説明

校正方法、校正用治具および管検査方法

【課題】校正用試験片内で、センサの軸線方向に交差する方向での移動および校正用試験片の軸線中心からの偏心を抑制し、安定した校正を行える校正方法を提供する。
【解決手段】管の内部に挿入される曲折可能なケーブル5と、ケーブル5の軸線方向に間隔を空けて取り付けられた、少なくとも管の状況を検査するセンサ9およびケーブル5の軸線中心位置を調整するスタビライザ11と、を有する管検査装置1を、管の直線部分を模擬するとともに貫通孔19を有する校正用試験片15の内部に挿入して貫通孔19の検出信号によってセンサ9の校正を行う校正方法であって、管検査装置1を挿入する前に、校正用試験片15の内面に検出信号に影響を与えない材質で構成された所定厚さの管状部材17を装着する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、校正方法、校正用治具および管検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
加圧水型原子力発電プラントの蒸気発生器、予熱除去冷却器、使用済み燃料ピット冷却器等、あるいはボイラ等の熱交換器には、たとえば、U字形に曲げられた曲部を有する伝熱管が多数備えられている。たとえば、蒸気発生器には数千本の伝熱管が備えられている。
これらの伝熱管は、たとえば、蒸気発生器では内部を原子炉で加圧された高温の冷却材が流れ高温に加熱される。
【0003】
原子力発電プラントでは、たとえば、蒸気発生器の伝熱管が破損すると、放射性物質が2次系に漏出することになるので、破損という事態に至らないようにする必要がある。このため、破損の要因となる管のキズ入りの有無について定期的に検査されている。
この検査は、曲折可能なケーブルの先端部分に、管の状況を検査するセンサの軸線中心位置を調整する調芯部材を備えた管検査装置を伝熱管の内部に挿入して行われる(特許文献1、特許文献2参照)。センサとしては超音波、渦電流を用いたものが用いられる。
【0004】
ケーブルが挿入されるとセンサが管内部を移動し、センサが発信した信号に対する検出信号を受信する。この検出信号を評価することにより、管のキズの有無、形状等が検査される。
評価に先立ち、センサが管と略同径を持つ直管に所定形状のキズを形成した校正用試験片の内部に挿入され、このキズの検出信号が所定の振幅、または位相角になるように感度または位相角の調整を行う。言い換えれば、管検査装置は、校正用試験片によって位相や感度の校正が行なわれている。
【0005】
数千本の伝熱管の検査を行うため、管検査時間が多くかかる。このため、たとえば、原子力分野ではこの校正は管を所定時間検査する都度、行われるように規定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平10−62093号公報
【特許文献2】特開平10−142202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、U字形等に曲げられた曲部を有する伝熱管を検査する場合、曲部での通過性を向上させるために調芯部材の外径は管の内径よりも小さくされている。
このため、管と略同径を持つ直管である校正用試験片を用いて校正を行うと、校正用試験片の内径は調芯部材の外径よりも大きいので、校正用試験片の内部でセンサが揺動する。このようにセンサが揺動すると、検出信号が変動するので、基準データが不良となる可能性が高い。
たとえば、所定形状のキズとして校正用試験片の円周上に1箇所に設けられた貫通穴を用いるものでは、センサの偏りによって感度の変動が大きくなる。また、たとえば、周方向に複数のセンサを備えるマルチセンサ型の管検査装置では、センサの偏心によって均一な校正がおこなえない。
また、管検査装置は、通過性向上のために、センサ周辺にガイド玉等の種々の周辺機構を配置しているが、これらは校正用試験片の入り口で引っかかりやすい。センサがキズ部分を通過している時に、周辺機構が校正用試験片の入り口で引っかかると、センサが振れるので、検出信号が乱れることになる。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑み、校正用試験片内で、センサの軸線方向に交差する方向での移動および校正用試験片の軸線中心からの偏心量を抑制し、安定した校正を行える校正方法、校正用治具および管検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明は以下の手段を採用する。
すなわち、本発明の第一態様は、管の内部に挿入される曲折可能な線状部材と、該線状部材の軸線方向に間隔を空けて取り付けられた、前記管の状況を検査する検査部材および該検査部材の軸線中心位置を調整する調芯部材と、を有する管検査装置を、前記管の直線部分を模擬するとともに校正用信号源を有する校正用試験片の内部に挿入して前記校正用信号源の検出信号によって前記検査部材の校正を行う校正方法であって、前記管検査装置を挿入する前に、前記校正用試験片の内面に前記検出信号に影響を与えない材質で構成された所定厚さの管状部材を装着する校正方法である。
