説明

核酸試料検査装置

【課題】複数種類の処理を並列処理しながら、ピペットチップの使用数を最少にする。
【解決手段】種類の異なる複数の反応エリアと、液体を分注するためのピペット1と、ピペット1に着脱可能なピペットチップと、ピペットチップを保持可能なピペットチップ収納部3、8、13、19とを有する。ピペットチップ収納部3、8、13、19は、前記反応エリアに設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核酸試料検査装置に関するものである。より具体的には、反応工程が複数にわたる検査を行うために、同一検体が含まれている溶液を複数回分注する核酸試料検査装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、マイクロアレイ、DNAチップ等の試験片を用いた遺伝子解析が行われている。この種の遺伝子解析では、DNAチップと、蛍光色素などで標識付けられたDNAなどの試料とをハイブリダイゼーション条件下で接触させる。ここで、DNAチップとは、スライドガラスやシリコン基板などからなる基板の表面に、多数のDNAプローブがプローブスポットとしてマトリクス上に配置固定されたものである。検出体(DNAチップ)及び試料に互いにハイブリダイゼーションする核酸が含まれていれば、標識物質がプローブ核酸を介して検出体に固定される。そして検出体上のどこに標識物質が存在するかを検出することにより、ハイブリダイズした核酸の種類を特定することができる。
【0003】
このハイブリダイゼーション反応を利用したDNAマイクロアレイは、病原菌を特定する医療診断や患者の体質等を検査する遺伝子診断への応用が期待されている。
【0004】
核酸試料検査装置のように、検体や試薬といった液体のハンドリングを行う装置においては、一般的に液体のハンドリングにピペットが使用される。さらに、使用されるピペットは、ピペットチップをシリンジ先端部に装着するタイプが一般的である。この場合、コンタミネーションを防止するため、使い捨てのピペットチップが用いられるのが普通である。より具体的には、一種類の液体に対して1個のピペットチップが使用され、使用後は廃棄される。そこで、ピペットチップの廃棄数を削減するために、ピペットチップを洗浄したり(特許文献1参照)、ピペットチップを一時的にピペットチップ収納ケースに置いたりする装置(特許文献2参照)が提案されている。
【特許文献1】特開平5−307043号公報
【特許文献2】特開平9−96643号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DNAプローブの解析においては微量のDNAを扱うため、液量の精度、コンタミネーションなどに留意する必要があり、ディスポーザブルのチップを用いると廃棄量が多くなってしまうという上述の問題がある。さらに、遺伝子検査においては、DNAの抽出、増幅、ハイブリダイゼーション、検出という複数の異なる工程処理を行う必要があり、解析を迅速に、しかも多量に行うためには複数の工程を同時に並列処理する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の核酸試料検査装置は、種類の異なる複数の反応エリアと、液体を分注するための分注手段と、前記分注手段に着脱可能なピペットチップと、前記ピペットチップを保持可能なピペットチップ収納部を有している。前記ピペットチップ収納部が前記反応エリアに設けられていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
反応エリアにピペットチップ収納部が設けられた本発明の核酸試料検査装置によれば、処理中の検体用のピペットチップを仮置きすることが可能である。よって、1つのピペットユニットで複数種類の処理を並列処理しながら、ピペットチップの使用数を最少にすることができる。さらには各反応処理部とピペットチップ収納部が近接した位置に配置され、効率よい分注が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1は本発明の核酸試料検査装置の正面図である。核酸試料検査装置の前面に設けた右扉21、左扉22を開放しウェル等を装置セット部に設置する。図2は本発明の核酸試料検査装置の第1の上面図である。右扉21、左扉22を開放した状態の図である。図3は本発明の核酸試料検査装置の右側面図である。図4は図2のA−A断面図である。図5は、図1のB−B断面図である。
【0009】
検体、試薬など液体をハンドリングするためのピペット1は、該ピペット1を図5の紙面左右方向に往復移動させるためのピペットガイド2と接続されて配置されている。また、ピペット1の移動可能範囲には、新しいピペットチップを配置するためのピペットチップ収納部3、検体置場4が設けられている。これらピペットチップ収納部3及び検体置場4の隣には、第1工程部(第1の反応エリア)が設けられている。第1工程部は、ピペット1の移動方向と直交する方向に往復移動可能な搬送キャリア5と、該搬送キャリア5の移動を案内する搬送ガイド6とを有する。さらに、搬送キャリア5の上には、試薬容器7及びピペットチップ収納部8が配置される。また、搬送キャリア5の移動範囲内には、処理部9が設けられている。
