説明

検出器およびイオン源

電場非対称性イオン移動度分光計(FAIMS)1は、被分析物質イオン源アセンブリ4を備えている。イオン源アセンブリ4によって、被分析物質がイオン化されて、分光計の導入口2に供給される。イオン源アセンブリ4は、清浄乾燥空気を供給する上流に設けられた供給源41と、流路に沿って等距離に配置された、異なる極性を有する2つのイオン源43、44を備えている。イオン源43、44は、生成されるプラズマの全電荷がほぼ中性となるように配置されている。被分析物物質は、イオン源43、44の下流に設けられたインレット61を介して、流れを減速させて被分析物分子がプラズマにさらされる時間を増大するように拡大された断面積を有する反応部63に進入する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、全長にわたって混合領域を有する流路を備えたイオン源アセンブリに関するものである。
【背景技術】
【0002】
爆薬、危険性化学物質およびその他の蒸気の存在を検出するために用いられる検出器は、しばしば、被分析物の分子をイオン化(電離)させたうえでそれらを検出するためのイオン化源(ionization source)を備えている。イオン移動度分光計(ion mobility spectrometer:IMS)においては、イオン化された分子は、静電ゲート(electrostatic gate)を介してドリフト領域内に進入することができ、該ドリフト領域内において、前記イオン化された分子が電場に暴露される。この電場は、前記イオン化された分子をドリフト領域の全長に沿って前記ゲートの反対側端部に設けられたコレクタ極板へ引きつけるためのものである。
【0003】
前記ドリフト領域内をイオンが移動するのに要する時間は、被分析物の性質が有する特性であるところの、イオンの移動度に応じて変動する。
【0004】
電場非対称性イオン移動度分光計(field asymmetric ion mobility spectrometer:FAIMS)または微分移動度分光計(differential mobility spectrometer:DMS)においては、イオンはイオンの移動経路に対して直角な非対称交流電場(asymmetric alternating field)に暴露されるが、この交流電場は、選択されたイオン種のみをフィルタ除去し、他のイオン種についてはそのまま通過させて検出するように調整されている。
【0005】
被分析物分子を電離するために様々な技術が一般的に用いられているが、かかる技術には、放射性線源、紫外線その他の線源またはコロナ放電源などが含まれる。米国特許第6,225,623号には、互いに異なる極性で動作する2つのコロナ放電源で構成されたイオン化源を備えたイオン移動度分光計(IMS)が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許第6,225,623号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記米国特許第6,225,623号に記載されたイオン移動度分光計(IMS)においては、コロナ放電源は、被分析物の分子の流路に沿って前後に配置されている。
【0008】
本発明の目的は、(従来のものに代わる)代替的な検出器およびイオン源アセンブリを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一様相によれば、上述したようなイオン源アセンブリにおいて、被分析物の物質が正イオンと負イオンとを含むプラズマに暴露されるように該プラズマを生成するために、正イオンを生成する第1のイオン源と、負イオンを生成する第2のイオン源とが設けられていることを特徴とするイオン源アセンブリが提供される。
【0010】
第1のイオン源および第2のイオン源は、好ましくは、プラズマ全体としての電荷(全電荷)がほぼ中性となるように配置されている。イオン源には、コロナ放電イオン化源として構成されてもよい。被分析物としての物質は、好ましくは、イオン源よりも下流の箇所において流路に導入される。
【0011】
イオン源アセンブリは、好ましくは、イオン源よりも上流の箇所において、導入口が流路に開口している清浄乾燥空気源を備えている。
【0012】
第1のイオン源および第2のイオン源は、好ましくは、流路に沿って等距離となるように、流路に開口している。第1のイオン源および第2のイオン源には、イオンを各イオン源から流路へ励振させる手段が設けられている。
【0013】
イオンを励振させる手段は、電場を確立する手段、および/または、気体を供給する手段を備えている。この気体には、イオン形成を促進するための、または、形成されたイオンを調整するための化学種が含まれている。
