説明

極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物

【課題】 切削・研削箇所に微量の油剤を空気とともに供給する極微量油剤供給方式の切削・研削加工に適した油剤組成物を提供する。特に潤滑性能の向上した油剤組成物を提供する。
【解決手段】 エステルを基油とし、油性剤を含有してなる極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削・研削箇所に微量の油剤を圧縮流体と共に供給する極微量油剤供給方式の切削・研削加工に適した極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に切削・研削加工においては切削・研削油剤が使用されている。この目的は加工に用いられるドリル、エンドミル、バイト、砥石等の工具の寿命延長や被加工物の表面粗さの向上、それによる加工能率の増大といった機械加工における生産性の向上にある。
切削・研削油剤は、界面活性剤及び潤滑成分を水に希釈して使用する水溶性切削・研削油剤と、鉱物油を主成分として原液のままで使用する不水溶性切削・研削油剤との2種類に大別される。そして従来の切削・研削加工においては比較的大量の切削・研削油剤が加工箇所に供給されている。
切削・研削油剤の最も基本的でかつ重要な機能としては潤滑作用と冷却作用が挙げられる。一般に、不水溶性切削・研削油剤は潤滑性能に、水溶性切削・研削油剤は冷却性能にそれぞれ優れている。不水溶性油剤の冷却効果は水溶性油剤に比べると劣るため、一般に1分間に数リットルから場合によっては数10リットルもの大量の不水溶性切削・研削油剤が必要になる。
【0003】
加工能率の向上に有効な切削・研削油剤も別の側面からみると好ましくない点があり、その代表的な問題点として環境への影響が挙げられる。不水溶性、水溶性にかかわらず油剤は使用中に徐々に劣化してついには使用不能な状態になる。例えば、水溶性油剤の場合には微生物の発生によって液の安定性が低下して成分の分離が生じたり、衛生環境を著しく低下させてその使用が不可能となる。また、不水溶性油剤の場合には酸化の進行によって生じる酸性成分が金属材料を腐食させたり、粘度の著しい変化が生じてその使用が不可能となる。また、油剤が切りくず等に付着して消費されたりして廃棄物となる。
このような場合には劣化した油剤を廃棄して新しい油剤が使用される。この時に廃棄物として排出される油剤は環境に影響を及ぼさないように様々な処理が必要になる。例えば、作業能率の向上を優先させて開発されてきた切削・研削油剤には、焼却処理時に有毒なダイオキシンを発生させる可能性のある塩素系化合物が多く用いられているが、これらの化合物の除去処理などが必要になる。このため、塩素系化合物を含まない切削・研削油剤も開発されているが、たとえかかる有害な成分を含まない切削・研削油剤であっても廃棄物の大量排出にともなう環境への影響という問題がある。また水溶性油剤の場合には環境水域を汚染する可能性があるため、高いコストをかけて高度な処理を施す必要がある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のような問題点に対処するために最近では切削・研削箇所に冷風を吹きかけて冷却することにより切削・研削油剤の代用とする検討がなされつつあるが、この場合には、切削・研削油剤に求められている潤滑性という一方の性能は得られない。
この点を補うために通常の1/100000〜1/1000000程度の極微量の油剤を圧縮流体(例えば圧縮空気)と共に切削・研削箇所に供給するシステムが開発されている。このシステムでは、圧縮空気による冷却効果が得られ、また極微量の油剤を用いるために廃棄物量を低減することができ、従って廃棄物の大量排出に伴う環境への影響も改善することができる。しかし、この極微量油剤供給方式を利用する切削・研削加工に求められる性能、即ち、極微量であっても良好な表面の加工物を得ることができ、また工具等の摩耗も少なく、切削・研削を効率よく行える高い性能を持つ切削・研削油剤はまだ提案されておらず、その開発が望まれている。また極微量油剤供給方式では、油剤はオイルミストして供給されるので、工作機械内部、ワーク、工具、ミストコレクター内等に付着しやすいとの問題が伴う。この場合、付着した油剤がべたつき易いものであると、取り扱い性において支障を来し、作業能率を低下させる原因となる。このため、極微量油剤供給方式に用いる油剤の開発では、油剤はべたつきにくいことが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、このような実状に鑑みなされたものであり、その目的は、切削・研削加工箇所に油剤を圧縮流体と共に供給し油剤の使用量を極微量にして、廃棄物として排出される油剤の量を大幅に削減しようとする切削・研削油剤供給方式、すなわち極微量油剤供給方式に適した極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物を提供することにある。特に本発明の目的は、切削・研削加工を効率よく行えるように優れた潤滑性を備えた油剤組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の発明者の研究の結果、極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物としてエステルを基油として用い、更に油性剤を含有させることにより、切削・研削加工時の作業性、被加工物の仕上がり具合などにおいて非常に有効であることを見出した。特に油性剤の添加により、優れた潤滑性能が付与され、効率の高い切削・研削加工を行えることを見出した。
