説明

植物免疫活性物質およびその製造方法

【課題】、医薬品や健康食品として使用可能な、免疫賦活効果と共に安全性が高く、しかも経済性も良い免疫活性物質を見出すこと。
【解決手段】稲科植物の葉を、バチルス属に属する微生物を用いて発酵させることにより得られる植物免疫活性物質およびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物免疫活性物質およびその製造方法に関し、更に詳細には、マクロファージサイトカイン産生能を有する植物免疫活性物質およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトあるいは動物の疾病を治療するために、種々の薬剤が使用されているが、それ以上に生体内の免疫活性を高め、疾病を予防、治療することが好ましい。
【0003】
このような免疫活性を高める物質は、従来より数多く知られ、提供されているが、生体内に投与するものであるため、より安全性や免疫賦活効果が高く、かつ経済性の良いものを見出し、これを提供することが強く望まれている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明の課題は、医薬品や健康食品として使用可能な、免疫賦活効果と共に安全性が高く、しかも経済性も良い免疫活性物質を見出し、これを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく、従来より抗菌作用などの薬理作用を有するといわれているクマザサに着目し、研究を行った。そして、クマザサをバチルス属に属する微生物で発酵させたところ、免疫活性の高い物質が得られることを知った。そこで、更に研究を進めた結果、クマザサのみならず稲科に属する大麦若葉や稲若葉からも同様な免疫活性物質が得られることや、稲科植物の葉以外に、バチルス属微生物の栄養源となるものがない状態で発酵させることにより、より多量の免疫活性物質が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0006】
従って本発明は、稲科植物の葉を、バチルス属に属する微生物を用いて発酵させることにより得られる植物免疫活性物質である。
【0007】
また本発明は、稲科植物の葉を、バチルス属に属する微生物を用いて発酵させることを特徴とする植物免疫活性物質の製造方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明方法によれば、入手の容易な稲科植物から優れた免疫活性を有する物質を簡単に取得することができる。そして、この物質は、何れも安全性の高い物質から得られるものであるので、医薬品や健康食品、あるいは食品素材として使用することが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の植物免疫活性物質は、稲科植物の葉(以下、「稲科植物葉」という)を、バチルス属に属する微生物(以下、「バチルス属微生物」という)を用いて発酵させることにより得られるものである。
【0010】
原料である稲科植物葉としては、クマザサ、大麦若葉、稲若葉等が好ましく使用できる。これらの葉は、一般的には洗浄後、必要により乾燥し、細断ないしは粉砕した後、利用される。
【0011】
一方、発酵に利用するバチルス属微生物としては、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis )、バチルス・プミルス(B.pumilus)、バチルス・リケニホルミス(B.licheniformis)、バチルス・スリンギエンシス(B.thuringiensis)、バチルス・メガテリウム(B.megaterium)、バチルス・ポリミキサ(B.polymyxa)、バチルス・マセランス(B.macerans)、バチルス・サーキュランス(B.circulans)、バチルス・ステアロサーモフィルス(B.stearothermophilus)、バチルス・コアギュランス(B.coagulans)、バチルス・アルベイ(B.alvei)、バチルス・ファームス(B.firmus)、バチルス・ラテロスポラス(B.laterosporus)、バチルス・ブレビス(B.brevis)、バチルス・スファエリカス(B.sphaericus)、バチルス・パスツゥリィ(B.pasteurii)、バチルス・ファスティディオサス(B.fastidiosus)、バチルス・ラービィ(B.larvae)、バチルス・ポピリィ(B.popilliae)、バチルス・レンティモルバス(B.lentimorbus)等が使用される。より好ましい具体例としては、いわゆる納豆菌と一般的に呼ばれる枯草菌である、バチルス・スブチリス(ナットウ)宮城野(Bacillus subtilis (natto) Miyagino)株、バチルス・スブチリス(ナットウ)高橋(Bacillus subtilis (natto) Takahashi)株、バチルス・スブチリス(ナットウ)旭川(Bacillus subtilis (natto) Asahikawa)株、バチルス・スブチリス W23(Bacillus subtilis W23)株等が挙げられる。
