説明

核酸抽出のための音波処理カートリッジ

カートリッジにおいて、生物学的成分を破壊し該生物学的成分から核酸を放出させるために音波処理が生物学的成分に適用される、該カートリッジは、逆流を防ぐように設計される流体通路によって結合される一連のウェルを含むカートリッジ本体から構成され、薄いラミナによって覆われる音波処理ウインドウを含む少なくとも1つのウェルを有し、ウインドウの外側の表面に接触する音波処理ホーンからの音波振動を伝える。ウェル間の流体移動は、流体通路を介した圧力差によって達成され、破壊、混合、放出された核酸の結合材料への結合、洗浄、溶出、および収集を含む機能の連続が、種々のウェルにおいて実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願への相互参照)
本願は、2009年5月29日に出願された米国仮特許出願第61/182,183号の利益を主張し、この仮特許出願の内容は、参考として本明細書中に援用される。
【背景技術】
【0002】
(1.発明の分野)
本発明は、生物学的細胞からの、ならびに軟らかい生物学的組織および硬い生物学的組織からの核酸抽出の分野に属する。
【0003】
(2.先行技術の記載)
組織、真菌類、細菌および他の細胞成分(cellular matter)、ならびに非細胞構造物(例えば、ウイルス)からの核酸の抽出は、分子生物学および生物医学的診断における多種多様な手技において使用され、研究および医学の両方において有用に適用されている。抽出方法としては、化学的方法および物理的方法の両方が挙げられ、それぞれそれら特有の利点、およびそれぞれ限界を有する。化学的方法は、より一様で首尾一貫した結果を確認することおよび提供することがより容易である傾向にあるが、物理的方法は、きつい化学物質の使用を避ける。1つの物理的方法は、音波処理であり、細胞または細胞懸濁物の直接接触における音波処理ホーン(horn)を用いる手技が開発されているが、他の手技としては、サンプル容器の壁を介するなどの間接的な接触を使用する。直接方法および間接方法の両方において、250ミクロン以下の直径を有するビーズを、代表的にはサンプルと混合し、音波処理効果を高める。それにもかかわらず、サンプル操作、抽出効率、および汚染の回避は、達成するのが難しいゴールのままである。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、外部の音波処理ホーンの使用を伴う音波処理による核酸抽出のためのカートリッジに属し、および上記カートリッジの使用による、一般に、生物学的細胞、軟らかい組織、硬い組織、および生物学的成分からの核酸抽出の方法に属する。細胞または組織の音波処理は、従って、音波処理ホーンおよびサンプルとの間の直接接触なしで達成され、その細胞または組織の溶解は、カートリッジ自体の壁以外に、サンプルと直接接触するビーズまたは任意の固体材料を使用することなく好ましくは達成される。超音波による破砕は、可変性の圧力、好ましくは低周波振動での振動する圧力(oscillating pressure)に補助されて、音波振動が、上記カートリッジの側壁でもあるウェルの壁の音波処理ウインドウを介してサンプルウェルへと伝わるサンプルウェルにおいて起こり、該サンプルウェルにおいてウェルの内容物が撹拌され、生物学的成分の破壊が高められる。音波処理ウインドウは、音波振動によってたわみ可能(deflectable)な材料のラミナ、または一般に任意の薄層または膜で覆われており、サンプルウェルにおいて音波振動を作り出すことは、ホーンが上記ラミナの外表面に接近しているか、または接触している間、ホーンを振動させることにより達成される。下記でさらに説明されるような好ましい実施形態において、細胞または組織の破壊は、可変性の圧力の他に、単純な音波処理に対する1つ以上の増強により促進され得る。これらとしては、パルスに適用される超音波振動の使用、および振動が適用されるにつれてか、またはパルスの間に、サンプルがウェル内を循環するようになる形をしたサンプルウェルを用いることが挙げられる。
【0005】