【0007】
本発明は、エステルを基油とし、油性剤を含有してなる極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物にある。
【発明の効果】
【0008】
エステルを基油として用い、更に油性剤を含有させることで、切削・研削箇所に微量の油剤組成物を空気とともに供給する極微量油剤供給方式の切削・研削加工に適した油剤組成物を提供することができる。特に基油としての特定の水酸基価のエステルに油性剤を添加した場合には油剤組成物の潤滑性が更に向上する。また基油のエステルとして特定の沃素価のものを用いた場合には、潤滑性能と共にべたつき性の低い油剤組成部を得ることができる。更に酸化防止剤を添加した場合には油剤組成物の酸化安定性が確保されるため、よりべたつきにくくなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明はエステルを基油として用いた極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物であるが、ここで極微量油剤供給式切削・研削加工とは、通常の切削・研削加工に比して1/100000〜1/1000000程度の極微量の油剤を圧縮流体と共に切削・研削箇所に供給しながら行う切削・研削加工を言う。つまり、極微量油剤供給方式は、通常最大でも1ミリリットル/分以下の微量の油剤を圧縮流体(例えば圧縮空気)と共に切削・研削箇所に向けて供給する方式である。なお、圧縮空気以外に窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素、水などの圧縮流体を単独で用いたり、あるいはこれらの流体を混合して用いることも可能である。
本発明の極微量油剤供給式切削・研削加工における圧縮流体の圧力は、油剤が飛散して雰囲気を汚染させないような圧力、及び油剤と気体、あるいは液体との混合流体が切削・研削加工点に十分到達できるような圧力に調節される。また、圧縮流体の温度は冷却性の観点から、通常室温(25℃程度)又は室温から−50℃に調節される。
【0010】
本発明の極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物(以下、単に油剤組成物あるいは油剤)に基油として用いられているエステルについて説明する。
基油としてのエステルは天然物(通常は動植物などの天然油脂に含まれるもの)であっても合成物であってもよい。本発明では得られる油剤組成物の安定性やエステル成分の均一性などの点から合成エステルであることが好ましい。
【0011】
基油のエステルを構成するアルコールとしては、1価アルコールでも多価アルコールでも良く、酸としては一塩基酸でも多塩基酸であっても良い。1価アルコールとしては、通常炭素数1〜24、好ましくは1〜12、更に好ましくは1〜8のものが用いられ、このようなアルコールとしては直鎖のものでも分岐のものでも良く、また飽和のものであっても不飽和のものであっても良い。炭素数1〜24のアルコールとしては、具体的には例えば、メタノール、エタノール、直鎖状又は分岐状のプロパノール、直鎖状又は分岐状のブタノール、直鎖状又は分岐状のペンタノール、直鎖状又は分岐状のヘキサノール、直鎖状又は分岐状のヘプタノール、直鎖状又は分岐状のオクタノール、直鎖状又は分岐状のノナノール、直鎖状又は分岐状のデカノール、直鎖状又は分岐状のウンデカノール、直鎖状又は分岐状のドデカノール、直鎖状又は分岐状のトリデカノール、直鎖状又は分岐状のテトラデカノール、直鎖状又は分岐状のペンタデカノール、直鎖状又は分岐状のヘキサデカノール、直鎖状又は分岐状のヘプタデカノール、直鎖状又は分岐状のオクタデカノール、直鎖状又は分岐状のノナデカノール、直鎖状又は分岐状のイコサノール、直鎖状又は分岐状のヘンイコサノール、直鎖状又は分岐状のトリコサノール、直鎖状又は分岐状のテトラコサノール及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0012】
多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価のものが用いられる。2〜10の多価アルコールとしては、具体的には例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール等の2価アルコール;グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えばジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン等)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトール及びこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マルトース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類、及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0013】
これらの中でも特に、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレングリコールの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレングリコールの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン等)及びこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコール及びこれらの混合物等が好ましい。さらにより好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタン、及びこれらの混合物等である。
