説明

検出装置および検出方法

サンプルの励起に続いてタガント物質サンプルから放出される赤外放射線を検出するための技術および装置が記載されている。放射線の減衰時間は、使用される特定のタガントの関数であり、減衰特性またはサインが精確に測定されれば、その特定のタガントを正確に特定することができる。この装置は、電子コントローラ(10)、一対の照明発光ダイオード(12)、光検出器(14)、第1の増幅器(16)、3方向サンプリングスイッチ(18)、フィルタ/メモリ(20a〜c)、第2の増幅器(22a〜c)および出力ディスプレイ(26)を有する。数ミリ秒ごとに数マイクロ秒の間、高強度の赤外線光源を使用して物質を反復的に照明することによって、赤外線の放出が励起される。この光は、940nmの一対の発光ダイオード(12)により供給される。この光源がいったんオフにされても、数ミリ秒の間、サンプルは赤外線光の放射を続ける。この放射は、800〜1000nm波長バンドの赤外線光にだけ感応する光検出器(14)により検出される。これは可視光源からの干渉を排除するのに役立つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品上のセキュリティマークの存在/非存在および/または性質を検出するための検出器および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製品や文書のセキュリティの分野では、機械で読み取り可能なマークを物品またはそのパッケージに配置することが知られている。このマークは、検出器により読み取り可能であり、物品を鑑定しおよび/または物品の出所真正などの証明が行われる。このようなマークは典型的には物品に印刷され、肉眼には不可視とすることができる。
【0003】
例えばとりわけ精巧で複雑なインキが存在する。このインキは、ある特定の周波数帯の放射線に曝されると、ある特定の特性をもつ放射線を確実に放出する。このようなインキは、その性質のため偽造品を製造するのが困難であり、タガントインキ(識別用添加物入りインキ)として知られるインキもこれに含まれる。
【0004】
物品上のタガントインキマークは、適切な放射線に曝されると、このインキに対する所定のサインまたは特徴的な特性を示す。例えば、インキ試料が「励起」周波数の放射線で照射されると、インキ試料は放射周波数の放射線を放出するようになり、そして、励起放射線に曝されるのが終了した後でも放射線の放出を続けようとする。放出される放射線は、励起が終了した後、既知の再現可能な仕方で減衰し、この減衰の仕方は特定のタガントに対して一意のものである。
【0005】
このようなインキに使用されるタガント材料の1つの例には、格子構造のベース材料が含まれる。このベース材料は、1つまたは複数の希土類金属のドーパントを含んでいる。ドーパントのレベルを変えることにより、または、格子内のドーパント分子の位置を変えることにより、放射線源により励起されたときに、それぞれ異なるように見えるが予測可能でありかつ再現可能である放射特性を示す様々なタガント材料を形成することができる。
【0006】
典型的には、励起放射線を供給し、放出された放射線を検出し、物品またはそのパッケージ上のインキの存在/非存在、特定の場合にはインキのサインまたは特質を決定するために、検出器が使用される。
【0007】
したがって検出器は、周波数が既知で正確で信頼性よく再現可能である放射線源と、適切な周波数で放出された放射線の存在を検出することができる検出機構を何らかの形で組み込まなければならない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここまでに考察した技術は多くの問題点を有する。第一に、一般的に使用される多くのタガント物質はスペクトルの可視光領域に周波数シフトされた放射線を放出するので、背景や基体(サブストレート)に色付けがされているときに、放出された放射線の測定が周囲光レベルによって困難になることがある。さらに、この形式のプロセスは、低電力出力を生み出す。すなわち放出される放射線が非常に弱い。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の1つの態様によれば、サンプル上のセキュリティインキの存在、非存在または特性を決定するための検出装置が提供され、この装置は、サンプルに励起放射線を提供するための放射線源と、サンプルから放出された放射線を検出するための検出器と、使用時に、サンプルから放出され検出された放射線の分析に従って、サンプル上のインキの存在、非存在または特性を決定するように構成された処理手段と、を有し、処理手段は、サンプルの励起後に、励起周波数と同じスペクトル領域で、サンプルから放出された放射線を測定するように構成されている。
【0010】
好ましくは、処理手段は、励起周波数と実質的に同じ周波数で、サンプルから放出された放射線を測定するように構成されている。
【0011】
好ましくは、処理手段は、放射線の減衰特性を測定するように構成されている。
