説明

材料の高温処理において汚染物を抑制する方法

【課題】ガラスまたは結晶質材料における、ナトリウムおよび他の金属による汚染を減少させることが可能な、ガラスまたは結晶質材料を高温で処理する方法を提供する。
【解決手段】約300ppm未満の、表面領域における処理前の初期ナトリウム濃度[Na](処理前)を有するガラスまたは結晶質材料を高温で処理する方法を提供する。材料を、F2、Cl2、Br2、ハロゲン含有化合物、およびそれらの相溶性混合物からなる群より選択される洗浄ガスを含む浄化雰囲気内で処理する。雰囲気を、熱処理の終わりに、処理された材料の表面領域において、処理後のナトリウム濃度[Na](処理後)が、5[Na](処理前)以下となるような純度を有するように維持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温でガラスまたは結晶質材料を処理する方法に関する。本発明は、特に、それによって、金属汚染、具体的にナトリウム汚染が抑制される、高温において高純度ガラスまたは結晶質材料を処理する方法に関する。本発明は、例えば、高温における高純度シリカガラス材料の製造に有用である。
【背景技術】
【0002】
多くの無機材料が、その組成および/または性質を変えるために高温で処理されている。そのような処理としては、再流動、二次成形、一次成形、加圧成形、切断、研削、他の機械加工などの造形が挙げられる。高純度材料について、そのような高温処理中の汚染は、問題であろう。これは、非常にわずかな金属汚染が、材料の性能を著しく損なうことがある、精密光学デバイスに使用するための高純度ガラスおよび結晶質材料に特に当てはまる。高温の状況下では、汚染物、特に金属イオンは、通常、低温におけるよりも一層移動性であり、したがって、それらの濃度はその温度環境においては高いことがあり得るので、そのような高温により、懸念が増す。さらに、無機材料がすでに緻密化されていたとしても、汚染は、高温ではずっと速く生じ得る。一旦汚染されたら、それらの緻密化された材料にとって、さらなる精製は通常難しいか、または実現的ではない。その結果、許容できないレベルの汚染物を含む部品を犠牲にしなければならず、製品の歩留まりが低くなる。
【0003】
高温処理中のそのような汚染は、最新式リソグラフィーデバイスに使用するための高純度合成シリカガラスにとって特に顕著な問題である。合成シリカガラスには、深紫外領域および真空紫外領域で動作する、レーザ発生器などのリソグラフィー機器および他の光学機器における光学素子に用途が見出されている。今日の超大規模集積回路(VLSI)産業に用いられる高性能リソグラフィーデバイスにとっては、金属濃度が、典型的にppbレベルの非常に低レベルにあることが要求されることが知られている。そのような用途のための材料の製造および処理は、二次成形、アニーリングなどの高温処理を含む。そのような処理が行われる環境は、高純度の材料で構成されている場合でも、ナトリウム濃度は、望ましいよりも高い傾向にある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
それゆえ、金属汚染、特にナトリウム汚染の制御が大きな問題である。
【0005】
従来技術により、この問題に対する解決策は提供されていない。ここに提示した解決策は、金属汚染が問題であるシリカガラス以外の材料の高温処理にも拡張できる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、約300ppm以下、ある実施の形態において有益には約100ppm未満、ある実施の形態において有益には1ppm未満の、表面領域における処理前の初期ナトリウム濃度[Na](処理前)を有するガラスまたは結晶質材料を高温で処理する方法であって、(i)その材料を、F2、Cl2、Br2、ハロゲン含有化合物、およびそれらの相溶性混合物からなる群より選択される洗浄ガスを含む浄化雰囲気内で処理し、(ii)その雰囲気を、熱処理の終わりに、処理済み材料の表面領域において、処理後のナトリウム濃度[Na](処理後)が、5[Na](処理前)以下、ある実施の形態において有益には2[Na](処理前)以下、ある実施の形態において有益には[Na](処理前)以下、さらにある実施の形態において有益には0.5[Na](処理前)以下となるような純度を有するように維持する、各工程を有してなる方法が提供される。
【0007】
