説明

極性媒体に可溶性のUV吸収剤

本発明は、極性コーティング組成物に溶解することができるように変性されたトリアジンベースの特別な有機UV吸収剤に関する。本発明はさらに、前記新規のUV吸収剤を含有するコーティング、たとえば、ゾル−ゲルに基づくもの、さらには材料、特にプラスチックを光化学的劣化から永続的に保護するための前記コーティングの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極性媒体に可溶性の有機UV吸収剤、そこから調製されるラッカーシステムおよびこのようなUV吸収剤を含有するコーティング、およびこのようなUV吸収剤を含有する保護ラッカーによって保護された最終部品に関する。
【背景技術】
【0002】
外装で使用する場合には、プラスチックまたは天然材料(木材)は、光化学的劣化に対して、好適なコーティングを用いて保護されねばならない。そこで、UV保護剤をプラスチック自身に添加し、または材料がUV保護剤を含有する被覆層/保護層を備えるようにする。現行の先行技術によれば、非常に良好な種類のUV吸収剤はビフェニール置換トリアジンである(国際特許出願第WO 2006/108520 A号公報)。この種の物質は320〜380nmに優れた吸収活性を有すると同時に、本来的に非常に高いUV安定性を有する(国際特許出願第WO 2000/066675 A1、米国特許公開第US−A 6,225,384号公報)。これらは非常に著しく芳香族性であるので、従来公知のこの種の物質は無極性および媒体極性媒体にのみ容易に溶解し、このことは純粋に有機物質に基づく大部分のUV硬化性保護ラッカーにとっては、十分である。このようなラッカー層は十分な引っ掻き耐性を有さないことは、公知である。このことは、外装分野、たとえば、建築分野でのシステムの使用を著しく制限し、いくらかの外装用途、たとえば、ドライバ側から見た自動車のグレージングとしての用途は、完全に絶たれる。
【0003】
しかし、材料を保護層によって磨耗および引っ掻きに対しても効果的に保護するなら、現行の先行技術では、ゾル−ゲルシリケートラッカー(たとえば、欧州特許出願第EP−A 0 339 257、米国特許公開第US−A 5,041,313号公報)および他のハイブリッドラッカー(欧州特許出願第EP−A 0 570 165号公報)がある。有機シランベースのラッカーの特性上の特徴は、さらに優れた気候安定性および光安定性、熱、アルカリ、溶媒および水耐性を備えることである。しかし、無極性添加剤がこのようなラッカーシステムに不溶で;市販入手可能な適当な極性の、概してヒドロキシを含有するUV吸収剤および/または無機UV吸収剤、たとえば、二酸化チタン、酸化亜鉛または二酸化セリウムをUV吸収剤として使用するが、これらは最適機能を有するものではない(欧州特許出願第EP−A 0 931 820号公報)。このようなレゾルシノールベースのラッカーシステムのために、アルコキシシリル(アルキル)基を用いて変性させたUV吸収剤が、米国特許公開第US−A 5,391,795およびU−A 5,679,820号公報に開示されている。しかし、ここに記載されるモノ変性は、合成経路の点か、または効果の点のいずれかで、ビフェニール置換トリアジンに取って代わることができるものではない。米国特許公開第US−A 7,169,949号公報は、シラン基で変性させたトリアジンベースのUV吸収剤を開示する。しかし、ここで記載され示されるモノアルコキシシリル置換トリアジンは、ビフェニール置換基を有さない。有機コーティング組成物内でこれらのトリアジンを使用することが記載される。しかし、有機−無機ハイブリッドラッカー、特にゾル−ゲルコーティングは述べられていない。以下に示されるように、これらのモノアルコキシシリル置換トリアジンはこのようなラッカーに不溶性である。さらに、ここで示される極性変性させたトリアジンを、米国特許公開第US−A 7,169,949号公報に提案される合成経路によって調製することはできない。さらに、ここで記載される非ビフェニール置換トリアジンのUV保護機能は、特にポリカーボネートにとって最適ではない。
