説明

植物由来の新規ホスホジエステラーゼ製剤

本発明は、ソルガムから抽出した5’−ホスホジエステラーゼの調整、および5’−ヌクレオチドが豊富な組成物、具体的に酵母抽出物の調整のための5’−ホスホジエステラーゼの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、酵母の酵素処理による香味修飾剤の調整のための方法、それにより得られる香味修飾剤および香味修飾剤の使用に関する。
【0002】
酵母抽出物は、粉末状又はペースト状で市販されているとともに、農業食品産業において香味剤として広く使用されている。
【0003】
酵母抽出物は、一般的に自己分解又は加水分解によって得られる酵母の可溶成分の濃縮物として定義される。
【0004】
自己分解とは、基本的に、酵母の実在分解酵素(プロテアーゼ)の活性化によって行われる酵母の細胞膜の損傷と、その結果としての細胞内化合物の可溶化とを目的とした方法である。
【0005】
酵母抽出物は、高分解状態にある細胞内含有物の放出を可能とする試薬または酵素剤を用いる加水分解によっても得ることができる。
【0006】
酵母抽出物は、天然香味剤という名で農業食品産業において広く受け入れられている。
【0007】
酵母抽出物はまた、同等の香味強度をもつ他の香味剤(時に非天然のもの)と、価格面で非常に競合している。
【0008】
酵母の酵素処理については、当該技術分野で広く知られている。
【0009】
自己の内因性酵素化物質によって酵母を分解することにより調整される酵母の自己分解物は、食品添加物として広く知られている。
【0010】
この自己分解は、酵母細胞を高温でインキュベートする方法、有機溶剤を加える方法、NaClの濃度を増加する方法やこれらの様々な方法を組み合わせることによって開始させることができる。
【0011】
自己分解の間に起こる主な変換として、タンパク質のペプチドおよびアミノ酸への分解がある。
【0012】
結果として得られる自己分解物は、苦い香りや独特の強い酵母臭を有する。別のデメリットとしては、内因性リボヌクレアーゼが細胞間RNAを3’−リボヌクレオチドに変換するため、この自己分解物が香りに関して全く貢献しない3’−リボヌクレオチドのみを含むことが多いということがある。
【0013】
酵母抽出物の調整方法は、Quest International B.V.による欧州特許第0354610号に示されており、先ず第1に、嫌気条件下で外因性タンパク質分解酵素により細胞壁を分解し、続いて酸素条件下で細胞間RNAを分解する。この方法によれば、5’−ヌクレオチドの多い自己分解物を得ることが可能となる。
【0014】
酵母自己分解物に含まれる公知の風味化合物は、アミノ酸、ペプチド、5’−ヌクレオチド、サッカリドおよび有機酸といった核酸を含む。5’−ヌクレオチド含有物は、風味化合物や香味化合物にとって非常に重要である。このような核酸は、例えば5’−イノシン一リン酸(5’−IMP)や5’−グアノシン一リン酸(5’−GMP)といった食品製剤の香味付けの際の粗化合物として使用されているが、医薬品の製造にも応用されている。
【0015】
旨味は、甘味、塩味、苦味および酸味に続く第5の基本の味として認識されている。高い味覚増進力を有する5’−ヌクレオチドは旨味をも生産し、それ故、酵母抽出物に元来見られるグルタミン酸ナトリウム(MSG)効果を強化する。
【0016】
5’−ヌクレオチドの生産には、極めて特異な酵素である5’−ホスホジエステラーゼ(5’−PDE)を用いた粗RNAの加水分解を必要とする。CohnおよびVolkin(1953)は初めて、ヘビ毒内の5’−ホスホジエステラーゼ活性の存在を実証した。ヘビ毒は、その非常に高い能力にも関らず、明確な理由のために、農業食品産業で使用することができない。
【0017】
5’−PDEの他の主要源には、ペニシリウム・シトリヌム(Penicillium citriuum)といった特定の菌類や、ストレプトマイセス・アウレウス(streptomyces aureus)といった特定の放射菌が含まれる。