サンプルウェルは、一連のウェルの1つであり、そこで単離および精製された形態で、高収量で、および迅速な速度で抽出される核酸を取得する結果を伴う一連の機能が実施され、上記カートリッジは、種々のウェル間に流体通路を含み、底部で流体が垂直連結チャネルに入り、上部で出るように配置される垂直連結チャネルを備えることによって逆流を防ぐように構成される。本明細書中で用いられる場合、用語「垂直」は、垂直の構成要素を有する方向を示す。垂直連結チャネルは、それ自体が垂直(すなわち、カートリッジの上部表面に対して直角)であるチャネルが好ましい。従って、1つのウェルからの液体がウェルの底部から垂直チャネルの底部へと、次にそのチャネルをのぼり、最終的には、そのチャネルの上部から受領ウェル(receiving well)の上部へと引き入れられるか、またはそうでなければ流れるようにされる。各ウェルは、代表的に、液面の上に空気または不活性ガスで占められる頭部スペースを含むので、ウェル間での圧力低下の一時的な逆転は、液体がウェルの上部で開いている流体通路に入ることにはならない。サンプルまたは溶解産物が処理または収集される機能ウェル(functional well)の他に上記カートリッジは、本発明の好ましい実施形態において、バッファー貯蔵部として働く1つ以上の追加ウェル、および流体通路を介して、そして種々のウェルへと、種々のウェルから、または種々のウェル間で流体を運搬する目的のために空気圧または部分的な減圧が個々のウェルに適用される1つ以上の圧力/減圧ポートを含む。種々のウェルにつながるポート上の制御される減圧または圧力の適用と共同したこれらのチャネルの使用により、本発明に従うカートリッジは、カートリッジ自体に組み込まれるバルブの必要性を回避する。内部のバルブの排除は、本発明のカートリッジが、そのようなバルブを含むカートリッジよりも低いコストで製造されることを可能にする。
【0006】
上記カートリッジはまた、収量および均一性を最適にする目的のために使用される種々のバッファーおよび洗浄液体のタイプおよび量、ならびに撹拌の程度およびレベルを変動させることにより、使用者が抽出プロトコルを選択すること、および上記プロトコルをサンプルの特定の必要性に適合させることを可能にする。上記カートリッジは、バッファー溶液を個々のウェルに提供し、上記カートリッジの異なる部分間で流体を移動するために使用される圧力/減圧ポートを介して圧力差を課すマニホルド(manifold)と共同して使用される。
【0007】
本発明のこれら、および他の目的、特徴、および利点は、添付される図、およびその後の記載から、より明らかである。用語「核酸含有生物学的成分」は、便宜上、本明細書中で用いられ、研究者または臨床医が抽出しようと努める核酸をカプセル化するか、またはそうでなければ保持する任意の生物学的構造物、そしてそこから核酸が音波処理により放出され得る、任意の生物学的構造物を含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明に従う音波処理カートリッジの透視図である。
【図2】図2は、図1のカートリッジのサンプルウェルに対して代替の形のサンプルウェルの水平断面図である。
【図3】図3は、図1の線3−3に沿って得られる図1のカートリッジの垂直断面図である。
【図4】図4は、図1の線4−4に沿って得られる図1のカートリッジの垂直断面図である。
【図5】図5は、カートリッジ内でのサンプルの音波処理のために配置される音波処理ホーンを備えるラックの上に支持される、本発明に従う一連のカートリッジの透視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の好ましい実施形態におけるカートリッジにおけるウェルは:
サンプルが初めに置かれ、そして核酸保持成分の破壊が起こるサンプル(音波処理)ウェルであって、該ウェルは、必要に応じてメッシュフィルターを含み、ウェルからの、前もって選択される直径より大きい粒子の通過を妨げる(遮断直径は、特定のサンプルまたはシステムの必要性に従って変動し;いくつかの場合、それは20ミクロンであり得、例えば、他の場合10ミクロン、他の場合1ミクロン、および他の場合0.22ミクロンであり得る)、サンプルウェル、
溶解物が、核酸回収の前に、種々の目的のために添加剤およびさらなる懸濁剤などでさらに処理され得る混合ウェル、
他の溶解構成要素(例えば、タンパク質、および組織または細胞壁フラグメント)よりもむしろ選択的に核酸と結合する固体結合材料を保持する結合ウェル、
結合ウェルにおいて抽出される核酸が、研究のために収集および保持され得る種の抽出物収集ウェルか、またはカートリッジから容易に分離され、同じ目的をつとめるバイアル、および
抽出後に残っているサンプルの構成要素が沈積され得る廃棄物収集ウェル
である。
【0010】
