説明

核酸分析方法、及び核酸分析装置

【課題】
本発明の目的は、核酸に結合した蛍光分子を金属構造体から離し、局所表面プラズモン場の領域内に保持して測定することに関する。
【解決手段】
本発明は、層流により、核酸に結合した蛍光分子を、局所表面プラズモン場の領域内に保持して測定することに関する。例えば、金属構造体に対して光照射して局在型表面プラズモン場を形成し、一部を固定した蛍光標識核酸を層流に漂わせ、蛍光標識を前記局在型表面プラズモン場に配置し、蛍光標識からの蛍光を取得し、核酸を分析する。本発明により、核酸に結合した蛍光分子を、局所表面プラズモン場の領域内に確実に保持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸分析方法及び核酸分析装置に関する。例えば、蛍光を用いた単一分子計測に関する。
【背景技術】
【0002】
現在のDNAシーケンス解析法は、サンガー法と呼ばれるDNA断片調整法と電気泳動法を組合せた方法が用いられており、ヒトゲノム解析等に用いられて大きな成果をあげている。しかしながらテーラーメイド医療などの観点から個人のゲノム解析を考えたとき、従来法で一度に解析できるDNA断片の長さよりもはるかに長い断片を、迅速・簡便・安価に解析できる技術が強く求められている。従来の法の改良のみではこれらの要求に応えることは不可能とされている。従来法の解析効率を制限している要因を取り除くことができる可能性の1つとして、単一分子の検出及び識別を利用した方法が提案されている。この要因とは読み取るべき塩基数の冗長度の問題である。従来法で解析できる断片の長さは約1000塩基、典型的には500から700塩基である。従って読み取るべき塩基の数は実際のDNA長さの10倍程度になる。これを冗長度10と呼ぶ。現在実用化されているDNAシーケンサーは全てサンガー法と電気泳動法を組合せたものである。これらの方法では多チャンネル化(〜384)によって解析効率の向上が図られているものの、冗長度の問題は未解決のままである。
【0003】
1本のDNAを用意して、その末端から順番に塩基を識別できるならば冗長度の問題を解決できる。このアイデアを実現するために、走査型電子顕微鏡を用いてDNAを直接シーケンシングする方法や、1本鎖DNAがナノメートルサイズの孔(ポア)を通過するときの電圧値を塩基に変換するナノポアを用いた方法が提案されている。
【0004】
また光技術を用いた単一分子計測に基づく方法も提案されている。この方法は、単一分子計測を行う反応場をアレイ化することで、超並列的な解析(100万個/平方ミリメートル)が可能という特徴がある。一つは、1本のDNAの末端からエキソヌクレアーゼを用いてヌクレオチドを1個ずつ順番に切断して検出する方法(エキソヌクレアーゼ法)である。もう一つは、1本の鋳型DNAを用意して、その塩基配列と相補的なヌクレオチドをDNAポリメラーゼが1個ずつ取り込むその場所で、ヌクレオチドを検出し同定する方法である(ポリメラーゼ法)。エキソヌクレアーゼ法は、標識された色素が酵素反応を妨害するという課題を未だ解決できていない。一方、ポリメラーゼ法は、蛍光標識する部位を工夫することにより、標識された色素が酵素反応を妨害するという困難を解決できる可能性がある。いずれの方法でも蛍光量子収率が大きい(0.1以上)蛍光色素で標識した蛍光ヌクレオチドが必要になる。ヌクレオチド自体は蛍光量子収率が低い(〜10-4)ため、このままでは単一分子検出は不可能である。ポリメラーゼ法では蛍光ヌクレオチドがポリメラーゼの周りに十分量存在することが前提となる。もしヌクレオチドの量が少なく、ヌクレオチドがポリメラーゼと会合する過程がポリメラーゼの反応速度より遅くなると会合過程が律速段階になる。ヌクレオチドとポリメラーゼの会合平衡定数を既知として、必要なヌクレオチドの濃度を評価すると、要求されるヌクレオチドの濃度は10-6Mに達する。この濃度は通常の単一分子検出で使用される試料濃度(10-9M以下)に比べて1000倍以上高濃度である。このような高濃度中で1個の分子を検出するためには、観測体積を十分小さくする必要がある。十分小さな観測体積をポリメラーゼがDNAに結合している部分に設定して、ms程度の時間内に蛍光を測定して色素を同定できることがポリメラーゼ法の要件である。但し蛍光色素の光退色の問題、蛍光標識が酵素反応を妨害するという懸念が常に付きまとう。
【0005】
高濃度中で1個の分子を検出するためのもうひとつの方法は、プローブDNA上に補足された蛍光色素1分子と未反応基質の蛍光分子とを識別するため、プローブDNA上に補足された蛍光色素だけが強く光り、浮遊する蛍光色素が光らない、あるいは無視されるほど弱く光るような条件を作ることであり、局在表面プラズモンにより実現できることが期待される(非特許文献1)。
