説明

材料組成物およびそれを用いた光学素子

【課題】高屈折率であり、温度変化に対して優れた特性を有する材料を提供する。
【解決手段】(A)N−アクリロイルカルバゾール60〜90質量%と、(B)化学式1、または、特定のビフェニル構造を有する化合物の少なくとも一種、5〜30質量%と、(C)3個以上のラジカル重合性官能基を有する化合物5〜25質量%を含有する材料。


R1は、水素またはメチル基を表し、Aは、直接結合または炭素数1以上3以下のアルキレン基。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子を形成するのに適した重合性の材料組成物およびその材料組成物を用いた光学素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ、ビデオカメラあるいはカメラ付携帯電話、テレビ電話あるいはカメラ付ドアホンなど用いられる撮像モジュールでは光学系の小型軽量、低コスト化が大きな課題となっている。そこでこれらの光学系では高屈折率の材料組成物を光学材料に用いて光学素子を作製することが提案されている。
【0003】
例えば、カルバゾール骨格を有するラジカル重合性化合物をモノマー成分に有するポリマーと、芳香環を有するラジカル反応性モノマーを含む硬化性材料組成物が提案されている(例えば特許文献1参照)。
しかし、これらの材料組成物のD線における屈折率nDは1.61程度であり、屈折率は十分なものではなかった。さらに、ガラス転移温度も50〜80℃程度であり、温度変化に対する特性や高温耐性も光学素子へ適用するには十分なものではなかった。
【0004】
また、特定のカルバゾール誘導体と1分子中に2個以上の重合性ビニル基を有する化合物を含有する光学素子用重合性組成物が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
この材料組成物は、D線における屈折率nDは1.66程度と高屈折率であり、充分な屈折率を有するものの、材料組成物をガラス基材に積層して複合光学素子とした場合において、温度変化によって光学面の面形状が変形してしまい、光学素子として使用した際の撮像性能に悪影響を及ぼす問題があった。
【0005】
また、高屈折率の光学樹脂を光学基材上に積層した各種の複合型光学素子が提案されている。例えば、N−アクリロイルカルバゾールと多官能ポリエステルアクリレートおよびジメチロールトリシクロデカンジアクリレートを含む光学樹脂用組成物が提案されている(例えば、特許得文献3参照)。しかしながら、温度変化に対する耐性や高温耐性も光学素子へ適用するのに十分なものであったが、d線における屈折率ndは1.65程度であり、屈折率が十分なものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−51972号公報
【特許文献2】特開2003−40940号公報
【特許文献3】特開2008−158361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、高屈折率であるとともに、温度変化に対して優れた特性を有する材料組成物およびこれを用いた光学素子を提供することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、成分(A)N−アクリロイルカルバゾール60〜90質量%と、成分(B)化学式1で示すフルオレンアクリレート、または化学式2で示すビフェニル構造を有する重合性化合物の少なくともいずれか一種を5〜30質量%と、成分(C)3個以上のラジカル重合性官能基を有する重合性化合物5〜25質量%を含有する材料組成物によって解決することができる。
【0009】
【化1】

R1は、水素またはメチル基を表し、Aは、直接結合または炭素数1以上3以下のアルキレン基を表す。
【0010】
【化2】

ただし、R3はラジカル重合性官能基、R4は水素、アルキル基、またはラジカル重合性官能基を表す。
【0011】
また、前記の材料組成物100質量部に対して、さらに成分(D)重合開始剤0.1〜5質量部を含有する前記の材料組成物である。
また、前記化学式2記載の構造を有する重合性化合物が、ジフェン酸ジアリル、2−フェニルフェニル(メタ)アクリレート、2−フェニルフェニル(メタ)アクリレートのエチレンオキシド付加物から選ばれる前記の材料組成物である。
前記3個以上のラジカル重合性官能基を有する重合性化合物が、ポリエステルアクリレートである前記の材料組成物である。
【0012】
