説明

架橋スルホン化ポリイミド及びその用途

【課題】イオン交換容量やプロトン伝導度が優れ、更に従来のスルホン化ポリイミドに比べ吸水時の寸法変化、耐水性及びメタノール透過性などが改良された、燃料電池用高分子電解質膜、ガスセンサー、イオン交換樹脂などに好適に用いることができる架橋スルホン化ポリイミドを提供する。
【解決手段】化学式(1)で示される繰り返し単位を有し両末端が芳香族テトラカルボン酸成分残基からなる酸末端スルホン化ポリイミドを、3官能以上の芳香族アミン化合物で架橋した架橋スルホン化ポリイミド。


[Ar1、Ar4は芳香環の4価の基、Ar2はスルホン酸基又はスルホン酸の誘導体基を有する芳香環の2価の基、Ar5はスルホン酸基又はスルホン酸の誘導体基を有しない芳香環の2価の基、lは1以上の整数、mは0又は1以上の整数。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋スルホン化ポリイミド、その製造法及び用途、詳しくは燃料電池用高分子電解質膜、ガスセンサー、イオン交換樹脂などに好適に用いることができる架橋スルホン化ポリイミド及びその製造法に関する。特に、本発明は、イオン交換容量やプロトン伝導度が優れ、更に吸水時の寸法変化、耐水性及びメタノール透過性が改良された架橋スルホン化ポリイミド、その製造法、前記架橋スルホン化ポリイミドからなる高分子電解質膜、及びそれを用いた固体高分子型燃料電池に関する。
【背景技術】
【0002】
スルホン酸基を有するスルホン化ポリイミドは、吸湿性が高いという特徴を有する高分子電解質であり、例えば燃料電池用高分子電解質膜として検討されている。(例えば、特許文献1〜4参照。)
しかし、これらのスルホン化ポリイミドは、電子吸引性のスルホン酸基のためにイミド結合が容易に加水分解するので耐水性が著しく劣るものであった。耐水性を持たせるために、加水分解し易いスルホン酸基含量成分を減らし非スルホン酸基含有成分を多量に含んだ共重合化ポリイミドが検討されたが、このような共重合ポリイミドフィルムは、スルホン酸基含有量の低下のためイオン交換容量やプロトン伝導性などの特性を著しく低下させるものであり好ましいものではなかった。このため、イオン交換容量やプロトン伝導度が優れ、且つ耐水性や吸水時の寸法変化などが改良されたスルホン化ポリイミドが求められていた。
耐水性が向上したスルホン化ポリイミドとして、特定のスルホン化ジアミンを用いたスルホン化ポリイミドが、特許文献5及び6に開示されている。しかし、耐水性や吸水時の寸法変化などには更に改良の余地があった。また、これらが直接メタノール型燃料電池用高分子電解質膜として用いられるためにメタノール透過性についても更に改良の余地があった。
【0003】
特許文献7及び8には、アミノ基を3つ以上含む多官能成分とテトラカルボン酸二無水物との重縮合により得られる繰り返し構造単位と、スルホン酸基を有するジアミンとテトラカルボン酸二無水物との重縮合により得られる繰り返し構造単位とからなるポリイミド樹脂組成物が開示され、また特許文献9には、そのようなポリイミド共重合体の製造法が開示されている。しかし、これらの特許文献で開示されたポリイミド組成物及びポリイミド共重合体は、その製造過程でゲルが発生してフィルム化などの加工性が著しく低下しないように、有機溶剤に対する溶解性が保たれるように制御して得られたものであって、実質的に未架橋なものであった。また、これらの特許文献は、架橋スルホン化ポリイミドの有する耐水性の向上、吸水寸法変化や低メタノール透過性の改良について何ら示唆していない。
【0004】
特許文献10〜14には、スルホン化ポリイミド及びそのスルホン化ポリイミドからなる分離膜について開示されている。しかし、架橋スルホン化ポリイミドについては言及されていない。
また、特許文献15は、多価アミンを主成分としたポリアミド酸の三次元網目構造体の脱水・閉環反応により生成したポリイミド化体について言及しているが、スルホン化ポリイミドについては何ら言及していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2000−510511号公報
【特許文献2】特開2002−358978号公報
【特許文献3】特開2002−367627号公報
【特許文献4】特表2003−511500号公報
【特許文献5】特開2003−64181号公報
【特許文献6】特開2003−68326号公報
【特許文献7】特開2002−105199号公報
【特許文献8】特開2002−105200号公報
【特許文献9】特開2002−121281号公報
【特許文献10】特開平5−192552号公報
【特許文献11】特開平6−87957号公報
【特許文献12】特開平8−333451号公報
【特許文献13】特開平8−333452号公報
【特許文献14】特開平8−333453号公報
【特許文献15】特開平4−189865号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、イオン交換容量やプロトン伝導度が優れ、更に従来のスルホン化ポリイミドに比べ吸水時の寸法変化、耐水性及びメタノール透過性などが改良された架橋スルホン化ポリイミド、その製造法、該架橋スルホン化ポリイミドからなる高分子電解質膜、及び該高分子電解質膜を用いた固体高分子型燃料電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、前記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、実質的に末端基が芳香族テトラカルボン酸成分残基からなる酸末端スルホン化ポリイミドを有機溶剤に溶解した酸末端スルホン化ポリイミド溶液に、3官能以上の芳香族アミンを添加し、前記酸末端スルホン化ポリイミドと3官能以上の芳香族アミンとの混合溶液を110〜350℃の温度で加熱して溶剤除去とともに架橋反応を進めることにより、固形分濃度が高くてもゲル化せずに製膜が可能で、容易に架橋スルホン化ポリイミドを得ることができること、及び得られた架橋スルホン化ポリイミドからなる電解質膜は吸水時の寸法変化、耐水性及びメタノール透過性が改良されているから固体高分子型燃料電池用などの高分子電解質として極めて好適に用いることが出来ることを見出して、本発明に至った。
【0008】
即ち、本発明は、下記化学式(1)で示される繰り返し単位を有し両末端が芳香族テトラカルボン酸成分残基からなる酸末端スルホン化ポリイミドを、3官能以上の芳香族アミン化合物で架橋した架橋スルホン化ポリイミドに関する。
【0009】
【化1】

[ここで、Ar1 及びAr4 は芳香環を有する4価の基であり、Ar2 は1つ以上のスルホン酸基又はスルホン酸基の誘導体を置換基とする芳香環を有する2価の基であり、Ar5 はスルホン酸基又はスルホン酸基の誘導体を置換基としない芳香環を有する2価の基であり、lは1以上の整数であり、mは0又は1以上の整数である。]
【0010】
また、厚さ30μmに成形したフィルムを有機溶剤、特にm−クレゾール及びN−メチル−2−ピロリドン中に25℃で24時間浸漬した後の重量減少率が、いずれも浸漬前の30重量%以下であること、また厚さ30μmに成形したフィルムを130℃の熱水中で48時間処理した後、そのフィルムを角度120°折り曲げても破断しないことを特徴とする前記の架橋スルホン化芳香族ポリイミドに関する。
【0011】
また、前記化学式(1)のAr1 及び/又はAr4 が下記化学式(2)で示される4価の基であることを特徴とする前記の架橋スルホン化芳香族ポリイミドに関する。
【0012】
【化2】

【0013】
また、前記化学式(1)のAr2 が、下記化学式(3)、下記化学式(4)又は下記化学式(5)で示される2価の基であることを特徴とする前記の架橋スルホン化ポリイミドに関する。
【0014】
【化3】

[ここで、D1 は、O 、CH2 、C(CH3)2 、C(CF3)2 、O=S=O 又はC=O を示し、R1 〜R3 は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンを示す。]
【0015】
【化4】

[ここで、D2 は、O 又はC(CH3)2 を示す。R4 〜R7 は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Ar3 は、
【0016】
【化5】

(式中、D3 は、直接結合、O 、CH2 、C(CH3)2 、C(CF3)2 、O=S=O 又はC=O を示し、R8 〜R10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜2のアルキル鎖を示し、Xは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンを示し、nは、0、1又は2の整数を示す。)である。]
【0017】
【化6】

