説明

植物由来の生分解性の合成樹脂シートおよび容器

【課題】ポリオレフィン系樹脂の持つ耐候性を生分解に変え、ポリオレフィン系樹脂の持つその他の長所をおおよそそのまま保持した、植物由来の原料で作られた生分解性の合成樹脂シートを提供すること。またそのような生分解性の容器を提供すること。
【解決手段】植物由来のポリオレフィン系樹脂100重量部に、同じく植物由来のコハク酸と、植物由来の1,4−ブタンジオールと、植物由来の乳酸との三者が重縮合してなる三元共重合体を10〜100重量部加えて得られた混合物を加熱混練してシートにする。またこのシートを成形して植物由来の容器とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、植物由来の生分解性の合成樹脂シートおよび容器に関するものである。とくに、この発明は自然条件下に或る期間放置すると、分解して元の形をとどめなくなる植物由来の合成樹脂シートおよび容器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリオレフィン系樹脂で作られたシートは、食品などを入れる容器を成形するためのシートとして、また防水、保温などを目的とするシートとして現在広く使用されている。それは、ポリオレフィン系樹脂が無害のものであって、水を通さず、強靭であって柔軟性に富み、しかもシートや容器に成形することが容易であり、その上に成形されたシートや容器は寸法安定性と耐候性にすぐれるなど、多くの長所を持っているからである。
【0003】
ところが、ポリオレフィン系樹脂が耐候性にすぐれていることは、最近では却って欠点とされるに至った。それはポリオレフィン系樹脂で作られたシートや容器は、役立たなくなったあとで、自然条件下に放置すると、耐候性にすぐれているためにいつまでも元の形を保っているからである。そのため、シートや容器はゴミとして堆積されることになって環境を悪くするからである。
【0004】
このようなシートや容器を処分するには焼却せざるを得ない。ところが焼却のためには大掛かりな焼却設備が必要とされるだけでなく、焼却時に大量の二酸化炭素が発生する。二酸化炭素の発生は地球温暖化を促進し、環境を害する。また焼却が拙劣であると他の有害ガスを発生させて、人畜に直接被害を及ぼすこととなる。そのため、ポリオレフィン系樹脂で作られたシートや容器はその使用を制限せざるを得ない状況に至っている。
【0005】
他方、合成樹脂の中には生分解性を持ったものがある。生分解性の合成樹脂は、これを自然条件下に暫らく放置すると、日光、風雨または細菌の作用によって、自然に分解されて水と二酸化炭素のような無害なものとなる。そのような性質を持った合成樹脂としては、ポリ乳酸系樹脂と脂肪族ポリエステル樹脂とが知られている。
【0006】
ポリ乳酸樹脂は、乳酸を重合させて得られた熱可塑性樹脂である。乳酸は不斉炭素原子を含んでいるため、左旋性と右旋性との2つの光学的異性体を生じて複雑であるだけでなく、色々な重合法があるためにポリ乳酸は広い範囲にわたって物性が変化するものとなる。しかし、総括して言えば、ポリ乳酸は結晶性の硬質樹脂であって柔軟性に乏しい。そのため、ポリ乳酸樹脂で作られたシートは、衝撃を受けると割れ易く、また曲げにくく、無理に曲げるとひび割れを生じる。
【0007】
脂肪族ポリエステル樹脂は、二塩基性の酸と二価のアルコールとを縮合させて得られた熱可塑性の樹脂である。従って、二塩基性の酸と二価のアルコールに何を使用するかによって、ポリエステル樹脂の物性は大きく変化する。総括的に言えば脂肪族ポリエステル樹脂はポリ乳酸系樹脂よりも柔軟性に富んでいる。
【0008】
そのため、ポリ乳酸に脂肪族ポリエステル樹脂を加えてポリ乳酸の耐衝撃性を改良しようとする試みがなされた。特開2006−206670号公報は、ポリ乳酸にポリブチレンサクシネートを配合して、衝撃を受けても割れにくい生分解性の合成樹脂シートを提供している。しかし、そのシートは柔軟性に乏しく、ポリオレフィン系樹脂のような柔軟なものではない。
【0009】
一般に、物性の異なった2種の熱可塑性樹脂を混合して組成物とし、1つの樹脂の持つ欠点を他の樹脂の持つ長所で補って、改良された樹脂組成物とすることは知られている。その組成物を作るにあたっては、混合する樹脂同士が良好な相溶性を持つものでなければならない、とされている。相溶性が良好でないと、組成物中で2種の樹脂が分かれて別々の相を形成し、極端な場合には2つの層に分かれて、まともな商品とならないからである。