また、前記の材料組成物の硬化物からなることを特徴とする光学素子である。
光学基材の表面に前記の材料組成物の硬化物を積層した複合型光学素子である。
す。
【発明の効果】
【0013】
本発明の材料組成物によって、高屈折率であって、温度変化特性に優れた、光学素子に有用な材料組成物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の材料組成物を重合させた硬化物のみから構成される光学素子を成形に用いる成形装置の一例を示す図である。
【図2】複合型光学素子の一例を示す図である。
【図3】複合型光学素子の製造装置の一例を示す図である。
【図4】本発明の材料組成物の展延状態を示す図である。
【図5】作製した複合型光学素子の温度サイクル試験を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、成分(A)N−アクリロイルカルバゾール60〜90質量%と、成分(B)化学式1で示すフルオレンアクリレート、または化学式2で示すビフェニル構造を有する重合性化合物の少なくともいずれか一種を5〜30質量%と、成分(C)3個以上のラジカル重合性官能基を有する重合性化合物5〜25質量%を含有する材料組成物からは、高屈折率高分散であり、温度変化に対する特性に優れる光学素子が得られることを見出したものである。
【0016】
成分(A)N−アクリロイルカルバゾールは、硬化物は屈折率が高くアッベ数が小さいという光学特性を有し高屈折率高分散の材料組成物を作製するのに有用な成分である。しかし、光学素子に加工する工程の雰囲気温度である室温付近では固体であり単独では光学素子に加工できない。また単独の硬化物では脆く、温度変化に対する耐性が低い傾向がある。
そこで、成分(B)として化学式1で示す化学式1で示すフルオレンアクリレート、あるいは化学式2で示すビフェニル構造を有する重合性化合物の少なくともいずれか一種と、成分(C)として3個以上のラジカル重合性官能基を有する重合性化合物を加えることによって特性の改善を行うものである。
【0017】
本発明の材料組成物において、成分(A)の含有量は60〜90質量%が好ましい。60質量%未満では十分な高屈折率を得ることが難しく、90質量%より多いと材料組成物が脆くなりやすく温度変化に対する特性が低下してしまう。
また、化学式1の構造を有する重合性化合物、化学式2の構造を有する重合性化合物は、材料組成物を常温において液状とすることに寄与する成分であるとともに、温度変化に対して光学面の面形状保持に有効な成分である。したがって、これらの成分を配合した材料組成物を用いることによって光学素子の製造を容易に行うことができるとともに、温度変化に対する特性が良好な光学素子を得ることが可能となる。
【0018】
また、化学式1で示すフルオレンアクリレートは、分子内にフルオレン骨格と重合性官能基であるアクリロイル基あるいはメタクリロイル基を有する化合物である。式中R1は水素またはメチル基を、Aは、直接結合または炭素数1以上3以下のアルキレン基を表す。本化合物はその硬化物の屈折率が高くアッベ数が小さく高屈折率、高分散の材料組成物を作るのに有用な成分である。特に9,9−ビス(4−(2−アクリロイルオキシエトキシ)フェニル)フルオレンなどビスフェニル構造のフルオレン化合物と比較して、より屈折率が高く、また加工時の粘度が低いので加工性に優れる利点がある。
また、Aが直接結合であるフルオレニル(メタ)アクリレートは屈折率が高く、nが1から3に増えるにしたがって屈折率は低下する一方で柔軟性が増加し、温度変化に対する温度サイクル特性が向上する。
高屈折率と温度サイクル特性の両者を満たすためには、n=1または2が好ましい。
【0019】
【化3】

また、R1は、水素またはメチル基を表し、Aは、直接結合または炭素数1以上3以下のアルキレン基を表す。
【0020】
また、下記化学式2記載の構造を有する重合性化合物は、分子内にビフェニル骨格と少なくとも1つ以上のラジカル重合性官能基を有する化合物である。式中R3はラジカル重合性官能基、R4は水素またはアルキル基またはラジカル重合性官能基を示す。本化合物はその硬化物の屈折率が高くアッベ数が小さく高屈折率高分散の材料組成物を作るのに有用な成分である。具体的には、ジフェン酸ジアリル、2−フェニルフェニル(メタ)アクリレート、2−フェニルフェニル(メタ)アクリレートのエチレンオキシド付加物などを挙げることができる。
温度サイクル特性向上の観点からはジフェン酸ジアリルを用いることが特に好ましい。
【0021】
【化4】

