説明

検査装置

【課題】リチウムイオン二次電池の導電層の導電率分布をポリエチレン等の保護シートが貼り合わされた状態で検査することができる検査装置を実現する。
【解決手段】本発明による検査装置は、検査されるべきシート材料(1)をはさんで互いに対向する第1及び第2の平板電極(2a,2b)と、第1の平板電極と第2の平板電極との間に接続され、リアクタンス素子とキャパシタ素子とを有する発振回路(4)と、発振回路に接続され、当該発振回路の発振周波数を検出する手段(5)と、シート材料と第1及び第2の平板電極とを2次元的に相対移動させる走査手段とを備える。本発明では、シート材料の導電性シートの導電率の変化を発振周波数の変化として検出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性シートと絶縁性の保護シートとが貼り合わされたシート材料の導電率分布を検出する検査装置に関するものである。
また、本発明は、リチウムイオン二次電池の陽極又は陰極として用いられるシート状電極材料を検査する検査装置にも関するものである。
【背景技術】
【0002】
電気自動車の開発に伴い、リチウムイオン二次電池の開発が強く要請されている。リチウムイオン二次電池は、陽極と、陰極と、陽極と陰極との間に配置したセパレータと、電解質とから構成されている。陽極は、集電体として機能するアルミニウムのシート部材と、活物質層とを有し、活物質層は厚さが20μm程度の導電層(導電膜)介してアルミニウムのシート部材の表面上に結合されている。同様に、陰極は、集電体として機能する銅のシート部材と、活物質層とを有し、活物質層は導電層を介して銅のシート部材の表面上に結合されている(特許文献1参照)。
【0003】
陽極の活物質層は、直径が10μm程度のコバルト酸リチウム又はマンガン酸リチウム等の活物質を有し、活物質の表面はカーボンブラック等の炭素系の微粉体である導電助剤により覆われている。陰極の活物質層は、直径が10μm程度のグラフアイトの活物質を含み、同様に活物質の表面は炭素系の微粉体の導電助剤により覆われている。
【特許文献1】特開2010−153140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
リチウムイオン二次電池では、集電体として機能するアルミニウム又は銅のシート状部材の表面には、活物質層を結合するための導電層が形成されている。この導電層は、アルミニウム又は銅のシート状集電体に活物質層を結合する結合材料として機能すると共に集電体としても機能する。そのため、導電層の導電率ないし抵抗値は厳格に管理する必要がある。例えば、導電層中に部分的に導電率が高い箇所が形成されると局所的な電流集中が発生し、金属リチウムが析出し、熱暴走の原因となってしまう。また、部分的に導電率の低い箇所(局所的に抵抗値が大きい箇所)が存在すると、導電率の低い箇所の周辺の部位を流れる電流が局所的に増加し、同様に不均一な電流分布が形成される不具合が発生する。このような局所的な電流集中は、電池の寿命を短縮する原因となる。従って、活物質層を集電体に結合するための導電層の導電率分布を測定し、許容される導電率の範囲内にあるか否かを検査することは、リチウムイオン二次電池の寿命を改善する上で極めて重要である。
【0005】
一方、導電層は、粘着性を有する導電性シートであり、導電層の両面にポリエチレンや樹脂コーティング紙等の絶縁性の保護シートが貼り合わせた構造で搬送等されるため、これら保護層が貼り合わされた状態で導電率分布を測定しなければならず、導電層の品質管理の妨げとなっている。
【0006】
また、リチウムイオン二次電池の陽極又は陰極を構成するシート状電極材料について、マンガン酸リチウムやグラフアイトの活物質の表面に分散した直径1μm程度の導電助剤の分布が不均一な場合、局所的な電流集中が生じ易く、リチウムイオン電池の寿命低下の原因となっている。すなわち、導電助剤の分布量が局所的に少ない箇所が存在すると、当該箇所の電流密度が局所的に低くなってしまう。また、導電助剤の分布料が部分的に多い箇所が発生すると、局所的な電流集中が発生し、電池の寿命に悪影響が及ぼす不具合が発生する。従って、リチウムイオン二次電池において、陽極又は陰極を構成するシート状電極材料の導電率分布を検査することは、リチウムイオン二次電池の品質管理上極めて有益である。
【0007】
