説明

検査具および検査方法

【課題】 孔内の上下左右いずれの面においても正確なひび割れ幅等の情報を得ることができ、注入材の注入状況も正確に検査することができる検査具を提供する。
【解決手段】 この検査具は、棒状レンズ10と伝送路11とミラー13を収納し、ミラー13からの光を出射させ、ミラー13へ反射光を入射させるための窓14を有し、孔20内の1つの壁面からの距離と該1つの壁面に対向する他の壁面からの距離が等しい中心線上にミラー13が配置されるようにミラー13を支持し、孔20内へ挿入されるチューブ15と、チューブ15内に取り付けられ、その中心線上に棒状レンズ10が配置されるように棒状レンズ10および伝送路11を支持する支持リング16とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造物の内部の劣化状況を検査し、その構造物を修復するために注入材を注入する際の注入状況を確認するために用いられる検査具およびその検査具を用いて行われる検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
住宅、ビル、トンネル、ダム、水門、橋等を構築する際、コンクリートが用いられる。コンクリートは、セメント、骨材、水、混和材を配合して製造され、その強度は、水セメント比により決定される。この水セメント比を変えることにより、様々な強度のコンクリートを製造することができる。
【0003】
このようにして製造されたコンクリートは、固まらないうちに型枠を使用して打ち込まれ、所定時間をその型枠内部で養生される。この打ち込みの際、バイブレータや木づちを使用してコンクリートに含まれる空気を十分に除去し、未充填箇所をなくし、コールドジョイントやひび割れ等の欠陥を防止している。
【0004】
しかしながら、コンクリートは、建築環境の影響を受け、温度や湿度の変化によって伸縮し、ひび割れが生じる場合がある。また、酸性雨によって、セメント水和物の化学変化による軟化や破壊が生じる場合もある。
【0005】
このようなひび割れが生じた構造物に対しては、注入材を欠陥部に充填する作業が行われ、その作業において、注入材が所定の位置まで充填されたか否かを確認することが行われている。従来、この確認方法の1つとして、注入する前の注入材の量と注入作業後の注入材の残存量との差から、注入材が注入された量を求め、目的の位置まで充填されたか否かを概略判定する方法がある。
【0006】
一般に、部材や構造物の内部欠陥の状況は把握が困難で、ひび割れ注入の場合は、注入作業の前に表面ひび割れ幅とひび割れの概略深さのみが分かる程度である。このような情報のみで、注入量から注入状況を管理しようとすると、内部ひび割れ幅が表面により広い場合や、ひび割れ内部で分岐している場合には、目的の位置まで注入する前に注入を止めることがあり、注入材を注入して補修を行う注入工法の品質管理としては不適当である。
【0007】
他の方法として、注入作業後、注入材を含む欠陥部をサンプリング(コア抜き等)し、サンプリングした試料を観察することにより充填状況を確認する方法がある。例えば、ひび割れに蛍光剤入りの注入材を注入し、コア抜きを行い、抜き取ったコアにブラックライトを照射して注入状況を確認する方法がある。コア抜きは、先端に刃が設けられた中空円筒部材を回転させつつ、コンクリートの厚さ方向へ移動させることにより、円柱状のコンクリートのコアを抜き取るコア抜きマシンを使用して行われる。
【0008】
このコア抜きは、部材や構造物からサンプリングし、そのサンプルから目視観察して注入状況を確認するので、注入状況を的確に把握することができる。しかしながら、このコア抜きでは、コア抜きマシンの上記中空円筒部材の直径が約50mm〜250mmといったように大きいことから、鉄筋コンクリートの場合、鉄筋を切断してしまうという問題があった。また、コア抜きマシンは、大掛かりな装置であるため、その移動や使用において手間がかかるという問題があった。さらに、抜き取ったコアが大きいことから、その穴を埋めるために、確認後に大規模な補修が必要になるという問題もあった。また、コア抜きは、水を使用しながらの作業となるため、注入材とともに蛍光剤が洗い流されてしまい、ひび割れ状況が判断できなくなるという問題もあった。