【0010】
ポリオレフィン系樹脂は、極性を持たない分子からなり、他方、脂肪族ポリエステル樹脂は極性を持った分子からなるから、ポリオレフィン系樹脂と脂肪族ポリエステル樹脂とは、本来相溶性が良好でない。従って、ポリオレフィン系樹脂に脂肪族ポリエステル樹脂を混合して組成物とすることは、余り試みられていない。
【0011】
特開平6−263892号公報は、ポリオレフィン系樹脂に脂肪族ポリエステル樹脂を加えて、生分解性の合成樹脂フィルムを作ることを記載している。前述のように、2つの樹脂は相溶性が良好でないので、この公報はこれにさらに相溶化剤を加えることを提案している。その相溶化剤は、「酸またはエポキシ変性された官能基と、ポリオレフィン系樹脂との相溶性基を持ち、且つマクロモノマー法によって合成されたくし型構造を持ったグラフトポリマー」であることが必要とされている。このようなグラフトポリマーは、複雑な化合物であるために、その実施は容易でない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2006−206670号公報
【特許文献2】特開平6−263892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
この発明は、ポリオレフィン系樹脂の持つ長所の大部分を残し、ただ耐候性を弱めて若干の生分解性を与えた植物由来の原料で作られた生分解性のシートを提供し、これによってポリオレフィン系樹脂シートの使用がためらわれていたのを改善しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明者は、上記の課題解決のためにポリオレフィン系樹脂に種々の熱可塑性樹脂を配合して組成物とし、その組成物をシートに成形し、得られたシートの物性を測定した。その結果、ポリオレフィン系樹脂に特定の脂肪族ポリエステル樹脂を配合すると、得られた組成物は相溶化剤のようなものを加えなくても、互いによく相溶して一様な組成物となることを見出した。また得られた組成物は容易にシートに成形できて、得られたシートはポリオレフィン系樹脂シートの長所を保持し、しかも生分解性を持つに至ることを見出した。この発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0015】
ポリオレフィン系樹脂に配合する特定の脂肪族ポリエステル樹脂は、ポロブチレンサクシネートに少量の乳酸を共重合させて得られた共重合体である。すなわち、このポリエステル樹脂は、二塩基性の脂肪酸としてコハク酸を用い、二価の脂肪族アルコールとして1,4−ブタンジオールを用いてポリブチレンサクシネートにするとともに、これに乳酸を共重合させたものである。このポリエステル樹脂はコハク酸、1,4−ブタンジオールおよび乳酸の三者の重縮合したものであるから、以下では三元共重合体と呼ぶことにする。
【0016】
ポリオレフィン系樹脂に三元共重合体を配合するに際しては、重量で前者100部に対し後者を10〜100部とする。その理由は、三元共重合体を10部未満としたのでは、得られたシートの生分解性が充分でないからであり、逆に100部を超えるようにしたのでは、両樹脂が相溶し難くなって、一様な組成物とすることが困難となるからである。もっとも、三元共重合体がさらに多くなって、ポリオレフィン系樹脂の9倍以上になると、両樹脂は一様な組成物を形成するが、そのような組成物ではポリオレフィン系樹脂の性質が失われるので目的に合わない。
【0017】
この発明は、重量でポリオレフィン系樹脂100部に、コハク酸と1,4−ブタンジオールと、乳酸との三者が重縮合してなる三元共重合体10〜100部を加え、得られた混合物を加熱下に混練してシート状に成形してなる生分解性の合成樹脂シートを提供するものである。
上記の三元共重合体は47〜49.5モル%のコハク酸と、コハク酸と等モル%の1,4−ブタンジオールと、1〜6モル%の乳酸とが重縮合してなる組成のものであることが好ましい。
【0018】
