検査装置および検査方法
【課題】 異常(不良品)と判定された検査対象物が、その具体的な異常の種類まで特定することができる検査装置を提供すること
【解決手段】 検査対象物から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置である。検査装置の異常検出部4は、振動レベルに基づいて検査対象物が、正常か異常かの判定を行なう第1階層判定部11と、第1階層判定部で異常と判定された場合に、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に異常原因が共振系異常であると判定する第2階層判定部12と、第2階層判定部にて他の異常原因があると判定された場合に、周波数軸成分に基づいて異常原因を特定する第3階層判定部13と、各判定部で判定した判定結果を出力する出力手段とを備えた。このように順序立てて特徴量に基づき判定していくことで、少ないリソースで短時間で異常原因を求めることができる。
【解決手段】 検査対象物から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置である。検査装置の異常検出部4は、振動レベルに基づいて検査対象物が、正常か異常かの判定を行なう第1階層判定部11と、第1階層判定部で異常と判定された場合に、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に異常原因が共振系異常であると判定する第2階層判定部12と、第2階層判定部にて他の異常原因があると判定された場合に、周波数軸成分に基づいて異常原因を特定する第3階層判定部13と、各判定部で判定した判定結果を出力する出力手段とを備えた。このように順序立てて特徴量に基づき判定していくことで、少ないリソースで短時間で異常原因を求めることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、検査対象物から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置および検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電製品などには、モータ等の駆動系部品が組み込まれた回転機器が非常に多く用いられている。例えば自動車を例にとってみると、エンジン,パワーステアリング,パワーシート,ミッションその他の至る所に回転機器が実装されている。また、家電製品では、冷蔵庫,エアコン,洗濯機その他各種の製品がある。そして、係る回転機器が実際に稼働すると、モータ等の回転に伴って音が発生する。
【0003】
係る音は、正常な動作に伴い必然的に発生するものもあれば、不良(故障)に伴い発生する音もある。その不良に伴う異常音の一例としては、ベアリングの異常,内部の異常接触,アンバランス,異物混入などがある。より具体的には、ギア1回転について1度の頻度で発生するギア欠け,異物かみ込み,スポット傷,モータ内部の回転部と固定部が回転中の一瞬だけこすれ合うような異常音がある。また、人が不快と感じる音としては、例えば人間が聞こえる20Hzから20kHzの中で様々な音があり、例えば約15kHz程度のものがある。そして、係る所定の周波数成分の音が発生している場合も異常音となる。もちろん、異常音はこの周波数に限られない。
【0004】
係る不良に伴う音は、不快であるばかりでなく、さらなる故障を発生させるおそれもある。そこで、それら各製品に対する品質保証を目的とし、生産工場においては、通常検査員による聴覚や触覚などの五感に頼った「官能検査」を行ない、異常音の有無の判断を行っている。具体的には、耳で聞いたり、手で触って振動を確認したりすることによって行っている。なお、官能検査は、官能検査用語 JIS Z8144により定義されている。
【0005】
ところで、係る検査員の五感に頼った官能検査では、熟練した技術を要するばかりでなく、判定結果に個人差や時間による変化などのばらつきが大きい。さらには、判定結果のデータ化,数値化が難しく管理も困難となるという問題がある。そこで、係る問題を解決するため、駆動系部品を含む製品の異常を検査する検査装置として、定量的かつ明確な基準による安定した検査を目的とした異音検査装置がある。
【0006】
このように検査対象から得られた振動波形から正常/異常を判別する検査(いわゆる異音検査)を自動的に行なう異音検査装置としては、従来、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1に開示された発明は、時間軸波形から得られた特徴量と周波数波形から得られた特徴量とを用いて検査対象の正常/異常を総合的に判別するものである。
【0007】
このように時間軸波形と周波数軸波形のように異なる軸から得られる波形に基づいて総合的に異音検査をするのは以下の理由からである。すなわち、それ以前に開発されていた時間軸波形から得られた特徴量だけの異音検査や、周波数軸波形から得られた特徴量だけの異音検査ではすべての異音を検出することが難しい。それは、それぞれの特徴量には得意・不得意があるからである。複数の特徴量を用いる異音検査は、単一の特徴量を用いる異音検査に比べて高い判別能力を有する。
【0008】
つまり、そもそも駆動系部品は、回転や往復運動を繰り返す機構で成り立っており、その機構にわずかな機械的異常があれば、それに起因した異常成分(良品から発せられる正常成分とは何かが違う成分)が必ず振動や音として周囲に伝達される。ところが、異音検査における異常成分は、正常成分と比較しても振動や音の波形に含まれる、わずかな違いでしかなく、熟練した人の耳であれば聞き分けられるような違いがあっても、波形解析してみるとノイズに埋もれてうまく検知することができないことがあった。これは、従前の異音検査が時間軸波形から得られた特徴量だけや、周波数軸波形から得られた特徴量だけの判別、しかも単一の特徴量のみに基づいて行われる判別であったからである。そこで、上記の特許文献1では、複数の軸から得られる複数の特徴量に基づいて総合的に正常/異常を判断するようにしている。そして、この特許文献1に開示された発明では、判別ルールとして、ファジィルールを用い、ファジィ推論により複数の特徴量に基づく正常/異常の判断を行なうようにしている。
【0009】
特許文献1に開示された異音検査に判別ルールとして用いるファジィ推論は、ニューラルネットなど、その他の判別モデルと比較して、人が判別ルールを理解しやすいという利点がある。例えばニューラルネットとは、ニューロンモデルを互いに多数結合させて接続しネットワーク状にしたものであり、どのような判別をしてそのような結果に至ったのか、その根拠が難解で感覚的に理解しがたい。感覚的に理解できないものを人は信用しにくい。それが品質の要となる検査装置であるならなおさらである。
【0010】
これに対して、ファジィ推論は、あいまいさを表現するメンバシップ関数を用いており、ファジィ推論を用いた判別ルールは、判別の根拠と判別結果を対応づけて「IF 特徴量A=大 THEN 異常」のように人に理解しやすい表現で示すことが出来る。このように感覚的に理解できるものは説明もしやすく、品質ソリューションを事業とする場合に、検査装置の検査ロジックとして判別ルールを説明しやすいため、その説明を受けた顧客にとっても納得する度合いが高いので安心して採用できるという利点がある。
【0011】
また、新規に異音検査装置を導入しようとする顧客は、それまで熟練者(官能検査員)の耳による官能検査を行っていることも多く、官能検査員は「異音なきこと」などの記述が一般的な検査基準に対して独自の判定基準やノウハウ、知見をすでに有している。このような場合には、異音検査装置は官能検査員がこれまで行っていた官能検査の置き換えとなるので、官能検査員の持つ判定基準やノウハウ、知見との整合性が自ずと求められるのが現状である。係る場合にも、作成した判別ルールと、それまでの官能検査員がもっていた知識(検査基準)との整合性を説明しやすいということは、顧客に対して説明責任を負うソリューション提供者にとってファジィ推論による説明のしやすさは事業を進める上で大きな利点となっている。
【0012】
ところで、上述した官能検査は、生産現場において最終製品あるいは中間製品に対して良否判定を行ない、不良品と判定されたものを廃棄し、良品のみを出荷することに利用される。
【特許文献1】特許第3484665号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の官能検査を行なう検査装置は、良品か不良品かを判定することができるにすぎない。そのため、不良品と判定されたものは、基本的には廃棄することになる。また、不良品と判定されたものに対しては、手直しをすることで良品にすることが可能となるが、そのためには、まず不良の原因を調べる必要があり、煩雑である。
【0014】
また、エンジンに代表される回転体を例にとっても、発生する異常の種類は多種多様に存在する。そして、実際の検査装置としてのリソースにはハードウェア的制約があるため、限られたリソースを用いる必要がある。そのため、たとえば特許文献1に開示された技術を用いて実用的な時間内で不良の原因を求めることは困難である。
この発明は、異常(不良品)と判定された検査対象物が、その具体的な異常の種類まで特定することができる検査装置および検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した目的を達成するため、本発明に係る検査装置は、検査対象物から取得した波形信号(センサからリアルタイムで取得したものでも良いし、過去に取得し記憶したデータベースから取得したものでも良い)に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置であって、前記検査対象物が、正常か異常かの判定を行なう第1階層判定部と、その第1階層判定部で異常と判定された場合に、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に異常原因が共振系異常であると判定する第2階層判定部と、前記各判定部で判定した判定結果を出力する出力手段と、を備えて構成した。係る構成をとることで、少なくとも異常原因が共振系異常の場合には、単に異常(不良)と判定されるだけでなく、その原因が分かるので、それに対する対処(修理・廃棄の可否等)が採りやすくなる。
【0016】
そして、前記第2階層判定部は、衝撃成分が大きく、振幅変動が小さい場合には、正常と判定する機能を備えるとよい。このようにすると、第1階層判定部にて異常と誤判定されたものも、正常と判定することができる。つまり、第1階層判定部では、不良品を誤って正常と誤判定することがないように、判定条件を厳しく設定することで、良品のみを通過させることができる。そして、良品が誤って異常と判定されたものも、この第2階層判定部にて正常と正しく判定されることができるので、歩留まりの定価を抑制できる。
【0017】
