説明

板状体加熱装置

【課題】加熱ムラをなくし、加熱時間を短縮して生産性を向上させた板状体加熱装置を提供する。
【解決手段】植物性繊維と熱可塑性樹脂を含む材料からなる板状体Wを加熱する予備加熱装置50であって、過熱水蒸気Sを生成する過熱装置35と、過熱装置35から延出してなる主配管54A1,54A2、54B1,54B2と、主配管54A1,54A2、54B1,54B2から分岐してなる複数の噴出部配管52と、噴出部配管52に配設され、過熱水蒸気Sを板状体Wの板面に向けて噴出する複数の噴出部51と、を備えている。一対の主配管54A1,54A2、54B1,54B2の間を板状体Wが通過するように構成され、一対の主配管54A1,54A2、54B1,54B2のうち一方は板状体Wの搬送方向の上流側に配され、他方は板状体Wの搬送方向の下流側に配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物性繊維と熱可塑性樹脂を含む材料からなる板状体を加熱する板状体加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の板状体加熱装置として、例えば下記特許文献1に記載のコンタクトヒータが知られている。このコンタクトヒータは、ヒータが内部に埋め込まれた上下一対の加熱体を有しており、両加熱体で板状体を上下方向から挟んで加熱する構成である。熱可塑性樹脂は、その融点以上に加熱されることで融解し、融解した熱可塑性樹脂をプレスすることによって所定形状に成形される。この状態から熱可塑性樹脂が冷え固まると、この熱可塑性樹脂がバインダとなって植物性繊維を所定形状に保持することにより、所定形状を有する基材が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−8306号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のコンタクトヒータでは、例えば基材の生産性向上の観点から加熱装置の設定温度を高くした場合に、加熱体の内部におけるヒータの配置等により加熱ムラが発生し、基材が局所的に焼け付き、あるいはバインダである熱可塑性樹脂の軟化状態がばらつく等して、基材が不良品となることがあった。一方、加熱装置の設定温度を低くした場合には、加熱時間が長くなり、生産性が低下してしまう。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みて創作されたものである。本発明は、加熱ムラをなくし、加熱時間を短縮して生産性を向上させた板状体加熱装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書で開示される技術は、植物性繊維と熱可塑性樹脂を含む材料からなる板状体を加熱する板状体加熱装置であって、熱媒体を生成する熱媒体生成装置と、該熱媒体生成装置から延出してなる主配管と、該主配管から分岐してなる複数の噴出部配管と、該噴出部配管に配設され、前記熱媒体を前記板状体の板面に向けて噴出する複数の噴出部と、を備え、一対の前記主配管の間を前記板状体が通過するように構成され、一対の前記主配管のうち一方は前記板状体の搬送方向の上流側に配され、他方は前記板状体の搬送方向の下流側に配されている板状体加熱装置に関する。
【0007】
上記の板状体加熱装置によると、一対の主配管が板状体を隔てて板状体の搬送方向の上流側と下流側とに配されることにより、板状体を加熱ムラなく均一に加熱することができ、加熱時間を短縮して生産性を向上させることができる。
【0008】
前記板状体は2つの加熱領域により加熱されるものであり、一方の前記加熱領域では、一対の前記主配管のうち一方が前記板状体の第1主面側であって前記上流側に配され、他方が前記板状体の第2主面側であって前記下流側に配され、他方の前記加熱領域では、一対の前記主配管のうち一方が前記板状体の前記第1主面側であって前記下流側に配され、他方が前記板状体の前記第2主面側であって前記上流側に配されていてもよい。
この構成によると、板状体が2つの加熱領域により加熱される場合であっても、板状体を各加熱領域において加熱ムラなく均一に加熱することができ、加熱時間を短縮して生産性を向上させることができる。
