説明

束縛条件付き最大化に基づく画像再構成

【課題】電気インピーダンス断層写真法(EIT)方式の画像再構成を商用の相対的に大きいアレイに適用する。
【解決手段】様々な導電率又は誘電率を有する領域を含む構造(46)の内部の画像を形成する方法である。一実施形態では、各々が回転電場を発生する一連の電気信号集合(Vi)が一連の電極に印加される。各電極(44)から得られる測定電気信号集合を用いて、これらの電極(44)が周囲に配置されている領域の構造の内部を表わす導電率又は誘電率の分布を算出する。分布を算出する工程は、費用関数、例えばこの分布に基づくエネルギ関数、及び測定電気信号集合を導電率又は誘電率に関する電圧値の変化の関数として表現する順モデルを定義することと、エネルギ関数と順モデルに基づく関数との間の差の偏導関数がゼロに等しいことを要求することとを含んでいる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般的には、画像再構成に関し、具体的には、電気インピーダンス断層写真法に基づいて画像データを生成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気インピーダンス断層写真法(EIT)の原理は、被検媒体の電気的特性のばらつき例えば導電率及び誘電率のばらつきが、密度又は化学組成のような物質特性と高い相関を有するとの知見に基づく。例えば、人体では、体組織の間で導電率に著しいばらつきが存在する。
【0003】
工業系事業又は他の非臨床応用では、実体容積の組成を決定したり、関心対象の内部の特徴の寸法及び形状又は他の状態を特性決定したりするために非侵襲型監視、時に非侵襲型撮像を行なうことが望ましい。一般的には、EITは、区別可能な電気的特性によって特徴付けられる容積の内部の特徴を撮像するのに有用である。しばしば、異なる密度を有する容積の内部の特徴がこの基礎に基づいて分解され得る。例えば、多相流体混合物では、導電率が相(例えば液体若しくは気体)、又は化学組成に基づいて変化することが知られている。主に、比較的単純な機器によって行なわれる電気的測定でも、容積において特定の物質が位置している箇所や様々な成分の相対比を示すデータを与えることができる。相濃度を決定し得る混合物の例としては、スラリーのような固液組成、石油パイプラインに存在するような気液組成、及び一般的には、液液混合物及び固気液混合物が挙げられる。これらの混合物は静止していても流動していてもよい。パイプを流れる流体の場合には、様々な相の物質の間又は異なる化学的特性を有する物質(例えば水及び石油)の間での導電率決定から、存在する相対容積の決定を導くことができる。従来は、パイプでの液相及び気相の容積分率は電気インピーダンス測定に基づいて推測されている。EIT撮像に関しては、被検物体の周辺、例えばパイプの内面に沿った円に沿って一連の電極を配置することによりデータを取得することが従来行なわれている。米国特許第4,486,835号、同第4,539,640号、同第4,920,490号、及び同第5,381,333を参照されたい。尚、これらの特許の全てを参照により本出願に援用する。これらの文献によって記載される測定システムでは、測定される電圧信号又は電流信号を用いて、被検容積の内部の空間的特徴を再構成して特徴を表わす画像を形成することができる。この観点で、取得されたデータに対応する一意の解すなわち画像が存在し得ないような所謂逆問題が存在する。この問題を克服するために、電極に相対的に多数の励起パターン集合を与えることが必要になる。このデータによって、アルゴリズムを適用して導電率分布を求める。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7496450号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
各電極が被検物体を切断する平面に沿って位置するときに、これらのアルゴリズムは同じ平面に沿った導電率分布を与えることができる。一般的には、広範な数学的方法及び数値的手法を適用して、被検物体の導電率分布に似た導電率分布を決定する。有用な画像分解能を生成するためには膨大な計算が必要とされる。EIT方式の画像再構成を商用の相対的に大きいアレイに導入するために、相対的に短時間で相対的に少ない計算を行なって満足な画像形成を提供し得る手法を見出すことが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一実施形態によれば、方法が、様々な導電率を有する多数の領域を含む構造の内部の画像を形成する。一実施形態では、各々が構造の内部に回転電場を発生するような一連の電気信号集合が一連の電極に相次いで印加される。測定電気信号集合が電極から得られ、これらの集合を用いて、電極が周囲に配置されている領域の構造の内部を表わす導電率分布を算出する。導電率分布を算出する工程は、導電率分布に基づく費用関数(例えばエネルギ関数)、及び測定電気信号集合を導電率に関する電圧値の変化の関数として表現する順モデルを定義することと、このエネルギ関数と順モデルに基づく関数との間の差の偏導関数がゼロに等しくなることを要求することとを含んでいる。後述する式6〜式12を参照されたい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
本発明のこれらの特徴、観点及び利点、並びに他の特徴、観点及び利点は、添付図面を参照して以下の詳細な説明を読むとさらに十分に理解されよう。図面全体にわたり、類似の参照符号は類似の部材を表わす。
