説明

架橋ポリマーシート及びそれらを製造するための方法

本発明は、架橋ポリマーベースの層を含むシート材料及びそれらの製造方法に関する。より詳細には、本発明は、トリアジン型架橋性化合物などのアミン−アミン架橋性化合物により硬化されるゼラチンベースの層に関する。そのような材料に使用されるゼラチン溶液は、ゼラチン溶液の硬化速度を制御するために緩衝化される。本発明は、画像記録材料などのそのような硬化ゼラチン層の応用ばかりでなく医薬品産業又は化粧品産業に応用可能な試験基材などの応用にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶解ポリマーを架橋することにより作製される層を含むシート材料及びそれらの製造方法に関する。特に、本発明は、トリアジン硬化剤などの硬化剤により架橋されるゼラチン層に関する。さらに、本発明は、画像記録材料などのシート材料の応用ばかりでなく、医薬品産業又は化粧品産業に応用可能な試験基材(test-substrate)などの応用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ゼラチンは、様々な応用で使用されている。写真乳剤において、ゼラチンは、ハロゲン化銀結晶のため、及び水中油型乳剤を調製するための分散媒体として使用されている。最近になって、ゼラチンは、画像受容媒体として、又はインクジェットインクからの高い溶剤負荷を受け入れるための媒体として、インクジェット記録材料にも応用されている。ゼラチンは、薬学的、化粧学的及び医学的応用も有する。例えば、人工皮膚は、ゼラチンから、並びに薬学的及び化粧学的化合物を試験するための試験基材からも調製される。
【0003】
そのようなゼラチンの用途は、ゼラチン層の構造的完全性が、ゼラチン分子を架橋することにより実現されるという共通点を有する。ゼラチンが写真乳剤層の重要な構成要素である写真産業により、ゼラチンの架橋又は硬化に関する多くの研究が行われてきた。ゼラチンの硬化については、非特許文献1に記載されており、様々なタイプの硬化剤が述べられている。様々な硬化剤によるゼラチンの硬化に関するより最近の研究は、例えば、非特許文献2に記載されている。
【0004】
インクジェット応用における硬化ゼラチン層の使用は、例えば、ゼラチンが、他のポリマーと混合され、架橋されることが好ましいとする特許文献1に述べられている。s−トリアジンが、可能な架橋性化合物として述べられている。インクジェット記録媒体に架橋ゼラチンを応用する他の出版物としては、例えば、特許文献2〜8を挙げることができる。
【0005】
特許文献9は、トリメトキシトリアジンによる架橋後に引張強度が増加している人工皮膚として使用するためのゼラチンシートを開示している。人工皮膚における架橋ゼラチンの使用は、例えば、特許文献10〜21にも開示されている。
【0006】
ゼラチンについては、硬化剤としても知られているおびただしい数の知られている架橋剤が存在する。架橋性化合物の例は、ホルムアルデヒド及びグルタルアルデヒドなどのアルデヒド化合物、ジアセチル−及びクロロペンタンジオンなどのケトン化合物、ビス(2−クロロエチル尿素)、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン、特許文献22に開示されている反応性ハロゲン含有化合物、特許文献23及び24に開示されているピリジン環がサルフェート又はアルキルサルフェート基を保有するカルバモイルピリジニウム化合物、ジビニルスルホンなどを包含する。
【0007】
s−トリアジン誘導体は、よく知られている架橋性化合物である。2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−s−トリアジンは、写真応用で一般的に使用される誘導体である。2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−s−トリアジンは、不安定であるという欠点を有する。特許文献25は、製造中に炭酸(水素)塩緩衝液が添加される安定化された2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−s−トリアジンの製造を開示している。貯蔵中の二酸化炭素の生成を抑制するために他の緩衝液が添加される。
【0008】
ゼラチンを硬化することにより、コーティングされた基材、例えば、ウェブ上に、斑点、直線又は線条などの欠陥を引き起こすことがあるミクロゲルが形成されることは当技術分野においてよく知られている現象である。通常、そのようなミクロゲルは、コーティング溶液に架橋性化合物を添加する際に、コーターの供給ラインにおけるデッドスペース又はコーター自体のデッドスペースで形成される。長引く製造時間の後に、そのようなミクロゲルは十分に成長し、コーター又はウェブ上に放出されて沈着し、欠陥をもたらすであろう。
【0009】
特許文献26は、コーティングされたゼラチンの硬化速度が、上記に記載されている特性にとって重要であることを認識し、より反応性の架橋性化合物又はより高分子量のゼラチンを使用することができるように、硬化速度が低下したコーティング液1グラム当たり少なくとも1重量%のゼラチン及び1〜200有効マイクロモルの架橋性化合物を含むコーティング液について記載している。硬化は、架橋性化合物とコーティング液を含有するゼラチンを混合した直後に既に起きるという事実が述べられている。コーティング装置におけるミクロゲル形成の問題がいくらか遅延されることが予想され、この文書は、より遅い硬化速度による問題に関しては記載がない。
【0010】
特許文献27は、従来の写真層の上に3%未満のゼラチンを含有する架橋性化合物の水溶液をコーティングすることによりミクロゲル形成の問題を解決しようと試みている。しかしながら、反応速度を低下させるために架橋性化合物濃度を下げることは、乾燥効率を結果的に悪くする望ましくない高い水負荷をもたらす。さらに、架橋性化合物の結晶化に関する問題が、水/空気境界において、特に、より低いゼラチン濃度で予想される。コーティング後は、すべての層における架橋性化合物濃度のバランスをとるべきである。これは、その添加時点からの架橋性化合物の拡散によってのみ起こり得る。硬化後に、最上層が十分な機械的強度を有するように措置が講じられる。例えば、これは、ライムボーンゼラチンに加え又はその代わりに酸性(豚皮)ゼラチンを添加することにより行われる。酸性ゼラチンは、ライムボーンゼラチンよりも高い硬化速度を有することが知られている。架橋性化合物がそのような層の上部に添加される場合、コーティングされた層の不均衡な硬化が予想される。
【0011】
特許文献28は、今度は最下層として架橋性化合物の水溶液をコーティングすることによりミクロゲル形成の問題を解決しようとする別の試みである。この場合にも、結晶化は、コーティング中に水/空気境界において起こり得る。コーティング装置の腐食は、架橋性化合物溶液中に存在する塩によって起こり得る。
【特許文献1】欧州特許第594896号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0716929号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0856414号明細書
【特許文献4】EP029,108
【特許文献5】米国特許第3,889,270号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第0701902号明細書
【特許文献7】欧州特許出願公開第1569802号明細書