この発明では、ポリオレフィン系樹脂も三元共重合体も、何れも植物由来のものを用いる。植物は澱粉や糖や繊維素を含んでいる。これらは分解するとグルコースとなる。グルコースは発酵させることにより乳酸にすることもでき、またコハク酸にすることもできる。さらにコハク酸はこれに水添して1,4−ブタンジオールにすることもできる。また、グルコースからエチレンを作り、エチレンを重合させてポリエチレンにすることもできる。従って、この発明では原料をすべて植物由来のものとすることができる。
【0019】
ポリオレフィン系樹脂と三元共重合体とを上記の割合に混合して得られた混合物は、これを加熱混練すると、それだけで均一な組成物となる。加熱混練するには押出機を用いるのが好ましいが、加熱ロールなどの通常の樹脂加工装置を用いることもできる。
また、この組成物をシートに成形するには、押出機を用いるのが好ましいが加熱ロールなどの装置を用いることもできる。
【0020】
この発明では、組成物から作られるシートの厚みを0.05〜2.2mmの範囲内とすることが好ましい。厚みが0.05mmより小さいと、シートの幅方向に延びる厚みの厚い部分と薄い部分とが生じ、これが長手方向に散在するため良質のシートが得られなくなるからである。逆に厚みが2.2mmを超えると、シート表面が平滑でなくなり、矢張り良質のシートが得られなくなるからである。
【0021】
この発明で用いることのできるポリオレフィン系樹脂は、エチレン、プロピレンおよびブテンの単独重合体およびそれらの共重合体である。例を挙げれば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体等である。
【発明の効果】
【0022】
この発明では、重量で植物由来のポリオレフィン系樹脂100部に、同じく植物由来のコハク酸と、植物由来の1,4−ブタンジオールと、植物由来の乳酸との三者を重縮合してなる三元共重合体10〜100部を加えた混合物を用いるので、この混合物はこれを加熱混練すると、格別の相溶化剤を加えなくてもそれだけで容易に全体が一様な組成物となる。しかも得られた組成物はシートに容易に成形でき、成形されたシートは無害であって水を通さず強靭であって、柔軟性と寸法安定性などポリオレフィン形樹脂の長所を保持しており、耐候性だけを弱めて生分解性を持ったものとなっている。従って、最近の要求をすべて満たしたものとなっている。
【0023】
とくに三元共重合体として、コハク酸が47〜49.5モル%、1,4−ブタンジオールがコハク酸と等モル%、乳酸が1〜6モル%の割合で含まれて重縮合したものを用いると、上記のようなシートを一層確実に得ることができ、得られたシートはポリオレフィン系樹脂シートと同じような長所を持っているだけでなく生分解性を持ち、さらにポリオレフィン系樹脂シートよりも一層光沢のよいものとなっている。
また、シートの厚みを0.05〜2.2mmの範囲内にすることにより、厚みのムラがなく、表面が平滑なシートを容易且つ確実に得ることができる。
【0024】
また、得られたシートは石油由来のポリオレフィン系樹脂製シートと同じような物性を持っているから、防水、保温シートとして使用することができる。またシートは真空成形、真空圧空成形などにより容易に所望の容器の形に成形することができる。こうして得られた容器はポリオレフィン系樹脂製の容器と同じように無害であるので、食品や化粧品など身の回りのものを入れるのに適している。しかも、シートも容器も使用後は放置するだけで自然分解して成形した形をとどめなくなり、最後には分解して無害なものとなるから環境を汚すこともない。
【0025】
この発明に係るシートの生分解は、その中に含まれている三元共重合体が日光、風雨または細菌により分解されるだけであって、その余のポリオレフィン系樹脂は分解されない。しかし、シートは三元共重合体とポリオレフィン系樹脂とが混合されて一様な組成物となっているので、三元共重合体が分解されるとポリオレフィン系樹脂はバラバラまたは孔あき状態になって、元のシートの形をとどめなくなる。その結果、シートは全体が分解されたと同じような状態となる。
【0026】
また、この発明では前述のように使用する原料がすべて植物由来のものである。植物由来のものを用いるから、焼却して発生する二酸化炭素は、もともと植物に含まれていた炭素から生じたものであるため、大気中の二酸化炭素の総量に変りがなく、従って新たに二酸化炭素を発生させることにならない。また焼却によって発生した二酸化炭素は、光合成によって再び植物に吸収されて植物の成分となる。こうして、植物の成分となったものがこの発明においてポリオレフィンおよび三元共重合体として利用されるから、二酸化炭素は完全に循環して使用されることになる。従って、環境汚染がなくなる。
