説明

柱の耐震補強構造及び耐震補強方法

【課題】柱の一部が地盤内に埋設され、柱の周囲の土砂をすべて除去できない場合であっても、柱の耐震補強が可能な耐震補強構造及びその施工方法を提供する。
【解決手段】高架橋2の耐震補強構造1は、道路5側の各柱3の道路側側面3aに、長手方向(すなわち上下方向)に沿って所定の範囲に設けられた第一の補強部材4と、この第一の補強部材4よりも上方で、第一の補強部材4の設けられていない部位3eの柱3の外周を囲うように巻立てられた第二の補強部材6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高架橋等の柱の耐震補強構造及びその施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道橋や道路橋として使用されている高架橋の柱の耐震補強工法として、柱を鋼板や鉄筋等で巻回する巻立工法が採用されている。
【0003】
この工法は、柱の全周に鋼板等の巻立てを行うため、柱の周りに障害物が無い場合には容易に施工可能である。また、柱の一部が地盤に埋まっていても、例えば、特許文献1に示すように、土留め壁で土留めを行いながら周囲の土砂を除去して隙間を形成し、その隙間を利用して鋼板等の巻立てを行うことにより施工が可能である。
【特許文献1】特開平10−88524号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、土留めを行っても柱の周囲の土砂を除去する際に地盤変状が生じてしまう。このため、わずかな地盤変状も許容できない電車の軌道や構造物が周囲に存在する場合には、柱の周囲の土砂を除去できないので、耐震補強工事を実施することができないという問題点が有った。
【0005】
そこで、本発明は、上記のような従来の問題に鑑みなされたものであって、柱の一部が地盤内に埋設され、柱の周囲の土砂をすべて除去できない場合であっても、柱の耐震補強が可能な耐震補強構造及びその施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明の柱の耐震補強構造は、柱の外周面の一部に接するように、長手方向に沿って所定の範囲に設けられ、一端は、前記長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに当該長手方向周りの回転ができないように第一の拘束手段により前記柱に拘束され、他端は、前記長手方向への移動は可能で、かつ、前記直交方向への移動及び前記長手方向周りの回転はできないように第二の拘束手段により前記柱に拘束された第一の補強部材と、前記第一の補強部材が接するように設けられた前記所定の範囲以外の前記柱の外周面に巻立てられた第二の補強部材とを備えていることを特徴とする(第1の発明)。
【0007】
本発明による柱の耐震補強構造によれば、第一の補強部材を柱の外周面の一部に接するように設けたことにより、地震時に柱に作用するせん断力の一部をこの第一の補強部材が負担するので、柱に作用するせん断力を低減することができる。したがって、柱の変形性能を高めることができる。
【0008】
また、第一の補強部材の一端を長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに当該長手方向周りの回転ができないように柱に拘束し、さらに、他端を長手方向への移動は可能で、かつ、前記直交方向への移動及び前記長手方向周りの回転はできないように柱に拘束するので、柱に生じる塑性ヒンジ位置を第一の補強部材の端面付近に移動させることができる。すなわち、この第一の補強部材の取り付け場所を調整することにより、この塑性ヒンジ位置を補強作業のし易い位置に移動させることができる。例えば、柱の下部が地盤内に埋設し、柱の周りの土砂をすべて除去できないような場合でも、柱の側面の一部を露出し、第一の補強部材の一端を地表面よりも上に、他端を柱の下端に取り付けることにより、塑性ヒンジ位置を地表面よりも上方に移動させることができる。そして、その塑性ヒンジ位置及び第一の補強部材が接するように設けられた所定の範囲以外の柱の外周面に第二の補強部材を巻立てることにより、柱全体のせん断耐力を向上させることができる。また、地表面よりも上方の塑性ヒンジ位置を第二の補強部材で確実に補強できるので、柱の安全性が向上する。
【0009】
さらに、塑性ヒンジ位置が柱の下端から第一の補強部材の上端付近に移動することにより、高架橋等全体の水平耐力(降伏荷重)が向上するので、高架橋に必要とされる変形性能を低減させることができる。
【0010】
