説明

杭の施工方法及び杭の施工治具

【課題】回転圧入工法による杭の貫入作業時に必要となる圧入力を施工コストの大幅な増大を招くことなく得ることができる杭の施工方法及びこれに用いられる杭の施工治具を提供する。
【解決手段】地盤7中に圧入させた杭1に対して、外周に沿って螺旋状の羽根33が固着された円筒状の治具本体31を当該杭1と一体的に回転及び圧入可能に装着する。続いて、治具本体31をその羽根33とともに地盤7中で回転させることによって、羽根33により下向きの推進力を得て、杭1及び治具本体31を地盤7中に圧入させる。続いて、杭1から治具本体31を取り外して治具本体31を地盤7中から取り除く。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭やオールケーシング工法で用いられるケーシングのような円筒状の杭を地盤中に回転させながら圧入させる杭の施工方法及びこれに用いられる杭の施工治具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、建築物や橋梁の基礎杭として用いられる鋼管杭や、オールケーシング工法で用いられるケーシングのような円筒状の杭を地盤中に貫入させるための工法として回転圧入工法が用いられている。これは、杭を地盤上に設置された回転圧入装置によって回転させながら圧入させることによって、杭を地中の所定深さにまで貫入させる工法のことである。
【0003】
回転圧入工法によって杭を所定深さまで貫入させる場合、杭下端が開口されていると、貫入深度が深くなるに従って杭内に多くの土砂が侵入してきて、杭内の閉塞土による圧入に対する抵抗力が増大することになる。また、杭を所定深さまで貫入させる場合、地盤硬さが比較的小さい中間層まで貫入させた後、中間層よりも地盤硬さが大きい支持層に杭の下端を所定深さ貫入させることになる。即ち、杭の貫入作業時においては、作業初期よりも作業途中、作業後半の方が必要となる圧入力が増加することになり、この際に要求される圧入力やこの圧入力に対する反力を確保して作業を行う必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−293361号公報
【特許文献2】特開2002−61176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
杭の貫入作業の作業途中や作業後半で反力を確保するうえでは、回転圧入装置に反力を得るために設置されているカウンターウエイト、アンカー等を高性能化、大型化すること手段が採られているが、この場合、カウンターウエイト等の輸送費、設置作業費の高騰を招くうえ、カウンターウエイト等の高性能化、大型化に伴い回転圧入装置をも高性能化、大型化することになり、施工コストの大幅な増大を招くことになっていた。また、杭の貫入作業の作業途中や作業後半で圧入力を確保するうえで、回転圧入装置の高性能化、大型化する手段も採られているが、やはり施工コストの大幅な増大を招くことになっていた。
【0006】
また、杭の貫入作業中に圧入力を得つつ反力を確保するうえで、鋼管杭等の下部の外周に螺旋状の羽根を固着して取り付け、この羽根を地盤中で回転させることによって羽根から推進力を得てこれを圧入力とする手段も採られている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、このような羽根はそもそも加工費、取付費が高いことに加え、地盤中での杭の圧入速度が羽根のピッチによって決まってしまうことから、大きな圧入力を必要としない地盤硬さの小さい中間層でも圧入速度が制限されてしまうこととなっていた。
【0007】
また、特許文献2のように、杭の貫入作業後半で必要となる圧入力を確保するうえで、上部構造物の鉛直荷重を支持する内杭の頭部に外管杭を設け、これら外管杭及び内杭の下部に螺旋状の羽根を固着し、外管杭の羽根によって作業後半での圧入力を向上させる手段も考えられる。しかしながら、特許文献2の開示技術は、内杭の貫入作業終了後に外管杭を地中に残したままとするため、内杭ごとに別途高価な羽根を固着することによって加工
費、取付費の更なる高騰を招くうえ、内杭にも羽根が固着されているのでやはり中間層での圧入速度が制限されてしまうことになる。
【0008】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、回転圧入工法による杭の貫入作業時に必要となる圧入力を施工コストの大幅な増大を招くことなく得ることができる杭の施工方法及びこれに用いられる杭の施工治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した課題を解決するために、鋭意検討の末、下記の杭の施工方法及び杭の施工治具を発明した。また、本発明者は、この他に下記の杭の引き抜き方法を発明した。
【0010】
第1の発明に係る杭の施工方法は、地盤中に円筒状の杭を回転させながら圧入させる杭の施工方法において、地盤中に圧入させた上記杭に対して、外周に沿って螺旋状の羽根が固着された円筒状の治具本体を当該杭と一体的に回転及び圧入可能に装着し、上記治具本体をその羽根とともに地盤中で回転させることによって上記杭及び当該治具本体を地盤中に圧入させ、上記杭から上記治具本体を取り外して当該治具本体を地盤中から取り除くことを特徴とする。
【0011】
第2の発明に係る杭の施工方法は、第1の発明において、上記治具本体の下側から上側に向けて形成された挿入溝内に上記杭に固着された突起部材を嵌合させて、上記杭に対して上記治具本体を当該杭と一体的に回転及び圧入可能に装着することを特徴とする。
【0012】