上記サンプルウェルの外壁の音波処理ウインドウは、サンプルへの音波処理の到達を提供する。上記サンプルウェルにおいて、溶解バッファーに懸濁されるサンプルは、サンプル組織マトリックス、細胞膜、および他の細胞内物の破裂を引き起こす破壊力に曝され、核酸が液体に放出されることを可能にする。上記に示されるように、破壊は1つ以上の増強により促進され得る。これらの増強の1つは、音波処理のためのパルス超音波の使用である。他の増強は、可変性の圧力での上記サンプルウェル内容物の加圧であり、ウェル内でのサンプル破壊および液体の運動を促進し、また音波処理「ブラインドスポット(blind spot)」(すなわち、音波強度が標的強度よりも低いウェル内の部位)の発生を低減する。なおさらなる増強は、凸面反射壁(すなわち、音波処理ウインドウが属する壁の反対側の壁)を備えるサンプルウェルの使用である。凸面反射壁は、サンプルウェル内の液体の自然な循環を増強し得る。
【0011】
本発明のカートリッジの特定の実施形態において現れるさらなる特徴は、混合段階で音波処理が使用されることを可能にする混合ウェルの外壁における第二の音波処理ウインドウである。混合ウェルにおける音波処理に対する代替は、そのウェルを介した空気または不活性ガスの泡立て(bubbling)である。そのような泡立ては、空気ポートの1つにわずかに正の空気(または不活性ガス)圧をかけることにより生成され得る。空気ポートを介して結合ウェルに向かう増加した圧力は、例えば、混合ウェルおよび結合ウェルを連結するチャネルの口で混合ウェル内に、空気の泡を形成させ得る。他の代替は、細胞溶解物の処理において経験のある者にとって容易に明らかである。1つのそのような追加の代替は、壁における可撓性の膜を介してか、または加圧された空気(または不活性ガス)を供給するか、または減圧するポートの1つを介したウェルの壁への可変性の圧力(例えば、可聴周波数より下の周波数で振動する圧力)の適用である。圧力振動(pressure oscillation)による撹拌は、混合ウェルおよびサンプル(音波処理)ウェルの両方において使用され得、その場合、上記圧力振動は、音波振動が壁を介して伝えられるその壁以外の壁を介して適用される。
【0012】
流体通路は、種々のウェルを結ぶサンプル移動通路を含む。1つのサンプル移動通路は、サンプルウェルから混合ウェルへと繋がり、別のものは、混合ウェルから結合ウェルへと繋がり、さらに別のものは、結合ウェルから種の抽出物収集ウェルへと繋がり、そして、さらに別のものは、結合ウェルから廃棄物収集ウェルへと繋がる。これらの通路を介する流れのタイミング、順序、および調整は、前述のマニホルドを介して使用者によりプログラムされ得るか、または手動で管理され得る。好ましい実施形態におけるカートリッジは、カートリッジの頂部表面にバッファー液体ポートおよびこれらのポートから種々のウェルへの流体通路であって、該種々のウェルにバッファー液体を供給するための流体通路、またはプロトコルに必要とされるバッファー溶液を含むためのカートリッジ内のバッファー液体貯蔵部、またはそのようなポートおよび貯蔵部の両方を同様に備える。空気ポートはまた、好ましい実施形態において含まれ、上記に記載されるような圧力または部分的な減圧を供給する。
【0013】
上記カートリッジは、任意の多様な材料から形成され得、実験室装置の構築物(construction)において一般的に使用されるものが挙げられる。上記カートリッジの本体、すなわち振動または圧力の変動が薄壁を介して伝えられる該薄壁を除いた部分は、例えば、生物学的流体に対して不活性であるポリカーボネートまたは任意の他の樹脂から形成され得る。本体を形成するための都合の良い方法は、注入成形である。薄壁を形成するラミナは、本明細書中で「ウインドウ」と称され、例えば、音波処理ホーンとの接触の際に、破裂することなく、同様にたわみ(deflection)可能なポリエステル、ポリスチレン、または同様の材料から形成され得る。単一のラミナ、または2つ以上のラミナが使用され得る。ウインドウにわたるラミナの厚さは、広く変動し得るが、最高の結果のために、50ミクロン〜200ミクロンの範囲内の厚さ、および好ましくは約100ミクロンの厚さのラミナが好ましい。ウインドウ材料およびウインドウサイズは、ウインドウの自然な振動周波数が、適用される音波振動の周波数よりも実質的に低いように選択される。違いは、好ましくは少なくとも約10kHz、および最も好ましくは少なくとも20kHzである。例として、30kHzの周波数での音波振動は、8kHzの自然な振動周波数を有する材料から作られるウインドウに適用され得る。
【0014】