【0010】
第1工程部の隣には、第1工程部と基本構成を同一にする第2工程部(第2の反応エリア)が配置されている。第2工程部は、搬送キャリア10と搬送ガイド11とを有し、搬送キャリア10の上には、試薬容器12、ピペットチップ収納部13が配置される。また、搬送キャリア10の移動範囲内には、処理部14が設けられている。第2工程部の隣には、第2工程部と基本構成を同一にする第3工程部(第3の反応エリア)が配置されている。第3工程部は、搬送キャリア15と搬送ガイド16とを有し、搬送キャリア15の上には、DNAマイクロアレイ17、試薬容器18、ピペットチップ収納部19が配置される。また、搬送キャリア10の移動範囲内には、処理部20が設けられている。
【0011】
上記構成において、検体置場4に検体、ピペットチップ収納部3に未使用のチップ、搬送キャリア5のピペットチップ収納部8にピペットチップ、試薬容器7に試薬がそれぞれ配置されると、第1工程の処理が開始される。尚、試薬容器7に試薬を配置するとは、搬送キャリア5上の試薬容器7に試薬を供給する場合と、予め試薬が供給された試薬容器7を搬送キャリア5上に載せる場合の双方を含む。
【0012】
もっとも、処理開始条件は上記に限られない。例えば、搬送キャリア10、15の収容部13、19、試薬容器12,18にそれぞれチップ又は試薬が配置され、かつ、DNAピペットチップ収納部17にDNAマイクロアレイが配置されていなければ処理が開始されないようにしてもよい。
【0013】
まず、第1工程を処理するために、搬送キャリア5は処理部9まで移動する。次に、ピペット1は、ピペットチップ収納部3において未使用のチップを装着し、検体置場4の検体を吸引する。次いで、ピペット1は、処理部9の位置まで移動し、検体を試薬容器7に吐出する。その後、処理部9において所定の処理が行われ、第1工程の処理が終了する。ここでの第1工程の処理とは、例えば抽出・精製処理であって、試薬の混合、攪拌などの工程を含む。抽出・精製処理が終了すると、試薬容器7には検体から取り出されたDNAがセットされる。
【0014】
次に第2工程を処理するために、搬送キャリア10は処理部14まで移動する。一方、ピペット1は、第1工程処理産物を試薬容器7から吸引し、試薬容器12に吐出する。その後、試薬容器12において所定の処理が行われ、第2工程の処理が終了する。ここでの第2工程の処理とは、例えば増幅処理であって、試薬の混合、攪拌、温調などの工程を含む。増幅処理が終了すると、試薬容器12には増幅されたDNAがセットされる。
【0015】
次に第3工程を処理するために、搬送キャリア15は処理部20まで移動する。一方、ピペット1は、第2工程処理産物を試薬容器12から吸引し、試薬容器18に吐出する。その後、試薬容器18において試薬混合、攪拌が行われ、混合液が生成される。次に、混合液がDNAマイクロアレイ17上にセットされ、処理部20において温度調節が行われ、第3工程の処理が実行される。ここでの第3工程の処理とは、例えばハイブリダイゼーションである。DNAマイクロアレイ17は、DNAプローブ上に混合液を溜めてハイブリダイゼーション反応させられるような構造をしていればよい。例えば、DNAマイクロアレイ17上にカバーがかかっているようなものでもよい。或いは、液の注入口、流路、チャンバー、排出口を持つようなカートリッジ構造であってもよい。
【0016】
第3工程の処理が終了すると、不図示の検出部においてDNAマイクロアレイ17上での反応結果が検出される。検出部は、搬送キャリア15の可動範囲領域内に配置されてもよく、或いは不図示のDNAチップ用の搬送系などを用いてDNAマイクロアレイ17を検出部に搬送してもよい。或いは、本装置は検出部を具備せず、別の検出装置を用いて反応結果を検出するような構成としてもよい。
【0017】
各工程部に配置されているピペットチップ収納部8、13、19は、各工程実行中においてピペットが動作をしない場合に、チップを一時的に置いておくためのものである。例えば、複数工程を同時に処理する場合、ある工程ではチップがピペットチップ収納部に置かれ、ある工程ではチップがピペットに装着されていて処理中である、というように使用される。
【0018】
本実施例においては、ピペットチップは全ての工程に対して処理終了後、図示しない方法で廃棄される。また、試薬容器7、12、18は、試薬の混合用或いは反応用の容器を兼ねており、各工程が終了後に不図示の手段によって回収・廃棄される。
【0019】