【0018】
実際、ペニシリウム・シトリヌムにより得られる5’−PDEは、とりわけ、ヌクレアーゼRP−1G(またはEC3.1.30.1)という名で天野エンザイムから市販されている。非常に高い生産コストのため、この酵素は、工業規模上、主に固定化型で用いられる。5’−ヌクレオチドが豊富な酵母抽出物の生産方法にこの酵素を用いると、非常に高い追加の酵素コストが発生してしまう。
【0019】
特定の植物胚における5’−PDE活性の存在は、Schuster(1957)によって実証されている。多数の最近の研究は、特許出願のテーマとなるとともに、麦芽根(麦芽は大麦胚芽)の抽出物から5’−ヌクレオチドが豊富な酵母抽出物を生産する方法を主に開示している。麦芽は、醸造産業における副産物であり、したがって、酵母RNA由来の5’−ヌクレオチド生産のための安価な酵素源となる可能性がある。この場合、5’−PDEは、酵素を安定化させるための酢酸亜鉛を含む水溶液中の麦芽根粉末を単に煮出すだけで調整でき、その使用により発生する、5’−ヌクレオチドの豊富な酵母抽出物の製造に掛かる追加コストは小さい。
【0020】
酵素源として大麦麦芽を用い、5’−ヌクレオチドが豊富な酵素誘導体を生産する方法は、例えば、US−A−4 810 509、EP−A−0299078、FR 75 08446の文献や、G.ReedおよびT.W.Nagodawithana、“Yeast Technology”第2版(Van Nostrand Reinhold、ISBN 0−442−31892−8)、382〜385頁の参照マニュアルに開示されている。
【0021】
麦芽または大麦胚芽から得た5’−PDEを用いることの主たるデメリットとして、アレルギー特性がある。酵素の派生源である原材料は、この場合大麦であるが、アレルギー特性を示すとともに、アレルギー(セリアック病)を引き起こす小麦グリアジンに似たプロラミンというホルデインを含む。実際、大麦は、EC指令2000/13/EC、EC指令2003/89/ECにより修正、にグルテンを含む穀物に属するとしてリストされている。それ故、「アレルゲン」指令と称するこのEC指令によれば、大麦または大麦の誘導体を含む製品は、標示の対象である。
【0022】
これらのタンパク質の主たる特性としては、胃の酸性環境下においても、腸内の消化酵素によっても分解されないことである。分解されない状態であることから、これらのタンパク質は、そのままの状態で腸内に吸収され、それ故、免疫反応を引き起こしてしまう。セリアック病の場合、プロラミンの消費が体内反応を引き起こす。これらのタンパク質の消費は、小腸の細胞表面を損傷する強い炎症反応を引き起こすため、いわゆるセリアック病患者にとって、全てのこれらのプロラミンタンパク質は有毒である。このことは、タンパク質、脂肪、炭水化物、ビタミンやミネラルといった栄養素を吸収する小腸の能力を低下させるという影響をもつ。アレルギーは、胃腸性の兆候:胃けいれん、拡張および慢性下痢と関係がある。このことは、各種栄養素(鉄、カルシウム、葉酸)の吸収不良、消化不良(貧血や体重減少)、疲労、骨痛、筋けいれんや過敏症に繋がる可能性がある。
【0023】
大麦麦芽からのPDEの精製は、酵素と大麦プロラミンとが難なく分離できる場合、代替を構成する可能性がある。しかし、Ai−Yu Wangら((1993)Biochemistry and Molecular Biology International、1095〜1102頁、第29巻、第6版)、またはBeluhanら((2003)in Biotechnology Letters 25、1099〜1103頁)により発行された研究は、調製液中の大麦プロラミンの存在を測定することなく大麦麦芽から精製された5’−PDEを特徴つけることに焦点をおいている。この代替の精製方法は、高価であると見られ、酵素調製液からのグルテンの除去を示す分析記録はあるが、この酵素の活性に由来するアレルギー特性の不存在を立証する臨床記録は特にない。
