説明

材料組成物およびそれを用いた光学素子

【課題】 色収差補正が可能な異常分散性を有すると共に、光学素子として加工が容易である光学用の材料組成物およびそれを用いた光学素子を提供する。
【解決手段】 酸化テルル(IV)粒子(A)1質量%以上50質量%以下と、1分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)50質量%以上99質量%以下と、重合開始剤(C)0.1質量%以上5質量%以下を含む材料組成物およびその硬化物を有する光学素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特異な異常分散性を有しつつ、光学素子として加工が容易である光学用の材料組成物およびそれを用いた光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガラスに代わり、光学材料として合成樹脂材料が用いられるようになってきた。合成樹脂は成形加工性がよく、低コストであるためである。しかし、光学合成樹脂はガラスに比べると実現可能な光学特性が限られているといった課題も抱えている。
そこで、合成樹脂中に金属酸化物ナノ粒子を分散させることで合成樹脂の光学特性を所定の値に調整した材料(複合材料)が提案されている。このような複合材料によって、合成樹脂では実現できない高屈折率を有する光学材料を実現することができる。
例えば、高屈折性、低分散性、耐熱性、透明性、及び軽量性を併せ持ち、さらには屈折率を任意に制御できる熱可塑性を有する材料組成物が提案されている。具体的には、合成樹脂中に酸化物粒子を配合することが提案されており、ここではテルル化物粒子を利用することが例示されている(例えば、特許文献1参照)。
また、テルル化物の粒子を含有する有機無機複合材料が屈折率勾配を有するフィルムに利用することが提案されている(例えば、特許文献2参照)。
一方、金属酸化物粒子を配合することによって、異常分散性を有する有機無機複合材料を提供することはこれまで提案されることはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−73563号公報
【特許文献2】特表2008−524352号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、屈折率が高く、特異な異常分散性を有しつつ、熱的な耐性を有し、加工性にも優れた光学素子、複合光学素子用の組成物およびそれを用いた光学素子を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、酸化テルル(IV)粒子(A)1質量%以上50質量%以下と、1分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)50質量%以上99質量%以下と、重合開始剤(C)0.1質量%以上5質量%以下を含む材料組成物である。
また、酸化テルル(IV)粒子(A)と、1分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)と、重合開始剤(C)を含む材料組成物の硬化物において、d線における硬化物の屈折率nd、アッベ数νd、F線とg線の異常分散性をΔθgFとしたとき、 10≦νd≦40 かつ0.01≦ΔθgF≦0.10
である材料組成物である。
【0006】
また、有機化合物(B)はビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアネート基、エポキシ基、オキセタン基から選ばれる官能基の少なくとも1つを有する前記の材料組成物である。
有機化合物(B)は1分子中に1個の重合性官能基を有する有機化合物(B1)と1分子中に2個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B2)からなり、質量比(B1)/(B2)が0.25以上100以下である前記の材料組成物である。
有機化合物(B)は芳香環、ナフタレン環やアントラセン環などの縮合多環、カルバゾール環、フルオレン環、チイラン環から選ばれる官能基の少なくとも1つを有する化合物を1種類以上含む材料組成物である。
【0007】
また、酸化テルル(IV)粒子(A)1質量%以上50質量%以下と、1分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)50質量%以上99質量%以下と、重合開始剤(C)0.1質量%以上5質量%以下である材料組成物の硬化物からなる光学素子である。
酸化テルル(IV)粒子(A)と、1分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)と、重合開始剤(C)を含む材料組成物の硬化物において、d線での硬化物の屈折率nd、アッベ数νd、F線とg線の異常分散性をΔθgFとしたとき、
10≦νd≦40 かつ0.01≦ΔθgF≦0.10
である材料組成物の硬化物からなる前記の光学素子である。
前記光学素子が光学基材の表面に、光硬化によって光学用の材料組成物の硬化物を積層した複合型光学素子である前記の光学素子である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の如く、酸化テルル(IV)粒子(A)、1分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)、重合開始剤(C)含む材料組成物によって製造した硬化物は、屈折率が高く、特異な異常分散を有する組成物を得ることができる。また、この組成物を硬化することによって、加工性、耐性、透明性を有した光学素子を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、異常分散性ΔθgFを説明する図である。
【図2】図2は、本発明の組成物を重合させた硬化物のみから構成される光学素子を成形に用いる成形装置の一例を示す図である。
【図3】図3は、本発明の複合型光学素子の一例を示す図である。
