検出装置
【課題】 定性分析される極微量物質を定量分析することができる検出装置を提供すること。
【解決手段】 検出装置は、流体試料1の流路41と、流路に流体試料を吸引する吸引部40と、流路内に配置される光学デバイス20と、光学デバイスに光を照射する光源50と、光学デバイスから出射される光を検出する光検出部60と、流路内に配置される発振電極を圧電基板に形成したマイクロバランスセンサーチップ30と、光検出部及びマイクロバランスセンサーチップからの出力に基づいて前記試料を定量分析する定量分析部70Aとを有する。光学デバイス20は、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、金属ナノ構造吸着される流体試料を反映した光を出射する。
【解決手段】 検出装置は、流体試料1の流路41と、流路に流体試料を吸引する吸引部40と、流路内に配置される光学デバイス20と、光学デバイスに光を照射する光源50と、光学デバイスから出射される光を検出する光検出部60と、流路内に配置される発振電極を圧電基板に形成したマイクロバランスセンサーチップ30と、光検出部及びマイクロバランスセンサーチップからの出力に基づいて前記試料を定量分析する定量分析部70Aとを有する。光学デバイス20は、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、金属ナノ構造吸着される流体試料を反映した光を出射する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定性分析される極微量物質を定量分析する検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低濃度の試料分子を検出する高感度分光技術の1つとして、SPR(Surface Plasmon Resonance:表面プラズモン共鳴)、特にLSPR(Localized Surface Plasmon Resonance:局在表面プラズモン共鳴)の利用したSERS(Surface Enhanced Raman Scattering:表面増強ラマン散乱)分光が注目されている(特許文献1,2)。SERSとは、ナノメートルスケールの凸凹構造を持つ金属表面でラマン散乱光が102〜1014倍増強される現象である。レーザーなどの単一波長の励起光を試料分子に照射する。励起光の波長から試料分子の分子振動エネルギー分だけ僅かにずれた散乱波長(ラマン散乱光)を分光検出し、試料分子の指紋スペクトルを得る。その指紋スペクトルの形状から、試料分子を同定することが可能となる。
【0003】
表面増強ラマン散乱(SERS)は局在表面プラズモン共鳴(LSPR)の電場増強効果により、極微量濃度の気体分子における定性検出が可能であるが、定量分析は実現できていない。この1つの原因は、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)で発生する増強電場強度が最大増強場から指数関数的に減衰していくからである。非特許文献1によると、増強電場によって発生するSERS強度Iは、増強場表面からの距離rとは以下の関係にあると実験的に算出している。
【0004】
【数1】
【0005】
ここでaは金属ナノ粒子の半径である。式(1)は、SERS強度は分子の数とは関係なく変動することを示唆している。表面吸着分子の数が多い(被覆率が大きい)場合、アンサンブル平均化された信号から定量評価することは可能であるが、被覆率が小さい場合、個々の分子が式(1)の強度を与えるため、定量評価は難しい。
【0006】
例えば特許文献3では、SERS定量分析に関する提案がなされているが、これは同一基板内に予めSERSスペクトルが既知の分子試料を固定しており、そのスペクトル強度と比較することで定量分析する、とある。しかし、目的検出分子の表面被覆率が小さいと増強スポットへの吸着分子数が減り、式(1)の効果が顕著になってSERS強度が大きく変動する。そのため、この提案方法は検出目的分子の吸着被覆率の小さいとき(極低濃度試料や曝露時間が短いときなど)では成立しない。
【0007】
一方、特許文献4では、全反射減衰型の表面プラズモン共鳴(SPR)とQCM(Quartz Crystal Microbalance:水晶天秤)を複合させた定量検出装置を提案している。特許文献4では、SPRとQCMとの定量分析精度が共に約1ng/cm2であると指摘し(段落0003,0005)、その2つの定量分析信号が相補的であると指摘するが(段落0102)、2つの信号から如何にして定量分析するか、特に極微量物質を如何にして定量分析するかについての具体的に説明がない。しかも、全反射減衰型の表面プラズモン共鳴(SPR)でもQCMでも定量すべき試料分子の指紋スペクトルを測定できないため、試料分子を定性検出することも技術的に不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3714671号公報
【特許文献2】特開2000−356587号公報
【特許文献3】特開2009−103651号公報
【特許文献4】特表2008−513772号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】プラズモンナノ材料の設計と応用技術 CMC出版P.181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の幾つかの態様によれば、定性分析される極微量物質を定量分析する検出装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、
流体試料の流路と、
前記流路に前記流体試料を吸引する吸引部と、
前記流路内に配置される光学デバイスと、
前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前期光学デバイスから出射される光を検出する光検出部と、
発振電極が形成されている圧電基板を有し、前記流路内に配置されるマイクロバランスセンサーチップと、
前記光検出部及び前記マイクロバランスセンサーチップからの出力に基づいて前記試料を定量分析する定量分析部と、
を有し、
前記光学デバイスは、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、前記金属ナノ構造に吸着される前記流体試料を反映した光を出射する検出装置に関する。
【0012】
本発明では、光学デバイスからの光を検出する光検出部は、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、金属ナノ構造に吸着される流体試料を反映した光を出射する。このため、試料固有の指紋スペクトルを検出するので、試料を定性分析できる。このスペクトル強度は、試料の定量情報となり得るが、金属粒子に吸着する試料分子の数が少ないと平均化されずに、式(1)中のパラメータrに依存し、金属粒子に吸着される分子の数は同一でもスペクトル強度が区々になる。併設したマイクロバランスチップにより検出される質量の増減に基づいて、光検出部からの出力強度に基づいて定量分析の良否を判定でき、定量分析の信頼性が高まる。なお、流路内に配置される光学デバイスやマイクロバランスセンサーチップとは、その一面が、試料流体と接触できるように、流路に臨んで配置されているものを含む。
【0013】
本発明の一態様では、前記光学デバイスと前記マイクロバランスセンサーチップとは、前記流路内に平面視で並設されても良いし、前記流路内に積層されていてもよい。光学デバイスとマイクロバランスセンサーチップを積層したハイブリッドチップは、光学デバイスの金属ナノ構造を、マイクロバランスセンサーチップの発振電極上に形成することができる。こうすると、ハイブリッドチップの部材点数が減少し、チップ単体であるので取り扱いが容易となる。
【0014】
本発明の一態様では、前記マイクロバランスセンサーチップの前記圧電基板を水晶とすることができ、特に前記マイクロバランスセンサーチップは、SAW(表面弾性波)発振デバイスとすることができる。SAW発振デバイスはGHzオーダーで駆動できる。センサーの感度は、Sauebreyの式から周波数の二乗に比例するので、周波数を高くして使用することが感度を向上させる。
【0015】
本発明の一態様では、前記質量分析部は、前記光検出部からの出力強度変動と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動とが、同じ増減挙動を示したときに、前記光検出部からの出力強度に基づいて定量分析することができる。この場合、光検出部からのスペクトル強度は、式(1)中のパラメータrの依存度が低く、試料分子の吸着挙動を反映した定量情報となり得る。
【0016】
