説明

核酸検出カセット、核酸検出装置及び核酸検出システム

【課題】核酸増幅およびその他の必要な処理と目標核酸の検出までを一貫して自動的に処理する。
【解決手段】核酸検出カセット100は、容積が可変で試薬を保持可能でかつ核酸検出カセット100外部と連通可能な開状態と閉鎖可能な閉状態を選択可能な出入口孔を有する保持流路111と、この保持流路111に接続され保持流路111と連通可能な開状態と閉鎖可能な閉状態を選択可能な連結流路116,117と、出入口孔を閉状態で維持可能な出入パッド404,405と、連結流路116,117を閉状態で維持可能な連結パッド406,407とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は核酸を含む試料の投入から、核酸増幅およびその他の必要な処理と目標核酸の検出までを一貫して自動的に処理するのに用いられる閉鎖型の核酸検出カセット、核酸検出装置およびそれを用いた核酸検出システムに関する。
【背景技術】
【0002】
核酸増幅技術の登場と核酸検出技術の向上により、特定DNAストランドの検出の実施が増加している。しかしながら、核酸増幅においては増幅した核酸による汚染の可能性、あるいは温度条件、注液、混合等の複雑な操作が必要なため、これらの技術の実施は試験研究用に限られてきた。
【0003】
従来、こうした問題点を解決し、病院、臨床試験所、検疫所等で核酸検出を実施できるようにするため、核酸を含む試料の処理から目標核酸の検出までを一貫して自動的に処理する、使い捨て可能な閉鎖型検出容器およびそれを用いた検出装置が開示されてきた。
【0004】
例えば、特許2536945号公報(特許文献1)には必要なすべての試薬を収納する核酸の増幅および検出用のキュベット(cuvette)が、特開平8-62225号公報(特許文献2)には遠心力を利用して送液する試験ユニットが、特表平9-511407号公報(特許文献3)には微細加工技術を使用して固体基板に形成された微細流路および反応室が開示されている。
【特許文献1】特許2536945号公報
【特許文献2】特開平8-62225号公報
【特許文献3】特表平9-511407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
(1)気泡の悪影響
核酸増幅から検査までの一連の過程を一貫して実施可能な流路構造において、液体内に気泡が取り込まれると以下のような悪影響が発生する。
【0006】
1)PCRおよび加熱過程において、気泡内に水分が蒸発することにより試薬濃度の増加をもたらし、反応の阻害要因となる。
【0007】
2)気泡、気体部分があると気体の熱膨張率が大きいので、容器内圧力の上昇につながり、液漏れ、汚染の原因となる。
【0008】
3)気泡、気体部分があると熱伝導率が小さいので熱伝達を阻害する。
4)加圧・吸引による送液時に、気泡があると気泡の体積が変化するので送液困難となる。
【0009】
(2)特許文献1の問題点(特許2536945号公報)
特許2536945号公報には、パウチ型のキュベットを利用した核酸増幅から検査までの一連の過程を一貫して実施可能な流路構造が示されている。しかしながらパウチ型のキュベットでは、形状が不安定で、注液時に気泡の混入が避けられない。また送液には、キュベット内に複数のピストンを必要とする実施例が示されているが、これでは、使い捨てに対して望ましくない。
【0010】
(3)特許文献2の問題点(特開平8-62225号公報)
特開平8-62225号公報には、遠心力を利用した核酸増幅から検査までの一連の過程を一貫して実施可能な流路構造が示されている。遠心力を利用すれば、気相と液相とを分離でき気泡を除去できるが、装置の複雑化、大型化からまぬがれない。さらに、遠心力と逆方向への送液ができない。したがって液体の往復動ができず、試薬混合、検出での洗浄が困難になる。
【0011】
(4)特許文献3の問題点(特表平9-511407号公報)
特表平9-511407号公報には、固定基板上の微細流路利用した、核酸増幅から検査までの一連の過程を一貫して実施可能な流路構造が示されている。しかしながら、初期的に気体で充填されている流路内に、気泡を巻き込まずに流路内に試薬の注入する方法については開示されていない。また送液に関しては、全流路の端部に位置する入出力ポートからの加圧・吸引による送液方法が開示されているが、気泡があると気体の体積が変動する可能性があるので、実施に際しては制御が困難である。さらに、細く長い流路の端部での、圧力による液体の移動制御は流体の移動時の抵抗が大きくなり制御困難である。
【0012】
(5)閉鎖系での試薬混合
オペレータによる反応の実施においては、試薬の混合は公知の加振器等で行なわれてきたが、このとき試薬を保持するチューブには液層と気層が存在しているので、振動によって気泡が液体中に多数取り込まれる。このため、混合の後には遠心分離機を用いて、チューブ内を液層と気層の2つに分離する必要があった。ところが、これまでの技術では、特開平8-62225号公報に示されるような、遠心力利用の自動検出装置以外では、使い捨て可能な閉鎖型検出容器において、気泡を巻き込まずに試薬を混合する有効な方法が開示されていない。
【0013】
(6)流体の移動制御が容易な流路
特開平8-62225号公報に示されるような、遠心力利用の自動検出装置以外では、送液、混合のため、長く曲がりくねった複雑な流路構造のみが開示され、流体の移動制御が容易な流路を構成する技術は開示されていない。
【0014】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、核酸増幅およびその他の必要な処理と目標核酸の検出までを一貫して自動的に処理するのに用いられる閉鎖型の核酸検出カセット、核酸検出装置およびそれを用いた核酸検出システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明のある観点によれば、試料に含まれる核酸を検出するために固定部材と可撓性部材との組合せにより流路が構成された核酸検出カセットであって、前記流路は、容積が可変で試薬を保持可能でかつ前記核酸検出カセット外部と連通可能な開状態と閉鎖可能な閉状態を選択可能な出入口孔を有する保持流路と、この保持流路に接続され保持流路と連通可能な開状態と閉鎖可能な閉状態を選択可能な連結流路とを備え、前記核酸検出カセットは、前記出入口孔を閉状態で維持可能な出入口開閉手段と、前記連結流路を閉状態で維持可能な連結流路開閉手段と、を備えることを特徴とする核酸検出カセットが提供される。
【0016】
また、本発明の別の観点によれば、上記核酸検出カセットと、この核酸検出カセットの保持流路内に充填された試薬と、前記核酸検出カセットの検出流路内に固定化され、検出対象の核酸に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブとを具備してなることを特徴とする核酸検出装置が提供される。
【0017】
本発明のさらに別の観点によれば、記載の核酸検出カセットと、この核酸検出カセットを保持するカセット保持手段と、このカセット保持手段により保持された前記核酸検出カセット内の前記保持流路の第1の領域に対して前記可撓性部材を変形させて前記保持流路を変形させる第1の駆動機構と、前記カセット保持手段により保持された前記核酸検出カセット内の前記保持流路の第2の領域に対して前記可撓性部材を変形させて前記保持流路を変形させる第2の駆動機構と、前記連結流路開閉手段を駆動する連結流路開閉駆動機構と、前記保持流路及びまたは前記検出流路の温度を制御する温度制御手段と、を具備してなることを特徴とする核酸検出システムが提供される。
【0018】
また、装置あるいはシステムに係る本発明は、その装置あるいはシステムにより実現される方法の発明としても成立する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、液体内に気泡が取り込まれることがなく、核酸増幅およびその他の必要な処理と目標核酸の検出までを一貫して自動的に処理することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。
【0021】
(第1実施形態)
(1)カセット基本構造
図1は本発明の第1実施形態に係る核酸検出カセット100の概観斜視図である。この核酸検出カセット100は、大別して固定基板1と、可撓性シート2と、カバープレート3からなる流路閉鎖型のカセットである。固定基板1は固定部材により構成され、連続している流路を形成する。可撓性シート2は、固定基板1により形成された流路の上面を覆うもので、可撓性部材により構成されている。カバープレート3は、固定基板1との間に可撓性シート2を挟んで支持するとともに、可撓性シート2を局部的に押圧し変形させる押圧ブロック4を備えている。
【0022】
固定基板1は、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、POM、PMMA等の高分子材料、シリコン、ガラスやセラミックスなど、あるいはステンレス、アルミなどの金属により構成される。可撓性シート2は、シリコーンゴム、ポリプロピレンゴム、ウレタンゴム等の高分子エラストマーなどにより構成される。カバープレート3は、ポリプロピレン、ポリカーボネイト、POM、PMMA等の高分子材料あるいは、シリコン、ステンレス、アルミ等の金属などにより構成される。固定基板1、可撓性シート2及びカバープレート3が複数の部品から構成される場合には、それぞれ別の材料を選択してもよい。
【0023】
また、核酸検出カセット100はその機能によりブロック化されている。図1の例では、上流側、すなわち図1の左側から順に、端部ブロック102と、2つの中間部ブロック101と、検出部ブロック106と、中間部ブロック101と、端部ブロック103からなる。検出部ブロック106は特に核酸検出用のブロックであり、それ以外の端部ブロック102、103及び中間部ブロック101は、核酸検出以外の各種反応用のブロックである。これら各ブロックはその表面に設けられた流路が連結されるように互いに接合されている。各ブロックの接合は、不図示の締結部材や締結部によりなされる。あるいは、各ブロックを統合して一体的に形成される。
【0024】
図2は図1に示す核酸検出カセット100の各構成を分離して示した斜視図である。
【0025】
固定基板1の上面には溝が設けられている。この溝を覆うように、固定基板1の上面に可撓性シート2の下面が接着あるいは溶着されることにより、溝が閉鎖された流路として機能する。すなわち、底面及び側面は固定基板1により構成され、上面は可撓性シート2で覆われた流路が形成される。端部ブロック102、中間部ブロック101上に設けられた溝は保持流路111として、検出部ブロック106上に設けられた溝は退避流路131として機能する。各保持流路111及び退避流路131の間は互いに流路により連結される。可撓性シート2の上面には、カバープレート3の下面が接着あるいは溶着される。これにより、カバープレート3の上面に設けられた押圧ブロック4の押圧により、対応する押圧部分の可撓性シート2を撓ませ流路を閉じることができる。
【0026】
検出部ブロック106の下面には、検出用の流路が設けられた検出流路シール520を挟んで核酸検出チップ500が固定化される。また、検出部ブロック106には、その表面から裏面まで貫通して形成された接点部開口151が2つ設けられている。この接点部開口151に電気コネクタを挿入して露出した核酸検出チップ500の表面に接触させることにより、チップ表面から電気信号を取り出すことができる。
【0027】
(2)流路及び押圧機構
次に、図3〜図28を用いて、押圧ブロック4により可撓性シート2を変形させ、流路の所要部分の容積を可変させるための構造及び動作について説明する。
【0028】
(2)−1 中間部ブロック101
図3は中間部ブロック101を他のブロックから切断して部分的に示した斜視図である。図3に示すように、ほぼ長方形の保持流路111の流路開始端部と流路終了端部には、出入流路114及び115がそれぞれ接続されている。これら出入流路114及び115は、試薬および核酸を含む試料を核酸検出カセット100内に注入し、あるいは核酸検出カセット100外に排出するのに用いられる。また、流路開始端部にはさらに連結流路116が、流路終了端部にはさらに連結流路117が接続されている。これら連結流路116及び117は、中間部ブロック101の周縁まで延びており、隣接して結合される他のブロックに設けられた流路と連結可能に構成されている。これら連結流路116、保持流路111、連結流路117の順に連結した流路が構成される。すなわち、これら連結流路116及び117の一方を通じて、他のブロックからの液体や気体(以下、単に流体と呼ぶ)を受け入れて保持流路111に送り込み、かつ連結流路116及び117の他方を通じて、他のブロックに保持流路111内の流体を送り出すことができる。
【0029】
(2)−2 端部ブロック102、103及び検出部ブロック106
図4は中間部ブロック101、端部ブロック102、103及び検出部ブロック106の詳細を示す斜視図である。
【0030】
端部ブロック102は、ほぼ長方形の保持流路111を備える点、保持流路111の流路開始端部及び流路終了端部に出入流路114及び115が接続される点、流路終了端部にはさらに連結流路117が接続されている点で中間部ブロック101と共通する。端部ブロック102の場合、中間部ブロック101と異なり、流路開始端部には連結流路が設けられていない。
【0031】
検出部ブロック106には、保持流路111の代わりにほぼ長方形の退避流路131が設けられている。退避流路131の構成は保持流路111と同じでよい。退避流路131の流路開始端部及び流路終了端部にはそれぞれ連結流路116及び117が接続されている。出入流路は設けられていない。また、連結流路116にはさらに流路118が接続され、連結流路117にはさらに流路119が接続されている。これら流路118及び119は、さらに検出部ブロック106の裏面まで貫通形成された後述の左導入流路126及び右導入流路127に接続されている。この不図示の左導入流路126及び右導入流路127を介して、検出部ブロック106の裏面に設けられる検出流路と流路118及び119が接続され、流体が退避流路131と検出流路を行き来することができるようになっている。
【0032】
また、端部ブロック103は、ほぼ長方形の保持流路111を備える点、保持流路111の流路開始端部及び流路終了端部に出入流路114及び115が接続される点、流路開始端部にはさらに連結流路116が接続されている点で中間部ブロック101と共通する。端部ブロック103の場合、中間部ブロック101と異なり、流路終了端部には連結流路が設けられていない。
【0033】
(2)−3 流路主要寸法形状例
上記図3及び図4に示される各構成の寸法例は以下の通りである。
【0034】
