説明

未加硫ゴムの混練方法

【課題】未加硫ゴムとシリカの混練を効率化して生産性に優れた未加硫ゴムの混練方法を提供する。
【解決手段】混合室2で未加硫ゴムにシリカとカップリング剤を配合して混練を行なう未加硫ゴムの混練方法において、混合室2に水蒸気を供給すると共に、混合室2からシリカとカップリング剤の反応で生成したアルコールを除去しながら混練を行なう。
【効果】シリカとカップリング剤の反応を、混練温度を低下させることなく促進させ、所望のゴム特性を得るまでの未加硫ゴムの混練時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は未加硫ゴムの混練方法に関し、さらに詳しくは、未加硫ゴムとシリカの混合を効率的に行なえる生産性に優れた未加硫ゴムの混練方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、トレッドゴムに対するカーボンブラックの配合量を減らし、シリカを多量に配合することにより、転がり抵抗を低減すると共に、湿潤路面での制駆動性を向上するようにした空気入りタイヤが使用されつつある。しかし、シリカはカーボンブラックに比べて粒子が小さいためゴムに対する均一分散性が悪いという問題があり、シリカを高配合したタイヤを製造する場合の課題になっている。このようなシリカの分散性を改善するため、未加硫ゴムにシリカをカップリング剤と共に混合し、シリカとカップリング剤を反応させながら混練を行なうようにしている(例えば、非特許文献1参照)。
【0003】
しかし、転がり抵抗や湿潤路面での制駆動性について所望のゴム特性を得るまでのシリカとカップリング剤の反応時間がかかり、混練サイクルタイムが大幅に長くなるため、生産性がよくないという問題があった。
【非特許文献1】Rubber Chemistry and Technology (ラバー ケミストリ アンド テクノロジー), 55, 967 (1982)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、上述した従来の問題を解消し、未加硫ゴムとシリカの混練を効率化して生産性に優れた未加硫ゴムの混練方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明の未加硫ゴムの混練方法は、混合室で未加硫ゴムにシリカとカップリング剤を配合して混練を行なう未加硫ゴムの混練方法において、前記混合室に水蒸気を供給すると共に、該混合室から前記シリカとカップリング剤の反応で生成したアルコールを除去しながら混練を行なうことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、上述のように混合室に水分を水蒸気の形で供給すると共に、混合室から反応生成物であるアルコールを除去しながら混練を行なうため、シリカとカップリング剤の反応を混練温度を低下させることなく促進させ、所望のゴム特性を得るまでの未加硫ゴムの混練時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明の未加硫ゴムの混練方法は、未加硫ゴムとシリカを混練する場合において、未加硫ゴム中のシリカの分散性を向上するため、カップリング剤を配合して混練を行なう。この混練工程において、シリカがカップリング剤と反応して表面の親水性基が覆われてゴムに対する親和性が高められ、未加硫ゴムへの分散性が向上する。
【0008】
未加硫ゴムに対するシリカ及びカップリング剤の配合量は特に限定されないが、特にタイヤのトレッドゴム用として、ゴム100重量部に対して、シリカが20〜100重量部、カップリング剤が1〜10重量部であることが好ましい。シリカはカーボンブラックに比べて表面が親水性基に覆われているため、ゴムになじみにくく互いに凝集しやすく、未加硫ゴムに対して均一に分散させることが非常に難しいという特性がある。このためシリカと共にカップリング剤を配合し、シリカとカップリング剤とを混練操作により反応させてシリカとゴムとの親和性を高め、自己凝集を防止することで分散性を向上させるようにする。
【0009】
カップリング剤は、シリカと反応してシリカ表面に結合するものであれば特に限定されない。例えば、カップリング剤として、γ−メルカプトプロピルメトキシシラン、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)−テトラサルファイド(TESPT)、ビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)−ジサルファイド(TESPD)などの有機シランなどを挙げることができる。
【0010】
本発明における未加硫ゴムの混練方法では、上記未加硫ゴム、シリカおよびカップリング剤に加えて、加硫または架橋剤、加硫または架橋促進剤などの加硫系添加剤を除く、カーボンブラックなどの補強材(フィラー)、各種オイル、老化防止剤、可塑剤などのタイヤ用やその他一般ゴム用に通常配合されている各種添加剤を配合することができる。
