説明

検体動作制御装置及び方法

【課題】
微小検体を自動的に注入処理をできるようにする。
【解決手段】
検体投入領域から注入操作領域を通って検体貯留領域への流れを形成すると共に、注入操作領域において振動手段、検体吸着手段及び注入剤注入手段によって注入処理をするようにしたことにより、投入された処理前検体を1つずつ自動的に処理し得る検体動作制御装置を実現できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は検体動作制御装置及び方法に関し、特に検体浮遊液槽内の検体浮遊液中に浮遊している多数の検体に1つずつ注入剤の注入処理をするものである。
【背景技術】
【0002】
従来、検体浮遊液中に浮遊している生体細胞、例えば卵子の位置や姿勢を操作する技術として、マニュピレータを用いる方法、交流電場を用いる方法、レーザ光を用いる方法及び振動を用いる方法などが知られている。
【0003】
マニュピレータを用いる方法は、ホールディングピペットを対象物に引っ掛けるなどの手法を用いて対象物の姿勢を変化させるものであり、交流電場を用いる方法は、交流電界を印加することにより誘電体としての細胞を制御するものであり(特許文献1参照)、レーザ光を用いる方法は、レーザ光によって不接触で試料の操作を行うものである。
【0004】
これに加えて振動を用いる方法の例として、ガラスピペットなどの棒状の振動子を振動させ、振動子に少なくとも1つの定存波を生じさせることにより当該定存波の節の位置に試料を捕捉するような手法のものが提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2001−239500公報
【特許文献2】国際公開WO01/072951公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献2に開示されている振動を用いる方法によれば、試料を操作できる位置が、振動モードによって限定されるので、実際上ピペットの先端における試料の操作を行うことは困難である。
【0006】
本発明は以上の点を考慮してなされたもので、検体浮遊液内を浮遊している多数の検体を、1つずつピペット先端位置に誘導して、注入剤を注入処理できるようにした検体動作制御装置及び方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため本発明においては、検体4を浮遊させる検体浮遊液3を保持する検体浮遊液槽2と、検体浮遊液槽2の検体投入領域から注入操作領域2Aに処理前検体4Aを導入すると共に、注入操作領域2Bから処理済検体4Bを検体貯留領域2Cに導出する流れを形成する流れ形成手段(31A、31B、35、36、37、38)と、注入操作領域2Bの所定の位置に処理前検体4Aを誘導する局所流動を形成する振動手段6、51と、注入操作領域2Bに誘導された処理前検体4Aを吸着して固定する検体吸着手段9、51と、検体吸着手段9、51に固定された処理前検体4Aに注入剤を注入処理する注入剤注入手段11とを設けるようにする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、検体投入領域から注入操作領域を通って検体貯留領域への流れを形成すると共に、注入操作領域において振動手段、検体吸着手段及び注入剤注入手段によって注入処理をするようにしたことにより、投入された処理前検体を1つずつ自動的に処理し得る検体動作制御装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下図面について、本発明の一実施の形態を詳述する。
【0010】
図1において、1は全体として検体動作制御装置を示し、偏平な皿型形状を有する検体浮遊液槽2内に保持されている検体浮遊液3内に、注入処理対象となる検体4を多数浮遊させ、この検体4を1つずつ注入処理部5において注入処理する。
【0011】
注入処理部5は、検体浮遊液3内に局所流動を生じさせることにより検体4を所定の引込位置に誘導する振動手段5Aと、引込位置に誘導された検体4を穿刺できる状態に固定する検体吸着手段5Bと、当該固定された検体を穿刺して注入剤を注入する注入剤注入手段5Cとで構成されている。
【0012】
この実施の形態の場合、振動手段5Aは、振動駆動部6によって先端部が検体浮遊液槽2の底板2Aに沿う方向に振動される中空部をもたない棒状の振動子7によって構成されている。
