説明

架橋ポリマー組成物及びその製造方法

【課題】耐熱老化性等に優れた架橋ポリマー組成物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】珪酸塩粒子の表面に酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子を担持させた亜鉛系架橋助剤と、架橋剤としての有機過酸化物とをポリマーに配合し、有機過酸化物によって架橋させたことを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機過酸化物を架橋剤として用い架橋させた架橋ポリマー組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車のエンジンルーム周辺の雰囲気温度の上昇や、コンピューターの情報処理速度の増加に伴い、耐熱性に優れたポリマーの要求が高まっている。
【0003】
耐熱性を高めるため、架橋ポリマーにおいては、架橋剤として硫黄ではなく、有機過酸化物が採用されることが多くなってきている(特許文献1)。
【0004】
また、耐熱性を向上させるため、酸化セリウムなどの金属酸化物を配合させることが検討されている(特許文献2)。
【0005】
自動車等の燃料の輸送等に用いられる燃料系ゴムホースにおいては、原料のポリマー自身に耐熱性の高いものが使用されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−103528号公報
【特許文献2】特開2000−212444号公報
【特許文献3】特開2008−195040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、耐熱老化性等に優れた架橋ポリマー組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の架橋ポリマー組成物は、珪酸塩粒子の表面に酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子を担持させた亜鉛系架橋助剤と、架橋剤としての有機過酸化物とをポリマーに配合し、有機過酸化物によって架橋させたことを特徴としている。
【0009】
本発明に従う架橋助剤を用いることにより、架橋密度を高めることができ、耐熱老化性等に優れた架橋ポリマー組成物とすることができる。
【0010】
本発明においては、ポリマー100質量部に対し、亜鉛系架橋助剤が0.5〜10質量部の範囲で配合されていることが好ましい。
【0011】
また、本発明においては、ポリマー100質量部に対し、有機過酸化物が0.5〜10質量部の範囲で配合されていることが好ましい。
【0012】
本発明における亜鉛系架橋助剤中の酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子の担持量は、金属亜鉛換算で6〜75質量%の範囲であることが好ましい。
【0013】
本発明において、珪酸塩粒子としては、例えば、無水珪酸アルミニウム塩鉱物粒子を挙げることができる。
【0014】
本発明の製造方法は、上記本発明の架橋ポリマー組成物を製造することができる方法であり、ポリマーに亜鉛系架橋助剤及び有機過酸化物を配合する工程と、亜鉛系架橋助剤及び有機過酸化物を配合したポリマーを加熱して、有機過酸化物によってポリマーを架橋する工程を備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、耐熱老化性等に優れた架橋ポリマー組成物とすることができる。
【0016】
本発明の製造方法によれば、耐熱老化性等に優れた架橋ポリマー組成物を効率良く製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0018】
<亜鉛系架橋助剤>
本発明において使用する亜鉛系架橋助剤としては、珪酸塩粒子の表面に酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子を担持させたものが使用される。珪酸塩粒子の表面は、酸化亜鉛微粒子及び塩基性炭酸亜鉛微粒子に対して親和性を有しており、このため均一に酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子を担持させることができる。
