説明

検査計測装置および検査計測方法

【課題】
荷電粒子ビームを用いた計測装置ないし検査装置において、検査の高感度と高安定性とを両立する。
【解決手段】
帯電制御電極A420の被計測試料ないし検査試料側に帯電制御電極B421を設置し,試料の帯電状態に応じて、帯電制御電極Bの帯電制御電極制御部423から一定の電圧を与えることにより、検査前に形成した試料表面の帯電状態と電位障壁の変動を抑制する。帯電制御電極制御部66によりリターディング電位が印加され、試料と同電位に調整される帯電制御電極A420の更に下部に帯電制御電極B421が設けられることにより、一次電子ビーム19が照射されるウェハ9などの試料から放出された二次電子409の試料への戻り量を調整することが可能になり,高感度な検査条件を検査中安定的に維持することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は,半導体装置や液晶等の基板に形成された微細な回路パターン等を荷電粒子ビームにより計測・検査する技術に関わり、特に、試料表面の帯電状態を制御して上記の計測・検査を行う荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置は,ウェハ上に主にホトマスクに形成されたパターンをリソグラフィ処理及びエッチング処理により転写する工程を繰り返すことにより製造される。半導体製造装置において,エッチング処理など各種加工処理の良否,異物発生等は,半導体装置の歩留りに大きく影響を及ぼす為,異常や不良発生をなるべく早期に検知するために製造過程のウェハ上のパターンを検査・計測することが重要である。従って、現在の半導体装置の製造ラインでは、工程の途中でウェハ上に形成された回路パターンの状態を検査・計測する技術が重要な役割を担っている。従来この検査・計測技術は,光学式顕微鏡をベースにしたものが大半であったが,近年の半導体装置の微細化,製造プロセスの複雑化に対応するため,電子顕微鏡をベースにした検査・計測装置が普及しつつある。特に半導体回路パターンの寸法管理において,電子顕微鏡をベースにした測長SEMが,現在,製造プロセスに不可欠な品質管理手段となっている。微細パターンの寸法管理を行う際,高い面分解能,計測精度や再現性が要求される同時に,計測する際に回路パターンへのダメージを抑制することも不可欠である。これらの要求を両立するには,一次電子線を高いエネルギーで加速させ,計測対象となる半導体パターンを含む試料に印加するリターディング電圧で試料に
入射する直前前に減速させことが,一般的である。
【0003】
しかし,一次電子線が絶縁物を含む半導体装置の表面を走査すると,走査条件によって表面の帯電状態が変化することがある。これによって次のことを含む障害事項が挙げられる。(1)パターン部から放出した前記二次信号の検出率の変動が生じ,二次信号像では異常コントラストが発生する。(2)一次電子の走査位置が帯電の変化に従い変動し,パターン寸法の計測精度や再現性が劣化する恐れがある。したがって,計測前に半導体装置の帯電状態を検知し計測条件にフィードバックすること,計測中に半導体装置表面の帯電状態を維持することが重要である。
【0004】
また,半導体装置の検査では,光学式の検査装置では検出困難な,導通,非道通などの電気的特性不良に対する検査のニーズが高まり,電子線式の検査装置が普及しつつある。この電子線式検査装置による半導体装置の電気的特性不良の検出は,ウェハ表面に形成された回路パターンを帯電させ,それにより顕在化されるコントラストを用いて行われる。これは電位コントラスト法といわれ,半導体装置の電気的特性不良を検出するのに有効な手段である。より高い感度で上記不良を検出するには,半導体装置に適切な帯電を与えるには不可欠である。
【0005】
被計測・検査試料の帯電状態を高精度に制御する手法として,例えば,特許文献1には、試料に対向配置された帯電制御電極と呼ばれる電極に所望の電圧を印加し、更に一次電子線用電子源とは異なる第2電子源から、電子線を試料に照射して試料の帯電電位を制御する技術が開示されている。また、特許文献2には、表面電位計測器(Surface Potential Meter: SPM)を用いて表面電位を計測し,その結果に基づき半導体装置表面への予備帯電・除電条件や検査・計測条件を最適化する技術が開示されている。
【0006】
帯電制御電極を用いた試料表面の電位制御の原理について、図4を参照して説明する。図4は、導通欠陥が内部に形成されたコンタクトホールを検査試料とした場合の、被検査試料と帯電制御電極との配置関係を示す模式図である。被検査試料は、図4でウェハ400断面図として示すように,Si基板404にSiO膜405を形成させ,コンタクトホール(穴)を形成し、穴の内部にメタルを埋め込んだ構造を有している。図の参照番号401が正常部,402が導通欠陥である。
【0007】
ウェハ400上には、電子源10と帯電制御電極407とが配置される。帯電制御電極407には、一次電子ビームおよび発生する二次荷電粒子を通過させるための孔を備えている。電子源10と帯電制御電極407との間には各種のレンズが設けられるが、図4では図示を省略する。17は反射板、411は二次電子検出器である。ウェハ400には、リターディング電位406が印加され、帯電制御電極407には、ウェハ400を基準とした所定電位(帯電制御電極電位)408が印加されている。ウェハに到達した一次電子ビーム410は、ウェハと相互作用して二次荷電粒子を発生する。
【0008】
電位コントラスト法においては、正常部と欠陥部の差は電位コントラスト像上のコントラスト差として検出される。コントラストの差は、正常部と欠陥部で電気抵抗が異なるために帯電電位の差が生じ、その結果、検出される二次電子数に差が出ることに起因する。従って、電位コントラスト法により欠陥を検出するためには,ウェハを帯電させ,正常部と欠陥部との間に十分な帯電電位差を形成する必要がある。ウェハ表面は(1)正帯電(Positive Voltage Contrast, PVC)または(2)負帯電(Negative Voltage Contrast, NVC)のいずれに帯電させることも可能であり、帯電の極性は、検査対象となるウェハの構造や検査条件に応じて使い分ける。ここでは、ウェハ負帯電の原理について説明する。
【0009】