【0012】
励起放射線は、スペクトルの赤外線領域における放射線であってよい。
【0013】
本発明はまたサンプル上のセキュリティインキの存在、非存在または特性を決定するための方法を提供するものであり、この方法は、サンプルに励起放射線を照射することと、サンプルから放出された放射線を検出することと、検出された放射線から得られた電子信号を処理することと、を含み、処理は、サンプルの励起後に、励起周波数と同じスペクトル領域で、サンプルから放出される放射線を測定することを含む。
【0014】
好ましくは、処理は、励起放射線の周波数と実質的に同じ周波数で、サンプルから放出された放射線を測定することを含む。
【0015】
好ましくは、処理は、放射線の減衰特性を測定することを含む。
【0016】
励起放射線は、スペクトルの赤外線領域における放射線であってよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の有利な実施例を以下実施例により、添付図面に基づいて説明する。
【0018】
本発明の実施例で使用される検出技術は、サンプルの励起の後にタガント物質サンプルから放出される赤外放射線の減衰時間を測定することに基づく。この減衰時間は、使用される特定のタガントの関数であり、減衰特性またはサインが精確に測定されれば特定のタガントを正確に特定することができる。
【0019】
図1は、高強度の赤外線光の短いバーストにより励起された種々のタガント(A〜C)からの典型的な出力を示す。各減衰応答の形状は、特定のタガントタイプに対して固定されているが、測定される絶対値は、物質密度、サンプルの大きさ、基体の物質、検出器への近接度、および照明の強度に依存して、広い範囲で変化する。
【0020】
しかしながら、各タガントからの最初のサンプルを基準点とし、同じ初期値を得るために各プロットを正規化すれば、図2に示した結果が得られる。
【0021】
図2から、タガントサンプルは、基準時点tの後に発生する時点tで放出された放射線の測定した強度値によって区別できることが分かる。
【0022】
図3は、本発明の実施例による検出装置の構造を概略的に示す。
【0023】
この装置は、電子コントローラ10、一対の照明発光ダイオード12、光検出器14、第1の増幅器16、3方向サンプリングスイッチ18、フィルタ/メモリ20a〜c、第2の増幅器22a〜cおよび出力ディスプレイ26を有する。
【0024】
この実施例による検出器では、数ミリ秒ごとに数マイクロ秒の間、高強度の赤外線光源を使用して物質を反復的に照明することによって、赤外線の放出が励起される。この光は、940nmの一対の発光ダイオード12により供給される。この光源がいったんオフにされても、数ミリ秒の間、サンプルは赤外線光の放射を続ける。
【0025】
この放射は、800〜1000nm波長バンドの赤外線光にだけ感応する光検出器14により検出される。これは可視光源からの干渉を排除するのに役立つ。
【0026】
次にこの信号は増幅器16により増幅され、3方向アナログスイッチ18に供給される。このスイッチにより、照明イベント後の種々の時間インターバルで信号振幅をサンプリングすることができる。
【0027】
図4を参照すると、イベントの順序は次のとおりである。
1. t − 照明LEDがオンされる。
2. t − 照明LEDがオフされる。
3. t − 第1のアナログスイッチ18を閉じることにより読み出しが行われる。これにより基準の読み出しが行われ、この読み出しは第1の測定点として使用されると共に、照明の振幅を(下に説明するように)コントロールするのに使用される。
4. t − 第1のアナログスイッチ18が開けられ、第2のスイッチ18が閉じられる。これによりサンプルの読み出しが行われ、この読み出しは減衰率を検出するのに使用される。
5. t − 第2のアナログスイッチ18が開けられる。
6. t − 第3のアナログスイッチ18が閉じられる。これによりベースラインの読み出しが行われる。この読み出しは、物質からの残光がいったん十分に減衰した後に検出される照明レベルを指示する。この照明レベルは、背景照明源および光検出器14に存在するDCオフセットの補償に使用される。
7. t − 第3のアナログスイッチ18が開けられる。
時間t0からt6は数百マイクロ秒のオーダーである。
【0028】
基準、サンプルおよびベースラインに対して行われた読み出しの値は、その後のサンプリングイベントの間、フィルタ/メモリ20a〜cにより記憶される。
【0029】
得られる読み出しの値は、増幅器22a〜cによってさらに増幅された後、コントローラ10のアナログ入力に供給されて、デジタル値に変換される。
【0030】
物質の放射線特性に関連する値を得るために、基準とサンプルのインターバルに対する読み出し値の比が求められる。この比は、物質固有の減衰応答、すなわち物質自体の特定に使用される。
【0031】