【0010】
本態様によると、校正用試験片の内面に所定厚さの管状部材が装着された後で、管検査装置が管状部材の内部に挿入されて校正が行われる。このように、校正用試験片の内面に所定厚さの管状部材が装着されるので、管状部材の内径と調芯部材の外径との差は、校正用試験片の内径と調芯部材の外径との差よりも小さくすることができる。このため、管検査装置が管状部材の内部を軸線方向に移動する際に、検査部材が校正用試験片の軸線方向に交差する方向(以下、「横断面内」ということもある。)での移動量および校正用試験片の軸線中心からの偏心量を抑制することができる。
また、管状部材は検査部材の検出信号に影響を与えない材質で構成されているので、検査部材の検出信号の外乱とならない。
したがって、安定した校正を行うことができる。
【0011】
なお、渦電流を用いる検査部材の場合、管状部材としては、たとえば、非金属の不伝導体が用いられる。
管状部材の厚さは、管状部材の外径が、校正用試験片の内径と略等しく、内径が調芯部材の外径と略等しくなる厚さとするのが、検査部材の横断面内における移動および偏心がほぼ無くなるので、好ましい。
管状部材は、校正用試験片への挿入時、外周面が校正用試験片の内周面と摺動し、校正作業中には、内周面が調芯部材等と摺動するので、摩擦係数が低い材料で形成することが好ましい。
【0012】
上記態様では、前記管状部材の長さは、前記校正用試験片の長さよりも長くされていてもよい。
【0013】
このようにすると、管検査装置は、確実に管状部材の内部のみを移動することになる。たとえば、校正用試験片から管状部材に移動する際の径変動による影響を排除することができる。
【0014】
上記態様では、前記管状部材の長さは、前記検査部材が前記校正用信号源の近傍に位置している際、前記検査部材および前記線状部材の前後の前記線状部材に取り付けられた周辺機構が収容される大きさとされていることが好ましい。
【0015】
管検査装置は、曲部での通過性向上のために、検査部材の周辺である前後にガイド玉等の種々の周辺機構が取り付けられているものがある。
管状部材の長さは、検査部材が校正用信号源の近傍に位置している際、検査部材および線状部材の前後の線状部材に取り付けられた周辺機構が収容される大きさとされているので、検査部材が校正用信号源の近傍に位置している際、周辺機構は全て管状部材の内部に位置していることになる。
したがって、検査部材が校正用信号源の近傍を通過する際、周辺機構が管状部材の入口に引っかかって検査部材が振れるのを防止できるので、校正作業時の検出信号の乱れを防止することができる。
【0016】
上記態様では、前記管状部材は、軸方向に全通した切欠部が備えられている構成としてもよい。
【0017】
このようにすると、たとえば、外周側から力を加えることよって、切欠部の幅を調整することができる。切欠部の幅を調整すると、管状部材の周長、すなわち、外径を調整することができる。これにより、管状部材は、厚さを設定するだけで、外径の寸法精度に気を付ける必要を少なくできる。
したがって、管状部材の外径を小さくした状態で校正用試験片の内部に挿入することができるので、挿入作業を容易に行うことができる。
たとえば、通常状態で管状部材は、その外径が校正用試験片の内径よりも大きくなるようにしておけば、管状部材は校正用試験片に確実に固定した状態で装着することができる。
【0018】
上記構成では、前記管状部材は、外周面に凹部が形成されていてもよい。
【0019】
校正用信号源として、校正用試験片の内周面から内側に向けて突起しているものがある。管状部材の径を縮小させて校正用試験片に挿入し、凹部がこの校正用信号源に一致する位置で元に戻すと、校正用信号源が凹部に収まるので、管状部材を校正用試験片に装着することができる。
【0020】
上記態様では、前記管状部材は、軸線方向に複数に分割されていてもよい。
【0021】
このようにすると、たとえば、校正用試験片の内周面から内側に向けて突起している校正用信号源の突起量が管状部材の厚さよりも大きい場合にも、校正用試験片の両側からそれぞれ分割された管状部材を挿入することで校正用信号源の両側をカバーするように管状部材を装着することができる。
【0022】
上記態様では、前記管状部材の一端部には、前記校正用試験片の外径よりも大きな外径の拡径部が備えられ、該拡径部の他端側に前記校正用試験片が挿入される溝部が形成されており、前記管状部材は、他端側から前記校正用試験片に挿入され、前記溝部が前記校正用試験片を受け入れている状態で、前記拡径部の外周を固定部材によって締め付けられて装着されるようにしてもよい。
【0023】