この発明はこのような効果をもたらすものである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】この発明によりシートを製造する過程を示した模型図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
この発明で用いることのできるポリオレフィン系樹脂は、前述のように、エチレン、プロピレン、ブテンの単独または共重合体である。ポリエチレンとしてはメルトフローレート(MFR)が温度190℃、荷重2160gという条件下で0.5〜10の範囲内にあって、融点が90〜135℃、数平均分子量(Mn)が40000〜400000の範囲内にあり、重量平均分子量(Mw)が100000〜1000000の範囲内にあるものを用いることができる。
【0029】
また、ポリプロピレンとしてはMFRが温度230℃、荷重2160gという条件下で0.5〜15であって、融点が110〜150℃、Mnが250000〜2500000の範囲内にあり、Mwが100000〜1000000の範囲内にあるものを用いることができる。
【0030】
この発明で用いる三元共重合体の代表的なものは、前述のように、コハク酸が47〜49.5モル%、1,4−ブタンジオールがコハク酸と等モル%、乳酸が1〜6モル%の割合で含まれており、これらが重縮合してなる共重合体である。このような三元共重合体のMFRは温度190℃、荷重2160gの条件下で0.5〜20であり、融点は80〜120℃でガラス転移点は−70〜0℃であり、Mwは10000〜1000000の範囲内にある。Mwはとりわけ30000〜800000であるものが好ましく、50000〜600000が最も好ましい。
【0031】
この発明では、ポリオレフィン系樹脂100重量部に対し、三元共重合体を10〜100重量部の割合で混合して得た混合物を加熱混練してシートとする。そのうちでは三元共重合体を30〜80重量部とすることが好ましい。
【0032】
上記の混合物は、組成を均一にするために混合物を押出機に入れて130〜150℃に加熱し、一旦ペレットに成形する。こうして得たペレットを再び押出機に入れて、シリンダー温度を180〜200℃、ダイ温度を170〜210℃にしてT型ダイからシート状に押し出してシートとする。シートとするときの状態が図1に示されている。
図1では、押し出されたシートがまず冷却ロールユニットに接触して冷却され、次いで引取ロールユニットにより引き取られて巻取機に巻き取られる。
【0033】
こうして得られたシートは前述のように、耐候性が生分解性に改良されている点が異なるだけで、それ以外はポリオレフィン系樹脂の長所をほぼ維持したものとなっている。すなわち、無害、柔軟、強靭、耐水性であって、半透明であるがポリオレフィン系樹脂シートよりもやや光沢がよく、加熱して容器の形に成形することが容易であり、改良された結果生分解性を持っている。
【0034】
従って、このシートは一時的に防水、保温の目的で使用でき、例えば農業用のマルチシートとして畑などに敷き、使用後はそのまま放置して分解させることができる。また、シートはこれを真空成形法などにより二次成形して容器の形にし、食品などを入れ、使用後は放置して自然分解させることができる。従って焼却する必要がなくて、環境を汚染することが防がれる。
【0035】
このシートは、公知の真空成形法などにより、容易に二次成形して容器にすることができる。例えば、シートをシーズヒーターにより両面から加熱してシートを軟化させ、次いでこのシートを金型の上へ移動させ、上からプラグを降下させてシートの一部を金型内へ強制的に押し込み、金型周りのシートを金型に密着させた状態にし、金型内の空気を吸引してシートを金型内面に密着させる。次いで、プラグを取り去りシートを別の金型上へ移行させ、別の金型内で冷却して固化させ、その後シートを金型から外して縁を切り取り容器とする。
こうして成形して得た容器は、食品例えばカレーのルー、味噌、スープのルー、インスタント食品を入れるのに使用できる。
【実施例】
【0036】
次に、実施例と比較例とを記載して、この発明のすぐれた効果を説明するが、この発明は実施例によって何等限定されるものではない。