本発明の方法の好ましい実施の形態によれば、そのように処理される材料は、高純度ガラス、ある実施の形態において有益には、高純度の固結された溶融シリカガラスである。ある実施の形態において有益には、高純度シリカガラスは、深紫外領域および真空紫外領域においてリソグラフィーデバイスの光学部材に使用するためのものである。別の好ましい実施の形態において、処理される材料は、単結晶、多結晶材料、またはガラスセラミック材料である。
【0008】
本発明の方法の好ましい実施の形態によれば、[Na](処理後)≦10質量ppb、ある実施の形態において有益には、[Na](処理後)≦5質量ppb、ある実施の形態において有益には、[Na](処理後)≦2質量ppb、ある実施の形態において有益には、[Na](処理後)≦1質量ppbである。この実施の形態は、処理される材料が高純度溶融シリカガラスである場合に特に好ましい。
【0009】
ある実施の形態において有益には、結晶質またはガラス材料の高温処理は、加圧成形、垂下、二次成形、再流動、機械加工、線引き、圧延、または他の再造形から選択される。
【0010】
ある実施の形態において有益には、高温処理中、浄化雰囲気は連続流またはパルス流である。
【0011】
ある実施の形態において有益には、洗浄ガスは、F2、Cl2、Br2、およびHF、HCl、HBr、CFcCldBreおよびSFxClyBrzなどのハロゲン含有化合物並びにそれらの相溶性混合物から選択され、ここで、c,d,e,x,yおよびzは、負ではない整数であり、c+d+e=4およびx+y+z=6である。ある実施の形態において有益には、洗浄ガスはCl2である。本発明の方法のある実施の形態において、浄化雰囲気は、洗浄ガスに加えて、N2およびHe、Ne、Ar、Krなどの希ガスおよびそれらの混合物から選択されることが好ましい不活性ガスを含む。
【0012】
好ましくは、本発明の方法において、材料は、表面領域における少なくとも一種類の金属Mの処理前初期濃度[M](処理前)、および表面領域における少なくとも一種類の金属Mの処理後濃度[M](処理後)を有し、[M](処理後)≦5[M](処理前)、ある実施の形態において有益には、[M](処理後)≦2[M](処理前)、ある実施の形態において有益には、[M](処理後)≦[M](処理前)、さらにある実施の形態において有益には、[M](処理後)≦0.5[M](処理前)であり、Mは、ナトリウム以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属から選択される。ある実施の形態において有益には、各金属Mについて、[M](処理前)≦5質量ppbである。ある実施の形態において有益には、全ての金属Mおよびナトリウムについて、Σ([M](処理前)+[Na](処理前))≦100質量ppbである。
【0013】
ある実施の形態において有益には、本発明の方法において、処理は、グラファイトから構成された炉内で行われる。ある実施の形態において有益には、グラファイト材料は洗浄ガスに対して透過性である。ある実施の形態において有益には、炉の材料を、材料がその中で処理される前に低レベルのナトリウム濃度を有するように浄化した。ある実施の形態において有益には、処理プロセス中に浄化雰囲気にさらされる炉の材料の表面領域は、2[Na](処理後)未満、ある実施の形態において有益には、[Na](処理後)未満、ある実施の形態において有益には、0.5[Na](処理後)未満のナトリウム濃度を有する。
【0014】
本発明の方法のある実施の形態において、特に、処理される材料が高純度溶融シリカガラスである場合、処理は、その材料を約1300℃より高い温度にさらす工程を含む。本発明の方法の別の実施の形態において、処理は、その材料を約1700℃の温度にさらす工程を含む。これらの実施の形態において、特に炉がグラファイトにより構成されている場合、少なくとも温度が約800〜1300℃の間にあるときに、処理が、材料を浄化雰囲気の連続流またはパルス流にさらす工程を含むことが好ましい。ある実施の形態において、温度が約800℃よりも高い全期間中、材料を浄化雰囲気の連続流またはパルス流にさらす工程を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の追加の特徴および利点は、以下の詳細な説明に述べられており、一部には、その説明から当業者にとっては容易に明らかである、または説明およびその特許請求の範囲、並びに添付の図面に記載された発明を実施することによって認識されるであろう。
【0016】
