説明

植物用の散布水の調製方法および調製装置

【課題】植物用の散布水を容易に調製できる新規な装置および方法を提供する。
【解決手段】本発明の装置は、植物用の散布水を調製する装置である。この装置100は、処理槽10と、処理槽10に配置された電極群20と、電極群20に電圧を印加するための電源とを備える。電極群20は、イオンを可逆的に吸着可能な導電性物質を含むイオン吸着電極21と、対極22とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物用の散布水の調製方法および調製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
植物の病害を防除するために、従来から、酸性水溶液や酸性電解水を散布する方法が提案されている(特許文献1〜3)。特許文献1には、作物の病原菌に対して殺菌作用を有する酸性水溶液を作物に散布する方法が開示されている。特許文献2には、次亜塩素酸を含む酸性電解水を散布する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−194109号公報
【特許文献2】特開2001−247420号公報
【特許文献3】特開2001−261512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来は、イオン交換膜などの隔膜を用いた電気分解によって酸性電解水を得ていたため、隔膜のメンテナンスなどが定期的に必要であった。また、隔膜を用いる方式では、電解前の水の塩濃度を比較的高くする必要があり、塩害の発生の恐れもあった。それを避けるために、2枚の隔膜を用いる装置も用いられているが、隔膜が2枚になることによるメンテナンスの手間およびコストの増大は避けられない。このように、メンテナンスが煩雑であるなど、酸性電解水を簡単に得られる装置は従来提案されておらず、手軽に上記方法を実施することはできなかった。
【0005】
このような状況において、本発明は、植物用の散布水を容易に調製できる新規な装置および方法を提供することを目的の1つとする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、植物用の散布水を調製するための本発明の装置は、処理槽と、前記処理槽に配置された電極群と、前記電極群に電圧を印加するための電源とを備え、前記電極群は、イオンを可逆的に吸着可能な導電性物質を含むイオン吸着電極と対極とを含む。
【0007】
なお、この明細書において、「散布水」には、水耕栽培において植物の根に供給される水も含まれる。この明細書において「(植物用の)散布水」は、「植物に供給される水」または「病害虫の防除の目的で植物に供給される水」と読み替えることが可能である。
【0008】
また、植物用の散布水を調製するための本発明の方法は、(i)処理槽と、前記処理槽に配置されたイオン吸着電極および対極とを含む電極群と、前記電極群に接続された電源とを準備する工程と、(ii)前記処理槽に水性液体を流しながら、前記イオン吸着電極および前記対極に電圧を印加することによって、前記水性液体のpHを変化させる工程とを含み、前記イオン吸着電極は、イオンを可逆的に吸着可能な導電性物質を含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、植物の病害虫を防除する効果を有する水を容易に調製できる。本発明の方法で調整されたアルカリ水/酸性水は、植物の苗、葉、茎、および根などに散布することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の装置の一例を示す模式図である。
【図2】本発明の装置の他の一例を示す模式図である。
【図3】図1に示した装置の動作の一例を示す模式図である。
【図4】図1に示した装置の動作の他の一例を示す模式図である。
【図5】本発明の装置のその他の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明では、本発明の実施形態について例を挙げて説明するが、本発明は以下で説明する例に限定されない。以下の説明において特定の数値や特定の材料を例示する場合があるが、本発明の効果が得られる限り、他の数値や他の材料を適用してもよい。
【0012】
(散布水調製装置)
本発明の装置は、植物用の散布水を調製する装置である。この装置は、後述する本発明の方法で使用できる。この装置は、処理槽と、処理槽に配置された電極群と、電極群に電圧を印加するための電源とを備える。電極群は、イオンを可逆的に吸着可能な導電性物質を含むイオン吸着電極と、対極とを含む。