【0004】
トリアジン類の物質から好適に極性変性されたUV吸収剤、およびラッカーシステムたとえば、ハイブリッドラッカー、特にゾル−ゲルシリケートラッカーにおけるその使用はしたがって、現在のところ知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、本発明の目的は、このように置換および変性させたトリアジンのUV吸収剤を提供することであって、これらはハイブリッドラッカー、特にゾル−ゲルラッカーに可溶性であると共に、非常に良好なUV吸収性を有するものである。さらに、本発明の目的は、極性物質に基づくコーティングシステムを提供することであって、これらは、好適な基材、たとえば、プラスチック材料への塗布後に、硬化することができ、高い耐候性を有すると共に、効果的で永続的にUV保護機能を備えることができるものである。
【0006】
本発明の範囲内でコーティング組成物は、ラッカーまたは、組み合わせで一般的ラッカー構成を形成するコーティング物質を含有する組成物と規定される。コーティング物質はラッカーおよび塗料産業のいずれかの製品である(この関連で:「ラック・ボン・A・ビス・Z(Lack von A bis Z)」パオロ・ナネット(Paolo Nanetto),ビンツェンツ(Vinzentz),ハノーバ(Hanover)2007も参照)。「ラッカー」という用語は他ではしばしば外側可視層のラッカー構造のみを示しているが、ラッカーとコーティング物質という用語は、本発明の場合には概して、同じ意味で使用される。
【0007】
本発明では、「コーティング」という用語は、1以上の硬化ラッカー層またはさらには着色および/または印刷層および/またはさらなる機能層と同じ意味である。
【0008】
本発明の範囲内で極性ラッカーとは、極性溶媒(主にアルコール、たとえば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール)に主として溶解するラッカー、コーティング物質である。
【0009】
本発明の範囲内でゾル−ゲルラッカーとは、ゾル−ゲル法によって調製されるラッカーである。ゾル−ゲル法とは、コロイド分散、いわゆるゾルから非金属無機材料またはハイブリッドポリマー状材料を合成する方法である。
【0010】
本発明の範囲内でハイブリッドラッカーとは、バインダとしてハイブリッドポリマーを使用することに基づくものである。ハイブリッドポリマー(ハイブリッド:「2つの異なる由来の」意味)とは、異なる材料種の構造ユニットが分子レベルで組み合わさったポリマー状材料である。その構造の結果、ハイブリッドポリマーは全く新しい特性の組み合わせを備えることができる。(相境界が規定される、相間相互作用の弱い)コンポジット材料やナノコンポジット(ナノスケールの充填剤として使用)と異なり、ハイブリッドポリマーの構造ユニットは分子レベルで互いに結合する。これは化学的方法、たとえば、ゾル−ゲル法によって達成され、これによって無機ネットワークを構築することができる。有機的に反応する前駆体、たとえば、有機的に変性させた金属アルコキシドを使用することによって、さらに、有機オリゴマー/ポリマー構造を製造することができる。表面変性ナノ粒子を含有するアクリレートラッカーは、硬化後に有機/無機ネットワークを形成するのだが、これもハイブリッドラッカーと規定される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
驚くべきことに、本発明の目的は、一般式(I)のトリアジン化合物
A−X(−T−Q−P) (I)
によって達成することができ:
ここでAは
【化1】