【0009】
前記熱媒体によって加熱された板状体をさらに加熱し、その加熱された前記板状体を所定の温度に保持してもよい。
この構成によると、熱媒体によって加熱された板状体をさらに加熱する際に、短時間で板状体を所定の温度にまで加熱することができ、かつ、所定の温度に保持することができる。
【0010】
前記熱媒体は、過熱水蒸気であってもよい。
この構成によると、過熱水蒸気を板状体に吹き付けることが可能となり、加熱時間をさらに短縮できることに加えて、環境負荷を低減することができる。また、過熱水蒸気は空気よりも熱容量が大きく、空気を介さずに板状体を直接加熱できるため、空気を媒体として加熱する熱風循環式の加熱装置よりも熱伝達率を高めることができる。
【発明の効果】
【0011】
本明細書で開示される技術によると、加熱ムラをなくし、加熱時間を短縮して生産性を向上させた板状体加熱装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態に係る基材Kの製造方法のフローチャートを示す。
【図2】板状体Wを予備成形するための予備成形型10の断面図であり、予備成形型10が閉じる前の状態を示す。
【図3】板状体Wを予備成形するための予備成形型10の断面図であり、予備成形型10が閉じた後の状態を示す。
【図4】予備成形体Zを本成形するための本成形型20の断面図であり、本成形型20が閉じる前の状態でかつ予備成形型がセット中心に導入された状態を示す。
【図5】予備成形体Zを本成形するための本成形型20の断面図であり、本成形型20が閉じる前の状態でかつ予備成形型が成形中心側に配置された状態を示す。
【図6】予備成形体Zを本成形するための本成形型20の断面図であり、本成形型20が閉じた後の状態を示す。
【図7】板状体Wがハンガー30に吊り下げられた状態を斜め前方から視た斜視図を示す。
【図8】板状体Wがハンガー30に吊り下げられた状態を側方から視た側面図を示す。
【図9】基材成形装置100の全体斜視図を示す。
【図10】基材成形装置100の略後半部を表した平面図を示す。
【図11】基材成形装置100の略前半部を表した平面図を示す。
【図12】予備加熱装置50を斜め上方から視た斜視図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<実施形態>
本発明の実施形態を図1ないし図12の図面を参照しながら説明する。
図1は、基材Kの製造方法を示すフローチャートである。図1に示すように、基材Kを製造するためには、植物性繊維と熱可塑性樹脂を混合した材料からなる板状体Wを加熱した後に(予備加熱工程)、加熱した板状体Wをさらに加熱し(本加熱工程)、加熱した板状体Wを予備成形体Zに予備成形し(予備成形工程)、予備成形体Zを基材Kに本成形する(本成形工程)。これにより、所定の形状に成形された基材Kを得ることができる。
【0014】
板状体Wに含まれる植物性繊維とは、植物由来の繊維材料のことである。このような繊維材料は、例えば、綿、麻、サイザル、ジュート、ケナフなどから採取することが可能である。この中では、特にケナフが好ましい。ケナフは、成長が早くしかもCOを多く吸収することから、地球環境保全にとって有効だからである。また、ケナフの靭皮からは比較的長くて丈夫な繊維を採取することが可能だからである。
【0015】
板状体Wに含まれる熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ乳酸(PLA)等を用いることができる。この中では、特にポリプロピレンが好ましい。
【0016】
板状体Wを製造するためには、植物性繊維と熱可塑性樹脂を混合した材料を混綿させることでマット状とした後に、得られたマット体を熱圧プレスによって板状に成形する。これにより、所定の厚みを有する板状体Wを製造することができる。このような板状体Wの製造方法は、例えば、特開2001−179716号公報、特開2002−371455号公報等に開示されている。なお、板状体Wは、「熱成形用繊維板」、「プレボード」などの別の名称で呼ばれる場合がある。
【0017】