(ただし、R3はラジカル重合性官能基、R4は水素またはアルキル基またはラジカル重合性官能基を示す。)
【0022】
化学式1記載のフルオレン骨格を有する重合性化合物と、化学式2記載のビフェニル骨格を有する重合性化合物は、それぞれ単独で材料組成物に混合しても、両者を任意の割合で混合して用いても良い。
また、材料組成物中の成分(B)としての両者の含有量は5〜30質量%が好ましい。5質量%未満では硬化物として高屈折率の硬化物を得ることが困難となり、硬化物が脆くなってしまう。また、成分(B)が30質量%より多いと金型からの硬化物の離型が困難となるうえ、材料組成物の硬化性が悪くなり、面形状の良い光学素子を得ることができなくなる。
【0023】
さらに成分(C)3個以上のラジカル重合性官能基を有する重合性化合物は、温度サイクル特性および耐熱性の向上に寄与する成分である。ラジカル重合性官能基としてはビニル基、アリル基、アクリロイル基およびメタクリロイル基などを挙げることができる。
3個以上のラジカル重合性官能基を有する重合性化合物としては、トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチルプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、多官能ポリエステル(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。屈折率と温度サイクル特性向上の観点からは多官能ポリエステルアクリレートが特に好ましい。
具体的には、アロニックスM7300K(東亞合成製)を挙げることができる。
【0024】
3個以上のラジカル重合性官能基を有する重合性化合物は、温度サイクル特性および耐熱性を向上させるために必要な成分であるが、屈折率が低く高屈折率高分散の材料組成物を作るにはその含有量を低く抑える必要がある。そこで3個以上のラジカル重合性官能基を有する重合性化合物の含有量は5〜25質量%が好ましい。5質量%未満では温度サイクル特性あるいは耐熱性が低下する。25質量%より多いと高屈折率な材料組成物および光学素子を得ることが困難となる。
【0025】
本発明の材料組成物は、成分(A)、成分(B)、成分(C)に加えて(D)重合開始剤を含有しても良い。(D)重合開始剤を配合しない場合にも、本発明の材料組成物は、X線、電子線等の高エネルギーの放射線エネルギーや、熱エネルギーを付与することによって硬化が可能となる。
配合する(D)重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤を挙げることができる。光重合開始剤を用いると、比較的短時間の紫外光照射によって硬化が可能であるので面精度を確保しやすいため好ましい。
【0026】
光重合開始剤としては4−ジメチルアミノ安息香酸、4−ジメチルアミノ安息香酸エステル、アルコキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノンおよびベンゾフェノン誘導体、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4−ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジル及びベンジル誘導体、ベンゾイン及びベンゾイン誘導体、ベンゾインアルキルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、チオキサントン及びチオキサントン誘導体、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、トリメチルベンゾイル−ジフェニル−ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキシド等を挙げることができる。これらの重合開始剤は1種を用いても、複数種を組合せて用いても良い。
【0027】
これらの中でも、材料組成物の十分な硬化性と透明性を実現するためには、2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシドが特に好ましい。
また、(D)重合開始剤の含有量は、前記の材料組成物100質量部に対して0.1〜5質量部が好ましい。0.1質量部未満では十分な硬化性を有する材料組成物が得られず、硬化度の低い硬化物になる問題がある。 一方、5質量部を超えると硬化物の透明性が低下したり、耐光性が低下したりする問題がある。
【0028】