【0014】
基油のエステルを構成するアルコールは、上述したように1価アルコールであっても多価アルコールであっても良いが、切削及び研削加工においてより優れた潤滑性が得られ、加工物の仕上げ面精度の向上と工具刃先の摩耗防止効果がより大きくなる、流動点の低いものがより得やすく、冬季及び寒冷地での取り扱い性がより向上する、更にべたつき性の低下に寄与するエステルが得られやすくなる等の点から多価アルコールであることが好ましい。
【0015】
一塩基酸としては、通常炭素数2〜24の脂肪酸が用いられ、その脂肪酸は直鎖のものでも分岐のものでも良く、また飽和のものでも不飽和のものでも良い。具体的には、例えば、酢酸、プロピオン酸、直鎖状又は分岐状のブタン酸、直鎖状又は分岐状のペンタン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン酸、直鎖状又は分岐状のオクタン酸、直鎖状又は分岐状のノナン酸、直鎖状又は分岐状のデカン酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン酸、直鎖状又は分岐状のドデカン酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖状又は分岐状のノナデカン酸、直鎖状又は分岐状のイコサン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコサン酸、直鎖状又は分岐状のドコサン酸、直鎖状又は分岐状のトリコサン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコサン酸等の飽和脂肪酸、アクリル酸、直鎖状又は分岐状のブテン酸、直鎖状又は分岐状のペンテン酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン酸、直鎖状又は分岐状のオクテン酸、直鎖状又は分岐状のノネン酸、直鎖状又は分岐状のデセン酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン酸、直鎖状又は分岐状のドデセン酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン酸、直鎖状又は分岐状のペンタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン酸、直鎖状又は分岐状のオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖状又は分岐状のノナデセン酸、直鎖状又は分岐状のイコセン酸、直鎖状又は分岐状のヘンイコセン酸、直鎖状又は分岐状のドコセン酸、直鎖状又は分岐状のトリコセン酸、直鎖状又は分岐状のテトラコセン酸等の不飽和脂肪酸、及びこれらの混合物等が挙げられる。これらの中でも、切削及び研削加工においてより優れた潤滑性が得られ、加工物の仕上げ面精度の向上と工具刃先の摩耗防止効果をより大きくすることができる等の点から特に炭素数3〜20の飽和脂肪酸、炭素数3〜22の不飽和脂肪酸及びこれらの混合物が好ましく、炭素数4〜18の飽和脂肪酸、炭素数4〜18の不飽和脂肪酸及びこれらの混合物が更に好ましい。
【0016】
多塩基酸としては炭素数2〜16の二塩基酸及びトリメリト酸等が挙げられる。炭素数2〜16の二塩基酸としては、直鎖のものでも分岐のものでも良く、また飽和のものでも不飽和のものでも良い。具体的には例えば、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖状又は分岐状のブタン二酸、直鎖状又は分岐状のペンタン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタン二酸、直鎖状又は分岐状のオクタン二酸、直鎖状又は分岐状のノナン二酸、直鎖状又は分岐状のデカン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデカン二酸、直鎖状又は分岐状のドデカン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデカン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデカン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプテン二酸、直鎖状又は分岐状のオクテン二酸、直鎖状又は分岐状のノネン二酸、直鎖状又は分岐状のデセン二酸、直鎖状又は分岐状のウンデセン二酸、直鎖状又は分岐状のドデセン二酸、直鎖状又は分岐状のトリデセン二酸、直鎖状又は分岐状のテトラデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘプタデセン二酸、直鎖状又は分岐状のヘキサデセン二酸及びこれらの混合物等が挙げられる。
基油のエステルを構成する酸としては、上述したように一塩基酸であっても多塩基酸であっても良いが、粘度指数の高いものがより得やすく、ミスト性がより良くなる、また優れた潤滑性能を発揮したり、更にべたつき性の低下に寄与するエステルが得られやすくなる等の点から一塩基酸であることが好ましい。
【0017】
基油のエステルを形成するアルコールと酸との組み合わせは任意であって特に限定されないが、本発明で使用可能なエステルとしては、例えば下記のエステルを挙げることができる。
