説明

柄入り樹脂板及びその製造方法

【課題】立体感に富むカラフルな種々の図柄、模様を備えた、短納期で多品種少量生産の可能な柄入り樹脂板と、その製造方法を提供する。
【解決手段】樹脂板の内部に昇華性染料が浸透した柄層2を有する柄入り樹脂板Pであって、上記柄層2は互いに異なる色領域21,22が隣接し、その境界部分23が昇華性染料の熱拡散により混色して、隣接する色領域21,22よりも暗色となっている柄入り樹脂板Pとする。暗色の境界部分23が陰影のように見えて立体感に富むカラフルな柄が発現する。製造方法は、昇華性染料が浸透した互いに異なる色領域が隣接する柄層を樹脂シートの片面側に備えた柄シートと、樹脂プレートとを積層して熱圧着する際に、柄層の互いに異なる色領域の境界部分で昇華性染料を熱拡散させて混色させるようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、立体感に優れたカラフルな図柄、模様を備え、眼鏡部品や櫛などの材料板として好ましく使用される柄入り樹脂板と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
眼鏡フロント、眼鏡テンプル、眼鏡モダンなどの眼鏡部品はファッション性が要求されるため、その材料板として模様等の入った樹脂板が使用されている。そのような模様入り樹脂板として、色の異なるグラニユールの形状の二つの配合物を押出し、その粉砕物を所定の割合で混合して加熱下に十分な時間をかけて板状にプレスすることにより得られる、自然な色むら効果の発揮された不定形模様を有するセルロース系樹脂板が知られている(特許文献1)。
【0003】
また、スクリーン印刷で模様を印刷したプリントシートを積層樹脂板中に挟挿して熱圧着一体化した模様入り樹脂板等も開発されている。
【特許文献1】特公平8−2542号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のセルロース系樹脂板は、その製法上、模様が大幅に制限されるため顧客の好みに応じた種々の図柄の形成が不可能であり、また、製造工程が長くなるため短納期で多品種少量生産が難しく、今日のデザインの多様化、個性化に対応できないという問題があった。一方、スクリーン印刷したプリントシートを挟挿した模様入り樹脂板は、繊細で好みに応じた種々の模様を形成できるというものの、模様が平面的であり、立体感に優れた模様を有する模様入り樹脂板を得ることができないという問題があった。
【0005】
本発明は上記の問題に対処すべくなされたもので、立体感に富むカラフルな種々の図柄、模様を備え、生産が容易なため短納期で多品種少量生産の可能な柄入り樹脂板と、その製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明の柄入り樹脂板は、樹脂板の内部に昇華性染料が浸透した柄層を有する柄入り樹脂板であって、上記柄層は互いに異なる色領域が隣接し、その境界部分が昇華性染料の熱拡散により混色して、隣接する色領域よりも暗色となっていることを特徴とするものである。ここに「柄」とは、図柄、模様、色分け、文字、記号などを包括する広い概念の用語である。
【0007】
本発明の柄入り樹脂板においては、柄層の互いに隣接する色領域の一方が暖色であり、他方が寒色であることが望ましく、樹脂板はセルロース系樹脂板であることが望ましい。また、本発明の柄入り樹脂板は、柄層を樹脂板の内部に二層以上有していてもよい。
【0008】
一方、本発明の製造方法は、昇華性染料が浸透した互いに異なる色領域が隣接する柄層を樹脂シートの片面側に備えた柄シートを作成し、この柄シートと樹脂プレートを積層して熱圧着する際に、柄層の互いに異なる色領域の境界部分で昇華性染料を熱拡散させて混色させることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明の柄入り樹脂板は、その樹脂板内部の柄層が昇華性染料の浸透した層であり、互いに隣接した異なる色領域の境界部分が昇華性染料の熱拡散により混色して、隣接した色領域よりも暗色となっているため、この暗色の境界部分が陰影のように見えて立体感に富むカラフルな柄が発現する。特に、互いに隣接する色領域の一方が暖色であり、他方が寒色である柄入り樹脂板は、一方の暖色の色領域が前方へ浮き上がって見え、他方の寒色の色領域が後方へ沈んだように見えるので、立体感が一層増大する。しかも、この柄入り樹脂板は、本発明の製造方法によって、昇華性染料が浸透した柄層を片面側に有する柄シートと樹脂プレートを積層して熱圧着する際に、柄層の互いに異なる色領域の境界部分で昇華性染料を熱拡散させて混色させることにより製造できるので、立体感に富む種々の柄層の形成が容易であり、短納期で多品種少量生産することも可能である。