【0006】
局在表面プラズモン現象は、プローブDNA上の蛍光色素だけの輻射を効率的に行うという考え方に基づくものであり、(非特許文献2)に報告されているように、局在型表面プラズモンが分子の光吸収による電子遷移と励起一重項から基底状態への輻射遷移の両方の確率を高めるという物理現象によるものである。局在型表面プラズモンの蛍光増強効果は数倍から数十倍程度見込むことができる。プローブDNAを固定した金属構造体の表面で局在型表面プラズモンが発生すれば、プローブDNAにだけ取りこまれた色素だけが蛍光増強の恩恵を受け、浮遊する色素とは数倍から数十倍以上の蛍光強度の差がもたらされる。但しその影響が及ぶ範囲は金属構造体の直径程度と考えられている(非特許文献3)。一方で金属から一定の距離内においては、蛍光強度がほぼゼロになる消光現象が発生してしまう。従って局在表面プラズモンによる測定では、蛍光分子を金属構造体表面に吸着させずに、蛍光増強場に蛍光色素を保持した状態で測定しなければならない(非特許文献4)。金属構造体の適切な大きさは、照射する光の波長により異なる(非特許文献5)。すなわち表面プラズモンの発生に適する共鳴周波数は、金属構造体表面の自由電子群と光との相互作用によるものである。励起光を可視光とすると、金属構造体の大きさは、幅・高さ共に30から1000nm程度が適しているが、この条件に縛られるものではない。
【0007】
表面プラズモンによる蛍光増強の例としては、(非特許文献6)に報告されているようなナノメートルオーダーの銀のアイランド構造を用いたものや、(非特許文献7)に報告されているような金の直径数十ナノメートルの球状微粒子を用いたものが知られている。更に金ナノ微粒子が近接していると、その間隙には強力な局在表面プラズモンが発生することが(非特許文献8)において計算シミュレーションにより予測されている。また強力な表面プラズモンが発生する構造として、先端が先鋭化した微小な針が知られている。例えば(非特許文献9)では先端を先鋭化すればするほど表面プラズモンが強く発生する可能性が計算シミュレーションにより予測されている。単一分子検出と局所表面プラズモンの利用により、酵素の取り込み効率が律速となることなく高濃度な基質条件下でも単一分子検出できるため、単一分子シーケンスが可能になると期待される。
【0008】
【非特許文献1】Nature Genetics 1999, vol21 No.1 supplement
【非特許文献2】Physical Review Letters 2006, 96, pp 113002-113005
【非特許文献3】J. Phys. Chem. B 22557-22562, 110, 2006
【非特許文献4】Nanotechnology 18(2007) 044017
【非特許文献5】J. Fluoresc. 7-13, 17, 2007
【非特許文献6】Anal. Chem. vol. 78, 6238-6245
【非特許文献7】Nanotechnology, 2007, vol. 18, pp044017-044021
【非特許文献8】J. Comput. Theor. Nanosci. 2007, vol. 4 pp 686-691
【非特許文献9】Nanotechnology, 2006, vol.17, pp475-482
【非特許文献6】Chem. Lett., 33(5), p.628 (2004)
【非特許文献7】Lab Chip, 4, p.1 (2004)
【非特許文献8】Proc. Roy. Soc. Lond., A319, pp.127-136 (1974)
【非特許文献9】Lab Chip, 1, p.8 (2002)
【非特許文献10】P.N.A.S. 2006, vol. 103, pp 19635-19640
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
局所表面プラズモンを用いた単一分子シーケンスでは、局在表面プラズモン場の領域に保持された蛍光色素を確実に検出することが求められるが、発明者らが局在表面プラズモンに基づく蛍光増強効果を、金微粒子を用いて実験した結果、特に1本鎖核酸の場合には金微粒子表面に吸着して消光場に入るため、所望の蛍光増強が得られないことが判明した。金属に固定化された1本鎖DNAの場合、DNAはコイル状となり金属表面に留まると考えられる。また2本鎖DNAの場合は直線状に伸びるため、金属表面に留まることはないと言われているが、実際2本鎖核酸においても所望の蛍光強度が得られないことから、全ての2本鎖DNAが局在表面プラズモンの領域に保持されているわけではないと考えられた。これらの原因としては、金属表面と核酸のリン酸基との相互作用や、核酸の高次構造、核酸のブラウン運動による一時的な蛍光分子の位置の揺らぎなどが考えられた。核酸の拡散係数は約1×10-102/秒であるため、10マイクロメートル/秒程度の速度でブラウン運動していると考えられる。