【0009】
そこで、コンクリート構造物に内部検査のための検査孔を削孔し、この検査孔に光ファイバースコープまたは超小型CCDカメラを挿入し、内部を遠隔画像観察することにより検査する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。この方法では、小さな検査孔を削孔すればよいため、コア抜きを行う必要がなく、コア抜きマシンが不要となり、鉄筋を切断してしまうという問題もなくなり、大規模な補修も不要となる。
【0010】
また、コンクリート構造物に穿孔部を形成し、その穿孔部に内視鏡を挿入し、内視鏡を通してコンクリートの深さ方向の劣化を観測する方法も提案されている(例えば、特許文献2、3参照)。この方法も、小さな穿孔部を形成すればよいため、コア抜きを行う必要がなく、コア抜きマシンが不要となり、鉄筋を切断してしまうという問題もなくなり、大規模な補修も不要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平8−29413号公報
【特許文献2】特開2001−227925号公報
【特許文献3】特開2008−203275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
光ファイバースコープ、CCDカメラ、内視鏡を使用することで、削孔された孔内の挿入方向正面を見ることができるほか、さらにプリズムやミラーを使用することで、その孔内の上下左右も見ることができる。一般に、削孔される孔の径は、光ファイバースコープ、CCDカメラ、内視鏡が十分に余裕をもって挿入することができる大きさとされ、その孔内の下側に沿って挿入される。したがって、従来の光ファイバースコープ、CCDカメラ、内視鏡では、孔内を、上側を見る場合と下側を見る場合とでは焦点距離が異なり、ひび割れの正確なサイズを測定することはできず、正確な情報を得ることはできなかった。このため、注入材を注入する際の注入状況についても正確に検査することができなかった。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の発明者らは、鋭意検討の結果、孔内の上側壁面からの距離と下側壁面からの距離が等しい中心線上に、その上側壁面および下側壁面を写し出すミラーを配置し、その中心線上に、棒状レンズまたは一列に配列する複数のレンズが位置するように支持する支持リングを設けることにより、正確な情報を得ることができ、注入材の注入状況においても正確に検査することができることを見出した。
【0014】
本発明は、上記を見出すことによりなされたものであり、上記課題は、本発明の検査具および検査方法を提供することにより解決することができる。
【0015】
すなわち、本発明の検査具は、棒状レンズまたは一列に配列する複数のレンズと、該レンズの外周を覆うように設けられ、光を伝送する伝送路と、伝送路へ光を入力する光源装置と、伝送路から出射された光を孔内の壁面に向けて照射し、該壁面からの反射光を棒状レンズまたは一列に配列する複数のレンズへ入射させるミラーと、棒状レンズまたは一列に配列する複数のレンズと伝送路とミラーとを収納し、ミラーからの光を出射させ、ミラーへ反射光を入射させるための窓を有し、孔内の1つの壁面からの距離と該1つの壁面に対向する他の壁面からの距離が等しい中心線上にミラーが配置されるように該ミラーを支持し、孔内へ挿入されるチューブと、チューブ内に取り付けられ、中心線上に棒状レンズまたは一列に配列する複数のレンズが配置されるように該レンズおよび伝送路を支持する支持部材とを備える。
【0016】
光源装置は、電球、蛍光灯または発光ダイオード(LED)のいずれかを備えることができる。光源装置は、検査内容に応じて交換可能とされ、ひび割れ幅などの劣化状況を検査する際には、電球、蛍光灯、LEDを用い、注入材の注入状況を確認する際には、注入材に含まれる蛍光剤に反応する紫外線LEDを用いることができる。