本発明の目的は、リチウムイオン二次電池の導電層の導電率分布をポリエチレンや樹脂コーティング紙等の保護シートが貼り合わされた状態で検査することができる検査装置を実現することにある。
また、本発明の別の目的は、リチウムイオン二次電池の陽極及び陰極を構成するシート状電極材料の導電率分布を測定する検査装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明による検査装置は、両面が絶縁性保護シートにより被覆されている導電層の厚さ方向の導電率分布を計測する検査装置であって、
導電層及び絶縁性保護シートを含むシート材料をはさんで互いに対向するように配置した第1及び第2の平板電極と、
前記第1の平板電極と第2の平板電極との間に接続され、リアクタンス素子とキャパシタ素子とを有する発振回路と、
前記発振回路に接続され、当該発振回路の発振周波数を検出する手段と、
前記シート材料と第1及び第2の平板電極とを2次元的に相対移動させる走査手段とを備え、
前記導電層の導電率の変化を発振周波数の変化として検出することを特徴とする。
【0009】
導電層と絶縁性の保護シートとが貼り合わせたシート状材料の合成容量は、導電層の導電率に応じて変化し、導電層の導電率が高くなるにしたがって合成容量は大きくなる。そこで、本発明では、導電層の導電率の変化に起因する合成容量の変化を発振回路の発振周波数の変化として検出する。すなわち、リアクタンス素子と容量素子とを含む発振回路において、リアクタンス素子に並列にシート状材料を接続すれば、シート状材料の合成容量の変化に応じて発振周波数も変化するため、シート状材料に含まれる導電層の導電率の変化を発振周波数の変化として検出することができる。また、発振回路に接続された2つの平板電極をシート状材料に対して2次元的に走査することにより、シート状材料の導電率分布を計測することができる。そして、計測された導電率分布が、所定の閾値を超えるか否かをもってシート状材料の良否判定を行うことが可能である。従って、リチウムイオン二次電池の陽極又は陰極に用いられる導電層の品質管理上有益な検査装置が実現される。
【0010】
本発明による検査装置は、金属シートと、その表面上に形成された活物質層とを有するシート状電極材料の活物質層の厚さ方向の導電率分布を検出する検査装置であって、
空気ギャップを介してシート状電極材料と対向し、シート状電極材料に向けて空気流を噴出するエアー噴射ノズル及び平板電極を有する検査ヘッドと、
前記平板電極と金属シートとの間に電気的に接続され、リアクタンス素子とキャパシタ素子とを有する発振回路と、
前記発振回路に接続され、当該発振回路の発振周波数を検出する手段と、
前記シート材料と検査ヘッドとを2次元的に相対移動させる走査手段とを備え、
前記シート状電極材料に含まれる活物質層の厚さ方向の導電率の変化を発振周波数の変化として検出することを特徴とする。
【0011】
リチウムイオン二次電池の陽極又は陰極を構成するシート状の電極材料と平板電極とを空気ギャップを介して対向配置した場合、等価回路として見ると、空気ギャップによりキャパシタCgが形成され、活物質層は抵抗ReとキャパシタCeとの並列回路とみなされる。従って、金属シートと平板電極との間にキャパシタCgとCeとの合成容量が形成される。一方、活物質層の抵抗値(導電率)が変化すると、キャパシタCeが変化するため、合成容量も変化する。よって、例えば平板電極と金属シートとの間に発振回路を接続すれば、合成容量の変化に対応して発振回路の発振周波数も変化する。従って、発振回路の発振周波数の変化に基づいて活物質層の導電率分布を計測することができる。
【0012】
さらに、陽極又は陰極を構成するアルミニウム又は銅の金属シートと平板電極との間に直流電圧源を接続すれば、活物質の導電率の変化に応じて、キャパシタCgとCeとの合成容量が変化し、合成容量に変化に対応して平板電極に生ずる電圧も変化する。或いは、平板電極と金属シートとの間に所定の周波数の交流電圧を印加すれば、活物質層の導電率の変化に対応して流れる電流のゲイン及び位相が変化する。従って、発振周波数の変化だけでなく、電流のゲイン及び位相の変化や直流電圧の変化に基づいて活物質層の導電率の変化を検出することが可能となる。
【0013】