保持流路111及び退避流路131の寸法は、深さ約0.5mm、隣接流路に向かう方向の長さ、すなわち流路開始端部と流路終了端部との間の長さ約10mm、隣接流路に向かう方向とは垂直な方向の長さ、すなわち流路幅約10mm、で、標準保持容積約40μlである。押圧ブロック4が外側に開く場合には、可撓性シート2は外側に膨張することができ、例えば標準保持容積の約2〜3倍の保持容積を維持することができる。なお、退避流路131の容積は、核酸検出動作開始前は縮小された状態で維持され、検出動作開始時には拡大可能であり、その拡大時と縮小時の流路容積の差は検出流路内の充填物の体積以上に設定される。
【0035】
出入流路114、115の寸法は、深さ約0.25mm、保持流路に向かう方向の長さ約2〜3mm、保持流路に向かう方向とは垂直な方向の長さ、すなわち流路幅約2mmで、流路容積がほぼゼロの全閉状態が設定可能である。
【0036】
連結流路116、117の寸法は、深さ約0.25mm、隣接流路に向かう方向の長さ約2〜6mm、保持流路に向かう方向とは垂直な方向の長さ、すなわち流路幅約2mmで、流路容積がほぼゼロの全閉状態が設定可能である。
【0037】
また、可撓性シート2が撓む際に無理な内部応力等が発生せずに、かつ流路底面に対して確実に密着して流路容積がほぼゼロになるように設定可能なように、流路断面の底面から側面にかけていずれも滑らかな曲線で構成されている。
【0038】
可撓性シート2の厚さは0.2〜0.5mmで、ゴム硬度JIS−A20°〜30°、アスカーC20°〜40°の比較的硬度の高いものと、硬度の低い柔らかいもののいずれも使用可能である。
【0039】
(2)−4 押圧パッド
図3にはさらに、可撓性シート2と押圧部材すなわち押圧ブロック4が固定基板1へ接着される前の分離した状態で示されている。なお、説明の便宜のため、図3では押圧ブロック4の一部としてパッドのみを示している。可撓性シート2及び押圧ブロック4は、他のブロック上に設けられるものから切断して部分的に示してある。中間部ブロック101には、保持流路111、出入流路114及び115、連結流路116及び117が設けられている。可撓性シート2はこれら各流路開口面を覆い閉鎖流路を形成する。また、この可撓性シート2上には複数のパッドが配置される。
【0040】
保持流路111の上部で可撓性シート2上には、中央パッド401、左翼パッド402及び右翼パッド403が配置される。左翼パッド402及び右翼パッド403はそれぞれ保持流路111の流路開始端部と流路終了端部の上部とその近傍に位置する。中央パッド401は、流路幅が広がった部分でかつ左翼パッド402及び右翼パッド403に接する部分に位置する。これらパッド401,402及び403により保持流路111の上部がほぼ覆われる。本実施形態では、左翼パッド402及び右翼パッド403はほぼ同面積で、中央パッド401は左翼パッド402及び右翼パッド403の面積をあわせた程度に設定されている。
【0041】
出入流路114及び115の上部には、それぞれ左出入パッド404及び右出入パッド405が配置されている。
【0042】
連結流路116および117の上部には、それぞれ左連結パッド406及び右連結パッド407が配置されている。
【0043】
これら各パッドは、可撓性シート2表面側から固定基板1側に向けてほぼ垂直に押圧されることにより、対応する固定基板1の溝に可撓性シート2が密着して容積がほぼゼロになるような形状をなす。
【0044】
(2)−5 流路断面メカニズム
(2)−5−1 A−A断面
図5は図3の中間部ブロック101をA−A部分で切断した要部断面図であり、出入口部の構成を詳細に示すものである。図5(a)は開状態、図5(b)は閉状態を示す図である。出入流路114及び115の底面の一部には、開口部121及び122が連結されている。この開口部121及び122は固定基板1の裏面まで貫通して形成されており、試薬などを外部から注入することができる。
【0045】
図5(a)に示すように、左出入パッド404及び右出入パッド405が可撓性シート2に対して押し込まれていない状態では、出入流路114及び115と、開口部121及び122とにより、核酸検出カセット100の外部と流路内部で試薬などの流体の移動が可能である。これに対して、図5(b)に示すように、左出入パッド404及び右出入パッド405が外部駆動力により可撓性シート2に対して同図矢印に示す方向に押し込まれている状態では、可撓性シート2が変形し、出入流路114及び115の流れを閉鎖し、核酸検出カセット100の外部と流路内部が隔絶される。
【0046】
(2)−5−2 B−B断面
図6は図3の中間部ブロック101をB−B部分で切断した要部断面図であり、連結流路112及び113近傍の構造を詳細に示すものである。図6(a)は開状態、図6(b)は半開半閉状態、図6(c)は閉状態を示す図である。
【0047】
図6(a)に示すように、左翼パッド402および右翼パッド403が可撓性シート2に対して押し込まれていない状態では、保持流路111底面と可撓性シート2とで形成される空間で流体の保持が可能である。図6(b)に示すように、左翼パッド402が不図示の外部駆動力により押し込まれ右翼パッド403が押し込まれていない状態では、可撓性シート2が変形し、保持流路111の左側部分の流路開始端部近傍を閉鎖することが可能である。このとき保持流路111底面と可撓性シート2とで形成される流路容積は図6(a)の場合のおよそ1/2になる。また、右翼パッド403のみが押し込まれている状態も同様である。図6(c)に示すように、さらに右翼パッド403が不図示の外部駆動力により押し込まれている状態では、可撓性シート2が変形し、さらに保持流路111の右側部分の流路終了端部近傍を閉鎖することが可能である。このとき保持流路111底面と可撓性シート2とで形成される連結流路112及び113近傍の流路容積を、ほぼゼロにし、保持流路111全体の流路容積をおよそ1/4とすることができる。
【0048】
(2)−5−3 C−C断面
図7は図3の中間部ブロック101をC−C部分で切断した要部断面図であり、連結流路112及び113から離れた部分の構造を詳細に示すものである。図7(a)は開状態、図7(b)は閉状態を示す図である。図7(a)に示すように、中央パッド401が可撓性シート2に対して押し込まれていない状態では、保持流路111底面と可撓性シート2とで形成される空間で流体の保持が可能である。図7(b)に示すように、中央パッド401が不図示の外部駆動力により同図矢印に示す方向に押し込まれている状態では、可撓性シート2が変形し、保持流路111は閉鎖される。このとき保持流路111底面と可撓性シート2とで形成される連結流路112及び113から離れた部分の流路容積を、ほぼゼロにし、保持流路111全体の流路容積をおよそ1/4とすることができる。
【0049】
(2)−5−4 D−D断面
図8は図3の中間部ブロック101をD−D部分で切断した要部断面図であり、連結流路117の構造を詳細に示すものである。図8(a)は開状態、図8(b)は閉状態を示す図である。図8(a)に示すように、右連結パッド407が可撓性シート2に対して押し込まれていない状態では、連結流路117底面と可撓性シート2とで形成される空間で流体の保持が可能である。図8(b)に示すように、右連結パッド407が不図示の外部駆動力により同図矢印に示す方向に押し込まれている状態では、可撓性シート2が変形し、連結流路113が閉鎖される。このとき連結流路117底面と可撓性シート2とで形成される流路容積を、ほぼゼロにすることができる。また、連結流路116についても同様に流路容積を変えることができる。
【0050】
なお、退避流路131についても、図6〜図8で説明した保持流路111と同様に、流路容積を変えることができる。
【0051】
(2)−6 押圧ブロック4の開閉機構
(2)−6−1 押圧ブロック基本構造
次に、図9〜図28を用いて、押圧ブロック4とカバープレート3の各部の連動で動作する、押圧ブロック4の開閉機構について中間部ブロック101を例にとり説明する。
【0052】
押圧パッド401〜408の移動および固定には各種の方法が適応可能だが、以下で説明するように本実施形態では1つの支点を有する可動ロッドと、可動ロッドの端部を一時固定するロック部を採用する。
【0053】
図9〜図16は、押圧ブロック4の詳細構成を示す斜視図であり、各々の図が各構成の開閉状態に対応している。図17は、図9〜図16に示した押圧ブロック4の各構成を分解して示した斜視図である。
【0054】
図17に示すように、可動ロッドとして中央ロッド411、左翼ロッド412、右翼ロッド413、可動ロッド414及び415、可動ロッド416及び417が設けられている。これら各可動ロッド411〜417には、それぞれ中央パッド401、左翼パッド402、右翼パッド403、左出入パッド404、右出入パッド405、左連結パッド406及び右連結パッド407が一体的に形成されている。
【0055】
図9〜図16は押圧ブロック4を種々開閉し、あるいは省略した中間部ブロック101の斜視図である。図9は、すべてのロッド411〜417を閉じた状態を示している。図10は、すべてのロッド411〜417を省略して示している。図11は、ロッド414及び415のみを閉じ、他のロッド411〜413、416及び417を省略した状態を示している。図12は、ロッド416及び417のみを閉じ、他のロッド411〜415を省略した状態を示している。図13は、中央ロッド411のみを閉じ、他のロッド412〜417を省略した状態を示している。図14は、左翼ロッド412のみを閉じ、他のロッド411、413、414〜417を省略した状態を示している。図15は、右翼ロッド413のみを閉じ、他のロッド411、412、414〜417を省略した状態を示している。図16は、中央ロッド411、左翼ロッド412、右翼ロッド413のみを閉じ、他のロッド414〜417を省略した状態を示している。
【0056】
可動ロッド411〜417の固定方法は大別して2つあり、1つは、押圧固定した状態を保持するために爪状部材をロック部に設けられた凹部にはめ込みロッドを押し下げ固定する方法であり、可動ロッド411〜413、416及び417が該当する。もう1つは、押圧固定した状態を保持するためにロック部をロッドとカバープレート3との間に挿入しロッドを持ち上げ固定する方法であり、可動ロッド414及び415が該当する。
【0057】
押し下げ固定手法による可動ロッドは支点部、棒状部材、爪状部材及びパッドが一体的に形成された構成をなす。また、ロック部は、爪状部材と凹部とを備える。図17に示すように、各可動ロッド411〜413、416及び417の一端にはそれぞれ支点部451、461、471、481及び491が設けられている。そして、これら支点部451、461、471、481及び491には棒状部材452、462、472、482及び492が取り付けられている。棒状部材452、462、472、482及び492の先端には、それぞれ爪状部材453、463、473、483及び493が設けられ、その中途の部分には、それぞれパッド401、402、403、406及び407が固定されている。
【0058】
支点部451、461、471、481及び491はいずれも、カバープレート3に固定された一連の後方支点部446に可動可能に取り付けられている。より具体的には、後方支点部446の各孔と、支点部451、461、471、481及び491の孔に不図示の固定バーを通すことにより、可動ロッド411〜413、416及び417が支点部451、461、471、481及び491を中心として、可動範囲で回動可能である。
【0059】
可動ロッド411〜413、416及び417は、カバープレート3に形成されたロック部431、432、433、436及び437で、それぞれ対応する流路部分を閉鎖状態で維持できる。すなわち、各ロッドに設けられた爪状部材453、463、473、483及び493をそれぞれロック部431、432、433、436及び437の凹部にはめこみ固定することで、各ロッドは押し下がった状態に保持され対応する流路を閉鎖できる。
【0060】
ロック部431、432、433、436及び437は、それぞれ核酸検出カセット100の外部からの駆動力でその爪状部材部分が弾性的に撓み、各可動ロッド411、412、413、416及び417を個別に開放する。このとき可撓性シート2は自己の弾性力で撓む前の元の状態に復帰し、対応する流路部分が開放される。ただし、外部からの駆動力により、開放速度にブレーキをかけ規制することは可能である。
【0061】
なお、退避流路131の各流路に対しても同様のメカニズムで閉鎖、開放が可能である。
【0062】
持ち上げ固定手法による可動ロッドは、棒状部材、支点及びパッドが一体的に形成された構成をなす。また、ロック部は、爪状部材と凹部とを備える。各可動ロッド414及び415の棒状部材414a及び415aの一端には、出入パッド404及び405がそれぞれ固定される。また、棒状部材414a及び415aの中途の部分には支点部414b及び415bがそれぞれ設けられている。
【0063】
支点部414b及び415bはいずれも、カバープレート3に固定された一連の前方支点部444a及び444bに可動可能に取り付けられている。より具体的には、前方支点部444a及び444bの各孔と、支点部414b及び415bの孔に不図示の固定バーを通すことにより、可動ロッド414及び415が支点部414b及び415bを中心として可動範囲で回動可能である。
【0064】
可動ロッド414及び415は、それぞれカバープレート3に形成されたロック部434及び435で、出入流路114及び115を閉鎖状態に維持できる。より具体的には、ロック部434及び435を可動ロッド414及び415とカバープレート3との間に挿入すればよい。ロック部434は、カセット100の外部からの駆動力でその爪状部材部分が弾性的に撓み、可動ロッド414を開放し、出入流路114を開放する。このとき可撓性シート2は自己の弾性力で元の状態に復帰する。出入流路115に対する右出入パッド405に対しても同様のメカニズムで閉鎖状態維持、開放が可能である。
【0065】
(2)−6−2 保持流路111及び退避流路131
次に、図18〜図24を用いて保持流路111及び退避流路131の開閉動作の詳細を説明する。
【0066】
保持流路111および退避流路131は、中央ロッド411、左翼ロッド412、右翼ロッド413を個別に駆動させることにより、様々な種類の流路容積パターンが実施可能である。
【0067】
以下、図18(a)〜(d)の断面図、図19〜図24の切断部分斜視図を使用して、全閉状態から全開状態までの各種パターンの例を示す。
【0068】
図18(a)、図19は、中央ロッド411、左翼ロッド412及び右翼ロッド413がそれぞれロック部431、432及び433によってロックされ、保持流路111が全閉状態で維持されている状態を示している。この状態から、図20に示すように、右翼ロッド413のみを開放することも可能で、このとき保持流路111は、流路終了端部近傍が半開放状態となる。なお、図20では左翼ロッド412は省略してある。さらに、図18(b)、図21に示すように、左翼ロッド412、右翼ロッド413の両方を開放すると、保持流路111は前方、すなわち流路開始端部及び流路終了端部に近い部分が半開放状態となる。一方、図18(c)、図22に示すように、中央ロッド411のみを開放すると、保持流路111は後方、すなわち流路開始端部及び流路終了端部から離れた部分が半開放状態となる。なお、図22では左翼ロッド412及び右翼ロッド413は省略してある。図18(d)、図23は、中央ロッド411、左翼ロッド412、右翼ロッド413のすべてを開放し、保持流路111が全開状態で維持されている状態を示している。なお、図24は、中央ロッド411、左翼ロッド412、右翼ロッド413をさらに開放し、パッド形成面を示してある。