帯電制御電極407の電位408とウェハ400の電位406によって、帯電制御電極407とウェハ400の間には電位分布が形成される。一次電子ビームの光軸に沿った電位分布の変化を図4のカーブ413として示す。カーブ413に示されるように、電位分布(ポテンシャル分布)には、電位が最小となる位置(=電位が負の極大となる位置)が存在し、この位置での電位(以下、最小電位と称する)とウェハ表面電位間の電位差412が,ウェハ表面から放出される二次信号の電位障壁として作用する。
一次電子ビーム照射によってウェハ400から放出した二次信号409のうち,運動エネルギーが電位障壁412より高い成分は,その障壁を乗り越えて検出器411によって検出される。一方,電位障壁412を乗り越えない運動エネルギーが低い二次信号成分は,ウェハ表面414に戻され,ウェハを負に帯電させる。ウェハを正に帯電させる場合には、帯電制御電極407に印加する電圧を適宜調整することにより、ウェハから出ていく二次電子数が、試料に到達する一次電子ビームに含まれる電子数よりも多くなるようにする。これにより、ウェハ表面を正に帯電することができる。
特許文献3には、上で説明した帯電制御電極を用いた応用発明が開示されている。特許文献3に記載の発明によれば、一次電子線の試料への入射角が電子線光軸から偏向(離軸)すると試料表面に戻される二次荷電粒子が増大し、よって試料表面の電荷分布の制御が困難になる。これを解消するため、特許文献3では、帯電制御電極を3枚電極構造とし、試料に最近接する電極(すなわち最も下側の電極)をリターディング電圧と同じ電圧に設定し、中間電極を光軸の左右で分割して、分割した電極に印加する電圧を左右で変えることにより、一次電子ビームの入射角のずれを解消している。
【0010】
【特許文献1】特開2000-208579号公報
【特許文献2】国際公報WO2003/7330号公報
【特許文献3】US 6,586,736B1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の電位コントラスト法における帯電制御電極の制御手法の問題点について、電位障壁の変動という観点から説明する。
【0012】
図5(A)には、図4に示した模式図に関して帯電制御電極周囲の構造を拡大して示した図である。帯電制御電極407に所定の電位を印加すると、一次電子ビーム410の光軸を中心とする同心円状の電位分布が形成される。このような一次電子ビーム410の光軸を中心とする電位分布のことを軸上ポテンシャルと呼ぶ場合もある。図5の413は、軸上ポテンシャルのある等電位面の断面を示す等電位線である。一方、帯電制御電極407に印加する電位によって、一次電子ビーム410の光軸から外れた領域にも電位分布が形成される。このような、一次電子ビーム光軸の周囲に形成される電位分布のことを軸外ポテンシャルと呼ぶ場合もある。図5の418は、軸外ポテンシャルのある等電位面の断面を示す等電位線である。
【0013】
さて、上述のとおり、電位コントラスト法においては、正常部と欠陥部の差は電位コントラスト像上のコントラスト差として検出される。欠陥部を正常部よりも負に帯電させて検査を行うような試料の場合には、電位障壁412を乗り越える二次電子数は、欠陥部の方が正常部よりも多くなるため、電位コントラスト像上では明るく見える。この正常部と欠陥部の明るさの差(コントラスト)は,欠陥部/正常部の帯電状態および電位障壁412の深さで決まる。また,高い安定性および再現性を実現するには,検査中に電位障壁412を一定に維持することにより最適な帯電状態を保つことが必須である。
【0014】
図5(B)には、欠陥部402及び正常部401から放出される二次電子のエネルギー分布を対比して示す。正常部から放出される二次電子のエネルギー分布に比べて、欠陥部から放出される二次電子のエネルギー分布の方が、電位障壁412よりもエネルギーの高い成分が、より多く含まれていることが分かる。従って、電位障壁412の大きさを制御することにより、電子線画像のコントラスト差を制御できることが分かる。
【0015】
図5(A)に示す構造の帯電制御系では、帯電制御電極407への印加電位は、被検査試料400の電位の制御目標値と試料400の印加電位との差に応じて定める。つまり、帯電制御電極407には、リターディング電位406と試料電位の制御目標値との差分が印加される。しかしながら、実験の結果、帯電制御電極407への設定電位408により,ウェハ表面414と電極407の間で,光軸から離れた方向に,軸上ポテンシャルで定まる電位障壁412よりも深い電位障壁が形成されることが判明した。
【0016】
なおここで、「帯電制御系」とは、制御装置や制御電源など、帯電制御電極というハードウェア以外の構成要素も含んだ概念という意味で使用した。一次電子ビーム照射により発生する二次電子は、発生時のエネルギーによってコサイン分布するため、光軸に近い方向へ出射されるだけではなく、軸外へも出射される。このような出射された二次電子428は、前述の軸外の電位障壁により試料表面に戻され、コンタクトホール、ウェハを経由して、電制御電極407の設定電位408に向かって進む。
【0017】
これにより、試料と帯電制御電極の間に形成される電位障壁412が、意図していた値から変化してしまい,取得される電位コントラスト像のコントラストが、意図していた値から変動する。よって検査感度が不安定になり、検査の再現性も劣化する。
【0018】
次に、図5(C)を用いて、特許文献3に開示された帯電制御系の問題点について説明する。特許文献3に開示された帯電制御系では、帯電制御電極が,電極431,432,433により構成される。検査時(すなわち一次電子ビームを照射して画像データを取得する際)、電極431には,被検査試料が載置された試料ホルダに印加する電圧406と同様な電圧、すなわちリターディング電位が印加されており、検査中に半導体装置表面に形成される帯電が抑制される。電極433は接地電位に保持される。電極432は,2分割されており(432a,432b)、それぞれに違う電圧(435,436)が印加される。電子線が半導体装置400に照射される際に電子光学軸外の領域に出射された2次電子の軌道を収束して、2次電子の検出効率を上げることが狙いである(例えば,2次信号437)。しかし、検査前には、より高いコントラストを得るため半導体装置表面に荷電粒子線照射によるプリチャージを実施する場合が多い。これにより、半導体装置表面の帯電電位が変化して半導体装置表面414と電極431間の電界分布が経時的に変化し、プリチャージ前に設定した電子ビームの照射条件と同じ光学条件で電子ビームを照射しても、検査中に2次信号の検出率や半導体装置表面の帯電が変わってしまう可能性がある。