[ここで、R11〜R13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を表し、pは1又は2の整数であり、nは1〜6の整数であり、kは1又は2の整数であり(ただし、kが2のとき、R13は存在しない)、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンである。]
【0018】
更に、前記3官能以上の芳香族アミン化合物が、同じ芳香環に2つ以上の第1アミノ基を有しないものであること、前記化学式(1)のlとmとの割合が、l:m=60:40〜100:0であること、前記酸末端スルホン化ポリイミドがブロック共重合体であることを特徴とする前記の架橋スルホン化ポリイミドに関する。
【0019】
更に、(1)有機溶剤中で芳香族ジアミン成分Mbモルと芳香族テトラカルボン酸成分Maモルとを、モル比Ma/Mbが1.03〜1.5の範囲で反応させることにより、末端基が芳香族テトラカルボン酸成分残基からなる有機溶剤可溶性の酸末端スルホン化ポリイミドを合成し、(2)その酸末端スルホン化ポリイミド溶液に100℃以下の温度で両末端の芳香族テトラカルボン酸成分残基とアミノ基とがほぼ等モルとなるように3官能以上の芳香族アミンを添加、混合し、(3)得られた酸末端スルホン化ポリイミドと3官能以上の芳香族アミンとの混合溶液を110℃〜350℃の温度で加熱して溶剤除去を行うことを特徴とする架橋スルホン化ポリイミドの製造法に関する。
【0020】
更に、前記製造法の(2)で得られた酸末端スルホン化ポリイミドと3官能以上の芳香族アミンとの混合溶液を支持体上に流延又は塗布し、110℃〜350℃の温度で加熱して溶剤除去を行うことを特徴とする架橋スルホン化ポリイミドフィルムの製造法に関する。
【0021】
また、前記の架橋スルホン化ポリイミドからなることを特徴とする高分子電解質膜、及び該高分子電解質膜を用いたことを特徴とする固体高分子型燃料電池に関する。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、従来のスルホン化ポリイミドに較べて著しく吸水寸法変化が改良され、且つ、イオン交換容量、プロトン伝導性、及び、低メタノール透過性などの特性がより優れた架橋スルホン化ポリイミド、及び、それからなるイオン交換膜や燃料電池用高分子電解質膜として有用な電解質膜、その膜を用いた固体高分子型燃料電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】実施例6で製作した架橋スルホン化ポリイミド膜を用いた燃料電池の発電特性の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の架橋スルホン化ポリイミド、その製造法及び用途について説明する。
本発明の架橋スルホン化ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸成分と、置換基としてスルホン酸基又はその誘導体基を有するスルホン化芳香族ジアミンを含む芳香族ジアミン成分と、3官能以上の芳香族アミン化合物とから合成される。
本発明において、スルホン酸基又はその誘導体基とは、スルホン酸基、アルコキシスルホン酸基、及びそのナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属との塩、トリブチルアミン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、N,N −ジメチルアニリンなどの第3アミンとの塩、ピリジン、2,3−ジメチルピリジン、2,4−ジメチルピリジン、2,5−ジメチルピリジン、2,6−ジメチルピリジン、3,4−ジメチルピリジン、3,5−ジメチルピリジン、キノリン、イソキノリン、イミダゾール、ベンズイミダゾール、2−エチルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾールなどの環式アミンとの塩である。
【0025】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドの合成に用いられる芳香族テトラカルボン酸成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ペンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、ピロメリット酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、m−(ターフェニル)3,4,3”,4”−テトラカルボン酸、またはそれらの酸二無水物やエステル化物を挙げることができる。これらの中で、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、又はその酸二無水物やエステル化物を用いると良好な耐水性を持った架橋スルホン化ポリイミドを得やすいので特に好ましい。
【0026】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドの合成に用いる芳香族ジアミン成分に含まれる置換基としてスルホン酸基又はその誘導基を有するスルホン化芳香族ジアミンとしては、2,2′−ジスルホン酸ベンジジン、1,4−ジアミノベンゼン−3−スルホン酸、1,3−ジアミノベンゼン−4−スルホン酸、4,4′−ジアミノ−5,5′−ジメチル−(1,1′−ビフェニル)−2,2′−ジスルホン酸、及びそれらのスルホン酸がスルホン酸誘導体であるもの、及び、下記化学式(6)で表されるスルホン化芳香族ジアミン、下記化学式(7)で表されるスルホン化芳香族ジアミン、下記化学式(8)で表されるアルコキシスルホン化芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0027】
【化7】

[ここで、D1 は、O 、CH2 、C(CH3)2 、C(CF3)2 、O=S=O 又はC=O を示し、R1 〜R3 は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンを示す。]
【0028】
【化8】

[ここで、D2 は、O 又はC(CH3)2 を示す。R4 〜R7 は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Ar3 は、
【0029】
【化9】

あるいは、
【0030】
【化10】

(式中、D3 は、直接結合、O 、CH2 、C(CH3)2 、C(CF3)2 、O=S=O 又はC=O を示し、R8 〜R10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜2のアルキル鎖を示し、Xは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンを示し、nは、0、1又は2の整数を示す。)である。]
【0031】
【化11】

[ここで、R11〜R13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を表し、pは1又は2の整数であり、nは1〜6の整数であり、kは1又は2の整数であり(ただし、kが2のとき、R13は存在しない)、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンである。]
【0032】
前記の置換基としてスルホン酸基又はその誘導基を有するスルホン化芳香族ジアミンの中でも、良好な耐水性を持った架橋スルホン化ポリイミドを得ることができることから、前記の化学式(6)〜化学式(8)で示されるスルホン化芳香族ジアミン、特に化学式(7)及び化学式(8)で示されるスルホン化芳香族ジアミンが好ましい。
【0033】
本発明で用いられる前述の化学式(6)、(7)および(8)のスルホン化芳香族ジアミンは、その構造によって適用できる合成方法が異なる。特に限定されるものではないが、例えば以下の方法で好適に合成することができる。
化学式(6)で示されるスルホン化芳香族ジアミンは、芳香族ジアミンを硫酸塩としたのち、細田、「理論製造 染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法でスルホン化することによって合成することができる。この時、用いられる芳香族ジアミンは、芳香環がO 、CH2 、C(CF3)2 、SO2 、COを挟んで結合しているものであり、具体的には、3,4’−オキシジアニリン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4−アミノフェニル)スルホン、ビス(3−アミノフェニル)スルホン、3,3’−ジアミノベンゾフェノンなどを挙げることができる。
【0034】
前述の化学式(7)のAr3
【0035】
【化12】

(式中、D3 は、直接結合、O 、CH2 、C(CH3)2 、C(CF3)2 を示し、R8 〜R10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜2のアルキル鎖を示し、Xは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンを示し、nは、0〜2の整数を示す。)の構造、すなわち、アミノ基に結合していない芳香環が電子吸引基と結合していないスルホン酸基含有芳香族ジアミンの場合、例えば、(A)芳香族ジアミンを濃硫酸中で、細田、「理論製造 染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法でスルホン化する方法、(B)二価フェノールを濃硫酸中で、細田、「理論製造 染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法でスルホン化後、特開平9−241225号公報などに記載の方法でニトロ基を有する芳香族ハライドと反応させ、ジニトロ化合物を合成し、その後、ニトロ基を還元することによってジアミン化合物とする方法、などによって合成することができる。
【0036】
前述の(A)の反応において原料として用いられる芳香族ジアミンとしては、アミノ基に結合していない芳香環が電子吸引基と結合していないものであり、例えば、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼンなどを挙げることができる。
前述の(B)の反応において原料として用いることのできる、二価フェノールとしては、芳香環が電子吸引基と結合していないものであり、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4' −ビフェノール、2,2' −ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)エーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、などを挙げることができる。ニトロ基を有する芳香族ハライドとしては、2−クロロニトロベンゼン、3−クロロニトロベンゼン、4−クロロニトロベンゼン、2−フルオロニトロベンゼン、3−フルオロニトロベンゼン、4−フルオロニトロベンゼン、ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メタンなどを挙げることができる。
【0037】
前述の化学式(7)のAr3
【0038】
【化13】