【0019】
酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子の担持量は、金属亜鉛換算で6〜75質量%の範囲であることが好ましい。ここで、金属亜鉛換算の担持量とは、担持している酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子を金属亜鉛に換算したZn換算質量を算出し、この値を用いて、以下の式から算出することができる。
【0020】
金属亜鉛換算の担持量(質量%)=〔(Zn換算質量)/(亜鉛系架橋助剤の質量)〕×100
【0021】
担持量が上記範囲よりも少ないと、十分に架橋密度を高めることができず、良好な耐熱老化性等を得ることができない場合がある。また、担持量が上記の範囲よりも多すぎても、それに伴う効果が得られず、経済的に不利になる場合がある。
【0022】
酸化亜鉛微粒子を担持した珪酸塩粒子のBET比表面積は、10〜55m/gの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは15〜50m/gの範囲であり、さらに好ましくは20〜45m/gの範囲である。
【0023】
塩基性炭酸亜鉛微粒子を担持した珪酸塩粒子のBET比表面積は、25〜90m/gの範囲であることが好ましく、さらに好ましくは30〜85m/gであり、さらに好ましくは35〜80m/gの範囲である。
【0024】
塩基性炭酸亜鉛微粒子の方が、酸化亜鉛微粒子よりも微細であり、BET比表面積の高い微粒子とすることができる。このため、上記のように、塩基性炭酸亜鉛微粒子を担持した場合、酸化亜鉛微粒子を担持した場合に比べ、BET比表面積が高くなっている。
【0025】
BET比表面積は、BET比表面積測定装置を用い、窒素吸着法により求めることができる。珪酸塩粒子に担持させた酸化亜鉛微粒子及び塩基性炭酸亜鉛微粒子のBET比表面積(BETZn)は、以下の式により算出することができる。
【0026】
BETZn={(BETZn−Si×WZn)+WSi(BETZn−Si−BETSi)}/WZn
BETZn−Si:亜鉛系架橋助剤のBET比表面積
BETSi:珪酸塩粒子のBET比表面積
Zn:亜鉛系架橋助剤中に含まれる酸化亜鉛または塩基性炭酸亜鉛の質量%
Si:亜鉛系架橋助剤中に含まれる珪酸塩粒子の質量%
【0027】
珪酸塩粒子の表面に担持される酸化亜鉛微粒子及び塩基性炭酸亜鉛微粒子のBET比表面積(BETZn)は、酸化亜鉛微粒子の場合、15〜100m/gの範囲であることが好ましく、塩基性炭酸亜鉛微粒子の場合、15〜100m/gの範囲であることが好ましい。
【0028】
亜鉛系架橋助剤に関し、そのBET比表面積が低くなりすぎると、十分な架橋が得られず、耐熱老化性等を十分に向上させることができない場合がある。また、BET比表面積が高くなりすぎると、担持されないフリーの酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子が混在し、これが凝集粒子となり、均一な架橋構造を形成できない場合がある。また、相対的に酸化亜鉛または塩基性炭酸亜鉛の担持量が多くなるため、経済的なメリットが得られにくくなる場合がある。
【0029】
本発明における珪酸塩粒子としては、珪酸アルミニウム塩鉱物粒子が好ましく用いられる。また、珪酸アルミニウム塩鉱物粒子以外の珪酸塩粒子としては、タルク、マイカ、長石、ベントナイト、珪酸マグネシウム、シリカ、珪酸カルシウム(ワラストナイト)、珪藻土などが挙げられる。
【0030】
本発明における珪酸アルミニウム塩鉱物粒子としては、例えば、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、及びセリサイトから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0031】
本発明において、珪酸アルミニウム塩鉱物粒子は、好ましくは無水珪酸アルミニウム塩鉱物粒子である。無水珪酸アルミニウム塩鉱物粒子としては、例えば、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、及びセリサイトから選ばれる少なくとも1種を焼成したものが挙げられる。例えば、粒径2μm以下の含有率が80%以上である微細粒子からなるこれらの粘土鉱物を、500〜900℃の温度で焼成したものが挙げられる。