【0010】
また、柄層を樹脂板の内部に二層以上有する本発明の柄入り樹脂板は、より一層立体感に優れ、しかも、複雑で変化に富むカラフルな柄を発現することができる。そして、樹脂板がセルロース系樹脂板である柄入り樹脂板は、肌に触れたときの感触が良いため、眼鏡部材、櫛、ペンダントなどの装身具の材料板として好ましく使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の具体的な実施形態を詳述する。
【0012】
図1は本発明の一実施形態に係る柄入り樹脂板の断面図、図2は同柄入り樹脂板の部分平面図、図3は同柄入り樹脂板の製造に用いる柄シートの部分平面図、図4は同柄入り樹脂板の製造方法の説明図である。
【0013】
この柄入り樹脂板Pは、熱可塑性の樹脂板1の表面近くの内部に、昇華性染料が浸透した柄層2を有するものである。樹脂板1の原料樹脂は、熱圧着可能な熱可塑性樹脂であれば全て使用できるが、眼鏡部品、櫛、ペンダントなどの装身具の材料板として適した柄入り樹脂板Pを得る場合には、肌に触れたときの感触が良いセルロース系樹脂、例えばアセテート、プロピオネート、ブチレート、エチル又はメチルセルロースなどのセルロース系樹脂を用いることが好ましい。これらのセルロース系樹脂の中では、アセテートが最適である。
【0014】
柄層2は、昇華性染料が樹脂板1のポリマー分子間に浸透した30〜500μm程度の厚さを有する層であって、図2に示すように、色違いの昇華性染料により互いに異なる色に着色された色領域21,22が交互に隣接し、幾何的な色分け図柄(模様)が形成されている。そして、隣接する色領域21,22の境界部分23は昇華性染料の熱拡散によって混色し、色領域21,22よりも暗色を呈している。このため、暗色の境界部分23が陰影のように見え、境界部分が少しぼやけた立体感に富む幾何的な色分け図柄が発現している。
【0015】
この色分け図柄の立体感を更に増大させるためには、互いに隣接する一方の色領域21を暖色の色領域、即ち、赤、橙、黄などに着色した色領域とし、他方の色領域22を寒色の色領域、即ち、青、シアン、緑などに着色した色領域とすることが望ましい。このようにすると、一方の暖色の色領域21が前方へ浮き上がって見え、他方の寒色の色領域22が後方へ沈んだように見えるので、両者の境界部分23が暗色であることと相まって図柄の立体感が一層増すようになる。また、隣接する色領域21,22を互いに補色関係となるように着色することも望ましく、このようにするとコントラストが増大して一方の色領域が鮮明に浮かび上がり、境界部分23は混色して灰色となるため、図柄の立体感が一層増すことになる。
【0016】
昇華性染料としては、後述する昇華インクに含まれるアゾ、アントラキノン、キノフタロン、スチリル、ジ(又はトリ)フェニルメタン、オキサジン、トリアジン、キサンテン、メチン、アゾメチン、アクリジン、ジアジンその他の公知の暖色系、中間色系、寒色系の昇華性染料が使用される。
【0017】
柄入り樹脂板Pの全体の厚さは用途によって異なるが、装身具の材料板として使用する場合は1〜12mm程度の厚さとするの適当である。より好ましい厚さは2〜8mmであり、この範囲であると眼鏡枠を製作するのに実用的な厚さである。
【0018】
上記構成の柄入り樹脂板Pは、次の方法によって製造される。
【0019】
まず、図4(a)に示すように、転写紙3の片面に互いに異なる色領域が隣接した所望の色分け図柄を昇華インク2aでプリントする。このプリント工程は、インクジェットプリンター又はインクリボンを利用した熱転写型プリンターなどを使用することにより、コンピュータにて作成した所望の色分け図柄を昇華インクで簡単にプリントすることができる。プリンターとしては、インクジェットプリンターが種々の図柄をプリントするうえで最も好ましく使用される。そして、昇華インク2aとしては、水を主体とする媒体に前述の昇華性染料を溶解又は分散させた水系昇華インクや、シクロヘキサン、乳酸エステル、トルエン、アセトンなどの有機溶剤に前述の昇華性染料を溶解又は分散させた溶剤系昇華インクが使用される。また、転写紙としては、昇華インクを容易にプリントできる紙製シート又はポリエステル等の樹脂製シートに表面処理を施した転写紙などが使用される。