また、ピペットチップ収納部8、13、19も、不図示の手段によって回収される。ディスポーザブルでない場合は、ピペットチップ収納部8、13、19にチップを置いても、これら収容部8、13、19には液が付着しないような構造、或いは付着する部分のみ交換可能な構造であればよい。
【0020】
また、上記実施例では、試薬は全て予め試薬容器に入れた状態で搬送キャリア上に載せる構成としている。しかし、試薬が予め装置内に保管されており、必要に応じてピペットや他の手段で試薬容器に供給されるような構成でもよい。
【0021】
また、検体置場は、搬送キャリア上にセットして使用するような構成であってもよい。
【0022】
図6は、ピペットチップ収納部8、13の使用タイミングを説明するフローチャートであり、増幅工程の所要時間が抽出工程の所要時間よりも長い場合のフローチャートである。
【0023】
まず、ピペットチップ収納部3においてピペット1にチップAが装着される(ステップS1)。次いで、ピペット1によって、検体Aが検体置場4から取り出され(ステップS2)、取り出された検体Aが試薬容器7へ入れられ(ステップS3)、検体Aの抽出が開始される(ステップS4)。
【0024】
検体Aの抽出が終了すると(ステップS5)、増幅の準備のために、検体A抽出物が試薬容器7から取り出され(ステップS6)、試薬容器12へ入れられる(ステップS7)。増幅の準備が完了すると、検体A抽出物の増幅が開始される(ステップS8)。尚、ステップS6が終了した後に、使用された試薬容器7は廃棄される。
【0025】
その後、次の検体Bが抽出処理待ちか否かが判定され(ステップS9)、処理待ちと判断された場合には、チップAがピペットチップ収納部13へ置かれる(ステップS10)。次に、ピペットチップ収納部3においてピペット1にチップBが装着され(ステップS11)、検体Bが検体置場4から取り出される(ステップS12)。ステップ13に進むまでに新しい試薬容器7がセットされ、セットされた試薬容器7へ検体Bが入れられる(ステップS13)。次いで、検体Bの抽出が開始され(ステップS14)、然る後、抽出が終了する(ステップS15)。
【0026】
検体Bの抽出終了後、チップBがピペットチップ収納部8に置かれる(ステップS16)。次に、ピペット1がピペットチップ収納部13に移動し、該収容部13においてチップAが装着され(ステップS17)、試薬容器12で実行中の増幅処理が続行され、然る後、検体Aの増幅が終了する(ステップS19)。
【0027】
図7は、ピペットチップ収納部8、13の使用タイミングを説明するフローチャートであり、増幅工程と抽出工程のそれぞれの終了時刻を判断する手段を持つ場合である。
【0028】
まず、ピペットチップ収納部3においてピペット1にチップAが装着され(ステップS1)、検体Aが検体置場4から取り出される(ステップS2)。次に、取り出された検体Aが試薬容器7へ入れられ(ステップS3)、検体Aの抽出が開始される(ステップS4)。検体Aの抽出が終了すると(ステップS5)、増幅の準備のために、検体A抽出物が試薬容器7から取り出され(ステップS6)、試薬容器12へ入れられる(ステップS8)。増幅の準備が完了すると、検体A抽出物の増幅が開始される(ステップS8)。
【0029】
その後、次の検体Bが抽出処理待ちか否かが判定され(ステップS9)、処理待ちと判断された場合には、チップAがピペットチップ収納部13へ置かれる(ステップS10)。次に、ピペットチップ収納部3においてピペット1にチップBが装着され(ステップS11)、検体Bが検体置場4から取り出される(ステップS12)。その後、取り出された検体Bが試薬容器7へ入れられ(ステップS13)、検体Bの抽出が開始される(ステップS14)。
【0030】
次に、検体Bの抽出と検体Aの増幅のどちらでピペット動作が必要になるのかが判定される(ステップS15)。検体Bの抽出でピペットが必要であれば抽出が続行される。抽出が終了すると(ステップS16)、チップBがピペットチップ収納部8に置かれる(ステップS17)。その後、ピペットチップ収納部13でチップAが装着され(ステップS18)、検体Aの増幅が続けられ(ステップS19)、検体Aの増幅が終了する(ステップS20)。
【0031】
一方、ステップS15において、検体Aの増幅のためにピペットが必要だと判断されると、ステップS21に進みチップBがピペットチップ収納部8に置かれる。その後、ピペットチップ収納部13においてチップAが装着され(ステップS22)、検体Aの増幅が続けられ(ステップS23)、然る後、増幅が終了する(ステップS24)。次に、ピペットチップ収納部13にチップAが置かれ(ステップS25)、ピペットチップ収納部8においてチップBが装着される(ステップS26)。次いで、検体Bの抽出作業が続行され(ステップS27)、然る後、検体Bの抽出が終了する(ステップS28)。
【0032】
図7に示すフローチャートでは、ピペット1の優先度の判定を一回しか行っていないが、判定は複数回行ってもよいことはいうまでもない。