【0019】
また,半導体装置表面にはパターンが形成されているため,電子ビームを走査しながら画像を取る際,帯電特性の異なる領域(例えば領域414aと領域414b)を跨って電子ビームを照射する場合が生じる。帯電特性が変われば、結果として得られる帯電電位も変わるため、各領域から放出される2次電子の軌道は、各領域の帯電状態に応じて変化する。これを図5(D)を用いて説明する。領域443は,半導体装置上密集なホールパターンが有する領域で,領域444はその周辺のパターンが存在しない領域を示す。電子ビームは図5(D)に示した矢印にそって紙面を上下に走査する。連続ステージ移動により、試料400は横方向に動くため、電子ビームは、例えば、領域444→443→444の順に上下の走査範囲内に照射される。図5(D)中の実線の矢印は電子ビームが試料に到達していることを意味し、破線はブランキングなどによって電子ビームが試料に到達していないことを意味する。
【0020】
このように電子ビーム19の走査領域が帯電特性が異なる領域443と444を跨っている場合、2つの領域には異なる帯電状態が形成され、これにより2領域間には横方向の電界が形成される。これにより,領域443内で発生した2次電子は一定方向に曲げられる。図5(C)に示す電極構成においては、例えば位置441から放出される2次電子軌道にあわせて電極432a,432bの電圧を調整すれば、位置441から放出される2次電子に対しては効率よく検出することができる(例えば2次信号437)。しかし、領域443の(位置441に対する)逆側の端部である走査位置442から放出される2次電子に対しては,2次電子は同じ方向に曲げられるため,上記電極432a,432bの電圧設定条件で2次信号の検出効率が悪化してしまう(例えば2次信号438)。また,電極を分割すること自体,検査用電子線のビームサイズや軌道に影響を与えるため,分解能の劣化や走査歪みなどが避けられない。
【0021】
また、現状では、電子ビームの走査領域程度の微小領域の帯電状態を正確に計測する有効な手段が存在しない。従って、電子線の照射領域の帯電状態をモニターして電極432への印加電圧にフィードバックするような制御は現状では不可能であり、帯電制御電極の印加電圧値の制御は経験則に頼らざるを得ない。よって、欠陥コントラスト強調のための最適な帯電状態の形成条件や適切な検査条件を見つけるためには多くの時間を要し、仮に最適な帯電状態の形成条件が見つかったとしても、その形成条件が必ずしも検査中に安定な帯電状態を維持し得るような条件であるとは限らない。
【0022】
以上、従来の計測装置ないし検査装置においては、検査の高感度と高安定性とを両立することが困難であるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0023】
前述の通り、正常部と欠陥部の明るさの差(コントラスト)は,欠陥部/正常部の帯電状態および電位障壁412の深さで決まる。本発明においては、従来の帯電制御電極Aの下部(被計測試料ないし検査試料側)に帯電制御電極Bを設置し,試料の帯電状態に応じて一定の電圧を与えることにより、検査前に形成した試料表面の帯電状態と電位障壁の変動を抑制する。試料と同電位に調整された電極の更に下部に電極が設けられることにより、試料から放出された二次電子の試料への戻り量を調整することが可能になり,高感度な検査条件を検査中安定的に維持することが可能となる。ここで、"従来の帯電制御電極"とは、試料と同じリターディング電位が印加されうる電極を意味し、図5(C)に示した従来の電極構造で言えば、電極431に相当する。
【0024】
本発明に係る帯電制御電極A,Bには、試料に形成する帯電状態に応じて種々の電位が印加される。例えば、2次電子が試料に戻らないような引き上げ電界を試料と帯電制御電極間に形成すれば、試料表面を正に帯電(PVC)させることも可能である。2次電子が試料に戻されるような減速電界を形成すれば、試料表面は負に帯電(NVC)する。なお、本明細書において、帯電制御電極A,Bをそれぞれ、第一、第二の帯電制御電極と呼ぶ場合があることに留意されたい。
【発明の効果】
【0025】
検査領域に適切な帯電状態を作るため,本発明の検査・計測装置に半導体装置の帯電を計測できる手段を用いて,検査・計測対象となる領域の電気特性を把握することがでる。また、それに応じて帯電・除電手段の設定条件を最適化することが可能となり,検査・計測にとって望ましい帯電状態を作ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】実施例1に係るリターディング方式の走査型電子線検査・計測装置の概略図である。
【図2】実施例1に係る検査・計測のシーケンスを説明する図である。
【図3】実施例2に係るプリチャージ/除電の設定条件と半導体装置上各領域の帯電電位の相関データを示す図である。
【図4】半導体装置のSEM画像を説明する図である。
【図5】電位コントラストの原理を説明する図である。
【図6】本発明のコントラストの最適化と検査・計測中帯電の安定化を両立する帯電制御電極構造を説明する図である。
【図7】実施例2に係る、図3に示したプリチャージの相関データを用いた検査・計測シーケンスを説明する図である。
【図8】実施例3に係る半導体装置の帯電電位を計測する原理、及びシーケンスを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下,本発明の実施例の検査方法及び装置について,図面を参照しながら詳細に説明するが、まず図6により、本発明の基本的な構成を説明する。
図6に示すように、従来の帯電制御電極A420の下部、すなわち被計測試料ないし検査試料側に、帯電制御電極B421を設置し,試料である半導体装置400の帯電状態に応じて一定の電圧を、制御電源422から与えることにより、検査前に形成した試料表面の帯電状態と電位障壁の変動を抑制する。試料と同電位に調整された帯電制御電極A420の更に下部に帯電制御電極B421が設けられることにより、試料から放出された二次電子の試料への戻り量を調整することが可能になり,高感度な検査条件を検査中安定的に維持することが可能となる。
【0028】