また、柱に第一の補強部材及び第二の補強部材を取り付けて補強を行うので、アンカーボルト等のボルトを埋め込むための孔を削孔する必要が無い。すなわち、孔を削孔する際に、柱内の鉄筋等を切断することが無い。
【0011】
本発明の柱の耐震補強構造は、柱の外周面の一部に接するように、長手方向に沿って所定の範囲に設けられ、一端は、前記長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに当該長手方向周りの回転ができないように地盤内に埋設され、他端は、前記長手方向への移動は可能で、かつ、前記直交方向への移動及び前記長手方向周りの回転はできないように第一の拘束手段により前記柱に拘束された第一の補強部材と、前記第一の補強部材が接するように設けられた前記所定の範囲以外の前記柱の外周面に巻立てられた第二の補強部材とを備えていることを特徴とする。
【0012】
本発明による柱の耐震補強構造によれば、第一の補強部材を柱の外周面の一部に接するように設けたことにより、地震時に柱に作用するせん断力の一部をこの第一の補強部材が負担するので、柱に作用するせん断力を低減することができる。したがって、柱の変形性能を高めることができる。
【0013】
また、第一の補強部材の一端を長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに当該長手方向周りの回転ができないように地盤に埋設し、さらに、他端を長手方向への移動は可能で、かつ、前記直交方向への移動及び前記長手方向周りの回転はできないように柱に拘束するので、柱に生じる塑性ヒンジ位置を第一の補強部材の端面付近に移動させることができる。すなわち、この第一の補強部材の取り付け場所を調整することにより、この塑性ヒンジ位置を補強作業のし易い位置に移動させることができる。例えば、柱の下部が地盤内に埋設し、柱の周りの土砂をすべて除去できないような場合でも、柱の側面の一部を露出し、第一の補強部材の他端を地表面よりも上に取り付け、一端を地盤内に打設することにより、塑性ヒンジ位置を地表面よりも上方に移動させることができる。そして、その塑性ヒンジ位置及び第一の補強部材が接するように設けられた所定の範囲以外の柱の外周面に第二の補強部材を巻立てることにより、柱全体のせん断耐力を向上させることができる。また、地表面よりも上方の塑性ヒンジ位置を第二の補強部材で確実に補強できるので、柱の安全性が向上する。
【0014】
さらに、塑性ヒンジ位置が柱の下端から第一の補強部材の上端付近に移動することにより、高架橋等全体の水平耐力(降伏荷重)が向上するので、高架橋に必要とされる変形性能を低減させることができる。
【0015】
また、柱に第一の補強部材及び第二の補強部材を取り付けて補強を行うので、アンカーボルト等のボルトを埋め込むための孔を削孔する必要が無い。すなわち、孔を削孔する際に、柱内の鉄筋等を切断することが無い。
【0016】
そして、第一の補強部材の他端は地盤内に埋設されるので、他端を柱に取り付ける手間及び装置が不要となる。さらに、第一の補強部材の他端は、打設により地盤内に埋設されるので、容易に施工することができる。
【0017】
本発明において、前記柱の下端部は、根巻きコンクリートで囲まれていることとしてもよい。
【0018】
本発明による柱の耐震補強構造によれば、柱が根巻きコンクリートから離間する方向に傾く場合には、根巻きコンクリートの下端が柱の下端を支持し、柱が根巻きコンクリートに近接する方向に傾く場合には、根巻きコンクリートの上端が柱の下部を支持するので、柱は倒れにくくなる。
【0019】
本発明の柱の耐震補強方法は、柱の外周面の一部に接するように、長手方向に沿って所定の範囲に第一の補強部材を配置する配置工程と、前記第一の補強部材の一端を、前記長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに当該長手方向周りの回転ができないように第一の拘束手段により前記柱に拘束する第一の拘束工程と、前記第一の補強部材の他端を、前記長手方向への移動は可能で、かつ、前記直交方向への移動及び前記長手方向周りの回転はできないように第二の拘束手段により前記柱に拘束する第二の拘束工程と、前記第一の補強部材が接するように設けられた前記所定の範囲以外の前記柱の外周面に第二の補強部材を巻立てる巻立て工程とを備えることを特徴とする。
【0020】