音波処理は、超音波の使用を含むためにその用語が本明細書中で使用され、音波処理ホーンを介した従来の手段によって達成され得る。例えば、圧電セラミック変換器が使用され得、約25kHz〜約40kHzのおおよその範囲内の周波数が、最も有効であることが極めて多い。出力レベルもまた変動し得る。約10ワットの音波処理出力レベルでサンプルセルにおける組織および細胞の破壊が達成されることが現在企図されている。上記混合ウェルにおいて音波処理が使用されるとき、約5ワットの出力レベルは、有効な結果を提供するのに十分である。音波処理は好ましくは、60%〜80%のデューティサイクル(例えば、800ミリセンカンドで作動して200ミリセカンドで止まる)を用いるパルス法の様式で実施される。作用は、各パルスの開始時の出力をオーバーシュートすることによりさらに増強される。単一のサンプルの破壊のための音波処理の持続時間は、サンプルによって変動する。細胞については、例えば、破壊は10秒〜15秒の音波処理で達成され得るが、組織については、破壊は1分〜2分かかり得る。より短い期間が、上記混合ウェルに用いられ得る。パルスはまた、間に休止時間を伴う複数サイクル(multiple cycle)において適用され得、各組のパルス間でのサンプルの冷却を可能にし得る。どちらのウェルについても、音波処理に加えて、圧力の変動によるウェル内容物の撹拌が達成され得、例えば、他の全ての空気ポートが閉められたままの状態で、ウェルに連結されるポートを介して空気圧を変動させることにより達成され得る。可変性の圧力はまた、音波処理ウインドウ以外に可撓性の膜を介して適用され得、例えば、毎秒1〜5振動の速度で膜を振動させるサーボモーターまたは蠕動ポンプを用いて適用され得る。
【0015】
音波振動を適用して最も有効な結果をもたらすために、上記音波処理ホーンは、好ましくは、音波処理ウインドウのラミナから予め決定される距離で維持される。最適の距離は、規定どおりの試験により容易に決定可能であり、好ましくは、一連のカートリッジが連続して音波処理されるとき、全てのカートリッジについてその距離が維持される。カートリッジがラックの上に取り付けられるとき、例えば、その距離は、ラック上または上記音波処理ホーンを運ぶ可動部分における適切な間隔部材により維持され得る。可動部分は、例えば、音波処理ホーンの先端を音波処理ウインドウから固定されたオフセットまで前進させ、このオフセットは、ラック上の全てのカートリッジについて同じである。
【0016】
本発明は広範囲の構築物および実装が可能であり、他方、その特徴は、具体的な例を調査することにより最も良く理解され得る。1つのそのような例は、図に示され、下に記載される。
【0017】
図1は、本発明に従うカートリッジの本体10を透視図で示し、これは、上部ラミナおよび下部ラミナが取り除かれており、種々のウェル、該ウェルに連結する流体通路、超音波ホーンのためのウインドウ、ならびに液体バッファーのためのアクセスポート、および流体を動かすための加圧された空気および減圧のためのアクセスポートを示す。カートリッジの部分は、基準面に関して本明細書中で記載され、この基準面は、図1に示される向きにおけるカートリッジ本体の頂部表面11に対して平行であり、ウェルは、基準面に沿って分布される。使用において、カートリッジは、図1に示されるように基準面が水平となるように方向を定められ、ウェルの頂部および底部を、垂直チャネルを、および該垂直チャネルの頂部および底部を指す本明細書中での記載は、基準面の水平の向きに関して全て記される。
【0018】
示される場合、ラミナは、ウェルの頂部および底部、音波処理ホーンの振動をウェルの内部に伝えるための音波処理ホーンが接触するウインドウ、およびいくつかの流体通路を閉じる。上記ウェルは、サンプルウェル12、混合ウェル13、結合ウェル14、廃棄物収集ウェル15、および種の抽出物(すなわち、核酸)収集ウェル16を含む。種の抽出物収集ウェル16は、マイクロチューブを受け取るためのくぼみとして示され、ここで抽出物は、分析のために収集され、そして取り除かれ得る。音波処理ホーンのためのウインドウ17、18は、カートリッジ本体の前端に位置する。カートリッジが使用されているときの両方のウインドウを覆うラミナは、可撓性であり、音波振動の伝達を可能にする。1つのウインドウ17は、サンプルウェル12の内部と連絡し、他方、もう一方のウインドウ18は、混合ウェル13の内部と連絡する。
【0019】
図1のカートリッジのサンプルウェル12は、音波処理ウインドウ17の反対側に凹面の背面壁を有する断面図を有し、他方、代替の断面図のサンプルウェルが、図2に示される。このウェルの背面壁19は、凹面よりも凸面であり、その凸面の輪郭によって、この壁は、ウェルを介して音波振動がより有効に分布されるようにする。凸面の背面壁は、振動する膜によって誘導される波に対する凸面の反射鏡として働く。この特定の実施形態において、波は、2つの主要な渦に割れ、組織サンプルの音波振動に対する曝露量を分布させる。他の形の背面壁を用いて、異なる数および分布の渦を生成させて、異なるサンプルに対して、または異なるサイズのサンプルウェルに対して最適なパフォーマンスを達成し得る。