リチウムイオン二次電池に用いられるシート状電極材料の導電率分布を測定することにより、シート状電極材料の製造工程中において、活物質、導電助剤及びバインダが混合された塗布液の攪拌状態の良否判定が可能となる。すなわち、陽極又は陰極のシート状電極材料の製造工程中に、活物質、導電助剤及びバインダが混合された混合液が作成され、当該混合液がアルミニウムや銅のシート表面に塗布されてシート状電極材料が製造される。この場合、製造工程中の混合液を金属シート上に塗布し、その導電率分布を測定することにより、測定された導電率分布から混合溶液の攪拌時間を調整することが可能になる。例えば、計測された導電率分布の偏差が大きい場合、導電助剤の分布状態が不均一であり、攪拌時間が不足していると判定することができる。この場合、導電層分布の偏差に基づいて追加される攪拌時間を設定することも可能である。このように、シート状電極材料の導電率分布を計測することにより、シート状電極材料の品質管理上有益な情報を得ることができ、リチウムイオン二次電池の製造の歩留りを一層改善することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、検査対象である導電層について、その両面が絶縁性の保護シートで被覆されていても、導電率の変化に起因する合成容量の変化を発振周波数の変化として計測することができる。この結果、粘着性の導電層の導電率分布を容易に検出することが可能になる。
さらに、本発明では、リチウムイオン二次電池の陽極又は陰極として用いられるシート状電極材料について、空気ギャップを介して平板電極を対向配置しているので、活物質層の導電率の変化に起因して測定部の合成容量が変化する。この結果、活物質層の導電率の変化を発振回路の発振周波数の変化として、電圧と電流との間の位相の変化として、或いは直流電圧の変化として検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明による検査装置の基本構成を示す図である。
【図2】導電層を含むシート材料の検査状態を示す図である。
【図3】シート材料の等価回路を示す図である。
【図4】本発明による検査装置の具体的構成を示す図である。
【図5】本発明による別の検査装置の構成を示す図である。
【図6】本発明による別の検査装置の構成を示す図である。
【図7】図6に示す検査装置の電気回路を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は本発明による検査装置の基本構成を示す線図である。検査されるべきシート材料1の両側に第1及び第2の平板電極2a及び2bを配置する。これら第1及び第2の平板電極は、導電層を含むシート材料1を挟むように配置され、シート材料の両面を軽く押圧するように構成する。平板電極2a及び2bは、例えば、直径が2mmの円形又は矩形の金属電極とし、これら金属電極はシート材料1と直交する方向に見て正確に重なり合うように配置する。第1の平板電極2aは、同軸ケーブル3aを介して発振回路4に接続する。また、第2の平板電極2aも同軸ケーブル3bを介して発振回路4に接続する。2本の同軸ケーブル3a及び3bは同一の長さ及び同一の静電容量を有し、その外皮は接地する。
【0017】
本例では、発振回路4は、コルピッツ型の発振回路を用いる。当該発振回路4は、リアクタンス素子Lと、2つのキャパシタC1及びC2の直列接続とを有し、リアクタンス素子と2つのキャパシタとを並列に接続する。リアクタンス素子LとキャパシタC1との結合点をキャパシタC3を介してトランジスタTrのベースに接続する。トランジスタTrのコレクタは周波数カウンタ5に接続し、周波数カウンタ5から発振周波数を出力させる。トランジスタTrのエミッタはキャパシタC1とC2との接続点に接続する。第1の同軸ケーブル3aはリアクタンス素子LとキャパシタC1との接続点に接続し、第2の同軸ケーブル3bはリアクタンス素子とキャパシタC2との接続点に接続する。
【0018】
図2は検査されるべきシート状材料1の構成を示す線図的断面図である。シート状材料1は3層構造体であり、厚さが20μm程度の導電層10と、その両面にそれぞれ貼り合わせた誘電性の第1及び第2の保護シート11及び12とを有する。リチウムイオン二次電池の導電層は、粘着性を有する導電性シート材料であるため、導電層10の両面は例えばポリエチレン等の絶縁性の保護シート11及び12で被覆される。本例では、導電層10の厚さ方向の導電率分布を、2枚の保護シートが貼り合わされた状態で測定する。