板状体Wを加熱することによって、当該板状体Wに含まれる熱可塑性樹脂を溶融させることができる。例えば、板状体Wに含まれる熱可塑性樹脂がポリプロピレンである場合には、ポリプロピレンの融点は160℃〜170℃であるため、板状体Wをこれ以上の温度(例えば200℃)に加熱することで当該板状体Wに含まれる熱可塑性樹脂を溶融させることができる。
【0018】
図2、図3は、板状体Wを予備成形するための予備成形型10の断面図である。図2に示すように、予備成形型10は、一対の金型12、14を有している。このうち一方の金型12は、中央部分が凹んだ形状を有しており、他方の金型14は、中央部分が突出した形状を有している。一対の金型12、14は、型面同士が互いに対向するようにして左右に配置されている。そして、金型12、14の型面間に板状体Wが上下方向に吊り下げられた状態で配置される。図3に示すように、予備成形型10を構成するこれら一対の金型12、14は、例えば金型12を金型14側に移動させ型閉じすることで上下方向に吊り下げられた状態の板状体Wを表裏両面からプレスすることが可能となっている。これにより、板状体Wは、予備成形体Zに成形される。
【0019】
図4、図5、図6は、板状体Wを本成形するための本成形型20の断面図である。図4に示すように、本成形型20は、一対の金型22、24を有している。このうち一方の金型22は、中央部分が凹んだ形状を有しており、他方の金型24は、中央部分が突出した形状を有している。一対の金型22、24は、型面22a、24a同士が互いに対向するようにして左右に配置されている。図4において両型面22a、24aの中心に配置された予備成形体Zの位置を以下「セット中心」という。
【0020】
図5に示すように、予備成形体Zは、両金型22、24によって行われるプレス加工に先立って、予め他方の金型24の型面24a側(成形中心側)に配置される。次に図6に示すように、本成形型20を構成するこれら一対の金型22、24は、例えば金型22を金型24側に移動させ型閉じすることで上下方向に吊り下げられた状態の板状体Wを表裏両面からプレスすることが可能となっている。
【0021】
予備成形体Zを本成形するための本成形型20は、冷間プレス用の成形型が用いられる。ここでいう「冷間プレス」とは、本成形型20の型面を積極的に加熱しないで行うプレス成形のことを意味するが、加工熱や摩擦熱などによって本成形型20の型面22a、24aがある程度加熱される場合も含まれる。加熱した板状体Wを本成形型20(冷間プレス型)でプレスすることによって、板状体Wに含まれている熱可塑性樹脂が冷却されて固化する。これにより、所定形状に成形された基材Kを得ることができる(図6参照)。図6において両型面22a、24aの中心に配置された基材Kの位置を以下「成形中心」という。
【0022】
このようにして得られた基材Kは、軽量でかつ強度が高いことから、車両用内装材の基材として用いることができる。例えば、基材Kは、ドアトリム、インストルメントパネル、シートバックボード、パーティションボード、コンソールボックス、ピラーガーニッシュ、クォータトリムなどに用いることができる。
【0023】
図2と図4を比較すればわかるように、予備成形型10を構成する一対の金型12、14のクリアランスCL1は、本成形型20を構成する一対の金型22、24のクリアランスCL2よりも大きく設定されている。例えば、CL2が5mmである場合には、クリアランスCL1がそれよりも大きい10mmに設定されている。したがって、板状体Wを一回で基材Kに成形するのではなく、まず、板状体Wを予備成形体Zに成形し、次に、この予備成形体Zを基材Kに成形することにより、段階的に(2段階で)成形することが可能となっている。
【0024】
さらに、本成形工程でセット中心に導入された予備成形体Zを成形中心側に移動させて本成形することにより、両金型22、24を型閉じする途中で予備成形体Zがロックされることを回避し、プレス加工後に基材Kの中央部分が引き延ばされて薄肉となることを規制できる。
【0025】
図7は、板状体Wを吊り下げた状態で保持するためのハンガー30の斜視図である。図8は、ハンガー30の側面図である。
【0026】