さらに本発明の材料組成物は、ヒンダードフェノール系、ヒンダードアミン系、リン酸エステル系、硫黄系などの紫外線吸収剤を含有してもよい。本発明の材料組成物に紫外線吸収剤を含有することで、材料組成物の硬化物において紫外線に対する耐久性を更に向上させることができる。
本発明の光学素子は、上記材料組成物を重合させて得られる硬化物のみから構成される光学素子、あるいは透明な光学基材の表面に上記材料組成物の硬化物を積層した複合型光学素子である。これらの光学素子の製造方法としては、例えば次の方法が挙げられる。
【0029】
以下に図面を参照して本発明の光学素子、および複合型光学素子について説明する。
図1は、本発明の光学素子を成形する成形装置の一例を示す図である。
なお、本発明の光学素子は、上述のように、本発明の光学用の材料組成物を重合させた硬化物のみから構成される光学素子である。光学素子成形装置1は、筒状の金属製胴型2、所望の光学面3aを有する金属製の上型3、所望の光学面4aを有し、紫外線を透過するガラスからなる下型4、上型3を上下に駆動するための駆動ロッド5、下型4から硬化した光学素子を離型するための離型筒6を備えている。筒状の金属製胴型2には、材料組成物を注入するための注入口7と、過剰の材料組成物を排出するための排出口8が設けられている。
【0030】
駆動ロッド5は図示しない駆動源によって、金属製胴型2内で上型3を上下に摺動する。また離型筒6は金属製胴型2の内周面に接して上下に摺動する。上型3および下型4の各光学面と、金属製胴型2の内周面とで光学素子成形用の成形室9が形成されている。
光学素子の成形は以下の手順で行う。金属製の上型3とガラス製の下型4を、光学面3a、4aが対向するように金属製胴型2内に載置する。この時、上型3を、駆動ロッド5によって第一段階の所定高さに保持する。この第一段階の所定高さは、上型3が排出口8より上部に位置する高さである。上型3をこの高さに保持することによって、成形室9を形成する。
【0031】
次に光重合開始剤を含有させた本発明の材料組成物を、注入口7より注入して成形室9内に充填していく。この時、成形室9内を負圧にしておくと、材料組成物の注入時における気泡の巻き込みや、成形室内の空気残りを防ぐことができる。排出口8から材料組成物があふれ出てきた時点で成形室9内が充填されたものと判断して、材料組成物の注入を停止する。
注入口7を塞ぎ、上型3を下方に押圧して第二段階の高さにする。このとき、さらに過剰の材料組成物が排出口8から流出する。次に下型4の下方より、紫外線を照射し材料組成物を硬化させる。なお、紫外線照射装置は離型筒6の下方に配置されているが、図示を省略している。材料組成物の硬化に伴う収縮にあわせて、上型3を下方に徐々に移動させる。収縮に連動させて上型3を下降させることで、硬化後の光学素子の内部応力を低減できる。材料組成物が十分に硬化した後、駆動ロッド5を上昇させて上型3を離型させる。次に離型筒6を上に移動させて、下型4から硬化物を離型させる。このようにして材料組成物からなる硬化物を、所望の形状を有する光学素子として取り出すことができる。
【0032】
なお、図1において、光学面3a、4aがいずれも球面であれば球面レンズが、光学面3a、4aのいずれかあるいは両方が非球面であれば非球面レンズが、光学面3a、4aのいずれかあるいは両方が回折面であれば回折レンズがそれぞれ、光学素子として製造できる。
【0033】
また、本発明の複合型光学素子は、上記の材料組成物を光学基材の表面に載せた状態で硬化させて、光学基材と当該材料組成物の硬化物とを積層させることによって製造することができる。
この複合型光学素子は、光学基材と材料組成物の硬化物の界面が、球面、非球面、自由曲面あるいは回折面である複合型光学素子となる。複合型光学素子に用いる光学基材としては、所望の形状に加工するときに欠け、表面変色、失透やあるいは濁り等の問題が起きない通常の光学用ガラス、光学用樹脂あるいは透明セラミックスを用いることができる。光学用ガラスとしては、石英、BK7(SCHOTT)、BACD11(HOYA)、S−BAL42、S−LAH53(オハラ社)等を挙げることができる。光学用樹脂としては非晶質ポリオレフィンであるゼオネックス(日本ゼオン)、アートン(JSR)、アペル(三井化学)等、アクリル樹脂であるアクリペット(三菱レイヨン)、デルペット(旭化成)等を挙げることができる。
【0034】
光学基材の表面に本発明の材料組成物を充填し、所望の形になるようにその上面に型を接触させる。この際に用いる型は、金属製でもガラス製でも良いが、光学基材の反対面から紫外線を照射して当該材料組成物を硬化させる場合は、ガラス製の型を用いる。また、金属製の型を用いた場合は、光学基材の側から紫外線を照射して材料組成物を硬化させる。
