説明

架橋性シロキサンポリマー、シロキサン系の架橋性組成物及びシリコーン膜

【課題】シルセスキオキサン骨格をケイ素系重合体の主鎖に含み、かつ耐熱性に優れるシリコーン膜を提供する。
【解決手段】
シルセスキオキサンを主鎖に含む特定のケイ素化合物と、このケイ素化合物中の水酸基と縮合反応を生じる基又は原子を3以上有する架橋性ケイ素化合物とが縮合してなる架橋性シロキサンポリマーが含まれる架橋性組成物を、水存在雰囲気中で硬化させてシリコーン膜とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、架橋性シロキサンポリマー、シロキサン系の架橋性組成物とこの架橋性組成物から得られるシリコーン膜に関する。
【背景技術】
【0002】
シルセスキオキサン骨格を含むポリマーは、特異な構造を有し、またそれによる特異な効果が期待されるため、様々な分野から注目されている。このようなシルセスキオキサン骨格を含むポリマーには、シルセスキオキサン骨格を主鎖に含むケイ素系重合体が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このケイ素系重合体は、透明性、皮膜形成性等に優れるフィルム、シート及び成形体に使用することができる。しかしながら前記ケイ素系重合体は、熱可塑性を有することから、成形体の耐熱性を要する分野への応用が制限される。このように前記ケイ素系重合体には、成形体の耐熱性において検討の余地が残されている。
【特許文献1】特開2006−22207号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明は、シルセスキオキサン骨格をケイ素系重合体の主鎖に含み、かつ耐熱性に優れるシリコーン膜を提供することを課題の一つとしており、これを達成するための架橋性シロキサンポリマー等を提供することも課題の一つとしている。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、シルセスキオキサン骨格を主鎖に含むケイ素系重合体の末端に、水分によって架橋が進行する架橋性のケイ素系置換基を導入してなる架橋性シロキサンポリマー、及び前記架橋性シロキサンポリマーの末端が架橋した、全シロキサンポリマーで形成されるシリコーン膜を提供する。すなわち本発明は下記[1]〜[11]で表される発明を提供する。
【0005】
[1] 下記一般式(1)で表されるケイ素化合物と、このケイ素化合物中の水酸基と縮合反応を生じる基又は原子を3以上有する架橋性ケイ素化合物とから得られる架橋性シロキサンポリマー。
【0006】
【化1】

【0007】
前記一般式(1)中、mは独立して0〜30の整数を表し;nは1〜1,000の整数を表し;R0は独立して、任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、又は任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素
数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいシクロアルキルを表し;R1及びR2は独立して炭素数1〜40のアルキル、任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、又はアリールにおける任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールアルキルを表す。前記炭素数1〜40のアルキルにおいて、任意の水素は独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−は独立して−O−又はシクロアルキレンで置き換えられてもよい。前記アリール又はアリールアルキルの置換基である炭素数1〜20のアルキルにおいて、任意の水素は独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−は独立して−O−、シクロアルキレン又はフェニレンで置き換えられてもよい。前記アリールアルキルのアルキレンにおいて、その炭素数は1〜10であり、任意の水素は独立してフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−は独立して−O−、−CH=CH−又はシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
【0008】
[2] 前記架橋性ケイ素化合物が、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物、及び3以上の水素、ハロゲン又は水酸基が結合するケイ素を含む化合物からなる群から選ばれる一以上であることを特徴とする[1]記載の架橋性シロキサンポリマー。
【0009】
3−Si(R4)3 (2)
【0010】
前記一般式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、及び炭素数0〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。
【0011】
【化2】

