説明

栄養添加剤用の液体培養物

【課題】水産副産物を利用して栄養価の高い培養物の提供
【解決手段】本発明の液体培養物は、魚骨を主要成分として含有する水産副産物が添加され、糖分と窒素分を富化されてなる混合培地を使用して、培地表層に存在する酵母とともに存在する乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢を培養し、培養液のpHを4.0以下に
せしめるとともに該魚骨を分解・溶解せしめて得られる栄養添加剤用の液体培養物である。本発明の栄養添加剤用の液体培養物は、飼料用添加剤として、あるいは肥料もしくは植物活力剤として使用されることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は栄養添加剤用の液体培養物に関し、詳しくは飼料添加剤および肥料・植物活力剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、われわれの健康維持のためにミネラルの供給の必要性が指摘されており、実際、多くのサプリメントが開発されている。ミネラルのうち、特に可溶性石灰由来のカルシウムを用いて強化し、高濃度でも沈殿しない液体肥料の開発(特許文献1)が知られている。ところがミネラルは不足しても取りすぎても身体に害を及ぼし、その至適摂取量の範囲は狭いため、供給の仕方は難しく、天然の水や食物を介してバランスよく摂取することが最も理に適っている。特に、バナジウム、ニッケル、モリブデン、ゲルマニウム、マンガン、亜鉛などの微量ミネラルの適切な摂取法が望まれる(非特許文献1)。しかし、管理された工程で効率を重視した生産のために、食品中に含まれるミネラル含量は、必ずしも充分ではない。また、生産活動の活発化のために土壌や水自体におけるミネラル分の含有量が低下して地上の生物はミネラル成分が不足気味であること、その多くは海水に流れ込んでしまっていることが指摘されている。したがって、われわれの食物となる家畜や野菜・果物もミネラル不足の場合が多く、ミネラルを中心とした栄養成分を適切に補給すれば、さらに成長も促進され、疾病にも強くなると考えられる。その結果、それらを食物として摂取したヒトにもバランスよいミネラルを供給できることも期待される。
【0003】
地中のミネラルの多くは海や湖沼に流れ込んでおり、そこで生育する海産・水産物やその海産・水産副産物、および海藻類にはミネラル分がバランスよく豊富に含まれ、栄養成分やビタミンも含まれているために、肥料や飼料などの原料として有効であることは従来から知られていた(特許文献2)。しかし、それらの大部分は水分を含んでいるために腐敗しやすく、保存性がよくないために利用が限られるという問題があった。たとえば、実際に、魚の加工工程で生じる副産物を原料に、腐敗する前に脱水分離・乾燥してフィッシュ・ミールを得、それを有機肥料や飼料に用いているが、1kgのフィッシュ・ミールを生産するために0.1kgの石油を燃やしており、それに要するエネルギーコストや生産工程で発する二酸化炭素の問題は無視できない状況にある。
【0004】
一方、麹菌と酵母と乳酸菌が共存した系において、雑菌による腐敗が起きることなく、デンプンを糖化し、さらにアルコールや有機酸を生成することが清酒・味噌・醤油醸造で広く知られていた。この3種の微生物の役割についても明らかにされており、麹菌はデンプンをグルコースに変換する役割、酵母はグルコースをアルコールに変換する役割、乳酸菌は培地のpHを4〜6に下げ、雑菌の進入を防ぐ役割であることも知られていた(非特
許文献2)。
【0005】
また、乳酸、酢酸、酪酸、プロピオン酸などの有機酸を乳牛が摂取すると、有機酸は消化管から吸収され、乳腺を経て乳脂肪合成に関与することが知られていた。また、これらの有機酸やエチルアルコールは肥料や飼料の保存性を高めることも知られていた。さらに、酵母の細胞壁と乳酸菌を含む肥料・飼料用添加剤は家畜・魚類に対する飼料効率の向上、植物に対して成長促進効果が認められている(特許文献3,4)。
【0006】
しかしながら、魚骨を含む海産・水産副産物や海藻を培養すると、通常、雑菌が繁殖して腐敗臭が強く発することが知られていたが、酵母共存下で乳酸菌や好酸性菌とともに培養して培養液の水素イオン濃度をpH4.0以下にすると、腐敗に関与する腐敗菌の繁殖が