であり、ここで、YおよびYは互いに独立して、一般式
【化2】

を有する置換基であり、ここで
rは0または1であり、好ましくは1であり、
、R、Rは互いに独立して、H、OH、C1〜20アルキル、C4〜12シクロアルキル、C2〜20アルケニル、C1〜20アルコキシ、C4〜12シクロアルコキシ、C2〜20アルケニルオキシ、C7〜20アラルキル、ハロゲン、−C≡N、C1〜5ハロアルキル、−SO2R'、−SO3H、−SO3M(M=アルカリ金属)、−COOR'、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ、(メタ)アクリルオキシ、C6〜12アリール(C1〜12アルキル、C1〜12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンによって任意に置換)、C3〜12ヘテロアリール(C1〜12アルキル、C1〜12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンによって任意に置換)であり、
ここで
R’およびR”は−H、−C1〜20アルキル、C4〜12シクロアルキル、C6〜12アリール(C1〜12アルキル、C1〜12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンによって任意に置換)またはC3〜12ヘテロアリール(C1〜12アルキル、C1〜12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンによって任意に置換)を示し、
Xは線形または分岐結合基であり、基AのO原子と各T基の間には、炭素、酸素、窒素、硫黄、リンおよび/または珪素から選択される少なくとも4個の原子の鎖が鎖中に存在することを特徴とする。たとえば、(任意に置換された)炭化水素鎖−(CR)−であってもよく、ここでJは3を超える整数であり、またはO、N、S、Pおよび/またはSIが割り込んだ炭化水素であってもよく、任意に1以上のさらには異なる置換基で置換されてもよい(たとえば、−CR−(C=O)−O−CR−鎖)。置換基Rは互いに独立して、好ましくはHまたはアルキル基を表す。
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−または尿素基−NH−(C=O)−NH−、好ましくはウレタン基−O−(C=O)−NH−であり、
Qは−(CH−であり、ここでmは1、2または3であり、
Pはモノ−、ジ−またはトリ−アルコキシシラン基を表し、ここでアルコキシは好ましくはメトキシ、エトキシまたは(2−メトキシ)−エトキシを表し、かつ
nは1〜5の整数を示す。
【0012】
一般式(I)の化合物の中で、一般式(II)の化合物:

A−C(R)H−C(=O)−O−(CH−CH−O)q−CH−CH−T−Q−P (II)

したがって、
【化3】

が好ましく、
ここで、R4は−HまたはC1〜20アルキルを示し、qは0、1、2または3である。
【0013】
同様に、n≧2である一般式(I)の化合物(式(III))が好ましい。
A−X(−T−Q−P)n≧2 (III)
【0014】
式(II)および(III)で、A、Y、Y、X、T、QおよびPは式(I)で記載される意味を有する。
【0015】
これまで知られていない極性変性ビフェニール置換トリアジンをも調製することができるこのようなトリアジンへの合成経路を開発した。
一般式(I)の化合物の中で、以下の化合物が特に好ましい:
【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

