核酸導入のための多機能性キャリアとその使用方法
本発明は、細胞への核酸導入の道具として有用な多機能性の化合物である。また本発明は、該多機能性の化合物を使用するための方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年9月29日に出願された米国仮出願第60/827,440号の優先権を主張する。この出願の全教示は、参照することにより全体が本明細書中に組み込まれる。
【0002】
承認
本発明は、米国政府の補助金(国立衛生研究所の国立生物医学画像・生物工学研究所からの補助金EB000489)を用いてなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
遺伝子治療は、治療目的の遺伝子を発現または制御するために、遺伝物質をヒト細胞内に導入することによって疾病を治療する新しいアプローチとして登場した。安全かつ効率的な遺伝子ベクター又はキャリアの開発は、核酸を用いた治療法が成功するための中心的な課題である。
【0004】
核酸の導入システムは、ウイルス性の導入システムと非ウイルス性の導入システムに分類できる。ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス及びレトロウイルス等の弱毒ウイルスに基づいている。ウイルスベクターは、遺伝子をヒト細胞に導入し、発現させる点で高い効率性を有しており、研究開発において一般的なベクターである。しかしながら、ウイルスベクターの毒性、特に最近のX−SCID患者での白血病の発症やウイルスベクターを用いた臨床試験での患者の死亡などの出来事によってウイルスベクターの臨床応用について著しい暗雲が投げかけられている。ウイルスベクターの毒性は、ウイルスベクターの不純物とウイルスベクターに対する宿主の免疫応答に関連している。そのうえ、ウイルスベクターは、1〜2回投与した後に宿主の免疫システムによってベクターに対する抗体ができるので、複数回の投与には適していない。
【0005】
非ウイルス性の核酸導入システムにはウイルス性以外のすべてのシステムが含まれる。直接注入、流体力学的な導入、化学修飾、ペプチド、リポソーム、およびカチオン高分子を含む様々な非ウイルス性のアプローチが、例えばsiRNAs等の核酸の導入に使用されてきた。ウイルス性の導入システムに比べて、これらの非ウイルス性のシステムは使用しやすく、大規模なスケールで容易に作製できる。最も重要なのは、それらには免疫原性がなく、宿主の免疫応答をほとんど刺激しないことである。現在利用可能な非ウイルス性導入システムの主な欠点は、標的細胞への核酸の導入効率が低いことである。その低い導入効率にもかかわらず、非ウイルス性導入システムは、安全性、非免疫原性、生産の容易さ、および低コストの面から一層好まれるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
即ち、必要とされるものは、無毒であり、非免疫原性であり、導入プロセスの間の酵素分解から核酸を防御する導入キャリアである。また、その導入システムが体内から直ちに除去されることを防ぎ、標的組織や標的細胞に特異的に取り込まれ、作用部位の細胞内で核酸が迅速に放出されることが望まれる。本発明は、細胞へ核酸導入するためのキャリアとして有用な多機能性化合物である。本発明の多機能性導入システムは、現在の導入システムの短所の多くに対処している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、細胞へ核酸を導入するために有用な多機能性キャリア(MFC)である。また本発明は、導入システムを使用するための方法である。本発明の効果の一部は、以下の説明に記載されており、一部はその記載から明らかであり、又は以下に記載される各実施形態によって知ることができる。後述する効果は、特に添付の特許請求の範囲で示される構成要素及び組み合わせによって理解され、達成される。前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明は単なる例示的なものであり、典型的なものであり、この説明により限定されるものではないと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付図面は、以下に記載のいくつかの実施態様を例示する。
【図1】単量体の多機能性キャリアTHCOの合成スキームを示す図である。
【図2】本発明で作製されるいくつかのMFCの構造を示す図である。
【図3】1以上のN/P比において、THCOがゲル内のDNAの移動を遅延させたことを示す図である。
【図4】エルマン試薬、THCO及びTHCO/DNA複合体によるTHCOの時間依存性酸化特性を示す図である。
【図5】THCO及びTHCO/siRNA複合体(N/P=10)の自動酸化特性を示す図である。
【図6】自動酸化とマレイミド反応の間のTHCOのチオール消費の競合を示す図である。
【図7】THCO及びPEI濃度に対する相対的な細胞生存率(%)を示す図である。
【図8】DOTAP及びPEIと比較したTHCOのU87細胞における細胞毒性を示す図である。
【図9】ペグ化された又はペグ化されてない蛍光タグを付加したTHCO/siRNA複合体のU87細胞内への取り込みを示す図である。ナノ粒子のペグ化は、非特異的な細胞取り込みを減少させる。
【図10】他の市販のトランスフェクション試薬と比較したときのTHCOのトランスフェクション効率を示す図である。
【図11】以下のトランスフェクション試薬:A)THCO;B)Transfast(商標);C)DOTAPを使用したときのGFP導入MBA−231細胞の蛍光画像を示す図である。
【図12】U87−Luc細胞におけるTHCO/siRNA(N/P=8)複合体が介在するルシフェラーゼ遺伝子抑制を示す図である(siRNA濃度は全て20nMに固定されている;Transfast及びDOTAPは対照として使用した)。抗Luc−siRNA又は非特異的siRNAを、A:未修飾THCO;B:0.5%ペグ化THCO;C:2.5%ペグ化THCO;D:Transfast;又はE:DOTAPと複合し、得られたsiRNA複合体をU87−Luc細胞と共にインキュベートし、次いで培養液を交換した。トランスフェクションの44時間後にルシフェラーゼ活性を評価した。トランスフェクション試験は無血清培地(a)又は10%FBS培地(b)において3連で実施した
【図13】THCO(A)又はTransfast(B)及び培地(C)の存在下で、HeLa細胞を抗ラミンA/C siRNAと共にインキュベートしたことを示す図である。
【図14】トランスフェクション試薬として、THCO、PEI、Transfast及びDOTAPを使用したルシフェラーゼ遺伝子抑制を示す図である。
【図15】MFCの一般構造を示す図である。
【図16】EHCOを作製するための合成のプロトコールを示す図である。
【図17】pH7.4、pH6.5及びpH5.4において、MFC(8.3μM)及びDOTAP(8.3μM)のそれぞれの溶血活性を示す図である。
【図18】MFCとsiRNAの複合体の粒子サイズを示す図である。(a)異なるN/P比におけるEHCO/siRNA複合体のサイズ。(b)8及び10のN/P比におけるMFCとsiRNA複合体のサイズ。
【図19】エルマンアッセイにより測定されたチオール濃度に基づくsiRNAの非存在又は存在下でのEHCOの自動酸化特性を示す図である。
【図20】異なるN/P比におけるU87−luc細胞でのEHCOが介する遺伝子抑制効果を示す図である。
【図21】MFC/siRNA複合体と共にインキュベートした細胞のU87−luc細胞おけるMFCを介するルシフェラーゼ細胞抑制効果(棒グラフ)及び細胞生存率(折れ線グラフ)を示す図である。トランスフェクション実験は、100nM(a)又は20nM(b)のsiRNA濃度で行った。
【図22】U87−luc異種移植片マウスにおけるEHCO(MFC)/抗Luc−siRNA複合体のルシフェラーゼ発現のin vivoでのノックダウン効果を示す図である。
【図23】未投与対照マウス及び抗HIF/EHCOナノ粒子を投与されたマウス(各投与においてsiRNAとして2mg/kgの投与量)の腫瘍成長曲線を示す図である。
【図24】第一、第二及び第三の荷電官能基を有するジチオール含有単量体の樹脂担持合成の合成を示す図である。
【図25】酸化重合によるポリジスルフィドオリゴマー11(PDS)の合成を示す図である。
【図26】示されたN/P比でのゲル電気泳動シフトアッセイを示す図である。
【図27】示されたN/P比でのPDS/DNA及びPDS/siRNA複合体の大きさを示す図である。
【図28】(a)は、PEIとネイキッドDNAとを比較した、異なったN/P比での100μMのクロロキン存在下又は非存在下におけるCos7細胞中のPDS/DNA複合体のトランスフェクション効率を示す図である。(b)は、異なった条件下におけるU373−Luc細胞中でのPDS/siRNA又はPEI/siRNA複合体による内因性のルシフェラーゼ遺伝子の抑制効果を示す図である。
【図29】(a)はPDS及びPEI濃度に対する相対的な細胞生存率を示し、(b)はDNA複合体のPDS及びPEIのN/P比に対する相対的な細胞生存率を示す図である。カチオン性のPDSはPEIに比べてはるかに低い細胞毒性を示す。
【図30】BN−PEG−Malの合成を示す図である。
【図31】RGD−PEG−Malの合成を示す図である。
【図32】マレイミドを含む機能的分子を用いたMFC/siRNA又はMFC/DNAナノ粒子の表面修飾を図式的に示す図である。
【図33】標的基を有する(BN−PEG−Mal,2.5%程度修飾,A〜C)又は標的基を有さない(mPEG−Mal,2.5%程度修飾,D〜F)官能基を持つEHCO/DNAナノ粒子の代表的な蛍光画像を示す図である。
【図34】受容体関与エンドサイトーシスを介する標的ナノ粒子による細胞内取り込み効率(2.5%BN−PEG−Mal修飾)が、非特異的なエンドサイトーシスを介する非修飾性のナノ粒子による細胞内取り込みと同等であり、ペグ化されたナノ粒子による細胞内取り込みよりも高いことを示す図である。ナノ粒子のペグ化は非特異的な細胞内取り込みを低下させる。
【図35】標的ナノ粒子(2.5%RGD−PEG−Mal修飾)による細胞内取り込みが、非標的性のナノ粒子(2.5%mPEG−Mal修飾)による細胞内取り込みに比べて有意に高いことを示す図である。
【図36】2.5%のRGD−PEG−Mal修飾標的ナノ粒子を介した細胞内取り込み効率が、遊離のRGDの存在下で減少することを示す図である。
【図37】2.5%ペプチド修飾MFC/siRNAナノ粒子(BN−PEG−Mal又はRGD−PEG−Mal)をマウスに静脈内投与した時間の経過に基づいたマウスの腫瘍の体積を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
本発明の化合物、組成及び方法を開示し説明するが、以下で説明する実施形態は、特定の化合物、合成方法又は用途に限定されるものではなく、当然に、様々であることが理解される。また、本明細書で使用される用語は特定の実施形態について説明することのみを目的とし、限定を意図するものではないことも理解される。
【0010】
この明細書と添付の特許請求の範囲において、下記の意味を有することが定義される多くの用語について示す。
この明細書と、添付の特許請求の範囲において、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文中に特に明示のない限り、対象の複数形も含まれることに注意すべきである。したがって、例えば「医薬キャリア」という場合、そのようなキャリアの2種以上の混合物等が含まれる。
【0011】
「任意の」又は「任意に」は、その後に記載する事又は状況が生じても、生じなくてもよいことを意味し、その記載は、その事又は状況が生じる場合と生じない場合を含む。例えば「任意に低級アルキルを置換する」という句は、低級アルキルを置換しても置換しなくてもよいことを意味し、その記載は、置換されていない低級アルキルと置換された低級アルキルの両方を含む。
【0012】
本明細書では「アルケニル基」という用語は、1つ以上のC=C二重結合を有するC2−C20アルキル基を定義する。
【0013】
本明細書で使用される「アルキル基」という用語は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、エイコシル基、テトラコシル基等の炭素原子が1〜25の分岐又は非分岐の飽和炭化水素基である。「低級アルキル」基は、1〜6の炭素原子を含むアルキル基である。
【0014】
本明細書で使用される「アシル」基という用語は、式C(O)Rで表される。式中、Rは、例えば、本明細書に定義されるアルキル基又は芳香族基等の有機基である。
【0015】
本明細書で使用される「アルキレン基」という用語は、相互に結合する2つ以上のCH2基を有する官能基である。アルキレン基は、式−(CH2)a−で表すことができる。式中、aは2〜25の整数である。
【0016】
本明細書で使用される「芳香族基」という用語は、これには限定されないが、ベンゼン基、ナフタリン基等を含む芳香族基を有する官能基である。また「芳香族」という用語は、その芳香族基の環に導入された少なくとも1つのヘテロ原子を有する芳香族基と定義される「ヘテロアリール基」を含む。ヘテロ原子の例としては、窒素、酸素、硫黄及びりんを含むが、これに限定されない。アリール基は、置換されていても置換されていなくてもよい。アリール基は、これには限定されないが、アルキル基、アルキニル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン基、ニトロ基、アミノ基、エステル基、ケトン基、アルデヒド基、水酸基、カルボン酸基又はアルコキシル基を含む1以上の官能基で置換することができる。
【0017】
本明細書では「窒素含有置換基」という用語は、アミノ基と定義される。本明細書では「アミノ基」という用語は、第一級、第二級又は第三級アミノ基と定義される。あるいは、窒素含有置換基は、第四級アンモニウム基であってもよい。窒素含有置換基は、窒素原子が環の一部であるか、又は環に直接的に、若しくは1以上の原子を経て間接的に(すなわち、ペンダント型)結合している芳香族基又脂環基であってもよい。窒素含有置換基は、式−R−NH2を有するアルキルアミノ基であってもよい。式中、Rは、分岐又は直鎖のアルキル基であり、アミノ基は置換されていても置換されていなくてもよい。
【0018】
本明細書を通して使用されるAA1,AA2,A,B,L,R,R1−R24,a,b,d,m,n,o,p,q,r,s,t,u,v,w,x,y及びz等の変数は、そうでない旨が示されない限り、それ以前に定義された変数と同じである。
【0019】
I.多機能性キャリア及びその作製方法
本発明は、細胞へ核酸を導入するために有用な多機能性キャリア化合物である。本発明の化合物は、核酸を効率的に細胞に導入できるキャリアをまとめて生産する様々な官能基を有する。それぞれの官能基について以下に議論する。
【0020】
本発明の一実施形態は、式Iを含む化合物である。
【0021】
【化1】
【0022】
式中、AA1及びAA2は1つ以上のアミノ酸を含み、(AA1)m及び(AA2)nは同一又は異なる配列である。
m及びnは1〜50の整数である。そして、
Lは、少なくとも1つの中性アミノ基若しくはカチオン性アンモニウム基、又はそれらの薬学的に許容できる塩、エステル若しくはアミドを含む官能基を含む。
【0023】
アミノ酸AA1及びAA2は、1個のアミノ酸であっても、配列を形成する複数のアミノ酸であってもよい。一般に、個々のアミノ酸が、アミド結合(−NC(O)−)を介して互いに結合する。式Iに示すように、リンカーLに結合するカルボニル基(C=O)は、AA1とAA2の末端アミノ酸のカルボン酸に由来する。これは以下のアミノ酸配列で表される:AAaAAbAAcAAdAAe−COOH,ここではカルボン酸基がアミノ酸AAe上に存在する。アミノ酸AA1とAA2は同一又は異なるアミノ酸配列で構成される。複数のアミノ酸がAA1とAA2に用いられる場合、そのアミノ酸の数は細胞に核酸を導入するメカニズムによって異なる。1つの実施形態では、式Iのm及びnが1〜50の整数である。理論に拘束されることなく、そのアミノ酸配列は、pH緩衝物質、核酸複合体形成物質、両親媒性物質、重合性の単量体、受容体結合物質として作用し、細胞内への取り込みを促進させ、一旦、細胞内での生物活性物質の放出を容易にすることができる。
【0024】
1つの実施形態では、式Iを有する化合物には、少なくとも1つのチオール基(SH基)が含まれる。例えば、(AA1)mと(AA2)nのアミノ酸のひとつは、システイン残基、ホモシステイン残基、又はアミノ酸誘導体を含むチオール残基である。また(AA1)mと(AA2)nの1以上のアミノ酸では、チオール基をその配列中に導入するという誘導体化ができることも考えられる。当該技術分野で公知の技術を用いて、チオール基を含む化合物でアミノ酸内に存在する官能基を反応させることは可能である。以下で議論されるように、ナノ粒子を生産するために、核酸が式Iを有する化合物と一旦複合体をつくった後、チオール基が酸化によってジスルフィド(S−S)結合をつくり、オリゴマーやポリマーを形成するか、又は架橋結合することによって、ナノ粒子がさらに安定できる。ジスルフィド結合は細胞質内で還元し、導入システムからの核酸の放出が促進される。
【0025】
構造Lは、少なくとも1つのアミノ基を含む。「アミノ基」という用語には、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、及び/又は、芳香族アミノ基、及び/又は、第4級アンモニウム基が含まれる。アミノ基は中性又はカチオン性であってもよい。例えば、第4級アンモニウム基(カチオン性)をつくるために、アミノ基はプロトン化されるかアルキル化剤で処理される。置換されたアミノ基の場合、適切な官能基には本明細書に定義されたアルキル基と芳香族基が含まれる。1つの実施形態では、構造Lには複数のアミノ基が存在している。1つの実施形態では、アミノ基はアルキレン鎖の一部であり、そこでは1つ以上の炭素原子が窒素で置換されている。1つの実施形態では、アミノ基がアルキレン鎖につりさげられている。当該技術分野で公知の技術を使用して、アミノ基を用いて様々な構造を合成することが可能である。Lの構造は、細胞に導入する核酸の特性に基づいて変えることができる。Lの適切な官能基の例について以下に説明する。理論に拘束されることなく、構造Lは、核酸を細胞へ導入することを目的としたナノ粒子を形成するために核酸との複合体を形成する。
【0026】
ある実施形態では、(AA1)mと(AA2)nの少なくとも1つのアミノ酸に疎水基が共有結合している。あるいは、その疎水基は構造Lと結合してもよい。その疎水基は、飽和又は不飽和のC1−C25脂肪酸(RCOOH,式中Rは、C1−C25アルキル基又はアルキレン基)又はC1−C25アルキル基又はアルキレン基に由来していてもよい。あるいは、その疎水基はステロイド化合物又は芳香族化合物に由来していてもよい。1つの実施形態では、(AA1)mと(AA2)nに存在する1つ以上のアミノ基は、それに結合している疎水基を有する。理論に拘束されることなく、その疎水基は、核酸とナノ粒子のコンパクトで安定な形成を助け、両親媒性を導入し、エンドソーム小器官又はリソソーム小器官からのナノ粒子のpH感受性の回避を容易にする。化合物がin vivoでの導入装置として用いられる場合、これは特に有用である。
【0027】
別の実施形態では、標的基が(AA1)mと(AA2)nの少なくとも1つのアミノ酸、カチオン性の構造L又はチオール基に結合している。標的物質は、細胞への核酸導入に有用であってもよい。標的物質は、ペプチド、抗体、抗体断片又はそれらの誘導体のひとつであってもよい。例えば、標的特異的ペプチドは、ナノ粒子の形成前か形成中に化合物と直接的に結合するか、第二のリンカー(例えば、ポリエチレングリコール)を介して間接的に結合することができる。標的化合物を選ぶことにより、標的基はアミノ酸に存在するアミノ基、若しくはチオール基、又は構造Lに存在するアミノ基のいずれかに共有結合できる。
【0028】
1つの実施形態では、標的基はリンカーによって間接的に化合物に結合する。リンカーの例には、ポリアミン基、ポリアルキレン基、ポリアミノ酸基又はポリエチレングリコール基が含まれるが、これに限定されない。リンカーの分子量やリンカーの選択は所望の特性によって変えることができる。1つの実施形態では、リンカーは、分子量が500〜10,000、500〜9,000、500〜8,000、500〜7,000又は2,000〜5,000のポリエチレングリコールである。ある実施形態では、標的基がリンカーに共有結合するなどの方法によって、最初に標的基がリンカーと反応する。例えば、そのリンカーには、ペプチド内に存在するアミノ基と反応できる1つ以上の官能基があってもよい。また、そのリンカーには、本明細書に記載された化合物と反応し、共有結合を形成する付加基がある。例えば、化合物に1つ以上のチオール基が存在している場合、リンカーはそのチオール基と容易に反応できるマレイミド基を有していてもよい。化合物に存在する官能基によって、リンカーに存在する官能基の選択を変えることができる。1つの実施形態では、標的化合物は、例えばポリエチレングリコールと共有結合しているRGDペプチド又はボンベシンペプチドなどのペプチドである。
【0029】
また、他の実施形態では、本明細書に記載された化合物によって作製されたナノ粒子に標的化合物を結合することも望ましい。例えば、本明細書に記載された化合物と技術を用いて核酸からできたナノ粒子を作製した後に、リンカーを介して標的化合物をナノ粒子に結合することができる。このアプローチの1つの実施形態を図32に示す。
【0030】
1つの実施形態では、式Iによって表わされる化合物は、式IIを含む。
【0031】
【化2】
【0032】
式中、R1−R8は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、アシル基、芳香族基、又は疎水基を表す。
AA1とAA2は1個以上のアミノ酸であり、(AA1)yと(AA2)zは、同一又は異なる配列である。
y及びzは1〜50の整数である。そして、
Lは、少なくとも1つの中性アミノ基若しくはカチオン性アンモニウム基、又はそれらの薬学的に許容できる塩、エステル若しくはアミドを含む官能基を含む。
【0033】
式IIに示すように、化合物のそれぞれの末端はシステイン残基でキャッピングされている。特にAA1とAA2が他のシステイン残基を含んでいる場合、他のチオール基が式IIに存在し得ることが想定される。
【0034】
1つの実施形態では、構造Lは式IIIを含む。
【0035】
【化3】
【0036】
式中、R9−R12は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、芳香族基を表す。
R13は、アルキルアミノ基又は少なくとも1つの芳香族アミノ基を含む官能基であり、
o、p、q、及びrは、互いに独立して、1〜10の整数である。
アルキルアミノ基の例を、式IV〜VIに示す。
【0037】
【化4】
【0038】
式中、R14−R22は、互いに独立して、水素、アルキル基、窒素含有置換基、又は疎水基を表す。
s、t、u、v、w、及びxは、1〜10の整数であり、
Aは1〜50の整数である。
【0039】
式IV〜VIに示されるように、アミノ基の数は異なっていてもよい。1つの実施形態では、式IIIのR13は、CH2NH2,CH2CH2NH2,CH2CH2CH2NH2,CH2CH2CH2CH2NH2,CH2CH2CH2CH2CH2NH2,CH2NHCH2CH2CH2NH2,CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2,CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2,CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NH2,CH2CH2NHCH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2,又は、CH2CH2NH(CH2CH2NH)dCH2CH2NH2(式中、dは0〜5)である。
【0040】
1つの実施形態では、R13は芳香族アミノ基を含む。上述のように、芳香族アミノ基には、直接的又は間接的に芳香族基に結合した1つ以上のアミノ基が含まれていてもよい。あるいは、アミノ基を芳香族環に導入することもできる。例えば、芳香族アミノ基は、ピロール、イソピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、又はインドールである。別の実施形態では、芳香族アミノ基には、ヒスチジンに存在するイミダゾール基が含まれる。
【0041】
1つの実施形態では、化合物には式IIが含まれ、Lには式IIIで表される構造が含まれる。式中、R1−R12は水素であり、o、p、q、rはそれぞれ2であり、yとzは0であり、R13はCH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2NH2である。別の実施形態では、化合物には式IIが含まれ、Lには式IIIで表される構造が含まれる。式中、R1とR3は疎水基であり、R2とR4−R12は水素であり、o、p、q、rはそれぞれ2であり、yとzは0又は1であり、R13はCH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2NH2,CH2CH2NH2又はCH2CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2である。
【0042】
一般式Iが含まれる化合物は、当該分野で公知の固相技術を用いて合成できる。図1にジチオール化合物を生成するための合成方法の例を示す。図1のアプローチには、一般的に、ジチオール化合物を生成するための系統的な保護/伸張/脱保護の操作が含まれる。疎水基は、システイン残基に存在するアミノ基とオレイン酸を反応させることによって作られる。図1は式Iの化合物を作製するための1つのアプローチを示すが、他の合成技術も使用できる。
【0043】
式Iを含む化合物は、酸化条件下でジスルフィド(S−S)結合を形成できる2つ以上のチオール基を持っている。1つの実施形態では、そのジスルフィド化合物には式VIIが含まれる。
【0044】
【化5】
【0045】
式中、R1−R6は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、芳香族基、又は疎水基を表す。
AA1とAA2は1個以上のアミノ酸であり、(AA1)yと(AA2)zは、同一又は異なる配列である。
y及びzは0〜50の整数である。
R23とR24は、互いに独立して、水素又は標的基を表す。
Bは2〜10,000の整数である。
Lは、少なくとも1つの中性アミノ基若しくはカチオン性アンモニウム基、又はそれらの薬学的に許容できる塩、エステル若しくはアミドを含む官能基を含む。
【0046】
一旦、細胞内に入ると、ジスルフィド結合は導入システムを安定化させ、核酸の遊離を助ける。例えば、核酸がsiRNAである場合には、還元性の細胞質内でのsiRNA遊離システムのジスルフィド結合の解離によって、siRNAの細胞質特異的遊離が促進され得る。そのジスルフィド化合物は、非常に低い遊離チオール濃度(例えば、15μM)では細胞質内で安定である。ジスルフィド化合物が標的細胞に導入されたときに、核酸の解離と遊離を促進するためにジスルフィド結合が、細胞(例えば、細胞質)内に存在する高濃度のチオールによって還元される。
【0047】
式VIIを含むジスルフィド化合物は、核酸との複合体形成前又は酸化剤の存在下での複合体形成中に、式Iを有する同一又は異なる化合物と反応することによって容易に作製され得る。酸化剤は、空気、酸素又は他の化学酸化剤であってもよい。選択されたジチオール化合物及び酸化条件によって、核酸と結合していない遊離のポリマー又は核酸との複合体内のジスルフィド形成の程度を変えることができる。即ち、式Iを含む化合物は単量体であり、その単量体は反応条件によって二量体化、オリゴマー化又は重合化することができる。
【0048】
本明細書に記載された化合物はすべて存在し、その塩に変換することもできる。ある実施形態では、その塩は薬学的に許容できる塩である。化学的又は薬学的に許容できる適量の塩基に遊離酸を処理することによって、その塩を作製することができる。代表的な化学的又は薬学的に許容できる塩基とは、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、消石灰、水酸化マグネシウム、水酸化第一鉄、亜鉛水酸化物、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、リジン、アルギニン、ヒスチジン等である。1つの実施形態では、その反応は、室温などの約0℃〜約100℃の温度で、単独の又は水溶性の不活性有機溶媒と組み合わせた水中で行われる。使用される塩基に対する化合物のモル比は、いずれの特定の塩のためにも、目的の比率を提供するように選択される。例えば、出発物質である遊離酸のアンモニウム塩を作製するために、ほぼ同量の塩基で出発物質を処理して塩を作製することができる。
【0049】
別の実施形態では、本明細書に記載された化合物はすべて存在し、ルイス塩基を有する塩にも変換できる。化合物は適量のルイス塩基で処理できる。代表的なルイス塩基は、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、消石灰、水酸化マグネシウム、水酸化第一鉄、亜鉛水酸化物、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、リジン、アルギニン、ヒスチジン、THF、エーテル、チオール試薬、アルコール類、チオールエーテル類、カルボン酸エステル類、フェノラート類、アルコキシド類及び水などである。1つの実施形態では、その反応は、室温などの約0℃〜約100℃の温度で、単独の又は水溶性の不活性有機溶媒と組み合わせた水中で行われる。使用される塩基に対する化合物のモル比は、いずれの特定の複合体のためにも、目的の比率を提供するように選択される。例えば、出発物質である遊離酸のアンモニウム塩は、複合体を作製するためにほぼ同量の化学的又は薬学的に許容できるルイス塩基で処理することができる。
【0050】
その化合物がカルボン酸基を有する場合、当該技術分野で公知の技術を用いて、これらの官能基を薬学的に許容できるエステル類又はアミド類に変換できる。もしくは、デンドリマーにエステルが存在する場合、エステル交換反応技術を用いてそのエステルは薬学的に許容できるエステルに変換できる。
【0051】
II.使用方法
本明細書に記載された化合物は、対象物への核酸導入に関して多くの応用性を有する。他の実施形態では、本明細書に記載された化合物は、細胞と組織に遺伝性物質を導入する遺伝子治療に使用できる。
【0052】
核酸は、オリゴヌクレオチド、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、又はペプチド核酸(PNA)であってもよい。本発明の方法で導入される核酸は、自然界で発生する細胞から得た核酸、組換えによって作製された核酸、化学的に合成された核酸など、いずれの供給源からの核酸でもよい。その核酸は、例えば、cDNA、ゲノムDNA又は自然界に存在するDNAの核酸配列に対応する配列を有する合成DNAであってもよい。また、その核酸は、変異又は変換された核酸(例えば、1個以上の核酸残基の変換、欠失、置換、付加によって自然界で発生するDNAと異なるDNA)又は自然では発生しない核酸であってもよい。
【0053】
1つの実施形態では、その核酸は機能的な核酸であってもよい。機能的な核酸とは、標的分子と結合する、又は特異的な反応を促進する等の特異的な機能を有する核酸分子である。機能的な核酸分子は、以下のカテゴリに分けることができるが、これは限定を意図するものではない。例えば、機能的な核酸には、アンチセンス分子、アプタマー、リボザイム、三本鎖形成分子、siRNA、miRNA、shRNA及び外部誘導配列(external guide sequence)が含まれる。その機能的な核酸分子は、標的分子が有する特異的活性の作動因子、阻害因子、制御因子、及び刺激因子として作用できるか、又はその機能的な核酸分子は他の分子に関係なくde novo活性を有することができる。
【0054】
機能的な核酸は、優位に作用する合成遺伝因子(SGEs)をコードする小遺伝子断片であってもよい。例えば、それが仲介する遺伝子の機能を阻害する分子(アンタゴニスト)であるか、又はそれらの遺伝子が優位に構成的に作用する断片(アゴニスト)である。SGEsはポリペプチド、抑制性アンチセンスRNA分子、リボザイム、核酸デコイ、及び小ペプチドを含むが、これに限定されない。本発明では、参照することにより組み込まれた米国特許公報第2003/0228601号で開示された小遺伝子断片とSGEライブラリを使用できる。
【0055】
本発明の方法における機能的な核酸は、例えば、アンチセンス、RNAi又はデコイ機能によって核酸レベルで内因性の遺伝子機能を阻害するように作用することができる。もしくは、ある機能的な核酸は、内因性遺伝子に対応する生物活性の一部分以上を持つポリペプチドをコードすることによって内因性遺伝子の作用を促進する(模倣も含む)ように働くことができ、特別な場合には構成的に活性化されることがある。