【0013】
また、検体吸着手段5Bは、吸着ポンプ8によってピペット内に負圧を生じさせる検体固定用ピペット9で構成されている。
【0014】
さらに、注入剤注入手段5Cは、注入剤注入ポンプと前進後進駆動機構とを含む注入動作部10によって注入剤を送り出す注入用ピペット11によって構成されている。
【0015】
この実施の形態の場合、検体動作制御装置1は検体浮遊槽2内に検体4として浮遊している多数の卵子について、自動的に受精処理をする。
【0016】
検体浮遊液槽2の検体固定用ピペット9及び注入用ピペット11の先端部を含む検体浮遊液槽2内の領域の状態は、検体浮遊液槽2の底板2Aを通して底板2Aの下方位置に設けられた撮像部12によって撮像される。
【0017】
撮像部12は底板2Aを通して到来する検体浮遊液槽2からの投影光LAを顕微鏡レンズ12Aによって拡大してカメラ部12Bに入射する。
【0018】
カメラ部12BはCCD素子デバイス又はCMOS素子デバイスで構成され、その画素データD1が制御部本体13のキャプチャーボード14に供給する。
【0019】
キャプチャーボード14は、画素データD1をXY座標上に展開し、これにより顕微鏡レンズ12Aを通してカメラ部12Bが撮像した検体浮遊液槽2内の各時点における状態をXY座標位置情報を含む画像データD2に変換して送出する。
【0020】
制御部本体13はパーソナルコンピュータ構成を有し、中央処理ユニット(CPU)15がバス16を介してROM構成のプログラムメモリ17に予め格納されているプログラム及びパラメータを、RAM構成の動作メモリ18を利用して実行演算することにより、キャプチャーボード14から送出される画像データD2を演算処理する。
【0021】
当該演算処理結果は、動作メモリ18に蓄積されると共に、入出力インターフェース19を介して検体固定用ピペット9の吸着ポンプ19に駆動信号S1を与えると共に、注入用ピペット11の注入動作部10に駆動信号S2を与え、さらに振動子7の振動駆動部6に駆動信号S3を与える。
【0022】
このように、動作メモリ18に蓄積された画像データD2は、CPU15によってディスプレイ21に与えられ、これにより、注入操作領域2Bの状態を表示する。
【0023】
検体浮遊液槽2は、図2に示すように、後方中央部位置に注入処理前の検体4でなる多数の処理前検体4Aを保持する検体投入領域2Aを有し、当該検体投入領域2Aから処理前検体4Aを矢印a1で示す導入路を通って前方方向に流動させ、これにより処理前検体4Aを1つずつ検体浮遊液槽2のほぼ中央部分にある注入操作領域2Bに送り込む。
【0024】
注入操作領域2Bにおいて注入処理された検体4でなる処理済検体4Bは、矢印a2で示す導出路を通って注入操作領域2Bから前方に流動されて検体浮遊液槽2のほぼ前方中央位置に設けられている検体貯留領域2Cに送り込まれる。
【0025】
注入操作領域2Bの左側位置には、検体浮遊液槽2の左側板部2Lの外側から、前後方向のほぼ中央位置を通って注入操作領域2Bにまで延長するように検出固定用ピペット5が配設され、この検体固定用ピペットに近接して沿うように、振動子7が配設されている。
【0026】
これに対して注入操作領域2Bの右側位置には、検体浮遊液槽2の右側板部2Rの外側から検体浮遊液槽2の前後方向のほぼ中央位置を通って注入操作領域2Bに延長するように注入用ピペット11が配設されている。
【0027】
検体固定用ピペット9及び注入用ピペット11の先端は、注入操作領域2Bにおいて検体4の流道路を間に挟んで対向するように配設され、これにより検体固定用ピペット9の先端面に検体4が吸着された状態において、注入動作部10によって注入用ピペット11が左方に前進駆動されたとき、注入用ピペット11の先端が検体固定用ピペット9に吸着された検体4を穿刺することができるようになされている。
【0028】
検体浮遊液槽2の後方右側部には、検体投入領域2Aに投入された多数の処理前検体4Aを導入路a1の方向に送り込むような検体浮遊液3の流れを形成するために流れ形成用ロータ31Aが設けられている。
【0029】
流れ形成用ロータ31Aは反時計方向に回転する水車でなり、これにより検体浮遊液槽2の中央部分にある検体浮遊液3を矢印b1で示す浮遊液循環路を通って検体投入領域2Aに循環させる。
【0030】