本発明の一態様では、前記質量分析部は、前記光検出部からの出力強度変動と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動とが、逆の挙動を示す場合と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動がない場合は、定量分析を禁止することができる。この場合、光検出部からのスペクトル強度は、式(1)中のパラメータrの依存度が高く、試料分子の吸着挙動を反映せずに定量情報とはなり得ない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1(A)は吸引部と光学デバイス(センサーチップ)の拡大断面図、図1(B)及び図1(C)は光学デバイスでの増強電場の形成を示す断面図及び平面図である。
【図2】図2(A)及び図2(B)はマイクロバランスセンサーチップの断面図及び平面図である。
【図3】図3(A)及び図3(B)は吸着分子の位置に依存したSERS強度と位置依存性のないQCM信号の説明図である。
【図4】SERS強度変動とQCM変動に基づく試料の定量分析手法の一例を示す図である。
【図5】2つのチップを並設した検出装置の全体概要を示すブロック図である。
【図6】検査装置の制御系ブロック図である。
【図7】定量分析を行う処理系のブロック図である。
【図8】2つのチップを積層した検出装置の全体概要を示すブロック図である。
【図9】2つのチップが積層されたハイブリッドチップの断面図である。
【図10】図10(A)〜図10(D)は、試料分子の挙動を示す図である。
【図11】図10(A)〜図10(D)の時のSERS強度変動とQCM変動を示す特性図である。
【図12】試料分子のSERS強度スペクトルを示す特性図である。
【図13】図13(A)〜図13(D)は、試料分子の他の挙動を示す図である。
【図14】図13(A)〜図13(D)の時のSERS強度変動とQCM変動を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0019】
本発明の一実施形態に係る検出装置10Aでは、図5または図6に示すように、2つのセンサーチップが設けられ、一つは光学デバイスであるSERSセンサーチップ20であり、他の一つはマイクロバランスセンサーチップ30である。先ず、これら2つのセンサーチップ20,30について説明する。
【0020】
1.SERSセンサーチップ(光学デバイス)
図1(A)〜図1(C)を用いて、光を照射されることで吸着している流体試料を反映した光を出射する光学デバイスとして、ラマン散乱光を検出するセンサーチップ20について説明する。原理の説明図を示す。なお、本実施形態では、流体試料は例えば大気であり、検査対象の物質は大気中の特定気体分子(試料分子)とすることができるが、これに限定されない。
【0021】
図1(A)に示すように、センサーチップ20に吸着される流体試料中の検査対象物質である試料分子1に入射光(振動数ν)が照射される。一般に、入射光の多くは、レイリー散乱光として散乱され、レイリー散乱光の振動数ν又は波長は入射光に対して変化しない。入射光の一部は、ラマン散乱光として散乱され、ラマン散乱光の振動数(ν−ν’及びν+ν’)又は波長は、流路41内の試料分子1の振動数ν’(分子振動)が反映される。つまり、ラマン散乱光は、試料分子1を含む流体試料を反映した光である。入射光の一部は、試料分子1を振動させてエネルギーを失うが、試料分子1の振動エネルギーがラマン散乱光の振動エネルギー又は光エネルギーに付加されることもある。このような振動数のシフト(ν’)をラマンシフトと呼ぶ。
【0022】
図1(B)は、図1(A)のセンサーチップ20の拡大図である。図1(A)に示すように入射光が基板200の平坦面から入射される場合、基板200は入射光に対して透明な材料が用いられる。センサーチップ20は、基板200上の第1構造として、誘電体から成る複数の凸部210を有する。本実施形態では、入射光に対して透明な誘電体としての石英、水晶、硼珪酸ガラスなどのガラスまたはシリコン等で形成された基板200上に、レジストを形成し、そのレジストを例えば遠紫外線(DUV)フォトリソグラフィー法を用いてパターン化している。パターン化されたレジストにより基板200をエッチングすることで、例えば図1(C)に示すように複数の凸部210が二次元的に配置される。なお、基板200と凸部210とを異なる材料で形成しても良い。
【0023】
複数の凸部210上の第2構造として、複数の凸部210には、例えばAuまたはAg等の金属ナノ粒子(金属微粒子)220が例えば蒸着、スパッタ等により形成される。なお、金属微粒子220は、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Pd、Ni、Mo、Wのいずれかの単体金属、もしくはそれらの合金の膜であってもよい。結果として、センサーチップ20は、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を有することができる。1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造とは、基板200の上面を当該サイズの凸部構造(基板材で)を持つように加工する他に、基板上に当該サイズの金属微粒子を蒸着・スパッタ等で固着させる、または、基板上にアイランド構造を有する金属膜を形成する等の方法でも形成できる。
【0024】
図1(B)及び図1(C)に示すように、二次元パターン状の金属ナノ粒子220に入射光が入射された領域240では、隣り合う金属ナノ粒子220間のギャップGに、増強電場230が形成される。特に、入射光の波長よりも小さな金属ナノ粒子220に対して入射光を照射する場合、入射光の電場は、金属ナノ粒子220の表面に存在する自由電子に作用し、共鳴を引き起こす。これにより、自由電子による電気双極子が金属ナノ粒子220内に励起され、入射光の電場よりも強い増強電場230が形成される。これは、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)とも呼ばれる。この現象は、入射光の波長よりも小さな1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ粒子220等の電気伝導体に特有の現象である。
【0025】
図1(A)〜図1(C)では、センサーチップ20に入射光を照射した時に表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)が生ずる。つまり、増強電場230に試料分子1が入り込むと、その試料分子1によるラマン散乱光は増強電場230で増強されて、ラマン散乱光の信号強度は、強くなる。このような表面増強ラマン散乱では、試料分子が極微量であっても、検出感度を高めることができる。なお、金属ナノ構造は周期構造であってもよい。
【0026】
SERSセンサーチップ20から発生する流体試料のラマン散乱光のうち、試料分子1を反映する波長のみ取り出すことができるので、検出されるSERS信号は試料分子1を反映した指紋スペクトルである。
【0027】
2.マイクロバランスセンサーチップ
マイクロバランスセンサーチップ30は、図2(A)(B)に示す通り、水晶の圧電ウエハ300の2つの表面に、面積が例えば1cm2の金属電極310,310を有するQCM(Quartz Crystal Microbalance)にて構成される。圧電ウエハ300の変化は、逆圧電効果による交流電界によって機械的な共鳴に励起され得る。共鳴周波数は、金属電極310へ吸着された分子の質量に応じて変化する。Sauerbreyの式によると、質量変化量△m、F0を基本周波数、Aを電極面積、μqを水晶のせん断応力(2.947×1010kg/m・s2)、ρqを水晶の密度(2648kg/m3)とすると、周波数変化量△Fは、次の通りとなる。
【0028】
【数2】
【0029】
共鳴周波数は、質量増加時は小さくなり、質量減少時は大きくなる。圧電ウエハ300を水晶AT板とすると、水晶AT板が27MHzの基準振動数で1Hzの振動変動を検知した場合、QCM信号は式(2)から17.7ng/cm2の質量変動を検知できることになる。圧電ウエハ300が水晶SAW(表面弾性波)デバイスであると、1GHzの基準振動数で同じく1Hzの振動変位を検知した場合、QCM信号として0.44pg/cm2の質量変動を検知できる。このように、センサーの感度は、Sauebreyの式から周波数の二乗に比例するので、周波数を高くして使用することが有効となる。マイクロバランスセンサーチップ30としてGHzオーダーの周波数で駆動されるSAW発振デバイスを用いると、より微量の質量変化を検出できる。SAW発振デバイスは、例えば特開2009−130806や特開2005−184496に開示されたものを使用することができる。
【0030】
3.2つのセンサーチップを併用した定量分析