また、前記第2階層判定部は、衝撃成分が大きく、かつ振幅変動が小さい場合に他の異常原因があると判定する機能と、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に他の異常原因があると判定する機能と、の少なくとも一方の機能を備え、その第2階層判定部にて他の異常原因があると判定された場合に、周波数軸成分に基づいて異常原因を特定する第3階層判定部を、備えることができる。
【0018】
そして、第3階層判定部の具体的な異常原因の特定機能は、各種のものがあるが、例えば、前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが大きい場合に異常原因が金属接触であると判定する機能を備えることができる。また、前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、高調波と分周波が共に大きい場合に異常原因がゆるみ・ガタであると判定する機能を備えることもできる。また、前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、分周波のみ大きい場合に異常原因がアンバランスであると判定する機能を備えることもできる。さらに、前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、高調波のみ大きい場合に異常原因がミスアライメントであると判定する機能を備えることもできる。
また、本発明では、前記各階層判定部で行なう判定処理に使用する特徴量と判定ルールとを、それぞれ、各階層と関連づけて記憶する記憶手段を備えることができる。
【0019】
本発明に係る検査方法は、検査対象物から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、前記検査装置は、前記検査対象物が、正常か異常かの判定を行なう第1階層判定処理を実行し、その実行結果が正常な場合には、その旨を出力装置に出力し、前記第1階層判定処理を実行して異常と判定された場合に、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に異常原因が共振系異常であると判定する第2階層判定処理を実行し、少なくとも異常原因が特定された場合にその異常原因を出力装置に出力する。
【0020】
また、前記検査装置は、前記第2階層判定処理で異常原因が特定できない場合に、周波数軸成分に基づいて異常原因を特定する第3階層判定処理を実行し、その第3階層判定処理により求めた異常原因を出力装置に出力するとよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、検査対象物に対する検査結果として、単純に異常か否かの良否判定に留まらず、異常(不良品)と判定された検査対象物が、その具体的な異常の種類まで特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明に係る装置の好適な一実施の形態を示している。図1に示すように、検査システムは、検査対象物に接触・近接配置し、検査対象物から発生する振動や音を検出する加速度センサやマイク等のセンサ1と、そのセンサ1の出力(アナログデータ)をデジタルデータに変換するA/D変換器2と、A/D変換器2でデジタルデータに変換された波形データ(センシングデータ)に対し、所定の前処理を行なう前処理部3と、その前処理部3で前処理されたデータに基づき、良品/不良品の判定等を行なう異常検出部4と、その異常検出部4における検出結果を出力する情報出力装置7と、異常検出部4にて判定処理を行なう際に参照するデータを格納する階層的特徴量データベース5と、診断ルール記憶データベース6と、を備えている。センサ1の出力信号のレベルが小さい場合、アンプを設け、増幅した値をA/D変換器2に与えることもある。
【0023】
前処理部3と、異常検出部4と、階層的特徴量データベース5と、診断ルール記憶データベース6とは、たとえばパソコン9により構成される。より具体的には、前処理部3と、異常検出部4とが、アプリケーションプログラムとしてパソコン9にインストールすることで実現でき、階層的特徴量データベース5と、診断ルール記憶データベース6とは、パソコン9のハードディスクその他の記憶装置に、所定のデータを格納することで実現できる。また、情報出力装置7は、パソコン9のモニタにより実現することができる。
【0024】
前処理部3は、取得した振動データから特徴量を抽出するために必要な前処理を実行するもので、具体的には、波形フィルタや波形変換(FFT、包絡線処理など)を行ない、所望の周波数成分を取り出すものである。これにより、時間軸波形と、周波数軸は径が生成される。
【0025】
異常検出部4は、前処理したデータから特徴量を抽出し、その抽出した特徴量のレベルに従い、良否判定を行なうとともに、不良品と判断した場合には、その不良となった異常原因を特定する機能を持つ。この異常検出部4の詳細は、後述する。
【0026】
階層的特徴量データベース5は、例えば図2に示すようなデータ構造をとっている。すなわち、この階層特徴量データベース5のデータ構造は、特徴量のラベル,階層番号および演算方法(具体的な図示を省略)を関連付けたテーブル構造からなる。
【0027】
すなわち、図3に示すように、異常検出部4は、第1特徴量セットに基づいて判定処理を行なう第1階層判定部10と、第2特徴量セットに基づいて判定処理を行なう第2階層判定部11と、第3特徴量セットに基づいて判定処理を行なう第3階層判定部12とを備えている。詳細な説明は後述するが、第1階層判定部10は正常か異常かを判定別し、第2階層判定部11と第3階層判定部12は、第1階層判定部10で異常と判定された場合に、具体的な異常の種類を特定するものである。
【0028】
つまり、例えばエンジンに代表される回転体を例にとっても、発生する異常の種類は実に様々であり、時間軸波形から得られた特徴量と周波数波形から得られた特徴量とをうまく組合せないと処理時間が膨大になるだけになってしまうばかりか、結果として異常原因を特定できないおそれもある。そこで、本実施の形態では、必要な順番で特徴量を演算することで、限られたリソースからなる装置を用い、実用的な時間(短時間)で異常原因を特定することができる。
【0029】
このように、本実施の形態の異常検出部4は、段階的に判定を行なわせるようにした。当然のことながら、各階層で行なう判定内容が異なるため、各判定を行なうのに適した特徴量も異なる。そこで、階層的特徴量データベース5は、各特徴量の内容と、その特徴量がどの階層の判定で用いられるかを特定する情報を格納するものである。つまり、階層番号が、どの階層判定部で行なうかを特定する情報であり、演算方法は、各特徴量の具体的な算出方法に関する情報である。詳細は後述する。
【0030】
診断ルール記憶データベース6は、上述した各階層判定部10から12に対応づけられた特徴量に基づき、各階層判定部10から12が良否判定その他の判定処理を行なう際に使用するルールを格納するものである。詳細は後述する。
【0031】
ここで、各特徴量と、それに基づいて判定できる異常原因について説明する。まず、不良品と検出する場合の異常の種類としては、大別すると構造系異常(全体欠陥)と、共振系異常(局所欠陥)と、摩耗系異常とがある。構造系異常(全体欠陥)としては、「アンバランス」,「ミスアライメント」,「ゆるみ、たが」などがある。共振系異常(局所欠陥)としては、「軸受(ベアリング)異常」,「歯車(ギア)異常」などがある。摩耗形状としては、「金属接触」がある。
【0032】
<アンバランス>
アンバランスは、回転軸に対して質量が均一でない状態のことをいう。アンバランスを生じる原因は、ロータの偏心、材質の不均質、たわみなど多くある。また、経年変化による腐食や摩耗、付着物などにより、アンバランスが発生することがある。研削盤などでは、ドレッサや研削によってアンバランスが生じる。係るアンバランスの状態では、遠心力によって力が加わり、回転軸に垂直な振動(振幅変動)が起こることがあり、ベアリング・ロータ・保持構造物等の破損原因となる。例えば、エンジンの場合における想定原因としては、カムシャフトの曲がり,シャフトの曲がり,シャフトの強度不足,クランクのバランス,ピストン同士のバランス,ピストンの汚れ,コンロッドの汚れ,材質不均一,加工精度異常などが考えられる。
【0033】
アンバランスを生じた場合、回転数が低下したり、振動変位量が低下(共振領域を除く)したりする現象を生じる。そして、振動レベルが上昇する。その上昇量は付着量に応じて変化する。従って、低周波(数Hz〜1kHz)成分の存在と、回転周波数のパワー増大の有無に着目することで、アンバランスを生じているか否かが判断できる。
【0034】
図4は、アンバランスを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示している。低周波の混合波形であり、高調波振動が存在しないことで後述するミスアライメントと識別できる。このアンバランスは、もっとも良く発生する現象である。
【0035】
<ミスアライメント>
2軸間シャフトラインの中心が直接で結ばれていることをアライメントといい、ミスアライメントは、複数の回転体の回転軸の中心がずれている状態のことを言う。想定原因としては、設備設置の地盤変化,カップリングのゆるみ,軸受の傾き,軸受の磨耗,ギアの軸ずれなどが考えられる。アキシャル方向に振動が生じやすいという特徴があるため、アキシャル方向の振動がラジアル方向の振動の50%以上を生じていれば、ミスアライメントと推定できる。また、ミスアライメントを生じている場合の振動波形として発生する周波数は、通常の継手形式では、回転数成分(fr)が主体であるが、激しくなると高調波(2fr、3fr)が発生するという性質を有する。但し、位相は、常に一定角度(同期)であり、変化は見られない。振動形態としては、回転の低下とは無関係に、変位量は一定であったり増加したりするが、0に漸近することはない。従って、注目すべき波形の特徴(注目すべき観点)としては、低周波(数Hz〜1kHz)成分(少ない),振幅確率密度関数,回転周波数の高調波のパワー増大等がある。また、アンバランスでは、回転数の2乗に比例して振幅が増加するが、ミスアライメントでは回転数にあまり関係なく、振幅がほぼ一定という特徴があるため、係る特徴に着目することで、両者を識別できる。
【0036】
図5は、ミスアライメントを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示している。図から明らかなように、高調波の混合波形であり、高調波振動が存在することでアンバランスと判断できる。なお、このミスアライメントは、アンバランスに次ぎ頻繁に発生する異常現象である。
【0037】
<ゆるみ・ガタ>
ゆるみ・ガタとは、設置時のボルトのゆるみや締め付け力の不足、あるいは長時間の運転によるボルトのゆるみで生じる振動である。たとえば、図6に示すように、検査対象である回転機50を検査台51の上に、配置するとともに、ボルト・ナット52で固定する。ボルト・ナット52にゆるみ・ガタが存在する(aのボルト・ナット52)と、その部分で回転機50が移動(左右上下)して、固有振動数が無周期に変化を起こす。また、回転数の増減により、振動の変位が突然、増加/減少する躍動現象がみられる。これにより固有振動が変化し、基本周波数の高調波(2、3)および分数調和振動(1/2、1/3)の振動が発生する。従って、注目すべき波形の特徴(注目すべき観点)としては、低周波〜高周波(共に存在する),振幅確率密度関数,全体的な振動レベル増大等がある。