抑制され、腐敗臭の発生も抑えられることはこれまで知られていなかった。
【0007】
また、魚類の骨はミネラル供給源としてよい材料になることは知られていたが、酵母や乳酸菌などが共存する、pH4.0以下の培養液に懸濁すると軟化が進み、魚骨の分解とミ
ネラルの培養液中への溶解が効率的に進行することもこれまでは知られていなかった。
【特許文献1】特開2004-51434号公報
【特許文献2】特開2003-238324号公報
【特許文献3】特開平6-319468号公報
【特許文献4】特開2002-58432号公報
【非特許文献1】丸元淑生、丸元康生:最新ミネラル読本、新潮社、1992
【非特許文献2】別府輝彦、新・微生物学、97-98、IBS出版(東京)(2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者は、酵母共存下で乳酸菌や好酸性菌などを培養し、pH4.0以下とする培養において、魚骨を含む海産・水産副産物がその培地に加えられる添加物となり得てその資源化と有効利用の可能性があることを見出し、鋭意研究して本発明を完成した。
【0009】
本発明は、魚骨由来のバランスのよいミネラル成分を含み、さらに、栄養価が高く、ビタミン、ミネラルなどに富む酵母および免疫賦活力に優れた乳酸菌および/または腐敗に
強い好酸性菌を含み、さらに高濃度の水素イオン(pH4.0以下)、アルコールや有機酸を
含む、保存性の高い特性を有し、肥料・飼料添加剤および植物活力剤として有用である液体培養物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の栄養添加剤用の液体培養物は、魚骨を主要成分として含有する海産・水産副産物が添加され、糖分と窒素分を富化されてなる混合培地を使用して、培地表層に存在する酵母とともに存在する乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢(好ましくは培地表層を覆う酵母とともにその下に乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢)を培養し、培養液のpHを4.0以下にせしめるとともに該魚骨を分解・溶解せしめて得られる液体培養物である。
【0011】
前記酵母がSaccharomyces属、Candida属、Torulopsis属、Zygosaccharomy属、 Schizosaccharomyces属、Pichia属、またはHansenula属であり、前記乳酸菌がLactobacillus属、Bifidobacterium属、Lactococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、またはStreptococcus属であり、前記好酸性菌がThermoplasma属、Sulfolobus属であることが望ましい。特
に好ましい酵母は産膜酵母である。
【0012】
本発明の栄養添加剤用の液体培養物は、飼料用添加剤として、あるいは肥料もしくは植物活力剤として使用されることを特徴とする。
栄養添加剤用の液体培養物の製造方法であって、魚骨を主要成分として含有する海産・水産副産物が添加され、糖分と窒素分を富化されてなる混合培地を使用して、培地表層に存在する酵母とともに存在する乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢(好ましくは培地表層を覆う酵母とともにその下に乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢)を培養し、培養液のpHを4.0以下にせしめるとともに、該魚骨を分解・溶解せしめ、最終的に固形物を除去して得られることを特徴としている。
【0013】
上記混合培地は、酵母培養用または乳酸菌培養用の培地をベースとする天然培地であることが望ましい。培養液に対して上記水産副産物を5〜20%の割合、上記微生物叢を前培
養液として0.1〜40%の割合で添加されることが望ましい。
【0014】
上記液体培養物を含有する飼料用添加物、あるいは上記液体培養物を含有する肥料もしくは植物活力剤も本発明に含まれる。