(式中、D3 は、O=S=O 又はC=O を示し、R8 〜R10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜2のアルキル鎖を示し、Xは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンを示し、nは、1の整数を示す。)の構造で示される、すなわち、アミノ基の結合していない芳香環が電子吸引基と結合している芳香族ジアミンの場合、例えば、(C)二価フェノールを発煙硫酸中で、細田、「理論製造 染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法でスルホン化後、特開平9−241225号公報などに記載の方法で、ニトロ基を有する芳香族ハライドと反応させ、ジニトロ化合物を合成し、その後、ニトロ基を還元することによってジアミン化合物とする方法などによって合成することができる。
【0039】
前述の(C)の反応において原料として用いることのできる、二価フェノールとしては、芳香環が電子吸引基と結合しているものであり、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン,ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどを挙げることができ、ニトロ基を有する芳香族ハライドとしては、前述と同様のものを挙げることができる。
【0040】
前述の化学式(7)のAr3 が、
【0041】
【化14】

[ここで、Xは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンを表す。]の構造を有するスルホン酸基含有芳香族ジアミンの場合、例えば、(D)原料ジアミンを濃硫酸中で硫酸塩とし、その後、細田、「理論製造 染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法で発煙硫酸をもちいてスルホン化することにより合成することができる。この時、用いられる原料ジアミンとして、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを挙げることができる。
【0042】
前記化学式(8)で示される構造からなるω−スルホアルコキシ基を有するスルホン化芳香族族ジアミンは、例えば、(E)水酸基を有する芳香族ジニトロ化合物とハロゲン化アルキルスルホン酸アルカリ金属とを反応させ、ω−スルホアルコキシ基を有する芳香族ジニトロ化合物を合成後、ニトロ基を還元してω−スルホアルコキシ基含有芳香族ジアミンを得る方法、(F )水酸基を有する芳香族モノニトロ化合物とハロゲン化アルキルスルホン酸アルカリ金属塩とを反応させ、ω−スルホアルコキシ基を有する芳香族モノニトロ化合物を合成し、アゾカップリング反応に続き、還元、転位反応を行うことによって、ω−スルホアルコキシ基含有芳香族ジアミンを得る方法など、その構造に応じた合成法で調製することができる。
【0043】
前記ω−スルホアルコキシ基含有芳香族ジアミンの合成法(E)で、水酸基を有する芳香族ジニトロ化合物とハロゲン化アルキルスルホン酸アルカリ金属塩との反応は、水酸基を有する芳香族ジニトロ化合物のアルカリ金属塩とハロゲン化アルキルスルホン酸アルカリ金属塩をN,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシドなどの極性溶剤中で、50〜140℃で1〜80時間反応することによって合成できる。
前記水酸基を有する芳香族ジニトロ化合物は、少なくとも1つ以上の芳香環を有し、かつ芳香環に直接結合した2個のニトロ基と少なくとも1つ以上の水酸基を有するものであり、例えば、2,4−ジニトロフェノール、2,5−ジニトロフェノール、4,6−ジニトロクレゾール、3,5−ジニトロカテコール、4,4’−ジヒドキシ−(3,3’−ジニトロ)ビフェニル、などを好適に挙げることができる。
前記水酸基を有する芳香族ジニトロ化合物のアルカリ金属塩は、前記極性溶剤中で、水酸基を有する芳香族ジニトロ化合物と炭酸カリウムまたは炭酸ナトリウムなどとを、共沸溶剤としてトルエン、ベンゼン、キシレンなどを用いて、生成する水分を除去しながら、100〜160℃で0.5〜5時間反応することによって合成できる。
また、前記ハロゲン化アルキルスルホン酸アルカリ金属塩は、末端にスルホン酸アルカリ金属塩を有するハロゲン化アルキル化合物であり、例えば、2−ブロモエタンスルホン酸、3−ブロモプロパンスルホン酸、4−ブロモブタンスルホン酸、などのカリウム、ナトリウム、リチウム塩を好適に挙げることができる。
【0044】
前記ω−スルホアルコキシ基含有芳香族ジアミンの合成法(E)で、ω−スルホアルコキシ基を有する芳香族ジニトロ化合物のニトロ基の還元は、日本化学会編、新実験化学講座15,酸化と還元、丸善、1975年などに記載されているような公知の方法を用いることができ、例えば、Pd/Cを用い水素添加することで達成される。
【0045】
前記ω−スルホアルコキシ基含有芳香族ジアミンの合成法(F)で用いられる水酸基を有する芳香族モノニトロ化合物は、少なくとも1つ以上の水酸基を有する芳香族モノニトロ化合物であり、例えば、m−ニトロフェノール、o−ニトロフェノールなどを好適に挙げることができる。
【0046】
前記ω−スルホアルコキシ基含有芳香族ジアミンの合成法(F)において、ω−スルホアルコキシ酸基を有する芳香族モノニトロ化合物は、水酸基を有する芳香族モノニトロ化合物とハロゲン化アルキルスルホン酸アルカリ金属塩とを、前記ω−スルホアルコキシ基含有芳香族ジアミンの合成法(E)で述べた方法と同様に反応させて合成できる。
この合成法(F)で、アゾカップリング反応及びそれに続く転位反応は、日本化学会編、新実験化学講座15,酸化と還元、丸善、1975年などに記載されているような公知の方法を用いることができ、例えば、Zn/NaOH/メタノールー水中で加熱してアゾベンゼンとし、次いでZn/エタノール−アンモニア中で加熱してヒドラゾベンゼンにし、濃塩酸中で加熱してベンジジン転移して達成される。
【0047】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドの合成に用いられる前記化学式(8)で示される構造からなるω−スルホアルコキシ基含有芳香族ジアミンとしては、特に限定されるものではないが、具体的には、2−(2,4−ジアミノフェノキシ)エタンスルホン酸、3−(2,4−ジアミノフェノキシ)プロパンスルホン酸、4−(2,4−ジアミノフェノキシ)ブタンスルホン酸、2−(2,5−ジアミノフェノキシ)エタンスルホン酸、3−(2,5−ジアミノフェノキシ)プロパンスルホン酸、4−(2,5−ジアミノフェノキシ)ブタンスルホン酸、2−(4,6−ジアミノ−2−メチルフェノキシ)エタンスルホン酸、3−(4,6−ジアミノ−2−メチルフェノキシ)プロパンスルホン酸、4−(4,6−ジアミノ−2−メチルフェノキシ)ブタンスルホン酸、1,5−ジアミノ−2,3−ジ(2−スルホエトキシ)ベンゼン、1,5−ジアミノ−2,3−ジ(3−スルホプロポキシ)ベンゼン、1,5−ジアミノ−2,3−ジ(4−スルホブトキシ)ベンゼン、2,2' −ビス(3−スルホプロポキシ)ベンジジン、3,3' −ビス(3−スルホプロポキシ)ベンジジンなどを好適にあげることができ、特に、イオン交換容量を高くできることから、ω−スルホアルコキシ基を2つ以上有するω−スルホアルコキシ基含有芳香族ジアミン、例えば1,5−ジアミノ−2,3−ジ(2−スルホエトキシ)ベンゼン、1,5−ジアミノ−2,3−ジ(3−スルホプロポキシ)ベンゼン、1,5−ジアミノ−2,3−ジ(4−スルホブトキシ)ベンゼン、2,2' −ビス(3−スルホプロポキシ)ベンジジン、3,3' −ビス(3−スルホプロポキシ)ベンジジンなどが好適である。
【0048】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドの合成において、芳香族ジアミン成分として置換基としてスルホン酸基又はその誘導体基を有するスルホン化芳香族ジアミンとともに、置換基としてスルホン酸基又はその誘導体基を有しない非スルホン化芳香族ジアミンを併用することができる。そのような非スルホン化芳香族ジアミンとしては、例えば、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、ベンジジン、メタフェニレンジアミン、パラフェニレンジアミン、1,5−ナフタレンジアミン、2,6−ナフタレンジアミン、ビス[4−−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス−(4−アミノフェノキシフェニル)スルフィド、ビス−(4−アミノフェノキシフェニル)ビフェニル、1,4−ビス−(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス−(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス{4−(3−アミノフェノキシ)フェニル}スルホン、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス[4−(4−アモノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’−ビス(トリフルオロメチル)−ベンジジンなどを挙げることができる。
【0049】
本発明において、芳香族ジアミン成分として、スルホン化芳香族ジアミンと非スルホン化芳香族ジアミンとを併用する場合には、スルホン化芳香族ジアミンと非スルホン化芳香族ジアミンとの割合は、得られる架橋スルホン化ポリイミドのイオン交換容量が0.5〜3.5ミリ等量/g、特に1.5〜3.5ミリ等量/gの範囲になるような割合で用いられるのが好適である。特に、スルホン化芳香族ジアミンの割合は、全芳香族ジアミン成分100モル%中、60モル%以上、好ましくは65モル%以上、特に70モル%以上であることが、イオン交換容量を高くすることができるので好適である。非スルホン化芳香族ジアミンの割合が40モル%を超えるとイオン交換容量が低くなるので好ましくない。
【0050】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドの合成において、芳香族テトラカルボン酸成分と芳香族ジアミン成分とは、芳香族テトラカルボン酸成分のモル数をMa、芳香族ジアミン成分のモル数をMbとした時、Ma/Mbが、1.03〜1.5、好ましくは1.04〜1.33、更に好ましくは1.05〜1.33の範囲で用いる。Ma/Mbが1.03より小さいと、最終的に得られる架橋スルホン化ポリイミドの架橋が十分とならない。また、1.5より大きいと、最終的に得られる架橋スルホン化ポリイミドのイオン交換容量が小さくなったり、硬くなり過ぎたりする。
【0051】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドの製造法に用いられる3官能以上の芳香族アミン化合物としては、架橋反応を容易に行わせるために、同じ芳香環に2つのアミノ基が隣接して結合していないもの、特に同じ芳香環に2つ以上の第1アミノ基を結合していないものが好ましく、例えば、1,3,5‐トリ(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン、トリ(4‐アミノフェニル)メタン、1,3,5‐トリアミノベンゼン、5,10,15,20‐テトラキス(4‐アミノフェニル)‐21H ,23H-ポルフィリンなどを挙げることができ、耐熱性の点から、特に、1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼンが好ましい。
【0052】
前記3官能以上の芳香族アミン化合物は、酸末端スルホン化ポリイミドの末端基に対して略等モルとなるように用いられる。具体的には、酸末端スルホン化ポリイミドの酸末端基のモル数をM2 とし、3官能以上の芳香族アミン化合物のアミノ基のモル数をM3 とした時、モル比M3 /M2 が、0.9〜1.1の範囲、好ましくは0.92〜1.08の範囲、更に好ましくは0.95〜1.05の範囲であることが好ましい。モル比が0.9より小さかったり、1.1より大きいと、架橋が十分に進行しにくいので、最終的に得られる架橋スルホン化ポリイミドの吸水時の寸法変化、耐水性及びメタノール透過性などを十分に改良できなくなることがある。
【0053】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドは、(1)有機溶剤中で置換基としてスルホン酸基又はその誘導基を有するスルホン化芳香族ジアミンを含む芳香族ジアミン成分Mbモルと、芳香族テトラカルボン酸成分Maモルとを、モル比Ma/Mbが1.03〜1.5の範囲で反応させることにより、実質的に末端基が芳香族テトラカルボン酸成分残基からなる前記化学式(1)で示される有機溶剤可溶性の酸末端スルホン化ポリイミドを合成し、(2)その酸末端スルホン化ポリイミドの溶液に100℃以下の温度で芳香族テトラカルボン酸成分残基末端とアミノ基とがほぼ等モルとなるように3官能以上の芳香族アミン化合物を添加、混合し、(3)得られた酸末端スルホン化ポリイミドと3官能以上の芳香族アミンとの混合溶液を110℃〜350℃の温度で加熱し、溶剤除去させることによって好適に製造される。
尚、末端基が芳香族テトラカルボン酸成分残基からなる酸末端スルホン化ポリイミドの末端は、具体的には、ジカルボン酸基、エステル化されたジカルボン酸基、又はジカルボン酸無水物基である。
【0054】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドの製造法において、酸末端スルホン化ポリイミドの合成は、公知の方法を用いることができる。具体的には、例えば、極性の有機溶剤中で芳香族ジアミン成分と芳香族テトラカルボン酸成分とを前記のモル比で、必要ならば、重合反応やイミド化反応をより促進するために、前述の第3アミンまたは環式アミンや共沸溶剤としてトルエン又はキシレンなどを添加し、140〜220℃に加熱し生成した水を除去しながら0.5〜100時間反応させることによって容易に達成できる。更に、安息香酸などを触媒として添加しても良い。第3アミンまたは環式アミンは、スルホン酸基に対し、等モル以上添加されることが好ましい。得られた酸末端スルホン化ポリイミド溶液は、そのまま次の段階に用いてもよく、また、貧溶剤に投入して、一旦酸末端スルホン化ポリイミドを析出させた後に、再度極性溶剤に溶解させても良い。この時用いられる極性有機溶剤としては、具体的には、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶剤、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶剤、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶剤、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、m−クレゾール酸、キシレノール、p−クロロフェノールなどのハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶剤、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなどを挙げることができる。また、これらの有機溶剤は単独でも、又は2種以上混合して使用しても良い。