【0010】
本発明の目的は、核酸に結合した蛍光分子を金属構造体から離し、局所表面プラズモン場の領域内に保持して測定することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、層流により、核酸に結合した蛍光分子を、局所表面プラズモン場の領域内に保持して測定することに関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、核酸に結合した蛍光分子を、局所表面プラズモン場の領域内に確実に保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
上記及びその他の本発明の新規な特徴と効果について図面を参照しながら説明する。尚、図面は説明のために用いるものであり、権利範囲を限定するものではない。
【0014】
本実施例は、金属構造体に対して光照射して局在型表面プラズモン場を形成し、一部を固定した蛍光標識核酸を層流に漂わせ、蛍光標識を前記局在型表面プラズモン場に配置し、蛍光標識からの蛍光を取得し、核酸を分析する核酸分析方法に関する。
【0015】
また、本実施例は、層流を形成するマイクロ流路と、局在型表面プラズモン場を形成する金属構造体と、金属構造体に光照射する光源と、一部を固定した蛍光標識核酸と、蛍光を検出する検出器と、を備え、蛍光標識核酸を層流に漂わせ、蛍光標識を前記局在型表面プラズモン場に配置し、蛍光標識からの蛍光を取得し、核酸を分析する核酸分析装置に関する。
【0016】
好ましくは、金属構造体の一部に、前記蛍光標識核酸を固定する。
【0017】
また、好ましくは、蛍光標識核酸を金属構造体に巻きつけて固定する。
【0018】
また、好ましくは、金属構造体を、微粒子,錐構造,柱構造、又はサンドイッチ構造とする。
【0019】
また、好ましくは、金属構造体を、金,銀、又は白金から構成する。
【0020】
また、好ましくは、蛍光測定または表面増強ラマン散乱により核酸を分析する。
【0021】
また、好ましくは、層流の流線方向に対して局在プラズモン場を形成する。
【0022】
1分子の反応制御と観察には、厚み50μm程度のマイクロチャネルが有用であると言われている。これは、1分子の観察には液厚が小さい方が良いこと、サンプル量が少量で済むこと、前処理や検出部分を1つの小さなチップ及びデバイスで構築できる可能性があること、どこへでも持ち運べてオンサイトで医療及び環境などの分析が可能となること、といった優れたメリットが考えられる為である。
【0023】
一方、流路サイズが1から数百マイクロメートルで定義されるマイクロ流路では、低レイノルズ数のため、流体は層流になることが知られている。流れには層流と乱流という2つの状態があり、層流になるか乱流になるかは無次元量であるレイノルズ数によって整理される。レイノルズ数は、慣性力と粘性力の比である。円管の内径をd、断面平均流速(流量/断面積)をv、流体の動粘度をνとすると、レイノルズ数(Re)はvd/νで表せる。一般的に、円管内を流れる流体の場合は、レイノルズ数が2,000程度以下で層流、2,000〜4,000程度で遷移領域(層流,乱流が変化する領域)、4,000程度以上で乱流とされている。両者における本質的な違いは、速度変動の有無である。乱流では、速度はその方向も含めて常に変動しており、結果として流れは攪拌されているのと同様になる。なおレイノルズ数が約2,000〜4,000では、層流と乱流とが混在した不安定な状態となり、遷移域と呼ばれている。この時、層流から乱流へと遷移を始めるレイノルズ数の値(円管内流れでは2300)を臨界レイノルズ数といい、流路の形状によりその値は異なったものになる。例えば、対象物体が平板の場合、レイノルズ数が400,000以下で層流領域、500,000程度で遷移し、それ以上で乱流に発達する。
【0024】
層流状態においては従来では考えられなかった特異的な流体挙動をミクロな系において実現でき、このような特異的な挙動を示す流体の中では、流体内の高分子が変形することが知られている。マクロな系で層流状態を達成するためには非常に低速で送液しなければならない。流体内の高分子の変形は、例えばDNAのハイブリダイゼーションや分子修飾を容易にし、また、分子機能を変化させると考えられるため、マイクロ流体での化学反応を考える上で重要である。
【0025】