【0038】
図7は、ゆるみ・ガタを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示している。図から明らかなように低周波と高調波の混合波形であるので、低周波と、高調波振動の両方が存在することで判断できる。
【0039】
<共振系異常の局所欠陥>
共振系異常の局所欠陥は、異物の混入,疲労破損,過負荷などの局所的に異常を生じることで、回転体が1回転する都度、当該異常を生じている局所部分にきたときに衝撃振動が生じる(定常振動に定期的な衝撃波形が重畳される)。想定原因としては、ギアの破損,カムの破損,バルブの破損,バルブとヘッドの当たり,軸受の破損(傷)などがある。例えば、歯車の歯の一部が破損している場合、破損した歯が接触する都度衝撃が出る。このように、局所欠陥の場合には、軸受・歯車の損傷による振動で、衝撃振動として捉えることができる。従って、注目すべき波形の特徴(注目すべき観点)としては、中〜高周波(1kHz〜),極値密度関数,包絡線波形の周期,ベアリング特徴周波数,かみ合い周波数のサイドバンド等がある。
【0040】
図8は、共振系異常(ギアの破損・異物付着)を生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示している。図から明らかなように、破損した歯が接触する都度衝撃が出る。従って、定常振動に定期的な衝撃波形が重畳される。
【0041】
<摩耗系異常>
摩耗系異常の一例である金属接触による振動は、金属同士の摩擦(歯車、シリンダとピストン……)により生じる。金属接触が生じると、きしみ音や衝撃が発生し、回転数に応じた金属同士の擦れによる振動が発生する。係る金属接触がおこると、シリンダ、ピストン、歯車の磨耗や破損につながる。金属接触の原因は、部品の精度、部品の組合せ、磨耗、潤滑油の不足などであり、エンジンにおける想定原因は、ピストンとシリンダの擦れ,カムの傷,ギアのかみ合わせ,オイル切れなどがある。従って、注目すべき波形の特徴(注目すべき観点)としては、高周波(10kHz〜),衝撃成分等がある。図9は、金属接触を生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示している。図から明らかなように、回転数に応じた金属同士の擦れによる振動が発生している。
【0042】
次に、上述した特徴量を用いた各階層判定部の判定処理の原理並びに具体的な処理を説明する。まず、第1階層判定部10は、正常/異常を判別するものである。この第1階層判定部10で使用する第1の特徴量セットでは、振動レベルを見るものである。何らかの異常が発生した場合には、その異常原因の如何に関係なく振動レベルが大きくなる傾向があるため、係る第1の特徴量セットを用いて、異常の有無を判断できる。図10(a)は、良品に基づく正常波形の一例を示しており、図10(b)は、不良品に基づく異常波形の一例を示している。図からも明らかなように、異常時には何らかの外的要因が回転のエネルギー以外に加わり、振動の振幅やパワーが大きくなる。そこで、第1階層判定部10は、波形の定性的として「振動レベル」が大きくなることに着目し、具体的な特徴量としては、振動の振幅(実効値)とパワー(一定期間のパワーの総和)を用いた。これら両特徴量は、下記式に基づいて算出する。振動の振幅が小さい場合には、正常と判別するルールとした。
【数1】
【0043】
より具体的には、第1階層判定部10は、図11に示すフローチャートを実行する機能を有する。つまり、検査対象から取得し、前処理を経た波形信号に対し、振動ベルを求め(S1)、振動レベルが小さい場合には、正常と判断し、大きい場合には、異常と判断するようにした。ここで本実施の形態では、上述したように振動レベルの大小を判定するための特徴量として、振動の振幅(実効値)と、パワーの2つを用いた。そこで、この分岐判断処理ステップS2における判定処理は、両特徴量がいずれも「大」の場合にのみ、判断結果がYesとなり、この第1階層判定部10における判定結果が「異常」となる。換言すると、両特徴量の少なくとも一方が「小」の場合にNoとなり、正常判定がされる。正常判定がされた場合には、今回の検査対象物は良品であるため、異常検出部4における今回の判定処理は終了し、結果(良品)を出力する。
【0044】
処理ステップS2における分岐判断であるが、単純にある設定した閾値を超えたか否かにより判定を行なうことができる。この場合には、係る閾値が診断ルール記憶データベース6に設定される。また、そのように閾値と大小関係を単純に比較するのではなく、具体的な図示は省略するが、所定形状のメンバシップ関数を使用し、ファジィ推論により異常か否か(不良/良品)の判定を行なうようにしてもよい。この場合のファジィルールとしては、例えば、
If 振動の実効値=大 AND 振動のパワー=大 Then 異常
【0045】
のようになる。係る場合、このファジィルールや、メンバシップ関数、さらには、最終的な適合度に基づき異常か否かを判断する際の値などが、第1階層判定用の診断ルールとして診断ルール記憶データベース6に格納される。そして、第1階層判定部10は、階層的特徴量データベース5に格納された第1階層用の特徴量と、診断ルール記憶データベース6に格納された第1階層用のルールに基づき、与えられた波形データ(前処理済み)に対して所定の演算処理を行ない、良否判定を行なう。
【0046】
第2階層判定部11は、異常原因のうちのベアリング異常・歯車異常等の共振系異常の局所欠陥の有無を判別する。そして、この第2階層判定部11で使用する第2の特徴量セットでは、衝撃成分、振動変動、中心偏りを見る。つまり、ベアリング/ギア異常では、破損個所や異物がぶつかることで、衝撃成分が大きくなるが、振動変動、中心偏りはあまりないため、それらの特徴量の大小に基づいて、ベアリング/ギア異常が判別できる。
【0047】
具体的には、第2階層判定部11は、図12に示すフローチャートを実行する機能を有する。その概略を説明すると、第1階層判定部10で異常と判定された信号波形に対し、衝撃成分を求め(S11)、その求めた衝撃成分が大きいか否かを判断する(S12)。そして、衝撃成分が小さい場合(S12の分岐判断でNo)には、振幅変動を求め(S13)、求めた振幅変動が大きいか否かを判断する(S14)。そして、振幅変動が小さい場合(S14の分岐判断でNo)の場合には正常と判定し、その判定結果(良品)を出力する。
振幅変動が大きい場合(S14の分岐判断でYes)、第2階層判定部11で検出するベアリング異常・ギア異常ではないと判定し、第3階層判定部12の判定に移行する。
【0048】
上述したように、第1階層判定部10で異常と判定された場合でも、この第2階層判定部11で正常と判定される(S14でNo)ようにしている。すなわち、振動レベルが大きくても、衝撃成分・振幅変動が小さければ正常と判断している。これは、振動レベルだけで完全に、異常と区別することが難しいと考えられるからである。そこで、振動レベルでは一部の正常品も含むことを許容して多めに異常となるように設定し(グレーゾーンが多い)、衝撃成分・振幅変動を含めることで、より精度良く異常と区別している。換言すると、第1階層判定部10で正常判定とする基準を厳しくし、異常なものを正常と誤判定することがないようにしている。
【0049】
一方、衝撃成分が大きく、処理ステップS12の分岐判断でYesとなった場合、振動波形の中心偏りを求め(S15)、その求めた中心偏りが大きいか否かを判断する(S16)。そして、中心偏りが小さい場合(S16でNo)には、異常原因は、ベアリング異常・ギア異常と判定する。この判定結果(異常原因)は、情報出力装置7に出力される。また、中心偏りが大きい場合には、第2階層判定部11で検出するベアリング異常・ギア異常ではないと判定し、第3階層判定部12の判定に移行する。
【0050】
次に、上述した第2階層判定部11における各処理の具体的な処理・機能を説明する。衝撃成分が大きい場合には、部品同士の当たりが大きいと考えられる。そして、衝撃成分を実際に求める際に有効な特徴量は、閾値以上のピークの数およびピーク値の総和である。すなわち、図13に示すように、この異常原因の場合、部品接触が生じるため、それに伴い発生するピーク数が大きくなるからである。「ピーク値の総和」と「ピーク数」は、それぞれ下記式に基づいて算出することができる。そして、下記式に基づいて算出された各特徴量の各値が共に大きい場合に、衝撃成分が「大」と判定するルールとした。換言すると、少なくとも一方の特徴量の値が小さい場合には、衝撃成分は「小」と判定するようにした。つまり、衝撃成分が小さいということは、部品同士の当たりが小さいと推定でき、逆に衝撃成分が大きいということは、部品同士の当たりが大きいと推定できるからである。そして、部品同士の当たりが大きく出る異常は、ベアリング・ギア異常、金属接触の可能性がある。
【数2】
【0051】
処理ステップS12における分岐判断であるが、これも各特徴量の大小判定を単純にある設定した閾値を超えたか否かにより判定を行なうことができる。この場合には、係る閾値が診断ルール記憶データベース6に設定される。また、そのように閾値と大小関係を単純に比較するのではなく、図示省略するメンバシップ関数を使用し、ファジィ推論により対処可能か否かの判定を行なうようにしてもよい。この場合のファジィルールとしては、例えば、
If ピーク値総和=大 AND ピーク数=大
Then ベアリング異常等のおそれあり
【0052】
のようになる。係る場合、このファジィルールや、メンバシップ関数、さらには、最終的な適合度に基づき異常か否かを判断する際の値などが、第2階層判定用の診断ルールとして診断ルール記憶データベース6に格納される。特に具体的な記載を省略するが、この第2階層判定部11で行なう他の分岐判断(振幅変動,中心偏りの大/小)についても、上記と同様に、ファジィ推論を使用しても良いし、使用しなくても良い。
【0053】
<振幅変動について>
衝撃成分が小さい場合、少なくとも第2階層判定部11で検出するベアリング異常・ギア異常でないことがわかる。つまり、第3階層判定部12で異常原因を特定すべきグループに属するものか、本来は良品(正常)であるが第1階層判定部10では異常と判定されたグループに属するもののいずれかである。
【0054】
一方、何らかの異常が起こった場合には、振幅の変化が起こる。そこで、概要でも説明したとおり、処理ステップS14にて振幅変動が大きいか否かを判断し、検査対象物が上記のどちらのグループに属するものかを判断するようにした。つまり、振幅変動が大きい場合(S14でYes)には、何かしらの異常があると判定し、第3階層判定部12における異常原因判定処理に移行するようにし、振幅変動が小さい場合(S14でNo)には、正常と判定するようにした。
【0055】