第3の発明に係る杭の施工方法は、第1又は第2の発明において、上記治具本体をその羽根とともに地盤中で軸回りの一方向に回転させることにより、上記治具本体の下側から上側に向けて上記羽根のピッチに対応したピッチで螺旋状に形成された挿入溝内に上記杭に固着された突起部材を嵌合させて、上記杭に対して上記治具本体を当該杭と一体的に回転及び圧入可能に装着し、上記治具本体を軸周りの一方向と反対方向に回転させることにより、上記杭から上記治具本体を取り外して当該治具本体を地盤中から取り除くことを特徴とする。
【0013】
第4の発明に係る杭の施工方法は、第2又は第3の発明において、上記治具本体をその羽根とともに地盤中で軸回りの一方向に回転させることによって上記杭及び当該治具本体を地盤中に圧入させるとともに、上記挿入溝の側壁面に形成された凹溝内に上記杭の突起部材を嵌合させた状態で、上記治具本体をその羽根とともに地盤中で軸回りの一方向と反対方向に回転させることによって、上記杭及び当該治具本体を地盤中から引き上げることを特徴とする。
【0014】
第5の発明に係る杭の施工方法は、第1〜第4の何れか1つの発明において、上記治具本体の外周面又は内周面に沿って固着された補助プレートに形成された上記挿入溝内に上記杭に固着された突起部材を嵌合させて、上記杭に対して上記治具本体を装着することを特徴とする。
【0015】
第6の発明に係る杭の施工方法は、第1〜第5の何れか1つの発明において、外周に沿って螺旋状の羽根が固着されていない上記杭を圧入させることを特徴とする。
【0016】
第7の発明に係る杭の施工治具は、第1〜第6の何れか1つの発明に用いられる杭の施工治具であって、上記杭に対して一体的に回転及び圧入可能に装着される円筒状の治具本体と、上記治具本体の外周に沿って螺旋状に固着された羽根とを備えることを特徴とする

【0017】
第8の発明に係る杭の施工治具は、第7の発明において、上記治具本体の下側から上側に向けて形成され、上記杭に固着される突起部材を嵌合させるための挿入溝を更に備えることを特徴とする。
【0018】
第9の発明に係る杭の施工治具は、第8の発明において、上記挿入溝は、上記治具本体の下側から上側に向けて上記羽根のピッチに対応したピッチで螺旋状に形成されていることを特徴とする。
【0019】
第10の発明に係る杭の施工治具は、第8又は第9の発明において、上記挿入溝は、その側壁面に上記杭の突起部材を嵌合させるための凹溝が形成されていることを特徴とする。
【0020】
第11の発明に係る杭の施工治具は、第7〜第10の何れか1つの発明において、上記溝は、上記治具本体の外周面又は内周面に沿って固着された補助プレートに形成されていることを特徴とする。
【0021】
第12の発明に係る杭の引き抜き方法は、地盤中に圧入された杭を引き抜くための杭の引き抜き方法であって、第10の発明の治具本体を、その羽根とともに地盤中で軸回りの一方向に回転させることによって当該地盤中に圧入させて上記杭に対して装着し、上記杭の突起部材を上記挿入溝の凹溝内に嵌合させた状態で、上記治具本体をその羽根とともに地盤中で軸回りの一方向と反対方向に回転させることによって、上記杭及び当該治具本体を地盤中から引き抜くことを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
第1の発明によれば、杭の貫入作業時において、作業初期においては杭のみを所望深さまで回転圧入させた後、大きな圧入力が必要となった時点で施工治具の治具本体を杭と一体的に回転及び圧入可能に装着させて、施工治具の羽根によって推進力を得ることにより必要となる圧入力を確保して、杭を回転圧入させることが可能となっている。特に、圧入力の確保のために、施工治具の羽根によって推進力を得ることとしているため、圧入力や反力を得るための特別な構成を回転圧入装置や杭に適用する必要がなくなり、施工コストの大幅な増大を招くことなく必要となる圧入力を確保することが可能となっている。また、施工治具を一つの杭の貫入作業後に地中から取り除くこととしているので、同じ施工治具を繰り返し使用することができ、経済性に非常に優れたものとなっている。
【0023】
第3の発明によれば、施工治具の杭への取り付け時、取り外し時において、杭の突起部材が挿入溝の側壁面に強く接触することがないので、施工治具の耐久性が向上することになる。また、羽根の上側の土砂を大きく圧縮することなく小さな抵抗で施工治具を引き上げることが可能となる。
【0024】
第4の発明によれば、施工治具の挿入溝の凹溝内に杭の突起部材を嵌合させることによって、施工治具及び杭を一体的に地盤から引き上げることが可能となる。
【0025】
第6の発明によれば、羽根がなくなることにより地盤中での杭の圧入速度が制限されなくなるので、大きな圧入力を必要としない地盤硬さの小さい中間層での圧入速度を速めることができ、施工性を向上させることが可能となる。また、杭に羽根を固着する必要がないことから杭に必要となる加工費、取付費を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】(a)は地盤中に圧入させる対象となる杭の正面図であり、(b)はその平面図である。
【図2】杭を回転させながら圧入させる際に用いられる施工治具の正面図である。
【図3】施工治具を杭に装着させる前の状態を示す斜視図である。
【図4】施工治具を杭に装着させた後の状態を示す斜視図である。
【図5】第1実施形態の杭の施工方法の手順について説明するための正面図である。
【図6】第1実施形態の杭の施工方法の手順について説明するための他の正面図である。
【図7】第2実施形態の杭の施工方法の手順について説明するための正面図である。
【図8】第2実施形態の杭の施工方法の手順について説明するための他の正面図である。
【図9】第3実施形態において用いられる施工治具の構成を示す正面図である。
【図10】第3実施形態における施工治具を杭に装着させる前の状態を示す正面図である。