図7に示すように、ハンガー30には、鉄やアルミニウムなどの金属製のパイプ状部材からなるシャフト32が設けられている。シャフト32の長さは、板状体Wの横幅よりも大きく形成されている。シャフト32の下部には、板状体Wの上縁部を挟むための2つのクランプ34が取り付けられている。シャフト32の上部には、後述するスライドレール62に載置されるローラ36が取り付けられている。2つのローラ36は、側面視において略L字状に形成された取付部材38を介してシャフト32の上部に取り付けられている。クランプ34および取付部材38は、図8に示すようにシャフト32を上下方向に貫通するボルト32Aによって連結されている。
【0027】
図8に示すように、クランプ34は、鉄やアルミニウムなどの金属製の板状部材からなる一対の挟持部材を有している。両挟持部材は、ヒンジ35を支点としてその下端部を開閉させることで板状体Wの上縁部を挟むことができるように構成されている。すなわち、両挟持部材の一方は、同他方に対して板状体Wの上縁部を保持する閉じ位置と板状体Wの上縁部を解除する開き位置との間を開閉可能とされている。両挟持部材の上端部間には、ばね部材37が取り付けられており、このばね部材37によって両挟持部材の下端部がヒンジ35を支点として閉じる方向に付勢されている。両挟持部材の下端部の内面側には、板状体Wが下方に落ちることを規制するための滑り止め用の溝部34aが形成されている。
【0028】
図9は、基材Kを成形するための基材成形装置100の全体斜視図である。また、図10は、基材成形装置100の略後半部を表した平面図である。また、図11は、基材成形装置100の略前半部を表した平面図である。図9ないし図11に示すように、基材成形装置100は、板状体Wを加熱する加熱装置を備えている。この加熱装置は、予備加熱装置50と本加熱装置40とから構成されている。予備加熱装置50と本加熱装置40は、基材成形装置100の入口側からこの順に配置されており、本加熱装置40は、予備加熱装置50と平面視略垂直かつ略水平に配置されている。すなわち、予備加熱装置50と本加熱装置40は、平面視略L字状に直交する配置で連結されている。板状体Wは、予備加熱装置50で約170℃に加熱され、加熱状態のまま本加熱装置40に投入される。なお、予備加熱装置50の構成については後で詳しく説明する。
【0029】
本加熱装置40は、板状体Wをその内部に通過させることで均一に加熱することのできる熱風循環式の加熱炉42と、その加熱炉42の内部において板状体Wを搬送することのできる搬送装置44とを備えている。加熱炉42の内部温度は例えば200℃に設定されており、予め170℃付近に加熱された板状体Wを200℃に加熱し保持することにより、当該板状体Wに含まれる熱可塑性樹脂の溶融状態を維持させることが可能となっている。
【0030】
搬送装置44は、並列に配置された2台のチェーンコンベヤ46a、46bによって構成されており、この2台のチェーンコンベヤ46a、46bは同期して駆動されている。この2台のチェーンコンベヤ46a、46bの上面には、前述したハンガー30を構成するシャフト32の両端部が載置される。これにより、搬送装置44は、ハンガー30によって吊り下げられた状態で保持される板状体Wを加熱炉42の内部で搬送することができるようになっている。なお、搬送装置44におけるハンガー30の搬送方向を「前方」と表記することとする。
【0031】
加熱炉42の内部には、板状体Wを予備成形するための予備成形型10が設置されている。搬送装置44と予備成形型10は、加熱炉42の内部においてオフセット位置に設置されている。ここでいう「オフセット位置」とは、「互いの中心軸が離れた位置」という意味であり、具体的には、搬送装置44の中心軸P1と、予備成形型10の中心軸P2が水平方向に離れた位置という意味である。
【0032】
予備成形型10の下方には、本成形型20が設置されている。予備成形型10と本成形型20は、オフセット位置に配置されている。ここでいう「オフセット位置」とは、「互いの中心軸が離れた位置」という意味であり、具体的には、予備成形型10の中心軸P2と、本成形型20の中心軸P3が上下方向に離れた位置という意味である。
【0033】