【0032】
本発明の亜鉛系架橋助剤は、例えば、珪酸塩粒子の存在下に、亜鉛塩の酸性水溶液とアルカリ性水溶液とを混合して、酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛を析出させ、珪酸塩粒子の表面に、酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛を担持させて製造することができる。
【0033】
珪酸塩粒子の存在下に、亜鉛塩の酸性水溶液とアルカリ性水溶液を混合して、酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子を析出させる方法としては、具体的には以下のような方法が挙げられる。
【0034】
(1)亜鉛塩の酸性水溶液中に珪酸塩粒子を分散させておき、この分散液に、アルカリ性水溶液を添加する。
【0035】
(2)アルカリ性水溶液に珪酸塩粒子を分散させておき、この分散液に、亜鉛塩の酸性水溶液を添加する。
【0036】
(3)水中に珪酸塩粒子を分散させておき、この分散液に、亜鉛塩の酸性水溶液とアルカリ性水溶液とを同時に添加する。
【0037】
上記の(1)〜(3)の方法の内、特に好ましくは(1)の方法が採用される。
【0038】
亜鉛塩の酸性水溶液は、例えば、酸性水溶液中に、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、塩基性炭酸亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛などを添加して調製することができる。酸化亜鉛としては、各種工業原料として用いられている亜鉛華を用いてもよい。酸性水溶液としては、塩酸、硫酸、硝酸、炭酸などの水溶液が挙げられる。また、塩化亜鉛などの水溶性亜鉛化合物を酸性水溶液中に添加して調製してもよい。
【0039】
アルカリ性水溶液としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムなどの水溶液が挙げられる。一般に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどをアルカリ性水溶液として用いた場合には、酸化亜鉛微粒子を析出させて担持させることができる。また、酸性水溶液として炭酸を用いた場合や、アルカリ性水溶液として炭酸ナトリウムなどを用いた場合には、塩基性炭酸亜鉛を析出させて担持させることができる。
【0040】
また、塩基性炭酸亜鉛を担持した珪酸塩粒子は、上述のように、酸化亜鉛微粒子を担持した珪酸塩粒子をアンモニウム塩水溶液で処理する方法または、酸化亜鉛微粒子を担持した珪酸塩粒子の水懸濁液に炭酸ガスを導入して炭酸化を行うなどの方法で処理することにより、担持された酸化亜鉛微粒子を塩基性炭酸亜鉛微粒子に変換することにより製造することができる。これら処理方法は単独で行ってもよいし、両方法を併用してもよい。
【0041】
アンモニウム塩水溶液としては、水酸化アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウムなどの水溶液が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0042】
上述のように、アンモニウム塩水溶液で処理し、酸化亜鉛微粒子を塩基性炭酸亜鉛微粒子に変換することにより、より微細な粒子として担持することができる。
【0043】
酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子を珪酸アルミニウム塩鉱物粒子の表面に析出させて担持させた後、一般には十分に水洗を行い、脱水・乾燥した後、粉砕する。
【0044】
亜鉛系架橋助剤は、有機酸、脂肪酸、脂肪酸金属塩、脂肪酸エステル、樹脂酸、樹脂酸金属塩、樹脂酸エステル、珪酸、珪酸塩(Na塩等)、及びシランカップリング剤より選ばれる少なくとも1種で表面処理されていてもよい。表面の全部または一部を覆う構造であればよく、必ずしも表面全体を連続的に覆う必要はない。
【0045】
