説明

核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材を備えたバイオ人工臓器システム

【課題】使用する際に、バイオ人工臓器に充填されている細胞から個体の体液に漏出する可能性のある核酸及び/又はウイルスを除去することができ、バイオ人工臓器として使用する際に、高い細胞生存率を示し、細胞の機能を高度に維持し、治療等の用途において、細胞の機能を十分に効率よく発揮し、バイオ人工臓器としての機能を十分に発揮するバイオ人工臓器を提供すること。
【解決手段】動物細胞が充填されうるバイオ人工臓器用モジュールと、該動物細胞に由来する核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材と、動物細胞とを有し、該バイオ人工臓器用モジュール内に、動物細胞が充填され、該吸着材が、該バイオ人工臓器用モジュールの内部及び/又は外部に設置されてなる、バイオ人工臓器システム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材を備えたバイオ人工臓器システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人工材料のみからなる人工臓器が開発されているが、治療効果が十分でない場合がある。そこで、人工材料と生きている細胞とを組み合わせたバイオ人工臓器、例えば、バイオ人工肝臓(例えば、非特許文献1、非特許文献2、非特許文献3参照)、バイオ人工腎臓(例えば、非特許文献4参照)、バイオ人工膵臓(例えば、特許文献1参照)等が研究されている。
【0003】
バイオ人工臓器の開発においては、充填される細胞の確保が必要であり、供給源が限られるヒト正常細胞は、量的に不足しているのが現状である。そのため、大量供給が可能な動物細胞や、増殖性に優れた癌細胞由来ヒト細胞が用いられている。
【特許文献1】特開平7−246211
【非特許文献1】デメトリオ(A.A.Demetriou)ら、Annals of Surgery、第239巻、第660頁〜第670頁、2004年
【非特許文献2】サスマン(N.L.Sussman)ら、Artificial Organs、第18巻、第390頁〜第396頁、1994年
【非特許文献3】コバヤシ(N.Kobayashi)ら、J.Artif.Organs、第6巻、第236頁〜第244頁、2003年
【非特許文献4】ヒュームズ(H.D.Humes)ら、Nature Biotechnology、第17巻、第451頁〜第455頁、1999年
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、1つの側面では、バイオ人工臓器を使用する際に、バイオ人工臓器に充填される細胞から個体の体液等に漏出する可能性のある核酸及び/又はウイルスを除去すること、高い細胞生存率を示すこと、細胞の機能を高度に維持していること、バイオ人工臓器としての機能を十分に発揮すること等の少なくとも1つを達成しうる、バイオ人工臓器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明の要旨は、
〔1〕 動物細胞が充填されうるバイオ人工臓器用モジュールと、該動物細胞に由来する核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材と、動物細胞とを有してなり、
該バイオ人工臓器用モジュール内に、動物細胞が充填され、
該吸着材が、該バイオ人工臓器用モジュールの内部及び/又は外部に設置されてなる、バイオ人工臓器システム、
〔2〕 該バイオ人工臓器用モジュールが、
(a)体液がその内側を流通する半透性を有する分離膜と、
(b)該分離膜に体液を導入するための導入口と、
(c)該分離膜から体液を導出するための導出口と、
(d)動物細胞を固定化するための細胞固定基材と、
(e)該(a)と(d)とを収納するチャンバーと、
を有し、
該チャンバー内において、該分離膜により体液が流通する経路が形成され、
該導入口が、該チャンバーの外部から分離膜に体液を導入可能に設置され、
該導出口が、該体液を該分離膜から該チャンバーの外部に導出可能に設置され、
該分離膜の近縁に該細胞固定基材が設置されてなる、前記〔1〕記載のバイオ人工臓器システム、
