説明

校正試料の作製方法

【課題】 容易に特異な構造を一意に決めることができ、かつ危険な化学薬品(酸やアルカリなど)などを用いないで校正試料を得ることができる校正試料の作製方法を提供する。
【解決手段】 この出願の発明による校正試料の作製方法は、(110)面を鏡面研磨したLa2CuO4単結晶を230から500℃の温度でアニールした後、徐冷することにより、(110)面に断面が鋸歯状の凹凸を有する双晶構造の校正試料を作製することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この出願の発明は、校正試料の作製方法に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、SPM(走査型プローブ顕微鏡)などに必要なピエゾ素子などの校正に用いられる校正試料の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SPM(走査型プローブ顕微鏡)において、探針あるいは試料を走査する位置決め機構に、ピエゾ素子などから構成されるアクチュエータが利用されている。このような機構のピエゾ素子などの校正を行うために、結晶からなる校正試料(標準試料)が用いられる。この結晶からなる従来の校正試料は、たとえばシリコンの単結晶の表面をリソグラフィーやエッチングなどを利用して、その断面が鋸歯状(表面全体が洗濯板状)となるように加工して作製されていた。
【0003】
このような校正試料の例としては、非特許文献1に記載されたものがある。この校正試料は、シリコン(100)基板で異方性エッチングを利用してパターン傾斜角度を54.7度にしたものであり、その傾斜角度を利用して角度校正を行い、装置再現性を確認するものである。
【非特許文献1】先端技術商品紹介サイト ナノテクノロジ・MEMS 微細加工技術標準試料 測長用スケールASシリーズ 検索日:2005年1月26日 <URL:http://www.keytech.ntt-at.co.jp/nano/prd 0005.html>
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の校正試料はリソグラフィーとエッチングなどを組み合わせて表面を所定の特異形状に加工していたため、危険な化学薬品(酸やアルカリなど)などを使用しなければならないという問題があった。
【0005】
この出願の発明は、以上のとおりの事情に鑑みてなされたもので、容易に特異な構造を一意に決めることができ、かつ危険な化学薬品(酸やアルカリなど)などを用いないで校正試料を得ることができる校正試料の作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この出願の発明は、上記課題を解決するものとして、第1には、(110)面を鏡面研磨したLa2CuO4単結晶を230から500℃の温度でアニールした後、徐冷することにより、(110)面に断面が鋸歯状の凹凸を有する双晶構造の校正試料を作製することを特徴とする校正試料の作製方法を提供する。
【0007】
また、第2には、上記第1の発明において、アニール後の冷却速度を1から20℃/分とすることを特徴とする校正試料の作製方法を提供する。
【0008】
さらに、第3には、上記第1又は第2の発明において、アニール時間を5から60分とすることを特徴とする校正試料の作製方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
この出願の発明によれば、熱処理のみで校正試料に要求される特異な構造が結晶学的な構造から一意に決めることができ、危険な化学薬品などを用いないで容易に校正試料を得ることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
この出願の発明は上記のとおりの特徴をもつものであるが、以下にその実施の形態について説明する。
【0011】
この出願の発明による校正試料の作製方法では、La2CuO4単結晶を用いる。La2
CuO4は、室温では斜方晶構造で双晶となっているが、およそ227℃(500K)で
正方晶構造に相転移する。
【0012】
まず、La2CuO4単結晶の(110)面を鏡面に研磨する。この鏡面研磨はたとえばアルミナ研磨材を使用したバフ回転研磨を用いて行うことができる。次に、(110)面を鏡面研磨したLa2CuO4単結晶を昇温させ、アニールする。昇温速度は、10から20℃/分である。アニールを行う温度は、La2CuO4単結晶の上記相転移温度より高くする必要があり、好ましい温度は230から500℃である。アニール温度が低すぎても高すぎても、所望の構造への相転移をスムーズに行うことができない。また、アニールを行う時間は5から600分程度であれば、均一な相転移状態を得ることができる。また、