【0013】
処理槽(電解槽)に特に限定はなく、一般的な電解槽と同様の槽を用いることができる。
【0014】
電極群の好ましい一例では、平板状のイオン吸着電極と平板状の対極とが平行に配置されている。なお、1つの電極群は複数のイオン吸着電極を含んでもよく、また、1つの電極群は複数の対極を含んでもよい。好ましい一例では、複数の平板状のイオン吸着電極と複数の平板状の対極とが、平行且つ交互に配置される。好ましい一例において、平板状の電極(イオン吸着電極および対極)は、その面方向が鉛直方向に平行になるように配置される。
【0015】
また、1つの電極群は、異なる方向に配置された複数の電極ペアを含んでもよい。それぞれの電極ペアは、平行に配置された、平板状のイオン吸着電極および平板状の対極を含む。たとえば、1つの電極群は、互いに直交する方向に配置された複数の電極ペアを含んでもよい。1つの電極群に複数のイオン吸着電極および複数の対極が含まれる場合、1つの電極群の中において、それらは並列(イオン吸着電極同士および対極同士が接続される)に接続されていてもよい。
【0016】
イオン吸着電極は、イオンを可逆的に吸着可能な導電性物質(以下、「導電性物質(C)」という場合がある)を含む。イオン吸着電極は、導電性物質(C)を支持する集電体や、導電性物質(C)に貼り付けられた集電体を備えてもよい。
【0017】
導電性物質(C)は、可逆的にイオンを吸着・放出できる物質である。すなわち、導電性物質(C)は、吸着したイオンを放出できる。導電性物質(C)には、比表面積が大きい物質を用いることができる。好ましい一例では、導電性物質(C)は、活性炭や黒鉛などの炭素材料を含む。導電性物質(C)は、粒状活性炭を凝集させることによって形成された導電性シートであってもよい。また、導電性物質(C)は、粒状活性炭と導電性カーボンとを凝集させることによって形成された導電性シートであってもよい。また、導電性物質(C)は、活性炭粒子を固めて形成された活性炭ブロックであってもよい。また、導電性物質(C)は、活性炭繊維クロス、すなわち、活性炭繊維を用いて形成されたクロス(cloth)であってもよい。活性炭繊維クロスとしては、たとえば、日本カイノール株式会社製のACC5092−10、ACC5092−15、ACC5092−20、ACC5092−25を用いてもよい。
【0018】
導電性物質(C)の比表面積は、たとえば300m2/g以上であり、好ましくは900m2/g以上である。比表面積の上限に特に限定はないが、たとえば3000m2/g以下や2500m2/g以下であってもよい。導電性物質(C)の「比表面積」は、通常、窒素ガスを用いたBET法で測定できる。
【0019】
対極の一例は、金属電極である。対極の好ましい一例は、水の電気分解が生じやすい金属(たとえば白金)が表面に存在する電極である。たとえば、対極として、チタンからなる電極や、白金からなる電極や、白金でコートされた金属(たとえばチタン、ニオブ、タンタルなどの任意の金属)からなる電極を用いることができる。対極として、金属シートを用いてもよいし、金属ワイヤを用いてもよいし、接続された複数の金属ワイヤを用いてもよい。対極の好ましい一例は、金属ワイヤを平板状に配置することによって形成された電極である。
【0020】
導電性物質(C)と異なり、対極の表面積は大きくなくてもよい。一例の対極の1グラム当たりの表面積は、100m2以下であってもよく、5×10-5〜50m2の範囲にあってもよい。
【0021】
電源は、イオン吸着電極と対極との間に電圧(直流電圧)を印加するための電源(直流電源)である。電源は、コンセントからの交流電圧を直流電圧に変換するAC−DCコンバータであってもよい。また、電源は、太陽電池や燃料電池などの発電装置や二次電池であってもよい。発電装置や二次電池を電源として用いることによって、電力が供給されていない地域や状況において本発明の装置を用いることが可能となる。
【0022】
本発明の装置では、水性液体が処理される。この明細書において、「水性液体」とは、溶媒が水である液体であり、水および水溶液が含まれる。
【0023】
本発明の装置では、処理槽の下部に取水口が形成されており、処理槽の上部に排水口が形成されていてもよい。この場合、処理される水性液体は処理槽の下部から流入して処理槽の上部から排出される。すなわち、この場合には、水性液体は、下部側から上部側に向かって流れる。この流れによって、電極の表面で発生したガスが速やかに処理槽の上部に排出される。そのため、この構成によれば、電極の表面で発生したガスによる反応速度や効率の低下を抑制できる。