例えば(非特許文献10)では、流路サイズより1000分の1程度小さいナノサイズのDNAあるいは蛋白質が、マイクロ流路内で伸長する現象(DNAあるいはタンパク質が直線状となる現象)を報告している。またマイクロ流路内では、DNAが伸長・配向現象や分子ふるい効果があることが(非特許文献11)で示されており、静止時にはランダムコイル状に丸まっていたDNAが流動中は流れに沿って伸長・配向することを、蛍光分子で標識したDNAを蛍光顕微鏡と高感度カメラを用いて観察している。
【0026】
このように、マイクロ流路内を通液させるだけでDNAの凝集−伸長構造は制御できる。DNA鎖の伸長現象は、マイクロチャネル内に発生している放物線状の速度分布により誘起されたせん断応力の影響と考えられている。層流がフレキシブルなポリマーを伸長させるコイル−ストレッチ転移は、(非特許文献12)によりその可能性が示唆されている。但し、マイクロ流路内に発生するせん断応力の大きさは、水素結合力の3〜4桁小さい値と見積もられており、せん断応力が直接的に分子を伸長させることは考えにくい。この現象は、主に水により溶媒和された分子構造が、せん断応力により不安定化し、そのアンバランスを相殺するように自発的に形態や構造を変化させるためと考えられる。水中でのDNA構造のシミュレーションでは、DNA両端が螺旋を描くようなヘリックス構造をとって安定化している。この現象は、DNA分子内での非結合性相互作用(ファンデルワールス力,クーロン力,水素結合力)よりも、溶媒の水分子との非結合性相互作用、特に水素結合力により、DNAが伸長したまま構造が安定化した為である。層流によりもたらされる高次構造の変化は、その化学反応性を変化させるため、バッチ式の反応と比較して高効率あるいは特異的な挙動を示すことが期待できる。マイクロ流体のせん断応力や静水圧差が、ナノサイズの分子の三次元構造にどのような影響を及ぼすか解明するためには、分子シミュレーションによるアプローチが有効である。DNA分子形態の変形は、層流中での拡散係数や2次流れから受ける影響の大小に関係する一方、DNAのハイブリダイゼーション効率にも影響するものと考えられる。
【0027】
また二次元平板上に微細構造を構築したチップでは、流路の折り返し部分で複雑な流体構造を呈することが、(非特許文献13)で明らかになっている。流速が小さいときは慣性力の影響で2液の界面が変形し、その後に逆方向の慣性力を受けることによって初期の界面状態に復元する。しかし、流速が大きくなると、2次流れの影響による流体変形が著しく、その後の逆方向の慣性力により、更に複雑な界面形状となる。このような界面の変形程度は、流速だけではなく、流体の密度・粘度・壁面との相互作用(流体スリップ)の大小によっても複雑に変化する。二次流れは流速により左右される。以上の点を鑑みた上で、金属構造体を流路内に形成することが望ましい。
【0028】
<核酸分析デバイス>
本実施例のデバイスの概念を、図1を用いて説明する。プローブDNA上に補足された蛍光色素分子101と未反応基質の蛍光色素分子102とを識別するためには、局在表面プラズモン場を発生させる必要がある。平滑な基板103上の金属構造体104に励起光を照射することで、局在表面プラズモン場が発生し、プローブDNA上の蛍光色素分子101だけの輻射過程が効率よく起こる。但し、この領域は金属構造体104の直径程度と考えられているが、金属構造体104の極近傍では蛍光強度が0になる消光現象が発生する。非送液時には、プローブ105が金属構造体104に吸着しやすいため、消光現象の発生する蛍光色素分子101は消光場に入る。またブラウン運動により、蛍光色素分子101は局在表面プラズモン場と消光場を行き来するため、常に輻射過程が効率よく起こるわけではない。一方、送液時には、層流状態となるため、プローブ105は伸長する。従って、消光場に蛍光色素分子101が入ることは無いため、輻射過程は効率よく起こる。このことは、送液方向に対して表面プラズモン場が形成される図2にもあてはまる。
【0029】
近接した二つの金構造体の間にDNAプローブを固定した核酸分析デバイスの製造方法を、図2を用いて説明する。平滑な支持基体201上に2種類の電子線用ポジ型レジスト202,203を別々にスピンコート法により塗工する。平滑な支持基体としては、ガラス基板,サファイア基板,樹脂基板等が用いられる。デバイスとしたときに、金属構造体を形成した面と反対側の裏面より励起光を照射する必要がある場合には、光透過性に優れた石英基板やサファイア基板を用いればよい。2種類の電子線用ポジ型レジストとしては、例えば、ポリメチルメタクリレートとZEP−520(日本ゼオン社製)の組み合わせを用いることができる。ZEP−520は即差に電子線感受率の大きい塩素と脱炭酸反応などでラジカルを生みやすいエステル部位を持ち、高分子側鎖には三級炭素が配置されていてラジカル的β位切断により解重合しやすい構造を有する。