先の一般的な説明および以下の詳細な説明は、単に、本発明の例示であり、特許請求の範囲に記載された本発明の性質および特徴を理解するための概要または構成を提供することが意図されている。
【0017】
添付の図面は、本発明をさらに理解するために含まれており、この明細書に含まれ、その一部を構成する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
ここに用いているように、「高温」は、500℃より高い、ある実施の形態において有益には、約800℃より高い温度を意味する。
【0019】
ここに用いているように、「表面領域」は、処理された材料から製造された物品の厚さの20%以内、またはその表面から15mmの深さ、いずれか大きい方の領域を意味する。本出願において記載した表面領域における特定の元素の濃度は、材料の表面領域における平均濃度を意味する。
【0020】
ある実施の形態において有益には、本発明の方法により処理された材料が結晶質である場合、その材料は、元素ではない、単結晶または多結晶であることが好ましい。例えば、その材料は、CaF2、MgF2、および酸化物結晶であってよい。
【0021】
以下に限られないが、半導体産業において用いられるリソグラフィーデバイスを含む高精度光学機器に用いられる光学部材などの、高精度デバイスのための構成部材の製造には、しばしば、結晶質、ガラスまたはガラスセラミック材料の高温処理を伴う。そのような処理としては、以下に限られないが、結晶の形成と成長、セラミック化、機械加工、加圧成形、垂下(sagging)、再流動、圧延、線引きなどの造形が挙げられる。そのような高温処理中の汚染制御は、そのような高温処理の多くにとって重要である。例えば、リソグラフィーデバイス、エタロン、レーザ発生器などにおける光学部材のために広く用いられている高純度溶融シリカガラスの製造は、しばしば、シリカの高温処理の工程を含む。アルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属を含む金属などの汚染物は、そのような高純度シリカガラスが、KrF、ArFおよびF2レーザリソグラフィーデバイスなどの厳しい用途に用いられるときに、その光学的性質に有害であることが知られている。シリカガラス中の金属の要求されるレベルは、そのような高温処理中のそのような金属による汚染が重大な問題となるほど低い。これは、第1に、金属汚染物、特にアルカリ金属、および具体的にナトリウムは、周知のように至る所に存在し、それゆえ、取扱い中に、作業者、器具および炉の材料から導入されるかもしれず、第2に、金属、特にナトリウムイオンなどの小さなイオンは、処理温度に加熱されたときに溶融シリカ中の拡散率が増すからである。したがって、処理中に外部からのナトリウムおよび他の金属をガラス中に導入するのを避ける上で、作業者は、最大限の注意を払わなければならず、使用される器具と炉の材料には、通常、そのような処理前に完全な浄化が行われる。
【0022】
しかしながら、本発明の発明者等には、ガラスが処理される環境からナトリウムをなくすことは事実上は不可能であることが分かった。最近、本発明の発明者等により、1300℃より高い温度での高純度溶融シリカガラスの造形における労力に関して、使用する炉の材料および器具を予め完全に浄化し、外部からのナトリウムを炉中に導入しないように注意を払っていても、1300℃より高い温度で処理される、ppbレベルのアルカリ濃度を有する高純度溶融シリカガラスは、高純度ヘリウム雰囲気の存在下だけで処理されたら、通常は汚染され、表面領域のナトリウム濃度が、ArFリソグラフィーデバイスのための光学部材に使用するのには許容できないレベルまで増加することが分かった。それゆえ、高いナトリウム濃度を持つ表皮部分は、使用できるコアを残すように除去しなければならない。これにより、使用できるガラスの歩留まりが低くなってしまう。低い歩留まりおよび表皮除去工程のために、材料のコストが高くなる。したがって、上述した器具および炉の材料の事前の浄化に加え、環境、特に、ガラスが処理される雰囲気に存在するナトリウムを減少させることが望ましく、多くの状況下で必要とされる。
【0023】
本発明の発明者等は、溶融シリカガラスの高温処理中にそのナトリウム汚染を抑制する課題を解決するために本発明の方法を発明した。この解決策は、処理中において洗浄ガスを含む浄化雰囲気の流れを使用し、それゆえ、処理中に進行しながら雰囲気中のナトリウムレベルを減少させることにある。本発明の方法は、高純度溶融シリカガラスの処理に使用するために最初に設計されたが、この方法は、浄化雰囲気が、処理すべき材料の所望の性質に許容されないほど悪影響を及ぼさない限り、任意の他の結晶質、ガラスまたはガラスセラミック材料の処理に使用することもできる。