【0024】
代替の第2の精製方法としては、ペニシリウム・シトリヌムや黒色アスペルギルスといった糸状菌の菌株、またはアクタノミセス属やストレプトミセスといった細菌から得られる微生物起源の5’−PDEを用いるものがある。しかし、これら微生物起源は、菌株改良段階を伴う非常に長い進化である。加えて、この型の製品は、工業発酵/工業精製プラントや、プロセスを必要とし、その結果、高価な酵素となってしまう。
【0025】
代替の第3の精製方法としては、プラント5’−PDEを工業用微生物内でクローンする方法があるだろう。この精製方法については本出願人の調査チームによって評価がなされているが、この酵素をコード化する配列が知られていないこと、このことが遺伝子組み換え生物(GMO)由来の酵素に繋がるであろうこと、このようなタイプの製品は、様々なユーザークライアントから依然として非常に良く見られていないという事実があった。
【0026】
それ故、市場で入手可能な市販酵素に見られるような経済的デメリットの無いグルテンフリーの食物酵素源を発見することは、今日まで未解決の問題である。本発明の製剤は更に、RNA断片やヌクレオチドを分解して味覚増進力を有しない分解産物にするヌクレアーゼまたはホスファターゼを含まないはずである。本発明の製剤は、服用中に不本意ながら感受する可能性のある臭味や香味臭のいずれも生産しないはずである。
【0027】
本出願人は、5’−ヌクレオチドの豊富な酵母抽出物の調整においてアレルギー特性を有する大麦麦芽に、ソルガム麦芽が完全に取って代わることができることを全く予想せずまた意外にもちょうど今見出した。さらに、ソルガムは、EC指令2003/89/ECのグルテンを含む穀物のリストには記載されておらず、したがってグルテンの様なアレルギー特性が無い。
【0028】
本出願人は、ソルガム麦芽の胚芽や細根を含む混合物から5’−PDEの酵素調整剤を作り出した。
【0029】
より詳しくは、ソルガム麦芽根を煮出す方法により、ソルガム5’−ホスホジエステラーゼを作り出した。故に、粒径20から2000μm、好ましくは100から200μmのソルガム根の粉末が、酢酸亜鉛または酢酸亜鉛の同等剤、すなわち同一の5’−PDE安定化効果を備える薬剤の水溶液中に懸濁されている。この懸濁液は、50から80℃の温度で30分から4時間インキュベートされる。好ましくは、この懸濁液は撹拌される。例えば、ソルガム根の粉末は5から20%(w/w)、好ましくは10から15(w/w)、具体的に13%の割合で用いられる。酢酸亜鉛の濃度は、好ましくは0.2から5g/lである。他の実施形態では、細根を含む全ソルガム麦芽が用いられる。そして、好ましい実施形態としては、懸濁液の可溶性部分が回収される。例えば、調整液が遠心分離式のデカンタで分離され、その後、デカンタの上澄みが遠心清澄機で分けられる。
【0030】
このようにして得られたソルガム5’−PDE製剤は、5’−ヌクレオチドが豊富なグルテンフリーの組成物、5’−ヌクレオチドが豊富な酵母抽出物の調整剤のために用いることができる。
【0031】
本発明はしたがって、酢酸亜鉛水溶液(0.2から5g/l)中の麦芽ソルガム根の懸濁液を50から80℃の温度で30分から4時間調整するステップと、その後に不溶性成分を除去するステップとを含む、ソルガム5’−PDEの調整方法に関する。この調整方法は、濃縮するステップをさらに含んでもよい。
【0032】