以下にて説明する試料分子1の「吸着」という現象は、試料分子1が金属ナノ粒子220に衝突する衝突分子の数(分圧)が支配的である現象であり、物理吸着及び化学吸着の一方又は双方を含む。吸着エネルギーは試料分子1の運動エネルギーに依存し、ある値を乗り越えると衝突して「吸着」現象を呈し、吸着には外力は不要である。また、光学デバイス(センサーチップ)20に流体試料を吸引することとは、換言すると、その内部に光学デバイス(センサーチップ)20を配置した流路に吸引流を生じさせることで、流体試料を光学デバイス20に接触させることである。
【0031】
試料分子1は、SERSセンサーチップ20のナノ構造を有する金属微粒子220の表面に吸着して、SERS光を発生し検出される。図3(A)に、吸着部位の違いによるSERS信号の強度変化を示す。金属ナノ構造間に試料分子1Aが吸着したとき、局在増強電場の影響を最も受けることになり(式(1)でr→0)、SRES信号は最大となる。試料分子1B,1C,1Dのように増強電場スポットから離れるに従い、それらのSERS強度は式(1)中のrの値が増大することから減衰する。金属微粒子220に吸着する分子の数が多くなり金属微粒子220の被覆率が大きい場合、全ての吸着分子が照射スポット内で平均化されて取得できるため、SERSセンサーチップ20での吸着分子の定量評価は信頼性が高い。
【0032】
しかし、金属微粒子220に吸着する分子の数が少なく、被覆率が小さい場合(例えばppb濃度領域以下のときや、試料気体を曝露して間もないとき)、図3(A)に示すように個々の分子はその吸着部位に応じたSERS信号を出力し、平均化されていない信号を観測することになる。このとき、SERSセンサーチップ20単体では、正確に定量することができない。
【0033】
そこで本実施形態では、SERS強度の変化が、定量増減に起因したものか、あるいは図3(A)に示すように吸着部位に応じた式(1)の強度変化であるかを、マイクロバランスチップセンサー30の出力から判定することにしている。図3(A)のような分子の吸着状態のとき、SERS信号及びQCM信号は図3(B)の通りとなる。図3(B)に示すように、SERS信号は、4つの試料分子1A〜1Dの吸着部位に応じた強度を反映するため、4つの試料分子1A〜1Dを正しく定量していない値となる。一方、QCM信号には4つの試料分子1A〜1Dの吸着部位の相違は反映されない。ただし、QCM信号は、図3(A)には示されていない分子、つまり試料分子1以外の吸着分子の質量も計測されるので、QCM信号だけで吸着された試料分子1の質量を計測することはできない。
【0034】
このように、指紋スペクトルであるSERS信号は試料分子を定性評価できるが、定量評価するには信頼性に劣る。この信頼性を、質量変化を正しく反映するQCM信号を併用することで担保している。
【0035】
図4は、SERS強度とQCM変動との組み合わせから得られる定量出力処理の一例を示している。SRES強度が+方向に変動したとき、QCM変動も+方向であるときのみ、試料分子1の吸着数が増加したと判定し、SERS強度出力から定量評価できる。同様に、SRES強度が−方向に変動したとき、QCM変動も−方向であるときのみ、試料分子1の吸着数が減少したと判定し、SERS強度出力から定量評価できる。
【0036】
上記2つ以外の組み合わせでは、SERS強度の変化は図3(A)に示すように吸着部位に応じた式(1)の強度変化であると判定し、SERS強度を定量評価に用いない。この場合には再測定となる。
【0037】
このように、SERS強度変動とQCM変動とが、共に同じ増減挙動を示したときのみ、SERS強度から定量表示する。一方、SERS強度変動とQCM変動とが、逆の挙動を示す場合と、QCM変動がない場合は、式(1)の影響であると判断し、再測定を行う。再測定により、SERS強度変動とQCM変動とが共に同じ挙動を示すまで、定量表示は禁止される。
【0038】
4.検出装置の構成例1
検出装置10Aは、図5に示すように、吸引部40の流路41内にSERSセンサーチップ20とマイクロバランスセンサーチップ30とを、平面視で並設することができる。検出装置10Aは、2つのセンサーチップ20,30と吸引部4の他に、光源50、光検出部60、処理部70と、マイクロバランス計測部80と、電力供給部90とを有する。SERSセンサーチップ20と、光源50及び/又は光検出部60との間に、光学系110を設けることができる。
【0039】
負圧発生部例えばファン450の駆動により試料が吸引される吸引部40には、流路41が形成されている。負圧発生部450は、ファンに限らず、チューブポンプ、ダイアフラム式ポンプ等のポンプなど、吸引部40にて負圧を発生させて流体試料を吸引できるものであれば良い。センサーチップ20は、流路41内に図1(A)に示す金属微粒子220が周期的に配列される構造を有する。光源50は、例えば光学系110を構成する例えばハーフミラー111と対物レンズ112を介して、センサーチップ20に光を照射する。
【0040】
センサーチップ20は、光源50からの光の照射により局在表面プラズモン共鳴が誘起され、金属微粒子220に吸着される流体試料から発せられるラマン散乱光が増強される。光検出部50は、ハーフミラー111及び対物レンズ112を介してラマン散乱光を検出する。
【0041】
マイクロバランスセンサーチップ30は、流路41に対して図2(A)の通りに配置され、電極310に吸着した分子を定量する。マイクロバランスセンサーチップ30には計測部80が接続される。
【0042】
吸引部40は、吸引口42と排出口43との間に流路41を有する。流体試料中の試料分子1は、標的物は、吸引口42(搬入口)から流路41に導入され、排出口43から排出される。吸引口42側に除塵フィルター44を設けることができる。ファン450が排出口42付近に設けられ、ファン450を作動させると、流路41内の圧力(気圧)が低下する。これにより、気体と共に試料が流路41に吸引される。試料は、センサーチップ20,30付近の流路41を経由して排出される。このとき、試料分子1の一部がセンサーチップ20,30の表面(電気伝導体)に吸着する。
【0043】
検査対象物質である試料分子1は、例えば麻薬やアルコールや残留農薬等の希薄な分子や、ウイルス等の病原体等を想定することができる。
【0044】
光源50は例えばレーザーであり、小型化の観点から好ましくは垂直共振型面発光レーザーを用いることができるが、これに限定ざれない。
【0045】
光源50からの光は、光学系110を構成するコリメーターレンズ113により平行光にされる。コリメーターレンズ113の下流に偏光制御素子を設け、直線偏光に変換しても良い。ただし、光源50として例えば面発光レーザーを採用し、直線偏光を有する光を発光可能であれば、偏光制御素子を省略することができる。
【0046】
コリメーターレンズ113により平行光された光は、ハーフミラー(ダイクロイックミラー)111によりSERSセンサーチップ20の方向に導かれ、対物レンズ112で集光され、SERSセンサーチップ20に入射する。SERSセンサーチップ20には、図1(A)〜図1(C)に示す金属微粒子220が形成される。SERSセンサーチップ20から例えば表面増強ラマン散乱によるレイリー散乱光及びラマン散乱光が放射される。SERSセンサーチップ20からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、対物レンズ112を通過し、ハーフミラー111によって光検出器60の方向に導かれる。
【0047】
SERSセンサーチップ20からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、集光レンズ114で集光されて、光検出部60に入力される。光検出部60では先ず、光フィルター610に到達する。光フィルター610(例えばノッチフィルター)によりラマン散乱光が取り出される。このラマン散乱光は、さらに分光器620を介して受光素子630にて受光される。分光器620は、例えばファブリペロー共振を利用したエタロン等で形成されて通過波長帯域を可変とすることができる。分光器620を通過する光の波長は、処理部70により制御(選択)することができる。受光素子630によって、試料分子1に特有のラマンスペクトルが得られ、得られたラマンスペクトルと予め保持するデータと照合することで、試料分子1を特定することができる。
【0048】
検出装置10Aは、筐体100を有し、筐体100に上述した各部20〜80を有する他、電力供給部90、通信接続部70A及び電源接続部90Aを含むことができる。電力供給部90は、電源接続部90Aからの電力を、光源50、光検出部60、処理部70、計測部80及びファン450等に供給する。電力供給部90は、例えば2次電池で構成することができ、1次電池、ACアダプター等で構成してもよい。通信接続部70Aは処理部70と接続され、処理部70に対してデータや制御信号等を媒介する。
【0049】