(1)一価アルコールと一塩基酸とのエステル
(2)多価アルコールと一塩基酸とのエステル
(3)一価アルコールと多塩基酸とのエステル
(4)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(5)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と多塩基酸との混合エステル
(6)多価アルコールと一塩基酸、多塩基酸との混合物との混合エステル
(7)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と一塩基酸、多塩基酸との混合エステル。
【0018】
これらの中でも、切削及び研削加工においてより優れた潤滑性が得られ、加工物の仕上げ面精度の向上と工具刃先の摩耗防止効果がより大きくなる、流動点の低いものがより得やすく、冬季及び寒冷地での取り扱い性がより向上する、粘度指数の高いものがより得やすく、ミスト性がより良くなる、更にべたつき性の低下に寄与するエステルが得られやすくなる等の点から(2)多価アルコールと一塩基酸とのエステルであることが好ましい。
【0019】
使用可能な天然油脂としては、特に限定されないが、好ましくは例えば、パーム油、パーム核油、菜種油、大豆油、ハイオレイック菜種油、及びハイオレイックサンフラワー油などの植物油、ラードなどの動物油を挙げることができる。
【0020】
本発明において、アルコール成分として多価アルコールを用いた場合に得られるエステルは、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルでも良く、あるいは水酸基の一部がエステル化されず水酸基のままで残っている部分エステルでも良い。また、酸成分として多塩基酸を用いた場合に得られる有機酸エステルは、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルでも良く、あるいはカルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであっても良い。
【0021】
本発明の油剤組成物に基油として前記のエステルを用いることにより潤滑性が改良された油剤が得られるが、更に良好な潤滑性を示す油剤を得るために水酸基価0.01〜300mgKOH/gのエステルを用いることが好ましい。本発明においては更に高い潤滑性の油剤を得るために、エステルの水酸基価の上限値は更に好ましくは200mgKOH/gであり、最も好ましくは150mgKOH/gであり、一方その下限値は、更に好ましくは0.1mgKOH/gであり、更に好ましくは0.5mgKOH/gであり、更に好ましくは1mgKOH/gであり、更に好ましくは3mgKOH/gであり、最も好ましくは5mgKOH/gである。ここで、エステルの水酸基価は、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、エステル価、沃素価、水酸基価及び不ケン化価物の測定方法」の指示薬滴定法により測定した値を意味する。
【0022】
また油剤の潤滑性をより高める観点からエステルのケン化価は、100〜500mgKOH/gの範囲にあることが好ましい。エステルのケン化価の上限値は更に好ましくは400mgKOH/gであり、一方その下限値は更に好ましくは200mgKOH/gである。ここで、エステルのケン化価は、JIS K 2503「航空潤滑油試験方法」の指示薬滴定法により測定した値を意味する。
【0023】
良好な潤滑性を有する油剤組成物は更にべたつきにくいことが好ましく、そのためには、沃素価が0〜80の範囲にあるエステル及び/又は臭素価が0〜50gBr2/100gの範囲にあるエステルを用いることが好ましい。
エステルの沃素価は、更に好ましくは0〜60の範囲、更に好ましくは0〜40の範囲、更に好ましくは0〜20の範囲、最も好ましくは0〜10の範囲にある。
エステルの臭素価は、更に好ましくは0〜30gBr2/100gの範囲、更に好ましくは0〜20gBr2/100gの範囲、最も好ましくは0〜10gBr2/100gの範囲にある。ここで、エステルの沃素価は、JIS K 0070「化学製品の酸価、ケン化価、エステル価、沃素価、水酸基価及び不ケン化価物の測定方法」の指示薬滴定法により測定した値を意味する。またエステルの臭素価は、JIS K 2605「化学製品―臭素価試験方法−電気滴定法」により測定した値を意味する。
【0024】
基油としてのエステルの動粘度については特に制限はないが、加工箇所への供給のしやすさの点から40℃における動粘度の上限値は200mm2/sであることが好ましく、更に好ましくは100mm2/sであり、更に好ましくは75mm2/sであり、最も好ましくは50mm2/sである。一方その下限値は、1mm2/sであることが好ましく、更に好ましくは3mm2/sであり、最も好ましくは5mm2/sである。
また基油としてのエステルの流動点および粘度指数には特に制限はないが流動点は−20℃以下であることが好ましく、更に好ましくは−45℃以下である。粘度指数は100以上200以下であることが望ましい。
【0025】
本発明の油剤組成物の基油として用いられているエステルの含有量には特に制限はない。しかしながら、バクテリア等の微生物による油剤成分の分解がより容易に行われ、周辺の環境が維持される生分解性の点から、油剤中のエステルの含有量は、組成物全量基準で10質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、30質量%以上であることが更に好ましく、最も好ましくは50質量%以上である。