このような方法により、例えば、図2のような複合型光学素子を製造することができる。図2で示す複合型光学素子10は、光学基材11の表面に材料組成物の硬化物13が一体に形成されている。
【0035】
図3は、複合型光学素子の製造装置の一例を説明する図であり、光軸から左側は断面を示す。複合型光学素子の製造装置20は、支持枠(図示しない)、支持台21、受け部22および保持筒23を備えている。支持台21は、支持枠により支持されている。受け部22は筒状の形状であって、支持台21に取り付けられている。受け部22には、軸受け24が設けられている。
【0036】
保持筒23は、この軸受24を介して受け部22に取り付けられており、保持筒23は、この軸受24の作用によって受け部22に対して回転自在になっている。また、保持筒23には、その内周上部に、光学基材11の外縁部を受ける環状の係合縁25が設けられている。また、保持筒23の下部には、プーリ26が−体に形成されている。
一方、支持台21の下側には、モータ27が固定されている。モータ27の駆動軸28には、プーリ29が取り付けられている。そして、プーリ29とプーリ26の間にベルト30が巻き掛けられている。これらにより、保持筒23を回転する回転機構を構成している。
【0037】
なお、軸受24は、それぞれ押さえリング31、32によって固定されている。すなわち、押さえリング31は受け部22のねじ部22aに、また押さえリング32は、保持筒23のねじ部23aにそれぞれ螺合している。これにより、受け部22と保持筒23の間に、軸受24を固定することができる。
また、前記支持台21の上方には、支持手段35が設けられている。支持手段35は、上部金型3を上下動して、上部金型3を所望の位置に支持する支持手段35の支持柱36は支持台21の上面に固定されており、支持柱36にはシリンダ37が設けられている。
そして、シリンダ37にはシリンダロッド38が取り付けられている。さらに、シリンダロッド38の先端には、上部金型3が取り付けられている。
また、保持筒23の係合縁25に光学基材11を載置した状態で、光学基材11の光軸39と上部金型3の軸が一致するように、上部金型3が支持されている。
【0038】
以上に説明した複合型光学素子の製造装置を使用した複合型光学素子の製造方法を説明する。
所望の光学特性を有するレンズからなる光学基材11を、保持筒23の係合縁25によって位置決めされるように載置する。なお、光学基材11の表面11aの材料組成物形成面には、材料組成物とガラス製の光学基材との密着性を向上させるためのカップリング処理を施しても良い。次いで、光学基材11の表面11aに、材料組成物12を吐出手段(図示しない)によって所要量吐出する。
【0039】
次に、シリンダ35を作動させて、上型3を下降させて、上型3の光学面3aを、光学基材11の表面11aに吐出された材料組成物12に当接させる。さらに下降を続けることで、材料組成物12は所定の形状に展延される。
所定の形状まで展延する前に、上型3の下降を停止させる。この状態で、モータ27を作動させて保持筒23を回転させることによって、光学基材11を少なくとも1回転させる。
【0040】
図4は、材料組成物12の展延状態を示す図である。光学基材11の表面11aに載せられた材料組成物12に、光学基材11の光軸39と上型3の軸が一致するように上型3を押し当てて、光学基材11側を少なくとも1回転させる。このようにすることで、材料組成物12は光学基材11の表面11aと上型3との間の空間を均一に延びて材料組成物層が形成される。
その後、再びシリンダ37を作動させて、再び上型3を下降させる。そして、材料組成物12の層が所望の厚みと直径に達して所定の形状となったところで、上型3の下降を停止し、光学基材11の下側から紫外線照射装置(図示しない)にて紫外線を照射する。
その結果、上型3と光学基材11の間にある材料組成物が硬化し、材料組成物の硬化物13を光学基材11の表面11aに一体に形成することができる。このとき、材料組成物の硬化物13の表面には、上型3の光学面3aが転写された光学面が形成される。そして、材料組成物の硬化物13の表面から上型3の光学面3aから硬化物を離型することにより、所望の形状を有する複合型光学素子を得ることができる。
【実施例】
【0041】
実施例1
材料組成物の調製