【0019】
図3は、導電層を含むシート状材料1の等価回路を示す。導電層10は、誘電性を有する抵抗体とみなされるため、静電容量C10と抵抗Rとの並列接続で置き換えられる。また、導電層10を保護する第1及び第2のポリエチレンの保護シート11及び12は、静電容量がそれぞれC11及びC12のキャパシタとみなすことができる。従って、検査されるべきシート状材料1は、図3に示す等価回路で表され、導電層を含むシート材料の全体のキャパシタをCsとする。
【0020】
ここで、導電層を含むシート材料の全体の合成静電容量Csは以下の式で表される。
1/Cs=1/C11+1/C10+1/C12 (1)式
【0021】
また、面積がSで、厚さがdで、誘電率がεの平板コンデンサの静電容量Cは以下の式で表される。
C=εS/d (2)式
【0022】
シート状材料1の中間に位置する導電層10のバルク方向の導電率が高くなることは、等価的に導電層10の厚さが薄くなることである。また、実際の計測において、導電層10の厚さが薄くなると、導電層10の抵抗値は小さく計測される。さらに、導電層の厚さが薄くなると、(2)式より、導電層10の導電率に応じて、導電層10の静電容量成分が変化し、導電率が高くなる(抵抗値が小さくなる)と静電容量が大きくなり、導電率が低くなる(バルク抵抗が大きくなる)と、静電容量は小さくなる。
【0023】
さらに、導電層10の静電容量が変化すると、合成容量Csも変化する。すなわち、2つの保護シート11及び12の静電容量は一定値をとるので、(1)式より、導電層10の静電容量が大きくなると合成容量Csは大きくなり、導電層の静電容量が小さくなると、合成容量は小さくなる。従って、導電層10の導電率変化に応じて、合成容量が変化し、導電層10の導電率が高くなると、合成容量Csは大きくなり、導電層の導電率が小さくなると、合成容量は小さくなる。
【0024】
次に、図1に示す発振回路4の発振周波数について説明する。シート状材料の静電容量をCsとし、発振回路の2つのキャパシタの容量をCoscとし、同軸ケーブルの静電容量をCcableとすると、発振回路の合成容量C0は、以下の式で表される。
C0=Cs+Cosc+Ccable (3)式
また、発振回路の発振周波数fは、リアクタンス素子のリアクタンスをLとすると、以下の式で表される。
f=1/(2π√LC0) (4)式
【0025】
ここで、発振回路の2つのキャパシタの静電容量Cosc及び同軸ケーブルの静電容量Ccableは一定値に設定されるので、検査されるべきシート状材料に含まれる導電層の導電率の変化に応じて発振回路4の発振周波数fが変化し、導電層10の導電率が高くなるにしたがって発振周波数は小さくなり、導電率が低くなるにしたがって発振周波数は高くなる。この結果、シート状材料に含まれる導電層の導電率の変化を発振周波数の変化として計測することが可能になる。
【0026】
本発明による検査装置では、周波数カウンタ5により、発振回路4の発振周波数を検出する。予め導電層10の導電率が既知のシート状材料を用いて発振周波数を測定し、導電率と発振周波数との関係を予め測定しておく。実際の検査において、周波数カウンタからの発振周波数を検出し、検出された発振周波数を、周波数と導電率との対応関係について照合することにより導電率が計測される。尚、検査装置として使用する場合、許容限界を規定する発振周波数を予め設定し、検出された発振周波数が所定の許容範囲のものか否かを判定することにより、検査の対象となるシート状材料の良否を判定することができる。
【0027】
図4は本発明による検査装置の具体例を示す図である。尚、図1で用いた部材と同一の部材には同一符号を付して説明する。導電率分布が検査されるべきシート状材料1は、第1の搬送ローラ対20及び第2の搬送ローラ対21により第1の方向に間欠的に搬送する。図4(B)に示すように、第1及び第2の平板電極2a及び2bはボールネジ機構22に連結され、当該ボールネジ機構によりシート状材料1の移動方向である第1の方向と直交する第2の方向に連続的に一定の等速度で移動させる。尚、図面を明瞭にするため、平板電極2aを移動させるボールネジだけを図示する。本例では、平板電極は矩形の電極とする。そして、第1及び第2の搬送ローラ対は、平板電極の幅に等しい距離だけシート状材料を間欠的に移動させる。そして、シート状材料1が1回間欠移動するごとに2個の平板電極2a及び2bを同期して第2の方向に連続的に移動させ、シート状材料1の第1の方向の移動と平板電極の第2の方向の移動とを交互に繰り返す。従って、シート状材料1は、1対の平板電極2a及び2bにより2次元的に走査されることになる。