【0026】
本発明の油剤組成物には、基油としての上記エステル以外に油性剤が含有されている。油性剤の添加により油剤の潤滑性を向上させることができる。油性剤としては、(A)アルコール、(B)カルボン酸、(C)不飽和カルボン酸の硫化物、(D)下記一般式(3)で表される化合物、(E)下記一般式(4)で表される化合物、(F)ポリオキシアルキレン化合物、及び(G)エステルなどを挙げることができる。以下、これらの油性剤について説明する。
(A)アルコールは、1価アルコールでも多価アルコールでも良い。より高い潤滑性能が得られ、優れた加工性が得られる点から炭素数1〜40の1価アルコールが好ましく、更に好ましくは炭素数1〜25のアルコールであり、最も好ましくは炭素数8〜18のアルコールである。具体的には、上記基油のエステルを構成するアルコールの例を挙げることができる。これらのアルコールは直鎖状でも分岐を有していても良く、また飽和でも不飽和でも良いが、べたつき性の点から飽和であることが好ましい。
【0027】
(B)カルボン酸は1塩基酸でも多塩基酸でも良い。より高い潤滑性能が得られ、優れた加工性が得られる点から炭素数1〜40の1価のカルボン酸が好ましく、更に好ましくは炭素数5〜25のカルボン酸であり、最も好ましくは炭素数5〜20のカルボン酸である。具体的には、上記基油としてのエステルを構成するカルボン酸の例を挙げることできる。これらのカルボン酸は、直鎖状でも分岐を有していても良く、飽和でも不飽和でも良いが、べたつき性の点から飽和であることが好ましい。
【0028】
(C)不飽和カルボン酸の硫化物としては、例えば、上記(B)のカルボン酸のうち、不飽和のものの硫化物を挙げることができる。具体的には例えば、オレイン酸の硫化物を挙げることができる。
【0029】
(D)下記一般式(1)で表される化合物
【0030】
【化3】

(一般式(1)において、R1は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、m1は1〜6の整数を表し、n1は0〜5の整数を表す。)
1で表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、例えば炭素数1〜30の直鎖又は分岐アルキル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜30のアルキルシクロアルキル基、炭素数2〜30の直鎖又は分岐アルケニル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜30のアルキルアリール基、及び炭素数7〜30のアリールアルキル基を挙げることができる。これらの中では、炭素数1〜30の直鎖又は分岐アルキル基であることが好ましく、更に好ましくは炭素数1〜20の直鎖又は分岐アルキル基であり、更に好ましくは炭素数1〜10の直鎖又は分岐アルキル基であり、最も好ましくは炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基である。炭素数1〜4の直鎖又は分岐アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、直鎖又は分岐のプロピル基及び直鎖又は分岐のブチル基を挙げることができる。
水酸基の置換位置は任意であるが、二個以上の水酸基を有する場合には隣接する炭素原子に置換していることが好ましい。m1は好ましくは1〜3の整数であり、更に好ましくは2である。n1は好ましくは0〜3の整数であり、更に好ましくは1又は2である。一般式(1)で表される化合物の例としては、p−tert-ブチルカテコールを挙げることができる。
【0031】
(E)下記一般式(2)で表される化合物、
【0032】
【化4】

(一般式(2)において、R2は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、m2は1〜6の整数を表し、n2は0〜5の整数を表す。)
2で表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、前記一般式(1)のR1で表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。水酸基の置換位置は任意であるが、二個以上の水酸基を有する場合には隣接する炭素原子に置換していることが好ましい。m2は好ましくは1〜3の整数であり、更に好ましくは2である。n2は好ましくは0〜3の整数であり、更に好ましくは1又は2である。一般式(2)で表される化合物の例としては、2,2−ジヒドロキシナフタレン、2,3−ジヒドロキシナフタレンを挙げることができる。
【0033】
(F)ポリオキシアルキレン化合物としては、例えば下記一般式(3)又は(4)で表される化合物を挙げることができる。
3O−(R4O)m3−R5 (3)
(一般式(3)において、R3及びR5は各々独立に水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、R4は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、そしてm3は数平均分子量が100〜3500となるような整数を表す。)
A−[(R6O)n4−R7]m4 (4)