また,図6に示すように帯電制御電極B421に半導体装置400の帯電状態に応じて、制御電源422によって印加する電圧を調整することで,一次電子線410の照射により発生した二次信号409のうち半導体装置に引き戻す量と戻る位置を制御することができ,検査・計測中、半導体装置400の帯電状態を一定に維持することが可能となる。更に,帯電制御電極と半導体装置間の電位差が一定の範囲に制御することが可能になるため,検査・計測中、電位障壁が常に一定になることも可能となり,高い再現性を保ちながら,高感度の検査・計測が実現できる。
【実施例1】
【0029】
図1に,第一の実施例に係る検査装置の構成を示す。本実施例の検査装置は,試料の表面電位計測手段と,帯電制御手段とを備えた走査電子顕微鏡装置(SEM)であり,検査SEM,レビューSEM,測長SEM等への応用が可能である。
【0030】
図1に示されるSEMは,室内が真空排気されるチャンバー2と,チャンバー2内に試料としてのウェハ9を搬送するための予備室となる試料交換室62を備えており,この予備室は,チャンバー2とは独立して真空排気できるように構成されている。また,検査装置はチャンバー2と予備室の他に制御部6,画像処理部5から構成されている。制御部6は本装置の全体の動作を制御する装置制御部の機能を有し、通常、処理部(Central Processing Unit, CPU)を有する汎用のコンピュータなどが用いられる。
【0031】
チャンバー2内は大別して,電子光学系3,後で詳述する帯電制御部,検出部7,試料室8,光学顕微鏡部4から構成されている。本実施例において,チャンバー2とは,試料室8を含んだ真空容器全体を意味し,上述した電子光学系3,帯電制御部,検出部7,光学顕微鏡部4は,真空容器内の減圧された状態で動作する。試料室8は,チャンバー2内で試料ステージが駆動する空間を示す概念であり,図1の点線で囲われた領域が試料室に相当する。被検査試料としては,配線パターンや回路パターンが形成された半導体ウェハ,ウェハの一部分を割断して取りだした試料片,或は回路が形成された半導体チップなどがあるが,磁気ヘッドや記録媒体,液晶パネル等,半導体装置以外の試料の電位観察も当然可能である。
【0032】
電子光学系3は,電子源10,電子ビーム引き出し電極11,コンデンサレンズ12,ブランキング用偏向器13,走査偏向器15,絞り14,対物レンズ16,二次信号収束レンズ69,反射板17,E×B偏向器18から構成されている。検出部7のうち,検出器20がチャンバー2内の対物レンズ16の上方に配置されている。検出器20の出力信号は,チャンバー2の外に設置されたプリアンプ21で増幅され,AD変換機22によりデジタルデータとなる。
【0033】
帯電制御部は,帯電制御電極、帯電制御電極制御部、及び帯電制御電源から構成され、図1に示す実施例の構成においては、ステージに対向して設置した帯電制御電極A420,B421,それぞれの帯電制御電極制御部66,423,電源67,424から構成されている。なお、図1においては、図6中の制御電源422が、帯電制御電極制御部423と電源424として示されている点留意されたい。
【0034】
電子ビームが照射される局所領域近傍(例えば、上記半導体装置のパターン部やその周辺領域など)の帯電状態を計測する手段を装置に備えると、光や電子源を含む帯電・除電手段で作った帯電状態を計測し,帯電・除電の設定条件にフィードバックし,検査領域に適切な帯電状態を作ることが実現できる。例えば,計測した半導体装置の帯電状態を検査・計測する際、半導体装置に印加する電圧(図6における406)にフィードバックすることで,半導体装置及び帯電制御電極間常に一定な電界分布を維持することが可能となり,設定条件通りにて検査・計測ができる。
【0035】
更に、予備帯電・除電手段は,電子源または光源450,レンズ451,制御電極452から構成されている。電子源または光源450から放出した電子または光は,レンズを通してその広がりが調整され,制御電極452を通して半導体装置に照射する。制御電極452に印加する電圧は,制御部6により制御される。また,電極452に流れる電流は,必要に応じて演算部48により解析してその結果を制御部6に送ることもできる。
【0036】
検出部7は,真空排気されたチャンバー2内の検出器20,チャンバー2の外のプリアンプ21,AD変換器22,光変換器23,光ファイバ24,電気変換器25,高圧電源26,プリアンプ駆動電源27,AD変換器駆動電源28,逆バイアス電源29から構成されている。検出部7のうち,検出器20がチャンバー2内の対物レンズ16の上方に配置されている。検出器20,プリアンプ21,AD変換器22,光変換器23,プリアンプ駆動電源27,AD変換器駆動電源28は,高圧電源26により正の電位にフローティングされている。
【0037】
試料室8は,試料台30,Xステージ31,Yステージ32,ウェハホルダ33,位置モニタ用測長器34,光学式高さ測定器35から構成されている。ウェハホルダ33上にウェハ9が置かれる。
【0038】
光学顕微鏡部4は,チャンバー2の室内における電子光学系3の近傍にあって,互いに影響を及ぼさない程度離れた位置に設備されており,電子光学系3と光学顕微鏡部4の間の距離は既知である。そして,Xステージ31またはYステージ32が,電子光学系3と光学顕微鏡部4との間の既知の距離を往復移動するようになっている。光学顕微鏡部4は,光源40,光学レンズ41,CCDカメラ42により構成されている。
【0039】
装置各部の動作命令および動作条件は,制御部6から入出力される。制御部6は,装置各部,例えば電子光学系3やXステージ31,Yステージ32その他の制御パラメータや動作条件が格納されたデータベースを備えており,電子ビーム発生時の加速電圧,電子ビーム偏向幅,偏向速度,検出装置の信号取り込みタイミング,試料台移動速度,二次電子収束レンズの設定等々の条件が目的に応じて選択され,装置各部の制御が実行される。装置各部の動作は,装置ユーザがユーザインタフェースを介してマニュアル操作で実行しても良いし,制御部6に予め動作条件を設定しておき,設定に従って動作させるようにしても良い。制御部6は,補正制御回路43を用いて,位置モニタ用測長器34,光学式高さ測定器35の信号から位置や高さのずれをモニタし,その結果より補正信号を生成し,電子ビームが常に正しい位置に照射されるようレンズ電源45や走査偏向器44に補正信号を送る。二次信号で形成されたSEM像からシェーディングの具合を解析し,その情報を制御部6を通して,シェーディングが出ないように二次信号収束レンズの制御部70に補正信号を送る。
【0040】