図5の例では、処理部70は、図5に示される光源50以外の光検出器60、ファン450等への命令を送ることができ、処理部70は、光源50だけでなく、光検出器60、ファン450等も制御することができる。さらに、処理部70は、ラマンスペクトルによる分光分析を実行する。処理部70は、光検出部60からのSERS強度と計測部80からのQCM信号から図4に従って試料分子の定量分析を行うことができる。なお、処理部70は、定量分析結果等を例えば通信接続部70Aに接続される外部機器(図示せず)に送信することができる。
【0050】
図6は、図5の検出装置10Aの制御系ブロック図である。図6に示されるように、検出装置10Aは、例えばインターフェース120、表示部130及び操作部140等をさらに含むことができる。また、図5に示される処理部70は、図6に示すように制御部としての例えばCPU(Central Processing Unit)71、RAM(Random Access Memory)72、ROM(Read Only Memory)73等を有することができる。さらに、検出装置10Aは、例えば、光源ドライバー52、分光ドライバー622、受光回路632及びファンドライバー452を含むことができる。
【0051】
図7は、定量分析を行う回路ブロックを示している。マイクロバランス計測部80は、マイクロバランスセンサーチップ30に接続される発振回路81と、マイクロバランスセンサーチップ30での共振周波数をカウントする周波数カウンター82とを有する。処理部70のRAM72はメモリ72A〜72Dに示す領域を有し、処理部70のCPU71は定量分析部71Aを有する。
【0052】
光検出部60から時系列で出力されるSERS信号は、スイッチSW1により切り換えられて、メモリ72A,72Bに交互に記憶される。周波数カウンター82から時系列で出力されるQCM信号は、スイッチSW2により切り換えられて、メモリ72C,72Dに記憶される。定量分析部71Aは、メモリ72A,72B内の前回と今回のSERS信号からSRES強度変動を取得する。また、定量分析部71Aは、メモリ72C,72D内の前回と今回のQCM信号からQCM変動を取得する。そして、定量分析部71Aは、取得されたSERS強度変動とQCM変動から、図4に示す手法に従って定量解析を実施することができる。
【0053】
5.検出装置の構成例2
図8は、他の検出装置10Bを示している。図8の検出装置10Bが図5と相違する点は、流路41の臨むSERSセンサーチップ20とマイクロバランスセンサーチップ30とを積層したことである。つまり、SERSセンサーチップ20とマイクロバランスセンサーチップ30とを複合させたハイブリッドチップを用いている。
【0054】
このハイブリッドチップは、図9に示すように、マイクロバランスセンサーチップ30のうち、流路41に臨む一方の発振電極310上に電極微粒子220の金属ナノ構造を形成することで、マイクロバランスセンサーチップ30上に積層されるSERSセンサーチップ20を構成している。SERS信号の検出中、圧電基板300はMHz〜GHzで振動することになるが、露光時間はmsec〜secレベルなので、QCMの振動が光学的ノイズとしてSERSセンサーチップ20に悪影響する心配はない。このハイブリッドチップは部品点数が少なく、しかも単体チップとして取り扱われるため、チップ設定作業時間の短縮が図れる。
【0055】
6.実施例
図5または図8に示す検出装置10A,10Bの流路41に流体試料を流し、各センサーチップ20,30に曝露させたときの経過時間後との吸着分子の状態を図10(A)〜図10(D)に、検出されるSERS強度とQCM信号とを図11に示す。流したガスは硫化ジメチル(DMS:CH3SCH3)を用いた。また、このとき検出されたSERSスペクトルを図12に示す。
【0056】
図12はDMS分子に帰属されるピークである(定性検出)。676cm-1のピークはC−Sの対称伸縮振動を表し、最も強いピークを与えた。このピークに着目し、曝露時間別のSERS強度を図11にプロットしてある。
【0057】
一方、マイクロバランスチップ30は電極面積4mm2の励振電極310が圧電基板300に形成された1GHzの水晶デバイスを使用する。図11に示す1Hzの周波数変化は質量で0.018pgの変化を検出したことになる。分子の数に直すと、励振電極310表面にDMS分子が1.64×108個吸着した計算となる。このとき、図1(C)に示すSERS照射スポット240の領域φ2μm中には、125個の分子が存在することになる。
【0058】
一方、SERS活性な場所(hot siteと呼ぶ)は金属微粒子220間のギャップG(図1(B)参照)に位置し、5nm×20nm程度であることが知られている。図1に示すSERS照射スポット240の領域φ2μm中では、このようなサイトがおよそ280個存在する。この考察から1つの増強電場スポット230(図1(B)(C)参照)には、図10(A)〜図10(D)に示すように1〜2個程度の拡散分子が入ってくる計算となる。この数量では平均化されないシグナルとなり、式(1)のパラメータrに依存したSERS強度が観測されることになる。例えば、図11のように、SERS信号は、受光器630(図5または図8参照)に曝露時間にほぼ比例した数のフォトンが検出される。一方QCMにおける変動も図11に示すように質量増加が認められたときには、図4の手法に従いSERSの増加は定量的なものであると判断される。よって、検出されたSERS強度に基づいて定量分析される。
【0059】
図10(A)〜図10(D)とは異なり、図13(A)〜図13(D)に示す試料分子1の挙動であるときの測定結果を図14に示す。図13(A)〜図13(D)に示す試料分子1の挙動は、金属微粒子220への吸着位置が変化しているが、吸着分子の数の変更はない。
【0060】
この場合、式(1)のパラメータrに依存したSERS強度が観測され、SERS強度は激しく増減を繰り返したが、QCMは変化を示さなかった。このとき、SERS強度の増減は吸着分子の表面拡散による式(1)の影響を受けたものであると判断される。その結果、図4の手法に従い再測定と判定され、SERS・QCMの同時測定が再度行われることになる。
【0061】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できる。
【符号の説明】
【0062】
1 試料分子、1A〜1B 吸着位置が異なる吸着分子、10A,10B 検出装置、20 光学デバイス、30 マイクロバランスセンサーチップ、41 流路、50 光源、60 光検出部、70A 定量分析部、80 マイクロバランス計測部、220 金属微粒子、300 圧電基板、310 発振電極
【技術分野】
【0001】
本発明は、定性分析される極微量物質を定量分析する検出装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、低濃度の試料分子を検出する高感度分光技術の1つとして、SPR(Surface Plasmon Resonance:表面プラズモン共鳴)、特にLSPR(Localized Surface Plasmon Resonance:局在表面プラズモン共鳴)の利用したSERS(Surface Enhanced Raman Scattering:表面増強ラマン散乱)分光が注目されている(特許文献1,2)。SERSとは、ナノメートルスケールの凸凹構造を持つ金属表面でラマン散乱光が102〜1014倍増強される現象である。レーザーなどの単一波長の励起光を試料分子に照射する。励起光の波長から試料分子の分子振動エネルギー分だけ僅かにずれた散乱波長(ラマン散乱光)を分光検出し、試料分子の指紋スペクトルを得る。その指紋スペクトルの形状から、試料分子を同定することが可能となる。
【0003】
表面増強ラマン散乱(SERS)は局在表面プラズモン共鳴(LSPR)の電場増強効果により、極微量濃度の気体分子における定性検出が可能であるが、定量分析は実現できていない。この1つの原因は、局在表面プラズモン共鳴(LSPR)で発生する増強電場強度が最大増強場から指数関数的に減衰していくからである。非特許文献1によると、増強電場によって発生するSERS強度Iは、増強場表面からの距離rとは以下の関係にあると実験的に算出している。
【0004】
【数1】
【0005】
ここでaは金属ナノ粒子の半径である。式(1)は、SERS強度は分子の数とは関係なく変動することを示唆している。表面吸着分子の数が多い(被覆率が大きい)場合、アンサンブル平均化された信号から定量評価することは可能であるが、被覆率が小さい場合、個々の分子が式(1)の強度を与えるため、定量評価は難しい。
【0006】
例えば特許文献3では、SERS定量分析に関する提案がなされているが、これは同一基板内に予めSERSスペクトルが既知の分子試料を固定しており、そのスペクトル強度と比較することで定量分析する、とある。しかし、目的検出分子の表面被覆率が小さいと増強スポットへの吸着分子数が減り、式(1)の効果が顕著になってSERS強度が大きく変動する。そのため、この提案方法は検出目的分子の吸着被覆率の小さいとき(極低濃度試料や曝露時間が短いときなど)では成立しない。
【0007】