基板上のマーカーの位置を用いて位置合わせを行ったうえ2回電子線直描露光を行って、各々のレジストに基板側の電子線用ポジ型レジスト202の方が電子線用ポジ型レジスト203よりの穴径が大きいスルーホールを形成する。例えば、各々直径300nm及び250nmのスルーホールを形成する。このスルーホールをテーパーが大きいデポジション用のマスクとして活用する。スルーホールは並行処理で解析できる核酸の分子数に依存するが、製造上の簡便さ・歩留まりの高さと並行処理で解析できる核酸の分子数を勘案すると、1μm程度のピッチでスルーホールを形成することが望ましい。スルーホール形成領域も、並行処理で解析できる核酸の分子数によるが、検出装置側の位置精度,位置分解能にも大きく依存する。例えば、1μmピッチで反応サイト(金属構造体)を構成した場合、スルーホール形成領域を1mm×1mmとすると、100万反応サイトを形成できる。スルーホールを形成後、金属構造体の組成にしたがって、チタン204,金205,チタン206,SiO2膜207,チタン208,金209をスパッタリングで製膜する。チタンは、サファイア−金,金−SiO2間の接着を補強する意味で入れることが好ましく、クロム等の他の金属を使用することができる。2層レジストを剥離後、金209をエッチングすることで、チタン208を露出させる。金209のエッチングは、ウエットエッチングが好ましく、エッチング液にはAURUM−301(関東化学社製)を使用することができる。AURUMは従来品と比較して、超高精細パターンへの対応が可能であり、更にAuエッチング後のAuバンプ表面状態についても非常に滑らかな形状が得られる。また優れた液安定性、及びAu溶解量が多いため浴ライフが長く、大幅なコストダウンを期待できる。また消防上危険物ではないなど実使用上の有効な特徴を備えている。次に、ドライエッチングにより、チタン208,SiO2膜207,チタン206をエッチングし、下層の金205を露出させる。このエッチングには、アルゴンプラズマエッチングが好ましい。次に、もう一度、金のウエットエッチングで、下層の金205の横幅を100nmから500nm程度になるまでエッチングする。この金205の最終的な大きさは、局在型表面プラズモンを生成させるために照射する光の波長によって調節する必要がある。例えば、500nm程度の光を用いる場合には、横幅は50nmから500nm程度、高さは50nmから500nm程度が効果的である。最後に、SiO2膜207にDNAプローブを固定する。固定方法には種々の方法が考えられるが、例としてアミノシラン処理を用いる方法を記述する。アミノシラン処理により、SiO2膜207にアミノ基を導入する。その後、ビオチン−スクシンイミド(Pierce社製NHS−Biotin)を反応させた後、ストレプトアビジンを反応させる。次に、予めビオチンを末端に修飾しておいたDNAプローブ210を反応させることで、近接した二つの金構造体の間にDNAプローブを固定した核酸分析デバイスを完成することができる。DNAプローブの長さには、特別な制限はないが、あまり長く、あるいは極端に短くすると、DNAが金構造体に隠れてしまい、核酸試料とのハイブリダイゼーション効率が悪くなる恐れがある。20から50塩基長が好ましい。金以外の銀や白金を用いた場合にも、上記と同様に作製できる。
【0030】
またSiO2膜207の外周の半分に金などをスパッタで成膜することで、核酸を任意の側に固定化することも可能である。この場合、核酸をSiO2膜207の任意の側につけることができる。反応液や洗浄液の送液方向の上側にスパッタにより形成された金属層、下側に核酸を配置することで、層流発生時に核酸が金属構造体の周りにくっつく危険性を回避できる。但し、金属同士が接しないように中間層を設ける必要がある。
【0031】
次に、金の円錐形の先端部にDNAプローブを固定した構造の核酸分析デバイスの製造方法を、図3を用いて説明する。平滑な支持基体301上に2種類の電子線用ポジ型レジスト302,303を別々にスピンコート法により塗工する。平滑な支持基体としては、ガラス基板,サファイア基板,樹脂基板等が用いられる。デバイスとしたときに、金属構造体を形成した面と反対側の裏面より励起光を照射する必要がある場合には、光透過性に優れた石英基板やサファイア基板を用いればよい。2種類の電子線用ポジ型レジストとしては、例えば、ポリメチルメタクリレートとZEP−520(日本ゼオン社製)の組合せを用いることができる。基板上のマーカーの位置を用いて位置合わせを行ったうえ2回電子線直描露光を行って、各々のレジストに基板側の電子線用ポジ型レジスト302の方が電子線用ポジ型レジスト303よりも穴径が大きいスルーホールを形成する。