【化11】

【0016】
さらに、本発明は、一般式(I)のUV吸収化合物を含有するコーティング組成物、このコーティング組成物の調製方法、および表面、特にプラスチック材料の表面コーティングでのその使用を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に従って好ましいコーティング組成物はゾル−ゲルラッカーおよび他の極性ハイブリッドラッカーに基づくものであり、なぜなら、新規のUV吸収剤の溶解性がここでは最適に利用されるからである。もちろん、他のラッカーシステム、たとえば、国際特許出願第WO 2008/071363 A号公報またはドイツ特許公開第DE−A 2804283号公報に記載されるような、UV硬化性アクリレートラッカーまたはUV硬化性の無水加水分解可能なシランシステムでも、本UV吸収剤を使用することができる。
【0018】
高いUV保護性を備えながら、引っ掻き耐性のある保護層を得るために、新規のトリアジンベースのシリル化UV吸収剤を、熱硬化性ゾル−ゲルコーティングシステムに導入してもよい。ゾル−ゲルコーティングシステムに特別の要件はなく;酸性でも、塩基性でもまたは中性でもよい。たとえば、このようなゾル−ゲルコーティング溶液を、コロイド状二酸化珪素と、一般式RSI(OR')のオルガノアルコキシシランとの、またはオルガノアルコキシシランの混合物との水性分散体を加水分解することによって調製してもよく、一般式RSI(OR')のオルガノアルコキシシランにおいて、Rは1価のC1〜C6−アルキル基または全部または一部フッ素化されたC1〜C6−アルキル基、ビニルまたはアリルユニット、アリール基またはC1〜C6−アルコキシ基を表す。特に好ましくは、RはC1〜C4−アルキル基、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、tert−ブチル、sec−ブチルまたはn−ブチル基、ビニル、アリル、フェニルまたは置換フェニルユニットである。−OR’は互いに独立して、C1〜C6−アルコキシ基、ヒドロキシ基、ホルミルユニットおよびアセチルユニットを含む群から選択される。
【0019】
コロイド状二酸化珪素はたとえば、レバジール(Levasil)200 A(HCスターク(Starck))、ナルコ(Nalco)1034A(ナルコ・ケミカル社(Nalco Chemical Co))、ラドックス(Ludox)AS−40またはラドックス(Ludox)LS(グレース・ダビジョン(GRACE Davison))として入手可能である。オルガノアルコキシシランの例として、以下の化合物を挙げることができる:3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリヒドロキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、メチル-トリアセトキシ-シラン、エチルトリエトキシシラン、フェニルトリアルコキシシラン(たとえば、フェニルトリエトキシ-シランおよびフェニルトリメトキシシラン)およびその混合物。
【0020】
有機および/または無機酸または塩基をたとえば、触媒として使用してもよい。
【0021】
また、実施の形態では、コロイド状二酸化珪素粒子は、アルコキシシランからの出発時に事前濃縮によって自然に形成され得る(この関連で、「シリカの化学(The Chemistry of Silica)」,ラルフ(Ralph)K.イラー(Iler),ジョン・ウィリー&サンズ(John Wiley & Sons),(1979),p.312−461参照)。
【0022】
ゾル−ゲル溶液の加水分解は、溶媒、好ましくはアルコール性溶媒、たとえば、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノールまたはその混合物の添加によって、終了し、または著しく減速する。任意に溶媒に事前溶解させた本発明による1以上のUV吸収剤
を次に、このゾル−ゲルコーティング溶液に添加し、その後、数時間または数日/数週間のエージング工程を行う。さらなる添加剤および/または安定剤、たとえば、流動剤、表面活性剤、増ちょう剤、顔料、着色剤、硬化触媒、IR吸収剤、UV吸収剤および/または接着促進剤をさらに添加してもよい。ヘキサメチルジシラザンまたはこれに匹敵する化合物は、コーティングのひび割れに対する感応性を減らすことにつながり得り、これらを使用することもできる(国際特許出願第WO 2008/109072 Aも参照)。
【0023】
実施の形態では、式(I)の化合物以外のシリル化UV吸収剤がさらに存在する。
【0024】
本発明によるUV吸収剤はまた、そのUV保護機能を向上させるために、市販入手可能な既製のゾル−ゲルラッカーと混合してもよい。このようなラッカーはたとえば、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ(Momentive Performance Materials)から、製品名AS4000、AS4700、PHC587およびPHC587Bで入手可能である。
【0025】