一方、特許文献4では、全反射減衰型の表面プラズモン共鳴(SPR)とQCM(Quartz Crystal Microbalance:水晶天秤)を複合させた定量検出装置を提案している。特許文献4では、SPRとQCMとの定量分析精度が共に約1ng/cm2であると指摘し(段落0003,0005)、その2つの定量分析信号が相補的であると指摘するが(段落0102)、2つの信号から如何にして定量分析するか、特に極微量物質を如何にして定量分析するかについての具体的に説明がない。しかも、全反射減衰型の表面プラズモン共鳴(SPR)でもQCMでも定量すべき試料分子の指紋スペクトルを測定できないため、試料分子を定性検出することも技術的に不可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第3714671号公報
【特許文献2】特開2000−356587号公報
【特許文献3】特開2009−103651号公報
【特許文献4】特表2008−513772号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】プラズモンナノ材料の設計と応用技術 CMC出版P.181
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の幾つかの態様によれば、定性分析される極微量物質を定量分析する検出装置を提供することができる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様は、
流体試料の流路と、
前記流路に前記流体試料を吸引する吸引部と、
前記流路内に配置される光学デバイスと、
前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前期光学デバイスから出射される光を検出する光検出部と、
発振電極が形成されている圧電基板を有し、前記流路内に配置されるマイクロバランスセンサーチップと、
前記光検出部及び前記マイクロバランスセンサーチップからの出力に基づいて前記試料を定量分析する定量分析部と、
を有し、
前記光学デバイスは、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、前記金属ナノ構造に吸着される前記流体試料を反映した光を出射する検出装置に関する。
【0012】
本発明では、光学デバイスからの光を検出する光検出部は、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、金属ナノ構造に吸着される流体試料を反映した光を出射する。このため、試料固有の指紋スペクトルを検出するので、試料を定性分析できる。このスペクトル強度は、試料の定量情報となり得るが、金属粒子に吸着する試料分子の数が少ないと平均化されずに、式(1)中のパラメータrに依存し、金属粒子に吸着される分子の数は同一でもスペクトル強度が区々になる。併設したマイクロバランスチップにより検出される質量の増減に基づいて、光検出部からの出力強度に基づいて定量分析の良否を判定でき、定量分析の信頼性が高まる。なお、流路内に配置される光学デバイスやマイクロバランスセンサーチップとは、その一面が、試料流体と接触できるように、流路に臨んで配置されているものを含む。
【0013】
本発明の一態様では、前記光学デバイスと前記マイクロバランスセンサーチップとは、前記流路内に平面視で並設されても良いし、前記流路内に積層されていてもよい。光学デバイスとマイクロバランスセンサーチップを積層したハイブリッドチップは、光学デバイスの金属ナノ構造を、マイクロバランスセンサーチップの発振電極上に形成することができる。こうすると、ハイブリッドチップの部材点数が減少し、チップ単体であるので取り扱いが容易となる。
【0014】
本発明の一態様では、前記マイクロバランスセンサーチップの前記圧電基板を水晶とすることができ、特に前記マイクロバランスセンサーチップは、SAW(表面弾性波)発振デバイスとすることができる。SAW発振デバイスはGHzオーダーで駆動できる。センサーの感度は、Sauebreyの式から周波数の二乗に比例するので、周波数を高くして使用することが感度を向上させる。
【0015】
本発明の一態様では、前記質量分析部は、前記光検出部からの出力強度変動と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動とが、同じ増減挙動を示したときに、前記光検出部からの出力強度に基づいて定量分析することができる。この場合、光検出部からのスペクトル強度は、式(1)中のパラメータrの依存度が低く、試料分子の吸着挙動を反映した定量情報となり得る。
【0016】
本発明の一態様では、前記質量分析部は、前記光検出部からの出力強度変動と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動とが、逆の挙動を示す場合と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動がない場合は、定量分析を禁止することができる。この場合、光検出部からのスペクトル強度は、式(1)中のパラメータrの依存度が高く、試料分子の吸着挙動を反映せずに定量情報とはなり得ない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1(A)は吸引部と光学デバイス(センサーチップ)の拡大断面図、図1(B)及び図1(C)は光学デバイスでの増強電場の形成を示す断面図及び平面図である。
【図2】図2(A)及び図2(B)はマイクロバランスセンサーチップの断面図及び平面図である。
【図3】図3(A)及び図3(B)は吸着分子の位置に依存したSERS強度と位置依存性のないQCM信号の説明図である。
【図4】SERS強度変動とQCM変動に基づく試料の定量分析手法の一例を示す図である。
【図5】2つのチップを並設した検出装置の全体概要を示すブロック図である。
【図6】検査装置の制御系ブロック図である。
【図7】定量分析を行う処理系のブロック図である。
【図8】2つのチップを積層した検出装置の全体概要を示すブロック図である。
【図9】2つのチップが積層されたハイブリッドチップの断面図である。
【図10】図10(A)〜図10(D)は、試料分子の挙動を示す図である。
【図11】図10(A)〜図10(D)の時のSERS強度変動とQCM変動を示す特性図である。
【図12】試料分子のSERS強度スペクトルを示す特性図である。
【図13】図13(A)〜図13(D)は、試料分子の他の挙動を示す図である。
【図14】図13(A)〜図13(D)の時のSERS強度変動とQCM変動を示す特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお以下に説明する本実施形態は特許請求の範囲に記載された本発明の内容を不当に限定するものではなく、本実施形態で説明される構成の全てが本発明の解決手段として必須であるとは限らない。
【0019】
本発明の一実施形態に係る検出装置10Aでは、図5または図6に示すように、2つのセンサーチップが設けられ、一つは光学デバイスであるSERSセンサーチップ20であり、他の一つはマイクロバランスセンサーチップ30である。先ず、これら2つのセンサーチップ20,30について説明する。
【0020】
1.SERSセンサーチップ(光学デバイス)
図1(A)〜図1(C)を用いて、光を照射されることで吸着している流体試料を反映した光を出射する光学デバイスとして、ラマン散乱光を検出するセンサーチップ20について説明する。原理の説明図を示す。なお、本実施形態では、流体試料は例えば大気であり、検査対象の物質は大気中の特定気体分子(試料分子)とすることができるが、これに限定されない。
【0021】
図1(A)に示すように、センサーチップ20に吸着される流体試料中の検査対象物質である試料分子1に入射光(振動数ν)が照射される。一般に、入射光の多くは、レイリー散乱光として散乱され、レイリー散乱光の振動数ν又は波長は入射光に対して変化しない。入射光の一部は、ラマン散乱光として散乱され、ラマン散乱光の振動数(ν−ν’及びν+ν’)又は波長は、流路41内の試料分子1の振動数ν’(分子振動)が反映される。つまり、ラマン散乱光は、試料分子1を含む流体試料を反映した光である。入射光の一部は、試料分子1を振動させてエネルギーを失うが、試料分子1の振動エネルギーがラマン散乱光の振動エネルギー又は光エネルギーに付加されることもある。このような振動数のシフト(ν’)をラマンシフトと呼ぶ。
【0022】
図1(B)は、図1(A)のセンサーチップ20の拡大図である。図1(A)に示すように入射光が基板200の平坦面から入射される場合、基板200は入射光に対して透明な材料が用いられる。センサーチップ20は、基板200上の第1構造として、誘電体から成る複数の凸部210を有する。本実施形態では、入射光に対して透明な誘電体としての石英、水晶、硼珪酸ガラスなどのガラスまたはシリコン等で形成された基板200上に、レジストを形成し、そのレジストを例えば遠紫外線(DUV)フォトリソグラフィー法を用いてパターン化している。パターン化されたレジストにより基板200をエッチングすることで、例えば図1(C)に示すように複数の凸部210が二次元的に配置される。なお、基板200と凸部210とを異なる材料で形成しても良い。