【0020】
次いで、図4(b)に示すように、転写紙3をその昇華インク2aの層が透明な熱可塑性樹脂シート4側となるように重ね合わせて熱と圧力を加えることにより、昇華インク2aでプリントされた色分け図柄を樹脂シート4の片面に熱転写する。このように熱転写すると、昇華インク2aに含まれる昇華性染料の一部或は全部が樹脂シート4の片面側のポリマー分子間に浸透し、図4(c)に示すように片面側に昇華性染料が浸透した厚さ30〜100μm程度の柄層2を有する柄シート5が得られる。この柄シート5の柄層2は、図3に示すように、異なる色領域21,22が交互に隣接した色分け図柄であるが、その境界部分は昇華性染料の熱拡散による混色が殆ど見られず、境界部分が比較的はっきりとした平面的な色分け図柄となっている。なお、図3の柄シート5においては、色領域21,22が直接隣接しているが、色領域21,22を隙間をあけて隣接してもよい。この隙間は、後述する熱圧着の際に、色領域21,22の昇華性染料が互いに当該隙間に浸透、拡散して混色できる幅とすることが大切である。
【0021】
熱転写は、平面プレス転写機、バキュームプレス転写機、輪転式転写機などの公知のいずれの転写機を使用して行ってもよい。また、熱転写の温度、圧力、時間などの条件は、転写機の種類、昇華インクの種類、転写紙3の材質等を考慮して、熱転写の際に皺が発生しないように、転写紙3の剥離性や柄の転写性が良くなるように、条件設定を行うことが大切である。熱転写の包括的な条件を例示すると、転写温度が120〜190℃程度(好ましくは130〜160℃程度)、転写圧力が0.1〜3kg/cm程度(好ましくは0.2〜2kg/cm程度)、転写時間が0.5〜15分程度(好ましくは0.8〜10分程度)である。
【0022】
樹脂シート4としては、熱可塑性の樹脂よりなるシートであれば全て使用可能であるが、装身具の材料板となる柄入り樹脂板Pを得る場合は、前述の透明性を有するセルロース系樹脂よりなる厚さ100〜800μm程度の樹脂シートが好ましく使用される。このセルロース系の樹脂シートを用いても、上記の熱転写の手段で柄シート5を作成すれば、その片面側に昇華性染料が浸透した柄層2を確実に形成することができる。
【0023】
上記のように転写手段を用いると、樹脂シート4として、直接プリントできる樹脂シートでも、直接プリントできない樹脂シートでも使用することができる。しかし、樹脂シート4が昇華インク2aで直接プリントできる熱可塑性樹脂からなるシートである場合、例えばアクリル系、塩化ビニル系、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン系、非晶質ポリエステル系などの各樹脂シートである場合には、熱転写の手段を必ずしも使用する必要はなく、上記樹脂シート4にインクジェットプリンターを用いて、図4(f)に示すように樹脂シート4の片面に所望の色分け図柄を昇華インク2aでプリントし、これを熱処理して昇華インク2a中の昇華性染料を樹脂シート4の片面側に浸透させることにより、図4(g)に示すように昇華性染料の一部若しくは全部が片面側に浸透した柄層2を有する柄シート5を作成することもできる。その場合、熱処理の温度や時間などの条件は、昇華インク2aの種類、樹脂シート4の材質などを考慮して、昇華性染料が十分に樹脂シート4の片面に浸透するように条件設定することが大切である。
【0024】
柄シート5が作成されると、図4(d)に示すように、柄シート5と同じ熱可塑性樹脂(樹脂シート4と同じ樹脂)からなる透明な樹脂プレート6に、柄シート5をその柄層2が樹脂プレート6側となるように重ね合わせ、熱と圧力を加えて熱圧着すると同時に、柄層2の互いに異なる色領域の境界部分で昇華性染料を熱拡散させて混色させる。このように熱圧着しながら混色させると、柄シート5(樹脂シート4)と樹脂プレート6が積層界面で接合(融合)一体化して一枚板になると共に、熱圧着前に図3に示すように比較的はっきりしていた柄層2の異なる色領域21,22の境界部分が、昇華性染料の熱拡散に伴う混色によって色領域21,22よりも暗色になり、この暗色の境界部分23が陰影のように見えて境界部分が少しぼけた感じの立体感に富む色分け図柄を備えた柄入り樹脂板Pが製造される。