【0069】
(2)−6−3 連結流路116及び117
図25(a)は、可動ロッド416がロック部436によってロックされ、連結流路116が全閉状態で維持されている状態を示している。この状態でロックを外すと図25(b)のようになる。すなわち、図25(b)は、外部駆動力によってロック部436が変形し、可動ロッド416がロック部436から開放され、連結流路112が全開状態で維持されている状態を示している。
【0070】
なお、連結流路117についても同様に開閉が制御できる。
【0071】
(2)−6−4 出入流路114及び115
図26(a)は、可動ロッド414がロック部434によってロックされ、出入流路114が全閉状態で維持されている状態を示している。より具体的には、ロック部434が可動ロッド414とカバープレート3との間に挿入されているため、可動ロッド414のパッドが形成されている側と支点部414bを挟んで反対側の部分を押し上げる力が働く。これに対応して、支点部414bを挟んで反対側の左出入パッド404は押し下がり、全閉状態が維持される。
【0072】
図26(b)は、外部駆動力によってロック部434が変形し、可動ロッド414がロック部434から開放され、出入流路114が全開状態で維持されている状態を示している。ロック部434の変形は、例えば同図矢印で示す方向にロック部434を引き抜くことで、ロック部434の押し上げ力が無くなる。これに対応して、支点部414bを挟んで反対側の左出入パッド404は押し上がり、可撓性シート2の復元力により全開状態が維持される。
【0073】
(3)流体移動制御方法
これまで述べてきた流路およびその容積を可変する押圧機構を使用して、流路内を移動する流体制御方法について説明する。
【0074】
(3)−1 試薬・試料注入
(3)−1−1 試薬送液
保持流路111に試薬を注入するためには、核酸検出カセット100の裏面に設けられた開口部121及び122を利用する。
【0075】
図27は試薬送液の工程を模式的に示す図である。図27は、可変容積型の保持流路111を模式的に示している。また、図28は、この試薬送液の工程に沿った保持流路111の断面図を模式的に示している。
【0076】
同図の出入バルブ314及び315は、出入流路114及び115、出入パッド404及び405と可撓性シート2とを組み合わせて、その機能を表現する構成として模式的に示したものである。
【0077】
連結バルブ316及び317は、連結流路116及び117、連結パッド406及び407と可撓性シート2と組み合わせて、その機能を表現する構成として模式的に示したものである。
【0078】
容積が可変する保持流路111は、その容積の平面形状が模式的に示される。なお、図27では示していないが退避流路131についても同様に示される。
【0079】
a.初期流路容積設定
まず、図27(a)に示すように、連結バルブ316及び317を閉じたままで、出入バルブ314及び315を開く。次に、中央パッド401を押し込み、保持流路111の幅を狭くし流路容積を初期状態に必要な大きさに設定する。このとき保持流路111内部の気体304は、出入バルブ314及び315を通って開口部121及び122から、可変した容積に対応した量の流体が保持流路111外に排出される。このときの保持流路111要部断面は図28(a)に示される。
【0080】
b.試薬注液開始
上記a.の工程で保持流路111の初期容積が定まると、試薬送液が開始される。図29は開口部121及び122の要部断面図である。図29(a)は試薬送液時の断面を示す図である。図29(a)に示すように、開口部121及び122が保持流路111に対して上側になるように核酸検出カセット100を配置する。そして、注入すべき試薬303の容量よりわずかに多い量が充填されたピペット300の先端チップ301を開口部121に挿入する。同時に、試薬を充填したピペット300を挿入した側とは反対側の開口部122に、試薬が充填されず外部に開放された先端チップ302を挿入する。図29(b)はこれらピペット300及び先端チップ302の挿入時の開口部121及び122の要部断面を示している。
【0081】
次に、図27(b)に示すように、先端チップ301から試薬303を注入する、このとき保持流路111の幅が狭いので、液体である試薬303と流路内に充満している気体304との界面は、表面張力によって1つの曲面を維持できる。したがって、気体304を試薬液体内に巻き込むことなしに、確実に試薬303を保持流路111内に充填することができる。
【0082】
c.試薬注液終了
図27(c)に示すように、気体出口側の先端チップ302内に試薬303が到達するまで、試薬303を注液する。このときの試薬量が所定の値であれば、注液を終了し「出入バルブ閉鎖」工程に移行する。あるいは、試薬量が保持流路111の最大容積である場合には次の「試薬補充注液」工程に移行する。
【0083】
このときの保持流路111要部断面は図28(b)に示される。
【0084】
d.試薬補充注液
図27(d)に示すように、気体出口側の出入バルブ315を閉じ、中央パッド401を開放し、試薬303をさらに注液する。中央パッド401を開放したときは、保持流路111内はわずかに負圧となるが、ピペット300内には十分な試薬の量があるので気体を試薬液体内に巻き込むことはない。このときの保持流路111の要部断面は図28(c)に示される。
【0085】
液体入口側の先端チップ301内に試薬303がわずかに残るまでさらに試薬303を注液し、保持流路111内がわずかに加圧側になるまで試薬303を押し込む。次に先端チップ301の開口部121と反対側を外気圧と同一にし、先端チップ301内の試薬303量が少し増加するのを確認する。このとき保持流路111内が負圧で、先端チップ301内の試薬303が保持流路111内にわずかに吸い込まれたとしても、先端チップ301内に試薬303が残っていれば気体を試薬液体内に巻き込むことはない。
【0086】
このときの保持流路111の要部断面は図28(d)に示される。
【0087】
e.出入バルブ閉鎖
最後に、図27(e)に示すように、出入バルブ314、315を閉じ、先端チップ301、302を開口部121、122から外す。
【0088】
以上の工程により、試薬内に気体を巻き込むことなしに、2段階の設定量での保持流路111への試薬注入充填が可能になる。また、この試薬注入のとき、可撓性シート2の内側と外側は圧力が等しいため、可撓性シート2は所定の形状を維持しているので、充填量は常に一定となる。さらに、極端な負圧・加圧が液体に印加されていないので、保持流路111内への外部からの気体の侵入、あるいは流路内からの液漏れが発生しにくい。また、流路内には気体部分がないので、長期保存において試薬内に気体が溶け込むことも防止できる。
【0089】
(3)−1−2 試料注入
あらかじめ所定の量の試薬が充填されている保持流路111内に、新たに検査すべき核酸材料を含む液体試料305を注入する方法について説明する。
【0090】
図30は試料注入工程の模式図である。
【0091】
a.試料注液開始
図30(a)に示すように、連結バルブ316及び317は閉じたままで、出入バルブ314及び315を開く。
【0092】
次に、開口部121及び122が上側になるように核酸検出カセット100を配置し、注入すべき試料305が充填されたピペット300の先端チップ301を開口部121に挿入する。同時に、反対側開口部122に外部に開放された先端チップ302を挿入する。これでカセットのセッティングが終了し、先端チップ301から試料305の注入を開始する。
【0093】
b.試料注液終了
図30(b)に示すように、出口側の先端チップ302内に試薬303が押し出されて到達するまで、試料305を注液する。
【0094】
c.出入バルブ閉鎖
最後に、図30(c)に示すように、出入バルブ314及び315を閉じ、先端チップ301及び302を開口部121及び122から外す。
【0095】
試料305の試薬303に対する比重が重く、かつ試薬303に対する拡散速度が小さく、さらに重力の方向が、同図矢印に示すように保持流路111の中心から見て出入バルブ314及び315と反対側の場合には、図30(c)に示すように保持流路111の鉛直下側に試料305が沈降する。
【0096】
以上の工程により、試料および試薬内に気体を巻き込むことなしに、あらかじめ所定の量の試薬が充填されている保持流路111への検査すべき核酸材料を含む試料の注入が可能になる。
【0097】
(3)−2 送液
注液工程を使用して試薬を注入された複数の保持流路111間での流体の移動方法について説明する。流体移動方法として、以下では一定量送液の場合と最大保持量送液との場合について説明する。ここでは、保持流路111aと保持流路111bとの間での送液について説明する。
【0098】
(3)−2−1 一定量送液
一定量送液では、最大保持量を保持している保持流路111aから最少量保持している保持流路111bに対して一定量を送液し、保持流路111bの液量がその最大保持量となるようにする。最少量保持は、前述の図27(c)に示された左翼パッド402及び右翼パッド403が開状態で、中央パッド401が閉状態の場合の容積であり、最大量は、左翼パッド402、右翼パッド403、中央パッド401がすべて開状態の場合の容積である。
【0099】
以下一定量送液工程を順次説明する。
【0100】
a.連結バルブ開
図31(a)に示すように、保持流路111aと保持流路111b間の連結バルブ317を開状態にする。その他の連結バルブおよび出入バルブは閉状態のままにしておく。
【0101】
次に、保持流路111aの中央パッド401aをわずかに押し込み、連結バルブ317が完全に開くように加圧する。
【0102】
連結バルブ317を構成する可撓性シート2は連結流路117の底面に隙間なく押さえつけられている。したがって、連結流路117に対する可動ロッド417のロック部437を解除しても、可撓性シート2の弾性による回復力が弱い場合には、大気圧によってこの部分の可撓性シート2が底面に押さえつけられて、なかなか連結バルブ317が完全に開かない。このことへの対応として保持流路111aの加圧が行われる。
【0103】
b.送液開始
図31(b)に示すように、保持流路111bの中央パッド401bを開状態にした直後に、保持流路111aの中央パッド401aを押し込み、送液を開始する。
【0104】
このとき、保持流路111aの中央パッド401aを押し込む前において、保持流路111bと保持流路111aの圧力が均衡するように、送液が開始してしまう場合もある。
【0105】
連結流路117を開く前に、保持流路111bの中央パッド401bを開状態にすることも可能である。しかしながらこの場合、保持流路111bに負圧がかかるので、連結流路117が開きにくくなる場合がある。
【0106】
c.送液終了・連結バルブ閉
図31(c)に示すように、保持流路111a
の中央パッド401aを全閉状態とし、次に連結流路117を全閉状態とする。このとき、連結流路117内のわずかな量の液体は保持流路111aおよび保持流路111b内に送液され、連結流路117内の液体はほぼ完全に排除される。
【0107】
以上の一定量送液工程では、保持流路のロック機構が一段である場合には、送液体積はおよそ、
送液体積Vt=保持流路最大保持量Vmax−保持流路最小保持量Vmin
の関係を満たしている。
【0108】
(3)−2−2 最大保持量送液
最大保持量送液では、最大保持量を保持している保持流路111aから全閉状態の保持流路111bに対して最大保持量の液体を送液し、保持流路111bの液量が保持流路の最大保持量となるようにする。
【0109】
全閉状態は、中央パッド401、左翼パッド402及び右翼パッド403がすべて閉状態の場合の容積である。可撓性シート2のゴム硬度が大きく、保持流路111と出入流路114及び115、連結流路116及び117の継ぎ目が滑らかに加工されていないと、全閉状態おいても保持流路111内に空隙が生じる可能性がある。しかし、保持流路111は最小保持量と最大保持量の間の液体もしくは流動体を、初期的に注入して使用するので、この空隙は液体もしくは流動体で満たされた残留液体もしくは残留流動体となり、保持流路111内に気泡が含まれることはない。
【0110】
以下最大保持量送液工程を順次説明する。
【0111】
a.連結バルブ開
図32(a)に示すように、保持流路111aと保持流路111b間の連結バルブ317を開状態にする。その他の連結バルブおよび出入バルブは閉状態のままにしておく。
【0112】
次に保持流路111aの中央パッド401aをわずかに押し込み、連結バルブ317が完全に開くように加圧する。
【0113】
b.送液開始
図32(b)に示すように、保持流路111bの中央パッド401bおよび左翼パッド402bを開状態にした直後に、保持流路111aの中央パッド401aを押し込み、送液を開始する。
【0114】
c.送液中間段階
図32(c)に示すように、保持流路111aの中央パッド401aが全閉状態となった後、保持流路111bの右翼パッド403bを開状態とし、その後保持流路111aの左翼パッド402aの押し込みを開始する。これは、保持流路111a内部の液体が円滑に連結バルブ317の方向に向かうようにするためである。保持流路111aの左翼パッド402aと右翼パッド403aを同時に押し込む場合には、加工精度や外部駆動力の位置精度の関係で、右翼パッド403aが先に全閉状態となる場合がある。この場合、左翼パッド402a下のわずかな液体が連結バルブ317の方向に移動できなくなってしまう恐れがある。
【0115】
d.送液終了・連結バルブ閉
図32(d)に示すように、左翼パッド402aが全閉状態となった後、さらに右翼パッド403aの押し込みを開始し、最終的に右翼パッド403aも全閉状態とする。これで保持流路111aの押圧パッドはすべてを全閉状態となるので、次に連結流路117を全閉状態とする。
【0116】
保持流路111bの最大保持量Vmaxは、
保持流路最大保持量Vmax=保持流路全注入量Vi−保持流路残渣量Vr
の関係を満たしている。
【0117】
e.送液の効果
以上のような送液方法により、
(i)低圧力差で等容積の送液が可能である。
【0118】
各流路の容積は可変するが、流路全体の容積はほぼ一定である。また、可変する流路そのもの容積を変えて、送液に必要な圧力差を発生させている。このため、全流路の両端で圧力を印加して送液する方式に比べて、流路間の圧力差および外部の圧力差を小さくすることができ、液体のシール、送液制御が確実になる。
【0119】
(ii)連動送液が可能である。
【0120】
さらに送液側と授液側の保持流路の加圧パッドを連動させて駆動することも可能で、この場合送液側の加圧パッドの押込み速度と、授液側の加圧パッドの開放速度をほぼ同じにする。これにより、流路間の圧力差をおよび外部の圧力差を、さらに小さくすることができる。