【0023】
複数の凸部210上の第2構造として、複数の凸部210には、例えばAuまたはAg等の金属ナノ粒子(金属微粒子)220が例えば蒸着、スパッタ等により形成される。なお、金属微粒子220は、Au、Ag、Cu、Al、Pt、Pd、Ni、Mo、Wのいずれかの単体金属、もしくはそれらの合金の膜であってもよい。結果として、センサーチップ20は、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を有することができる。1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造とは、基板200の上面を当該サイズの凸部構造(基板材で)を持つように加工する他に、基板上に当該サイズの金属微粒子を蒸着・スパッタ等で固着させる、または、基板上にアイランド構造を有する金属膜を形成する等の方法でも形成できる。
【0024】
図1(B)及び図1(C)に示すように、二次元パターン状の金属ナノ粒子220に入射光が入射された領域240では、隣り合う金属ナノ粒子220間のギャップGに、増強電場230が形成される。特に、入射光の波長よりも小さな金属ナノ粒子220に対して入射光を照射する場合、入射光の電場は、金属ナノ粒子220の表面に存在する自由電子に作用し、共鳴を引き起こす。これにより、自由電子による電気双極子が金属ナノ粒子220内に励起され、入射光の電場よりも強い増強電場230が形成される。これは、局在表面プラズモン共鳴(LSPR:Localized Surface Plasmon Resonance)とも呼ばれる。この現象は、入射光の波長よりも小さな1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ粒子220等の電気伝導体に特有の現象である。
【0025】
図1(A)〜図1(C)では、センサーチップ20に入射光を照射した時に表面増強ラマン散乱(SERS: Surface Enhanced Raman Scattering)が生ずる。つまり、増強電場230に試料分子1が入り込むと、その試料分子1によるラマン散乱光は増強電場230で増強されて、ラマン散乱光の信号強度は、強くなる。このような表面増強ラマン散乱では、試料分子が極微量であっても、検出感度を高めることができる。なお、金属ナノ構造は周期構造であってもよい。
【0026】
SERSセンサーチップ20から発生する流体試料のラマン散乱光のうち、試料分子1を反映する波長のみ取り出すことができるので、検出されるSERS信号は試料分子1を反映した指紋スペクトルである。
【0027】
2.マイクロバランスセンサーチップ
マイクロバランスセンサーチップ30は、図2(A)(B)に示す通り、水晶の圧電ウエハ300の2つの表面に、面積が例えば1cm2の金属電極310,310を有するQCM(Quartz Crystal Microbalance)にて構成される。圧電ウエハ300の変化は、逆圧電効果による交流電界によって機械的な共鳴に励起され得る。共鳴周波数は、金属電極310へ吸着された分子の質量に応じて変化する。Sauerbreyの式によると、質量変化量△m、F0を基本周波数、Aを電極面積、μqを水晶のせん断応力(2.947×1010kg/m・s2)、ρqを水晶の密度(2648kg/m3)とすると、周波数変化量△Fは、次の通りとなる。
【0028】
【数2】
【0029】
共鳴周波数は、質量増加時は小さくなり、質量減少時は大きくなる。圧電ウエハ300を水晶AT板とすると、水晶AT板が27MHzの基準振動数で1Hzの振動変動を検知した場合、QCM信号は式(2)から17.7ng/cm2の質量変動を検知できることになる。圧電ウエハ300が水晶SAW(表面弾性波)デバイスであると、1GHzの基準振動数で同じく1Hzの振動変位を検知した場合、QCM信号として0.44pg/cm2の質量変動を検知できる。このように、センサーの感度は、Sauebreyの式から周波数の二乗に比例するので、周波数を高くして使用することが有効となる。マイクロバランスセンサーチップ30としてGHzオーダーの周波数で駆動されるSAW発振デバイスを用いると、より微量の質量変化を検出できる。SAW発振デバイスは、例えば特開2009−130806や特開2005−184496に開示されたものを使用することができる。
【0030】
3.2つのセンサーチップを併用した定量分析
以下にて説明する試料分子1の「吸着」という現象は、試料分子1が金属ナノ粒子220に衝突する衝突分子の数(分圧)が支配的である現象であり、物理吸着及び化学吸着の一方又は双方を含む。吸着エネルギーは試料分子1の運動エネルギーに依存し、ある値を乗り越えると衝突して「吸着」現象を呈し、吸着には外力は不要である。また、光学デバイス(センサーチップ)20に流体試料を吸引することとは、換言すると、その内部に光学デバイス(センサーチップ)20を配置した流路に吸引流を生じさせることで、流体試料を光学デバイス20に接触させることである。
【0031】
試料分子1は、SERSセンサーチップ20のナノ構造を有する金属微粒子220の表面に吸着して、SERS光を発生し検出される。図3(A)に、吸着部位の違いによるSERS信号の強度変化を示す。金属ナノ構造間に試料分子1Aが吸着したとき、局在増強電場の影響を最も受けることになり(式(1)でr→0)、SRES信号は最大となる。試料分子1B,1C,1Dのように増強電場スポットから離れるに従い、それらのSERS強度は式(1)中のrの値が増大することから減衰する。金属微粒子220に吸着する分子の数が多くなり金属微粒子220の被覆率が大きい場合、全ての吸着分子が照射スポット内で平均化されて取得できるため、SERSセンサーチップ20での吸着分子の定量評価は信頼性が高い。
【0032】
しかし、金属微粒子220に吸着する分子の数が少なく、被覆率が小さい場合(例えばppb濃度領域以下のときや、試料気体を曝露して間もないとき)、図3(A)に示すように個々の分子はその吸着部位に応じたSERS信号を出力し、平均化されていない信号を観測することになる。このとき、SERSセンサーチップ20単体では、正確に定量することができない。
【0033】
そこで本実施形態では、SERS強度の変化が、定量増減に起因したものか、あるいは図3(A)に示すように吸着部位に応じた式(1)の強度変化であるかを、マイクロバランスチップセンサー30の出力から判定することにしている。図3(A)のような分子の吸着状態のとき、SERS信号及びQCM信号は図3(B)の通りとなる。図3(B)に示すように、SERS信号は、4つの試料分子1A〜1Dの吸着部位に応じた強度を反映するため、4つの試料分子1A〜1Dを正しく定量していない値となる。一方、QCM信号には4つの試料分子1A〜1Dの吸着部位の相違は反映されない。ただし、QCM信号は、図3(A)には示されていない分子、つまり試料分子1以外の吸着分子の質量も計測されるので、QCM信号だけで吸着された試料分子1の質量を計測することはできない。
【0034】
このように、指紋スペクトルであるSERS信号は試料分子を定性評価できるが、定量評価するには信頼性に劣る。この信頼性を、質量変化を正しく反映するQCM信号を併用することで担保している。
【0035】
図4は、SERS強度とQCM変動との組み合わせから得られる定量出力処理の一例を示している。SRES強度が+方向に変動したとき、QCM変動も+方向であるときのみ、試料分子1の吸着数が増加したと判定し、SERS強度出力から定量評価できる。同様に、SRES強度が−方向に変動したとき、QCM変動も−方向であるときのみ、試料分子1の吸着数が減少したと判定し、SERS強度出力から定量評価できる。
【0036】
上記2つ以外の組み合わせでは、SERS強度の変化は図3(A)に示すように吸着部位に応じた式(1)の強度変化であると判定し、SERS強度を定量評価に用いない。この場合には再測定となる。
【0037】
このように、SERS強度変動とQCM変動とが、共に同じ増減挙動を示したときのみ、SERS強度から定量表示する。一方、SERS強度変動とQCM変動とが、逆の挙動を示す場合と、QCM変動がない場合は、式(1)の影響であると判断し、再測定を行う。再測定により、SERS強度変動とQCM変動とが共に同じ挙動を示すまで、定量表示は禁止される。
【0038】
4.検出装置の構成例1
検出装置10Aは、図5に示すように、吸引部40の流路41内にSERSセンサーチップ20とマイクロバランスセンサーチップ30とを、平面視で並設することができる。検出装置10Aは、2つのセンサーチップ20,30と吸引部4の他に、光源50、光検出部60、処理部70と、マイクロバランス計測部80と、電力供給部90とを有する。SERSセンサーチップ20と、光源50及び/又は光検出部60との間に、光学系110を設けることができる。