本発明によるUV保護配合物を用いて、これらを適当な基材(B)に常套の方法で塗布し、次にこれらを好適な条件下で硬化することによって、コーティングを製造することができる。塗布はたとえば、ディッピング、フローディング、スプレイング、ドクターブレード塗布、鋳込またはブラシ塗布によって行われ;次に存在する何らかの溶媒を蒸発除去し、コーティングを室温または高温で、またはUV光によって硬化する。常套の方法による塗布に関する詳細はたとえば、有機コーティング(Organic Coatings):化学と技術(Science and Technology),ジョン・ウィリー&サンズ(John Wiley & Sons)1994,22章,65−82ページに見出される。
【0026】
本発明によるUV保護配合物から製造されるコーティング(C)は、UV放射線に対して非常に良好な基材保護性を示し、光化学的劣化に対して表面を永続的に保護することができる。したがって、UVに不安定な基材を、UV放射線、特に太陽光または人工的放射線源から保護するためなら、何処にこれらを使用してもよい。多くのプラスチック材料だけでなく、天然材料たとえば、木材を、本発明によるコーティングによって、光化学的劣化に対して永続的に保護することができる。他方で、ガラスのコーティングも可能であるが、これは基材を保護する役割を果たすのではなく、市販の窓ガラスをたとえば、ほぼ完全に透過する長波長UV放射線(≧300nm)対して遮断する役割を果たす。
【0027】
透明性が高いので、本発明によるコーティングを、特に透明プラスチック材料、たとえば、ポリカーボネート、ポリ(メタ)アクリレート、ポリエステルおよびポリスチレンおよびそのコポリマーおよび混合物(ブレンド)上に使用してもよい。特に好ましくは、ポリカーボネートおよびコポリカーボネート、特にビスフェノールA−ベース(芳香族性)ポリカーボネートをUV放射線に対して保護する。そして、このようにしてUV放射線に対して永続的に保護されたポリカーボネートを、長期間にわたって黄変を防がねばならない、たとえば、建物および自動車のグレージングに使用することができる。
【0028】
熱可塑性プラスチックの場合には、たとえば、フィルム、共押出しフィルム、シート、多壁シートおよび主として平坦な基材の形態の、特に押出しさらには射出成形された成形本体を、コートすることができる。また用途分野は、1成分および2成分射出成形部品の分野に、たとえば、ヘッドランプカバープレート、建物および自動車グレージングの形態で見出される。
【0029】
用途に依存して、コーティングは基材(B)の1以上の側に効果的に塗付される。平坦な基材、たとえば、フィルムまたはシートではしたがって、片側または両側上をコートすることができる。
【0030】
好ましくは、基材(B)とコーティング(C)から成る物品は構造(B)−(C)または(C)−(B)−(C)を有してもよく、ここでコーティング(C)は同じでも異なっていてもよい。
【0031】
下塗り層(D)が基材とコーティングの間にさらに存在してもよい。この場合には、好ましい多層物品構造は、(B)−(D)−(C)、(C)−(B)−(D)−(C)および(C)−(D)−(B)−(D)−(C)であり、ここで層(C)および(D)は互いに独立して、同じでも異なる組成を有していてもよい。
【0032】
物品はさらに、さらなるコーティングを含んでもよい。コーティング(C)および(D)だけでなく、さらなるコーティング(E)として、たとえば、IR吸収層、IR反射層、導電層、電界発光層、装飾の目的のために着色および印刷層、たとえば、自動車の窓の加熱用に使用されるような導電性印刷層、任意に加熱ワイヤをも含む層、反射防止層、雫防止コーティング、曇り防止コーティング、指紋防止コーティングおよび/またはその組み合わせを考慮する。このようなコーティングは、中間層および/または外側層として塗付されまたは存在してもよい。
【0033】
接着性を改良するために、好適な接着促進剤を用いることももちろん可能であり、これによって本発明によるコーティングを確実に、良好に基材に接着する。接着促進剤を本発明による混合物に添加してもよく、または基材に別個のコーティングとして塗布してもよい。常套の接着促進剤は、一般的にポリメタクリレートまたはポリウレタンに基づくものである。接着促進機能に加えて、全体として構造のUV保護性を、さらなるUV吸収剤およびさらなる光安定剤、好ましくはHALSによって任意に向上させることができる。接着促進剤または下塗り剤を、室温で空気に暴露した後に、高温で焼成してもよく(ベイク−オン−ベイク法)、または直接ゾル−ゲル溶液でコートしてもよい(ウェット−オン−ウェット法)。
【0034】
さらに、本発明による混合物から得られるコーティングを、さらなるコーティングでコートしてもよく、これはたとえば、機械特性(引っ掻き耐性)を改良する役割を果たすことができる。プラズマ層を同様に塗布してもよく、これはさらに障害や引っ掻きに対する保護を与えることができる。プラズマ層を、先行技術に従って、たとえば、プラズマ増速化学蒸着PCVDまたはマグネトロンスパッタリング(たとえば、米国特許公開第US−A 2007/104956号公報)に従って、反応種を成膜することによって塗布する。
【0035】
以下の実施例は本発明を説明することを意図するものであって、これを限定しない。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
【化12】

