説明

果皮を含む柑橘の処理方法

【課題】 従来、柑橘、柑橘果皮、柑橘搾汁粕等から油成分、液成分が分離されていたが、各種成分の取得率が低かった。本発明では、油成分、液成分における各種成分の取得率を高めることを目的とした。
【解決手段】 本発明では、柑橘、柑橘果皮、柑橘搾汁粕等の果皮を含む柑橘を液体窒素を用いて−50℃〜−150℃(品温)に凍結し、得られた凍結物に衝撃を与えることによって、固い組織や細胞にも亀裂を生じさせ、微細化を達成し、各種成分の取得率を高めることに成功した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柑橘の丸のまま、柑橘の果皮、柑橘の搾汁粕等の果皮を含む柑橘から油成分、液成分を高収率で分離する果皮を含む柑橘の処理方法に関するものである。
【0002】
一般的に、柑橘の皮(果皮)には、油成分として、有用なリモネン、テルペン、アロマオイル等の油溶成分を多く含み、各成分の分離の原料となるため、取引されるものである。
【0003】
また、柑橘の皮には、液成分として、有用なナリンジン、ヘスペリジン、有機酸、各種香気成分等の水溶成分を含んでいる。
【0004】
近年では、果汁搾汁時に大量にでてくる果汁搾汁粕を用いて、油成分、液成分の分離処理が行われている。
【0005】
いままで行われている柑橘、柑橘果皮、柑橘搾汁粕等の原料から油性分、液成分の分離処理は、原料を磨砕機に投入し、十分磨砕し、得られた磨砕液を遠心分離し、油成分を取得していた。
しかし、この処理法では果皮をいかに磨砕したとしても、細胞の十分な破壊には到らず、例えばリモネンの取得率をみても、全体の0.5%どまりで、バガス(バガスとはサトウキビの搾りかすをいう(非特許文献2参照)が、本発明では柑橘果皮等の搾りかすをいう。)の方に残ってしまう状態であった。
【0006】
本発明においては、柑橘、柑橘果皮、柑橘搾汁粕等の原料を−50〜−150℃に凍結して、衝撃を与えたとき、細胞にも亀裂が入り、よく破砕され、破砕物を常温にもどして液状とし、遠心分離し、油成分を取得したとき、例えばリモネンの取得率をみれば、全体の1.5〜2.0%になっているのが確認された。
【0007】
柑橘(かんきつ)とはミカンの類をいうもの(非特許文献1参照)で、本発明の処理対象も柑橘、即ち、ミカンの類全般で、ミカン、夏ミカン、ハッサク、クネンボ、ザボン、ブシュカン、ダイダイ、ユズ、オレンジ、グレープフルーツ、レモン、ポンカン、カボス、キンカン等である。
【0008】
従来、柑橘、柑橘果皮、柑橘搾汁粕等の果皮を含む柑橘を液体窒素を用いて−50〜−150℃(品温)に凍結し、得られた凍結物に衝撃を与えて微細化する処理方法については全く知られていなかった。
【非特許文献1】大辞林第2版1995、11、3、(株)三省堂発行
【非特許文献2】Kenkyusha’s NEW ENGLISH−JAPANESE DICTIONARY 120頁右欄 昭和33年2月1日44版 研究社発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、柑橘、柑橘果皮、柑橘搾汁粕等の果皮を含む柑橘を処理して果皮を含む柑橘から油成分、液成分を高効率で取得することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明においては、柑橘丸のまま、柑橘果皮、柑橘搾汁粕等の果皮を含む柑橘を液体窒素を用いて−50℃〜−150℃に凍結し、得られた凍結物に衝撃を与えて微細化することによって油成分、液成分の取得効率を高めることに成功したものである。
【0011】
本発明において、柑橘とはミカンの類全般をいい(非特許文献1参照)、本発明においては果皮を含む柑橘すべてが凍結する原料となる。
柑橘丸のままは、例えばキンカンなどは、丸の皮のまま、又は薄く、又は細く切削したものでもよく、これらを原料とするのがよい。
柑橘果皮は、柑橘の皮をむいて果皮だけを集めたものを原料とする。
また、柑橘搾汁粕は、レモン、ミカンなどにおいて果汁を搾汁した残りの粕を指しているが、果皮はそのまま残っており、搾汁粕そのまま、又は細切りしたものなど本発明の原料としては好適なものである。