本発明において微生物培養の際、酵母共存下での乳酸菌または好酸性菌の培養であることが望ましい。酵母の増殖によって培養液中の溶存酸素濃度を低下させて嫌気性の乳酸菌や好酸性菌の増殖に適した環境を作り出すこと、エタノール生成によって腐敗菌の侵入を抑えることなどがその理由である。また、魚骨を含む海産・水産副産物を添加・発酵せしめる際に、酵母共存下での乳酸菌もしくは好酸性菌の培養系は、酵母が存在しない培養系に比べて、発酵中の“生臭さ”も抑えられ、快適な生産環境が確保できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の栄養添加剤用の液体培養物は、液状品でありながら、室温でも腐敗しにくく、ミネラルを中心とする魚骨由来成分を豊富にバランスよく含み、栄養価に富み、消化吸収性および嗜好性に優れている。このため飼料または肥料への添加剤および植物活力剤としての用途がある。家畜・魚類などに用いると、飼料効率の向上、飼育期間の短縮、耐病性の向上などに有効である。さらに、植物などに適用した場合も品質と成長促進効果に優れ、収穫量の増大、品質向上、耐病性に有効である。
【0016】
上記栄養添加剤用の液体培養物を製造する本発明方法によれば、海産・水産副産物を、実質的に化石エネルギーと手間をほとんどかけずに液化して栄養価の高い液体培養物を製造でき、副産物を有効に利用し得る。
[発明の詳細な説明]
本発明の栄養添加剤用の液体培養物は、魚骨を主要成分として含有する海産・水産副産物が添加され、糖分と窒素分を富化されてなる混合培地を使用して、培地表層に存在する酵母とともに存在する乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢を培養し、培養液のpHを4.0以下にせしめるとともに該魚骨を分解・溶解せしめて得られる液体培養物である。
【0017】
炭素源として糖分(例えば廃糖蜜)および天然の窒素成分(例えば海産食品加工の煮汁など)を富化し、ならびに魚骨を主要成分とする海産・水産副産物を含有する天然培地を原料にして、酵母および乳酸菌および/または好酸性菌を含む微生物叢を培養して、培養
液をpH4.0以下にせしめると同時に魚骨を主要成分とする海産・水産副産物由来のミネ
ラルや栄養成分を分解・溶解せしめることを特徴とする栄養添加剤用の液体培養物である。栄養添加剤として具体的には、好ましくは肥料・飼料添加剤および植物活力剤の形態で提供される。
【0018】
前記魚骨として、あじ、さば、さんま、いわし、ぶり、ふぐ、あゆ、かつお、まぐろ、あまだい、たい、かれい、うなぎ、はまち、あこう、しろぎす、ひらめ、あなご、たちうお、さけ類、グレ、すずき、とらふぐ、ほっけ、かんぱち、まんぼう、しまあじ、いさき、鯛、かさご、かわはぎ、めんめ、こい、ブラックタイガー、およびふなの魚類から選ばれる少なくとも1種の魚の骨であることが好ましい。しかしながらこれらの例示に限定されるものではなく、広く魚類の骨が本発明に利用し得る。1種類の魚骨に限らず、複数種
類の魚骨の混合であってもかまわない。骨の種類、部位も問わない。
【0019】
また、海産・水産副産物は通常、海産副産物であることが多いが、淡水魚介類の副産物を排除しない(本明細書では、「海産・水産副産物」を単に「水産副産物」ということもある)。海産・水産副産物としては、その主要成分である魚骨とともに、タコ、イカ、コンブ、緑藻類、紅藻類、ラン藻類、貝類、および/または蛎に由来する副産物(廃棄物)
を含めるのがよい。さらに魚介類の内臓、ウロといった海産・水産副産物も含めてもよいが、この場合は腐敗防止、有害菌の増殖抑制のため、生鮮魚介類の解体時からできるだけ早めに使用することが望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の液体培養物を製造するために使用される混合培地は、糖分と窒素分を富化された天然培地に、魚骨を主要成分として含有する海産・水産副産物が添加された混合培地である。該天然培地は、酵母培養用または乳酸菌培養用の培地をベースとするのがよい。具体的には、糖蜜、麦芽エキス、魚貝類抽出エキス、脱脂粉乳などを少なくとも一つ以上含む培地が適当である。
【0021】