本発明は、この調整方法により得られるソルガム5’−PDEの調整剤、およびRNAを分解するためのソルガム5’−PDEの使用に関し、より詳細には、5’−ヌクレオチドが豊富な組成物、好ましくは酵母抽出物であり、グルテンを含まない組成物の調整に関する。本発明はまた、RNA含有組成物の5’−ヌクレオチドを豊富にするための、ソルガム麦芽から抽出した5’−PDEの使用に関する。本発明はしたがって、5’−ヌクレオチドの豊富なグルテンフリーな組成物、好ましくは酵母抽出物を調整するための方法であって、RNAを細胞外培地に放出させるための微生物細胞を処理するステップと、放出されたRNAを5’−ヌクレオチドに変換させるために、得られた懸濁液をソルガム5’−PDE調整剤と共に処理するステップとを含む。本方法で使用可能な他の微生物細胞の例としては、例えば、アスペルギルス属やトリコデルマ属型の糸状菌や、好ましくは乳酸菌属の乳酸桿菌である細菌がある。本方法は、RNAの完全または部分精製の中間ステップを含んでもよい(JP 51106791参照)。
【0033】
好ましい実施形態としては、本発明は、酵母抽出物またはソルガム懸濁液を5’−PDE調整剤と共に処理するステップを含む。
【0034】
したがって、本発明は、より詳細には、5’−ヌクレオチドが豊富でグルテンを含まない酵母抽出物を調整する方法に関し、
酵母懸濁液を加熱するステップ、
酵母懸濁液を5’−ホスホジエステラーゼと共に処理するステップ、
懸濁液から不溶性物質を分離するステップ、及び、
酵母抽出物を回収するステップ、を含み、
5’−ホスホジエステラーゼが、ソルガム、詳しくはソルガム麦芽、より詳しくはソルガム麦芽根から抽出されたことを特徴とする。
【0035】
本発明に有用な酵母は、食用酵母である。本発明によれば、抽出物を調整するために用いられる酵素は、好ましくはサッカロミセス属であり、好ましくは更に、いわゆるサッカロミセス・カールスベルゲンシスを含むサッカロミセス・セレビシエ種である。サッカロミセス・セレビシエの酵母細胞は、ビール酵母の場合、サッカロミセス・カールスベルゲンシスと呼ばれることが多いが、“THE YEASTS,a taxonomic study”第3版、N.J.W. Kreger van Rij版−1984年によれば、正確な分類名はサッカロミセス・セレビシエである(他方、このマニュアルの1998年の第4版では、サッカロミセス・カールスベルゲンシスには二つの類義語:サッカロミセス・セレビシエおよびサッカロミセス・パストリアヌス(Saccharomyces pastorianus)があるが、本明細書に参照として取り込むのは、1984年からあるこのマニュアルの第3版とする。)。更に、この酵母は、カンジダ属(例えばカンジダ酵母)、ピキア属、ハンゼヌラ、クルイベロミセス属(例えば、クルイベロミセス・ラクチス、クルイベロミセス・マルキサヌスまたはクルイベロミセス・フラジリス)、トルラ、フザリウム属、ザイモモナス属などの由来であってもよい。この酵母は、未使用の酵母または醸造プロセスで使用された酵母の細胞由来であってもよい。好ましい実施形態としては、この酵母は、サッカロミセス属、カンジダ属またはクルイベロミセス属である。
【0036】
このように酵母が選ばれるのは、RNA含有量が高いからである。特定の実施形態において、RNA含有量は、乾燥重量で6から15%である。
【0037】
酵母は、そのRNA含有量を増加可能とするための予備処理を施してもよい。このような予備処理は、酵母の変異および抽出による予備処理としてUS3,909,352およびJP11−196856に、培地中の硫酸カリウムの制限による予備処理としてJP5−176757に開示されている。
【0038】
酵母懸濁液中のRNA含有量は、人間の食品または動物性食品として承認されている微生物から得られたRNAを添加することで増加させてもよい。このような微生物の例としては、例えばアスペルギルス属やトリコデルマ属型の糸状菌や、好ましくは乳酸菌属の乳酸桿菌である細菌がある。この場合、微生物はそのRNA含有量を放出するように処理される。特定の実施形態において、RNAを公知の手法(超ろ過法、クロマトグラフィー法または沈殿法)により完全または部分精製することができる。
【0039】