【特許文献8】国際公開第2004/110774号パンフレット
【特許文献9】チェコスロバキア特許第141238号明細書
【特許文献10】特公昭59−013210号公報
【特許文献11】米国特許第4,522,753号明細書
【特許文献12】ポーランド特許第133551号明細書
【特許文献13】欧州特許出願公開第0331786号明細書
【特許文献14】欧州特許出願公開第0411124号明細書
【特許文献15】米国特許第4,971,954号明細書
【特許文献16】欧州特許出願公開第0440198号明細書
【特許文献17】特開平04−129563号公報
【特許文献18】欧州特許出願公開第0568334号明細書
【特許文献19】欧州特許出願公開第0702081号明細書
【特許文献20】国際公開第00/09018号パンフレット
【特許文献21】国際公開第04/28547号パンフレット
【特許文献22】米国特許第3,288,775号明細書
【特許文献23】米国特許第4,063,952号明細書
【特許文献24】米国特許第5,529,892号明細書
【特許文献25】国際公開第00/15619号パンフレット
【特許文献26】欧州特許出願公開第1367436号明細書
【特許文献27】特開平05−265130号公報
【特許文献28】特開平11−242305号公報
【非特許文献1】the Theory of the Photographic process (T.H. James et al, 4th edition 1977, chapter 2, section III)
【非特許文献2】Sakvarelidze et al (Russian Journl of Applied Chemistry, 2003, 76(7), 1143-1151)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
写真記録材料のためのコーティング装置におけるミクロゲル形成の問題を解決しようとする試みにもかかわらず、ミクロゲルの形成により引き起こされる欠陥を生じることなく長期間にわたるような、連続してコーティングする方法の必要性が残っている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の目的は、そのようなシート材料の製造中に形成されるミクロゲル又はミクロ粒子により引き起こされる欠陥を本質的に含まない少なくとも1種の架橋ポリマー層を含むシート材料を提供することである。
【0014】
本発明の目的は、ミクロゲル又はミクロ粒子の形成により引き起こされる欠陥を生じることなく長期間にわたって連続してコーティングすることによりそのようなシート材料を製造する方法を提供することでもある。
【0015】
本発明の目的は、ミクロゲルの形成によって中断することなく、より長時間の連続コーティングを実行することができることを意味する実行時間の増加した画像記録材料を製造するための方法を提供することでもある。
【0016】
本発明の他の目的は、コーティング障害の危険性なしに医学的又は薬学的応用のためにゼラチンベースのシートを連続的に製造するための方法を提供することである。
【0017】
本発明の目的は、欠陥も不規則性もない人工皮膚などの組織工学のためのゼラチンシート材料を提供することでもある。
【0018】
驚いたことに、すべての目的は、基材上に少なくとも1種の架橋ポリマー層を含むシート材料を製造するための方法であって、
(i)ヒドロキシ基、チオール基及びアミン基から選択される少なくとも1種の基を含む3〜30重量パーセントの溶解ポリマーと、架橋性化合物と反応せず、25℃におけるpKa値が最低でも6.5〜最高でも8.5である緩衝性化合物とを含むコーティング溶液を提供するステップ;
(ii)前記コーティング溶液のpHを40℃におけるpH6.0〜9.0に調整するステップ;
(iii)架橋性化合物を前記コーティング溶液に添加するステップ;
(iv)前記架橋性化合物の添加後最長でも30分以内に前記基材上に前記コーティング溶液を塗布し、それによって、コーティングされた層を得るステップ;
(v)必要に応じて、前記のコーティングされた層から前記基材を分離するステップ;を含む方法により達成された。
【0019】
本発明による方法の好例は、ゼラチンの架橋である。ゼラチンの硬化又は架橋は、第1の、次いで第2のリシンを結合する2つのステップで進行する。第1のステップは、最速である。第2のステップは、はるかに低速度で進行するため、律速的である。粘度に影響を与え、ミクロゲルを形成する原因になるのはこの第2の反応ステップである。
【0020】
s−トリアジンを含む置換複素環芳香族架橋性化合物のグループの場合、反応は、第2のリシンカップリングの強いpH依存性のために自己触媒的である。他のアミン−アミン架橋性化合物の場合、第2のステップの反応速度は、pHが低下した場合に低下する。
【0021】
置換複素環芳香族架橋性化合物を用いる場合にミクロゲル形成を遅延させる対策は、主に、この第2の律速ステップに向けられる。第1のステップにおける架橋性化合物とリシンとの結合は、プロトンを放出し、第2のリシンとの結合を加速する。硬化速度を低下させたい当業者は、架橋性化合物が添加されるコーティング液のpHを単に高めるであろう。このことは、第2の反応ステップを遅延させるはずである。しかしながら、この手段は、不十分に見え、第1の反応ステップ、即ちプロトンの放出が、より高いpHでさらに速く起きるため、プロセスを妨げるように見える。
【0022】
さらに調整することなしに、製造されたままの架橋性化合物溶液を塗布することは、当技術分野において一般的である。例えば、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−s−トリアジンは、炭酸塩の存在下で合成されるため、炭酸塩緩衝架橋性化合物溶液となる。ホウ酸塩緩衝液などの追加の緩衝液が製造者により添加され、COの形成を遅らせることができる。これらの緩衝液は、高い、一般的には9.0超のpKaを有し、ヒドロキシ基によるクロライドの置換が起きる溶液中の第1の反応ステップを妨げる。そのような架橋性化合物分子は、ゼラチン分子を架橋する能力を失ってしまった。今までに、架橋性化合物製造者の目的、即ち、第1の反応を妨げることが、第2の反応ステップを制御する目的に反していることは認識されてこなかった。それらの高いpKaのため、架橋性化合物製造者により使用される緩衝液は、架橋中の第2の反応ステップを制御するのには不適当である。
【0023】
置換複素環アロメート(aromate)以外のアミン−アミン架橋性化合物の場合、第1の反応ステップにより引き起こされるプロトンの放出は、第2の反応ステップの速度を低下させる。そのような架橋性化合物の場合、pHが下がりすぎることを防ぐことも重要である。このようにして、本発明者らにとって、置換複素環アロメートの特定の群について見いだされた本発明の対策が、第2の反応ステップに対するpH効果がまさに正反対であるアミン−アミン架橋性化合物にとっても有益であることはうれしい驚きであった。
【0024】
ミクロゲルの形成を防ぐ他に、本発明の方法の他の利点は、ゼラチン溶液の粘度が長期にわたって低いままであり、ゼラチン溶液をコーティングするプロセス又は別の方法でゼラチン溶液を処理するプロセスにおいてより高い柔軟性をもたらすことである。
【0025】
別の利点は、炭酸塩緩衝液を含有するs−トリアジン架橋性化合物の場合、二酸化炭素の生成が遅延されることである。ゼラチン溶液における二酸化炭素の泡の生成は、最終製品に欠陥を引き起こすことがある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