魚骨を主要成分とする海産・水産副産物とともに用いる糖質や窒素成分の原料は、栄養成分豊かなものであればよいが、特に糖分が糖蜜、黒糖蜜など、窒素分がホタテやサバなどの食品加工の煮汁といった、天然由来の加熱および非加熱副産物が適している。必要であれば尿素態窒素、アンモニア態窒素または硝酸態窒素の形態の塩を添加してもよい。これらの水懸濁液に通性嫌気性菌である酵母や乳酸菌や好酸性菌を含む微生物叢を添加して静置培養すると、発酵によって有機酸を生成して培養液のpHが4.0以下になる。一般的
に、中性〜アルカリ性に至適pHを持つ腐敗菌群や好気性のカビの進入は防がれ、酵母によるエタノールの生成、乳酸菌による乳酸などの有機酸の生成が進行し、液体でも保存性の高い培養液が得られる。酵母や乳酸菌は通性嫌気性菌のため、この際、緩やかに撹拌培養しても目的は達成できる。
【0022】
「培地表層に存在する酵母とともに存在する乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢」とは、酵母と共存する乳酸菌または好酸性菌の菌叢形態を規定するものである。培地の表面もしくは表層に存在する酵母が作り出す嫌気的条件のもとに乳酸菌または好酸性菌が共存して増殖するものであれば、その複合微生物叢の態様は特に限定されない。例えば酵母がまず増殖し、増殖した酵母が培地の表層を覆って酸性・嫌気性環境を作り出し、続いて該酵母の下で乳酸菌または好酸性菌が増殖してさらに酸性環境を作り出す態様がある。しかしながら、酵母共存下であれば乳酸菌または好酸性菌が同時に増殖しても構わない。浮遊酵母と共存する乳酸菌または好酸性菌が共に増殖する形態であってもよい。さらに酵母共存下であれば乳酸菌および好酸性菌がともに増殖してもよい。本発明の微生物叢は、培地の表面で生育する酵母がまず培地の表面を覆ってその下の培地を嫌気的な環境とし、該酵母の下で嫌気的な乳酸菌や好酸性菌が増殖してこれらを含む微生物叢が形成されることが望ましい。すなわち、培地表層を覆う酵母とともにその下に乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢の形態である。そうした酵母が存在しないと、発酵中の“生臭さ”も抑えられず、また魚骨の分解も速やかには進まない。
【0023】
微生物叢中の酵母および乳酸菌は、混合・培養液のpHが低下するに従い、優勢菌となるが、必要に応じて前培養液や菌体そのものを添加してもよい。なお、酵母は、培地表面に生育する産膜酵母が乳酸菌との共存という点で特に相性がよい。しかしながらそれに関わりなく本発明は実施可能であり、酵母の場合には、例えば、ビール酵母、清酒酵母、ワイン酵母、ウイスキー酵母、パン酵母などがある。また、さらにSaccharomyces属、Candida属、Torulopsis属、Zygosaccharomy属、Schizosaccharomyces属、Pichia属、またはHansenula属などが挙げられる。特に産膜酵母が好ましい酵母である。産膜酵母が培養液表面に皮膜を形成して、いわば培地に蓋をする態様で増殖すると、嫌気性の乳酸菌や好酸性菌の増殖に適した環境を作り出すからである。産膜酵母として、好ましくはSaccharomyces
属(Saccharomyces bayanusなど)、Torulopsis属(Torulaspora delbrueckiiなど), Pichia属(Pichia amomalaなど), Candida属, Zygosaccharomyces属, Schizosaccharomyces属,
Hansenula属などに属する産膜酵母である。これらを単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。
【0024】
また、乳酸菌についても、特に制限はなく、動物性乳酸菌、植物性乳酸菌、あるいは、ホモ型乳酸菌、ヘテロ型乳酸菌などがあり、例えば、人の善玉の乳酸菌であるラクトバチルス・アシドフィラス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・ブレーベ、エンテロ