【0017】
この検査具は、さらに、上記レンズに入射された光を受光し、電気信号へ変換する受光手段と、変換された電気信号に対し画像処理を行い、画像データを出力する画像処理手段と、画像データに基づき画像を表示する表示手段とを備える撮像装置を含むことができる。
【0018】
本発明では、その検査具を用いた構造物の検査方法を提供することができ、この方法は、削孔手段により構造物に孔を形成するステップと、形成された孔内に検査具のチューブを挿入するステップと、検査具が備える光源装置からチューブ内の伝送路およびミラーを介して孔の壁面に向けて光を照射するステップと、該壁面に反射した反射光をミラーおよびレンズを介して受光し、画像として表示するステップと、チューブを回転させるステップとを含み、回転させるステップの後、照射するステップと、表示するステップとを実行することができる。
【0019】
また、この方法は、構造物に形成されたひび割れまたは構造物に形成した孔から、蛍光剤を含む注入材を注入するステップを含む。
【0020】
注入材の注入状況を検査する場合は、さらに、光源装置を取り替えるステップを含み、取り替えるステップ後、照射するステップと、表示するステップと、回転させるステップとを実行する。このとき、構造物に形成されたひび割れが延びる方向に対し傾斜した孔を削孔手段により形成するステップを実行することができ、この傾斜した孔に、検査具のチューブを挿入し、上記の取り替えるステップ、照射するステップ、表示するステップ、回転させるステップを実行することができる。そして、注入が不十分であることが確認された場合、その傾斜した孔を注入孔として用い、上記の蛍光剤を含む注入材を注入することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の検査具の1つの構成例を示した図。
【図2】図1に示す検査具の先端部分を拡大して示した断面図。
【図3】本発明の検査具の別の構成例を示した図。
【図4】検査具を用いて構造物の検査を行っているところを例示した図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の検査具は、孔内の上下左右のいずれに対しても焦点距離を一致させることができることから、上下左右のいずれにあるひび割れ幅等のサイズを正確に測定でき、また、注入材の正確な注入状況の確認を行うことができるものである。
【0023】
図1は、その検査具の1つの構成例を示した図である。検査具は、棒状レンズ10と、この棒状レンズ10の外周を覆うように設けられ、光を伝送する伝送路11と、この伝送路11へ光を入力する光源装置12とを備える。
【0024】
棒状レンズ10としては、屈折率が連続的に変化するセルフォックロッドレンズを採用することができる。このセルフォックロッドレンズは、屈折率分布により光を曲げて集める作用を有し、棒状のガラス材をイオン交換処理することにより製造される。例えば、LiOとNaOを含有するロッドを、NaNO溶融塩に浸漬させることにより、LiとNaとをイオン交換させ、それを徐冷することにより製造することができる。
【0025】
なお、このレンズ内において光は、1/2波長ごとに結像し、1波長を周期とする正弦波状に進む。
【0026】
伝送路11は、紫外線、可視光、赤外線、レーザ光線等の光を伝送することができるライトガイドファイバーを採用することができる。ファイバーを使用する場合、細いファイバーを多数本束ねたバンドルファイバーや、1本の太い大口径ファイバーを用いることができる。
【0027】
光源装置12は、伝送路11へ光を入力するが、伝送路11であるライトガイドファイバーに接続されるライトガイドケーブルに入力し、ライトガイドケーブルを介して伝送路11へ光を入力することができる。光源装置12は、光源となるランプと、ランプから放射された光を一方向へ集めるためのミラーとを備えることができる。ランプとしては、電球、蛍光灯、LEDを挙げることができる。
【0028】
構造物1に形成されたひび割れ幅等の劣化状況を検査する場合は、注入材が注入されておらず、内部が暗いことから、電球、蛍光灯、白色LEDを用いることができる。例えば、これらの光源をもつペンライトを採用することができる。
