説明

極低温冷却装置

【課題】冷凍機のノイズの悪影響をなくす。冷媒ガス循環系の汚染を防止する。
【解決手段】クライオスタット(10)にネック凝縮器(17)を設置し、クライオスタット(10)から離れた場所に冷凍機(31)を設置し、冷凍機(31)の凝縮器(35)とネック凝縮器(17)とを冷媒給排管(1a,1b)で接続する。
【効果】クライオスタット(10)内のSQUID等のセンサで測定を行う時に冷凍機(31)を止めなくても、冷凍機(31)のノイズの悪影響を受けない。クライオスタット(10)の内槽(11)内の冷媒ガス(G1)を冷凍機(31)に戻さず、内槽(11)内でネック凝縮器(17)により冷却するから、冷媒ガス循環系の、クライオスタット(10)で発生した不純物による汚染を防止できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極低温冷却装置に関し、さらに詳しくは、冷凍機のノイズの悪影響がなく且つ冷媒ガス循環系の汚染を防止できる極低温冷却装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、SQUIDを格納するクライオスタットに冷凍機を内設し、クライオスタット内で発生したヘリウムガスをクライオスタット内部で冷却し液化するSQUID格納用極低温容器が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
他方、クライオスタットから離れた場所に冷凍機を設置し、両者をヘリウム循環回路で接続し、クライオスタット内で発生したヘリウムガスを冷凍機に戻して冷却し液化し、液体ヘリウムをクライオスタットへ供給する液体ヘリウム再凝縮装置が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平11−97754号公報([0066],図4)
【特許文献2】特開2000−193364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来のSQUID格納用極低温容器では、ノイズ源となる冷凍機がクライオスタットに内設されているため、SQUIDで測定する時は冷凍機を止めざるを得ない問題点がある。
他方、上記従来の液体ヘリウム再凝縮装置では、ノイズ源となる冷凍機がクライオスタットから離れているため、SQUIDで測定する時に冷凍機を止めなくても済む。しかし、クライオスタット内でヘリウムガスが汚染される(不純物が混入する)ため、ヘリウムガスの乾燥・精製を行うための乾燥機や精製器が必要になる。そして、乾燥機や精製器に不純物が蓄積すると、運転を止めて乾燥機や精製器を再生しなければならない問題点がある。
そこで、本発明の目的は、冷凍機のノイズの悪影響がなく且つ冷媒ガス循環系の汚染を防止できる極低温冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
第1の観点では、本発明は、クライオスタット(10)のネックインサート(16)にネック凝縮器(17)を設け、前記クライオスタット(10)から離れた場所に冷凍機(31)を設置し、前記冷凍機(31)の凝縮器(35)と前記ネック凝縮器(17)とを冷媒給排管(1a,1b)で接続し、前記クライオスタット(10)の内槽(11)内の冷媒ガス(G1)を前記冷凍機(31)に戻さず前記内槽(11)内で前記ネック凝縮器(17)により冷却することを特徴とする極低温冷却装置(100)を提供する。
上記構成において、冷媒ガスは例えばヘリウムガスや窒素ガスである。
上記第1の観点による極低温冷却装置(100)では、ノイズ源となる冷凍機(31)をクライオスタット(10)から離れた場所に設置するため、クライオスタット(10)内のSQUID等のセンサで測定を行う時に冷凍機(31)を止めなくても、冷凍機(31)のノイズの悪影響を受けない。また、冷凍機(31)の冷媒ガス循環系と内槽(11)内の空間とを、ネック凝縮器(17)により熱的には結合するが、冷媒ガス的には分離しているため、冷媒ガス循環系の汚染を防止できる。
【0006】
第2の観点では、本発明は、前記第1の観点による極低温冷却装置(100)において、前記ネックインサート(16)にネック熱交換器(18)を設け、前記クライオスタット(10)から離れた場所に循環ポンプ(2)を設置し、前記ネック熱交換器(18)と前記循環ポンプ(2)とを冷媒ガス戻り流路(3a)で接続し、前記循環ポンプ(1)と前記冷凍機(31)の第1ステージ熱交換器(33)とを冷媒ガス戻り流路(3b)で接続し、前記冷凍機(31)の第1ステージ熱交換器(33)と前記ネック熱交換器(18)とをネック空隙冷却管(3c)で接続し、前記ネック熱交換器(18)により前記クライオスタット(10)のネック空隙(16)を冷却することを特徴とする極低温冷却装置(100)を提供する。