【図11】第3実施形態における施工治具を杭に装着させた後の状態を示す正面図である。
【図12】第4実施形態において用いられる施工治具を杭に装着させた後の状態を示す正面図である。
【図13】(a)は第4実施形態における施工治具の挿入溝の凹溝内に杭の突起部材を嵌合させた状態を示す正面図であり、(b)はその嵌合状態を示す拡大正面図である。
【図14】第5実施形態における施工治具を利用した杭の引き抜き方法の手順について説明するための正面図である。
【図15】治具本体に固着される補助プレートについて説明するための一部切欠斜視図である。
【図16】施工治具の構成を模式的に示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明を実施するための形態として、円筒状の杭を地盤中に回転させながら圧入させる杭の施工方法について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0028】
まず、本発明に係る杭の施工方法の第1実施形態について説明する。以下においては、先に、本発明の適用の対象となる杭や施工治具の構成について説明する。
【0029】
図1(a)は、地盤中に圧入させる対象となる杭1の正面図であり、(b)はその平面図である。
【0030】
杭1は、建築物や橋梁のための基礎杭や、施工現場での施工機械、人間の足場の仮設ステージを構築するための基礎杭であったり、盛土構築時や縦孔掘削時にオールケーシング工法で用いられる土留めとしてのケーシングのような用途で、円筒状の杭として用いられるものである。本実施形態において杭1は、鋼管杭から構成されるものとする。杭1は、その下端1aが図示のように開口されていてもよいし、その下端1aの開口を閉塞する端板が固着されていてもよい。杭1は、回転圧入時において地盤を掘削するための構造として、掘削ビットがその下端1aに取り付けられていてもよいし、図示のように何も取り付けられていなくともよい。また、本実施形態において杭1には、その外周に螺旋状の羽根が固着されていないものとする。
【0031】
図2は、杭1を回転させながら圧入させる際に用いられる施工治具3の正面図である。また、図3は施工治具3を杭1に装着させる前の状態を示す斜視図であり、図4は装着させた後の状態を示す斜視図である。
【0032】
施工治具3は、治具本体31と、羽根33と、挿入溝35とを備えている。
【0033】
治具本体31は、円筒状に形成されるものであり、例えば、鋼管から構成されるものである。治具本体31は、ある程度の強度、剛性を確保できれば鉄系金属、非鉄系金属の何れから構成されていてもよい。治具本体31は、図4に示すように、杭1への装着時において、その内周側に杭1の上部を嵌合可能とするため、杭1の外径より若干大きい内径となるようにその寸法が調整されている。
【0034】
羽根33は、治具本体31の外周に沿って螺旋状に固着されるものである。羽根33は、本実施形態において、治具本体31の下端31aから上側に間隔を空けた位置にその羽根33の下端が位置するように固着されている。羽根33は、鋼板等を螺旋状に成形したものを治具本体31の外周に沿って当接させて、これらを溶接接合する等して固着されるものである。
【0035】
羽根33は、本実施形態において、図示のように治具本体31に対して一つのみ固着されているが、治具本体31の軸方向に間隔を空けて複数固着されていてもよい。また、羽根33の巻き数は、図示の例では略一巻きとされているがこれに限定するものではない。
【0036】
挿入溝35は、治具本体31の下側から上側に向けて延長されて形成されるものであり、本実施形態においては、治具本体31の下端31aから鉛直上側に向けて直線状に延長されて形成されており、更に、その奥側の側壁面35aに周方向に延長された凹溝36が形成されている。本実施形態における挿入溝35は、この凹溝36とによって略L字状に形成されている。
【0037】
挿入溝35は、杭1に固着された突起部材11を嵌合させるために形成されるものである。施工治具3の治具本体31は、杭1の突起部材11をその挿入溝35内に嵌合させることによって、杭1に対して装着されることになる。これにより、治具本体31が軸回りの両側に回転した場合は、挿入溝35の側壁面35aや凹溝36の側壁面36aに杭1の突起部材11が係合されて、治具本体31から杭1に回転トルクが伝達可能とされ、治具本体31が下側に押し込まれた場合は、挿入溝35の上壁面35bや凹溝36の上壁面36bに杭1の突起部材11が係合されて、治具本体31から杭1に押し込み力が伝達可能とされることになる。即ち、治具本体31の挿入溝35内に杭1の突起部材11を嵌合させることによって、治具本体31が杭1と一体的に回転可能及び圧入可能に装着されることになる。このように治具本体31を杭1に装着できれば、挿入溝35の形状は、本実施形態のように略L字状に限定するものではなく、例えば、凹溝36を形成しないこととして鉛直上側に直線状に延長されたのみの形状等に形成されていてもよい。
【0038】
挿入溝35は、治具本体31をレーザービーム切断、ガス切断する等して形成されるものであるが、後述のように、治具本体31に固着される補強プレート39に形成されていてもよい。
【0039】
杭1の突起部材11は、本実施形態において、略直方体状に形成されたブロック体が杭1の上端1b寄りの外周面に固着されて構成されている。杭1の突起部材11は、治具本体31の内周側に杭1を嵌合させた際に、治具本体31の挿入溝35に嵌合可能であれば特にその形状について限定するものではないが、本実施形態のように、挿入溝35への嵌合時に挿入溝35の両側の溝側面35aに対して略平行な当接面11aが両側面に形成されていれば、挿入溝35への嵌合作業が容易となるので好ましい。杭1の突起部材11は、例えば、鋼材等から構成される。杭1の突起部材11は、杭1に対して溶接等によって固着される。