このようにすると、管状部材は校正用試験片に固定した状態で取り付けられることになる。管状部材の抜け落ちが許容されない環境であっても管検査装置の校正を行うことができる。
【0024】
本発明の第二態様は、管の内部に挿入される曲折可能な線状部材と、該線状部材の軸線方向に間隔を空けて取り付けられた、前記管の状況を検査する検査部材および該検査部材の軸線中心位置を調整する調芯部材と、を有する管検査装置の校正を行う校正方法に用いられる校正用治具であって、前記管の直線部分を模擬するとともに校正用信号源を有する校正用試験片と、該校正用試験片の内面に装着される前記検出信号に影響を与えない材質で構成された所定厚さの管状部材と、が備えられている校正用治具である。
【0025】
本態様によると、校正用試験片の内面に所定厚さの管状部材が装着された後で、管検査装置が管状部材の内部に挿入されて校正が行われる。このように、校正用試験片の内面に所定厚さの管状部材が装着されるので、管状部材の内径と調芯部材の外径との差は、校正用試験片の内径と調芯部材の外径との差よりも小さくすることができる。このため、管検査装置が管状部材の内部を軸線方向に移動する際に、検査部材が校正用試験片の軸線方向に交差する方向での移動量および校正用試験片の軸線中心からの偏心量を抑制することができる。
また、管状部材は検査部材の検出信号に影響を与えない材質で構成されているので、検査部材の検出信号の外乱とならない。
したがって、安定した校正を行うことができる。
【0026】
なお、渦電流を用いる検査部材の場合、管状部材としては、たとえば、非金属の不伝導体が用いられる。
管状部材の厚さは、管状部材の外径が、校正用試験片の内径と略等しく、内径が調芯部材の外径と略等しくなる厚さとするのが、検査部材の横断面内における移動および偏心がほぼ無くなるので、好ましい。
管状部材は、校正用試験片への挿入時、外周面が校正用試験片の内周面と摺動し、校正作業中には、内周面が調芯部材等と摺動するので、摩擦係数が低い材料で形成することが好ましい。
【0027】
上記態様では、前記管状部材の長さは、前記校正用試験片の長さよりも長くされていてもよい。
【0028】
このようにすると、管検査装置は、確実に管状部材の内部のみを移動することになる。たとえば、校正用試験片から管状部材に移動する際の径変動による影響を排除することができる。
【0029】
上記態様では、前記管状部材の長さは、前記検査部材が前記校正用信号源の近傍に位置している際、前記検査部材および前記線状部材の前後の前記線状部材に取り付けられた周辺機構が収容される大きさとされていてもよい。
【0030】
管検査装置は、曲部での通過性向上のために、検査部材の周辺である前後にガイド玉等の種々の周辺機構が取り付けられているものがある。
管状部材の長さは、検査部材が校正用信号源の近傍に位置している際、検査部材および線状部材の前後の線状部材に取り付けられた周辺機構が収容される大きさとされているので、検査部材が校正用信号源の近傍に位置している際、周辺機構は全て管状部材の内部に位置していることになる。
したがって、検査部材が校正用信号源の近傍を通過する際、周辺機構が管状部材の入口に引っかかって検査部材が振れるのを防止できるので、校正作業時の検出信号の乱れを防止することができる。
【0031】
上記態様では、前記管状部材は、軸方向に全通した切欠部が備えられている構成としてもよい。
【0032】
このようにすると、たとえば、外周側から力を加えることよって、切欠部の幅を調整することができる。切欠部の幅を調整すると、管状部材の周長、すなわち、外径を調整することができる。これにより、管状部材は、厚さを設定するだけで、外径の寸法精度に気を付ける必要を少なくできる。
したがって、管状部材の外径を小さくした状態で校正用試験片の内部に挿入することができるので、挿入作業を容易に行うことができる。
たとえば、通常状態で管状部材は、その外径が校正用試験片の内径よりも大きくなるようにしておけば、管状部材は校正用試験片に確実に固定した状態で装着することができる。
【0033】
上記構成では、前記管状部材は、外周面に凹部が形成されていてもよい。
【0034】
校正用信号源として、校正用試験片の内周面から内側に向けて突起しているものがある。管状部材の径を縮小させて校正用試験片に挿入し、凹部がこの校正用信号源に一致する位置で元に戻すと、校正用信号源が凹部に収まるので、管状部材を校正用試験片に装着することができる。
【0035】
上記態様では、前記管状部材は、軸線方向に複数に分割されていてもよい。
【0036】
このようにすると、たとえば、校正用試験片の内周面から内側に向けて突起している校正用信号源の突起量が管状部材の厚さよりも大きい場合にも、校正用試験片の両側からそれぞれ分割された管状部材を挿入することで校正用信号源の両側をカバーするように管状部材を装着することができる。
【0037】