本発明の柱の耐震補強方法は、柱の外周面の一部に接するように、長手方向に沿って所定の範囲に第一の補強部材を配置する配置工程と、前記第一の補強部材の一端を、前記長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに当該長手方向周りの回転ができないように地盤内に埋設する埋設工程と、前記第一の補強部材の他端を、前記長手方向への移動は可能で、かつ、前記直交方向への移動及び前記長手方向周りの回転はできないように第一の拘束手段により前記柱に拘束する第一の拘束工程と、前記第一の補強部材が接するように設けられた前記所定の範囲以外の前記柱の外周面に第二の補強部材を巻立てる巻立て工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の柱の耐震補強構造及びその施工方法を用いることにより、既存の柱の周囲の障害物をすべて除去すること無く、その柱を耐震補強することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
【0023】
図1は、本発明の第一実施形態に係る耐震補強構造1を備えた高架橋2を示す図である。また、図2は、図1の道路側の柱3の下部を拡大した斜視図である。
図1及び図2に示すように、高架橋2の片側(図1の左側)は、車や人が通行する道路5であり、高架橋2の真下及び道路5の反対側(図1の右側)は、盛土8上に軌道9が敷設されていて、電車10が走行する。
【0024】
道路5側の柱3の建っている位置には、盛土8の傾斜による法面8aが形成されていて、柱3の下部の背面3c及び橋軸方向側面3bの一部はこの盛土8内に埋もれている。
【0025】
高架橋2の耐震補強構造1は、道路5側の各柱3の道路側側面3aに、長手方向(すなわち上下方向)に沿って所定の範囲に設けられた第一の補強部材4と、この第一の補強部材4よりも上方で、第一の補強部材4の設けられていない部位3eの柱3の外周を囲うように巻立てられた第二の補強部材6とを備えている。本実施形態においては、この所定の範囲は、盛土表面8bの直上から柱3の下端までとした。
【0026】
第一の補強部材4の上端は第一の拘束手段11にて柱3の盛土表面8bの直上に拘束され、下端は第二の拘束手段16にて柱3の下端に拘束されている。
第一の補強部材4として、本実施形態においては、複数の角形鋼管を用いた。
【0027】
図3は、図1のA−A矢視図で、第一の補強部材4の上端を第一の拘束手段11で柱3に拘束した状態を示す図である。
図3に示すように、第一の拘束手段11は、柱3の外周を囲うとともに、複数の第一の補強部材4を挟み込む形状の接続用鋼板12と、複数の第一の補強部材4を接続用鋼板12に固定するための締結具13とを備えている。
【0028】
接続用鋼板12は、柱3の周りに設置され、接続用鋼板12同士を溶接で接続することにより、柱3に取り付けられる。また、柱3と接続用鋼板12との間には、モルタル等の硬化材14が充填されていて、接続用鋼板12は柱3に固定されている。
【0029】
締結具13は、ネジ13aとナット13bであり、接続用鋼板12に挟まれた複数の第一の補強部材4は、ナット13bを締め付けることにより、接続用鋼板12に固定される。したがって、第一の補強部材4の上端の長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに長手方向周りの回転が拘束される。そして、第一の補強部材4の上端は、接続用鋼板12にて柱3の盛土表面8bの直上に固定されている。
【0030】
なお、上述した第一の補強部材4の長手方向への移動及び直交方向への移動並びに長手方向周りの回転が拘束されている箇所を、以下の説明では、連結部15という。
【0031】
図4は、図1のB−B断面図で、第一の補強部材4の下端を第二の拘束手段16で柱3に拘束した状態を示す図である。
図4に示すように、第二の拘束手段16は、複数の第一の補強部材4を囲うとともに、柱3の下端部を挟み込む形状の接続用鋼板17と、接続用鋼板17を固定するためのコンクリート部18と、その型枠となる鋼枠19とを備えている。
【0032】
接続用鋼板17は、第一の補強部材4を囲うとともに、橋軸方向側面3bに接するように設置され、接続用鋼板17同士を溶接で接続することにより、柱3に取り付けられる。柱3と接続用鋼板17との間には、モルタル等の硬化材14が充填されており、接続用鋼板17は柱3に固定されている。
【0033】
なお、第一の補強部材4は、接続用鋼板17に囲まれているものの、接続用鋼板17には固定されていない。
【0034】
第一の補強部材4を取り付ける前は、柱3の下部は、盛土8内に埋まっていたが、このままでは、第一の補強部材4を取り付けることができない。そこで、柱3の耐震補強を行うにあたっては、まず、柱3の道路5側の盛土8を除去して、道路側側面3aを露出させる。次に、接続用鋼板17を柱3に取り付けるために、電車10の走行に影響を与えない範囲で、柱3の橋軸方向側面3b近傍の土砂をわずかに除去し、橋軸方向側面3bを露出させる。なお、安全上の問題から、柱3の下部の背面3c側の盛土8は全く除去していないので、柱3の背面3cは盛土8に接した状態に保持される。