ウェハ9の画像を取得するためには,細く絞った電子ビーム19を該ウェハ9に照射し,二次電子又は反射電子或はその両者51を発生させ,これらを電子ビーム19の走査,必要がある場合ステージ31,32の移動と同期して検出することでウェハ9表面の画像を得る。
【0041】
電子源10には,拡散補給型の熱電界放出電子源が使用されている。この電子源10を用いることにより,従来の,例えばタングステン(W)フィラメント電子源や,冷電界放出型電子源に比べて安定した電子ビーム電流を確保することができるため,明るさ変動の少ない電位コントラスト像が得られる。電子ビーム19は,電子源10と引き出し電極11との間に電圧を印加することで電子源10から引き出される。電子ビーム19の加速は,電子源10に高電圧の負の電位を印加することでなされる。
【0042】
これにより,電子ビーム19は,その電位に相当するエネルギーで試料台30の方向に進み,コンデンサレンズ12で収束され,さらに対物レンズ16により細く絞られて試料台30上のX,Yステージ31,32の上に搭載されたウェハ9に照射される。なお,ブランキング用偏向器13には,走査信号およびブランキング信号を発生する走査信号発生器44が接続され,コンデンサレンズ12および対物レンズ16には,各々レンズ電源45が接続されている。
【0043】
ウェハホルダ33上のウェハ9には,リターディング電源36、リターディング電源制御部68により負の電圧(リターディング電圧Vr)を印加できるようになっている。この
リターディング電源36からの電圧を調節することにより一次電子ビームを減速し,電子源10の電位を変えずにウェハ9への電子ビーム照射エネルギーを最適な値に調節することができる。
【0044】
ウェハ9上に電子ビーム19を照射することによって発生した二次電子又は反射電子或はその両者51は,ウェハ9に印加された負の電圧により加速される。ウェハ9上方に,二次信号集束レンズ69が配置され,これにより加速された二次電子又は反射電子或はその両者51はレンズ69により広がりを調整する。レンズ69を制御する制御部70は,試料に印加する負の電圧及び帯電制御電極65の設定条件を含む一次電子線の光学条件に連動させて可変させることができる。また,E×B偏向器18が配置され,加速された二次電子又は反射電子或はその両者51は所定の方向へ偏向される。E×B偏向器18にかける電圧と磁界の強度により,偏向量を調整することができる。また,この電磁界は,試料に印加した負の電圧に連動させて可変させることができる。レンズ69及びE×B偏向器18により二次電子又は反射電子或はその両者51の広がり及び進行方向が調整され,所定の条件で反射板17に衝突する。この反射板17に加速された二次電子又は反射電子或はその両者51が衝突すると,反射板17からは第二の二次電子又は反射電子或はその両者52が発生する。
【0045】
上記反射板17に衝突して発生した第二の二次電子および後方散乱電子52は,この吸引電界により検出器20に導かれる。検出器20は,電子ビーム19がウェハ9に照射されている間に発生した二次電子又は反射電子或はその両者51がその後加速されて反射板17に衝突して発生した第二の二次電子又は反射電子或はその両者52を,電子ビーム19の走査のタイミングと連動して検出するように構成されている。検出器20の出力信号は,チャンバー2の外に設置されたプリアンプ21で増幅され,AD変換器22によりデジタルデータとなる。AD変換器22は,検出器20が検出したアナログ信号をプリアンプ21によって増幅された後に直ちにデジタル信号に変換して,画像処理部5に伝送するように構成されている。検出したアナログ信号を検出直後にデジタル化してから伝送するので,高速で且つSN比の高い信号を得ることができる。なお,ここでの検出器20として,例えば,半導体検出器を用いてもよい。
【0046】
X,Yステージ31,32上にはウェハ9が搭載されており,検査実行時にはX,Yステージ31,32を静止させて電子ビーム19を二次元に走査する方法と,検査実行時にX,Yステージ31,32をY方向に連続して一定速度で移動されるようにして電子ビーム19をX方向に直線に走査する方法のいずれかを選択できる。ある特定の比較的小さい領域を検査する場合には前者のステージを静止させて検査する方法,比較的広い領域を検査するときは,ステージを連続的に一定速度で移動して検査する方法が有効である。なお,電子ビーム19をブランキングする必要がある時には,ブランキング用偏向器13により電子ビーム19が偏向されて,電子ビームが絞り14を通過しないように制御できる。
【0047】
位置モニタ用測長器34として,本実施例ではレーザ干渉による測長計を用いた。Xステージ31およびYステージ32の位置が実時間でモニタでき,制御部6に転送されるようになっている。また,Xステージ31,Yステージ32,そしてウェハホルダ33のモータの回転数等のデータも同様に各々のドライバから制御部6に転送されるように構成されており,制御部6はこれらのデータに基いて電子ビーム19が照射されている領域や位置が正確に把握できるようになっており,必要に応じて実時間で電子ビーム19の照射位置の位置ずれを補正制御回路43より補正するようになっている。また,ウェハ毎に,電子ビームを照射した領域を記憶できるようになっている。
【0048】
光学式高さ測定器35は,電子ビーム以外の測定方式である光学式測定器,例えばレーザ干渉測定器や反射光の位置で変化を測定する反射光式測定器が使用されており,X,Yステージ上31,32に搭載されたウェハ9の高さを実時間で測定するように構成されている。本実施例では,光源37から照射される白色光をウェハ9に照射し,反射光の位置を位置検出モニタにて検出し,位置の変動から高さの変化量を算出する方式を用いた。この光学式高さ測定器35の測定データに基いて,電子ビーム19を細く絞るための対物レンズ16の焦点距離がダイナミックに補正され,常に非検査領域に焦点が合った電子ビーム19を照射できるようになっている。また,ウェハ9の反りや高さ歪みを電子ビーム照射前に予め測定しており,そのデータをもとに対物レンズ16の検査領域毎の補正条件を設定するように構成することも可能である。
【0049】