上記態様では、前記管状部材の一端部には、前記校正用試験片の外径よりも大きな外径の拡径部が備えられ、該拡径部の他端側に前記校正用試験片が挿入される溝部が形成され、前記管状部材の前記溝部に前記校正用試験片が挿入されている状態で、前記拡径部の外周を締め付ける固定部材が備えられていてもよい。
【0038】
このようにすると、管状部材は校正用試験片に固定した状態で取り付けられることになる。管状部材の抜け落ちが許容されない環境であっても管検査装置の校正を行うことができる。
【0039】
本発明の第三態様は、上述の校正方法によって校正された管検査装置を用いて管の検査を行う管検査方法である。
【0040】
このようにすると、適正に校正が行われた管検査装置を用いて管を検査することができる。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、校正用試験片の内面に所定厚さの管状部材が装着された後で、管検査装置が管状部材の内部に挿入されて校正が行われるので、安定した校正を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の第一実施形態にかかる校正方法で校正される管検査装置の構成を示す側面図である。
【図2】図1の管検査装置の校正を行う校正用治具を示す斜視図である。
【図3】校正作業中における校正用治具の縦断面である。
【図4】本発明の第二実施形態にかかる校正方法の校正作業中における校正用治具の縦断面図である。
【図5】本発明の第三実施形態にかかる校正用治具を示す斜視図である。
【図6】本発明の第四実施形態にかかる校正用治具の校正用試験片を示す斜視図である。
【図7】本発明の第四実施形態にかかる校正用治具の管状部材を示す斜視図である。
【図8】本発明の第四実施形態にかかる校正用治具の組立中の状態を示す縦断面図である。
【図9】本発明の第四実施形態にかかる校正方法の校正作業中における校正用治具の縦断面図である。
【図10】本発明の第五実施形態にかかる校正用治具の組立中の状態を示す縦断面図である。
【図11】本発明の第五実施形態にかかる校正方法の校正作業中における校正用治具の縦断面図である。
【図12】本発明の第六実施形態にかかる校正用治具の組立中の状態を示す縦断面図である。
【図13】本発明の第六実施形態にかかる校正方法の校正作業中における校正用治具の縦断面図である。
【図14】本発明の第六実施形態にかかる校正用治具を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下、本発明の実施形態を、添付図面を用いて詳細に説明する。
[第一実施形態]
以下、本発明の第一実施例にかかる校正方法について図1〜図3を参照して説明する。
図1は、本発明の第一実施形態にかかる校正方法で校正される管検査装置1の構成を示す側面図である。図2は、図1の管検査装置1の校正を行う校正用治具3を示す斜視図である。図3は、校正作業中における校正用治具3の縦断面である。
【0044】
管検査装置1は、たとえば、U字形に曲げられた曲部を有する伝熱管(管)の状況を渦電流によって検査するものである。
管検査装置1には、伝熱管に沿って挿入されるケーブル(線状部材)5と、ケーブル5の先端に取り付けられた先端ガイド7と、ケーブル5に取り付けられたセンサ(検査部材)9と、センサ9の前後に取り付けられたスタビライザ(調芯部材、周辺機構)11と、スタビライザ11の前後に間隔を空けて複数取り付けられたガイド玉(周辺機構)13と、が備えられている。
【0045】
ケーブル5は、可撓性を有し、曲折可能である。センサ9は、磁界を発生させるコイルを備えている。
スタビライザ11は、外周部が伝熱管の内周面に案内されることによって伝熱管内でのケーブル5、すなわち、センサ9の軸線中心位置を調整するものである。
ガイド玉13は、略球形状をし、ケーブル5に回転可能に取り付けられている。ガイド玉13は、ケーブル5が曲部を通過しやすくする通過支援機構である。通過支援機構としては、ガイド玉13に限定されず、種々の機構が用いられる。
【0046】
校正用治具3には、校正用試験片15と、管状部材17と、が備えられている。
校正用試験片15は、伝熱管の直線部分を模擬するものであり、円筒形状をしている。校正用試験片15は、検査対象となる伝熱管と同じ材料、たとえば、オーステナイト系ステンレス鋼で形成され、かつ、内外径が同じとされている。たとえば、校正用試験片15の外径は、19mm、内径は、略16mmとされている。校正用試験片15の肉厚は略1.5mmである。校正用試験片15の長さは、仕様される環境に応じて制限されるが、300〜800mmとされる。図2では、300mmとされている。
【0047】
校正用試験片15の軸方向略中間位置には、周方向における1箇所に校正用のキズを模擬する貫通孔(校正用信号源)19が肉部を貫通するように備えられている。
【0048】