【0039】
負圧発生部例えばファン450の駆動により試料が吸引される吸引部40には、流路41が形成されている。負圧発生部450は、ファンに限らず、チューブポンプ、ダイアフラム式ポンプ等のポンプなど、吸引部40にて負圧を発生させて流体試料を吸引できるものであれば良い。センサーチップ20は、流路41内に図1(A)に示す金属微粒子220が周期的に配列される構造を有する。光源50は、例えば光学系110を構成する例えばハーフミラー111と対物レンズ112を介して、センサーチップ20に光を照射する。
【0040】
センサーチップ20は、光源50からの光の照射により局在表面プラズモン共鳴が誘起され、金属微粒子220に吸着される流体試料から発せられるラマン散乱光が増強される。光検出部50は、ハーフミラー111及び対物レンズ112を介してラマン散乱光を検出する。
【0041】
マイクロバランスセンサーチップ30は、流路41に対して図2(A)の通りに配置され、電極310に吸着した分子を定量する。マイクロバランスセンサーチップ30には計測部80が接続される。
【0042】
吸引部40は、吸引口42と排出口43との間に流路41を有する。流体試料中の試料分子1は、標的物は、吸引口42(搬入口)から流路41に導入され、排出口43から排出される。吸引口42側に除塵フィルター44を設けることができる。ファン450が排出口42付近に設けられ、ファン450を作動させると、流路41内の圧力(気圧)が低下する。これにより、気体と共に試料が流路41に吸引される。試料は、センサーチップ20,30付近の流路41を経由して排出される。このとき、試料分子1の一部がセンサーチップ20,30の表面(電気伝導体)に吸着する。
【0043】
検査対象物質である試料分子1は、例えば麻薬やアルコールや残留農薬等の希薄な分子や、ウイルス等の病原体等を想定することができる。
【0044】
光源50は例えばレーザーであり、小型化の観点から好ましくは垂直共振型面発光レーザーを用いることができるが、これに限定ざれない。
【0045】
光源50からの光は、光学系110を構成するコリメーターレンズ113により平行光にされる。コリメーターレンズ113の下流に偏光制御素子を設け、直線偏光に変換しても良い。ただし、光源50として例えば面発光レーザーを採用し、直線偏光を有する光を発光可能であれば、偏光制御素子を省略することができる。
【0046】
コリメーターレンズ113により平行光された光は、ハーフミラー(ダイクロイックミラー)111によりSERSセンサーチップ20の方向に導かれ、対物レンズ112で集光され、SERSセンサーチップ20に入射する。SERSセンサーチップ20には、図1(A)〜図1(C)に示す金属微粒子220が形成される。SERSセンサーチップ20から例えば表面増強ラマン散乱によるレイリー散乱光及びラマン散乱光が放射される。SERSセンサーチップ20からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、対物レンズ112を通過し、ハーフミラー111によって光検出器60の方向に導かれる。
【0047】
SERSセンサーチップ20からのレイリー散乱光及びラマン散乱光は、集光レンズ114で集光されて、光検出部60に入力される。光検出部60では先ず、光フィルター610に到達する。光フィルター610(例えばノッチフィルター)によりラマン散乱光が取り出される。このラマン散乱光は、さらに分光器620を介して受光素子630にて受光される。分光器620は、例えばファブリペロー共振を利用したエタロン等で形成されて通過波長帯域を可変とすることができる。分光器620を通過する光の波長は、処理部70により制御(選択)することができる。受光素子630によって、試料分子1に特有のラマンスペクトルが得られ、得られたラマンスペクトルと予め保持するデータと照合することで、試料分子1を特定することができる。
【0048】
検出装置10Aは、筐体100を有し、筐体100に上述した各部20〜80を有する他、電力供給部90、通信接続部70A及び電源接続部90Aを含むことができる。電力供給部90は、電源接続部90Aからの電力を、光源50、光検出部60、処理部70、計測部80及びファン450等に供給する。電力供給部90は、例えば2次電池で構成することができ、1次電池、ACアダプター等で構成してもよい。通信接続部70Aは処理部70と接続され、処理部70に対してデータや制御信号等を媒介する。
【0049】
図5の例では、処理部70は、図5に示される光源50以外の光検出器60、ファン450等への命令を送ることができ、処理部70は、光源50だけでなく、光検出器60、ファン450等も制御することができる。さらに、処理部70は、ラマンスペクトルによる分光分析を実行する。処理部70は、光検出部60からのSERS強度と計測部80からのQCM信号から図4に従って試料分子の定量分析を行うことができる。なお、処理部70は、定量分析結果等を例えば通信接続部70Aに接続される外部機器(図示せず)に送信することができる。
【0050】
図6は、図5の検出装置10Aの制御系ブロック図である。図6に示されるように、検出装置10Aは、例えばインターフェース120、表示部130及び操作部140等をさらに含むことができる。また、図5に示される処理部70は、図6に示すように制御部としての例えばCPU(Central Processing Unit)71、RAM(Random Access Memory)72、ROM(Read Only Memory)73等を有することができる。さらに、検出装置10Aは、例えば、光源ドライバー52、分光ドライバー622、受光回路632及びファンドライバー452を含むことができる。
【0051】
図7は、定量分析を行う回路ブロックを示している。マイクロバランス計測部80は、マイクロバランスセンサーチップ30に接続される発振回路81と、マイクロバランスセンサーチップ30での共振周波数をカウントする周波数カウンター82とを有する。処理部70のRAM72はメモリ72A〜72Dに示す領域を有し、処理部70のCPU71は定量分析部71Aを有する。
【0052】
光検出部60から時系列で出力されるSERS信号は、スイッチSW1により切り換えられて、メモリ72A,72Bに交互に記憶される。周波数カウンター82から時系列で出力されるQCM信号は、スイッチSW2により切り換えられて、メモリ72C,72Dに記憶される。定量分析部71Aは、メモリ72A,72B内の前回と今回のSERS信号からSRES強度変動を取得する。また、定量分析部71Aは、メモリ72C,72D内の前回と今回のQCM信号からQCM変動を取得する。そして、定量分析部71Aは、取得されたSERS強度変動とQCM変動から、図4に示す手法に従って定量解析を実施することができる。
【0053】
5.検出装置の構成例2
図8は、他の検出装置10Bを示している。図8の検出装置10Bが図5と相違する点は、流路41の臨むSERSセンサーチップ20とマイクロバランスセンサーチップ30とを積層したことである。つまり、SERSセンサーチップ20とマイクロバランスセンサーチップ30とを複合させたハイブリッドチップを用いている。
【0054】
このハイブリッドチップは、図9に示すように、マイクロバランスセンサーチップ30のうち、流路41に臨む一方の発振電極310上に電極微粒子220の金属ナノ構造を形成することで、マイクロバランスセンサーチップ30上に積層されるSERSセンサーチップ20を構成している。SERS信号の検出中、圧電基板300はMHz〜GHzで振動することになるが、露光時間はmsec〜secレベルなので、QCMの振動が光学的ノイズとしてSERSセンサーチップ20に悪影響する心配はない。このハイブリッドチップは部品点数が少なく、しかも単体チップとして取り扱われるため、チップ設定作業時間の短縮が図れる。
【0055】
6.実施例
図5または図8に示す検出装置10A,10Bの流路41に流体試料を流し、各センサーチップ20,30に曝露させたときの経過時間後との吸着分子の状態を図10(A)〜図10(D)に、検出されるSERS強度とQCM信号とを図11に示す。流したガスは硫化ジメチル(DMS:CH3SCH3)を用いた。また、このとき検出されたSERSスペクトルを図12に示す。
【0056】
図12はDMS分子に帰属されるピークである(定性検出)。676cm-1のピークはC−Sの対称伸縮振動を表し、最も強いピークを与えた。このピークに着目し、曝露時間別のSERS強度を図11にプロットしてある。
【0057】
一方、マイクロバランスチップ30は電極面積4mm2の励振電極310が圧電基板300に形成された1GHzの水晶デバイスを使用する。図11に示す1Hzの周波数変化は質量で0.018pgの変化を検出したことになる。分子の数に直すと、励振電極310表面にDMS分子が1.64×108個吸着した計算となる。このとき、図1(C)に示すSERS照射スポット240の領域φ2μm中には、125個の分子が存在することになる。