トリアジンなどの化合物によるゼラチンなどのポリマーの架橋は、pH依存性反応である。pH依存性架橋に関して知られている問題は、装置のデッドスペースにおけるミクロ粒子又はミクロゲルの形成である。そのような粒子又はゲルは、デッドスペースに蓄積し、それらが放出された場合、製品に欠陥を引き起こす。
【0027】
本発明によれば、このことは、その溶液を基材に塗布する前に、25℃におけるpKaが6.5〜8.5である架橋性化合物を、40℃におけるpH6.0〜9.0を有するポリマー溶液に添加する方法により防ぐことができる。(pH40℃−pKa25℃)の絶対値が1.0以下であるという条件、科学的表記が|(pH40℃−pKa25℃)|≦1.0であるという条件が満たされていることが好ましい。pH40℃は、架橋性化合物が添加される溶液のpHであり、架橋性化合物の添加前に測定される。pKa25℃は、添加される架橋性化合物のpKaである。したがって、一実施形態において、本発明による方法は、上記に記載されているステップ(iii)で得られるコーティング溶液について、|(pH40℃−pKa25℃)|≦1.0以下であるという条件が満たされている方法である。
【0028】
原則として、40℃における緩衝性化合物のpKaを出発点と受け取るべきである。しかしながら、大部分の緩衝性化合物については、25℃におけるpKaのみが知られている。40℃におけるpKa値の測定又は計算は困難である。我々は、緩衝性化合物の妥当な選択が、25℃におけるpKaを40℃におけるポリマー溶液のpHと比較する場合に可能であることを見いだした。
【0029】
当技術分野では、いくつかの異なるタイプの架橋性化合物が知られている。クロム又はアルミニウム塩のような無機架橋性化合物は、そのカルボン酸基を介してゼラチン又はコラーゲンとpH依存的に結合する。有機架橋性化合物は、アミン基、例えば、ゼラチン又はコラーゲン中のリシン及びヒドロキシリシンと反応する。そのような架橋性化合物は、アミン−アミン架橋性化合物と呼ばれる。本発明との関連において、リシンついて述べられているどのような場合においても、特に明記しない限り、リシンは、ヒドロキシリシンを包含する。有機架橋性化合物の例は、アルデヒド、ケトン、カルボン酸及びカルバミン酸誘導体、活性オレフィン、s−トリアジン、エポキシド、アジリジン、イソシアネート、カルボジイミン及びイソオキサゾリウム塩、ピリジニウムエーテル、カルバモイル−及びカルバモイルオキシピリジニウムイオン並びにスルホネートエステル及びスルホニルハライドなどのスルホンベースの架橋性化合物である。
【0030】
一実施形態において、架橋性化合物は、トリアジンタイプの架橋性化合物、好ましくは置換s−トリアジンである。トリアジン架橋性化合物とゼラチンの間の反応は、pH依存性であることが知られている。
【0031】
市販のs−トリアジン架橋性化合物は、例えば、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−トリアジンである。この特定のトリアジン架橋性化合物を製造するための方法は、米国特許第6,570,011号明細書に記載されている。この方法は、重炭酸塩緩衝液の存在下、強アルカリ溶液で塩化シアヌルを加水分解するものである。合成が完了すると、重炭酸塩以外の追加の緩衝液が添加される。緩衝液の目的は、貯蔵及び輸送中のトリアジン自体の安定化である。2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−トリアジンは、容易に加水分解され、それによって1個のクロライドが置換されて、その架橋能力を失った2,4−ジヒドロキシ−6−クロロ−トリアジンが得られる。例えば、貯蔵容器中の圧力上昇のために危険になることがあるCOの生成を防ぐために、重炭酸塩以外の緩衝液が安定剤として添加される。
【0032】
緩衝液は、トリアジン架橋性化合物溶液自体を安定化するため、即ち、トリアジンの加水分解が、貯蔵及び輸送中に十分に軽減されるようにするために添加される。架橋性化合物の製造者と使用者双方の発注/供給システムに応じて、架橋性化合物の製造とコーティング溶液への添加の間隔は、いつでも数週間から2、3カ月の間であってよい。この期間中、一定量の架橋性化合物が加水分解され、放出されたプロトンは、未知量の緩衝液を使い切ってしまうであろう。ある程度まで、架橋性化合物溶液のpHは、加水分解の進行を判断するための尺度として使用することができる。しかしながら、残った緩衝能力を判断することは実際に可能ではない。
【0033】
さらに、普通の操作において、架橋性化合物溶液は、やはり普通は約摂氏35〜45度の温度を有するコーティング溶液へ添加する前に、摂氏35〜45度の温度まで加熱されることがある。理由は、架橋性化合物の添加により温度が局所的に低下した場合、ゼラチンがゲルを形成するということである。より高温では、架橋性化合物の加水分解速度は増加し、残った緩衝能力にさらなる変化を引き起こすであろう。
【0034】
製造者により添加される安定化緩衝液が、高い貯蔵能力のために選択され、第1の反応ステップを妨げるために高いpKa値を一般的に有するのは、トリアジンの第1の脱離基が失われた場合、架橋性化合物が、その架橋能力を失うからである。
【0035】
例えば、炭酸塩/重炭酸塩緩衝液は、第1のプロトン化ステップについては10.3、及び第2のプロトン化ステップについては6.4のpKaを有する。
【0036】
適当な緩衝液は、pKaが6.5〜8.5の緩衝液である。緩衝液は、無機性又は有機性であってよい。緩衝液は、架橋反応、若しくは硬化が妨げられ、又は硬化速度が著しく影響を受けることを防ぐために、架橋性化合物と反応してはならない。緩衝液は、架橋性化合物と化学的にまったく反応しないことが好ましい。当業者は、架橋性化合物と緩衝液が反応するかどうかを理論又は簡単な実験室試験から容易に判断することができる。
【0037】
例えば、s−トリアジンの場合、緩衝性化合物は、ヒドロキシル基、チオール基及びアミン基を含有するべきではないが、カルボキシル基は許容される。
【0038】
プロトンが、硬化又は架橋反応中に放出される場合、緩衝液のpKaは、硬化剤を含有するゼラチン溶液のpHよりも低いことが好ましい。プロトンが放出される場合、(pH40℃−pKa25℃)は、1.0以下であることが好ましく、(pH40℃−pKa25℃)は、−0.5以上且つ1.0以下であることがより好ましく、(pH40℃−pKa25℃)は、0.25以上且つ0.75以下であることが最も好ましい。プロトンが、硬化反応中に消費される場合、緩衝液のpKaは、硬化剤を含有するゼラチン溶液のpHよりも高いことが好ましい。プロトンが消費される場合、(pKa25℃−pH40℃)は、1.0以下であることが好ましく、(pKa25℃−pH40℃)は、−0.5以上且つ1.0以下であることがより好ましく、(pKa25℃−pH40℃)は、0.25以上且つ0.75以下であることが最も好ましい。
【0039】
上記の優先度は、|(pH40℃−pKa25℃)|が、1.0以上であることが好ましく、|(pH40℃−pKa25℃)|が、−0.5以上且つ1.0以下であることがより好ましく、|(pH40℃−pKa25℃)|が、0.25以上且つ0.75以下であることが最も好ましいというように、pHとpKaの差の絶対値に注意を向けることにより一体化することができる。
【0040】
適当な無機緩衝液のいくつかの例を以下の表に示す:
【0041】
【表1】