表面処理方法としては、亜鉛系架橋助剤が水系スラリーである場合、表面処理剤をそのままの状態、あるいは適切な温度、溶媒で溶解して、湿式で処理することができる。また、亜鉛系架橋助剤が粉末状であれば、表面処理剤をそのままの状態、あるいは適切な温度、溶媒で溶解して乾式で処理することができる。
【0046】
<ポリマー>
本発明において使用するポリマーは、有機過酸化物によって架橋させることができるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、天然ゴム、合成ゴム、及びプラスチックから選ばれる少なくとも1種が選ばれる。
【0047】
合成ゴムとしては、架橋可能なゴムが用いられる。合成ゴムの具体的な例としては、例えば、シス−1,4−ポリイソプレン、乳化重合スチレンブタジエン共重合体、溶液重合スチレンブタジエン共重合体、低シス−1,4−ポリブタジエン、高シス−1,4−ポリブタジエン、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、エチレン−ポリプレンゴム、シリコーンゴム(HTV、RTV、LIM)、アクリルゴム、変性アクリルゴム、フッ素ゴム、クロロプレン、ハロゲン化ブチルゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化添加アクリロニトリル−ブタジエンゴム等が挙げられる。
【0048】
上述したゴム成分の中でも、天然ゴム、エチレンプロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、シリコーンゴム、低シス−1,4−ポリブタジエン、及び高シス−1,4−ポリブタジエンが、特に好適に用いられる。
【0049】
ゴム成分は、上述した天然ゴム又は合成ゴムを1種用いてもよく、また2種以上混合して用いてもよい。混合比は、要求される特性などに応じて、適宜設定することができる。
【0050】
プラスチックスとしては、架橋可能なものであれば使用でき、ポリエチレン(PE)、エチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)などが例示される。
【0051】
また、熱可塑性エラストマーも使用可能で、熱可塑性エラストマーとしては、ポリスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリプロピレン系熱可塑性エラストマー、ポリジエン系熱可塑性エラストマー、塩素系熱可塑性エラストマー、エンジニアリングプラスチックス系エラストマーなどを例示することができる。
【0052】
<有機過酸化物>
有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3、あるいは1,3−ビス(t−ブチルパーオキシプロピル)ベンゼン、ジ−t−ブチルパーオキシ−ジイソプロピルベンゼン、t−ブチルパーオキシベンゼン、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、1,1−ジ−t−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシロキサン、n−ブチル−4,4−ジ−t−ブチルパーオキシバレレート等が挙げられる。
【0053】
<その他の添加剤>
本発明においては、架橋助剤として、上記亜鉛系架橋助剤以外に、他の架橋助剤を併用してもよい。例えば、酸化亜鉛、活性亜鉛華、塩基性炭酸亜鉛、微粒子酸化亜鉛、酸化セリウム、多官能性アクリルモノマー(TAIC)、ビスマレイミドなどが挙げられる。
【0054】
また、必要に応じてさらに公知の添加剤を含有してもよい。このようなものとして、例えば、湿式シリカ、乾式シリカ、アルカリシリカ、高分散性シリカ(HDS)、クレー、タルク、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、長石、塩基性炭酸マグネシウム、カーボンブラックなどを適宜併用して用いることができる。更に、プロセスオイル、酸化防止剤、老化防止剤、活性剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、ワックスなどの添加剤、硫黄、加硫促進剤などの加硫剤等も、所望に応じて配合することができる。
【0055】
<架橋ポリマー組成物>