【0035】
なお、接続用鋼板17は、柱3の道路側側面3a及び橋軸方向側面3bに接するように設けられているが、背面3c側には設けられていないので、接続用鋼板17が柱3から外れる可能性が有る。そこで、接続用鋼板17に取り付けられた略コの字状の鋼枠19と、その中に打設して形成されたコンクリート部18とが設けられ、接続用鋼板17が水平方向に移動しないように固定されている。
【0036】
また、第一の補強部材4内の下端部にも、コンクリート部20が形成されていて、コンクリート部20と第一の補強部材4とは一体化している。この第一の補強部材4内の下端部には、棒状の鉄筋22が長手方向に沿って配筋されているが、すべて長手方向に沿って配筋され、直交方向には配筋されていない。また、鉄筋22の表面は、凹凸が無く、滑らかなので、コンクリート部20と鉄筋22との間に生じる摩擦抵抗は小さく、コンクリート部20は長手方向に移動可能となる。したがって、コンクリート部20と一体化している第一の補強部材4は、長手方向に移動可能である。
【0037】
さらに、接続用鋼板17と接する第一の補強部材4の外周面には、接続用鋼板17との摩擦抵抗を少なくするため、グリス等の潤滑剤が塗布されている。
【0038】
第一の補強部材4は、接続用鋼板17に囲まれているので、第一の補強部材4の直交方向への移動及び長手方向周りの回転が拘束されている。一方、接続用鋼板17に固定されておらず、第一の補強部材4の長手方向への移動を拘束するための手段が無いので、第一の補強部材4の下端は、長手方向への移動が可能である。
【0039】
なお、供述した第一の補強部材4の長手方向への移動は可能であるものの、直交方向への移動及び長手方向周りの回転が拘束されている箇所を、以下の説明では、接合部23という。
【0040】
接合部23の道路5側及び橋軸方向側の外方には、根巻きコンクリート24が設けられている。地震等の水平荷重が高架橋2に作用して、柱3が盛土8側に傾く場合には、根巻きコンクリート24の下端が柱3の下端を支持し、柱3が道路5側に傾く場合には、根巻きコンクリート24の上端が柱3の下部を支持するので、柱3は倒れにくくなる。
【0041】
再び、図1に示すように、第一の補強部材4が設けられていない盛土表面8bの直上から柱3の上端までの柱3の外周には、その周りを囲うように第二の補強部材6の鋼板が巻立てられている。鋼板と柱3との間には、モルタル等の硬化材14が充填されており、鋼板は柱3に固定されている。
【0042】
なお、本実施形態においては、第二の補強部材6として鋼板を用いて柱3の外周を囲う方法を用いたが、これに限定されるものではなく、例えば、鉄筋22をスパイラル状に配筋して柱3の外周を囲ってもよい。
【0043】
次に、第一の補強部材4を柱3に取り付けたときの効果について説明する。
図5及び図6は、柱3に作用する曲げモーメント分布図であり、それぞれ第一の補強部材4を取り付ける前の分布図、第一の補強部材4を取り付けた後の分布図である。
図5に示すように、地震等による水平荷重Fが第一の補強部材4を取り付ける前の柱3の上端に作用すると、柱3の上端から下端までの間に一定の勾配を有する曲げモーメントMが生じる。このとき柱3に作用するせん断力は、曲げモーメントMの勾配で表され、柱3の両端で最も大きく、中心付近では小さくなる。かかる状態では、塑性ヒンジ25は柱3の下端に存在する。
【0044】
一方、図6に示すように、上述した第一の補強部材4を取り付けた柱3の上端に水平荷重Fが作用すると、連結部15から柱3の下端までの区間(つまり、第一の補強部材4が取り付けられた区間)では、第一の補強部材4の曲げ剛性が柱3よりも十分に大きいので、第一の補強部材4がせん断力を負担し、曲げモーメントMは一定の値(勾配が無い)となる。すなわち、柱3の連結部15(本実施形態においては、盛土表面8bの直上付近)から接合部23(本実施形態においては、柱3の下端)までの区間にはせん断力が作用しない。したがって、第一の補強部材4を取り付けることにより、連結部15から接合部23まで(本実施形態においては、盛土表面8bの直上から柱3の下端まで)に作用するせん断力を低減することができる。
【0045】
ここで、接合部23で第一の補強部材4の長手方向への移動を可能とした理由について述べる。
