説明

栽培容器および育苗用トレー

【課題】培土に必要量の水を無駄なく供給でき、植物を良好に成長させることができる上、日常管理を省力化できる栽培容器を提供することにある。
【解決手段】本発明の栽培容器は、底部とこの底部の外周から上方が広がるようなテーパ状に立ち上がる側壁部とを備えた栽培容器であって、側壁部が、通水性を有する通水壁部と貯水壁部とで構成され、通水壁部が底部にも形成されているとともに、貯水壁部が通水壁部の上端側に一連に形成されていて、培土が収容された容器内に水を供給したときに、培土の表面と貯水壁部で形成される空間部に貯水可能であることを特徴とするものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物を栽培するための栽培容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、植物を栽培するための栽培容器としては、底部とこの底部の外周から立ち上がる筒状の側壁部とを備え、側壁部の上端開口部近傍から底部の中央部に設けられた排水孔近傍にかけて連続してのびる複数条のスリットが設けられた育苗用ポットが開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】実開平5−43838号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記の育苗用ポットは、スリットの上端部が側壁部の上端開口部近傍に設けられているため、育苗用ポットに水を供給した時に、供給された水の大部分が、スリットの上端部から外部に排出されてしまい、ポット内の培土に必要量の水が浸透しにくいため、水分不足を引き起こし、植物の生育が阻害されるという不具合もある。
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、培土に必要量の水を無駄なく供給でき、植物を良好に成長させることができる上、日常管理を省力化できる栽培容器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1記載の発明にかかる栽培容器は、底部とこの底部の外周から上方が広がるようなテーパ状に立ち上がる側壁部とを備えた栽培容器であって、側壁部が、通水性を有する通水壁部と貯水壁部とで構成され、通水壁部が底部にも形成されているとともに、貯水壁部が通水壁部の上端側に一連に形成されていて、培土が収容された容器内に水を供給したときに、培土の表面と貯水壁部で形成される空間部に貯水可能であることを特徴とするものである。
ここで、培土とは、植物を栽培するための媒体となるもの、例えば土、砂、ピートモス、燻炭、腐葉土等とする。
【0005】
また、上記栽培容器は、通水壁部が、網目状またはスリット状に形成されていてもよい。
【0006】
請求項2記載の育苗用トレーは、複数の育苗ポットが連接して配置された育苗用トレーであって、育苗ポットが、底部とこの底部の外周から上方が広がるようなテーパ状に立ち上がる側壁部とを備え、側壁部が、通水性を有する通水壁部と貯水壁部とで構成され、通水壁部が底部にも形成されているとともに、貯水壁部が通水壁部の上端側に一連に形成されていて、培土が収容された容器内に水を供給したときに、培土の表面と貯水壁部で形成される空間部に貯水可能であることを特徴とするものである。
【0007】
また、上記育苗用トレーは、通水壁部が、網目状またはスリット状に形成されていてもよい。
【0008】
さらに、上記育苗用トレーは、支持脚を有し、育苗ポットの底部と設置面との間に空間を形成可能な高さに育苗ポットが支持されていてもよい。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の発明の栽培容器によれば、側壁部が、通水性を有する通水壁部と貯水壁部とで構成され、通水壁部が底部にも形成されているとともに、貯水壁部が通水壁部の上端側に一連に形成されていて、培土が収容された容器内に水を供給したときに、培土の表面と貯水壁部で形成される空間部に貯水可能であるので、供給された水は、培土の表面と貯水壁部で形成される空間部に一旦貯水された後、徐々に培土にしみ込んでいく。したがって、培土に必要量の水を無駄なく供給でき、植物を良好に成長させることができる上、幾度にも分けて水を供給する手間が省け、日常管理を省力化できる。
【0010】
また、側壁部と底部とに通水性を有する通水壁部が形成されているので、容器下方の培土に長時間水が滞留することなく適宜排出または蒸散されるため、植物をより良好に成長させることができる。
【0011】
さらに、上記栽培容器において、通水壁部が、網目状またはスリット状に形成されているものでは、より効果的に容器内の水が排出または蒸散されるので、根腐れ等を効果的に防止できる上、通気性もよいため、根回りを防止して、大気中の酸素を植物の苗の根や培土に十分供給でき、植物をより良好に成長させることができる。
【0012】
請求項3記載の発明の育苗用トレーによれば、複数の育苗ポットが連接して配置された育苗用トレーであって、育苗ポットが、底部とこの底部の外周から上方が広がるようなテーパ状に立ち上がる側壁部とを備え、側壁部が、通水性を有する通水壁部と貯水壁部とで構成され、通水壁部が底部にも形成されているとともに、貯水壁部が通水壁部の上端側に一連に形成されていて、培土が収容された容器内に水を供給したときに、培土の表面と貯水壁部で形成される空間部に貯水可能であるので、供給された水が、培土の表面と貯水壁部で形成される空間部に一旦貯水された後、徐々に培土にしみ込んでいく。したがって、培土に必要量の水を無駄なく供給でき、植物を良好に成長させることができる上、幾度にも分けて水を供給する手間が省け、日常管理を省力化できる。