検体投入領域2Aから注入操作領域2Bに亘る部分には、流れ形成用ロータ31Aの周囲に沿うように配設された部分円形状の流路壁35と、当該流路壁35と対向して検体投入領域2Aから注入操作領域2Bの方向に向って先細りの漏斗状導入路を形成する流路壁36とが形成されている。
【0031】
かくして流れ形成用ロータ31Aによって浮遊液循環路b1を通って循環されて来る検体浮遊液3によって処理前検体4Aが検体投入領域2Aから注入操作領域2Bの方向に流動されると共に、その導入路a1が流路壁35及び36によって先細りになっていることにより、多数の処理前検体4Aが細長く配列されて1つずつ注入操作領域2Bに送り込まれて行く。
【0032】
これに対して、検体浮遊液槽2の前方右側部にも、流れ形成用ロータ31Aに対向するように流れ形成用ロータ31Bが設けられ、流れ形成用ロータ31Bが反時計方向に回転したとき矢印b2で示す浮遊液循環路が形成される。これと共に、流路壁35及び36と同様の流路壁37及び38が形成され、これにより検体浮遊液槽2の中央部にある検体浮遊液3が流路壁37及び38間の導出路a2を通って前方方向に流動させることにより、注入操作領域2Bにおいて処理された処理済検体4Bか検体貯留領域2Cに導出される。
【0033】
この実施の形態の場合、注入操作領域2Bの流れ形成用ロータ31A及び31B間位置には、保護用網部材40が形成され、これにより注入操作領域2Bから浮遊液循環路b1方向に流れる検体浮遊液3の方向に注入操作領域2B内の検体4が流出しないように保護している。
【0034】
これに加えて浮遊液循環路b1の出口と検体投入領域2Aとの間に保護用網部材41が形成されていると共に、浮遊液循環路2Bと検体貯留領域2Cとの間に保護用網部材42が形成され、これにより検体投入領域2A及び検体貯留領域2Cから外に検体4が流出しないように仕切っている。
【0035】
流れ形成用ロータ31A及び31Bを構成する水車は、図1に示すように、検体浮遊槽2の底板2Aの下方位置に設けられた回転磁石45A及び45Bと、その駆動モータ46A及び46Bとによって構成された回転駆動手段によって、制御部本体12の入力出力インターフェース18を介してCPU14から与えられる駆動信号S3及びS4を用いて駆動されることにより、回転・停止制御される。
【0036】
注入操作領域2Bには、先端部を検体固定用ピペット9の先端部に沿わせるように、振動子7が配設されており、この振動子7が振動駆動部6によって振動することにより、注入操作領域2Bにある検体浮遊液3に局所流動を生じさせ、これにより処理前検体4Aを検体固定用ピペット9の先端面に、所定の姿勢(向き)で、吸着固定できるような処理をする。
【0037】
この実施の形態の場合、振動子7は、その先端部7Aを検体浮遊槽2の底板2A上に配設すると共に、当該先端部7Aを図2において矢印dに示すように、底板2Aに沿う方向に振動数10〜30〔Hz〕で振動させる。
【0038】
振動駆動部6は、図3に示すように、圧電素子6Aの前及び後両端面に一対の垂直板部材6B1及び6B2が取り付けられると共に、当該垂直板部材6B1及び6B2の右側端面が板ばね部材6Cに取り付けられている。
【0039】
前方の垂直板部材6B2は基台6Dに固着されているのに対して、後方の垂直板部材6B1の垂直表面に振動子7の後方端面が固着部材6Eによって固着されている。
【0040】
かくして圧電素子7Aに駆動信号S3として正弦波電圧が与えられて、これに応じて、矢印kで示すように、水平方向に伸縮動作したとき、振動子7が固着されている垂直板部材6B1が板ばね部材6Cを中心として水平方向に回動動作し、これに応じて振動子7の先端部7Aが矢印mで示すように板ばね部材部材6Cを中心として微小幅(例えば20〜28〔μm〕程度)の範囲で水平方向で往復振動する。
【0041】
このようにして振動子7の先端部7Aが振動すると、図4に示すように、注入操作領域2Bの検体浮遊液3には、矢印f1及びf2によって示すように、先端部7Aの両側から当該先端部7Aの側面に向かって流れて来て反転するような比較的大きな局所流動が生じる。
【0042】
また、先端部7Aの先端面について、矢印g1及びg2によって示すように、斜め後方及び斜め後方の領域側から当該先端面に向かって流れて来るような局所流動でなる引込流が生じる。
【0043】