【0040】
施工治具3の挿入溝35及び杭1の突起部材11は、それぞれの数が同じとなるように
設けられるものであり、更に、それぞれ対応した位置に設けられる。本実施形態において、挿入溝35及び突起部材11は、それぞれ周方向に間隔を空けて二つずつ設けられている。
【0041】
図5、図6は、本発明に係る第1実施形態の杭の施工方法の手順について説明するための正面図である。杭1の回転圧入作業時においては、図5(a)に示すような回転圧入装置5を用いる。この回転圧入装置5は、地盤7上に設置されるものであり、図示しないが、杭1や施工治具3の治具本体31のような筒状体を把持する把持部材と、把持部材によって筒状体を把持した状態で筒状体の軸回りの両側に筒状体を回転又は揺動させる回転モーターと、把持部材によって筒状体を把持した状態で筒状体を上下動させる上下動手段としてのシリンダとを備えている。また、この他に回転圧入装置5は、図示しないが筒状体を上下動させる際の鉛直方向の反力を得るためのカウンターウエイトや、筒状体を回転、揺動させる際の回転方向の反力を得るためのスパイクを備えている。
【0042】
次に、本発明に係る第1実施形態の杭の施工方法の手順について説明する。
【0043】
まず、図5(a)に示すように、回転圧入装置5の把持部材によって杭1を把持した後、把持部材によって把持した状態で杭1を回転させつつ降下させて、所望深さ杭1を地盤7の中間層71中に圧入させた後、把持部材による杭1の把持を解放して把持部材のみを上昇させた後、再度把持部材によって杭1を把持する。この動作を繰り返して杭1を地盤7の中間層71中に圧入させていく。なお、必要に応じて、複数の杭1を溶接により軸方向に直列に接合して継ぎ足しつつ圧入させてもよい。
【0044】
続いて、図5(b)に示すように、杭1によって基礎杭として目標とする支持力が得られる地盤硬さの支持層73近傍まで杭1の下端が到達した時点で、杭1に施工治具3の治具本体31を杭1と一体的に回転及び圧入可能に装着する。本実施形態においては、施工治具3の治具本体31の装着作業時において、杭1の突起部材11が地表面7aから露出しているものとする。施工治具3の治具本体31の装着作業時には、施工治具3の治具本体31を回転圧入装置5の把持部材によって把持した後、治具本体31を回転させることによって治具本体31の挿入溝35と杭1の突起部材11とを周方向で位置合わせした後、治具本体31の挿入溝35内に杭1の突起部材11が嵌合されるように治具本体31を降下させることによって作業が行われる。
【0045】
続いて、施工治具3の羽根33が地盤7中に入り込むまで、施工治具3の治具本体31を杭1とともに回転又は揺動させつつ圧入させる。続いて、図5(c)に示すように、施工治具3の治具本体31をその羽根33とともに地盤7中で軸回りの一方向に回転させることによって、羽根33の上面に接触している土砂から下向きの推進力が得られ、施工治具3及び杭1が一体的に地盤7中に圧入されることになる。この場合に、羽根33によって推進力が得られているので、地盤硬さが比較的硬い支持層73でも杭1の下端1aを大きな圧入力で簡単に圧入させることが可能となっている。ここで、施工治具3の治具本体31を回転させることになる軸回りの一方向とは、治具本体31の上側から下側に向かう際の治具本体31の羽根33の巻きの方向のことをいい、図4(a)に示す例ではP1方向のことをいう。
【0046】
続いて、支持層73に杭1の下端1aを到達させた後に、図6(a)に示すように、更に所定深さ杭1の下端1aを圧入させた時点で、施工治具3を杭1から取り外す。施工治具3の取り外し時には、先ほど施工治具3の治具本体31を回転させた軸回りの一方向と反対方向にその治具本体31を回転させることにより行う。これにより、羽根33の下面に接触している土砂から上向きの推進力が得られ、施工治具3のみが地盤7中から引き上げられる。ここで、軸回りの一方向と反対方向とは、図4(b)に示す例ではP2方向の
ことをいう。
【0047】
なお、施工治具3の治具本体31を軸回りの一方向と反対方向に回転させる場合、本実施形態においては挿入溝35に凹溝36が形成されているので、図4(b)に示すように、突起部材11が回転によって挿入溝35の凹溝36内に嵌合されてしまい、羽根33から得られる上向きの推進力が凹溝36内の突起部材11を介して杭1に伝達されてしまう。このため、本実施形態においては突起部材11が凹溝36内に嵌合されない位置まで治具本体31を回転させずに回転圧入装置5によって引き上げた後、治具本体31を回転させることになる。挿入溝35に凹溝36が形成されていない場合は、このような操作は特段必要とならない。
【0048】
また、治具本体31の回転によって杭1も回転することになるが、治具本体31の引き上げによって治具本体31の挿入溝35内を杭1の突起部材11が下方向に相対移動することになるので、杭1自体は引き上げられないことになる。また、支持層73に杭1の下端1aを到達させた後に更に杭1の下端1aを圧入させる深さは、例えば、杭1の杭径の3倍程度とされるがこれに限定するものではない。
【0049】
一つの杭1の貫入作業は、施工治具3の羽根33が地表面に露出するまで引き上げられた時点で、施工治具3の治具本体31を地盤7中から取り除くことによって完了する。この後は、必要となる数だけ杭1の回転圧入作業を先ほどと同じ要領で行う。この場合に、先行して行った杭1の貫入作業時に用いた施工治具3を後行して行う杭1の貫入作業時に用いてもよい。この後は、例えば、複数の杭1の上端部を包囲するようにコンクリートを打設してフーチング91を構築したうえで橋梁9等が構築されることになる。
【0050】
次に、本発明に係る杭の施工方法の効果について説明する。
【0051】