【0056】
Tso,P.らがAnnals New York Acad. Sci. 570:220-241 (1987) に記載するように、他の治療上重要な核酸は、遺伝子産物の除去又は抑制のために有用なアンチセンスポリヌクレオチド配列を含んでいる。また、リボザイムの導入も想定される。これらのアンチセンスヌクレオチドやリボザイムは導入細胞で発現(複製)することができる。また、本発明で治療のために有用なポリヌクレオチドは、免疫付与ポリペプチドをコードしていてもよい。そのポリペプチドは体液性又は細胞性、又はその両方の反応を引き起こす内因性の免疫原として作用することができる。また、本発明で使用するポリヌクレオチドは抗体もコード化できる。この点で、「抗体」という用語は、2つ又は複数の抗原又はエピトープに特異的なあらゆるクラスの免疫グロブリン、キメラ抗体及びハイブリッド抗体、及びF(ab)2、Fab2、Fabなどのハイブリッド断片を含む断片を網羅する。また、そのような断片の複合体や、例えば、その内容が参照することにより本明細書に組み込まれた米国特許公報第4,704,692号に記載のようないわゆる抗原結合タンパク質(単鎖抗体)も「抗体」の意味に含まれる。
【0057】
1つの実施形態では、核酸はsiRNAである。siRNAは約20〜25個のヌクレオチドを有する二本鎖のRNA分子(dsRNAs)であり、RNaseIII酵素Dicerによって長鎖RNAが細胞内で切断されることによって生産される。siRNAは、RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)を特異的に組み込んでおり、相補配列を含む標的のmRNAを破壊するためにそのRNAi機能が発揮される。RNAiの機能はヌクレオチド塩基対の相互作用に基づくため、すべての重要な遺伝子を標的に作製できるため、siRNAは遺伝子抑制による疾病治療のための理想的なツールとなる。siRNAを用いた遺伝子抑制は、新しい治療法としてヒトの疾病の治療に大きな可能性を有する。様々な治療を目的として多くのsiRNAが設計され、報告されており、いくつかのsiRNAがヒトの疾病に関連する特異的で効果的な遺伝子を抑制することが証明されている。siRNAの治療への応用には、抗ウイルス療法、眼疾患の抗血管新生療法、自己免疫疾患や神経障害の治療、及び抗癌療法におけるウイルス遺伝子の発現及び複製の阻害が含まれるが、これに限定されない。遺伝子抑制による治療は哺乳動物で証明されており、siRNAの臨床応用にとって好ましいことである。siRNAはヒトゲノムのあらゆる遺伝子を標的にすることができるため、RNAiにはヒトの疾病を治療するための無限の可能性があると信じられている。
【0058】
核酸に化合物又はそれに対応するジスルフィドオリゴマー若しくは重合体を混合することによって、その核酸は本明細書に記載されたキャリア化合物として複合体化することができる。本明細書に記載された化合物に存在するアミノ基をカチオン基に変換するために反応のpHが変更できる。例えば、アミノ基をプロトン化するためにpHを調整できる。化合物のカチオン基の存在により、核酸はその化合物に静電的に結合できる(すなわち、複合体化できる)。1つの実施形態では、pHは1〜7.4である。別の実施形態では、N/P比は0.5〜100である。なお、Nは正帯電を形成する化合物に存在する窒素原子の数であり、Pは核酸に存在するリン酸基の数である。したがって、構造Lの適当な数のアミノ基で化合物を修飾することによって、核酸と化合物の結合を調節(例えば、結合のタイプや強さ)することが可能である。1つの実施形態では、核酸/キャリア複合体はナノ粒子である。1つの実施形態では、ナノ粒子の直径は、約1000ナノメートル以下である。
【0059】
他の実施形態では、本明細書に記載された化合物は、作製された核酸ナノ粒子が、エンドソーム小器官及び/又はリソゾーム小器官のエンドソーム−リソゾーム内のpHを回避するようにデザインできる。例えば、核酸とナノ粒子を形成する化合物では、その構造及び両親媒性がエンドゾーム−リソゾームpH(5.0〜6.0)で変化し、エンドゾーム−リソゾーム膜を破壊して、細胞質にナノ粒子が入ることができるようにデザインできる。1つの実施形態では、プロトン化可能なアミンと親油基(疎水基)の構造と数を変えることによりpH感受性のあるそれらの両親媒性を変更することによって、本明細書に記載された化合物の特定のエンドゾーム−リソゾーム膜破壊の能力を調節できる。例えば、プロトン化可能なアミノ基の数を減少させることによって、中性pHの化合物で作製されたナノ粒子の両親媒性を減少させることができる。1つの実施形態では、本明細書の化合物は、1〜50、1〜40、1〜30、1〜20、1〜10、1〜8、1〜6、1〜4、又は2つのプロトン化可能なアミノ基、置換アミノ基又は芳香族アミノ基を有する。例えば、アミノ基及び/又は置換アミノ基及び/又はイミダゾリルアミノ基は、式I、II又はVIIのリンカーLに存在してもよい。1つの実施形態では、本明細書に記載された化合物は、少なくとも1つのヒスチジン残基を含んでいる。他の実施形態では、その化合物は、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のヒスチジン残基を含んでいる。したがって、ナノ粒子全体のpKaを微調整するために、化合物とその化合物によって作られたナノ粒子のpH感受性のある両親媒性を使用することができる。生理的なpHにおけるナノ粒子の低い両親媒性は、核酸/MFCシステムの非特異的な細胞膜破壊と非特異的な組織取り込みを最小にすることができる。ある実施形態では、そのキャリアは、生理的なpHでの低い両親媒性とエンドゾーム−リソゾームpHでの高い両親媒性を持っており、それだけがナノ粒子で選択的なエンドゾーム−リソゾーム膜破壊を引き起こすことが好ましい。
【0060】
例えば、生体内での非特異的な組織内への取り込みを減少させるためにナノ粒子の重合されていない遊離チオールの反応によりポリエチレングリコールを共有結合で導入することによって、ナノ粒子複合体の表面を修飾することができる。例えば、PEG−マレイミドは遊離チオール基と迅速に反応する。キャリアに付与するために求められる親水性量によってPEGの分子量は変更することができる。また、キャリアのPEG修飾によって、細胞への取込みによる酵素分解(例えば、エンドヌクレアーゼ)から核酸で作られたナノ粒子を保護できる。また、遺伝物質の標的細胞への導入特異性と効率性を高めるために、複合体の作製時に、ペプチド、タンパク質、抗体又は抗体断片を含む標的物質をナノ粒子複合体に導入することができる。ナノ粒子複合体に標的物質を結合するスペーサーとしてポリエチレングリコールを使用できる。
【0061】
細胞に核酸を導入するために本明細書に記載された化合物を使用できる。その方法には一般的に複合体を細胞に接触することを含む。そこでは、核酸は細胞の中に取り込まれる。1つの実施形態では、本明細書に記載された化合物は、遺伝病を治療するのに不十分あるいは不足している遺伝子産物を供給すること又は遺伝子発現を抑制することによって、遺伝病の治療としてDNA又はRNAの導入を促進することができる。当該分野で公知の技術は、本明細書に記載された核酸を細胞に導入するための化合物の効果を評価するために使用できる。
【0062】
本明細書で使用される「細胞」という用語は、十分に特徴付けられ、均質で、生物的に純粋な細胞集団についていうことを意図する。これらの細胞は、初代細胞、腫瘍細胞若しくは当該分野で公知の方法によってin vitroで不死化された真核生物細胞又は原核細胞であってもよい。細胞株や宿主細胞は、哺乳動物起源のものが好ましいが、植物、昆虫、酵母、カビ又は細菌を含む非哺乳動物起源の細胞株や宿主細胞も使用することができる。
【0063】
1つの実施形態では、細胞は幹細胞、分化増殖能を獲得した幹細胞、分化細胞、初代細胞、及び腫瘍細胞を含む。幹細胞の例は、胚性幹細胞、骨髄幹細胞、及び臍帯幹細胞を含むが、これに限定されない。様々な実施例で用いられる細胞の他の例は、骨芽細胞、筋芽細胞、神経芽細胞、繊維芽細胞、グリア芽細胞、生殖細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、角化細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、結合組織細胞、グリア細胞、上皮細胞、内皮細胞、ホルモン分泌細胞、免疫システムの細胞、及びニューロンを含むが、これに限定されない。
【0064】
また本発明では、腫瘍細胞などの異型細胞又は異常細胞を使用できる。本明細書に記載された物質で培養された腫瘍細胞は、薬物治療を評価するための体内の自然な腫瘍環境をより正確に再現できる。本明細書に記載された物質での腫瘍細胞の増殖は、腫瘍特異的な薬物の開発を可能にする生体内様の環境での遺伝子発現、受容体発現、及びポリペプチド産生を含む生化学的経路の特徴付け及び腫瘍の活性化を促進することができる。
【0065】
当該技術分野で公知の技術を使用することにより、上述の複合体(すなわち、ナノ粒子)を対象物に投与することができる。例えば、医薬組成物は複合体を用いて調製できる。特定のケースにおける実際に好ましい複合体の量は、利用される特定の化合物、調製される特定の組成物、その応用方法及び治療される特定の部位や対象物に従って変わることが理解される。投与される受給者のための用量は、従来の考えを用いて決定できる。例えば、対象化合物と既知の薬物の活性の違いの通常の比較や、例えば、従来の適切な薬理学的プロトコールの手段によるものである。医薬化合物の投与量を決定する当業者である医師及び医薬調製者が、標準的な推奨に従って投与量を決定することに全く問題はない。(Physicians Desk Reference, Barnhart Publishing (1999))
【0066】
本明細書に記載された医薬組成物は、生物学的システムや生物学的存在が許容できるすべての賦形剤中に製剤化できる。そのような賦形剤の例は水、生理食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液、ハンクス溶液、及び他の生理的なバランスの塩の水溶液を含むが、これに限定されない。また、不揮発性油、オリーブ油若しくは胡麻油等の植物油、トリグリセリド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エチルオレイン酸等の注射可能な有機エステルなどの非水性の溶媒も使用できる。他の有用な製剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストランなどの粘度を上げる物質を含む懸濁液を含む。また、賦形剤は等張性や化学的安定性を高める物質などの少量の添加物も含むことができる。緩衝液の例は、リン酸緩衝液、重炭酸塩緩衝液及びトリス緩衝液を含み、防腐剤の例はチメロサール、クレゾール、ホルマリン及びベンジルアルコールを含む。
【0067】
医薬品のキャリアは、当業者に公知のものである。これらの最も典型的なものは、ヒトへ投与するための標準的キャリアであり、これらには滅菌水、生理食塩水、生理的pH緩衝液などの溶液が含まれる。
【0068】
医薬品を導入するために意図する分子は、医薬品組成で製剤化できる。医薬品組成には選択された分子に加えてキャリア、増粘剤、希釈剤、緩衝液、防腐剤及び界面活性剤などを含むことができる。また、医薬品組成には、抗菌薬、抗炎症薬及び麻酔薬など、1種以上の活性成分を含むことができる。
【0069】
医薬品組成物は、局所投与と全身投与のどちらが目的であるか治療する場所はどこかによって、多くの方法で投与できる。投与は、眼、腟内、直腸内、鼻腔内などに局所的に行ってもよい。また投与は、静脈内、腹腔内にもできる。本明細書に記載の核酸とMFCのナノ粒子複合体が細胞に接触する場合には、in vivo又はex vivoでその細胞と接触することが可能である。
【0070】
投与用の製剤には、滅菌水溶液又は非水溶液、懸濁液及び乳剤が含まれる。非水性キャリアの例には、水、アルコール/水溶液、乳剤又は懸濁液が含まれ、それには生理食塩水や緩衝液が含まれる。開示された組成と方法の付随的な使用に必要な場合、非経口用の溶媒には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、ラクトリンゲル液又は不揮発性油が含まれる。開示された組成と方法の付随的な使用に必要な場合、静脈内投与用の溶媒には、液体、栄養物補充液及び電解質補充液(リンゲルデキストロースに基づくものなど)などが含まれる。また、防腐剤及び他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスなども存在する。
【0071】
局所投与用の製剤には、軟膏、ローション、クリーム、ジェル、ドロップ、座薬、スプレー、液体、及び粉末を含むことができる。従来の医薬品のキャリア、水、粉末又はオイルベース及び増粘剤などが必要な場合又は好ましい場合がある。
【0072】
投与回数は、治療が行われる状態の過酷さと反応性に依存しているが、通常、1日あたり1回以上であり、数日から数カ月又は当業者が投与を中止すべきであると決定するまでその投与コースを継続する。当業者は、容易に最適用量、投与方法及び繰返し回数を決定できる。開示された組成と方法の特定の実施形態のどれもが、実施例で議論された非多糖ベースの試薬を含む特定の実施例及び本発明の実施例と容易に比較できることが理解される。そのような比較を行うことで、それぞれの特定の実施例の相対的な有効性は容易に決定できる。特に好ましい組成と方法は、本明細書の実施例で開示されており、必ずしも制限するものではないが、それらの組成と方法は、本明細書に開示されるいずれの組成と方法でも実行できることが理解される。
【実施例】
【0073】
以下の実施例は、本明細書で説明され、クレームされた化合物、組成物及び方法について、当業者に完全に開示及び説明するために、提示され、作製され、評価される。これらは、純粋な例であることを意図するものであり、発明者が認識する本発明の範囲を限定することを意図するものではない。数値(例えば、量や温度など)に関して精度を確実にする試みがされているが、いくつかの誤りや逸脱は考慮されるべきである。特に断りのない限り、「部」は「重量部」、温度は「℃」又は常温、圧力は大気圧又は大気圧近辺である。多くの反応条件の種類や組み合わせ、例えば、組成の濃度、好ましい溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、他の反応範囲があり、また記載された過程で得られた製品の純度と収量を最適化するために用いることのできる条件がある。そのような過程の条件を最適化するためには、繰り返される適切な実験のみが必要である。
【0074】
I.多機能性ジチオール化合物とその特徴
A.概要
塩化2−クロロトリチル樹脂(1.1mmol/g)、N−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン(Fmoc−His(Trt)−OH)、N−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システイン(Fmoc−Cys(Trt)−OH)、2−アセチルジメドン(Dde−OH)、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)及び2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩(TBTU)をEMDバイオサイエンス社(EMD Biosciences)(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。エチレンジアミン、ペンタエチレンヘキサミン、スペルミン、トリエチレンテトラミン、N,N−ジイソプロピルエチレンアミン(DIPEA)、アクリル酸メチル、1,2−エチレンジアミン、ヒドラジン、オレイン酸、トリイソブチルシラン(TIBS)、1,2−エタンジチオール(EDT)、4−ジチオスレイトール(DTT)ピペリジン、トリフルオロ酢酸(TFA)をランカスター社(Lancaster)(ニューハンプシャー州ウインダム)から購入した。ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)及びジメタンクロライド(DCM)は超乾燥溶剤であり、アクロス社(Acros)(ペンシルベニア州ピッツバーグ)から購入した。固相合成については、他の記載を除くと、フリットとキャップを備えたISOLUTEカラム容器(ヴァージニア州シャーロッツビル)の中で反応は行われた。合成に用いる前に、アミンを減圧蒸留によって精製した。他の全ての材料と溶剤は、追加の精製を行うことなく使用した。5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)をピアス社(PierceInc)(イリノイ州ロックフォード)から購入した。
【0075】
分岐PEI(Mw=25KDa)、N−(2,3−ジオレオイロキシ−1−プロピル)トリメチルアンモニウムメチルサルフェート(DOTAP)、ウシ血清アルブミン(BSA)、2,5−ジフェニール−3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)テトラゾリウム臭化物(MTT)、FITCを付加した抗マウスIgGヤギ抗体をシグマ−オルドリッチ社(Sigma-Aldrich)(ミズーリ州セントルイス)から購入した。MPEG−Mal−5000をネクター社(Nektar)(アラバマ州ハンツビル)を購入した。5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)をピアス社(PierceInc)(イリノイ州ロックフォード)から購入した。TransFast(商品名)をプロメガ社(Promega)から購入した。これは、N,N−[ビス−(2−ヒドロキシエチル)−N−メチル−N−[2,3−ジ(テトラデカノイロキシ)プロピル]ヨウ化アンモニウムと、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)から成る。マウス抗ラミンA/Cモノクローナル抗体をアブカム社(AbcamInc)(マサチューセッツ州ケンブリッジ)から購入した。ルシフェラーゼをコードするgWiz(商品名)レポータープラスミド及び緑色蛍光蛋白質をアルデブロン社(Aldevron)(ノースダコタ州ファーゴ)から購入した。ラミンA/Cを標的としたsiRNAをアンビオン社(Ambion,Inc.)(テキサス州オースチン)から購入した。siRNAのアンチセンス配列は、5’−UGUUCUUCUGGAAGUCCAGdTdT−3’であり、センス配列は、3’−dTdTACAAGAAGACCUUCAGGUC−5’である。ホタルルシフェラーゼを標的としたsiRNAをダルマコン社(Dharmacon)(イリノイ州シカゴ)から購入した。siRNAのアンチセンス配列は、5’−UCGAAGUACUCAGCGUAAGdTdT−3’であり、センス配列は、3’−dTdTAGCUUCAUGAGUCGCAUUC−5’である。Silencer(商品名)陰性対照siRNA(アンビオン)を非特異的siRNA対照として使用した。
【0076】
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)は、Agilent 1100シリーズの精製システムを使用して行った。最終生成物は、勾配移動相(A:0.05%TFA水溶液,B:0.05%TFAアセトニトリル溶液)を使用し、流量5ml/分、ZORBAX PrepHT C−18カラムを備えた分取用HPLCで精製した。Varian Mercury 400(カリフォルニア州パロアルト)を用いて、1H NMRスペクトルを得た。化合物の分子量は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)飛行時間型(TOF)質量分析で測定した。
【0077】
B.単量体の多機能性キャリア化合物THCOの合成と精製(図1)
1−[2−クロロトリチル−アミノ]−1,4,7,10−テトラアザデカン樹脂(樹脂2)
塩化2−クロロトリチル樹脂(300mg、1.1mmol/g)を、乾燥DCMを用いてよく洗浄した。トリエチレンテトラアミン(1ml)とDIPEA(64mg)のDCM溶液を樹脂に加え、その懸濁液を2時間、振盪した。溶媒を排出し、次に、DCMとMeOHを用いて洗浄した。樹脂を10mlのDCM/MeOH/DIPEA(17/2/1、v/v/v)と共に、さらに20分間振盪した。得られた樹脂2をDMF、DCMを用いてよく洗浄し、減圧で乾燥した。
【0078】
2−アセチルジメドン(Dde−OH)及びtert−ブトキシカルボニル(Boc)基を用いたポリアミンの選択的保護と脱保護
2−アセチルジメドン(Dde−OH,2g)を10mlのDMFに溶解した溶液を樹脂2に加えた。その懸濁液を、室温で12時間、振盪した。DMFとDCMを用いて樹脂をよく洗浄し、溶媒を排出し、樹脂3を得た。樹脂3は、Boc2O(10g)を15mlのDCMに溶解した溶液で懸濁した。その混合物を、室温で4時間、振盪した。得られた樹脂をDMFとDCMを用いてよく洗浄し、その後、減圧で乾燥して、樹脂4を得た。次に、2%ヒドラジンのDMF溶液で15分間、樹脂4を懸濁した。このステップは、Dde基の完全な脱保護を確実にするために3回繰り返した。DMFとDCMを用いて得られた樹脂をよく洗浄し、樹脂5を得た。次のステップのために、それを減圧で乾燥した。
【0079】
アクリル酸メチル、1,2−エチレンジアミン、N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン及びN−α−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システインを用いた連続伸長
乾燥樹脂5を100mlのナス型フラスコに移し、アクリル酸メチル(50ml)とDMF(10ml)を加えた。ロータリーエバポレーターにて、50℃で連続振盪し、反応を行った。第一アミンが完全に消費されるまで、カイザーニンヒドリン試験で反応をモニターした。DMF、MeOH及びDCMを用いて得られた樹脂6をよく洗浄し、減圧で乾燥した。次のステップのために、1,2−エチレンジアミン(50ml)をDMF(10ml)に溶解した溶液を樹脂6に加えた。ロータリーエバポレーターにて、50℃で5日間連続振盪し、反応を行った。DMF、MeOH及びDCMを用いてこの樹脂をよく洗浄し、減圧で乾燥して樹脂7を得た。次の固相反応のために、フリットとキャップを備えたISOLUTEカラム容器の中にこの樹脂を移した。活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン(2g)と、TBTU/HOBt/DIPEAをDMFに溶解した溶液を樹脂7に加え、カップリング反応を2時間続けた。カップリングの質は、カイザー試験で追跡した。この樹脂を数回洗浄し、20%ピペリジンDMF溶液に樹脂を懸濁(20分×3)することでフルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去して、樹脂8を得た。次に、次のステップのために、DMF及びDCMを用いてこの樹脂をよく洗浄し、減圧で乾燥した。続いて、活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システイン(2g)と、TBTU/HOBt/DIPEAをDMFに溶解した溶液を樹脂8に加え、カップリング反応を2時間続けた。カップリングの質は、カイザー試験で追跡した。この樹脂をよく洗浄し、20%ピペリジンDMF溶液を用いてフルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去した。次に、次のステップのために、DMF、MeOH及びDCMを用いて得られた樹脂9をよく洗浄した。
【0080】
オレイン酸を用いた伸張
活性化オレイン酸(2g)とTBTU/HOBt/DIPEAのDMF溶液を樹脂9に加え、カップリング反応を2時間続けた。カップリングの質は、カイザー試験で追跡した。この樹脂をよく洗浄し、20%ピペリジンDMF溶液を用いてフルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去した。次のステップのために、DMF、MeOH及びDCMを用いて得られた樹脂10をよく洗浄した。
【0081】
単量体の多機能性キャリアの樹脂からの開裂と脱保護
樹脂10をTFA/H2O/EDT/TIBS(94/2.5/2.5/1)溶液中で懸濁した。室温で3時間振盪した後に、溶液を回収し、減圧下で凝縮した。単量体の多機能性化合物11(THCO;図1)を冷ジエチルエーテルで洗浄し(40ml×5)、乾燥した。その化合物を分取用HPLCでさらに精製し、適切な画分を集めて凍結乾燥(dried by lyopholization)した。MS m/z 計算値C34H62N16O6S2(M+H)+=1383.94は、1383.75に検出された。同様の手順は、図2に示される他のMFCの生産に用いられた。
【0082】
C.THCOとTHCO/核酸複合体の生理化学的特性と生物学的特性
ゲル電気泳動シフトアッセイ
多機能性化合物THCOがDNAに結合する能力をゲル電気泳動によって調べた。0.5μg/mlの臭化エチジウムを含むアガロースゲル(0.8%,w/v)をTAE緩衝液(トリス酢酸塩−EDTA)中に準備した。DNA(10μl,0.1μg/μl)に、規定のN/P比(N=プロトン化できる窒素、P=DNA上のリン酸基)である等量の脂質溶液を混合し、使用する前に30分間インキュベートした。それぞれの10μlサンプルに2μlの6×ローディングダイ(loading dye)を混合し、その混合物をアガロースゲルにロードした。100Vで60分間、ゲルの電気泳動を行った。DNAのバンドの位置をUV照射装置上で可視化した。図3は1以上のN/P比においてTHCOがゲル内のDNAの移動を遅延させたことを示している。THCOは強いDNA結合性を示し、1以上のN/P比でアガロースゲル内のDNAの移動を遅延させることができる。
【0083】
溶血アッセイ
THCO(16.7μM)、DOTAP(16.7μM)及びトリトン(Triton,登録商標)X−100(1%,w/v)をpH7.4、pH6.5又はpH5.4のリン酸緩衝液(PBS)に溶解し、保存溶液とした。ラットを殺処分し、心穿刺により血液を得た。1500g、4℃で10分間、遠心することによって赤血球(RBC)を分離した。細胞ペレットを2%(w/v)RBC溶液になるよう冷PBSで再懸濁し、96穴のプレートに100μlずつ分注した。100μlのテストサンプルをRBC溶液に添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートした。マイクロプレートリーダーを用いて各サンプルの上清の吸光度を550nmで測定した。
【0084】
粒子サイズ分析
5.0μgのプラスミドDNA又はsiRNAと適量の材料を無塵水中で混合したサンプル用意し、出力波長633nmの5mWヘリウムネオンレーザを装備したBrookhaven社製の動的光散乱光度計BI−200SMシステムを用いて分析した。その装置に備わった機能を用いて拡散係数から有効径と集団分布を算出した。測定は90度の角度、25℃で行い、各サンプルは3連で分析した。siRNAとTHCOのナノ粒子の形成は、対照として非重合性の界面活性剤DOTAPを用いて、動的光散乱法(DLS)によって調べた。N/P比8でのTHCO/siRNA複合体の粒子サイズは、無塵水中で直径約130nmであり、一方、DOTAP/siRNA複合体は、直径約210nmのサイズであった。両複合体は効率的な細胞内取り込みのためのカットオフ値として報告されている250nm未満であった。このような低N/P比ではsiRNA/THCOの粒子サイズは、1,4,7−トリアザノニルイミノ−ビス[N−(システイニルヒスチニル)−1−アミノエチル)プロピオンアミドのポリジスルフィドとsiRNAの複合体の粒子サイズに比べてはるかに小さかった(図27)。理論に拘束されることなく、THCO内の疎水性残基はsiRNAとの小さくてコンパクトなナノ粒子形成を容易にする。また、THCO/siRNA複合体のナノ粒子は、DOTAP/siRNA複合体のナノ粒子よりも10%FBSの培養液中でより安定していた。THCO/siRNA複合体のサイズは、培養液中での30分間のインキュベートによる134nmから、2時間のインキュベートによって238nmまで変化した。一方、同様の条件下で、DOTAP/siRNAのサイズは、30分間のインキュベートによる211nmから、2時間のインキュベートによって、おそらく粒子凝集のために727nmに増加した。
【0085】
時間依存性酸化特性
THCOは、保存液(2mg/ml)を4mlのトリス緩衝液(10mM pH8.0)で、初期の理論上のチオール濃度180μMになるよう希釈した。既定の時間ごとに0.2mlずつ分取して、0.2mlのエルマン保存液(50mM NaOAcに溶解した2mM DTNB溶液)と混合した。紫外可視分光光度計(Cary−300 Bio)を用いて残存する遊離チオール濃度を測定した。複合体実験のために、界面活性剤(N/P=6)を添加する前に、gWizプラスミドDNAを終濃度90μMのリン酸塩に加えた。図4はエルマン試薬によるTHCOの時間依存性酸化特性を示している。
【0086】
別の実験では、THCOは、保存液をトリス緩衝液(10mM pH8.0)で、初期のチオール濃度100μMになるよう希釈した。THCO溶液を10μgのsiRNAと混合し(N/P=10、Nはプロトン化できるTHCOの窒素、PはsiRNA中のリン酸基)、また混合しなかった。規定の時間ごとに分取し、等量のエルマン保存液(50mM NaOAc溶液中、2mM DTNB)と混合し、紫外可視分光光度計によってチオール濃度を測定した。キャリアの重合は、エルマン試薬を用いて測定した時間経過中のTHCO/siRNA複合体中の遊離チオール濃度の減少によって確認した。図5に示されるように、siRNAの非存在下に比べて、siRNAの存在下で遊離チオール濃度は迅速に減少する。siRNAとの複合体形成は、酸素による酸化重合を促進するようである。
【0087】
細胞培養
HeLa細胞とU87細胞は、ATCC(American Type Culture Collection,米国メリーランド州ロックビル)から入手し、加湿5%CO2雰囲気、37℃で培養した。培養液には、ウシ胎児血清(10%)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、ペニシリン(100単位/ml)を加えた。構成的にホタルルシフェラーゼを発現するU−87細胞(U87−Luc)はユタ大学のハンツマン癌研究所より入手した。U87−Luc細胞は、ルシフェラーゼ遺伝子を含む組み換えレトロウイルスを感染させることによって作製された。細胞は10%FBS、G418(300μg/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及びペニシリン(100単位/ml)を含む最小必須培地(MEM培地)(ATCC)で培養した。
【0088】
チオール消費の競合(自動酸化対マレイミド)
THCO又はそのDNAナノ粒子複合体(N/P=6、複合体Aは30分間インキュベート、複合体Bは60分間インキュベート)を上述のとおり準備した。既定の時間ごとに、16μLのMPEG−Mal−5000保存液(10μg/μl DMSO溶液)を0.2ml溶液に添加し、その混合物を室温で30分間インキュベートした後、残存する遊離チオール濃度を定量した。図6は自動酸化とマレイミド反応との間でのTHCOのチオール消費の競合を示している。
【0089】
細胞毒性アッセイ
PEIとTHCOの細胞毒性の比較は、MTTアッセイを用いて評価した。アッセイの24時間前に、MB−231細胞を96穴プレートに10,000細胞/ウェルの密度で播種した。その細胞を異なった濃度のTHCOを含む200μlのL−15完全培地でインキュベートした。4時間後にそれぞれの培地を100μlの新しい完全培地に交換した。次いで、PBSで溶解した25μlのMTT溶液を添加し、さらに2時間インキュベートした。培養液を除去したのち、200μlのDMSOをウェルに加えて、37℃で5分間インキュベートした。吸光度はマイクロプレートリーダー(Model 550,Bio−Rad Lab.カリフォルニア州ヘラクレス)を用いて570nmで測定した。相対的な細胞生存率を「([Abs]sample−[Abs]blank)/([Abs]control−[Abs]blank)×100%」を用いて算出した。図7は、THCO及びPEI濃度に対する相対的な細胞生存率(%)を示す。図7は、PEIに比べてTHCOがMB−231細胞に対して低い細胞毒性であったことを示す。
【0090】