管状部材17は、円筒形状をし、その外径は、校正用試験片15の内径と略同一、たとえば、略16mmとされている。管状部材17の内径は、校正する管検査装置1のスタビライザ11の外径と略同一、たとえば、略14mmとされている。したがって、管状部材17の肉厚(厚さ)は、伝熱管の内径と、スタビライザ11の外径との差の1/2である略1mmとされている。
管状部材17の長さは、校正用試験片15と略同じである300mmとされている。
管状部材17は、渦電流に影響を与えない材質である樹脂、たとえば、ポリテトラフルオロエチレンで形成されている。ポリテトラフルオロエチレンは、摩擦係数が低い材料である。
【0049】
この校正用治具3を用いた管検査装置1の校正方法について説明する。この校正では、管検査装置1が校正用試験片15の貫通孔19を検出し、その検出信号が所定の振幅、または位相角になるように感度または位相角の調整を行う。
校正用試験片15の内面に管状部材17を挿入して、校正用治具3を完成させる。この作業は、管検査装置1の校正作業の前であればいつでもよく、校正作業の直前であっても、校正用試験片15が製造された時点であっても、この間の任意の時点であってもよい。
管状部材17は摩擦係数が低い材料で形成されているので、校正用試験片15の内面に管状部材17を挿入する作業は、校正用試験片15の内面と管状部材17の外面の摩擦抵抗が少なく、容易に行うことができる。
【0050】
校正用治具3が整うと、管検査装置1の校正作業に入る。すなわち、管検査装置1が管状部材17の内部に挿入されて校正が行われる。
センサ9のコイルに電流が流され、磁界が形成された状態で、管検査装置1を管状部材17の内部に挿入する。センサ9が挿入されると、校正用試験片15に渦電流が励起される。センサ9が貫通孔19の位置を通過すると、渦電流が貫通孔19の影響を受けて変化する。その変化に応じてその渦電流に依存する磁界も変化するので、磁界の変化に伴い変化するコイルの誘起電力の変化を検出信号として検出する。
【0051】
このとき、スタビライザ11は、その外周部が、管状部材17の内周面に接触した状態で移動するので、センサ9は、その軸線中心が校正用試験片15の軸線中心と略同位置を維持した状態で移動することになる。言い換えると、管検査装置1は、スタビライザ11が管状部材17の内面に案内されて軸線方向に移動する。
したがって、センサ9は、軸線方向に交差する方向で移動することもないし、校正用試験片15の軸線中心から偏心した位置に位置することもないので、センサ11から校正用試験片15の内周面までの距離を一定とすることができる。
【0052】
また、管状部材17は不伝導体材料で形成されているので、渦電流を変化させることはない。言い換えれば、管状部材17は、センサ9の検出信号の外乱とならない。
したがって、安定した校正を行うことができる。
なお、センサ9のコイルに供給する電流は、時分割で周波数を変化させ、複数の周波数に対応する検出信号を取得する。
貫通孔19の大きさは所定の大きさとされているので、この検出信号は、実際のキズの大きさを判定する時の、基準信号として用いることができる。
【0053】
管状部材17は摩擦係数が低い材料で形成されているので、管状部材17の内面に沿ってスタビライザ11が移動する際の摩擦抵抗は小さくなる。このため、管検査装置1は、管状部材17の内部を滑らかに移動することができる。
【0054】
このようにして校正された管検査装置1を用いて伝熱管の検査が行われる。検査される伝熱管は、たとえば、数千本あるため、管の検査には時間が多くかかる。このため、たとえば、原子力分野ではこの校正は管を所定時間検査する都度、行われるように規定されているので、所定時間、たとえば、2時間の管検査が行われると、再度上述の手順で、管検査装置1の校正が行われる。
【0055】
なお、本実施形態では、管状部材17の内径とスタビライザ11の外径とが略同一寸法とされているが、これに限定されない。すなわち、安定した検出信号が得られる範囲であれば、管状部材17とスタビライザ11との間に小さな隙間が存在してもよい。
【0056】
[第二実施形態]
次に、本発明の第二実施形態にかかる校正方法について、図4を用いて説明する。
本実施形態は、管状部材17の構成が第一実施形態のものと異なるので、ここではこの異なる部分について主として説明し、前述した第一実施形態のものと同じ部分については重複した説明を省略する。
なお、第一実施形態と同じ部材には同じ符号を付している。
【0057】
図4は、本実施形態にかかる校正方法の校正作業中における校正用治具3の縦断面図である。
本実施形態では、管状部材17は、その長さが校正用試験片15の長さよりも長くされている。管状部材17の長さは、図4に示されているように、センサ9が貫通孔19の位置にあるとき、全てのガイド玉13が管状部材17の内部に位置する程度の長さとされている。
【0058】