本発明によれば、杭1の貫入作業時において、作業初期においては杭1のみを所望深さまで回転圧入させた後、大きな圧入力が必要となった時点で施工治具3の治具本体31を杭1と一体的に回転及び圧入可能に装着させて、施工治具3の羽根33によって推進力を得ることにより必要となる圧入力を確保して、杭1を回転圧入させることが可能となっている。特に、圧入力の確保のために、施工治具3の羽根33によって推進力を得ることとしているため、圧入力や反力を得るための特別な構成を回転圧入装置5や杭1に適用する必要がなくなり、施工コストの大幅な増大を招くことなく必要となる圧入力を確保することが可能となっている。
【0052】
また、本発明によれば、施工治具3を一つの杭1の貫入作業後に地中から取り除くこととしているので、同じ施工治具3を繰り返し使用することができ、経済性に非常に優れたものとなっている。
【0053】
また、本実施形態のように、必要となる圧入力を確保するために杭1の外周に螺旋状の羽根が固着されていない場合、羽根がなくなることにより地盤7中での杭1の圧入速度が制限されなくなるので、大きな圧入力を必要としない地盤硬さの小さい中間層71での圧入速度を速めることができ、施工性を向上させることが可能となる。また、杭1に羽根を固着する必要がないことから杭1に必要となる加工費、取付費を低減させることが可能となる。なお、杭1は、その外周に螺旋状の羽根が固着されていてもよいが、このような効果が得られなくなってしまうので、固着されていない方が好ましい。
【0054】
なお、上述の実施形態においては、杭1に対して予め突起部材11が固着されているものとして説明したが、杭1の貫入作業時に必要となった時点で固着するようにしてもよい。
【0055】
また、杭1の貫入作業終了後の地表面7aから杭1の上端1bまでの距離である打ち止め高さは、施工治具3の地盤7中への圧入量や、杭1に対して固着される突起部材11の杭1の軸方向での取付位置等を変化させることによって調整できる。
【0056】
また、図4(a)に示すように、治具本体31の挿入溝35内に杭1の突起部材11を嵌合させた状態で、治具本体31をその羽根33とともに地盤7中でP1方向に回転させた場合、羽根33によって得られた下向きの推進力が挿入溝35の上壁面35b等に係合される杭1の突起部材11を介して杭1に伝達されて、杭1を圧入することができる。また、図4(b)に示すように、治具本体31の挿入溝35の凹溝36内に杭1の突起部材11を嵌合させた状態で、治具本体31をその羽根とともに地盤7中でP2方向に回転させた場合、羽根33によって得られた上向きの推進力が凹溝36の下壁面36cに係合される杭1の突起部材1を介して杭1に伝達されて、杭1を引き上げることができる。このことを利用して、施工治具3の治具本体31を杭1に装着して施工治具3及び杭1を一体的に地盤7中に圧入させる際に、治具本体31を軸周りの両方向に揺動させることによって、杭1を上下動させることが可能となる。これは、地盤硬さが硬く圧入作業が困難となる場合に、圧入作業を容易化するうえで有効となる。
【0057】
このように、治具本体31の挿入溝35に凹溝36が形成されている場合、凹溝36内に突起部材11を嵌合させることによる杭1の引き上げが可能となるが、上述のように杭1の下端1aを支持層73に到達させた後に杭1に上向きの推進力を伝達させないような操作が必要となる。このため、杭1の貫入作業時には地盤条件等に応じて挿入溝35に凹溝36が形成されているものや、形成されていないものを適宜使い分けることが好ましい。
【0058】
次に、本発明に係る杭の施工方法の第2実施形態について説明する。なお、上述した構成要素と同一の構成要素については、同一の符号を付すことによって以下での説明を省略する。
【0059】
図7、図8は、本発明に係る第2実施形態の杭の施工方法の手順について説明するための正面図である。
【0060】
第2実施形態においては、第1実施形態と異なり、支持層73より上側に地盤硬さが比較的硬い硬質中間層75と、地盤硬さが比較的低い軟質中間層77とが存在しているものとする。軟質中間層77は、硬質中間層75の上下の両側に存在しており、下側の軟質中間層77の更に下側に支持層73が存在していることになる。
【0061】
杭1の貫入作業時においては、杭1の下端1aが硬質中間層75の近傍に到達するまでは第1実施形態と同様の手順で行う。続いて、図7(a)に示すように、杭1の下端1aを硬質中間層75に圧入させるのに必要となる圧入力を得るために、杭1に施工治具3の治具本体31を杭1と一体的に回転及び圧入可能に装着させる。この場合において、第1実施形態の場合と異なり、杭1の中間部が地表面上に位置していることから、施工治具3の治具本体31も杭1の中間部に装着させる。このように、施工治具3の治具本体31を杭1に装着させる位置については特段限定するものではない。
【0062】
続いて、図7(b)に示すように、施工治具3の治具本体31をその羽根33とともに地盤7中で軸回りに一方向に回転させることによって羽根33により推進力を得つつ、杭1の下端1aが硬質中間層75を超えるまで圧入させる。これにより、地盤硬さが硬い硬質中間層75でも杭1の下端1aを大きな圧入力で簡単に圧入させることが可能となる。
【0063】
この後は、図7(c)、(d)、図8(a)〜(d)に示すように、施工治具3を杭1から一度取り外して杭1のみを回転圧入させた後、杭1の下端1aが再度他の硬質中間層75や支持層73の近傍に到達した時点で、杭1の外周面に突起部材11を固着した後に再度施工治具3を杭1に装着して、羽根33により推進力を得つつ所定深さ杭1の下端1aを支持層73に圧入させた時点で、第1実施形態と同じ要領で杭1から施工治具3を取り外す。
【0064】