別の試験では、アッセイの24時間前に、U87細胞を96穴プレートに10,000細胞/ウェルの密度で播種した。その細胞を異なった濃度のTHCOを含む200μlの培地でインキュベートした。次にPBSに溶解した25μlのMTT溶液を添加し、さらに2時間、細胞をインキュベートした。培養液を除去した後、200μlのDMSOをウェルに加えて、37℃で5分間、細胞をインキュベートした。吸光度はマイクロプレートリーダー(Model 550,Bio−Rad Lab.カリフォルニア州ヘラクレス)を用いて570nmで測定した。相対的な細胞生存率を上記と同様に算出した。THCOは主要なトランスフェクション試薬であるPEIよりもはるかに細胞毒性が低かった。MTTアッセイにおけるTHCOとインキュベートされたU87細胞の生存率は250μg/mlの濃度で79±8%であり、DOTAP(72±4%)よりもわずかに高かった(図8)。それに対して、PEIとインキュベートされた細胞では、62.5μg/ml以上の濃度では生存率はわずか10±1%であり、THCOがPEIよりも安全なキャリアであることが示された。
【0091】
THCO/siRNA複合体の蛍光標識とPEG修飾
結合実験のすべてを10mMのトリス緩衝液(pH7.0)中で実施した。20μgのsiRNAを80nmolのTHCOと混合したのち、0.8nmolのフルオレセイン−5−マレイミドを加えた。蛍光標識ペグ化ナノ粒子のために、0.5%又は2.5%のmPEG5000−Mal(MFCに基づくモル比)をTHCO、siRNA及びフルオレセイン−5−マレイミドを混合した5分後に添加した。暗所で2時間インキュベートした後、遊離のマレイミド誘導体を遠心(Nanosep(商標),MWCO=100K,5000g,5分)によって除去し、次の実験のためにナノ粒子を再生した。
【0092】
細胞内取り込み
試験の24時間前に、6穴プレートに1ウェルあたり約50万個のU87細胞を播種した。上述の蛍光タグを付加したナノ粒子を細胞(1ウェルあたりsiRNA5μg)と共に37℃でインキュベートした。2時間後、培養液をアスピレーターによって除去し、細胞を冷リン酸緩衝液(PBS)で2回洗浄した後、トリプシンで処理した。細胞を集め、PBSに溶解した2%のポリホルムアルデヒドを用いて、4℃で20分間固定した。サンプルをFACSCalibur(商標)フローサイトメトリー(BD Biosciences)で分析し、結果は、WinMDIソフトウエア(ver.2.9)を用いて解析した。フローサイトメトリーの結果は、ペグ化されていないTHCO/siRNA複合体がペグ化されたナノ粒子に比べてU87細胞内に多く取り込まれることを示している。ナノ粒子のペグ化は、非特異的な細胞相互作用を低下させ、細胞内取り込み量を減少させると考えられる(図9)。
【0093】
D.THCOによるin vitroでの核酸導入
ホタルルシフェラーゼ又はGFPをコード化するプラスミドDNAのMFCを介する導入
トランスフェクションの24時間前に、MDA−MB−231細胞を24穴のプレートに播種した。トランスフェクション時に、各ウェルの培養液を無血清培地に交換した。異なったN/P比でTHCO/DNA複合体を加え、細胞を37℃で4時間インキュベートした。次に、培養液を1mlの新しい完全培地に交換し、さらに細胞を44時間インキュベートした。トランスフェクション試験はすべて3連で実施した。ホタルルシフェラーゼをコードするプラスミドDNAの場合、インキュベート後に、細胞を200μlの細胞溶解緩衝液(プロメガ社,ウィスコンシン州マディソン)で処理した。細胞抽出液中のルシフェラーゼ活性は、ルシフェラーゼアッセイキット(プロメガ社,ウィスコンシン州マディソン)を用いてルミノメータ(Lumat 9605,EG&G Wallac)で10秒間測定した。相対的な光強度値(RLU)は、細胞抽出液中のタンパク質濃度で標準化し、BCAタンパク質アッセイキット(ピアス社,イリノイ州ロックフォード)によって測定した。ルシフェラーゼ活性は相対的な光強度値(細胞抽出液中のタンパク質量1mgあたりのRLU)として表した。図10BにはTHCOの高効率トランスフェクションを示した。図10AはN/P比が4及び6のときが最適な発現であることを示す。緑色蛍光タンパク質をコードするプラスミドDNAの場合、蛍光顕微鏡によってGFP発現を見ることができる(図11)。
【0094】
ルシフェラーゼレポータ遺伝子を標的としたsiRNAのTHCOを介する導入
トランスフェクションの24時間前に、U87−Luc細胞を5000細胞/ウェルの密度で96穴プレートに播種した。siRNAトランスフェクション時に、各ウェルの培養液を新しい無血清培地に交換した。20nMの抗ルシフェラーゼsiRNA又は非特異的なsiRNAをTHCO、Transfast(商標)又はDOTAPと結合させ、使用する前に30分間インキュベートした。TransfastやDOTAPによるトランスフェクションは、説明書に従って実施した。複合体は細胞と37℃で4時間インキュベートした。次に、培養液を100μlの新しい完全培地に交換し、さらに細胞を44時間インキュベートした。トランスフェクション試験はすべて3連で実施した。インキュベート後に、あらかじめ暖めたPBSで細胞を洗浄し、200μlの細胞溶解液で処理したのち、数回凍結融解を行った。細胞残屑は14,000g、5分間の遠心で取り除いた。細胞溶解液(20μl)中のルシフェラーゼ活性は、ルシフェラーゼアッセイキット(100μlのルシフェラーゼアッセイ緩衝液)を用いてルミノメータ(Lumat 9605,EG&G Wallac)により10秒間測定した。遺伝子の抑制効率は未処理細胞のルシフェラーゼ発現量で標準化した。また、siRNAの導入効率は10%FBS培養液で同様に評価した。
【0095】
THCOは、4〜16までの広い範囲のN/P比において、Transfast(62%)と同等で、DOTAP(47%)よりも高い60〜70%の遺伝子抑制率を示した。図12は、N/P比8での、無血清培地又は10%FBS培地中の、THCO/siRNA複合体及びペグ化されたTHCO/siRNA複合体の遺伝子抑制率、並びにTransfast及びDOTAPとの対照複合体の遺伝子抑制率を示す。高い遺伝子抑制効率が、補助脂質であるDOPEなしでTHCO/siRNA複合体及びペグ化されたTHCO/siRNA複合体で認められ、それは、市販されているリポソーム又は脂質ベースのトランスフェクション試薬と比べてもすぐに使えるキャリアとしてTHCOの有利な特徴である。主な脂質ベースのキャリアでは、高いトランスフェクション効率を達成するためにDOPE又はコレステロールの取り込みの事前形成がしばしば必要であるが、THCOにはそれは必要ない。
【0096】
ペグ化MFC/siRNA複合体の細胞取り込み量が少なかったとしても、0.5%と2.5%のmPEG5000−Malで修飾されたTHCO/siRNA複合体は、非修飾のTHCO/siRNA複合体やTransfast複合体に比べて、無血清培地でわずかに高い遺伝子抑制効率を、10%FBS培地で有意に高い遺伝子抑制効率を示した。ペグ化MFC/siRNA複合体は、10%FBS培地中で約56%の遺伝子抑制効率を示し、無血清培地中での65%から低下した。無血清培地と比較して10%FBS存在下での遺伝子抑制効率の有意な減少はTHCO(61.1±2.2%〜46.3±4.8%)、Transfast(62.3±1.6%〜41.8±8.2%)及びDOTAP(47.1±3.8%〜21.9±7.7%)で認められた(図12)。ペグ化されたTHCO/siRNAナノ粒子は血清に順応したトランスフェクション効率を示した。理論によって拘束されることなく、表面のペグ化はナノ粒子を安定させ、リソゾーム小器官での酵素分解からsiRNAを防御した。
【0097】
内因性のハウスキーピング遺伝子(ラミンA/C)を標的としたsiRNAのMFCを介する導入
細胞を8穴の顕微鏡用チャンバースライドに播種し、多機能性のキャリア/siRNA複合体と37℃、5%CO2の環境で4時間インキュベートした。インキュベート後、細胞を洗浄し、新しい培養液を加え、RNAiの効果のためにさらに44時間インキュベートした。蛍光顕微鏡による解析のために、1%のウシ血清アルブミンを含むPBSで細胞を洗浄し、チャンバースライド上でメタノールを用いて固定した。細胞固定後、細胞をラミンに対する一次抗体(Abcam)とインキュベートし、次に、蛍光標識された二次抗体(Aldrich)とインキュベートした。遺伝子抑制効率は蛍光顕微鏡によって可視化された(図13)。THCO/siRNAとTransfast/siRNA複合体で処理した細胞は、RNAiによってラミンA/Cタンパク質の発現が抑制されたため、未処理の細胞に比べて蛍光がはるかに弱かった。
【0098】
ホタルルシフェラーゼを標的としたsiRNAのMFCを介する導入の定量的評価
構成的にホタルルシフェラーゼを発現しているヒトの星状細胞腫細胞株U373MG(U373−Luc)は、ルシフェラーゼ遺伝子を含む組換レトロウイルスをU373MG細胞に感染させることによって作製した。U373−Luc細胞は、10%のウシ胎児血清、G418(300μg/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及びペニシリン(100単位/ml)を含むMEM培地(ATCC)で培養した。
【0099】
トランスフェクションの24時間前に、U373MG−Luc細胞を2000細胞/ウェルの密度で96穴プレートに播種した。siRNAトランスフェクション時に、各ウェルの培養液を新しい無血清培地に交換した。キャリア/抗ルシフェラーゼsiRNA複合体は、細胞と37℃で4時間インキュベートした。次いで、培養液を1mlの新しい完全培地に交換し、さらに細胞を44時間インキュベートした。トランスフェクション試験はすべて3連で実施した。細胞をペレットにして100μlの細胞溶解緩衝液(プロメガ社)に再懸濁し、凍結融解を2回行った。14,000gで1分間遠心し細胞残屑を沈殿させ、20μlの上清を、ルシフェラーゼアッセイシステム(プロメガ社)を用いて評価した。図14はトランスフェクション試薬としてTHCO、PEI、Transfast及びDOTAPを用いたルシフェラーゼ遺伝子抑制を示す。THCOは、核酸(pDNA又はsiRNA)、細胞株(HeLa又はMDA MB231)、プラスミド(ホタルルシフェラーゼ又はGFPのどちらかをコードするレポーター遺伝子)及びsiRNA(ラミンA/Cをコードする内因性のハウスキーピング遺伝子又はホタルルシフェラーゼをコードする組み換え遺伝子のどちらかを標的とする)が異なるのにも関わらず万能で高い導入効率を示した。
【0100】
E.追加の単量体の多機能性キャリア化合物の合成と精製
MFCを固相化学法によって合成した。(1−アミノエチル)イミノ−ビス[N−(オレイシル−システイニル−ヒスチニル−1−アミノエチル)プロピオン−アミド](EHCO)の合成手順は、化合物のライブラリの合成のための代表的な手順として記述した。合成のプロトコールを図16に示す。MFCの一般構造は図15に示し、特定の化合物は図2に示す。
【0101】
塩化2−クロロトリチル樹脂(300mg)を無水DCMでよく洗浄した。DCM中のエチレンジアミン(1.0ml、過剰量)とDIPEA(64mg)の混合物を樹脂に加え、その懸濁液を2時間振盪した。溶媒を排出し、樹脂をDCMとMeOHで洗浄した。さらに、樹脂は10mlのDCM/MeOH/DIPEA(17/2/1,v/v/v)で20分間振盪した。次に、樹脂をマイケル付加でメチルカルボン酸を導入するために10mlのDMF中でアクリル酸メチル(50ml、過剰量)と混合した。ロータリーエバポレーターを用いて50℃で連続回転にて反応を行った。DMF10ml中の1,2−エチレンジアミド溶液(50ml、過剰)をメチルカルボン酸エステルの樹脂と混合した。ロータリーエバポレーターを用いてその混合物を5日間、50℃で回転した。第一アミンを含む樹脂をISOLUTEカラムに移し、DMFに溶解した活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン(2.0g,過剰量)とTBTU/HOBt/DIPEA(過剰量)の溶液と混合し、2時間振盪した。樹脂を数回洗浄し、フルオレニルメトキシカルボニル保護基を20%ピペリジン(DMF溶液)によって除去し(20分間、3回)、ヒスチジン残基を含む樹脂を与えた。同様にしてDMF中の活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システイン(2.0g,過剰量)及びTBTU/HOBt/DIPEA(過剰量)と樹脂との反応によりシステイン残基を導入し、フルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去した。最終的に、DMF中のTBTU/HOBt/DIPEA存在下でオレイン酸(2g)と樹脂を2時間反応させることによってオレイシル基(oleicyl group)を導入した。第一アミノ基を含むそれぞれのカップリング反応の質はカイザー試験で調べた。各反応サイクルの樹脂は、DMF、MeOH及びDCMでよく洗浄し、次の反応プロセスの前に減圧下で乾燥した。最終の樹脂はTFA/H2O/EDT/TIBS(94/2.5/2.5/1)溶液で懸濁し、室温で3時間振盪した。その溶液を集めて、減圧下で濃縮した。残留物を冷ジエチルエーテルで洗浄(40ml×5)し、乾燥した。最終生成物のEHCOは、Agilent1100リーズ精製システムを用いて、ZORBAX PrepHT C−18カラムを備えた分取用HPLCによって精製した。精製した画分を集めて、凍結乾燥した。最終生成物の純度は分析用HPLCで確かめた。化合物の構造は、Varian Mercury 400(カリフォルニア州パロアルト)を用いた1H NMR分光法及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)飛行時間型(TOF)質量分析よって解析した。
【0102】
F.MFCとMFC/核酸複合体の生理学的、生物学的特性
溶血アッセイ
アッセイは、上述の技術を用いて実施した。MFCのpH感受性の両親媒性細胞膜破壊作用は、ラットの赤血球を用いた異なったpHでの溶血アッセイで評価した。図17は、pH7.4、pH6.5及びpH5.4のPBS緩衝液中での化合物の溶血活性を示している。陽性対照であるTriton X−100(1%,w/v)は、完全に溶血させた。これらの緩衝液とDOTAPはいずれの場合もほとんど溶血しなかった。MFCは様々なpH依存性の溶血活性を示した。一般的に、すべてのMFCはpH7.4において、pH6.5及びpH5.4よりも低い溶血活性を有していた。pH7.4では、EHCL及びEHCOはほとんど溶血活性がなかったが、他のMFCは10〜35%の中程度の溶血活性を示した。pH6.5では、EHCOを除いて、MFCの溶血活性が上昇したが、EHCOはほとんど溶血活性を示さなかった。pH5.4では、すべてのMFCが高い溶血活性を示し、EHCLを除き、50〜80%の溶血が認められた。
【0103】
MFCの溶血活性のpH感受性はそれらの構造特性によって決まる。ヒスチジン残基及び同様の疎水性残基を含むMFCにおいて、pH7.4及びpH6.5で頭部官能基中のプロトン化可能なアミノ基の数が増加するに伴って溶血活性が上昇する。中性付近のpHでは、プロトン化可能なアミノ基が多ければ多いほど、頭部官能基の電荷が増えてMFCの両親媒性が高くなる。EHC及びTHC系において、pH7.4のEHTLを除き、pH7.4及びpH6.5での不飽和のオレイシル基は、同じ系の飽和疎水性テールに比べて低い溶血活性を示した。THCOとTGCOの比較から、MFCのエンドゾーム−リソゾームpHでの両親媒性のpH感受性にヒスチジン残基が重要であることが示唆される。全般的に、溶血活性(赤血球膜の破壊)のpH感受性は、プロトン化可能なアミノ基頭部官能基と疎水性テールの結合から由来するMFCの両親媒性のpH感受性によって引き起こされる。多くのアミノ基がプロトン化された場合、MFCはより両親媒性となり、より溶血活性が高くなる。プロトン化と両親媒性のpH感受性は、MFCの頭部官能基の全体的なpKaによって決まるのかもしれない。
【0104】
MFC/siRNAナノ粒子の形成と径の測定
MFC/siRNAナノ粒子複合体は、上述の技術を用いて作製し、特徴付けた。重合性のMFCとsiRNAとの複合体形成と複合体のナノ粒子の形成は、動的光散乱法で調べた。EHCOは、まずsiRNAとの複合体形成及び複合体形成とナノ粒子の形成におけるN/P比の影響を検討するために使用された。ナノ粒子の形成はEHCO又はsiRNA溶液のいずれでも検出されなかった。EHCOにsiRNAを混合し、30分間インキュベートした場合に、ナノ粒子複合体の形成は0.5という低いN/P比で認められた。粒子のサイズは複合体のN/P比で変化した(図18A)。N/P比0.5での初期サイズは直径約200nmであり、N/P比を4まで増加させるとサイズは増加した。比較的中性の複合体粒子の凝集が可能であったため、粒子のサイズはN/P比4で約3μmと大きかった。N/P比6、8及び10での粒子サイズは、それぞれ約240、200及び151nmと減少した。他の重合可能な界面活性剤を用いたsiRNA複合体の粒子のサイズは、EHCOの検討に基づきN/P比8及び10で測定した。図18Bで示されるように、複合体の平均粒子サイズは、N/P比8で160〜260nmの範囲であり、N/P比10で160〜210nmの範囲であった。ほとんどの複合体のサイズは効率的な細胞内取り込みのカットオフ値と報告されている250nm未満であった。
【0105】
MFCの自動酸化
MFCは、保存液(N2保護,2mg/ml)をトリス緩衝液(10mM pH8.0)で希釈し、初期のチオール濃度を150μMとした。10μgのsiRNAの存在下又は非存在下で、試験溶液(400μl)を用いて界面活性剤中のジチオールの自動酸化を実施した(N/P=10)。既定の時間ごとに分取し、等量のエルマン保存液(50mM NaOAcに溶解した2mM DTNB溶液)と混合し、紫外可視分光光度計(Cary−300 Bio)を用いたエルマンアッセイで、遊離チオール濃度を測定した。
【0106】
他で報告されたsiRNA導入システムに比べて、MFCは比較的コンパクトで小さいナノ粒子を形成した。理論に拘束されることなく、キャリアとsiRNAとの間の電荷の相互作用によって複合体が形成されたと考えられる。疎水性テールの疎水性相互作用とジチオールの重合は、安定でコンパクトなナノ粒子の形成を促進した。siRNAを混合した後の酸化を介したMFCの重合は、エルマンアッセイによる測定でのチオールの消失によって確認された(図19)。チオールの自動酸化速度はsiRNAの非存在下に比べてsiRNAの存在下で速く、siRNAとの複合体形成が自動酸化を促進したと考えられる。これらのジスルフィド結合は、ナノ粒子複合体をさらに安定させるであろう。細胞外スペースと細胞内のチオール/ジスルフィドのレドックスポテンシャルが大きく異なるため、導入の過程では、ジスルフィド結合は細胞外のスペースでは安定しており、その後サイトゾルではその安定性は減少し、ナノ粒子の解離及びsiRNAの遊離が促進される。
【0107】
MFC/siRNA複合体の細胞毒性
U87−luc細胞は上述のプロトコールに従って、異なったキャリアのMFC/siRNA複合体とインキュベートした。インキュベートの後に、それぞれのウェルにPBSで溶解したMTTの溶液(5mg/ml,25μl)を添加し、細胞をさらに2時間インキュベートした。培養液を除去したのち、それぞれのウェルに200μlのDMSOを加えて、細胞を37℃で5分間インキュベートした。吸光度はマイクロプレートリーダー(Model 550,Bio−Rad Lab.カリフォルニア州ヘラクレス)を用いて570nmで測定した。相対的な細胞生存率は「([Abs]sample−[Abs]blank)/([Abs]control−[Abs]blank) ×100%」として算出した。
【0108】
G.MFCによる核酸のin vitro導入
siRNAを用いたMFCを介するin vitro遺伝子抑制
ホタルルシフェラーゼを構成的に発現するU87−luc細胞は10%FBS,G418(300μg/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、ペニシリン(100単位/ml)を含むMEM培地(ATCC)で培養した。トランスフェクションの24時間前に、U87−luc細胞を5000細胞/ウェルの密度で96穴プレートに播種した。siRNAトランスフェクション時に、各ウェルの培養液を新しい無血清培地に交換した。抗ルシフェラーゼsiRNAをMFC、TransFast又はDOTAPと複合体形成させ、使用前に30分間インキュベートした。複合体は細胞と37℃で4時間インキュベートした。次に、培養液を100μlの新しい完全培地に交換し、さらに細胞を44時間インキュベートした。細胞をあらかじめ暖めたPBSで洗浄し、200μlの細胞溶解液で処理したのち、凍結融解を数回行った。細胞残屑は14,000g、5分間の遠心で取り除いた。細胞溶解液(20μl)中のルシフェラーゼ活性は、ルシフェラーゼアッセイキット(100μlのルシフェラーゼアッセイ緩衝液)を用いてルミノメータ(Lumat 9605,EG&G Wallac)により10秒間測定した。遺伝子の抑制効率は未処理細胞のルシフェラーゼ発現量で標準化した。
【0109】
細胞のsiRNA導入のためのMFCsの有効性は、ホタルルシフェラーゼを安定的に発現しているU87−luc細胞株にて抗ルシフェラーゼsiRNAを用いて評価した。市販のトランスフェクション試薬であるTransFastとDOTAPは対照として用いた。界面活性剤を介するルシフェラーゼ発現の抑制効果は、まず効率的なsiRNA導入に最もよいN/P比を得るために、異なるN/P比でEHCOを用いて評価した。EHCOでは、ルシフェラーゼ発現の高いノックダウン効果は8〜20のN/P比の範囲で認められた。(図20)。最も高い抑制効果はMFCにおいてN/P比10で認められた。MFCを介するルシフェラーゼ発現の抑制効果はN/P比10で固定して評価した。同時に、MFCの細胞毒性を評価するために、siRNA複合体とインキュベートした細胞の生存率をMTTアッセイで調べた。図21aに示されるように、TransFastは、siRNAが100nMのとき、未処理の細胞に比べて89.6±5.6%のルシフェラーゼ発現のノックダウンを示したが、有意な細胞毒性では57.6±2.2%の生存率しか認められなかった。siRNAが100nMのTransFastでは比較的高い遺伝子抑制がみられるが、細胞の生存率が低くなり得る。同じsiRNA濃度のDOTAP/siRNA複合体では高い生存率(85.8±1.6%)であったが、ルシフェラーゼ発現のノックダウン効果は低かった(56.7±3.1%)。MFCのsiRNA複合体とインキュベートされた細胞は相対的に生存率が高く、78.6±5.7%〜88.2±1.3%の範囲であった。そのルシフェラーゼ発現のノックダウン効果は47.8±4.2%〜88.4±3.1%であった。MFCの中ではEHCOが高い生存率(86.7±8.3%)で最も高い遺伝子抑制効果(88.4±3.1%)を示した。すべてのsiRNA複合体は、siRNA濃度が低いとき(20nM)に細胞毒性が低かった(図21b)。Transfastを含む場合はすべて細胞生存率が高かった(87.6±4.6%)。この条件下では、EHCLを除くMFCはDOTAPに比べて高いルシフェラーゼ発現抑制効果を示した。THCL,THCO,TGCO,PHCO及びSHCOはTransFastに匹敵するトランスフェクション効率(62.6±6.4%)を示した。EHCOはTransFastに比べて有意に高いトランスフェクション効率を示した(74.5±1.0%)。細胞のsiRNA導入効率とMFCの溶血活性のpH感受性及び両親媒性とは良く相関した。EHCOは両siRNA濃度で最も高い遺伝子抑制効果を示した。pH7.4とpH6.5で比較的溶血活性が低かったTHCOとSHCOは、MFCの中でも比較的高い遺伝子抑制効果を示した。
【0110】
H.EHCOを用いたin vivo遺伝子抑制
動物腫瘍モデル
ルシフェラーゼを安定的に発現しているU87細胞を集めて、培養液/マトリジェル混合液(v/v=1/1)で再懸濁した。200万個の細胞を含む細胞浮遊液100μlをマウスの右脇腹の皮下に注射した。
【0111】
キャリア
EHCOを試験のために選択した。DOTAPは、in vivoでのsiRNA導入のために用いられている市販のトランスフェクション試薬であり、対照キャリアとして用いた。
【0112】
siRNAs
遺伝子抑制効果を生物発光法で非侵襲的に検出するために、抗ルシフェラーゼsiRNAを用いて、マウスのルシフェラーゼ発現をノックダウンした。低酸素で誘導できるファクタ−1a(Hif)は血管内皮増殖因子(VEGF)の発現を制御しており、抗Hif−siRNA複合体の腫瘍内注入によりin vivoでの腫瘍増殖が抑制された。ホタルルシフェラーゼを標的とするsiRNAは、Dharmacon(イリノイ州シカゴ)から購入した。アンチセンスの配列は5’−UCGAAGUACUCAGCGUAAGdTdT−3’であり、センスの配列は3’−dTdTAGCUUCAUGAGUCGCAUUC−5’である。HIFを標的とするsiRNAはユタ大学のハンツマン癌研究所から提供された。アンチセンスの配列は5’−UCACCAAAGUUGAAUCAGAdTdT−3’であり、センスの配列は3’−dTdTAGUGGUUUCAACUUAGUCU−5’である。
【0113】
抗Luc−siRNA複合体の投与及びルシフェラーゼマウスのイメージング
マウスの生物発光イメージングは、抗ルシフェラーゼ複合体を投与する1日前に行った。PBSに溶解したホタルのD−ルシフェリン(Xenogen Corp.,カリフォルニア州アラメダ)50mg/kg、ケタミン100mg/kg及び塩酸キシラジン10mg/kg(いずれもSigma)をマウスの腹腔内に投与した。1秒の照射時間でIVIS 100イメージングシステム(Xenogen)を用いて、投与10分後にマウスを中間のビニングで撮影した。イメージは、リビングイメージソフトウェア(Xenogen)を用いて定量化した。翌日、300μlに溶解した50μg抗ルシフェラーゼsiRNAをEHCO又はDOTAPに混合し、得られた複合体をマウスの腹腔内に全身投与した。siRNA複合体投与の2日後にマウスの生物発光イメージングを実施した。抗Luc複合体を投与される1日前の発光シグナル強度を100%として、siRNA投与後のマウスのルシフェラーゼ発現レベルを0日に対するパーセントで標準化した。
【0114】
図22は、EHCOの2回投与後に、腫瘍でのルシフェラーゼ発現が50%を超えて減少したことを示す。一方、DOTAPのみでは最初の投与後に初期効果がみられたが、2回目の投与後では有意な効果はなかった。
【0115】
抗Hif−siRNA複合体の投与及び腫瘍径の測定
抗Hif−siRNA複合体は腫瘍細胞移植の21日後に投与した。1群のマウス(n=6)にsiRNA複合体を最初の3週間は週2回、4週目は週1回腹腔内に投与した。siRNA複合体の投与は合計7回繰り返した。他の群(n=8)は対照として用いた。2〜4日ごとにデジタルノギスで腫瘍体積を測定することによって腫瘍の成長をモニターした。腫瘍の成長はデジタルノギスを用いて測定した。腫瘍体積は、式(0.52×長径×短径2)によって計算した。マウスに抗Hif−siRNA複合体を投与した日を0日とし、その腫瘍体積を100%とした。すべての腫瘍体積を0日の腫瘍体積に対する割合として表した。
【0116】
予備試験では、U87−luc神経膠腫異種移植片を用いたマウス皮下腫瘍移植モデルにおいて、EHCOは、抗HIF−siRNAの全身腹腔内投与の高い抗腫瘍効果を仲介した。siRNAとして2mg/kgの低用量でEHCO/抗HIF−siRNAナノ粒子を投与した6匹のマウスのうち5匹は、投与27日後に明らかな反応を示した。図23は、投与期間中、投与に反応したマウスの相対的な腫瘍体積変化及び未投与マウスの相対的な腫瘍体積変化を示す。投与群中の無反応マウスの腫瘍成長曲線も図23に示す。
【0117】
II.ジスルフィド多機能性化合物及びその特徴
A.概要
塩化2−クロロトリチル樹脂(1.1mmol/g)、N−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン(Fmoc−His(Trt)−OH)、N−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システイン(Fmoc−Cys(Trt)−OH)、2−アセチルジメドン(Dde−OH)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩(TBTU)及びN−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)をEMDバイオサイエンス社(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。トリエチレンテトラミン、N,N−ジイソプロピルエチレンアミン(DIPEA)、アクリル酸メチル、1,2−エチレンジアミン、ヒドラジン、4−ジチオ−DL−スレイトール(DTT)、トリイソブチルシラン(TIBS)、1,2−エタンジチオール(EDT)、ピペリジン、トリフルオロ酢酸(TFA)をランカスター社(ニューハンプシャー州ウインダム)から購入した。超分岐PEI(Mw=25KDa)、ヘパリン硫酸塩、リン酸クロロキン(CQ)及び2,5−ジフェニール−3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)テトラゾリウム臭化物(MTT)をシグマ−オルドリッチ社(米国ミズーリ州セントルイス)から購入した。ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)及びジメタンクロライド(DCM)は超乾燥溶剤であり、アクロス社(ペンシルベニア州ピッツバーグ)から購入した。固相合成については、他の記載を除くと、フリットとキャップを備えたISOLUTEカラム容器(ヴァージニア州シャーロッツビル)の中で反応は行われた。ルシフェラーゼをコードするgWizレポータープラスミドをアルデブロン社(ノースダコタ州ファーゴ)から購入した。ホタルルシフェラーゼを標的としたsiRNAをダルマコン社(イリノイ州シカゴ)から購入した。siRNAのアンチセンス配列は、5’−UCGAAGUACUCAGCGUAAGdTdT−3’であり、センス配列は、3’−dTdTAGCUUCAUGAGUCGCAUUC−5’である。合成に用いる前に、アミンを減圧蒸留によって精製した。他の全ての材料と溶剤は、追加の精製を行うことなく使用した。トリエチレンテトラミンは減圧蒸留で浄化された。すべてのその他の材料と溶媒は追加精製なしで使用された。
【0118】
B.合成手順
図24は、第一、第二及び第三の荷電官能基を有するジチオール含有単量体の樹脂担持合成を示す。図25は、酸化重合によるポリジスルフィドオリゴマーの合成を示す。以下の記号は、図28と29における記号と同じである。
【0119】
1−[2−クロロトリチル−アミノ]−1,4,7,10−テトラアザデカン樹脂(樹脂2)
塩化2−クロロトリチル樹脂(300mg、1.1mmol/g)を反応槽に入れ、乾燥DCMを用いてよく洗浄した。トリエチレンテトラアミン(1ml)とDIPEA(64mg)のDCM溶液を樹脂に加え、その懸濁液を2時間、振盪した。溶媒を排出し、次に、DCMとMeOHを用いて洗浄した。樹脂を10mlのDCM/MeOH/DIPEA(17/2/1、v/v/v)と共に、さらに20分間振盪した。得られた樹脂2をDMF、DCMを用いてよく洗浄し、減圧で乾燥した。
【0120】
2−アセチルジメドン(Dde−OH)及びtert−ブトキシカルボニル(Boc)基を用いたポリアミンの選択的保護と脱保護
2−アセチルジメドン(Dde−OH,2g)を10mlのDMFに溶解した溶液を樹脂2に加えた。その懸濁液を、室温で12時間、振盪した。DMFとDCMを用いて樹脂をよく洗浄し、溶媒を排出し、樹脂3を得た。樹脂3は、Boc2O(10g)を15mlのDCMに溶解した溶液で懸濁した。その混合物を、室温で4時間、振盪した。得られた樹脂をDMFとDCMを用いてよく洗浄し、その後、減圧で乾燥して、樹脂4を得た。次に、2%ヒドラジンのDMF溶液で15分間、樹脂4を懸濁した。このステップは、Dde基の完全な脱保護を確実にするために3回繰り返した。DMFとDCMを用いて得られた樹脂をよく洗浄し、樹脂5を得た。次のステップのために、それを減圧で乾燥した。
【0121】
アクリル酸メチル、1,2−エチレンジアミン、N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン及びN−α−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システインを用いた連続伸長
乾燥樹脂5を100mlのナス型フラスコに移し、アクリル酸メチル(50ml)とDMF(10ml)を加えた。ロータリーエバポレーターにて、50℃で連続振盪し、反応を行った。第一アミンが完全に消費されるまで、カイザーニンヒドリン試験で反応をモニターした。DMF、MeOH及びDCMを用いて樹脂6をよく洗浄し、減圧で乾燥した。
【0122】
次のステップのために、1,2−エチレンジアミン(50ml)をDMF(10ml)に溶解した溶液を樹脂6に加えた。ロータリーエバポレーターにて、50℃で5日間連続振盪し、反応を行った。DMF、MeOH及びDCMを用いてこの樹脂をよく洗浄し、減圧で乾燥して樹脂7を得た。
【0123】