このように管状部材17が、校正用試験片15よりも長くすると、管検査装置は、確実に管状部材17の内部のみを移動し、校正用試験片15に接触することがなくなる。
このため、たとえば、管検査装置1が校正用試験片15から管状部材17に移動する際の径変動による影響を排除することができる。
【0059】
また、スタビライザ11およびガイド玉13は、ケーブル5から径方向に突出しているので、管状部材17に挿入する際、端部に引っかかり易い。
本実施形態では、管状部材17の長さは、センサ9が貫通孔19の位置にあるとき、全てのガイド玉13が管状部材17の内部に位置する程度の長さとされているので、センサ9が貫通孔19の近傍に位置している際、ケーブル5から径方向に突出しているスタビライザ11およびガイド玉13は全て管状部材17の内部に位置していることになる。
【0060】
したがって、センサ9が貫通孔19の近傍を通過する際、スタビライザ11およびガイド玉13が管状部材17の入口に引っかかることがないので、この衝突に伴う衝撃によってセンサ9が振れるのを防止することができる。これにより、校正作業時の検出信号の乱れを防止することができ、安定した校正を行うことができる。
なお、校正作業および管検査作業については、第一実施形態と同様であるので、ここでは重複した説明を省略する。
【0061】
[第三実施形態]
次に、本発明の第三実施形態にかかる校正方法について、図5を用いて説明する。
本実施形態は、管状部材17の構成が第二実施形態のものと異なるので、ここではこの異なる部分について主として説明し、前述した実施形態のものと同じ部分については重複した説明を省略する。
なお、上述の実施形態と同じ部材には同じ符号を付している。
【0062】
図5は、本実施形態にかかる校正用治具を示す斜視図である。
本実施形態では、管状部材17に、全長に亘って(全通するように)軸線方向に延在するように、一定の幅を有する貫通スリット(切欠部)21が形成されている。管状部材17の外径は、校正用試験片15の内径よりも少し大きくされている。
【0063】
このように、貫通スリット21が設けられていると、管状部材17に外周側から力を加え、弾性変形させることよって、貫通スリット21の幅を調整することができるので、管状部材17の周長、すなわち、外径を調整することができる。
管状部材17を校正用試験片15に装着する場合、管状部材17の外径を小さくした状態で校正用試験片15の内部に挿入できるので、管状部材17の挿入作業を容易に行うことができる。
【0064】
管状部材17が所定位置に挿入された後、管状部材17に作用させた外力を取り除くと、管状部材17は弾性力によって拡径するので、外径が校正用試験片15の内径よりも大きい管状部材17は校正用試験片15に確実に固定した状態で装着することができる。
これにより、管状部材17は、厚さを設定するだけで、外径の寸法精度に気を付ける必要を少なくできる。
【0065】
本実施形態では、貫通スリット21は軸線方向に延在するように設けられているので、校正作業時に内部を摺動するスタビライザ11の移動方向と一致している。このため、貫通スリット21がスタビライザ11の移動に影響することを小さくすることができる。
校正作業および管検査作業については、第一実施形態と同様であるので、ここでは重複した説明を省略する。
【0066】
なお、本実施形態では、切欠部としての貫通スリット21が軸線方向に延在するように設けられているが、切欠部としては管状部材17の径を調整できればよいので、軸線方向に一致させる必要はなく、軸線方向に進むにつれて周方向位置が異なるようにしてもよい。
【0067】
[第四実施形態]
次に、本発明の第四実施形態にかかる校正方法について、図6〜図9を用いて説明する。
本実施形態は、校正用治具3の構成が第三実施形態のものと異なるので、ここではこの異なる部分について主として説明し、前述した実施形態のものと同じ部分については重複した説明を省略する。
なお、上述の実施形態と同じ部材には同じ符号を付している。
【0068】
図6は、本実施形態にかかる校正用治具3の校正用試験片15を示す斜視図である。図7は、本実施形態にかかる校正用治具3の管状部材17を示す斜視図である。図8は、本実施形態にかかる校正用治具3の組立中の状態を示す縦断面図である。図9は、本実施形態にかかる校正方法の校正作業中における校正用治具3の縦断面図である。
【0069】
本実施形態の校正用試験片15には、図6および図8、図9に示されるように、校正用試験片15の軸方向略中間位置における内面に、全周に亘り周方向に延在する突起部(校正用信号源)23が設けられている。突起部23は、校正用試験片15の外周側から変形させて形成するため、校正用試験片15の外周側は突起部23に対応する部分が凹んでいる。全周変形は、渦電流の校正基準として一般的であり、突起部23はこの全周変形を模擬するものである。
【0070】