【図4】図4は、本発明の複合型光学素子の製造装置の一例を示す図である。
【図5】図5は、本発明の光学用組成物の展延状態を示す図である。
【図6】図6は、本発明の実施例のアッベ数とΔθgFの関係を説明する図である。
【図7】図7は、本発明の実施例の熱サイクル試験を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、酸化テルル(IV)粒子と、重合性官能基を有する有機化合物及び重合開始剤とを配合した材料組成物を作製したところ、特異な異常分散性を有する光学用材料組成物を提供することが可能であることを見出したものである。また、この材料組成物の硬化物は光学素子として加工が容易であり、光学素子として用いた場合、屈折率が高くプラスチックでは実現できない色収差補正が可能なことを見出したものである。なお、特異な異常分散性とは、従来のガラス材料や合成樹脂のみでは実現できなかった異常分散性のことである。
【0011】
テルル化合物を光学ガラス原料として利用することや、テルル化物を有機材料に配合した光学材料が知られている。しかしながら、酸化テルル(IV)粒子を有機材料に配合した材料組成物(有機無機複合材料)が、特異な異常分散性を有すること、およびその硬化物が光学素子としての提供が可能であること、さらにはその光学素子において従来困難であった色収差補正が可能であることは予期し得ないことであった。
【0012】
本実施形態の光学用の材料組成物(以下、単に本実施形態の材料組成物とする)は、酸化テルル(IV)(A)と、1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)および重合開始剤(C)を、それぞれ所定の割合で配合したことを特徴としている。
まず、酸化テルル(IV)(A)の粒子は、粒径が1〜50nmであることが好ましく、より好ましくは、1〜20nmである。このような粒径の酸化テルル(IV)粒子を配合することによって硬化物の透明性が保つことが可能となる。
なお、粒子径は動的光散乱式粒径分布測定装置(株式会社堀場製作所製LB−550)を用いて求めた値であり、各個数基準粒度分布の最小粒子径と最大粒子径の割合が50%のときの粒子径を、用いた酸化テルル(IV)粒子の平均粒子径とした。
【0013】
また、酸化テルル(IV)の含有量は、1質量%以上50質量%以下が好ましい。1質量%未満では特異な異常分散性を有する材料組成物を得ることができない。この場合、その硬化物を光学素子に用いたとしても、所望の色収差補正の効果が得られない。一方、50質量%を超えて含有した場合には、着色により透明性が低下し、光学素子として用いるには適さない。
【0014】
また、重合性官能基を有する有機化合物(B)、及び重合開始剤(C)は、紫外線照射、加熱などのエネルギー付与により硬化反応を起こし、硬化物を得るための必須成分である。
【0015】
重合性官能基を有する有機化合物(B)の含有量は50質量%以上99質量%以下が好ましい。99質量%を超えて含有すると、色収差補正に効果を発揮するような低い異常分散性を有する組成物を得ることができない。一方、50質量%未満では樹脂成分が少ないため、加工が難しくなってしまう。
【0016】
具体的には、メタクリレート、アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ジメチルロールトリシクロデカンジメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、ノニルフェニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキシド付加物ジアクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、2−メタクリロイルオキシエチルイソシナネート、ウレタンアクリレート、エポキシアクリレート、N−(β−アクリロイルオキシエチル)カルバゾール、N−(β−メタクリロイルオキシエチル)カルバゾール、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレン、1−アクリロキシ−4−メトキシナフタレン、1,4−ジアクリロキシナフタレン、ビス(2−メタクリロイルチオエチル)スルフィド等の、アクリレート、メタクリレート系モノマー、オレフィン系モノマー、ジエン系モノマー、ハロゲン化オレフィン系モノマー、スチレン系モノマー、N−ビニルカルバゾール、N−アリルカルバゾール等のビニル化合物系モノマー、含硫黄化合物モノマー、環状モノマーなどをあげることができる。
ここで、(メタ)アクリレートは、アクリレート、メタクリレートの少なくともいずれか一方を含有するものを意味する。
【0017】
重合性開始剤(C)は、紫外線照射、加熱などのエネルギー付与により硬化反応を開始させる為の成分であり、硬化物の形成には必須の成分である。
重合開始剤の含有量は、0.1質量%以上5質量%以下が好ましい。0.1質量%未満では十分な硬化性を有する材料組成物が得られない。この場合、材料組成物を硬化させても硬化度の低い硬化物になってしまう。一方、5質量%を超えて含有すると硬化物の透明性が低下したり、太陽光による黄変が大きくなるほか、材料組成物がゲル化する可能性があるという問題がある。
【0018】
重合開始剤としては、光重合開始剤あるいは熱重合開始剤を用いることができる。光重合開始剤は熱重合開始剤と比較して短時間で材料組成物を硬化させることが可能であることから、生産性が求められる光学素子の製造には好適である。
一方、熱重合開始剤は、所定の温度まで加熱することが必要であるために、光重合よりも時間を要するが、硬化収縮による応力が残りにくい。複合光学素子では、材料組成物とは異なる材質の部材に、材料組成物を接触させた状態で硬化を行う。そのため、硬化収縮による応力が大きくなりやすいが、熱重合開始剤を用いれば硬化収縮による応力が残りにくいので、複合光学素子を製造する場合に適している。
【0019】