【0014】
混合領域は、好ましくは、反応部に連通しており、反応部の内部において流速が減速される。反応部の横断面積は、反応部内を通して流速を減速させるために拡大されてもよい。
【0015】
本発明の他の様相によれば、本発明の前記様相に係るイオン源アセンブリと、このイオン源アセンブリから被分析物のイオンを受け取る検出器とを備えていることを特徴とする検出装置が提供される。
【0016】
検出器は、好ましくはイオン移動度分光計(例えばFAIMS分光計)のような分光計である。検出器の出力は、アセンブリからイオンの流れを制御するのに用いられてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に従うFAIMS検出器装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る電場非対称性イオン移動度分光(FAIMS)装置を、図面を参照して説明する。
【0019】
FAIMS分光装置は、分析器ユニット1(請求項中における「検出器」に相当)と導入イオン源アセンブリ4(請求項中における「イオン源アセンブリ」に相当)とを備えており、分析器ユニット1の導入口端部2は、導入イオン源アセンブリ4の出口端部3と接続されている。導入イオン源アセンブリ4は、イオン化された被分析物の分子を検出器に供給するように構成されている。
【0020】
導入イオン源アセンブリ(inlet ion source assembly)4には、ポンプまたは分子ふるい(molecular sieve)により供給される清浄乾燥空気の源41(請求項中における「乾燥空気源」に相当)に接続された入口開口部40が設けられている。入口開口部40は、混合領域42に一直線状に開口している。
【0021】
導入イオン源アセンブリ4は、2つのイオン源43、44を備えている。イオン源43、44は、混合領域42の両側に相対して設けられ、入口開口40を介して流入する気体の流路に沿って同じ箇所において開口している。
【0022】
図中左側の正イオン源43(請求項中における「第1のイオン源」に相当)は、コロナ放電を生じさせることができる程度に、約3kVの正電圧パルスを適用するように動作するところの、電圧源47に接続されたデュアル・ポイント(dual point)コロナ放電源46(請求項中における「コロナ放電イオン化源」に相当)が設けられているチャンバ45を備えている。コロナ放電源は、シングル・ポイントの直流コロナ放電源のような他のイオン源であってもよい。チャンバ45は、比較的小さく、混合領域42へのイオンの容易な移動を可能にするように選択されている。
【0023】
コロナ放電源46は、それぞれ典型的には約+4kVおよび+50Vとされた2つのグリッド48、49(請求項中における「イオンを励振する手段」に相当)との間に位置している。低電圧グリッド49は、混合領域42に通じるチャンバ45の開口部に位置している。
【0024】
このようにして、コロナ放電源46によって生成された正イオンを、低電圧グリッド49を経て混合領域42内へ推進させることができる程度に、チャンバ45の全長にわたって電場が確立される。
【0025】
イオンを混合領域42内へ推進させるための電場に代えて、またはそれに加えて、気体の流れを用いることも可能である。かかる気体は、所望のイオン種を混合領域中央部に移動させることを促進することができるように設けられることができる。気体の流れは、電場によって生成されたイオンの流れを助長または抑制するために設けられることができる。
【0026】
同様に、図中右側の負イオン源44(請求項中における「第2のイオン源」に相当)は、同じ3kVの大きさの負電圧パルスを供給するデュアル・ポイント・コロナ放電源52が設けられているチャンバ51を備えている。コロナ放電源52は、それぞれマイナス4kVおよびマイナス50Vとされた2つのグリッド53、54(請求項中における「イオンを励振する手段」に相当)の間に位置している。これにより、コロナ放電源52によって生成された負イオンを、低電位差グリッド54を経て混合領域42へ推進させるに足る電場がチャンバ51にわたって確立される。
【0027】
異なる化学種(chemical species)が、2つのイオン源43、44に導入されることができる。
【0028】
負イオンと正イオンとは、導入イオン源アセンブリ4中を、流路上の同じ箇所において混合領域42に入る。これにより、正イオンと負イオンとの混合物を含むプラズマが準備される。これに代えて、負イオンと正イオンとは、異なる箇所において混合領域に入ってもよい。
【0029】