管状部材17には、図7および図8、図9に示されるように、外周面に、全周に亘り周方向に延在する凹部25が設けられている。凹部25は、略矩形断面とされ、深さは突起部23の高さ(校正用試験片15の内面から突起部23の先端部までの距離)と同等以上とされ、軸方向長さは、突起部23の軸方向長さと同等以上とされている。言い換えれば、凹部25は突起部を完全に収容できる大きさとされている。
【0071】
管状部材17を校正用試験片15に装着する場合、貫通スリット21を用いて管状部材17を弾性変形させ、管状部材17の外径を突起部23の先端部の径よりも小さくする。この状態で管状部材17を校正用試験片15の内部に挿入する(図8参照)。凹部25が突起部23の位置に至ったところで管状部材17に作用させている外力を除き、管状部材17を弾性力によって拡径させる。たとえば、一例として管状部材17の外周面に、凹部25が突起部23に至ったときの校正用試験片15の端部の位置に対応する位置に印を付けてく。
このように管状部材17を拡径すると、突起部23が凹部25に収容されるので、管状部材17を校正用試験片15に装着することができる(図9参照)。
【0072】
校正作業および管検査作業については、第一実施形態と同様であるので、ここでは重複した説明を省略する。
【0073】
[第五実施形態]
次に、本発明の第五実施形態にかかる校正方法について、図10および図11を用いて説明する。
本実施形態は、校正用治具3の構成が第二実施形態のものと異なるので、ここではこの異なる部分について主として説明し、前述した実施形態のものと同じ部分については重複した説明を省略する。
なお、上述の実施形態と同じ部材には同じ符号を付している。
【0074】
図10は、本実施形態にかかる校正用治具の組立中の状態を示す縦断面図である。図11は、本実施形態にかかる校正方法の校正作業中における校正用治具の縦断面図である。
本実施形態の校正用試験片15には、第四実施形態と同様に突起部23が備えられている。突起部23の高さは、管状部材17(17A,17B)の厚さと同等以上の大きさとされている。
管状部材17は軸線方向で2つに分割され、2つの管状部材17A,17Bとされている。
【0075】
このように2つの管状部材17A,17Bが備えられているので、たとえ、突起部の高さが管状部材17A,17Bの厚さと同等以上の大きさであっても、管状部材17A,17Bを図10に示されるように校正用試験片15の両側から挿入することによって突起部23の両側をカバーするように管状部材17A,17Bを装着することができる。
この場合、管状部材17A,17Bの端部と突起部23との隙間は、スタビライザ11およびガイド玉13が落ち込まない程度の大きさにしておくことが望ましい。
【0076】
校正作業および管検査作業については、第一実施形態と同様であるので、ここでは重複した説明を省略する。
【0077】
[第六実施形態]
次に、本発明の第六実施形態にかかる校正方法について、図12〜図14を用いて説明する。
本実施形態は、管状部材17の構成が第二実施形態のものと異なるので、ここではこの異なる部分について主として説明し、前述した実施形態のものと同じ部分については重複した説明を省略する。
なお、上述の実施形態と同じ部材には同じ符号を付している。
【0078】
図12は、本実施形態にかかる校正用治具3の組立中の状態を示す縦断面図である。図13は、本実施形態にかかる校正方法の校正作業中における校正用治具3の縦断面図である。図14は、本実施形態にかかる校正用治具3を示す斜視図である。
本実施形態では、管状部材17の一端部に、校正用試験片15の外径よりも大きな外径の拡径部27が備えられている。
拡径部27には、拡径部27の他端側に開口した校正用試験片15が挿入される形状の溝29が全周に亘って設けられている。
【0079】
この管状部材17は、図12に示されるように、拡径部27が後部になるようにして校正用試験片15に挿入される。管状部材17は、図13に示されるように溝29が校正用試験片15の端部を受け入れるまで校正用試験片15の内部に挿入される。この状態で、拡径部27の外周をバンド部材(固定部材)31によって締め付ける。
これにより、管状部材17は校正用試験片15に固定した状態で取り付けられることになる。
【0080】
校正作業および管検査作業については、第一実施形態と同様であるので、ここでは重複した説明を省略する。
このように、管状部材17は校正用試験片15に固定した状態で取り付けられるので、管状部材17と校正用試験片15とが分離することはなく、管状部材15の抜け落ちが許容されない環境であっても管検査装置1の校正を行うことができる。
【0081】
なお、本発明は以上説明した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形を行ってもよい。
【符号の説明】
【0082】
1 管検査装置
3 校正用治具
5 ケーブル
9 センサ
11 スタビライザ