成分(A):N−アクリロイルカルバゾール(DIC製)65質量部、成分(B):ジフェン酸ジアリル(日本蒸溜工業製)30質量部、成分(C)多官能ポリエステルアクリレート(東亞合成製アロニックスM−7300K)5質量部を混合し、60℃で加熱溶解して撹拌し、更にこれら100質量部に対して重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルフェニルホスフィンオキシド0.5質量部を混合して均質な混合物の材料組成物1を調製した。
【0042】
(硬化物の作製)
得られた材料組成物1を、直径20mm、厚さ1mmの大きさに成形し、波長400nmの紫外線を100mW/cm2 の照度で100秒間照射し、さらに80℃で1時間加熱して、硬化物を作製した。
作製した硬化物について、屈折率を測定し、アッベ数νdを以下の方法により求めた。
(1)屈折率の測定
上記硬化物のd線、C線、F線における屈折率を精密屈折率計(島津デバイス製造製KPR−200)を用いて測定した。測定環境は20℃60%RHであった。
(2)アッベ数νdの算出
測定して得られたd線、C線、F線、g線に対する屈折率をそれぞれ、nd、nC、nFとするとき、アッベ数νdは以下の式かち計算した。
νd=(nd−1)/(nF−nC)
【0043】
(複合型光学素子の作製)
調製した材料組成物1を、ガラス(SCHOTT社製BK7)よりなる光学基材のガラスレンズに、図1に示した成形装置を用いて、波長400nmの紫外線を100mW/cm2の照度で100秒間照射し、更に80℃で1時間加熱して、図2に示す形状の複合光学素子を作製した。
なお、図2において、光学基材のガラスレンズは、曲率半径R1:16mm、曲率半径R2:16mm、L1:20mm、L3:5mmである。この光学基材上に曲率半径R3:26mm、口径L2:16mmとなるように、複合光学素子を作製した。作製した複合型光学素子について、以下のように温度変化を与えて温度サイクル試験および面形状測定を実施した。
【0044】
(3)温度サイクル試験
作製した複合光学素子に、1周期の時間が3時間で、その間の温度変化が−40℃から+80℃となる温度サイクルを10周期分加えた。温度サイクルは図5に示すように、1周期における温度と時間は、+20℃で30分、−40℃で60分、+20℃で30分、+80℃で60分と変化する。
温度サイクル後の材料組成物の硬化物にクラックや変形が起きていなければ良好とした。
【0045】
(4)面形状の評価方法
作製した複合光学素子の材料組成物が硬化した面について測定を行なった。測定は接触式の表面形状測定器(テイラーホブソン社製フォームタリサーフ・PGIプラス)を用い、硬化面の曲率半径を、温度サイクル試験前後について測定した。目標とした曲率半径に対しての変形量を求めた。変形量が±2μm以内であれば良好、それ以上の場合は不良とした。
上記の材料組成物の硬化物における特性値の測定結果および当該材料組成物を用いた複合型光学素子についての評価結果を表1に示す。
【0046】
実施例2
表1に示した成分比に変更した点を除き、実施例1と同様にして実施例2の材料組成物2を調製した。
調製した材料組成物2の硬化物について、実施例1と同様にして特性値の測定および該材料組成物を用いた複合型光学素子についての評価を行い、その結果を表1に示す。
【0047】
実施例3
成分(B)として、ジフェン酸アリルとフルオレニルメチルメタクリレート(日本ユピカ社製)を表1に記載の配合量で用いた点を除き実施例1と同様にして実施例3の材料組成物3を調製した。
調製した材料組成物3の硬化物について、実施例1と同様にして特性値の測定および該材料組成物を用いた複合型光学素子についての評価を行い、その結果を表1に示す。
【0048】
実施例4
成分(B)として、フルオレニルメチルメタクリレート(日本ユピカ社製)を表1に記載の配合量で用いた点を除き実施例1と同様にして実施例4の材料組成物4を調製した。
調製した材料組成物4の硬化物について、実施例1と同様にして特性値の測定および該材料組成物を用いた複合型光学素子についての評価を行い、その結果を表1に示す。
【0049】
実施例5、6
成分(A)、(B)、(C)をそれぞれ表1に記載の配合量で用いた点を除き実施例1と同様にして実施例5および6の材料組成物5および6を調製した。
調製した材料組成物5,6の硬化物について、実施例1と同様にして特性値の測定および該材料組成物を用いた複合型光学素子についての評価を行い、その結果を表1に示す。
【0050】
比較例1から6
成分(A)、(B)、(C)をそれぞれ表1に記載の配合量で用いた点を除き実施例1と同様にして比較例1から比較例6の材料組成物を調製した。