【図1】実施形態の一例による製油施設のブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に従って用いられる電気インピーダンス断層写真法(EIT)方式の多相流量計の概略図である。
【図3】本発明の一実施形態による印加電圧型EITシステムのブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態によるパイプを横断する電極の概略図及び参照正弦波形の図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、1よりも多い物質がパイプ又はコンジットの内部を流れているような多相流において成分比を決定するために撮像が用いられ得るような応用について本発明を記載する。本発明の各実施形態は、パイプを流れる石油、水、及び炭化水素ガスの分率及び流量を推定するために、製油産業に用いられるもののような多物質系の特性を測定するシステム及び方法を提供するように作用する。本発明を石油/ガス/水測定での利用に関して記載するが、本発明はかかる応用に限定されない。寧ろ、本発明は、例えば医用撮像法、癌診断法及び水処理法のような広範な工業、医療及び化学工程に適用可能である。
【0009】
パイプを流れる物質は、固体、液体及び気体といった物理的状態の多数の状態にあってよい。多相流工程の正確な特性決定は、石油工業、医薬品工業、食品工業、及び化学工業に用いられるシステム及び処理設備の設計を改善し、動作効率を高めることを可能にする。多相工程の性能を予測するのに用いられる関連する流れ特性としては、例えば空間的相分布(空間的容積相分率)、流れ領域、界面面積、並びに相同士の間又は物質同士の間の絶対速度及び相対速度等が挙げられる。多相流における各物質の非一様な空間的分布を決定すると、さらに望ましい結果を得るために工程を管理し制御することが可能になる。例えば、石油製品を運ぶパイプラインでは、液体成分に対する気体成分の比を最小にすることができる。石炭スラリー輸送では、石炭に対する水の容積比を、単位容積当たり達成可能な最大のエネルギ量を保証するように最適化することができる。製造工程を最適化するのに適用可能なもう一つの例として、化学反応又は転化を起こしている物質の非一様な分布を監視して減少させることが重要である。かかる工程は、例えば再循環流が空間的に非一様な反応帯又は濃度を生成することにより、物質同士の間に減少した界面面積を有する場合がある。
【0010】
このように、容積相分率及び関連する成分の実時間知見が、多相流の時宜を得た実効的な制御を可能にする。しかしながら、かかる特性決定を生成する計算要件は、不適当な複雑さを加え、監視されている工程の時宜を得た制御を具現化するのに必要とされる応答時間を遅延させる場合がある。この理由から、先行システムの多くは、近似に頼って物質比を決定して、多相系での各物質の分離を特性決定していた。
【0011】
従来、EITを用いた画像再構成は、電極の各対に入力信号を相次いで与えて、1又は複数の他の電極において信号を感知することに基づいている。例えば、電流を一度に一対ずつ電極対の間に流して、残りの電極において電圧を測定することができる。代替的には、電圧を一度に一対ずつ電極対の間に印加して、他の電極の1又は複数において電流を測定することができる。実施形態の各例は、電流又は電圧を電極の全てに同時に印加することにより、相対的に多量の電気データを迅速に生成するように構成される。印加される電流又は電圧は、予め画定されている位相シフト又は周波数シフトを有していてもよいし、互いに対して電気的に同相にあって振幅変化を有していてもよい。従来、電極に印加される多数の電流又は電圧パターンに基づいて再構成を実行するためには相対的に長い処理時間が必要とされていた。一方、増大した量の電気データの生成によって、さらに高い信号対雑音比及びさらに高い分解能を実現することが可能である。このことは、被検物体が相対的な誘電率又は導電率のばらつきが小さい成分を含んでいるときには、必要な分解能を与えるために相対的に多数の測定が必要とされるため、特に適当である。
【0012】
図1に示す単純化した概略図を参照して、本発明の実施形態の一例を配管系14に接続された多数の油井12iを有する典型的な製油施設10について説明する。配管系14は、各々の油井12iから流量Fiを受け取って総流量Fを出力するように結合されている製油分岐管16を含んでいる。各々の油井からの流量Fiは多相流量計(MPFM)18を通過した後に分岐管16に入り、例えば液相及び気相の全体比を調整するように弁系統によって制御され得る。
【0013】
各々の多相流量計は、油井に極く近い処理前の油井流の測定を可能にし、このようにして油井の性能の連続監視を提供し得るシステムの一部である。各々の多相流量計システムによって処理される情報を用いて、貯油槽のさらに十分な管理及び流れ制御を行なうことができる。油井12iから汲み上げられる流体は製油分岐管16を介して製油分離装置20へ送られる。試験分離装置(図示されていない)を多相流量計システムに組み入れてもよい。多相流量計システムの試験分離装置に勝る一つの利点は、流れの組成を特性決定するのに必要とされる時間が短縮されることである。
【0014】
製油分離装置20は、油井から汲み上げられた石油、ガス、及び水を分離する。製油分離装置20はさらに、1又は複数の測定装置を含み得る。これらの測定装置は、例えば油井から抽出された水の量又は速度を測定する水量計、及び油井から抽出された石油の量を測定するエマルション計を含み得る。油井性能を監視するために坑口圧力センサ及び温度計を含むさらに他の測定装置を含めてもよい。
【0015】