〔3〕 該吸着材が、分離膜から個体の体内環境に体液を導出するための経路上及び/又は体液の導出口に設置されてなる、前記〔1〕又は〔2〕記載のバイオ人工臓器システム、並びに
〔4〕 該吸着材が、分離膜及び/又は細胞固定基材に固定化されてなる、前記〔1〕又は〔2〕記載のバイオ人工臓器システム、
に関する。
【発明の効果】
【0006】
バイオ人工臓器を使用する際に、バイオ人工臓器に充填されている細胞から個体の体液に漏出する可能性のある核酸及び/又はウイルスを除去することができ、バイオ人工臓器として使用する際に、高い細胞生存率を示し、細胞の機能を高度に維持するため、治療等の用途において、細胞の機能を十分に効率よく発揮させることができ、バイオ人工臓器としての機能を十分に発揮させることができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明は、1つの側面では、動物細胞が充填されうるバイオ人工臓器用モジュールと、該動物細胞に由来する核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材と、動物細胞とを有し、
該バイオ人工臓器用モジュール内に、動物細胞が充填され、
該吸着材が、該バイオ人工臓器用モジュールの内部及び/又は外部に設置されたバイオ人工臓器システムに関する。
【0008】
本明細書において、体液とは、バイオ人工臓器を適用される個体、例えば、治療される個体〔患者、患畜等〕の血漿、組織間液、細胞内液等をいう。前記体液は、例えば、血液、血漿、血清を含む液体であってもよく、血液を血漿分離器に供して得られる血漿であってもよい。
【0009】
本発明のバイオ人工臓器システムは、核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材を備えていることを1つの大きな特徴とする。したがって、本発明のバイオ人工臓器システムによれば、該バイオ人工臓器システム中に存在する動物細胞から、該動物細胞に由来する核酸及び/又はウイルスが漏出若しくは放出された場合であっても、該核酸及び/又はウイルスが前記吸着材に吸着(捕捉)されるため、該バイオ人工臓器システムを適用した個体の体液への核酸及び/又はウイルスの混入を実質的に抑制することができるという優れた効果を発揮する。
【0010】
本発明のバイオ人工臓器システムに用いられる動物細胞としては、該バイオ人工臓器システムを適用する対象となる個体の種類、状態等に応じて適宜選択できる。前記動物細胞の供給源となる動物は、特に限定されないが、ヒト、サル、ブタ、ラット、マウス等が挙げられる。前記動物細胞としては、具体的には、人工肝臓として用いる場合、例えば、動物の肝細胞、より具体的には、ブタ初代肝細胞、ヒト肝癌由来肝細胞等が挙げられ、人工膵臓として用いる場合、例えば、動物の膵細胞、より具体的には、ブタ膵島細胞、マウスインスリノーマ細胞、マウス膵島細胞、ラット膵島細胞等が挙げられる。
【0011】
なお、本発明のバイオ人工臓器システムは、前記吸着材を備えているため、動物細胞として、適用対象となる個体とは異なる動物種の細胞を用いた場合であっても、免疫不適合、異種核酸の伝播、動物細胞に由来するウイルスの異種間感染を実質的に抑制することができるという優れた効果を発揮する。
【0012】
また、本発明のバイオ人工臓器システムには、動物細胞として、可逆性不死化細胞を用いることもできる。具体的には、本発明のバイオ人工臓器システムにおいて、動物細胞として、前記可逆性不死化細胞を用いる場合、可逆性不死化細胞を前記バイオ人工臓器用モジュールに充填した後、該バイオ人工臓器用モジュール内で該可逆性不死化細胞を増殖させ、増殖した可逆性不死化細胞から、不死化を引き起こしうる因子をコードする核酸を切り出す操作を行なうことができる。したがって、本発明のバイオ人工臓器システムにおいて、可逆性不死化細胞を用いる場合、治療等の用途において、バイオ人工臓器として使用する際、高い細胞生存率で、かつ高い機能を発揮するバイオ人工臓器システムを構築することができるという点で有利である。かかるバイオ人工臓器システムにおいては、不死化を引き起こしうる因子をコードする核酸が切り出された細胞として、動物細胞が前記バイオ人工臓器用モジュール内で維持される。
【0013】