【0028】
第1及び第2の平板電極2a及び2bは同軸ケーブル3a及び3bを介して検査回路23に接続する。検査回路23は、発振回路及び周波数カウンタ並びに周波数と導電率との関係を規定したテーブルを有する。検査回路23は、シート状材料1の移動と平板電極の移動に同期して発振周波数を検出する。尚、搬送ローラ対を駆動するモータの回転量から第1の方向のアドレスを検出して検査回路23に供給し、ボールネジ22に連結したエンコーダ(図示せず)からのアドレス情報により第2の方向のアドレス情報を出力して検査回路23に供給する。従って、検査回路23は、第1及び第2の方向のアドレス情報と検出した発振周波数からシート状材料1の導電率分布を検出することができる。そして、許容範囲の導電率を超えた部位については、その導電率の値とアドレスとをメモリに記憶する。
【0029】
図5は、本発明による別の検査装置を示す図である。本例では、リチウムイオン電池の陽極又は陰極を構成するシート状電極材料の導電率分布を検査する検査装置について説明する。陽極又は陰極のシート状電極材料は、集電体として機能するアルミニウム又は銅のシートに導電層を形成し、導電層を介して活物質層が形成されている。この活物質層において、活物質の表面に炭素系の微粉末の導電助剤が均一に分布していない場合、例えば局所的に導電助剤が多量に分布し或いは導電助剤の分布量が部分的に少ない場合、活物質層の厚さ方向の導電率が変化する。一方、導電助剤の分布状態が不均一な場合、局所的な電流集中が生じ易く、電池の寿命を短縮する原因となってしまう。導電助剤の分布状態が不均一になる原因は、製造時において、活物質と導電助剤及びバインダを混合する混合工程における混合処理の不十分性に起因する。従って、シート状電極材料の製造工程中において、集電体及び活物質層を含むシート状電極材料の導電率分布を測定することにより、活物質層の製造工程における品質管理を一層改善することが可能になる。
【0030】
図5を参照するに、検査されるべきシート状電極材料30に対してエアーギャップを介して非接触の状態で第1及び第2の検査ヘッド40a及び40bを対向配置する。シート状電極材料30は、アルミニウムシート31を有し、その両面に導電層を介して活物質層32a及び32bがそれぞれ形成されている。本例では、アルミニウムシート31と活物質層32a及び32bとの間の導電率分布、すなわち導電層を含む活物質層の厚さ方向の導電率分布を測定し、導電率分布が所定の範囲内か否かを検査する。
【0031】
第1の検査ヘッド40aは、平板電極41aと、2つのエアー噴射ノズル42aを有する。エアー噴射ノズルは、エアー源43aに接続する。平板電極41aは、エアーギャップを介してシート状電極材料30と対向する。エアー噴射ノズル42aはシート状電極材料30に向けてエアーを噴射する。平板電極41aは直流電源44aの正極に接続する。直流電源の負極は接続部材45aを介してアルミニムシート31に電気的に接続する。
【0032】
同様に、第2の検査ヘッド40bは、平板電極41bと、2つのエアー噴射ノズル42bを有する。エアー噴射ノズルはエアー源43bに接続する。平板電極41bは、エアーギャップを介してシート状電極材料30と対向する。エアー噴射ノズル42bはシート状電極材料30に向けてエアーを噴射する。平板電極41bは直流電圧源44bの正極に接続する。直流電圧源の負極は接続部材45bを介してアルミニムシート31に電気的に接続する。
【0033】
検査中、シート状電極材料30をはさんで対向する2つのエアーノズル42a及び42bからエアーを同一の噴射圧で噴射する。これにより、第1の平板電極41aとシート状電極材料30との間の距離がほぼ一定値に維持され、同様に第2の平板電極41bとシート状電極材料30との間の距離も同一の一定値に維持される。よって、第1の平板電極41aとアルミニウムのシート部材31との間にエアーギャップによる静電容量と、活物質層による容量成分及び抵抗成分との直列接続が形成される。同様に、第2の平板電極41bとアルミニウムのシート部材31との間にエアーギャップによる静電容量と、活物質層による容量成分及び抵抗成分との直列接続が形成される。