本発明の架橋ポリマー組成物は、亜鉛系架橋助剤と、有機過酸化物をポリマーに配合し、有機過酸化物によって架橋させたものである。
【0056】
亜鉛系架橋助剤の配合量は、ポリマー100質量部に対し、亜鉛系架橋助剤が0.5〜10質量部の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは1〜5質量部の範囲である。亜鉛系架橋助剤の配合量が少ないと、耐熱老化性等を十分に向上させることができない場合がある。また、亜鉛系架橋助剤が多すぎると、配合量に比例した効果を得ることができないとともに、ポリマーの機械的特性等が低下するおそれがある。
【0057】
有機過酸化物の配合量は、ポリマー100質量部に対し、0.5〜10質量部の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは0.75〜5質量部の範囲である。有機過酸化物の量が少ないと、ポリマー組成物において十分な架橋構造を形成できない場合がある。また、有機過酸化物の配合量が多すぎると、ポリマーの機械的特性等が低下するおそれがある。
【0058】
有機過酸化物に対する亜鉛系架橋助剤の割合は、有機過酸化物100質量部に対し、5〜2000質量部の範囲であることが好ましく、さらには20〜1333質量部の範囲であることが好ましい。有機過酸化物に対する亜鉛系架橋助剤の配合量が少なすぎると、耐熱老化性等を十分に向上させることができない場合がある。また、有機過酸化物に対する亜鉛系架橋助剤の割合が多すぎると、配合量に比例して耐熱老化性等を向上することができるという本発明の効果を十分に得ることができない場合があり、また機械的特性等が低下するおそれがある。
【0059】
ポリマーに亜鉛系架橋助剤及び有機過酸化物を配合した後、有機過酸化物によってポリマーを架橋するため、ポリマー組成物を加熱する。加熱温度は、使用する有機過酸化物等により適宜調整されるが、一般には、120〜200℃の範囲であることが好ましく、さらに好ましくは150〜180℃の範囲である。また、加熱時間は、各温度におけるキュラストメーターで測定したtc(90)を参考にして決定する。
【0060】
ポリマーに亜鉛系架橋助剤及び有機過酸化物を配合する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の混練装置、具体的には、バンバリーミキサー(登録商標)、インターミックス(登録商標)、ニーダー、ロール等により行うことができる。
【実施例】
【0061】
以下、本発明を具体的な実施例により説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0062】
(合成例1)
5.5質量%濃度の焼成クレー水懸濁液847mlに、酸化亜鉛を91.5g加えて十分に攪拌した。ついで、10質量%濃度の炭酸ナトリウム水溶液を330gと、10質量%塩化亜鉛水溶液を340g加えてさらに攪拌した。これに30質量%濃度の炭酸ガスを、pHが7以下になるまで吹き込んで、焼成クレーの表面に塩基性炭酸亜鉛を析出させて亜鉛系架橋助剤を合成した。その後、脱水、乾燥、粉砕工程を経て粉末化し、架橋助剤Aを得た。
【0063】
架橋助剤AのBET比表面積は50m/gであった。また、架橋助剤Aにおいては、焼成クレーに塩基性炭酸亜鉛が金属亜鉛として45質量%担持されていた。従って、担持された塩基性炭酸亜鉛のBET比表面積は60m/gであった。
【0064】
(合成例2)
7.3質量%濃度の焼成クレー水懸濁液847mlに、酸化亜鉛を25.5g加えて十分に攪拌した。ついで、10質量%濃度の炭酸ナトリウム水溶液を330gと、10質量%塩化亜鉛水溶液を340g加えてさらに攪拌した。これに30質量%濃度の炭酸ガスを、pHが7以下になるまで吹き込んで、焼成クレーの表面に塩基性炭酸亜鉛を析出させて亜鉛系架橋助剤を合成した。その後、脱水、乾燥、粉砕工程を経て粉末化し、架橋助剤Bを得た。
【0065】
架橋助剤BのBET比表面積は38m/gであった。また、架橋助剤Bにおいては、焼成クレーに塩基性炭酸亜鉛が金属亜鉛として30質量%担持されていた。従って、担持された塩基性炭酸亜鉛のBET比表面積は59m/gであった。
【0066】
〔EPDMへの配合〕
(実施例1〜4及び比較例1〜5)