具体的には、振幅変動では振幅の変化の度合いを捉え、変化の度合いが大きいほど異常である可能性が強いといえる。そして、振幅変動は、波形の実効値と平均値の比を求めており、その比が大きいほど、異常の度合いが大きいと考えられる。図14(a)は、正常な振動波形の一例を示しており、図14(b)は異常な振動波形の一例を示している。図から明らかなように、正常な振動波形の場合には、実効値と平均値が近い値を採るため、両者の比(実効値/平均値)も小さな値を採るが、異常な振動波形の場合には、平均値に比べて実効値が大きくなるので、両者の比(実効値/平均値)が大きな値を採る。
また、下記式に基づき振動波形の尖り度や歪み度を算出し、その算出結果が大きいものほど振動波形の変動が大きいと言える。
【数3】
【0056】
<中心偏りについて>
衝撃成分が大きい場合、第2階層判定部11で検出するベアリング異常・ギア異常の可能性があることは言えるが、その条件のみで当該異常と特定することができない。そこで、第2の特徴量セットの一つとしての中心偏りを用い、第2階層判定部11で検出するベアリング異常・ギア異常であるのか、第3階層判定部12で異常原因を特定すべきグループに属するものかを特定する。
【0057】
中心偏りは、解析時間に比べ、より低い周波成分が乗った場合に発生する。従って、正常波形では、時間軸に対して対称な波形となるが、偏りがある場合、時間軸に対して対象とならない。よって、中心偏りが小さい場合には、低周波成分が乗っていないので、ベアリング異常・ギア異常と推定できる。一方、中心偏りが大きい場合には、低周波成文が載っているので、ベアリング異常・ギア異常以外の異常と推定でき、第3階層判定部12の判定処理に移行する。
【0058】
そして、この判定に用いる中心偏りは、振幅の平均値で求めることができる。つまり、低周波成分が載ると、平均値も高くなる。そして、平均値は、下記式に基づいて算出できる。
【数4】
【0059】
図15(a)は低周波成分が載っていない振動波形の一例を示し、図15(b)は低周波成分が載っている振動波形の一例を示している。図15(a)の振動波形は、平均値が0に近く、小さい値となるので低周波が乗っていないといえる。これに対し、図15(b)の振動波形は、平均値が高く低周波成文が載っていると言える。また、この図15(b)の振動波形の場合、閾値を超えるピークが多くあるように考えられるが、低周波が乗っているために、閾値を超えたのであり、衝撃によるピークではない。
【0060】
第3階層判定部12は、第2階層判定部11にて異常原因が特定できなかったものに対し、具体的な異常原因を特定するものである。この第3階層判定部12で使用する第3の特徴量セットでは、周波数成分を見ている。すなわち、異常の原因により高調波成分、分周波成分あるいは基本周波数のサイドバンドが大きくなるため、どの成分が表せるかにより、他の異常が判別できる。
【0061】
この第3階層判定部12では、「ゆるみ・ガタは高調波および分周波が発生する。」,「アンバランスは低周波が発生する。」,「ミスアライメントは高調波が発生する。」,「金属接触では高調波および衝撃波が発生する。」という波形の定性的な特徴に従い、図16に示すフローチャートを実行する機能を有し、そのフローチャートを実行することで、具体的な異常原因を特定する。
【0062】
すなわち、上述したように、異常の種類により特定の周波数成分が増加する。そこで、振動波形に対してFFTを行ない周波数成分を求める(S21)。なお、実際には、前処理にて周波数時間軸の情報を生成しているので、その情報から必要な周波数成分を取得する。そして、基本周波数のサイドバンドが大きいか否かを判断し(S22)、大きい場合には、基本周波数に近い振動があるので、異常原因は、「金属接触」と判定できる。
【0063】
また、サイドバンドが小さい場合には、分周波が大きいか否かを判断し(S23)、大きい場合には、さらに高調波が大きいか否かを判断する(S24)。この処理ステップS24の分岐判断がYesの場合、高調波と分周波の両方が存在することになるので、異常原因は、「ゆるみ・ガタ」と判定できる。また、この処理ステップS24の分岐判断がNoの場合、分周波のみを有することになるので、異常原因は、「アンバランス」と判定できる。
【0064】
一方、分周波が小さい場合には、処理ステップS23の分岐判断でNoとなるので、高調波が大きいか否かを判断する(S25)。この処理ステップS25の分岐判断がYesの場合、高調波のみが存在することになるので、異常原因は、「ミスアライメント」と判定できる。また、この処理ステップS25の分岐判断がNoの場合、高調波と分周波とが共に小さいことになるので、異常原因を特定することができないこと(診断不能)となる。そして、上述した拡販邸結果は、出力される。
なお、図17は、基本周波数と、その基本周波数のサイドバンド,分周波,高調波をそれぞれ示しており、それら各特徴量は、下記式に基づいて、算出することができる。
【0065】
【数5】
【0066】
なお、上述した実施の形態では、3段階に分けて判定を行ない、最終的に5種類の異常原因を特定し、出力するようにしたが、本発明はこれに限ることはなく、例えば、第2階層判定部11までの2段階の判定により、ベアリング異常・ギア異常の有無を判定するようにしても良いし、第3階層判定部12を設けた場合でも、分禁断処理ステップを適宜省略することで、任意の3個以下の異常原因を特定するようにしても良い。
【0067】
また、出力方法としては、モニタに表示することを示したが、プリントアウトとしたり、予め決められたランプの点灯をさせるようにしたりするなど各種の対応がとれるのはもちろんである。
さらにまた、各階層における判定処理で用いられる特徴量は、一例であり、他の特徴量を用いてももちろん良いし、例示した特徴量を使用しなくても良い。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る検査装置の好適な一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】階層的特徴量データベースのデータ構造の一例を示す図である。
【図3】異常検出部の内部構造を示すブロック図である。
【図4】アンバランスを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図5】ミスアライメントを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図6】ゆるみ・ガタを説明する図である。
【図7】ゆるみ・ガタを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図8】共振系異常を生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図9】金属接触を生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図10】(a)は正常な検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図であり、(b)は、異常な検出対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。第3階層判定部の動作原理を説明するための、各異常原因に対応する波形図の一例を示す図である。
【図11】第1階層判定部の機能を示すフローチャートである。
【図12】第2階層判定部の機能を示すフローチャートである。
【図13】部品接触があり衝撃成分が大きい検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図14】(a)は、正常な振動波形の一例を示しており、(b)は異常な振動波形の一例を示している(振幅変動について)。
【図15】(a)は低周波成分が載っていない振動波形の一例を示し、図15(b)は低周波成分が載っている振動波形の一例を示している。
【図16】第3階層判定部の機能を示すフローチャートである。
【図17】基本周波数と、その基本周波数のサイドバンド,分周波,高調波をそれぞれ示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 センサ
2 A/D変換器
3 前処理部
4 異常検出部
5 階層的特徴量データベース
6 診断ルール記憶データベース
7 情報出力装置
9 パソコン(検査装置)
10 第1階層判定部
11 第2階層判定部
12 第3階層判定部
【技術分野】
【0001】
この発明は、検査対象物から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置および検査方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車や家電製品などには、モータ等の駆動系部品が組み込まれた回転機器が非常に多く用いられている。例えば自動車を例にとってみると、エンジン,パワーステアリング,パワーシート,ミッションその他の至る所に回転機器が実装されている。また、家電製品では、冷蔵庫,エアコン,洗濯機その他各種の製品がある。そして、係る回転機器が実際に稼働すると、モータ等の回転に伴って音が発生する。
【0003】
係る音は、正常な動作に伴い必然的に発生するものもあれば、不良(故障)に伴い発生する音もある。その不良に伴う異常音の一例としては、ベアリングの異常,内部の異常接触,アンバランス,異物混入などがある。より具体的には、ギア1回転について1度の頻度で発生するギア欠け,異物かみ込み,スポット傷,モータ内部の回転部と固定部が回転中の一瞬だけこすれ合うような異常音がある。また、人が不快と感じる音としては、例えば人間が聞こえる20Hzから20kHzの中で様々な音があり、例えば約15kHz程度のものがある。そして、係る所定の周波数成分の音が発生している場合も異常音となる。もちろん、異常音はこの周波数に限られない。
【0004】
係る不良に伴う音は、不快であるばかりでなく、さらなる故障を発生させるおそれもある。そこで、それら各製品に対する品質保証を目的とし、生産工場においては、通常検査員による聴覚や触覚などの五感に頼った「官能検査」を行ない、異常音の有無の判断を行っている。具体的には、耳で聞いたり、手で触って振動を確認したりすることによって行っている。なお、官能検査は、官能検査用語 JIS Z8144により定義されている。
【0005】
ところで、係る検査員の五感に頼った官能検査では、熟練した技術を要するばかりでなく、判定結果に個人差や時間による変化などのばらつきが大きい。さらには、判定結果のデータ化,数値化が難しく管理も困難となるという問題がある。そこで、係る問題を解決するため、駆動系部品を含む製品の異常を検査する検査装置として、定量的かつ明確な基準による安定した検査を目的とした異音検査装置がある。
【0006】
このように検査対象から得られた振動波形から正常/異常を判別する検査(いわゆる異音検査)を自動的に行なう異音検査装置としては、従来、特許文献1に開示されたものがある。この特許文献1に開示された発明は、時間軸波形から得られた特徴量と周波数波形から得られた特徴量とを用いて検査対象の正常/異常を総合的に判別するものである。