【0042】
6.5〜8.5のpKaを有する適当な有機緩衝液を以下の表に示すが、完全な概観であることを意味するものではない:
【0043】
【表2】

【0044】
置換芳香族架橋性化合物、好ましくはs−トリアジンとの組合せで本発明の方法において応用すべき適当な有機緩衝液は、25℃におけるpKaが6.5〜8.5であり、構造I:
【0045】
【化1】



【0046】
(式中、
Zは、炭素、酸素、イオウ又はN−Rであり、
2≦(n+m)≦6であり、
、Rは、−(−CH−)−Aであり、
Aは、水素、−SOH、−COOH、−PO又はそれらの塩であり、
Aは、構造IにおけるR1及びR2のうちの少なくとも1つについては水素以外であり、
qは、1〜4であり、Aが−COOHである場合、qは0〜4である)を有する緩衝液である。
【0047】
それらの25℃におけるpKaが、6.5〜8.5であるという条件で、一般構造IIの化合物も適している。
【0048】
【化2】


II
【0049】
(式中、
、R、R及びRは、−(−CH−)−Aであり、
Aは、水素、−SOH、−COOH、−PO又はそれらの塩であり、
Aは、R、R、R及びRのうちの少なくとも1つについては水素以外であり、R、R、R及びRのうちの少なくとも2つについては、Aは、水素以外であり、
qは、1〜4であり、Aが−COOHである場合、qは0〜4であり、
1≦p≦3である。)
【0050】
本発明の方法の一実施形態において、緩衝性化合物は、上記に描かれているような構造I及び構造IIからなる群から選択される。一実施形態において、緩衝性化合物は、上記に描かれているような構造Iを有する。別の実施形態において、緩衝性化合物は、リン酸塩である。適当なリン酸塩緩衝液化合物は、リン酸カリウム又はリン酸ナトリウムである。本発明の方法の一実施形態において、緩衝性化合物の量は、架橋性化合物1mol当たり少なくとも0.01molである。
【0051】
適当な緩衝液の好ましい非限定的例は:
【0052】
【表3】