【0121】
f.連結部分の無気泡閉鎖
連結部分の無気泡閉鎖を確実にするために、予め保持流路注液時もしくはその前に、わずかな量の試薬を連結流路に導き、わずかな空隙でも液体で充填しておくことが可能である。この場合には、連結流路両側の保持流路でのそれぞれの反応に対して、両方に悪影響を及ぼさない液体であることが必要となる。
【0122】
(3)−3 混合
核酸を含む試料の投入から、核酸増幅およびその他の必要な処理と目標核酸の検出までを一貫して処理する過程においては、複数の反応が必要とされている。本実施形態の流路系においては、例えば、
a.前の保持流路での反応の生成物を次の保持流路に移送する。
【0123】
b.次の保持流路内に予め充填されている試薬と位相された前の生成物を混合し、次の保持流路内で試薬と前の生成物との混合を行う。
【0124】
c.新たな生成物をさらに次の保持流路に移送する。
【0125】
というようにして、各種反応を逐次処理して連続工程を実現することができる。この逐次処理に必要な試薬の混合方法について以下、1流路内加圧移動、1流路内等圧移動及び2流路間往復移動の3種に分けて説明する。
【0126】
(3)−3−1 1流路内加圧移動
図33(a)は流路系を模式的に示すもので、液体を保持流路111aから保持流路111bに一定量送液し、保持流路111aの中央パッド401aが全閉状態となった後、連結バルブ317を全閉状態としたときを示している。送液量は本実施形態で示した寸法に従う場合には約36μlとなる。
【0127】
このとき、保持流路111bでは、予め保持流路111b内に充填してあった試薬と、保持流路111aから送液された反応生成物は既に混じり合っているが、均質になっていない場合がある。
【0128】
そこで、図33(b)、(c)及び(d)の順に連続的に示すように、保持流路111bの左翼パッド402b、右翼パッド403b及び中央パッド401bを順次所定量押し込み、保持流路111b内部で液体の移動を発生させる。さらに、押圧パッドの押し込み順序、速度、サイクル数/秒等を変えることで、保持流路111b内部で試薬の反応生成物を均質に混合させることができる。
【0129】
この場合、保持流路111bは最大保持量まで液体を保持しているので、押圧パッド401b、402b及び403bの押し込み量が大きいと、保持流路111bの内部圧力が大きくなり、液洩れの原因となるので、押圧パッド401b、402b及び403bの押し込み量を調整する必要がある。これが1流路内加圧移動である。
【0130】
(3)−3−2 1流路内等圧移動
保持流路111aから保持流路111bへ送液する場合に、保持流路111bの内部圧力をあまり大きくせずに保持流路111b内部で液体の移動量を大きくするためには、以下で説明する工程により送液量を2段階にし、1流路内で等圧で液体を移動させることができる。
【0131】
a.初期送液
図34(a)に示すように、保持流路111aの左翼パッド402aのみを押圧し、約24μlを送液する。
【0132】
b.初期混合
約24μlを送液した後に、連結バルブ317を全閉状態にし、図33(b)〜(d)に連続的に示すように、保持流路111bの左翼パッド402b、右翼パッド403b、中央パッド401bを順次所定量押し込み、保持流路111b内部で液体の移動を発生させる。
【0133】
この場合、最大保持量約48μlに対して十分余裕があるので、押圧パッドの押し込み量を比較的大きくしても、保持流路111bの内部圧力は外圧より高くならず、液洩れの恐れがない。この状態で、混合に十分な保持流路111b内部で液体の移動を発生させることができる。
【0134】
c.後期送液
図34(b)に示すように、保持流路111aの左翼パッド402aを解除し、最終目標状態である保持流路111aの中央パッド401aを全閉状態とし、連結バルブ317を全閉状態とする。このとき、残りの約12μlが送液され、合計約36μlが送液される。
【0135】
d.後期混合
この状態での混合は、図33(a)に示す状態と同様であり、図33(b)、(c)及び(d)に連続的に示す加圧状態での混合が実施される。
【0136】
この場合、既に半分以上の液量が混合されているので、各パッドの押し込み量をそれほど大きくしなくても、十分に混合が達成できる。
【0137】
この例では、パッドに規定された送液量で制御したが、押圧パッドを任意の位置で保持し、連結バルブ317を全閉状態とし、任意の送液量で保持流路111bの混合を開始してもよい。
【0138】
(3)−3−3 2流路間往復移動
液体を保持流路111aから保持流路111bに一定量送液する際に、中間段階として、液体を保持流路111bから保持流路111aに逆流させても差し支えない場合には、2流路間内液体往復移動が可能となる。
【0139】
図35は2流路間内液体往復移動を説明するための模式図である。まず、図35(a)に示すように、保持流路111aでの中央パッド401aの押し込みを行って保持流路111aから保持流路111bに液体を送液する。次に、図35(b)に示すように、保持流路111bでの中央パッド401bの押し込みを行って保持流路111bから保持流路111aに液体を送液する。これら図35(a)及び(b)に示す動作を交互に繰り返し行うことにより、両方の保持流路111a及び111bの内部液体を均質に混合することができる。
【0140】
このとき、逆流が不可の場合と可能な場合では同じ送液量でも試薬と生成物の混合比が異なってくる。例えば、
保持流路111a内の生成物の量をA0、最終保持量をA1、保持流路111b内の試薬の量をB0とすると、
逆流が不可の場合、試薬:生成物=B0:A1
逆流が可能の場合、試薬:生成物=B0:A0
となる。
【0141】
また、反応生成物の一部を保持流路111bでの反応の有害物である残渣として、送液元の保持流路111aに残留させる場合には、この混合方法に用いる逆流が可能ではない。
【0142】
(3)−3−4 混合の効果
従来、気液2層系において複数の反応を逐次処理する場合には、1つの反応チャンバに反応ごとに必要な試薬を逐次投入する方法が用いられてきた。この場合、反応チャンバ内の液量が反応ごとに増えていくので、廃液チャンバが必要になり、複雑な流路系を必要とした。また、試薬の量が少なくなると送液制御が困難であり、特に少ない試薬が長い送液流路に残留するので、試薬の無駄、送液量の不均一が問題であった。
【0143】
微細流路系においては、液体同士の混合に際して流路内で攪拌することが困難であり、合流流路等を使用しても、均質な混合が困難であった。
【0144】
これに対して上記実施形態によれば、比較的少ない量の試薬に対して、比較的多い量の反応生成物自体が移動していくので、送液及び混合ともに制御が容易である。
【0145】
また、混合に際しては、液体や反応の条件に適合した様々なパターンを採用することができる。さらに、混合は無気泡状態で行うことができ、したがって気液2層に分離するための遠心分離装置が不要である。
【0146】
(3)−4 変形例
上述した試薬・試料注入や、送液、混合工程において、押圧パッドをより多数に分割する、また押圧パッドの固定に使用するロックを多段にすると、さらに多種の保持容積、送液量、送液パターン、混合パターンの実施が可能であり、液体や反応の条件への適合が容易になる。
【0147】
(4)流路パターンと送液順序
(4)−1 検出流路
1)核酸検出方法
目標核酸の検出方法は、検出流路内部に固定化された、検出すべき目標核酸に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブを使用するものなら、周知の光学的方式、電気化学的方式等が使用できる。
【0148】
本実施形態では、基本的には登録第2573443号公報に開示される電気化学的な検出方法を適用した。光学的方式を使用する場合は、光透過性の材料で固定基板1を作製することで対応できる。
【0149】
2)核酸検出チップ
検出センサである核酸検出チップ500は固定部材からなる基板が用いられる。より具体的には、特開2002−195997号公報に開示されるような核酸検出センサを使用した。検出方法、使用材料、電極構造等は同じであるが、検出基板の構造だけが同公報の従来例として示される構造を採用してある。
【0150】
図36は、核酸検出チップ500の構造の概略を示す図である。ガラス基板500a上に特開2002−195997号公報に開示されるように、核酸固定化電極501、対抗電極503及び参照電極504が形成されている。さらにガラス基板500a上には、これらの電極501,503及び504と検査装置とで電気信号を入出力するための接点として、それぞれ核酸固定化電極用接点511、対抗電極用接点513、参照電極用接点514が形成されている。
【0151】
また、核酸固定化電極501上には、特開2002−195997号公報に開示される方法で、検出すべき目標核酸に対して相補的な塩基配列を有する一本鎖の核酸プローブ502が固定化されている。
【0152】
3)検出流路構造
図37は、検出流路シール520を核酸検出チップ500上に位置決めし載置した図である。可撓性部材である検出流路シール520は、可撓性シート2と同一の材料が使用できるが、押圧パッドによる局部的変形がないので、比較的硬いゴム硬度のものが使用できる。図37に示すように、検出流路シール520は蛇行した流路開口521を有している。核酸固定化電極501、対抗電極503、参照電極504がすべて流路開口521の内部に位置し、各電極501,503,504が検出流路シール520で隠れないように位置決めされて核酸検出チップ500と検出流路シール520は接している。
【0153】
4)検出流路の流路基板への接合
図38は検出部ブロック106を表面側から見た斜視図であり、図40は、図38に示す検出部ブロック106を裏面側から見た斜視図である。検出部ブロック106の裏面には、核酸検出チップ500の厚さとほぼ同じ深さを有し、核酸検出チップ500の面積とほぼ同面積のチップレセス128が形成されている。このチップレセス128の一部には接点部開口151が貫通形成されている。
【0154】
チップレセス128のさらに一部には、チップレセス128の底面からさらに検出流路シール520の厚さとほぼ同じ深さを有するシールレセス125が設けられている。このシールレセス125の最深部平面と接するように検出流路シール520が組み込まれ、さらにこの検出流路シール520に接するように、チップレセス128の最深部平面と接するように核酸検出チップ500が組み込まれる。
【0155】
これによって、核酸検出チップ500と検出流路シール520と検出部ブロック106からなる、外部と隔離した検出流路531が形成される。核酸検出チップ500、検出流路シール520、検出部ブロック106は接着、溶着等が可能である。また図示されていない締結部材もしくは締結部分で一体的に接合され、閉鎖型の核酸検出カセット100を形成する。
【0156】
5)退避流路と検出流路の関係
図38に示す検出部ブロック106は退避流路131を含むブロックであり、検出流路531はこの退避流路131の下部に配置される。検出流路531には、検出部ブロック106にその表裏を貫通して形成される左導入流路126及び右導入流路127が含まれ、一条の流路を形成している。
【0157】
図39は、図38と同じく検出部ブロック106を表面側から見た斜視図であるが、裏面に形成される検出流路531や各レセスなどの配置位置を破線で示してある。
【0158】
図41は図38に示す検出部ブロック106のE−E断面図である。図41に示すように、検出流路531は2つの流路端部、すなわち左導入流路126及び右導入流路127に配置される検出流路端部118及び119を介して連結流路116及び117に連結されている。
【0159】
すなわち、連結流路端部118の左側は連結流路117aによって保持流路111aと連結され、右側は連結流路116bによって退避流路131と連結されている。これらの連結流路は、対応する連結パッド407a、406bによって開閉が可能である。
【0160】
同様に、連結流路端部119の左側は連結流路117bによって退避流路131と連結され、右側は連結流路116cによって保持流路111cと連結されている。これらの連結流路は、対応する連結パッド407b、406aによって開閉が可能である。
【0161】
6)接点部開口
図38に示すように検出部ブロック106には、核酸検出チップ500上の核酸固定化電極用接点511、対抗電極用接点513、参照電極用接点514をカセット外部の検査装置と接続するための接点部開口151が設けられている。この接点部開口151にあわせて各接点511,513,514が検出部ブロック106で隠れないように位置決めし固定されて用いられる。
【0162】
(4)−2 初期注入
図42は、本実施形態で使用した核酸検出カセット100の流路系の模式図を示す。
【0163】
同図左側から順に、端部ブロック102と、2つの中間部ブロック101と、検出部ブロック106と、中間部ブロック101と、端部ブロック103が配置されている場合の流路系統を示している。端部ブロック102は保持流路811aを、これに隣接する中間部ブロック101は保持流路811bを有し、さらにこれに隣接する中間部ブロック101は保持流路811cを有している。この中間部ブロック101に隣接する検出部ブロック106は退避流路811dとこの退避流路811dに迂回して設けられた検出流路531を有する。この検出部ブロック106の右側に隣接する中間部ブロック101は保持流路811eを有する。右端の端部ブロック103は保持流路811fを有する。隣接する流路は互いに連結流路を介して連結され、その連結流路にはそれぞれバルブが設けられ、開閉制御可能になっている。
【0164】
各処理過程は、特に言及の無い限りは、登録第2573443号公報、特開2002−195997号公報に詳しく開示される方法が適用される。まず、必要な全試薬が注入された出荷状態としての初期状態と、各試薬を用いた反応過程について説明する。
【0165】
1)核酸増幅
保持流路811aでは、核酸を含んだ試料からポリメラーゼ連鎖反応(PCR)等を行い、試料内の核酸を増幅する。核酸の増幅方法に関しては特にこれに限るものではなく、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)などの温度変化を伴う方法や等温増幅方法など種々の核酸増幅方法が実施可能である。核酸を含む試料としては、血液、血清、尿、唾液、口腔粘膜等の生体試料等、を用いることができる。例えば、PCR法においては、以下のような熱循環を施し、核酸の増幅を連続させる。
【0166】
a.92〜95℃で、約10〜15秒にわたって加熱し、2本鎖核酸を変性させ、ほどき分離し1本鎖にする。
【0167】
b.次に、冷却され、55〜65℃で、約10〜15秒にわたって保持し、プライマーをアニ−ルし、2種類のプライマーを分離した1本鎖に結合させ部分的に2本鎖を形成する。
【0168】
c.次に、70〜72℃で、約10〜15秒にわたって保持し、2種類のプライマーをそれぞれ核酸合成の開始点として、相補性をもつもう1本核酸を伸長させる。
【0169】