【0055】
本発明において、芳香族ジアミン成分としてスルホン化芳香族ジアミンと非スルホン化芳香族ジアミンとを用いる場合、ランダム共重合体及びブロック共重合体のどちらでも構わない。
酸末端スルホン化ポリイミドが、スルホン化芳香族ジアミン成分と非スルホン化芳香族ジアミン成分とからなるブロック共重合体である場合は、前述の酸末端スルホン化ポリイミドの合成方法と同様にして、所定量のスルホン化芳香族ジアミン(又は非スルホン化芳香族ジアミン)とテトラカルボン酸成分を用いて酸末端スルホン化ポリイミド(又は非スルホン化酸末端ポリイミド)を合成した後に、その溶液に所定量の非スルホン化芳香族ジアミン(又はスルホン化芳香族ジアミン)とテトラカルボン酸成分を添加して再度前述の条件で反応させることにより得ることができる。
【0056】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドの製造法において、酸末端スルホン化ポリイミド溶液の製造に続き、その溶液に3官能以上の芳香族アミン化合物を添加、混合された混合溶液が調製される。この混合溶液の調製は、前述の酸末端スルホン化ポリイミド溶液に、100℃以下、好ましくは、90℃以下、さらに好ましくは80℃以下の温度で、3官能以上の芳香族アミン化合物が添加、混合されることによって行われる。添加、混合する溶液の温度が、100℃より高いとゲル化することがあるから好ましくない。このようにして得られた酸末端スルホン化ポリイミドと3官能以上の芳香族アミン化合物との混合溶液は、ゲル化することなしに全固体成分の濃度を例えば10重量%以上の高濃度にすることができる。本発明において、酸末端スルホン化ポリイミドと3官能以上の芳香族アミン化合物との混合溶液の濃度は、全固形分が10重量%以上、特に11重量%以上であることが好適である。濃度が低い溶液は、架橋スルホン化ポリイミドフィルムを製造するときに溶液粘度が低くなり過ぎて成形が困難となったり、コストが高くなるなどの問題があるから好ましくない。また、溶液粘度が高くなり過ぎて成形が困難になることを避けるために、通常は全固形分が50重量%以下で用いられる。
【0057】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドの製造法において、前述の酸末端スルホン化ポリイミドと3官能以上の芳香族アミン化合物の混合溶液を加熱し、溶剤除去とともに架橋反応を進行させることによって架橋スルホン化ポリイミドが製造される。この時の最終的な加熱温度は、110℃〜350℃の温度であり、より好ましくは、110℃〜320℃、さらに好ましくは、120℃〜300℃の範囲である。加熱温度が110℃より低いと、架橋反応が十分進行せず好ましくない。一方、350℃より高くなると、スルホン酸基又はスルホン酸誘導体基などの分解反応が生じることから好ましくない。加熱時間は、1分〜48時間、好ましくは、2分〜24時間である。この工程において、当該溶液を、ガラス板、ステンレス板などの支持体上に流延又は塗布して、加熱し、溶剤除去とともに架橋反応を進行させた後、支持体から剥離することによって、自己支持性の有る架橋スルホン化ポリイミドフィルムを容易に得ることができる。また、剥離後のフィルムを、ステンレス枠などに固定し、最終温度が110℃〜350℃で加熱することにより残存している溶媒を除去すると共に、架橋反応をより進めても良い。このとき、必要ならば、ステンレス枠に固定する前に、溶媒除去を容易にするために、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどに10℃〜50℃で0.5分〜24時間浸漬しても良い。前述の製造工程で第3アミンや環式アミンを加えたり、用いたスルホン化芳香族ジアミンが前述のスルホン酸基の誘導体の場合、剥離したフィルムを、0.01規定〜3規定の塩酸、硫酸などの酸水溶液に10℃〜50℃で、0.5分〜24時間浸漬することにより、置換基をスルホン酸へ酸置換した後、枠に固定して加熱しても良い。このとき、必要ならば、酸水溶液に浸漬する前に、酸置換を容易にするために、メタノール、エタノール、イソプロパノール、アセトンなどに10℃〜50℃で、0.5分〜24時間浸漬しても良い。
【0058】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドフィルムの厚さは0.5〜300μm、好ましくは1〜250μm、さらに好ましくは1.5〜200μmである。0.5μmより薄いと取扱いが困難となり、300μmより厚いと製造が困難となる。
【0059】
尚、本発明の架橋スルホン化ポリイミドの製造法において、スルホン化芳香族ジアミンの置換基はスルホン酸でもスルホン酸の誘導体でも構わないが、重合時の溶解性を高める必要があるときは、第3アミンまたは環式アミンとの塩を形成していることが好ましい。
尚、これらの置換基は酸末端スルホン化ポリイミド、架橋スルホン化ポリイミドのいずれにおいても、また溶液でもフィルムなどの固体状態でも容易に相互に変換することができる。たとえば、置換基が誘導体である架橋スルホン化ポリイミドフィルムを、0.1規定〜3規定の塩酸、硫酸などの酸水溶液に10℃〜80℃で、0.5分〜72時間浸漬することにより、置換基をスルホン酸へ酸置換することができる。また、置換基がスルホン酸の架橋スルホン化ポリイミドフィルムを、0.1規定〜3規定のアルカリ金属の水酸化物やハロゲン化物水溶液、第3アミンや環式アミンを含む溶液に10℃〜80℃で、0.5分〜72時間浸漬することにより、対応する誘導体の置換基へと変換できる。これらの変換の後、必要ならばフィルムの構造を固定化するために、フィルムをステンレス枠などに固定し、最終温度が120℃〜350℃で熱処理しても良い。
本発明の高分子電解質は、置換基がスルホン酸(プロトン型)架橋スルホン化ポリイミドからなるものが、燃料電池への利用の点から好ましい。
【0060】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドは、例えば酸末端スルホン化ポリイミドが溶解可能な有機溶剤、具体的にはジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミドなどのホルムアミド系溶剤、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミドなどのアセトアミド系溶剤、N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドンなどのピロリドン系溶剤、フェノール、o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール、m−クレゾール酸、キシレノール、p−クロロフェノールなどのハロゲン化フェノール、カテコールなどのフェノール系溶剤、あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトンなど、特にm−クレゾール及びN−メチル−2−ピロリドンに、実質的に不溶な程度まで架橋されている。
本発明の架橋スルホン化ポリイミドは、具体的には、厚さが30μmに成形したフィルムを前記有機溶剤(特にm−クレゾール又はN−メチル−2−ピロリドン)中に25℃で24時間浸漬した後の乾燥重量をWbとし、浸漬前の乾燥重量をWaとしたとき、100×(Wb−Wa)/Waで求められる重量減少率が、30重量%以下、特に20重量%以下、更に10重量%以下になるように架橋したものが好適である。重量減少率が30重量%より大きいと、架橋が不充分であり、吸水時の寸法安定性や耐水性を改良したりメタノール透過性を抑制することが困難となる。
【0061】
本発明の高分子電解質膜は、前記架橋スルホン化ポリイミドを含んで構成されるものである。好ましくは、イオン交換容量が0.5〜3.5ミリ等量/g、特に1.5〜3.5ミリ等量/gの高いイオン交換容量を持ち、且つ、吸水時の寸法安定性や耐水性が改良され、更にメタノール透過性が抑制されたものである。
本発明の高分子電解質膜は、前記架橋スルホン化ポリイミド以外の樹脂成分を含んだ組成物であっても構わないが、前記架橋スルホン化ポリイミドが全樹脂成分中10重量%以上、好ましくは50重量%以上、更に80重量%以上が好ましく、特に100重量%からなるものが好適である。樹脂成分中10重量%未満では、本発明の架橋スルホン化ポリイミドの良好な電解質としての特性を発現することが難しい。
また、他の樹脂成分との組成物を構成する場合、他の樹脂成分は特に限定されないが、例えば置換基としてスルホン酸基を有するか又は有さない芳香族ポリイミドを用いても構わない。
【0062】
本発明の架橋スルホン化ポリイミドからなる高分子電解質膜を用いて、例えば、特許文献1〜4に記載されているような公知の方法によって固体高分子型燃料電池を製造することができる。
具体的には、本発明の架橋スルホン化ポリイミド電解質膜と膜に接触する触媒担持ガス拡散電極からなる膜/電極接合体(以下、MEAという)を、燃料ガス又は液体、並びに、酸化剤を送り込む流路が形成された一対のグラファイト製などのガスセパレーターなどの間に挿入することにより、燃料電池が得られ、単セルあるいは複数積層されたスタックとして用いることができる。
MEAは、パーフルオロスルホン酸系ポリマーやスルホン化ポリイミドの有機溶媒溶液などを塗布、乾燥させた市販の触媒担持ガス拡散電極(米国E−TEK社製、米国ElectroChem社製など)の触媒層側の面を膜と接触するように、本発明の架橋スルホン化ポリイミド電解質膜の両面に合わせ、ホットプレス機やロールプレス機などのプレス機を使用して、一般的には120〜250℃程度のプレス温度で接合することにより作成できるが、これに限定されるものではない。例えば、燃料の酸化反応及び酸素の還元反応を促進する、白金、ルテニウムなどの金属あるいはそれらの合金、導電材として、微粒子の炭素材料などの導電性物質など、結着剤として、撥水性を有する含フッ素樹脂など、必要に応じて、含浸・被覆材として、パーフルオロスルホン酸系ポリマーやスルホン化ポリイミドなどからなる触媒担持ガス拡散電極を、スクリーン印刷などで、架橋スルホン化ポリイミド電解質膜上に作成しても良く、また、カーボンクロスやカーボンペーパーなどの上に作成した後、前述の方法で、架橋スルホン化ポリイミド電解質膜と接合しても良い。
【0063】
以上のとおり、本発明の架橋スルホン化ポリイミドは、高分子電解質膜として実用的に極めて好適なものであって、ガスセンサー用、イオン交換用などに好適に用いることができるものである。特に、本発明の架橋スルホン化ポリイミドからなる高分子電解質膜は、水に浸漬したときの寸法変化が小さくなるように改善されており、耐水性が著しく優れており、また、メタノール透過性が低く抑えられていることからメタノール水溶液に接触する直接メタノール型燃料電池用電解質膜として特に好適である。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
尚、以下の合成例に示したH−NMRのデータは、溶剤として重水素化ジメチルスルホキシドを用いて、日本電子JEOL EX−270により測定した。
また、本発明における評価方法及び評価結果は、以下のとおりである。
(耐水性)
スルホン化ポリイミド膜(プロトン型)からなる30mm×5mm、厚み30μmのフィルムを130℃、加圧下、熱水に48時間浸漬した後、ピンセットでフィルムを取り出し、120度折り曲げた時(折り曲げた後、フィルム間は60度の角度になる)の破断の有無で評価した。
【0065】
(吸水性)
30mm×20mm、厚み30μmのフィルムを乾燥し、乾燥重量W0 を測定した後、30℃の水に所定時間浸漬した。フィルムを水から取り出し、手早く表面に付着した水をろ紙で拭き取り、重量Wを測定し、次式、
S=〔(W−W0 )/W0 〕×100
で吸水率S(%)を求めた。
【0066】
(プロトン伝導性)
テフロン(登録商標)製のプロトン伝導度測定セルに膜シート(1.0×0.5cm2 )と2枚の白金黒電極板(電極間隔0.5cm)を取り付け、50℃の水中に置き、日置電気(株)製3552LCRハイテスタを用いて、複素インピーダンス測定法により、プロトン伝導度を測定した。
【0067】
(メタノール透過性)
直径6cm、厚み30μmの電解質膜及び直径6cm、厚み170μmのナフィオン117(米国Dupont社製)のサンプルを用いて、アクリル製の液透過測定セル(この測定セルにおいて、容量350mlの供給側セルと100mlの透過側セルとの間にバイトンゴムのシール板を介してサンプルを挟みつける。供給側と透過液側はマグネチックスターラで撹拌する。有効膜透過面積:16cm2 )を温度50℃に制御したチャンバー内に置き、供給側にメタノールを10重量%添加して、透過側のメタノール組成をガスクロ分析してメタノール透過係数を求めた。
【0068】
(イオン交換容量)
プロトン型高分子電解質膜を、飽和塩化ナトリウム水溶液に30℃で72時間浸漬した後、0.1規定の水酸化ナトリウム水溶液で、フェノールフタレインを指示液として用いて滴定することにより求めた。尚、計算値は、用いた芳香族ジアミン成分量、テトラカルボン酸成分量、及び3官能以上の芳香族アミン成分量から計算したイオン交換容量である。
【0069】
(吸水寸法変化)
直径6cm、厚み30μmの電解質膜プロトン型高分子電解質膜を、水に30℃で24時間浸漬した後の寸法(直径:L、厚み:t)と、相対湿度70%の雰囲気に24時間放置した後の寸法(直径:L0 、厚み:t0 )から吸水寸法変化(平面方向:ΔL、厚み方向:Δt)を次式で計算した。
Δt=(t−t0 )/t0
ΔL=(L−L0 )/L0
【0070】
〔合成例1〕
1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼンの合成
4−フルオロニトロベンゼン49.6g(0.35モル)、1,3,5−トリヒドロキシベンゼン12.6g(0.1モル)、K2CO3 20.7g(0.15モル)を、ジメチルスルホキシド200ml及びトルエン50mlに添加し、窒素気流下で加熱した。140℃で4時間、トルエンを還流させながら、生成した水を除去した。トルエンを除去しながら、175℃まで昇温し、16時間加熱した。冷却後、多量のメタノールに析出させ、得られた固体を3回水洗後、乾燥した。
得られた固体30g、塩化鉄(III)60mg、白金担持炭素2gを2−メトキシエタノール110mlに添加し、90℃に昇温後、ヒドラジン一水和物18.9gを2時間かけて滴下した。110℃で2時間加熱後、室温まで冷却し、ろ過した。ろ液に、濃塩酸20mlを添加し、固体を析出させた。得られた固体をろ別し、アセトンで洗浄、乾燥後、水に溶解した。アンモニア水を加え、固体を析出させた。固体をろ別し、乾燥して、黄色固体を得た。得られた黄色固体は、H−NMR測定で、1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼンであることが確認された。
【0071】
〔実施例1〕(酸無水物/ジアミン=6/5の場合)
(1)3−(3’−ニトロフェノキシ)プロパンスルホン酸Naの合成
以下に示す手順で、下記の化学構造式を有する3−(3’−ニトロフェノキシ)プロパンスルホン酸のNa塩を合成した。
【0072】
【化15】