コッカス・フェカリスなどがあげられる。また、発酵残渣中にみられるラクトバチルス・ファラギニスなども望ましい。さらに、Lactobacillus属、Bifidobacterium属、Lactococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、Streptococcus属などもあげられる。これらを単独で、あるいは適宜組み合わせて用いることができる。好酸性菌として、Thermoplasma属、Sulfolobus属などの菌が挙げられる。
【0025】
室温にて約3日〜3週間、静置あるいは必要に応じて緩やかに撹拌培養すると、エタノ
ールおよび有機酸が生成し、pHが低下する。培養液への微生物の添加は酵母および乳酸菌および/または好酸性菌を含む微生物叢の前培養液を0.1〜40%、好ましくは5〜20%の
割合で添加する。必要に応じて、酵母や乳酸菌を同時に添加してもよい。酵母の場合、泥状状態で0.1%〜1.5%、好ましくは0.5%〜1%の割合で添加、乳酸菌の場合は、001%〜0.5%、好ましくは0.05%〜0.2%の割合で添加し、20〜40℃で約3日〜3週間保持する。前記微生物叢の前培養液は少なくとも酵母および乳酸菌を含むことが望ましい。菌体を培養液に添加する場合も同様である。酵母および乳酸菌の他に必要に応じて好酸性菌も適宜含める。
【0026】
この工程によって、発酵が進み、pHは4.0以下に低下し、きわめて保存性の高い培養
・発酵液を得ることができる。また、必要に応じて、培養の始めから培地のpHを4.0以
下にして培養を開始せしめることもできる。したがって酵母および乳酸菌もしくは好酸性菌の共存からは、「培養液のpHを4.0以下にせしめる」のが都合よいが、必要であれば
特にpHを3.5以下にしてもよい。
【0027】
魚骨を主要成分とする海産・水産副産物における魚骨の含有量は、最終生成物である液体培養物中のカルシウム含有量を考慮して設定してもよい。例えば、魚骨は水産副産物全量の1〜50重量%、好ましくは10〜30重量%である。
【0028】
魚骨を主要成分とする海産・水産副産物の添加量は、培養・発酵液に対して、40%以下、好ましくは5%〜20%の割合で添加する。魚骨は、分解効率を高めるために粉砕などに
より小片化してもよいが、そのままの形態で投入してもよい。室温で保持し、目視によって、固形物が無くなった時期がほぼ分解・発酵の完了時期と考えると、通常、魚骨を主要成分とする水産副産物の添加後、通常は約3日〜3週間後には、分解・発酵が完了するが、魚骨や水産副産物の種類と量によってこの期間は変動する。培養液のpHが低下することにより、培養液中の魚骨などは容易に軟化し、含まれるミネラル成分が培養液中に溶解するとともに、いずれ魚骨は発酵の進捗に従い分解されて消滅する。このように本発明ではミネラル原料である魚骨を別個に溶解する必要がないという利点は大きい。また、魚骨などを含む水産副産物をこのように簡単に液化する技術は知られていなかったため、その意義は大きい。
【0029】
その他の、糖分やタンパク質などの生体成分は、酵母や乳酸菌を含む微生物叢によって分解・発酵を受ける。魚骨や水産副産物の種類と量によって、それらが完全に分解するまで時間がかかるかそれまで待てない場合には、培養物をろ過して未分解の魚骨や水産副産物その他の固形夾雑物を除去してもよい。
【0030】
微生物による主要生成物は、エタノールや有機酸である。一部、タンパク質・アミノ酸由来の窒素成分は腐敗臭の原因となるアンモニアやアミンに変換される場合もあるが、培養・発酵液のpHが低いために、これらの成分は蒸散することなく、腐敗臭は発しない。特に産膜酵母が培養液表面に蓋をしている場合には、これらの成分の蒸散が抑えられる。したがって、本発酵液はきわめて保存性の高い、品質の安定した培養・発酵液である。
【0031】
また、魚骨を主要成分とする海産・水産副産物の培養液への添加時期は、糖質や窒素成
分の原料とともに、培養開始時に添加してもよいし、必要に応じて、糖質や窒素成分を原料とした培養を先行させて、ある程度、培養・発酵が進行した時期に添加してもよい。
【0032】