さらに、先端部7Aの近傍には、矢印j1及びj2に示すように、先端面の前後両側位置において、一旦先端外方に向かって両側に折れ曲りながら元に戻って来るような渦巻流(両側において逆向きに渦巻く)が生ずる。
【0044】
さらに、先端部7Aの先端面について、矢印h1及びh2によって示すように、先端面と対向する先方領域側から先端面の前後両端部分に向って流れて来るような局所流動でなる引込流が生ずる。
【0045】
実際上検体は検体浮遊液3内に沈んだ状態で底板7Aに沿うように流れて来て注入操作領域2Bに入り、引込流g1ないしh1と渦巻流j1とによって図5に示すように、振動子7の先端後方側端部近傍位置に誘導されて捕捉されると共に、これらの局所的な検体浮遊液3の流動によってその位置で回転する。
【0046】
同様に、図6に示すように、前側の引込流g2ないしh2と渦巻流j2とによって処理前検体4Aが振動子7の先端前側端部近傍位置に誘導されて捕捉されると共に回転を始める。
【0047】
かくして処理前検体4Aが引き込まれた位置は、検体固定用ピペット9が吸引動作したときその先端面に吸引するのに十分な位置にある(実験によれば半径500〔μm〕の範囲にある)ので、当該引き込まれた処理前検体4Aは、検体固定用ピペット5の先端に吸着されることにより固定される。
【0048】
これに対して、処理前検体4Aが反転流f1の流れに乗ると、図7に示すように、振動子7の先端部7A近傍位置に逆方向に送り返されることにより、その後引込流g1ないしh1による引込動作により先端部7Aの先端位置に引き込まれることになる。
【0049】
以上の構成において、制御部本体13のCPU15は、図8(A)及び(B)に示すような検体への注入処理手順RT0を実行する。
【0050】
まず、ステップSP1においてユーザによって検体浮遊槽2の検体投入領域2Aに多数の処理前検体4Aが入れられると、CPU15は次のステップSP2において流れ形成用ロータ31A及び31Bを駆動することにより、浮遊液循環路b1及びb2を通るように検体浮遊液3を循環開始させる。
【0051】
このとき処理前検体4Aは導入路a1を通ってその漏斗状形状によって細長く並び替えられながら注入操作領域2Bの方向に送られる。
【0052】
やがて注入操作領域2Bに処理前検体の1つが入って来てこれを撮像部12が撮像することにより画像データD2が動作メモリ18に取り込まれると、CPU15はステップSP3において当該注入操作領域2Bに処理前検体の1つが入ったことを確認して流れ形成用ロータ31A及び31Bの回転を停止する。
【0053】
このときCPU15は次のステップSP4に移って振動駆動部6に駆動信号S3を与えることにより振動子7を振動させ、これにより注入操作領域2B内に生じさせた局所流動によって処理前検体4Aを引き込み位置に引き込むと共に、当該引き込まれた処理前検体4Aの回転を開始させる。
【0054】
続いてCPU15はステップSP5に移って動作メモリ18に取り込まれて来る画像データD2を画像解析することによって、処理前検体4Aの姿勢が注入用ピペット11による注入作業ができる状態になったか否かを確認する。
【0055】
当該確認ができると、CPU15は次のステップSP6に移って入力出力インターフェース19を介して吸着ポンプ8に駆動信号S1を与えることにより検体固定用ピペット9を吸引動作させる。
【0056】
このとき処理前検体4Aは、検体固定用ピペット9がその先端に吸着できる範囲に処理前検体4Aが引き込まれていることにより(図5、図6)、当該処理前検体4Aをその姿勢のまま吸着する。
【0057】
このときCPU15は入力出力インターフェース18を介して注入動作部10に駆動信号S2を与えることにより、注入用ピペット11を検体固定用ピペット9に9着されている処理前検体4Aに対して穿刺動作させた後、当該注入用ピペット11を介して注入剤を注入させる。
【0058】
この実施の形態の場合、検体4として卵子が用いられかつ注入剤として精子が用いられていることにより、注入用ピペット11の穿刺は卵子の極体を避けた位置を選定することが必要であり、これを実現するため処理前検体4A(すなわち卵子)を回転させる。
【0059】
この処理が終了すると、CPU15はステップSP7において入力出力インターフェース19を介して吸着ポンプ8の駆動信号S1により、検体固定用ピペット9の先端に吸着されている処理済検体4B(すなわち注入剤を注入された卵子)への吸着を解除させる。