【0012】
上記稲科植物葉のバチルス属微生物による発酵は、例えば、稲科植物葉を適当な濃度で水または液体培地に分散させて懸濁液とした後、バチルス属微生物の前培養物を加えることにより行われる。この培養においては、通常の培養において使用する培地成分は、なるべく少ない方が好ましく、特に稲科植物葉以外の成分が実質的に含有されていない状態で培養(飢餓条件下での培養)することが望ましい。
【0013】
上記培養での懸濁液中の稲科植物葉の濃度は、0.1ないし20W/V%程度、好ましくは、1ないし10W/V%である。また、この懸濁液に加えるバチルス属微生物は、1×10ないし1×1010細胞/ml程度であり、好ましくは、1×10ないし1×10細胞/mlである。
【0014】
培養に当たっての温度は、15ないし40℃程度、好ましくは、30ないし37℃である。また、培養は、回転培養、振とう培養、ジャーフェアーメンターによる培養等種々の培養によって実施できる。この培養を往復振とう培養により行う場合は、60〜150rpm、特に、100〜140rpm程度の振とうを行うことが好ましい。
【0015】
培養開始後、1ないし10日間程度、好ましくは3ないし7日後に、培養液を固液分離することにより、その上清部分に本発明の植物免疫活性物質を得ることができる。この植物免疫活性物質は、必要により公知の精製手段により精製し、利用することもできる。
【0016】
かくして得られた本発明の植物免疫活性物質は、適当な公知の担体と組み合わせ、免疫賦活を目的とする医薬品や健康食品とすることができる。この医薬品や健康食品の形態としては、カプセル剤、顆粒剤、錠剤、液剤等が挙げられる。また、それ自体で食品素材として種々の食品に配合することも可能である。
【実施例】
【0017】
次に、実施例を挙げて本発明を更に説明するが、本発明はこれら実施例になんら制約されるものではない。
【0018】
実 施 例 1
植物免疫活性物質の調製(1):
1.5%寒天を含むLB斜面培地(1%ペプトン、0.5%酵母エキス、1%NaCl、pH6.8、水道水使用)上で1晩培養したバチルス・スブチリス(ナットウ)旭川(Bacillus subtilis (natto) Asahikawa)株(以下、「旭川株」という)を100mlのLB培地を分抽した500ml容坂口フラスコに一白金耳接種し、振とう培養機(高崎科学機器社製、TA−C−50R)を用いて37℃、120rpm、ピッチ(pitch)30mmの条件で20時間振とう培養し、前培養を行った。
【0019】
一方、植物素材としてクマザサ(粗粉砕品、ボイル済み)10gを500ml容坂口フラスコに分取し、水道水を100ml加えた。前培養したB.スブチリス 旭川株の培養液(約3×10細胞/ml)2mlを上述のクマザサが10g入った500ml容坂口フラスコに接種し、振とう培養機(高崎科学機器社製、TA−C−50R)を用いて37℃、120rpm、ピッチ 30mmの条件で5日間振とう培養した。
【0020】
5日間培養したクマザサを含む培養液を2秒間ミキサー(SANYO社製、SM−KM38型)にかける操作を3回繰り返した。次に、ミキサーにかけたクマザサ含有培養液をガーゼで濾過するとともに、クマザサ画分に含まれる培養液画分を軽く絞り出すようにして、粗培養液を回収した。得られた粗培養液を250ml容遠心管に移し、遠心分離機(KUBOTA社製、KR−20000T型)、ローター(KUBOTA社製、RA−6型)を用いて4℃、6,000rpmの条件で10分間遠心分離し、得られた上澄液を植物免疫活性物質1とした。このものは、−30℃で凍結保存した。
【0021】
実 施 例 2
植物免疫活性物質の調製(2):
培養に使用する微生物として、旭川株に代え、バチルス・スブチリス(ナットウ)宮城野(Bacillus subtilis (natto) Miyagino)株(以下、「宮城野株」という)、バチルス・スブチリス(ナットウ)高橋(Bacillus subtilis (natto) Takahashi)株(以下、「高橋株」)またはバチルス・スブチリス W23(Bacillus subtilis W23)株(以下、「23株」という)を用いる以外は実施例1と同様にして、それぞれ植物免疫活性物質2ないし4を得た。
【0022】
実 施 例 3
植物免疫活性物質の調製(3):
クマザサに代え、稲科植物葉として大麦若葉または稲若葉を使用する以外は実施例1と同様にして、植物免疫活性物質5および6を得た。
【0023】
実 施 例 4