次に、図2の単純化した概略図を参照すると、電気インピーダンス断層写真法(EIT)に基づくMPFM18を含み、また本発明の実施形態の一例によれば導電率再構成に基づく画像再構成システム40が示されている。但し、原則として、EIT画像再構成は導電率及び/又は誘電率(permittivity。admittivityとも呼ぶ)に基づくものであってよいことを理解されたい。システム40によれば、観察されている物質の導電率及び/又は誘電率は、電流信号集合又は電圧信号集合が印加されているときの被検容積の周辺の近くの電極から採取される境界電気測定に基づいて推測される。実施形態の各例によれば、各々の信号集合について全ての電極から測定を相次いで得ることにより、多量のデータが取得される。すなわち、印加電流及び/又は印加電圧の多数の異なる構成又はパターンについて測定を繰り返す。
【0016】
図2のMPFMシステム40のMPFM18は、任意の数L個の電極44と、この応用では全体的に円筒形を有するコンジット46の周りに分配された配線とを含む電極アレイ42を含んでいる。明示的に図示していないが、コンジットは、多相成分がコンジットを通過するように油井12iの一つと分岐管16との間に一列に配置されている。本発明を説明する目的のために図に示す電極の数Lは12であるが、12個よりも少ない又は多い電極をコンジットの周りに配置して測定を行なってよく、この数は部分的には、パイプの寸法及び所望の画像分解能に依存する。一実施形態では、電極の各々がコンジットの内壁に沿って装着されてもよく、外部信号発生源からの電気的接続が外壁を通過して電極と接続される。各々の電極には、電極と、コンジット46を流れる媒体との間の接触抵抗を低減するための皮膜が施工され得る。電極44のアレイは、円筒形コンジット46の中心対称軸に直交する平面Pにおいて構成される。
【0017】
アレイ42の電極は各々、電子回路48への配線を通じて接続され、電子回路48は、例えば各々の電極毎に、電流又は電圧発生源、D/A変換器、A/D変換器、差動増幅器、及び1又は複数のフィルタを含んでいる。回路48はさらに、入力信号集合を各電極に与えるためにコンピュータ50に結合されているアナログ・マルチプレクサ、クロック回路、及び/又はディジタル入出力ユニットを含んでいる。回路48の特定的な構成は当技術分野で公知であり、本発明の説明は回路設計の詳細な説明を必要とする訳ではないのでここではこれ以上立ち入らない。
【0018】
コンピュータ50は、画像再構成に用いられる形式の従来のディジタル信号プロセッサを含むハイ・エンドの高速プロセッサと、本発明に従って形成される画像を視認するのに適当な表示器52とを含み得る。フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)及びコンプレクス・プログラマブル・ロジック・デバイス(CPLD)のような他の処理回路をコンピュータ50に含めてもよいし、システム40の他の部分に含めてもよい。
【0019】
各々の電気信号集合が電極44に印加されたときに、コンジットの内部に回転電場が発生される。以下の議論は、電圧信号が電極に印加されて、画像再構成の必要データを生成するためにこれらの電圧信号に応答して電流信号が取得されることを仮定している。電圧発生源を用いて各々のパターン集合を電極44に印加し、電極の各々において対応する電流信号集合が測定される。
【0020】
図3は、L個の電極を有する印加電圧型EITシステム60の単純化した概略図である。各々の電極44が、印加電圧を発生する電圧発生源と、電流を測定する電流計と、印加電圧を直接測定する電圧計とを含む回路62に接続されている。スイッチ開閉網63が、単一の較正回路64を電圧発生源/電流計/電圧計回路の任意のものに接続することを可能にして、システム全体を単一の参照発生源に対して較正することを可能にしている。ディジタル制御器(図示されていない)が、上述の各構成要素にインタフェイスを介して接続されており、較正、信号発生及び測定データの取得を含めた切り換え作用を動作させる。測定データが本発明に従ってコンピュータ50によって処理されて、電極が配置されている平面Pでの導電率分布を決定する。
【0021】
導電率及び誘電率分布はさらに処理されて、液体相、例えば石油及び水における様々な相の分布又は様々な物質の分布を含めた多相流の物性を決定する。導電率分布の解析によって、多物質系の個々の成分の流れ領域、相分率及び速度を決定することができる。流れ領域としては、例えば気泡流、チャーン流、スラグ流、又は環状流等がある。
【0022】
電圧発生源の実施形態では、各電極の間を流れる電流は、全ての電極を横断して印加される相対的な電圧と、各電極が周囲に構成されている平面Pに沿った導電率及び誘電率分布との関数である。例えば、物質は石油のみである場合もあれば、油水液体混合物及び分離した気相である場合もある。物質成分の分布に依存して、各電極の間の導電率及び誘電率は変化し、結果として、各電極の間の電流のレベルも変化する。すると、1又は複数の電圧集合の印加及び対応する測定電流データによって、平面Pに沿って変化する導電率に対応する導電率の値の行列を算出することができる。これらの導電率の値は平面Pを通る物質の導電率及び誘電率に対応しているので、導電率を解析することにより物質組成又は相流分布を決定することができる。
【0023】
各々の電圧パターン集合は時間変化型関数であって、この関数はコンジット44の内部に回転電場を発生し、すなわち電場は印加信号の周波数又はの整数倍の関数である角速度で方向を変化させる。定数の周波数の場合には、電場が回転する角速度も定数になる。
【0024】
L個の電極に電圧パターン集合を相次いで印加することにより回転電場が発生されるときに、各電極を横断して印加される電圧パターンは次式として表わされ得る。
【0025】
【数1】