【0029】
ひび割れ2を修復するために注入材を注入し、その注入状況を確認する場合には、注入材に蛍光剤が含まれているとき、蛍光剤に反応する紫外線LEDを用いることができる。蛍光剤を含まない場合は、上記の電球、蛍光灯、白色LEDをそのまま用いることができる。
【0030】
注入材は、珪酸ソーダ、イソシアネートを主成分としたシリカレジン系の注入材、ポリオール、イソシアネートを主成分としたウレタンフォーム系の注入材、セメント(モルタル)系の注入材、エポキシ樹脂を主成分としたエポキシ樹脂系の注入材を用いることができる。また、注入材は、構造物1の色調と大きく異なる色調に着色した注入材を用いることができる。これにより、これまで誤認しやすかった注入材の位置を正確に特定することが可能となる。着色するために着色剤を用いることができるが、着色剤としては、水酸化鉄、クロム酸鉛、クロム酸亜鉛、二酸化チタン等を主成分とする顔料を挙げることができる。
【0031】
蛍光剤は、蛍光顔料を用いることができ、蛍光顔料としては、例えば、カルシウム、マグネシウム、バリウム、亜鉛、カドミウムの酸化物、硫化物、ケイ酸塩、リン酸塩、タングステン酸塩を主成分とし、これに0.01〜1%のマンガン、銀、銅、アンチモン、鉛を活性剤として添加し、焼成したものを用いることができる。蛍光顔料は、上記の無機系の蛍光顔料のほか、有機系の蛍光顔料を用いることもでき、有機系の蛍光顔料として、例えば、ジアミノスチルベン系染料、フルオレセイン、チオフラビン、エオシン、ローダミンB等を用いることができる。
【0032】
上記の検査具は、伝送路11から出射された光を、ドリル等の削光手段を用いて構造物1に形成した孔20内の上下左右のいずれかの壁面に向けて照射し、その壁面に反射した反射光を棒状レンズ10へ入射させるミラー13と、棒状レンズ10と伝送路11とミラー13とを収納し、ミラー13からの光を出射させ、ミラー13へ反射光を入射させるための窓14を有し、孔20内の1つの壁面、例えば上側壁面21からの距離と、その1つの壁面に対向する他の壁面、例えば下側壁面22からの距離が等しい、一点鎖線で示される中心線上にミラー13が配置されるようにミラー13を支持し、孔20内へ挿入されるチューブ15と、チューブ15内に取り付けられ、その中心線上に棒状レンズ10が配置されるように、その棒状レンズ10および伝送路11を支持する支持部材としての支持リング16とをさらに備えている。
【0033】
ミラー13は、チューブ15の長手方向に対して約45°に傾斜させて固定し、チューブ15をその周方向へ所定角度ほど回転させることにより、孔内の上下左右の壁面を検査することができる。例えば、上側壁面21を検査していて、左の壁面を検査する場合には、左に90°、右の壁面を検査する場合には右に90°回転させることにより、下側壁面22を検査する場合には、180°回転させることにより、各壁面を検査することができる。
【0034】
また、ミラー13は、チューブ15の長手方向に対して傾斜するように配置され、その傾斜角度を変更することができるようになっていてもよい。傾斜角度を変更する方法としては、ミラー13の裏面中央に支持軸を設け、その支持軸を中心として、ミラー面を上側壁面21に向いた位置から下側壁面22に向いた位置へ回転させることにより変更することができる。
【0035】
チューブ15は、挿入方向の先端付近に窓14が設けられ、その窓14を通して光を照射し、反射光を受光することができる。窓14は、視野角を考慮し、適切な大きさ、形状とすることができ、必要に応じて2以上の窓を設けることも可能である。
【0036】
チューブ15は、例えば、ステンレスパイプとすることができ、削孔手段としてドリルを使用して孔を形成する際、そのドリル径が14mmであれば、それよりわずかに小さい外径13.8mmの1/4インチ管を採用することができる。
【0037】