【0024】
グラファイト、ジルコン、ジルコニア、および他の耐火物などの様々な無機材料の浄化に、塩素(Cl2)が用いられている。例えば、パブリック・ジュニア(Pavlik, Jr)等の米国特許第6174509号明細書には、それによって、ハロゲンが汚染金属と反応し、少なくとも耐火物の露出表面から汚染金属を除去する、ハロゲン含有雰囲気中で耐火物を処理することが開示されている。この特許において、塩素またはフッ素が、単独または酸ガス形態で、特に有用であることが開示されている。また、この特許において、ジルコンに関して、洗浄作用は、700℃ほどと低い温度で生じ得ることも開示されている。しかしながら、1100から1500℃の範囲のいくぶん高い温度を採用することが通常好ましい。1500℃より高い温度で、ジルコンは、熱分解し始め、耐火物が弱くなると述べられている。この特許においてこのように処理されたジルコン耐火物で300ppm未満のナトリウムレベルが達成できることが示唆されている。別の文献、Robert S.Pavlik Jr et al. Purification of Porous Zircon by Carbochlorination, J.Am.Ceram.Soc.,87[9]1653-1658(September 2004)において、以下の単純化された反応:
+42(固)+2C(固)+2Cl2(気)→MCl4(気)+2CO(気)
ここで、Mはジルコン耐火物中に捕捉された金属を表す;
により、ジルコン耐火物が、炭素の塩素化により浄化できることが開示されている。反応生成物MCl4は、一般に、M+42より低い沸点を有する。成形されたMCl4ガスを除去することによって、捕捉された金属は、耐火物から減少する。
【0025】
これらの文献には、固体中の金属汚染物を減少させる上でハロゲン含有雰囲気は有効であろうことが教示されているが、そのような教示は全て、少なくとも数百ppmの規模で高い初期金属濃度を持つ多孔質材料の浄化に関連している。さらに、それらの教示は、約1500℃より低い温度での処理に限られている。
【0026】
ほとんどの金属イオンについて、温度が高いほど、固体中、特に、溶融シリカなどのガラス材料中の拡散率が大きくなることが知られている。特定の温度で、その拡散率は劇的に増加するであろう。これらの文献だけから、金属イオン、特に、ナトリウムなどの小さなイオンの高温での高い拡散率を考えると、高純度材料の金属汚染を、数百ppbレベル、もっと少ない数十または数ppbレベルなどのppm未満のレベルに制御する上で、そのようなガスを効果的に使用できるか否かは明らかではない。固体材料、特に溶融シリカなどのガラス材料中の高温でのナトリウムの高い拡散率のために、雰囲気中のナトリウム濃度が非常に低いレベルに制御されているとしても、ナトリウムは、高温処理中に、処理雰囲気から吸収され、ガラス材料中に豊富になるであろう。溶融シリカガラスの二次成形に要求されるように、そのような処理が1500℃より高い温度で行われる場合、そのような問題はより複雑になり、より著しくなる。材料と雰囲気との間の化学反応の熱力学と反応速度論は変化する。さらに、塩素などの特定の元素は、浄化剤として効果的であるが、溶融シリカガラス中に含まれた場合、KrFまたはArFレーザの波長などの関心のある波長でそのガラスの光学的性能に、それ自体、単独で、有害であることが知られている。高温で、特に、1500℃より高い温度などの1000℃より高い温度で、ガラス中への拡散および/または処理される材料との反応は、使用できなくなる程度まで、処理される材料の性質に悪影響を及ぼすであろう。
【0027】
意外なことに、本発明の発明者等は、処理雰囲気中に洗浄ガスを含ませることによって、ppmレベル未満、さらにはppbレベルまでの処理される材料の金属汚染物の制御が実現可能になることを発見した。そのように処理された材料は高純度溶融シリカガラスであった。本発明の方法を使用することによって、高純度溶融シリカガラスの表面領域におけるナトリウム濃度は著しく増加せず、処理前の初期濃度の5倍以内に制御できた。他の金属イオンによる汚染も、本発明の方法により同様に制御されると考えられる。
【0028】