110gのチヌビン(Tinuvin)479(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals Inc.),スイス)と8.1gのジブチル錫オキサイド(アルドリッチ(Aldrich))とを、217.7gの1,1,1−トリス−(ヒドロキシメチル)−プロパン(アルドリッチ)内に入れ、5時間165℃(油浴の温度)で攪拌する。攪拌された組成物は、初めは曇っているが、その後透明になる。反応混合物の冷却後、生成物を、メタノールを用いて結晶形態で析出させ、濾過し、メタノールですすぎ乾燥する。トルエンから2回結晶化させることによって、さらに精製を行う。B1.1の融点は121.8℃である。収率:70g(理論上63%)。
【0037】
元素分析:C4239(681.80)
計算値:C73.99;H5.77;N6.16
実測値:C74.80;H6.00;N5.90
【0038】
【化13】

69gのB1.1を115mlのTHFに溶解し;55.1gの3−イソシアナトプロピル−トリエトキシシラン(アルドリッチ)を添加する。26.6gのTHF溶液の形態の0.064gのジブチル錫ジドデカネート(アルドリッチ)(50gのTHFにおける0.12gのDBTL)を、溶液に攪拌しながら添加する。
【0039】
反応混合物を5時間、還流下、アルゴン下で攪拌し、次いで冷却する。得られた溶液を1100mlのヘキサンに、攪拌しながら滴下添加する。濃厚な懸濁液が生じ;生成物を濾過し、再度1時間、1000mlのヘキサン内で攪拌する。濾過後、生成物、化合物I.1を真空乾燥する。融点は87.4℃である.収率:100g(理論上84%)
【0040】
元素分析:C628114SI(1176.53)
計算値:C63.30;H6.94;N5.95
実測値:C63.10;H7.10;N5.80
【0041】
(実施例2)
【化14】

物質B1.1と同様に、5.4g(理論上52%)の物質B2.1を、10gのチヌビン(Tinuvin)479(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals Inc.),スイス)と33.3gのトリエチレングリコール(アルドリッチ)から調製する。B2.1の融点は110℃である。
【0042】
【化15】

物質I.1と同様に、6.0g(理論上88%)の物質I.2を、5gのB2.1と1.77gの3−イソシアナトプロピル−トリエトキシシラン(アルドリッチ)から調製する。物質I.2の融点は80℃である。
【0043】
元素分析:C526011SI(945.16)
計算値:C66.08;H6.40;N5.93
実測値:C65.10;H6.70;N5.70
【0044】
(実施例3)
【化16】

物質B1.1と同様に、32.8g(理論上41%)の物質B3.1を、250gの1,3−ジメチル−3,4,5,6−テトラヒドロ−2−ピリミジオン(アルドリッチ)に溶解させた80gのチヌビン(Tinuvin)479(チバ・スペシャリティ・ケミカルズ社(Ciba Specialty Chemicals Inc.),スイス)と120gのペンタエリトリトール(アルドリッチ)から調製する。
【0045】
【化17】

物質I.1と同様に、42g(理論上56%)の物質I.3を、36gのB3.1と86.3gの3−イソシアナトプロピル−トリエトキシシランから調製する。融点は127℃である。
【0046】
元素分析:C7110019SI(1425.88)
計算値:C59.81;H7.07;N5.89
実測値:C59.90;H7.00;N5.90
【0047】
(実施例4〜10:コートされたポリカーボネートシートの製造)
a)(UV吸収剤を含まない)ゾル−ゲルの調製
41.83gのコロイド状二酸化珪素(HCスターク(ドイツ)からのレバジール200A、水中で30%、pH9.5、平均粒子サイズ15nm)と13.8gの蒸留水から成る懸濁液を、57.67gの、ABCR、ドイツからのメチルトリメトキシシランと0.42gの酢酸の混合物に添加する。16〜18時間室温で攪拌する。次に、混合物を61.7gのイソプロパノールと61.7gのn−ブタノールで希釈する。
【0048】
b)UV吸収剤を含有するコーティングの調製
0.16g(0.8重量%)の表1に挙げるUV吸収剤を各場合、19.84gの原液に添加する。2時間攪拌し、pH値をアンモニアを用いて7.5に上げ、加圧吸引フィルター(2〜4μmのセルロースフィルター)で濾過を行う。
【0049】
c)塗布
マクローロン(Makrolon)(登録商標)2808(バイエル・マテリアルサイエンスAG(Bayer MaterialScience AG);中程度の粘度のビスフェノールAポリカーボネート、ISO 1133に従って、300℃、1.2kgで、MVR 10g/10分、UV安定性なし)の、10×15×0.32cmの大きさを有する、光学品位の射出成形ポリカーボネート(PC)シートを、1時間120℃で焼き戻しし、イソプロパノールですすぎ、空気に暴露する。次にシートを市販入手可能なPMMA下塗り剤(モメンティブ・パフォーマンス。マテリアルズからの下塗り剤SHP401)でコートし、30分間室温で空気に暴露し、次にこれをウェット−オン−ウェット法によって、それぞれ新たに濾過されたUV吸収剤含有ゾル−ゲル懸濁液で、直接フロードコートする。30分間室温で空気に暴露した後に、シートを1時間120℃で硬化する。
【0050】
ゾル−ゲル懸濁液におけるUV吸収剤の溶解性/適合性の指標として、UV吸収剤含有ゾル−ゲルでコートされた個々のPCシートの初期曇り値を、ASTM D 1003に従って、バイク−ガードナー(Byk−Gardner)からのヘイズ・ガード・プラス(Haze Gard Plus)を用いて、決定する。UV吸収剤の溶解性が劣悪なほど、容易に溶解するものより曇りが高くなる。
【0051】
【表1】