本発明においては、これらを総称して、果皮を含む柑橘といい、これを本発明における原料とするものである。
【0012】
本発明においては、果皮を含む柑橘を液体窒素を用いて、品温を、−50℃〜−150℃、一般的には−60℃〜−140℃、好ましくは−80℃〜−120℃、より好ましくは−90℃〜−110℃、好適には−100℃前後(−95℃〜−105℃の範囲)とすることを大きな特色としている。−50℃〜−150℃の温度に凍結した原料は、衝撃によって、細胞を割るような破砕をはじめて達成し、組織の細胞の中からの油成分、液成分の溶出を可能とするものである。
【0013】
本発明においては、原料(果皮を含む柑橘)を液体窒素を用いて−50℃〜−150℃(品温)に凍結し、凍結物に衝撃を与えて微細化する。凍結には、原料を移送管に入れ、スパイラル又は空気圧で移送しながら、移送管の上方に設けた1〜5ケの液体窒素噴出口からの液体窒素噴出にさらし、原料が所望の品温、−50℃〜−150℃で、例えば−100℃に達したとき、凍結した原料を移送管から取り出し、すぐに破砕機で処理すれば−80℃程度(品温)までで微細化することができる。また、凍結には、−40℃で冷凍保存した原料を液体窒素を入れた槽の中に所望の温度になるまで浸漬し、−50℃〜−150℃、例えば−100℃に達したとき、すぐに破砕機で処理すれば−80℃程度(品温)までで微細化することができる。また、液体窒素入れることのできる粉砕機、例えばリンデックスミルに直接−40℃で冷凍保存した原料を投入し、滞留時間を調節しつつ、品温が−50℃〜−150℃、例えば−100℃に達したとき、粉砕させればよい。
【0014】
−50℃〜−150℃に凍結した原料は、直ちに衝撃を与えて微細化する。
衝撃を与えるのは、攪拌機、磨砕機、粉砕機、超音波処理機、プラズマ発生機など凍結物を微細化できるものであればいずれでもよい。
−50℃〜−150℃に凍結した原料は衝撃によって、果皮組織の固さとは関係なく、全体でひび割れ現象を起し、細胞をわるようなところもあって、油成分、液成分の溶出を促すものである。
【0015】
凍結物に衝撃を与えて得られた微細化物は、そのまま放置して液状とするか、又は水もしくはエタノール水溶液と混合して液状とする。
エタノール水溶液はエタノール2〜20%程度の水溶液である。
微細化物100重量部に対し、水又はエタノール水溶液は5〜150重量部、好ましくは10〜100重量部を添加、混合し、液状とする。
【0016】
得られた液状物は、三層遠心分離機にかけ、油成分、液成分及びバガスに分け、それぞれ製品として販売するものである。
油成分は、リモネン、テルペン、アロマオイルなどの原料となり、液成分は、調味料などの呈味調整料となり、また、ナリンジン、ヘスペリジン、有機酸、アミノ酸等の原料となり、また、バガスは天然物由来の繊維として健康食品などの原料となるものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明においては、柑橘丸のまま、柑橘果皮、柑橘搾汁粕等の果皮を含む柑橘を−50℃〜−150℃(品温)に凍結して、これに衝撃を与えて微細化するとき、組織や細胞の固さに関係なく、全体が同じ固さになっているため、全体に細かな亀裂を生じて、例えば細胞の中間を破断して、各種成分の溶出を促進するものである。
従来の果皮を含む柑橘の常温による磨砕と油性分の分離では、磨砕時に固い組織や固い細胞は破砕されずに小さく残り、油性分、例えばリモネンの取得率が全体の0.5程度で、バガスに多く残る状態であった。
本発明では−50℃〜−150℃に凍結して、全体を同じ固さにしているので、固いところに無関係に全体を微細化でき、油成分、液成分の取得率を著じるしく高めることができたものである。例えば、リモネンは全体の1.5〜2.0%程度取得することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明は、果皮を含む柑橘を液体窒素を用いて品温−50℃〜−150℃、
一般的には−60℃〜−140℃、好ましくは−80℃〜−120℃、より好ましくは−90℃〜−110℃、好適には−100℃前後に凍結するものであるが、全体の固さを破砕に好適なものとするには−90℃〜−150℃に凍結するのがよい。