次の固相反応のために、フリットとキャップを備えたISOLUTEカラム容器の中に樹脂を移した。活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン(2g)と、TBTU/HOBt/DIPEAをDMFに溶解した溶液を樹脂7に加え、カップリング反応を2時間続けた。カップリングの質は、カイザー試験で追跡した。この樹脂を数回洗浄し、20%ピペリジンDMF溶液に樹脂を懸濁(20分×3)することでフルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去して、樹脂8を得た。次に、次のステップのために、DMF及びDCMを用いてこの樹脂をよく洗浄し、減圧で乾燥した。
【0124】
続いて、活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システイン(2g)と、TBTU/HOBt/DIPEAをDMFに溶解した溶液を樹脂8に加え、カップリング反応を2時間続けた。カップリングの質は、カイザー試験で追跡した。この樹脂をよく洗浄し、20%ピペリジンDMF溶液を用いてフルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去した。次に、次のステップのために、DMF、MeOH及びDCMを用いて樹脂9をよく洗浄した。
【0125】
樹脂からの単量体の開裂と脱保護
樹脂9をTFA/H2O/EDT/TIBS(94/2.5/2.5/1)溶液中で懸濁した。室温で3時間振盪した後に、溶液を回収し、減圧下で凝縮した。残留物を冷ジエチルエーテルで洗浄し(40ml×5)、乾燥した。単量体10を分取用HPLCでさらに精製し、60mgの生成物を得た。1H NMR(400MHz,D2O)δδ8.45(m,2H),7.2(m,2H),4.5(m,2H),4.05(m,2H),3.2−2.8(m,24H),2.7−2.5(m,8H),2.4−2.3(m,4H)MS m/z 計算値C34H62N16O6S2(M+H)+=855.45は、855.50に検出された。
【0126】
DMSO中の酸化重合
酸化重合は36mgの単量体10を用いて、100mlのDMSO中、37℃で行った。酸化重合の間の一定の時間ポイントで、反応混合物を分取し、FPLCで分子量を測定した。重合は5日間行った。アセトン(10ml)を用いた析出でポリマー残渣を得、さらに超純水(MWCO=2000)に対するオーバーナイトの透析によって精製した。最終生成物を凍結乾燥で乾燥した。1H NMR(400MHz,D2O)δ8.34(m,2H),7.12(m,2H),4.5(m,2H),4.1(m,2H),3.2−2.8(m,24H),2.7−2.5(m,8H),2.4−2.3(m,4H)Mw=6.2K(SECで測定した)。
【0127】
C.ポリジスルフィド及びポリジスルフィド/DNA複合体の特徴
ゲル電気泳動シフトアッセイ
ポリジスルフィド11(PDS)がDNAに結合する能力をゲル電気泳動によって調べた。0.5μg/mlの臭化エチジウムを含むアガロースゲル(0.8%,w/v)をTAE緩衝液(トリス酢酸塩−EDTA)中に準備した。DNA(10μl,0.1μg/μl)に、規定のN/P比(N=プロトン化できる窒素、P=DNA上のリン酸基)である等量の重合溶液を混合し、使用する前に30分間インキュベートした。それぞれの10μlサンプルに2μlの6×ローディングダイを混合し、その混合物をアガロースゲルにロードした。100Vで60分間、ゲルの電気泳動を行った。DNAのバンドの位置をUV照射装置上で可視化した。
【0128】
0.15M NaCl又は1mg/mlヘパリンの存在下又は非存在下で、0.1M DTTとポリプレックス(polyplexes)(N/P=3)を37℃で4時間インキュベートすることによって、PDS/DNAポリプレックスを不安定にする還元条件の能力を調べた。サンプルは上述のようにゲル電気泳動によって分析した。
【0129】
図26は、示されたN/P比でのゲル電気泳動シフトアッセイの結果を示す。レーン1:DNAのみ;レーン2〜4:単量体/DNA複合体;レーン5〜9:重合体/DNA複合体。(b)NaCl又はヘパリン存在下での還元はポリプレックスを不安定にする。N/P比3でのポリプレックスを試験に用いた。レーン1〜4はDTT非存在下で実施し、レーン5〜8は0.1M DTTの存在下で実施した。ポリプレックスは37℃で4時間インキュベートした。レーン1:DNAのみ;レーン2:ポリプレックスのみ;レーン3:0.15M NaCl存在下でのポリプレックス;レーン4:0.1mg/mlヘパリン存在下でのポリプレックス;レーン5:DNAのみ;レーン6:ポリプレックスのみ;レーン7:0.15M NaCl存在下でのポリプレックス;レーン8:0.1mg/mlのヘパリン存在下でのポリプレックス。(ND=ネイキッドDNA,O.C.=オープンサーキュラー,S.C.=プラスミドDNAの超らせん構造)
【0130】
図26(a)に示されるように、単量体はN/P比9以下ではウェル内のDNA移動を遅延させることができない。それに対して、ポリジスルフィドによれば、N/P比11で移動を部分的に遅延させ、1.5以上のN/P比では完全に遅延した。塩(0.15M NaCl)又は陰電荷のヘパリン(1mg/ml)存在下のN/P比3では、ポリプレックスは高い安定性を示した。図26(b)に示されるように、生理的なイオン強度及び競合生体高分子よって、検出可能なポリプレックスの解離は全く生じなかった。また、ポリプレックスからのDNAの遊離を異なった条件下の還元環境で調べた。ジスルフィド還元剤であるDTTが存在するとフリーのDNAが遊離した。高イオン強度又はヘパリンの存在下では、さらに還元環境でのDNAの遊離が促進された。この結果は、カチオン性のポリジスルフィドを用いたDNAポリプレックスが、細胞外では安定であり、細胞内ではDNAを遊離できるので、導入効率を高めることを示唆した。
【0131】
粒子サイズ分析
5.0μgのプラスミドDNA又はsiRNAと適量の材料を無塵水中で混合したサンプル用意し、出力波長633nmの5mWヘリウムネオンレーザを装備したBrookhaven社製の動的光散乱光度計BI−200SMシステムを用いて分析した。その装置に備わった機能を用いて拡散係数から有効径と集団分布を算出した。測定は90度の角度、25℃で行った。各サンプルは3連で分析し、データは平均値で表した。図27は示されたN/P比でのPDS/DNA及びPDS/siRNA複合体のサイズを示す。
【0132】
酸塩基滴定アッセイ
酸塩基滴定は6mlのPDS又はPEI溶液(正電荷に基づいて5mM)を用いて実施した。最初のpHは10に調整した。2μlの1M HClで連続して滴定し、各添加後のpHを測定した。NaClの5mM溶液を対照として同様に滴定した。pH滴定曲線によれば、エンドゾーム−リソゾームのpH範囲(pH4.5〜7.2)では、PDSはPEIと同様の緩衝能力を示した。これは重合体中の第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基及び芳香族アミノ基の組み合わせ効果のためである。
【0133】
D.細胞培養実験
プラスミドDNA導入のためのin vitroプロトコール
COS−7細胞(SV40ウイルスで形質転換したサル腎臓繊維芽細胞)及びMDA−MB−231細胞(ヒト白人の悪性乳腺腫上皮細胞)をATCC(American Type Culture Collection,米国メリーランド州ロックビル)から入手した。ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)でCOS7細胞を、ATCCリーボビッツL−15培地でMDA−MB−231細胞を37℃、加湿5%CO2雰囲気で培養した。培地には10%のウシ胎児血清(FBS,HyClone社、ユタ州ローガン)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、ペニシリン(100単位/ml)を添加した。トランスフェクションの24時間前に、24穴プレートに細胞を播種した。トランスフェクション時に、100μMのクロロキンを添加又は無添加の無血清培地1mlと各ウェルの培地を交換した。異なるN/P比で、重合体/DNA複合体又はPEI/DNA複合体を細胞と共に37℃で4時間インキュベートした。次に、培地を1mlの新しい完全培地に交換し、さらに44時間細胞をインキュベートした。すべてのトランスフェクション試験はすべて3連で実施した。インキュベーション後、200μlの細胞溶解緩衝液(プロメガ社,ウィスコンシン州マディソン)で処理した。ルシフェラーゼアッセイキット(プロメガ社,ウィスコンシン州マディソン)を用いてルミノメータ(Lumat 9605,EG&G Wallac)で、細胞抽出液中のルシフェラーゼ活性を10秒間測定した。相対的な光強度値(RLU)は、細胞抽出液中のタンパク質濃度で標準化し、BCAタンパク質アッセイキット(ピアス社、イリノイ州ロックフォード)によって測定した。ルシフェラーゼ活性は相対的な光強度値(細胞溶解液中のタンパク質量1mgあたりのRLU)として表した。
【0134】
図28aは、100μMのクロロキン存在下又は非存在下で、異なったN/P比でのPEIとネイキッドDNAとを比較したCOS7細胞中のPDS/DNA複合体のトランスフェクション効率を示す。平均±標準偏差(n=3)。図28aに示されるように、複合体が介したときのルシフェラーゼ発現レベルはN/P比に依存していた。ポリジスルフィドはN/P比100で最も高い効率で遺伝子導入を仲介し、同様の遺伝子導入能力はMDA−MB−231細胞中でも認められた(データ未記載)。最適のトランスフェクションのためには相対的に高い電荷比がカチオン性ポリジスルフィドに必要であり、それは、他の報告されている生物分解性の遺伝子キャリアと同様であった。それにもかかわらず、PDSポリプレックス(N/P=100)の毒性はPEI(N/P=10)に比べて低かった。N/P比の増加に従ってそのサイズが減少した(N/P=40で直径320nmからN/P=80で直径135nm;支援情報参照)ことから、トランスフェクション効率はポリプレックスのサイズと相関しているかもしれない。最適N/P比では、ポリジスルフィドはCOS7細胞中でPEIに比べて遺伝子発現が約3倍低かった。エンドゾーム膜を破壊することが知られている試薬であるリン酸クロロキン(CQ,100μM)の存在は、ポリジスルフィドを介した遺伝子発現をほとんど改善しなかった。そのことは、カチオン性ポリジスルフィドにはポリプレックスがエンドソーム小器官から逃れることを助けることに貢献するであろう高い緩衝能力があることを示している。
【0135】
siRNA導入のためのin vitroプロトコール
構成的にホタルルシフェラーゼを発現しているヒト星状細胞腫細胞株U373MG(U373−Luc)は、ルシフェラーゼ遺伝子を含む組み換えレトロウイルスをU373MG細胞に感染させることによって作製した(最初の保存株はユタ大学、ハンツマン癌研究所のDr.David Gillespieからの好意で供与された)。U373−Luc細胞は、10%のウシ胎児血清、G418(300μg/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及びペニシリン(100単位/ml)を含むMEM培地(ATCC)で培養した。
【0136】
トランスフェクションの24時間前に、U373MG−Luc細胞を2000細胞/ウェルの密度で96穴プレートに播種した。siRNAトランスフェクション時に、各ウェルを無血清又は血清含有の新しい培地に交換した。異なったN/P比で、キャリア/抗ルシフェラーゼsiRNAの複合体を細胞と共に37℃で4時間インキュベートした。次に、培地を1mlの新しい完全培地と交換し、さらに細胞を44時間インキュベートした。トランスフェクション試験はすべて3連で実施した。細胞をペレットにし、100μlの細胞溶解緩衝液(プロメガ社)で再懸濁し、凍結融解を2回実施した。細胞残屑を14,000gで1分間遠心し、ルシフェラーゼアッセイシステム(プロメガ社)を用いて、20μlの上清をアッセイした。
【0137】
図28bは、異なった条件下におけるU373−Luc細胞中でのPDS/siRNA又はPEI/siRNA複合体による内因性のルシフェラーゼ遺伝子の抑制効果を示す。AとBは、無血清条件下で、それぞれ100nMと10nMのsiRNA濃度で実施した。CとDは、10%のFBS存在下で、それぞれ100nMと10nMのsiRNA濃度で実施した。平均±標準偏差(n=3)。PDS/siRNAを介したルシフェラーゼ抑制効果は低いsiRNA濃度(10nM)であっても、PEI/siRNAと同様の効果であった。ルシフェラーゼ発現は、無血清培地中でポリジスルフィド/siRNA(N/P=30)複合体及びPEI/siRNA(N/P=10)複合体ともに30%まで抑制された(図28b)。興味深いことに、10%FBSの存在下では、PEI/siRNA複合体の遺伝子抑制効果はなく、これはポリプレックスと血清蛋白質の好ましくない相互作用のためと考えられる。同様の条件下で、ポリジスルフィド/siRNA複合体は依然として40%以下の遺伝子抑制効果を有する血清親和性を示した。
【0138】
細胞毒性アッセイ
PEIとの比較における、ポリジスルフィドの細胞毒性は、MTTアッセイを用いて評価した。アッセイの24時間前に96穴プレートに10000細胞/ウェルの密度でMDA−MB−231細胞を播種した。異なった濃度の重合体又は異なったN/P比のポリプレックスを含む200μlのL−15完全培地で細胞を培養した。4時間後、各ウェルの培地を100μlの新しい完全培地に交換した。PBSで溶解した25μlのMTT溶液を添加し、さらに細胞を2時間培養した。培養液を除去し、200μlのDMSOをウェルに加え、37℃で5分間インキュベートした。吸光度はマイクロプレートリーダー(Model 550,Bio−Rad Lab.カリフォルニア州ヘラクレス)を用いて570nmで測定した。相対的な細胞生存率は「([Abs]sample−[Abs]blank)/([Abs]control−[Abs]blank)×100%」として算出した。図29Aは、PDS及びPEI濃度に対する相対的な細胞生存率を示し、図29Bは、PDS及びPEIのN/P比に対する相対的な細胞生存率を示す。カチオン性のPDSはPEIに比べてはるかに低い細胞毒性であった。
【0139】
III.MFCを介する核酸のターゲッティング導入のための方法
ボンベシン−PEG−Mal複合体の合成
2つの連続する6アミノ酸単位を有するボンベシン(7−14)を固相担持樹脂上で合成した。ボンベシンペプチドを分取用HPLCで精製し、凍結乾燥し、NHS−PEG3400−Malと反応させてBN−PEG−Mal複合体を得た。図30に合成の手順を示す。BN−PEG3400−Malの分子量はMOLDI−TOFで確認した。
【0140】
RGD−PEG−Mal複合体の合成
環状ペプチドc(RGDfK)はPeptide Internationalから購入した。それをNHS−PEG3400−Malと反応させてRGD−PEG−Malを得た。図31に合成の手順を示す。BN−PEG3400−Malの分子量はMOLDI−TOFで確認した。
【0141】
MFC/siRNA又はMFC/DNAナノ粒子の表面修飾の基本手順
MFC/siRNA又はMFC/DNAナノ粒子の表面修飾は、チオールマレイミド反応を利用することによって実施した。図32にMFC/siRNAナノ粒子を機能させるための一般的手順を示す。例えば、1μgのsiRNAを9nmolのMFC−EHCOと結合させ、適量のマレイミドを含む機能分子を添加した(0.225nmolのBN−PEG−MalではBN/EHCOモル比に基づくと2.5%程度のBN−PEG−Malを修飾した)。ナノ粒子は異なったマレイミド含有分子、例えば、mPEG−Mal、BN−PEG−Mal又はRGD−PEG−Malとの反応によって修飾される。同様にして、フルオレセイン−5−マレイミドを用いて蛍光標識したナノ粒子を得た。暗所で2時間インキュベートした後、遊離マレイミド誘導体を遠心(Nanosep,MWCO=100K,5000g,5分)にて除去し、ナノ粒子複合体を次の実験のために回収した。
【0142】
蛍光顕微鏡
12穴の細胞プレートに、1ウェル当たり約10万個のU87細胞を播種した。蛍光標識されたMFC/DNAナノ粒子を上述のように準備した。リガンドを有する複合体の場合、適量のBN−PEG−Mal、RGD−PEG−Mal又はmPEG−Malを複合体混合物に添加した。暗所で2時間インキュベーションした後、遊離のマレイミド誘導体を遠心(Nanosep,MWCO=100K,5000g,5分)にて除去した。回収したサンプルを細胞に施し、37℃で2時間インキュベートした。培地を吸引によって除去し、細胞を冷リン酸緩衝液(PBS)で洗浄し、ウェル当たり1mlのPBSで溶解した4%PFAを用いて4℃で20分間固定した。固定試薬を吸引し、細胞をPBSで2回洗浄した。そのサンプルを蛍光顕微鏡で観察した。腫瘍特異的なペプチドを修飾したナノ粒子は、非標的ナノ粒子に比べて癌細胞中に有意な取り込みを示した(図33)。
【0143】
BN−PEG−Mal修飾ナノ粒子の細胞内取り込み
試験の24時間前に、6穴プレートに、1ウェルあたり約50万個のU87細胞を播種した。蛍光標識されたEHCO/siRNAナノ粒子は、上述のように準備した。EHCO/siRNAナノ粒子形成後、適量のBN−PEG−Mal又はmPEG−Malを混合物に添加した。暗所で2時間インキュベートしたのち、遊離のマレイミド誘導体を遠心(Nanosep,MWCO=100K,5000g,5分)にて除去した。回収したサンプルを細胞に添加し、37℃でインキュベートした。2時間後、培地を吸引によって除去し、細胞を冷リン酸緩衝液(PBS)で2回洗浄し、トリプシン処理した。細胞を集め、PBSで溶解した2%PFAを用いて4℃で20分間固定した。サンプルをFACSCaliburフローサイトメトリー(BD Biosciences)で分析した。その結果は、WinMDIソフトウエア(ver.2.9)(Joseph Trotter)を用いて解析した。
【0144】
図34は、受容体関与エンドサイトーシスを介する標的ナノ粒子による細胞内取り込み効率(2.5%BN−PEG−Mal修飾)が、非特異的なエンドサイトーシスを介する非修飾性のナノ粒子による細胞内取り込み(Black)と同等であり、2.5%mPEG−Malで修飾したMFC/siRNAナノ粒子による細胞内取り込みに比べて有意に高いことを示している。この結果は、ナノ粒子のペグ化が非特異的な細胞内取り込みを低下させ、標的基の導入により受容体関与エンドサイトーシスを強化することを示唆する。未処置の細胞は陰性対照として用いた。
【0145】
RGD−PEG−Mal修飾ナノ粒子の細胞内取り込み
試験の24時間前に、6穴プレートに、1ウェル当たり約50万個のU87細胞を播種した。蛍光標識したMFC/siRNAナノ粒子を、上述のように準備した。MFC/siRNAナノ粒子形成後に、適量のRGD−PEG−Mal又はmPEG−Malを混合物に添加した。暗所で2時間インキュベートしたのち、遊離のマレイミド誘導体を遠心にて除去(Nanosep,MWCO=100K,5000g,5分)した。回収したサンプルを細胞に添加し、37℃でインキュベートした。2時間後、培地を吸引にて除去し、細胞を冷リン酸緩衝液(PBS)で2回洗浄し、トリプシンで処理した。細胞を集め、PBSで溶解した2%PFAを用いて4℃で20分間固定した。サンプルはFACSCaliburフローサイトメトリー(BD Biosciences)で分析した。
【0146】
図35は、標的ナノ粒子による細胞内取り込み(青、2.5%RGD−PEG−Mal修飾)が、非標的性のナノ粒子による細胞内取り込み(紫、2.5%mPEG−Mal修飾)に比べて有意に高いことを示しており、それは、ナノ粒子中のRGDペプチドの導入が受容体関与エンドサイトーシスを強化することを示唆する。未処置の細胞は陰性対照として用いた。
【0147】
シクロ(RGDfK)のプレインキュベーションによってRGD−PEG−Mal修飾されたナノ粒子の細胞内取り込み競合
試験の24時間前に、6穴プレートに、1ウェル当たり約50万個のU87細胞を播種した。蛍光標識したRGD−PEG−Mal修飾ナノ粒子を上述のように準備した。競合実験では、細胞を100倍モルの過剰量のシクロ(RGDfK)ペプチドと共に4℃で30分間プレインキュベートした。次に、RGD−PEG−Mal修飾ナノ粒子を細胞に添加し、37℃でインキュベートした。2時間後、培地を吸引によって除去し、冷リン酸緩衝液(PBS)で2回洗浄し、トリプシン処理した。細胞を集め、PBSに溶解した2%PFAを用いて4℃で20分間固定した。サンプルをFACSCaliburフローサイトメトリー(BD Biosciences)で分析した。
【0148】
図36は2.5%のRGD−PEG−Mal修飾標的ナノ粒子を介した細胞内取り込み効率を示す。100倍モルの過剰量のシクロ(RGDfK)ペプチドとプレインキュベートした細胞は、RGDペプチドが無い培地の細胞に比べて取り込み効率が低かった。
【0149】
標的MFC/siRNAナノ粒子の静脈内投与
(動物腫瘍モデル)
U87細胞を集め、培地/マトリゲル混合物(v/v=1/1)で再懸濁した。200万個の細胞を含む100μlの細胞懸濁液をマウスの右脇腹の皮下に注入した。MFC−EHCOを試験で用いた。HifはVEGFの発現を制御する低酸素誘導性の因子1aであり、抗Hif−siRNAによるHifの発現抑制によって腫瘍の成長が抑制された。腫瘍の成長を抑制について抗Hif−siRNAを試験した。
【0150】
(siRNA複合体の投与と腫瘍サイズの測定)
抗Hif−siRNA複合体を腫瘍細胞移植21日後に投与した。siRNAを40μg含む複合体200μlを静脈内投与にてマウスに全身投与した。各群のマウス(n=5)に静脈内投与にてsiRNA複合体を投与した。各群においてマウスにナノ粒子又は溶液を投与した。具体的には、群1:PEI/siRNA複合体、群2:ネイキッドsiRNA、群3:mPEG修飾EHCO/siRNA複合体(修飾度:2.5%)、群4:BN−PEG修飾EHCO/siRNA複合体(修飾度:2.5%)、群5:RGD−PEG修飾EHCO/siRNA複合体(修飾度:2.5%)。しかしながら、PEI/siRNAナノ粒子を投与したマウスのすべてが投与直後に死亡した。これは、おそらくPEIの高い毒性のためであると考えられる。
【0151】
残りのマウスの腫瘍の成長を2〜4日ごとにデジタルノギスで腫瘍体積を測定することによってモニターした。腫瘍体積は、式(1/6)πD12D2(D1は測定された短径)を用いて計算した。マウスにsiRNAを投与した日を0日とし、その腫瘍体積を100%として標準化した。投与後のすべての腫瘍体積を0日の腫瘍体積に対する割合として表した。ペプチドで標的としたsiRNAナノ粒子は、投与後2週間、腫瘍の成長を抑制したが、非標的性の導入システム及びsiRNAのみを投与されたマウスでは有意な腫瘍の成長が認められた。図37は2.5%ペプチド修飾EHCO/siRNAナノ粒子の静脈内投与を示し(BN−PEG−Mal,青;RGD−PEG−Mal,オレンジ)、それらのナノ粒子は、非標的性のMFC/siRNAナノ粒子(2.5%mPEG−Mal修飾ナノ粒子)や、ネイキッドsiRNA溶液に比べて有意にマウスの腫瘍の成長率を抑制した。
【0152】
本明細書全体にわたって、様々な刊行物が参照される。これらの刊行物の開示は、本明細書に記載される本発明の化合物、組成物及び方法をより完全に記載するために、参照することによりその全体が本明細書中に組み込まれる。
【0153】
様々な変形及び変更が、本明細書に記載される本発明の化合物、組成物及び方法になされる可能性がある。本明細書に記載される本発明の化合物、組成及び方法の他の実施態様は、本明細書に開示される本発明の化合物、組成及び方法の仕様及び実施の考察から明らかである。特定例及び実施例は例示であるとみなされることが意図される。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2006年9月29日に出願された米国仮出願第60/827,440号の優先権を主張する。この出願の全教示は、参照することにより全体が本明細書中に組み込まれる。
【0002】
承認
本発明は、米国政府の補助金(国立衛生研究所の国立生物医学画像・生物工学研究所からの補助金EB000489)を用いてなされた。米国政府は本発明に一定の権利を有する。
【背景技術】
【0003】
遺伝子治療は、治療目的の遺伝子を発現または制御するために、遺伝物質をヒト細胞内に導入することによって疾病を治療する新しいアプローチとして登場した。安全かつ効率的な遺伝子ベクター又はキャリアの開発は、核酸を用いた治療法が成功するための中心的な課題である。
【0004】
核酸の導入システムは、ウイルス性の導入システムと非ウイルス性の導入システムに分類できる。ウイルスベクターは、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス及びレトロウイルス等の弱毒ウイルスに基づいている。ウイルスベクターは、遺伝子をヒト細胞に導入し、発現させる点で高い効率性を有しており、研究開発において一般的なベクターである。しかしながら、ウイルスベクターの毒性、特に最近のX−SCID患者での白血病の発症やウイルスベクターを用いた臨床試験での患者の死亡などの出来事によってウイルスベクターの臨床応用について著しい暗雲が投げかけられている。ウイルスベクターの毒性は、ウイルスベクターの不純物とウイルスベクターに対する宿主の免疫応答に関連している。そのうえ、ウイルスベクターは、1〜2回投与した後に宿主の免疫システムによってベクターに対する抗体ができるので、複数回の投与には適していない。
【0005】
非ウイルス性の核酸導入システムにはウイルス性以外のすべてのシステムが含まれる。直接注入、流体力学的な導入、化学修飾、ペプチド、リポソーム、およびカチオン高分子を含む様々な非ウイルス性のアプローチが、例えばsiRNAs等の核酸の導入に使用されてきた。ウイルス性の導入システムに比べて、これらの非ウイルス性のシステムは使用しやすく、大規模なスケールで容易に作製できる。最も重要なのは、それらには免疫原性がなく、宿主の免疫応答をほとんど刺激しないことである。現在利用可能な非ウイルス性導入システムの主な欠点は、標的細胞への核酸の導入効率が低いことである。その低い導入効率にもかかわらず、非ウイルス性導入システムは、安全性、非免疫原性、生産の容易さ、および低コストの面から一層好まれるようになっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
即ち、必要とされるものは、無毒であり、非免疫原性であり、導入プロセスの間の酵素分解から核酸を防御する導入キャリアである。また、その導入システムが体内から直ちに除去されることを防ぎ、標的組織や標的細胞に特異的に取り込まれ、作用部位の細胞内で核酸が迅速に放出されることが望まれる。本発明は、細胞へ核酸導入するためのキャリアとして有用な多機能性化合物である。本発明の多機能性導入システムは、現在の導入システムの短所の多くに対処している。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、細胞へ核酸を導入するために有用な多機能性キャリア(MFC)である。また本発明は、導入システムを使用するための方法である。本発明の効果の一部は、以下の説明に記載されており、一部はその記載から明らかであり、又は以下に記載される各実施形態によって知ることができる。後述する効果は、特に添付の特許請求の範囲で示される構成要素及び組み合わせによって理解され、達成される。前述の一般的な説明及び以下の詳細な説明は単なる例示的なものであり、典型的なものであり、この説明により限定されるものではないと理解される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
本明細書に組み込まれ、その一部を構成する添付図面は、以下に記載のいくつかの実施態様を例示する。
【図1】単量体の多機能性キャリアTHCOの合成スキームを示す図である。
【図2】本発明で作製されるいくつかのMFCの構造を示す図である。
【図3】1以上のN/P比において、THCOがゲル内のDNAの移動を遅延させたことを示す図である。
【図4】エルマン試薬、THCO及びTHCO/DNA複合体によるTHCOの時間依存性酸化特性を示す図である。
【図5】THCO及びTHCO/siRNA複合体(N/P=10)の自動酸化特性を示す図である。
【図6】自動酸化とマレイミド反応の間のTHCOのチオール消費の競合を示す図である。
【図7】THCO及びPEI濃度に対する相対的な細胞生存率(%)を示す図である。
【図8】DOTAP及びPEIと比較したTHCOのU87細胞における細胞毒性を示す図である。
【図9】ペグ化された又はペグ化されてない蛍光タグを付加したTHCO/siRNA複合体のU87細胞内への取り込みを示す図である。ナノ粒子のペグ化は、非特異的な細胞取り込みを減少させる。
【図10】他の市販のトランスフェクション試薬と比較したときのTHCOのトランスフェクション効率を示す図である。
【図11】以下のトランスフェクション試薬:A)THCO;B)Transfast(商標);C)DOTAPを使用したときのGFP導入MBA−231細胞の蛍光画像を示す図である。
【図12】U87−Luc細胞におけるTHCO/siRNA(N/P=8)複合体が介在するルシフェラーゼ遺伝子抑制を示す図である(siRNA濃度は全て20nMに固定されている;Transfast及びDOTAPは対照として使用した)。抗Luc−siRNA又は非特異的siRNAを、A:未修飾THCO;B:0.5%ペグ化THCO;C:2.5%ペグ化THCO;D:Transfast;又はE:DOTAPと複合し、得られたsiRNA複合体をU87−Luc細胞と共にインキュベートし、次いで培養液を交換した。トランスフェクションの44時間後にルシフェラーゼ活性を評価した。トランスフェクション試験は無血清培地(a)又は10%FBS培地(b)において3連で実施した
【図13】THCO(A)又はTransfast(B)及び培地(C)の存在下で、HeLa細胞を抗ラミンA/C siRNAと共にインキュベートしたことを示す図である。
【図14】トランスフェクション試薬として、THCO、PEI、Transfast及びDOTAPを使用したルシフェラーゼ遺伝子抑制を示す図である。
【図15】MFCの一般構造を示す図である。
【図16】EHCOを作製するための合成のプロトコールを示す図である。
【図17】pH7.4、pH6.5及びpH5.4において、MFC(8.3μM)及びDOTAP(8.3μM)のそれぞれの溶血活性を示す図である。
【図18】MFCとsiRNAの複合体の粒子サイズを示す図である。(a)異なるN/P比におけるEHCO/siRNA複合体のサイズ。(b)8及び10のN/P比におけるMFCとsiRNA複合体のサイズ。
【図19】エルマンアッセイにより測定されたチオール濃度に基づくsiRNAの非存在又は存在下でのEHCOの自動酸化特性を示す図である。
【図20】異なるN/P比におけるU87−luc細胞でのEHCOが介する遺伝子抑制効果を示す図である。
【図21】MFC/siRNA複合体と共にインキュベートした細胞のU87−luc細胞おけるMFCを介するルシフェラーゼ細胞抑制効果(棒グラフ)及び細胞生存率(折れ線グラフ)を示す図である。トランスフェクション実験は、100nM(a)又は20nM(b)のsiRNA濃度で行った。
【図22】U87−luc異種移植片マウスにおけるEHCO(MFC)/抗Luc−siRNA複合体のルシフェラーゼ発現のin vivoでのノックダウン効果を示す図である。
【図23】未投与対照マウス及び抗HIF/EHCOナノ粒子を投与されたマウス(各投与においてsiRNAとして2mg/kgの投与量)の腫瘍成長曲線を示す図である。
【図24】第一、第二及び第三の荷電官能基を有するジチオール含有単量体の樹脂担持合成の合成を示す図である。
【図25】酸化重合によるポリジスルフィドオリゴマー11(PDS)の合成を示す図である。
【図26】示されたN/P比でのゲル電気泳動シフトアッセイを示す図である。
【図27】示されたN/P比でのPDS/DNA及びPDS/siRNA複合体の大きさを示す図である。
【図28】(a)は、PEIとネイキッドDNAとを比較した、異なったN/P比での100μMのクロロキン存在下又は非存在下におけるCos7細胞中のPDS/DNA複合体のトランスフェクション効率を示す図である。(b)は、異なった条件下におけるU373−Luc細胞中でのPDS/siRNA又はPEI/siRNA複合体による内因性のルシフェラーゼ遺伝子の抑制効果を示す図である。
【図29】(a)はPDS及びPEI濃度に対する相対的な細胞生存率を示し、(b)はDNA複合体のPDS及びPEIのN/P比に対する相対的な細胞生存率を示す図である。カチオン性のPDSはPEIに比べてはるかに低い細胞毒性を示す。
【図30】BN−PEG−Malの合成を示す図である。
【図31】RGD−PEG−Malの合成を示す図である。
【図32】マレイミドを含む機能的分子を用いたMFC/siRNA又はMFC/DNAナノ粒子の表面修飾を図式的に示す図である。
【図33】標的基を有する(BN−PEG−Mal,2.5%程度修飾,A〜C)又は標的基を有さない(mPEG−Mal,2.5%程度修飾,D〜F)官能基を持つEHCO/DNAナノ粒子の代表的な蛍光画像を示す図である。