例えば、各々直径300nm及び100nmのスルーホールを形成する。このスルーホールを、テーパーが大きいデポジション用のマスクとして活用する。スルーホールの形成後、金属構造体の組成にしたがって、チタン304,金305をスパッタリングで製膜する。チタンは、サファイア−金間の接着を補強する意味で入れることが好ましく、クロム等の他の金属を使用することができる。形成される金のスパッタ膜305は図3に示すように、円錐型となる。この円錐型の形状をコントロールするには、2層レジストの各々の膜厚と穴径を変えることが有効である。2層レジストを剥離後、SiO2膜306をスパッタリングで製膜する。次に、反応性イオンエッチング(CF4/O2使用)により、SiO2膜306をエッチングして、金305の先端部を露出する。次にヒドロキシシラン処理により、SiO2膜306上にヒドロキシ基を導入し、非特異的吸着を防止する。最後に、末端にチオール基を修飾したDNAプローブ307を反応させることで、金の円錐形の先端部にDNAプローブを固定した構造の核酸分析デバイスを完成することができる。上記製造方法は、金以外の銀や白金を用いた場合にも、同様に作製されることは言うまでもない。
【0032】
本実施例に係る核酸分析デバイスの好ましい構成の一例について、図4を参照しながら説明する。光透過性支持基体401の上に、金属構造体が格子状に配置されている領域402が複数搭載されている。金属構造体は、先に述べた、近接した二つの金構造体の間にDNAプローブを固定した金属構造体や、金の円錐形の先端部にDNAプローブを固定した構造の金属構造体が該当する。配置の間隔は、解析しようとする核酸試料,蛍光検出装置の仕様によって適切に設定できる。例えば、25mm×75mmのスライドガラスを光透過性支持基体401とし、1マイクロ・メートル間隔で格子状に金属構造体を配置した領域402を5mm×8mmとすると、1領域当たり4000万種類の核酸分子を解析でき、その領域を8個程度、光透過性支持基体401(スライドガラス)上に搭載することができる。したがって、例えば、RNAの発現解析に用いる場合には、一細胞当たり約40万分子のRNAが発現していることから、RNAの発現頻度解析をデジタルカウンティングのように十分に正確に行うことができ、一枚の基板上で8解析程度行うことができる。
【0033】
前記のように、複数の反応領域を光透過性支持基体401の上に設けるには、予め流路を設けた反応チャンバー403を光透過性支持基体401の上にかぶせることで達成できる。反応チャンバー403は、流路の形成には流路407の溝を予め掘ったPDMS(Polydimethylsiloxane)等の樹脂基体またはガラスなどからなり、デバイス上に張り合わせて使用することになる。具体的に述べると、核酸試料,反応酵素,バッファー,ヌクレオチド基質等を保存・温度管理する温調ユニット404,反応液を送り出す分注ユニット405,液の流れを制御するバルブ406,廃液タンク408から構成される。必要に応じ、温調機を配置し、温度制御を行う。
【0034】
蛍光測定時には、反応液または洗浄液を流路407に10メートル/秒以下(好ましくは0.1メートル/秒以下)の流速で流して層流を発生させて、SiO2に固定化された核酸の構造を確実に伸長させることで金属構造体から離し、核酸に結合した蛍光分子を金属構造体により生み出される局在プラズモン表面領域内に保持することで、蛍光増強効果による蛍光検出が可能となる。静置状態でも蛍光検出可能な金属構造体も存在するが、金属構造体表面への核酸の吸着やブラウン運動や核酸の高次構造により、蛍光ヌクレオチドが伸長しているにもかかわらず、金属構造体の極近傍に存在して蛍光ヌクレオチドが消光場に入っている場合も存在する。この場合、蛍光ヌクレオチドが伸長しているにもかかわらず見落とすことになり、単一分子シーケンスにおいては正しい塩基配列解析ができないことになる。従って、層流条件下で強制的に核酸を伸長させる操作が必要となる。但し、層流の発生条件は、流路形状ごとに定められたレイノルズ数により決定されるため、流速は、前記条件に縛られるものではない。また、反応終了時には、洗浄液が反応チャンバー403の流路を通じて供給され、廃液タンク408に収納される。
【0035】
塩基伸長反応が進むにつれて、層流条件下での核酸構造の伸長時に、蛍光分子が局在表面プラズモンの領域を超えてしまうことがある。この場合には、局在表面プラズモンの領域を超えてしまう領域に、別の金属構造体により形成される局在表面プラズモンの領域をオーバーラップさせる方法がある。局在表面プラズモンの領域が金属構造体の直径程度であるため、隣接する金属構造体間の距離は、金属構造体の直径程度であることが望ましい。
【0036】
