説明

極低温容器及びその組立方法

【課題】 特に真空容器の構造を重厚にすることなく前記外周壁と端壁との接合及び前記連結部材の張力調節の双方を可能にする。
【解決手段】 真空容器10の外周壁18と被冷却体12とを連結部材16を介して連結した後、その張力調整を行う前に前記外周壁18に前記真空容器10の端壁26を接合する。真空容器には操作窓を設けておき、この操作窓に外側から工具等を挿入して前記連結部材16の張力調節操作部50を操作し、その張力調節を終了した後、前記操作窓を封止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MRI等に用いられる超電導マグネット等の被冷却体を極低温に保冷するための極低温容器及びその組立方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
前記のような極低温容器として、例えば特許文献1に記載されるようないわゆる横置き型の容器が知られている。このような横置き型容器の構造例を図4(a)(b)に示す。
【0003】
図示の容器は、例えば図4(a)(b)に示すように中心軸上に貫通孔11を有してその中心軸が略水平方向を向く姿勢で設置される真空容器10を備え、この真空容器10内に当該真空容器と同軸の位置で超電導マグネット等の被冷却体12と熱シールド部材14(図4(b)では図示省略)とを収容するとともに、この被冷却体12と前記真空容器10とが張力調節可能な連結部材16を介して連結される。
【0004】
ここで従来は、前記容器の組立が例えば次のような手順で行われている。
【0005】
1)前記真空容器10の円筒状外周壁(以下「真空容器外周壁」と称する。)18を地盤2上に脚部4を介して据え付け、この真空容器外周壁18の内側に、その軸端開口から被冷却体12と熱シールド部材14の円筒状外周壁(以下「熱シールド外周壁」と称する。)20とを挿入して、これら被冷却体12及び熱シールド外周壁20を前記真空容器外周壁18と同軸の位置にセットする。
【0006】
2)前記被冷却体12と前記真空容器外周壁18とを連結部材16を介して連結する。
【0007】
この連結部材16は、真空容器外周壁18側に固定される真空容器側ブロック35と、被冷却体12側に固定される被冷却体側ブロック36と、両ブロック35,36間に介在する中間ブロック38とを備え、真空容器側ブロック35と中間ブロック38との間、及び、被冷却体側ブロック36と前記中間ブロック38との間にそれぞれ連結材40が介設されている。これらの連結材40は、例えばCFRPのように金属に比べて熱伝導率が十分低い材料により形成されている。前記被冷却体側ブロック36からは軸方向外向きにねじ棒46が突出し、被冷却体12の端面から突設された座板48の貫通孔に挿通されており、このねじ棒46に張力調節用ナット50が装着されることにより、前記座板48に前記連結部材16が締結されている。従って、前記張力調節用ナット50を回すことにより、このナット50に螺合するねじ棒46さらにはこのねじ棒46とつながる被冷却体側ブロック46が変位して前記連結部材16全体の張力が変化するようになっている。
【0008】
3)前記真空容器外周壁18の軸端開口から工具等を挿入して前記連結部材16の張力調節操作ナット50を操作することにより、当該連結部材16の張力を所定の目標張力まで高める。
【0009】
4)前記張力調節後、前記熱シールド外周壁20の内側に前記熱シールド部材14の内周壁25を挿入し、さらに、両周壁20,25の軸端開口を塞ぐドーナツ状の端壁(前記熱シールド部材14の端壁)24を前記両周壁20,25の端面に接合する。また、この端壁24は必要に応じて連結部材16の中間ブロック38にも接合する。
【0010】
5)前記熱シールド部材14の内周壁25の内側に真空容器10の円筒状内周壁28を挿入する。さらに、この内周壁28と真空容器外周壁18との間の軸端開口を塞ぐドーナツ状の端壁(真空容器10の端壁)26を前記両周壁28,18に接合する。
【特許文献1】米国特許第4837541号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前記3)の工程における連結部材16の目標張力は、その後の輸送時における被冷却体12等の振れを有効に抑止できる程度まで高く設定する必要がある。さらに、この連結部材16の材質として負の熱膨張率をもつ材料(例えばCFRP)が選定されている場合には、使用状態すなわち極低温状態において当該連結部材16が伸びる分だけ前記目標張力をさらに高く設定する必要がある。
【0012】