【0020】
図1に戻ると、追加ウェル21、22は、洗浄バッファーのための供給貯蔵部として使用される。各ウェル間の種々の流体の移動を提供する流体通路は、カートリッジ本体11の全ての高さに伸びる垂直チャネル(この図では見えない)、および垂直チャネルをウェルと繋げるための各垂直チャネルの頂部および底部のそれぞれにおける短い水平の上部の溝および下部の溝を含む。上部連結溝23、24、25、26、27、28は、図1において見える。それぞれの場合、流体は、ウェルの底部から下部連結溝へと引き入れられ、次に垂直チャネルを介して上方へと、上部連結溝を介して横切り、そして続く受領ウェルへと引き入れられる。動力は、代表的に、追加の連結通路によって、受領ウェルまたは受領ウェルの下流のウェルに適用される減圧である。あるいは、動力は受領ウェルの圧力と比較して、液体を含むウェル(投入ウェルまたは供給源ウェル)において正の圧力を適用することによって生成され得、それは代表的に大気圧である。垂直チャネルおよび水平の連結溝のこの配置で、流体は、流体通路を介して逆流しないように、およびウェルの順序において上流にあるウェルを汚染しないようにされる。圧力および減圧のアクセスポートは、カートリッジ本体11の頂部における追加の溝31、32、33、34、35であり、個々のウェルを減圧にするか、もしくは個々のウェルに圧力をかけるか、またはカートリッジの外部から流体を供給するためのものである。これらのポートおよび溝はまた、追加の機能、特に高圧の間欠性適用によって、ウェル内容物の撹拌を助け得る。サンプルウェルに繋がる溝35は、例えば、ウェルの内容物に対して変動する圧力パルスを適用して音波処理を補うために使用され得、それにより特にサンプルが組織からなるときにサンプルからの核酸の放出における助けとなる。
【0021】
代表的なプロトコルにおいて、液体サンプル中で核酸含有生物学的成分が懸濁されるその液体サンプルは、サンプルウェル12に置かれ、音波処理ホーンは、サンプルウェルの音波処理ウインドウ17に接触させられる。音波処理は、十分な強度および持続時間で実施されて、サンプル中の生物学的成分を破壊し、次に、カートリッジの頂部でマニホルド(示さない)に結びつけられる減圧アクセス溝34を介して混合ウェル13に対する減圧が適用される。減圧は、破壊される成分(すなわち、サンプルウェルにおいてフィルターを通過する流体)からの濾過液が、下部連結溝(見えない)を含む流体通路を通るようにし、この下部連結溝は、垂直チャネル41に繋がり、次に上部連結溝24に繋がって混合ウェル13に入る。混合ウェル13において、マニホルドからのエタノールが、上部ラミナにおける開口部を介してサンプル濾過液に加えられる。音波処理ホーンが次に、混合ウェルの音波処理ウインドウ18に置かれ、短時間の音波処理が実施されて、エタノールを濾過液中の溶解物と混合し、溶解物が2つの層のままであることを防ぐ。上に言及されるように、この短時間の音波処理は、混合ウェルを介した泡立つガスによって交換され得る。どちらの場合でも、エタノールと溶解物の混合物は、次に、廃棄物ウェルにおける減圧アクセス溝33を用いた廃棄物ウェル15を介して引かれる減圧を同様に適用して結合ウェル14に引き入れられ、該混合物が流体通路25を介して結合ウェル14に入る。結合ウェル14は、DNA、RNA、またはその両方を溶解物から捕捉する結合膜を含み、流体の残りが、ウェル間の流体通路23を介して廃棄物ウェル1に入ることを可能にする。
【0022】
核酸を結合膜から放出する前に、該膜を、洗浄し、保持される核酸を精製する。この洗浄は、洗浄バッファーによって実施され得、低ストリンジェンシーバッファーおよび高ストリンジェンシーバッファーの両方が、この目的のためにカートリッジの別個のウェル21、22に貯蔵され、これらのウェルのそれぞれは、別個の流体通路を介して結合ウェル14と連絡する。結合ウェルへの上記2つのバッファーの個々の移動は、個々の圧力ポート31、32によって達成される。一旦、洗浄が完了すると、結合膜からの核酸の放出が、核酸を結合膜から脱離(溶出)するのに適している適切な溶出バッファーの使用によって達成される。溶出バッファー中で溶解される核酸を伴う溶出バッファーは、次に収集ウェル16へと引き入れられ、ここで熱電素子は、溶液温度を0℃〜10に維持する。カートリッジの代替の構築物は、結合ウェルと収集バイアルとの間に補助ウェルを含むものであり、該補助ウェルの底部の薄いラミナ、および該ラミナの外表面と接触する熱電素子を有する。有効な冷却は、比較的小さい補助ウェル(例えば、直径がわずか数mmであるもの)、およびそれに応じて、小さくて安いサーモ素子(thermo element)を用いて達成され得る。