このプラズマの全電荷は中性であるので、FAIMS分光装置の内部における空間電荷効果(space−charge repulsion effect)が最小とされる。しかしながら、正イオンと負イオンとの相対数、そして、したがってプラズマの全電荷は、所望の中性でない状態となるように制御することもできる。かかる制御は、イオン源43、44の一方または双方における電場を変更させることで行うことができる。
【0030】
混合領域42は、被分析物試料がガス流内のプラズマと一緒に下流に運ばれるところの被分析物部60に直接通じている。被分析物部60は、図中では、例えば、膜、孔、毛細管その他を通して、ガスまたは蒸気の形態を有する被分析物が被分析物部に入るのを許可されるインレット61を備えている。これに代えて、被分析物試料は固体または液体の形態を有してもよく、図示しない開口部を介して被分析物部に置かれてもよい。
【0031】
被分析物部60は、イオン反応チャンバ63(請求項中における「反応部」に相当)と連通しており、イオン反応チャンバ63は、気体の流れが減少して中性の被分析物分子がプラズマに暴露される滞留時間が増加するように、被分析物部よりも大きな断面積を有している。しかしながら、より大きな断面積とされた部分を提供することは必須ではない。中性の被分析物の気体または蒸気分子とプラズマとの反応により、電荷を帯びた被分析物がイオン反応チャンバ63内で生成される。電荷を帯びた被分析物は、気体の流れによってまたは静電気的な手段によって、分析器ユニット1へ移送される。
【0032】
被分析物部60および、あるいは、それに代えて、イオン反応チャンバ63は、これら領域を離れたプラズマが中性の電荷平衡を有するように構成されてもよい。これは、空間電荷的な反発力によって、所定の期間、いずれかの極性を有する過剰なイオンを中和化導体面に押し付けることにより実現される。
【0033】
分析器ユニット1は、イオン移動度分光計のドリフト領域を備えたもの、あるいは、米国特許第5,227,628号に記載されたような種類の分光計など、どのような種類の従来型のものでもよい。分析器ユニットが正イオンおよび負イオンの双方で動作するのであれば、2つのドリフトチューブまたはドリフト領域が必要となろう。あるいは、図示されているように、分析器ユニットは、電場非対称性イオン移動度分光計(Field Asymmetric Ion Mobility Spectrometer:FAIMS)または微分移動度分光計(Differential Mobility Spectrometer:DMS)であるフィルタ65によって提供される。
【0034】
フィルタ65は、イオンの流れの方向とほぼ平行に配置されかつフィルタ駆動ユニット67に接続された、狭い間隔で並んだ2枚のプレート66として提供されており、フィルタ駆動ユニット67により、直流電圧上に置かれたこれら2枚のプレートの間において非対称の交流電場が印加される。
【0035】
これらのプレート66の間の電場を制御することによって、どのイオンがフィルタを通過でき、どのイオンがフィルタを通過できないかを選択することができる。分析器ユニット1の最遠端部の2枚の検出板68、69は、フィルタ65によって渡されるイオンを回収するとともにプロセッサ70に信号を供給する。プロセッサ70は、被分析物物質の性質を示す出力を表示装置71またはその他の装置に提供する。
【0036】
プロセッサ70のレスポンスは、所望の検出特性を達成するためにイオン源からのイオンの流れを変更するために用いられてもよい。
【0037】
いうまでもなく、本発明に係るFAIMS検出器装置は、コロナ放電源に代えて他のイオン源を用いて構成することができる。
【符号の説明】
【0038】
1 分析器ユニット(検出器)
2 導入口端部
3 出口端部
4 導入イオン源アセンブリ(イオン源アセンブリ)
40 入口開口
41 乾燥空気源
42 混合領域
43 正イオン源(第1のイオン源)
44 負イオン源43(第2のイオン源)
45 チャンバ
46 コロナ放電源(コロナ放電イオン化源)
47 電圧源
48,49 グリッド
51 チャンバ
52 コロナ放電源(コロナ放電イオン化源)
53,54 グリッド
60 被分析物部
61 インレット
63 イオン反応チャンバ(反応部)
65 フィルタ
66 プレート
67 フィルタ駆動ユニット
68,69 検出板
70 プロセッサ
71 表示装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
混合領域を有する流路を備えたイオン源アセンブリにおいて、
前記混合領域が、前記イオン源アセンブリの全長にわたって設けられ、かつ、
被分析物の物質が正イオンと負イオンとを含むプラズマに暴露されるように該プラズマを生成するために、正イオンを生成する第1のイオン源と、負イオンを生成する第2のイオン源とが設けられていることを特徴とするイオン源アセンブリ。