このPCR実施のため、保持流路811aにはdNTP、プライマー、ポリメラーゼ、その他PCRに必要なその他試薬を含む緩衝液を注入する。必要であれば、試料溶液中に核酸増幅阻害物質の影響排除試薬(例えば、島津製作所製Ampdirect)を加えることもできる。核酸増幅阻害物質の影響排除試薬は、血液から直接核酸を取り出してPCRの実施を可能にする試薬である。注入される全試薬量は約48μlである。
【0170】
2)1本鎖化
保持流路811bでは、保持流路811aの核酸増幅工程で増幅された2本鎖核酸を、周知のλエキソヌクレアーゼ法等によって1本鎖核酸に調整する。このとき酵素反応を維持するため、35〜39℃で、約30分〜3時間にわたって保持し、最後に酵素を失活するために92〜95℃で、約3〜6分にわたって加熱する。この過程で使用されるエキソヌクレアーゼおよび緩衝液の全試薬量約12μlが注入される。
【0171】
3)保護鎖付与
保持流路811cでは、特開平6−70799号公報に開示されている方法を用いて、試料としての1本鎖核酸に、核酸プローブ502に相補的でない部分の配列に対して相補的な核酸鎖を保護鎖として添加する。これにより、核酸試料のセルフハイブリダイゼーションを防止し、検出感度を向上させることができる。このとき、必要であれば核酸試料を95〜98℃で約1〜5分にわたって保持し核酸を熱変性したのち、毎分2℃ずつ25℃まで緩やかに冷却することで保護鎖と核酸試料のハイブリダイゼーション反応を行う。この過程で使用される全試薬量約12μlが注入される。
【0172】
4)ハイブリダイゼーション
検出流路531では、増幅され前処理された核酸試料と、核酸固定化電極501上の核酸プローブ502と所定の反応温度(たとえば、20〜40℃、30〜60分)を保持し、ハイブリダイゼーション反応を行う。核酸プローブ502は乾燥して保存することが可能で、検出流路531内は浄化・滅菌された窒素や空気等の気体が充填されている。ハイブリダイゼーション時には核酸試料を含む液体で検出流路531が充填されることになる。閉鎖系カセットにおいては、初期充填されていた気体を外部に排出できないので、この気体を退避させる容積が退避流路811dに設定されている。退避流路811dの初期状態はほぼ容積ゼロで、完全閉鎖されている。もしくは検出流路531内には気体の充填物に代えて緩衝液あるいは生理食塩水等の液体を充填しても良い。
【0173】
5)洗浄
検出流路531では、ハイブリダイゼーション反応が終了した後、核酸固定化電極501上の洗浄を行い、ハイブリダイズしなかった核酸試料を核酸固定化電極501上から除去する。この過程では緩衝液が洗浄液として使用される。使用される洗浄液は、保持流路811eに注入され、使用時に、検出流路531まで送液される。保持流路811eには、全試薬量約48μlが注入される。
【0174】
6)電気化学測定
検出流路531では、洗浄後、ハイブリダイズした2本鎖部分に選択的に結合する2本鎖認識体である、挿入剤(インターカレータ)を作用させ電気化学的測定を行う。測定では、挿入剤が電気化学的に反応する電位以上の電位を印加し、挿入剤に由来する反応電流値を測定する。このとき電位は定速で掃引される。得られた電流値を元に、目標核酸検出を判定する。また、測定中は温度をたとえば、20〜25℃に保持する。使用される挿入剤は、保持流路811fに注入され、使用時に、検出流路531まで送液される。保持流路811fには、全試薬量約48μlが注入される。
【0175】
(4)−3 送液順序
検査用の核酸検出カセット100は、図42で模式的に示された必要試薬充填状態で、使用者に提供される。
【0176】
1)核酸増幅
まず、出入バルブ814及び815を開いて、核酸を含む試料を注入する。試料注入後、出入バルブ814及び815を閉じる。次に図42に示すように、連結バルブ831が閉じられた状態で、保持流路811aに、図示しない熱伝達手段から所定の温度サイクルを付与し、核酸の増幅を行う。
【0177】
2)1本鎖化
図43に示すように、核酸増幅終了後連結バルブ831を開き、保持流路811aの中央パッド401aを押込む。これにより、反応後の生成物である増幅された核酸試料を保持流路811aから保持流路811bに約36μl送液する。このとき、保持流路811bにある試薬と送液された生成物とを十分に混合させる。混合が終了した後、連結バルブ831を閉鎖する。次に保持流路811bに所定の温度を付与し、1本鎖化の反応を開始する。
【0178】
3)保護鎖付与
図44に示すように、1本鎖化反応終了後連結バルブ832を開き、保持流路811bの中央パッド401bを押込み、反応後の生成物である1本鎖化された核酸試料を保持流路811bから保持流路811cに約36μl送液する。このとき、保持流路811cにある試薬と送液された生成物とを十分に混合させる。混合が終了した後、連結バルブ832を閉鎖する。この後、必要であれば、保持流路811cに所定の温度を付与し、保護鎖付与の反応を開始する。
【0179】
4)ハイブリダイゼーション
ハイブリダイゼーション工程は、詳細には以下の4a)ハイブリダイゼーション、4b)エアパージその1、4c)使用済生成物の送液その1、4d)使用済生成物の送液その2からなる。
【0180】
4a)ハイブリダイゼーション
図45に示すように、保護鎖付与反応終了後、連結バルブ833及び835を開き、保持流路811cの中央パッド401c、左翼パッド402c及び右翼パッド403cを押込み、反応後の生成物である保護鎖付与された核酸試料を保持流路811cから検出流路531に約48μl送液する。同時に、退避流路811dの中央パッド401d、左翼パッド402d、右翼パッド403dの各々に対応するロック部を開放し、検出流路531にある充填気体を約48μl退避流路811dに退避させる。
【0181】
試料送液時に、検出流路531内に固定されている核酸プローブ502と送液された核酸試料とを十分になじませるため、もしくは検出流路531の先頭と最後で核酸試料の濃度を均一にするために、一定送液速度だけでなく、往復動あるいはパルス的送液することが可能である。これにより電流測定値のばらつきを抑えることができる。検出流路531から保持流路811c方向への送液は、退避流路811dの押圧パッド(中央パッド401d、左翼パッド402d及び右翼パッド403d)を押込むことで実施される。送液が終了した後、連結バルブ833及び835を閉鎖する。連結バルブ833及び835の閉鎖後、検出流路531を所定の温度で保持し、ハイブリダイゼーション反応を開始する。
【0182】
4b)エアパージその1
図46に示すように、ハイブリダイゼーション反応終了後、連結バルブ835及び833を開き、退避流路811dの中央パッド401d、左翼パッド402d及び右翼パッド403dを押込み、退避流路811dにある充填気体を検出流路531に約48μl充填する。このとき、同時に保持流路811cの中央パッド401c、左翼パッド402c、右翼パッド403cの各々に対応するロック部を開放し、ハイブリダイゼーション反応終了後の核酸試料を検出流路531から保持流路811cに約48μl送液する。送液が終了した後、連結バルブ833及び835を閉鎖する。これにより、検出流路531のエアパージその1が終了する。
【0183】
4c)使用済生成物の送液その1
図47に示すように、検出流路531のエアパージその1が終了後、連結バルブ831を開き、保持流路811bにある左翼パッド402b及び右翼パッド403bをさらに押込み全閉状態とする。これにより、保持流路811bにある残留液体約12μlが保持流路811aに送液される。このとき保持流路811aでは左翼パッド402aのみが閉状態であり、保持流路811aの容積状態約24μlを維持している。これにより、保持流路811aが負圧になることはない。送液が終了した後、連結バルブ831を閉鎖する。
【0184】
4d)使用済生成物の送液その2
図48に示すように、保持流路811bにある残留液体の送液後、連結バルブ832を開き、保持流路811cの中央パッド401c、左翼パッド402c及び右翼パッド403cを押込む。これにより、ハイブリダイゼーション反応終了後の核酸試料が保持流路811cからさらに保持流路811bに約48μl送液される。このとき同時に、保持流路811bの中央パッド401b、左翼パッド402b、右翼パッド403bのロック部が開放状態にある。送液が終了した後、連結バルブ832を閉鎖する。
【0185】
5)洗浄
洗浄工程は、以下の5a)洗浄、5b)エアパージその2からなる。
【0186】
5a)洗浄
図49に示すように、保持流路811cにある残留液体の送液後、連結バルブ834及び836を開き、保持流路811eの中央パッド401e、左翼パッド402e及び右翼パッド403eを押込み、洗浄液を保持流路811eから検出流路531に約48μl送液する。同時に、退避流路811dの中央パッド401d、左翼パッド402d及び右翼パッド403dのロック部を開放し、検出流路531にある充填気体を約48μl退避流路811dに退避させる。
【0187】
洗浄液送液時に、核酸プローブ502にハイブリダイズしなかった核酸試料を核酸固定化電極501上から確実に除去するために、一定送液速度だけでなく、往復動あるいはパルス的送液をすることが可能である。これにより電流測定値のばらつきを抑えることができる。
【0188】
検出流路531から保持流路811e方向への送液は、退避流路811dの押圧パッドを押込むことで実施される。この送液が終了した後、連結バルブ834、836を閉鎖する。
【0189】
5b)エアパージその2
図50に示すように、洗浄終了後、連結バルブ835及び833を開き、退避流路811dの中央パッド401d、左翼パッド402d及び右翼パッド403dを押込む。これにより、退避流路811dにある充填気体が検出流路531に約48μl充填される。このとき同時に保持流路811cの中央パッド401c、左翼パッド402c及び右翼パッド403cのロック部を開放し、洗浄終了後の洗浄液を検出流路531から保持流路811cに約48μl送液する。送液が終了した後、連結バルブ833及び835を閉鎖する。これにより、検出流路531のエアパージその2が終了する。
【0190】
6)電気化学的測定
この電気化学的測定は、6a)挿入剤の移送、6b)挿入および電気化学的測定からなる。
【0191】
6a)挿入剤の移送
図51に示すように、エアパージその2の後、連結バルブ837を開き、保持流路811fの中央パッド401f、左翼パッド402f及び右翼パッド403fを押込み、挿入剤を保持流路811fから保持流路811eに約48μl送液する。このとき同時に、保持流路811eの中央パッド401e、左翼パッド402e及び右翼パッド403eのロック部が開放状態である。送液が終了した後、連結バルブ837を閉鎖する。
【0192】
6b)挿入および電気化学的測定
図52に示すように、挿入剤の移送後、連結バルブ834及び836を開き、保持流路811eの中央パッド401e、左翼パッド402e及び右翼パッド403eを押込み、挿入剤を保持流路811eから検出流路531に約48μl送液する。同時に、退避流路811dの中央パッド401d、左翼パッド402d及び右翼パッド403dの各々に対応するロック部を開放し、検出流路531にある充填気体を約48μl退避流路811dに退避させる。
【0193】
挿入剤送液時に、検出流路531内に固定されているハイブリダイズした核酸プローブ502に挿入剤を十分に作用させるため、もしくは検出流路531の先頭と最後で挿入剤の濃度を均一にするために、一定送液速度だけでなく、往復動あるいはパルス的送液をすることが可能である。これにより電流測定値のばらつきを抑えることができる。
【0194】
検出流路531から保持流路811e方向への送液は、退避流路811dの押圧パッドを押込むことで実施される。送液が終了した後、連結バルブ834及び836を閉鎖する。連結バルブ834及び836の閉鎖後、検出流路531を所定の温度で保持し、電気化学的測定を開始する。
【0195】
7)連続反応操作における効果
以上のように、可変流路構造を有する閉鎖型の核酸検出カセット100による効果は以下のようにまとめられる。
【0196】
7a)反応・送液に有害な気泡を巻き込まずに、試薬が注入できる。
【0197】
7b)連結流路が最小長さで配置できるので、この部分での空隙、残留液体の保持がほとんどない。
【0198】
7c)試薬保持流路内部と外部との圧力差が少ないので長期保存時に液洩れの恐れがない。
【0199】
7d)送液時、外部との圧力差が少ないので液洩れの恐れがない。
【0200】
7e)試薬と反応生成物の混合が容易で良好な反応が実施できる。
【0201】
7f)ハイブリダイゼーション、洗浄、挿入剤との反応において、最終的な電流測定値のばらつきを抑えることができるような、複雑な送液パターンが実施できる。
【0202】
(5)熱伝達ユニット
次に、図53〜図56に基づき熱伝達ユニットの詳細な構成を説明する。
【0203】
図53は2つの熱伝達ブロック600a及び600bからなる熱伝達ユニット600の閉鎖系の核酸検出カセット100への熱伝達時の構成の一例を示す斜視図である。図54は熱伝達ブロック600a及び600bを核酸検出カセット100から離間した状態の断面図である。図55は熱伝達ブロック600a及び600bを核酸検出カセット100に接触させた状態の断面図である。
【0204】
(5)−1 熱伝達ユニット構造
図54に示すように、熱伝達ユニット600はPCRでの温度循環の付与に使用されるので、加熱と冷却を行なえるものでなくてはならない。そこで熱伝達ブロック600aは、ペルチェ素子601a、アルミや銅のような熱伝導率のよい金属からなる接触パッド604a、ヒートシンク602a及び冷却ファン603aからなる。ペルチェ素子601aと接触パッド604a、ペルチェ素子601aとヒートシンク602aは、シリコーンオイルを基油にアルミナなど熱伝導性のよい粉末を配合したグリースで接合されている。図54には示されていないが、核酸検出カセット100もしくは熱伝達ブロック600a、600bの所定部分の温度を測定し、核酸検出カセット100もしくは熱伝達ブロック600a、600b、610a及び610bの温度制御を行なう温度センサを備えている。熱伝達ブロック600a、600b、610a及び610bの構造は同一である。
【0205】
(5)−2 熱伝達ユニットのカセットへの接触
図54は、熱伝達ユニット600の初期配備状態を示す。保持流路111に対応する中央パッド401、左翼パッド402及び右翼パッド403からなる押圧ブロック4は閉状態である。この状態で熱伝達ユニット600及び610は核酸検出カセット100に対して相対的に移動可能で、核酸検出カセット100の任意の位置で配備できる。
【0206】
図55は、熱伝達ユニット600の核酸検出カセット100への熱伝達状態を示す。押圧ブロック4は開状態から、さらに開いた全開状態である。この押圧ブロック4の全開状態により、熱伝達ブロック600aは、可撓性シート2を介して流路内部の液体に熱伝達が可能である。可撓性シート2の厚さが0.3mm程度なのに対応して、保持流路111の裏面にあたる固定基板1の厚さを0.4mm程度にして、両側からの熱伝達の条件をほぼ同一にしている。このようにして、熱伝達ブロック600a、600bは核酸検出カセット100の熱伝達を実施する保持流路111に対して、両側から接触して熱伝達を行なう。