【0023】
上に言及されるように、ウェル間の流体通路は、上流のウェルにおいて流体を汚染し得る種々の流体の逆流を防ぐように設計される配置で垂直チャネルにより結びつけられる水平の溝からなり、この溝は、カートリッジ本体の頂部および底部においてラミナで覆われるとき、閉じたチャネルになる。通路は、それらが連結するように設計されるウェル、およびそれらが特定の流れの方向を許可されるか、または妨げられるのを意図される特定の流れの方向に応じて個々別々の方向に向けられる。1つのそのような通路が図3に示すが、図3は、図1の線3−3に沿って得られるカートリッジ本体の前側の断面図である。この断面図は、サンプルウェル12、および廃棄物ウェル15、ならびに該サンプルウェル12の前端における音波処理ウインドウ17を示す。図1の線4−4に沿って得られる平行の断面図が図4に示され、混合ウェル13、および結合ウェル14を示す。図3および図4はまた、図1に示されないラミナを示す。これらのラミナは、上部ラミナ51、下部ラミナ52、ならびに前端ラミナ53、サンプルウェルにおける音波処理ウインドウ17および混合ウェルにおける音波処理ウインドウ18の両方を覆う該前端ラミナ53を含むが、いずれのウインドウを介して音波振動を伝えるのに十分薄い(例えば、100ミクロン〜200ミクロン)。図2に示される流体通路は、サンプルウェル12(図2)を混合ウェル13(図3)に連結するものであり、流れの方向において、サンプルウェル12の床の高さでの下部水平連結チャネル54、垂直チャネル41(図1にも示される)、および図1に示される混合ウェルに繋がる水平の溝24から形成される上部水平連結チャネルを含む。この場合における上部水平連結チャネルは、下部水平連結チャネル54に対して右の角にある。混合ウェルからの流体は、混合ウェルの頂部における上部チャネル24を介して垂直チャネル24に入るのみであるので、従って、混合ウェルからサンプルウェルへの逆流が防がれる。同じ配置は、全てのウェルからの逆流を防ぐ。
【0024】
図4はまた、結合ウェル14の断面が、結合膜56を支える先細の中間セクション55を含むことを示す。結合ウェル14を介した流れの方向は下向きであり、結合膜56を介し、結合ウェルの床の高さでの水平チャネル57から始まる流れの通路を通ってウェルを出る。
【0025】
上部ラミナ51は、ウェルおよび流体通路の頂部をふさぐ機能以外にも機能がある。この機能は、上で議論される補足の混合機能であって、下にあるウェル(複数可)の内容物を撹拌するためのラミナのたわみによる補足の混合機能である。上記たわみは、可変性の力を適用する任意の従来の手段により誘導され得る。1つのそのような手段は、ラミナと直接接触して置かれる蠕動ポンプである。
【0026】
数個のカートリッジを収容する支持ラック61は、図5に示される。カートリッジ62は、直線配置でラックの上に配置され、上記ラックは、トラック63を含み、それに沿って音波処理ホーン64が運搬され得、該ホーンが連続してカートリッジのそれぞれと係合するようになる。示されるラックは、それぞれに7個のカートリッジのある2列を収容し、各列に1個という、2個の音波処理ホーンを支える。カートリッジ、カラム、またはその両方の列の他の配置、および他のラックのサイズも同様に使用され得る。ウェルを連続して音波処理するために、音波処理ホーン(複数可)は、モーターを備えるステージへ配置され得、該ステージは1個のカートリッジから次のカートリッジへとホーン(複数可)を運び、該ホーンを音波処理ウインドウラミナから所望する距離まで前進させることができる。
【0027】
図面に示されるカートリッジのバリエーションは、当業者に容易に明らかである。特定のウェルは、排除されても、組み合わせられてもよい。追加のウェルが含まれ得る(例えば、示されるものと同じ形状の対応するチャネルを介して結合ウェルに結びつけられる、RNアーゼまたはDNアーゼを含む酵素ウェル)。別のバリエーションは、上に記載される、より高い冷却効力のための補助の収集ウェルの包含である。熱電素子は、ウェルの内容物を冷却するために、種々の場所において(特にカートリッジの底部表面に沿って)含まれ得る(特に種の抽出ウェルおよび酵素ウェルを含むカートリッジにおける酵素ウェル)。プロトコルもまた変動し得る。圧力(減圧を含む)の急な変化、または連続的な変化は、特定のポートに適用され得、液体が相互に連結しているチャネルネットワークを介して1個のウェルから別のウェルへと流れるようにする。圧力における連続的な変化は、そうでなければ液体が意図しない方向に流れることをもたらし得る一時的な作用を最小限にすることにおいて、特に有用である。上記プロトコルは、バッチ方式か、または連続方式のどちらかで作動し得る。液体のバッチ式の移動は、液体を1つのウェルからより小さいウェルへと移動させる場合に特に有用である。過剰な液体は次に、廃棄物収集ウェルを減圧にすることにより廃棄物収集ウェルへと向けることができる。