【0024】
平板状の電極(イオン吸着電極および対極)の面方向が鉛直方向に平行になるように、電極が配置されている場合について考える。この場合、水性液体は、処理槽の下方から上方に向かって流してもよいし、処理槽の上方から下方に向かって流してもよい。処理槽内において水性液体をゆっくり流す場合、処理槽の下方から上方に向かって水性液体を流すことによって、電極間を均質に流しやすい。
【0025】
また、本発明の装置は、液体の流れを分散させるための分散手段をさらに備えてもよい。その分散手段は、処理槽内であって取水口と電極群との間に配置される。分散手段によって、電極間の液体の流れの偏りを抑制できる。分散手段には、たとえば、多孔性の膜や板、多数の貫通孔が形成された膜や板を用いることができる。
【0026】
本発明の装置では、通常、処理槽に排水口が形成されている。本発明の装置は、その排水口に接続された第1および第2の流路と、第1および第2の流路のいずれかに排水路を切り換える切り換え手段とをさらに含んでもよい。この構成によれば、処理によって得られた酸性水とアルカリ水とを容易に分離できる。たとえば、第1の流路に酸性水を収納するための容器を接続し、第2の流路にアルカリ水を収納するための容器を接続すればよい。
【0027】
本発明の装置は、複数の処理槽と複数の電極群とを含んでもよい。その場合には、複数の処理槽のそれぞれに電極群が配置される。複数の電極群は、直列に接続されていてもよい。すなわち、1つの電極群のイオン吸着電極を他の1つの電極群の対極に接続してもよい。複数の電極群を直列に接続することによって、各処理槽における流れる電気量を同じにすることができる。このことは同じ水素イオンあるいは水酸基イオンを作ることができる。また、1つの処理槽のみを用いる場合と比較して、各処理槽を流れる電流値を低くすることが可能である。電流値を低くすることによって、配線を細くしたり配線の接合部を小型にでき、装置の簡易化や、電力効率の向上を図ることが可能である。なお、複数の電極群は、並列に接続されていてもよい。小型容器の組み合わせで大型装置と同等の機能を有するものを作ることにより、機器のメンテナンスを容易にすることができる。
【0028】
イオン吸着電極と対極との距離は、0.2cm〜2cm以下の範囲にあってもよい。また、その距離はそれ以外の範囲にあってもよく、たとえば、2cm〜30cmの範囲にあってもよい。電極間隔を狭くすることによって、印加する電圧を低くすることができる。電極間を流れる電流が同じ場合には、印加する電圧を低くすることによって、消費電力を抑えることができる。
【0029】
本発明の装置は、処理される水に塩を添加する装置をさらに含んでもよい。添加される塩の例には、塩化カリウム、塩化ナトリウム、塩化マグネシウム等の塩酸塩、硫酸カリウム硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウム等の硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、有機酸塩、およびそれらの混合物などが含まれる。カリウムが含まれる塩を用いることによって、病害虫の防除と共にカリウムを散布することができる。農作物の成長には窒素、リンおよびカリウムの三大栄養素が必要不可欠である。また、塩素を含む塩を用いることによって、次亜塩素酸を含む散布水を調製できる。次亜塩素酸は、病害虫の防除に効果を示す場合がある。そのため、カリウムイオン、リン酸イオン、硝酸イオン、塩素イオンを適量混合した塩を用いると効果的である。イオン交換膜を用いる従来の電解装置では、特定のイオンを用いた場合に充分なイオン交換能が発揮されない場合があった。しかし、本発明の装置では、そのような制約がないため、様々なイオンを用いることができる。
【0030】
塩が添加された水の塩濃度に特に限定はなく、0.01重量%〜3重量%の範囲(たとえば0.05重量%〜0.2重量%の範囲)としてもよい。散布水が肥料を兼ねる場合には、塩(たとえばカリウム塩)の濃度をある程度高くしてもよい。しかし、散布水を葉にかける場合は塩害が起こる可能性があるため、塩濃度は高くないことが望ましい。
【0031】