なお、棒状レンズ10と伝送路11は、ステンレスチューブにより被覆され、一体形成されていてもよく、このステンレスチューブを支持リング16により上記の中心線上に支持することができる。支持リング16は、棒状レンズ10の中心軸が、上記の中心線上に位置するように中央に穴が設けられたものとされ、その穴にステンレスチューブを挿嵌させて配設することにより、上記の中心線上に棒状レンズ10の中心軸がくるように棒状レンズ10を固定することができる。
【0038】
図2は、図1に示した検査具の先端部分を拡大して示した断面図である。検査具の先端部分は、チューブ15が中空円筒状ではなく、その一部に平面部分15aを有する形状とされ、その平面部分15aに所定の大きさおよび形状の窓14が形成されている。また、チューブ15の先端は、閉鎖され、チューブ15内に粉塵やレイタンス、削り屑等が入らないようにされている。
【0039】
ミラー13は、この平面部分15aに形成された窓14の下方に、そのミラー面が、チューブ15の長手方向に対して約45°傾斜して配設される。ミラー13は、形成される略円筒状の孔20の中心線上、すなわち孔20の上側壁面21からの距離とその上側壁面21に対向する下側壁面22からの距離とが等しい位置に、ミラー13の中心が位置するように配設される。また、この中心線上に、棒状レンズ10の中心軸が位置するように、棒状レンズ10も配設される。
【0040】
棒状レンズ10は、その外周を覆うように伝送路11が設けられ、その伝送路11の外周をステンレスチューブ17により被覆されている。ステンレスチューブ17は、支持リング16により、上記の棒状レンズ10の中心軸が上記の中心線上に位置するようにチューブ15内に配設される。
【0041】
棒状レンズ10および伝送路11の先端は、ミラー13のミラー面から所定の距離だけ離間しており、伝送路11の先端からは、伝送路11内を伝送した光を出射し、棒状レンズ10の先端には、ミラー13から反射光が入射される。
【0042】
ここで、検査具の使用方法について簡単に説明すると、チューブ15を、構造物1に形成した孔内に挿入し、光源装置12のスイッチを入れ、光源装置12が放出した光を、伝送路11を介してミラー13へ向けて出射し、ミラー13がその光を約90°方向を変えて窓14を介して孔20内の上側壁面21へ照射する。
【0043】
光が照射された上側壁面21は、その画像がミラー13に写し出されるが、このとき、ミラー13には、上側壁面21に反射した反射光が入射され、ミラー13は、その反射光を、約90°方向を変えて棒状レンズ10の先端へ入射する。
【0044】
棒状レンズ10内では、入射された反射光が1/2波長ごとに結像し、1波長を周期とする正弦波状に進む。棒状レンズ10の末端には、接眼レンズを設けることができ、接眼レンズにより所定の大きさに拡大することができる。この接眼レンズを見ることにより、その上側壁面21の画像を見ることができ、検査を行うことができる。
【0045】
検査具は、図1に示す構成に限られるものではなく、図3に示すように、さらに、撮像装置としてのデジタルカメラ等を備えることができる。また、特定の色調のみをデジタル信号としてとらえるRGBセンサを用いることも可能である。
【0046】
撮像装置は、棒状レンズ10に入射された光を受光し、電気信号へ変換する受光手段としてのCCDイメージセンサ30と、変換された電気信号に対し画像処理を行い、画像データを出力する画像処理手段と、画像データに基づき画像を表示する表示手段とを備えることができる。画像処理手段は、メモリ31およびCPU32から構成し、メモリ31に格納されているプログラムをCPU32が読み出し、実行することにより画像処理手段として機能させることができる。表示手段は、液晶ディスプレイ33等とされ、CPU32が処理し、出力した画像データに基づき画像を表示する。
【0047】
CCDイメージセンサ30で変換された電気信号は、アナログ信号であるため、A/Dコンバータを設け、デジタル信号へ変換してCPU32へ送ることができる。ここではCCDイメージセンサ30を例示したが、CMOS(相補性金属酸化膜半導体)イメージセンサであってもよい。
【0048】