本発明の別の面は、栄養添加剤用の液体培養物の製造方法であって、魚骨を主要成分として含有する海産・水産副産物が添加され、糖分と窒素分を富化されてなる混合培地を使用して、培地表層に存在する酵母とともに存在する乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢(好ましくは培地表層を覆う酵母とともにその下に乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢)を培養し、培養液のpHを4.0以下にせしめるとともに、該魚骨を分解・溶解せしめ、最終的に固形物を除去して得られることを特徴とする製造方法である。固形物(未分解の魚骨や水産副産物その他の固形夾雑物)の除去は、ろ過、遠心分離といった一般的なやり方でよく、最終的に液状培養物が得られる。この液体培養物は、栄養添加剤としてそのまま、あるいは必要な物質(安定化剤、pH調整剤など)をさらに添加することにより、本発明の飼料用添加剤として、または肥料もしくは植物活力剤(成長促進剤、耐病性向上剤など)として提供される。
【0033】
水産副産物を資源化して有効利用を図る本発明方法は、処理工程において必要とされる加工エネルギーが少ない。肥料・飼料添加剤として利用できる液体培養物を生産するにあたり、原料である腐敗しやすい水産副産物を乾燥固化もしくは粉末化、高熱加熱を行う工程はなく、したがって、きわめて省エネルギー的な生産方法である。また、燃焼による二酸化炭素の発生もないことから、地球温暖化抑制の観点からも優れた製造方法である。
【0034】
本発明の栄養添加剤用の液体培養物には、ミネラルがバランスよく豊富に含まれていると同時に、糖類、タンパク質、各種アミノ酸、アルコール、乳酸や酢酸などの有機酸、ビタミン類が含まれている。さらには。本発明の栄養添加剤用の液体培養物は、極めて保存性の良い液状品であるため、特に乾燥固化する必要がなく、そのまま肥料や飼料に混合添加してもよいし、水で希釈して直接、家畜、魚類などの動物およびブドウなどの果樹や蔬菜類などの植物に投与してもよい。希釈の割合は、肥料、飼料あるいは水や土壌に対して0.05%〜20%、好ましくは1%〜5%がよいが投与頻度、投与生物の種類や量などで適宜変
更可能である。なお希釈はpHを調整する目的を兼ねてもよく、pH調整用希釈液で弱酸性〜中性pH(例えばpH5.0〜7.0)に調整してもよい。
【0035】
本発明品を家畜や養殖魚類などに投与すると、飼料効率、斃死防止などに有効である。また、本発明品を蔬菜類などの植物に投与すると、根がはり、葉の虫食いが減り、葉根の成長や品質の向上、病害虫耐性にたいして有効である。
【0036】
また、本発明の栄養添加剤用の液体培養物は液状品ながら、腐敗菌の活動を抑える酵母、乳酸菌、好酸性菌などを含む、pH4.0以下の製品であるために、きわめて腐敗しにく
く、室温下で長期間置いておいても、腐ることなく品質が保持される。
【0037】
本発明は、漁港、養魚場、養殖場などで魚介類、海産物・淡水産物の加工処理の結果、生じる廃棄物を有効利用する側面もある。上記のように、水産副産物からの有用成分取得技術である本発明の培養物およびその製造方法は、省力、省エネルギー的な生産プラントとして実現できる。そうした好ましい態様として、酵母および乳酸菌および/または好酸
性菌を含む微生物叢を糖質および窒素成分を含む培養液で培養したpH4.0以下の培養液
を含む混合・発酵液タンクを、水揚げ漁港あるいは養魚場、蛎・貝類・コンブなどの養殖場などの近傍に設置して、魚類、水産物の加工処理の工程で得られる魚骨あるいは水産副産物もしくは廃棄物を順次、混合・発酵タンクに投入して分解・溶解せしめ、必要に応じて混合・培養液を抜き取り、養鶏場、養豚場、果樹園、グリーンハウス、畑、植物栽培場などで肥料・飼料添加剤あるいは植物活力剤として使用する資源有効利用システムを構築してもよい。
【0038】
以下に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例]
【実施例1】
【0039】
あじの魚骨を主要成分とする海産副産物を含有する天然培地に酵母(Candida ethanolica: NRRRL Y-12615)および乳酸菌(Lactobacillus farraginis: NRIC 0676)を含む微生物叢を添加後、25℃前後で緩やかに攪拌培養した際のpHと香りの変化を評価した。その結果を表1に示す。培養開始後6日、pH3.6以下でアミン臭が消滅し、発酵臭となった。なお、魚骨は13日培養後には消滅していた。