【表2】

【0052】
(実施例11(本発明による))
0.2gの化合物I.1を20gのラッカーAS4000(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)に添加し、1時間室温で攪拌する。固形物質は完全に溶解する。1重量%の化合物I.1を含有する、得られたゾル−ゲル懸濁液を濾過し(空孔サイズ0.2μmのメンブランフィルター)、これを、実施例4c)に従って、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズからの下塗り剤SHP401で下塗りされたマクローロン(登録商標)2808のPCシートに塗布し、熱硬化する。5〜8μmの厚さで、0.38%の初期曇りを有する透明性の高いコーティングが得られる。
【0053】
(実施例12(本発明による))
1.0gの化合物I.1を20gのラッカーAS4000(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)に添加し、1時間室温で攪拌する。固形物質は完全に溶解する。約5重量%の化合物I.1を含有する、得られたゾル−ゲル懸濁液を濾過し(空孔サイズ0.2μmのメンブランフィルター)、これを、実施例4c)に従って、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズからの下塗り剤SHP401で下塗りされたマクローロン(登録商標)2808のPCシートに塗布し、熱硬化する。6〜9μmの厚さで、0.36%の初期曇りを有する透明性の高いコーティングが得られる。
【0054】
(実施例13(本発明による))
0.2gの化合物I.1を20gのラッカーPHC587(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)に添加し、1時間室温で攪拌する。固形物質は完全に溶解する。1重量%の化合物I.1を含有する、得られたゾル−ゲル懸濁液を濾過し(空孔サイズ0.2μmのメンブランフィルター)、これを、実施例4c)に従って、マクローロン(登録商標)2808のPCシートに塗布し、熱硬化する。6〜10μmの厚さで、0.32%の初期曇りを有する透明性の高いコーティングが得られる。
【0055】
(実施例14(本発明による))
1.0gの化合物I.1を20gのラッカーPHC587(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)に添加し、1時間室温で攪拌する。固形物質は完全に溶解する。約5重量%の化合物I.1を含有する、得られたゾル−ゲル懸濁液を濾過し(空孔サイズ0.2μmのメンブランフィルター)、これを、実施例4c)に従って、マクローロン(登録商標)2808のPCシートに塗布し、熱硬化する。5〜7μmの厚さで、0.45%の初期曇りを有する透明性の高いコーティングが得られる。
【0056】
(実施例15(比較例))
0.2gのチヌビン479を20gのラッカーPHC587(モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ)に添加し、2時間室温で攪拌する。物質は溶解せず、大部分を蒸留によってラッカーから除去する。UV吸収剤が不溶性であるので、相応のUV吸収剤含有ラッカーまたはこれでコートされたシートを製造することはできなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性媒体に可溶性の、一般式
A−X(−T−Q−P) (I)
のUV吸収化合物であって、
ここでAは
【化1】