CPU32は、A/Dコンバータによりデジタル信号に変換されたデータに対し、補完、色空間変換、ガンマ特性変換等の処理を実行し、JPEGやRAW等のデジタルデータへ変換する。このデジタルデータは、SDカード等の記録媒体に記録することができ、記録媒体を用いて、あるいは撮像装置からケーブルを介して直接PC等へ取り込み、PC等の表示画面に表示させたり、解析のためのデータとしてPC等に格納することも可能である。
【0049】
これまで検査具について詳細に説明してきたが、以下、この検査具を用いて構造物1の検査を行う方法について説明する。ビル、ダム、トンネル、橋、水門等の構造物1は、コンクリート構造物であり、コンクリートは、建築環境の影響を受け、温度や湿度の変化によって伸縮し、ひび割れ2が生じる場合があり、また、酸性雨によって、セメント水和物の化学変化による軟化や破壊が生じる場合がある。このまま放置すると、ひび割れ幅が拡大し、構造物1が破損し、最終的には崩壊してしまう危険性がある。
【0050】
このため、ひび割れ幅等の劣化状況を検査したり、ひび割れ2を修復するために注入材を注入するが、その注入状況を確認するために、この検査具が使用される。
【0051】
図4を参照して、この検査具を用いた検査方法について説明する。構造物1に形成されたひび割れ幅を検査するために、図4(a)に示すように、構造物1の表面にドリル等の削孔手段40を用いて所定径の孔20を形成する。例えば、ドリル径約14mmのハンマードリルを使用し、直径約14mmの孔20を形成することができる。孔20の深さは、検査具のチューブ15が挿入可能な長さとすることができ、例えば50cmとすることができる。
【0052】
次に、図4(b)に示すように、検査具のチューブ15を挿入し、光源装置12のスイッチを入れ、チューブ15内の伝送路11、ミラー13、窓14を介して孔20の上側壁面21に光を照射する。光は、窓14の形状によって異なり、窓14が大きければ、大きく放散され、上側壁面21の広い範囲を照射することができる。しかしながら、その光量は小さくなる。一方、窓14が小さい場合、光が集中して照射され、光量が大きい状態で上側壁面21の狭い範囲を照射する。
【0053】
光が照射された上側壁面21は、その形状がミラー13に写り、棒状レンズ10を通してその画像が伝送されることになるが、詳細には、上側壁面21に反射した反射光がミラー13を介して棒状レンズ10へ入射される。
【0054】
棒状レンズ10の末端に、接眼レンズ、撮像装置が設けられている場合、その反射光は、撮像装置が備える受光手段で電気信号に変換された後、画像処理され、表示手段に画像として表示される。
【0055】
孔20内の検査は、上側壁面21に限らず、下側壁面22や左右壁面等についても行う必要があることから、チューブ15を孔20に挿入した状態のまま、チューブ15を回転させることによりそれらの壁面についても同様の画像を表示させることができる。
【0056】
ひび割れ幅等の劣化状況の検査では、孔20の内部が明るい方が好ましいことから、光源装置12には、電球、蛍光灯、白色LED等を光源としたペンライトを用いることができる。一方、注入材の注入状況の確認では、注入材の注入が不完全な箇所があると、その箇所から破損を生じるので、不完全な箇所がないように確認しつつ注入を行うことができるように、蛍光剤を含む注入材が使用されている。この場合、光源装置12には、蛍光剤に反応する紫外線LEDを光源した光源装置を用いることができる。
【0057】
上記のようにしてひび割れ2の深さ、幅等を確認した後、これらの情報から、概略の注入材の注入量を把握することができる。この注入量の把握は、工期の決定や積算において重要なものである。
【0058】
次に、注入材の注入を行い、その注入状況の確認を行う。注入材の注入工法として、ビックス工法を採用して行うことができる。具体的には、まず、ひび割れ2に沿ってディスクサンダーやワイヤブラシ等で粉塵やレイタンスを除去して表面処理を行う。次に、注入材を注入するためのインジェクタを固定する固定具を、表面処理された構造物1の表面に貼付する等して取り付け、シール材によりひび割れ2をシールする。
【0059】