【図34】受容体関与エンドサイトーシスを介する標的ナノ粒子による細胞内取り込み効率(2.5%BN−PEG−Mal修飾)が、非特異的なエンドサイトーシスを介する非修飾性のナノ粒子による細胞内取り込みと同等であり、ペグ化されたナノ粒子による細胞内取り込みよりも高いことを示す図である。ナノ粒子のペグ化は非特異的な細胞内取り込みを低下させる。
【図35】標的ナノ粒子(2.5%RGD−PEG−Mal修飾)による細胞内取り込みが、非標的性のナノ粒子(2.5%mPEG−Mal修飾)による細胞内取り込みに比べて有意に高いことを示す図である。
【図36】2.5%のRGD−PEG−Mal修飾標的ナノ粒子を介した細胞内取り込み効率が、遊離のRGDの存在下で減少することを示す図である。
【図37】2.5%ペプチド修飾MFC/siRNAナノ粒子(BN−PEG−Mal又はRGD−PEG−Mal)をマウスに静脈内投与した時間の経過に基づいたマウスの腫瘍の体積を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
発明の詳細な説明
本発明の化合物、組成及び方法を開示し説明するが、以下で説明する実施形態は、特定の化合物、合成方法又は用途に限定されるものではなく、当然に、様々であることが理解される。また、本明細書で使用される用語は特定の実施形態について説明することのみを目的とし、限定を意図するものではないことも理解される。
【0010】
この明細書と添付の特許請求の範囲において、下記の意味を有することが定義される多くの用語について示す。
この明細書と、添付の特許請求の範囲において、単数形の「a」、「an」及び「the」は、文中に特に明示のない限り、対象の複数形も含まれることに注意すべきである。したがって、例えば「医薬キャリア」という場合、そのようなキャリアの2種以上の混合物等が含まれる。
【0011】
「任意の」又は「任意に」は、その後に記載する事又は状況が生じても、生じなくてもよいことを意味し、その記載は、その事又は状況が生じる場合と生じない場合を含む。例えば「任意に低級アルキルを置換する」という句は、低級アルキルを置換しても置換しなくてもよいことを意味し、その記載は、置換されていない低級アルキルと置換された低級アルキルの両方を含む。
【0012】
本明細書では「アルケニル基」という用語は、1つ以上のC=C二重結合を有するC2−C20アルキル基を定義する。
【0013】
本明細書で使用される「アルキル基」という用語は、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、エイコシル基、テトラコシル基等の炭素原子が1〜25の分岐又は非分岐の飽和炭化水素基である。「低級アルキル」基は、1〜6の炭素原子を含むアルキル基である。
【0014】
本明細書で使用される「アシル」基という用語は、式C(O)Rで表される。式中、Rは、例えば、本明細書に定義されるアルキル基又は芳香族基等の有機基である。
【0015】
本明細書で使用される「アルキレン基」という用語は、相互に結合する2つ以上のCH2基を有する官能基である。アルキレン基は、式−(CH2)a−で表すことができる。式中、aは2〜25の整数である。
【0016】
本明細書で使用される「芳香族基」という用語は、これには限定されないが、ベンゼン基、ナフタリン基等を含む芳香族基を有する官能基である。また「芳香族」という用語は、その芳香族基の環に導入された少なくとも1つのヘテロ原子を有する芳香族基と定義される「ヘテロアリール基」を含む。ヘテロ原子の例としては、窒素、酸素、硫黄及びりんを含むが、これに限定されない。アリール基は、置換されていても置換されていなくてもよい。アリール基は、これには限定されないが、アルキル基、アルキニル基、アルケニル基、アリール基、ハロゲン基、ニトロ基、アミノ基、エステル基、ケトン基、アルデヒド基、水酸基、カルボン酸基又はアルコキシル基を含む1以上の官能基で置換することができる。
【0017】
本明細書では「窒素含有置換基」という用語は、アミノ基と定義される。本明細書では「アミノ基」という用語は、第一級、第二級又は第三級アミノ基と定義される。あるいは、窒素含有置換基は、第四級アンモニウム基であってもよい。窒素含有置換基は、窒素原子が環の一部であるか、又は環に直接的に、若しくは1以上の原子を経て間接的に(すなわち、ペンダント型)結合している芳香族基又脂環基であってもよい。窒素含有置換基は、式−R−NH2を有するアルキルアミノ基であってもよい。式中、Rは、分岐又は直鎖のアルキル基であり、アミノ基は置換されていても置換されていなくてもよい。
【0018】
本明細書を通して使用されるAA1,AA2,A,B,L,R,R1−R24,a,b,d,m,n,o,p,q,r,s,t,u,v,w,x,y及びz等の変数は、そうでない旨が示されない限り、それ以前に定義された変数と同じである。
【0019】
I.多機能性キャリア及びその作製方法
本発明は、細胞へ核酸を導入するために有用な多機能性キャリア化合物である。本発明の化合物は、核酸を効率的に細胞に導入できるキャリアをまとめて生産する様々な官能基を有する。それぞれの官能基について以下に議論する。
【0020】
本発明の一実施形態は、式Iを含む化合物である。
【0021】
【化1】
【0022】
式中、AA1及びAA2は1つ以上のアミノ酸を含み、(AA1)m及び(AA2)nは同一又は異なる配列である。
m及びnは1〜50の整数である。そして、
Lは、少なくとも1つの中性アミノ基若しくはカチオン性アンモニウム基、又はそれらの薬学的に許容できる塩、エステル若しくはアミドを含む官能基を含む。
【0023】
アミノ酸AA1及びAA2は、1個のアミノ酸であっても、配列を形成する複数のアミノ酸であってもよい。一般に、個々のアミノ酸が、アミド結合(−NC(O)−)を介して互いに結合する。式Iに示すように、リンカーLに結合するカルボニル基(C=O)は、AA1とAA2の末端アミノ酸のカルボン酸に由来する。これは以下のアミノ酸配列で表される:AAaAAbAAcAAdAAe−COOH,ここではカルボン酸基がアミノ酸AAe上に存在する。アミノ酸AA1とAA2は同一又は異なるアミノ酸配列で構成される。複数のアミノ酸がAA1とAA2に用いられる場合、そのアミノ酸の数は細胞に核酸を導入するメカニズムによって異なる。1つの実施形態では、式Iのm及びnが1〜50の整数である。理論に拘束されることなく、そのアミノ酸配列は、pH緩衝物質、核酸複合体形成物質、両親媒性物質、重合性の単量体、受容体結合物質として作用し、細胞内への取り込みを促進させ、一旦、細胞内での生物活性物質の放出を容易にすることができる。
【0024】
1つの実施形態では、式Iを有する化合物には、少なくとも1つのチオール基(SH基)が含まれる。例えば、(AA1)mと(AA2)nのアミノ酸のひとつは、システイン残基、ホモシステイン残基、又はアミノ酸誘導体を含むチオール残基である。また(AA1)mと(AA2)nの1以上のアミノ酸では、チオール基をその配列中に導入するという誘導体化ができることも考えられる。当該技術分野で公知の技術を用いて、チオール基を含む化合物でアミノ酸内に存在する官能基を反応させることは可能である。以下で議論されるように、ナノ粒子を生産するために、核酸が式Iを有する化合物と一旦複合体をつくった後、チオール基が酸化によってジスルフィド(S−S)結合をつくり、オリゴマーやポリマーを形成するか、又は架橋結合することによって、ナノ粒子がさらに安定できる。ジスルフィド結合は細胞質内で還元し、導入システムからの核酸の放出が促進される。
【0025】
構造Lは、少なくとも1つのアミノ基を含む。「アミノ基」という用語には、第1級アミノ基、第2級アミノ基、第3級アミノ基、及び/又は、芳香族アミノ基、及び/又は、第4級アンモニウム基が含まれる。アミノ基は中性又はカチオン性であってもよい。例えば、第4級アンモニウム基(カチオン性)をつくるために、アミノ基はプロトン化されるかアルキル化剤で処理される。置換されたアミノ基の場合、適切な官能基には本明細書に定義されたアルキル基と芳香族基が含まれる。1つの実施形態では、構造Lには複数のアミノ基が存在している。1つの実施形態では、アミノ基はアルキレン鎖の一部であり、そこでは1つ以上の炭素原子が窒素で置換されている。1つの実施形態では、アミノ基がアルキレン鎖につりさげられている。当該技術分野で公知の技術を使用して、アミノ基を用いて様々な構造を合成することが可能である。Lの構造は、細胞に導入する核酸の特性に基づいて変えることができる。Lの適切な官能基の例について以下に説明する。理論に拘束されることなく、構造Lは、核酸を細胞へ導入することを目的としたナノ粒子を形成するために核酸との複合体を形成する。
【0026】
ある実施形態では、(AA1)mと(AA2)nの少なくとも1つのアミノ酸に疎水基が共有結合している。あるいは、その疎水基は構造Lと結合してもよい。その疎水基は、飽和又は不飽和のC1−C25脂肪酸(RCOOH,式中Rは、C1−C25アルキル基又はアルキレン基)又はC1−C25アルキル基又はアルキレン基に由来していてもよい。あるいは、その疎水基はステロイド化合物又は芳香族化合物に由来していてもよい。1つの実施形態では、(AA1)mと(AA2)nに存在する1つ以上のアミノ基は、それに結合している疎水基を有する。理論に拘束されることなく、その疎水基は、核酸とナノ粒子のコンパクトで安定な形成を助け、両親媒性を導入し、エンドソーム小器官又はリソソーム小器官からのナノ粒子のpH感受性の回避を容易にする。化合物がin vivoでの導入装置として用いられる場合、これは特に有用である。
【0027】
別の実施形態では、標的基が(AA1)mと(AA2)nの少なくとも1つのアミノ酸、カチオン性の構造L又はチオール基に結合している。標的物質は、細胞への核酸導入に有用であってもよい。標的物質は、ペプチド、抗体、抗体断片又はそれらの誘導体のひとつであってもよい。例えば、標的特異的ペプチドは、ナノ粒子の形成前か形成中に化合物と直接的に結合するか、第二のリンカー(例えば、ポリエチレングリコール)を介して間接的に結合することができる。標的化合物を選ぶことにより、標的基はアミノ酸に存在するアミノ基、若しくはチオール基、又は構造Lに存在するアミノ基のいずれかに共有結合できる。
【0028】
1つの実施形態では、標的基はリンカーによって間接的に化合物に結合する。リンカーの例には、ポリアミン基、ポリアルキレン基、ポリアミノ酸基又はポリエチレングリコール基が含まれるが、これに限定されない。リンカーの分子量やリンカーの選択は所望の特性によって変えることができる。1つの実施形態では、リンカーは、分子量が500〜10,000、500〜9,000、500〜8,000、500〜7,000又は2,000〜5,000のポリエチレングリコールである。ある実施形態では、標的基がリンカーに共有結合するなどの方法によって、最初に標的基がリンカーと反応する。例えば、そのリンカーには、ペプチド内に存在するアミノ基と反応できる1つ以上の官能基があってもよい。また、そのリンカーには、本明細書に記載された化合物と反応し、共有結合を形成する付加基がある。例えば、化合物に1つ以上のチオール基が存在している場合、リンカーはそのチオール基と容易に反応できるマレイミド基を有していてもよい。化合物に存在する官能基によって、リンカーに存在する官能基の選択を変えることができる。1つの実施形態では、標的化合物は、例えばポリエチレングリコールと共有結合しているRGDペプチド又はボンベシンペプチドなどのペプチドである。
【0029】
また、他の実施形態では、本明細書に記載された化合物によって作製されたナノ粒子に標的化合物を結合することも望ましい。例えば、本明細書に記載された化合物と技術を用いて核酸からできたナノ粒子を作製した後に、リンカーを介して標的化合物をナノ粒子に結合することができる。このアプローチの1つの実施形態を図32に示す。
【0030】
1つの実施形態では、式Iによって表わされる化合物は、式IIを含む。
【0031】
【化2】
【0032】
式中、R1−R8は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、アシル基、芳香族基、又は疎水基を表す。
AA1とAA2は1個以上のアミノ酸であり、(AA1)yと(AA2)zは、同一又は異なる配列である。
y及びzは1〜50の整数である。そして、
Lは、少なくとも1つの中性アミノ基若しくはカチオン性アンモニウム基、又はそれらの薬学的に許容できる塩、エステル若しくはアミドを含む官能基を含む。
【0033】
式IIに示すように、化合物のそれぞれの末端はシステイン残基でキャッピングされている。特にAA1とAA2が他のシステイン残基を含んでいる場合、他のチオール基が式IIに存在し得ることが想定される。
【0034】
1つの実施形態では、構造Lは式IIIを含む。
【0035】
【化3】
【0036】
式中、R9−R12は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、芳香族基を表す。
R13は、アルキルアミノ基又は少なくとも1つの芳香族アミノ基を含む官能基であり、
o、p、q、及びrは、互いに独立して、1〜10の整数である。
アルキルアミノ基の例を、式IV〜VIに示す。
【0037】
【化4】
【0038】
式中、R14−R22は、互いに独立して、水素、アルキル基、窒素含有置換基、又は疎水基を表す。
s、t、u、v、w、及びxは、1〜10の整数であり、
Aは1〜50の整数である。
【0039】
式IV〜VIに示されるように、アミノ基の数は異なっていてもよい。1つの実施形態では、式IIIのR13は、CH2NH2,CH2CH2NH2,CH2CH2CH2NH2,CH2CH2CH2CH2NH2,CH2CH2CH2CH2CH2NH2,CH2NHCH2CH2CH2NH2,CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2,CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2,CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NH2,CH2CH2NHCH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2,又は、CH2CH2NH(CH2CH2NH)dCH2CH2NH2(式中、dは0〜5)である。
【0040】
1つの実施形態では、R13は芳香族アミノ基を含む。上述のように、芳香族アミノ基には、直接的又は間接的に芳香族基に結合した1つ以上のアミノ基が含まれていてもよい。あるいは、アミノ基を芳香族環に導入することもできる。例えば、芳香族アミノ基は、ピロール、イソピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、又はインドールである。別の実施形態では、芳香族アミノ基には、ヒスチジンに存在するイミダゾール基が含まれる。
【0041】
1つの実施形態では、化合物には式IIが含まれ、Lには式IIIで表される構造が含まれる。式中、R1−R12は水素であり、o、p、q、rはそれぞれ2であり、yとzは0であり、R13はCH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2NH2である。別の実施形態では、化合物には式IIが含まれ、Lには式IIIで表される構造が含まれる。式中、R1とR3は疎水基であり、R2とR4−R12は水素であり、o、p、q、rはそれぞれ2であり、yとzは0又は1であり、R13はCH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2NH2,CH2CH2NH2又はCH2CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2である。
【0042】
一般式Iが含まれる化合物は、当該分野で公知の固相技術を用いて合成できる。図1にジチオール化合物を生成するための合成方法の例を示す。図1のアプローチには、一般的に、ジチオール化合物を生成するための系統的な保護/伸張/脱保護の操作が含まれる。疎水基は、システイン残基に存在するアミノ基とオレイン酸を反応させることによって作られる。図1は式Iの化合物を作製するための1つのアプローチを示すが、他の合成技術も使用できる。
【0043】
式Iを含む化合物は、酸化条件下でジスルフィド(S−S)結合を形成できる2つ以上のチオール基を持っている。1つの実施形態では、そのジスルフィド化合物には式VIIが含まれる。
【0044】
【化5】
【0045】
式中、R1−R6は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、芳香族基、又は疎水基を表す。
AA1とAA2は1個以上のアミノ酸であり、(AA1)yと(AA2)zは、同一又は異なる配列である。
y及びzは0〜50の整数である。
R23とR24は、互いに独立して、水素又は標的基を表す。
Bは2〜10,000の整数である。
Lは、少なくとも1つの中性アミノ基若しくはカチオン性アンモニウム基、又はそれらの薬学的に許容できる塩、エステル若しくはアミドを含む官能基を含む。
【0046】
一旦、細胞内に入ると、ジスルフィド結合は導入システムを安定化させ、核酸の遊離を助ける。例えば、核酸がsiRNAである場合には、還元性の細胞質内でのsiRNA遊離システムのジスルフィド結合の解離によって、siRNAの細胞質特異的遊離が促進され得る。そのジスルフィド化合物は、非常に低い遊離チオール濃度(例えば、15μM)では細胞質内で安定である。ジスルフィド化合物が標的細胞に導入されたときに、核酸の解離と遊離を促進するためにジスルフィド結合が、細胞(例えば、細胞質)内に存在する高濃度のチオールによって還元される。
【0047】
式VIIを含むジスルフィド化合物は、核酸との複合体形成前又は酸化剤の存在下での複合体形成中に、式Iを有する同一又は異なる化合物と反応することによって容易に作製され得る。酸化剤は、空気、酸素又は他の化学酸化剤であってもよい。選択されたジチオール化合物及び酸化条件によって、核酸と結合していない遊離のポリマー又は核酸との複合体内のジスルフィド形成の程度を変えることができる。即ち、式Iを含む化合物は単量体であり、その単量体は反応条件によって二量体化、オリゴマー化又は重合化することができる。
【0048】
本明細書に記載された化合物はすべて存在し、その塩に変換することもできる。ある実施形態では、その塩は薬学的に許容できる塩である。化学的又は薬学的に許容できる適量の塩基に遊離酸を処理することによって、その塩を作製することができる。代表的な化学的又は薬学的に許容できる塩基とは、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、消石灰、水酸化マグネシウム、水酸化第一鉄、亜鉛水酸化物、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、リジン、アルギニン、ヒスチジン等である。1つの実施形態では、その反応は、室温などの約0℃〜約100℃の温度で、単独の又は水溶性の不活性有機溶媒と組み合わせた水中で行われる。使用される塩基に対する化合物のモル比は、いずれの特定の塩のためにも、目的の比率を提供するように選択される。例えば、出発物質である遊離酸のアンモニウム塩を作製するために、ほぼ同量の塩基で出発物質を処理して塩を作製することができる。
【0049】
別の実施形態では、本明細書に記載された化合物はすべて存在し、ルイス塩基を有する塩にも変換できる。化合物は適量のルイス塩基で処理できる。代表的なルイス塩基は、水酸化アンモニウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、消石灰、水酸化マグネシウム、水酸化第一鉄、亜鉛水酸化物、水酸化銅、水酸化アルミニウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリメチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、エタノールアミン、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、リジン、アルギニン、ヒスチジン、THF、エーテル、チオール試薬、アルコール類、チオールエーテル類、カルボン酸エステル類、フェノラート類、アルコキシド類及び水などである。1つの実施形態では、その反応は、室温などの約0℃〜約100℃の温度で、単独の又は水溶性の不活性有機溶媒と組み合わせた水中で行われる。使用される塩基に対する化合物のモル比は、いずれの特定の複合体のためにも、目的の比率を提供するように選択される。例えば、出発物質である遊離酸のアンモニウム塩は、複合体を作製するためにほぼ同量の化学的又は薬学的に許容できるルイス塩基で処理することができる。
【0050】
その化合物がカルボン酸基を有する場合、当該技術分野で公知の技術を用いて、これらの官能基を薬学的に許容できるエステル類又はアミド類に変換できる。もしくは、デンドリマーにエステルが存在する場合、エステル交換反応技術を用いてそのエステルは薬学的に許容できるエステルに変換できる。
【0051】
II.使用方法
本明細書に記載された化合物は、対象物への核酸導入に関して多くの応用性を有する。他の実施形態では、本明細書に記載された化合物は、細胞と組織に遺伝性物質を導入する遺伝子治療に使用できる。
【0052】
核酸は、オリゴヌクレオチド、デオキシリボ核酸(DNA)、リボ核酸(RNA)、又はペプチド核酸(PNA)であってもよい。本発明の方法で導入される核酸は、自然界で発生する細胞から得た核酸、組換えによって作製された核酸、化学的に合成された核酸など、いずれの供給源からの核酸でもよい。その核酸は、例えば、cDNA、ゲノムDNA又は自然界に存在するDNAの核酸配列に対応する配列を有する合成DNAであってもよい。また、その核酸は、変異又は変換された核酸(例えば、1個以上の核酸残基の変換、欠失、置換、付加によって自然界で発生するDNAと異なるDNA)又は自然では発生しない核酸であってもよい。
【0053】
1つの実施形態では、その核酸は機能的な核酸であってもよい。機能的な核酸とは、標的分子と結合する、又は特異的な反応を促進する等の特異的な機能を有する核酸分子である。機能的な核酸分子は、以下のカテゴリに分けることができるが、これは限定を意図するものではない。例えば、機能的な核酸には、アンチセンス分子、アプタマー、リボザイム、三本鎖形成分子、siRNA、miRNA、shRNA及び外部誘導配列(external guide sequence)が含まれる。その機能的な核酸分子は、標的分子が有する特異的活性の作動因子、阻害因子、制御因子、及び刺激因子として作用できるか、又はその機能的な核酸分子は他の分子に関係なくde novo活性を有することができる。
【0054】
機能的な核酸は、優位に作用する合成遺伝因子(SGEs)をコードする小遺伝子断片であってもよい。例えば、それが仲介する遺伝子の機能を阻害する分子(アンタゴニスト)であるか、又はそれらの遺伝子が優位に構成的に作用する断片(アゴニスト)である。SGEsはポリペプチド、抑制性アンチセンスRNA分子、リボザイム、核酸デコイ、及び小ペプチドを含むが、これに限定されない。本発明では、参照することにより組み込まれた米国特許公報第2003/0228601号で開示された小遺伝子断片とSGEライブラリを使用できる。
【0055】
本発明の方法における機能的な核酸は、例えば、アンチセンス、RNAi又はデコイ機能によって核酸レベルで内因性の遺伝子機能を阻害するように作用することができる。もしくは、ある機能的な核酸は、内因性遺伝子に対応する生物活性の一部分以上を持つポリペプチドをコードすることによって内因性遺伝子の作用を促進する(模倣も含む)ように働くことができ、特別な場合には構成的に活性化されることがある。
【0056】
Tso,P.らがAnnals New York Acad. Sci. 570:220-241 (1987) に記載するように、他の治療上重要な核酸は、遺伝子産物の除去又は抑制のために有用なアンチセンスポリヌクレオチド配列を含んでいる。また、リボザイムの導入も想定される。これらのアンチセンスヌクレオチドやリボザイムは導入細胞で発現(複製)することができる。また、本発明で治療のために有用なポリヌクレオチドは、免疫付与ポリペプチドをコードしていてもよい。そのポリペプチドは体液性又は細胞性、又はその両方の反応を引き起こす内因性の免疫原として作用することができる。また、本発明で使用するポリヌクレオチドは抗体もコード化できる。この点で、「抗体」という用語は、2つ又は複数の抗原又はエピトープに特異的なあらゆるクラスの免疫グロブリン、キメラ抗体及びハイブリッド抗体、及びF(ab)2、Fab2、Fabなどのハイブリッド断片を含む断片を網羅する。また、そのような断片の複合体や、例えば、その内容が参照することにより本明細書に組み込まれた米国特許公報第4,704,692号に記載のようないわゆる抗原結合タンパク質(単鎖抗体)も「抗体」の意味に含まれる。
【0057】
1つの実施形態では、核酸はsiRNAである。siRNAは約20〜25個のヌクレオチドを有する二本鎖のRNA分子(dsRNAs)であり、RNaseIII酵素Dicerによって長鎖RNAが細胞内で切断されることによって生産される。siRNAは、RNA誘導型サイレンシング複合体(RISC)を特異的に組み込んでおり、相補配列を含む標的のmRNAを破壊するためにそのRNAi機能が発揮される。RNAiの機能はヌクレオチド塩基対の相互作用に基づくため、すべての重要な遺伝子を標的に作製できるため、siRNAは遺伝子抑制による疾病治療のための理想的なツールとなる。siRNAを用いた遺伝子抑制は、新しい治療法としてヒトの疾病の治療に大きな可能性を有する。様々な治療を目的として多くのsiRNAが設計され、報告されており、いくつかのsiRNAがヒトの疾病に関連する特異的で効果的な遺伝子を抑制することが証明されている。siRNAの治療への応用には、抗ウイルス療法、眼疾患の抗血管新生療法、自己免疫疾患や神経障害の治療、及び抗癌療法におけるウイルス遺伝子の発現及び複製の阻害が含まれるが、これに限定されない。遺伝子抑制による治療は哺乳動物で証明されており、siRNAの臨床応用にとって好ましいことである。siRNAはヒトゲノムのあらゆる遺伝子を標的にすることができるため、RNAiにはヒトの疾病を治療するための無限の可能性があると信じられている。
【0058】
核酸に化合物又はそれに対応するジスルフィドオリゴマー若しくは重合体を混合することによって、その核酸は本明細書に記載されたキャリア化合物として複合体化することができる。本明細書に記載された化合物に存在するアミノ基をカチオン基に変換するために反応のpHが変更できる。例えば、アミノ基をプロトン化するためにpHを調整できる。化合物のカチオン基の存在により、核酸はその化合物に静電的に結合できる(すなわち、複合体化できる)。1つの実施形態では、pHは1〜7.4である。別の実施形態では、N/P比は0.5〜100である。なお、Nは正帯電を形成する化合物に存在する窒素原子の数であり、Pは核酸に存在するリン酸基の数である。したがって、構造Lの適当な数のアミノ基で化合物を修飾することによって、核酸と化合物の結合を調節(例えば、結合のタイプや強さ)することが可能である。1つの実施形態では、核酸/キャリア複合体はナノ粒子である。1つの実施形態では、ナノ粒子の直径は、約1000ナノメートル以下である。
【0059】
他の実施形態では、本明細書に記載された化合物は、作製された核酸ナノ粒子が、エンドソーム小器官及び/又はリソゾーム小器官のエンドソーム−リソゾーム内のpHを回避するようにデザインできる。例えば、核酸とナノ粒子を形成する化合物では、その構造及び両親媒性がエンドゾーム−リソゾームpH(5.0〜6.0)で変化し、エンドゾーム−リソゾーム膜を破壊して、細胞質にナノ粒子が入ることができるようにデザインできる。1つの実施形態では、プロトン化可能なアミンと親油基(疎水基)の構造と数を変えることによりpH感受性のあるそれらの両親媒性を変更することによって、本明細書に記載された化合物の特定のエンドゾーム−リソゾーム膜破壊の能力を調節できる。例えば、プロトン化可能なアミノ基の数を減少させることによって、中性pHの化合物で作製されたナノ粒子の両親媒性を減少させることができる。1つの実施形態では、本明細書の化合物は、1〜50、1〜40、1〜30、1〜20、1〜10、1〜8、1〜6、1〜4、又は2つのプロトン化可能なアミノ基、置換アミノ基又は芳香族アミノ基を有する。例えば、アミノ基及び/又は置換アミノ基及び/又はイミダゾリルアミノ基は、式I、II又はVIIのリンカーLに存在してもよい。1つの実施形態では、本明細書に記載された化合物は、少なくとも1つのヒスチジン残基を含んでいる。他の実施形態では、その化合物は、2、3、4、5、6、7、8、9又は10個のヒスチジン残基を含んでいる。したがって、ナノ粒子全体のpKaを微調整するために、化合物とその化合物によって作られたナノ粒子のpH感受性のある両親媒性を使用することができる。生理的なpHにおけるナノ粒子の低い両親媒性は、核酸/MFCシステムの非特異的な細胞膜破壊と非特異的な組織取り込みを最小にすることができる。ある実施形態では、そのキャリアは、生理的なpHでの低い両親媒性とエンドゾーム−リソゾームpHでの高い両親媒性を持っており、それだけがナノ粒子で選択的なエンドゾーム−リソゾーム膜破壊を引き起こすことが好ましい。
【0060】
例えば、生体内での非特異的な組織内への取り込みを減少させるためにナノ粒子の重合されていない遊離チオールの反応によりポリエチレングリコールを共有結合で導入することによって、ナノ粒子複合体の表面を修飾することができる。例えば、PEG−マレイミドは遊離チオール基と迅速に反応する。キャリアに付与するために求められる親水性量によってPEGの分子量は変更することができる。また、キャリアのPEG修飾によって、細胞への取込みによる酵素分解(例えば、エンドヌクレアーゼ)から核酸で作られたナノ粒子を保護できる。また、遺伝物質の標的細胞への導入特異性と効率性を高めるために、複合体の作製時に、ペプチド、タンパク質、抗体又は抗体断片を含む標的物質をナノ粒子複合体に導入することができる。ナノ粒子複合体に標的物質を結合するスペーサーとしてポリエチレングリコールを使用できる。
【0061】
細胞に核酸を導入するために本明細書に記載された化合物を使用できる。その方法には一般的に複合体を細胞に接触することを含む。そこでは、核酸は細胞の中に取り込まれる。1つの実施形態では、本明細書に記載された化合物は、遺伝病を治療するのに不十分あるいは不足している遺伝子産物を供給すること又は遺伝子発現を抑制することによって、遺伝病の治療としてDNA又はRNAの導入を促進することができる。当該分野で公知の技術は、本明細書に記載された核酸を細胞に導入するための化合物の効果を評価するために使用できる。
【0062】
本明細書で使用される「細胞」という用語は、十分に特徴付けられ、均質で、生物的に純粋な細胞集団についていうことを意図する。これらの細胞は、初代細胞、腫瘍細胞若しくは当該分野で公知の方法によってin vitroで不死化された真核生物細胞又は原核細胞であってもよい。細胞株や宿主細胞は、哺乳動物起源のものが好ましいが、植物、昆虫、酵母、カビ又は細菌を含む非哺乳動物起源の細胞株や宿主細胞も使用することができる。
【0063】
1つの実施形態では、細胞は幹細胞、分化増殖能を獲得した幹細胞、分化細胞、初代細胞、及び腫瘍細胞を含む。幹細胞の例は、胚性幹細胞、骨髄幹細胞、及び臍帯幹細胞を含むが、これに限定されない。様々な実施例で用いられる細胞の他の例は、骨芽細胞、筋芽細胞、神経芽細胞、繊維芽細胞、グリア芽細胞、生殖細胞、肝実質細胞、軟骨細胞、角化細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、結合組織細胞、グリア細胞、上皮細胞、内皮細胞、ホルモン分泌細胞、免疫システムの細胞、及びニューロンを含むが、これに限定されない。
【0064】
また本発明では、腫瘍細胞などの異型細胞又は異常細胞を使用できる。本明細書に記載された物質で培養された腫瘍細胞は、薬物治療を評価するための体内の自然な腫瘍環境をより正確に再現できる。本明細書に記載された物質での腫瘍細胞の増殖は、腫瘍特異的な薬物の開発を可能にする生体内様の環境での遺伝子発現、受容体発現、及びポリペプチド産生を含む生化学的経路の特徴付け及び腫瘍の活性化を促進することができる。
【0065】
当該技術分野で公知の技術を使用することにより、上述の複合体(すなわち、ナノ粒子)を対象物に投与することができる。例えば、医薬組成物は複合体を用いて調製できる。特定のケースにおける実際に好ましい複合体の量は、利用される特定の化合物、調製される特定の組成物、その応用方法及び治療される特定の部位や対象物に従って変わることが理解される。投与される受給者のための用量は、従来の考えを用いて決定できる。例えば、対象化合物と既知の薬物の活性の違いの通常の比較や、例えば、従来の適切な薬理学的プロトコールの手段によるものである。医薬化合物の投与量を決定する当業者である医師及び医薬調製者が、標準的な推奨に従って投与量を決定することに全く問題はない。(Physicians Desk Reference, Barnhart Publishing (1999))