【0207】
図56は、流路内部の液体605が熱伝達ユニット600からの熱伝達により膨張している様子を模式的に示したものである。熱伝達ブロック600a、600bは、熱伝達ブロック押ばね604a、604bにより一定の荷重がかけられ、流路内部の液体605が熱膨張すると、可撓性シート2が核酸検出カセット100の外側に膨らみ、流路内部の容積が拡大する。このため、加熱時においても流路内部の圧力上昇が緩和され、核酸検出カセット100の外部および他の流路内部への圧力上昇に伴う流路内部の液体605の漏出を防止することができる。特にPCR法による核酸増幅時における急激な熱循環に伴う、急激な流路内部の圧力変動を緩和するため、核酸増幅時の流路内部の液体漏出に効果がある。
【0208】
可撓性シート2が核酸検出カセット100の外側に膨らむことによって流路内部の圧力上昇が緩和し、かつ接触パッド604aとの接触を維持することによって熱伝達を行うには、可撓性シート2側の熱伝達ブロック押ばね604aは低荷重ばねであり、好ましくは定荷重ばねが用いられる。あるいは、接触パッド604aと可撓性シート2は全面もしく部分的に接触せず近接状態に置かれていても、可撓性シート2への熱伝達と熱膨張を同時に満足することができる。
【0209】
以上のように可撓性シート2の可撓性は、
1)流路内部に変形することにより流路内部の流体に圧力を加え、
連結流路117を介して隣接する保持流路111bに流路内部の流体を送液する。
【0210】
2)熱膨張等の流体の体積増加に対応して、流路外部に変形することにより流路内部の流体の圧力上昇を緩和し、液漏れを防止する。
【0211】
3)熱膨張時にも接触パッド604aと良好な接触もしくは近接状態を維持して熱伝達を行う。
【0212】
という3つの機能を同時に満たすことができる。
【0213】
(5)−3 隣接保持流路冷却
図53に、核酸検出カセット100に対する熱伝達ブロック600a、600b、610a、610bの接触状況を示す。図53で、熱伝達ブロック600a、600bが配置されているのは、核酸増幅を行なう保持流路811aの位置である。例えば、核酸増幅をPCRで実施した場合、98℃付近まで保持流路811aの温度が上昇する。また、等温増幅反応であるLAMP法では60〜65℃に保持流路811aは置かれる。このとき隣接する保持流路811bには、酵素を含む試薬がすでに充填されている。保持流路811bに充填されている酵素は50℃以上になると機能が劣化し始めるので、核酸増幅が実施されている保持流路811aからの熱伝導で、保持流路811bの温度が50℃以上になることを防止しなければならない。このため、隣接する保持流路811bに接している熱伝達ユニット610a、610bは、冷却ユニットとして隣接保持流路811bを冷却する。
【0214】
(5)−4 直列流路
また保持流路811cの試薬、特に検出流路531の核酸プローブは熱に弱いので、核酸増幅実施時には隣接保持流路811bだけでなく、保持流路811c、検出流路531の冷却も必要になる。図53に示すように、核酸検出カセット100は、各保持流路111および退避流路131などの保持流路が直列に配置されているので、核酸増幅実施時でも隣接する保持流路のみを冷却することで、現在加熱下にある保持流路からの熱の移動を、隣接保持流路で吸収(吸熱)することが可能である。これにより、隣接保持流路以降の保持流路の温度上昇を抑制することができる。
【0215】
(5)−5 熱伝達ユニットの効果
以上のように、熱伝達ユニット600及び610と可変流路構造を有する核酸検出カセット100の組合せによる効果は以下のようにまとめられる。
【0216】
a)流路が直列に配置されているので、隣接保持流路の冷却だけで、未使用試薬の温度上昇を抑制できる。
【0217】
b)可変流路に使用する押圧ブロックは可動するので、全開状態を設定することができ、これにより、保持流路に対して損失の少ない両側熱伝達が達成できる。
【0218】
(6)自動制御装置の全体構造
図57は上記各構成を自動制御するための構成を含めた核酸検出システムのブロック図である。図57に示すように、ホストパーソナルコンピュータ751からの指令に基づき、核酸検出カセット100に対して各種操作を行い自動で核酸検出を行うことができる。検査装置本体752には、ホストパーソナルコンピュータ751からの指令に基づき各種構成に制御信号を出力して制御する制御部753が設けられている。制御部753は、メインコントローラ754と、このメインコントローラ754からの指令に基づき動作するアクチュエータドライバ755、温度制御ドライバ756及び電流測定ドライバ757を備える。メインコントローラ754は制御部753外に設けられた電源・ファン758により動作する。
【0219】
アクチュエータドライバ755は例えばステッピングモータドライバで実現される。このアクチュエータドライバ755は、位置センサ764で検出された核酸検出カセット100の位置に基づき送液アクチュエータ762や着脱アクチュエータ763を駆動し送液や着脱動作を実現する。位置センサ764は特に図示されていないが、核酸検出カセット100の後述する駆動ユニット701及び702の移動位置近傍に設置される。送液アクチュエータ762及び着脱アクチュエータ763は、本実施形態では駆動ユニット701及び702で実現される。
【0220】
温度制御ドライバ756は、温度センサ766で検出された温度に基づきヒータ/クーラ765を制御して温度調整を行う。ヒータ/クーラ765は本実施形態では熱伝達ユニット600及び610で実現される。
【0221】
電流測定ドライバ757は、カセットホルダ721により支持された核酸検出カセット100に接続された電気コネクタ703を介して電流信号を取り出し、この電流信号を電流測定端子部761を介して取得する。
【0222】
図58及び図59は上記各反応を自動で実行するための自動制御機構の一例を示す図である。図58は使用時の形態を示す斜視図であり、図59は説明の便宜のため各構成を分離して示した斜視図である。
【0223】
図58に示すように、支持台720上にはカセットホルダ721と固定Xステージ722が固定配置されている。カセットホルダ721はカセット100の外枠の2辺を支持して核酸検出カセット100をX軸方向に操作部に導くレール721a及び721bを有する。固定Xステージ722上には可動Xステージ723が載置され、X駆動装置714により固定Xステージ722上をX方向に位置決め可能である。
【0224】
操作部には、電気コネクタ703と、2つの駆動ユニット701及び702と、2つの熱伝達ユニット600及び610が駆動の対象として設けられている。この操作部は、前述のX方向の駆動系統と、さらにY方向及びZ方向の駆動系統により、X、Y及びZ軸方向に自在に移動可能である。
【0225】
Y方向の駆動系統は、固定Yステージ731と、この固定Yステージ731に対してY方向に位置決め可能にY駆動装置732で駆動可能な可動Yステージ713a及びこの可動Yステージ713aとともに移動する可動取付板713bからなる。固定Yステージ731は、可動Xステージ723に固定されている。したがって、固定Yステージ731は可動Xステージ723のX方向の移動とともにX方向に移動する。
【0226】
Z方向の第1駆動系統は、固定Zステージ725aと、この固定Zステージ725aに対してZ方向に位置決め可能に第1Z駆動装置711で駆動可能な可動Zステージ726aからなる。固定Zステージ725aは可動取付板713bに固定された第1Zステージ取付板724aに固定されており、そのX,Y方向の移動とともに固定Zステージ725aもX,Y方向に移動する。
【0227】
Z方向の第2駆動系統は、固定Zステージ725bと、この固定Zステージ725bに対してZ方向に位置決め可能に第2Z駆動装置712で駆動可能な可動Zステージ726bからなる。固定Zステージ725bは可動取付板713bに固定された第2Zステージ取付板724bに固定されており、そのX,Y方向の移動とともに固定Zステージ725bもX,Y方向に移動する。
【0228】
駆動ユニット701及び702は、この可動Zステージ726a及び726bにそれぞれ取付板727a及び727bを介して固定される。これにより、可動Zステージ726a及び726bのX,Y,Z方向の移動とともに駆動ユニット701及び702がX,Y,Z方向に自在に移動する。
【0229】
また、熱伝達ユニット600及び610も、可動Zステージ726a及び726bに取付台741及び742あるいはさらに取付板727a及び727bを介して選択的に移動可能なように固定され、電気コネクタ703も同様に駆動ユニット701及び702の直上近傍に位置するように可動Zステージ726a及び726bに選択的に移動可能なように固定される。これにより、熱伝達ユニット600及び610、電気コネクタ703も、可動Zステージ726a及び726bのX,Y,Z方向の移動とともにX,Y,Z方向に自在に移動する。ただし、Z方向に関しては選択的に移動することができ、必要とされるタイミングに別個に、熱伝達ユニット600及び610、電気コネクタ703を核酸検出カセット100に近接もしくは接触させることができる。
【0230】
2台の駆動ユニット701及び702を設け、これらを別個に駆動することができる構成をなす。これにより、一方ではパッドを加圧する動作を、他方ではパッドの加圧を開放する動作を行うことにより、送液動作を実現できる。例えば、保持流路の中央を駆動ユニット701を用いて押し込み、保持流路の左翼の加圧を駆動ユニット702で開放するというように利用することで、保持流路内の試薬を循環させることができる。
【0231】
同様に、2台の熱伝達ユニット600及び610を設け、これらを別個に温度制御することができる構成をなす。これにより、一方の流路では加熱し、他方の流路では冷却する等の制御が可能となる。
【0232】
以上説明したように本実施形態の核酸検出カセット100及びこの核酸検出カセット100とこれを自動制御する駆動系、制御系を備えた核酸検出システムによれば、核酸増幅およびその他の必要な処理と目標核酸の検出までを一貫して自動的に閉鎖系で処理することができる。
【0233】
本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
固定基板1、可撓性シート2、カバープレート3の材料は、例示した材料に限定されない。
【0234】
図1に示される各ブロック101、102、103及び106の構成に限定されるものではなく、必要とする反応の内容に応じて異なる種類のブロックを設けてもよい。例えば、中間部ブロック101を省略して端部ブロック102、検出部ブロック106及び端部ブロック103のみで構成してもよいし、図1よりも多くの中間部ブロック101を配置してもよい。
【0235】
各可撓性シート2を押圧するパッドの形状は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、保持流路111や退避流路131のパッドは3つのパッドからなる例を示したが2つ以下であってもよいし、4つ以上であってもよい。
【0236】
また、本実施形態では2つの駆動ユニット701及び702で各流路の開閉を制御する場合を示したが、3つ以上の駆動ユニットを用いてもよい。同様に、熱伝達ユニット600及び610以外にさらに多くの熱伝達ユニットを用いてもよい。
【0237】
(第2実施形態)
本実施形態は第1実施形態の変形例に関わる。本実施形態は、カセット構造や流路パターンの変形例に関わる。本実施形態で特に言及しない限り、第1実施形態と同様の構成が適用される。
【0238】
1.カセット構造の変形例
図60〜図64はそれぞれ変形例に関するカセット構造の断面図であり、第1実施形態の図41の断面図の符号Fで囲まれた部分に対応する。
【0239】
図60は、固定基板に流路を形成する例であり、第1実施形態の図41に示した例と共通する。固定基板771に流路772が形成されており、固定基板771上に可撓性シート773が接着されている。このように、固定基板771側に溝を形成し、この溝を流路772として機能させる。
【0240】
図61は、可撓性シートに流路を形成する例である。固定基板776は溝が形成されていない平板であり、この固定基板776上に流路777の形成された可撓性シート778が接着される。このように、可撓性シート778側に溝を形成し、この溝を流路777として機能させる。
【0241】
図62は固定基板及び可撓性シートの双方に流路を形成する例である。固定基板771に流路772が形成されている。この固定基板771上には流路777が形成された可撓性シート778が接着される。
【0242】
図63は可撓性シートの膨張により流路を形成する例である。固定基板776上には、可撓性シート779を撓ませて固定基板776との間に空間が生じるように接着させる。この空間が流路780として機能する。空間がある状態では流路が開放されている状態である。流路を閉鎖するには、不図示のカバー膨張規制部材で固定基板776に対して可撓性シート779を押さえ込めばよい。
【0243】
図64は固定基板に流路を形成する例であり、固定基板側に表面コーティングを施す例である。流路772の形成された固定基板771表面を覆うようにコーティング部材781が接着されている。固定基板771上の可撓性シート773はこのコーティング部材781を介して固定基板771と接着される。
【0244】
なお、この図60〜図64に示した例はほんの一例にすぎず、また1つの核酸検出カセット内でその機能などに応じて組み合わせて用いることができる。
【0245】
2.流路パターンの変形例
図65は退避流路と検出流路の変形例に係る核酸検出カセット790の模式図である。図65(a)は図42〜図52の模式図に対応して示されているものであり、図65(b)はその保持流路近傍の断面図である。
【0246】
図65(a)の左側から順に、保持流路791a、791b及び791c、退避流路791d、検出流路791e、退避流路791f、保持流路791g及び791hが配置されている。
【0247】
保持流路791aは核酸増幅反応を行うための反応室として用いられる。保持流路791aと791bとは連結バルブ792aを介して連結流路で連結されている。保持流路791aには2つのバルブ793a及び794aを介してそれぞれ試薬や試料を注入することができる。
【0248】
保持流路791bは一本鎖化反応を行うための反応室として用いられる。保持流路791bと791cとは連結バルブ792bを介して連結流路で連結されている。保持流路791bにはバルブ794bを介して試薬を注入することができる。
【0249】
保持流路791cは保護鎖付与反応を行うための反応室として用いられる。保持流路791cと791dあるいは791eとは連結バルブ792cを介して連結流路で連結されている。保持流路791cにはバルブ794cを介して試薬を注入することができる。
【0250】
退避流路791dは検出流路791eの退避流路として用いられる。退避流路791dは検出流路791e及び保持流路791cと連結バルブ792dで連結されている。退避流路791dにはバルブ794dを介して試薬を注入することができる。