調製した各材料組成物の硬化物について、実施例1と同様にして特性値の測定および該材料組成物を用いた複合型光学素子についての評価を行い、その結果を表1に示す。
【0051】
表1に示した結果から、実施例1〜6における本発明の材料組成物の硬化物は高屈折率であることがわかった。また、実施例1〜6における本発明の材料組成物を用いた光学素子は、熱サイクル特性に優れ、環境に対する撮像性能の安定性に優れていることがわかった。
また、比較例1は屈折率が十分なものではなかった。
比較例2は熱サイクル試験において、材料組成物の硬化物にクラックを生じた。
比較例3は、材料組成物の硬化物にクラックを生じた。
比較例4は、高屈折率であったが、熱サイクル性の試験で目標とした曲率半径に対して変形量が±2μm以上となり、環境に対する撮像性能の安定性に問題があることがわかった。
比較例5は、屈折率が充分なものではなく、硬化物にクラックを生じる問題が起きた。
比較例6は、高屈折率であったが、この材料組成物の硬化物からなる光学素子は、熱サイクル試験において、材料組成物の硬化物にクラックを生じる問題が起きた。
【0052】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、光学系の小型化および色収差の補正に対して十分な特性を有する材料組成物を得ることができ、また、加工性に優れているので、光学素子、特に複合型光学素子として加工が容易で、小型で色収差の補正に優れた特性を有した光学素子,複合型光学素子を提供することが可能となる。
【符号の説明】
【0054】
1…複合型光学素子成形装置、2…金属製胴型、3A…上型、3B…下型、3A1…光学面、3B1…光学面、4…加熱手段、5…駆動棒、6…離型筒、7…注入口、8…排出口、9…成形室、10…複合型光学素子、11…光学素子、11A…表面、12…材料組成物、13…硬化物、21…支持台、23…保持筒、25…係合縁、27…モータ、35…支持手段、36…支持柱、37…シリンダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成分(A)N−アクリロイルカルバゾール60〜90質量%と、成分(B)化学式1で示すフルオレンアクリレート、または化学式2で示すビフェニル構造を有する重合性化合物の少なくともいずれか一種を5〜30質量%と、成分(C)3個以上のラジカル重合性官能基を有する重合性化合物5〜25質量%を含有することを特徴とする材料組成物。
【化1】

R1は、水素またはメチル基を表し、Aは、直接結合または炭素数1以上3以下のアルキレン基を表す。
【化2】

ただし、R3はラジカル重合性官能基、R4は水素、アルキル基、またはラジカル重合性官能基を表す。
【請求項2】
前記の材料組成物100質量部に対して、さらに成分(D)重合開始剤0.1〜5質量部を含有することを特徴とする請求項1記載の材料組成物。
【請求項3】
前記化学式2記載の構造を有する重合性化合物が、ジフェン酸ジアリル、2−フェニルフェニル(メタ)アクリレート、2−フェニルフェニル(メタ)アクリレートのエチレンオキシド付加物から選ばれることを特徴とする請求項1または2記載の材料組成物。
【請求項4】
前記3個以上のラジカル重合性官能基を有する重合性化合物が、ポリエステルアクリレートであることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載の材料組成物。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の材料組成物の硬化物からなることを特徴とする光学素子。
【請求項6】
光学基材の表面に請求項1から4のいずれか1項記載の材料組成物の硬化物を積層したことを特徴とする複合型光学素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−52016(P2012−52016A)
【公開日】平成24年3月15日(2012.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−195526(P2010−195526)
【出願日】平成22年9月1日(2010.9.1)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【出願人】(000002886)DIC株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】