その後、蛍光剤を含む注入材が入ったインジェクタを固定具に取り付け、蛍光剤を含む注入材を圧入することにより、ひび割れ2を生じた箇所に、蛍光剤を含む注入材を注入する。インジェクタには、ゴムチューブが設けられており、このゴムチューブがインジェクタの注入量制限筒の内面いっぱいに膨らんだら注入を止め、次の注入口に移り、同様の注入を行うことができる。注入後の硬化養生は、ゴムチューブに触れるだけで硬化したか否かを確認することができ、硬化していれば、固定具を取り除き、シールされた部分をディスクサンダー等で平坦にして、ひび割れ2の修復を完了する。
【0060】
上記のように、ひび割れ2に直接注入材を注入することもできるが、先に形成した孔20を利用して注入材を注入することも可能である。この場合、ひび割れ2の深い部分から注入するので、より深くまで注入材を行き渡らせることができ、未充填箇所を減少させることができる。
【0061】
この注入材の注入状況を確認するために、まず、構造物1に形成されたひび割れ2が延びる方向に対し傾斜した孔を別途、削孔手段40により形成する。次に、形成された孔内にチューブ15を挿入し、光源装置12にスイッチを入れ、撮像装置の表示手段にその画像を表示させる。
【0062】
この孔は、表面に生じているひび割れ箇所の周囲のひび割れ2のない箇所から、注入状況を確認することができるように、ひび割れ2が延びる方向に対して傾斜し、構造物1の深さ方向に延びたひび割れ2と交差するように形成される。
【0063】
注入材の注入が開始されると、ひび割れ2が生じた部分の内部へと注入材が時間をかけてゆっくり浸透し、孔の上下左右の壁面の少なくとも一部にひび割れ2を有するため、そのひび割れ2を確認することで、注入状況を確認することができる。具体的には、紫外線LEDを光源とした光源装置に取り替え、検査具から紫外線を照射し、そのひび割れ2に注入された注入材に含まれる蛍光剤が紫外線を吸収し、可視光線を放出して、そのひび割れ2が蛍光色に光ることを確認することにより、注入材が適切に注入されたことを確認することができる。
【0064】
このとき、ひび割れ2が蛍光色に光らず、注入材が適切に注入されていないことを確認した場合、その孔を注入孔として利用し、その孔から注入材を注入することができる。これにより、未充填のひび割れ2に確実に注入することができ、また、より深い部分にまで注入材を注入することができる。その後は、上記と同様にして、再び別途孔を形成し、検査具で注入材が適切に注入されたか否かを確認することができる。
【0065】
本発明は、コア抜きに比べて小径の孔を形成し、その孔を利用して検査および確認、さらには注入材の注入を行うので、損傷の程度が小さく、簡易に削孔することができる。このことは、孔を多数形成することができることにつながり、注入材を確認する位置が増加することに伴う検査精度の向上や注入管理の精度向上を図ることができる。また、孔径が小さいことから、検査および確認が終了した後のその孔を埋めるための補修が容易であり、補修材の量も少なくて済むというメリットがある。
【0066】
また、構造物1の色調と大きく異なる色調の注入材を用いることにより、これまで誤認しやすかった注入材の位置を正確に特定することができる。そして、未充填であることが確認された場合、その孔を注入孔として利用することができ、より深い部分にまで注入材を注入することが可能となる。
【0067】
これまで本発明の検査具およびこの検査具を用いた検査方法について図面に示した実施形態を参照しながら詳細に説明してきたが、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、他の実施形態や、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0068】
1…構造物、2…ひび割れ、10…棒状レンズ、11…伝送路、12…光源装置、13…ミラー、14…窓、15…チューブ、15a…平面部分、16…支持リング、17…ステンレスチューブ、20…孔、21…上側壁面、22…下側壁面、30…CCDイメージセンサ、31…メモリ、32…CPU、33…液晶ディスプレイ、40…削孔手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物の内部を検査するための検査具であって、