EPDM100質量部に、ステアリン酸1質量部、カーボンブラック(FEF)50質量部、プロセスオイル10質量部、架橋剤としてのDCP(ジクミルパーオキサイド)2.7質量部、架橋助剤A、B、C、D、またはEを、表1に示す添加量となるように配合し、ポリマー組成物を作製した。
【0067】
なお、EPDM、ステアリン酸、プロセスオイル、及びDCPとしては以下のものを用いた。
【0068】
・EPDM:エチレンプロピレンジエンゴム(エチレン含有量61%)、JSR社製、EP21
・ステアリン酸:ルナックS−50、花王社製
・プロセスオイル:PW−380、出光興産社製
・DCP:パークミルD、日油社製
【0069】
架橋助剤A〜Fは以下の通りである。
【0070】
架橋助剤A:合成例1で調製した亜鉛系架橋助剤
架橋助剤B:合成例2で調製した亜鉛系架橋助剤
架橋助剤C:酸化亜鉛(酸化亜鉛2種、正同化学社製)
架橋助剤D:活性亜鉛華(活性亜鉛華AZO、正同化学社製)
架橋助剤E:微粒子酸化亜鉛(井上石灰社製、メタZ102)
架橋助剤F:架橋助剤A100質量部にビニルトリメトキシシランを乾式で0.5質量部表面処理したもの。
【0071】
本実施例及び本比較例、並びに以下の実施例及び比較例においては、8インチロールを用いてポリマー及び添加剤を混練し配合した。
【0072】
得られたポリマー組成物について、キュラストメーターを用いて、最適加硫時間tc(90)を求め、得られたデータを基に、所定時間加熱し、架橋させて、厚さ2mmの試験シートを作製した。
【0073】
EPDMについては、160℃×30分間の加熱を行った。
【0074】
〔耐熱老化性の評価〕
得られたゴムシートについて、以下の方法で、耐熱老化性を評価した。具体的には、試験前後の引張強さ及び伸びの変化率を求めた。
【0075】
引張強さ及び伸びについては、JIS K 6251に規定された方法に従って、ショッパー抗張力試験機を用い、23℃における引っ張り強さ及び伸びを測定した。加熱条件は、150℃×72時間とし、加熱試験前及び加熱試験後のそれぞれの引張強さ及び伸びの測定を行い、以下のようにして、TB変化率及びEB変化率を求めた。
【0076】
TB変化率(%)=〔(加熱試験後の引張強さ)−(加熱試験前の引張強さ)/(加熱試験前の引張強さ)〕×100
【0077】
EB変化率(%)=〔(加熱試験後の伸び)−(加熱試験前の伸び)/(加熱試験前の伸び)〕×100
【0078】
〔導電率の評価〕
実施例1〜3及び比較例1〜5について、厚さ2mmで直径6cmのゴムシートを作製し、このゴムシートを200mlのイオン交換水に80℃で30日間浸漬させた。浸漬させた後のイオン交換水の導電率を測定し、表1に示した。
【0079】
【表1】

【0080】
表1に示すように、本発明に従う実施例1〜4の架橋ポリマー組成物は、比較例1〜5の架橋ポリマー組成物に比べ、TB変化率及びEB変化率が小さくなっている。従って、耐熱老化性が大幅に改善されている。
【0081】
本発明に従い、亜鉛系架橋助剤を用いることにより、架橋密度を高めることができるため、耐熱老化性を向上させることができたものと考えられる。本発明の架橋ポリマーはシール材(例えばOリング、Dリング、Xリング、ガスケット)、パッキング、電線、ゴム板、ゴムシート、防振ゴム、ベルト(伝動ベルトなど)、ホース(ラジエーターホースなど)、スポンジ、などに好適に用いることができる。
【0082】
また、本発明に従う実施例1〜3の架橋ポリマー組成物は、比較例2〜5の架橋ポリマー組成物に比べ、導電率が小さくなっている。これは、本発明に従い架橋助剤として、本発明の亜鉛系架橋助剤を用いることにより、Znの溶出量が低減できたためであると思われる。従って、本発明の架橋ポリマー組成物は、例えば、燃料電池用パッキングなどに好適に用いることができる。
【0083】
〔NRゴムへの配合〕
(実施例5及び比較例6〜9)
ポリマーとして、NRゴム(天然ゴム)を用い、架橋ポリマー組成物を調製した。
【0084】
NR100質量部に対し、ステアリン酸1質量部、カーボンブラック(FEF)50質量部を配合し、さらに架橋剤、架橋助剤及び加硫促進剤を表2に示すように配合した。
【0085】
比較例8及び9においては、架橋剤として、有機過酸化物に代えて、硫黄を用いている。
【0086】