上記第2の観点による極低温冷却装置(100)では、冷凍機(31)の冷媒ガス循環系とネック空隙(16)とを、ネック熱交換器(18)により熱的には結合するが、冷媒ガス的には分離しているため、冷媒ガス循環系の汚染を防止し且つネック空隙(16)を冷却できる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の極低温冷却装置によれば、冷凍機のノイズの悪影響を受けない。また、冷媒ガス循環系の汚染を防止することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、図に示す実施の形態により本発明をさらに詳細に説明する。なお、これにより本発明が限定されるものではない。
【実施例1】
【0009】
図1は、実施例1に係る極低温冷却装置100を示す説明図である。
この極低温冷却装置100は、クライオスタット10と、クライオスタット10から離れた場所に設置された冷凍装置30とを具備している。
【0010】
クライオスタット10は、SQUID等の超伝導センサを含む超伝導装置Sおよび液体ヘリウムL1を収容する内槽11と、内槽11との間に真空空間12を形成する外槽13と、内槽11と外槽13の間に設置された熱シールド14と、内槽11の上部と外槽13の上部とを連結し、かつ熱シールド14と熱的に接続するネック15と、ネック15の内壁との間にネック空隙15aを形成するネックインサート16と、ネックインサート16の底部に設置されたネック凝縮器17と、ネックインサート16の側部に設置されたネック熱交換器18と、ネック蓋4と、逆止弁付きの排ガス路5とを有している。
ネック凝縮器17は、内槽11で気化したヘリウムガスG1を冷却して液体ヘリウムL1に戻す。
ネック熱交換器18は、ネック空隙15aを冷却して、その結果としてネック15および熱シールド14を間接的に冷却して外部からの熱の侵入を抑制する。
【0011】
冷凍装置30は、小型の凝縮冷凍機31を備えている。
【0012】
凝縮冷凍機31の第2ステージ凝縮器33は、ネック凝縮器17からヘリウムガス戻り管1aを通って戻ってきたヘリウムガスG2を冷却して液化ヘリウムL2とし、液体ヘリウムL2を液体ヘリウム供給管1bを通してネック凝縮器17へ供給する。
ネック凝縮器17の外壁では、ネック凝縮器17内の温度よりわずかに高い内槽11内のヘリウムガスG1を再凝縮することができる。その結果、液化ヘリウムL2は気化してヘリウムガス戻り管1aに戻るヘリウムガスG2となる。
循環は液体と気体の密度差および重力を利用した自然循環によるので、第2ステージ凝縮器33はネック凝縮器17より高い位置に配置しなければならない。
【0013】
凝縮冷凍機31の第1ステージ熱交換器35は、ネック熱交換器18からヘリウムガス戻り流路3a,循環ポンプ2およびヘリウムガス戻り流路3bを通って戻ってきたヘリウムガスG3を冷却し、ヘリウムガスをネック空隙冷却管3cを通してネック熱交換器18へ供給する。
【0014】
図2は、ネックインサート16の近傍部分の拡大断面図である。
ネックインサート16の断熱材は、仕切板16aで仕切られている。仕切板16aは、ネック熱交換器18で冷却されている。
【0015】
図3は、図2のA−A’端面図である。
ヘリウムガス戻り管1aと液体ヘリウム供給管1bの周りを断熱材7aで取り巻き、断熱材7aの周りを取り巻くように二重管を設けて該二重管をネック空隙冷却管3cとし、ネック空隙冷却管3cの周りを断熱材7bで取り巻き、断熱材7bの周りを外管6で覆っている。なお、断熱材7a及び7bは、真空層を含む。
【0016】
実施例1に係る極低温冷却装置100によれば、次の効果が得られる。
(1)ノイズ源となる凝縮冷凍機31をクライオスタット10から離れた場所に設置するため、クライオスタット10内の超伝導装置Sで測定を行う時に凝縮冷凍機31を止めなくても、凝縮冷凍機31のノイズの悪影響を受けない。
(2)ヘリウムガスG2の循環系は、不純物で汚染されるヘリウムガスG1と分離されている。従って、ヘリウムガスG2の循環系の汚染を防止できる。
(3)ヘリウムガスG3の循環系も、ヘリウムガスG1と分離されている。従って、ヘリウムガスG3の循環系の汚染も防止できる。
(4)ヘリウムガス戻り管1aと液体ヘリウム供給管1bへの熱の侵入を、ネック空隙冷却管3cにより抑制することが出来る。
【実施例2】
【0017】
図4は、実施例2に係る極低温冷却装置200を示す説明図である。
この極低温冷却装置200は、クライオスタット10と、クライオスタット10から離れた場所に設置された冷凍装置30’とを具備している。
【0018】
クライオスタット10は、実施例1と同じ構成である。
【0019】
冷凍装置30’は、小型の凝縮冷凍機31と、低温側熱交換器32と、高温側熱交換器34と、流量調整弁36とを備えている。
【0020】
低温側熱交換器32は、第1ステージ熱交換器35を出てから分岐したヘリウムガスG2を、ネック凝縮器17からヘリウムガス戻り管1aを通って戻ってきたヘリウムガスG2’で冷却する。
低温側熱交換器32を出たヘリウムガスG2は、第2ステージ凝縮器33で冷却されて液化ヘリウムL2となる。液体ヘリウムL2は、液体ヘリウム供給管1bを通してネック凝縮器17へ供給される。
ネック凝縮器17の外壁では、ネック凝縮器17内の温度よりわずかに高い内槽11内のヘリウムガスG1を再凝縮することができる。その結果、液化ヘリウムL2は気化してヘリウムガス戻り管1aに戻るヘリウムガスG2’となる。
【0021】