得られた凍結物は、粉砕機を用いて、例えば品温−130℃に凍結した凍結物を粉砕機に3秒から3分かけ、品温が−100℃に上昇して、微細化は完了する。
得られた微細化物は等重量の水又は5%エタノール水溶液と混合し、液状となったところで、三層遠心分離機にかけ、油成分、液成分、バガスに分離するものである。
【実施例】
【0019】
以下、本発明について実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0020】
実施例1(キンカン丸のままの処理)
−40℃の冷凍庫で保存したキンカン(丸のままのもの)を、液体窒素を入れたリンデックスミル(大阪ガス(株)製)に直接投入し、キンカンの滞留時間を、品温を−100℃になるように調節しつつ、−100℃のキンカンを粉砕部に送り、連続して粉砕し、微細化物を得た。
【0021】
得られた微細化物を放置して液状とし、これを連続三層遠心分離機((株)斎藤遠心機 斎藤式連続三層遠心分離機)にかけ、油成分、液成分、バガスを得た。
【0022】
実施例2(レモン搾汁粕の処理)
−40℃の冷凍庫で保存したレモン搾汁粕(搾汁により扁平化したもの)を、液体窒素を入れたリンデックスミル(大阪ガス(株)製)に直接投入し、レモン搾汁粕の滞留時間を、品温を−130℃になるように調節しつつ、−130℃のレモン搾汁粕を粉砕部に送り、連続して粉砕し、微細化物を得た。
【0023】
得られた微細化物10Kgと5%エタノール水溶液10Kgを混合し、混合した液状物を連続三層遠心分離機((株)斎藤遠心機 斎藤式連続三層遠心分離機)にかけ、油成分200g、液成分6Kg、バガス4Kgを得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柑橘、柑橘果皮、柑橘搾汁粕等の果皮を含む柑橘を液体窒素を用いて−50〜−150℃(品温)に凍結し、得られた凍結物に衝撃を与えて微細化することを特徴とする果皮を含む柑橘の処理方法。
【請求項2】
柑橘、柑橘の果皮、柑橘搾汁粕等の果皮を含む柑橘を、液体窒素を用いて−50〜−150℃(品温)に凍結し、得られた凍結物に衝撃を与えて微細化し、微細化物を液状とし、これを油成分、液成分、バガスに分離することを特徴とする果皮を含む柑橘の処理方法。
【請求項3】
柑橘が、ミカン、夏ミカン、ハッサク、クネンボ、ザボン、ブシュカン、ダイダイ、ユズ、ポンカン、カボス、キンカン、オレンジ、グレープフルーツ、レモン等のミカンの類から選ばれた1以上であることを特徴とする請求項1または請求項2のいずれかに記載された果皮を含む柑橘の処理方法。
【請求項4】
凍結が、液体窒素を用いて、一般的には−60℃〜−140℃、好ましくは−80℃〜−120℃、より好ましくは−90℃〜−110℃、好適には−100℃前後(−95℃〜−105℃の範囲)に凍結するものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載された果皮を含む柑橘の処理方法。
【請求項5】
微細化が、攪拌機、磨砕機、粉砕機、超音波処理機及び/又はプラズマ発生機によって凍結物に衝撃を与えて微細化するものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかの項に記載された柑橘の処理方法。
【請求項6】
分離が、微細化物を液状とし、得られた液状物を三層遠心分離機を用いて油成分、液成分、バガスに分離することを特徴とする請求項2に記載の果皮を含む柑橘の処理方法。
【請求項7】
分離が、微細化物と水又はエタノール水溶液を混合して液状とすることを特徴とする請求項6に記載の果皮を含む柑橘の処理方法。

【公開番号】特開2006−75115(P2006−75115A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−264632(P2004−264632)
【出願日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(597135194)マルボシ酢株式会社 (4)
【Fターム(参考)】