【0012】
一般式(3)及び(4)中、R5及びR6はそれぞれ独立して炭素数1〜15のアルキル及び炭素数6〜30のアリールを表し、aは1以上の整数を表し、bは2以上の整数を表す。
【0013】
[3] 前記一般式(2)で表される化合物がメチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン又はメチルトリアセトキシシランであることを特徴とする[2]記載の架橋性シロ
キサンポリマー。
【0014】
[4] 前記R0〜R2がそれぞれ独立してメチル及びフェニルであることを特徴とする[1]〜[3]のいずれか一つに記載の架橋性シロキサンポリマー。
【0015】
[5] 前記R0がフェニルであり、前記R1及びR2がメチルであることを特徴とする[4]記載の架橋性シロキサンポリマー。
【0016】
[6] 前記一般式(1)で表されるケイ素化合物と、このケイ素化合物中の水酸基と縮合反応を生じる基又は原子を3以上有する架橋性ケイ素化合物とを含有する架橋性組成物。
【0017】
[7] 前記架橋性ケイ素化合物が、前記一般式(2)〜(4)で表される化合物、及び3以上の水素、ハロゲン又は水酸基が結合するケイ素を含む化合物からなる群から選ばれる一以上であることを特徴とする[6]記載の架橋性組成物。
【0018】
[8] 前記一般式(2)で表される化合物がメチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン又はメチルトリアセトキシシランであることを特徴とする[7]記載の架橋性組成物。
【0019】
[9] 前記R0〜R2がそれぞれ独立してメチル及びフェニルであることを特徴とする[6]〜[8]のいずれか一つに記載の架橋性組成物。
【0020】
[10] 前記R0がフェニルであり、前記R1及びR2がメチルであることを特徴とする[9]記載の架橋性組成物。
【0021】
[11] [6]〜[10]のいずれか一つに記載の架橋性組成物の膜が硬化してなるシリコーン膜。
【発明の効果】
【0022】
本発明では、前記一般式(1)で表されるケイ素化合物と前記架橋性ケイ素化合物とを含有する架橋性組成物において、前記ケイ素化合物と架橋性ケイ素化合物とが縮合してなる架橋性シロキサンポリマーが形成され、この架橋性シロキサンポリマーが含まれる架橋性組成物を通常の空気等の水存在雰囲気中に置くことによって末端が架橋することから、本発明は、シルセスキオキサン骨格をケイ素系重合体の主鎖に含み、かつ耐熱性に優れるシリコーン膜を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
本発明の架橋性シロキサンポリマーは、下記一般式(1)で表されるケイ素化合物と、このケイ素化合物に結合する架橋性ケイ素化合物とから得られる。
【0024】
【化3】

【0025】
前記一般式(1)中、R0は独立してアリール又はシクロアルキルを表す。R0のアリール及びシクロアルキルは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよい。
【0026】
前記一般式(1)中、R1及びR2は独立して炭素数1〜40のアルキル、アリール、又はアリールアルキルを表す。R1及びR2における炭素数1〜40のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−は独立して−O−又はシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
【0027】
1及びR2における炭素数1〜40のアリールは、任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよい。またR1及びR2における炭素数1〜40のアリールアルキルは、アリールにおける任意の水素が独立してハロゲン又は炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよい。
【0028】
1及びR2における炭素数1〜40のアリール及びアリールアルキルの置換基である炭素数1〜20のアルキルは、任意の水素が独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−が独立して−O−、シクロアルキレン又はフェニレンで置き換えられてもよい。さらにR1及びR2における炭素数1〜40の前記アリールアルキルのアルキレンは、その炭素数が1〜10であり、任意の水素は独立してフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−は独立して−O−、−CH=CH−又はシクロアルキレンで置き換えられてもよい。
【0029】
0〜R2は、全て同じであってもよいし、R0〜R2のそれぞれにおいて同じであってもよいし、R0〜R2のそれぞれにおいて異なっていてもよいし、R0〜R2の全てで異なっていてもよい。具体的には、前記R0〜R2にはメチル及びフェニルが挙げられる。より具体的には、前記R0にはフェニル、R1及びR2にはメチルが挙げられる。
【0030】
前記一般式(1)中、mは独立して0〜30の整数を表し、nは1〜1,000の整数を表す。
【0031】
前記ケイ素化合物は、前記特許文献1に記載されているように、下記一般式(5)で表されるシルセスキオキサンと下記一般式(6)で表される鎖状シロキサンとをトリエチルアミン等の塩基の存在下で反応させることによって得られる。前記一般式(1)中のmは、前記鎖状シロキサンの種類によって決めることができる。前記一般式(1)中のnは、反応条件(温度、一般式(6)で表される鎖状シロキサンの濃度など)によって調整される。
【0032】
【化4】