(一般式(4)において、Aは、水酸基を3〜10個有する多価アルコールの水酸基の水素原子の一部又は全てを取り除いた残基を表し、R6は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、R7は水素原子又は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、そしてn4は数平均分子量が100〜3500となるような整数を表し、m4は、Aの取り除かれた水酸基の水素原子の個数と同じ数を表す。)
【0034】
一般式(3)について説明する。
3及びR5の少なくとも一方は水素原子であることが好ましい。R3及びR5で表される炭素数1〜30の炭化水素基としては、例えば前記一般式(1)のR1及びR3で表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。R2で表される炭素数2〜4のアルキレン基としては、具体的には例えば、エチレン基、プロピレン基(メチルエチレン基)、ブチレン基(エチルエチレン基)を挙げることができる。
m3は、好ましくは数平均分子量が300〜2000となるような整数であり、更好ましくは数平均分子量が500〜1500となるような整数である。
【0035】
一般式(4)について説明する。
Aを構成する3〜10の水酸基を有する多価アルコールの具体例としては、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜4量体、例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン)、トリメチロールアルカン(トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン)及びこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロ−ル、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール、イジリトール、タリトール、ズルシトール、アリトールなどの多価アルコール;キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マントース、イソマントース、トレハロース、及びシュクロースなどの糖類を挙げることができる。これらの中でもグリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールアルカン、およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、又はソルビタンが好ましい。
【0036】
6で表される炭素数2〜4のアルキレン基の例としては、前記一般式(3)のR4で表される炭素数2〜4のアルキレン基の例と同じものを挙げることができる。またR7で表される炭素数1〜30の炭化水素基の例としては、前記一般式(1)のR1で表される炭素数1〜30の炭化水素基の例と同じものを挙げることができ、また好ましいものの例も同じである。m4個のR7の内の少なくとも一つが水素原子であることが好ましく、全て水素原子であることが更に好ましい。
n4は、好ましくは数平均分子量が300〜2000となるような整数であり、更に好ましくは数平均分子量が500〜1500となるような整数である。
【0037】
(G)エステルとしては、これを構成するアルコールが1価アルコールでも多価アルコールでも良く、またカルボン酸は一塩基酸でも多塩基酸であっても良いものである。
エステルを構成する1価アルコール及び多価アルコールの例としては、前記基油としてのエステルの説明において例示した1価アルコール及び多価アルコールと同じものを挙げることができる。更に好ましいものについても同じである。
またエステルを構成する一塩基酸および多塩基酸の例も前記基油としてのエステルの説明において例示した一塩基酸および多塩基酸と同じものを挙げることができる。更に好ましいものについても同じである。またアルコールとカルボン酸との組み合わせとしては、任意の組み合わせが可能であり、特に限定されるものではないが、例えば、下記の組み合わせを挙げることができる。
(1)一価アルコールと一塩基酸とのエステル
(2)多価アルコールと一塩基酸とのエステル
(3)一価アルコールと多塩基酸とのエステル
(4)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(5)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と多塩基酸との混合エステル
(6)多価アルコールと一塩基酸、多塩基酸との混合物との混合エステル
(7)一価アルコール、多価アルコールとの混合物と一塩基酸、多塩基酸との混合エステル
なお、アルコール成分として多価アルコールを用いた場合、多価アルコール中の水酸基全てがエステル化された完全エステルでも良く、あるいは水酸基の一部がエステル化されず水酸基のままで残っている部分エステルでも良い。また、カルボン酸成分として多塩基酸を用いた場合、多塩基酸中のカルボキシル基全てがエステル化された完全エステルでも良く、あるいはカルボキシル基の一部がエステル化されずカルボキシル基のままで残っている部分エステルであっても良い。油性剤としてのエステルの合計炭素数には特に制限はないが、潤滑性及び加工性の向上効果を得るために、合計炭素数が7以上のエステルが好ましく、9以上のエステルが更に好ましく、11以上のエステルが最も好ましい。またステインや腐食の発生を増大させないために、合計炭素数が26以下のエステルが好ましく、24以下のエステルが更に好ましく、22以下のエステルが最も好ましい。
【0038】
油性剤としては、上記各種油性剤の中から選ばれる1種のみを用いても良く、また2種以上の混合物を用いても良い。