前記可逆性不死化細胞とは、不死化を引き起こしうる因子をコードする核酸を、人為的に除去可能に保持又は該核酸の発現産物による機能を欠損可能に保持する細胞をいう。前記可逆性不死化細胞とは、より具体的には、例えば、遺伝子工学技術を利用し正常細胞のゲノムに前記増殖遺伝子を組み込むことにより、増殖が可能となった細胞であり、その後、組み込まれた増殖遺伝子を特異的に切り出すことで正常細胞に戻すことが可能な細胞をいう。前記可逆性不死化細胞は、例えば、部位特異的組換えの際に、部位特異的組換えを引き起こす酵素の標的として作用する少なくとも2つの配列、例えば、LoxP配列等の間に配置された不死化を引き起こしうる因子をコードする核酸を、所望の正常細胞に導入すること等により得られうる。得られた可逆性不死化細胞は、Creレコンビナーゼ等の部位特異的組換えを引き起こす酵素をコードする核酸を保持したウイルスベクター、例えば、アデノウイルスベクター等用いてトランスフェクションされることにより、前記不死化を引き起こしうる因子をコードする核酸が除去され、本質的に正常細胞と同等の機能を発揮するようになる。
【0014】
本明細書において、前記不死化を引き起こしうる因子をコードする核酸としては、細胞の分裂、増殖を促進するものであればよく、特に限定されないが、例えば、ヒトテロメラーゼタンパク質成分(hTERT)遺伝子、ras遺伝子、myc遺伝子、シミアンウイルス40 large T抗原遺伝子(SV40 Tag)、ヒトテロメラーゼ逆転写酵素(hTERT)等が挙げられる。これらの核酸は、該核酸にコードされる因子による細胞増殖能が十分に発揮されるレベルで、不死化を引き起こしうる因子を発現させるように、動物細胞のゲノムに組み込まれることが望ましい。
【0015】
前記可逆性不死化細胞としては、特に限定されないが、例えば、可逆性不死化ヒト肝細胞〔例えば、コバヤシ(N.Kobayashi)ら、Science、第287巻、第1258頁〜第1262頁、2000年;特許第3454818号明細書参照〕、可逆性不死化ヒト肝臓星細胞〔例えば、ワタナベ(T.Watanabe)ら、Transplantation、第75巻、第1873頁〜第1880頁、2003年〕、可逆性不死化ヒト間葉系骨髄細胞〔例えば、特開2003−174870号公報;芝良昭ら、化学工学論文集、第27巻、第134頁〜第136頁参照〕等が挙げられる。
【0016】
本発明のバイオ人工臓器システムにおいては、前記吸着材は、前記バイオ人工臓器用モジュールの内部及び/又は外部に設置される。ここで、前記吸着材は、前記分離膜から個体の体内に導出される体液に接触し、該体液中に核酸及び/又はウイルスが含まれている場合には、当該核酸及び/又はウイルスが吸着されるような状態で設置されていればよい。
【0017】
また、本発明のバイオ人工臓器システムは、前記吸着材を備えているため、前記分離膜の機能が低下した場合であっても、個体の体液への核酸及び/又はウイルスの漏出を実質的に抑制することができる。
【0018】
前記吸着材としては、核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材であればよい。具体的には、核酸の吸着材として、例えば、カルボン酸型陽イオン交換樹脂〔例えば、商品名:ダイアイオンWK11(三菱化学株式会社製)、商品名:ダイアイオンWK20(三菱化学株式会社製)等)、ヒドロキシアパタイト、シリカ−アルミナ、アルミナ、シラン処理シリカ、第1級アミン型陰イオン交換樹脂〔例えば、商品名:ダイアイオンWA10(三菱化学株式会社製)、商品名:ダイアイオンWA20(三菱化学株式会社製)〕等が挙げられる。また、ウイルス吸着材として、例えば、スルホン酸型強酸性陽イオン交換樹脂〔例えば、商品名:ダイアイオンPK212(三菱化学株式会社製)、商品名:ダイアイオンSK102(三菱化学株式会社製)、シリカ−アルミナ等が挙げられる。本発明においては、これらの吸着剤は、ポリヒドロキシエチルメタクリレート、ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマーによるコーティング等の処理が施されていてもよい。
【0019】