光重合開始剤としては、例えば4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エステル、アルコキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノンおよびベンゾフェノン誘導体、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジルおよびベンジル誘導体、ベンゾインおよびベンゾイン誘導体、ベンゾインアルキルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントンおよびチオキサントン誘導体、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキシド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等が挙げられる。これらの光重合開始剤は、1種のみで用いても、2種以上を併用しても良い。
【0020】
特に、これらの光重合開始剤の中でも、370〜460nmの波長において吸収を有するものを用いるのが望ましい。なお、特に460nm以上に吸収波長があると可視域での着色原因となるので、このような吸収波長を持つ光重合開始剤の使用は好ましくない。
【0021】
また、光重合開始剤が吸収を有するか否かは、溶媒のみでの透過率を100%とした時に、所定の溶液における透過率が99%以下か否かで判断することができる。ここで、所定の溶液とは、光重合開始剤を溶解することが可能なクロロホルムやアセトニトリルなどの溶媒に、材料組成物中と同様の濃度で光重合開始剤が溶解した溶液である。また、透過率は光路長が10mmの時の透過率である。
【0022】
光重合開始剤としては、具体的には、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルホスフィンオキシド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1などを用いると、十分な硬化性および硬化物の透明性が得られるので特に好ましい。
【0023】
熱重合開始剤としては、過酸化ベンゾイル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス―2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスカルボアミド、イソプロピルヒドロペルオキシド、第3ブチルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ビスヘキサンなどが挙げられる。
【0024】
本実施形態の材料組成物には、上記の成分の他に、さらに紫外線吸収剤を添加して耐久性を向上させても良い。
具体的には、フェニルサリシレート、p−ターシャリーブチルフェニルサリシレート、p−オクチルフェニルサリシレートなどサリチル酸エステル系のもの、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−アセトキシエトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシ−5,5’−ジスルホベンゾフェノン・2ナトリウム塩などベンゾフェノン系のもの、2(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジターシャリーブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’−ターシャリーブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジターシャリーブチルフェニル)−5−クロルベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジターシャリーアミルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−5’−ターシャリーブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2(2’−ヒドロキシ−5’−ターシャリーオクチルフェニル)ベンゾトリアゾール等のベンゾトリアゾール系のもの、2’,4’−ジターシャリーブチルフェニル−3,5−ジターシャリーブチル−4−ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート系のもの、エチル−2−シアノ−3,3−ジフェニルアクリレートなどシアノアクリレート系のもの、p−アミノ安息香酸ブチル等のアミノ安息香酸系等を挙げることができる。これらの中から一種ないし複数選択し混合しても用いることができる。
【0025】
更に、本実施形態の材料組成物には、上記の成分の他に、さらにヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、リン酸エステル系、あるいは硫黄系などの酸化防止剤を添加して耐久性を向上させても良い。
【0026】
また、酸化テルル(IV)粒子(A)と、1分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)と、重合開始剤(C)を含む材料組成物の硬化物において、d線での硬化物の屈折率nd、アッベ数νd、F線とg線の異常分散性をΔθgFとしたとき、
10≦νd≦40 かつ0.01≦ΔθgF≦0.10 とすることができる。
酸化テルル(IV)粒子によって、樹脂成分のみを硬化した場合とは異なる屈折率とアッベ数の関係を実現することが可能となる。
【0027】
ここで、異常分散性の度合いを表す異常分散性ΔθgFの値は、図1に示すように、以下の方法により算出したものである。すなわち、下記の式1により、それぞれの部分分散比θgFを求め、横軸にアッベ数(νd)、縦軸に部分分散比θgFをとり、異常分散性を示さない正常な光学ガラスのうちNSL7(νd=60.5、θgF=0.544)およびPBM2(νd=36.3、θgF=0.583)を基準分散ガラスとして選び、これら2種類の光学ガラスの座標(νd、θgF)を直線で結び、この直線と、比較するガラスのθgFおよびνdを示す座標との縦座標の差(ΔθgF)を異常分散性を示す度合い、すなわち異常分散性とした。