【請求項2】
プラズマの全電荷を中性とするように、前記第1のイオン源および第2のイオン源が、配置されていることを特徴とする請求項1に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項3】
前記第1のイオン源および前記第2のイオン源として、コロナ放電イオン化源が設けられていることを特徴とする請求項1または2に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項4】
前記被分析物の物質が、前記第1のイオン源および前記第2のイオン源の下流の箇所において、前記流路に導入されることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1項に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項5】
清浄乾燥空気を供給する乾燥空気源41の導入口が、前記第1のイオン源および前記第2のイオン源の上流の箇所において、前記流路に開口していることを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項6】
前記第1のイオン源および前記第2のイオン源が、前記流路に沿って等距離とされるように、該流路に連通していることを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項7】
前記第1のイオン源および第2のイオン源には、それぞれ、該第1のイオン源および該第2のイオン源から前記流路に向かってイオンを励振する手段が設けられていることを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項8】
前記イオンを励振する手段が、電場を確立する手段で構成されていることを特徴とする請求項7に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項9】
前記イオンを励振する手段が、気体を供給する手段を有していることを特徴とする請求項7または8に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項10】
供給された前記気体には、イオン形成を促進するためのまたは生成されたイオンを調整するための化学種が含まれていることを特徴とする請求項9に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項11】
前記混合領域が反応部に連通しているとともに、イオンの流速が前記反応部の内部にわたって減速されることを特徴とする請求項1ないし10のいずれか1項に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項12】
前記反応部の内部にわたって前記流速を減速させるように、前記反応部の断面積が拡大されていることを特徴とする請求項11に記載のイオン源アセンブリ。
【請求項13】
請求項1ないし12のいずれか1項に記載のイオン源アセンブリと、前記イオン源アセンブリから被分析物のイオンを受け取る検出器とを備えていることを特徴とする検出装置。
【請求項14】
前記検出器が、分光計で構成されていることを特徴とする請求項13に記載の検出装置。
【請求項15】
前記分光計が、イオン移動度分光計で構成されていることを特徴とする請求項14に記載の検出装置。
【請求項16】
前記検出器が、電場非対称性イオン移動度分光計(FAIMS)で構成されていることを特徴とする請求項13または14に記載の検出装置。
【請求項17】
前記検出器の出力が、前記イオン源アセンブリからのイオンのフローを制御するために用いられていることを特徴とする請求項13ないし16のいずれか1項に記載の検出装置。

【図1】
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【公表番号】特表2010−524199(P2010−524199A)
【公表日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−503571(P2010−503571)
【出願日】平成20年4月1日(2008.4.1)
【国際出願番号】PCT/GB2008/001153
【国際公開番号】WO2008/125804
【国際公開日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(507235789)スミスズ ディテクション−ワトフォード リミテッド (25)
【Fターム(参考)】