植物免疫活性物質のマクロファージサイトカイン産生能(1):
マウス由来マクロファージ様細胞株J744.1(1.5x10個/ウェル)に実施例1で得た植物免疫活性物質を所定の濃度で添加し、一定時間反応させた。培養24時間後の上清を回収し、ELISA法によるサイトカイン測定キット(BioSource International,Inc)を用いてサイトカイン(TNF−αおよびIL−12)の産生量を測定した。このTNF−αについての結果を図1のAに、IL−12についての結果を図1のBにそれぞれ示す。なお、対照(cont.)としては、蒸留水を用いた(以下同じ)。
【0024】
実 施 例 5
植物免疫活性物質のマクロファージサイトカイン産生能(2):
植物免疫活性物質1ないし6について、そのTNF−α産生能およびIL−12産生能を、実施例4と同様にして調べた。TNF−α産生能についての結果を図2に、IL−12産生能についての結果を図3に示す。
【0025】
実 施 例 6
植物免疫活性物質のNO産生能:
植物免疫活性物質1ないし6について、そのNO産生能を、グリエス(Griess)試薬を添加した後、550nmの吸光度を測定し、これを陽性コントロールであるLPS(リポポリサッカライド:10μg/ml)添加時のNO産生量に対する比活性として求めた。この結果を図4に示す。
【0026】
実 施 例 7
植物免疫活性物質の肺転移モデルマウスに対する影響:
C57BL/6J系雌マウスに、実施例1で得た植物免疫活性物質を1週間先行経口投与した後、1匹当たりB16メラノーマ/BL6を1×10個静脈内接種した。更に、3週間、上記植物免疫活性物質を経口投与した後の肺転移コロニー数を計測した。この結果を図5に示す。この結果から、植物免疫活性物質は、肺転移モデルマウスに対し、転移を抑制する作用を有することが認められた。
【0027】
実 施 例 8
( 錠 剤 )
下記組成により、常法に従って1錠当たり200mgの錠剤を得た。
植物免疫活性物質1 20mg
コーンスターチ 135mg
カルボキシメチルセルロース 35mg
ポリビニルピロリドン 5mg
ステアリン酸マグネシウム 5mg
合 計 200mg
【0028】
実 施 例 9
( 顆 粒 剤 )
下記組成により、常法に従って1包当たり1000mgの顆粒剤を得た。
植物免疫活性物質1 100mg
水溶性食物繊維 500mg
乳 糖 400mg
合 計 1000mg
【0029】
実 施 例 10
( 飲 料 )
下記組成により、常法に従って1瓶当たり30mlの飲料を製造した。
植物免疫活性物質1 200mg
クエン酸 160mg
ビタミンC 4mg
ブドウ糖果糖液糖 3000mg
蒸 留 水 適 量
合 計 30ml
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の植物免疫活性物質の製造は、共に危険性の極めて少ない稲科植物葉およびバチルス属微生物を使用するものであるため、得られた植物免疫活性物質の安全性は高いものである。そして、このものは高い免疫賦活活性を有するため、免疫賦活を目的とする医薬品や健康食品あるいは食品素材として使用可能なものである。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1で得た植物免疫活性物質について、TNF−αおよびIL−12の産生量を測定した結果を示す図面である。
【図2】各実施例で得た植物免疫活性物質について、TNF−αの産生量を測定した結果を示す図面である。
【図3】各実施例で得た植物免疫活性物質について、IL−12の産生量を測定した結果を示す図面である。
【図4】各実施例で得た植物免疫活性物質について、NO産生能を測定した結果を示す図面である。
【図5】実施例1で得た植物免疫活性物質についての、肺転移モデルマウスに対するB16メラノーマ/BL6細胞の肺転移抑制作用を示す図面である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
稲科植物の葉を、バチルス属に属する微生物を用いて発酵させることにより得られる植物免疫活性物質。
【請求項2】
マクロファージサイトカイン産生能を有するものである請求項第1項記載の植物免疫活性物質。
【請求項3】
稲科植物の葉が、クマザサ、大麦若葉または稲若葉である請求項第1項または第2項記載の植物免疫活性物質。
【請求項4】