【0053】
本発明に従って緩衝液を添加する目的は、架橋性化合物とゼラチンの間の第1の反応ステップを進行させ、第1の反応ステップにおけるプロトンの放出による速いpH低下を防ぐことにより第2の反応ステップを遅延させることである。反応は、液相中でのみ遅延される必要がある。層をコーティングし、又はシートを形成した後、反応は、通常通り進行することが好ましい。添加される緩衝液が多ければ多いほど、第2の反応は長く遅延される。あまりに多くの緩衝液が添加される場合、第2の架橋反応ステップは、あまりに遅く進行することがあり、製品は十分に硬化せず、例えば、さらなる応用又は製品の販売にとって不適当な製品が得られる。
【0054】
したがって、添加される緩衝液の量は、望ましいプロセス時間及び材料製造後の硬化に必要とされる許容時間によって異なる。
【0055】
一実施形態において、少なくとも1種の追加の溶液が基材上に塗布され、例えば、基材は、架橋性化合物が添加されるゼラチン溶液と一緒にコーティングされる。追加の溶液は、架橋性化合物が添加された1つ又は複数のゼラチン溶液のpHよりも低いpHを有する。コーティング中及びコーティング後、層は接触し、架橋性化合物が添加される層における残った緩衝能力は、拡散の結果としてコーティングされた層を通過するプロトンの移動により低下するであろう。
【0056】
例えば、トリアジンなどのpH依存性架橋性化合物で架橋することができるポリマーは、ヒドロキシル−、アミン−、又はチオール基を有するポリマーである。そのようなポリマーは、ポリビニルアルコールのホモポリマー又は、例えば、ポリ酢酸ビニル若しくはポリ塩化ビニルとのコポリマー、セルロース、ポリビニルアミン、ポリプロピレンアミン、ゼラチン又はコラーゲンを含む群から選択することができる。好ましい実施形態において、架橋されるポリマーは、ゼラチン又はコラーゲンである。
【0057】
ゼラチンとしては、当技術分野において知られているように、任意のタイプのゼラチンを使用することができる。これは、石灰処理(骨)ゼラチン、酸処理(皮膚)ゼラチン、魚などの冷血動物から調製されるゼラチンを含むが、例えば、欧州特許出願公開第0926543号明細書に記載の組換え法により調製することもできる。
【0058】
ゼラチンは、酸化ゼラチン(ゼラチン分子中のメチオニン基は、例えば、過酸化水素で酸化される)、アミノ基修飾ゼラチン(例えば、フタル化ゼラチン、トリメリット化ゼラチン、コハク化ゼラチン、マレイン化ゼラチン、及びエステル化ゼラチン)などの修飾ゼラチンも含む。
【0059】
ゼラチンは、約60キロダルトン未満の平均分子量を有する加水分解ゼラチンも含む。ゼラチンとコラーゲンは共に、同じ起源のタンパク質の発現である。この用語は、異なる分子種を示すために使用されることがある。本明細書に記載されている硬化反応に関しては、そのような区別はしない。本発明は、ゼラチン並びにコラーゲンに応用することができる。当業者には、トリアジン架橋性化合物を緩衝することが、コラーゲン又はゼラチン以外のポリマーにも応用することができ、唯一の要件が、架橋性化合物と反応することができる遊離のアミン、チオール又はヒドロキシ基の存在であることは明らかであろう。
【0060】
架橋性化合物が添加されるコーティング溶液におけるゼラチン濃度は、3〜30重量パーセントであることが好ましく、より好ましくは5〜20重量パーセント、最も好ましくは約7〜12重量パーセントである。
【0061】
架橋性化合物は、1つのコーティング溶液に添加することができ、又はより多くのコーティング溶液に分割することができる。したがって、基材は、架橋ゼラチン(又は、架橋されるポリマー)の1つの層で、又は架橋ゼラチン(又は、架橋されるポリマー)の複数の層でコーティングすることができ、複数の層は、特に、架橋するべきポリマー及び架橋性化合物に関して、同一の組成、類似の組成又は異なる組成であってよい。架橋性化合物は、1つの層で添加されることが好ましい。架橋性化合物が添加されるコーティング溶液は、コーティング後に層を含有するすべてのポリマー(ゼラチン又はコラーゲン)を硬化するのに必要な架橋性化合物の総量を含有することが好ましい。コーティング溶液におけるポリマー、好ましくはゼラチン又はコラーゲンに対する架橋性化合物の比は、ポリマー、好ましくはゼラチン又はコラーゲン1グラム当たり架橋性化合物少なくとも200マイクロモルであることが好ましい。この比は、少なくとも500マイクロモルであることがより好ましい。ポリマー、好ましくはゼラチン又はコラーゲンに対する架橋性化合物の比は、ポリマー1グラム当たり架橋性化合物少なくとも1ミリモルであることが好ましい。コーティング後のポリマー、好ましくはゼラチン又はコラーゲンに対する架橋性化合物の比は、ポリマー、好ましくはゼラチン又はコラーゲン1グラム当たり架橋性化合物5〜200マイクロモル、好ましくは、ポリマー、好ましくはゼラチン又はコラーゲン1グラム当たり架橋性化合物25〜150マイクロモル、さらにより好ましくは、ポリマー、好ましくはゼラチン又はコラーゲン1グラム当たり架橋性化合物約50〜100マイクロモルであることが好ましい。ゼラチンに対する架橋性化合物の比は、架橋性化合物の総量及びゼラチンの総量から算出され、総量は、同じ領域の各層中のコーティングされた量を合計することにより見いだされる。ポリマー、好ましくはゼラチン又はコラーゲンに対する架橋性化合物の比は、2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−s−トリアジンによる硬化から推定される。反応性の低い架橋性化合物が使用される場合、同じ時間内に匹敵する程度の架橋を有するために必要とされる架橋性化合物の量は、増加するであろうが、当業者にとっては日常的に実験する事柄である。
【0062】
使用される架橋性化合物の量は、硬化層の使用又は応用によってさらに異なる。ゼラチンの層又はマトリックスは、写真画像記録材料、インクジェット記録材料、平版記録材料などの多くの画像記録材料において使用される。ゼラチンマトリックスを用いる他の応用は、トリアジン架橋性化合物でゼラチンマトリックスを架橋することによりゼラチンのシート、スポンジ又は粒子が形成される医学的又は薬学的製剤である。
【0063】
ゼラチンマトリックスは、例えば、スライドビーズコーティング、カーテンコーティング、バーコーティング、押し出しコーティング又はキャストコーティングなどの知られているコーティング法により形成することができる。
【0064】
一態様において、本発明は、上記に記載の方法により得られる、場合により基材上の、シート材料にも関する。さらに他の態様において、本発明は、上記に記載の方法により得られる、場合により基材上の、シート材料にも関する。特定の態様において、本発明は、
(i)架橋性化合物により架橋されるポリマー(前記ポリマーは、架橋される前に、ヒドロキシ基、チオール基及びアミン基から選択される少なくとも1つの基を含み、前記架橋性化合物は、前記ポリマーの前記ヒドロキシ基、チオール基及びアミン基から選択される少なくとも1つの基を介して前記ポリマーを架橋する)、及び
(ii)架橋性化合物と反応せず、25℃におけるpKa値が最低でも6.5〜最高でも8.5である緩衝性化合物(前記緩衝性化合物は、構造I
【0065】
【化3】



【0066】
(式中、
Zは、炭素、酸素、イオウ又はN−Rであり、
2≦(n+m)≦6であり、
、Rは、−(−CH−)−Aであり、
Aは、水素、−SOH、−COOH、−PO又はそれらの塩であり、
Aは、構造IにおけるR1及びR2のうちの少なくとも1つについては水素以外であり、
qは、1〜4であり、Aが−COOHである場合、qは、0〜4である)
及び、構造II
【0067】
【化4】