NRゴム及び加硫促進剤D及び加硫促進剤DMとしては、以下のものを用いた。
【0087】
・NRゴム:天然ゴム、SML♯3
・加硫促進剤D:商品名ノクセラーD、大内新興化学工業社製
・加硫促進剤DM:商品名ノクセラーDM、大内新興化学工業社製
【0088】
上記実施例1と同様に、8インチロールを用いて混練した後、架橋させた。DCPによる架橋における加熱条件は、架橋助剤を配合していない比較例6において160℃×60分間とし、実施例5及び比較例7においては、160℃×30分間とした。
【0089】
また、硫黄を用いた架橋の場合には、150℃×10分間の加熱とした。
【0090】
〔耐熱老化性の評価〕
加熱試験における加熱条件を、120℃×72時間とする以外は、上記と同様にして、TB変化率及びEB変化率を測定し、結果を表2に示した。
【0091】
【表2】

【0092】
表2に示すように、本発明に従う実施例5は、比較例6、7に比べ、TB変化率が小さくなっており、耐熱老化性が大幅に改善されていることがわかる。
【0093】
比較例8及び比較例9においては、硫黄による架橋を行っており、比較例9は、本発明の亜鉛系架橋助剤を用い、比較例8は、従来の架橋助剤である酸化亜鉛を用いている。比較例8と比較例9の比較から明らかなように、硫黄による架橋では、本発明の効果が得られないことがわかる。本発明の架橋ポリマーはシール材(例えばOリング、Dリング、Xリング、ガスケット)、パッキング、電線、ゴム板、ゴムシート、防振ゴム、ベルト(伝動ベルトなど)、ホース(エアーホース、ガスホースなど)、スポンジ、などに好適に用いることができる。
【0094】
〔NBRゴムへの配合〕
(実施例6及び比較例10〜11)
ここでは、NBRゴムに配合した。NBR100質量部に対し、ステアリン酸1質量部、カーボンブラック(FEF)50質量部、ノクラックCD1質量部、ノクラックMBZ1質量部、可塑剤(TOTM)5質量部、DCP3.2質量部を配合し、さらに架橋助剤を表3に示すように配合して架橋ポリマー組成物を調製した。
【0095】
NBRゴム、ノクラックCD、ノクラックMBZ、及び可塑剤は以下の通りである。
【0096】
・NBRゴム:中高ニトリルゴム(アクリルニトリル含有量31%以上36%未満)、日本ゼオン社製、Nipol 1042
・老化防止剤CD:商品名ノクラックCD、大内新興化学工業製
・老化防止剤MBZ:商品名ノクラックMBZ、大内新興化学工業製
・可塑剤TOTM:商品名トリメリックスT−08、花王製
【0097】
混練は、上記と同様に8インチロールを用いて行い、架橋のための加熱条件は160℃×20分間とした。
【0098】
〔耐熱老化性の評価〕
上記(EPDM配合)と同様にして、TB変化率及びEB変化率を測定し、表3に示した。
【0099】
【表3】

【0100】
表3に示すように、NBRゴムに配合した場合にも、本発明の亜鉛系架橋助剤を用いた実施例6は、比較例10及び比較例11に比べ、耐熱老化性が著しく向上している。本発明の架橋ポリマーは耐油性を要求される用途で利用でき、シール材(例えばOリング、Dリング、Xリング、ガスケット)、パッキング、電線、ゴム板、ゴムシート、防振ゴム、ベルト(伝動ベルトなど)、ホース(燃料ホースなど)、スポンジ、などに好適に用いることができる。
【0101】
〔シリコーンゴムへの配合〕
(実施例7〜10及び比較例12〜15)
シリコーンゴム100質量部に対し、RC−4(5OP)0.75質量部を配合し、さらに架橋助剤を、表4に示すように配合した。
【0102】
シリコーンゴム及びRC−4(5OP)は、以下の通りである。
【0103】
・シリコーンゴム:商品名SH831U、ミラブル型シリコーンゴム、東レ・ダウコーニング社製
・架橋剤:商品名RC−4(5OP)、東レ・ダウコーニング社製
【0104】
8インチロールを用いて混練し、混練後、1次架橋の加熱条件を170℃×15分間、2次架橋の加熱条件を200℃×4時間として、架橋させた。
【0105】
シリコーンゴムでは、耐熱老化試験において架橋密度による違いが現れにくいので、加熱条件下での圧縮永久ひずみを測定した。
【0106】
〔圧縮永久ひずみの評価〕
JIS K 6262に規定された方法に従って、圧縮装置を用いて試験した。圧縮割合は25%とし、試験温度(恒温槽温度)を150℃、試験時間を72時間とした。150℃の恒温槽に72時間入れたのち、試験片を取り出して室温で30分間静置した後、圧縮永久ひずみを測定した。