【0028】
ここに添付される特許請求の範囲において、用語「a」、または「an」は、「1つ以上」を意味することが意図される。用語「comprise」およびそのバリエーション(例えば、「comprises」および「comprising」)は、工程または要素の列挙に先行するとき、さらなる工程または要素が必要に応じて追加され、その追加が排除されないことを意味することを意図する。本明細書中で引用された全ての特許、特許出願、および他の公開された参考資料は、それらの全体が本明細書中で参考として援用される。本明細書中で引用される任意の参考資料と本明細書の明白な教示との間のいかなる不一致も、本明細書における教示の利益となるように解決されることが意図される。これには、語または句の技術理解の定義と本明細書において明白に提供される同じ語または句の定義との間の任意の不一致も含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸含有生物学的成分から核酸を抽出するためのカートリッジであって、該カートリッジは、基準面および該基準面に対して平行な頂部表面を有するカートリッジ本体を含み、該カートリッジ本体は、該基準面に沿って分布される複数のウェルを含み、該ウェルは、該基準面が水平のとき、各サンプル移動通路が、1つのウェルの底部から垂直連結チャネルを介して、続くウェルの頂部へと伸びるチャネルを含むように方向を定められるサンプル移動通路のネットワークによって連結され、そして該複数のウェルは、サンプルウェルおよび該カートリッジ本体の側壁を介して該サンプルウェルへと開口している音波処理ウインドウを含み、該音波処理ウインドウは、音波処理ホーンにより生成される音波振動によってたわみ可能な材料のラミナによって覆われ、該サンプルウェルは、音波処理の間に、可変性の圧力を該サンプルウェルへと適用して、ウェル内容物を撹拌する手段をさらに含む、カートリッジ。
【請求項2】
前記音波処理ウインドウを覆う前記ラミナが、実質的に音波より下の自然な振動周波数を有する、請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項3】
前記複数のウェルが、核酸を結合させる固体結合材料を結合ウェル中に有する該結合ウェルをさらに含む、請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項4】
前記複数のウェルが、混合ウェル、および該混合ウェル中で液体を混合する手段をさらに含み、そして前記サンプル移動通路のネットワークが前記サンプルウェルから該混合ウェルへと繋がる第一のサンプル移動通路、および該混合ウェルから前記結合ウェルへと繋がる第二のサンプル移動通路を含む、請求項3に記載のカートリッジ。
【請求項5】
前記複数のウェルが、廃棄物収集ウェルおよび種の抽出収集ウェルをさらに含み、そして流体サンプル通路の前記ネットワークが前記結合ウェルから該廃棄物収集ウェルへと繋がる第三のサンプル移動通路、および該結合ウェルから該種の抽出収集ウェルへと繋がる第四のサンプル移動通路をさらに含む、請求項4に記載のカートリッジ。
【請求項6】
前記カートリッジは、前記頂部表面において複数のバッファー液体ポートをさらに含み、各バッファー液体ポートがバッファー通路を介してウェルと連絡し、該バッファー通路が、該バッファー液体ポートから伸びる垂直チャネル、および該垂直チャネルから該ウェルの底部における開口部へと伸びる水平チャネルを含む、請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項7】
前記カートリッジは、複数のバッファー液体貯蔵部をさらに含み、バッファー貯蔵部通路によりウェルに向けられる各バッファー液体貯蔵部は、前記基準面が水平のとき、各バッファー貯蔵部通路が該バッファー液体貯蔵部から伸びる垂直チャネル、および該垂直チャネルから前記ウェルの底部における開口部へと伸びる水平チャネルを含むように方向を定められる、請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項8】