本発明の方法における浄化雰囲気に含まれる洗浄ガスは、有益には、F2、Cl2、Br2、およびHF、HCl、HBr、CFcCldBreおよびSFxClyBrzなどのハロゲン含有化合物並びにそれらの相溶性混合物から選択され、ここで、c,d,e,x,yおよびzは、負ではない整数であり、c+d+e=4およびx+y+z=6である。ある実施の形態において有益には、溶融シリカなどのガラス材料を処理する場合、洗浄ガスはCl2である。本発明の方法のある実施の形態において、浄化雰囲気は、洗浄ガスに加えて、N2およびHe、Ne、Ar、Krなどの希ガスおよびそれらの混合物から選択されることが好ましい不活性ガスを含む。洗浄ガスおよび浄化雰囲気の他の成分の選択は、洗浄効果、処理環境中の金属イオンのレベル、安全性、炉の材料との反応性、環境問題、制御可能性および費用などの様々な要因によって決定される。通常は、これらのガスおよび作用物質は、不純物の大きな供給源として働かないように高純度であることが要求される。さらに、洗浄ガスは、そのように処理される材料の所望の物理的性質に対して著しく有害な影響を及ぼすような様式で、処理される材料と反応すべきではない。洗浄ガスが、処理中にその中に含まれる場合、材料の所望の物理的性質に対して中立的なまたはプラスの影響を及ぼすことが好ましい。例えば、高純度溶融シリカガラスを処理する場合、フッ素含有洗浄ガスを使用することが有益であろう。これは、フッ素は、1000℃より高い温度、特に1500℃より高い温度で溶融シリカ中にかなり急速に拡散することが知られているが、深紫外領域および真空紫外領域におけるリソグラフィーデバイスに使用するための高純度溶融シリカの光学的性質に悪影響を及ぼさないことが知られているからである。むしろ、フッ素は、ガラスのバックボーンとの結合が高温でより熱力学的に有利に働くために、ガラス中の塩素を置き換えるように作用するので、フッ素含有洗浄ガスを使用すると、ガラスの光学的性能が改善されるであろう。
【0029】
浄化雰囲気は、洗浄ガスのみからなっていてもよい。浄化ガスは、洗浄ガスに加えて不活性ガスを含むことも可能である。浄化雰囲気中の洗浄ガスの濃度は重要ではない。例えば、その濃度は、1体積%から100体積%までに及んでよい。浄化雰囲気中の洗浄ガスの濃度の選択は、処理時間、処理温度、処理される材料中の金属との反応および金属を減少させる上での洗浄ガスの効果、処理される材料中の金属の所望のレベル、洗浄ガスの反応性と制御可能性などの複数の要因に依存する。一般に、処理時間が長いほど、最終的に処理される材料中の金属濃度の要求レベルが低いほど、また金属を除去する上で洗浄ガスの効果が低いほど、浄化雰囲気中の洗浄ガス濃度が高いことが望ましい。浄化雰囲気の圧力も重要ではない。その圧力は、処理プロセス中に一定のままでも、または周期的に変動してもよい。炉内に毒性の洗浄ガスが用いられる場合、浄化雰囲気の全圧は周囲圧力より低いことが望ましい。
【0030】
浄化雰囲気は、熱処理中、連続流であってよい。あるいは、好ましい実施の形態において、浄化雰囲気は、炉などの処理環境中に、パルス流として導入される。「パルス流」とは、特定の時間間隔中、浄化雰囲気が、実質的に人工撹拌の有無にかかわらずに、炉などの処理環境中に閉じ込められ、その後、排気、および/または新たな浄化雰囲気による交換が行われることを意味する。処理の終わりに、材料が室温まで冷める前に、炉室内を充填するために、通常、不活性ガスが用いられる。おそらく、洗浄ガスは、排気される前に炉室内に閉じ込められている間に、十分な時間に亘り金属と反応できるので、繰り返しのパルス流は、処理環境内の金属を除去するのに極めて効果的であることが分かった。反応した浄化雰囲気の排気は、有益には、新たな浄化雰囲気または不活性ガスを再充填する前に、室内の雰囲気の圧力を、例えば、100トル(13.3kPa)未満に、ある実施の形態において有益には、30トル(4.00kPa)未満に、ある実施の形態において有益には、10トル(1.33kPa)未満に、さらにある実施の形態において有益には、1トル(133Pa)未満に減少させることによって行われる。Robert S.Pavlik Jr. et al., Purification of Porous Zircon by Carbochlornation, J.Am.Ceram.Soc., 87[9]1653-1658(September 2004)には、ジルコンを浄化するためのパルス流実験計画が記載されており、これは、本発明の熱処理方法に使用するのに適用されるであろう。この文献に記載されたパルス流実験計画は、Cl2およびHeガスの混合物を炉内に導入し、Cl2ガス含有量が、ジルコン耐火物中に存在する全ての不純物が十分に反応できるほど十分な量が存在するのを確実にするように調節された工程、炉内の絶対圧を大気圧よりわずかに低くなるまで増加させる工程、炉室内のガスを真空ポンプにより排出し、それによって、揮発性反応生成物を除去する工程、廃ガスを洗浄する工程、およびガス充填と排気の各工程を繰り返す工程を含む。