接合部23で第一の補強部材4の長手方向への移動を拘束して、第一の補強部材4を柱3に完全に固定すると、水平荷重Fが作用した際に第一の補強部材4は柱3とともに引張力を受けて伸張するため、第一の補強部材4の剛性が低下し、第一の補強部材4のせん断耐力が低下してしまう。しかし、接合部23で第一の補強部材4の長手方向への移動を可能にすると、水平荷重Fが作用しても第一の補強部材4は引張力を負担しないので、第一の補強部材4のせん断耐力は低下しない。そこで、第一の補強部材4のせん断力の低下を防止するために、接合部23で第一の補強部材4の長手方向への移動を可能としたものである。
【0046】
一方、連結部15から柱3の上端までの区間には、一定の勾配を有する曲げモーメントMが生じ、この勾配は、第一の補強部材4を取り付ける前の柱3に作用する曲げモーメントMの勾配よりも大きくなる。すなわち、連結部15(本実施形態においては、盛土表面8bの直上付近)から柱3の上端までの区間には、第一の補強部材4を取り付ける前よりも大きなせん断力が作用する。したがって、連結部15(本実施形態においては、盛土表面8bの直上付近)から柱3の上端までの区間には、柱3の外周を囲うように第二の補強部材6を巻立てることにより、この区間のせん断耐力を増加させて補強する。
【0047】
次に、第一の補強部材4を取り付けた柱3に作用するせん断力について検討した結果を説明する。
図7は、柱3の上端に作用した水平荷重Fによって生じるせん断力SHと、盛土表面8bの直上から柱3の下端までの区間のうち、ある特定の区間の変位との関係を示す図である。図8は、図7の状態における柱3の変形を示す図である。本実施形態においては、例えば、高さ4.925〜5mまでの区間の変位について検討したが、これに限定されるものではない。
【0048】
図7に示すように、柱3の上端に作用した水平荷重Fによって生じるせん断力SHのうち、ほとんどを第一の補強部材4が負担する(図7のCFT)ので、柱3に作用するせん断力(図7のRC)を低減することができる。そして、柱3に作用するせん断力(図7のRC)を低減させることにより、せん断余裕度(耐震補強前のせん断耐力を実際に作用するせん断力で除した値)が増加するので、変形性能を向上させることができる。
【0049】
また、第一の補強部材4を柱3に取り付けた場合には、図8に示すように、柱3の塑性ヒンジ25位置が連結部15(本実施形態においては、盛土表面8bの直上)の上端に存在する。柱3に第一の補強部材4を取り付けることにより、塑性ヒンジ25位置を柱3の下端(図5参照)から盛土表面8bの直上に移動させることができる。
【0050】
柱3の上端から盛土表面8bの直上までの区間のせん断力は、上述したように(図6参照)、増加するので、この区間には、第二の補強部材6である鋼板の巻立て補強を行う。この区間は、盛土表面8bよりも上方に存在しているので、容易に補強することができる。
【0051】
これらの耐震補強によって、柱3のせん断耐力が高まると、高架橋2全体の水平耐力が高まるので、高架橋2に要求される変形性能も少なくなる。
【0052】
以上説明したように、本実施形態に係る柱3の耐震補強構造1によれば、第一の補強部材4を柱3の道路側側面3aの一部に接するように設けたことにより、地震時に柱3に作用するせん断力の一部をこの第一の補強部材4が負担するので、柱3に作用するせん断力を低減することができる。したがって、柱3の変形性能を高めることができる。
【0053】
また、第一の補強部材4の一端を長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに当該長手方向周りの回転ができないように柱3に拘束し、さらに、他端を長手方向への移動は可能で、かつ、直交方向への移動及び前記長手方向周りの回転はできないように柱に拘束するので、柱3に生じる塑性ヒンジ25位置を第一の補強部材4の上端面付近に移動させることができる。すなわち、この第一の補強部材4の取り付け場所を調整することにより、この塑性ヒンジ25位置を補強作業のし易い位置に移動させることができる。柱3の下部が盛土8内に埋設し、柱3の周りの土砂をすべて除去できないような場合でも、柱3の道路側側面3aを露出し、第一の補強部材4の一端を盛土表面8bよりも上に、他端を柱3の下端に取り付けることにより、塑性ヒンジ25位置を盛土表面8bよりも上方に移動させることができる。そして、その塑性ヒンジ25位置及び第一の補強部材4よりも上方で、第一の補強部材4の取り付けられていない部位3eに第二の補強部材6を巻立てることにより、柱3全体のせん断耐力を向上させることができる。また、盛土表面8bよりも上方の塑性ヒンジ25位置を第二の補強部材6にて確実に補強できるので、柱3の安全性が向上する。
【0054】
さらに、塑性ヒンジ25位置が柱3の下端から第一の補強部材4の上端付近に移動することにより、高架橋2全体の水平耐力(降伏荷重)が向上するので、高架橋2に必要とされる変形性能を低減させることができる。