イオン交換膜などの隔膜を用いる従来の電解装置では、処理前の水の塩濃度を比較的高くする必要があった。それに比べて、イオン吸着電極と対極とを用いる本発明の装置では、塩濃度が低い水(たとえば水道水)でも充分にpHを変えることができる。具体的には、伝導度が50μS/cm〜500μS/cmの範囲(たとえば200μS/cm以下)にある水を処理して充分にpHを変化させることが可能である。たとえば180μS/cm水道水を処理することによって、pHが2.6〜5の酸性水やpHが9〜11.7のアルカリ水を調製することが可能である。塩濃度が低い水を用いることによって、塩害の発生を抑制できる。しかし、処理される水に塩を加えた方が、pHの変化速度を高めることができる。そのため、処理される水に塩を加えてもよい。塩を加える装置は、一定の速度で水に塩を添加してもよい。また、塩または塩を含む固形物を水の経路やタンクに投入することによって塩を添加してもよい。
【0032】
本発明の装置は、必要に応じて他の要素を含んでもよく、たとえば、安全装置、ポンプ、バルブ、pHセンサ、伝導度センサなどを含んでもよい。
【0033】
(散布水調製方法)
本発明の方法は、植物用の散布水を調製する装置である。この方法は、上記本発明の装置を用いることによって容易に実施できる。なお、本発明の装置について説明した事項は、本発明の方法に適用できるため、重複する説明を省略する場合がある。また、本発明の方法について説明した事項は、本発明の装置に適用できる。本発明の方法は、以下の(i)および(ii)の工程(ステップ)を含む。
【0034】
工程(i)では、処理槽と、その処理槽に配置されたイオン吸着電極および対極とを含む電極群と、その電極群に接続された電源とを準備する。典型的な一例では、本発明の装置が準備される。上述したように、イオン吸着電極は、イオンを可逆的に吸着可能な導電性物質(C)を含む。
【0035】
工程(ii)では、処理槽に水性液体を流しながら、イオン吸着電極および対極に電圧(直流電圧)を印加することによって、水性液体のpHを変化させる。工程(ii)では、対極で水の電気分解が生じるように電極間に電圧を印加する。これによって、水性液体が酸性水またはアルカリ水となる。
【0036】
たとえば、イオン吸着電極がアノード(陽極)となるように電圧を印加すると、水の中の陰イオン(たとえば水酸化物イオン以外の陰イオン)がイオン吸着電極の導電性物質(C)に吸着される。一方、対極では水が電気分解され、水素ガスと水酸化物イオン(OH-)とが発生する。その結果、水のpHが上昇し、アルカリ水が調製される。本発明の方法によれば、還元力が高いアルカリ水が得られる。たとえば、酸化還元電位(ORP)が−850mV〜−910mVの範囲にあるアルカリ水を得ることも可能である。
【0037】
一方、イオン吸着電極がカソード(陰極)となるように電圧を印加すると、水の中の陽イオン(たとえば水素イオン以外の陽イオン)がイオン吸着電極の導電性物質(C)に吸着される。一方、対極では水が電気分解され、酸素ガスと水素イオン(H+)とが発生する。その結果、水のpHが低下し、酸性水が調製される。本発明の方法によれば、酸化力が高い酸性水が得られる。たとえば、酸化還元電位(ORP)が+1000mV〜+1150mVの範囲にある酸性水を得ることも可能である。
【0038】
なお、イオン吸着電極に陰イオンが吸着されている状態で、イオン吸着電極がカソードとなるように電圧を印加すると、吸着されている陰イオンが水中に放出される反応も生じる。また、イオン吸着電極に陽イオンが吸着されている状態で、イオン吸着電極がアノードとなるように電圧を印加すると、吸着されている陽イオンが水中に放出される反応も生じる。いずれにしても、イオン吸着電極がアノードとなるように電圧を印加すると水のpHが上昇し、イオン吸着電極がカソードとなるように電圧を印加すると水のpHが低下する。得られた酸性水およびアルカリ水は、それぞれ、植物の病害虫を防除するための散布水として利用できる。
【0039】
対極において水の電気分解が生じる電圧である限り、印加する電圧に特に限定はない。一例では、印加する電圧は、3ボルト〜30ボルトの範囲にある。電圧印加の際には、一定の電圧を印加してもよいし、電極間に一定の電流が流れるように電圧を印加してもよい。また、調製された散布水のpHをモニタして、そのpHに応じて電圧を変化させてもよい。
【0040】
本発明の装置および方法によれば、pHが2.6〜5の範囲にある酸性水やpHが9〜11.7の範囲にあるアルカリ水を、水道水のような通常の水から調製することが可能である。また、塩水を処理することによって、pHが2.6以下の酸性水やpHが11.7以上のアルカリ水を調製することも可能である。
【0041】