【0031】
処理雰囲気から金属、特に、ナトリウムおよび他のアルカリ汚染物を効果的に除去するために、温度が少なくとも1000℃である、より望ましくは温度が少なくとも900℃である、さらにより望ましくは温度が少なくとも800℃であるときに、浄化雰囲気を使用することが望ましい。本発明の発明者等は、ナトリウムは、温度が1000℃よりも高いときに、器具と炉の材料から著しく蒸発する傾向にあることを発見した。約1200℃に加熱されたときに、そのようなナトリウムの蒸発は特に著しい。しかしながら、1150〜1300℃の間などのこの温度辺りでは、溶融シリカガラス中のナトリウムの拡散率は非常に高い訳ではない。したがって、処理中に、炉が1150〜1350℃の温度に、その温度範囲で蒸発するナトリウムのほとんどを除去するために、少なくとも10分間に亘り、ある実施の形態において有益には、少なくとも20分間に亘り、ある実施の形態において有益には、少なくとも30分間に亘り、ある実施の形態において、少なくとも1時間に亘り、ある他の実施の形態において、少なくとも2時間に亘り、ある他の実施の形態において、少なくとも3時間に亘り、維持されることが非常に望ましい。処理の初期段階において、比較的少量のナトリウムしか除去されないので、雰囲気中のナトリウム濃度は、ナトリウムイオンが移動化されるときに比較的高いレベルに到達し得る。後の段階で、温度がさらに高くされたときに、ナトリウムと他の金属の移動性および拡散率は増加するので、連続的またはパルス様式のいずれかで、温度が1000℃より高いままである限り、ある実施の形態において有益には、温度が約900℃より高いときに、ある実施の形態において有益には、温度が約800℃より高いときに、加熱プロセス、特定の温度での保持プロセス、および冷却プロセスのいずれをも含む全処理プロセス中に、浄化雰囲気を使用することが望ましい。例えば、高純度溶融シリカガラスの二次成形に関して、ガラスを1700℃ほど高い温度に加熱することがしばしば望ましい。温度が1000℃より高い限り、ある実施の形態において有益には、温度が900℃より高いときに、ある実施の形態において有益には、温度が800℃より高いときに、炉の温度が上昇している期間中(予熱プロセス)、ガラスが再流動しているまたは二次成形されている期間中(ピーク温度辺り)、炉の温度が減少している期間中(冷却プロセス)などの全二次成形プロセス中、浄化雰囲気が用いられる。
【0032】
特に表面領域において、金属汚染物のレベルが低い処理後材料を得るために、意図した処理が行われる炉を構成する耐火材料が低レベルの金属まで浄化され、処理すべき材料の取扱いに用いられる器具が、同様に低金属材料により製造されていることが非常に望ましい。高純度溶融シリカガラス材料を処理する場合、好ましい炉の材料はグラファイトである。ある実施の形態において有益には、グラファイト材料自体は、洗浄ガスに透過性であり、したがって、炉の材料として用いられる前に、完全に浄化されるであろう。さらに、多孔質グラファイトは、同様に、浄化雰囲気中の洗浄ガスにより処理期間中にさらに浄化されるであろう。純度の要件を満たし、多少なりとも洗浄ガスと反応する場合、洗浄ガスとの反応のために許容できないレベルまで劣化しないという条件で、他の耐火材料を用いてもよい。例えば、Cl2の存在下で、高純度溶融シリカガラスを処理する場合、炉の材料は、グラファイト以外に、SiC、BNなどであってもよい。ある実施の形態において有益には、処理プロセス中に浄化雰囲気にさらされる炉の材料の表面領域は、5[Na](処理後)未満、ある実施の形態において有益には、2[Na](処理後)未満、さらにある実施の形態において有益には、[Na](処理後)未満、ある実施の形態において有益には、0.5[Na](処理後)未満のナトリウム濃度を有する。
【0033】