θgF=(ng−nF)/(nF−nc) 式1
(ng:g線に対する屈折率、nF:F線に対する屈折率、nc:C線に対する屈折率である)
【0028】
アッベ数νdが10未満ではC線からF線までの波長範囲で色収差低減の効果が過大になり好ましくない。アッベ数νdが40より大きい場合は、C線からF線までの波長範囲で色収差低減の効果が小さく好ましくない。色収差低減の効果をより得るには、10≦νd≦20が好ましい。
また、異常分散性ΔθgFが上記記載の上限値を超えると、特異な異常分散性を利用した色収差低減の効果が得られなくなる。
い。
【0029】
本実施形態の材料組成物において、有機化合物(B)はビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアネート基、エポキシ基、オキセタン基から選ばれる官能基の少なくとも1つを有することを特徴としている。
これら重合性官能基を有していると、エネルギー硬化型のモノマーは硬化性が良く、実用性が高い。又、種類も豊富で入手も容易である。
また、有機化合物(B)として、異なる有機化合物を配合する場合には、1分子中に1個の重合性官能基を有する有機化合物(B1)と1分子中に2個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B2)を配合しても良い。
【0030】
本実施形態の材料組成物は、その硬化物をレンズ材料として用いる。そのため、有機化合物(B)は、その硬化度、すなわち硬化反応の進み具合を調整するための必須成分である。本実施形態の材料組成物の硬化物は無機粒子を含んでいるため、機械的に脆くなりやすい。そこで、通常の樹脂をレンズ材料として用いる時よりも硬化度、つまりは硬化物の硬さの調整が重要となる。
硬化度が低すぎると、硬化物は柔らかくなり強度が得られず、温湿度の変化により特性が変化してしまい、レンズとしての耐性が得られない。また、硬化度が高すぎると、硬化物は硬く応力が大きくなるため耐性が低下し、温湿度変化によりレンズが割れる等の現象が生じる。又、急激に硬化反応が進んだ場合は光学特性が不均一になるという問題も生じる。
【0031】
硬化度の調整は、硬化速度を調整するのが有効な手法である。有機化合物(B)は、その重合性官能基を介して硬化反応を起こすので、重合性官能基の数によって硬化反応の進み具合を調整でき、得られる硬化物の硬化度を変えることができる。したがって、重合性官能基の数が異なる化合物(B1)、(B2)の比率を変えることで、硬化度の調整が可能となる。
【0032】
上述のように、適切な硬化度を得るためには、重合性官能基の数が異なる有機化合物(B1)と有機化合物(B2)と配合することが好ましい。光学素子として用いるための加工性と耐性を実現する適切な硬化度を得るためには、有機化合物(B1)と化合物(B2)の割合(B1)/(B2)が0.25以上100以下であることが望ましい。100を超えると硬化度が低くなり、0.25未満では硬化度が高くなりすぎる。
更に、有機化合物(B2)は重合性官能基を2個以上有しているため、硬化物の高分子鎖は3次元構造を有している。その為、溶剤に対して溶解し難く、且つ熱による変化も起き難くなり、実用的なレンズ材料としての特性が得られる。
【0033】
また、上記重合性官能基を有する有機化合物(B)は、芳香環、ナフタレン環やアントラセン環などの縮合多環、カルバゾール環、フルオレン環から選ばれる官能基もしくは硫黄元素を含む官能基の少なくとも1つを有する化合物を1種類以上含んでいる。
これらの化学構造および元素を含むことによって、有機化合物自体の屈折率、アッベ数、異常分散性を変化させることが可能となる。
【0034】
所望の屈折率、アッベ数、異常分散性に近い光学特性を有した有機化合物を用いれば、添加する酸化テルル(IV)粒子の添加量を少なく抑えることがきるので、粒子添加に伴う着色を抑えることができる。
【0035】
高屈折率および低アッベ数にするには、芳香環、ナフタレン環やアントラセン環などの縮合多環、カルバゾール環、フルオレン環を有する化合物が有効である。更に、これらの中でもフルオレン環、芳香環の使用は透過率の点で好ましい。有機化合物は通常、屈折率が高くなると紫外域での吸収があり、透過率が低下する傾向にあるが、フルオレン環、芳香環は高屈折率化に効果があるなかでは着色が小さいため、透過率の低下を防ぐことができる。また、高屈折率で高アッベ数にするには、硫黄元素を含む官能基を有する化合物が有効である。具体的には、上記した重合性官能基を有する化合物の中で構造中にベンゼン骨格もしくは硫黄、窒素を有しているものなどを挙げることができる。また、モノマーのまま用いても良いし、オリゴマーとしてから用いても良い。
【0036】
また、本実施形態の材料組成物においては、散乱による透明性低下を防ぐために、有機化合物中に酸化テルル(IV)粒子が凝集することなく存在していることが好ましい。この様な状態にするために、上記成分の他に分散剤を添加してもよい。
【0037】
分散剤や表面修飾剤としては、低異常分散性を有したものを用いることが好ましい。この場合、分散剤や表面修飾剤の低異常分散性は、添加しても本発明の光学用組成物の低異常分散性を保てる特性であることが好ましい。分散剤や表面修飾剤としては、具体的には、水酸基や下記式で表されるような,リン酸エステル、スルホン酸が挙げられる。
O=P(OR)n (OH)m ただしn+m=3
R(SO3H)
ここで、Rは有機基で、アルキル基、ハロゲン化アルキル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン化アリール基、シクロアルキル基、アシル基あるいはエポキシ基含有有機基などである。
【0038】