【0033】
なお、前記一般式(5)で表されるシルセスキオキサンも、前記特許文献1に記載されているように、下記一般式(7)で表される化合物と下記一般式(8)で表される化合物を反応させ、加水分解することによって得られる。ここで、Xはハロゲン又は水素を表す。そして下記一般式(7)で表される化合物も、前記特許文献1に記載されているように、下記一般式(9)で表される化合物を、水酸化ナトリウム及び水の存在下で加水分解、縮重合することによって得られる。このときの反応は有機溶剤の存在下であっても非存在下であってもよい。
【0034】
【化5】

【0035】
前記架橋性ケイ素化合物は、前記ケイ素化合物中の水酸基と縮合反応を生じる基又は原子を3以上有する。より具体的には、前記架橋性ケイ素化合物には、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物、及び3以上の水素又は水酸基が結合するケイ素を含む化合物からなる群から選ばれる化合物を用いることができる。前記架橋性ケイ素化合物は、前記化合物中の一つでもよいし二以上でもよい。
【0036】
3−Si(R4)3 (2)
前記一般式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表す。前記一般式(2)中、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、及び炭素数0〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。
【0037】
より具体的には、R4の前記ハロゲンには塩素、前記アシルにはアセチルが挙げられ、前記アルキルにはメチルが挙げられ、前記オキシムにはエチルメチルオキシムが挙げられ、前記アミノにはシクロヘキシルアミノが挙げられ、前記アミドにはN−メチルアセトアミドが挙げられ、前記アミノキシにはジエチルアミノキシが挙げられ、前記ビニルアルコール残基には1−メチルビニルアルコール残基が挙げられる。
【0038】
前記一般式(2)で表される架橋性ケイ素化合物には、具体的には、メチルトリス(メチルエチルケトキシム)シランやメチルトリアセトキシシランが挙げられる。
【0039】
【化6】

【0040】
前記一般式(3)及び(4)中、R5及びR6はそれぞれ独立して炭素数1〜15のアルキル及び炭素数6〜30のアリールを表し、aは1以上の整数を表し、bは2以上の整数を表す。より具体的には、R5及びR6にはメチル、エチル、及びフェニルが挙げられる。a及びbには特に上限はないが、通常、aは10以下、bは10以下である。
【0041】
前記3以上の水素又は水酸基が結合するケイ素を含む化合物には、具体的には、ケイ素数が1〜10のシラン、一部の水素が置換基に置換されたシラン誘導体、シラノール、及び一部の水酸基が置換基に置換されたシラノール誘導体が挙げられる。シラン誘導体及びシラノール誘導体の置換基は、本発明の架橋性シロキサンポリマーが水存在雰囲気中で架
橋することを妨げなければ特に限定されず、このような置換基には例えばアルキル、ハロゲン化アルキル、アルケニル、ハロゲン化アリール、フェニル、シクロアルキル、アクリル、メタクリル基、ビニル、アミノ、エポキシ、メルカプト等が挙げられる。
【0042】
本発明の架橋性シロキサンポリマーについて、一般式(1)で表されるケイ素化合物におけるR0がフェニルであり、R1及びR2がメチルであり、前記架橋性ケイ素化合物がメチルトリス(メチルエチルケトキシム)シランである場合を例にさらに説明する。
【0043】
【化7】