【0013】
また、側壁部と底部とに通水性を有する通水壁部が形成されているので、容器下方の培土に長時間水が滞留することなく適宜排出または蒸散され、植物をより良好に成長させることができる。さらに、多数の育苗ポットを同時に運搬できるため取り扱いが容易であるという利点もある。
【0014】
また、上記育苗用トレーにおいて、通水壁部が、網目状またはスリット状に形成されているものでは、より効果的に容器内の水が排出または蒸散されるので、根腐れ等を効果的に防止できる上、通気性もよいため、根回りを防止して、大気中の酸素を植物の苗の根や培土に十分供給でき、植物をより良好に成長させることができる。
【0015】
さらに、上記育苗用トレーにおいて、支持脚を有し、育苗ポットの底部と設置面との間に空間を形成可能な高さに育苗ポットが支持されるものでは、育苗ポットの底部からの排水が妨げられず、通水壁部の通水性を保持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明にかかる栽培容器の一実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本実施形態の栽培容器P1は、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等の合成樹脂材料を射出成形したもので、容器内部に培土を充填しても変形しない程度の強度を有しており、図1から図3に示すように、略円板状の底部2と、この底部2の外周からテーパ状に立ち上がる側壁部3とを備え、上方に開口部4を有している。栽培容器P1の各部分の寸法としては、底部2の内径が約60mm、開口部4の内径が約90mmで、開口部4から底部2までの深さが約75mmであり、容器の厚さが約2mmとなっている。
【0018】
底部2は、図3に示すように、環状の枠部201と、直径約15mmの円板状の中央部202と、枠部201と中央部202との間に形成される通水底部203とで構成されている。通水底部203は、細かい格子状に形成され、容器内部に連通する約3mm角の略矩形の通水窓204が多数形成されている。
【0019】
側壁部3は、断面略円形状で、下端側から上端側に向かって広がるテーパ状に形成されており、通水性を有する通水壁部31と貯水壁部32とで構成されている。通水壁部31も通水底部203と同様に、細かい格子状に形成され、容器内部に連通する約3mm角の略矩形の連通窓310が多数形成されている。貯水壁部32は、非通水性材料、すなわち水を通過させない材料からなる環状の板状に構成されており、貯水壁部32は、通水壁部31の上端側に、側壁部3の下端部から上端部までの長さの25%前後の割合で一連に形成されている。
【0020】
上記構成の栽培容器P1には、培土Gが充填され、植物Pが植えられる。培土Gは、その表面が栽培容器P1の上端付近に位置するまで充填される。そして、栽培容器P1の開口部4から培土Gの表面に水を供給すると、培土G内部の空気が追い出されて培土Gが締まり、培土Gの位置は、充填時に比べて約10%下がる。そして、供給された水は、図2に示すように、培土Gの表面と貯水壁部32とで形成される空間部に一旦貯水されて、貯水層Sを形成した後、徐々に培土Gにしみ込んでいく。したがって、培土Gに必要量の水を無駄なく供給できる上、幾度にも分けて水を供給する手間が省け、日常管理を省力化できる。
【0021】
さらに、通水底部203と通水壁部31とに通水窓204と連通窓310とがそれぞれ形成されているので、容器下方の培土に長時間水が滞留することなく適宜排出または蒸散されるため、根腐れ等を効果的に防止できる。また、通水窓204と連通窓310を形成したので通気性もよく、根回りを防止して、大気中の酸素を植物の根や培土に十分供給できるため、植物をより良好に生育させることができる。
【0022】
次に、本発明にかかる育苗用トレーの一実施形態について説明する。本実施形態の育苗用トレーP2は、栽培容器P1と同様に、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂等の合成樹脂材料を射出成形したもので、容器内部に培土を充填しても変形しない程度の強度を有している。そして、図4に示すように、平面視略矩形の平板状のトレー本体5と、トレー本体5に整列して配置される複数の育苗ポット6,6,6・・と、トレー本体5の四隅を支持する支持脚7とで構成されている。
【0023】
育苗ポット6は、基本的には上記栽培容器P1と同様の構成であり、その寸法も略同一であるので、同一の符号を付して詳細な説明は省略する。なお、育苗ポット6は、トレー本体5の下面側に配置され、トレー本体5の表面に貯水壁部32の上端部が連接しており、開口部4がトレー本体5の表面に開口している。
【0024】
支持脚7は、トレー本体5から下方に連設されており、トレー本体5の表面から支持脚7の下端部までの距離が、トレー本体5の表面から育苗ポット6の底部2までの距離よりも長くなっている。すなわち、トレー本体5を設置面に設置させたときに、育苗ポット6の底部2が設置面に接触することなく、底部2と設置面との間に空間を形成可能な長さを有している。
【0025】