また、別の方法として、核酸をサンドイッチ型や柱構造の金属構造体の周囲に、核酸を巻きつけることで蛍光分子と金属構造体との距離を縮めることができるため、再び局在表面プラズモン領域に蛍光分子を配置することが可能である。但し、金属構造体への巻きつけ長さが局所表面プラズモン領域の幅より長い場合には、蛍光分子は局所表面プラズモン領域の手前に配置されるため、消光場に入り検出できない。但し、蛍光ヌクレオチドを用いて更に塩基伸長させることで再び局所表面プラズモン領域に蛍光分子を保持することができるため、塩基配列の解析が可能となる。この方法は、局在表面プラズモン領域が狭く、10から20塩基しかシーケンスできない場合に、異なる位置を塩基配列解析することで例えばmRNAを同定できるといった特徴を持つ。
<核酸分析装置>
本実施例に係る、核酸分析デバイスを用いた核酸分析装置の好ましい構成の一例について図5を参照しながら説明する。
【0037】
カバープレート501と検出窓502と溶液交換用口である注入口503と排出口504から構成される反応チャンバーに前記のデバイス505を設置する。なお、カバープレート501と検出窓502の材質として、PDMS(Polydimethylsiloxane)を使用する。また、検出窓502の厚さは0.17mmとする。YAGレーザ光源(波長532nm,出力20mW)507およびYAGレーザ光源(波長355nm,出力20mW)508から発振するレーザ光510および509を、レーザ光509のみをλ/4板511によって円偏光する。そして、ダイクロイックミラー512(410nm以下を反射)によって、前記2つのレーザ光を同軸になるよう調整した後、レンズ513によって集光する。その後、プリズム514を介してデバイス505へ臨界角以上で照射する。本実施例によれば、レーザ照射により、デバイス505表面上に存在する金属構造体において局在型表面プラズモンが発生し、金属構造体に結合したDNAプローブにより捕捉された標的物質の蛍光体は蛍光増強場内に存在することになる。蛍光体はレーザ光で励起され、その増強された蛍光の一部は検出窓502を介して出射される。また、検出窓502より出射される蛍光は、対物レンズ515(×60,NA1.35,作動距離0.15mm)により平行光束とされ、光学フィルタ516により背景光及び励起光が遮断され、結像レンズ517により2次元CCDカメラ518上に結像される。
【0038】
逐次反応方式の場合には、蛍光色素付きヌクレオチドとして、(非特許文献14)に開示されているような、リボースの3′OHの位置に3′−O−アリル基を保護基として入れ、また、ピリミジンの5位の位置に、あるいはプリンの7位の位置に、アリル基を介して蛍光色素と結びつけたものが使用できる。アリル基は、光照射あるいはパラジウムと接触することで切断されるため、色素の消光と伸長反応の制御を同時に達成することが出来る。逐次反応でも、未反応のヌクレオチドを洗浄で除去する必要はない。さらに、洗浄工程が必要ないことから、リアルタイムで伸長反応を計測することも可能である。この場合には、前記ヌクレオチドにおいて、リボースの3′OHの位置に3′−O−アリル基を保護基として入れる必要は無く、光照射で切断可能な官能基を介して色素と結びついているヌクレオチドを用いれば良い。
【0039】
蛍光測定時には、反応液または洗浄液を流路407に流して層流を発生させて、SiO2に固定化された核酸の構造を確実に伸長させることで金属構造体から離し、核酸に結合した蛍光分子を金属構造体により生み出される局在プラズモン表面領域内に保持することで、蛍光増強効果による蛍光検出が可能となる。
【0040】
逐次反応を行う場合には反応液を流路407に流しながら反応させる必要は無く、静置反応でも構わない。但し、未反応の蛍光ヌクレオチドを洗浄後に蛍光測定を行う際には、洗浄液などを流しながら層流条件下で検出することが望ましい。蛍光ヌクレオチドを含む溶液を流して層流状態で蛍光検出を行う場合にはリアルタイムで塩基伸長を検出することが可能であり、更に、核酸の構造が伸長していることから、蛍光ヌクレオチドとの反応効率が高くなることが期待される。
【0041】
上記のように、本実施例の核酸分析デバイスを用いて核酸分析装置を組上げることで、洗浄工程を入れることなく、解析時間の短縮化,デバイス及び分析装置の簡便化が図れ、逐次反応方式のみならず、リアルタイムで塩基の伸長反応を計測することも可能となり、従来技術に対して大幅なスループットの改善が図れる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本実施例の核酸分析デバイスの概念を説明するための図である。
【図2】本実施例の核酸分析デバイスの製造方法の一例を説明するための図である。