画像処理部5は,画像記憶部46,計算機48,モニタ50により構成されている。計算機48には,検出器7の検出結果を基に被検査試料表面の帯電電位を計算するためのソフトウェア及び,検出部7の検出結果を処理して被検査試料の欠陥検査を行うためのソフトウェアが格納されており,帯電電位検出演算及び欠陥検査のための演算処理が実行される。また,図示されてはいないが,モニタ50には,装置ユーザが装置の制御系に対して必要な情報を設定入力するための情報入力手段が備えられており,モニタ50と情報入力手段とにより装置のユーザインタフェースを構成している。上記検出器20で検出されたウェハ9の画像信号は,プリアンプ21で増幅され,AD変換器22でデジタル化された後に光変換器23で光信号に変換され,光ファイバ24によって伝送され,電気変換器25にて再び電気信号に変換された後に画像記憶部46に記憶される。
【0050】
画像形成における電子ビームの照射条件および,検出系の各種検出条件は,あらかじめ検査条件設定時に設定され,ファイル化されてデータベースに登録されている。
【0051】
次に,図2を用い,本実施例の装置構成で,半導体装置の検査・計測を行うシーケンスについて説明する。半導体装置を試料交換室62経由で試料室試料室8に搬送される(200)。次に,プリチャージのため,リターディング電圧Vr,帯電制御電極A,Bに初期電圧を与えて(201),所要な領域に対してプリチャージ若しくは除電を実施する(202)。次に検査対象であるパターン領域及びその周辺部の帯電を計測し(203),検査・計測に必要な最適帯電状態になるまでにプリチャージ若しくは除電を繰り返す(204)。プリチャージ/除電が終了のあと,本検査フェーズ(205)に移り,そこで検査・計測用電子線を用いて検査・計測の画像取得前後に半導体装置を対象にチャージングを行うかどうかを判定し(206)、必要な場合にはチャージング設定し(207),検査・計測用電子光学系の設定(208)を行って計測/検査を行い(209)、シーケンスを終了(210)する。検査・計測の際に各電極を含む設定を実行するのは,プリチャージ/除電後の帯電状態に合わせて検査・計測に最適な値を用いるためである。
【0052】
なお、半導体装置に対するプリチャージ/除電には,検査・計測用一次電子線以外,プリチャージ/除電用光源/電子源などを用いることもできる。
【0053】
次に、検査・計測に各電極の設定について,プリチャージで半導体装置を負の帯電をさせ,ホールパターンの非導通不良検査を例にして述べる。検査・計測中半導体装置の帯電状態を維持するためには,検査・計測中検査対象となるパターン領域と帯電制御電極間の電圧を小さく設定する必要がある(<10V)。プリチャージによる半導体装置の帯電を計測し,その帯電電圧を帯電制御電極B421及びリターディング電圧Vrのうち少なくとも1つの調整で吸収する。検査・計測中帯電制御電極B421と半導体装置表面間の設定電圧は,半導体装置の電気特性に依存するため,経験値若しくは事前調査の結果によって決める。
【0054】
具体的には,帯電制御電極B421の設定電位とリターディング電位Vrの差と検査後半導体装置の検査領域の帯電電位の相関から,帯電制御電極B421及びリターディング電圧Vrのうち少なくとも1つの調整し,帯電制御電極と半導体装置の表面電位の差が検査後両者の電位差と同じ値になるように設定する。これによって,図5(A)に示した光学軸外の電位障壁により半導体表面に戻される2次電子428を抑制し,検査・計測中半導体装置の過剰帯電を防ぐことができる。また,欠陥部のコントラストを最も高くなるように帯電制御電極Bの設定電圧を66により設定する。
【0055】
以上説明したように,本実施例の装置を用いて,上述した方法で,半導体装置表面の電位が、帯電制御電極B421とほとんど同電位になるため,一次電子線照射により半導体装置から放出した二次信号は,一次電子線走査範囲外の領域の帯電を進行させることがなく,検査・計測中一定の帯電状態を保つことが実現できる。更に帯電制御電極A420の設定電圧を最適化することで,検査・計測の高感度化,高安定性(再現性)を実現できる。
【実施例2】
【0056】
第二の実施例として、プリチャージで半導体装置上検査対象に最適な帯電状態を作るために,予めプリチャージの設定電位とプリチャージ/除電後パターン部とその周辺の絶縁膜部の帯電との相関を計測し,その情報に基づいて検査・計測前にプリチャージを実施する例を説明する。本実施例では,実施例1と同じ装置構成を用いるため、その設定方法及びその相関情報を用いた検査・計測シーケンスについてのみ説明する。
【0057】
図3(A)に第2の実施例に係る測定結果を示す。プリチャージ/除電の設定電圧(制御部68で設定されるリターディング電圧Vr,制御部66で設定される帯電制御電極A420の設定電圧,制御部423によって制御される帯電制御電極B421の設定電圧,予備帯電除電用制御電極452の設定電圧のうちすくなくとも1つ)を振って,半導体装置のプリチャージ/除電を実施する。その後,半導体装置表面各位置の帯電を計測し,プリチャージ/除電の設定電圧と実際の帯電電圧とその分布の相関を求めて,そのデータ(図3(B))を予め装置制御部6に格納する。
【0058】
図7に実施例2における、相関データを用いた検査・計測のシーケンスを示す。半導体装置(ウェハ)を試料室に搬入(700)した後,GUIで半導体装置をプリチャージする範囲及び帯電電位を入力する(701)。その入力データに従って,プリチャージ/除電のために各電極の設定値を図3(B)のデータベースから読み取り設定し(702),プリチャージ/除電を実施し(703),パターン部の帯電を確認し(704),光学系の設定と検査・計測を実施して(705、706)、検査シーケンスを終了する(707)。
【実施例3】
【0059】
検査・計測に最適な設定を行うために,検査領域の帯電状態を計測し,設定にフィードバックすることが必要であり、帯電電位の計測には,一次電子線を用いて行う方法がある。第三の実施例では,帯電電位計測として一次電子線を用いる場合の測定方法について述べる。
【0060】
図8(A)、(B)に一次電子線19(図1参照)を用いた半導体装置の帯電電位を計測する原理とそのシーケンスをそれぞれ示す。同図(A)に示すようにその原理は,リターディング電圧を振りながら検出器で撮った電子信号強度を測定することで,電子信号強度−リターディング電圧のカーブを得ることができることにある。初期状態でリターディング電圧が一次電子線の初期加速電圧より低いため,一次電子線が半導体装置に入射せず,その上部空間で引き戻され,検出器によって検出される(図8(A)の(1))。リターディング電圧を正の方向にシフトすることにつれ,一次電子線の引き戻される位置が半導体装置表面に近づく(図8(A)の(2))。更にリターディング電圧を正の方向にシフトすると,一次電子線が半導体装置表面に当たるため,表面から二次信号が発生し,検出器によって検出される(図8(A)の(3))。一次電子線が半導体装置表面に当たったときに検出器により検出された電子信号強度は,一次電子線が検出される強度が異なるため,図8(A)の(4)に示したようなカーブ(460,461)を得ることができる。カーブ460は,帯電が既知の試料でとったものであり,例えば,ウェハ周辺のホルダや標準試料(帯電しない)で測定することができる。カーブ461は,測定対象で測ったカーブである。両者のシフトから,測定対象の帯電電位を得ることができる。