このような高い張力は、真空容器外周壁18に図4(b)に示すような上下方向の歪みεを与える外力として作用する。このような歪みが大きいと、その後に前記真空容器10の端壁26を前記外周壁18にを接合することが困難となる。例えば、前記端壁26に設けられたボルト挿通孔にボルトを通して前記真空容器外周壁18の端部に設けられたねじ孔にねじ込む構造の場合、そのボルト挿通孔とねじ孔の位置がずれてしまうおそれがある。
【0013】
このため従来は、前記張力に抗して前記真空容器外周壁18の歪みを抑えるべく、当該真空容器外周壁18の厚みを大きく設定して堅牢な構造としており、これが容器全体の大型化及び重量増大の要因となり、生産コストや輸送コストの削減の大きな妨げとなっている。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記のような課題を解決するための手段として、本発明は、中心軸が略水平方向を向く姿勢で設置される真空容器と、この真空容器内に当該真空容器と同軸の位置で収容される被冷却体と、この被冷却体と前記真空容器とを連結するとともに、その張力を調節するための張力調節操作部を有する連結部材とを備え、前記真空容器は、前記被冷却体をその径方向から取り囲む筒状の外周壁と、この外周壁の軸端開口を塞ぐように当該外周壁に接合される端壁とを有し、これら外周壁及び端壁の少なくとも一方に当該真空容器の外部からの前記張力調節操作部の操作を可能にする位置に操作窓が設けられている極低温容器である。
【0015】
また本発明は、前記極低温容器の組立方法であって、前記真空容器の外周壁の内側にその軸端開口から前記被冷却体を挿入して当該真空容器と同軸の位置にセットする工程と、この被冷却体と前記外周壁とを前記連結部材を介して連結する工程と、前記外周壁の軸端開口を塞ぐように当該外周壁に端壁を接合する工程と、この端壁の接合後にこの真空容器の操作窓を通じて連結部材の張力調節操作部を操作することにより当該連結部材の張力を調節する工程と、当該張力調節後に前記操作窓を封止する工程とを含むものである。
【0016】
以上の構成によれば、連結部材の張力調節を行う前に真空容器の外周壁に端壁を接合することにより、当該外周壁の厚みを増やして前記張力調節による歪みを抑えるといった設計を行わなくても前記接合が可能になる。しかも、その接合後であっても、前記端壁または外周壁に設けられた操作窓を通じて連結部材の張力調節操作部を操作することによってその張力を調節することができ、その後に前記操作窓を蓋部材で塞ぐ等して封止することにより、従来と同様に真空容器内を真空にすることが可能になる。
【0017】
前記極低温容器は、前記被冷却体と前記真空容器とに加え、両者の間に配設される熱シールド部材を備えるものであってもよい。この構造において、前記連結部材の張力調節用操作部が前記熱シールド部材の内側となる位置に設けられている場合、当該熱シールド部材において前記真空容器の操作窓と略合致する位置にも操作窓を設け、両操作窓を通じて真空容器の外部から前記連結部材の張力調節操作部の操作が可能となるように構成すればよい。
【0018】
このような極低温容器は、前記真空容器の外周壁の内側にその軸端開口から前記被冷却体及び前記熱シールド部材を挿入して当該真空容器と同軸の位置にセットする工程と、前記被冷却体と前記真空容器の外周壁とを前記連結部材を介して連結する工程と、前記真空容器の外周壁の軸端開口を塞ぐように当該真空容器の外周壁に当該真空容器の端壁を接合する工程と、この端壁の接合後に前記真空容器の操作窓及び前記熱シールド部材の操作窓を通じて前記連結部材の張力調節操作部を操作することにより当該連結部材の張力を調節する工程と、当該張力調節後に前記操作窓を封止する工程とを含む方法によって組み立てることができる。
【0019】
また、前記真空容器の端壁は、前記外周壁の内側にほぼ隙間なく嵌め込まれて当該外周壁の歪みを抑制する外周壁嵌入部分を有するものが、より好ましい。このような構成によれば、当該端壁と外周壁との接合後、連結部材の張力を調節する際にその張力に起因する前記外周壁の歪みの発生をより有効に抑止することができる。
【発明の効果】
【0020】
以上のように、本発明によれば、真空容器の外周壁と端壁とを接合した後に操作窓を通じて連結部材の張力調節操作部を操作することによりその張力調節を行うことができるので、特に真空容器の構造を重厚にすることなく前記外周壁と端壁との接合及び前記連結部材の張力調節の双方を可能にして生産コストや輸送コストの削減に寄与することができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明の好ましい実施の形態に係る極低温容器の組立方法を前記図4に加えて図1〜図3も併せて参照しながら順に説明する。なお、前記図4に示した構成要素と同等の構成要素については同図と同じ参照符を付してその説明を省略する。
【0022】