【0007】
このように時間軸波形と周波数軸波形のように異なる軸から得られる波形に基づいて総合的に異音検査をするのは以下の理由からである。すなわち、それ以前に開発されていた時間軸波形から得られた特徴量だけの異音検査や、周波数軸波形から得られた特徴量だけの異音検査ではすべての異音を検出することが難しい。それは、それぞれの特徴量には得意・不得意があるからである。複数の特徴量を用いる異音検査は、単一の特徴量を用いる異音検査に比べて高い判別能力を有する。
【0008】
つまり、そもそも駆動系部品は、回転や往復運動を繰り返す機構で成り立っており、その機構にわずかな機械的異常があれば、それに起因した異常成分(良品から発せられる正常成分とは何かが違う成分)が必ず振動や音として周囲に伝達される。ところが、異音検査における異常成分は、正常成分と比較しても振動や音の波形に含まれる、わずかな違いでしかなく、熟練した人の耳であれば聞き分けられるような違いがあっても、波形解析してみるとノイズに埋もれてうまく検知することができないことがあった。これは、従前の異音検査が時間軸波形から得られた特徴量だけや、周波数軸波形から得られた特徴量だけの判別、しかも単一の特徴量のみに基づいて行われる判別であったからである。そこで、上記の特許文献1では、複数の軸から得られる複数の特徴量に基づいて総合的に正常/異常を判断するようにしている。そして、この特許文献1に開示された発明では、判別ルールとして、ファジィルールを用い、ファジィ推論により複数の特徴量に基づく正常/異常の判断を行なうようにしている。
【0009】
特許文献1に開示された異音検査に判別ルールとして用いるファジィ推論は、ニューラルネットなど、その他の判別モデルと比較して、人が判別ルールを理解しやすいという利点がある。例えばニューラルネットとは、ニューロンモデルを互いに多数結合させて接続しネットワーク状にしたものであり、どのような判別をしてそのような結果に至ったのか、その根拠が難解で感覚的に理解しがたい。感覚的に理解できないものを人は信用しにくい。それが品質の要となる検査装置であるならなおさらである。
【0010】
これに対して、ファジィ推論は、あいまいさを表現するメンバシップ関数を用いており、ファジィ推論を用いた判別ルールは、判別の根拠と判別結果を対応づけて「IF 特徴量A=大 THEN 異常」のように人に理解しやすい表現で示すことが出来る。このように感覚的に理解できるものは説明もしやすく、品質ソリューションを事業とする場合に、検査装置の検査ロジックとして判別ルールを説明しやすいため、その説明を受けた顧客にとっても納得する度合いが高いので安心して採用できるという利点がある。
【0011】
また、新規に異音検査装置を導入しようとする顧客は、それまで熟練者(官能検査員)の耳による官能検査を行っていることも多く、官能検査員は「異音なきこと」などの記述が一般的な検査基準に対して独自の判定基準やノウハウ、知見をすでに有している。このような場合には、異音検査装置は官能検査員がこれまで行っていた官能検査の置き換えとなるので、官能検査員の持つ判定基準やノウハウ、知見との整合性が自ずと求められるのが現状である。係る場合にも、作成した判別ルールと、それまでの官能検査員がもっていた知識(検査基準)との整合性を説明しやすいということは、顧客に対して説明責任を負うソリューション提供者にとってファジィ推論による説明のしやすさは事業を進める上で大きな利点となっている。
【0012】
ところで、上述した官能検査は、生産現場において最終製品あるいは中間製品に対して良否判定を行ない、不良品と判定されたものを廃棄し、良品のみを出荷することに利用される。
【特許文献1】特許第3484665号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の官能検査を行なう検査装置は、良品か不良品かを判定することができるにすぎない。そのため、不良品と判定されたものは、基本的には廃棄することになる。また、不良品と判定されたものに対しては、手直しをすることで良品にすることが可能となるが、そのためには、まず不良の原因を調べる必要があり、煩雑である。
【0014】
また、エンジンに代表される回転体を例にとっても、発生する異常の種類は多種多様に存在する。そして、実際の検査装置としてのリソースにはハードウェア的制約があるため、限られたリソースを用いる必要がある。そのため、たとえば特許文献1に開示された技術を用いて実用的な時間内で不良の原因を求めることは困難である。
この発明は、異常(不良品)と判定された検査対象物が、その具体的な異常の種類まで特定することができる検査装置および検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した目的を達成するため、本発明に係る検査装置は、検査対象物から取得した波形信号(センサからリアルタイムで取得したものでも良いし、過去に取得し記憶したデータベースから取得したものでも良い)に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置であって、前記検査対象物が、正常か異常かの判定を行なう第1階層判定部と、その第1階層判定部で異常と判定された場合に、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に異常原因が共振系異常であると判定する第2階層判定部と、前記各判定部で判定した判定結果を出力する出力手段と、を備えて構成した。係る構成をとることで、少なくとも異常原因が共振系異常の場合には、単に異常(不良)と判定されるだけでなく、その原因が分かるので、それに対する対処(修理・廃棄の可否等)が採りやすくなる。
【0016】
そして、前記第2階層判定部は、衝撃成分が大きく、振幅変動が小さい場合には、正常と判定する機能を備えるとよい。このようにすると、第1階層判定部にて異常と誤判定されたものも、正常と判定することができる。つまり、第1階層判定部では、不良品を誤って正常と誤判定することがないように、判定条件を厳しく設定することで、良品のみを通過させることができる。そして、良品が誤って異常と判定されたものも、この第2階層判定部にて正常と正しく判定されることができるので、歩留まりの定価を抑制できる。
【0017】
また、前記第2階層判定部は、衝撃成分が大きく、かつ振幅変動が小さい場合に他の異常原因があると判定する機能と、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に他の異常原因があると判定する機能と、の少なくとも一方の機能を備え、その第2階層判定部にて他の異常原因があると判定された場合に、周波数軸成分に基づいて異常原因を特定する第3階層判定部を、備えることができる。
【0018】
そして、第3階層判定部の具体的な異常原因の特定機能は、各種のものがあるが、例えば、前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが大きい場合に異常原因が金属接触であると判定する機能を備えることができる。また、前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、高調波と分周波が共に大きい場合に異常原因がゆるみ・ガタであると判定する機能を備えることもできる。また、前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、分周波のみ大きい場合に異常原因がアンバランスであると判定する機能を備えることもできる。さらに、前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、高調波のみ大きい場合に異常原因がミスアライメントであると判定する機能を備えることもできる。
また、本発明では、前記各階層判定部で行なう判定処理に使用する特徴量と判定ルールとを、それぞれ、各階層と関連づけて記憶する記憶手段を備えることができる。
【0019】
本発明に係る検査方法は、検査対象物から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、前記検査装置は、前記検査対象物が、正常か異常かの判定を行なう第1階層判定処理を実行し、その実行結果が正常な場合には、その旨を出力装置に出力し、前記第1階層判定処理を実行して異常と判定された場合に、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に異常原因が共振系異常であると判定する第2階層判定処理を実行し、少なくとも異常原因が特定された場合にその異常原因を出力装置に出力する。
【0020】
また、前記検査装置は、前記第2階層判定処理で異常原因が特定できない場合に、周波数軸成分に基づいて異常原因を特定する第3階層判定処理を実行し、その第3階層判定処理により求めた異常原因を出力装置に出力するとよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明では、検査対象物に対する検査結果として、単純に異常か否かの良否判定に留まらず、異常(不良品)と判定された検査対象物が、その具体的な異常の種類まで特定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は、本発明に係る装置の好適な一実施の形態を示している。図1に示すように、検査システムは、検査対象物に接触・近接配置し、検査対象物から発生する振動や音を検出する加速度センサやマイク等のセンサ1と、そのセンサ1の出力(アナログデータ)をデジタルデータに変換するA/D変換器2と、A/D変換器2でデジタルデータに変換された波形データ(センシングデータ)に対し、所定の前処理を行なう前処理部3と、その前処理部3で前処理されたデータに基づき、良品/不良品の判定等を行なう異常検出部4と、その異常検出部4における検出結果を出力する情報出力装置7と、異常検出部4にて判定処理を行なう際に参照するデータを格納する階層的特徴量データベース5と、診断ルール記憶データベース6と、を備えている。センサ1の出力信号のレベルが小さい場合、アンプを設け、増幅した値をA/D変換器2に与えることもある。
【0023】
前処理部3と、異常検出部4と、階層的特徴量データベース5と、診断ルール記憶データベース6とは、たとえばパソコン9により構成される。より具体的には、前処理部3と、異常検出部4とが、アプリケーションプログラムとしてパソコン9にインストールすることで実現でき、階層的特徴量データベース5と、診断ルール記憶データベース6とは、パソコン9のハードディスクその他の記憶装置に、所定のデータを格納することで実現できる。また、情報出力装置7は、パソコン9のモニタにより実現することができる。
【0024】
前処理部3は、取得した振動データから特徴量を抽出するために必要な前処理を実行するもので、具体的には、波形フィルタや波形変換(FFT、包絡線処理など)を行ない、所望の周波数成分を取り出すものである。これにより、時間軸波形と、周波数軸は径が生成される。
【0025】