前記カートリッジは、前記頂部表面に空気ポートをさらに含み、該空気ポートは、連結通路を介して前記ウェルへと結びつけられ、ウェル間に圧力差を課し、前記サンプル移動通路を介して流体がウェル間を流れるようにするか、または高められた圧力の間欠性パルスを適用してウェルの内容物を撹拌する、請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項9】
前記サンプルウェルが、前記音波処理ウインドウの反対側に振動反射壁を有し、該振動反射壁は、該音波処理ウインドウを介して導入される音波振動に応答して流体運動の複数の渦を誘導するように形作られる、請求項1に記載のカートリッジ。
【請求項10】
請求項1に記載のカートリッジは、前記サンプルウェルにフィルターをさらに含み、前もって選択される直径より大きい粒子の通過を妨げる、カートリッジ。
【請求項11】
核酸含有生物学的成分から核酸を抽出するための方法であって、該方法は、以下:
(a)該核酸含有生物学的成分の懸濁物を音波処理カートリッジのサンプルウェルに置く工程であって、該音波処理カートリッジは、前記基準面に対して平行な頂部表面および底部表面を持つ該基準面を有するカートリッジ本体を含み、該サンプルウェルは該基準面に沿って分布する、該カートリッジ本体における複数のウェルのうちの1つであり、該ウェルが、核酸を結合させる固体結合材料を結合ウェル中に有する結合ウェル、廃棄物収集ウェル、および種の抽出収集ウェルをさらに含み、該複数のウェルは、該基準面が水平のとき、各サンプル移動通路が、1つのウェルの底部から垂直連結チャネルを介して、続くウェルの頂部へと伸びるチャネルを含むように方向を定められるサンプル移動通路のネットワークによって連結され、該カートリッジ本体は、該カートリッジ本体の側壁を介して該サンプルウェルへと開口している音波処理ウインドウをさらに含み、該音波処理ウインドウは、音波処理ホーンによってたわみ可能な材料のラミナによって覆われる工程;
(b)該音波処理ウインドウを覆う該ラミナを介して音波処理エネルギーを該懸濁物へと適用して該懸濁物を溶解物へと変える工程、および可変性の圧力を低周波振動で該サンプルウェルに適用して該懸濁物を撹拌する工程;
(c)該溶解物を、該細胞溶解物中の核酸が該固体結合材料に結合させる条件下で第一のサンプル移動通路を介して該結合ウェルへと運搬する工程;
(d)そのように結合した該核酸を、懸濁されたヌクレアーゼを溶出バッファー中に有する該溶出バッファーと接触させ、該核酸を該溶出バッファーへと放出させる工程;および
(e)該放出される核酸を第三のサンプル移動通路を介して該種の抽出収集ウェルへと運搬する工程、を含む
方法。
【請求項12】
工程(b)が、前記ラミナを音波処理ホーンに接触させる工程、およびそのように可聴周波数で接触させる間に該音波処理ホーンを振動させる工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記複数のウェルが、混合ウェルおよび工程(c)をさらに含み、該工程(c)が、前記細胞溶解物を、まず、第四のサンプル移動チャネルを介して該混合ウェルへと運搬する工程、および該混合ウェルにおいて該細胞溶解物を撹拌する工程、次に該細胞溶解物を前記第一(fits)のサンプル移動チャネルを介しての前記結合ウェルへと運搬する工程を含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記サンプル移動通路を介して圧力差を適用することにより前記運搬工程が実施される、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
前記圧力差が、加圧された空気または不活性ガスの適用により生成される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記核酸含有生物学的成分が、生物学的細胞である、請求項11に記載の方法。
【請求項17】
前記核酸含有生物学的成分が、硬い生物学的組織、または軟らかい生物学的組織である、請求項11に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2012−527905(P2012−527905A)
【公表日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−513286(P2012−513286)
【出願日】平成22年5月28日(2010.5.28)
【国際出願番号】PCT/US2010/036546
【国際公開番号】WO2010/138800
【国際公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【出願人】(595154074)バイオ−ラド ラボラトリーズ インコーポレイテッド (12)
【Fターム(参考)】