酵母抽出物を調整する方法は、当業者に広く知られている。このような方法は、例えば以下の特許に開示されている:EP 249 435;EP 299 078;EP 354 610;EP 466 922;EP 1 199 353;EP 1 479 299;US 3,961,080;US4,303,680;US4,810,509。これらの方法は、一般に酵母懸濁液を加熱するステップを含み、追加的に酵母の自己分解および/または加水分解のためのステップを含み、好ましくは懸濁液から不溶性物質を分離するステップを含む。この懸濁液は、生きている酵母の懸濁液である。
【0040】
好ましくは、ホスファターゼおよびヌクレアーゼを含む酵母酵素を不活性化させ、酵母の細胞内含有量およびRNAを放出するように酵母を透過処理し、好ましくは細胞外培地にRNAを選択的に可溶化し、結果的に酵母懸濁液のRNA含有量よりも多い5’−ヌクレオチド力価を得られるように、酵母懸濁液が原形質分離される。好ましくは、酵母懸濁液は10から25%の乾燥物質を含む。好ましい実施形態において、酵母懸濁液は、5から95℃の範囲の温度で5分から3時間加熱される。具体的に、懸濁液を75℃で2時間加熱し、その後60℃まで冷却することができる。
【0041】
例えば機械処理(フレンチプレス、ガラス球、電磁場など)、化学処理(酸、塩基、塩、溶媒、浄化剤など)または酵素処理(β−グルカナーゼ、キチナーゼ、プロテアーゼなど)といった、酵母の細胞内含有量を放出させる当業者に広く知られた他の技術を用いることもできる。
【0042】
更に、本発明の方法は、酵素処理ステップを含んでもよく、この酵素は、プロテアーゼ、β−グルカナーゼ、アミラーゼ、リパーゼなどから選択できる。
【0043】
故に、本発明は、5’−ヌクレオチドの豊富な酵母抽出物を調整する方法に関し、
a)酵母懸濁液の加熱ステップ;
b)酵母の自己分解および/または酵素加水分解ステップ;
c)懸濁液からの不溶性物質の分離ステップ;
d)酵母抽出物の回収ステップ;
を含み、この方法は、酵母懸濁液をソルガム麦芽から抽出した5’−ホスホジエステラーゼと共に処理するステップを含むことを特徴とする。
【0044】
ステップbは、酵母外部から酵素を用いて処理されることが好ましく、酵母タンパク質の分解を促進するために、具体的にプロテアーゼを用いて処理されることが好ましい。このようなプロテアーゼの例としては、植物プロテアーゼ(パパイン、ブロメラインなど)または微生物プロテアーゼ(枯草菌、コウジカビなど)がある。
【0045】
本発明の方法は、ソルガム5’−ホスホジエステラーゼと共に処理するステップの前に、RNAの完全または部分精製のステップを含んでもよい。
【0046】
好ましい実施形態において、ソルガム5’−PDEと共に酵母懸濁液を処理するステップは、35から70℃の間の温度で5.0から7.5の間のpHで行われる。ソルガム5’−PDEが入った酵母懸濁液のインキュベート時間は、5から30時間まで幅があってよい。好ましくは、ソルガム5’−PDEの調整液は、酵母懸濁液の10%w/w加えられる。例えば、酵母懸濁液をソルガム5’−PDEと共に処理するステップは、6.3のpH、60℃で18時間行うことができる。
【0047】
好ましくは、本発明の酵母抽出物は、5’−GMPおよび/または5’−IMPが豊富である。具体的には、共に0.1から15%の5’−GMPおよび5’−IMPレベル達成でき(二ナトリウム、七水和物の塩として表した場合)、好ましくは2から5%を達成できる。得られた酵母抽出物は、グルテンを含まない。
【0048】