【0058】
一方、SERS活性な場所(hot siteと呼ぶ)は金属微粒子220間のギャップG(図1(B)参照)に位置し、5nm×20nm程度であることが知られている。図1に示すSERS照射スポット240の領域φ2μm中では、このようなサイトがおよそ280個存在する。この考察から1つの増強電場スポット230(図1(B)(C)参照)には、図10(A)〜図10(D)に示すように1〜2個程度の拡散分子が入ってくる計算となる。この数量では平均化されないシグナルとなり、式(1)のパラメータrに依存したSERS強度が観測されることになる。例えば、図11のように、SERS信号は、受光器630(図5または図8参照)に曝露時間にほぼ比例した数のフォトンが検出される。一方QCMにおける変動も図11に示すように質量増加が認められたときには、図4の手法に従いSERSの増加は定量的なものであると判断される。よって、検出されたSERS強度に基づいて定量分析される。
【0059】
図10(A)〜図10(D)とは異なり、図13(A)〜図13(D)に示す試料分子1の挙動であるときの測定結果を図14に示す。図13(A)〜図13(D)に示す試料分子1の挙動は、金属微粒子220への吸着位置が変化しているが、吸着分子の数の変更はない。
【0060】
この場合、式(1)のパラメータrに依存したSERS強度が観測され、SERS強度は激しく増減を繰り返したが、QCMは変化を示さなかった。このとき、SERS強度の増減は吸着分子の表面拡散による式(1)の影響を受けたものであると判断される。その結果、図4の手法に従い再測定と判定され、SERS・QCMの同時測定が再度行われることになる。
【0061】
なお、上記のように本実施形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項および効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できる。
【符号の説明】
【0062】
1 試料分子、1A〜1B 吸着位置が異なる吸着分子、10A,10B 検出装置、20 光学デバイス、30 マイクロバランスセンサーチップ、41 流路、50 光源、60 光検出部、70A 定量分析部、80 マイクロバランス計測部、220 金属微粒子、300 圧電基板、310 発振電極
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体試料の流路と、
前記流路に前記流体試料を吸引する吸引部と、
前記流路内に配置される光学デバイスと、
前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前期光学デバイスから出射される光を検出する光検出部と、
発振電極が形成されている圧電基板を有し、前記流路内に配置されるマイクロバランスセンサーチップと、
前記光検出部及び前記マイクロバランスセンサーチップからの出力に基づいて前記試料を定量分析する定量分析部と、
を有し、
前記光学デバイスは、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、前記金属ナノ構造に吸着される前記流体試料を反映した光を出射することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記光学デバイスと前記マイクロバランスセンサーチップとが、前記流路内に平面視で並設されていることを特徴とする検出装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記光学デバイスと前記マイクロバランスセンサーチップとが、前記流路内に積層されていることを特徴とする検出装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記光学デバイスの前記金属微粒子は、前記マイクロバランスセンサーチップの前記発振電極上に形成されていることを特徴とする検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記圧電基板は水晶であることを特徴とする検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記マイクロバランスセンサーチップは、SAW(表面弾性波)発振デバイスであることを特徴とする検出装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記質量分析部は、前記光検出部からの出力強度変動と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動とが、同じ増減挙動を示したときに、前記光検出部からの出力強度に基づいて定量分析することを特徴とする検出装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記質量分析部は、前記光検出部からの出力強度変動と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動とが、逆の挙動を示す場合と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動がない場合は、定量分析を禁止することを特徴とする検出装置。
【請求項1】
流体試料の流路と、
前記流路に前記流体試料を吸引する吸引部と、
前記流路内に配置される光学デバイスと、
前記光学デバイスに光を照射する光源と、
前期光学デバイスから出射される光を検出する光検出部と、
発振電極が形成されている圧電基板を有し、前記流路内に配置されるマイクロバランスセンサーチップと、
前記光検出部及び前記マイクロバランスセンサーチップからの出力に基づいて前記試料を定量分析する定量分析部と、
を有し、
前記光学デバイスは、1〜1000nmの凸部を有する金属ナノ構造を備え、前記金属ナノ構造に吸着される前記流体試料を反映した光を出射することを特徴とする検出装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記光学デバイスと前記マイクロバランスセンサーチップとが、前記流路内に平面視で並設されていることを特徴とする検出装置。
【請求項3】
請求項1において、
前記光学デバイスと前記マイクロバランスセンサーチップとが、前記流路内に積層されていることを特徴とする検出装置。
【請求項4】
請求項3において、
前記光学デバイスの前記金属微粒子は、前記マイクロバランスセンサーチップの前記発振電極上に形成されていることを特徴とする検出装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかにおいて、
前記圧電基板は水晶であることを特徴とする検出装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかにおいて、
前記マイクロバランスセンサーチップは、SAW(表面弾性波)発振デバイスであることを特徴とする検出装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれかにおいて、
前記質量分析部は、前記光検出部からの出力強度変動と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動とが、同じ増減挙動を示したときに、前記光検出部からの出力強度に基づいて定量分析することを特徴とする検出装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記質量分析部は、前記光検出部からの出力強度変動と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動とが、逆の挙動を示す場合と、前記マイクロバランスセンサーチップからの出力変動がない場合は、定量分析を禁止することを特徴とする検出装置。
【図2】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図14】
【図1】
【図3】
【図10】
【図13】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図11】
【図12】
【図14】
【図1】
【図3】
【図10】
【図13】
【公開番号】特開2012−220396(P2012−220396A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87951(P2011−87951)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】
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