放出された放射線の信号振幅は、典型的には10000対1以上の大きな範囲にわたって変わり得る。このことは、もっとも強い信号が検出電子回路に負荷をかけ過ぎることがあり、非常に弱い信号は蛍光灯またはタングステン灯のような他の光源からのノイズに隠されてしまうことがあることを意味する。
【0032】
この広いダイナミックレンジに適応するために、装置は赤外線光源の強度を、受信した信号の強度に依存して調節する。
【0033】
昼光または主照明のような周囲光源の赤外線成分は、検出された値にオフセットを付加するので、第3のベースラインの測定が、図示しないサーボ回路と共に使用され、オフセット信号を補償し減衰グラフのベースラインを既知の一定値に戻す電流が、回路の初段に注入される。
【0034】
ベースラインの値は他の読み出しからコントローラにより減算され、それから減衰特性比が計算される。
【0035】
検出器14は照明期間中に強力な赤外線の信号を受けるので、この時点での検出器信号をクランプするためにトランジスタ(図示せず)が使用される。これにより検出器と第1増幅器16の過励振が低減され、回路回復時間も縮小する。
【0036】
好ましくは、この装置はバッテリー(図示せず)により電力供給される。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】図1は、セキュリティインキの種々の試料を照射した後の時間に対する放出された放射線のグラフである。
【図2】図2は、図1のグラフの測定を正規化したグラフである。
【図3】図3は、本発明による検出装置の実施例の概略的な回路図である。
【図4】図4は、サンプリングイベントの順序を示すグラフである。
【符号の説明】
【0038】
10 コントローラ
12 一対の発光ダイオード
14 光検出器
16 増幅器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンプル上のセキュリティインキの存在、非存在または特性を決定するための検出装置であって、
前記検出装置は、
前記サンプルに励起放射線を提供するための放射線源と、
前記サンプルから放出された放射線を検出するための検出器と、
使用時に、前記サンプルから放出され検出された放射線の分析に従って、前記サンプル上のインキの存在、非存在または特性を決定するように構成された処理手段と、
を有し、
前記処理手段は、前記サンプルの励起後に、励起周波数と同じスペクトル領域で、前記サンプルから放出された放射線を測定するように構成されていることを特徴とする検出装置。
【請求項2】
前記処理手段は、前記励起周波数と実質的に同じ周波数で、前記サンプルから放出された放射線を測定するように構成されている請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記処理手段は、前記放射線の減衰特性を測定するように構成されている請求項1または請求項2記載の検出装置。
【請求項4】
前記励起放射線は、前記スペクトルの赤外線領域における放射線である請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項5】
サンプル上のセキュリティインキの存在、非存在または特性を決定する方法であって、
前記方法は、
前記サンプルに励起放射線を照射することと、
前記サンプルから放出された放射線を検出することと、
検出された放射線から得られた電子信号を処理することと、
を含み、
前記処理は、前記サンプルの励起後に、励起周波数と同じスペクトル領域で、前記サンプルから放出される放射線を測定することを含むことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記処理は、前記励起放射線の周波数と実質的に同じ周波数で、前記サンプルから放出された放射線を測定することを含む請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記処理は、前記放射線の減衰特性を測定することを含む請求項5または請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記励起放射線は、前記スペクトルの赤外線領域における放射線である請求項5〜請求項7のいずれか一項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2009−519459(P2009−519459A)
【公表日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−545100(P2008−545100)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【国際出願番号】PCT/GB2006/004723
【国際公開番号】WO2007/068955
【国際公開日】平成19年6月21日(2007.6.21)
【出願人】(508180769)フィルトローナ ユナイテッド キンダム リミテッド (2)
【Fターム(参考)】