を表し、ここで、YおよびYは互いに独立して、一般式
【化2】

を有する置換基であり、ここで
rは0または1であり、
、R、Rは互いに独立して、H、OH、C1〜20アルキル、C4〜12シクロアルキル、C2〜20アルケニル、C1〜20アルコキシ、C4〜12シクロアルコキシ、C2〜20アルケニルオキシ、C7〜20アラルキル、ハロゲン、−C≡N、C1〜5ハロアルキル、−SO2R'、−SO3H、−SO3M(M=アルカリ金属)、−COOR'、−CONHR’、−CONR’R”、−OCOOR’、−OCOR’、−OCONHR’、(メタ)アクリルアミノ、(メタ)アクリルオキシ、C6〜12アリール(C1〜12アルキル、C1〜12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンによって任意に置換)、C3〜12ヘテロアリール(C1〜12アルキル、C1〜12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンによって任意に置換)であり、
ここで
R’およびR”は−H、C1〜20アルキル、C4〜12シクロアルキル、C6〜12アリール(C1〜12アルキル、C1〜12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンによって任意に置換)またはC3〜12ヘテロアリール(C1〜12アルキル、C1〜12アルコキシ、CNおよび/またはハロゲンによって任意に置換)を示し、
Xは線形または分岐結合基であり、基AのO原子と各T基の間には、炭素、酸素、窒素、硫黄、リンおよび/または珪素から選択される少なくとも4個の原子の鎖が鎖中に存在することを特徴とし、
Tはウレタン基−O−(C=O)−NH−または尿素基−NH−(C=O)−NH−を表し、
Qは−(CH−を表し、ここでmは1、2または3であり、
Pはモノ−、ジ−またはトリ−アルコキシシラン基を表し、
nは1〜5の整数を示す
UV吸収化合物。
【請求項2】
rが1であることを特徴とする請求項1による化合物。
【請求項3】
Pはモノ−、ジ−またはトリ−アルコキシシラン基を表し、アルコキシはメトキシ、エトキシまたは(2−メトキシ)−エトキシを表すことを特徴とする請求項1または2による化合物。
【請求項4】
化合物
【化3】

【化4】

【化5】

【化6】

【化7】

【化8】

【化9】

【化10】

を含む群から選択されることを特徴とする請求項1による化合物。
【請求項5】
ラッカーと請求項1〜4のいずれか1つによる化合物を含有するコーティング組成物。
【請求項6】
ラッカーがハイブリッドラッカーであることを特徴とする請求項5によるコーティング組成物。
【請求項7】
ラッカーがゾル−ゲルラッカーであることを特徴とする請求項5によるコーティング組成物。
【請求項8】
安定剤、流動剤、表面活性剤、顔料、着色剤、硬化触媒、IR吸収剤および式(I)の化合物以外のUV吸収剤および接着促進剤を含む群から選択される1以上のさらなる添加剤をさらに含有することを特徴とする請求項5〜7のいずれか1つによるコーティング組成物。
【請求項9】
さらなる添加剤の1つは式(I)の化合物以外のシリル化UV吸収剤であることを特徴とする請求項8によるコーティング組成物。
【請求項10】
a)請求項5〜9のいずれか1つによるコーティング組成物の層を塗布し、b)次に任意に存在する何らかの溶媒を除去し、c)最後に塗布層を硬化する工程を包含する、基材(B)をコーティングする方法。
【請求項11】
基材(B)と、請求項5〜9のいずれか1つによる組成物の1以上のコーティング(C)を含有する物品。
【請求項12】
下塗りコーティング(D)およびさらなるコーティング(E)を含む群から選択される1以上のさらなるコーティングをさらに含有する請求項11による物品。
【請求項13】
基材は1以上の熱可塑性プラスチックの成形本体または押出し物である請求項11または請求項12のいずれかによる物品。
【請求項14】
熱可塑性プラスチックはポリカーボネートおよび/またはコポリカーボネートであることを特徴とする請求項13による物品。
【請求項15】
請求項12〜14のいずれか1つによるフィルム、共押出しフィルム、シート、多壁シート、ヘッドランプカバープレート、自動車グレージングおよび建物グレージング。

【公表番号】特表2012−526159(P2012−526159A)
【公表日】平成24年10月25日(2012.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−508935(P2012−508935)
【出願日】平成22年4月29日(2010.4.29)
【国際出願番号】PCT/EP2010/002631
【国際公開番号】WO2010/127805
【国際公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】