【0044】
前記化学式に示すように、本発明の前記架橋性シロキサンポリマーは、前記ケイ素化合物の水酸基と前記架橋性ケイ素化合物とが縮合し、末端のケイ素に二つのオキシムを有する縮合ポリマーとして形成され、またこれに伴い前記水酸基の水素とオキシムとの縮合物である2−ブタノンオキシムも生成する。
【0045】
前記架橋性シロキサンポリマーを空気等の水分を含む雰囲気に接触させると、この雰囲気中の水分によって前記架橋性シロキサンポリマー中のオキシムが加水分解されて前記架橋性シロキサンポリマーの末端のケイ素に水酸基が導入されたシロキサンポリマーが生成され、さらに2−ブタノンオキシムが生成される。この加水分解の過程では、末端に水酸基を有するシロキサンポリマーと、末端にオキシムを有するシロキサンポリマーと、末端に水酸基及びオキシムを有するシロキサンポリマーとの少なくとも二つが存在し、あるシロキサンポリマーの水酸基と他のシロキサンポリマーのオキシムとがさらに2−ブタノンオキシムを生成しながら縮合することによって、架橋性シロキサンポリマーが架橋する。
【0046】
前記ケイ素化合物に対して十分量の前記架橋性ケイ素化合物を縮合に供する場合には、下記化学式で示すように、前記ケイ素化合物の両末端で架橋性ケイ素化合物が縮合した架橋性シロキサンポリマーが形成され、前述したような過程を経て架橋する。
【0047】
【化8】

【0048】
また下記化学式に示すように、前記架橋性ケイ素化合物が例えばメチルトリアセトキシシランである場合は、末端のケイ素に二つのアセトキシを有する架橋性シロキサンポリマーと、前記水酸基の水素とアセトキシとの縮合物である酢酸とが生成する。
【0049】
【化9】

【0050】
前記架橋性シロキサンポリマーを空気等の水分を含む雰囲気に接触させると、雰囲気中の水分によって前記架橋性シロキサンポリマー中のアセトキシが加水分解されて前記架橋性シロキサンポリマーの末端のケイ素に水酸基が導入されたシロキサンポリマーが生成され、さらに酢酸が生成される。この加水分解の過程では、末端に水酸基を有するシロキサンポリマーと、末端にアセトキシを有するシロキサンポリマーと、末端に水酸基及びアセ
トキシを有するシロキサンポリマーとの少なくとも二つが存在し、あるシロキサンポリマーの水酸基と他のシロキサンポリマーのアセトキシとがさらに酢酸を生成しながら縮合することによって、架橋性シロキサンポリマーが架橋する。
【0051】
前記ケイ素化合物に対して十分量のメチルトリアセトキシシランを縮合に供する場合も、前述したように、また下記化学式で示すように、前記ケイ素化合物の両末端で架橋性ケイ素化合物が縮合した架橋性シロキサンポリマーが形成され、前述したような過程を経て架橋する。
【0052】
【化10】