また、分散剤や表面修飾剤として、芳香環、ナフタレン環やアントラセン環などの縮合多環、カルバゾール環、フルオレン環から選ばれる官能基もしくは硫黄元素を含む官能基を有する化合物を用いても良い。重合性官能基を有する化合物において説明したものと同様にこれらの官能基もしくは元素を化学構造中に有する分散剤や表面修飾剤を用いることで、添加しても所望の屈折率、アッベ数、異常分散性を得ることが可能となる。更に、重合性官能基を有する化合物と同様の構造及び、元素をもつことで重合性官能基を有する化合物への分散性を高めることができるという効果も得ることができる。
【0039】
本実施形態の光学素子では、光学素子が屈折を利用した素子の場合、素子中での光軸方向の最大厚みが20μm以上〜3mm以下であることが好ましい。
素子中での最大厚みが20μm未満のときは、素子中の厚みの差が20μmより小さくなるため、レンズ径にもよるが曲率が非常に大きくなり、光を曲げるパワーが得られなくなる。一方、最大厚みが3mmを超えると、着色によって透過率が低下してしまい光学素子としての使用が難しくなる。
【0040】
以下に図面を参照して複合光学素子の製造方法について説明する。この複合光学素子は、本実施形態の材料組成物を用いて製造されたものである。
図2は、複合光学素子の基板となる光学素子を成形する成形装置の一例を示す図である。
光学素子成形装置1は、筒状の金属製胴型2、所望の光学面3A1を有する金属製の上型3A、所望の光学面3B1を有する金属製の下型3b、上型3Aを上下に駆動するための駆動棒5、下型3Bから硬化した光学素子を離型するための離型筒6を備えており、金属製胴型2の周囲には加熱手段4が配置されている。
【0041】
筒状の金属製胴型2には、重合性組成物を注入するための注入口7と、過剰の重合性組成物を排出するための排出口8が設けられている。駆動棒5は図示しない駆動源によって、金属製胴型2内で上型3Aを上下に摺動する。また離型筒6は金属製胴型2の内周面に接して上下に摺動する。上型3Aおよび下型3Bの各光学面と、金属製胴型2の内周面とで光学素子成形用の成形室9が形成されている。
【0042】
光学素子の成形は以下の手順で行う。金属製の上型3Aと下型3Bを、光学面3A1、3B1が対向するように金属製胴型2内に載置する。この時、上型3Aを、駆動棒5によって第一段階の所定高さに保持する。この第一段階の所定高さは、上型3Aが排出口8より上部に位置する高さである。上型3Aをこの高さに保持することによって、成形室9を形成する。
【0043】
次に熱重合開始剤を含有させた本発明の重合性組成物を、注入口7より注入して成形室9内に充填していく。この時、成形室9内を負圧にしておくと、重合性組成物の注入時における気泡の巻き込みや、成形室内の空気残りを防ぐことができる。また材料組成物を注入しやすい粘度になるように温度調整すると良い。排出口8から重合性組成物があふれ出てきた時点で成形室9内が充填されたものと判断して重合性組成物の注入を停止する。
【0044】
注入口7を塞ぎ、上型3Aを下方に押圧して第二段階の高さにする。このとき、さらに過剰の重合性組成物が排出口8から流出する。次に加熱手段4により加熱して重合性反応によって硬化させる。次いで重合性組成物の硬化にともなう収縮にあわせて、上型3Aを下方にゆっくりと移動させる。収縮に連動させて上型3Aを下降させることで、硬化後の光学素子の内部応力を低減できる。重合性組成物が十分に硬化した後、駆動棒5を上昇させて上型3Aを離型させる。次に離型筒6を上に移動させて、下型3Bから硬化物を離型させる。このようにして重合性組成物の硬化物を、所望の形状を有する光学素子として取り出すことができる。
【0045】
なお、図2において、光学面3A1、3B1がいずれも球面であれば球面レンズが、光学面3A1、3B1のいずれかあるいは両方が非球面であれば非球面レンズが、光学面3A1、3B1のいずれかあるいは両方が回折面であれば回折レンズが、光学素子として製造できる。
【0046】
また、複合光学素子は、先に硬化した上記の光学素子が繰り返し単位に硫黄を有する硬化物である場合には、繰り返し単位にベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環の少なくも一種の環構造を有する単一の硬化物を形成する重合性組成物を、上記の光学素子の表面に載置した状態で硬化させて、光学素子と当該重合性組成物とを積層させることによって製造することができる。
また、先に作製した光学素子が繰り返し単位にベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環の少なくとも一種の環構造を有する単一の合成樹脂あるいはこれらの複数種を含む硬化物である場合には、繰り返し単位に硫黄を有する硬化物を形成する重合性組成物を用いて同様に複合素子を作製することができる。
複合光学素子は、異種の硬化物の界面が、球面、非球面、自由曲面あるいは回折面である複合光学素子となる。
【0047】
また、先に硬化した光学素子の表面に所望の組成の重合性組成物を塗布等の方法によって載置し、所望の形になるようにその上面に型を接触させる。この際に用いる型は、金属製でもガラス製でも良いが、先に硬化した光学素子の反対面から紫外線を照射して当該重合性組成物を硬化させる場合は、ガラス製の型を用いる。また、金属製の型を用いた場合は、先に硬化した光学素子の側から紫外線を照射し前記重合性組成物を硬化させる。
【0048】
このような方法により、例えば、図3のような複合光学素子を製造することができる。図3で示す複合光学素子10は、先に作製した光学素子11が繰り返し単位に硫黄を含む合成樹脂である場合には、その表面の硬化物13として、繰り返し単位にベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環のいずれかの環構造を有する単一の合成樹脂を積層させることによって製造することができる。