【0011】
未加硫ゴムとシリカ及びカップリング剤との混練操作は、密閉された混合室で行なう。このような密閉混合室を備えた混合機としては、バンバリーミキサーなどの密閉式ミキサーであってもよく、また2軸押出機であってもよい。密閉式ミキサーの場合には混練操作がバッチで実施され、また2軸押出機の場合には混練操作が連続で実施される。
【0012】
本発明の混練方法では、上記のように密閉された混合室で未加硫ゴムとシリカ及びカップリング剤とを混練するとき、その混合室に水蒸気を供給すると共に、混合室から反応生成物であるアルコールを積極的に除去することが特徴である。混合室に対する水蒸気の供給は、連続的であっても、或いは間欠的であってもよい。
【0013】
上述のようにして本発明で混練された混練物は、オープンロールなどにより加硫系添加剤を添加されて最終のゴム組成物となる。
【0014】
図1は、本発明の未加硫ゴム混練方法をバッチで実施するバンバリー型ミキサーを例示する。
【0015】
ミキサー本体1は内部に密閉された混合室2を有し、その混合室2に一対のロータ3,3を設けている。一対のロータ3,3は互いに反対方向に回転することにより、未加硫ゴムとシリカ及びカップリング剤とを混練するようになっている。
【0016】
上記混合室2には水蒸気供給源4が供給管5を介して連結されている。また、供給管5の途中に混合器6が連結され、この混合器6に空気供給源7が供給管8を介して連結されている。水蒸気供給源4から供給された水蒸気は、混合器6で空気供給源7から供給された空気と混合することにより、シリカ及びカップリング剤との反応に必要な所定量の水分量に調整され、混合室2へ供給されるようになっている。
【0017】
上記水蒸気の水分量を調整するため、水蒸気供給源4の供給側に設けた開閉弁4aと空気供給源7の供給側に設けた開閉弁7aとがそれぞれコントローラ10に接続され、コントローラ10からの指令により開閉することにより水分量が調整される。混合器6から混合室2への開閉弁6aもコントローラ10に接続され、混合室2への水蒸気の供給量が制御されるようにしている。
【0018】
また、混合室6に排気管9が連結され、この排気管9からシリカとカップリング剤との反応生成物のアルコールが気化し排気されるようにしている。この排気管9の開閉弁9aもコントローラ10により制御される。
【0019】
図2(A),(B)は、本発明の未加硫ゴム混練方法を連続的に実施するミキサーである2軸押出機を例示する。
【0020】
2軸押出機のシリンダー21内に混合室22が形成され、この混合室22に互いに反対方向に回転する一対のスクリュー23,23が設けられている。24は混練材料を供給する供給ホッパー、25は押出口である。混練材料の未加硫ゴムとシリカ及びカップリング剤とを供給ホッパー24に投入すると、スクリュー23,23により混練されながら押出口25へ連続的に移動し、最後に押出口25から押し出される。
【0021】
この2軸押出機も、図1のミキサーと同様に、混合室22に水蒸気供給源4が供給管5を介して連結され、また供給管5の途中に混合器6が連結されている。さらに混合器6に空気供給源7が供給管8を介した連結されている。水蒸気供給源4から供給した水蒸気は、混合器6で空気供給源7から供給された空気と混合し、所定量の水分量に調整されたのち混合室22へ供給される。また、開閉弁4a,6a,7a,9aがコントローラ10に接続され、図1のミキサーと同様に制御されるようになっている。
【0022】
また、混合室22に排気管9が連結され、この排気管9から、混練中に生成したシリカとカップリング剤との反応生成物(アルコール)が排気されるようになっている。
【0023】
本発明において、未加硫ゴムの混練操作中において、シリカとカップリング剤とは下記〔化1〕に示すように反応してシリカの凝結体になってゴムとの親和性を高め、自己凝集を防止することで未加硫ゴムに対する分散性を向上する。
【0024】
〔化1〕に示すように、シリカとカップリング剤とはシリカ表面にカップリング剤が結合した後、隣接し合うカップリング剤同士が水を取り込んで加水分解することにより互いにシロキサン結合してシリカ表面にある親水基を覆う。また、反応生成物としてアルコール(エチルアルコール)を発生する。このようにシリカ表面の親水基を覆うことで、ゴムとの親和性を高め、自己凝集を防ぐことで未加硫ゴムに対するシリカの分散性を向上させることができる。
【0025】
【化1】

【0026】
上記のようにシリカとカップリング剤との反応では、水の取り込みと共に、アルコールを生成する。本発明の混練方法では混合室に水蒸気を供給すると共に、反応生成物であるアルコールを積極的に混合室から除去しながら混練を行なうので、上記カップリング剤同士の加水分解に必要な十分量の水を積極供給し、さらに生成反応物のアルコールを積極除去するため、混練温度を低下させることなく反応を促進させることができる。したがって、シリカとカップリング剤の反応を効率よく短時間に行なうことができる。