【0053】
なお、前記化学式では、前記ケイ素化合物と架橋性ケイ素化合物とが等量又は倍量で規則的に反応し、また水分による加水分解も規則的に行われてなる架橋性シロキサンポリマーの一形態を示したが、本発明の架橋性シロキサンポリマーはこの形態に限定されない。例えば本発明の架橋性シロキサンポリマーは、この形態を含んでいてもよいし、一つの前記架橋性ケイ素化合物に対して二又は三の前記ケイ素化合物が結合している形態を含んでいてもよい。
【0054】
また架橋性ケイ素化合物が3つ以上のハロゲンを有するケイ素化合物である場合では、得られる架橋性シロキサンポリマーを、水分を含む雰囲気中のような水が存在する環境下でも、また水が存在しない環境下でも架橋させることができる。
【0055】
本発明の架橋性組成物は、前記ケイ素化合物と前記架橋性ケイ素化合物とを含有する。本発明の架橋性組成物において、前記架橋性ケイ素化合物の含有量は、所望の架橋度に応じて決めることができる。例えば前記架橋性ケイ素化合物の含有量は、前記ケイ素化合物又はそれが有する水酸基と等量であってもよいし、等量未満であってもよいし、等量より多くてもよい。また本発明の架橋性組成物では、前記架橋性ケイ素化合物は単一の化合物であってもよいし、二以上の化合物であってもよい。
【0056】
本発明の架橋性組成物は、さらに溶剤を含有していてもよい。このような溶剤には、ケイ素化合物及び架橋性ケイ素化合物の両方を溶解し得る溶剤であってケイ素化合物又は前記架橋性ケイ素化合物と縮合しない溶剤が好ましく、例えばヘキサンやヘプタン等の炭化
水素系溶剤、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶剤、ジエチルエーテル、テトラハイドロフラン(THF)、ジオキサン等のエーテル系溶剤、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素系溶剤、及び酢酸エチル等のエステル系溶剤が挙げられる。前記溶剤は単一の溶剤でもよいし、二以上の溶剤であってもよい。
【0057】
本発明の架橋性組成物は、架橋性ケイ素化合物が縮合に水の存在を要する、前記一般式(2)〜(4)の化合物及び3つ以上の水素又は水酸基を有するケイ素化合物である場合には、架橋性組成物の硬化を予防する観点から、水分が除去された雰囲気で生成、保存することが好ましい。
【0058】
本発明の架橋性組成物は、前記ケイ素化合物と前記架橋性ケイ素化合物との反応、前述した水分による加水分解、及びその後の架橋に悪影響を及ぼさない範囲で添加剤をさらに含有していてもよい。このような添加剤は、シリコーン膜の用途に応じて決めることができ、このような添加剤には、例えば電気、電子材料の分野において使用される酸化防止剤、着色剤、シリコーンオイル、及び充填剤等が挙げられる。
【0059】
本発明のシリコーン膜は、前述した本発明の架橋性組成物の膜が硬化してなる。本発明のシリコーン膜は、本発明の架橋性組成物が縮合に水を要する架橋性ケイ素化合物を含有する場合では、前述した本発明の架橋性組成物の膜が水存在雰囲気中で硬化してなる。この場合、本発明のシリコーン膜は、本発明の架橋性組成物の膜を、例えば湿度が50%程度の通常の空気中に放置しておくことによって形成される。放置時間は前記架橋性ケイ素化合物の種類に応じて決められる。また放置の際に、架橋に悪影響を及ぼさない範囲で加熱等の他の処理を行ってもよい。
【0060】
本発明のシリコーン膜は、前記架橋性ケイ素化合物の種類、添加量、他の添加剤の使用等の諸条件によって、透明な膜、不透明な膜、柔軟な膜、硬い膜等の種々の物性の膜となり得る。例えば架橋性ケイ素化合物がメチルトリス(メチルエチルケトキシム)シランである前記架橋性組成物を硬化させてなる膜は透明な膜であり、前記架橋性ケイ素化合物をケイ素化合物に対して等量以下含有する前記架橋性組成物を硬化させてなる膜は透明で硬い膜であり、さらにシリコーンオイルを含有する前記架橋性組成物を硬化させてなる膜は不透明で硬い膜であり、前記架橋性ケイ素化合物を前記ケイ素化合物に対して10倍量程度と過剰に含有する前記架橋性組成物を硬化させてなる膜は透明で柔軟な膜である。また例えば架橋性ケイ素化合物がメチルアセトキシシランである前記架橋性組成物を硬化させてなる膜は不透明な硬い膜である。
【0061】
本発明のシリコーン膜において、前記架橋性シロキサンポリマーの架橋は、溶剤に対する溶解性で判断することができる。例えば前記架橋性組成物に含有されている溶剤に対して、本発明のシリコーン膜が溶解しなくなることによって判断することができる。
【0062】
本発明のシリコーン膜は、シロキサン鎖とシルセスキオキサンとが交互に配列した、全てシラノールから形成される主鎖を有する架橋性シロキサンポリマーの架橋物によって構成されている。したがって、本発明のシリコーン膜は、溶解性、耐熱性、機械強度、光学透過性、ガス透過性、誘電率、難燃性、接着性、加工性等の諸物性における優れた効果と、幅広い用途への利用とが期待される。例えば本発明のシリコーン膜における電気・電子材料の用途としては、金属溶出防止膜、ガスバリア膜、反射防止膜等の基板用コーティング剤、液状封止剤、層間絶縁膜、汚れ防止用コーティング剤、マイクロレンズ、導光板、光導波路材料等の光学素子、ディスプレイ基板及びプリント配線用基板等が挙げられる。
【実施例】
【0063】
[合成例1]シロキサンポリマーの合成
前記一般式(1)におけるR0がフェニルでありR1がメチルである下記構造式で示される15.00g(12.65mmol)のシルセスキオキサンを反応容器へ収容して水分除去のための真空加熱を行い、窒素雰囲気で反応容器を0℃に冷却し、100mLの脱水トルエン及び31.80mL(228.00mmol)のトリエチルアミンを反応容器に添加し、無色透明の溶液を得た。得られた溶液に3.63mL(12.65mmol)の1,5−ジクロロヘキサメチルトリシロキサンを添加して0℃にて反応を開始した。2時間後、反応温度を40℃に上げ、四日間攪拌を続けた後に反応を停止した。この反応によって粘性を有する乳白色の溶液を得た。
【0064】
【化11】