【0025】
樹脂プレート6は前述したように柄シート5と同じ熱可塑性樹脂からなるものが好ましく、特に装身具の材料板となる柄入り樹脂板Pを得る場合は、前述した柄シート5(樹脂シート4)と同様のセルロース系樹脂よりなるベースシートが好ましく使用される。
【0026】
熱圧着の条件は、樹脂プレート6や柄シート5の樹脂の種類、厚み等を考慮して双方のシート5,6が積層界面において十分に融合一体化できるように、かつ異なる色領域21,22の昇華性染料が境界部分23で充分に熱拡散して混色できるように、その条件を設定することが大切である。例えば、柄シート5が前述の100〜800μm程度の厚みを有するセルロース系樹脂のシートであり、樹脂プレートが1〜11mm程度の厚みを有するセルロース系樹脂のシートであり、昇華性染料が境界部分23で1〜2mm幅にわたり熱拡散して混色できるようにする場合は、温度160〜200℃程度、圧力3.0〜5.0kg/cm程度、時間10〜40分の条件で熱圧着するのが良い。
【0027】
図1に示す柄入り樹脂板Pは、上記の製造方法によって、昇華性染料が浸透し且つ異なる色領域の境界部分で熱拡散により混色した立体感に富む種々のカラフルな図柄の柄層2を内部に有する多品種のものを、簡単に且つ短納期で少量生産できるため、昨今のデザインの多様化、個性化に十分対応することができ、顧客の満足度を高めることができる。
【0028】
以上、代表的な実施形態を例示して本発明の柄入り樹脂板を説明したが、本発明はこの実施形態のみに限定されるものではなく、種々の変更を許容し得るものである。その主な変更例としては、(1)柄シート5の上に同じ樹脂からなる透明な被覆シートを重ね合わせて樹脂プレート6と被覆シートで柄シート5を上下から挟み、これを熱圧着することによって、柄層2が樹脂板1の厚み方向のほぼ中央に存在する柄入り樹脂板としたもの、(2)柄シート5と樹脂プレート6の間に白色樹脂シートを挟み込み、白色樹脂シートによって柄層2の図柄が鮮やかに浮かび上がる柄入り樹脂板としたもの等が挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態に係る柄入り樹脂板の断面図である。
【図2】同柄入り樹脂板の部分平面図である。
【図3】同柄入り樹脂板の製造に用いる柄シートの部分平面図である。
【図4】同柄入り樹脂板の製造方法の説明図である。
【符号の説明】
【0030】
1 樹脂板
2 柄層
21,22 互いに異なる色領域
23 境界部分
5 柄シート
6 樹脂プレート
P 柄入り樹脂板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂板の内部に昇華性染料が浸透した柄層を有する柄入り樹脂板であって、上記柄層は互いに異なる色領域が隣接し、その境界部分が昇華性染料の熱拡散により混色して、隣接する色領域よりも暗色となっていることを特徴とする柄入り樹脂板。
【請求項2】
上記柄層の互いに隣接する色領域の一方が暖色であり、他方が寒色である請求項1に記載の柄入り樹脂板。
【請求項3】
上記樹脂板の内部に上記柄層を二層以上有する請求項1又は請求項2に記載の柄入り樹脂板。
【請求項4】
上記樹脂板がセルロース系樹脂板である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の柄入り樹脂板。
【請求項5】
昇華性染料が浸透した互いに異なる色領域が隣接する柄層を樹脂シートの片面側に備えた柄シートを作成し、この柄シートと樹脂プレートを積層して熱圧着する際に、柄層の互いに異なる色領域の境界部分で昇華性染料を熱拡散させて混色させることを特徴とする柄入り樹脂板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−1952(P2006−1952A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−176399(P2004−176399)
【出願日】平成16年6月15日(2004.6.15)
【出願人】(000108719)タキロン株式会社 (421)
【Fターム(参考)】