II
【0068】
(式中、
、R、R及びRは、−(−CH−)−Aであり、
Aは、水素、−SOH、−COOH、−PO又はそれらの塩であり、
Aは、R、R、R及びRのうちの少なくとも1つについては水素以外であり、R、R、R及びRのうちの少なくとも2つについては、Aは、水素以外であり、
qは、1〜4であり、Aが−COOHである場合、qは、0〜4であり、
1≦p≦3である)からなる群から選択される)を含む、場合により基材上の、シート材料に関する。
【0069】
一実施形態において、シート材料は、上記に記載されている構造Iを有する緩衝性化合物を含む。好ましい実施形態において、シート材料は、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸及びピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)又はそれらの組合せから選択される緩衝性化合物を含む。別の実施形態において、シート材料に含まれる緩衝性化合物は、リン酸塩である。さらに他の実施形態において、緩衝性化合物は、架橋性化合物1mol当たり少なくとも0.01molの量でシート材料中に存在する。さらに他の実施形態において、シート材料中の緩衝性化合物の量は、架橋性化合物1mol当たり0.1〜0.4molである。一実施形態において、本発明の材料中で架橋されるポリマーは、ゼラチン又はコラーゲンである。
【0070】
写真応用については、ゼラチンに対する架橋性化合物の比は、ゼラチン1グラム当たり架橋性化合物25〜150マイクロモルであることが好ましい。最終硬化度は、35℃以上の温度で起きる現像プロセスに調整される。ゼラチン層は、ゼラチンが現像プロセス溶液に溶けないように、十分に硬化されるべきである。硬化度も、例えば、スクラッチングによる物理的損傷に耐えるのに十分な高さであるべきである。添加される架橋性化合物の量も、狭い規格内に制御されるべきであるのは、プロセス溶液中の硬化ゼラチン層の膨潤速度が、現像プロセスにおける重要なパラメーターであるためである。
【0071】
インクジェット応用については、好ましい架橋性化合物/ゼラチン比は、ゼラチン1グラム当たり架橋性化合物5〜150マイクロモルである。最終製品は、環境条件によって、より高温にさらされることがある。暖かい日に、インクジェット記録材料上のゼラチン層は、融解するべきでない。インクジェットの場合、ゼラチン層は、媒体上に塗布されるインク由来の溶剤を受け入れる役割を果たすことがある。それをするために、ゼラチン層は、膨潤できなければならない。したがって、本発明によるシート材料を含む画像記録材料は、本発明の別の態様である。
【0072】
人工皮膚の場合、好ましい架橋性化合物/ゼラチン比は、ゼラチン1グラム当たり架橋性化合物20〜200マイクロモルである。ゼラチンシートの構造的完全性も問題であるのは、ゼラチンシートが30℃を超える温度で塗布されるからである。人工皮膚は、ゼラチンのタンパク分解により(ヒトの)身体により再吸収される。人工ゼラチンの酵素的分解が起きる速度は、架橋性化合物の量を制御することにより調節することができる。したがって、本発明によるシート材料を含む組織工学材料は、本発明の別の態様である。
【0073】
架橋性化合物が添加されるコーティング溶液のpHは、好ましくは約6.5〜8.5、より好ましくは約7〜8.5又は約7〜約8である。より高いpH値が好ましいのは、これが、第2の反応ステップを減速させるからである。9.0を超える高すぎるpHは好ましくない。高いpHでは、第1の反応ステップが速く進行し、架橋性化合物分子の急速な単連結(monolinking)をもたらし、高すぎるpHでは、すべての利用可能なリシンが架橋性化合物に単連結されるため、架橋が形成されないことがある。
【0074】
9を超えるなどの、より高いpHでは、他の影響も役割を果たし始める。1つの影響は、ゼラチン加水分解が液相中で起き、コーティング溶液を使用することができるタイムスパンを減らすことである。例えば、多くの層が1回のコーティングランでコーティングされる写真応用では特に、層間の粘度バランスが重要である。また、ゼラチン溶液は、一般的に、より高いph値で反応又は分解することがある添加物を含有する。
【0075】
液相である間の低すぎるpHは、添加される架橋性化合物のタイプに応じて、高すぎる又は低すぎる反応速度をもたらすであろう。高すぎる反応速度は、プロセス装置のデッドスペースにおけるミクロゲルの形成をもたらす。低すぎる反応速度は、製品のより長い硬化時間をもたらす。コーティング後の低すぎる反応速度は、製品をさらに処理することができるまでに長く時間がかかるように粘着性の表面をもたらすことがあり、又は硬化反応が依然として進行中であるために、不安定である材料をもたらすことがある。s−トリアジン誘導体が架橋性化合物として使用されている写真材料の場合、完成品は、少なくとも1週間にわたって、制御された温度/湿度条件下に保たれ、架橋性化合物反応が平衡に近づくのを待つ。より長い貯蔵時間は、柔軟性の低い納期スケジュールをもたらす。
【0076】
一実施形態において、ゼラチン含有層は、写真画像記録材料でコーティングされる。一般的に、約6〜21個の層が、例えば、スライドビーズコーターを用いて基材上に同時にコーティングされる。写真記録材料を製造するための基礎技術は、Research Disclosure RD365044、及び、例えば、国際公開第A1−2004/081661号パンフレットに記載されている。
【0077】
架橋性化合物、好ましくは2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−s−トリアジンは、1つ又は複数の層に添加することができる。架橋性化合物は、ハロゲン化銀結晶を含有する層に添加されないことが好ましい。また、架橋性化合物は、酸処理ゼラチンを含有する層に添加されないことが好ましい。
【0078】
架橋性化合物も添加される1つ又は複数の層に添加される緩衝液は、リン酸塩緩衝液でないことが好ましい。リン酸塩緩衝液は、例えばカルシウムイオンと沈殿を形成することがある。
【0079】
s−トリアジン架橋性化合物と共に使用する緩衝液は、ヒドロキシル基もアミン基もチオール基も含有しないことが好ましい。好ましい緩衝液は、上記の構造Iの緩衝液である。Zは、イオウ又は酸素又は窒素又はN−Rであることが好ましい。各窒素については、結合している残基のうちの1つは、水素以外である。残基−(−CH−)−Aについては、変数「A」は、−SOH又はその塩であることが好ましい。
【0080】
本発明による実施形態における緩衝液の添加は、緩衝液のpKaが、緩衝液が添加される層のpH以下であることを意味している。層のpHは、緩衝能力が最適に使用されるように、pKaよりも0.5〜1.0pH単位高いことが好ましい。添加される本発明の緩衝液の緩衝能力は、高すぎるべきでない。架橋性化合物反応は、架橋性化合物−及びゼラチン含有層をコーティングする前は、液相で遅延される。1つ又は複数の層が基材上にコーティングされたらすぐに、緩衝能力は、完全に使い果たされることが好ましく、硬化反応は、元のより高い速度で進行する。各々の可能なコーティング溶液レシピについて添加するべき緩衝液の正確な量を示すのは不可能である。実際のところ、緩衝能力は、1つ又は複数の層をコーティングする直前又はコーティングした直後に使い果たされることがある。ちょうどよい時間に架橋度を測定することにより、緩衝能力が高すぎないかどうかを容易に判定することができる。硬化度は、1つ又は複数のコーティングされた層が、水溶液中又は水中でどの程度膨潤するかを測定することにより判定することができる。そのような方法は、例えば、Flynn and Levine (Photogr. Sci. Eng., 8, 275 (1964)により記載されている。膨潤が、写真記録媒体にとって極めて関連性のあるパラメーターであるのは、膨潤度が、写真画像の現像速度を決定するからである。
【0081】
層をコーティングした後の遅すぎる架橋速度を回避するため、架橋性化合物が添加されない1つ又は複数の層のpHを、場合により低下させることができる。すべての層で小さな構成要素をコーティングした後、架橋性化合物分子と同様に、緩衝液及びプロトンは拡散し、いかなる過剰な緩衝能力も、直ちに使い果たされるであろう。
【0082】
コーティング装置におけるミクロゲルの形成を避けるのに必要とされる緩衝液の量、及び好ましくは隣接する層の場合により必要なpH低下は、簡単な一連の実験により当業者が容易に決定することができる。
【0083】
別の実施形態において、緩衝液は、インクジェット応用のための基材をコーティングするのに適しているゼラチン溶液に添加される。製造法は、写真記録材料の製造法と比較することができる。インクジェット応用についても、高すぎる過剰な緩衝能力は、望ましくないこともあるが、再現性のある膨潤の要求は、写真応用に関するほどに厳密でなくてもよい。インクジェット記録材料における膨潤は、高密度に印刷された領域からの高い溶剤負荷を受け入れる役割を果たす。膨潤は、溶剤の取り込みを容易にする。インクジェット応用についても、他の層、好ましくは隣接する層のpHは、コーティング後の残った緩衝能力に対抗するため場合により低下されてもよい。
【0084】
さらに別の実施形態において、架橋ゼラチン含有層は、そのようなゼラチンの層又は膜が皮膚を模倣する組織工学において使用するため、又は薬学的若しくは化粧学的試験のための試験基材として使用するために調製される。そのような材料は、同時係属のPCT/NL2005/000261に記載されている。
【0085】
適当な基材は、ポリオレフィン層などの樹脂表面を有する基材である。樹脂層は、ポリエチレン(PE)又はポリプロピレン(PP)を含むことが好ましく、高密度、低密度、直鎖状低密度、メタロセンPE若しくはPP又はそれらの混合物であってよい。基材は、樹脂層でコーティングされている紙ベースであってもよい。
【0086】
コーティングされたゼラチン層が、使用する前に基材から除去されるべきである場合、樹脂表面は、コーティングする前に、1平方メートル当たり少なくとも1.5ワット.分、好ましくは1平方メートル当たり最低でも2.5ワット.分、1平方メートル当たり最高でも30ワット.分、好ましくは1平方メートル当たり最高でも25、20、15、10又は5ワット.分の火炎処理、コロナ処理又はプラズマ処理などの接着促進処理を場合により受ける。接着促進処理の目的は、材料をコーティングし、乾燥し、非多孔性フィルムの放出なしに巻き取り又は切断などのプロセスを受けることができるように、十分な接着を提供することである。一方、接着は、使用する前に基材からの容易な分離を促すのに十分な弱さであるべきである。
[実施例]
【実施例1】
【0087】
ゼラチン溶液の硬化速度に対するpH及び緩衝液添加の影響
国際公開第A1−2004081661号パンフレットに記載の紫外線防護層をコーティングするための溶液を、以下の組成で調製した:
石灰骨ゼラチン:溶液1000ml当たり83.3グラム
油 :溶液1000ml当たり34.8グラム
酢酸エチル :溶液1000ml当たり9.9グラム
紫外線吸収剤 :溶液1000ml当たり紫外線吸収性化合物54.1グラム
シアン色素 :溶液1000ml当たり0.59グラム
1000mlまで水を加える。
【0088】
溶液は、冷水溶液中にゼラチンを加えることにより調製し、膨潤させた。膨潤させた後、温度を40℃まで上昇させ、ゼラチンを溶かした。
【0089】
紫外線吸収性化合物を、酢酸エチルの添加後に油に溶かした。界面活性剤の添加後、油相を、ゼラチン溶液中に分散させた。
【0090】
シアン色素を、5%水溶液として加えた。
【0091】
最後に、緩衝性化合物を表1に従って加え、必要ならば、pHを、表1に示すような値に塩基又は酸で調整した。塩基として、水酸化物を使用することができる。酸は、塩酸、クエン酸、硫酸であってよい。硬化プロセスに有害な影響をもたらさない限り、その他の塩基又は酸を使用することができる。
【0092】
この溶液に、架橋性化合物1mol当たり炭酸塩/重炭酸塩約0.18molで安定化されている8%架橋性化合物溶液を加えた。添加後、コーティング溶液のゼラチン濃度は、約7.5重量パーセントであった。
【0093】
硬化速度の尺度として、図1に示すように、1000cpの粘度に達する硬化時間を取る。
【0094】
【表4】