【0073】
完全に乾燥させた100mlの4つ口フラスコに、m−ニトロフェノール13.9g(100ミリモル)、及び、DMF120mlを入れ、窒素雰囲気で撹拌した。m−ニトロフェノールが溶解した後、K2CO3 20g(150ミリモル)とトルエン20mlを加えた。反応混合物を30分間室温で撹拌し、その後、加熱・還流を2時間行った。反応混合物を再び室温まで冷却し、3−ブロモプロパンスルホン酸Na22.5g(100ミリモル)を一度に加えた。反応混合物を110℃まで再加熱し、この温度で24時間保持した。次に、室温まで冷却した後、暗橙色の反応液を濾過し、沈殿物をアセトンで洗浄した。次に、40℃で10時間真空乾燥させた。得られた固形物にDMSOを300ml加え、この混合物を30分間室温で撹拌し、不溶解の無機塩を濾過して除いた。更に、ろ液から溶剤(DMSO)を減圧下で留去し、得られた固形物をアセトンで洗浄し、50℃で20時間、真空乾燥させた。この生成物をメタノールから再結晶することにより精製し、24gの前記の化学構造式を有する3−(3’−ニトロフェノキシ)プロパンスルホン酸Naを得た。収率は86%であった。
この生成物について、H−NMRを測定した。その結果、7.82ppm(d)、7.69ppm(s)、7.60−7.55(t)及び7.44−7.37(m)が観測され、フェニル環のHに基づくシグナルとして帰属された。また、4.22−4.18ppm(t)はエーテル結合に隣接するCH2 のプロトンに、2.62−2.56ppm(t)はスルホニル基に隣接するCH2 のプロトンに、2.09−1.99ppm(m)は中間のCH2 のプロトンにそれぞれ帰属され、前記の化学構造式を有する3−(3’−ニトロフェノキシ)プロパンスルホン酸Naが生成していることが確認された。
【0074】
(2)3,3' −ビス(3−スルホプロポキシ)アゾベンゼン二ナトリウムの合成
以下に示す手順で、下記の化学構造式を有する3,3’−ビス(3−スルホプロポキシ)アゾベンゼン二ナトリウムを合成した。
【0075】
【化16】