油性剤の油剤中の含有量は特に制限はないが、高い潤滑性及び加工性を得るために、組成物全量基準(油性剤の合計量として)で、0.1質量%以上であることが好ましく、更に好ましくは0.2質量%以上、最も好ましくは0.5質量%以上である。またステインや腐食の発生を増大させないために、油剤の含有量の上限値は50質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは30質量%以下、更に好ましくは20質量%以下、最も好ましくは15質量%以下である。
【0039】
本発明の油剤組成物は酸化防止剤を含有していることが好ましい。酸化防止剤の添加により油剤変質によるべたつきを抑制することができる。使用できる酸化防止剤としては、潤滑剤用として、あるいは食品添加物として使用されているものが含まれ、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−チオビス(6−tert−ブチル−o−クレゾール)、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、1,2−ジハイドロ−6−エトキシ−2,2,4−トリメチルキノリン(エトキシキン)、2−(1,1−ジメチル)−1,4−ベンゼンジオール(TBHQ)、2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン(THBP)を挙げることができる。
【0040】
これらの中では、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、2−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、3−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、1,2−ジハイドロ−6−エトキシ−2,2,4−トリメチルキノリン(エトキシキン)、2−(1,1−ジメチル)−1,4−ベンゼンジオール(TBHQ)、又は2,4,5−トリヒドロキシブチロフェノン(THBP)であることが好ましく、更に好ましくは、アスコルビン酸(ビタミンC)、アスコルビン酸の脂肪酸エステル、トコフェロール(ビタミンE)、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール(DBPC)、又は3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシアニソールである。
酸化防止剤の含有量は特に制限はないが、良好な酸化安定性を維持させるためにその含有量は、組成物全量基準で0.01質量%以上が好ましく、更に好ましくは0.05質量%以上、最も好ましくは0.1質量%以上である。一方それ以上添加しても効果の向上が期待できないことからその含有量は10質量%以下であることが好ましく、更に好ましくは5質量%以下であり、最も好ましくは3質量%以下である。
【0041】
本発明の油剤組成物は基油としてのエステル及び油性剤を含有するものであるが、更に切削・研削油として従来公知の基油及び上記酸化防止剤以外の添加剤を含有させることができる。
基油は、鉱油でも合成油(但し、エステルは除く)でも良い。鉱油としては、例えば、原油を常圧蒸留及び減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理を適宜組み合わせて精製したパラフィン系、ナフテン系等の油を挙げることができる。また合成油としては、例えば、ポリ−α−オレフィン(ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等)、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル等が使用できる。これらの基油を用いる場合の配合量は特に制限はないが、組成物全量基準で90質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることが特に好ましい。本発明では、生分解性の点から基油をエステル成分のみ(100質量%)で構成することが好ましい。
【0042】
従来公知の添加剤としては、例えば、塩素系、硫黄系、りん系、有機金属系の極圧添加剤;ジエチレングリコールモノアルキルエーテル等の湿潤剤;アクリルポリマー、パラフィンワックス、マイクロワックス、スラックワックス、ポリオレフィンワックス等の造膜剤;脂肪酸アミン塩等の水置換剤;グラファイト、フッ化黒鉛、二硫化モリブデン、窒化ホウ素、ポリエチレン粉末等の固体潤滑剤;アミン、アルカノールアミン、アミド、カルボン酸、カルボン酸塩、スルホン酸塩、リン酸、リン酸塩等の腐食防止剤;ベンゾトリアゾール、チアジアゾール等の金属不活性化剤;メチルシリコーン、フルオロシリコーン、ポリアクリレート等の消泡剤;アルケニルコハク酸イミド、ベンジルアミン、ポリアルケニルアミンアミノアミド等の無灰分散剤;等が挙げられる。これらの公知の添加剤を併用する場合の含有量は特に制限はないが、これらの公知の添加剤の合計含有量が組成物全量基準で0.1〜10質量%となるような量で添加するのが一般的である。
【0043】
本発明の油剤組成物の動粘度については特に制限はないが、加工箇所への供給のしやすさの点から、40℃における動粘度の上限値は200mm2/sであることが好ましく、更に好ましくは100mm2/sであり、更に好ましくは75mm2/sであり、最も好ましくは50mm2/sである。一方その下限値は、1mm2/sであることが好ましく、更に好ましくは3mm2/sであり、最も好ましくは5mm2/sである。
【0044】