【0034】
ここで、アルミニウムシート31と平板電極41との間に形成される合成容量Cは、エアーギャップによる容量成分と、活物質層の容量成分との直列接続とみなされる。従って、アルミニウムシート31と平板電極41との間に直流電圧Vが印加されると、合成容量Cに電荷Qが蓄積される。ここで、直流電圧V、合成容量C及び蓄積される電荷Qとの関係は以下の式で規定される。
Q=CV
【0035】
この状態を維持しながら、シート状電極材料30に対して2つの平板電極41a及び41bを2次元的に走査する。走査方法として、図4に示す2次元走査方法を利用することができる。平板電極の走査中に、走査される位置の活物質層の導電率が変化すると、アルミニウムシート31と平板電極41との間の合成容量は、活物質層の導電率の変化に対応して変化する。一方、アルミニウムシート31と平板電極41との間に電荷Qが蓄積されているため、平板電極41a及び41bの電圧は、活物質層の導電率の変化に伴う合成容量の変化に応じて急激に変化し、平板電極に生じる電圧値は活物質層の導電率の変化に対応する。従って、平板電極に発生する電圧変化を検出することにより、活物質層の導電率の変化が検出される。平板電極41aに発生した電圧は、増幅器46aにより増幅され、ハイパスフィルタ47aを介して検査回路48aに入力する。検査回路48aは、検出した電圧値及び走査位置のアドレス情報に基づいて導電率分布を測定する。この際、既知の導電率のシート状材料を用いて導電率と電圧値との関係予め求め、メモリに記憶し、その対応関係と検出された電圧とを対比することにより導電率分布を求めることができる。
【0036】
検査回路48a及び48bは、測定された導電率分布に基づいて良否判定を行う。例えば、同一種類のシート状電極材料について予め導電率を測定し、その平均値を求め、閾値として設定する。そして、測定された導電率分布について設定された閾値からの変化分を用い、閾値を超える変化分が所定の範囲を超えた場合、不良であると判定することができる。例えば、不良と判定された領域の分布状態を把握することにより、活物質と導電助剤とを混合する工程にフィードバックし、さらに混合時間を延長する等の製造上の対策を講じることができる。
【0037】
本例の検査装置において、導電率分布の検出方法として図1に示す発振周波数の変化に基づいて導電率分布を検出する方法で置き換えることができる。この場合、図1に示す発振回路4及び発振周波数を検出する周波数カウンタ5を用い、第1及び第2の平板電極41a及び41bを同軸ケーブル3a及び3bを介して発振回路接続する。この場合、第1の平板電極と第2の平板電極との間には、2つの空気層による容量成分と、2つの活物質層の容量成分及び抵抗成分との直列接続が構成される。そして、活物質層の導電率が変化すると、それに対応して直列接続の合成容量が変化するため、その合成容量の変化におうじて発振周波数が変化する。従って、2つの検査ヘッド40a及び40bを同期して2次元走査すれば、発振周波数の変化から導電率分布が検出される。
【0038】
図6は本発明による検査装置の別の変形例を示す図である。本例では、複数の平板電極をライン状に配列したマルチヘッド方式による検査装置について説明する。図6を参照するに、アルミニウムシート50の表面上に活物質層51が形成されたシート状電極材料52の活物質層の厚さ方向の導電率分布を検出する。勿論、銅のシートに活物質層が形成されたシート状電極材料の検査にも適用される。シート状電極材料52に対して空気ギャップを介して対向するように検査ヘッド53を配置する。検査ヘッド53は、ライン状に配列された複数の平板電極54a〜54n(図面上、符号54a及び54nだけを図示する)を有する。隣接する平板電極間には絶縁部材(図示せず)を介在させ、互いに電気的に絶縁する。尚、検査ヘッド53はシート状電極材料に向けて空気流お噴射するエアーノズル(図示せず)を有し、噴射される空気流により平板電極とシート状電極材料との間の距離を一定に維持する。各平板電極54a〜54nには、電流のゲインと位相を検出するゲイン・位相検出器55a〜55n(符号55a及び55nだけを図示する)をそれぞれ接続する。ゲイン・位相検出器55a〜55nの他端は発振器56に接続する。発振器56は、周波数が例えば数100MHz程度の交流電圧を出力する。発振器56の他端は、アルミニウムシートに50に電気的に接続する。