また、先に作製した光学素子11が繰り返し単位にベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環の少なくともいずれかの環構造を有する単一の合成樹脂あるいはこれらの複数種を含む場合には、その表面に繰り返し単位に硫黄を含む硬化物13が一体に形成されている。
【0049】
以下、複合光学素子の製造方法について説明する。
図4は、複合型光学素子の製造装置の一例を説明する図であり、光軸から左側は断面を示す。複合型光学素子の製造装置20は、支持枠(図示しない)、支持台21、受け部22および保持筒23を備えている。支持台21は、支持枠により支持されている。受け部22は筒状の形状であって、支持台21に取り付けられている。受け部22には軸受け24が設けられている。
【0050】
保持筒23は、この軸受24を介して受け部22に取り付けられており、保持筒23は、この軸受24の作用によって受け部22に対して回転自在になっている。また、保持筒23には、その内周上部に、光学基材11の外縁部を受ける環状の係合縁25が設けられている。また、保持筒23の下部には、プーリ26が一体に形成されている。
【0051】
一方、支持台21の下側には、モータ27が固定されている。モータ27の駆動軸28には、プーリ29が取り付けられている。そして、プーリ29とプーリ26の間にベルト30が巻き掛けられている。これらにより、保持筒23を回転する回転機構を構成している。
なお、軸受24は、それぞれ押さえリング31、32によって固定されている。すなわち、押さえリング31は受け部22のねじ部22aに、また押さえリング32は、保持筒23のねじ部23aにそれぞれ螺合している。これにより、受け部22と保持筒23の間に、軸受24を固定することができる。
【0052】
また、前記支持台21の上方には、支持手段35が設けられている。支持手段35は、上部金型3を上下動して、上部金型3を所望の位置に支持する支持手段35の支持柱36は支持台21の上面に固定されており、支持柱36にはシリンダ37が設けられている。
そして、シリンダ37にはシリンダロッド38が取り付けられている。さらに、シリンダロッド38の先端には、上部金型3が取り付けられている。
【0053】
また、保持筒23の係合縁25に光学基材11を載置した状態で、光学基材11の光軸39と上部金型3の軸が一致するように、上部金型3が支持されている。
以上に説明した複合型光学素子の製造装置を使用した複合型光学素子の製造方法を説明する。
【0054】
所望の光学特性を有するレンズからなる光学基材11を、保持筒23の係合縁25によって位置決めされるように載置する。なお、光学基材11の表面11aの組成物形成面には、組成物とガラス製の光学基材との密着性を向上させるためのカップリング処理を施しても良い。次いで、光学基材11の表面11aに、組成物12を吐出手段(図示しない)によって所要量吐出する。
次に、シリンダ35を作動させて、上型3を下降させて、上型3の光学面3aを、光学基材11の表面11aに吐出された光学用組成物12に当接させる。さらに下降を続けることで、組成物12は所定の形状に展延される。
所定の形状まで展延する前に、上型3の下降を停止させる。この状態で、モータ27を作動させて保持筒23を回転させることによって、光学基材11を少なくとも1回転させる。
【0055】
図5は、組成物12の展延状態を示す図である。光学基材11の表面11aに載せられた組成物12に、光学基材11の光軸39と上型3の軸が一致するように上型3を押し当てて、光学基材11側を少なくとも1回転させる。このようにするとで、組成物12は光学基材11の表面11aと上型3との間の空間を均一に延びて組成物層が形成される。
その後、再びシリンダ37を作動させて、再び上型3を下降させる。そして、組成物12の層が所望の厚みと直径に達したところで、すなわち所定の形状となったところで、上型3の下降を停止し、光学基材11の下側から紫外線照射装置(図示しない)にて紫外線を照射する。
【0056】
その結果、上型3と光学基材11の間にある組成物が硬化し、組成物の硬化物13を光学基材11の表面11aに一体に形成することができる。このとき、組成物の硬化物13の表面には、上型3の光学面3aが転写された光学面が形成される。そして、組成物の硬化物13の表面から上型3の光学面3aから硬化物を離型することにより、所望の形状を有する複合型光学素子を得ることができる。
以下に,実施例、比較例を示して本発明を説明する。
【実施例】
【0057】
実施例1
(組成物の調製)
重合性官能基を有する有機化合物(B)1−アクリロキシ−4−メトキシナフタレン100g、重合開始剤(C)イルガキュア819(チバ・ジャパン株式会社製)0.2gを混合して50℃において30分間攪拌し樹脂溶液を調製した。
次いで、平均粒径10nmの酸化テルル(IV)を成分(A)として、成分(A)が、成分(A)、成分(B)および成分(C)の合計量に対して、1,10,30,50質量%となるように成分(A)を添加し、30℃に保持した状態で湿式ビーズミルを用いて溶液内に分散させ、酸化テルル(IV)粒子の濃度が異なる4種の組成物を調製した。
【0058】
(硬化物の作製)
組成物を直径20mmで厚さ1mmの大きさに成形し、波長405nmにおける紫外線を照度100mW/cm2 で100秒間照射し、更に80℃で1時間加熱し、硬化物を作製した。
得られた硬化物について、屈折率、透過率を測定し、アッベ数νd、部分分散比θgFおよび異常分散性ΔθgFを以下の方法により求めた。その結果を表1に示す。
【0059】
(1)屈折率の測定
厚さ1mmの硬化物のd線、C線、F線、g線における屈折率を精密屈折率計KPR−200(島津デバイス製造)を用いて測定した。測定環境は20℃60%RHに設定した。
(2)アッベ数νdの算出
測定して得られたd線、C線、F線、g線に対する屈折率をそれぞれ、nd、nC、nF、ngとするとき、アッベ数νdは以下の式2から計算した。
νd=(nd−1)/(nF−nC) … 式2
【0060】
(3)部分分散比θgFの算出
測定して得られたd線、C線、F線、g線に対する屈折率をそれぞれ、nd、
nC、nF、ngとするとき、部分分散比θgFは以下の式3から計算した。