前記吸着材は、粒子状の吸着材として用いてもよく、前記バイオ人工臓器用モジュールを構成する部材(例えば、後述の分離膜、細胞固定基材、チャンバー等)の表面に固定化して用いてもよい。また、前記吸着材は、バイオ人工臓器の細胞充填部分に直接入れて用いてもよい。さらに、前記吸着材は、前記バイオ人工臓器用モジュールから個体の体内環境に体液を導出するための経路上及び/又は体液の導出口に設置して用いてもよい。なお、前記吸着材を前記経路上に設置する場合、前記吸着材は、カラム等の容器に充填した吸着器の形態で用いられうる。
【0020】
前記バイオ人工臓器用モジュールとしては、例えば、
(a)体液がその内側を流通する半透性を有する分離膜と、
(b)該分離膜に体液を導入するための導入口と、
(c)該分離膜から体液を導出するための導出口と、
(d)動物細胞を固定化するための細胞固定基材と、
(e)該(a)と(d)とを収納するチャンバーと、
を有し、
該チャンバー内において、該分離膜により体液が流通する経路が形成され、
該導入口が、該チャンバーの外部から分離膜に体液を導入可能に設置され、
該導出口が、該体液を該分離膜から該チャンバーの外部に導出可能に設置され、
該分離膜の近縁に該細胞固定基材が設置されモジュール等が挙げられる。
【0021】
また、前記バイオ人工臓器用モジュールには、細胞の導入のための導入口を有していてもよい。かかる細胞の導入口は、好ましくは、栓、三方栓等で密封しうる構造を有することが望ましい。
【0022】
前記バイオ人工臓器用モジュールは、例えば、γ線照射、高圧滅菌処理等で滅菌し、その後、前記動物細胞を導入することにより、バイオ人工臓器として用いることができる。また、前記バイオ人工臓器用モジュールにおける分離膜、体液の導入口、体液の導出口、細胞固定基材、チャンバー等を、例えば、γ線照射、高圧滅菌処理等で滅菌し、無菌条件下に、該細胞固定基材に動物細胞を固定化し、その後、バイオ人工臓器を組み立てて用いてもよい。
【0023】
なお、前記バイオ人工臓器用モジュールは、主として人体に使用されるものであるため、該モジュールの材料は、安全性(例えば、低溶出物、耐滅菌性等)、体液適合性、特に、体液、例えば、血液、血漿等と接触する部分における適合性等に優れたものであることが好ましい。
【0024】
本発明のバイオ人工臓器システムは、核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材を有するバイオ人工臓器システムであり、例えば、その具体例として図1に示すバイオ人工臓器システム(態様1)が挙げられる。なお、本発明は、かかる態様に限定されるものではない。以下、図1を参照して、本発明のバイオ人工臓器システムを説明する。
【0025】
図1のバイオ人工臓器システムは、バイオ人工臓器用モジュール1に細胞が充填されたバイオ人工臓器と、核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材2を含む吸着器11とを少なくとも有する。
【0026】
図1のバイオ人工臓器システムにおいて、吸着器11としては、例えば、図2に示されるように、カラム15内に、吸着材2が内包され、該カラム15の両端が、それぞれ、体液の導入口13又は導出口16を有する2つのキャップ14で、該導入口13及び導出口16を介して、体液の導入及び導出が可能な状態で封されたもの等が挙げられる。図1に示されるバイオ人工臓器システムのように、吸着材2を充填した吸着器11をバイオ人工臓器(バイオ人工臓器モジュール1)における体液の導出側の経路12上に設置する態様は、個体に体液が戻される直前に、核酸及び/又はウイルスを除去できるという点でより好ましい態様である。
【0027】
本発明のバイオ人工臓器システムで用いるバイオ人工臓器としては、バイオ人工臓器用モジュールに細胞が充填されたバイオ人工臓器であればよい。
【0028】
本発明のバイオ人工臓器システムで用いられるバイオ人工臓器用モジュールとしては、具体的には、例えば、図3に示されるバイオ人工臓器用モジュール等が挙げられる。図3に示されるバイオ人工臓器用モジュールは、体液がその内側を流通する半透膜である分離膜3と、動物細胞を固定化するための細胞固定基材6とを収容するチャンバー7と、分離膜3に体液を導入するための導入口4と、分離膜3から体液を導出するための導出口5と、該分離膜3の外側の空間に細胞を導入するための少なくとも1つの導入口8とを少なくとも備えている。