【0039】
図7は上述した実施例の電気回路を示す図である。図7(A)は検査ヘッドとシート状電極材料の等価回路を示す。平板電極と54と活物質層51との間には空気ギャップが存在し、この空気ギャップはキャパシタCgとして表される。活物質層51はキャパシタCeと抵抗Reとの並列回路として表される。従って、各平板電極とシート状電極材料との測定部は、図7(A)に示す等価回路として表示される。ここで、キャパシタCgは平板電極とシート状電極材料との間の距離に規定され、ほぼ一定値をとる。また、活物質層の静電容量もほぼ一定値をとる。一方、活物質層51の厚さ方向の導電率(抵抗値)が変化すると、測定部の合成容量及び抵抗値が変化する。この場合、各平板電極と金属シートとの間に所定の周波数の交流電圧を印加すると、流れる電流に位相が形成され、この位相は測定部の合成容量に対応する。従って、活物質層の導電率の変化に起因する測定部の合成容量の変化に応じて、測定部を流れる電流のゲイン及び位相が変化する。本例では、活物質層51の導電率の変化をゲイン及び位相の変化として検出する。尚、本方式の場合、平板電極間の干渉が発生しないため、各平板電極に同時に検査電圧を印加して位相分布を測定することが可能である。
【0040】
図7(B)は、検査装置全体の測定回路図である。本例はマルチチャンネル方式の検査装置であり、n個の測定チャンネルにより同時に測定する。各平板電極に、電圧及び電流の位相及びゲインを測定する位相検出器と抵抗Rとの並列回路を接続する。この並列回路に増幅器A−1〜A−nを接続する。すなわち、増幅器A、位相検出器及び平板電極を含む測定チャンネルch-1〜ch-nを並列に接続する。そして、n個の測定チャンネルに発振器56を接続する。
【0041】
発振器56から各測定チャンネルに所定の周波数の電圧を印加すると、各測定チャンネルに電流が発生し、ゲイン・位相検出器により電流のゲイン及び位相が検出される。検出されたゲイン及び位相は、各検出器ごとに出力され、検査回路(図示せず)に入力する。そして、検査回路において測定チャンネルごとに、すなわち、1ラインごとにゲイン及び位相が検出される。また、検査対象であるシート状電極材料を検査ヘッドの延在方向と直交する方向、図6の紙面と直交する方向に一定の速度で移送することにより、シート状電極材料の2次元位相分布が検出される。また、予め導電率の既知のシート状材料を用いてゲイン及び位相と導電率との関係を測定し、メモリに記憶しておく。そして、検出されたゲイン及び位相の値と予め測定された位相と導電率との関係に基づいてシート状電極材料の導電率分布が計測される。
【符号の説明】
【0042】
1 シート状材料
2a,2b 平板電極
3a,3b 同軸ケーブル
4 発振回路
5 周波数カウンタ
10 導電層
11,12 保護シート
20,21 搬送ローラ対
22 ボールネジ機構
23 検査回路
30 シート状電極材料
31 アルミニウムシート
32a,32b 活物質層
40a,40b 検査ヘッド
41a,41b 平板電極
42a,42b エアー噴射ノズル
43a,43b エアー源
44a,44b 直流電圧源
45a,45b 接続部材
46a,46b 増幅器
47a,47b ハイパスフィルタ
48a,48b 検査回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面が絶縁性保護シートにより被覆されている導電層の導電率分布を計測する検査装置であって、
導電層及び絶縁性保護シートを含むシート材料をはさんで互いに対向するように配置した第1及び第2の平板電極と、
前記第1の平板電極と第2の平板電極との間に接続され、リアクタンス素子とキャパシタ素子とを有する発振回路と、
前記発振回路に接続され、当該発振回路の発振周波数を検出する手段と、
前記シート材料と第1及び第2の平板電極とを2次元的に相対移動させる走査手段とを備え、
前記導電層の導電率の変化を発振周波数の変化として検出することを特徴とする検査装置。
【請求項2】