【0060】
このとき処理済検体4Bは、注入操作領域2Bを浮遊する状態になるが、CPU15は次のステップSP8において流れ形成用ロータ31A及び31Bを回転駆動することにより、処理済検体4Bを、流れ形成用ロータ31Bによって形成された浮遊液循環路b2の流れによって導出路a2に生ずる流れに沿って注入操作領域2Bから検体貯留領域2Cに送り出す。
【0061】
続いてCPU14は、次のステップSP9において処理前検体4Aが注入操作領域2Bに入って来なくなったか否かを判定する。
【0062】
ここでステップSP8において処理済検体4Bを注入操作領域2Bから検体貯留領域2Cに送り出すように流れ形成用ロータ31A及び31Bを駆動したときには、導出路a2を通って処理済検体4Bが送り出されて行くと共に、処理前検体4Aが導入路a1にあれば、次の1つの処理前検体4Aが注入操作領域2Bに入って行く状態になっている。
【0063】
このときCPU14はステップSP9において否定結果を得ることにより、上述のステップSP3に戻って当該新たな処理前検体4Aについての注入処理を繰り返す。
【0064】
やがてCPU14がステップSP9において肯定結果を得ると、このことは検体投入領域2Aに挿入された処理前検体4Aの全てについて注入処理が終了したことを意味し、このときCPU15はステップSP10においてオペレータが検体貯留領域2Cに貯留されている処理済検体4Bを検体浮遊槽2から取り出すことにより、ステップSP11において当該検体への注入処理手順RT0を終了する。
【0065】
以上の構成によれば、検体浮遊槽2の検体投入領域2Aに挿入された多数の処理前検体4Aについて、当該処理前検体4Aを1つずつ注入操作領域2Bに送り込んで検体固定用ピペット9に所定の姿勢で吸着して注入用ピペット11によって注入処理をし、これにより全ての処理前検体4Aを自動的に処理済検体4Bとして処理することができる。
【0066】
図9は、第2の実施の形態を示すもので、上述の実施の形態において、検体固定用ピペット9による処理前検体4Aの検体吸着手段5Bの機能と、振動子7による振動手段5Aの機能とを振動・固定駆動部50によって動作する(駆動信号S1及びS3によって)振動・吸着ピペット51によって行う。
【0067】
振動・吸着ピペット51は、先端部51Aを検体浮遊液槽2の底板2Aに沿うように45°曲げた構成を有し、振動・固定駆動部50によって先端部51Aが矢印nに示すように前後方向に振動動作させ、これにより振動手段5Aとして機能させる。
【0068】
かかる振動動作は、図3について上述したと同様の構成によって実行し、これにより当該先端部51Aによって図4ないし図7について上述した局部流動を生じさせる。
【0069】
これに加えて、振動・固定駆動部50は、先端部51Aの先端面に対向する位置に処理前検体4Aが引き込まれたとき、振動・吸着ピペット51を吸引動作させることにより検体吸着手段5Bとして機能させ、この状態において注入用ピペット11の注入剤注入手段5Cとしての機能によって先端部51Aに吸着された処理前検体5Aに注入処理させる。
【0070】
図9の構成の振動・吸着ピペット51によっても、上述の実施の形態の場合と同様の作用効果を得ることができる。
【0071】
なお図2の実施の形態において、振動子7を省略して、注入用ピペット11を振動させることにより注入操作領域2Bに局所流動を生じさせるようにしても良い。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、卵子のような検体に精子のような注入剤を注入する場合に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明の一実施の形態による検体動作制御装置の全体構成を示す略線的系統図である。
【図2】図1の検体浮遊液槽の詳細構成を示す平面図である。
【図3】振動駆動部の詳細構成を示す平面図である。
【図4】振動子により注入操作領域2Bに生ずる局所流動の説明に供する略線的斜視図である。
【図5】振動子による検体の引込動作の説明に供する略線的斜視図である。
【図6】振動子による検体の引込動作の説明に供する略線的斜視図である。
【図7】振動子の引込位置への引込動作を外れた処理前検体の転送動作の説明に供する略線的斜視図である。
【図8(A)】検体への注入処理手順を示すフローチャートである。