本発明の方法は、酵母懸濁液をデアミナーゼと共に処理するステップを追加的に含んでもよい。本処理は、酵母懸濁液をソルガムPDEと共に処理する間または処理した後に行うことができる。好ましい実施形態において、デアミナーゼと共に処理する本ステップは、ソルガムPDEと共に処理するステップと同時またはその後に行われる。例えば、デアミナーゼが、5’−PDEとの処理の最終段階で添加されてもよく、例えば45℃まで懸濁液が冷却された後に添加されてもよい。本ステップにより、5’−AMPを所望の5’−IMPに変換可能となる。この追加的ステップは、当業者に広く知られており、例えばEP 249 435やEP 354 610に開示されている。市販されているデアミナーゼの一例としては、天野から生産されているデアミナーゼ50000Gがある。好ましい実施形態として、本発明の方法は、多糖類を乳酸やコハク酸といった有機酸に変換可能な発酵ステップを含む。本ステップは当業者に広く知られており、例えばEP 191 513やEP 354 610に開示されている。この発酵は、乳酸菌属または同等菌属の細菌補助剤と共に好ましく行うことができる。
【0049】
好ましくは、本発明の酵母抽出物は、酵母細胞の不溶性部分からその後分離される。不溶性部分からこのように分離された酵母抽出物は、不溶性部分の膜脂質の酸化による臭味の発生が無いという良好な保存の効果をもたらす。例えば、本ステップは、液体成分の遠心分離またはろ過または回収により行うことができる。
【0050】
可溶性成分にはその後、酵母抽出物に対する公知のあらゆる最終処理、具体的に、濃縮、ろ過、低温殺菌および/または乾燥が施される。
【0051】
上述したように、酵母抽出物は普通、味覚増進剤として用いられる。「酵母抽出物」という表現は、本発明では、一般に自己分解または加水分解によって得られる酵母の可溶成分の濃縮物を意味するものと解される。5’−ヌクレオチドが豊富な本発明の酵母抽出物は、例えば、液体状、ペースト状、固体状といった様々な形態で供給される。本発明の酵母抽出物は、乾燥物質の少なくとも90重量%、好ましくは乾燥物質の94から98重量%の5’−ヌクレオチドを有利に含む。
【0052】
本発明はしたがって、本発明による方法により得られるまたは得ることのできる酵母抽出物、またはこれら酵母抽出物の食料部門への適用に関する。これら酵母抽出物は、グルテンを含まない。これら酵母抽出物は、好ましくは共に0.1から15%の5’−GMPおよび5’−IMPレベル含む(二ナトリウム、七水和物の塩として表した場合)。
【0053】
本発明は、本発明による酵母抽出物の食事献立における利用、このようにして得られた食事献立およびこの献立に基づいて得られる消費用食料品に関する。食事献立は例えば、ブロス、ソース、惣菜、パン生地または香辛料とできる。
【0054】
本発明は、本発明による酵母抽出物を含む香味修飾剤にも関する。本発明による香味修飾剤は、不溶性物質も含むことができる。
【0055】
本発明は、本発明による香味修飾剤の食事献立における利用、このようにして得られた食事献立およびこの献立に基づいて得られる消費用食料品に関する。食事献立は例えば、ブロス、ソース、惣菜、ベーカリー製品または香辛料とできる。
【0056】
故に、本発明は、本発明による香味修飾剤が用いられることを特徴とする食料品の香味付けの方法に関する。
【0057】
以下の実施例は、本発明を明らかにするために示されるものであるが、本発明の範囲を限定するものとして考慮されるべきではない。
【0058】
実施例1
ソルガム根の抽出物の調整
使用するソルガム根は、アフリカのソルガム麦芽会社から入手した。500μmの平均粒子サイズを有する粉末を得るため、ソルガム根の13gが磨り潰されまたは挽かれた。この粉末は、0.2g/lの酢酸亜鉛水溶液中、2時間、60℃の温度で、13%(w/w)の煮汁に調整された。2回の遠心分離ステップにより固体および不溶物を抽出した後に、ソルガム根の抽出物を得た。
【0059】
実施例2
5’−ヌクレオチドが豊富な酵母抽出物の調整−
ソルガム由来の5’−PDEと市販酵素との比較