棒状レンズまたは一列に配列する複数のレンズと、
前記棒状レンズまたは前記一列に配列する複数のレンズの外周を覆うように設けられ、光を伝送する伝送路と、
前記伝送路へ光を入力する光源装置と、
前記伝送路から出射された光を孔内の壁面に向けて照射し、該壁面からの反射光を前記棒状レンズまたは前記一列に配列する複数のレンズへ入射させるミラーと、
前記棒状レンズまたは一列に配列する複数のレンズと前記伝送路と前記ミラーとを収納し、前記ミラーからの光を出射させ、該ミラーへ反射光を入射させるための窓を有し、前記孔内の1つの壁面からの距離と該1つの壁面に対向する他の壁面からの距離が等しい中心線上に前記ミラーが配置されるように該ミラーを支持し、前記孔内へ挿入されるチューブと、
前記チューブ内に取り付けられ、前記中心線上に前記棒状レンズまたは前記一列に配列する複数のレンズが配置されるように該棒状レンズまたは該一列に配列する複数のレンズおよび前記伝送路を支持する支持部材とを備える、検査具。
【請求項2】
前記光源装置は、電球、蛍光灯または発光ダイオード(LED)のいずれかを備え、検査内容に応じて交換可能とされる、請求項1に記載の検査具。
【請求項3】
前記検査具は、前記棒状レンズまたは一列に配列する複数のレンズに入射された光を受光し、電気信号へ変換する受光手段と、変換された電気信号に対し画像処理を行い、画像データを出力する画像処理手段と、画像データに基づき画像を表示する表示手段とを備える撮像装置をさらに含む、請求項1または2に記載の検査具。
【請求項4】
構造物の内部を検査するための検査方法であって、
削孔手段により前記構造物に孔を形成するステップと、
形成された前記孔内に、検査具が備える、棒状レンズまたは一列に配列する複数のレンズと伝送路とミラーとを収納し、前記ミラーからの光を出射させ、該ミラーへ反射光を入射させるための窓を有し、前記孔内の1つの壁面からの距離と該1つの壁面に対向する他の壁面からの距離が等しい中心線上に前記ミラーが配置されるように該ミラーを支持するチューブを挿入するステップと、
前記検査具が備える光源装置から前記チューブ内の前記伝送路および前記ミラーを介して前記孔の壁面に向けて光を照射するステップと、
前記壁面に反射した反射光を前記ミラーおよび支持部材により前記中心線上に配置された前記棒状レンズまたは一列に配列する複数のレンズを介して受光し、画像として表示するステップと、
前記孔の他の壁面の画像を表示させるために、前記チューブを回転させるステップとを含む、検査方法。
【請求項5】
前記構造物に形成されたひび割れまたは前記構造物に形成した前記孔から、蛍光剤を含む注入材を注入するステップを含む、請求項4に記載の検査方法。
【請求項6】
前記注入材の注入状況を確認するために、前記構造物に形成された前記ひび割れが延びる方向に対し傾斜した孔を前記削孔手段により形成するステップをさらに含む、請求項5に記載の検査方法。
【請求項7】
さらに、光源装置を取り替えるステップを含み、前記取り替えるステップ後、前記挿入するステップにおいて前記傾斜した孔に前記チューブを挿入し、前記チューブの挿入後、前記照射するステップと、前記表示するステップと、前記回転させるステップとを実行する、請求項6に記載の検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−185629(P2011−185629A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48638(P2010−48638)
【出願日】平成22年3月5日(2010.3.5)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000195971)西松建設株式会社 (329)
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】