【0251】
検出流路791eはハイブリダイゼーションなどの反応を行い検出を行うための反応室として用いられる。
【0252】
退避流路791fは検出流路791eの退避流路として用いられる。退避流路791fは検出流路791e及び保持流路791gと連結バルブ792eで連結されている。退避流路791fにはバルブ794fを介して試薬を注入することができる。
【0253】
保持流路791gは、ハイブリダイゼーションを行った後、検出流路791eにおいて洗浄を行うための洗浄液を保持する室として用いられる。保持流路791gは検出流路791eと保持流路791hと連結バルブ792fを介して連結流路で連結されている。保持流路791gにはバルブ794gを介して試薬を注入することができる。
【0254】
保持流路791hは、ハイブリダイゼーションおよび洗浄を行った後、検出流路791eにおいて挿入剤付与を行うための挿入剤溶液を保持する室として用いられる。保持流路791hは検出流路791eと連結バルブ792gを介して連結流路で連結されている。保持流路791hにはバルブ794hあるいは793bを介して試薬を注入することができる。
【0255】
図65(b)に示すように、各流路791a〜791hは固定基板795上の可撓性シート796に設けられた溝により平面的に形成されており、この点で検出流路と退避流路が上下2層構造に形成されている第1実施形態と異なる。このように、平面構造にすることにより、カセット構造を薄型化することができる。なお、図65(b)の例では退避流路が2つ設けられる場合を示したが、いずれか一方のみを残し他方の退避流路は設けない構造とすることもできる。
【0256】
また、この図65に示す構成以外にも流路パターンを種々変形可能である。例えば、各保持流路や退避流路、検出流路などの反応室の基準容量として48μlの場合を示したが、これを減少させることでカセット構造の小型化を実現できる。
【0257】
また、この図65に示す例のように、単一の可撓性シート796で各保持流路791aなどと検出流路791eを形成することにより、可撓性部材を兼用することもできる。
【0258】
また、第1実施形態で示した例では、核酸検出チップ500がガラス基板500aに固定化されて用いられる例を示したが、これに限定されない。例えば固定基板1に核酸固定化電極501、対抗電極503及び参照電極504などを形成することにより、核酸検出チップ500を一体化することができる。図65に示す固定基板795を使用する場合には、固定基板795上に、核酸固定化電極501、対抗電極503及び参照電極504などを形成することができる。
【0259】
また、第1実施形態で示した例では、核酸検出チップ500が固定基板1に固定化されて用いられる例を示したが、これに限定されない。固定基板1として例えばガラス基板を用いる場合に、このガラス基板に核酸固定化電極501、対抗電極503及び参照電極504などを形成することにより、核酸検出チップ500を一体化することができる。
【0260】
また、第1実施形態の例では保持流路や退避流路は単一線上に配置される例を示したが、複数の直線上にそれぞれ保持流路や退避流路を配置し検出装置を多重化することもできる。図66は多重化した核酸検出カセット797の一例を示す概観斜視図であり、第1実施形態の図4に対応するものである。図66に示すように、端部ブロック102には保持流路111a、111b、…、111nというようにn個の同一構成の保持流路が形成されている。また、隣接する2つの中間部ブロック101にもn個の同一構成の保持流路が形成され、さらに隣接する検出部ブロック106にもn個の同一構成の退避流路131が形成され、さらにこれに隣接する中間部ブロック101にもn個の同じ保持流路が形成され、端部ブロック103にもn個の同じ構成の保持流路が形成されている。また、不図示の保持流路周辺部分の構成もn個についてそれぞれ共通する構成をなす。なお、ここでは詳細に示していないが、ブロック内部の構成は第1実施形態で示したものと共通する。このように、流路構成をn本に多重化することにより、複数の反応及び検出を同時に進めることができ、複数種類の目標核酸を同時検出できる、複数試料を同時検出できる、及び検出データを均一化する等の利点がある。なお、図66の例では、n個の退避流路131、すなわちn個の検出流路531に対して1つの接点部開口151が設けられているが、n個の各々に接点部開口151を配置してもよい。
【0261】
さらに他の流路パターンとしては、上記連続する流路、すなわち反応室の数を拡張し、あるいは縮小する構成である。例えば第1実施形態の例では6つの反応室が連続して配置される例を、図65の例では退避流路を含め8つの流路が連続して配置される例を示したが、この数に限定されないことはもちろんである。
【0262】
このように本実施形態によれば、第1実施形態に示される構成を変形しても第1実施形態と同様に、核酸増幅およびその他の必要な処理と目標核酸の検出までを一貫して自動的に処理するのに用いられる閉鎖型の核酸検出カセットが提供される。
【0263】
(第3実施形態)
本実施形態は第1及び第2実施形態の変形例に関わる。本実施形態は、保持流路や退避流路などの可変流路の形状の変形例に関わる。第1実施形態の例ではほぼ長方形の形状を備えた流路構成を示したが、本実施形態のように、例えばU字型の可変流路を用いてもよい。本実施形態で特に言及しない限り、第1実施形態と同様の構成が適用される。
【0264】
図67及び図68はU字型可変流路を採用した核酸検出カセット900の基本構造の一例を示す図である。図67は組み立て前の分解斜視図を、図68は組み立て後の使用時の構成の斜視図を示す。
【0265】
図67に示すように、核酸検出カセット900はチップホルダ901と、核酸検出チップ902と、チップカバー903と、流路ブロック904と、可撓性シート905と、シールブロック906からなる。核酸検出チップ902には不図示の電極が配置されている。この電極を覆うように流路911が形成された検出流路シール912が接着されチップカバー903でこの検出流路シール912を覆った上でチップホルダ901で核酸検出チップ902、検出流路シール912、チップカバー903を固定する。
【0266】
流路ブロック904の表面には容積可変のU字型流路913が複数形成されている。隣接するU字型流路913は連結バルブ914で連結されている。右側から3番目のU字型流路913は検出流路として機能するもので、この裏面にチップホルダ901が核酸検出チップ902を一体化した状態で固定化される。また、すべてのU字型流路913は可撓性シート905で覆われ、さらにこの可撓性シート905上にはシールブロック906が接着される。以上により図68に示すような核酸検出カセット900が完成する。
【0267】
図69は製品作製時のU字型流路913の構成の一例を示す図である。U字型流路は913a〜913fの6つあり、913aから順に核酸増幅反応室、一本鎖化反応室、保護鎖付与反応室、退避流路、洗浄液保持室、挿入剤保持室として機能する。また、隣接するU字型流路同士は連結バルブ916a〜916gを介して連結流路で連結されている。また、各U字型流路913a〜913fには、それぞれ2つずつ自己封止型ポート917a〜917lが設けられている。退避流路として機能するU字型流路913dの両端には検出流路918が連結されている。
【0268】
図70は製品出荷時の構成例を示す図である。各U字型流路913a〜916f内には必要な試薬がすべて充填されている。使用時は検体のみ注液するだけで、装置による検出が可能となる。
【0269】
図71は容積可変のU字型流路913aの基本構造を説明するための図である。同図(a)は上面図、(b)は断面図である。圧縮用加圧パッド918a〜918cがそれぞれ流路の右翼、左翼及び中央に配置される。自己封止型ポート917aと保持流路913aとの間は出入バルブ924aで開閉が制御され、自己封止型ポート917bと保持流路913aとの間は出入バルブ924bで開閉が制御される。他のU字型流路も同様の構成である。図72はこの圧縮用加圧パッド918a〜918cを用いた流路開閉状態を示す図である。同図(a)は流路全開、(b)は流路半開、(c)は流路全閉状態を示している。
【0270】
図73は自己封止型ポートを用いたカセット注液動作を説明するための斜視図である。自己封止型ポート917a及び917bにそれぞれ注液チップ920a及び逆止弁付チップ920bを挿入する。注液チップ920aには試薬を入れて注液し、逆止弁付チップ920bからエア抜きを行う。自己封止型ポート917a及び917bは膨張及び縮小可能な可撓性部材により構成されており、外力が加わらない状態では膨張した状態で、ポートが閉鎖されカセット内外の気液の行き来を遮断する。この自己封止型ポート917a及び917bに注液チップ920a及び逆止弁付チップ920bを挿入すると、可撓性部材がチップの大きさ分だけ縮小してチップ内とカセット内の流路との間で気液の行き来が可能となる。
【0271】
図74はシールブロック906の詳細な構成を示す図である。流路加圧パッド921a〜921fは流路913a〜913fの各々を加圧するパッドであり、詳細には図71のようにそれぞれ3つのパッド918a〜918cから構成される。連結加圧パッド922a〜922gは流路913a〜913f同士を連結する連結流路を開閉するパッドであり、これらにより連結バルブ916a〜916gが実現される。出入加圧パッド923a〜923lは各流路913a〜913fと自己封止型ポート917a及び917lとの間を結ぶ出入流路を開閉するパッドであり、これにより自己封止型ポート917a及び917lと各流路913a〜913fとの間の連結バルブが実現される。
【0272】
図75は無気泡注液を説明するための図である。図75(a)に示すように、まず流路容積を加圧パッド921aを用いて注入容積の容積に設定する。次に、図75(b)に示すように、注液チップ920a及び逆止弁付チップ920bを自己封止型ポート917a及び917bに差し込んだ上で、気泡を捕獲しないように溶液をゆっくりと注入する。次に、図75(c)に示すように、エア抜き用の逆止弁付チップ920bにわずかに溶液が入るまで注液をし、図75(d)に示すように出入加圧パッド923a及び923bを加圧することにより出入バルブ924a及び924bを閉じて流路を密閉する。
【0273】
図76は試薬を保持する実施形態の変形例に関わる。混合試薬の保存が可能でない場合には、必要な試薬を同図のように保持流路913と隣接する保持流路913とを結ぶ連結流路925に個別試薬保持部926を設けておけばよい。
【0274】
図77は熱伝達時の熱循環動作を説明するための斜視図である。熱伝達ユニット610及び600は、同図Y軸方向及びZ軸方向に可動である。核酸検出カセット900の表裏から挟むように熱伝達ユニット610を接触させる。この際に、流路加圧パッド921aは持ち上げられた状態で可撓性シート905に接触させる。この熱循環時の流路の詳細の模式図を図78に示す。まず、図78(a)に示すように、熱伝達ユニット610で溶液を流路中央部に集中させる。そして、図78(b)に示すように、表裏から熱伝達ユニット610ではさみこみ、931に示す領域を加熱し、また冷却するサイクルを繰り返す。
【0275】
図77に示す工程で核酸増幅のための保持流路913aの加熱・冷却が終わると、さらに図79に示すように、核酸検出カセット900が同図X軸方向に移動し、隣接する保持流路913bの加熱及び冷却と、保持流路913cの余熱が行われ、反応が順次進められる。
【0276】
図80は送液工程の一例を説明するための斜視図である。核酸検出カセット900に対して水平方向、すなわち同図X軸方向に移動可能な送液モジュール933に設けられた加圧パッド開閉ローラ934及び934が核酸検出カセット900表面に設けられたロック部を解除し、あるいは各パッドを加圧してロック部をロックすることで、送液が実現される。加圧パッド開閉ローラ934及び934は同図Y軸方向に可動である。図81は送液の工程を示す模式図である。図81(a)に示すように、連結バルブ916aを開いて保持流路913aを圧縮して送液を開始する。均等に圧縮できるとは限らないため、まず図81(b)に示すように送液元である保持流路913aの左側部分を完全に圧縮する。次に、図81(c)に示すように、保持流路913aの中央部分を圧縮する。最後に、図81(d)に示すように、保持流路913aを完全に圧縮し、連結バルブ916aを閉じる。
【0277】
図82は保持流路913にフィルタ937を配置した例である。例えば核酸増幅後の検体残渣が送液されてしまう場合には、保持流路913の中途部分にフィルタ937を配置し、残渣を除去する。
【0278】
このように本実施形態によれば、第1実施形態や第2実施形態に示される構成を変形しても第1実施形態や第2実施形態と同様に、核酸増幅およびその他の必要な処理と目標核酸の検出までを一貫して自動的に処理するのに用いられる閉鎖型の核酸検出カセットが提供される。
【0279】
本発明は上記第1乃至第3実施形態に限定されるものではない。上記実施形態で示された構成は一例にすぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0280】
以上説明したようにこの発明は、核酸を含む試料の投入から、核酸増幅およびその他の必要な処理と目標核酸の検出までを一貫して自動的に処理するのに用いられる閉鎖型の核酸検出カセット、核酸検出装置およびそれを用いた核酸検出システムの技術分野に有効である。
【図面の簡単な説明】
【0281】
【図1】本発明の第1実施形態に係る核酸検出カセットの概観斜視図。
【図2】同実施形態に係る核酸検出カセットの各構成を分離して示した斜視図。
【図3】同実施形態に係る中間部ブロックの切断部分斜視図。
【図4】同実施形態に係る中間部ブロック、端部ブロック及び検出部ブロックの詳細を示す斜視図。
【図5】同実施形態に係る中間部ブロックをA−A部分で切断した要部断面図。
【図6】同実施形態に係る中間部ブロックをB−B部分で切断した要部断面図。
【図7】同実施形態に係る中間部ブロックをC−C部分で切断した要部断面図。
【図8】同実施形態に係る中間部ブロックをD−D部分で切断した要部断面図。
【図9】同実施形態に係るすべてのロッドを閉じた状態の中間部ブロックの斜視図。
【図10】同実施形態に係るすべてのロッドを省略した状態の中間部ブロックの斜視図。
【図11】同実施形態に係る出入流路用ロッドのみを閉じ、他のロッドを省略した状態の中間部ブロックの斜視図。
【図12】同実施形態に係る連結流路用ロッドのみを閉じ、他のロッドを省略した状態の中間部ブロックの斜視図。
【図13】同実施形態に係る中央ロッドのみを閉じ、他のロッドを省略した状態の中間部ブロックの斜視図。
【図14】同実施形態に係る左翼ロッドのみを閉じ、他のロッドを省略した状態の中間部ブロックの斜視図。
【図15】同実施形態に係る右翼ロッドのみを閉じ、他のロッドを省略した状態の中間部ブロックの斜視図。
【図16】同実施形態に係る中央ロッド、左翼ロッド、右翼ロッドのみを閉じ、他のロッドを省略した状態の中間部ブロックの斜視図。