13 ガイド玉
15 校正用試験片
17(17A,17B) 管状部材
19 貫通孔
21 貫通スリット
23 突起部
25 凹部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
管の内部に挿入される曲折可能な線状部材と、該線状部材の軸線方向に間隔を空けて取り付けられた、前記管の状況を検査する検査部材および該検査部材の軸線中心位置を調整する調芯部材と、を有する管検査装置を、前記管の直線部分を模擬するとともに校正用信号源を有する校正用試験片の内部に挿入して前記校正用信号源の検出信号によって前記検査部材の校正を行う校正方法であって、
前記管検査装置を挿入する前に、前記校正用試験片の内面に前記検出信号に影響を与えない材質で構成された所定厚さの管状部材を装着することを特徴とする校正方法。
【請求項2】
前記管状部材の長さは、前記校正用試験片の長さよりも長くされていることを特徴とする請求項1に記載の校正方法。
【請求項3】
前記管状部材の長さは、前記検査部材が前記校正用信号源の近傍に位置している際、前記検査部材および前記線状部材の前後の前記線状部材に取り付けられた周辺機構が収容される大きさとされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の校正方法。
【請求項4】
前記管状部材は、軸方向に全通した切欠部が備えられていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の校正方法。
【請求項5】
前記管状部材は、外周面に凹部が形成されていることを特徴とする請求項4に記載の校正方法。
【請求項6】
前記管状部材は、軸線方向に複数に分割されていることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれかに記載の校正方法。
【請求項7】
前記管状部材の一端部には、前記校正用試験片の外径よりも大きな外径の拡径部が備えられ、
該拡径部の他端側に前記校正用試験片が挿入される溝部が形成されており、
前記管状部材は、他端側から前記校正用試験片に挿入され、前記溝部が前記校正用試験片を受け入れている状態で、前記拡径部の外周を固定部材によって締め付けられて装着されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の校正方法。
【請求項8】
管の内部に挿入される曲折可能な線状部材と、該線状部材の軸線方向に間隔を空けて取り付けられた、少なくとも前記管の状況を検査する検査部材および該検査部材の軸線中心位置を調整する調芯部材と、を有する管検査装置の校正を行う校正方法に用いられる校正用治具であって、
前記管の直線部分を模擬するとともに校正用信号源を有する校正用試験片と、
該校正用試験片の内面に装着される前記検出信号に影響を与えない材質で構成された所定厚さの管状部材と、が備えられていることを特徴とする校正用治具。
【請求項9】
前記管状部材の長さは、前記校正用試験片の長さよりも長くされていることを特徴とする請求項8に記載の校正用治具。
【請求項10】
前記管状部材の長さは、前記検査部材が前記校正用信号源の近傍に位置している際、前記検査部材および前記線状部材の前後の前記線状部材に取り付けられた周辺機構が収容される大きさとされていることを特徴とする請求項8または請求項9に記載の校正用治具。
【請求項11】
前記管状部材は、軸方向に全通した切欠部が備えられていることを特徴とする請求項8から請求項10のいずれかに記載の校正用治具。
【請求項12】
前記管状部材は、外周面に凹部が形成されていることを特徴とする請求項11に記載の校正用治具。
【請求項13】
前記管状部材は、軸線方向に複数に分割されていることを特徴とする請求項8から請求項12のいずれかに記載の校正用治具。
【請求項14】
前記管状部材の一端部には、前記校正用試験片の外径よりも大きな外径の拡径部が備えられ、
該拡径部の他端側に前記校正用試験片が挿入される溝部が形成され、
前記管状部材の前記溝部に前記校正用試験片が挿入されている状態で、前記拡径部の外周を締め付ける固定部材が備えられていることを特徴とする請求項8から請求項13のいずれかに記載の校正用治具。
【請求項15】
請求項1から請求項7のいずれかに記載の校正方法によって校正された管検査装置を用いて管の検査を行う管検査方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−83110(P2012−83110A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−226838(P2010−226838)
【出願日】平成22年10月6日(2010.10.6)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】