異常検出部4は、前処理したデータから特徴量を抽出し、その抽出した特徴量のレベルに従い、良否判定を行なうとともに、不良品と判断した場合には、その不良となった異常原因を特定する機能を持つ。この異常検出部4の詳細は、後述する。
【0026】
階層的特徴量データベース5は、例えば図2に示すようなデータ構造をとっている。すなわち、この階層特徴量データベース5のデータ構造は、特徴量のラベル,階層番号および演算方法(具体的な図示を省略)を関連付けたテーブル構造からなる。
【0027】
すなわち、図3に示すように、異常検出部4は、第1特徴量セットに基づいて判定処理を行なう第1階層判定部10と、第2特徴量セットに基づいて判定処理を行なう第2階層判定部11と、第3特徴量セットに基づいて判定処理を行なう第3階層判定部12とを備えている。詳細な説明は後述するが、第1階層判定部10は正常か異常かを判定別し、第2階層判定部11と第3階層判定部12は、第1階層判定部10で異常と判定された場合に、具体的な異常の種類を特定するものである。
【0028】
つまり、例えばエンジンに代表される回転体を例にとっても、発生する異常の種類は実に様々であり、時間軸波形から得られた特徴量と周波数波形から得られた特徴量とをうまく組合せないと処理時間が膨大になるだけになってしまうばかりか、結果として異常原因を特定できないおそれもある。そこで、本実施の形態では、必要な順番で特徴量を演算することで、限られたリソースからなる装置を用い、実用的な時間(短時間)で異常原因を特定することができる。
【0029】
このように、本実施の形態の異常検出部4は、段階的に判定を行なわせるようにした。当然のことながら、各階層で行なう判定内容が異なるため、各判定を行なうのに適した特徴量も異なる。そこで、階層的特徴量データベース5は、各特徴量の内容と、その特徴量がどの階層の判定で用いられるかを特定する情報を格納するものである。つまり、階層番号が、どの階層判定部で行なうかを特定する情報であり、演算方法は、各特徴量の具体的な算出方法に関する情報である。詳細は後述する。
【0030】
診断ルール記憶データベース6は、上述した各階層判定部10から12に対応づけられた特徴量に基づき、各階層判定部10から12が良否判定その他の判定処理を行なう際に使用するルールを格納するものである。詳細は後述する。
【0031】
ここで、各特徴量と、それに基づいて判定できる異常原因について説明する。まず、不良品と検出する場合の異常の種類としては、大別すると構造系異常(全体欠陥)と、共振系異常(局所欠陥)と、摩耗系異常とがある。構造系異常(全体欠陥)としては、「アンバランス」,「ミスアライメント」,「ゆるみ、たが」などがある。共振系異常(局所欠陥)としては、「軸受(ベアリング)異常」,「歯車(ギア)異常」などがある。摩耗形状としては、「金属接触」がある。
【0032】
<アンバランス>
アンバランスは、回転軸に対して質量が均一でない状態のことをいう。アンバランスを生じる原因は、ロータの偏心、材質の不均質、たわみなど多くある。また、経年変化による腐食や摩耗、付着物などにより、アンバランスが発生することがある。研削盤などでは、ドレッサや研削によってアンバランスが生じる。係るアンバランスの状態では、遠心力によって力が加わり、回転軸に垂直な振動(振幅変動)が起こることがあり、ベアリング・ロータ・保持構造物等の破損原因となる。例えば、エンジンの場合における想定原因としては、カムシャフトの曲がり,シャフトの曲がり,シャフトの強度不足,クランクのバランス,ピストン同士のバランス,ピストンの汚れ,コンロッドの汚れ,材質不均一,加工精度異常などが考えられる。
【0033】
アンバランスを生じた場合、回転数が低下したり、振動変位量が低下(共振領域を除く)したりする現象を生じる。そして、振動レベルが上昇する。その上昇量は付着量に応じて変化する。従って、低周波(数Hz〜1kHz)成分の存在と、回転周波数のパワー増大の有無に着目することで、アンバランスを生じているか否かが判断できる。
【0034】
図4は、アンバランスを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示している。低周波の混合波形であり、高調波振動が存在しないことで後述するミスアライメントと識別できる。このアンバランスは、もっとも良く発生する現象である。
【0035】
<ミスアライメント>
2軸間シャフトラインの中心が直接で結ばれていることをアライメントといい、ミスアライメントは、複数の回転体の回転軸の中心がずれている状態のことを言う。想定原因としては、設備設置の地盤変化,カップリングのゆるみ,軸受の傾き,軸受の磨耗,ギアの軸ずれなどが考えられる。アキシャル方向に振動が生じやすいという特徴があるため、アキシャル方向の振動がラジアル方向の振動の50%以上を生じていれば、ミスアライメントと推定できる。また、ミスアライメントを生じている場合の振動波形として発生する周波数は、通常の継手形式では、回転数成分(fr)が主体であるが、激しくなると高調波(2fr、3fr)が発生するという性質を有する。但し、位相は、常に一定角度(同期)であり、変化は見られない。振動形態としては、回転の低下とは無関係に、変位量は一定であったり増加したりするが、0に漸近することはない。従って、注目すべき波形の特徴(注目すべき観点)としては、低周波(数Hz〜1kHz)成分(少ない),振幅確率密度関数,回転周波数の高調波のパワー増大等がある。また、アンバランスでは、回転数の2乗に比例して振幅が増加するが、ミスアライメントでは回転数にあまり関係なく、振幅がほぼ一定という特徴があるため、係る特徴に着目することで、両者を識別できる。
【0036】
図5は、ミスアライメントを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示している。図から明らかなように、高調波の混合波形であり、高調波振動が存在することでアンバランスと判断できる。なお、このミスアライメントは、アンバランスに次ぎ頻繁に発生する異常現象である。
【0037】
<ゆるみ・ガタ>
ゆるみ・ガタとは、設置時のボルトのゆるみや締め付け力の不足、あるいは長時間の運転によるボルトのゆるみで生じる振動である。たとえば、図6に示すように、検査対象である回転機50を検査台51の上に、配置するとともに、ボルト・ナット52で固定する。ボルト・ナット52にゆるみ・ガタが存在する(aのボルト・ナット52)と、その部分で回転機50が移動(左右上下)して、固有振動数が無周期に変化を起こす。また、回転数の増減により、振動の変位が突然、増加/減少する躍動現象がみられる。これにより固有振動が変化し、基本周波数の高調波(2、3)および分数調和振動(1/2、1/3)の振動が発生する。従って、注目すべき波形の特徴(注目すべき観点)としては、低周波〜高周波(共に存在する),振幅確率密度関数,全体的な振動レベル増大等がある。
【0038】
図7は、ゆるみ・ガタを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示している。図から明らかなように低周波と高調波の混合波形であるので、低周波と、高調波振動の両方が存在することで判断できる。
【0039】
<共振系異常の局所欠陥>
共振系異常の局所欠陥は、異物の混入,疲労破損,過負荷などの局所的に異常を生じることで、回転体が1回転する都度、当該異常を生じている局所部分にきたときに衝撃振動が生じる(定常振動に定期的な衝撃波形が重畳される)。想定原因としては、ギアの破損,カムの破損,バルブの破損,バルブとヘッドの当たり,軸受の破損(傷)などがある。例えば、歯車の歯の一部が破損している場合、破損した歯が接触する都度衝撃が出る。このように、局所欠陥の場合には、軸受・歯車の損傷による振動で、衝撃振動として捉えることができる。従って、注目すべき波形の特徴(注目すべき観点)としては、中〜高周波(1kHz〜),極値密度関数,包絡線波形の周期,ベアリング特徴周波数,かみ合い周波数のサイドバンド等がある。
【0040】
図8は、共振系異常(ギアの破損・異物付着)を生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示している。図から明らかなように、破損した歯が接触する都度衝撃が出る。従って、定常振動に定期的な衝撃波形が重畳される。
【0041】
<摩耗系異常>
摩耗系異常の一例である金属接触による振動は、金属同士の摩擦(歯車、シリンダとピストン……)により生じる。金属接触が生じると、きしみ音や衝撃が発生し、回転数に応じた金属同士の擦れによる振動が発生する。係る金属接触がおこると、シリンダ、ピストン、歯車の磨耗や破損につながる。金属接触の原因は、部品の精度、部品の組合せ、磨耗、潤滑油の不足などであり、エンジンにおける想定原因は、ピストンとシリンダの擦れ,カムの傷,ギアのかみ合わせ,オイル切れなどがある。従って、注目すべき波形の特徴(注目すべき観点)としては、高周波(10kHz〜),衝撃成分等がある。図9は、金属接触を生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示している。図から明らかなように、回転数に応じた金属同士の擦れによる振動が発生している。
【0042】
次に、上述した特徴量を用いた各階層判定部の判定処理の原理並びに具体的な処理を説明する。まず、第1階層判定部10は、正常/異常を判別するものである。この第1階層判定部10で使用する第1の特徴量セットでは、振動レベルを見るものである。何らかの異常が発生した場合には、その異常原因の如何に関係なく振動レベルが大きくなる傾向があるため、係る第1の特徴量セットを用いて、異常の有無を判断できる。図10(a)は、良品に基づく正常波形の一例を示しており、図10(b)は、不良品に基づく異常波形の一例を示している。図からも明らかなように、異常時には何らかの外的要因が回転のエネルギー以外に加わり、振動の振幅やパワーが大きくなる。そこで、第1階層判定部10は、波形の定性的として「振動レベル」が大きくなることに着目し、具体的な特徴量としては、振動の振幅(実効値)とパワー(一定期間のパワーの総和)を用いた。これら両特徴量は、下記式に基づいて算出する。振動の振幅が小さい場合には、正常と判別するルールとした。
【数1】
【0043】
より具体的には、第1階層判定部10は、図11に示すフローチャートを実行する機能を有する。つまり、検査対象から取得し、前処理を経た波形信号に対し、振動ベルを求め(S1)、振動レベルが小さい場合には、正常と判断し、大きい場合には、異常と判断するようにした。ここで本実施の形態では、上述したように振動レベルの大小を判定するための特徴量として、振動の振幅(実効値)と、パワーの2つを用いた。そこで、この分岐判断処理ステップS2における判定処理は、両特徴量がいずれも「大」の場合にのみ、判断結果がYesとなり、この第1階層判定部10における判定結果が「異常」となる。換言すると、両特徴量の少なくとも一方が「小」の場合にNoとなり、正常判定がされる。正常判定がされた場合には、今回の検査対象物は良品であるため、異常検出部4における今回の判定処理は終了し、結果(良品)を出力する。