なお、加熱炉42の略後半部は、平面視において略L字形(図10参照)に形成されており、オフセット位置に配置された搬送装置44と予備成形型10をともに収容できるようになっている。本成形型20は、予備成形型10の下方であって、かつ、加熱炉42の外部に設置されている。
【0034】
図10に示すように、基材成形装置100は、搬送装置44からスライドレール62にハンガー30を受け渡すためのハンガー受け渡し機構80を備えている。ハンガー受け渡し機構80は、2つのアーム81を備えており、この2つのアーム81によってハンガー30を構成するシャフト32の両端部を下方から持ち上げることが可能となっている。
【0035】
さらに、基材成形装置100は、板状体Wを搬送装置44から予備成形型10へ移送するため板状体移送機構60を備えている。板状体移送機構60は、搬送装置44の前方に搬送装置44と平面視略垂直かつ略水平に配置されたスライドレール62と、そのスライドレール62に載置されたハンガー30を水平方向に移動させることのできる水平方向移動機構64によって構成されている。
【0036】
水平方向移動機構64によって予備成形型10に搬送されたハンガー30は、ハンガー移送機構66に受け取られる。ハンガー移送機構66は、図9に示すように、一対のアーム67を有し、シャフト32の両端部を両アーム67に支持した状態で、板状体Wないし予備成形体Zを移送可能である。予備成形体Zは、ハンガー移送機構66によって予備成形型10から本成形型20へ移送される。
【0037】
次に、予備加熱装置50の構成について図11及び図12の図面を参照しながら説明する。図11は、基材成形装置100の略前半部を表した平面図であって、予備加熱装置50の平面図である。図12は、予備加熱装置50を斜め上方から視た斜視図である。なお、図11及び図12の矢印C方向は、板状体Wの搬送方向を示しており、矢印D方向は、搬送される板状体Wの板面の表側方向を示している。
【0038】
図11及び図12に示すように、予備加熱装置50は、第1加熱炉50Aと第2加熱炉50Bとから構成されている。各加熱炉50A,50Bには、上下方向に延びる一対の主配管54A1,54A2、54B1,54B2がそれぞれ設けられている。各主配管54A1,54A2、54B1,54B2からは、水平方向に延びる複数の噴出部配管52が分岐しており、この噴出部配管52は板状体Wの表裏両側に対向配置されている。このため、板状体Wは、一対の主配管54A1,54A2、54B1,54B2の間及び対向配置された両噴出部配管52の間を通過する。
【0039】
各主配管54A1,54A2、54B1,54B2は、図11に示すように、その下方が過熱装置53に接続されている。この過熱装置53は、ボイラー(図示しない)から送られてきた水蒸気を過熱して過熱水蒸気Sを生成する装置である。一方、各噴出部配管52には、複数の噴出部51が設けられている。複数の噴出部51は、過熱装置53から主配管54A1,54A2、54B1,54B2を介して噴出部配管52に送られてきた過熱水蒸気Sを板状体Wに向けて噴出する。
【0040】
第1加熱炉50A(図11の図示右側の加熱炉)は、予備加熱装置50の略前半部を構成し、第2加熱炉50B(図11の図示左側の加熱炉)は、予備加熱装置50の略後半部を構成している。両加熱炉50A、50Bは、これらの中間を通る基準面SP(図12参照)に関して対称に配置されている。即ち、主配管54A1,54A2、54B1,54B2、噴出部配管52、噴出部51はいずれも基準面SPに関して対称に配置されている。
【0041】
第1加熱炉50Aでは、一対の主配管54A1,54A2のうち、板状体Wの表面W1側に配された主配管54A1が、板状体Wの搬送方向の上流側に配置されている。そして、一対の主配管54A1,54A2のうち、板状体Wの裏面W2側に配された主配管54A2が、板状体Wの搬送方向の下流側に配置されている。一方、第2加熱炉50Bでは、一対の主配管54B1,54B2のうち、板状体Wの表面W1側に配された主配管54B1が、板状体Wの搬送方向の下流側に配置されている。そして、一対の主配管54B1,54B2のうち、板状体Wの裏面W2側に配された主配管54B2が、板状体Wの搬送方向の上流側に配置されている。従って、各加熱炉50A、50Bにおいて一方の主配管54A1、54B1と他方の主配管54A2、54B2との配置は逆になっており、第1加熱炉50Aと第2加熱炉50Bとの間においても一対の主配管54A1,54A2と他の一対の主配管54B1,54B2との配置は逆になっている。これにより、各加熱炉50A、50Bにおいて板状体Wをムラなく加熱することができ、かつ、加熱時間を短縮することができる。