バチルス属に属する微生物が、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis )、バチルス・プミルス(B.pumilus)、バチルス・リケニホルミス(B.licheniformis)、バチルス・スリンギエンシス(B.thuringiensis)、バチルス・メガテリウム(B.megaterium)、バチルス・ポリミキサ(B.polymyxa)、バチルス・マセランス(B.macerans)、バチルス・サーキュランス(B.circulans)、バチルス・ステアロサーモフィルス(B.stearothermophilus)、バチルス・コアギュランス(B.coagulans)、バチルス・アルベイ(B.alvei)、バチルス・ファームス(B.firmus)、バチルス・ラテロスポラス(B.laterosporus)、バチルス・ブレビス(B.brevis)、バチルス・スファエリカス(B.sphaericus)、バチルス・パスツゥリィ(B.pasteurii)、バチルス・ファスティディオサス(B.fastidiosus)、バチルス・ラービィ(B.larvae)、バチルス・ポピリィ(B.popilliae)およびバチルス・レンティモルバス(B.lentimorbus)よりなる群より選ばれたものの1種または2種以上である請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載の植物免疫活性物質。
【請求項5】
バチルス属に属する微生物が、バチルス・スブチリス(ナットウ)宮城野(Bacillus subtilis (natto) Miyagino)株、バチルス・スブチリス(ナットウ)高橋(Bacillus subtilis (natto) Takahashi)株またはバチルス・スブチリス W23(Bacillus subtilis W23)株である請求項第1項ないし第3項の何れかの項記載の植物免疫活性物質。
【請求項6】
稲科植物の葉の発酵を、実質的に他の栄養源のない状態で行う請求項第1項ないし第5項の何れかの項記載の植物免疫活性物質。
【請求項7】
請求項1ないし6の何れかの項記載の植物免疫活性物質を有効成分とする医薬品。
【請求項8】
請求項1ないし6の何れかの項記載の植物免疫活性物質を有効成分とする健康食品。
【請求項9】
稲科植物の葉を、バチルス属に属する微生物を用いて発酵させることを特徴とする植物免疫活性物質の製造方法。
【請求項10】
植物免疫活性物質が、マクロファージサイトカイン産生能を有するものである請求項第9項記載の植物免疫活性物質の製造方法。
【請求項11】
稲科植物の葉が、クマザサ、大麦若葉または稲若葉である請求項第9項または第10項記載の植物免疫活性物質の製造方法。
【請求項12】
バチルス属に属する微生物が、バチルス・スブチリス(Bacillus subtilis )、バチルス・プミルス(B.pumilus)、バチルス・リケニホルミス(B.licheniformis)、バチルス・スリンギエンシス(B.thuringiensis)、バチルス・メガテリウム(B.megaterium)、バチルス・ポリミキサ(B.polymyxa)、バチルス・マセランス(B.macerans)、バチルス・サーキュランス(B.circulans)、バチルス・ステアロサーモフィルス(B.stearothermophilus)、バチルス・コアギュランス(B.coagulans)、バチルス・アルベイ(B.alvei)、バチルス・ファームス(B.firmus)、バチルス・ラテロスポラス(B.laterosporus)、バチルス・ブレビス(B.brevis)、バチルス・スファエリカス(B.sphaericus)、バチルス・パスツゥリィ(B.pasteurii)、バチルス・ファスティディオサス(B.fastidiosus)、バチルス・ラービィ(B.larvae)、バチルス・ポピリィ(B.popilliae)およびバチルス・レンティモルバス(B.lentimorbus)よりなる群より選ばれたものの1種または2種以上である請求項第9項ないし第11項の何れかの項記載の植物免疫活性物質の製造方法。
【請求項13】
バチルス属に属する微生物が、バチルス・スブチリス(ナットウ)宮城野(Bacillus subtilis (natto) Miyagino)株、バチルス・スブチリス(ナットウ)高橋(Bacillus subtilis (natto) Takahashi)株またはバチルス・スブチリス W23(Bacillus subtilis W23)株である請求項第9項ないし第12項の何れかの項記載の植物免疫活性物質の製造方法。
【請求項14】
稲科植物の葉の発酵を、実質的に他の栄養源のない状態で行う請求項第9項ないし第13項の何れかの項記載の植物免疫活性物質の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−137703(P2006−137703A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−328801(P2004−328801)
【出願日】平成16年11月12日(2004.11.12)
【出願人】(500206227)株式会社 ハクジュ・ライフサイエンス (3)
【Fターム(参考)】