【0065】
得られた溶液を、超純水を用いて水相が中性になるまで分液によって洗浄し、得られた油相をエバポレータで減圧濃縮し、得られた濃縮物をアセトンに溶解させた後にこの溶液にヘキサンを滴下して白色のオイル状の沈殿を得た。得られた沈殿をトルエンに溶解し、フッ素樹脂の板に塗布し、塗布物を徐々に乾燥させて、半透明の柔軟なフィルムとして、下記一般式で示されるシロキサンポリマーを得た。得られたシロキサンポリマーをGPCで測定したところ、重量平均分子量Mwは10,000であった。また数平均分子量Mnに対する重量平均分子量の比Mw/Mnは2.1であり、重合度Dpは7であった。
【0066】
【化12】

【0067】
GPC測定の測定条件を以下に示す。
<測定条件>
カラム:Shodex KF−806M 300×8.0mm
移動相:THF
流速:1.0ml/min
温度:35℃
検出器:UV(256nm)
分子量標準サンプル:分子量既知のポリスチレン
【0068】
[実施例1]
窒素雰囲気中、4.191gの前記シロキサンポリマーを8.38mLのアセトンに溶解し、得られた溶液の四つの試薬びんに2mL(プレポリマーを0.1mmol)ずつ分け、各試薬びんにメチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン(架橋剤1)を所定量添加してプレポリマー1の溶液1〜4を得た。具体的には、試薬びん1にはシロキサンポリマーと等モルの架橋剤1を添加し、試薬びん2にはシロキサンポリマーに対して10倍モルの架橋剤1を添加し、試薬びん3にはシロキサンポリマーに対して0.63倍モルの架橋剤1を添加し、試薬びん4にはシロキサンポリマーと等モルの架橋剤1と数滴のシリコーンオイルとを添加した。
【0069】
得られたプレポリマー1の溶液1〜4のそれぞれをフッ素樹脂の板に塗布し、空気中(湿度36%、18℃)に一日間放置し、プレポリマー1が硬化してなるフィルム1〜4を得た。得られたフィルムが溶媒(アセトン)に溶解しなくなったことにより、このフィルムにおけるプレポリマー1の架橋の形成を確認した。プレポリマー1の溶液への架橋剤1の添加量と得られたフィルムの状態とを以下の表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
フィルム1及び3は、架橋剤1を添加する前のシロキサンポリマーに比べて自己保持性が向上した。フィルム1及び3はフッ素樹脂板を曲げることによりフィルムを曲げたときにヒビが見られた。
【0072】
フィルム2は、自己保持性が高く、曲げてもヒビは見られなかった。またフィルム2の黄色は縮合物(2−ブタノンオキシム)によるものであり、フィルム2はアセトンで洗うことによって無色透明のフィルムとなった。
【0073】
フィルム4は、溶媒とシリコーンオイルとの相溶性が悪く、溶液の混合時に白濁し、そのまま硬化してフィルムとなった。フィルム4はフィルム1及び3と同様に曲げたときにヒビが見られた。
【0074】
フィルム2の熱分解に対する安定性について、TG(熱重量)−DTA(示差熱分析)測定でフィルム2を測定した。その結果、フィルム2の5%重量減少量温度(Td5)は476.5℃であった。TG−DTA測定の条件を以下に示す。
<測定条件>
測定装置:示差熱熱重量同時測定装置EXSTAR6000 TG/DTA6300(セイコーインスツル株式会社製)
パン:Pt
標準試料:酸化アルミニウム(10mg)
サンプル質量:約10mg
温度プログラム:30〜1,000℃
昇温速度:10℃/min
雰囲気:酸素
【0075】
[実施例2]
窒素雰囲気中、三つの試薬びん5〜7のそれぞれに所定量のメチルトリアセトキシシラン(架橋剤2)を投入し、一方で合成例1で得られた前記シロキサンポリマーのアセトン溶液を適当な濃度で調製しておき、各試薬びん5〜7中の架橋剤2の重量に合わせて設定した比率になるよう、濃度既知の前記ポリマー溶液を所定量添加し、架橋剤2とポリマー溶液とを試薬びん中で混合してプレポリマー2の溶液5〜7を得た。
【0076】