【0107】
測定結果を表4に示す。
【0108】
【表4】

【0109】
表4に示す結果から明らかなように、本発明に従い亜鉛系架橋助剤を用いた実施例7〜10は、比較例12〜15に比べ、圧縮永久ひずみが小さくなっている。従って、耐熱老化性が著しく向上していることがわかる。さらに実施例10は、ビニルトリメトキシシランを表面処理することでロール加工性が向上した。
【0110】
本発明の架橋ポリマーは、E&E、OA機器、重電、電線の分野では、パッキング、ガスケット、テープ、チューブ、シート類、ヒーター発熱体エレメント、デフロスターワイヤー、TV部品、センサー類、コネクタ、キーボードスイッチ、ロール、発熱シート、ケーブル、アノードキャップ、デフロスター、ホットエアブラシ、ターンベルト、O−リング、バルブ、ハーネス末端絶縁、ジャーポット用パッキング、自動車、輸送分野では、ダイヤフラム、ローリング、プラグブーツ、防水コネクタ、ラジエーターホース、ターボチャージホース、インタークーラーホース、オイルシール、イグニッションフード、パッキング、ガケット、熱収縮チューブ、ジョイントホース、ケーブルジョイントコネクタ、プラグカバー、端子板、高電圧成形品、EGRホース、リアフランジシャフト用オイルシール、産業機械分野では、ホース類、ロール類、防振ゴム、バルブ、パッキング、チューブ、治具、耐熱メカ部品、医療・食品分野では、パッキング、ルミカー、乳首、各種カテーテル、輸血用チューブ、シャント、保存容器、人工心肺、人工皮膚、ガスケット、栓、O−リング、搾乳機チューブ、家庭用調理器具の口栓、食品製造機器部品、コンベアベルト、ピペッタースポット、その他分野では、水中メガネ、シュノーケル、マウスピース、ゴーグルバンド、建築用ガスケットなどで好適に用いられる。
【0111】
また、耐水蒸気性の向上も期待できることから、食品パッキング(ジャー、炊飯器、ポット)、ガスケット、O−リングに用いられるシール材、パッキングに好適に用いることが期待できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
珪酸塩粒子の表面に酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子を担持させた亜鉛系架橋助剤と、架橋剤としての有機過酸化物とをポリマーに配合し、有機過酸化物によって架橋させたことを特徴とする架橋ポリマー組成物。
【請求項2】
ポリマー100質量部に対し、亜鉛系架橋助剤が0.5〜10質量部配合されていることを特徴とする請求項1に記載の架橋ポリマー組成物。
【請求項3】
ポリマー100質量部に対し、有機過酸化物が0.5〜10質量部配合されていることを特徴とする請求項1または2に記載の架橋ポリマー組成物。
【請求項4】
亜鉛系架橋助剤中の酸化亜鉛微粒子または塩基性炭酸亜鉛微粒子の担持量が、金属亜鉛換算で6〜75質量%の範囲であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の架橋ポリマー組成物。
【請求項5】
珪酸塩粒子が、無水珪酸アルミニウム塩鉱物粒子であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の架橋ポリマー組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の架橋ポリマー組成物を製造する方法であって、
ポリマーに亜鉛系架橋助剤及び有機過酸化物を配合する工程と、
亜鉛系架橋助剤及び有機過酸化物を配合したポリマーを加熱して、有機過酸化物によってポリマーを架橋する工程とを備えることを特徴とする架橋ポリマー組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−255099(P2012−255099A)
【公開日】平成24年12月27日(2012.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−129211(P2011−129211)
【出願日】平成23年6月9日(2011.6.9)
【出願人】(593119527)白石カルシウム株式会社 (17)
【Fターム(参考)】