【0040】
【表1】

【実施例2】
【0041】
さんま及びさばの魚骨を主要成分とする海産副産物を含有する天然培地に酵母(Candida
ethanolica: NRRRL Y-12615)および乳酸菌(Lactobacillus farraginis: NRIC 0676)を含む微生物叢を添加後、30度℃前後で静置培養した際のpHと香りの変化を評価した。その結果を表2に示す。培養開始後、6日、pH3.43以下で原料臭は消滅し、発酵臭になった。なお、魚骨は16日培養後には消滅していた。
【0042】
【表2】

【実施例3】
【0043】
本発明品(肥料用添加物・飼料用添加剤および植物活力剤としての栄養添加剤用の液体培養物)の保存性を香りの変化で評価した。その結果を表3に示す。室温下、37日、113日経過後も腐敗臭はなく、異常はないことを確認した。
【0044】
【表3】

【実施例4】
【0045】
本発明品(肥料用添加物・飼料用添加剤および植物活力剤としての栄養添加剤用の液体培養物)の一般成分分析を行った。その結果を表4に示す。魚骨由来のリン酸および炭素成分・窒素成分を多く含むことを確認した。
【0046】
【表4】

【実施例5】
【0047】
本発明品(肥料用添加物・飼料用添加剤および植物活力剤としての栄養添加剤用の液体培養物)のミネラル成分の分析値(mg/Lで表示)を表5に示す。
【0048】
【表5】

【実施例6】
【0049】
本発明品(肥料用添加物・飼料用添加剤および植物活力剤としての栄養添加剤用の液体培養物)中の酵母および乳酸菌数を希釈プレート法で評価した結果を表6に示す。酵母(真菌)と細菌がほぼ同数、細菌のうち約30%が乳酸菌で占められている。
【0050】
【表6】

【実施例7】
【0051】
ハイポネックス入りのポットに小松菜の種子を播種し、毎日、一定量の水を与えて、育てた。試験区では、週2回、水の代わりに本発明品(肥料用添加物・飼料用添加剤および
植物活力剤としての栄養添加剤用の液体培養物)を100倍に希釈して散布し、49日間、その生育に及ぼす効果をみた。
【0052】
コントロール区に比べて試験区では、根が発達し、総量が増し、葉の虫食いの数が減っていることが確認できた。コントロールを100とした場合、試験区の小松菜の根と総量、および虫食い数を以下に示す。
【0053】
【表7】

【実施例8】
【0054】
培養土入りのポットに四季まきキャベツ(中早生2号)の種子3粒を播種し、毎日、一定量の散水を行った。試験区では、週1回、水の代わりに本発明品(肥料用添加物・飼料用添加剤および植物活力剤としての栄養添加剤用の液体培養物)を1000倍に希釈して散布し、37日後の、根の生育に及ぼす効果をみた。なお、いずれも、本葉2枚時に、発酵鶏糞160をポットあたり2g地表に撒いた。
【0055】
試験区では、幼苗の根の発達が促進されていた。以下の表8に根の長さとコントロールを100とした値を示す。
【0056】
【表8】

【実施例9】
【0057】
種まき土(タキイ)入りのポットに、白菜を播種し、毎日、一定量の散水を行ったものをコントロールとした。一方、週に1回、水の代わりに本発明品(肥料用添加物・飼料用添加剤および植物活力剤としての栄養添加剤用の液体培養物)を1000倍に希釈して白
菜に散布したものを試験区とした。いずれも33日目に、たっぷりと散水した後、2日間、水を与えることなく室内に放置して、その様子を観察した。その結果、コントロールは、しおれてしまったが、試験区の白菜はしおれることなく、保水性を示した(図1)。この結果から本発明品は、植物の乾燥条件に対する耐性も向上させることが知られた。
【0058】
上記に示した実施例における使用材料は、本発明の範囲内の好適例にすぎない。また、これらの実施例中で用いる装置名、および使用材料の濃度、使用量、処理時間、処理温度などの数値的条件、処理方法などはこの発明の範囲内の好適例にすぎない。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、水産物の生産、加工工程から生じる副産物の有効利用技術として開発された。酵母および乳酸菌および/または好酸性菌を含む微生物叢を糖質およぶ窒素成分を含む
培養液で培養したpH4.0以下の培養液を製造するための混合・発酵液タンクを、水揚げ