以上、詳述したように、本実施の形態の育苗用トレーP2によれば、前記の栽培容器P1と同様の構成である育苗ポット6をトレー本体5に複数設けたものであるので、栽培容器P1と同様に、育苗用トレーP2に培土が充填され、植物の苗が植えられて、開口部4から培土の表面に水を供給すると、培土の表面と貯水壁部32とで形成される空間部に一旦貯水された後、徐々に培土にしみ込んでいく。したがって、培土に必要量の水を無駄なく供給できる上、幾度にも分けて水を供給する手間が省け、日常管理を省力化できる。
【0026】
さらに、通水底部203と通水壁部31とに通水窓204と連通窓310とがそれぞれ形成されているので、容器下方の培土に長時間水が滞留することなく適宜排出または蒸散されるため、根腐れ等を効果的に防止できる。また、通水窓204と連通窓310を形成したので通気性もよく、根回りを防止して、大気中の酸素を植物の苗の根や培土に十分供給できるため、植物の苗をより良好に生育させることができる。
【0027】
また、多数の育苗ポット6を同時に運搬できるため取り扱いが容易であるという利点もある。
【0028】
また、育苗用トレーP2は、支持脚7で支持され、育苗ポット6の底部2が設置面に接触することなく、底部2と設置面との間に空間が形成されるので、育苗ポット6の通水底部203からの排水が妨げられず、通水底部203の通水性を保持することができ、根腐れ等をより効果的に防止できる。
【0029】
なお、本実施形態の栽培容器P1および育苗ポット6は、貯水壁部32が、通水壁部31の上端側に、側壁部3の下端側から上端側までの長さの25%前後の割合で一連に形成されているが、およそ5〜30%の割合で形成されていればよい。なお、5%未満であると、水を供給しても充分な貯水層Sが形成されにくく貯水させておくことができないので、本発明の目的を達成できない。一方、30%を超えると、通水壁部31の割合が少なくなって水はけが悪くなり、容器下方の培土に長時間水が滞留して根腐れを起こすなど、植物の成長が妨げられてしまう。
【0030】
また、本実施形態の栽培容器P1および育苗用トレーP2は、合成樹脂製としたが、これに限られず、容器内部に培土を充填しても変形しない程度の強度を有するものであればよい。したがって、例えば金属製や陶器製、ガラス製等であってもよい。また、本実施形態の栽培容器P1および育苗ポット6は、断面略円形状としたが、これに限られず、例えば断面略四角形状であってもよい。また、当然のことながら、栽培容器P1および育苗ポット6の寸法は、本実施形態の寸法に限られず、適宜変更可能である。
【0031】
また、通水底部203と通水壁部31の有する性質としては、通水性だけに限定されるものではなく、例えば通気性、抗菌性等を有していてもよい。さらに、通水底部203と通水壁部31とは、本実施形態の構造に限定されるものではなく、例えば、細かな網目状やスリット状に形成されていてもよいし、無数の穿設孔が形成されていてもよい。さらに、通水性を有する不織布等でもよい。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明に係る一実施形態の栽培容器P1を示す外観図である。
【図2】図1に示す栽培容器P1の使用状態を示す説明図である。
【図3】図1に示す栽培容器P1の底面図である。
【図4】本発明に係る別の実施形態の育苗用トレーP2を示す外観図である。
【符号の説明】
【0033】
P1 栽培容器
P2 育苗用トレー
2 底部
203 通水底部(通水壁部)
3 側壁部
31 通水壁部
32 貯水壁部
6 育苗ポット
7 支持脚

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部とこの底部の外周から上方が広がるようなテーパ状に立ち上がる側壁部とを備えた栽培容器であって、
側壁部が、通水性を有する通水壁部と貯水壁部とで構成され、通水壁部が底部にも形成されているとともに、貯水壁部が通水壁部の上端側に一連に形成されていて、培土が収容された容器内に水を供給したときに、培土の表面と貯水壁部で形成される空間部に貯水可能であることを特徴とする栽培容器。
【請求項2】
通水壁部が、網目状またはスリット状に形成されていることを特徴とする請求項1記載の栽培容器。
【請求項3】
複数の育苗ポットが連接して配置された育苗用トレーであって、
育苗ポットが、底部とこの底部の外周から上方が広がるようなテーパ状に立ち上がる側壁部とを備え、側壁部が、通水性を有する通水壁部と貯水壁部とで構成され、通水壁部が底部にも形成されているとともに、貯水壁部が通水壁部の上端側に一連に形成されていて、培土が収容された容器内に水を供給したときに、培土の表面と貯水壁部で形成される空間部に貯水可能であることを特徴とする育苗用トレー。
【請求項4】
通水壁部が、網目状またはスリット状に形成されていることを特徴とする請求項3記載の育苗用トレー。
【請求項5】
支持脚を有し、育苗ポットの底部と設置面との間に空間を形成可能な高さに育苗ポットが支持されることを特徴とする請求項3または4記載の育苗用トレー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−254843(P2006−254843A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−79201(P2005−79201)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(594125211)株式会社阪中緑化資材 (4)
【Fターム(参考)】