【0076】
完全に乾燥させた100mlの4つ口フラスコに、3−(3’−ニトロフェノキシ)プロパンスルホン酸Na5.7g(20ミリモル)と水15mlとをメタノール15mlと共に加え、窒素を流しながら亜鉛粉4.6gを加えた。混合物を撹拌しながら90℃まで加熱し、次に、水10mlに溶解したNaOH5gをフラスコ内に滴下した。反応液を90℃で3時間撹拌した後、室温まで冷却し、濾過した濾液を減圧下で留去し、得られた固形物をエタノールで洗浄し、これを60℃で20時間真空乾燥させ、オレンジ色の前記の化学構造式を有する生成物4.4gを得た。収率は88%であった。
この生成物について、H−NMRを測定した。その結果、7.51ppm(m)、7.4ppm(s)、7.15ppm(sp lit)が観測され、フェニル環のHに基づくシグナルとして帰属された。プロポキシ基のプロトンのシグナルは、上記と同様に帰属された。以上の結果から、3,3’−ビス(3−スルホプロポキシ)アゾベンゼン二ナトリウムが生成していることが確認された。
【0077】
(3)3,3’−ビス(3−スルホプロポキシ)ヒドラゾベンゼン二ナトリウムの合成
以下に示す手順で、下記の化学構造式を有する3,3’−ビス(3−スルホプロポキシ)ヒドラゾベンゼン二ナトリウムを合成した。
【0078】
【化17】

【0079】
完全に乾燥させた100mlの4つ口フラスコに、3,3’−ビス(3−スルホプロポキシ)アゾベンゼン二ナトリウム1.5g(3.0ミリモル)と水15mlと1.5mlの酢酸とを窒素雰囲気にて撹拌しながら加えた。次に、反応混合物を90℃まで加熱し、亜鉛粉1.5gを素早く加え、混合液を更に1時間この温度で撹拌した。室温まで冷却した後、反応混合物を濾過し、濾液を減圧下で留去した。得られた固形物をエタノールで洗浄し、真空乾燥させて灰白色の1.32gの固体を得た。収率は87%であった。
この生成物について、H−NMRを測定した。その結果、7.25−7.15(t)ppm、6.77−6.62ppm(m)が観測され、フェニル環のHに基づくシグナルとして帰属された。プロポキシ基のプロトンのシグナルは、上記と同様に帰属された。以上の結果から、3,3’−ビス(3−スルホプロポキシ)ヒドラゾベンゼン二ナトリウムが生成していることが確認された。
【0080】
(4)2,2' −ビス(3−スルホプロポキシ)ベンジジン(以下、2,2' −BSPBと略記することもある。)の合成
以下に示す手順で、下記の化学構造式を有する2,2' −BSPBを合成した。
【0081】
【化18】