本発明の方法では、工程(ii)において、処理槽の下側から水性液体を導入し、処理槽の上側から水性液体を排出してもよい。この構成によれば、電極の表面で発生したガスを速やかに上方に排出させることができる。
【0042】
本発明の方法では、工程(ii)で処理された水性液体を、工程(ii)における電圧の印加方向に応じて振り分けてもよい。この構成では、工程(ii)で得られる酸性水と、工程(ii)で得られるアルカリ水とが分別される。
【0043】
本発明の方法では、工程(i)において、複数の処理槽と複数の電極群とを準備して複数の処理槽のそれぞれに電極群を配置してもよい。そして、工程(ii)において、複数の電極群が直列に接続された状態で電圧を印加してもよい。
【0044】
イオン吸着電極と前記対極との距離は、0.2cm〜2cmの範囲にあってもよい。
【0045】
本発明の装置および方法の一例について、図面を参照しながら以下に説明する。なお、以下の図では、水性液体中の陽イオンであって水素イオン(H+)以外の陽イオンを、価数にかかわらず「L+」と表示する場合がある。また、水性液体中の陰イオンであって水酸化物イオン(OH-)以外の陰イオンを、価数にかかわらず「L-」と表示する場合がある。また、以下の説明では、同様の部分に同一の符号を付して重複する説明を省略する場合がある。
【0046】
(実施形態1)
散布水を調製するための実施形態1の装置100の構成を図1に模式的に示す。装置100は、処理槽10、電源11、スイッチ12、ポンプ13、バルブ14、流路切り換え弁15、容器16および17、コントローラ18、ならびに電極群20を含む。電極群20は、処理槽10内に配置されている。
【0047】
電源11は、AC−DCコンバータ(直流電源)である。スイッチ12は、電圧の印加方向を切り換えるためのスイッチであり、リレー12aおよび12bによって構成される。コントローラ18は、電源11、スイッチ12、ポンプ13、バルブ14、および流路切り替え弁15に接続されており、それらを制御する。処理槽10の下部には取水口10aが形成されており、処理槽10の上部には排水口10bが形成されている。ポンプ13の上流には、処理される水溶液25が入れられた容器(図示せず)が接続されている。水溶液25は、陽イオン(L+)および陰イオン(L-)を含む塩水である。水溶液25は、ポンプ13によって、取水口10aを通って処理槽10に送られる。処理槽10で処理された水溶液25は、排水口10bから排出される。
【0048】
電極群20は、平板状のイオン吸着電極21と平板状の対極22とを含む。イオン吸着電極21は、イオンを可逆的に吸着可能な導電性物質(図示せず)を含む。イオン吸着電極21および対極22は、平行に配置されている。電極群20は、複数のイオン吸着電極21と複数の対極22とを含んでもよい。そのような装置の一例を図2に示す。図2の例では、電極群20が2つの平板状のイオン吸着電極21と2つの平板状の対極22とを含んでいる。2つの平板状のイオン吸着電極21と2つの平板状の対極22とは、交互且つ平行に配置されている。
【0049】
図1の装置100における処理の一例について、図3および図4を参照しながら説明する。なお、図3および図4では装置の一部を模式的に示す場合がある。
【0050】
この一例では、まず、アルカリ水調製工程を行う。具体的には、水溶液25が処理槽10を流れている状態で、イオン吸着電極21がアノードとなるように、イオン吸着電極21と対極22との間に電圧を印加する。このとき、対極22の表面で水の電気分解が生じるように電圧を印加する。この電圧印加によって、図3に示すように、水溶液25中の陰イオン(L-)がイオン吸着電極21の導電性物質(図示せず)に吸着される。一方、対極22では水が電気分解され、水素ガスと水酸化物イオン(OH-)とが発生する。その結果、水溶液25はアルカリ性の水溶液となる。得られるアルカリ水は、還元力を有している。このアルカリ水は、流路切り替え弁15によって容器16内に導入される。
【0051】
次に、洗浄工程を行う。具体的には、電圧印加を停止した状態で、一定時間だけ、水溶液25を処理槽10を通過させる。このときの水溶液25は、容器16内に入れられてもよいし、流路切り換え弁15に接続された排水路(図示せず)から排水されてもよい。この操作によって、処理槽10内のアルカリ水を排出してから次の操作に移ることができる。
【0052】