1)円筒状の真空容器外周壁18の内側に同じく円筒状の熱シールド外周壁20を挿入し、両者を図略の外周壁連結材により連結する。これにより、両外周壁18,20が互いに略同心状に配置された状態を保持する。
【0023】
なお、本発明ではその仕様に応じて適宜熱シールド部材14の省略が可能であり、その場合には前記工程1)は省略すればよい。
【0024】
2)超電導マグネット等の被冷却体12を前記熱シールド外周壁20の内側に挿入する。さらに、この被冷却体12の位置が両外周壁18,20と略同心の位置となるようにその位置調整をする。
【0025】
3)前記図4に示した連結部材16を介して前記被冷却体12を前記真空容器外周壁18に連結する。ここで従来は、当該連結部材16を被冷却体12と真空容器外周壁18とに連結した段階で直ちにその張力を目標張力まで高める張力調節が行われていたが、本発明方法ではこの段階ではまだ高い張力を与えないようにし、連結部材16の張力は被冷却体12を同心位置に保持するのに最低限必要な張力に止めておく。
【0026】
4)前記熱シールド部材14を構成する円筒状内周壁25を前記熱シールド外周壁20の内側に挿入する。さらに、前記熱シールド部材14の端壁24を前記両周壁20,25の端面に固定するとともにに、前記連結部材16の中間ブロック38にも固定するようにする。
【0027】
5)前記熱シールド部材14の内周壁25のさらに内側に真空容器10の内周壁28を挿入し、この真空容器10の内周壁28と外周壁18との間の軸端開口を塞ぐように、図1及び図2に示すように中央に貫通孔66をもつドーナツ板状の端壁(真空容器10の端壁)26を前記両周壁28,18の端面にボルト56によって固定する。
【0028】
このとき、予め前記端壁26の裏面に外周壁嵌入部26aを突設しておき、当該外周壁嵌入部26aが前記真空容器外周壁18の内側にほぼ隙間なく嵌入されるようにすれば(図1)、この外周壁嵌入部26aの存在によって真空容器外周壁18の歪み(後述の張力調節の際に生ずる歪み)をより有効に抑えることが可能となり、真円度の高い極低温容器を得ることが可能になる。
【0029】
また、この端壁26の接合の際、ジャッキ等を用いて前記真空容器外周壁18をその周方向に異なる複数の位置から径方向内側に向けて適当な圧力を加えることにより、当該外周壁18の歪み(特にその自重によって上下方向に偏平となる向きの歪み)を抑止するようにすれば、より円滑な端壁26の接合作業を行うことができる。
【0030】
6)この極低温容器の特徴として、前記端壁26には、その中央の貫通穴66に加え、図2に示すような複数の操作窓68を設けるようにしておく。これらの操作窓68は、前記各連結部材16の張力調節操作用ナット50を軸方向外側(前方または後方)に開放する位置に形成されている。さらに、図例のように各ナット50が熱シールド部材14の内側に設けられる構造の場合には、前記熱シールド部材14の端壁24にも前記操作窓68と対応する位置に操作窓58を設けておき、両操作窓58,68が協働して前記各連結部材16の張力調節操作用ナット50を前記端壁24の軸方向外側に開放するように構成する。
【0031】
このような操作窓58,68の形成により、前記端壁26を接合した後においても、前記操作窓58,68を通じて容器内に工具等を挿入して張力調節操作用ナット50を回転操作することが可能であり、この回転操作によって各連結部材16の張力調節をすることができる。
【0032】
このように端壁26を両周壁18,28に接合した後で連結部材16の張力調節を行うようにすれば、その張力の増大に起因して真空容器外周壁18が歪むことにより前記端壁26の接合が不可能となるのを回避することができ、また、前記端壁26の接合によって前記真空容器外周壁18の歪みをより有効に抑えることができる。特に、端壁26の裏面に前記のような外周壁嵌入部26aを形成しておけば、前記歪みの抑止効果はより顕著なものとなる。
【0033】
従って、前記歪みを抑止するために外周壁18の肉厚を特に大きくするといった設計を行わなくても、前記真空容器10における両周壁18,28への端壁26の接合と、連結部材16の張力調節との双方を行うことが可能となり、その結果、真空容器外周壁18の肉厚を抑えて容器全体の軽量化及び低コスト化を進めることができる。
【0034】
しかも、前記張力調節後は前記真空容器10の端壁26にそれぞれ蓋板を固定する等して前記操作窓68を塞ぐようにすれば、従来と同様に真空容器10内に真空を形成することが可能である。また、同様に前記熱シールド部材14の端壁24にも蓋板等を固定して前記操作窓58を塞ぐようにすれば、より高い熱シールド効果を確保することが可能になる。
【0035】
なお、前記操作窓58,68の位置や形状は、連結部材16の具体的な構造や配置によって適宜設定すればよい。
【0036】