【0029】
前記「半透性を有する分離膜3」は、前記バイオ人工臓器用モジュール内の細胞を、該モジュール外部に通過させることがなく、一方で、バイオ人工臓器として必要な物質の透過性を有する「半透性」を示す膜であればよい。具体的には、前記分離膜3は、例えば、バイオ人工肝臓の場合、被代謝物質であるアンモニア等を透過させる性質等を有する分離膜であればよく、バイオ人工膵臓の場合、細胞から分泌されるインスリン等を透過させる性質等を有する分離膜であればよい。
【0030】
前記分離膜3の材料としては、細胞の維持及び機能の発現に適したものであればよく、例えば、再生セルロース、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、ポリメチルメタクリレート、ポリスルホン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等の化合物等が挙げられる。かかる化合物は、本発明の目的を阻害しない範囲で、適切な修飾基(例えば、水酸基、カルボキシル基等)を有する誘導体化合物であってもよい。また、前記分離膜3は、ポリビリルピロリドン、ポリエチレングリコール等の親水性を付与する試薬により、表面処理、誘導体化等の処理がなされていてもよい。
【0031】
前記分離膜3の形態としては、例えば、平膜、中空糸膜等が挙げられ、細胞の充填密度を高め、細胞の機能を十分に得る観点及びバイオ人工臓器の小型化の観点から、中空糸膜が好ましい。
【0032】
前記中空糸膜において、中空糸の外径、内径等は、特に限定されるものではなく、細胞の充填密度を高める観点から、外径は、好ましくは、1000μm以下、より好ましくは、400μm以下であり、流通する血液の圧力損失を抑制する観点から、好ましくは、50μm以上であり、より好ましくは、100μm以上であることが望ましい。前記中空糸膜の膜厚は、特に限定されないが、中空糸の耐圧性能を十分に得る観点から、好ましくは、5μm以上、より好ましくは、10μm以上であり、細胞の充填密度を高める観点から、好ましくは、300μm以下、より好ましくは、100μm以下であることが望ましい。また、前記中空糸膜の膜孔径は、細胞が中空糸膜で形成された流路に流通する体液に混入しない孔径であればよく、バイオ人工臓器の目的に応じて選択されるが、中空糸膜を介して個体の体液と細胞との間の物質交換を適切に行なう観点から、好ましくは、1nm以上、より好ましくは、5nm以上であり、体液への細胞の混入を抑制する観点から、好ましくは、1μm以下、より好ましくは、400nm以下であることが望ましい。
【0033】
前記細胞固定基材6は、分離膜3の外側の空間(例えば、中空糸外空間)に挿入することができ、表面に動物細胞が接着して機能を果たすことができる細胞固定基基材であればよく、細胞を高密度に培養できる観点から、繊維からなる細胞固定基材がより好ましい。前記細胞固定基材6には、例えば、不織布や綿状の繊維集合体等が好適に使用できる。細胞固定基材6の材料としては、動物細胞、例えば、ヒト細胞が接着し、該細胞の増殖に適したものであればよいく、例えば、ポリエステル、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリメチルメタクリレート、エチレン−ビニルアルコール共重合体等が挙げられる。前記細胞固定基材6は、細胞の接着性の観点から、好ましくは、少なくともその表面にポリアミノ酸ウレタンが固定化された繊維からなる細胞固定基材である。前記ポリアミノ酸ウレタンとは、ポリアミノ酸セグメントとポリウレタンセグメントとを有する共重合体をいい、より具体的には、アミノ酸ユニットが平均4個以上連続して結合されたポリアミノ酸とウレタンとの共重合体をいう(例えば、芝良昭ら、化学工学論文集、第27巻、第134頁〜第136頁;特開2001−136960号公報等を参照)。
【0034】
なお、本発明において、前記分離膜3の外側の空間には、本発明のバイオ人工臓器システムの使用時においては、生理食塩水等で満たされていることが望ましい。
【0035】
前記細胞を導入するための導入口8は、好ましくは、例えば、栓、三方栓等により密封可能な形状を有する。
【0036】