請求項1に記載の検査装置において、前記第1の平板電極と第2の平板電極との間に形成される合成静電容量と前記発振回路のキャパシタ素子とが並列接続され、検査中に、前記導電層の導電率の変化に応じて前記平板電極間の合成静電容量が変化し、当該合成静電容量の変化を発振周波数の変化として検出することを特徴とする検査装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の検査装置において、前記走査手段は、前記シート材料を第1の方向に間欠的に移動させる第1の駆動手段と、前記第1及び第2の平板電極を第1の方向と直交する第2の方向に連続的に移動させる第2の駆動手段とを有し、検査されるべきシート材料のほぼ全面を第1及び第2の平板電極により2次元的に走査することを特徴とする検査装置。
【請求項4】
金属シートと、その表面上に形成された活物質層とを有するシート状電極材料の活物質層の厚さ方向の導電率分布を検出する検査装置であって、
空気ギャップを介してシート状電極材料と対向し、シート状電極材料に向けて空気流を噴出するエアー噴射ノズル及び平板電極を有する検査ヘッドと、
前記平板電極と金属シートとの間に電気的に接続され、リアクタンス素子とキャパシタ素子とを有する発振回路と、
前記発振回路に接続され、当該発振回路の発振周波数を検出する手段と、
前記シート材料と検査ヘッドとを2次元的に相対移動させる走査手段とを備え、
前記シート状電極材料に含まれる活物質層の厚さ方向の導電率の変化を発振周波数の変化として検出することを特徴とする検査装置。
【請求項5】
金属シートと、その両方の表面上に形成された活物質層とを有するシート状電極材料の活物質層の厚さ方向の導電率分布を検出する検査装置であって、
空気ギャップを介してシート状電極材料の第1の表面と対向し、シート状電極材料に向けて空気流を噴出するエアー噴射ノズル及び第1の平板電極を有する第1の検査ヘッド、及び、空気ギャップを介して前記シート状電極材料の第2の表面と対向し、シート状電極材料に向けて空気流を噴出するエアー噴射ノズル及び第2の平板電極を有する第2の検査ヘッドと、
前記第1の平板電極と第2の平板電極との間に電気的に接続され、リアクタンス素子とキャパシタ素子とを有する発振回路と、
前記発振回路に接続され、当該発振回路の発振周波数を検出する手段と、
前記シート材料と第1及び第2の検査ヘッドとを2次元的に相対移動させる走査手段とを備え、
前記シート状電極材料に含まれる活物質層の厚さ方向の導電率の変化を発振周波数の変化として検出することを特徴とする検査装置。
【請求項6】
金属シートと、その表面上に形成された活物質層とを有するシート状電極材料の活物質層の厚さ方向の導電率分布を検出する検査装置であって、
空気ギャップを介してシート状電極材料と対向し、シート状電極材料に向けて空気流を噴出するエアー噴射ノズル及び平板電極を有する検査ヘッドと、
前記前記金属シートと平板電極との間に接続した直流電圧源と、
前記平板電極に接続され、シート状電極材料の活物質層の導電率の変化に応じて発生する電圧変化を検出する電圧検出手段と、
前記シート状電極材料と平板電極とを2次元的に相対移動させる走査手段とを備え、
前記シート状電極材料の活物質層の厚さ方向の導電率分布を電圧変化として検出することを特徴とする検査装置。
【請求項7】
金属のシートと、その表面上に形成された活物質層とを有するシート状電極材料の活物質層の厚さ方向の導電率分布を検査する検査装置であって、
シート状電極材料と空気ギャップを介して対向するように配置され、ライン状に配列した複数の平板電極を有すると共にシート状電極材料に向けて空気流を噴出するエアー噴射ノズルを有する検査ヘッドと、
各平板電極に所定の周波数の交流電圧を印加する発振器と、
検査ヘッドの各平板電極にそれぞれ接続され、前記平板電極と金属シートとの間に生じる電流と電圧との間の位相を検出する位相検出器とを具え、
前記位相検出器から出力される位相情報に基づいて前記シート状電極材料の活物質層の導電率分布を検出することを特徴とする検査装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−83117(P2012−83117A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−227112(P2010−227112)
【出願日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【出願人】(000115902)レーザーテック株式会社 (184)
【Fターム(参考)】