【0033】
以上、図6では、第1および第2工程の同時処理についてのフローの例を示した。しかし、例えば3つの工程の同時処理や、第1と第3工程の同時処理の場合も同様の手順で処理すればよく、使用中のチップを必要に応じて各工程のピペットチップ収納部8、13、19に配置してピペット1をシーケンシャルに動作させて並列処理を行えばよい。
【0034】
以上の構成を採用することにより、複数工程を同時に効率よく処理しながら、廃チップ量も少なくすることが可能となり、かつコンタミネーションの心配も無く非常に有用である。
【0035】
図8(a)、(b)は、ピペットチップ収納部8の一例を示す。図8(a)は、ピペットチップ収納部8に小容量のチップA1が配置された状態、同図(b)は、大容量のチップA2が配置された状態を示している。核酸試料検査装置のように複数種類の反応工程を持つ場合、工程によってハンドリングする液体の量が、例えば数μlから数百μlまで大きく異なる場合がある。このような場合に液量の分注精度を保つためには、液量に合わせて複数種類のピペットチップを使い分ける必要がある。従って、1種類のピペットチップ収納部に複数種類のチップを置くことが可能であることは非常に有用である。
【0036】
図8(a)、(b)には、ピペットチップ収納部8の具体例を示したが、図5に示す他のピペットチップ収容部3、13、19も同様の構成とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の核酸試料検査装置の正面図である。
【図2】本発明の核酸試料検査装置の上面図である。
【図3】本発明の核酸試料検査装置の右側面図である。
【図4】図2のA−A断面図である。
【図5】図1のB−B断面図である。
【図6】本発明の核酸試料検査装置による処理手順の一例を示すフローチャート図である。
【図7】本発明の核酸試料検査装置による処理手順の他例を示すフローチャート図である。
【図8】(a)、(b)は、本発明の核酸試料検査装置が備えるピペットチップ収納部の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 ピペット
3、8、13、19、 ピペットチップ収納部
4 検体置場
7、12、18 試薬容器
A、B チップ
21 右扉
22 左扉
23 核酸試料検査装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
種類の異なる複数の反応エリアと、
液体を分注するための分注手段と、
前記分注手段に着脱可能なピペットチップと、
前記ピペットチップを保持可能なピペットチップ収納部を有し、
前記ピペットチップ収納部が前記反応エリアの少なくとも一部に設けられている核酸試料検査装置。
【請求項2】
前記ピペットチップ収納部が前記複数の反応エリア毎に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の核酸試料検査装置。
【請求項3】
前記複数の反応エリア毎に試薬容器を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の核酸試料検査装置。
【請求項4】
前記ピペットチップ収納部と前記試薬容器を前記反応エリアに搬送するための搬送手段が前記複数の反応エリア毎に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の核酸試料検査装置。
【請求項5】
複数の反応エリアにおいて、各反応を同時に処理可能である請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の核酸試料検査装置。
【請求項6】
前記ピペットチップがディスポーザブルであって、かつ、複数の反応エリアにおいて繰返し使用可能であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の核酸試料検査装置。
【請求項7】
前記ピペットチップ収納部がディスポーザブルであることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の核酸試料検査装置。
【請求項8】
前記ピペットチップ収納部が複数種類のピペットチップを保持可能であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の核酸試料検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−127621(P2007−127621A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−208662(P2006−208662)
【出願日】平成18年7月31日(2006.7.31)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】