グラファイト炉において洗浄ガスとしてCl2を使用し、表面領域における処理前のナトリウム濃度[Na](処理前)を有する高純度溶融シリカガラスを約1800℃までの温度に加熱処理することによって、表面領域における処理後のナトリウム濃度[Na](処理後)を、≦5[Na](処理前)、有益には、≦2[Na](処理前)のレベルに維持できることが実証された。プロセスパラメータを変えることによって、[Na](処理後)≦[Na](処理前)、また[Na](処理後)≦0.5[Na](処理前)さえ、達成できると考えられる。[Na](処理前)≦10質量ppbの高純度溶融シリカガラスについて、本発明の方法を使用することによって、[Na](処理後)≦10質量ppb、ある実施の形態において、[Na](処理後)≦5質量ppb、他の実施の形態において、[Na](処理後)≦2質量ppb、さらに他の実施の形態において、[Na](処理後)≦1質量ppbが達成できることが実証された。
【0034】
本発明の方法において、材料は、表面領域における少なくとも一種類の金属Mの処理前初期濃度[M](処理前)、および表面領域における金属Mの処理後濃度[M](処理後)を有し、[M](処理後)≦5[M](処理前)、ある実施の形態において有益には、[M](処理後)≦2[M](処理前)、ある実施の形態において有益には、[M](処理後)≦[M](処理前)、ある実施の形態において有益には、[M](処理後)≦0.5[M](処理前)であり、Mは、ナトリウム以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属から選択されることが好ましい。ある実施の形態において有益には、各金属Mについて、[M](処理前)≦5質量ppbである。ある実施の形態において有益には、全ての金属Mおよびナトリウムについて、Σ([M](処理前)+[Na](処理前))≦100質量ppbである。高純度溶融シリカガラスについて、最も懸念される金属Mの例としては、ナトリウム、カリウムおよび銅(I)が挙げられる。
【0035】
本発明の方法にしたがって調製され、処理された本発明の低ナトリウム、低金属の溶融シリカガラス材料は、深紫外および真空紫外マイクロリソグラフィーデバイスに用いられる光学部材の製造に特に適している。それらの光学部材は、優れた光学的性質、特に、そのような短波長での高い透過率および高いレーザ損傷耐性を有する傾向にある。高純度溶融シリカガラスは、表面領域における金属汚染が微々たるものであるので、高い歩留まりで本発明の方法により処理することができる。意外なことに、洗浄ガスとしてCl2を使用しても、ガラスの性能が著しく低下したり、高品質のガラスの歩留まりが減少したりしない。任意の特定の理論により拘束することを意図するものではないが、本発明の発明者等は、これはおそらく、1800℃ほど高い温度でさえ、シリカ中のClの拡散率が比較的低いことによるものであると考えている。
【0036】
以下の非限定的実施例はさらに、特許請求の範囲に記載された本発明を例証するものである。これらの実施例は、説明目的のためだけであり、いかようにも、特許請求の範囲に記載された本発明を制限するものと解釈すべきではない。
【実施例】
【0037】
具体例1(本発明)
炉の構成設備が図1に示されている。初期ナトリウム濃度を有する高純度溶融シリカガラス104をグラファイト炉101内で処理した。炉のグラファイト壁103を、低レベルのナトリウムとなるまで予め状態調節した。炉101を室温で純粋なN2ガスによりパージした。次いで、N2/Cl2の混合物を、入口105を通して炉101中に導入した。次いで、炉101を約1200℃に加熱し、ここで、約30分間に亘り保持した。その後、炉101を、出口107を通して、ポンプ109によって100Pa未満まで真空引きした。続いて、炉にN2/Cl2混合物を再充填し、1765℃に加熱した。その後、炉101を排気し、N2/Cl2を再充填し、室温まで冷却した。次いで、処理した試料におけるナトリウム濃度プロファイルを特徴付け、図2に報告した。
【0038】
具体例2(比較例)
各工程は、具体例1においてN2/Cl2が用いられていたところで、代わりに、純粋なN2を用いたことを除いて、具体例1と実質的に同じである。次いで、処理した試料におけるナトリウム濃度プロファイルを特徴付け、図2に報告した。
【0039】