【0055】
また、柱3に第一の補強部材4及び第二の補強部材6を巻立てて補強を行うので、アンカーボルト等のボルトを埋め込むための孔を削孔する必要が無い。すなわち、孔を削孔する際に、柱3内の鉄筋22等を切断することが無い。
柱3の周囲の一部に根巻きコンクリート24が設けられているので、柱3は倒れにくくなる。
【0056】
次に、本発明の第二実施形態について説明する。第二実施形態の耐震補強構造21は、接合部23を柱3の途中に、連結部15を柱3の下端に設けたものである。以下の説明において、上記の実施形態に対応する部分には同一の符号を付して説明を省略し、主に相違点について説明する。
【0057】
図9は、本発明の第二実施形態に係る耐震補強構造21を示す図である。
図9に示すように、第二実施形態に係る耐震補強構造21は、接合部23を盛土表面8b(図示しない)の直上に設け、連結部15を柱3の下端に設けたものである。
【0058】
図10は、図9のC−C断面図で、第一の補強部材4の上端を第三の拘束手段26で柱3に拘束した状態を示す図である。また、図11は、第三の拘束手段26であるT字型鋼28を示す図である。
図10及び図11に示すように、第三の拘束手段26は、柱3の外周を囲う接続部用鋼板27と、その接続部用鋼板27に溶接等により取り付けられたT字型鋼28とを備えている。
柱3と接続部用鋼板27との間には、モルタル等の硬化材14が充填されており、接続部用鋼板27は柱3に固定されている。
【0059】
図12は、本実施形態に係る第一の補強部材4を示す図である。図12に示すように、本実施形態においては、第一の補強部材4として、T字型鋼28を挿通可能なスリット29を有する角形鋼管を用いた。
【0060】
再び、図10に示すように、本実施形態に係る第一の補強部材4は、第一の補強部材4のスリット29にT字型鋼28を挿入した状態で、接続部用鋼板27との間に隙間が生じないように係合されている。したがって、第一の補強部材4は、直交方向への移動並びに長手方向周りの回転が拘束されている。
一方、第一の補強部材4と接続部用鋼板27との間、及び第一の補強部材4の内周面とT字型鋼28のフランジ28aとの間にはグリス等の潤滑剤が塗布されていて、第一の補強部材4は、そのスリット29の範囲内で長手方向への移動が可能である。
【0061】
図13は、図9のD−D断面図で、第一の補強部材4の下端を第四の拘束手段32で柱3に拘束した状態を示す図である。
図13に示すように、第四の拘束手段32は、柱3と第一の補強部材4との間に形成された板状のグラウト部33と、このグラウト部33及び第一の補強部材4の周囲に形成された根巻きコンクリート24と、一端が第一の補強部材4の下端部に取り付けられ、本体部分は根巻きコンクリート24内に埋設するように設けられたジベル34とからなる。
【0062】
グラウト部33は、柱3と一体化するように形成され、その厚さは、第一の補強部材4が柱3と平行に設置されるように、適宜調整される。
【0063】
根巻きコンクリート24は、柱3の一部、グラウト部33及び第一の補強部材4を囲うように設けられている。したがって、グラウト部33と根巻きコンクリート24との間に挟まれている第一の補強部材4は、第一の補強部材4の直交方向への移動及び長手方向周りの回転が拘束されている。
【0064】
ジベル34の一端は、各第一の補強部材4の下端部に溶接等により取り付けられている。そして、このジベル34の本体部分は、根巻きコンクリート24内に埋設されているので、第一の補強部材4は、第一の補強部材4の長手方向への移動も拘束されている。
【0065】
なお、図示しないが、柱3の上端から盛土表面8bの直上までは、第一実施形態と同様に、第二の補強部材6である鋼板が巻立てられている。
【0066】
以上説明した接合部23を盛土表面8bの直上に、連結部15を柱3の下端に設けた本実施形態に係る耐震補強構造21によれば、第一実施形態と同様に、柱3の塑性ヒンジ25位置を柱3の下端(図5参照)から接合部23の上端に移動させることができる。すなわち、この第一の補強部材4の取り付け場所を調整することにより、この塑性ヒンジ25位置を補強作業のし易い位置に移動させることができる。そして、その塑性ヒンジ25位置、及び第一の補強部材4の取り付けられていない部位3eに第二の補強部材6を巻立てることにより、柱3全体のせん断耐力を向上させることができる。
【0067】
なお、上述した第一及び第二実施形態において、第一の補強部材4として、角形鋼管を用いたが、これに限定されるものではなく、鋼材等の剛性の高い部材であればよい。
【0068】