漁港あるいは養魚場、蛎・貝類・コンブなどの養殖場などの近傍に設置して、魚類、水産物の加工処理工程で副生する魚骨等の水産副産物を順次その混合・発酵タンクに投入して分解・溶解せしめ、必要に応じて混合・発酵タンクから培養液を抜き取り、これを養鶏場、養豚場、果樹園、グリーンハウス、畑、植物栽培場などにおいて肥料・飼料添加剤あるいは植物活力剤として使用されるシステムが構築できる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】図1は、コントロールの白菜(上)および試験区の白菜(下)の様子を表わす写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
魚骨を主要成分として含有する海産・水産副産物が添加され、糖分と窒素分を富化されてなる混合培地を使用して、培地表層に存在する酵母とともに存在する乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢を培養し、培養液のpHを4.0以下にせしめるとともに該魚骨を分解・溶解せしめて得られる栄養添加剤用の液体培養物。
【請求項2】
前記海産・水産副産物が、魚骨とともに、タコ、イカ、コンブ、緑藻類、紅藻類、ラン藻類、貝類、および/または蛎に由来する副産物を含むことを特徴とする、請求項1に記
載の液体培養物。
【請求項3】
前記魚骨が、あじ、さば、さんま、いわし、ぶり、ふぐ、あゆ、かつお、まぐろ、あまだい、たい、かれい、うなぎ、はまち、あこう、しろぎす、ひらめ、あなご、たちうお、さけ類、グレ、すずき、とらふぐ、ほっけ、かんぱち、まんぼう、しまあじ、いさき、鯛、かさご、かわはぎ、めんめ、こい、ブラックタイガー、およびふなの魚類から選ばれる少なくとも1種の魚の骨であることを特徴とする、請求項1または2に記載の液体培養物。
【請求項4】
前記酵母がSaccharomyces属、Candida属、Torulopsis属、Zygosaccharomy属、 Schizosaccharomyces属、Pichia属、またはHansenula属であり、前記乳酸菌がLactobacillus属、Bifidobacterium属、Lactococcus属、Pediococcus属、Leuconostoc属、またはStreptococcus属であり、前記好酸性菌がThermoplasma属、Sulfolobus属であることを特徴とする、
請求項1〜3いずれかに記載の液体培養物。
【請求項5】
前記酵母が産膜酵母であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の液体培養物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の液体培養物を含有する飼料用添加剤。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかに記載の液体培養物を含有する肥料もしくは植物活力剤。
【請求項8】
栄養添加剤用の液体培養物の製造方法であって、魚骨を主要成分として含有する海産・水産副産物が添加され、糖分と窒素分を富化されてなる混合培地を使用して、培地表層に存在する酵母とともに存在する乳酸菌または好酸性菌からなる微生物叢を培養し、培養液のpHを4.0以下にせしめるとともに、該魚骨を分解・溶解せしめ、最終的に固形物を除去して得られることを特徴とする製造方法。
【請求項9】
前記混合培地は、酵母培養用または乳酸菌培養用の天然培地である、請求項8に記載の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−104249(P2010−104249A)
【公開日】平成22年5月13日(2010.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−277010(P2008−277010)
【出願日】平成20年10月28日(2008.10.28)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(508249321)心栄科研株式会社 (1)
【Fターム(参考)】