なお、杭1に対して施工治具3の治具本体31を装着した後に、硬質中間層75を超えるまで杭1の下端1aを圧入させた後に、杭1の下端1aを支持層73に所定深さ圧入させるまで、施工治具3を杭1から取り外すことなく作業を続けてもよい。この場合、杭1の下端1aを支持層73に所定深さ圧入可能となるよう、治具本体31の軸方向長さを調整することになる。
【0065】
次に、本発明に係る杭の施工方法の第3実施形態について説明する。
【0066】
図9は本実施形態において用いられる施工治具3の構成を示す正面図であり、図10は、施工治具3の治具本体31を杭1に装着させる前の状態を示す正面図であり、図11は装着させた後の状態を示す正面図である。
【0067】
本実施形態における施工治具3は、第1実施形態における施工治具3の直線状に形成された挿入溝35が螺旋状に形成された挿入溝37として構成されている。この挿入溝37は、羽根33のピッチ、巻きの方向に対応したピッチ、巻きの方向で螺旋状に形成されたものとなっている。なお、ここでいうピッチとは、羽根33や挿入溝37が治具本体31を周方向に一回点したときにこれらが軸方向に進む距離のことをいう。
【0068】
本実施形態において杭1に固着される突起部材11は、略六角形状のブロック体から構成されている。この突起部材11は、挿入溝37の側壁面37aが鉛直面に対して傾斜して設けられていることからこれに応じた当接面11aを有する形状とされており、挿入溝37の側壁面37aに略平行な当接面11aが両側面に形成されている。
【0069】
杭1に固着された突起部材11は、杭1への装着時において、挿入溝37の奥側に位置する奥壁面37bに係合されるようにその挿入溝37に嵌合される。これにより、治具本体31が軸周りの一方向に回転した場合は、挿入溝37の奥壁面37bに杭1の突起部材11が係合されて、治具本体31から杭1に回転トルクが伝達可能とされ、治具本体31が下側に押し込まれた場合は、挿入溝37の上側の側壁面37aに杭1の突起部材11が係合されて、治具本体31から杭1に押し込み力が伝達可能とされることになる。
【0070】
杭1の貫入作業時においては、杭1の下端1aが支持層73の近傍に到達するまでは第1実施形態と同様の手順で行う。ただし、本実施形態においては、施工治具3の治具本体31の装着作業時において、杭1の突起部材11が地表面7aより下側に配置されているものとする。
【0071】
この場合、第1実施形態のような施工治具3の挿入溝35が直線状に形成されたものであると、施工治具3の治具本体31を回転圧入装置5によって把持した後、把持した状態で施工治具3の治具本体31の挿入溝35内に杭1の突起部材11が嵌合されるまで降下させる際に、施工治具3の羽根33の下面が地盤7に接触して抵抗してしまうことになる。ここで、例えば、地盤7の地表面層の地盤硬さが硬い場合、そもそも施工治具3の降下が困難になってしまうため、施工治具3の羽根33を地盤7中で回転させて羽根33によって推進力を得ながら施工治具3を降下させることになる。
【0072】
ここで、治具本体31の挿入溝35内に杭1の突起部材11が嵌合された後も挿入溝35の上壁面35bに係合されるまで治具本体31を回転させることになるが、この場合、杭1の突起部材11は挿入溝35の途中部位に係合されつつ挿入溝35内を上側に相対移動することになる。このため、複数回の使用によって、挿入溝35の途中部位が変形してしまい、嵌合作業を容易に行えなくなり、施工治具3の耐久性を低下させる可能性がある。
【0073】
これに対して、本実施形態のように、羽根33のピッチに対応したピッチで螺旋状に形成された挿入溝37が形成されている場合、治具本体31の挿入溝37内への杭1の突起部材11の嵌合作業時に、治具本体31が回転量に応じた量だけ下降するのと同じ関係で、治具本体31の挿入溝37も回転量に応じた量だけ下降することになる。このため、治具本体31の挿入溝37内に嵌合された杭1の突起部材11は、図11に示すような治具本体31のP1方向への回転時において、矢印Aに沿って挿入溝37内を通り抜けることとなり、杭1の突起部材11が挿入溝37の途中部位で強く接触することがない。このため、施工治具3の挿入溝37を螺旋状とすることにより、施工治具3の耐久性が向上することになる。
【0074】
また、施工治具3の取り外し時においては、治具本体31を回転させながら取り外すことができるため、この場合でも、挿入溝37の側壁面37aに杭1の突起部材11が強く接触することがないので、施工治具3の杭1からの取り外し作業時の観点からも耐久性が向上することになる。
【0075】
更にまた、第1実施形態の施工治具3のように挿入溝35が直線状に形成されていると、鉛直上方に施工治具3を引き上げる際に、羽根33の上側の土砂を大きく圧縮する必要があるため大きな抵抗が発生してしまう。これに対して、本実施形態の施工治具3のように挿入溝37が螺旋状に形成されていると、回転させながら引き上げることで、羽根33の上側の土砂を大きく圧縮することなく小さな抵抗で引き上げることが可能となる。
【0076】
なお、本実施形態に係る杭の施工方法では、施工治具3の挿入溝35の形状と杭1の突起部材11の形状とが第1実施形態と相違しているのみで、杭の施工方法の手順については第1実施形態と同様の手順で行われる。
【0077】
次に、本発明に係る杭の施工方法の第4実施形態について説明する。
【0078】
図12は本実施形態において用いられる回転圧入用治具3を杭1に装着させた後の状態を示す正面図である。
【0079】
本実施形態において施工治具3は、第3実施形態における施工治具3と比較して、その挿入溝37の下側の側壁面37aに凹溝38が形成されている点で相違している。
【0080】