次に、酸性水調製工程を行う。水溶液25が処理槽10を流れている状態で、イオン吸着電極21がカソードとなるように、イオン吸着電極21と対極22との間に電圧を印加する。このとき、対極22の表面で水の電気分解が生じるように電圧を印加する。この電圧印加によって、図4に示すように、イオン吸着電極21に吸着されていた陰イオン(L-)が水溶液25中に放出される。一方、対極22では水が電気分解され、酸素ガスと水素イオン(H+)とが発生する。その結果、水溶液25は酸性の水溶液となる。得られる酸性水は、酸化力を有している。この酸性水は、流路切り替え弁15によって容器17内に導入される。
【0053】
次に、洗浄工程を行う。具体的には、電圧印加を停止した状態で、一定時間だけ、水溶液25を処理槽10を通過させる。このときの水溶液25は、容器17内に入れられてもよいし、流路切り換え弁15に接続された排水路(図示せず)から排水されてもよい。この操作によって、処理槽10内の酸性水を排出してから次の操作に移ることができる。
【0054】
その後は、上記のアルカリ水調製工程と、酸性水調製工程とを交互に繰り返す。それらの工程の合間には、上記の洗浄工程を行う。このようにして、容器16にアルカリ水を貯め、容器17に酸性水を貯めることができる。容器16および17に貯められたアルカリ水および酸性水は、それぞれ、植物に散布できる。なお、散布された水を中和するため、調製されたアルカリ水および酸性水を交互に散布してもよい。
【0055】
なお、アルカリ水を調製する際に発生する水素ガスは、調製されたアルカリ水とともに容器16まで移動させて空気に触れさせないようにすることが好ましい。これによって、溶存水素が飽和した状態における酸化還元電位を維持することができる。すなわち、アルカリ水の還元力の低下を抑制できる。同様に、酸性水を調製する際に発生する酸素ガスは、調製された酸性水とともに容器17まで移動させて空気に触れさせないようにすることが好ましい。これによって、溶存酸素が飽和した状態における酸化還元電位を維持することができる。すなわち、酸性水の酸化力の低下を抑制できる。
【0056】
電圧印加方向および流路切り換え弁15の接続先の制御の一例を表1に示す。表1には、5分間の電圧印加、1分間の洗浄工程、5分間の電圧印加(逆方向)、および1分間の洗浄工程からなる1サイクルを示している。通常、このサイクルが繰り返し行われる。
【0057】
【表1】

【0058】
なお、最初にイオン吸着電極21がカソードとなるように電圧を印加してもよい。その場合には、イオン吸着電極21に陽イオン(L+)が吸着され、水溶液25が酸性の水溶液となる。次に、電圧の印加方向を反転させると、イオン吸着電極21に吸着されていた陽イオン(L+)が放出され、水溶液25がアルカリ性の水溶液となる。
【0059】
本発明の方法で水を処理したところ、pH3以下の酸性水およびpH11以上のアルカリ水が得られた。これらの酸性水およびアルカリ水をこの順にイチゴの葉に散布したところ、病害虫で弱っていた葉が回復し、よいイチゴが実った。
【0060】
(実施形態2)
実施形態2では、複数の処理槽10と複数の電極群20とを備える装置の一例について説明する。実施形態2の装置200を図5に示す。装置200は、複数の処理槽10、電源11、スイッチ12、ポンプ13、バルブ14、流路切り換え弁15、容器16および17、コントローラ18(図示せず)、ならびに複数の電極群20を含む。それらについては、実施形態1で説明したため、重複する説明を省略する。装置100と同様に、コントローラ18は、電源11、スイッチ12、ポンプ13、バルブ14、および流路切り替え弁15に接続されており、それらを制御する。
【0061】
複数の電極群20は、直列に接続されている。具体的には、1つの電極群20のイオン吸着電極21は、隣接する電極群20の対極22と接続されている。複数の処理槽10内において、イオン吸着電極21同士が並列に接続され、対極22同士が並列に接続されている。
【0062】
装置200においても、装置100と同様に処理が行われる。その結果、容器16にアルカリ水が貯められ、容器17に酸性水が貯められる。
【0063】
装置200は、4つの処理槽10および4つの電極群20を含む。そのため、単位時間当たりの水溶液25の処理量が同じ場合、装置200における1つのイオン吸着電極21および1つの対極の面積を、装置100における1つのイオン吸着電極21および1つの対極の面積の4分の1とすることができる。その結果、装置200において電極間を流れる電流値を、装置100のそれの4分の1とすることができる。そのため、装置200では、装置の構成の制約が少なく、且つ、電極交換等のメンテナンスが容易となる。
【0064】