アニールを行う雰囲気は、大気中でもよいし、不活性ガス中でもよい。アニールはホットプレート等を用いて行うことができる。
【0013】
上記アニールの後、正方晶に相転移したLa2CuO4を徐冷する。その場合の冷却速度は、(110)面に所望の特異な凹凸形状を得るため1から20℃/分程度とすることが好ましい。その凹凸形状の起伏の平均の大きさはサンプルの厚みを調整することにより制御することができる。
【0014】
上記の熱処理によってLa2CuO4単結晶の(110)面に得られる特異は構造は、その断面が鋸歯状(表面全体が洗濯板状)のものである。また、斜方晶構造で双晶である。このような特異な構造は、結晶学的に一意に決まり、普遍的な角度標準試料として使用することができる。そしてこのような試料は、たとえばSPM(走査型プローブ顕微鏡)に必要なピエゾ素子を校正するための校正試料として用いることができる。
【0015】
以下、実施例によりこの出願の発明ついてさらに詳しく説明する。もちろん、この出願の発明は上記の実施形態及び以下の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【実施例】
【0016】
La2CuO4単結晶(株式会社クリスタルシステム社製)の(110)面をアルミナ研磨材を使用したバフ回転研磨を用いて鏡面に研磨した。次に、(110)面を鏡面に研磨したLa2CuO4単結晶をホットプレートを用い、大気中で室温から300℃まで加熱し、300℃に保ったまま10分間アニールした。その後、5℃/分の冷却速度で室温に戻した。すると、加熱前は平坦であったLa2CuO4単結晶の(110)面が、図1(熱処理後のAFM像)に示すような断面鋸歯状となり、全体として洗濯板状の凹凸形状が見られた。これは、はじめ室温でおいて双晶であったものが300℃に加熱し、その温度でアニールを行うことにより正方晶に相転移を起こし、一旦、双晶ドメインが解消され、徐冷して再度室温に戻った際に、新しい双晶ドメインが作られ、表面に各ドメイン間のストレスが誘起され、形成されたものである。図2にAFM像からの断面プロファイルを示す。このプロファイルから、鋸歯状(凹凸)構造のそれぞれの角度を求めると、179.89±0.07度であった。
【0017】
図3に双晶境界ができたとした場合のモデルを示すが、室温におけるLa2CuO4格子定数a=5.3555Å、b=5.4042Åを用いて計算するとθ=178.96度と
なり、実験データと一致した。
【0018】
以上のようにして作製した校正試料は、たとえば非特許文献1に記載されている標準角度を持つ標準試料(AS100P−A)のような角度補正用標準試料と相補的な角度を持つ角度補正用標準試料として利用することができる。
【0019】
ピエゾ素子の校正は、AFMなどにより、この出願の発明の方法により得られた凹凸面を走査し、得られたデータを下に、水平方向と垂直方向へのピエゾ素子の変化パラメーターを角度が再現するような比率に調整することにより行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】熱処理後のLa2CuO4単結晶の(110)面のAFM像を示す図である。
【図2】AFM像からのLa2CuO4単結晶の(110)面の断面プロファイルを示す図である。
【図3】双晶境界における構造モデルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(110)面を鏡面研磨したLa2CuO4単結晶を230から500℃の温度でアニールした後、徐冷することにより、(110)面に断面が鋸歯状の凹凸を有する双晶構造の校正試料を作製することを特徴とする校正試料の作製方法。
【請求項2】
アニール後の冷却速度を1から20℃/分とすることを特徴とする請求項1の校正試料の作製方法。
【請求項3】
アニール時間を5から60分とすることを特徴とする請求項1の校正試料の作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−220517(P2006−220517A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−33721(P2005−33721)
【出願日】平成17年2月10日(2005.2.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2004年11月8日 日本表面科学会発行の「2004年(平成16年) 第24回 表面科学講演大会要旨集」に発表
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】