前記チャンバー7は、既存の高分子材料から作製されうるが、細胞の状態を観察できる観点から、内部が観察可能な程度の透明性を有することが好ましく、ポリカーボネート、ポリスルホン、ポリメチルメタクリレート、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0037】
図3に示されるバイオ人工臓器システムに用いられるバイオ人工臓器用モジュール
は、滅菌後、細胞を導入するための導入口8から、無菌条件下で、動物細胞を充填し、バイオ人工臓器として使用される。
【0038】
以下、実施例等に基づき、本発明を詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0039】
実施例1
(1)ポリアミノ酸ウレタン樹脂の製造
ポリテトラメチレンエーテルグリコール(水酸基価57.35) 980gと、トリレンジイソシアネート(2,4−トリレンジイソシアネートと、2,6−トリレンジイソシアネートとの混合物、2,4−トリレンジイソシアネート80重量%) 174gとを70℃で5時間反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマー(NCO当量、1165)を得た。得られたウレタンプレポリマー 58.2gとγ−メチル−L−グルタメート N−カルボン酸無水物 58.2gとをジメチルホルムアミド 394.3gに溶解した。得られた混合物に、ヒドラジンヒドラート 1.375gをジメチルホルムアミド 20gに溶解して得られた溶液を滴下し、反応させ、粘度18500cp/25℃のポリアミノ酸ウレタン樹脂溶液(濃度20重量% ジメチルホルムアミド溶液)を得た。得られたポリアミノ酸ウレタン樹脂溶液におけるアミノ酸鎖の平均重合度は、1級アミンとイソシアネートの反応性および1級アミンによるN−カルボン酸無水物の重合機構〔Murray Goodmanら、J.Am.Chem.Soc.,88,3627(1966)〕に基づき算出して、約62であった。
【0040】
(2)細胞固定基材の作製
前記(1)で得られたポリアミノ酸ウレタン樹脂溶液(20重量% ジメチルホルムアミド溶液)に、ポリテトラフルオロエチレン製不織布〔(株)巴川製紙所、商品名:トミーファィレックF、R−125、大きさ:10cm×14cm〕を浸漬させ、該不織布の表面をポリアミノ酸ウレタンで被覆し、細胞固定基材を得た。
【0041】
(3)バイオ人工臓器用モジュールの作製
ポリスルホン中空糸が充填された血漿分離器プラズマキュアー(商品名、クラレメディカル株式会社製)から取り出した中空糸(細孔径200nm)と、前記(2)で得られた細胞固定基材とを、チャンバー〔材質:ポリカーボネート〕内に細胞固定基材上に前記中空糸を並べ、該細胞固定基材と中空糸とをロール状に巻くように設置し、図1に示す形態のバイオ人工臓器用モジュール1(図3)を作製した。体液の導入口は、内径2mmとし、体液の導出口は、内径2mmとした。また、細胞の導入口は、内径3mmとした。前記バイオ人工臓器用モジュール1において、中空糸の本数は、500本、中空糸の有効長は、10cm、細胞固定基材の面積は、140cm2(10cm×14cm)とした。ガンマ線照射により、前記バイオ人工臓器用モジュール1を滅菌した。
【0042】
(4)吸着器の調製
シリカ−アルミナ(商品名:N663L;日揮化学社製)を吸着材として使用した。前記シリカ−アルミナを、容量5mLの容器(内径:0.7cm×長さ:3.3cmの円筒状)に充填し、核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着器を作製した。
【0043】
(5)バイオ人工臓器システムの評価
前記(3)で得られたバイオ人工臓器用モジュール1をDMEM培地〔ダルベッコ改変イーグル培地、商品名:D5790、シグマ社製〕でプライミング処理した。その後、市販の肝癌由来のヒト肝細胞(HepG2、大日本製薬株式会社)にB型肝炎患者の血漿 1mLを添加し、37℃でインキュベーションして、B型肝炎ウイルス(HBV)感染ヒト肝細胞を得た。得られたHBV感染ヒト肝細胞 4.0×108個を、細胞の導入口8から注入し、充填した。細胞の導入口8を活栓にて封止してバイオ人工臓器を得た。
【0044】