図2から、本発明の方法は、熱処理中の高純度シリカガラスのナトリウム汚染をうまく阻害したことが極めて明らかである。本発明により処理したガラスの表面領域は、ナトリウム濃度が相当低く、ナトリウムは、試料中にずっと少ない厚さしか浸透しなかった。比較例において処理した試料は、そのガラスをArFリソグラフィーデバイスのために使用すべき場合には、その表面部分を大きく除去しなければならないであろう。本発明により処理した試料については、あったとしても、ずっと小さな部分しか、許容できる上限より高いナトリウム濃度を有さない。
【0040】
本発明の範囲および精神から逸脱せずに、本発明に様々な改変および変更を行えることが当業者には明らかであろう。それゆえ、本発明は、本発明の改変および変更を、それらが、添付の特許請求の範囲およびその同等物の範囲に含まれるという条件で、包含することが意図されている。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の方法の実施の形態を実施するための炉の構成設備の概略図
【図2】一方が本発明により処理され、他方が処理されていない、2つの高純度溶融シリカガラス試料の、試料の深さの関数としてナトリウム濃度分布を示すグラフ
【符号の説明】
【0042】
101 グラファイト炉
103 グラファイト壁
104 高純度溶融シリカガラス
109 ポンプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
約300ppm未満の表面領域における処理前の初期ナトリウム濃度[Na](処理前)を有するガラスまたは結晶質材料を高温で処理する方法であって、
(i) 前記材料を、F2、Cl2、Br2、ハロゲン含有化合物、およびそれらの相溶性混合物からなる群より選択される洗浄ガスを含む浄化雰囲気内で処理し、
(ii) 前記雰囲気を、熱処理の終わりに、処理された前記材料の前記表面領域において、処理後のナトリウム濃度[Na](処理後)が、5[Na](処理前)以下となるような純度を有するように維持する、
各工程を有してなる方法。
【請求項2】
[Na](処理後)≦10質量ppbであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記浄化雰囲気が、連続的に流動するガスまたはガス混合物であることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
前記浄化雰囲気が、ガスまたはガス混合物のパルス流であることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項5】
前記浄化雰囲気がCl2を含むことを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項6】
前記処理された材料が高純度溶融シリカガラスであることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項7】
前記材料が、前記表面領域における少なくとも一種類の金属Mの処理前初期濃度[M](処理前)、および前記表面領域における少なくとも一種類の金属Mの処理後濃度[M](処理後)を有し、[M](処理後)≦5[M](処理前)であり、Mが、ナトリウム以外のアルカリ金属、アルカリ土類金属および遷移金属から選択されることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項8】
前記材料がシリカガラスであり、各金属Mについて、[M](処理後)≦10質量ppbであることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項9】
全ての金属Mおよびナトリウムについて、Σ([M](処理前)+[Na](処理前))≦100質量ppbであることを特徴とする請求項7記載の方法。
【請求項10】
前記処理が、前記材料を約1300℃より高い温度にさらす工程を含むことを特徴とする請求項6記載の方法。
【請求項11】
前記処理が、前記材料を、少なくとも温度が約800〜1300℃の間にあるときに、前記浄化雰囲気の連続流またはパルス流にさらす工程を含むことを特徴とする請求項6記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−126352(P2007−126352A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2006−246630(P2006−246630)
【出願日】平成18年9月12日(2006.9.12)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】