高温側熱交換器34は、循環ポンプ2およびヘリウムガス戻り流路3bを通って戻ってきたヘリウムガスG3を、低温側熱交換器32を出たヘリウムガスG2’で冷却する。冷却されたヘリウムガスG3は、第1ステージ熱交換器35で冷却される。
【0022】
第1ステージ熱交換器35を出たヘリウムガスは、ヘリウムガスG2とG3’とに分岐する。ヘリウムガスG3’は、流量調整弁36を通り、ネック空隙冷却管3cに入る。
流量調整弁36により、ヘリウムガスG2とG3’の割合を調整できる。
【0023】
高温側熱交換器34を出たヘリウムガスG2’は、循環路3dを通ってヘリウムガス戻り路3aに入り、ヘリウムガスG3’に混合される。
【0024】
実施例2に係る極低温冷却装置200によれば、実施例1に係る極低温冷却装置100の効果に加えて、ネック凝縮器17への循環も循環ポンプ2を使用するため、冷凍装置30’の配置の自由度が増し、設置位置の制限がなくなる。
【実施例3】
【0025】
図5は、実施例3に係る極低温冷却装置300を示す説明図である。
この極低温冷却装置300は、クライオスタット10’と、クライオスタット10’から離れた場所に設置された冷凍装置30’とを具備している。
【0026】
クライオスタット10’では、実施例1または実施例2のネック熱交換器18を下方に延長すると共にネック凝縮器17からヘリウムガスG2’を混合するようにしたネック熱交換器18’を備えている。混合量は、弁19によって調整できる。
上記以外の構成は、実施例2と同様である。
【0027】
図6は、ネックインサート16の近傍部分の拡大断面図である。
操作部19aにより弁19での流量を調整できる。
【0028】
実施例3に係る極低温冷却装置300によれば、実施例2に係る極低温冷却装置200の効果に加えて、さらに冷却効率を向上できる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の極低温冷却装置は、例えば液体ヘリウムを冷媒とする生体磁気測定装置のような超伝導電子装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1に係る極低温冷却装置の構成説明図である。
【図2】実施例1に係る極低温冷却装置のネックインサートの近傍部分を示す拡大断面図である。
【図3】図2のA−A’断面図である。
【図4】実施例2に係る極低温冷却装置の構成説明図である。
【図5】実施例3に係る極低温冷却装置の構成説明図である。
【図6】実施例3に係る極低温冷却装置のネックインサートの近傍部分を示す拡大断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1a ヘリウムガス戻り管
1b 液体ヘリウム供給管
2 循環ポンプ
3a,3b ヘリウムガス戻り流路
3c ネック空隙冷却管
10 クライオスタット
11 内槽
12 真空空間
13 外槽
14 熱シールド
15 ネック
15a ネック空隙
16 ネックインサート
17 ネック凝縮器
18 ネック熱交換器
19 弁
19a 操作部
30 冷凍装置
31 凝縮冷凍機
32 低温側熱交換器
33 第2ステージ凝縮器
34 高温側熱交換器
35 第1ステージ熱交換器
36 流量調整弁
100 極低温冷却装置
L 液体ヘリウム
G1,G2,G ヘリウムガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クライオスタット(10)のネックインサート(16)にネック凝縮器(17)を設け、前記クライオスタット(10)から離れた場所に冷凍機(31)を設置し、前記冷凍機(31)の凝縮器(35)と前記ネック凝縮器(17)とを冷媒給排管(1a,1b)で接続し、前記クライオスタット(10)の内槽(11)内の冷媒ガス(G1)を前記冷凍機(31)に戻さず前記内槽(11)内で前記ネック凝縮器(17)により冷却することを特徴とする極低温冷却装置(100)。
【請求項2】
請求項1に記載の極低温冷却装置(100)において、前記ネックインサート(16)にネック熱交換器(18)を設け、前記クライオスタット(10)から離れた場所に循環ポンプ(2)を設置し、前記ネック熱交換器(18)と前記循環ポンプ(2)とを冷媒ガス戻り流路(3a)で接続し、前記循環ポンプ(1)と前記冷凍機(31)の第1ステージ熱交換器(33)とを冷媒ガス戻り流路(3b)で接続し、前記冷凍機(31)の第1ステージ熱交換器(33)と前記ネック熱交換器(18)とをネック空隙冷却管(3c)で接続し、前記ネック熱交換器(18)により前記クライオスタット(10)のネック空隙(16)を冷却することを特徴とする極低温冷却装置(100)。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−48452(P2010−48452A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−212305(P2008−212305)
【出願日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【出願人】(593165487)学校法人金沢工業大学 (202)
【Fターム(参考)】