【図3】本実施例の核酸分析デバイスの製造方法の一例を説明するための図である。
【図4】本実施例の核酸分析デバイスの構成の一例を説明するための図である。
【図5】本実施例の核酸分析デバイスを用いた核酸分析装置の一例を説明するための図である。
【符号の説明】
【0043】
101 蛍光色素分子
102 未反応基質の蛍光色素分子
103 基板
104 金属構造体
105 プローブ
201 平滑な支持基体
202,203,302,303 電子線用ポジ型レジスト
204,206,208,304 チタン
205,209,305 金
207,306 SiO2
301 平滑な支持基体
401 光透過性支持基体
402 格子状に金属構造体を配置した領域
403 反応チャンバー
404 温調ユニット
405 分注ユニット
406 バルブ
407,506 流路
408 廃液タンク
501 カバープレート
502 検出窓
503 注入口
504 排出口
505 デバイス
507,508 YAGレーザ光源
509,510 レーザ光
511 λ/4板
512 ダイクロイックミラー
513 レンズ
514 プリズム
515 対物レンズ
516 光学フィルタ
517 結像レンズ
518 2次元CCDカメラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属構造体に対して光照射して局在型表面プラズモン場を形成し、
一部を固定した蛍光標識核酸を層流に漂わせ、蛍光標識を前記局在型表面プラズモン場に配置し、
蛍光標識からの蛍光を取得し、核酸を分析する核酸分析方法。
【請求項2】
請求項1記載の核酸分析方法であって、
前記金属構造体の一部に、前記蛍光標識核酸が固定されていることを特徴とする核酸分析方法。
【請求項3】
請求項1記載の核酸分析方法であって、
前記蛍光標識核酸を前記金属構造体に巻きつけて固定していることを特徴とする核酸分析方法。
【請求項4】
請求項1記載の核酸分析方法であって、
前記金属構造体が、微粒子,錐構造,柱構造、又はサンドイッチ構造であることを特徴とする核酸分析方法。
【請求項5】
請求項1記載の核酸分析方法であって、
前記金属構造体が、金,銀、又は白金から構成されることを特徴とする核酸分析方法。
【請求項6】
請求項1記載の核酸分析方法であって、
蛍光測定または表面増強ラマン散乱により核酸を分析することを特徴とする核酸分析方法。
【請求項7】
請求項1記載の核酸分析方法であって、
層流の流線方向に対して局在プラズモン場が形成されていることを特徴とする核酸分析方法。
【請求項8】
層流を形成するマイクロ流路と、
局在型表面プラズモン場を形成する金属構造体と、
金属構造体に光照射する光源と、
一部を固定した蛍光標識核酸と、
蛍光を検出する検出器と、を備えた核酸分析装置において、
蛍光標識核酸を層流に漂わせ、蛍光標識を前記局在型表面プラズモン場に配置し、蛍光標識からの蛍光を取得し、核酸を分析することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項9】
請求項8記載の核酸分析装置であって、
前記金属構造体の一部に、前記蛍光標識核酸が固定されていることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項10】
請求項8記載の核酸分析装置であって、
前記蛍光標識核酸を前記金属構造体に巻きつけて固定していることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項11】
請求項8記載の核酸分析装置であって、
前記金属構造体が、微粒子,錐構造,柱構造、又はサンドイッチ構造であることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項12】
請求項8記載の核酸分析装置であって、
前記金属構造体が、金,銀、又は白金から構成されることを特徴とする核酸分析装置。
【請求項13】
請求項8記載の核酸分析装置であって、
蛍光測定または表面増強ラマン散乱により核酸を分析することを特徴とする核酸分析装置。
【請求項14】
請求項8記載の核酸分析装置であって、
層流の流線方向に対して局在プラズモン場が形成されていることを特徴とする核酸分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−128141(P2009−128141A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−302490(P2007−302490)
【出願日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】