【0042】
図12に示すように、各主配管54からは、6本の噴出部配管52が分岐している。第1加熱炉50Aにおいて板状体Wの表面W1側に配された主配管54A1と、第2加熱炉50Bにおいて板状体Wの裏面W2側に配された主配管54B2と、から分岐する噴出部配管52は、それぞれ板状体Wの搬送方向に延びている。一方、第1加熱炉50Aにおいて板状体Wの裏面W2側に配された主配管54A2と、第2加熱炉50Bにおいて板状体Wの表面W1側に配された主配管54B1とから分岐する噴出部配管52は、それぞれ板状体Wの搬送方向とは逆の方向に延びている。
【0043】
噴出部51は、各噴出部配管52において水平方向に等間隔で配置されている。さらに各噴出部配管52の噴出部51は、上下方向に並んで配置されている。ところで、噴出部51から噴出される過熱水蒸気Sは、基端(主配管との境界部)側ほど高温となり、先端側ほど低温となりやすい。このため、各噴出部配管52には、高温部と低温部が混在することになる。これでは、各噴出部配管52の基端側では板状体Wに与える熱量が大きくなり、各噴出部配管52の先端側では板状体Wに与える熱量が小さくなる。従って、噴出部配管52の延出方向が偏っている場合には、加熱ムラが発生し、バインダである熱可塑性樹脂の軟化状態がばらつく等して、基材Kが不良品となる虞がある。
【0044】
その点、本実施形態に係る予備加熱装置50では、各加熱炉50A、50Bにおいて、板状体Wの表面W1側に配置された噴出部配管52の延出方向と、板状体Wの裏面W2側に配置された噴出部配管52の延出方向とが逆向きとなっている。このため、各加熱炉50A、50Bにおいて、板状体Wの上流側の部位と板状体Wの下流側の部位は、いずれも噴出部配管52の高温部で加熱されることになる。従って、各加熱炉50A、50Bにおいて板状体Wに与える熱量を均一にすることができ、熱可塑性樹脂の軟化状態も安定し、基材Kが不良品となることもない。なお、ここでいう板状体Wの上流側の部位とは、板状体Wの板面の表裏両側を板状体Wの搬送方向に沿って二つに分けて視たときの上流側の半面をいい、板状体Wの下流側の部位とは、下流側の半面をいう。
【0045】
また、板状体Wは、各加熱炉50A、50Bに一枚ずつ搬入され、各加熱炉50A、50Bで所定時間だけ留まって加熱されるようになっている。ここで、上述したように、各加熱炉50A、50Bにおいて板状体Wに与える熱量は均一であるため、第1加熱炉50Aにおける加熱時間と第2加熱炉50Bにおける加熱時間が異なる場合であっても、板状体Wを加熱ムラなく加熱することができる。
【0046】
さらに、第1加熱炉50Aと第2加熱炉50Bは、基準面SPに関して対称に配置されている。このことは、第1加熱炉50Aにおいて噴出部配管52の高温部で加熱される板状体Wの表面W1側の部位は、第2加熱炉50Bにおいて噴出部配管52の低温部で加熱されることを意味し、第1加熱炉50Aにおいて噴出部配管52の低温部で加熱される板状体Wの表面W1側の部位は、第2加熱炉50Bにおいて噴出部配管52の高温部で加熱されることを意味する。これは、板状体Wの裏面W2側においても同様である。従って、両加熱炉50A、50B間における加熱ムラもなくなり、予備加熱装置50全体として、板状体Wに与える熱量を均一化することができる。
【0047】
続いて、本実施形態に係る基材成形装置100の作用について説明する。板状体Wは、ハンガー30に取り付けられ、予備加熱装置50に投入される。まず、板状体Wは、第1加熱炉50Aで所定時間だけ留まって加熱され、次に、第2加熱炉50Bへ移動し、第2加熱炉50Bで所定時間だけ留まって加熱される。この間、板状体Wは、噴出部51から噴出された過熱水蒸気Sによって約170℃まで急激に加熱される(予備加熱工程)。加熱された板状体Wは、加熱状態のまま第2加熱炉50Bから本加熱装置40へ搬入される。板状体Wは、搬送装置44によって搬送されながら加熱炉42の内部で加熱される(本加熱工程)。