【0066】
本明細書に記載された医薬組成物は、生物学的システムや生物学的存在が許容できるすべての賦形剤中に製剤化できる。そのような賦形剤の例は水、生理食塩水、リンガー溶液、デキストロース溶液、ハンクス溶液、及び他の生理的なバランスの塩の水溶液を含むが、これに限定されない。また、不揮発性油、オリーブ油若しくは胡麻油等の植物油、トリグリセリド、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、エチルオレイン酸等の注射可能な有機エステルなどの非水性の溶媒も使用できる。他の有用な製剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ソルビトール又はデキストランなどの粘度を上げる物質を含む懸濁液を含む。また、賦形剤は等張性や化学的安定性を高める物質などの少量の添加物も含むことができる。緩衝液の例は、リン酸緩衝液、重炭酸塩緩衝液及びトリス緩衝液を含み、防腐剤の例はチメロサール、クレゾール、ホルマリン及びベンジルアルコールを含む。
【0067】
医薬品のキャリアは、当業者に公知のものである。これらの最も典型的なものは、ヒトへ投与するための標準的キャリアであり、これらには滅菌水、生理食塩水、生理的pH緩衝液などの溶液が含まれる。
【0068】
医薬品を導入するために意図する分子は、医薬品組成で製剤化できる。医薬品組成には選択された分子に加えてキャリア、増粘剤、希釈剤、緩衝液、防腐剤及び界面活性剤などを含むことができる。また、医薬品組成には、抗菌薬、抗炎症薬及び麻酔薬など、1種以上の活性成分を含むことができる。
【0069】
医薬品組成物は、局所投与と全身投与のどちらが目的であるか治療する場所はどこかによって、多くの方法で投与できる。投与は、眼、腟内、直腸内、鼻腔内などに局所的に行ってもよい。また投与は、静脈内、腹腔内にもできる。本明細書に記載の核酸とMFCのナノ粒子複合体が細胞に接触する場合には、in vivo又はex vivoでその細胞と接触することが可能である。
【0070】
投与用の製剤には、滅菌水溶液又は非水溶液、懸濁液及び乳剤が含まれる。非水性キャリアの例には、水、アルコール/水溶液、乳剤又は懸濁液が含まれ、それには生理食塩水や緩衝液が含まれる。開示された組成と方法の付随的な使用に必要な場合、非経口用の溶媒には、塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキストロース、デキストロース及び塩化ナトリウム、ラクトリンゲル液又は不揮発性油が含まれる。開示された組成と方法の付随的な使用に必要な場合、静脈内投与用の溶媒には、液体、栄養物補充液及び電解質補充液(リンゲルデキストロースに基づくものなど)などが含まれる。また、防腐剤及び他の添加剤、例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤及び不活性ガスなども存在する。
【0071】
局所投与用の製剤には、軟膏、ローション、クリーム、ジェル、ドロップ、座薬、スプレー、液体、及び粉末を含むことができる。従来の医薬品のキャリア、水、粉末又はオイルベース及び増粘剤などが必要な場合又は好ましい場合がある。
【0072】
投与回数は、治療が行われる状態の過酷さと反応性に依存しているが、通常、1日あたり1回以上であり、数日から数カ月又は当業者が投与を中止すべきであると決定するまでその投与コースを継続する。当業者は、容易に最適用量、投与方法及び繰返し回数を決定できる。開示された組成と方法の特定の実施形態のどれもが、実施例で議論された非多糖ベースの試薬を含む特定の実施例及び本発明の実施例と容易に比較できることが理解される。そのような比較を行うことで、それぞれの特定の実施例の相対的な有効性は容易に決定できる。特に好ましい組成と方法は、本明細書の実施例で開示されており、必ずしも制限するものではないが、それらの組成と方法は、本明細書に開示されるいずれの組成と方法でも実行できることが理解される。
【実施例】
【0073】
以下の実施例は、本明細書で説明され、クレームされた化合物、組成物及び方法について、当業者に完全に開示及び説明するために、提示され、作製され、評価される。これらは、純粋な例であることを意図するものであり、発明者が認識する本発明の範囲を限定することを意図するものではない。数値(例えば、量や温度など)に関して精度を確実にする試みがされているが、いくつかの誤りや逸脱は考慮されるべきである。特に断りのない限り、「部」は「重量部」、温度は「℃」又は常温、圧力は大気圧又は大気圧近辺である。多くの反応条件の種類や組み合わせ、例えば、組成の濃度、好ましい溶媒、溶媒混合物、温度、圧力、他の反応範囲があり、また記載された過程で得られた製品の純度と収量を最適化するために用いることのできる条件がある。そのような過程の条件を最適化するためには、繰り返される適切な実験のみが必要である。
【0074】
I.多機能性ジチオール化合物とその特徴
A.概要
塩化2−クロロトリチル樹脂(1.1mmol/g)、N−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン(Fmoc−His(Trt)−OH)、N−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システイン(Fmoc−Cys(Trt)−OH)、2−アセチルジメドン(Dde−OH)、N−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)及び2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩(TBTU)をEMDバイオサイエンス社(EMD Biosciences)(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。エチレンジアミン、ペンタエチレンヘキサミン、スペルミン、トリエチレンテトラミン、N,N−ジイソプロピルエチレンアミン(DIPEA)、アクリル酸メチル、1,2−エチレンジアミン、ヒドラジン、オレイン酸、トリイソブチルシラン(TIBS)、1,2−エタンジチオール(EDT)、4−ジチオスレイトール(DTT)ピペリジン、トリフルオロ酢酸(TFA)をランカスター社(Lancaster)(ニューハンプシャー州ウインダム)から購入した。ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)及びジメタンクロライド(DCM)は超乾燥溶剤であり、アクロス社(Acros)(ペンシルベニア州ピッツバーグ)から購入した。固相合成については、他の記載を除くと、フリットとキャップを備えたISOLUTEカラム容器(ヴァージニア州シャーロッツビル)の中で反応は行われた。合成に用いる前に、アミンを減圧蒸留によって精製した。他の全ての材料と溶剤は、追加の精製を行うことなく使用した。5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)をピアス社(PierceInc)(イリノイ州ロックフォード)から購入した。
【0075】
分岐PEI(Mw=25KDa)、N−(2,3−ジオレオイロキシ−1−プロピル)トリメチルアンモニウムメチルサルフェート(DOTAP)、ウシ血清アルブミン(BSA)、2,5−ジフェニール−3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)テトラゾリウム臭化物(MTT)、FITCを付加した抗マウスIgGヤギ抗体をシグマ−オルドリッチ社(Sigma-Aldrich)(ミズーリ州セントルイス)から購入した。MPEG−Mal−5000をネクター社(Nektar)(アラバマ州ハンツビル)を購入した。5,5’−ジチオビス−(2−ニトロ安息香酸)(DTNB)をピアス社(PierceInc)(イリノイ州ロックフォード)から購入した。TransFast(商品名)をプロメガ社(Promega)から購入した。これは、N,N−[ビス−(2−ヒドロキシエチル)−N−メチル−N−[2,3−ジ(テトラデカノイロキシ)プロピル]ヨウ化アンモニウムと、ジオレオイルホスファチジルエタノールアミン(DOPE)から成る。マウス抗ラミンA/Cモノクローナル抗体をアブカム社(AbcamInc)(マサチューセッツ州ケンブリッジ)から購入した。ルシフェラーゼをコードするgWiz(商品名)レポータープラスミド及び緑色蛍光蛋白質をアルデブロン社(Aldevron)(ノースダコタ州ファーゴ)から購入した。ラミンA/Cを標的としたsiRNAをアンビオン社(Ambion,Inc.)(テキサス州オースチン)から購入した。siRNAのアンチセンス配列は、5’−UGUUCUUCUGGAAGUCCAGdTdT−3’であり、センス配列は、3’−dTdTACAAGAAGACCUUCAGGUC−5’である。ホタルルシフェラーゼを標的としたsiRNAをダルマコン社(Dharmacon)(イリノイ州シカゴ)から購入した。siRNAのアンチセンス配列は、5’−UCGAAGUACUCAGCGUAAGdTdT−3’であり、センス配列は、3’−dTdTAGCUUCAUGAGUCGCAUUC−5’である。Silencer(商品名)陰性対照siRNA(アンビオン)を非特異的siRNA対照として使用した。
【0076】
高速液体クロマトグラフィ(HPLC)は、Agilent 1100シリーズの精製システムを使用して行った。最終生成物は、勾配移動相(A:0.05%TFA水溶液,B:0.05%TFAアセトニトリル溶液)を使用し、流量5ml/分、ZORBAX PrepHT C−18カラムを備えた分取用HPLCで精製した。Varian Mercury 400(カリフォルニア州パロアルト)を用いて、1H NMRスペクトルを得た。化合物の分子量は、マトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)飛行時間型(TOF)質量分析で測定した。
【0077】
B.単量体の多機能性キャリア化合物THCOの合成と精製(図1)
1−[2−クロロトリチル−アミノ]−1,4,7,10−テトラアザデカン樹脂(樹脂2)
塩化2−クロロトリチル樹脂(300mg、1.1mmol/g)を、乾燥DCMを用いてよく洗浄した。トリエチレンテトラアミン(1ml)とDIPEA(64mg)のDCM溶液を樹脂に加え、その懸濁液を2時間、振盪した。溶媒を排出し、次に、DCMとMeOHを用いて洗浄した。樹脂を10mlのDCM/MeOH/DIPEA(17/2/1、v/v/v)と共に、さらに20分間振盪した。得られた樹脂2をDMF、DCMを用いてよく洗浄し、減圧で乾燥した。
【0078】
2−アセチルジメドン(Dde−OH)及びtert−ブトキシカルボニル(Boc)基を用いたポリアミンの選択的保護と脱保護
2−アセチルジメドン(Dde−OH,2g)を10mlのDMFに溶解した溶液を樹脂2に加えた。その懸濁液を、室温で12時間、振盪した。DMFとDCMを用いて樹脂をよく洗浄し、溶媒を排出し、樹脂3を得た。樹脂3は、Boc2O(10g)を15mlのDCMに溶解した溶液で懸濁した。その混合物を、室温で4時間、振盪した。得られた樹脂をDMFとDCMを用いてよく洗浄し、その後、減圧で乾燥して、樹脂4を得た。次に、2%ヒドラジンのDMF溶液で15分間、樹脂4を懸濁した。このステップは、Dde基の完全な脱保護を確実にするために3回繰り返した。DMFとDCMを用いて得られた樹脂をよく洗浄し、樹脂5を得た。次のステップのために、それを減圧で乾燥した。
【0079】
アクリル酸メチル、1,2−エチレンジアミン、N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン及びN−α−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システインを用いた連続伸長
乾燥樹脂5を100mlのナス型フラスコに移し、アクリル酸メチル(50ml)とDMF(10ml)を加えた。ロータリーエバポレーターにて、50℃で連続振盪し、反応を行った。第一アミンが完全に消費されるまで、カイザーニンヒドリン試験で反応をモニターした。DMF、MeOH及びDCMを用いて得られた樹脂6をよく洗浄し、減圧で乾燥した。次のステップのために、1,2−エチレンジアミン(50ml)をDMF(10ml)に溶解した溶液を樹脂6に加えた。ロータリーエバポレーターにて、50℃で5日間連続振盪し、反応を行った。DMF、MeOH及びDCMを用いてこの樹脂をよく洗浄し、減圧で乾燥して樹脂7を得た。次の固相反応のために、フリットとキャップを備えたISOLUTEカラム容器の中にこの樹脂を移した。活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン(2g)と、TBTU/HOBt/DIPEAをDMFに溶解した溶液を樹脂7に加え、カップリング反応を2時間続けた。カップリングの質は、カイザー試験で追跡した。この樹脂を数回洗浄し、20%ピペリジンDMF溶液に樹脂を懸濁(20分×3)することでフルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去して、樹脂8を得た。次に、次のステップのために、DMF及びDCMを用いてこの樹脂をよく洗浄し、減圧で乾燥した。続いて、活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システイン(2g)と、TBTU/HOBt/DIPEAをDMFに溶解した溶液を樹脂8に加え、カップリング反応を2時間続けた。カップリングの質は、カイザー試験で追跡した。この樹脂をよく洗浄し、20%ピペリジンDMF溶液を用いてフルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去した。次に、次のステップのために、DMF、MeOH及びDCMを用いて得られた樹脂9をよく洗浄した。
【0080】
オレイン酸を用いた伸張
活性化オレイン酸(2g)とTBTU/HOBt/DIPEAのDMF溶液を樹脂9に加え、カップリング反応を2時間続けた。カップリングの質は、カイザー試験で追跡した。この樹脂をよく洗浄し、20%ピペリジンDMF溶液を用いてフルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去した。次のステップのために、DMF、MeOH及びDCMを用いて得られた樹脂10をよく洗浄した。
【0081】
単量体の多機能性キャリアの樹脂からの開裂と脱保護
樹脂10をTFA/H2O/EDT/TIBS(94/2.5/2.5/1)溶液中で懸濁した。室温で3時間振盪した後に、溶液を回収し、減圧下で凝縮した。単量体の多機能性化合物11(THCO;図1)を冷ジエチルエーテルで洗浄し(40ml×5)、乾燥した。その化合物を分取用HPLCでさらに精製し、適切な画分を集めて凍結乾燥(dried by lyopholization)した。MS m/z 計算値C34H62N16O6S2(M+H)+=1383.94は、1383.75に検出された。同様の手順は、図2に示される他のMFCの生産に用いられた。
【0082】
C.THCOとTHCO/核酸複合体の生理化学的特性と生物学的特性
ゲル電気泳動シフトアッセイ
多機能性化合物THCOがDNAに結合する能力をゲル電気泳動によって調べた。0.5μg/mlの臭化エチジウムを含むアガロースゲル(0.8%,w/v)をTAE緩衝液(トリス酢酸塩−EDTA)中に準備した。DNA(10μl,0.1μg/μl)に、規定のN/P比(N=プロトン化できる窒素、P=DNA上のリン酸基)である等量の脂質溶液を混合し、使用する前に30分間インキュベートした。それぞれの10μlサンプルに2μlの6×ローディングダイ(loading dye)を混合し、その混合物をアガロースゲルにロードした。100Vで60分間、ゲルの電気泳動を行った。DNAのバンドの位置をUV照射装置上で可視化した。図3は1以上のN/P比においてTHCOがゲル内のDNAの移動を遅延させたことを示している。THCOは強いDNA結合性を示し、1以上のN/P比でアガロースゲル内のDNAの移動を遅延させることができる。
【0083】
溶血アッセイ
THCO(16.7μM)、DOTAP(16.7μM)及びトリトン(Triton,登録商標)X−100(1%,w/v)をpH7.4、pH6.5又はpH5.4のリン酸緩衝液(PBS)に溶解し、保存溶液とした。ラットを殺処分し、心穿刺により血液を得た。1500g、4℃で10分間、遠心することによって赤血球(RBC)を分離した。細胞ペレットを2%(w/v)RBC溶液になるよう冷PBSで再懸濁し、96穴のプレートに100μlずつ分注した。100μlのテストサンプルをRBC溶液に添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートした。マイクロプレートリーダーを用いて各サンプルの上清の吸光度を550nmで測定した。
【0084】
粒子サイズ分析
5.0μgのプラスミドDNA又はsiRNAと適量の材料を無塵水中で混合したサンプル用意し、出力波長633nmの5mWヘリウムネオンレーザを装備したBrookhaven社製の動的光散乱光度計BI−200SMシステムを用いて分析した。その装置に備わった機能を用いて拡散係数から有効径と集団分布を算出した。測定は90度の角度、25℃で行い、各サンプルは3連で分析した。siRNAとTHCOのナノ粒子の形成は、対照として非重合性の界面活性剤DOTAPを用いて、動的光散乱法(DLS)によって調べた。N/P比8でのTHCO/siRNA複合体の粒子サイズは、無塵水中で直径約130nmであり、一方、DOTAP/siRNA複合体は、直径約210nmのサイズであった。両複合体は効率的な細胞内取り込みのためのカットオフ値として報告されている250nm未満であった。このような低N/P比ではsiRNA/THCOの粒子サイズは、1,4,7−トリアザノニルイミノ−ビス[N−(システイニルヒスチニル)−1−アミノエチル)プロピオンアミドのポリジスルフィドとsiRNAの複合体の粒子サイズに比べてはるかに小さかった(図27)。理論に拘束されることなく、THCO内の疎水性残基はsiRNAとの小さくてコンパクトなナノ粒子形成を容易にする。また、THCO/siRNA複合体のナノ粒子は、DOTAP/siRNA複合体のナノ粒子よりも10%FBSの培養液中でより安定していた。THCO/siRNA複合体のサイズは、培養液中での30分間のインキュベートによる134nmから、2時間のインキュベートによって238nmまで変化した。一方、同様の条件下で、DOTAP/siRNAのサイズは、30分間のインキュベートによる211nmから、2時間のインキュベートによって、おそらく粒子凝集のために727nmに増加した。
【0085】
時間依存性酸化特性
THCOは、保存液(2mg/ml)を4mlのトリス緩衝液(10mM pH8.0)で、初期の理論上のチオール濃度180μMになるよう希釈した。既定の時間ごとに0.2mlずつ分取して、0.2mlのエルマン保存液(50mM NaOAcに溶解した2mM DTNB溶液)と混合した。紫外可視分光光度計(Cary−300 Bio)を用いて残存する遊離チオール濃度を測定した。複合体実験のために、界面活性剤(N/P=6)を添加する前に、gWizプラスミドDNAを終濃度90μMのリン酸塩に加えた。図4はエルマン試薬によるTHCOの時間依存性酸化特性を示している。
【0086】
別の実験では、THCOは、保存液をトリス緩衝液(10mM pH8.0)で、初期のチオール濃度100μMになるよう希釈した。THCO溶液を10μgのsiRNAと混合し(N/P=10、Nはプロトン化できるTHCOの窒素、PはsiRNA中のリン酸基)、また混合しなかった。規定の時間ごとに分取し、等量のエルマン保存液(50mM NaOAc溶液中、2mM DTNB)と混合し、紫外可視分光光度計によってチオール濃度を測定した。キャリアの重合は、エルマン試薬を用いて測定した時間経過中のTHCO/siRNA複合体中の遊離チオール濃度の減少によって確認した。図5に示されるように、siRNAの非存在下に比べて、siRNAの存在下で遊離チオール濃度は迅速に減少する。siRNAとの複合体形成は、酸素による酸化重合を促進するようである。
【0087】
細胞培養
HeLa細胞とU87細胞は、ATCC(American Type Culture Collection,米国メリーランド州ロックビル)から入手し、加湿5%CO2雰囲気、37℃で培養した。培養液には、ウシ胎児血清(10%)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、ペニシリン(100単位/ml)を加えた。構成的にホタルルシフェラーゼを発現するU−87細胞(U87−Luc)はユタ大学のハンツマン癌研究所より入手した。U87−Luc細胞は、ルシフェラーゼ遺伝子を含む組み換えレトロウイルスを感染させることによって作製された。細胞は10%FBS、G418(300μg/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及びペニシリン(100単位/ml)を含む最小必須培地(MEM培地)(ATCC)で培養した。
【0088】
チオール消費の競合(自動酸化対マレイミド)
THCO又はそのDNAナノ粒子複合体(N/P=6、複合体Aは30分間インキュベート、複合体Bは60分間インキュベート)を上述のとおり準備した。既定の時間ごとに、16μLのMPEG−Mal−5000保存液(10μg/μl DMSO溶液)を0.2ml溶液に添加し、その混合物を室温で30分間インキュベートした後、残存する遊離チオール濃度を定量した。図6は自動酸化とマレイミド反応との間でのTHCOのチオール消費の競合を示している。
【0089】
細胞毒性アッセイ
PEIとTHCOの細胞毒性の比較は、MTTアッセイを用いて評価した。アッセイの24時間前に、MB−231細胞を96穴プレートに10,000細胞/ウェルの密度で播種した。その細胞を異なった濃度のTHCOを含む200μlのL−15完全培地でインキュベートした。4時間後にそれぞれの培地を100μlの新しい完全培地に交換した。次いで、PBSで溶解した25μlのMTT溶液を添加し、さらに2時間インキュベートした。培養液を除去したのち、200μlのDMSOをウェルに加えて、37℃で5分間インキュベートした。吸光度はマイクロプレートリーダー(Model 550,Bio−Rad Lab.カリフォルニア州ヘラクレス)を用いて570nmで測定した。相対的な細胞生存率を「([Abs]sample−[Abs]blank)/([Abs]control−[Abs]blank)×100%」を用いて算出した。図7は、THCO及びPEI濃度に対する相対的な細胞生存率(%)を示す。図7は、PEIに比べてTHCOがMB−231細胞に対して低い細胞毒性であったことを示す。
【0090】
別の試験では、アッセイの24時間前に、U87細胞を96穴プレートに10,000細胞/ウェルの密度で播種した。その細胞を異なった濃度のTHCOを含む200μlの培地でインキュベートした。次にPBSに溶解した25μlのMTT溶液を添加し、さらに2時間、細胞をインキュベートした。培養液を除去した後、200μlのDMSOをウェルに加えて、37℃で5分間、細胞をインキュベートした。吸光度はマイクロプレートリーダー(Model 550,Bio−Rad Lab.カリフォルニア州ヘラクレス)を用いて570nmで測定した。相対的な細胞生存率を上記と同様に算出した。THCOは主要なトランスフェクション試薬であるPEIよりもはるかに細胞毒性が低かった。MTTアッセイにおけるTHCOとインキュベートされたU87細胞の生存率は250μg/mlの濃度で79±8%であり、DOTAP(72±4%)よりもわずかに高かった(図8)。それに対して、PEIとインキュベートされた細胞では、62.5μg/ml以上の濃度では生存率はわずか10±1%であり、THCOがPEIよりも安全なキャリアであることが示された。
【0091】
THCO/siRNA複合体の蛍光標識とPEG修飾
結合実験のすべてを10mMのトリス緩衝液(pH7.0)中で実施した。20μgのsiRNAを80nmolのTHCOと混合したのち、0.8nmolのフルオレセイン−5−マレイミドを加えた。蛍光標識ペグ化ナノ粒子のために、0.5%又は2.5%のmPEG5000−Mal(MFCに基づくモル比)をTHCO、siRNA及びフルオレセイン−5−マレイミドを混合した5分後に添加した。暗所で2時間インキュベートした後、遊離のマレイミド誘導体を遠心(Nanosep(商標),MWCO=100K,5000g,5分)によって除去し、次の実験のためにナノ粒子を再生した。
【0092】
細胞内取り込み
試験の24時間前に、6穴プレートに1ウェルあたり約50万個のU87細胞を播種した。上述の蛍光タグを付加したナノ粒子を細胞(1ウェルあたりsiRNA5μg)と共に37℃でインキュベートした。2時間後、培養液をアスピレーターによって除去し、細胞を冷リン酸緩衝液(PBS)で2回洗浄した後、トリプシンで処理した。細胞を集め、PBSに溶解した2%のポリホルムアルデヒドを用いて、4℃で20分間固定した。サンプルをFACSCalibur(商標)フローサイトメトリー(BD Biosciences)で分析し、結果は、WinMDIソフトウエア(ver.2.9)を用いて解析した。フローサイトメトリーの結果は、ペグ化されていないTHCO/siRNA複合体がペグ化されたナノ粒子に比べてU87細胞内に多く取り込まれることを示している。ナノ粒子のペグ化は、非特異的な細胞相互作用を低下させ、細胞内取り込み量を減少させると考えられる(図9)。
【0093】
D.THCOによるin vitroでの核酸導入
ホタルルシフェラーゼ又はGFPをコード化するプラスミドDNAのMFCを介する導入
トランスフェクションの24時間前に、MDA−MB−231細胞を24穴のプレートに播種した。トランスフェクション時に、各ウェルの培養液を無血清培地に交換した。異なったN/P比でTHCO/DNA複合体を加え、細胞を37℃で4時間インキュベートした。次に、培養液を1mlの新しい完全培地に交換し、さらに細胞を44時間インキュベートした。トランスフェクション試験はすべて3連で実施した。ホタルルシフェラーゼをコードするプラスミドDNAの場合、インキュベート後に、細胞を200μlの細胞溶解緩衝液(プロメガ社,ウィスコンシン州マディソン)で処理した。細胞抽出液中のルシフェラーゼ活性は、ルシフェラーゼアッセイキット(プロメガ社,ウィスコンシン州マディソン)を用いてルミノメータ(Lumat 9605,EG&G Wallac)で10秒間測定した。相対的な光強度値(RLU)は、細胞抽出液中のタンパク質濃度で標準化し、BCAタンパク質アッセイキット(ピアス社,イリノイ州ロックフォード)によって測定した。ルシフェラーゼ活性は相対的な光強度値(細胞抽出液中のタンパク質量1mgあたりのRLU)として表した。図10BにはTHCOの高効率トランスフェクションを示した。図10AはN/P比が4及び6のときが最適な発現であることを示す。緑色蛍光タンパク質をコードするプラスミドDNAの場合、蛍光顕微鏡によってGFP発現を見ることができる(図11)。
【0094】
ルシフェラーゼレポータ遺伝子を標的としたsiRNAのTHCOを介する導入
トランスフェクションの24時間前に、U87−Luc細胞を5000細胞/ウェルの密度で96穴プレートに播種した。siRNAトランスフェクション時に、各ウェルの培養液を新しい無血清培地に交換した。20nMの抗ルシフェラーゼsiRNA又は非特異的なsiRNAをTHCO、Transfast(商標)又はDOTAPと結合させ、使用する前に30分間インキュベートした。TransfastやDOTAPによるトランスフェクションは、説明書に従って実施した。複合体は細胞と37℃で4時間インキュベートした。次に、培養液を100μlの新しい完全培地に交換し、さらに細胞を44時間インキュベートした。トランスフェクション試験はすべて3連で実施した。インキュベート後に、あらかじめ暖めたPBSで細胞を洗浄し、200μlの細胞溶解液で処理したのち、数回凍結融解を行った。細胞残屑は14,000g、5分間の遠心で取り除いた。細胞溶解液(20μl)中のルシフェラーゼ活性は、ルシフェラーゼアッセイキット(100μlのルシフェラーゼアッセイ緩衝液)を用いてルミノメータ(Lumat 9605,EG&G Wallac)により10秒間測定した。遺伝子の抑制効率は未処理細胞のルシフェラーゼ発現量で標準化した。また、siRNAの導入効率は10%FBS培養液で同様に評価した。
【0095】
THCOは、4〜16までの広い範囲のN/P比において、Transfast(62%)と同等で、DOTAP(47%)よりも高い60〜70%の遺伝子抑制率を示した。図12は、N/P比8での、無血清培地又は10%FBS培地中の、THCO/siRNA複合体及びペグ化されたTHCO/siRNA複合体の遺伝子抑制率、並びにTransfast及びDOTAPとの対照複合体の遺伝子抑制率を示す。高い遺伝子抑制効率が、補助脂質であるDOPEなしでTHCO/siRNA複合体及びペグ化されたTHCO/siRNA複合体で認められ、それは、市販されているリポソーム又は脂質ベースのトランスフェクション試薬と比べてもすぐに使えるキャリアとしてTHCOの有利な特徴である。主な脂質ベースのキャリアでは、高いトランスフェクション効率を達成するためにDOPE又はコレステロールの取り込みの事前形成がしばしば必要であるが、THCOにはそれは必要ない。
【0096】
ペグ化MFC/siRNA複合体の細胞取り込み量が少なかったとしても、0.5%と2.5%のmPEG5000−Malで修飾されたTHCO/siRNA複合体は、非修飾のTHCO/siRNA複合体やTransfast複合体に比べて、無血清培地でわずかに高い遺伝子抑制効率を、10%FBS培地で有意に高い遺伝子抑制効率を示した。ペグ化MFC/siRNA複合体は、10%FBS培地中で約56%の遺伝子抑制効率を示し、無血清培地中での65%から低下した。無血清培地と比較して10%FBS存在下での遺伝子抑制効率の有意な減少はTHCO(61.1±2.2%〜46.3±4.8%)、Transfast(62.3±1.6%〜41.8±8.2%)及びDOTAP(47.1±3.8%〜21.9±7.7%)で認められた(図12)。ペグ化されたTHCO/siRNAナノ粒子は血清に順応したトランスフェクション効率を示した。理論によって拘束されることなく、表面のペグ化はナノ粒子を安定させ、リソゾーム小器官での酵素分解からsiRNAを防御した。
【0097】
内因性のハウスキーピング遺伝子(ラミンA/C)を標的としたsiRNAのMFCを介する導入
細胞を8穴の顕微鏡用チャンバースライドに播種し、多機能性のキャリア/siRNA複合体と37℃、5%CO2の環境で4時間インキュベートした。インキュベート後、細胞を洗浄し、新しい培養液を加え、RNAiの効果のためにさらに44時間インキュベートした。蛍光顕微鏡による解析のために、1%のウシ血清アルブミンを含むPBSで細胞を洗浄し、チャンバースライド上でメタノールを用いて固定した。細胞固定後、細胞をラミンに対する一次抗体(Abcam)とインキュベートし、次に、蛍光標識された二次抗体(Aldrich)とインキュベートした。遺伝子抑制効率は蛍光顕微鏡によって可視化された(図13)。THCO/siRNAとTransfast/siRNA複合体で処理した細胞は、RNAiによってラミンA/Cタンパク質の発現が抑制されたため、未処理の細胞に比べて蛍光がはるかに弱かった。
【0098】
ホタルルシフェラーゼを標的としたsiRNAのMFCを介する導入の定量的評価
構成的にホタルルシフェラーゼを発現しているヒトの星状細胞腫細胞株U373MG(U373−Luc)は、ルシフェラーゼ遺伝子を含む組換レトロウイルスをU373MG細胞に感染させることによって作製した。U373−Luc細胞は、10%のウシ胎児血清、G418(300μg/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及びペニシリン(100単位/ml)を含むMEM培地(ATCC)で培養した。
【0099】
トランスフェクションの24時間前に、U373MG−Luc細胞を2000細胞/ウェルの密度で96穴プレートに播種した。siRNAトランスフェクション時に、各ウェルの培養液を新しい無血清培地に交換した。キャリア/抗ルシフェラーゼsiRNA複合体は、細胞と37℃で4時間インキュベートした。次いで、培養液を1mlの新しい完全培地に交換し、さらに細胞を44時間インキュベートした。トランスフェクション試験はすべて3連で実施した。細胞をペレットにして100μlの細胞溶解緩衝液(プロメガ社)に再懸濁し、凍結融解を2回行った。14,000gで1分間遠心し細胞残屑を沈殿させ、20μlの上清を、ルシフェラーゼアッセイシステム(プロメガ社)を用いて評価した。図14はトランスフェクション試薬としてTHCO、PEI、Transfast及びDOTAPを用いたルシフェラーゼ遺伝子抑制を示す。THCOは、核酸(pDNA又はsiRNA)、細胞株(HeLa又はMDA MB231)、プラスミド(ホタルルシフェラーゼ又はGFPのどちらかをコードするレポーター遺伝子)及びsiRNA(ラミンA/Cをコードする内因性のハウスキーピング遺伝子又はホタルルシフェラーゼをコードする組み換え遺伝子のどちらかを標的とする)が異なるのにも関わらず万能で高い導入効率を示した。