例えば図3(a)に示すように上側の連結部材16の張力調節操作用ナット50が相互近接している場合には、同図(b)に示すように両ナット50に共通する操作窓69(及び熱シールド部材14側の操作窓59)を形成するようにすればよい。また、前記張力調節操作用ナット50等の操作部が熱シールド部材14の外側にある場合には、当該熱シールド部材14側の端壁24の操作窓58,59は不要となる。
【0037】
また、連結部材16が被冷却体12の軸端から離れた位置にある外周部分と真空容器外周壁18とを連結するものである場合には、前記真空容器10の端壁26ではなく外周壁18に前記操作窓68を設けるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の実施の形態に係る極低温容器の全体構成を示す側面図である。
【図2】前記極低温容器における真空容器の端壁の正面図である。
【図3】(a)は前記極低温容器における連結部材の配置の変形例を示す正面図、(b)は当該配置に対応する真空容器端壁の操作窓の形状例を示す正面図である。
【図4】(a)は従来の極低温容器の例を示す断面側面図、(b)はその正面図である。
【符号の説明】
【0039】
10 真空容器
12 被冷却体
14 熱シールド部材
16 連結部材
18 真空容器の外周壁
20 熱シールド部材の外周壁
24 熱シールド部材の端壁
26 真空容器の端壁
26a 外周壁嵌入部
50 張力調節操作用ナット
58 熱シールド部材の操作窓
68 真空容器の操作窓

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心軸が略水平方向を向く姿勢で設置される真空容器と、この真空容器内に当該真空容器と同軸の位置で収容される被冷却体と、この被冷却体と前記真空容器とを連結するとともに、その張力を調節するための張力調節操作部を有する連結部材とを備え、前記真空容器は、前記被冷却体をその径方向から取り囲む筒状の外周壁と、この外周壁の軸端開口を塞ぐように当該外周壁に接合される端壁とを有し、これら外周壁及び端壁の少なくとも一方において当該真空容器の外部からの前記張力調節操作部の操作を可能にする位置に操作窓が設けられていることを特徴とする極低温容器。
【請求項2】
請求項1記載の極低温容器において、前記端壁は前記外周壁の内側にほぼ隙間なく嵌め込まれて当該外周壁の歪みを抑制する外周壁嵌入部分を有することを特徴とする極低温容器。
【請求項3】
請求項1または2記載の極低温容器において、前記被冷却体と前記真空容器との間に配設される熱シールド部材を備え、この熱シールド部材の内側となる位置に前記連結部材の張力調節操作部が設けられるとともに、当該熱シールド部材において前記真空容器の操作窓と略合致する位置にも操作窓が設けられ、これらの操作窓を通じて真空容器の外部から前記連結部材の張力調節操作部の操作が可能となるように構成されていることを特徴とする極低温容器。
【請求項4】
請求項1または2記載の極低温容器を組み立てるための方法であって、前記真空容器の外周壁の内側にその軸端開口から前記被冷却体を挿入して当該真空容器と同軸の位置にセットする工程と、この被冷却体と前記外周壁とを前記連結部材を介して連結する工程と、前記外周壁の軸端開口を塞ぐように当該外周壁に前記真空容器の端壁を接合する工程と、この端壁の接合後にこの真空容器の操作窓を通じて前記連結部材の張力調節操作部を操作することにより当該連結部材の張力を調節する工程と、当該張力調節後に前記操作窓を封止する工程とを含むことを特徴とする極低温容器の組立方法。
【請求項5】
請求項3記載の極低温容器を組み立てるための方法であって、前記真空容器の外周壁の内側にその軸端開口から前記被冷却体及び前記熱シールド部材を挿入して当該真空容器と同軸の位置にセットする工程と、前記被冷却体と前記真空容器の外周壁とを前記連結部材を介して連結する工程と、前記真空容器の外周壁の軸端開口を塞ぐように当該真空容器の外周壁に当該真空容器の端壁を接合する工程と、この端壁の接合後に前記真空容器の操作窓及び前記熱シールド部材の操作窓を通じて前記連結部材の張力調節操作部を操作することにより当該連結部材の張力を調節する工程と、当該張力調節後に前記操作窓を封止する工程とを含むことを特徴とする極低温容器の組立方法。
【請求項6】
請求項4または5記載の極低温容器の組立方法において、前記外周壁の軸端開口を塞ぐように当該外周壁に端壁を接合する工程においては、当該外周壁に対してその周方向に異なる複数の位置から圧力を加えることにより当該外周壁の歪みを抑えながら当該外周壁に前記端壁を接合することを特徴とする極低温容器の組立方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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