得られたプレポリマー2の溶液5〜7のそれぞれをフッ素樹脂の板に塗布し、空気中に放置したところ、数分後から硬化が開始し、プレポリマー2が硬化してなるフィルム5〜7を得た。得られたフィルムが溶媒(アセトン)に溶解しなくなったことにより、このフィルムにおけるプレポリマーの架橋の形成を確認した。プレポリマー2の溶液の組成を以下の表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
上記表2中、ポリマーのユニットに対する架橋剤2の比率では、プレポリマー2のユニットの分子量を1390.2とし、ポリマー中のユニットに対する架橋剤2の数の割合を求めた。フィルム5〜7は、いずれも柔軟性を有さない、白色のフィルムであり、フィルムを曲げたときにヒビが見られた。フィルム5〜7では、架橋剤2の量の変化に関わらず、外観や性状はほぼ同じであった。
【0079】
またフィルム7の熱分解に対する安定性について、実施例1と同様にTG−DTA測定でフィルム7を測定した。その結果、フィルム7の5%重量減少量温度(Td5)は416.5℃であった。
【0080】
前記シロキサンポリマーの末端の水酸基に架橋剤1、架橋剤2をそれぞれ導入することにより、骨格の全てがシロキサンからなるプレポリマーが得られた。このプレポリマーは、空気中の水分によって架橋し、この架橋により熱安定性に優れたフィルムが得られた。このフィルムとしては、透明なフィルムと不透明なフィルムとが得られた。またこのフィルムとしては、柔軟なフィルムと硬いフィルムとが得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるケイ素化合物と、このケイ素化合物中の水酸基と縮合反応を生じる基又は原子を3以上有する架橋性ケイ素化合物とから得られる架橋性シロキサンポリマー。
【化1】

(一般式(1)中、mは独立して0〜30の整数を表し;nは1〜1,000の整数を表し;R0は独立して、任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、又は任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいシクロアルキルを表し;R1及びR2は独立して炭素数1〜40のアルキル、任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、又はアリールにおける任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールアルキルを表し;前記炭素数1〜40のアルキルにおいて、任意の水素は独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−は独立して−O−又はシクロアルキレンで置き換えられてもよく;前記アリール又はアリールアルキルの置換基である炭素数1〜20のアルキルにおいて、任意の水素は独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−は独立して−O−、シクロアルキレン又はフェニレンで置き換えられてもよく;前記アリールアルキルのアルキレンにおいて、その炭素数は1〜10であり、任意の水素は独立してフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−は独立して−O−、−CH=CH−又はシクロアルキレンで置き換えられてもよい。)
【請求項2】
前記架橋性ケイ素化合物が、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物、及び3以上の水素、ハロゲン又は水酸基が結合するケイ素を含む化合物からなる群から選ばれる一以上であることを特徴とする請求項1記載の架橋性シロキサンポリマー。
3−Si(R4)3 (2)
(一般式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、及び炭素数0〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。)
【化2】