【0082】
完全に乾燥させた100mlの4つ口フラスコに、3,3’−ビス(3−スルホプロポキシ)ヒドラゾベンゼン二ナトリウム1.0gと水5mlと濃塩酸5mlとを窒素気流下で撹拌しながら加えた。混合物を100℃で2時間加熱した後、室温まで冷却した。生成した沈殿を濾過し、真空乾燥することにより、前記の化学構造式を有する白色の2,2' −ビス(3−スルホプロポキシ)ベンジジン(2,2' −BSPB)0.5gを得た。収率は60%であった。
この生成物について、トリエチルアミンの存在下でH−NMRを測定した。その結果、6.77−6.71ppm(d)、6.2ppm(s)が観測され、フェニル環のHに基づくシグナルとして帰属された。4.91ppm(br)は2つのアミノ基のプロトンに帰属された。また、3.9−3.8ppm(t)はエーテル結合に隣接するCH2 のプロトンに、2.52−2.45ppm(t)はスルホニル基に隣接するCH2 のプロトンに、1.93−1.79ppm(m)は中間のCH2 のプロトンにそれぞれ帰属された。以上の結果から、2,2' −BSPSが生成していることが確認された。
【0083】
(5)NTDA−2,2' −BSPB酸末端スルホン化ポリイミドの合成
以下に示す手順で、下記の化学式で示される構造単位からなるNTDA−2,2' −BSPB酸末端スルホン化ポリイミドのトリエチルアミン塩型の酸末端スルホン化ポリイミドを合成した。
【0084】
【化19】

【0085】
完全に乾燥させた100mlの4つ口フラスコに、2,2' −BSPB2.303g(5ミリモル)と、m−クレゾール19g と、トリエチルアミン1.56g とを窒素気流中で撹拌しながら投入した。2,2' −BSPBが完全に溶解した後、NTDA(1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物)1.609g(6ミリモル)と、触媒としての安息香酸1.06gとをフラスコに加えた。混合液を80℃で2時間加熱した後、180℃で10時間加熱した。次に25℃まで冷却した後、1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを0.267g(0.67ミリモル)、m−クレゾール16.5g加え、70℃で2時間撹拌した。得られた均一溶液の全固形分濃度は11重量%であった。この溶液を、ガラス板上に流延し、80℃で2時間、130℃で12時間加熱、乾燥した。室温まで冷却後、はく離した後、メタノールに60℃で1時間浸漬した。その膜を、ステンレス枠に固定し、150℃で10時間加熱することにより、30μmの厚みの自己支持性膜を得た。得られた膜は、酸末端スルホン化ポリイミド(トリエチルアミン塩型)の溶剤であるm−クレゾール及びNメチル−2−ピロリドンに不溶であり、十分架橋していることが確認された。
フィルムを60℃で1時間メタノール中に浸漬し、次に、室温で0.5N塩酸に10時間浸漬してプロトン交換した後、水洗し、150℃で10時間真空乾燥させて、プロトン型の架橋NTDA−2,2' −BSPBポリイミド膜を得た。得られた膜の特性を表1に示す。また、この膜を130℃熱水中で48時間処理してもフィルム形状を保持していており、折り曲げても割れることなく優れた耐水性を有していた。
【0086】
〔比較例1〕
実施例1で合成した2,2' −BSPB4.605g(10ミリモル)と、m−クレゾール38.5gと、トリエチルアミン3.12gとを窒素気流中で撹拌しながら投入した。2,2' −BSPBが完全に溶解した後、NTDA(1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物)2.682g(10ミリモル)と、触媒としての安息香酸2.13gとをフラスコに加えた。混合液を80℃で2時間加熱した後、180℃で15時間加熱した。これを、実施例1と同様に、流延製膜した。得られた膜は、m−クレゾールに可溶であった。プロトン交換し、プロトン型のNTDA−2,2' −BSPBポリイミド膜を得た。得られた膜の特性を表1に示す。また、この膜を130℃熱水中で48時間処理したところ、フィルム形状が一部崩壊し、また、折り曲げると切断した。
【0087】
〔実施例2〕(酸無水物/ジアミン=12/11の場合)
2,2' −BSPB5.066g(11ミリモル)、NTDA(1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物)3.218g(12ミリモル)、1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを0.267g(0.67ミリモル)用い、1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン添加溶液の全固形分濃度を12重量%とし、調製温度を80℃とした以外は、実施例1と同様にして1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン添加溶液を調製した。この溶液を用い、実施例1と同様にして、自己支持性の架橋スルホン化ポリイミド膜(トリエチルアミン塩型)を得た。得られた膜は、m−クレゾール及びNメチル−2−ピロリドンに不溶であった。実施例1と同様にして得られたプロトン型の膜の特性を表1に示す。この膜を130℃熱水中で48時間処理してもフィルム形状を保持していており、折り曲げても割れることなく優れた耐水性を有していた。
【0088】
〔実施例3〕(酸無水物/ジアミン=4/3の場合)
2,2' −BSPB1.382g(3ミリモル)、NTDA(1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物)1.073g(4ミリモル)、1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを0.267g(0.67ミリモル)用い、1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン添加溶液の全固形分濃度を12重量%とし、調製温度を50℃とした以外は、実施例1と同様にして1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン添加溶液を調製した。この溶液を用い、実施例1と同様にして、自己支持性の架橋スルホン化ポリイミド膜(トリエチルアミン塩型)を得た。得られた膜は、m−クレゾール及びNメチル−2−ピロリドンに不溶であった。
【0089】
〔比較例2〕(酸無水物/ジアミン=6/5の場合)
1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン添加溶液の調製温度を120℃とした以外は、実施例1と同様にして1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン添加溶液の調製を試みた。しかし、ゲル化し、膜を成形することはできなかった。
【0090】
〔実施例4〕
2,2' −BSPB2.303g(5ミリモル)と、m−クレゾール17.5gと、トリエチルアミン1.5gとを窒素気流中で撹拌しながら投入した。2,2' −BSPBが完全に溶解した後、NTDA(1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物)1.609g(6ミリモル)と、触媒としての安息香酸1.02gとをフラスコに加えた。混合液を80℃で2時間加熱した後、180℃で10時間加熱した。
次に25℃まで冷却した後、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル0.735g(2ミリモル)、NTDAを0.535g(2ミリモル)、m−クレゾール6.2g、安息香酸0.34gとを添加し、混合液を80℃で2時間加熱した後、180℃で15時間加熱した。
25℃まで冷却後、全固形分濃度を12重量%とし、調製温度を80℃とした以外は、実施例1と同様にして1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン添加溶液を調製した。この溶液を用い、実施例1と同様にして、自己支持性の架橋スルホン化ポリイミド膜(トリエチルアミン塩型)を得た。得られた膜は、m−クレゾール及びNメチル−2−ピロリドンに不溶であった。実施例1と同様にして得られたプロトン型の膜の特性を表1に示す。また、この膜を130℃熱水中で48時間処理してもフィルム形状を保持していており、折り曲げても割れることなく優れた耐水性を有していた。
【0091】
〔実施例5〕(酸無水物/ジアミン=5/4の場合、3、3’−BSPB)
m−ニトロフェノールに代えてo−ニトロフェノールを用いた以外、実施例1と同様の方法によって、3,3’―ビス(3’―スルホプロポキシ)ベンジジン(3、3’−BSPB)を合成した。全体での収率は46%であった。
この生成物について、トリエチルアミンの存在下でH−NMRを測定した。6.98−6.93ppm(s)、6.93−6.82ppm(d)、6.70−6.60ppm(d)が観測され、フェニル環のプロトンに帰属された。4.9−4.5ppm(br)はアミノ基のプロトンに、4.17−4.02ppm(t)はエーテル結合に隣接するCH2 のプロトンに、2.8ppm附近(トリエチルアミンのシグナルと重なる)はスルホ基に隣接するCH2 のプロトンに、2.15−1.98ppm(m)は中間のCH2 のプロトンに、それぞれ帰属された。その帰属と積分強度比から、生成物は3、3’−BSPBであることが確認された。
3,3' −BSPB1.842g(4ミリモル)、NTDA(1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物)1.342g(5ミリモル)、1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼンを0.267g(0.67ミリモル)用い、1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン添加溶液の全固形分濃度を12重量%とし、調製温度を50℃とした以外は、実施例1と同様にして1,3,5−トリ(4−アミノフェノキシ)ベンゼン添加溶液を調製した。この溶液を、ガラス板上に流延し、80℃で2時間、130℃で12時間加熱、乾燥した。室温まで冷却後、はく離した後、メタノールに60℃で1時間浸漬した。次に、室温で0.5N塩酸に10時間浸漬してプロトン交換した後水洗し、その膜を、ステンレス枠に固定し、150℃で10時間真空乾燥させて、30μmの厚みのプロトン型の架橋NTDA−2,2' −BSPBポリイミド膜を得た。得られた膜は、m−クレゾール及びNメチル−2−ピロリドンに不溶であり、十分架橋していることが確認された。得られたプロトン型の膜の特性を表1に示す。この膜を130℃熱水中で48時間処理してもフィルム形状を保持していており、折り曲げても割れることなく優れた耐水性を有していた。
【0092】
〔実施例6〕(燃料電池の製作)
厚みを変えた以外は実施例5と同様にして作成したプロトン型の架橋スルホン化ポリイミド電解質膜(縦100mm×横100mm×厚み58μm)の両面に、5%ナフィオン溶液(米国Dupont社製)を塗布、乾燥した米国Fuel Cell Technologies社製触媒担持ガス拡散電極を130℃、10分間、100kg/cm2 の圧力でプレスすることにより接合した(有効面積20mm×20mm)。得られたMEAを、E-TEK 社製単セルに組み込み燃料電池を作成した。セル温度60℃、燃料ガス:H2(アノード)/O2(カソード)、ガス加湿温度55℃、背圧0.1Mpa 、ガス流量50ml/minの条件で発電を行ったときの発電特性を図1に示す。
【0093】
〔比較例3〕
ナフィオン117(米国Dupont社製、厚み170μm)を用いた以外は実施例1と同様にして、イオン交換容量、イオン伝導度、吸水率、及びメタノール透過性を測定した。その結果を表1に示す。
【0094】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、燃料電池用高分子電解質膜、ガスセンサー、イオン交換樹脂などに好適に利用可能な架橋スルホン化ポリイミド及びその製造法や用途を提案するものである。特に、本発明の架橋スルホン化ポリイミドは、イオン交換容量やプロトン伝導度が優れ、更に吸水時の寸法変化、耐水性及びメタノール透過性が改良されているから、高分子電解質膜として好適に利用可能であり、その高分子電解質膜は固体高分子型燃料電池に好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式(1)で示される繰り返し単位を有し両末端が芳香族テトラカルボン酸成分残基からなる酸末端スルホン化ポリイミドを、3官能以上の芳香族アミン化合物で架橋した架橋スルホン化ポリイミド。
【化1】