15%の乾物含有量および9.5%のRNA含有量(Induction of Autolytic Breakdown of RNA in Yeast by Addition of Ethanol and by Drying/Rehydration;Trevelyan,J.,Sci.FoodAgrc.,1977,28,579−588;およびProcessing Yeast to Reduce its Nucleic Acid content. Induction of Intracellular RNase Action by a Simple Heat−shock Procedure, and an Efficient Chemical Method Based on Extraction of RNA by Salt Solutions at low pH;Trevelyan,J.,Soc.Chem.Ind.,1978,pp141−174に記載されたTrevelyan法による加水分解により測定。)を有するサッカロミセス・セレビシエ属のクリーム酵母の1,000gが2時間75℃で熱処理され、その後56℃に冷却されると共に、5.3のpHに調節された(原形質分離)。このクリームは、5’−PDEを含む(10% w/w)ソルガム根の懸濁液の上澄みと共に混合される。混合液全体は、RNAを5’−ヌクレオチドに加水分解するため、56℃で15時間、穏やかに撹拌されながらインキュベートされる。固形物はその後、遠心分離によって分離され、再度遠心分離する前に脱塩水による洗浄にさらされる。2つの上澄み物は、混ぜ合わされ、濃縮され、スプレードライされる。粉体の分析をしたところ、2.44%の5’−GMP含有量を示した(二ナトリウム、七水和物の塩として表した場合)。この分析は、Enzymatic Production of Ribonucleotides from Autolysates of Kluyveromyces marxianus grown on whey; Belem,M.A.F.,ら、Jounal of Food Science,62,pp 851-854に記載されたRP−HPLCにより実施した。
【0060】
同一条件で原型質分離を行うと共に、天野から入手した市販の5’−PDE(トレードネーム=PDE RP−1、天野エンザイム・ヨーロッパ)の1gと15時間インキュベートされた同一クリームの1kgは、分離、濃縮および乾燥後、2.60%5’−PDEの力価を有する粉体を与えた。加水分解の効率はしたがって、両者とも同様であり、RNAの加水分解という観点からも、ソルガム由来の5’−PDEは、より高価な市販酵素と同様の効率である。
【0061】
実施例3
本方法は、麦芽になったソルガム根の13gおよび前実施例で上述したクリーム酵母の1,000gからスタートした。しかしながら、インキュベーションの15時間後、温度を45℃まで下げ、天野から入手した5’−アデニルデアミナーゼ(トレードネーム=Deamizyme 50000G、天野エンザイム・ヨーロッパ)の0.1gを加えた。5’−アデニルデアミナーゼで5’−AMPを5’−IMPに変換させるために、混合物全体が5時間インキュベートされた。固形物はその後、遠心分離によって分離され、再度遠心分離する前に脱塩水による洗浄にさらされる。2つの上澄み物は、混ぜ合わされ、濃縮され、スプレードライされる。粉体の分析をしたところ、2.80%の5’−GMP含有量および3.21%の5’−IMP含有量を示した(分析はRP−HPLCによるものであり、これらは二ナトリウム、七水和物の塩として表した)。
【0062】
本方法は、麦芽になったソルガム根の13gおよび前実施例で上述したクリーム酵母の1,000gからスタートした。しかしながら、ソルガム麦芽5’−PDEを加える前に、酵母の乾物含量の可溶化を促進するためにパパインの0.5gが加えられた。本方法の残りの部分は、実施例3で5’−アデニルデアミナーゼを加えることを含み同様であった。結果物である粉体の分析をしたところ、1.96%の5’−GMP含有量および2.07%の5’−IMP含有量を示した(分析はRP−HPLCによるものであり、これらは二ナトリウム、七水和物の塩として表した)。
【0063】