【0061】
測定シーケンスは,図8(B)に示す。予め電位測定用光学条件をインポートする(800)。次に一次電子線の最初の測定位置に移動し(801)、SEM像を取得して明るさ信号を抽出する(802)。その次に,リターディング電圧を正の方向に変化させ(804),再度SEM像を取得すし,明るさ信号を抽出する。SEM像を取得する際、一次電子線の照射による半導体装置表面の帯電の変化を抑制し,表面本来の帯電状態とより正確に測るため,リターディング電圧を変えるたびにSEM像の取得位置をずらす(805)ことが有効である。上記操作を最大値になるまで繰り返す(803)ことにより,電子信号強度−リターディング電圧のカーブが得られる。取得したカーブに対して規格化を行い(806),基準カーブ(図8(A)に示したカーブ460)と比較し,測定対象の帯電電位が得て(807)、シーケンスを完了する(808)。
【0062】
本実施例による測定は,半導体装置面内複数箇所で行うことで,検査・計測対象である半導体装置の面内帯電電位分布を調べることもでき,その情報を検査・計測条件にフィードバックすることで,常に最適な条件で半導体装置を検査・計測することも可能になる。
【0063】
以上詳述した本発明によれば,検査・計測対象となる半導体装置の帯電電位を測定する手段を備えたため,高いコントラストで欠陥や形状を観測できるようにプリチャージの最適化や検査・計測の際帯電制御電極Aを含む各電極の設定電圧の最適化が可能となる。また,上記測定結果を帯電制御電極Bの設定電圧やリターディング電圧にフィードバックすることで,検査・計測中に検査領域を一定の帯電状態を維持することが可能となり,高感度と高再現性の両立ができる検査・計測を実現できる。なお、以上の説明にあっては、荷電粒子線として電子線を用いる場合を例にして説明したが、本発明は、イオンビーム等他の種類の荷電粒子ビームにより計測・検査する技術においても利用できることは言うまでもない。
【符号の説明】
【0064】
2…チャンバー,3…電子光学系,4…光学顕微鏡部,5…画像処理部,6…装置制御部,7…検出部,8…試料室,9…ウェハ,10…電子源,11…引き出し電極,12…コンデンサレンズ,13…ブランキング偏向器,14…絞り,15…走査偏向器,16…対物レンズ,17…反射板,18…E×B偏向器,19…電子ビーム,20…検出器,21…プリアンプ,22…AD変換器,23…光変換器,24…光ファイバ,25…電気変換器,26…高圧電源,27…プリアンプ駆動電源,28…AD変換器駆動電源,29…逆バイアス電源,30…試料台,31…Xステージ,32…Yステージ,33…ウェハホルダ,34…位置モニタ測長器,35…光学式高さ測定器,36…リターディング電源,37…光源,40…光源,41…光学レンズ,42…CCDカメラ,43…補正制御回路,44…走査信号発生器,45…レンズ電源,46…画像記憶部,48…計算機(演算部と比較演算回路),50…モニタ,51…二次電子および後方散乱電子,52…第二の二次電子および後方散乱電子,62…試料交換室,65…帯電制御電極,66…帯電制御電極制御部、67…電源,68…Vr制御部69…二次信号収束レンズ,70…二次信号収束レンズ制御部,
401…正常部,402…導通欠陥,404…Siウェハ,405…酸化膜,406…Vr電圧,407…帯電制御電極,408…帯電制御電極Aの制御電源,409…2次信号,410…光学軸から離れた方向(斜め)の等電位線(負帯電の場合),411…二次信号検出器,412…電位障壁,413…半導体装置からZ方向(軸上)の電位分布,414…半導体装置表面,414a…半導体装置表面上パターン部,414b…半導体装置表面上パターン部,415…半導体装置かた放出した二次電子のエネルギー分布,416…欠陥部から電位障壁を乗り越えた二次電子,417…正常部から電位障壁を乗り越えた二次電子,420…帯電制御電極A,421…帯電制御電極B,422…帯電制御電極Bの制御電源,423…帯電制御電極Bの制御部,424…帯電制御電極Bの電源,425…帯電制御電極C,426…二次信号収束レンズ制御部電源,427…電位障壁を乗り越えた二次電子,428…電位障壁を乗り越えず半導体装置表面に戻った二次電子,429…電位障壁を乗り越えず半導体装置表面に戻った二次電子,430…光学軸近辺の等電位線(負帯電の場合),431…帯電制御電極1,432…帯電制御電極2,432a…帯電制御電極2のその1,432b…帯電制御電極2のその2,433…帯電制御電極3,434…帯電制御電極1の制御部,435…電帯電制御電極324aの制御部,436…電帯電制御電極324bの制御部,437…2次信号,438…2次信号,440…電子ビーム19の半導体装置表面の走査線,441…電子ビーム19の走査位置1,442…電子ビーム19の走査位置2,443…半導体装置表面のパターン密度の高い領域,444…半導体装置表面のパターンのない若しくはパターン密度の低い領域,450…予備帯電・除電用電子源または光源,451…レンズ,452…予備帯電除電用制御電極,460…基準カーブ,461…未知の半導体装置で測定したカーブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象となるパターン部と,当該パターン部周囲に形成された絶縁体部を含む半導体装置を一次電子線で走査し,前記半導体装置から発生した二次電子又は反射電子或いはその両者の二次信号を検出し,検出された前記二次信号を画像化して表示する検査計測装置であって,
前記一次電子線を収束させるための対物レンズと,
前記半導体装置の上部空間に、前記半導体装置側に向かって順次配置されたグランド電極と,リターディング電位が印加される帯電制御電極Aと,帯電制御電極Bとを有する電子光学系と、
前記帯電制御電極A、前記帯電制御電極B、前記半導体装置それぞれに、所定の電位を印加する電源制御部とを備え、