【図8(B)】検体への注入処理手順を示すフローチャートである。
【図9】第2の実施の形態を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0074】
1……検体動作制御装置、2……検体浮遊液槽、2A……検体投入領域、2B……注入操作領域、2C……検体貯留領域、2X……底板、3……検体浮遊液、4……検体、4A……処理前検体、4B……処理済検体、5……注入処理部、5A……振動手段、5B……検体吸着手段、5C……注入剤注入手段、6……振動駆動部、7……振動子、8……吸着ポンプ、9……検体固定用ピペット、10……注入動作部、11……注入用ピペット、12……撮像部、12A……顕微鏡レンズ、12B……カメラ部、13……制御部本体、14……キャプチャーボード、15……中央処理ユニット(CPU)、16……バス、17……プログラムメモリ、18……動作メモリ、19……入力出力インターフェース、21……ディスプレイ、31A、31B……流れ形成用ロータ、35、36、37、38……流路壁、40、41、42……保護用網部材、50……振動・固定駆動部、51……振動・吸着ピペット。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を浮遊させる検体浮遊液を保持する検体浮遊液槽と、
上記検体浮遊液槽の検体投入領域から注入操作領域に処理前検体を導入すると共に、上記注入操作領域から処理済検体を検体貯留領域に導出する流れを形成する流れ形成手段と、
上記注入操作領域の所定の位置に上記処理前検体を誘導する局所流動を形成する振動手段と、
上記注入操作領域に誘導された上記処理前検体を吸着して固定する検体吸着手段と、
上記検体吸着手段に固定された上記処理前検体に注入剤を注入処理する注入剤注入手段と
を具えることを特徴とする検体動作制御装置。
【請求項2】
上記流れ形成手段は、上記検体浮遊液を上記注入操作領域を通って流すように上記検体浮遊液を上記検体浮遊液槽内を循環させるロータを含む
ことを特徴とする請求項1に記載の検体動作制御装置。
【請求項3】
上記ロータを上記検体浮遊液槽の外部から回転駆動する回転駆動手段
を具えることを特徴とする請求項1に記載の検体動作制御装置。
【請求項4】
振動するピペット部材の先端面が上記検体吸着手段を構成し、かつ上記ピペット部材の先端部の周面が上記振動手段を構成する
ことを特徴とする請求項1に記載の検体動作制御装置。
【請求項5】
上記検体吸着手段を構成するピペットの先端部に近接して上記振動手段を構成する振動子を配設し、上記振動子の振動によって上記ピペットの先端に上記局所流動を形成する
ことを特徴とする請求項1に記載の検体動作制御装置。
【請求項6】
上記注入手段は、上記検体吸着手段の先端面に対して往復動する
ことを特徴とする請求項1に記載の検体動作制御装置。
【請求項7】
検体浮遊液槽によって、検体を浮遊させる検体浮遊液を保持し、
流れ形成手段によって、上記検体浮遊液槽の検体投入領域から注入操作領域に処理前検体を導入すると共に、上記注入操作領域から処理済検体を検体貯留領域に導出する流れを形成し、
振動手段によって、上記注入操作領域の所定の位置に上記処理前検体を誘導する局所流動を形成し、
検体吸着手段によって、上記注入操作領域に誘導された上記処理前検体を吸着して固定し、
注入剤注入手段によって、上記検体吸着手段に固定された上記処理前検体に注入剤を注入する
ことを特徴とする検体動作制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8(A)】
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【図8(B)】
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【図9】
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【公開番号】特開2006−292468(P2006−292468A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−110875(P2005−110875)
【出願日】平成17年4月7日(2005.4.7)
【出願人】(504133110)国立大学法人 電気通信大学 (383)
【Fターム(参考)】