式中、Vkλは第λの励起パターン集合として第kの電極に印加される電圧であり、Vハット(^記号)は参照正弦波のピーク電圧であり、tは時間であり、ωは正弦波の周波数である。式(2)及び式(3)は、式(1)の正符号及び負符号についての二つの代替形態の一方に各々対応する式(1)の代替形態であり、正符号を選択したものが順電圧パターンを与え、負符号を選択したものが反転電圧パターンを与える。式(2)による信号集合が、コンジット46の内部での電場の時計回り回転の順電圧パターンを発生し、式(3)による信号集合が、コンジットの内部での電場の反時計回り回転の反転電圧パターンを発生する。励起パターン集合は、式(2)による順電圧パターン集合又は式(3)による反転電圧パターン集合を含み得る。かかる実施形態では、λは1〜L/2、又はこれ以上にわたり、結果として合計でλ個の順電圧パターン集合又は反転電圧パターン集合の印加が各電極44に適用される。もう一つの実施形態では、各電極44に印加される信号集合が順パターン及び反転パターンの両方を含むことができ、結果として多物質系についてのさらに完全な情報が得られる。順電圧パターン及び反転電圧パターンは合わせて、システムの電気的要素の実成分及び虚成分についての情報を与える。
【0026】
図4は、L=8すなわち8個の電極44iをi=1〜8について示す電極44の概略図80である。L=8個の電極の図は例示的なものである。各電極44iは、円筒形コンジット46の平面Pによって切断される円の周囲の各位置に一様間隔で隔設されている。図4はさらに、正弦波形に配置される波形値Viの集合をi=1〜8について示している。所与のiの値について、各々の図示の値Viが対応する電極44iに入力される信号に対応する。すなわち、各々の波形値Viは、Vハット=10Vである場合にλ=1を有する印加パターン集合について式(2)又は式(3)に従って発生される8個の時間依存型電圧入力信号の異なる一つ一つに同時に生ずる時間的な値である。8個の電極44iの系列において隣り合った電極に印加される電圧振幅Vkλの間の差は、k=i及びλ=1である場合に2πλ(k−1)/Lずつ与えられる位相シフトに基づく。このように、波形値V1〜V8は、所与の時刻に各電極に同時に印加される位相シフトした電圧信号である。
【0027】
この例では、コンジット46は、油水エマルション86、及びエマルションから分離したガス88を含んでおり、ガスはコンジット46の中心領域を流れ、エマルション86がガス流を包囲している。例えばλがそれぞれ2及び/又は3に等しい場合の式(2)又は式(3)による第二高調波及び/又は第三高調波の電圧パターンを含めた他の電圧パターン集合を各電極に印加してもよい。
【0028】
図3のシステム60によれば、各々の電極の専用となっている回路62は全て共通のクロック信号の下で動作し、各々が隣接する電極について発生される波形の位相に対して別個の位相を有する波形を発生する。この観点で、波形値Viの集合がプロットされる横軸は、円筒形コンジット46の周りでの平面Pにおける角度位置に対応し、所与の時刻(例えば時刻t=0)においては、正弦波のV1〜V8とラベルされた8個の点の各々が、各々の電極における印加信号の振幅に対応する。このように、2π/L(λ=1の場合)の位相シフトを隣り合った電極同士の間に生じさせながら、多数の位相シフトした正弦波形が、等間隔で隔設された電極の異なるものに同時に印加され、波形に示される値V1〜V8は時刻tにおいて8個の電極に印加される瞬間電圧を指す。集合的に、8個の入力信号は、平面Pにおいて回転する時間変化型電場パターンを発生する。
【0029】
一実施形態では、導電率分布のみを決定すればよいときには、相分布についての完全な情報を取得するために各電極に印加される電圧パターン集合の総数はλ=L/2まで少なくすることができる。L/2個のパターンは、時計回り回転電場を発生する順パターン又は反時計回り回転電場を発生する反転パターンの何れかとなり得る。
【0030】
本発明の一実施形態によるデータ取得工程は、各電極44にλ個の電圧パターン集合を相次いで印加する。他の実施形態では、印加される電気信号集合は、1又は複数の電流値集合及び1又は複数の電圧値集合を含み得る。理解し易くする目的のために、第一の電気信号集合は電圧値集合であるものと仮定する。
【0031】
各々の印加電圧パターン集合毎に、電気信号パターン集合が例えば図3のシステム60に従って測定される。各々の印加電圧パターン集合毎に取得されるデータ要素の例示的な数は、電極の数と、所与のλの値について印加される信号のサイクル当たり採取される測定の数との積である。A/D変換器を含むシステム40の回路48によって、各々の電圧励起パターンについて、電流データの時系列がL個の電極の各々について記録される。この時系列データは、全L個の電極における電流の振幅及び位相を抽出するように処理される。各々の電極における時系列データは、当該電極における電流について一つの振幅及び一つの位相値を与える。故に、L個の電極についてはL個の測定が存在する。この工程を全λ個の電圧パターン集合について繰り返すと、λL個の時系列測定データ要素が得られる。
【0032】
λL個の時系列測定データ要素に基づいて、コンジット46における物質の分布を表わす導電率行列が決定される。画像再構成は、導電率及び/又は誘電率行列に基づいて行なわれる。物質分布を示す行列値の決定例についてのさらに詳細な議論については、参照により本出願に援用される米国特許出願第12/652,116号を参照されたい。
【0033】
本発明によれば、導電率行列又は誘電率行列の決定は、順モデルの不整合を最小にすることにより分布を求める従来のアプローチとは異なる。代わりに、導電率分布のエネルギが順モデル不整合の束縛条件を受ける目的関数となるような最大値問題を解く。各々の電極において電圧がUelであり、順モデルが
el=J(σ)*σ (式4)
と定義される場合の例を以下に掲げる。ヤコビアンJは導電率σに関するUelの偏導関数であるが、σは代替的には誘電率を表わしていてもよい。
【0034】
行列形態では、この順モデルは次式として表わされる。
【0035】
【数2】