実施例1〜6および比較例1〜4
1.使用原料の詳細
1)ポリプロピレン(PP)
PPとしては、ランダムポリマーを用いた。そのMFR(210℃ 荷重2160g)は10.7、融点は137.4℃、結晶化温度は94.1℃、Mnは79200、Mwは206300、Mw/Mnは2.60であった。
2)ポリエチレン(PE)
PEとしては、低密度ポリエチレンを用いた。そのMFR(180℃ 荷重2160g)は3.0、融点は113℃、Mnは32000、Mwは72000、Mw/Mnは2.25であった。
3)三元共重合体
三元共重合体としては、コハク酸48.5モル%、1,4−ブタンジオール48.5モル%、乳酸3モル%の割合で重縮合したものを用いた。そのMFR(180℃ 荷重2160g)は4.2、融点は110℃、ガラス転移点は24℃、Mwは10000以上であった。
【0037】
2.押出シート成形
1)使用機器
単軸押出機でL/Dは25を用いた。これをTダイ方式シート成形機として、ダイ幅を200mmとした。
2)ヒータ温度
シリンダはホッパ側を180℃、シリンダ中央部および先端部を200℃、ダイを200℃とした。
3)シート成形方法
三元共重合体を、棚式熱風乾燥機を用いて80℃で24時間乾燥した。
乾燥後、三元共重合体と、PPもしくはPEと混合機を用いて表1に記載する混合比で混合し、まずペレットを作り、次いでペレットを再び押出機に投入した。
【0038】
押出機の温度を上記のように設定し、混合樹脂をTダイ出口から押し出した。押し出した樹脂を冷却ロールユニットによりシートの形に整えながら冷却・固化させた。その後、固化した樹脂シートを引取ロールユニットにより引き取り、巻取機によってロール状に巻き取った。
4)樹脂分散性およびシート表面状態の評価
3)で得られた樹脂シートの外観を目視することによって、樹脂の分散性およびシート表面の平滑性を評価した。評価結果を表1に示す。
表1において、○は、樹脂の分散性またはシート表面の平滑性が良好であったことを示す。一方、×は、樹脂の分散性またはシート表面の平滑性が良好でないことを示す。
【0039】
【表1】

【0040】
5)考察
表1によると、PPまたはPE100重量部に対して、三元共重合体が100重量部よりも多い場合、樹脂シートの表面状態が平滑でなくなり、また、樹脂分散が悪くなってムラな模様が現われた。これに対し、三元共重合体が10〜100重量部の場合、樹脂の分散性およびシート表面の平滑性が何れも良好であった。表1には示されていないが、とりわけ三元共重合体が30〜80重量部の範囲内では、樹脂の分散性とシート表面の光沢とが何れも一層良好であった。
【0041】
3.真空加工成形
1)使用機器 真空成形試験機
2)使用金型
直方体容器 縦35mm×横65mm×高さ18mm 凹型 プラグアシスト使用
3)冷却方法 圧空エア冷却
4)加工品成形方法
2に記載の押出シート成形によって得られた樹脂シートを、次のように真空成形して容器にした。
具体的には、まず、シーズヒータを用いて、樹脂シートを10〜20秒間電熱加熱し、軟化させた(シート表面温度約130〜150℃)。次いで、軟化した樹脂シートを金型上にセットし、シートの上からプラグを降下させて、シートとともに金型内に押し込み、押し込まれたシートを真空力によって金型に吸着させた。次いで、金型に吸着した樹脂シートに、冷却エアを吹き付けることによって、シートを冷却・固化させた。そして、固化した成形品を金型から取り外すことによって、容器を得た。
【0042】
5)真空成形外観の評価
4)で得られた容器の外観を目視することによって、真空成形の加工性を評価した。評価結果を表1に示す。
表1の真空成形の欄に示す○は、容器に穴あき、肉厚ムラ、樹脂シワなどがなく、外観が良好であったことを示す。一方、×は、容器としての外観に上述のような何等かの欠陥があったことを示す。
【0043】
6)考察
表1に示したように、シート表面状態または樹脂分散が良好でない樹脂シートでは、真空成形によって得た容器が上述のような何等かの欠点を持つために、製品として使用できないものであった。これに対し、シート表面状態および樹脂分散が良好であった樹脂シートは、真空成形によって得た容器が良好な外観を維持していた。
以上より、PPまたはPE100重量部に対して、三元共重合体を10〜100重量部の割合にすることによって、成形加工性に優れた樹脂シートおよび良質の二次加工品が得られることが確認できた。