【0044】
処理ステップS2における分岐判断であるが、単純にある設定した閾値を超えたか否かにより判定を行なうことができる。この場合には、係る閾値が診断ルール記憶データベース6に設定される。また、そのように閾値と大小関係を単純に比較するのではなく、具体的な図示は省略するが、所定形状のメンバシップ関数を使用し、ファジィ推論により異常か否か(不良/良品)の判定を行なうようにしてもよい。この場合のファジィルールとしては、例えば、
If 振動の実効値=大 AND 振動のパワー=大 Then 異常
【0045】
のようになる。係る場合、このファジィルールや、メンバシップ関数、さらには、最終的な適合度に基づき異常か否かを判断する際の値などが、第1階層判定用の診断ルールとして診断ルール記憶データベース6に格納される。そして、第1階層判定部10は、階層的特徴量データベース5に格納された第1階層用の特徴量と、診断ルール記憶データベース6に格納された第1階層用のルールに基づき、与えられた波形データ(前処理済み)に対して所定の演算処理を行ない、良否判定を行なう。
【0046】
第2階層判定部11は、異常原因のうちのベアリング異常・歯車異常等の共振系異常の局所欠陥の有無を判別する。そして、この第2階層判定部11で使用する第2の特徴量セットでは、衝撃成分、振動変動、中心偏りを見る。つまり、ベアリング/ギア異常では、破損個所や異物がぶつかることで、衝撃成分が大きくなるが、振動変動、中心偏りはあまりないため、それらの特徴量の大小に基づいて、ベアリング/ギア異常が判別できる。
【0047】
具体的には、第2階層判定部11は、図12に示すフローチャートを実行する機能を有する。その概略を説明すると、第1階層判定部10で異常と判定された信号波形に対し、衝撃成分を求め(S11)、その求めた衝撃成分が大きいか否かを判断する(S12)。そして、衝撃成分が小さい場合(S12の分岐判断でNo)には、振幅変動を求め(S13)、求めた振幅変動が大きいか否かを判断する(S14)。そして、振幅変動が小さい場合(S14の分岐判断でNo)の場合には正常と判定し、その判定結果(良品)を出力する。
振幅変動が大きい場合(S14の分岐判断でYes)、第2階層判定部11で検出するベアリング異常・ギア異常ではないと判定し、第3階層判定部12の判定に移行する。
【0048】
上述したように、第1階層判定部10で異常と判定された場合でも、この第2階層判定部11で正常と判定される(S14でNo)ようにしている。すなわち、振動レベルが大きくても、衝撃成分・振幅変動が小さければ正常と判断している。これは、振動レベルだけで完全に、異常と区別することが難しいと考えられるからである。そこで、振動レベルでは一部の正常品も含むことを許容して多めに異常となるように設定し(グレーゾーンが多い)、衝撃成分・振幅変動を含めることで、より精度良く異常と区別している。換言すると、第1階層判定部10で正常判定とする基準を厳しくし、異常なものを正常と誤判定することがないようにしている。
【0049】
一方、衝撃成分が大きく、処理ステップS12の分岐判断でYesとなった場合、振動波形の中心偏りを求め(S15)、その求めた中心偏りが大きいか否かを判断する(S16)。そして、中心偏りが小さい場合(S16でNo)には、異常原因は、ベアリング異常・ギア異常と判定する。この判定結果(異常原因)は、情報出力装置7に出力される。また、中心偏りが大きい場合には、第2階層判定部11で検出するベアリング異常・ギア異常ではないと判定し、第3階層判定部12の判定に移行する。
【0050】
次に、上述した第2階層判定部11における各処理の具体的な処理・機能を説明する。衝撃成分が大きい場合には、部品同士の当たりが大きいと考えられる。そして、衝撃成分を実際に求める際に有効な特徴量は、閾値以上のピークの数およびピーク値の総和である。すなわち、図13に示すように、この異常原因の場合、部品接触が生じるため、それに伴い発生するピーク数が大きくなるからである。「ピーク値の総和」と「ピーク数」は、それぞれ下記式に基づいて算出することができる。そして、下記式に基づいて算出された各特徴量の各値が共に大きい場合に、衝撃成分が「大」と判定するルールとした。換言すると、少なくとも一方の特徴量の値が小さい場合には、衝撃成分は「小」と判定するようにした。つまり、衝撃成分が小さいということは、部品同士の当たりが小さいと推定でき、逆に衝撃成分が大きいということは、部品同士の当たりが大きいと推定できるからである。そして、部品同士の当たりが大きく出る異常は、ベアリング・ギア異常、金属接触の可能性がある。
【数2】
【0051】
処理ステップS12における分岐判断であるが、これも各特徴量の大小判定を単純にある設定した閾値を超えたか否かにより判定を行なうことができる。この場合には、係る閾値が診断ルール記憶データベース6に設定される。また、そのように閾値と大小関係を単純に比較するのではなく、図示省略するメンバシップ関数を使用し、ファジィ推論により対処可能か否かの判定を行なうようにしてもよい。この場合のファジィルールとしては、例えば、
If ピーク値総和=大 AND ピーク数=大
Then ベアリング異常等のおそれあり
【0052】
のようになる。係る場合、このファジィルールや、メンバシップ関数、さらには、最終的な適合度に基づき異常か否かを判断する際の値などが、第2階層判定用の診断ルールとして診断ルール記憶データベース6に格納される。特に具体的な記載を省略するが、この第2階層判定部11で行なう他の分岐判断(振幅変動,中心偏りの大/小)についても、上記と同様に、ファジィ推論を使用しても良いし、使用しなくても良い。
【0053】
<振幅変動について>
衝撃成分が小さい場合、少なくとも第2階層判定部11で検出するベアリング異常・ギア異常でないことがわかる。つまり、第3階層判定部12で異常原因を特定すべきグループに属するものか、本来は良品(正常)であるが第1階層判定部10では異常と判定されたグループに属するもののいずれかである。
【0054】
一方、何らかの異常が起こった場合には、振幅の変化が起こる。そこで、概要でも説明したとおり、処理ステップS14にて振幅変動が大きいか否かを判断し、検査対象物が上記のどちらのグループに属するものかを判断するようにした。つまり、振幅変動が大きい場合(S14でYes)には、何かしらの異常があると判定し、第3階層判定部12における異常原因判定処理に移行するようにし、振幅変動が小さい場合(S14でNo)には、正常と判定するようにした。
【0055】
具体的には、振幅変動では振幅の変化の度合いを捉え、変化の度合いが大きいほど異常である可能性が強いといえる。そして、振幅変動は、波形の実効値と平均値の比を求めており、その比が大きいほど、異常の度合いが大きいと考えられる。図14(a)は、正常な振動波形の一例を示しており、図14(b)は異常な振動波形の一例を示している。図から明らかなように、正常な振動波形の場合には、実効値と平均値が近い値を採るため、両者の比(実効値/平均値)も小さな値を採るが、異常な振動波形の場合には、平均値に比べて実効値が大きくなるので、両者の比(実効値/平均値)が大きな値を採る。
また、下記式に基づき振動波形の尖り度や歪み度を算出し、その算出結果が大きいものほど振動波形の変動が大きいと言える。
【数3】
【0056】
<中心偏りについて>
衝撃成分が大きい場合、第2階層判定部11で検出するベアリング異常・ギア異常の可能性があることは言えるが、その条件のみで当該異常と特定することができない。そこで、第2の特徴量セットの一つとしての中心偏りを用い、第2階層判定部11で検出するベアリング異常・ギア異常であるのか、第3階層判定部12で異常原因を特定すべきグループに属するものかを特定する。
【0057】
中心偏りは、解析時間に比べ、より低い周波成分が乗った場合に発生する。従って、正常波形では、時間軸に対して対称な波形となるが、偏りがある場合、時間軸に対して対象とならない。よって、中心偏りが小さい場合には、低周波成分が乗っていないので、ベアリング異常・ギア異常と推定できる。一方、中心偏りが大きい場合には、低周波成文が載っているので、ベアリング異常・ギア異常以外の異常と推定でき、第3階層判定部12の判定処理に移行する。
【0058】
そして、この判定に用いる中心偏りは、振幅の平均値で求めることができる。つまり、低周波成分が載ると、平均値も高くなる。そして、平均値は、下記式に基づいて算出できる。
【数4】
【0059】
図15(a)は低周波成分が載っていない振動波形の一例を示し、図15(b)は低周波成分が載っている振動波形の一例を示している。図15(a)の振動波形は、平均値が0に近く、小さい値となるので低周波が乗っていないといえる。これに対し、図15(b)の振動波形は、平均値が高く低周波成文が載っていると言える。また、この図15(b)の振動波形の場合、閾値を超えるピークが多くあるように考えられるが、低周波が乗っているために、閾値を超えたのであり、衝撃によるピークではない。
【0060】
第3階層判定部12は、第2階層判定部11にて異常原因が特定できなかったものに対し、具体的な異常原因を特定するものである。この第3階層判定部12で使用する第3の特徴量セットでは、周波数成分を見ている。すなわち、異常の原因により高調波成分、分周波成分あるいは基本周波数のサイドバンドが大きくなるため、どの成分が表せるかにより、他の異常が判別できる。
【0061】
この第3階層判定部12では、「ゆるみ・ガタは高調波および分周波が発生する。」,「アンバランスは低周波が発生する。」,「ミスアライメントは高調波が発生する。」,「金属接触では高調波および衝撃波が発生する。」という波形の定性的な特徴に従い、図16に示すフローチャートを実行する機能を有し、そのフローチャートを実行することで、具体的な異常原因を特定する。
【0062】
すなわち、上述したように、異常の種類により特定の周波数成分が増加する。そこで、振動波形に対してFFTを行ない周波数成分を求める(S21)。なお、実際には、前処理にて周波数時間軸の情報を生成しているので、その情報から必要な周波数成分を取得する。そして、基本周波数のサイドバンドが大きいか否かを判断し(S22)、大きい場合には、基本周波数に近い振動があるので、異常原因は、「金属接触」と判定できる。
【0063】
また、サイドバンドが小さい場合には、分周波が大きいか否かを判断し(S23)、大きい場合には、さらに高調波が大きいか否かを判断する(S24)。この処理ステップS24の分岐判断がYesの場合、高調波と分周波の両方が存在することになるので、異常原因は、「ゆるみ・ガタ」と判定できる。また、この処理ステップS24の分岐判断がNoの場合、分周波のみを有することになるので、異常原因は、「アンバランス」と判定できる。
【0064】
一方、分周波が小さい場合には、処理ステップS23の分岐判断でNoとなるので、高調波が大きいか否かを判断する(S25)。この処理ステップS25の分岐判断がYesの場合、高調波のみが存在することになるので、異常原因は、「ミスアライメント」と判定できる。また、この処理ステップS25の分岐判断がNoの場合、高調波と分周波とが共に小さいことになるので、異常原因を特定することができないこと(診断不能)となる。そして、上述した拡販邸結果は、出力される。