【0048】
加熱された板状体Wは、板状体移送機構60によって搬送装置44から予備成形型10へ移送され、ハンガー30がハンガー移送機構66に受け取られる。予備成形型10に移送された板状体Wは、加熱炉42の内部で予備成形型10によって表裏両面からプレスされ、予備成形体Zに成形される(予備成形工程)。この後、予備成形体Zは、ハンガー移送機構66によって予備成形型10から本成形型20へ移送される。予備成形体Zは、本成形型20によって表裏両面からプレスされ、基材Kに成形される。プレスが完了した後は、本成形型20を型開きし、基材Kを脱型することにより、基材Kを得ることができる(本成形工程)。
【0049】
以上のように本実施形態に係る予備加熱装置50では、一対の主配管54A1,54A2、54B1,54B2が板状体Wを隔てて板状体Wの搬送方向の上流側と下流側とに配されることにより、板状体Wを加熱ムラなく均一に加熱することができ、加熱時間を短縮して生産性を向上させることができる。
【0050】
また、本実施形態に係る予備加熱装置50では、板状体Wを第1加熱領域50Aと第2加熱領域50Bにおいてそれぞれ加熱ムラなく均一に加熱することができ、加熱時間を短縮して生産性を向上させることができる。さらに、第1加熱領域50Aにおける加熱時間と第2加熱領域50Bにおける加熱時間が異なる場合であっても、板状体Wを加熱ムラなく均一に加熱することができる。また、両加熱炉50A、50B間における加熱ムラもなく、予備加熱装置50全体として、板状体Wに与える熱量を均一化することができる。これにより、基材Kの熱可塑性樹脂の軟化状態にばらつきが発生することはなく、基材Kの不良をなくすことができる。
【0051】
また、本実施形態に係る基材成形装置100では、予備加熱装置50において加熱された板状体Wをさらに本加熱装置40において加熱し、その加熱された板状体Wを所定の温度に保持する。このため、過熱水蒸気Sによって加熱された板状体Wをさらに加熱する際に、短時間で板状体Wを所定の温度にまで加熱することができ、かつ、所定の温度に保持することができる。従って、生産性を向上させることができ、本加熱装置40における板状体Wの仕掛かり枚数を減らすことができる。
【0052】
また、本実施形態に係る基材成形装置100の予備加熱装置50では、板状体Wを加熱するための熱媒体が過熱水蒸気Sである。このため、過熱水蒸気Sを板状体Wに吹き付けることが可能となり、加熱時間をさらに短縮できることに加えて、環境負荷を低減することができる。また、空気を媒体として加熱する熱風循環式の加熱装置よりも熱伝達率を高めることができる。
【0053】
実施形態の構成と本発明の構成との対応関係を記載しておく。予備加熱装置50が「板状体加熱装置」の一例である。過熱装置35が「熱媒体生成装置」の一例である。板状体Wの表面W1側が「板状体の第1主面側」の一例である。板状体Wの裏面W2側が「板状体の第2主面側」の一例である。加熱炉42の内部温度である200℃が「所定の温度」の一例である。
【0054】
上記の実施形態の変形例を以下に列挙する。
(1)上記の実施形態では、各主配管が加熱炉の端部に配置され、各主配管から噴出部配管が一方向にのみ延出する構成を採用しているが、主配管が加熱炉の端部に配置されていなくてもよい。この場合、各主配管から噴出部配管が板状体の板面に平行な二方向に延出する構成を採用してもよい。このような構成であっても、各加熱炉では板状体の上流側の部位と板状体の下流側の部位がいずれも噴出部配管の高温部で加熱されることになるから、各加熱炉において板状体に与える熱量を均一にすることができる。
【0055】
(2)上記の実施形態では、噴出部配管が主配管から水平方向に延びる構成を採用しているが、例えば、噴出部配管が主配管から斜め方向に延びる構成を採用してもよい。
【0056】
(3)上記の実施形態では、予備加熱装置が一対の加熱炉を備えた構成を採用しているが、予備加熱装置が1つまたは3つ以上の加熱炉を備えた構成を採用してもよい。