[ここで、Ar1 及びAr4 は芳香環を有する4価の基であり、Ar2 は1つ以上のスルホン酸基又はスルホン酸基の誘導体を置換基とする芳香環を有する2価の基であり、Ar5 はスルホン酸基又はスルホン酸基の誘導体を置換基としない芳香環を有する2価の基であり、lは1以上の整数であり、mは0又は1以上の整数である。]
【請求項2】
厚さ30μmに成形したフィルムを有機溶剤中に25℃で24時間浸漬した後の重量減少率が、浸漬前の30重量%以下である請求項1に記載の架橋スルホン化ポリイミド。
【請求項3】
前記有機溶剤が、m−クレゾール又はN−メチル−2−ピロリドンである請求項2に記載の架橋スルホン化ポリイミド。
【請求項4】
厚さ30μmに成形したフィルムを130℃の熱水中で48時間処理した後、そのフィルムを120°折り曲げても破断しない請求項1〜3のいずれかに記載の架橋スルホン化ポリイミド。
【請求項5】
前記化学式(1)のAr1 及び/又はAr4 が、下記化学式(2)で示される4価の基である請求項1〜4のいずれかに記載の架橋スルホン化ポリイミド。
【化2】

【請求項6】
前記化学式(1)のAr2 が、下記化学式(3)で示される2価の基である請求項1〜5のいずれかに記載の架橋スルホン化ポリイミド。
【化3】

[ここで、D1 は、O 、CH2 、C(CH3)2 、C(CF3)2 、O=S=O 又はC=O を示し、R1 〜R3 は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンを示す。]
【請求項7】
前記化学式(1)のAr2 が、下記化学式(4)で示される2価の基である請求項1〜5のいずれかに記載の架橋スルホン化ポリイミド。
【化4】

[ここで、D2 は、O 又はC(CH3)2 を示す。R4 〜R7 は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を示し、Ar3 は、
【化5】

(式中、D3 は、直接結合、O 、CH2 、C(CH3)2 、C(CF3)2 、O=S=O 又はC=O を示し、R8 〜R10は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1〜2のアルキル鎖を示し、Xは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンを示し、nは、0、1又は2の整数を示す。)である。]
【請求項8】
前記化学式(1)のAr2 が、下記化学式(5)で示される2価の基である請求項1〜5のいずれかに記載の架橋スルホン化ポリイミド。
【化6】

[ここで、R11〜R13はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1〜2のアルキル基を表し、pは1又は2の整数であり、nは1〜6の整数であり、kは1又は2の整数であり(ただし、kが2のとき、R13は存在しない)、Xは水素原子、アルカリ金属、アンモニウム又は4級アミンである。]
【請求項9】
前記3官能以上の芳香族アミン化合物が、同じ芳香環に2つ以上の第1アミノ基を有しないものである請求項1〜8のいずれかに記載の架橋スルホン化ポリイミド。
【請求項10】
前記化学式(1)のlとmとの割合が、l:m=60:40〜100:0である請求項1〜9のいずれかに記載の架橋スルホン化ポリイミド。
【請求項11】
前記酸末端スルホン化ポリイミドが、ブロック共重合体である請求項1〜10のいずれかに記載の架橋スルホン化ポリイミド。
【請求項12】
(1)有機溶剤中で芳香族ジアミン成分Mbモルと芳香族テトラカルボン酸成分Maモルとを、モル比Ma/Mbが1.03〜1.5の範囲で反応させることにより、末端基が芳香族テトラカルボン酸成分残基からなる有機溶剤可溶性の酸末端スルホン化ポリイミドを合成し、(2)その酸末端スルホン化ポリイミド溶液に100℃以下の温度で両末端の芳香族テトラカルボン酸成分残基とアミノ基とがほぼ等モルとなるように3官能以上の芳香族アミンを添加、混合し、(3)得られた酸末端スルホン化ポリイミドと3官能以上の芳香族アミンとの混合溶液を110℃〜350℃の温度で加熱して溶剤除去を行うことを特徴とする架橋スルホン化ポリイミドの製造法。
【請求項13】
請求項12の(2)で得られた酸末端スルホン化ポリイミドと3官能以上の芳香族アミンとの混合溶液を支持体上に流延又は塗布し、110℃〜350℃の温度で加熱して溶剤除去を行うことを特徴とする架橋スルホン化ポリイミドフィルムの製造法。
【請求項14】
請求項1〜11のいずれかに記載の架橋スルホン化ポリイミドからなることを特徴とする高分子電解質膜。
【請求項15】
請求項14に記載の高分子電解質膜を用いたことを特徴とする固体高分子型燃料電池。

【図1】
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【公開番号】特開2010−235946(P2010−235946A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100085(P2010−100085)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【分割の表示】特願2003−317413(P2003−317413)の分割
【原出願日】平成15年9月9日(2003.9.9)
【出願人】(800000013)有限会社山口ティー・エル・オー (6)
【出願人】(000000206)宇部興産株式会社 (2,022)
【Fターム(参考)】