【0095】
比較例は、従来の尺度、即ち出発pHの上昇が、硬化反応をある程度遅延させることを示している。しかしながら、本発明による少量の緩衝液(inv1、2)の添加でさえも、pHを1単位上昇させることと同様の影響を有する。
【0096】
架橋性化合物が添加される乳剤は、pH感受性であるかもしれない他の添加物を含有することがある。したがって、pHを上昇させることは、必ずしも選択肢であるとは限らない。そのような場合、少量の緩衝液を加えることでさえも、硬化反応を十分に遅延させることがある。
【0097】
図2には、1000cpの粘度に達するのに必要な時間として表される硬化速度が、添加される緩衝液の量の関数としてプロットされている。これから直線プロットが得られる。実際に、架橋性化合物速度を遅延させること(コーティング装置におけるミクロゲルの形成を防ぐ)と添加される緩衝液の量を制限すること(1つ又は複数の層をコーティングした後の遅すぎる硬化を防ぐ)のバランスは、実験的に決定される。我々は、硬化速度と添加される緩衝液の量との関係の直線性のおかげで、添加することができる緩衝液の最適な量を当業者が容易に予測することができることを見いだした。
【実施例2】
【0098】
pKa値が似ている異なる緩衝液の比較
一連の実験は、実施例1と同じように行った。表2に示すように、pKaが似ている3種の異なる緩衝液を試験した。
【0099】
【表5】