(一般式(3)及び(4)中、R5及びR6はそれぞれ独立して炭素数1〜15のアルキル及び炭素数6〜30のアリールを表し、aは1以上の整数を表し、bは2以上の整数を表す。)
【請求項3】
前記一般式(2)で表される化合物がメチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン又はメチルトリアセトキシシランであることを特徴とする請求項2記載の架橋性シロキサンポリマー。
【請求項4】
前記R0〜R2がそれぞれ独立してメチル及びフェニルであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の架橋性シロキサンポリマー。
【請求項5】
前記R0がフェニルであり、前記R1及びR2がメチルであることを特徴とする請求項4記載の架橋性シロキサンポリマー。
【請求項6】
下記一般式(1)で表されるケイ素化合物と、このケイ素化合物中の水酸基と縮合反応を生じる基又は原子を3以上有する架橋性ケイ素化合物とを含有する架橋性組成物。
【化3】

(一般式(1)中、mは独立して0〜30の整数を表し;nは1〜1,000の整数を表し;R0は独立して、任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、又は任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいシクロアルキルを表し;R1及びR2は独立して炭素数1〜40のアルキル、任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリール、又はアリールにおける任意の水素が独立してハロゲン若しくは炭素数1〜20のアルキルで置き換えられてもよいアリールアルキルを表し;前記炭素数1〜40のアルキルにおいて、任意の水素は独立してフッ素で置き換えら
れてもよく、任意の−CH2−は独立して−O−又はシクロアルキレンで置き換えられてもよく;前記アリール又はアリールアルキルの置換基である炭素数1〜20のアルキルにおいて、任意の水素は独立してフッ素で置き換えられてもよく、任意の−CH2−は独立して−O−、シクロアルキレン又はフェニレンで置き換えられてもよく;前記アリールアルキルのアルキレンにおいて、その炭素数は1〜10であり、任意の水素は独立してフッ素で置き換えられてもよく、そして任意の−CH2−は独立して−O−、−CH=CH−又はシクロアルキレンで置き換えられてもよい。)
【請求項7】
前記架橋性ケイ素化合物が、下記一般式(2)〜(4)で表される化合物、及び3以上の水素、ハロゲン又は水酸基が結合するケイ素を含む化合物からなる群から選ばれる一以上であることを特徴とする請求項6記載の架橋性組成物。
3−Si(R4)3 (2)
(一般式(2)中、R3は炭素数1〜20のアルキル又は炭素数6〜30のアリールを表し、R4は、独立して、ハロゲン、炭素数1〜15のアシル、炭素数1〜15のアルコキシル、炭素数1〜15のオキシム、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミノ、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミド、炭素数0〜15の置換基を有していてもよいアミノキシ、及び炭素数0〜15の置換基を有していてもよいビニルアルコール残基を表す。)
【化4】

(一般式(3)及び(4)中、R5及びR6はそれぞれ独立して炭素数1〜15のアルキル及び炭素数6〜30のアリールを表し、aは1以上の整数を表し、bは2以上の整数を表す。)
【請求項8】
前記一般式(2)で表される化合物がメチルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン又はメチルトリアセトキシシランであることを特徴とする請求項7記載の架橋性組成物。
【請求項9】
前記R0〜R2がそれぞれ独立してメチル及びフェニルであることを特徴とする請求項6〜8のいずれか一項に記載の架橋性組成物。
【請求項10】
前記R0がフェニルであり、前記R1及びR2がメチルであることを特徴とする請求項9記載の架橋性組成物。
【請求項11】
請求項6〜10のいずれか一項に記載の架橋性組成物の膜が硬化してなるシリコーン膜。

【公開番号】特開2008−280420(P2008−280420A)
【公開日】平成20年11月20日(2008.11.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−125074(P2007−125074)
【出願日】平成19年5月9日(2007.5.9)
【出願人】(000002071)チッソ株式会社 (658)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】