式中、Uiは総数M個のデータ要素、例えば測定電流データを含むベクトルであり、i=1,2,3,…,Mである。
【0036】
導電率行列σjは、コンジット46の内部の平面Pに沿った領域について決定されるべき導電率分布を集合的に定義するj個の要素を含んでいる。
【0037】
目的関数は、電場に関係する多様な可能なエネルギ関数から選択され得る。ここでは、一例として
【0038】
【数3】

を選択する。
【0039】
すなわち、順モデル不整合を束縛条件として導電率分布のエネルギが最大化される。明確に述べると、最大化はラグランジュの未定乗数法を用いて達成されることができ、λiがラグランジュの未定乗数項を示す。
【0040】
【数4】

従って、F(σ)が
∂F/∂σj=0 (式8)
の条件を受ける。すると、ここから
【0041】
【数5】

及び
【0042】
【数6】

が得られ、従って順モデル表現は、
【0043】
【数7】

となり(式中、Uiは実測された電圧データである)、この式を解くと、各々のλk毎にλp+1−λp=0についてガウス=ザイデル繰り返し法を介してラグランジュの未定乗数λkの値を求めることができる。
【0044】
λp+1=λp+(DTD+αRTR)-1T(gexp−gcomp) (式13)
式中、
Rは正則化パラメータであり、
Dの各々の要素は
【0045】
【数8】

と定義され、
αは正則化パラメータであり、
exp=giであり、
comp=2Ucompであり、Ucompは順モデルUel=J(σ)σを用いて算出される電圧データであり、
項DT及びRTはそれぞれD及びRの転置行列である。
【0046】
構造の内部の画像を表示する方法について記載した。この画像は、人体の器官又は他の部分の医用画像であってよいが、さらに一般的には、コンジットを流れる多相流体(例えば物質は石油及び炭化水素ガスを含む)のような異なる電気的特性によって特徴付けられる容積、又は容積を流れる電気信号の伝達に影響を与える様々な導電率を有する多数の領域を含む容積の内部の特徴の画像であってよい。決定された画像情報を用いて、コンジットを流れる液体物質及び気体物質の相対比を推定することができる。
【0047】
本発明の各実施形態の特徴は、平面に沿って配置される各電極に入力される一連の電気信号集合であって、各々の信号集合が電極の各々に入力される電気信号パターンを含んでいるような一連の電気信号集合の提供である。様々な導電率を有する2以上の領域を含む構造によって、本発明は、電気インピーダンス断層写真法による画像形成に対するさらに計算効率のよいアプローチによる態様で構造の内部を表わす画像を決定する。
【0048】
比較のために、ニュートン・ワン・ステップ・エラー・リコンストラクタ(Newton One Step Error Reconstructor)手法を用いると、繰り返し式逆ソルバは導電率分布のN個の要素の全てについての集約的計算による解決を必要とするが、上述の方法はM個のラグランジュの未定乗数λkについて解く。すなわち、導電率行列における要素の数Nは取得される測定の数Mよりも遥かに大きく、順モデルと測定データとの間の差に基づいて解を繰り返し求める従来の再構成アプローチは、繰り返し式手法によってN個の解を求めることを要求する。
【0049】
本発明の開示された実施形態では、一連の印加電気信号集合が各々電圧入力パターンを含んでおり、測定電気信号集合が各々測定電流レベルを含んでいる。他の実施形態では、一連の印加電気信号集合が各々電流入力パターンを含み、測定電気信号集合が各々測定電圧レベルを含む。さらに他の実施形態では、一連の印加電気信号集合の幾つかが電圧入力パターンを含み、一連の印加電気信号集合の残部が電流入力パターンを含み、測定電気信号集合の一部が測定電流レベルを含み、測定電気信号集合の残部が測定電圧レベルを含む。
【0050】