【0100】
3種の緩衝液はすべて、図3に示すように、同様に硬化反応を遅延させる。リン酸塩緩衝液と有機のMOPS及びPIPES緩衝液との比較から、pKaの選択は、緩衝液の性質よりも重要であると結論付けることができる。
【0101】
実際に、無機緩衝液があまり好ましくないのは、それらが、例えばリン酸カルシウムなどの沈殿をより容易に形成することがあるからである。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】ゼラチンの硬化速度に対するpH及び添加される緩衝液の量の影響を示す図である。
【図2】硬化速度と緩衝液の量との関係を示す図である。
【図3】本発明による様々な緩衝液の影響の比較を示す図である。t=0で、pHが7.1、硬化剤1mol当たり緩衝液0.268molを使用した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に少なくとも1種の架橋ポリマー層を含むシート材料を製造するための方法であって、
(i)ヒドロキシ基、チオール基及びアミン基から選択される少なくとも1種の基を含む3〜30重量パーセントの溶解ポリマーと、架橋性化合物と反応せず、25℃におけるpKa値が最低でも6.5〜最高でも8.5である緩衝性化合物とを含むコーティング溶液を提供するステップ;
(ii)前記コーティング溶液のpHを、40℃におけるpHで6.0〜9.0に調整するステップ;
(iii)架橋性化合物を前記コーティング溶液に添加するステップ;
(iv)前記架橋性化合物の添加後最長でも30分以内に前記基材上に前記コーティング溶液を塗布し、それによって、被コーティング層を得るステップ;
(v)必要に応じて、前記被コーティング層から前記基材を分離するステップ;を含む方法。
【請求項2】
ステップ(iii)で得られるコーティング溶液について、|(pH40℃−pKa25℃)|≦1.0以下という条件が満たされている、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
架橋性化合物が、トリアジン型架橋性化合物である、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
架橋性化合物が、2−ヒドロキシ−4,6ジクロロトリアジンである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
緩衝性化合物が、構造I
【化1】



(式中、
Zは、炭素、酸素、イオウ又はN−Rであり、
2≦(n+m)≦6であり、
、Rは、−(−CH−)−Aであり、
Aは、水素、−SOH、−COOH、−PO又はそれらの塩であり、
Aは、構造IにおけるR1及びR2のうちの少なくとも1つについては水素以外であり、
qは、1〜4であり、Aが−COOHである場合、qは、0〜4である。)
及び構造II
【化2】


II
(式中、
、R、R及びRは、−(−CH−)−Aであり、
Aは、水素、−SOH、−COOH、−PO又はそれらの塩であり、
Aは、R、R、R及びRのうちの少なくとも1つについては水素以外であり、R、R、R及びRのうちの少なくとも2つについては、Aは水素以外であり、
qは、1〜4であり、Aが−COOHである場合、qは、0〜4であり、
1≦p≦3である)
からなる群から選択される、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
緩衝性化合物が、リン酸塩である、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
緩衝性化合物の量が、架橋性化合物1mol当たり少なくとも0.01molである、請求項1〜6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
溶解ポリマーが、ゼラチン又はコラーゲンである、請求項1〜7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
以下の(i)及び(ii)を含む、基材上にあってもよい、シート材料。
(i)架橋性化合物により架橋されるポリマーであって、該ポリマーが、架橋される前にヒドロキシ基、チオール基及びアミン基から選択される少なくとも1つの基を含み、前記架橋性化合物が、前記ポリマーの前記ヒドロキシ基、チオール基及びアミン基から選択される少なくとも1つの基を介して前記ポリマーを架橋する、ポリマー;
(ii)架橋性化合物と反応せず、25℃におけるpKa値が最低でも6.5〜最高でも8.5である緩衝性化合物であって、構造I
【化3】



(式中、
Zは、炭素、酸素、イオウ又はN−Rであり、
2≦(n+m)≦6であり、
、Rは、−(−CH−)−Aであり、
Aは、水素、−SOH、−COOH、−PO又はそれらの塩であり、
Aは、構造IにおけるR1及びR2のうちの少なくとも1つについては水素以外であり、
qは、1〜4であり、Aが−COOHである場合、qは、0〜4である。)
及び、構造II
【化4】


II
(式中、
、R、R及びRは、−(−CH−)−Aであり、
Aは、水素、−SOH、−COOH、−PO又はそれらの塩であり、
Aは、R、R、R及びRのうちの少なくとも1つについては水素以外であり、R、R、R及びRのうちの少なくとも2つについては、Aは、水素以外であり、
qは、1〜4であり、Aが−COOHである場合、qは、0〜4であり、
1≦p≦3である)
からなる群から選択される緩衝性化合物;
【請求項10】
緩衝性化合物が、3−(N−モルホリノ)プロパンスルホン酸及びピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)から選択されるか又はそれらの組合せである、請求項9に記載のシート材料。
【請求項11】
緩衝性化合物が、リン酸塩である、請求項9に記載のシート材料。
【請求項12】
緩衝性化合物が、架橋性化合物1mol当たり少なくとも0.01molの量で存在する、請求項9又は10に記載のシート材料。
【請求項13】
緩衝性化合物の量が、架橋性化合物1mol当たり0.1〜0.4molである、請求項9〜12のいずれかに記載のシート材料。
【請求項14】
架橋されるポリマーが、ゼラチン又はコラーゲンである、請求項9〜13のいずれかに記載のシート材料。
【請求項15】
請求項9〜14のいずれかに記載のシート材料を含む画像記録材料。
【請求項16】
請求項9〜14のいずれかに記載のシート材料を含む組織工学材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−535445(P2009−535445A)
【公表日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−507610(P2009−507610)
【出願日】平成19年4月27日(2007.4.27)
【国際出願番号】PCT/NL2007/050186
【国際公開番号】WO2007/126314
【国際公開日】平成19年11月8日(2007.11.8)
【出願人】(505232782)フジフィルム マニュファクチャリング ユーロプ ビー.ブイ. (50)
【Fターム(参考)】