なお、図17は、基本周波数と、その基本周波数のサイドバンド,分周波,高調波をそれぞれ示しており、それら各特徴量は、下記式に基づいて、算出することができる。
【0065】
【数5】
【0066】
なお、上述した実施の形態では、3段階に分けて判定を行ない、最終的に5種類の異常原因を特定し、出力するようにしたが、本発明はこれに限ることはなく、例えば、第2階層判定部11までの2段階の判定により、ベアリング異常・ギア異常の有無を判定するようにしても良いし、第3階層判定部12を設けた場合でも、分禁断処理ステップを適宜省略することで、任意の3個以下の異常原因を特定するようにしても良い。
【0067】
また、出力方法としては、モニタに表示することを示したが、プリントアウトとしたり、予め決められたランプの点灯をさせるようにしたりするなど各種の対応がとれるのはもちろんである。
さらにまた、各階層における判定処理で用いられる特徴量は、一例であり、他の特徴量を用いてももちろん良いし、例示した特徴量を使用しなくても良い。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】本発明に係る検査装置の好適な一実施の形態を示すブロック図である。
【図2】階層的特徴量データベースのデータ構造の一例を示す図である。
【図3】異常検出部の内部構造を示すブロック図である。
【図4】アンバランスを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図5】ミスアライメントを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図6】ゆるみ・ガタを説明する図である。
【図7】ゆるみ・ガタを生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図8】共振系異常を生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図9】金属接触を生じている検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図10】(a)は正常な検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図であり、(b)は、異常な検出対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。第3階層判定部の動作原理を説明するための、各異常原因に対応する波形図の一例を示す図である。
【図11】第1階層判定部の機能を示すフローチャートである。
【図12】第2階層判定部の機能を示すフローチャートである。
【図13】部品接触があり衝撃成分が大きい検査対象物から取得した振動波形の一例を示す図である。
【図14】(a)は、正常な振動波形の一例を示しており、(b)は異常な振動波形の一例を示している(振幅変動について)。
【図15】(a)は低周波成分が載っていない振動波形の一例を示し、図15(b)は低周波成分が載っている振動波形の一例を示している。
【図16】第3階層判定部の機能を示すフローチャートである。
【図17】基本周波数と、その基本周波数のサイドバンド,分周波,高調波をそれぞれ示す図である。
【符号の説明】
【0069】
1 センサ
2 A/D変換器
3 前処理部
4 異常検出部
5 階層的特徴量データベース
6 診断ルール記憶データベース
7 情報出力装置
9 パソコン(検査装置)
10 第1階層判定部
11 第2階層判定部
12 第3階層判定部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象物から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置であって、
前記検査対象物が、正常か異常かの判定を行なう第1階層判定部と、
その第1階層判定部で異常と判定された場合に、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に異常原因が共振系異常であると判定する第2階層判定部と、
前記各判定部で判定した判定結果を出力する出力手段と、
を備えたことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記第2階層判定部は、衝撃成分が大きく、振幅変動が小さい場合には、正常と判定する機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記第2階層判定部は、
衝撃成分が大きく、かつ振幅変動が小さい場合に他の異常原因があると判定する機能と、
衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に他の異常原因があると判定する機能と、の少なくとも一方の機能を備え、
その第2階層判定部にて他の異常原因があると判定された場合に、周波数軸成分に基づいて異常原因を特定する第3階層判定部を、備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが大きい場合に異常原因が金属接触であると判定する機能を備えたことを特徴とする請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、高調波と分周波が共に大きい場合に異常原因がゆるみ・ガタであると判定する機能を備えたことを特徴とする請求項3または4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、分周波のみ大きい場合に異常原因がアンバランスであると判定する機能を備えたことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、高調波のみ大きい場合に異常原因がミスアライメントであると判定する機能を備えたことを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項8】
検査対象物から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、
前記検査装置は、
前記検査対象物が、正常か異常かの判定を行なう第1階層判定処理を実行し、
その実行結果が正常な場合には、その旨を出力装置に出力し、
前記第1階層判定処理を実行して異常と判定された場合に、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に異常原因が共振系異常であると判定する第2階層判定処理を実行し、
少なくとも異常原因が特定された場合にその異常原因を出力装置に出力することを特徴とする検査方法。
【請求項9】
前記検査装置は、
前記第2階層判定処理で異常原因が特定できない場合に、周波数軸成分に基づいて異常原因を特定する第3階層判定処理を実行し、
その第3階層判定処理により求めた異常原因を出力装置に出力することを特徴とする請求項8に記載の検査方法。
【請求項1】
検査対象物から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置であって、
前記検査対象物が、正常か異常かの判定を行なう第1階層判定部と、
その第1階層判定部で異常と判定された場合に、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に異常原因が共振系異常であると判定する第2階層判定部と、
前記各判定部で判定した判定結果を出力する出力手段と、
を備えたことを特徴とする検査装置。
【請求項2】
前記第2階層判定部は、衝撃成分が大きく、振幅変動が小さい場合には、正常と判定する機能を備えたことを特徴とする請求項1に記載の検査装置。
【請求項3】
前記第2階層判定部は、
衝撃成分が大きく、かつ振幅変動が小さい場合に他の異常原因があると判定する機能と、
衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に他の異常原因があると判定する機能と、の少なくとも一方の機能を備え、
その第2階層判定部にて他の異常原因があると判定された場合に、周波数軸成分に基づいて異常原因を特定する第3階層判定部を、備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の検査装置。
【請求項4】
前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが大きい場合に異常原因が金属接触であると判定する機能を備えたことを特徴とする請求項3に記載の検査装置。
【請求項5】
前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、高調波と分周波が共に大きい場合に異常原因がゆるみ・ガタであると判定する機能を備えたことを特徴とする請求項3または4に記載の検査装置。
【請求項6】
前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、分周波のみ大きい場合に異常原因がアンバランスであると判定する機能を備えたことを特徴とする請求項3から5のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項7】
前記第3階層判定部は、基本周波数のサイドバンドが小さく、高調波のみ大きい場合に異常原因がミスアライメントであると判定する機能を備えたことを特徴とする請求項3から6のいずれか1項に記載の検査装置。
【請求項8】
検査対象物から取得した波形信号に対して特徴量を抽出し、抽出した特徴量に基づいて状態を判定する検査装置を用いた検査方法であって、
前記検査装置は、
前記検査対象物が、正常か異常かの判定を行なう第1階層判定処理を実行し、
その実行結果が正常な場合には、その旨を出力装置に出力し、
前記第1階層判定処理を実行して異常と判定された場合に、衝撃成分が大きく、かつ中心偏りが小さい場合に異常原因が共振系異常であると判定する第2階層判定処理を実行し、
少なくとも異常原因が特定された場合にその異常原因を出力装置に出力することを特徴とする検査方法。
【請求項9】
前記検査装置は、
前記第2階層判定処理で異常原因が特定できない場合に、周波数軸成分に基づいて異常原因を特定する第3階層判定処理を実行し、
その第3階層判定処理により求めた異常原因を出力装置に出力することを特徴とする請求項8に記載の検査方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−64852(P2007−64852A)
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−252866(P2005−252866)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】
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