図13(a)はこの施工治具3の挿入溝37の凹溝38内に杭1の突起部材11を嵌合させた状態を示す正面図であり、(b)はその嵌合状態を示す拡大正面図である。このように、挿入溝37の凹溝38は、杭1の突起部材11をその内側に嵌合させるために形成されるものであり、杭1の突起部材11を嵌合可能な形状に調整されている。これにより、治具本体31が軸回りの両側に回転した場合は、凹溝38の側壁面38aに杭1の突起部材11が嵌合されて、治具本体31から杭1に回転トルクが伝達可能とされ、治具本体31が上側に引き上げられた場合は、凹溝38の下壁面38bに杭1の突起部材11が係合されて、治具本体31から杭1に引き上げ力が伝達可能とされることになる。
【0081】
なお、挿入溝37の凹溝38は、挿入溝37の下側の側壁面37aに形成されていれば
、その形成される位置について特段限定するものではない。
【0082】
次に、本実施形態に係る杭の施工方法の手順について説明する。
【0083】
支持層73近傍まで杭1の下端を圧入させた後、杭1に施工治具3の治具本体31を装着するまでは第3実施形態と同様の手順で行う。続いて、施工治具3の治具本体31をその羽根33とともに地盤7中で軸回りの一方向に回転させることによって、羽根33から下向きの推進力を得つつ、施工治具3及び杭1を一体的に地盤7中に圧入させる。
【0084】
ここで、上述のように地盤硬さが硬く圧入作業が困難となる場合に、杭1を上下動させる必要が生じるケースがある。この場合、羽根33によって下向きの推進力は、図12に示す状態から治具本体31をP1方向に回転させることによって得られる。また、羽根33によって上向きの推進力を得るためには、図12に示す状態から、施工治具3の治具本体31を軸回りの一方向と反対方向であるP2方向に回転させつつ上昇させることによって、施工治具3の挿入溝37の凹溝38内に杭1の突起部材11を嵌合させて、その状態から施工治具3の治具本体31をP2方向に回転させることによって得られる。これを繰り返すことによって、杭1を上下動させることが可能となり、圧入作業を容易化することが可能となる。
【0085】
次に、本発明の第5実施形態について説明する。本実施形態においては、第1実施形態において説明したような施工治具3を利用することによって、地盤中に圧入された既設の杭1を引き抜く杭の引き抜き方法について説明する。
【0086】
建築物や橋梁の建て替え等のため基礎杭の撤去が必要なケースや、杭1の施工時において設置した仮設ステージ、土留めを構成するケーシングを施工完了後に引き抜くケースがある。この場合、以下に説明するようにして、杭1を引き抜くことができる。
【0087】
まず、図14(a)に示すように、第1実施形態と同様の施工治具3の治具本体31を地盤7中に圧入させる。治具本体31は、その挿入溝35内に杭1の突起部材11が嵌合されるまで圧入する。なお、地盤7中に圧入されている杭1には、予め突起部材11が設けられているものとする。
【0088】
続いて、図14(b)に示すように、杭1の突起部材11が挿入溝35の凹溝36内に嵌合されるように、治具本体31をP2方向に回転させる。続いて、図14(c)に示すように、治具本体31をそのままP2方向に回転させ続け、羽根33によって上向きの推進力を得つつ、杭1を引き上げる。杭1の上端が地表面7aから露出する程度にまで引き上げられたら、その後は回転圧入装置5によって直接杭1を引き上げるようにしてもよいし、先ほどの杭1の引き上げで用いた突起部材11を取り除いた後に、その取り除いた突起部材11より下側に設けられた突起部材11と施工治具3とを再度利用して杭1を引き上げるようにしてもよい。これによって、杭1が引き抜かれることになる。
【0089】
このように、本発明に係る施工治具3を利用して杭1を引き抜く場合、施工治具3の羽根33によって上向きの推進力を得つつ杭1を引き上げることが可能となり、施工性を向上させることが可能となる。
【0090】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明したが、前述した実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0091】
また、施工治具3の治具本体31は、各実施形態のようにその内周側に杭1が嵌合され
ていてもよいし、その外周側に杭1が嵌合されるようにしてもよい。この場合、杭1の突起部材11は、杭1の内周側に固着されることになる。
【0092】
また、上述の実施形態において挿入溝35、37は、施工治具3の治具本体31に直接形成されている場合について説明したが、図15に示すように、治具本体31の内周面に沿って固着された補助プレート39に形成されていてもよい。この補助プレート39は、鋼板等から構成される板状部材であり、治具本体31の内周面に沿って湾曲した形状とされている。この補助プレート39は、例えば、ボルト接合、溶接接合等することによって治具本体31に対して固着される。補助プレート39の位置は、図示のように、治具本体31の下端とその下端が異なる位置にあってもよい。
【0093】
なお、補助プレート39は、施工治具3の治具本体31の外周側に杭1が嵌合される場合、その治具本体31の外周面に沿って固着されることになる。
【0094】
また、施工治具3の羽根33は、以下に説明するような寸法から構成されていてもよい。図16は、施工治具3の構成を模式的に示す正面図である。
【0095】
羽根33は、回転時において、図16に示すように、その上面に接触している土砂の重量を反力として推進力を得ている。この推進力は、具体的には、正面視において、羽根33の外周端33cから鉛直面に対して略45°外側に傾斜して延長される影響線l1に囲まれる範囲S1内の土砂の重量が影響している。このため、効率的に推進力を得るためには、羽根33の取り付け高さH1は、治具本体31の直径L0の1.0倍以下となるように調整することが好ましい。これは、H1がL0の1.0倍超であると、地盤面7aから羽根33までの距離が近くなることによって推進力の反力として働く土砂の重量が小さくなり、十分な推進力が得られなくなるためである。また、羽根33の取り付け高さH1は、直径L0の0.1倍未満であると、羽根33を治具本体31に溶接で取り付ける際の加工が困難となるため、直径L0の0.1倍以上となるよう調整することが好ましい。