θgF=(ng−nF)/(nF−nC) … 式3
【0061】
(4)異常分散性ΔθgFの算出
上記式2および式3により、それぞれの硬化物のアッベ数νd、部分分散比θgFを求め、横軸にアッベ数νd、縦軸に部分分散比θgFをとり、異常分散性を示さない正常な光学ガラスのうちNSL7(νd=60.5、θgF=0.544)およびPBM2(νd=36.3、θgF=0.583)を基準分散ガラスとして選び、これら2種類の光学ガラスの座標(νd、θgF)を直線で結び、この直線と比較する硬化物のθgFおよびνdを示す座標との縦座標の差(ΔθgF)を異常分散性とした。
【0062】
すなわち、基準分散ガラス2種を結ぶ直線の関係は、アッベ数νd0と部分分散比θgF0とすると式4で示される。式2から求めた硬化物のアッベ数をνd、式3から求めた硬化物の部分分散比をθgFとすると、異常分散性ΔθgFは式5から計算した。
θgF0=−0.0149×νd0+0.637 … 式4
ΔθgF=θgF−θgF0
=θgF−(−0.0149×νd+0.637)… 式5
得られた屈折率、アッベ数、θgF、ΔθgFを表1に示すと共に、図6に示す。
【0063】
(複合型光学素子の作製)
本発明の組成物とBK7(SCH00T製)ガラスからなる基材を図4に示した成形装置を用いて、図3に示すような形状の複合型光学素子を作製した。いずれの場合も波長400nmの紫外線を照射強度100mW/cm2 で100秒間照射して硬化を行った。
本発明の組成物の粘度が高い場合、若しくは固体の場合、適宜50〜70℃の加温を行った。硬化後、80℃で1時間加熱して、図3に示す形状の複合型光学素子を作製した。
【0064】
図3において、基材のガラスレンズは曲率半径R1=16mm、曲率半径R2=16mm、L1=20mm、L3=5mmである。この基材上に曲率半径R3=26mm、口径L2=16mmとなるように複合型光学素子を作製した。作製した複合型光学素子について、加工性を以下の方法で評価し、その結果を表2に示す。
【0065】
(5)加工性の評価
作製した複合型光学素子のうち、光学用組成物が硬化した面について測定を行った。測定は接触式の表面形状測定器フォームタリサーフ PGIプラス(テイラーホブソン製)を用い、硬化面の曲率半径を測定し、目標とした曲率半径R3に対しての変形量を求めた。変形量が±2μm以内であれば「良好」、それ以上の場合は「不良」とした。
【0066】
(6)耐性の評価
作製した複合型光学素子に、1周期の時間が3時間で、その間の温度変化が−40℃から+80℃となる温度サイクルを10周期分加えて、温度変化に対する試験を行って耐性の評価を行った。
温度サイクルは図7に示すように、1周期における温度と時間は、+20℃で30分、−40℃で60分、+20℃で30分、+80℃で60分と変化する。温度サイクル後の組成物の硬化物にクラックや変形が起きていなければ「良好」、クラックや変形が起きていれば「不良」とした。
【0067】
実施例2
実施例1における重合性官能基を有する有機化合物(B)を、表1に記載のように、9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンとし、また重合開始剤である成分(C)をイルガキュア1700(チバ・ジャパン株式会社製)とした点を除き実施例1と同様にして光学用組成物を調製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0068】
実施例3
実施例1の重合性官能基を有する有機化合物(B)をジメチロールトリシクロデカンジアクリレートとし、配合比率を表1に記載のようにし、また重合開始剤である成分(C)イルガキュア1700(チバ・ジャパン株式会社製)の配合比率を表1に記載のようにした以外は実施例1と同様にして光学用組成物を調製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0069】
実施例4
実施例1の重合性官能基を有する有機化合物(B)を、N−アリルカルバゾールと9,9−ビス[4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル]フルオレンとし、配合比率を表1に記載のように変えた以外は実施例1と同様にして光学用組成物を調製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0070】
実施例5
実施例1の重合性官能基を有する有機化合物(B)として1−アクリロキシ−4−メトキシナフタレンに加えてジメチロールトリシクロデカンジアクリレートを用い、配合比率を表1に記載のようにするとともに、重合開始剤である成分(C)イルガキュア1700(チバ・ジャパン株式会社製)の配合比率を表1に記載のようにした以外は実施例1と同様にして光学用組成物を調製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0071】
実施例6
実施例5の重合性官能基を有する有機化合物(B)および重合開始剤(C)の配合比率を表1に記載のように変えた点を除き実施例1と同様にして光学用組成物を調製し、実施例1と同様の評価を行い、その結果を表2に示す。
【0072】
比較例1
成分(A)の酸化テルル(IV)を配合せず、実施例1の重合性官能基を有する有機化合物(B)をジメチロールトリシクロデカンジアクリレートとし、重合性官能基を有する有機化合物(B)および重合開始剤(C)の配合比率を表1に記載のように変えた点を除き実施例1と同様にして光学用組成物を調製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0073】
比較例2
実施例1の重合性官能基を有する有機化合物(B)を1−アクリロキシ−メトキシ−メトキシナフタレンとし、成分(A)の酸化テルル(IV)、重合性官能基を有する有機化合物(B)、および重合開始剤(C)の配合比率を表1に記載のように変更し、実施例1と同様にして光学用組成物を調製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0074】