【図17】同実施形態に係る押圧ブロックの各構成を分解して示した斜視図。
【図18】同実施形態に係る保持流路の工程断面図。
【図19】同実施形態に係る中間部ブロック及び押圧ブロックの切断部分斜視図。
【図20】同実施形態に係る中間部ブロック及び押圧ブロックの切断部分斜視図。
【図21】同実施形態に係る中間部ブロック及び押圧ブロックの切断部分斜視図。
【図22】同実施形態に係る中間部ブロック及び押圧ブロックの切断部分斜視図。
【図23】同実施形態に係る中間部ブロック及び押圧ブロックの切断部分斜視図。
【図24】同実施形態に係る中間部ブロック及び押圧ブロックの切断部分斜視図。
【図25】同実施形態に係る連結流路の断面図。
【図26】同実施形態に係る出入流路の断面図。
【図27】同実施形態に係る試薬送液の工程を模式的に示す図。
【図28】同実施形態に係る試薬送液の工程に沿った保持流路の断面図。
【図29】同実施形態に係る開口部の要部断面図。
【図30】同実施形態に係る試料注入工程の模式図。
【図31】同実施形態に係る一定量送液工程の模式図。
【図32】同実施形態に係る最大保持量送液工程の模式図。
【図33】同実施形態に係る1流路内加圧移動工程の模式図。
【図34】同実施形態に係る1流路内等圧移動工程の模式図。
【図35】同実施形態に係る2流路間往復移動工程の模式図。
【図36】同実施形態に係る核酸検出チップの斜視図。
【図37】同実施形態に係る検出流路シールを載置した核酸検出チップの斜視図。
【図38】同実施形態に係る流路基板を含む検出部ブロックを表面側から見た斜視図。
【図39】同実施形態に係る検出部ブロックを表面側から見た斜視図。
【図40】同実施形態に係る検出部ブロックを裏面側から見た斜視図。
【図41】同実施形態に係る検出部ブロックのE−E断面図。
【図42】同実施形態に係る核酸検出カセットの流路系の初期注入の模式図。
【図43】同実施形態に係る核酸検出カセットの流路系の1本鎖化の模式図。
【図44】同実施形態に係る核酸検出カセットの流路系の保護鎖付与の模式図。
【図45】同実施形態に係る核酸検出カセットの流路系のハイブリダイゼーションの模式図。
【図46】同実施形態に係る核酸検出カセットの流路系のエアパージその1の模式図。
【図47】同実施形態に係る核酸検出カセットの流路系の使用済生成物の送液その1の模式図。
【図48】同実施形態に係る核酸検出カセットの流路系の使用済生成物の送液その2の模式図。
【図49】同実施形態に係る核酸検出カセットの流路系の洗浄の模式図。
【図50】同実施形態に係る核酸検出カセットの流路系のエアパージその2の模式図。
【図51】同実施形態に係る核酸検出カセットの流路系の挿入剤の移送の模式図。
【図52】同実施形態に係る核酸検出カセットの流路系の挿入および電気化学的測定の模式図。
【図53】同実施形態に係る熱伝達ユニットの閉鎖系の核酸検出カセットへの熱伝達時の構成の一例を示す斜視図。
【図54】同実施形態に係る熱伝達ユニットを核酸検出カセットから離間した状態の断面図。
【図55】同実施形態に係る熱伝達ユニットを核酸検出カセットに接触させた状態の断面図。
【図56】同実施形態に係る熱伝達ユニットを核酸検出カセットに接触させた状態の断面図。
【図57】同実施形態に係る核酸検出システムのブロック図。
【図58】同実施形態に係る自動制御機構の一例を示す図。
【図59】同実施形態に係る自動制御機構の各構成を分離して示した斜視図。
【図60】本発明の第2実施形態に係るカセット構造の断面図。
【図61】同実施形態に係るカセット構造の断面図。
【図62】同実施形態に係るカセット構造の断面図。
【図63】同実施形態に係るカセット構造の断面図。
【図64】同実施形態に係るカセット構造の断面図。
【図65】同実施形態に係る退避流路と検出流路の変形例に係る核酸検出カセットの模式図。
【図66】同実施形態に係る多重化した核酸検出カセットの一例を示す概観斜視図。
【図67】同実施形態に係るU字型可変流路を採用した核酸検出カセットの組み立て前の分解斜視図。
【図68】同実施形態に係るU字型可変流路を採用した核酸検出カセットの組み立て後の使用時の構成の斜視図。
【図69】同実施形態に係る製品作製時のU字型流路の構成の一例を示す図。
【図70】同実施形態に係る核酸検出カセットの製品出荷時の構成例を示す図。
【図71】同実施形態に係る容積可変のU字型流路の基本構造を説明するための図。
【図72】同実施形態に係る圧縮用加圧を用いた流路開閉状態を示す図。
【図73】同実施形態に係る自己封止型ポートを用いたカセット注液動作を説明するための斜視図。
【図74】同実施形態に係る流路ブロックの詳細な構成を示す図。
【図75】同実施形態に係る無気泡注液を説明するための図。
【図76】同実施形態に係る試薬を保持する実施形態の変形例を示す図。
【図77】同実施形態に係る熱伝達時の熱循環動作を説明するための斜視図。
【図78】同実施形態に係る熱循環時の流路の詳細の模式図。
【図79】同実施形態に係る熱伝達時の熱循環動作を説明するための斜視図。
【図80】同実施形態に係る送液工程の一例を説明するための斜視図。
【図81】同実施形態に係る送液の工程を示す模式図。
【図82】同実施形態に係る保持流路にフィルタを配置した例を示す図。
【符号の説明】
【0282】
1…固定基板、2…可撓性シート、3…カバープレート、4…押圧ブロック
100…核酸検出カセット、101…中間部ブロック、102、103…端部ブロック、06…検出部ブロック、111…保持流路、112,113…連結流路、114,115…出入流路、116〜117…連結流路、118〜119…検出流路端部、121,122…開口部、125…シールレセス、126…左導入流路、127…右導入流路、128…チップレセス、131…退避流路、151…接点部開口、300…ピペット、301,302…先端チップ、303…試薬、304…気体、305…試料、314,315…出入バルブ、316,317…連結バルブ、401〜408…押圧パッド、411〜417…可動ロッド、414a…棒状部材、414b…支点部、431〜437…ロック部、444a,444b…前方支点部、446…後方支点部、451,461…支点部、452,462…棒状部材、453,463…爪状部材、500…核酸検出チップ、501…核酸固定化電極、501,503,504…電極、502…核酸プローブ、511,513,514…接点、520…検出流路シール、521…流路開口、531…検出流路、600,610…熱伝達ユニット、601a…ペルチェ素子、602a…ヒートシンク、603a…冷却ファン、604a…接触パッド、701,702…駆動ユニット、703…電気コネクタ、711…Z駆動装置、713a…可動Yステージ、713b…可動取付板、714…X駆動装置、720…支持台、721…カセットホルダ、721a,721b…レール、722…固定Xステージ、723…可動Xステージ、724…Zステージ取付板、725…固定Zステージ、726…可動Zステージ、727…取付板、732…Y駆動装置、741…取付台、751…ホストパーソナルコンピュータ、752…検査装置本体、753…制御部、754…メインコントローラ、755…アクチュエータドライバ、756…温度制御ドライバ、757…電流測定ドライバ、758…電源・ファン、761…電流測定端子部、762…送液アクチュエータ、763…着脱アクチュエータ、764…位置センサ、765…クーラ、766…温度センサ、771…固定基板、772…流路、773…可撓性シート、776…固定基板、777…流路、778…可撓性シート、779…可撓性シート、780…流路、781…コーティング部材、790…核酸検出カセット、791a〜791h…流路、792a〜792g…連結バルブ、793a,793b,794a〜794h…バルブ、795…固定基板、796…可撓性シート、797…核酸検出カセット、811a〜811f…流路、814…出入バルブ、831〜837…連結バルブ、900…核酸検出カセット、901…チップホルダ、902…核酸検出チップ、903…チップカバー、904…流路ブロック、905…可撓性シート、906…シールブロック、911…流路、912…検出流路シール、913…U字型流路、914…連結バルブ、916a〜916g…連結バルブ、917a…自己封止型ポート、918…検出流路、918a〜918c…圧縮用加圧パッド、920a…注液チップ、920b…逆止弁付チップ、921a〜921f…流路加圧パッド、922a〜922g…連結加圧パッド、923a〜923l…出入加圧パッド、924a,924b…出入バルブ、925…連結流路、926…個別試薬保持部、933…送液モジュール、934…加圧パッド開閉ローラ、937…フィルタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に含まれる核酸を検出するために固定部材と可撓性部材との組合せにより流路が構成された核酸検出カセットであって、
前記流路は、容積が可変で試薬を保持可能でかつ前記核酸検出カセット外部と連通可能な開状態と閉鎖可能な閉状態を選択可能な出入口孔を有する保持流路と、この保持流路に接続され保持流路と連通可能な開状態と閉鎖可能な閉状態を選択可能な連結流路とを備え、
前記核酸検出カセットは、
前記出入口孔を閉状態で維持可能な出入口開閉手段と、
前記連結流路を閉状態で維持可能な連結流路開閉手段と
を備えることを特徴とする核酸検出カセット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【図45】
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【図46】
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【図47】
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【図48】
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【図49】
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【図50】
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【図51】
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【図52】
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【図53】
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【図54】
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【図55】
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【図56】
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【図57】
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【図58】
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【図59】
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【図60】
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【図61】
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【図62】
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【図63】
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【図64】
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【図65】
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【図66】
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【図67】
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【図68】
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【図69】
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【図70】
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【図71】
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【図72】
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【図73】
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【図74】
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【図75】
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【図76】
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【図77】
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【図78】
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【図79】
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【図80】
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【図81】
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【図82】
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【公開番号】特開2008−228735(P2008−228735A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−94323(P2008−94323)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【分割の表示】特願2004−331912(P2004−331912)の分割
【原出願日】平成16年11月16日(2004.11.16)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】