【0057】
(4)上記の実施形態では、板状体を各加熱炉で所定時間だけ留めて加熱する構成を採用しているが、板状体を搬送しながら各加熱炉で加熱する構成を採用してもよい。
【0058】
(5)上記の実施形態では、過熱水蒸気を熱媒体とする構成を採用しているが、例えば水蒸気や空気を熱媒体とする構成を採用してもよい。
【0059】
(6)上記の実施形態では、板状体Wをハンガーで吊り下げて搬送する構成を採用しているが、例えば、板状体を水平姿勢で搬送ローラ上に載置し、搬送する構成を採用してもよい。
【0060】
(7)上記の実施形態では、予備加熱工程と本加熱工程とに分けて板状体を加熱する構成を採用しているが、一つの加熱工程において熱媒体(過熱水蒸気)と熱風の双方を用いて板状体を加熱する構成を採用してもよい。
【0061】
(8)上記の実施形態以外にも、主配管の形態、噴出部配管の配置、形態、噴出部の配置、形態等については、適宜に変更可能である。
【0062】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0063】
また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0064】
10:予備成形型、12、14、22、24:金型、20:本成形型、22a、24a:型面、30:ハンガー、32:シャフト、34:クランプ、36:ローラ、38:取付部材、40:本加熱装置、42:加熱炉、44:搬送装置、46a、46b:チェーンコンベヤ、50:予備加熱装置、50A:第1加熱炉、50B:第2加熱炉、51:噴出部、52:噴出部配管、53:過熱装置、54A1,54A2、54B1,54B2:主配管、60:板状体移送機構、64:水平方向移動機構、66:ハンガー移送機構、80:ハンガー受け渡し機構、81:アーム、100:基材成形装置、W:板状体、W1:(板状体の)表面、W2:(板状体の)裏面、S:過熱水蒸気、SP:基準面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物性繊維と熱可塑性樹脂を含む材料からなる板状体を加熱する板状体加熱装置であって、
熱媒体を生成する熱媒体生成装置と、
該熱媒体生成装置から延出してなる主配管と、
該主配管から分岐してなる複数の噴出部配管と、
該噴出部配管に配設され、前記熱媒体を前記板状体の板面に向けて噴出する複数の噴出部と、を備え、
一対の前記主配管の間を前記板状体が通過するように構成され、
一対の前記主配管のうち一方は前記板状体の搬送方向の上流側に配され、他方は前記板状体の搬送方向の下流側に配されていることを特徴とする板状体加熱装置。
【請求項2】
前記板状体は2つの加熱領域により加熱されるものであり、
一方の前記加熱領域では、一対の前記主配管のうち一方が前記板状体の第1主面側であって前記上流側に配され、他方が前記板状体の第2主面側であって前記下流側に配され、
他方の前記加熱領域では、一対の前記主配管のうち一方が前記板状体の前記第1主面側であって前記下流側に配され、他方が前記板状体の前記第2主面側であって前記上流側に配されていることを特徴とする請求項1の板状体加熱装置。
【請求項3】
前記熱媒体によって加熱された板状体をさらに加熱し、その加熱された前記板状体を所定の温度に保持することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の板状体加熱装置。
【請求項4】
前記熱媒体は、過熱水蒸気であることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の板状体加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2012−6299(P2012−6299A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−145175(P2010−145175)
【出願日】平成22年6月25日(2010.6.25)
【出願人】(000241500)トヨタ紡織株式会社 (2,945)
【Fターム(参考)】