【0044】
4.シート厚みとシート外観との関係
1)PP100重量部と、三元共重合体100重量部とを混合した樹脂を用いて、上記2に記載の押出シート成形法により、厚みの異なる樹脂シートを7種類作製した。7種類の樹脂シートを目視することによって、シートの外観を評価した。評価結果を表2に示す。
表2において、○は、シート状態(シートの外観)、表面状態(シート表面の平滑性)および厚み安定(シート厚みにばらつきがないこと)が良好であることを示している。一方、×は、それらの状態が良好でないことを示している。
【0045】
【表2】

【0046】
2)考察
シートの厚みが0.05mm未満の場合、シートの押出方向に樹脂の伸びムラが発生し、それによるシート厚みのばらつきが確認された。
また、シート厚みが2.2mmを超える場合、シート表面の平滑性が失われ、全体的に凹凸が確認された。また、シートが厚すぎるので、冷却ロールユニット2(図1参照)での冷却が不足し、シート厚みにばらつきが生じた。
これに対し、シート厚みが0.05mm〜2.2mmの樹脂シートでは、シート状態、表面状態および厚み安定がいずれも良好であることが確認できた。
【0047】
5.生分解性の確認
2に記載の押出シート成形によって得られた樹脂シート(実施例1〜6および比較例1〜4)、および別途作製したPP樹脂シート(比較例5)、PE樹脂シート(比較例6)およびポリブチレンサクシネート樹脂シート(比較例7)を土壌に埋め、埋没後12ヶ月経過後の重量を測定して、重量減少率を算出し、これで樹脂シートの生分解性を評価した。評価結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
表3に示したように、この発明に係る樹脂シートは重量減少率が何れも30%以上であって、元のシートの形をとどめなくなっていた。なお、比較のために作ったPP樹脂シート(PP100重量%)およびPE樹脂シート(PE100重量%)は、1年経過しても分解されなかった。これに対し、三元共重合体だけからなる樹脂シートは、1年間でシートの形をとどめなくなって、完全に分解することが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量で植物由来のポリオレフィン系樹脂100部に、同じく植物由来のコハク酸と、植物由来の1,4−ブタンジオールと、植物由来の乳酸との三者が重縮合してなる三元共重合体10〜100部を加え、得られた混合物を加熱混練してシート状に成形してなる植物由来の原料で作られた生分解性の合成樹脂シート。
【請求項2】
三元共重合体が47〜49.5モル%のコハク酸と、コハク酸と等モル%の1,4−ブタンジオールと、1〜6モル%の乳酸とからなるものであることを特徴とする、請求項1に記載の生分解性の合成樹脂シート。
【請求項3】
シートの厚みが0.05〜2.2mmの範囲内にあることを特徴とする、請求項1または2に記載の生分解性の合成樹脂シート。
【請求項4】
ポリオレフィン系樹脂が植物を分解して得られたグルコースを原料とし、さらにこれを分解して得たエタノールをエチレンにし、このエチレンを重合して作られたものであることを特徴とする、請求項1−3の何れか1つの項に記載の生分解性の合成樹脂シート。
【請求項5】
三元共重合体が植物を分解して得られたグルコールを原料とし、これを発酵させて乳酸とコハク酸を作り、コハク酸を水添して1,4−ブタンジオールとし、これらコハク酸、1,4−ブタンジオールおよび乳酸を重縮合させたものであることを特徴とする、請求項1−4の何れか1つの項に記載の生分解性の合成樹脂シート。
【請求項6】
請求項1−5の何れか1つの項に記載の生分解性の合成樹脂シートを加熱し軟化させて容器の形に成形したことを特徴とする、生分解性の合成樹脂容器。

【図1】
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【公開番号】特開2010−222482(P2010−222482A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−71917(P2009−71917)
【出願日】平成21年3月24日(2009.3.24)
【出願人】(592111894)ヤマトエスロン株式会社 (20)
【Fターム(参考)】