得られたバイオ人工臓器1と、前記(4)で得られた核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着器11と、ポンプ10と、経路〔導管[内径:4mm、塩化ビニルチューブ(ジェイ・エム・エス社製、商品名:JMSエキステンションチューブET−3)]〕と、培地17を入れた容器と、スターラーとを用いて、図4に示される臨床の使用状態を模したインビトロ実験系を構築した。
【0045】
前記インビトロ実験系全体を、炭酸ガス濃度5%、37℃のインキュベーターの中に設置し、100mL DMEM培地〔カタログ番号:D5790、シグマ社製〕を流速10mL/分で24時間循環させた。
【0046】
その後、培地中のB型肝炎ウイルス(HBs抗原)濃度を化学発光免疫測定法により測定した。また、培地中のB型肝炎DNA(HBV−DNA)濃度を、核酸ハイブリダイゼーション法により測定した。さらに、培地中のヒトアルブミン濃度を、商品名:ヒューマンアルブミンELISAクオンティテーションキット(フナコシ株式会社製)を用いて測定した。
【0047】
比較例1
図5に示されるように、核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着器を備えていないことを除き、実施例1と同様にインビトロ実験系を構築し、培地中のB型肝炎ウイルスの濃度、ヒトアルブミン濃度を測定した。
【0048】
実施例2
中空糸として、エチレン−ビニルアルコール共重合体中空糸が充填された血漿成分分離器エバフラックス3A(商品名、クラレメディカル株式会社製)から取り出した中空糸(細孔径20nm)を用いたことを除き、実施例1と同様にインビトロ実験系を構築し、培地中のB型肝炎ウイルス(HBs抗原)の濃度B型肝炎DNA濃度、およびヒトアルブミン濃度を測定した。
【0049】
比較例2
核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着器を備えていないことを除き、実施例2と同様に、インビトロ実験系を構築し、培地中のB型肝炎ウイルス濃度、B型肝炎DNA濃度、およびヒトアルブミン濃度を測定した。
【0050】
試験例1
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2において、24時間循環後の培地中のB型肝炎ウイルス濃度、B型肝炎ウイルスのDNA濃度及びヒトアルブミン濃度の測定した結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
比較例1のバイオ人工臓器システムでは、培地中にB型肝炎ウイルス及びB型肝炎ウイルスのDNAが検出され、比較例1のバイオ人工臓器システムでは、実際の治療において、個体の体液中にB型肝炎ウイルスやB型肝炎DNAが漏出することが示唆される。
【0053】
一方、実施例1のバイオ人工臓器システムでは、比較例1と同じ中空糸を用いているにもかかわらず、B型肝炎ウイルスは、検出限界(0.05IU/mL)未満であり、B型肝炎ウイルス DNAも検出限界未満(3.7LGE/mL)であった。したがって、実施例1のバイオ人工臓器システムでは、体液中に、動物細胞に由来する核酸及び/又はウイルスが漏出した場合であっても、個体の生体に導出される体液には、前記核酸及び/又はウイルスが実質的に混入しないことが示唆される。
【0054】
比較例2のバイオ人工臓器システムでは、培地中のB型肝炎ウイルスは、検出限界未満であったが、B型肝炎ウイルスのDNAが検出された。
【0055】
一方、実施例2のバイオ人工臓器システムでは、前記比較例2と同じ中空糸を使用していても、B型肝炎DNAも検出限界未満であった。したがって、実施例2のバイオ人工臓器システムでは、体液中に、動物細胞に由来する核酸及び/又はウイルスが漏出した場合であっても、個体の生体に導出される体液には、前記核酸及び/又はウイルスが実質的に混入しないことが示唆される。
【0056】
実施例1及び実施例2における培地中で測定されたヒトアルブミンは、中空糸外空間に充填したヒト肝細胞が産生したヒトアルブミンが中空糸膜を透過して培地中に移行したものである。
【0057】