【0096】
また、効率的に推進力を得るためには、羽根33の径L1は、治具本体31の直径L0の1.5倍以上、2.5倍以下となるように調整することが好ましい。これは、L1がL0の1.5倍未満であると、推進力が小さく圧入力を補助する効果が小さくなり、L1がL0の2.5倍超であると、回転時の抵抗が大きくなりすぎ好ましくないためである。
【0097】
また、羽根33のピッチL2は、治具本体31の直径L0の0.2倍以上、0.4倍以下となるように調整することが好ましい。これは、L2がL0の0.2倍未満であると、治具本体31が一回転当たりに進む量が小さすぎて施工性が低減してしまい好ましくなく、L2がL0の0.4倍超であると、回転抵抗が増大してしまい施工性が低減してしまい好ましくないためである。
【符号の説明】
【0098】
1 :杭
3 :施工治具
5 :回転圧入装置
7 :地盤
11 :突起部材
31 :治具本体
33 :羽根
35 :挿入溝
37 :挿入溝
38 :凹溝
39 :補助プレート
71 :中間層
73 :支持層
75 :硬質中間層
77 :軟質中間層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤中に円筒状の杭を回転させながら圧入させる杭の施工方法において、
地盤中に圧入させた上記杭に対して、外周に沿って螺旋状の羽根が固着された円筒状の治具本体を当該杭と一体的に回転及び圧入可能に装着し、
上記治具本体をその羽根とともに地盤中で回転させることによって上記杭及び当該治具本体を地盤中に圧入させ、
上記杭から上記治具本体を取り外して当該治具本体を地盤中から取り除くこと
を特徴とする杭の施工方法。
【請求項2】
上記治具本体の下側から上側に向けて形成された挿入溝内に上記杭に固着された突起部材を嵌合させて、上記杭に対して上記治具本体を当該杭と一体的に回転及び圧入可能に装着すること
を特徴とする請求項1記載の杭の施工方法。
【請求項3】
上記治具本体をその羽根とともに地盤中で軸回りの一方向に回転させることにより、上記治具本体の下側から上側に向けて上記羽根のピッチに対応したピッチで螺旋状に形成された挿入溝内に上記杭に固着された突起部材を嵌合させて、上記杭に対して上記治具本体を当該杭と一体的に回転及び圧入可能に装着し、
上記治具本体を軸周りの一方向と反対方向に回転させることにより、上記杭から上記治具本体を取り外して当該治具本体を地盤中から取り除くこと
を特徴とする請求項1又は2記載の杭の施工方法。
【請求項4】
上記治具本体をその羽根とともに地盤中で軸回りの一方向に回転させることによって上記杭及び当該治具本体を地盤中に圧入させることと、上記挿入溝の側壁面に形成された凹溝内に上記杭の突起部材を嵌合させた状態で、上記治具本体をその羽根とともに地盤中で軸回りの一方向と反対方向に回転させることによって、上記杭及び当該治具本体を地盤中から引き上げることとを繰り返して上記杭を上下動させること
を特徴とする請求項2又は3記載の回転圧入方法。
【請求項5】
上記治具本体の外周面又は内周面に沿って固着された補助プレートに形成された上記挿入溝内に上記杭に固着された突起部材を嵌合させて、上記杭に対して上記治具本体を装着すること
を特徴とする請求項1〜4の何れか1項記載の杭の施工方法。
【請求項6】
外周に沿って螺旋状の羽根が固着されていない上記杭を圧入させること
を特徴とする請求項1〜5の何れか1項記載の杭の施工方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか1項記載の杭の施工方法に用いられる杭の施工治具であって、
上記杭に対して一体的に回転及び圧入可能に装着される円筒状の治具本体と、
上記治具本体の外周に沿って螺旋状に固着された羽根とを備えること
を特徴とする杭の施工治具。
【請求項8】
上記治具本体の下側から上側に向けて形成され、上記杭に固着される突起部材を嵌合させるための挿入溝を更に備えること
を特徴とする請求項7記載の杭の施工治具。
【請求項9】
上記挿入溝は、上記治具本体の下側から上側に向けて上記羽根のピッチに対応したピッチで螺旋状に形成されていること
を特徴とする請求項8記載の杭の施工治具。
【請求項10】
上記挿入溝は、その側壁面に上記杭の突起部材を嵌合させるための凹溝が形成されていること
を特徴とする請求項8又は9記載の杭の施工治具。
【請求項11】
上記挿入溝は、上記治具本体の外周面又は内周面に沿って固着された補助プレートに形成されていること
を特徴とする請求項7〜10の何れか1項記載の杭の施工治具。
【請求項12】
地盤中に圧入された杭を引き抜くための杭の引き抜き方法であって、
請求項10記載の杭の施工治具における治具本体を、その羽根とともに地盤中で軸回りの一方向に回転させることによって地盤中に圧入させて上記杭に対して装着し、
上記杭の突起部材を上記挿入溝の凹溝内に嵌合させた状態で、上記治具本体をその羽根とともに地盤中で軸回りの一方向と反対方向に回転させることによって、上記杭及び当該治具本体を地盤中から引き上げること
を特徴とする杭の引き抜き方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−242405(P2010−242405A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−93130(P2009−93130)
【出願日】平成21年4月7日(2009.4.7)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】