前記帯電制御電極Bには前記半導体装置の帯電状態に基づいて、試料から発生する二次電子の試料への戻り量を調整する電圧が印加される
ことを特徴とする検査計測装置。
【請求項2】
請求項1記載の検査計測装置であって、
前記半導体装置の前記パターン部と前記絶縁体部の電位を計測する計測部を備え、
前記電源制御部は、前記計測部の計測値を用いて前記印加電位を制御し、前記半導体装置を所定の帯電状態に設定する、
ことを特徴とする検査計測装置。
【請求項3】
請求項1記載の検査計測装置であって、
前記電源制御部は、
前記半導体装置と前記帯電制御電極B間に存在する最小電位よりも、前記帯電制御電極Aと前記帯電制御電極B間に存在する最小電位が大きくなるように,前記帯電制御電極Aと前記帯電制御電極Bの印加電位を設定する、
ことを特徴とする検査計測装置。
【請求項4】
請求項2記載の検査計測装置であって、
前記電源制御部は、前記パターン部と前記絶縁体部の電位差が小さくなるように,前記パターン部と前記絶縁体部それぞれの電気特性,検査・計測の目的に応じて選定された条件に基づき、前記印加電位を制御する、
ことを特徴とする検査計測装置。
【請求項5】
請求項2記載の検査計測装置であって、
前記電源制御部は、
前記半導体装置の帯電状態に応じ、前記帯電制御電極A,前記帯電制御電極B,前記半導体装置に印加する電圧の少なくとも1つ以上を調整する、
ことを特徴とする検査計測装置。
【請求項6】
検査対象となるパターン部と,前記パターン部周囲に形成された絶縁体部を含む試料を荷電粒子線で走査し,前記試料から発生した二次粒子による二次信号を検出し,検出された前記二次信号を画像化して表示する検査計測装置であって,
前記荷電粒子線を発生する荷電粒子線源と、
前記二次粒子を検出し、前記二次信号を発生する検出器と、
前記検出器からの前記二次信号を処理する画像処理部と、
前記荷電粒子線を走査する走査偏向器と、
前記荷電粒子線を収束させるための対物レンズと、
前記対物レンズと前記試料との間に設置され、前記試料に向かって順次配置されたグランド電極と,リターディング電位が印加される第一の帯電制御電極と,第二の帯電制御電極とを備えた電子光学系と、
前記電子光学系の前記第一の帯電制御電極と、前記第二の帯電制御電極、及び前記試料に、所定の印加電位を印加する電源制御部とを備え、
前記第二の帯電制御電極には前記半導体装置の帯電状態に基づいて、試料から発生する二次電子の試料への戻り量を調整する電圧が印加される
ことを特徴とする検査計測装置。
【請求項7】
請求項6記載の検査計測装置であって、
前記試料の前記パターン部と前記絶縁体部の電位を計測する計測部を更に備え、
前記電源制御部は、前記計測部の計測値を用いて、前記第一の帯電制御電極、前記第二の帯電制御電極に印加する前記印加電位を制御する、
ことを特徴とする検査計測装置。
【請求項8】
請求項6記載の検査計測装置であって、
前記電源制御部は、
前記試料と前記第二の帯電制御電極間に存在する最小電位よりも、前記第一の帯電制御電極と前記第二の帯電制御電極との間に存在する最小電位が大きくなるように,前記第一の帯電制御電極、前記第二の帯電制御電極に印加する前記印加電位を制御する、
ことを特徴とする検査計測装置。
【請求項9】
請求項7記載の検査計測装置であって、
前記電源制御部は、前記パターン部と前記絶縁体部の電位差が小さくなるように,前記第一の帯電制御電極、前記第二の帯電制御電極に印加する前記印加電位を制御する、
ことを特徴とする検査計測装置。
【請求項10】
請求項7記載の検査計測装置であって、
前記電源制御部は、
前記試料の帯電状態に応じ、前記第一の帯電制御電極、前記第二の帯電制御電極,前記試料に印加する前記印加電圧の少なくとも1つ以上を調整する、
ことを特徴とする検査計測装置。
【請求項11】
検査対象となるパターン部と,当該パターン部周囲に形成された絶縁体部を含む半導体装置の検査計測方法であって、
前記半導体装置を対物レンズで収束した一次電子線で走査する工程と、
前記半導体装置の上部空間に配置された、前記半導体装置へのリターディング電位が印加される帯電制御電極Aと,前記帯電電極Aより前記半導体装置側に設置され、前記半導体装置の帯電状態に基づいて、試料から発生する二次電子の試料への戻り量を調整する電圧が印加される帯電制御電極Bとを有する電子光学系を用い、前記半導体装置の表面の帯電電位を制御する工程と、
前記一次電子線の照射により前記半導体装置から発生した二次電子又は反射電子或はその両者の二次信号を検出する工程と、
検出された信号を画像化して表示する工程と、
を含むことを特徴とする検査計測方法。
【請求項12】
請求項11記載の検査計測方法であって、
前記パターン部と前記絶縁体部の電位差がなるべく小さくなるように,前記パターン部と前記絶縁体部分布及びそれぞれの電気特性,検査・計測の目的に応じて前記半導体装置を帯電させる条件を選定する工程を含む、
ことを特徴とする検査計測方法。
【請求項13】
請求項11記載の検査計測方法であって、
前記パターン部と前記絶縁体部の電位を計測する工程と、
前記半導体装置と前記帯電制御電極B間に存在する最小電位よりも前記帯電制御電極Aと前記帯電制御電極B間に存在する最小電位が大きくなるように,前記帯電制御電極Aと前記帯電制御電極Bへの印加電位を設定する工程とを含む、ことを特徴とする検査計測方法。
【請求項14】
請求項11記載の検査計測方法であって、
前記半導体装置の帯電状態に応じて,前記帯電制御電極A、前記帯電制御電極B、前記半導体装置に印加する印加電圧の中の少なくとも1つ以上を調整する工程を含む、
ことを特徴とする検査計測方法。
【請求項15】
請求項14記載の検査計測方法であって、
前記調整工程により、前記半導体装置の表面が正帯電に帯電する、
ことを特徴とする検査計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−33739(P2013−33739A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−196783(P2012−196783)
【出願日】平成24年9月7日(2012.9.7)
【分割の表示】特願2008−4407(P2008−4407)の分割
【原出願日】平成20年1月11日(2008.1.11)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】