【0100】
E.追加の単量体の多機能性キャリア化合物の合成と精製
MFCを固相化学法によって合成した。(1−アミノエチル)イミノ−ビス[N−(オレイシル−システイニル−ヒスチニル−1−アミノエチル)プロピオン−アミド](EHCO)の合成手順は、化合物のライブラリの合成のための代表的な手順として記述した。合成のプロトコールを図16に示す。MFCの一般構造は図15に示し、特定の化合物は図2に示す。
【0101】
塩化2−クロロトリチル樹脂(300mg)を無水DCMでよく洗浄した。DCM中のエチレンジアミン(1.0ml、過剰量)とDIPEA(64mg)の混合物を樹脂に加え、その懸濁液を2時間振盪した。溶媒を排出し、樹脂をDCMとMeOHで洗浄した。さらに、樹脂は10mlのDCM/MeOH/DIPEA(17/2/1,v/v/v)で20分間振盪した。次に、樹脂をマイケル付加でメチルカルボン酸を導入するために10mlのDMF中でアクリル酸メチル(50ml、過剰量)と混合した。ロータリーエバポレーターを用いて50℃で連続回転にて反応を行った。DMF10ml中の1,2−エチレンジアミド溶液(50ml、過剰)をメチルカルボン酸エステルの樹脂と混合した。ロータリーエバポレーターを用いてその混合物を5日間、50℃で回転した。第一アミンを含む樹脂をISOLUTEカラムに移し、DMFに溶解した活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン(2.0g,過剰量)とTBTU/HOBt/DIPEA(過剰量)の溶液と混合し、2時間振盪した。樹脂を数回洗浄し、フルオレニルメトキシカルボニル保護基を20%ピペリジン(DMF溶液)によって除去し(20分間、3回)、ヒスチジン残基を含む樹脂を与えた。同様にしてDMF中の活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システイン(2.0g,過剰量)及びTBTU/HOBt/DIPEA(過剰量)と樹脂との反応によりシステイン残基を導入し、フルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去した。最終的に、DMF中のTBTU/HOBt/DIPEA存在下でオレイン酸(2g)と樹脂を2時間反応させることによってオレイシル基(oleicyl group)を導入した。第一アミノ基を含むそれぞれのカップリング反応の質はカイザー試験で調べた。各反応サイクルの樹脂は、DMF、MeOH及びDCMでよく洗浄し、次の反応プロセスの前に減圧下で乾燥した。最終の樹脂はTFA/H2O/EDT/TIBS(94/2.5/2.5/1)溶液で懸濁し、室温で3時間振盪した。その溶液を集めて、減圧下で濃縮した。残留物を冷ジエチルエーテルで洗浄(40ml×5)し、乾燥した。最終生成物のEHCOは、Agilent1100リーズ精製システムを用いて、ZORBAX PrepHT C−18カラムを備えた分取用HPLCによって精製した。精製した画分を集めて、凍結乾燥した。最終生成物の純度は分析用HPLCで確かめた。化合物の構造は、Varian Mercury 400(カリフォルニア州パロアルト)を用いた1H NMR分光法及びマトリックス支援レーザー脱離イオン化(MALDI)飛行時間型(TOF)質量分析よって解析した。
【0102】
F.MFCとMFC/核酸複合体の生理学的、生物学的特性
溶血アッセイ
アッセイは、上述の技術を用いて実施した。MFCのpH感受性の両親媒性細胞膜破壊作用は、ラットの赤血球を用いた異なったpHでの溶血アッセイで評価した。図17は、pH7.4、pH6.5及びpH5.4のPBS緩衝液中での化合物の溶血活性を示している。陽性対照であるTriton X−100(1%,w/v)は、完全に溶血させた。これらの緩衝液とDOTAPはいずれの場合もほとんど溶血しなかった。MFCは様々なpH依存性の溶血活性を示した。一般的に、すべてのMFCはpH7.4において、pH6.5及びpH5.4よりも低い溶血活性を有していた。pH7.4では、EHCL及びEHCOはほとんど溶血活性がなかったが、他のMFCは10〜35%の中程度の溶血活性を示した。pH6.5では、EHCOを除いて、MFCの溶血活性が上昇したが、EHCOはほとんど溶血活性を示さなかった。pH5.4では、すべてのMFCが高い溶血活性を示し、EHCLを除き、50〜80%の溶血が認められた。
【0103】
MFCの溶血活性のpH感受性はそれらの構造特性によって決まる。ヒスチジン残基及び同様の疎水性残基を含むMFCにおいて、pH7.4及びpH6.5で頭部官能基中のプロトン化可能なアミノ基の数が増加するに伴って溶血活性が上昇する。中性付近のpHでは、プロトン化可能なアミノ基が多ければ多いほど、頭部官能基の電荷が増えてMFCの両親媒性が高くなる。EHC及びTHC系において、pH7.4のEHTLを除き、pH7.4及びpH6.5での不飽和のオレイシル基は、同じ系の飽和疎水性テールに比べて低い溶血活性を示した。THCOとTGCOの比較から、MFCのエンドゾーム−リソゾームpHでの両親媒性のpH感受性にヒスチジン残基が重要であることが示唆される。全般的に、溶血活性(赤血球膜の破壊)のpH感受性は、プロトン化可能なアミノ基頭部官能基と疎水性テールの結合から由来するMFCの両親媒性のpH感受性によって引き起こされる。多くのアミノ基がプロトン化された場合、MFCはより両親媒性となり、より溶血活性が高くなる。プロトン化と両親媒性のpH感受性は、MFCの頭部官能基の全体的なpKaによって決まるのかもしれない。
【0104】
MFC/siRNAナノ粒子の形成と径の測定
MFC/siRNAナノ粒子複合体は、上述の技術を用いて作製し、特徴付けた。重合性のMFCとsiRNAとの複合体形成と複合体のナノ粒子の形成は、動的光散乱法で調べた。EHCOは、まずsiRNAとの複合体形成及び複合体形成とナノ粒子の形成におけるN/P比の影響を検討するために使用された。ナノ粒子の形成はEHCO又はsiRNA溶液のいずれでも検出されなかった。EHCOにsiRNAを混合し、30分間インキュベートした場合に、ナノ粒子複合体の形成は0.5という低いN/P比で認められた。粒子のサイズは複合体のN/P比で変化した(図18A)。N/P比0.5での初期サイズは直径約200nmであり、N/P比を4まで増加させるとサイズは増加した。比較的中性の複合体粒子の凝集が可能であったため、粒子のサイズはN/P比4で約3μmと大きかった。N/P比6、8及び10での粒子サイズは、それぞれ約240、200及び151nmと減少した。他の重合可能な界面活性剤を用いたsiRNA複合体の粒子のサイズは、EHCOの検討に基づきN/P比8及び10で測定した。図18Bで示されるように、複合体の平均粒子サイズは、N/P比8で160〜260nmの範囲であり、N/P比10で160〜210nmの範囲であった。ほとんどの複合体のサイズは効率的な細胞内取り込みのカットオフ値と報告されている250nm未満であった。
【0105】
MFCの自動酸化
MFCは、保存液(N2保護,2mg/ml)をトリス緩衝液(10mM pH8.0)で希釈し、初期のチオール濃度を150μMとした。10μgのsiRNAの存在下又は非存在下で、試験溶液(400μl)を用いて界面活性剤中のジチオールの自動酸化を実施した(N/P=10)。既定の時間ごとに分取し、等量のエルマン保存液(50mM NaOAcに溶解した2mM DTNB溶液)と混合し、紫外可視分光光度計(Cary−300 Bio)を用いたエルマンアッセイで、遊離チオール濃度を測定した。
【0106】
他で報告されたsiRNA導入システムに比べて、MFCは比較的コンパクトで小さいナノ粒子を形成した。理論に拘束されることなく、キャリアとsiRNAとの間の電荷の相互作用によって複合体が形成されたと考えられる。疎水性テールの疎水性相互作用とジチオールの重合は、安定でコンパクトなナノ粒子の形成を促進した。siRNAを混合した後の酸化を介したMFCの重合は、エルマンアッセイによる測定でのチオールの消失によって確認された(図19)。チオールの自動酸化速度はsiRNAの非存在下に比べてsiRNAの存在下で速く、siRNAとの複合体形成が自動酸化を促進したと考えられる。これらのジスルフィド結合は、ナノ粒子複合体をさらに安定させるであろう。細胞外スペースと細胞内のチオール/ジスルフィドのレドックスポテンシャルが大きく異なるため、導入の過程では、ジスルフィド結合は細胞外のスペースでは安定しており、その後サイトゾルではその安定性は減少し、ナノ粒子の解離及びsiRNAの遊離が促進される。
【0107】
MFC/siRNA複合体の細胞毒性
U87−luc細胞は上述のプロトコールに従って、異なったキャリアのMFC/siRNA複合体とインキュベートした。インキュベートの後に、それぞれのウェルにPBSで溶解したMTTの溶液(5mg/ml,25μl)を添加し、細胞をさらに2時間インキュベートした。培養液を除去したのち、それぞれのウェルに200μlのDMSOを加えて、細胞を37℃で5分間インキュベートした。吸光度はマイクロプレートリーダー(Model 550,Bio−Rad Lab.カリフォルニア州ヘラクレス)を用いて570nmで測定した。相対的な細胞生存率は「([Abs]sample−[Abs]blank)/([Abs]control−[Abs]blank) ×100%」として算出した。
【0108】
G.MFCによる核酸のin vitro導入
siRNAを用いたMFCを介するin vitro遺伝子抑制
ホタルルシフェラーゼを構成的に発現するU87−luc細胞は10%FBS,G418(300μg/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、ペニシリン(100単位/ml)を含むMEM培地(ATCC)で培養した。トランスフェクションの24時間前に、U87−luc細胞を5000細胞/ウェルの密度で96穴プレートに播種した。siRNAトランスフェクション時に、各ウェルの培養液を新しい無血清培地に交換した。抗ルシフェラーゼsiRNAをMFC、TransFast又はDOTAPと複合体形成させ、使用前に30分間インキュベートした。複合体は細胞と37℃で4時間インキュベートした。次に、培養液を100μlの新しい完全培地に交換し、さらに細胞を44時間インキュベートした。細胞をあらかじめ暖めたPBSで洗浄し、200μlの細胞溶解液で処理したのち、凍結融解を数回行った。細胞残屑は14,000g、5分間の遠心で取り除いた。細胞溶解液(20μl)中のルシフェラーゼ活性は、ルシフェラーゼアッセイキット(100μlのルシフェラーゼアッセイ緩衝液)を用いてルミノメータ(Lumat 9605,EG&G Wallac)により10秒間測定した。遺伝子の抑制効率は未処理細胞のルシフェラーゼ発現量で標準化した。
【0109】
細胞のsiRNA導入のためのMFCsの有効性は、ホタルルシフェラーゼを安定的に発現しているU87−luc細胞株にて抗ルシフェラーゼsiRNAを用いて評価した。市販のトランスフェクション試薬であるTransFastとDOTAPは対照として用いた。界面活性剤を介するルシフェラーゼ発現の抑制効果は、まず効率的なsiRNA導入に最もよいN/P比を得るために、異なるN/P比でEHCOを用いて評価した。EHCOでは、ルシフェラーゼ発現の高いノックダウン効果は8〜20のN/P比の範囲で認められた。(図20)。最も高い抑制効果はMFCにおいてN/P比10で認められた。MFCを介するルシフェラーゼ発現の抑制効果はN/P比10で固定して評価した。同時に、MFCの細胞毒性を評価するために、siRNA複合体とインキュベートした細胞の生存率をMTTアッセイで調べた。図21aに示されるように、TransFastは、siRNAが100nMのとき、未処理の細胞に比べて89.6±5.6%のルシフェラーゼ発現のノックダウンを示したが、有意な細胞毒性では57.6±2.2%の生存率しか認められなかった。siRNAが100nMのTransFastでは比較的高い遺伝子抑制がみられるが、細胞の生存率が低くなり得る。同じsiRNA濃度のDOTAP/siRNA複合体では高い生存率(85.8±1.6%)であったが、ルシフェラーゼ発現のノックダウン効果は低かった(56.7±3.1%)。MFCのsiRNA複合体とインキュベートされた細胞は相対的に生存率が高く、78.6±5.7%〜88.2±1.3%の範囲であった。そのルシフェラーゼ発現のノックダウン効果は47.8±4.2%〜88.4±3.1%であった。MFCの中ではEHCOが高い生存率(86.7±8.3%)で最も高い遺伝子抑制効果(88.4±3.1%)を示した。すべてのsiRNA複合体は、siRNA濃度が低いとき(20nM)に細胞毒性が低かった(図21b)。Transfastを含む場合はすべて細胞生存率が高かった(87.6±4.6%)。この条件下では、EHCLを除くMFCはDOTAPに比べて高いルシフェラーゼ発現抑制効果を示した。THCL,THCO,TGCO,PHCO及びSHCOはTransFastに匹敵するトランスフェクション効率(62.6±6.4%)を示した。EHCOはTransFastに比べて有意に高いトランスフェクション効率を示した(74.5±1.0%)。細胞のsiRNA導入効率とMFCの溶血活性のpH感受性及び両親媒性とは良く相関した。EHCOは両siRNA濃度で最も高い遺伝子抑制効果を示した。pH7.4とpH6.5で比較的溶血活性が低かったTHCOとSHCOは、MFCの中でも比較的高い遺伝子抑制効果を示した。
【0110】
H.EHCOを用いたin vivo遺伝子抑制
動物腫瘍モデル
ルシフェラーゼを安定的に発現しているU87細胞を集めて、培養液/マトリジェル混合液(v/v=1/1)で再懸濁した。200万個の細胞を含む細胞浮遊液100μlをマウスの右脇腹の皮下に注射した。
【0111】
キャリア
EHCOを試験のために選択した。DOTAPは、in vivoでのsiRNA導入のために用いられている市販のトランスフェクション試薬であり、対照キャリアとして用いた。
【0112】
siRNAs
遺伝子抑制効果を生物発光法で非侵襲的に検出するために、抗ルシフェラーゼsiRNAを用いて、マウスのルシフェラーゼ発現をノックダウンした。低酸素で誘導できるファクタ−1a(Hif)は血管内皮増殖因子(VEGF)の発現を制御しており、抗Hif−siRNA複合体の腫瘍内注入によりin vivoでの腫瘍増殖が抑制された。ホタルルシフェラーゼを標的とするsiRNAは、Dharmacon(イリノイ州シカゴ)から購入した。アンチセンスの配列は5’−UCGAAGUACUCAGCGUAAGdTdT−3’であり、センスの配列は3’−dTdTAGCUUCAUGAGUCGCAUUC−5’である。HIFを標的とするsiRNAはユタ大学のハンツマン癌研究所から提供された。アンチセンスの配列は5’−UCACCAAAGUUGAAUCAGAdTdT−3’であり、センスの配列は3’−dTdTAGUGGUUUCAACUUAGUCU−5’である。
【0113】
抗Luc−siRNA複合体の投与及びルシフェラーゼマウスのイメージング
マウスの生物発光イメージングは、抗ルシフェラーゼ複合体を投与する1日前に行った。PBSに溶解したホタルのD−ルシフェリン(Xenogen Corp.,カリフォルニア州アラメダ)50mg/kg、ケタミン100mg/kg及び塩酸キシラジン10mg/kg(いずれもSigma)をマウスの腹腔内に投与した。1秒の照射時間でIVIS 100イメージングシステム(Xenogen)を用いて、投与10分後にマウスを中間のビニングで撮影した。イメージは、リビングイメージソフトウェア(Xenogen)を用いて定量化した。翌日、300μlに溶解した50μg抗ルシフェラーゼsiRNAをEHCO又はDOTAPに混合し、得られた複合体をマウスの腹腔内に全身投与した。siRNA複合体投与の2日後にマウスの生物発光イメージングを実施した。抗Luc複合体を投与される1日前の発光シグナル強度を100%として、siRNA投与後のマウスのルシフェラーゼ発現レベルを0日に対するパーセントで標準化した。
【0114】
図22は、EHCOの2回投与後に、腫瘍でのルシフェラーゼ発現が50%を超えて減少したことを示す。一方、DOTAPのみでは最初の投与後に初期効果がみられたが、2回目の投与後では有意な効果はなかった。
【0115】
抗Hif−siRNA複合体の投与及び腫瘍径の測定
抗Hif−siRNA複合体は腫瘍細胞移植の21日後に投与した。1群のマウス(n=6)にsiRNA複合体を最初の3週間は週2回、4週目は週1回腹腔内に投与した。siRNA複合体の投与は合計7回繰り返した。他の群(n=8)は対照として用いた。2〜4日ごとにデジタルノギスで腫瘍体積を測定することによって腫瘍の成長をモニターした。腫瘍の成長はデジタルノギスを用いて測定した。腫瘍体積は、式(0.52×長径×短径2)によって計算した。マウスに抗Hif−siRNA複合体を投与した日を0日とし、その腫瘍体積を100%とした。すべての腫瘍体積を0日の腫瘍体積に対する割合として表した。
【0116】
予備試験では、U87−luc神経膠腫異種移植片を用いたマウス皮下腫瘍移植モデルにおいて、EHCOは、抗HIF−siRNAの全身腹腔内投与の高い抗腫瘍効果を仲介した。siRNAとして2mg/kgの低用量でEHCO/抗HIF−siRNAナノ粒子を投与した6匹のマウスのうち5匹は、投与27日後に明らかな反応を示した。図23は、投与期間中、投与に反応したマウスの相対的な腫瘍体積変化及び未投与マウスの相対的な腫瘍体積変化を示す。投与群中の無反応マウスの腫瘍成長曲線も図23に示す。
【0117】
II.ジスルフィド多機能性化合物及びその特徴
A.概要
塩化2−クロロトリチル樹脂(1.1mmol/g)、N−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン(Fmoc−His(Trt)−OH)、N−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システイン(Fmoc−Cys(Trt)−OH)、2−アセチルジメドン(Dde−OH)、2−(1H−ベンゾトリアゾール−1−イル)−1,1,3,3−テトラメチルウロニウムテトラフルオロほう酸塩(TBTU)及びN−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)をEMDバイオサイエンス社(カリフォルニア州サンディエゴ)から購入した。トリエチレンテトラミン、N,N−ジイソプロピルエチレンアミン(DIPEA)、アクリル酸メチル、1,2−エチレンジアミン、ヒドラジン、4−ジチオ−DL−スレイトール(DTT)、トリイソブチルシラン(TIBS)、1,2−エタンジチオール(EDT)、ピペリジン、トリフルオロ酢酸(TFA)をランカスター社(ニューハンプシャー州ウインダム)から購入した。超分岐PEI(Mw=25KDa)、ヘパリン硫酸塩、リン酸クロロキン(CQ)及び2,5−ジフェニール−3−(4,5−ジメチル−2−チアゾリル)テトラゾリウム臭化物(MTT)をシグマ−オルドリッチ社(米国ミズーリ州セントルイス)から購入した。ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)及びジメタンクロライド(DCM)は超乾燥溶剤であり、アクロス社(ペンシルベニア州ピッツバーグ)から購入した。固相合成については、他の記載を除くと、フリットとキャップを備えたISOLUTEカラム容器(ヴァージニア州シャーロッツビル)の中で反応は行われた。ルシフェラーゼをコードするgWizレポータープラスミドをアルデブロン社(ノースダコタ州ファーゴ)から購入した。ホタルルシフェラーゼを標的としたsiRNAをダルマコン社(イリノイ州シカゴ)から購入した。siRNAのアンチセンス配列は、5’−UCGAAGUACUCAGCGUAAGdTdT−3’であり、センス配列は、3’−dTdTAGCUUCAUGAGUCGCAUUC−5’である。合成に用いる前に、アミンを減圧蒸留によって精製した。他の全ての材料と溶剤は、追加の精製を行うことなく使用した。トリエチレンテトラミンは減圧蒸留で浄化された。すべてのその他の材料と溶媒は追加精製なしで使用された。
【0118】
B.合成手順
図24は、第一、第二及び第三の荷電官能基を有するジチオール含有単量体の樹脂担持合成を示す。図25は、酸化重合によるポリジスルフィドオリゴマーの合成を示す。以下の記号は、図28と29における記号と同じである。
【0119】
1−[2−クロロトリチル−アミノ]−1,4,7,10−テトラアザデカン樹脂(樹脂2)
塩化2−クロロトリチル樹脂(300mg、1.1mmol/g)を反応槽に入れ、乾燥DCMを用いてよく洗浄した。トリエチレンテトラアミン(1ml)とDIPEA(64mg)のDCM溶液を樹脂に加え、その懸濁液を2時間、振盪した。溶媒を排出し、次に、DCMとMeOHを用いて洗浄した。樹脂を10mlのDCM/MeOH/DIPEA(17/2/1、v/v/v)と共に、さらに20分間振盪した。得られた樹脂2をDMF、DCMを用いてよく洗浄し、減圧で乾燥した。
【0120】
2−アセチルジメドン(Dde−OH)及びtert−ブトキシカルボニル(Boc)基を用いたポリアミンの選択的保護と脱保護
2−アセチルジメドン(Dde−OH,2g)を10mlのDMFに溶解した溶液を樹脂2に加えた。その懸濁液を、室温で12時間、振盪した。DMFとDCMを用いて樹脂をよく洗浄し、溶媒を排出し、樹脂3を得た。樹脂3は、Boc2O(10g)を15mlのDCMに溶解した溶液で懸濁した。その混合物を、室温で4時間、振盪した。得られた樹脂をDMFとDCMを用いてよく洗浄し、その後、減圧で乾燥して、樹脂4を得た。次に、2%ヒドラジンのDMF溶液で15分間、樹脂4を懸濁した。このステップは、Dde基の完全な脱保護を確実にするために3回繰り返した。DMFとDCMを用いて得られた樹脂をよく洗浄し、樹脂5を得た。次のステップのために、それを減圧で乾燥した。
【0121】
アクリル酸メチル、1,2−エチレンジアミン、N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン及びN−α−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システインを用いた連続伸長
乾燥樹脂5を100mlのナス型フラスコに移し、アクリル酸メチル(50ml)とDMF(10ml)を加えた。ロータリーエバポレーターにて、50℃で連続振盪し、反応を行った。第一アミンが完全に消費されるまで、カイザーニンヒドリン試験で反応をモニターした。DMF、MeOH及びDCMを用いて樹脂6をよく洗浄し、減圧で乾燥した。
【0122】
次のステップのために、1,2−エチレンジアミン(50ml)をDMF(10ml)に溶解した溶液を樹脂6に加えた。ロータリーエバポレーターにて、50℃で5日間連続振盪し、反応を行った。DMF、MeOH及びDCMを用いてこの樹脂をよく洗浄し、減圧で乾燥して樹脂7を得た。
【0123】
次の固相反応のために、フリットとキャップを備えたISOLUTEカラム容器の中に樹脂を移した。活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−N−im−トリチル−L−ヒスチジン(2g)と、TBTU/HOBt/DIPEAをDMFに溶解した溶液を樹脂7に加え、カップリング反応を2時間続けた。カップリングの質は、カイザー試験で追跡した。この樹脂を数回洗浄し、20%ピペリジンDMF溶液に樹脂を懸濁(20分×3)することでフルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去して、樹脂8を得た。次に、次のステップのために、DMF及びDCMを用いてこの樹脂をよく洗浄し、減圧で乾燥した。
【0124】
続いて、活性化N−α−フルオレニルメトキシカルボニル−S−トリチル−L−システイン(2g)と、TBTU/HOBt/DIPEAをDMFに溶解した溶液を樹脂8に加え、カップリング反応を2時間続けた。カップリングの質は、カイザー試験で追跡した。この樹脂をよく洗浄し、20%ピペリジンDMF溶液を用いてフルオレニルメトキシカルボニル保護基を除去した。次に、次のステップのために、DMF、MeOH及びDCMを用いて樹脂9をよく洗浄した。
【0125】
樹脂からの単量体の開裂と脱保護
樹脂9をTFA/H2O/EDT/TIBS(94/2.5/2.5/1)溶液中で懸濁した。室温で3時間振盪した後に、溶液を回収し、減圧下で凝縮した。残留物を冷ジエチルエーテルで洗浄し(40ml×5)、乾燥した。単量体10を分取用HPLCでさらに精製し、60mgの生成物を得た。1H NMR(400MHz,D2O)δδ8.45(m,2H),7.2(m,2H),4.5(m,2H),4.05(m,2H),3.2−2.8(m,24H),2.7−2.5(m,8H),2.4−2.3(m,4H)MS m/z 計算値C34H62N16O6S2(M+H)+=855.45は、855.50に検出された。
【0126】
DMSO中の酸化重合
酸化重合は36mgの単量体10を用いて、100mlのDMSO中、37℃で行った。酸化重合の間の一定の時間ポイントで、反応混合物を分取し、FPLCで分子量を測定した。重合は5日間行った。アセトン(10ml)を用いた析出でポリマー残渣を得、さらに超純水(MWCO=2000)に対するオーバーナイトの透析によって精製した。最終生成物を凍結乾燥で乾燥した。1H NMR(400MHz,D2O)δ8.34(m,2H),7.12(m,2H),4.5(m,2H),4.1(m,2H),3.2−2.8(m,24H),2.7−2.5(m,8H),2.4−2.3(m,4H)Mw=6.2K(SECで測定した)。
【0127】
C.ポリジスルフィド及びポリジスルフィド/DNA複合体の特徴
ゲル電気泳動シフトアッセイ
ポリジスルフィド11(PDS)がDNAに結合する能力をゲル電気泳動によって調べた。0.5μg/mlの臭化エチジウムを含むアガロースゲル(0.8%,w/v)をTAE緩衝液(トリス酢酸塩−EDTA)中に準備した。DNA(10μl,0.1μg/μl)に、規定のN/P比(N=プロトン化できる窒素、P=DNA上のリン酸基)である等量の重合溶液を混合し、使用する前に30分間インキュベートした。それぞれの10μlサンプルに2μlの6×ローディングダイを混合し、その混合物をアガロースゲルにロードした。100Vで60分間、ゲルの電気泳動を行った。DNAのバンドの位置をUV照射装置上で可視化した。
【0128】
0.15M NaCl又は1mg/mlヘパリンの存在下又は非存在下で、0.1M DTTとポリプレックス(polyplexes)(N/P=3)を37℃で4時間インキュベートすることによって、PDS/DNAポリプレックスを不安定にする還元条件の能力を調べた。サンプルは上述のようにゲル電気泳動によって分析した。
【0129】
図26は、示されたN/P比でのゲル電気泳動シフトアッセイの結果を示す。レーン1:DNAのみ;レーン2〜4:単量体/DNA複合体;レーン5〜9:重合体/DNA複合体。(b)NaCl又はヘパリン存在下での還元はポリプレックスを不安定にする。N/P比3でのポリプレックスを試験に用いた。レーン1〜4はDTT非存在下で実施し、レーン5〜8は0.1M DTTの存在下で実施した。ポリプレックスは37℃で4時間インキュベートした。レーン1:DNAのみ;レーン2:ポリプレックスのみ;レーン3:0.15M NaCl存在下でのポリプレックス;レーン4:0.1mg/mlヘパリン存在下でのポリプレックス;レーン5:DNAのみ;レーン6:ポリプレックスのみ;レーン7:0.15M NaCl存在下でのポリプレックス;レーン8:0.1mg/mlのヘパリン存在下でのポリプレックス。(ND=ネイキッドDNA,O.C.=オープンサーキュラー,S.C.=プラスミドDNAの超らせん構造)
【0130】
図26(a)に示されるように、単量体はN/P比9以下ではウェル内のDNA移動を遅延させることができない。それに対して、ポリジスルフィドによれば、N/P比11で移動を部分的に遅延させ、1.5以上のN/P比では完全に遅延した。塩(0.15M NaCl)又は陰電荷のヘパリン(1mg/ml)存在下のN/P比3では、ポリプレックスは高い安定性を示した。図26(b)に示されるように、生理的なイオン強度及び競合生体高分子よって、検出可能なポリプレックスの解離は全く生じなかった。また、ポリプレックスからのDNAの遊離を異なった条件下の還元環境で調べた。ジスルフィド還元剤であるDTTが存在するとフリーのDNAが遊離した。高イオン強度又はヘパリンの存在下では、さらに還元環境でのDNAの遊離が促進された。この結果は、カチオン性のポリジスルフィドを用いたDNAポリプレックスが、細胞外では安定であり、細胞内ではDNAを遊離できるので、導入効率を高めることを示唆した。
【0131】
粒子サイズ分析
5.0μgのプラスミドDNA又はsiRNAと適量の材料を無塵水中で混合したサンプル用意し、出力波長633nmの5mWヘリウムネオンレーザを装備したBrookhaven社製の動的光散乱光度計BI−200SMシステムを用いて分析した。その装置に備わった機能を用いて拡散係数から有効径と集団分布を算出した。測定は90度の角度、25℃で行った。各サンプルは3連で分析し、データは平均値で表した。図27は示されたN/P比でのPDS/DNA及びPDS/siRNA複合体のサイズを示す。
【0132】
酸塩基滴定アッセイ
酸塩基滴定は6mlのPDS又はPEI溶液(正電荷に基づいて5mM)を用いて実施した。最初のpHは10に調整した。2μlの1M HClで連続して滴定し、各添加後のpHを測定した。NaClの5mM溶液を対照として同様に滴定した。pH滴定曲線によれば、エンドゾーム−リソゾームのpH範囲(pH4.5〜7.2)では、PDSはPEIと同様の緩衝能力を示した。これは重合体中の第一級アミノ基、第二級アミノ基、第三級アミノ基及び芳香族アミノ基の組み合わせ効果のためである。
【0133】
D.細胞培養実験
プラスミドDNA導入のためのin vitroプロトコール
COS−7細胞(SV40ウイルスで形質転換したサル腎臓繊維芽細胞)及びMDA−MB−231細胞(ヒト白人の悪性乳腺腫上皮細胞)をATCC(American Type Culture Collection,米国メリーランド州ロックビル)から入手した。ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)でCOS7細胞を、ATCCリーボビッツL−15培地でMDA−MB−231細胞を37℃、加湿5%CO2雰囲気で培養した。培地には10%のウシ胎児血清(FBS,HyClone社、ユタ州ローガン)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、ペニシリン(100単位/ml)を添加した。トランスフェクションの24時間前に、24穴プレートに細胞を播種した。トランスフェクション時に、100μMのクロロキンを添加又は無添加の無血清培地1mlと各ウェルの培地を交換した。異なるN/P比で、重合体/DNA複合体又はPEI/DNA複合体を細胞と共に37℃で4時間インキュベートした。次に、培地を1mlの新しい完全培地に交換し、さらに44時間細胞をインキュベートした。すべてのトランスフェクション試験はすべて3連で実施した。インキュベーション後、200μlの細胞溶解緩衝液(プロメガ社,ウィスコンシン州マディソン)で処理した。ルシフェラーゼアッセイキット(プロメガ社,ウィスコンシン州マディソン)を用いてルミノメータ(Lumat 9605,EG&G Wallac)で、細胞抽出液中のルシフェラーゼ活性を10秒間測定した。相対的な光強度値(RLU)は、細胞抽出液中のタンパク質濃度で標準化し、BCAタンパク質アッセイキット(ピアス社、イリノイ州ロックフォード)によって測定した。ルシフェラーゼ活性は相対的な光強度値(細胞溶解液中のタンパク質量1mgあたりのRLU)として表した。
【0134】
図28aは、100μMのクロロキン存在下又は非存在下で、異なったN/P比でのPEIとネイキッドDNAとを比較したCOS7細胞中のPDS/DNA複合体のトランスフェクション効率を示す。平均±標準偏差(n=3)。図28aに示されるように、複合体が介したときのルシフェラーゼ発現レベルはN/P比に依存していた。ポリジスルフィドはN/P比100で最も高い効率で遺伝子導入を仲介し、同様の遺伝子導入能力はMDA−MB−231細胞中でも認められた(データ未記載)。最適のトランスフェクションのためには相対的に高い電荷比がカチオン性ポリジスルフィドに必要であり、それは、他の報告されている生物分解性の遺伝子キャリアと同様であった。それにもかかわらず、PDSポリプレックス(N/P=100)の毒性はPEI(N/P=10)に比べて低かった。N/P比の増加に従ってそのサイズが減少した(N/P=40で直径320nmからN/P=80で直径135nm;支援情報参照)ことから、トランスフェクション効率はポリプレックスのサイズと相関しているかもしれない。最適N/P比では、ポリジスルフィドはCOS7細胞中でPEIに比べて遺伝子発現が約3倍低かった。エンドゾーム膜を破壊することが知られている試薬であるリン酸クロロキン(CQ,100μM)の存在は、ポリジスルフィドを介した遺伝子発現をほとんど改善しなかった。そのことは、カチオン性ポリジスルフィドにはポリプレックスがエンドソーム小器官から逃れることを助けることに貢献するであろう高い緩衝能力があることを示している。