本発明の方法を全体的に円筒形である容積を画定するコンジットについて説明したが、本発明は、様々な寸法及び形状の本体空洞及び本体実質を含む様々な形状の構造に適用可能である。また、複数の電極から成る単一のアレイについて説明したが、信号集合は、多数の隔設された電極アレイに同時に印加されても相次いで印加されてもよく(例えば被検構造を切断する平面に沿って)、各電極及び構造が被検容積の様々な部分に関連する画像情報を生成するために互いに対して変位され得るような構成も思量される。
【0051】
本書では発明の幾つかの特徴のみを図示して説明したが、当業者には多くの改変及び変形が想到されよう。従って、特許請求の範囲は、発明の要旨に含まれるような全ての改変及び変形を網羅するものと理解されたい。
【符号の説明】
【0052】
10:製油施設
12i:油井
14:配管系
16:製油分岐管
18:MPFM(多相流量計)
20:製油分離装置
40:画像再構成システム
42:電極アレイ
44:電極
46:円筒形コンジット
48:電子回路
50:コンピュータ
52:表示器
60:印加電圧型EITシステム
62:回路
63:スイッチ開閉網
64:較正回路
82:正弦波
84:コンジット
86:エマルション
88:気体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
当該構造(46)を通る電気信号の伝達に影響を与える様々な導電率又は誘電率を有する多数の領域を含む構造(46)の内部の画像を形成する方法であって、
前記構造(46)を通る平面に沿って、前記構造(46)の外部表面に沿って配置される一連の電極(44)を設けるステップと、
前記電極(44)への入力のための一連の電気信号集合であって、各々が前記電極(44)の各々への入力のための電気信号パターンを含むような一連の電気信号集合を与えるステップと、
前記電極(44)に前記電気信号集合(Vi)の各々を相次いで印加するステップであって、各々の信号集合の印加が前記構造(46)の内部に回転電場を発生する、印加するステップと、
各々の信号集合の印加に応答して、前記電極(44)から測定電気信号集合を得るステップと、
前記測定電気信号集合により、前記電極(44)が周囲に配置されている前記構造(46)の領域での前記構造46の内部を表わす導電率分布又は誘電率分布を算出するステップと、
様々な導電率又は誘電率を有する2以上の領域を含む前記構造(46)の前記内部を表わす画像データを決定するステップと
を備えており、
前記導電率分布又は誘電率分布を算出する前記工程は、前記導電率分布に基づくエネルギ関数、及び前記測定電気信号集合を導電率に関する電圧値の変化の関数として表現する順モデルを定義することと、前記エネルギ関数と前記順モデルに基づく関数との間の差の偏導関数がゼロに等しくなることを要求することとを含んでいる、方法。
【請求項2】
前記一連の印加電気信号集合(Vi)は各々電圧入力パターンを含み、前記測定電気信号集合は各々測定される電流レベルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記一連の印加電気信号集合(Vi)は電圧入力パターンを含み、前記測定電気信号集合は測定電流レベルを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記構造(46)は、様々な導電率を有する物質が流れるコンジットである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記構造(46)は、様々な相を有する物質が流れるコンジットである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記物質は、石油(86)及び炭化水素ガス(88)を含んでいる、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記コンジット(46)を流れる液体物質及び気体物質の相対比を決定するために画像情報が用いられる、請求項4に記載の方法。
【請求項8】
前記印加電気信号集合は、λ個の電圧励起パターン集合を含んでおり、各々のパターンがL(L=1〜k)個の電極(44)の一つに印加され、前記電圧パターンは、
【数1】