次に、本発明の第三実施形態について説明する。第三実施形態は、第二実施形態の第一の補強部材35として杭を用いたものである。
【0069】
図14は、本発明の第三実施形態に係る耐震補強構造31を示す図である。
図14に示すように、第三実施形態に係る耐震補強構造31は、第一の補強部材35として杭を用い、接合部23を柱3の盛土表面8b(図示しない)の直上に設け、連結部15を柱3の下端付近に設けたものである。
【0070】
図15は、図14のE−E断面図で、第一の補強部材35の上端を第五の拘束手段36で柱3に拘束した状態を示す図である。
図15に示すように、第五の拘束手段36は、柱3の外周を囲う柱用鋼板30と、第一の補強部材35を支持するための支持部37と、支持部37と柱用鋼板30とを接続するための延長鋼板38とを備えている。
【0071】
柱3と柱用鋼板30との間には、モルタル等の硬化材14が充填されており、柱用鋼板30は柱3に固定されている。
【0072】
支持部37は、複数の第一の補強部材35を囲うように設けられた鋼枠39内にコンクリートを充填して形成されるコンクリート部41を備えている。
【0073】
延長鋼板38の両端は、それぞれ柱用鋼板30、鋼枠39が溶接等により取り付けられている。また、延長鋼板38の片端には、ジベル34が接続されている。そして、ジベル34の本体はコンクリート部41内に埋設するように設けられているので、柱用鋼板30と延長鋼板38と支持部37とは一体化され、支持部37は柱3に固定された状態となる。
【0074】
図16は、図15のF−F断面図で、第一の補強部材35とコンクリート部41とが接する部分を拡大した図である。
図16に示すように、支持部37のコンクリート部41は、第一の補強部材35の外周面に接しているので、第一の補強部材35の上端は、直交方向への移動並びに長手方向周りの回転が拘束されている。
一方、第一の補強部材35の外周面には、グリス等の潤滑剤が塗布されており、第一の補強部材35の上端は長手方向への移動が可能である。
【0075】
再び、図14に示すように、第一の補強部材35の下端は、その先端が基礎となる支持層40に到達するまで地盤E内に打設される。第一の補強部材35の下端部は地盤E内に埋設しているので、第一の補強部材35の下端は、長手方向及び水平方向への移動並びに長手方向周りの回転が拘束される。
【0076】
以上説明したように、本実施形態に係る耐震補強構造31によれば、第一の補強部材35の下端は地盤Eに埋設されるので、第一の補強部材35の下端を柱3に取り付ける手間及び装置が不要となる。さらに、第一の補強部材35は、打設により地盤E内に埋設されるので、容易に耐震補強を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の第一実施形態に係る耐震補強構造を備えた高架橋を示す図である。
【図2】図1の道路側の柱の下部を拡大した斜視図である。
【図3】図1のA−A矢視図で、第一の補強部材の上端を第一の拘束手段で柱に拘束した状態を示す図である。
【図4】図1のB−B断面図で、第一の補強部材の下端を第二の拘束手段で柱に拘束した状態を示す図である。
【図5】第一の補強部材を取り付ける前の柱に作用する曲げモーメント分布図である。
【図6】第一の補強部材を取り付けた後の柱に作用する曲げモーメント分布図である。
【図7】、柱の上端に作用した水平荷重によって生じるせん断力と、盛土表面の直上から柱の下端までの区間のうち、ある特定の区間の変位との関係を示す図である。
【図8】図7の状態における柱の変形を示す図である。
【図9】本発明の第二実施形態に係る耐震補強構造を示す図である。
【図10】図9のC−C断面図で、第一の補強部材の上端を第三の拘束手段で柱に拘束した状態を示す図である。
【図11】第三の拘束手段であるT字型鋼を示す図である。
【図12】本実施形態に係る第一の補強部材を示す図である。
【図13】図9のD−D断面図で、第一の補強部材の下端を第四の拘束手段で柱に拘束した状態を示す図である。
【図14】本発明の第三実施形態に係る耐震補強構造を示す図である。
【図15】図14のE−E断面図で、第一の補強部材の上端を第五の拘束手段で柱に拘束した状態を示す図である。
【図16】図15のF−F断面図で、第一の補強部材とコンクリート部とが接する部分を拡大した図である。
【符号の説明】
【0078】
1 耐震補強構造 2 高架橋
3 道路側の柱 3a 道路側側面
3b 橋軸方向側面 3c 背面
3d 第一の補強部材の設けられている部位
3e 第一の補強部材の設けられていない部位
4 第一の補強部材 5 道路
6 第二の補強部材 8 盛土
8a 法面 8b 表面
9 軌道 10 電車