【0027】
本発明において、水蒸気の供給に当たっては、上記加水分解を円滑に行なうため、水蒸気の水分量を最適にするように調整することが好ましい。水分量の調整方法としては、空気の混合により行なうことが好ましい。この調整は、図1及び図2に例示したように、水蒸気を混合室に供給する前に、予め水蒸気に空気を混合して行なうことが好ましいが、水蒸気と空気との量をそれぞれ調整した上で、それぞれ個別に混合室に供給するようにしてもよい。
【0028】
上記のように混練を行なうことにより、未加硫ゴムの混練温度を常に130〜170℃に維持することができ、反応を効率化して反応時間を一層短縮することができる。混練温度が130℃よりも低いと、反応時間が著しく延長するという問題があり、また170℃よりも高いと、系内での反応が不均一になり、スコーチが発生するという問題がある。
【実施例】
【0029】
未加硫のSBR100重量部に対し、シリカを60重量部、カップリング剤としてビス−(3−トリエトキシシリルプロピル)−テトラサルファイド(TESPT)を4.8重量部を配合し、反応温度を140℃に維持して混練を行うに当たり、下記3通りの混練方法(実施例1,比較例1、比較例2)を実施し、シリカの分散性が目標レベルに達するまでの混練所要時間を下記の試験方法により測定した。その結果を表1に示す。
【0030】
表1は、実施例1の混練所要時間を100とする指数で表わすしたもので、比較例1は200になり、比較例2は500であった。この結果から、本発明の実施例1は比較例1や比較例2に比べて混練所要時間が短く、生産性に優れていることがわかる。
【0031】
実施例1: 図1のミキサーを使用し、混練操作中に混合室に水蒸気を連続的に供給すると共に、生成物のアルコールを混合室から除去した。
【0032】
比較例1: 実施例1において水蒸気の代わりに常温水を噴霧した以外は、実施例1と同じ条件で混練を行なった。
【0033】
比較例2: 実施例1において水蒸気の供給および生成アルコールの除去を行なわなかった以外は、実施例1と同じ条件で混練を行なった。
【0034】
[混練時間の試験方法]
貯蔵弾性率G’の歪依存性がシリカ反応(従って、シリカ分散性)の尺度に対応することを利用し、シリカ分散目標レベルまでの混練所要時間を測定する。具体的には、貯蔵弾性率G’の測定条件を100℃,0.5Hzとして、歪0.5%における貯蔵弾性率G’(0.5%)と歪100%における貯蔵弾性率G’(100%)との差ΔG’が400kPa以下(ΔG’≦400kPa)になったときをシリカ分散性の目標レベルにし、混練で反応温度が140℃に達した時点から40秒毎にゴムの採取を行って、ΔG’の測定を行う作業を繰り返し、そのΔG’が400kPa以下になるまでの混練所要時間を測定した。
【0035】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明を実施する装置の一例を示す概略断面図である。
【図2】(A)本発明を実施する装置の他の例を示す概略断面図、(B)は(A)におけるX−X矢視断面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 ミキサー本体
2 混合室
3 ロータ
4 水蒸気供給源
6 混合器
7 空気供給源
9 排気管
21 シリンダー
22 混合室
23 スクリュー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合室で未加硫ゴムにシリカとカップリング剤を配合して混練を行なう未加硫ゴムの混練方法において、前記混合室に水蒸気を供給すると共に、該混合室から前記シリカとカップリング剤の反応で生成したアルコールを除去しながら混練を行なう未加硫ゴムの混練方法。
【請求項2】
混練温度を130〜170℃に維持しながら混練を行なう請求項1に記載の未加硫ゴムの混練方法。
【請求項3】
前記水蒸気の水分量を空気を混合して調整する請求項1又は2に記載の未加硫ゴムの混練方法。
【請求項4】
密閉型ミキサー及び/又は2軸押出機で前記混練を行なう請求項1〜3のいずれかに記載の未加硫ゴムの混練方法。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−123272(P2006−123272A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−312777(P2004−312777)
【出願日】平成16年10月27日(2004.10.27)
【出願人】(000006714)横浜ゴム株式会社 (4,905)
【Fターム(参考)】