比較例3
実施例1の重合性官能基を有する有機化合物(B)を、1−アクリロキシ−メトキシ−メトキシナフタレンとジメチロールトリシクロデカンジアクリレートとし、成分(A)、重合性官能基を有する有機化合物(B)、および重合開始剤(C)の配合比率を表1に記載のように変更し、実施例1と同様にして光学用組成物を調製し、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0075】
表2に示すように本発明の各実施例の光学用組成物の硬化物の屈折率nd、アッベ数νdおよび異常分散性ΔθgFは、いずれも好ましい範囲に入っており、色収差を効果的に低減ができる異常分散性を示す光学用組成物を提供することができる。
また、本発明の有機成分を配合した光学用組成物を用いた光学素子は、加工性、耐性が良好であった。
【0076】
また、重合性官能基を有する有機化合物(B)の種類、重合開始剤(C)の配合量により加工性を調整することができる。また、酸化テルル(IV)の量が広範囲の配合量において異常分散性を発現している。
また、重合性官能基を有する有機化合物(B)として、ナフタレン環、フルオレン、カルバゾール構造を含む化合物を用いると高屈折率であって、所望の異常分散性を有する光
学素子を提供することができる。
【0077】
一方、比較例1、2は、着色に問題がありレンズ材料としては実用性が悪いことがわかった。
比較例3は、着色と加工性に問題がありレンズ材料としては実用性が悪いことがわかった。
【0078】
【表1】

【0079】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明のように、酸化テルル(IV)粒子を、分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物、および重合開始剤を配合した光学用材料組成物であるので、屈折率が高く、合成樹脂のみでは実現できない色収差補正が可能な特異な異常分散性を有し、加工性、透明性、加工性、耐性に優れた光学素子を得ることができる。
【符号の説明】
【0081】
1…複合光学素子成形装置、2…金属製胴型、3A…上型、3B…下型、3A1…光学面、3B1…光学面、4…加熱手段、5…駆動棒、6…離型筒、7…注入口、8…排出口、9…成形室、10…複合光学素子、11…光学素子、11A…表面、12…重合性組成物、13…硬化物、21…支持台、23…保持筒、25…係合縁、27…モータ、35…支持手段、36…支持柱、37…シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化テルル(IV)粒子(A)1質量%以上50質量%以下と、1分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)50質量%以上99質量%以下と、重合開始剤(C)0.1質量%以上5質量%以下を含むことを特徴とする材料組成物。
【請求項2】
酸化テルル(IV)粒子(A)と、1分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)と、重合開始剤(C)を含む材料組成物の硬化物において、d線での硬化物の屈折率nd、アッベ数νd、F線とg線の異常分散性をΔθgFとしたとき、
10≦νd≦40 かつ0.01≦ΔθgF≦0.10
であることを特徴とする材料組成物。
【請求項3】
有機化合物(B)はビニル基、アクリロイル基、メタクリロイル基、イソシアネート基、エポキシ基、オキセタン基から選ばれる官能基の少なくとも1つを有することを特徴とする請求項1または2記載の材料組成物。
【請求項4】
有機化合物(B)は1分子中に1個の重合性官能基を有する有機化合物(B1)と1分子中に2個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B2)からなり、質量比(B1)/(B2)が0.25以上100以下であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の材料組成物。
【請求項5】
有機化合物(B)は芳香環、ナフタレン環やアントラセン環などの縮合多環、カルバゾール環、フルオレン環、チイラン環から選ばれる官能基の少なくとも1つを有する化合物を1種類以上含むことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の材料組成物。
【請求項6】
酸化テルル(IV)粒子(A)1質量%以上50質量%以下と、1分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)50質量%以上99質量%以下と、重合開始剤(C)0.1質量%以上5質量%以下である材料組成物の硬化物からなることを特徴とする光学素子。
【請求項7】
酸化テルル(IV)粒子(A)と、1分子中に1個以上の重合性官能基を有する有機化合物(B)と、重合開始剤(C)を含む材料組成物の硬化物において、d線での硬化物の屈折率nd、アッベ数νd、F線とg線の異常分散性をΔθgFとしたとき、
10≦νd≦40 かつ0.01≦ΔθgF≦0.10
である材料組成物の硬化物からなることを特徴とする光学素子。
【請求項8】
前記光学素子が光学基材の表面に、光硬化によって光学用の材料組成物の硬化物を積層した複合型光学素子であることを特徴とする請求項6または7のいずれか1項に記載の光学素子。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−6504(P2011−6504A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−148410(P2009−148410)
【出願日】平成21年6月23日(2009.6.23)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】