に従って発生され、式中、Vkλは第λの励起パターン集合として第kの電極(44)に印加される時間変化型電圧正弦波(82)であり、Vハット(^記号)は参照正弦波のピーク電圧であり、tは時間であり、ωは前記正弦波の周波数である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記測定電気信号集合は、前記導電率分布を決定するのに用いられる少なくともλL個の測定データ要素を含んでいる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記導電率分布又は誘電率分布を算出する前記工程は、Nが前記導電率分布又は誘電率分布を定義するのに用いられる値σjの総数に等しい場合にj=1〜Nについての導電率値又は誘電率値σjの集合について前記エネルギ関数を
【数2】

として定義するステップであって、
前記測定電気信号集合を導電率又は誘電率に関する電圧値の変化の関数として表現する前記順モデルは、
【数3】

として表現され、式中、Uiは、i=1,2,3,…,Mである場合に前記電極(44)において測定される前記電気信号集合において総数Mのデータ要素を含むベクトルである、定義するステップと、
【数4】

である場合に
∂F/∂σj=0
となるような関数F(σj)を、前記エネルギ関数と前記順モデルに基づく関数との間の差の偏導関数がゼロに等しくなるように評価し、これにより前記構造の前記内部の部分を表わす導電率分布又は誘電率分布を決定するステップと
を含んでいる、請求項1に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−257396(P2011−257396A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−125925(P2011−125925)
【出願日】平成23年6月6日(2011.6.6)
【出願人】(390041542)ゼネラル・エレクトリック・カンパニイ (6,332)
【Fターム(参考)】