なお、本発明の装置の主要部を、物品の消毒・洗浄に適用することもできる。具体的には、流路切り替え弁15の代わりに洗浄槽を配置し、その洗浄槽に消毒・洗浄したい物品を配置する。処理槽10で調製された酸性水/アルカリ水を交互に洗浄槽に供給することによって、物品を消毒・洗浄できる。たとえば、包丁やまな板などの物品を容易に消毒・洗浄できる。
【0065】
以上、本発明の実施の形態について例を挙げて説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず本発明の技術的思想に基づき他の実施形態に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、植物用の散布水の調製装置および調製方法に利用できる。本発明で調製された水を散布することによって、植物の病害虫の一部を防除できる。
【符号の説明】
【0067】
10 処理槽
11 電源
12 スイッチ
13 ポンプ
14 バルブ
15 流路切り換え弁
16、17 容器
18 コントローラ
20 電極群
21 イオン吸着電極
22対極
100 装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物用の散布水を調製する装置であって、
処理槽と、
前記処理槽に配置された電極群と、
前記電極群に電圧を印加するための電源とを備え、
前記電極群は、イオンを可逆的に吸着可能な導電性物質を含むイオン吸着電極と対極とを含む、散布水調製装置。
【請求項2】
前記処理槽の下部に取水口が形成されており、前記処理槽の上部に排水口が形成されている、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
液体の流れを分散させるための分散手段をさらに備え、
前記処理槽内であって前記取水口と前記電極群との間に前記分散手段が配置されている、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
前記処理槽に排水口が形成されており、
前記排水口に接続された第1および第2の流路と、前記第1および第2の流路のいずれかに排水路を切り換える切り換え手段とをさらに含む、請求項1に記載の装置。
【請求項5】
複数の前記処理槽と複数の前記電極群とを含み、
前記複数の処理槽のそれぞれに前記電極群が配置されており、
前記複数の電極群が直列に接続されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
前記イオン吸着電極と前記対極との距離が0.2cm〜2cmの範囲にある、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
植物用の散布水を調製する方法であって、
(i)処理槽と、前記処理槽に配置されたイオン吸着電極および対極とを含む電極群と、前記電極群に接続された電源とを準備する工程と、
(ii)前記処理槽に水性液体を流しながら、前記イオン吸着電極および前記対極に電圧を印加することによって、前記水性液体のpHを変化させる工程とを含み、
前記イオン吸着電極は、イオンを可逆的に吸着可能な導電性物質を含む、散布水調製方法。
【請求項8】
前記(ii)の工程において、前記処理槽の下側から前記水性液体を導入し、前記処理槽の上側から前記水性液体を排出する、請求項7に記載の方法
【請求項9】
前記(ii)の工程で処理された前記水性液体を、前記(ii)の工程における電圧の印加方向に応じて振り分ける、請求項7または8に記載の方法。
【請求項10】
前記(i)の工程において、複数の前記処理槽と複数の前記電極群とを準備して前記複数の処理槽のそれぞれに前記電極群を配置し、
前記(ii)の工程において、前記複数の電極群が直列に接続された状態で電圧を印加する、請求項7〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記イオン吸着電極と前記対極との距離が0.2cm〜2cmの範囲にある、請求項7〜10のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−131118(P2011−131118A)
【公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−290414(P2009−290414)
【出願日】平成21年12月22日(2009.12.22)
【出願人】(505214249)有限会社ターナープロセス (4)
【Fターム(参考)】