以下、実施例と比較例により、本発明の内容を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0045】
[実施例1〜20]及び[参考例1〜2]
下記の基油としてのエステルと、油性剤、そして酸化防止剤を用いて下記の表1及び表2に示す各種の油剤組成物を調製した。そしてタッピング試験による潤滑性の評価及びべたつき性の評価を行った。その評価結果を表1及び表2に示す。
【0046】
表1は、基油として合成エステルaを用いた場合の実施例1〜10及び参考例1を示す。参考例1は、合成エステルaのみからなる油剤組成物である。
表2は、基油として天然油脂(エステル)αを用いた場合の実施例11〜20及び参考例2を示す。参考例2は、天然油脂のみからなる油剤組成物である。
なお、油剤組成物を用いることなく空気のみを吹き付けた場合の例を比較例1として評価し、その評価結果を表1に併記した。
【0047】
[潤滑性の評価(タッピング試験)]
各油剤組成物及び比較標準油(DIDA:アジピン酸ジイソデシル)を交互に用いて、下記の条件によりタッピング試験を行った。それぞれの場合のタッピングエネルギーを測定し、下記の式により、タッピングエネルギー効率(%)を算出した。タッピングエネルギー効率%の値が高い程、潤滑性が高いことを示す。
タッピングエネルギー効率(%)=(DIDAを用いた場合のタッピングエネルギー)/(油剤組成物を用いた場合のタッピングエネルギー)
タッピング条件
工具:ナットタップM8(P=1.25mm)
下穴径:φ6.8mm
ワーク:S25C(t=10mm)
切削速度:9.0m/分
油剤供給方式
各油剤組成物:圧縮空気0.2MPa、油剤組成物25ml/hの条件で吹き付け
DIDA:圧縮空気を用いることなく、直接加工部位に4.3mL/分の条件で吹き付け
【0048】
[べたつき性の評価]
アルミ皿(100mm×70mm)上に油剤組成物を5ml入れ、70℃の恒温槽に168時間静置後、油剤組成物付着部分のべたつきの程度を5段階にて指触判断した。またGPCにて試験前後の質量平均分子量を測定し、変化率を求めた。
べたつき性の5段階評価は下記の通りである。
A:べたつきは全くない。
B:べたつきが全くないか、あっても極わずかである。
C:べたつきがわずかにある。
D:べたつきがある。
E:べたつきが非常にある。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
表1及び表2の結果から、参考例1及び2に見られるように、エステル(表1の合成エステル、表2の天然油脂)のみからなる油剤組成物に比べて、基油としてのこれらのエステルに油性剤を含有させた本発明の油剤組成物(実施例1〜20)は高い潤滑性、低いべたつき性を示している。更にこれらの油剤組成部に酸化防止剤を含有させた実施例9及び10の場合には、更にべたつき性が低下することがわかる。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
エステルを基油とし、油性剤を含有してなる極微量油剤供給式切削・研削加工用油剤組成物。
【請求項2】
油性剤が、(A)アルコール、(B)カルボン酸、(C)不飽和カルボン酸の硫化物、(D)下記一般式(1)で表される化合物、(E)下記一般式(2)で表される化合物、(F)ポリオキシアルキレン化合物、および(G)エステルからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物である請求項1に記載の組成物。
【化1】

(一般式(1)において、R1は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、m1は1〜6の整数を表し、n1は0〜5の整数を表す。)
【化2】

(一般式(2)において、R2は炭素数1〜30の炭化水素基を表し、m2は1〜6の整数を表し、n2は0〜5の整数を表す。)
【請求項3】
基油としてのエステルの水酸基価が0.01〜300mgKOH/gである請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
基油としてのエステルのケン化価が100〜500mgKOH/gである請求項1乃至3のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項5】
基油としてのエステルの沃素価が0〜80である請求項1乃至4のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項6】
基油としてのエステルの臭素価が0〜50gBr2/100gである請求項1乃至5のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項7】
基油としてのエステルが合成エステルである請求項1乃至6のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項8】
更に酸化防止剤を含有する請求項1乃至7のいずれかの項に記載の組成物。










【公開番号】特開2006−52415(P2006−52415A)
【公開日】平成18年2月23日(2006.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−314776(P2005−314776)
【出願日】平成17年10月28日(2005.10.28)
【分割の表示】特願2000−286594(P2000−286594)の分割
【原出願日】平成12年9月21日(2000.9.21)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】