隔部分20に、グラスウール等からなる断熱材が充填することなく構成することもできる。図5(b)に示すように、柱12の両側の側面部12bに木受け材16を取り付けると共に、片側の側面部12bのみに添設補強金物17を取り付けて構成することもできる。図5(c)に示すように、間仕切り耐力壁11の一方の壁面11aを真壁造にすると共に他方の壁面11bを大壁造とし、大壁24側の裏面に密着させて、柱12の両側の側面部12bに木受け材16及び添設補強金物17を取り付けて構成することもできる。図5(d)に示すように、間仕切り耐力壁11の一方の壁面11aを真壁造にすると共に他方の壁面11bを大壁造とし、柱12の片側の側面部12bに木受け材16を取り付けると共に一対の添設補強金物17を取り付けて構成することもできる。
【0038】
すなわち、本発明によれば、目標とする非損傷性や周囲の納まりに合わせて、木受け材や添設補強金物17の断面寸法、断面形状、取り付け方法等を適宜選択して、木造真壁の耐火構造を構成することができる。
【0039】
また、本発明の木造真壁の耐火構造は、建物のリフォーム時のみならず、建物の新築時に木造真壁を設ける際に採用することもできる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例により、本発明の木造真壁の耐火構造をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0041】
〔実施例1,2〕
図1及び図2に示す上記実施形態の木造真壁の耐火構造10と同様の構成を備える、図6に示す仕様の試験体を、実施例1の試験体とした。グラスウールを充填しなこと以外は実施例1の試験体と略同様の構成を備える試験体を、実施例2の試験体とした。実施例1及び実施例2の試験体について、(財)建材試験センターにおいて両面真壁の間仕切り耐力壁の品質性能試験(大臣認定試験と同条件の実験)を行い、準耐火45分以上の耐火性能を有することを確認した。試験の概要を以下に示す。また、試験結果を表1に示す。
【0042】
〔試験体仕様〕
試験体は、図6に示す柱の両面を現した真壁仕様とした。試験体は、外形は幅3000×高さ3230mmの実大規模の壁試験体で、105mm角のすぎ集成材による柱12を中央に配し、実施例1の試験体では30×45mmの間柱19を、実施例2の試験体では30×40mmの間柱19を455mm間隔で取り付けた。いずれも壁内に隠れる柱12の両側面に、実施例1の試験体では30×45mmの木受け材16を、実施例2の試験体では30×40mmの木受け材16を取り付けると共に、3.2×40×40mmのコの字断面形状を有する長さ2000mmの添設補強金物17を取り付けた。添設補強金物17の素材は、実施例1の試験体ではSGHC、実施例2の試験体ではSPHCとした。添設補強金物17は、いずれも、木受け材16を挟み込みむようにして柱12の側面に、ビスで千鳥に100mm間隔で留め付けた。壁用面材15は、実施例1の試験体では強化石こうボード12.5mmを、実施例2の試験体では強化石こうボード15mmを用い、実施例1の試験体のみにグラスウール21として、10K−50mmを充填した。
【0043】
〔試験方法〕
試験は、(財)建材試験センターの垂直炉を用いて行い、同試験所の業務方法書に従ってISO834に準拠した載荷加熱を行った。載荷は、中央の柱12に長期許容応力度に相当する荷重22.1kN(105mm正角、L=3230mm、同一等級集成材E65−F255、基準強度Fc=20.6N/mm2で算出)をかけた。防耐火性能の評価は、遮炎性(裏面側への火災貫通がないこと)、遮熱性(裏面側温度が初期値に比べて最高180℃、平均で140℃上昇しないこと)、非損傷性(軸組み方向の収縮量が32.3mm、収縮速度が9.7mm/分を越えないこと)の3点を45分間満足することを目標とした。
【0044】
【表1】

【0045】
表1に示す試験結果によれば、実施例1の試験体及び実施例2の試験体は、ともに加熱45分間の遮炎性、遮熱性、及び非損傷性を満足し、準耐火45分以上の耐火性能を備えることが確認された。また、実施例1の試験体では、裏面温度が規定値を超える55分まで、実施例2の試験体では、軸方向変位速度が規定値を超える53.5分まで試験を続行できたため、いずれの試験体も耐火性能に十分余裕があることが判明した。
【符号の説明】
【0046】
10,10’,10” 木造真壁の耐火構造
11 間仕切り耐力壁
11a,11b 壁面
12 柱
12a 柱の正面部
12b 柱の側面部
13 真壁
15 壁用面材
16 木受け材
16a 外方の側面部
16b 側方の側面部
16c 内方の側面部
17,17’,17” 添設補強金物
17a,17a’,17a” 一方の辺部(中間辺部)
17b,17b’,17b” 他方の辺部(張出し辺部)
18 ビス
19 間柱
20 表裏の壁用面材の間の間隔部分
21 断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
壁面に正面部が現れて真壁を形成する角形断面を備える木製の柱の、火災時における座屈耐力を向上させるための木造真壁の耐火構造であって、
前記柱の側面部に沿って、壁用面材が接合される角形断面を有する木受け材が、前記柱の略全長に亘ってビス又は釘を用いて取り付けられており、
且つ直角に連設する2辺部を含むコの字断面形状、L字断面形状、又はロの字断面形状を備える添設補強金物が、前記直角に連設する2辺部のうちの一方の辺部を前記木受け材の外方の側面部にビスを用いて接合することにより、他方の辺部を前記壁用面材の内側面に沿って配置した状態で、前記木受け材の外方の側面部に沿って前記柱の30%以上の長さ領域に亘って取り付けられている木造真壁の耐火構造。
【請求項2】
前記木受け材及び前記添設補強金物が、前記柱の両側の側面部に沿って取り付けられている請求項1記載の木造真壁の耐火構造。
【請求項3】
前記柱の表裏一対の正面部が何れも壁面に現れて真壁を構成しており、表裏一対の前記壁用面材は、端面を前記柱の側面部に各々当接させると共に、端部の内側面を前記木受け材の側方の側面部に各々密着させた状態で取り付けられている請求項1又は2記載の木造真壁の耐火構造。
【請求項4】
前記添設補強金物は、中間辺部の両側の側縁部から各々直角に連設する一対の張出し辺部を含むコの字断面形状又はロの字断面形状を備えており、前記中間辺部を前記木受け材の外方の側面部に沿って接合すると共に、一対の前記張出し辺部を表裏一対の前記壁用面材の内側面に沿って各々配置した状態で取り付けられている請求項3記載の木造真壁の耐火構造。
【請求項5】
前記添設補強金物を前記木受け材に接合するビスは、前記添設補強金物及び前記木受け材を貫通して前記柱に至る長さを有しており、前記添設補強金物の長さ方向に所定のピッチで複数打ち込まれる請求項1〜4の何れか1項に記載の木造真壁の耐火構造。
【請求項6】
前記添設補強金物を前記木受け材に接合するビスは、前記添設補強金物の長さ方向に2列に千鳥状に配置されて打ち込まれる請求項5記載の木造真壁の耐火構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−31639(P2012−31639A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172169(P2010−172169)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(000183428)住友林業株式会社 (540)
【Fターム(参考)】