【0135】
siRNA導入のためのin vitroプロトコール
構成的にホタルルシフェラーゼを発現しているヒト星状細胞腫細胞株U373MG(U373−Luc)は、ルシフェラーゼ遺伝子を含む組み換えレトロウイルスをU373MG細胞に感染させることによって作製した(最初の保存株はユタ大学、ハンツマン癌研究所のDr.David Gillespieからの好意で供与された)。U373−Luc細胞は、10%のウシ胎児血清、G418(300μg/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)及びペニシリン(100単位/ml)を含むMEM培地(ATCC)で培養した。
【0136】
トランスフェクションの24時間前に、U373MG−Luc細胞を2000細胞/ウェルの密度で96穴プレートに播種した。siRNAトランスフェクション時に、各ウェルを無血清又は血清含有の新しい培地に交換した。異なったN/P比で、キャリア/抗ルシフェラーゼsiRNAの複合体を細胞と共に37℃で4時間インキュベートした。次に、培地を1mlの新しい完全培地と交換し、さらに細胞を44時間インキュベートした。トランスフェクション試験はすべて3連で実施した。細胞をペレットにし、100μlの細胞溶解緩衝液(プロメガ社)で再懸濁し、凍結融解を2回実施した。細胞残屑を14,000gで1分間遠心し、ルシフェラーゼアッセイシステム(プロメガ社)を用いて、20μlの上清をアッセイした。
【0137】
図28bは、異なった条件下におけるU373−Luc細胞中でのPDS/siRNA又はPEI/siRNA複合体による内因性のルシフェラーゼ遺伝子の抑制効果を示す。AとBは、無血清条件下で、それぞれ100nMと10nMのsiRNA濃度で実施した。CとDは、10%のFBS存在下で、それぞれ100nMと10nMのsiRNA濃度で実施した。平均±標準偏差(n=3)。PDS/siRNAを介したルシフェラーゼ抑制効果は低いsiRNA濃度(10nM)であっても、PEI/siRNAと同様の効果であった。ルシフェラーゼ発現は、無血清培地中でポリジスルフィド/siRNA(N/P=30)複合体及びPEI/siRNA(N/P=10)複合体ともに30%まで抑制された(図28b)。興味深いことに、10%FBSの存在下では、PEI/siRNA複合体の遺伝子抑制効果はなく、これはポリプレックスと血清蛋白質の好ましくない相互作用のためと考えられる。同様の条件下で、ポリジスルフィド/siRNA複合体は依然として40%以下の遺伝子抑制効果を有する血清親和性を示した。
【0138】
細胞毒性アッセイ
PEIとの比較における、ポリジスルフィドの細胞毒性は、MTTアッセイを用いて評価した。アッセイの24時間前に96穴プレートに10000細胞/ウェルの密度でMDA−MB−231細胞を播種した。異なった濃度の重合体又は異なったN/P比のポリプレックスを含む200μlのL−15完全培地で細胞を培養した。4時間後、各ウェルの培地を100μlの新しい完全培地に交換した。PBSで溶解した25μlのMTT溶液を添加し、さらに細胞を2時間培養した。培養液を除去し、200μlのDMSOをウェルに加え、37℃で5分間インキュベートした。吸光度はマイクロプレートリーダー(Model 550,Bio−Rad Lab.カリフォルニア州ヘラクレス)を用いて570nmで測定した。相対的な細胞生存率は「([Abs]sample−[Abs]blank)/([Abs]control−[Abs]blank)×100%」として算出した。図29Aは、PDS及びPEI濃度に対する相対的な細胞生存率を示し、図29Bは、PDS及びPEIのN/P比に対する相対的な細胞生存率を示す。カチオン性のPDSはPEIに比べてはるかに低い細胞毒性であった。
【0139】
III.MFCを介する核酸のターゲッティング導入のための方法
ボンベシン−PEG−Mal複合体の合成
2つの連続する6アミノ酸単位を有するボンベシン(7−14)を固相担持樹脂上で合成した。ボンベシンペプチドを分取用HPLCで精製し、凍結乾燥し、NHS−PEG3400−Malと反応させてBN−PEG−Mal複合体を得た。図30に合成の手順を示す。BN−PEG3400−Malの分子量はMOLDI−TOFで確認した。
【0140】
RGD−PEG−Mal複合体の合成
環状ペプチドc(RGDfK)はPeptide Internationalから購入した。それをNHS−PEG3400−Malと反応させてRGD−PEG−Malを得た。図31に合成の手順を示す。BN−PEG3400−Malの分子量はMOLDI−TOFで確認した。
【0141】
MFC/siRNA又はMFC/DNAナノ粒子の表面修飾の基本手順
MFC/siRNA又はMFC/DNAナノ粒子の表面修飾は、チオールマレイミド反応を利用することによって実施した。図32にMFC/siRNAナノ粒子を機能させるための一般的手順を示す。例えば、1μgのsiRNAを9nmolのMFC−EHCOと結合させ、適量のマレイミドを含む機能分子を添加した(0.225nmolのBN−PEG−MalではBN/EHCOモル比に基づくと2.5%程度のBN−PEG−Malを修飾した)。ナノ粒子は異なったマレイミド含有分子、例えば、mPEG−Mal、BN−PEG−Mal又はRGD−PEG−Malとの反応によって修飾される。同様にして、フルオレセイン−5−マレイミドを用いて蛍光標識したナノ粒子を得た。暗所で2時間インキュベートした後、遊離マレイミド誘導体を遠心(Nanosep,MWCO=100K,5000g,5分)にて除去し、ナノ粒子複合体を次の実験のために回収した。
【0142】
蛍光顕微鏡
12穴の細胞プレートに、1ウェル当たり約10万個のU87細胞を播種した。蛍光標識されたMFC/DNAナノ粒子を上述のように準備した。リガンドを有する複合体の場合、適量のBN−PEG−Mal、RGD−PEG−Mal又はmPEG−Malを複合体混合物に添加した。暗所で2時間インキュベーションした後、遊離のマレイミド誘導体を遠心(Nanosep,MWCO=100K,5000g,5分)にて除去した。回収したサンプルを細胞に施し、37℃で2時間インキュベートした。培地を吸引によって除去し、細胞を冷リン酸緩衝液(PBS)で洗浄し、ウェル当たり1mlのPBSで溶解した4%PFAを用いて4℃で20分間固定した。固定試薬を吸引し、細胞をPBSで2回洗浄した。そのサンプルを蛍光顕微鏡で観察した。腫瘍特異的なペプチドを修飾したナノ粒子は、非標的ナノ粒子に比べて癌細胞中に有意な取り込みを示した(図33)。
【0143】
BN−PEG−Mal修飾ナノ粒子の細胞内取り込み
試験の24時間前に、6穴プレートに、1ウェルあたり約50万個のU87細胞を播種した。蛍光標識されたEHCO/siRNAナノ粒子は、上述のように準備した。EHCO/siRNAナノ粒子形成後、適量のBN−PEG−Mal又はmPEG−Malを混合物に添加した。暗所で2時間インキュベートしたのち、遊離のマレイミド誘導体を遠心(Nanosep,MWCO=100K,5000g,5分)にて除去した。回収したサンプルを細胞に添加し、37℃でインキュベートした。2時間後、培地を吸引によって除去し、細胞を冷リン酸緩衝液(PBS)で2回洗浄し、トリプシン処理した。細胞を集め、PBSで溶解した2%PFAを用いて4℃で20分間固定した。サンプルをFACSCaliburフローサイトメトリー(BD Biosciences)で分析した。その結果は、WinMDIソフトウエア(ver.2.9)(Joseph Trotter)を用いて解析した。
【0144】
図34は、受容体関与エンドサイトーシスを介する標的ナノ粒子による細胞内取り込み効率(2.5%BN−PEG−Mal修飾)が、非特異的なエンドサイトーシスを介する非修飾性のナノ粒子による細胞内取り込み(Black)と同等であり、2.5%mPEG−Malで修飾したMFC/siRNAナノ粒子による細胞内取り込みに比べて有意に高いことを示している。この結果は、ナノ粒子のペグ化が非特異的な細胞内取り込みを低下させ、標的基の導入により受容体関与エンドサイトーシスを強化することを示唆する。未処置の細胞は陰性対照として用いた。
【0145】
RGD−PEG−Mal修飾ナノ粒子の細胞内取り込み
試験の24時間前に、6穴プレートに、1ウェル当たり約50万個のU87細胞を播種した。蛍光標識したMFC/siRNAナノ粒子を、上述のように準備した。MFC/siRNAナノ粒子形成後に、適量のRGD−PEG−Mal又はmPEG−Malを混合物に添加した。暗所で2時間インキュベートしたのち、遊離のマレイミド誘導体を遠心にて除去(Nanosep,MWCO=100K,5000g,5分)した。回収したサンプルを細胞に添加し、37℃でインキュベートした。2時間後、培地を吸引にて除去し、細胞を冷リン酸緩衝液(PBS)で2回洗浄し、トリプシンで処理した。細胞を集め、PBSで溶解した2%PFAを用いて4℃で20分間固定した。サンプルはFACSCaliburフローサイトメトリー(BD Biosciences)で分析した。
【0146】
図35は、標的ナノ粒子による細胞内取り込み(青、2.5%RGD−PEG−Mal修飾)が、非標的性のナノ粒子による細胞内取り込み(紫、2.5%mPEG−Mal修飾)に比べて有意に高いことを示しており、それは、ナノ粒子中のRGDペプチドの導入が受容体関与エンドサイトーシスを強化することを示唆する。未処置の細胞は陰性対照として用いた。
【0147】
シクロ(RGDfK)のプレインキュベーションによってRGD−PEG−Mal修飾されたナノ粒子の細胞内取り込み競合
試験の24時間前に、6穴プレートに、1ウェル当たり約50万個のU87細胞を播種した。蛍光標識したRGD−PEG−Mal修飾ナノ粒子を上述のように準備した。競合実験では、細胞を100倍モルの過剰量のシクロ(RGDfK)ペプチドと共に4℃で30分間プレインキュベートした。次に、RGD−PEG−Mal修飾ナノ粒子を細胞に添加し、37℃でインキュベートした。2時間後、培地を吸引によって除去し、冷リン酸緩衝液(PBS)で2回洗浄し、トリプシン処理した。細胞を集め、PBSに溶解した2%PFAを用いて4℃で20分間固定した。サンプルをFACSCaliburフローサイトメトリー(BD Biosciences)で分析した。
【0148】
図36は2.5%のRGD−PEG−Mal修飾標的ナノ粒子を介した細胞内取り込み効率を示す。100倍モルの過剰量のシクロ(RGDfK)ペプチドとプレインキュベートした細胞は、RGDペプチドが無い培地の細胞に比べて取り込み効率が低かった。
【0149】
標的MFC/siRNAナノ粒子の静脈内投与
(動物腫瘍モデル)
U87細胞を集め、培地/マトリゲル混合物(v/v=1/1)で再懸濁した。200万個の細胞を含む100μlの細胞懸濁液をマウスの右脇腹の皮下に注入した。MFC−EHCOを試験で用いた。HifはVEGFの発現を制御する低酸素誘導性の因子1aであり、抗Hif−siRNAによるHifの発現抑制によって腫瘍の成長が抑制された。腫瘍の成長を抑制について抗Hif−siRNAを試験した。
【0150】
(siRNA複合体の投与と腫瘍サイズの測定)
抗Hif−siRNA複合体を腫瘍細胞移植21日後に投与した。siRNAを40μg含む複合体200μlを静脈内投与にてマウスに全身投与した。各群のマウス(n=5)に静脈内投与にてsiRNA複合体を投与した。各群においてマウスにナノ粒子又は溶液を投与した。具体的には、群1:PEI/siRNA複合体、群2:ネイキッドsiRNA、群3:mPEG修飾EHCO/siRNA複合体(修飾度:2.5%)、群4:BN−PEG修飾EHCO/siRNA複合体(修飾度:2.5%)、群5:RGD−PEG修飾EHCO/siRNA複合体(修飾度:2.5%)。しかしながら、PEI/siRNAナノ粒子を投与したマウスのすべてが投与直後に死亡した。これは、おそらくPEIの高い毒性のためであると考えられる。
【0151】
残りのマウスの腫瘍の成長を2〜4日ごとにデジタルノギスで腫瘍体積を測定することによってモニターした。腫瘍体積は、式(1/6)πD12D2(D1は測定された短径)を用いて計算した。マウスにsiRNAを投与した日を0日とし、その腫瘍体積を100%として標準化した。投与後のすべての腫瘍体積を0日の腫瘍体積に対する割合として表した。ペプチドで標的としたsiRNAナノ粒子は、投与後2週間、腫瘍の成長を抑制したが、非標的性の導入システム及びsiRNAのみを投与されたマウスでは有意な腫瘍の成長が認められた。図37は2.5%ペプチド修飾EHCO/siRNAナノ粒子の静脈内投与を示し(BN−PEG−Mal,青;RGD−PEG−Mal,オレンジ)、それらのナノ粒子は、非標的性のMFC/siRNAナノ粒子(2.5%mPEG−Mal修飾ナノ粒子)や、ネイキッドsiRNA溶液に比べて有意にマウスの腫瘍の成長率を抑制した。
【0152】
本明細書全体にわたって、様々な刊行物が参照される。これらの刊行物の開示は、本明細書に記載される本発明の化合物、組成物及び方法をより完全に記載するために、参照することによりその全体が本明細書中に組み込まれる。
【0153】
様々な変形及び変更が、本明細書に記載される本発明の化合物、組成物及び方法になされる可能性がある。本明細書に記載される本発明の化合物、組成及び方法の他の実施態様は、本明細書に開示される本発明の化合物、組成及び方法の仕様及び実施の考察から明らかである。特定例及び実施例は例示であるとみなされることが意図される。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図2C】
【図2D】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式Iを含む化合物であって、
【化1】
式中、AA1及びAA2は1つ以上のアミノ酸を含み、(AA1)m及び(AA2)nは同一又は互いに異なる配列であり;
m及びnは1〜50の整数であり;そして、
Lは、中性アミノ基及びカチオン性アンモニウム基、並びにこれらの薬学的に許容できる塩、エステル及びアミドのうちの少なくとも1つを含む官能基を含むことを特徴とする化合物。
【請求項2】
(AA1)m及び(AA2)nの少なくとも1つのアミノ酸が、システイン残基、ホモシステイン残基又はアミノ酸誘導体を含むチオール残基であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
(AA1)m及び(AA2)nの少なくとも1つのアミノ酸又は構造Lに疎水基が共有結合していることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
(AA1)m及び(AA2)nの少なくとも1つのアミノ酸又は構造Lに標的基が結合していることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
式IIを含む前記化合物であって、
【化2】
式中、R1〜R8は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、アシル基、芳香族基又は疎水基を表し;
AA1及びAA2は1個以上のアミノ酸であって、(AA1)y及び(AA2)zは、同一又は互いに異なる配列であり;
y及びzは1〜50の整数であり;そして、
Lは、中性アミノ基及びカチオン性アンモニウム基、並びにそれらの薬学的に許容できる塩、エステル及びアミドのうちの少なくとも1つを含む官能基を含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記構造Lが式IIIを含み、
【化3】
式中、R9〜R12は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基又は芳香族基を表し;
R13は、アルキルアミノ基又は少なくとも1つの芳香族アミノ基を含む官能基であり;そして、
o、p、q、及びrは、互いに独立して、1〜10の整数であることを特徴とする請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記アルキルアミノ基が、式IV、V、又はVIを含み、
【化4】
式中、R14〜R22は、互いに独立して、水素、アルキル基、疎水基又は窒素含有置換基を表し;
s、t、u、v、w、及びxは、1〜10の整数であり;そして、
Aは1〜50の整数であることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
前記芳香族アミノ基が、直接的又は間接的に芳香族基又は環構造に結合した1つ以上のアミノ基を含むことを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
R1〜R12は水素であり、o、p、q、rはそれぞれ2であり、y及びzは0又は1であり、R13は、CH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2NH2,CH2CH2NH2又はCH2CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2であることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項10】
R1及びR3は疎水基であり、R2及びR4〜R12は水素であり、o、p、q、rはそれぞれ2であり、y及びzは0又は1であり、R13はCH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2NH2,CH2CH2NH2又はCH2CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2であることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項11】
前記化合物がEHCO,SHCO又はTHCOであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
式VIIを含む化合物であって、
【化5】
式中、R1〜R6は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、芳香族基、又は疎水基を表し;
AA1及びAA2は1個以上のアミノ酸であって、(AA1)y及び(AA2)zは、同一又は互いに異なる配列であり;
y及びzは0〜50の整数であり;
R23及びR24は、互いに独立して、水素又は標的基を表し;
Bは2〜10,000の整数であり;
Lは、中性アミノ基及びカチオン性アンモニウム基、並びにそれらの薬学的に許容できる塩、エステル及びアミドのうちの少なくとも1つを含む官能基を含むことを特徴とする化合物。
【請求項13】
Lが1〜50のプロトン化可能なアミノ又はアミン基を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つの項に記載の化合物。
【請求項14】
Lが1〜50のプロトン化可能なアミノ又はアミン基を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つの項に記載の化合物。
【請求項15】
前記化合物にポリエチレングリコールが共有結合していることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つの項に記載の化合物。
【請求項16】
前記化合物に標的基がリンカーを介して共有結合していることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つの項に記載の化合物。
【請求項17】
前記リンカーがポリアミノ酸基、ポリアルキレン基又はポリエチレングリコール基を含むことを特徴とする請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
前記標的基がペプチド、タンパク質、抗体、抗体断片又はそれらの誘導体を含むことを特徴とする請求項16に記載の化合物。
【請求項19】
前記標的基がRGDペプチド又はボンベシンペプチドを含むことを特徴とする請求項16に記載の化合物。
【請求項20】
前記アミノ酸の少なくとも1つがヒスチジンを含むことを特徴とする請求項1〜19のいずれか1つの項に記載の化合物。
【請求項21】
同一又は互いに異なる請求項1〜20のいずれかの項に記載の化合物を、酸化剤の存在下で反応させることを含む工程で作製されたジスルフィドオリゴマー又は重合体。
【請求項22】
核酸及び請求項1〜21のいずれかの項に記載の1以上の化合物のキャリアを含むナノサイズ複合体。
【請求項23】
さらに標的物質を含むことを特徴とする請求項22に記載の複合体。
【請求項24】
前記標的物質が、ペプチド、タンパク質、抗体、抗体断片又はそれらの誘導体を含むことを特徴とする請求項23に記載の複合体。
【請求項25】
前記標的物質が、RGDペプチド又はボンベシンペプチドを含むことを特徴とする請求項23に記載の複合体。
【請求項26】
前記標的物質が、リンカーを介して前記ナノサイズ複合体に共有結合していることを特徴とする請求項23に記載の複合体。
【請求項27】
前記リンカーが、ポリアミノ酸基、ポリアルキレン基又はポリエチレングリコール基を含むことを特徴とする請求項26に記載の複合体。
【請求項28】
前記核酸が、自然の若しくは合成のオリゴヌクレオチド、自然の若しくは修飾/ブロックされたヌクレオチド/ヌクレオシド、DNA若しくはその断片、又はRNA若しくはその断片を含むことを特徴とする請求項22に記載の複合体。
【請求項29】
前記核酸が、siRNAを含むことを特徴とする請求項22に記載の複合体。
【請求項30】
前記核酸が、プラスミドDNAを含むことを特徴とする請求項22に記載の複合体。
【請求項31】
核酸と、請求項1〜21のいずれかの項に記載の1以上の化合物のキャリアとを混合することを含む工程で作製された複合体。
【請求項32】
pH5〜6で細胞膜が破壊されることを特徴とする請求項22〜31のいずれか1つの項に記載の複合体。
【請求項33】
pH5〜5.5で細胞膜が破壊されることを特徴とする請求項22〜31のいずれか1つの項に記載の複合体。
【請求項34】
細胞と請求項22〜33のいずれかの項に記載の複合体とが接触することを含み、該細胞に前記核酸が取り込まれることを特徴とする核酸を細胞に導入する方法。
【請求項35】
前記接触が、生体外(in vitro)で起こることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記接触が、生体内(in vivo)で起こることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項1】
式Iを含む化合物であって、
【化1】
式中、AA1及びAA2は1つ以上のアミノ酸を含み、(AA1)m及び(AA2)nは同一又は互いに異なる配列であり;
m及びnは1〜50の整数であり;そして、
Lは、中性アミノ基及びカチオン性アンモニウム基、並びにこれらの薬学的に許容できる塩、エステル及びアミドのうちの少なくとも1つを含む官能基を含むことを特徴とする化合物。
【請求項2】
(AA1)m及び(AA2)nの少なくとも1つのアミノ酸が、システイン残基、ホモシステイン残基又はアミノ酸誘導体を含むチオール残基であることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
(AA1)m及び(AA2)nの少なくとも1つのアミノ酸又は構造Lに疎水基が共有結合していることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
(AA1)m及び(AA2)nの少なくとも1つのアミノ酸又は構造Lに標的基が結合していることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
式IIを含む前記化合物であって、
【化2】
式中、R1〜R8は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、アシル基、芳香族基又は疎水基を表し;
AA1及びAA2は1個以上のアミノ酸であって、(AA1)y及び(AA2)zは、同一又は互いに異なる配列であり;
y及びzは1〜50の整数であり;そして、
Lは、中性アミノ基及びカチオン性アンモニウム基、並びにそれらの薬学的に許容できる塩、エステル及びアミドのうちの少なくとも1つを含む官能基を含むことを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項6】
前記構造Lが式IIIを含み、
【化3】
式中、R9〜R12は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基又は芳香族基を表し;
R13は、アルキルアミノ基又は少なくとも1つの芳香族アミノ基を含む官能基であり;そして、
o、p、q、及びrは、互いに独立して、1〜10の整数であることを特徴とする請求項5に記載の化合物。
【請求項7】
前記アルキルアミノ基が、式IV、V、又はVIを含み、
【化4】
式中、R14〜R22は、互いに独立して、水素、アルキル基、疎水基又は窒素含有置換基を表し;
s、t、u、v、w、及びxは、1〜10の整数であり;そして、
Aは1〜50の整数であることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
前記芳香族アミノ基が、直接的又は間接的に芳香族基又は環構造に結合した1つ以上のアミノ基を含むことを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
R1〜R12は水素であり、o、p、q、rはそれぞれ2であり、y及びzは0又は1であり、R13は、CH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2NH2,CH2CH2NH2又はCH2CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2であることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項10】
R1及びR3は疎水基であり、R2及びR4〜R12は水素であり、o、p、q、rはそれぞれ2であり、y及びzは0又は1であり、R13はCH2CH2NHCH2CH2NHCH2CH2NH2,CH2CH2NH2又はCH2CH2CH2NHCH2CH2CH2CH2NHCH2CH2CH2NH2であることを特徴とする請求項6に記載の化合物。
【請求項11】
前記化合物がEHCO,SHCO又はTHCOであることを特徴とする請求項1に記載の化合物。
【請求項12】
式VIIを含む化合物であって、
【化5】
式中、R1〜R6は、互いに独立して、水素、アルキル基、アルケニル基、芳香族基、又は疎水基を表し;
AA1及びAA2は1個以上のアミノ酸であって、(AA1)y及び(AA2)zは、同一又は互いに異なる配列であり;
y及びzは0〜50の整数であり;
R23及びR24は、互いに独立して、水素又は標的基を表し;
Bは2〜10,000の整数であり;
Lは、中性アミノ基及びカチオン性アンモニウム基、並びにそれらの薬学的に許容できる塩、エステル及びアミドのうちの少なくとも1つを含む官能基を含むことを特徴とする化合物。
【請求項13】
Lが1〜50のプロトン化可能なアミノ又はアミン基を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つの項に記載の化合物。
【請求項14】
Lが1〜50のプロトン化可能なアミノ又はアミン基を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1つの項に記載の化合物。
【請求項15】
前記化合物にポリエチレングリコールが共有結合していることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1つの項に記載の化合物。
【請求項16】
前記化合物に標的基がリンカーを介して共有結合していることを特徴とする請求項1〜15のいずれか1つの項に記載の化合物。
【請求項17】
前記リンカーがポリアミノ酸基、ポリアルキレン基又はポリエチレングリコール基を含むことを特徴とする請求項16に記載の化合物。
【請求項18】
前記標的基がペプチド、タンパク質、抗体、抗体断片又はそれらの誘導体を含むことを特徴とする請求項16に記載の化合物。
【請求項19】
前記標的基がRGDペプチド又はボンベシンペプチドを含むことを特徴とする請求項16に記載の化合物。
【請求項20】
前記アミノ酸の少なくとも1つがヒスチジンを含むことを特徴とする請求項1〜19のいずれか1つの項に記載の化合物。
【請求項21】
同一又は互いに異なる請求項1〜20のいずれかの項に記載の化合物を、酸化剤の存在下で反応させることを含む工程で作製されたジスルフィドオリゴマー又は重合体。
【請求項22】
核酸及び請求項1〜21のいずれかの項に記載の1以上の化合物のキャリアを含むナノサイズ複合体。
【請求項23】
さらに標的物質を含むことを特徴とする請求項22に記載の複合体。
【請求項24】
前記標的物質が、ペプチド、タンパク質、抗体、抗体断片又はそれらの誘導体を含むことを特徴とする請求項23に記載の複合体。
【請求項25】
前記標的物質が、RGDペプチド又はボンベシンペプチドを含むことを特徴とする請求項23に記載の複合体。
【請求項26】
前記標的物質が、リンカーを介して前記ナノサイズ複合体に共有結合していることを特徴とする請求項23に記載の複合体。
【請求項27】
前記リンカーが、ポリアミノ酸基、ポリアルキレン基又はポリエチレングリコール基を含むことを特徴とする請求項26に記載の複合体。
【請求項28】
前記核酸が、自然の若しくは合成のオリゴヌクレオチド、自然の若しくは修飾/ブロックされたヌクレオチド/ヌクレオシド、DNA若しくはその断片、又はRNA若しくはその断片を含むことを特徴とする請求項22に記載の複合体。
【請求項29】
前記核酸が、siRNAを含むことを特徴とする請求項22に記載の複合体。
【請求項30】
前記核酸が、プラスミドDNAを含むことを特徴とする請求項22に記載の複合体。
【請求項31】
核酸と、請求項1〜21のいずれかの項に記載の1以上の化合物のキャリアとを混合することを含む工程で作製された複合体。
【請求項32】
pH5〜6で細胞膜が破壊されることを特徴とする請求項22〜31のいずれか1つの項に記載の複合体。
【請求項33】
pH5〜5.5で細胞膜が破壊されることを特徴とする請求項22〜31のいずれか1つの項に記載の複合体。
【請求項34】
細胞と請求項22〜33のいずれかの項に記載の複合体とが接触することを含み、該細胞に前記核酸が取り込まれることを特徴とする核酸を細胞に導入する方法。
【請求項35】
前記接触が、生体外(in vitro)で起こることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【請求項36】
前記接触が、生体内(in vivo)で起こることを特徴とする請求項34に記載の方法。
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図35】
【図36】
【図37】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29A】
【図29B】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10A】
【図10B】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
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【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図35】
【図36】
【図37】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29A】
【図29B】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【公表番号】特表2010−504997(P2010−504997A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530592(P2009−530592)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/079651
【国際公開番号】WO2008/042686
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(500189230)ユニバーシティ・オブ・ユタ・リサーチ・ファウンデーション (11)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際出願番号】PCT/US2007/079651
【国際公開番号】WO2008/042686
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(500189230)ユニバーシティ・オブ・ユタ・リサーチ・ファウンデーション (11)
【Fターム(参考)】
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