本方法は、サッカロミセス・セレビシエのクリーム酵母を、13%の乾物含有量および12.5%のRNA含有量を有するカンジダ酵母クリームに置き換えた他は、実施例1および2同様に行った。結果物である粉体の分析をしたところ、3.75%の5’−GMP含有量および3.98%の5’−IMP含有量を示した(これらは二ナトリウム、七水和物の塩として表した)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
5’−ヌクレオチドが豊富でグルテンを含まない酵母抽出物を調整する方法であって、
a)酵母懸濁液を加熱するステップ;
b)上記酵母懸濁液を5’−ホスホジエステラーゼと共に処理するステップ;
c)上記懸濁液から不溶性物質を分離するステップ;及び、
d)上記酵母抽出物を回収するステップ;
を含み、上記5’−ホスホジエステラーゼが、ソルガム麦芽根から抽出されたことを特徴とする。
【請求項2】
ソルガム麦芽根から抽出された上記5’−ホスホジエステラーゼが、30分から4時間、50から80℃の温度で酢酸亜鉛水溶液(0.2から5g/l)中の懸濁状態の麦芽ソルガム根の粉末を煮出し、不溶性成分を除去することで調整されることを特徴とする請求項1の方法。
【請求項3】
上記粉末の粒子径が20から2000μm、好ましくは100から200μmであることを特徴とする請求項2の方法。
【請求項4】
上記酵母懸濁液をソルガム5’−ホスホジエステラーゼと共に処理するステップが、5から30時間、35から70℃の間の温度で5.0から7.5の間のpHで行われることを特徴とする請求項1乃至3何れか1項の方法。
【請求項5】
上記方法が、上記加熱ステップの後に、上記酵母懸濁液を酵素消化するステップを更に含むことを特徴とする請求項1乃至4何れかの方法。
【請求項6】
上記方法が、上記酵母懸濁液をソルガム5’−ホスホジエステラーゼと共に処理するステップの前に、RNAの完全または部分精製のためのステップを更に含むことを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項の方法。
【請求項7】
上記方法が、デアミナーゼと共に処理するステップを更に含むことを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項の方法。
【請求項8】
上記酵母のRNA含有量が、乾燥重量で6から15%であることを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項の方法。
【請求項9】
前記酵母が、サッカロミセス属、カンジダ属またはクルイベロミセス属であることを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項の方法。
【請求項10】
請求項1乃至9の何れか1項の方法により得られる5’−ヌクレオチドが豊富で、グルテンを含まない酵母抽出物。
【請求項11】
請求項10または請求項1乃至9の何れか1項の方法により得られる5’−ヌクレオチドが豊富な酵母抽出物を含む香味修飾剤。
【請求項12】
請求項11の香味修飾剤が用いられることを特徴とする食料品の香味付けの方法。
【請求項13】
請求項11の香味修飾剤を含む食料品。
【請求項14】
5’−ヌクレオチドが豊富な組成物の調整のためのソルガム麦芽から抽出した5’−ホスホジエステラーゼの使用。

【公表番号】特表2010−502236(P2010−502236A)
【公表日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−527867(P2009−527867)
【出願日】平成19年9月11日(2007.9.11)
【国際出願番号】PCT/FR2007/051905
【国際公開番号】WO2008/031982
【国際公開日】平成20年3月20日(2008.3.20)
【出願人】(506261567)ルサッフル・エ・コンパニー (7)
【氏名又は名称原語表記】LESAFFRE ET COMPAGNIE
【Fターム(参考)】