11 第一の拘束手段 12 接続用鋼板
13 締結具 13a ネジ
13b ナット 14 硬化材
15 連結部 16 第二の拘束手段
17 接続用鋼板 18 コンクリート部
19 鋼枠 20 コンクリート部
21 耐震補強構造 22 鉄筋
23 接合部 24 根巻きコンクリート
25 塑性ヒンジ 26 第三の拘束手段
27 接続部用鋼板 28 T字型鋼
28a フランジ 29 スリット
30 柱用鋼板 31 耐震補強構造
32 第四の拘束手段 33 グラウト部
34 ジベル 35 第一の補強部材
36 第五の拘束手段 37 支持部
38 延長鋼板 39 鋼枠
40 支持層 41 コンクリート部
E 地盤 F 水平荷重
SH せん断力 CFT 角形鋼管が負担するせん断力
RC 柱が負担するせん断力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱の耐震補強構造であって、
柱の外周面の一部に接するように、長手方向に沿って所定の範囲に設けられ、一端は、前記長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに当該長手方向周りの回転ができないように第一の拘束手段により前記柱に拘束され、他端は、前記長手方向への移動は可能で、かつ、前記直交方向への移動及び前記長手方向周りの回転はできないように第二の拘束手段により前記柱に拘束された第一の補強部材と、
前記第一の補強部材が接するように設けられた前記所定の範囲以外の前記柱の外周面に巻立てられた第二の補強部材とを備えていることを特徴とする柱の耐震補強構造。
【請求項2】
柱の耐震補強構造であって、
柱の外周面の一部に接するように、長手方向に沿って所定の範囲に設けられ、一端は、前記長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに当該長手方向周りの回転ができないように地盤内に埋設され、他端は、前記長手方向への移動は可能で、かつ、前記直交方向への移動及び前記長手方向周りの回転はできないように第一の拘束手段により前記柱に拘束された第一の補強部材と、
前記第一の補強部材が接するように設けられた前記所定の範囲以外の前記柱の外周面に巻立てられた第二の補強部材とを備えていることを特徴とする柱の耐震補強構造。
【請求項3】
前記柱の下端部は、根巻きコンクリートで囲まれていることを特徴とする請求項1又は2に記載の柱の耐震補強構造。
【請求項4】
柱の耐震補強方法において、
柱の外周面の一部に接するように、長手方向に沿って所定の範囲に第一の補強部材を配置する配置工程と、
前記第一の補強部材の一端を、前記長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに当該長手方向周りの回転ができないように第一の拘束手段により前記柱に拘束する第一の拘束工程と、
前記第一の補強部材の他端を、前記長手方向への移動は可能で、かつ、前記直交方向への移動及び前記長手方向周りの回転はできないように第二の拘束手段により前記柱に拘束する第二の拘束工程と、
前記第一の補強部材が接するように設けられた前記所定の範囲以外の前記柱の外周面に第二の補強部材を巻立てる巻立て工程とを備えることを特徴とする柱の耐震補強方法。
【請求項5】
柱の耐震補強方法において、
柱の外周面の一部に接するように、長手方向に沿って所定の範囲に第一の補強部材を配置する配置工程と、
前記第一の補強部材の一端を、前記長手方向への移動及びその長手方向に対する直交方向への移動並びに当該長手方向周りの回転ができないように地盤内に埋設する埋設工程と、
前記第一の補強部材の他端を、前記長手方向への移動は可能で、かつ、前記直交方向への移動及び前記長手方向周りの回転はできないように第一の拘束手段により前記柱に拘束する第一の拘束工程と、
前記第一の補強部材が接するように設けられた前記所定の範囲以外の前記柱の外周面に第二の補強部材を巻立てる巻立て工程とを備えることを特徴とする柱の耐震補強方法。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図2】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−77656(P2010−77656A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246471(P2008−246471)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000000549)株式会社大林組 (1,758)
【Fターム(参考)】