培地中のヒトアルブミン濃度は、中空糸膜のポアサイズが大きい実施例1がポアサイズの小さい実施例2より高かった。すなわち、アルブミンの補給という機能に関して、実施例1のバイオ人工臓器システムのほうが、バイオ人工肝臓としていっそう優れていることが示唆される。このようにポアサイズの大きい分離膜を使用したバイオ人工臓器は、ウイルスや核酸が患者体液中に移行する場合があるが、このようなバイオ人工臓器においても、体液に前記核酸及び/又はウイルスが実質的に混入しないことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明により、例えば、肝不全等の疾患の治療等の用途において、高い機能を示し、個体の体液への動物細胞由来の核酸及び/又はウイルスの混入を実質的に防ぐことができる優れたバイオ人工臓器システムが提供されうる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】図1は、核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材を保持する吸着器を備えたバイオ人工臓器システムの一例を示す模式図である。
【0060】
【図2】図2は、核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材を保持する吸着器の一例を示す模式図である。
【0061】
【図3】図3は、バイオ人工臓器用モジュールの一例を示す模式図である。
【0062】
【図4】図4は、核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材を保持する吸着器を備えたバイオ人工臓器システムのインビトロ実験系の一例を示す模式図である。
【0063】
【図5】図5は、核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材を保持する吸着器を持たないバイオ人工臓器システム(図4に対する比較例)の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0064】
1.バイオ人工臓器
2.吸着材
3.分離膜
4.体液の導入口
5.体液の導出口
6.細胞固定基材
7.チャンバー
8.細胞の導入口
9.体液導入口側経路
10.ポンプ
11.吸着器
12.体液導出口側経路
13.体液の導入口
14.キャップ
15.カラム
16.体液の導出口
17.培地
18.スターラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動物細胞が充填されうるバイオ人工臓器用モジュールと、該動物細胞に由来する核酸及び/又はウイルスを吸着する吸着材と、動物細胞とを有してなり、
該バイオ人工臓器用モジュール内に、動物細胞が充填され、
該吸着材が、該バイオ人工臓器用モジュールの内部及び/又は外部に設置されてなる、バイオ人工臓器システム。
【請求項2】
該バイオ人工臓器用モジュールが、
(a)体液がその内側を流通する半透性を有する分離膜と、
(b)該分離膜に体液を導入するための導入口と、
(c)該分離膜から体液を導出するための導出口と、
(d)動物細胞を固定化するための細胞固定基材と、
(e)該(a)と(d)とを収納するチャンバーと、
を有し、
該チャンバー内において、該分離膜により体液が流通する経路が形成され、
該導入口が、該チャンバーの外部から分離膜に体液を導入可能に設置され、
該導出口が、該体液を該分離膜から該チャンバーの外部に導出可能に設置され、
該分離膜の近縁に該細胞固定基材が設置されてなる、請求項1記載のバイオ人工臓器システム。
【請求項3】
該吸着材が、分離膜から個体の体内環境に体液を導出するための経路上及び/又は体液の導出口に設置されてなる、請求項1又は2記載のバイオ人工臓器システム。
【請求項4】
該吸着材が、分離膜及び/又は細胞固定基材に固定化されてなる、請求項1又は2記載のバイオ人工臓器システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−217977(P2006−217977A)
【公開日】平成18年8月24日(2006.8.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−32224(P2005−32224)
【出願日】平成17年2月8日(2005.2.8)
【出願人】(301069384)クラレメディカル株式会社 (110)
【Fターム(参考)】