説明

極端紫外線露光装置に用いられる光学素子の劣化抑制方法

【課題】
光学素子の劣化抑制を行うためには、厳密な保管環境管理や保護膜が必要となるという問題がある。
【解決手段】
極端紫外線露光装置に用いられる光学素子の表面に、遮蔽体を密着して配置することにより光学素子の劣化を抑制する方法であって、遮蔽体は酸素透過度が300mL/m2・24h・MPa、水蒸気透過度が100ml/m2・24h以下の材料からなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、極端紫外線露光装置用の光学素子が酸素・水分などにより劣化するのを抑制する方法に関するものである。なお、本明細書及び特許請求の範囲では、極端紫外線とはEUV(Extreme Ultraviolet)光とも呼び、波長が100nm以下の光を言う。
【背景技術】
【0002】
半導体集積回路の集積度が増すに従い、回路パターンが微細化し、従来使用されていた可視光や紫外光を使用した露光装置では、その解像度が足らなくなってきている。周知のように、露光装置の解像度は、転写光学系の開口数(NA)に逆比例し、露光に使用する光の波長に比例する。そのため、解像度を上げる一つの試みとして、可視光や紫外光に代わり、波長の短いEUV(軟X線と称されることもある)光源を露光転写に使用する試みがなされている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
極端紫外線露光装置用の光学素子として、ガラスなどの光学材料基板上に屈折率の異なるSi、Mo、C、Sr、Y、Ru、Rhなどの金属、B4Cといった炭化物、その他化合物が交互に積層されたもので、分光特性を任意に変えたミラーが用いられている。これら光学素子を長期保管した場合、保管環境中に含まれる水分・酸素・有機(フタル酸エステルなど)・無機(NOx、SOxガスなど)ガスが光学素子表面に吸着したり、膜内侵入したり、化学反応をおこしたりして光学素子の性能(分光特性・耐久性など)を劣化させてしまう。このような劣化を抑制するためには保管環境管理を厳密に行う必要がある。光学素子を保管する部屋・保管庫内の気体・液体に含まれる水分・酸素・有機・無機ガスといった有害不純物を取り除くことは、大掛かりな除外装置・設備が必要になりコスト向上や生産効率の低下をもたらす原因である。また、保護膜を光学素子の最上層として成膜してしまう方法も一般的だが、その余分な保護膜をつけることで所望の光学性能を得ることができないことも多い。なぜなら、保護膜も光学素子の一部として機能してしまうからである。
【0004】
そこで本発明は、上記の問題を解決し、厳密な保管環境管理が不要で保護膜も要らない光学素子の劣化抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、前述した目的を達成するために、極端紫外線露光装置に用いられる光学素子の表面に、遮蔽体を密着して配置することにより光学素子の劣化を抑制する方法であって、前記遮蔽体は酸素透過度が300mL/m2・24h・MPa、水蒸気透過度が100ml/m2・24h以下の材料からなることを特徴とする方法を提供する。
【0006】
この場合に、前記遮蔽体の前記光学素子に接触する面は前記光学素子と同一の面形状を有することは好ましい。同一の面形状であるため、遮蔽体をより密着させることができ、光学素子表面に有害なガスが接触することをより効果的に防止できる。
【0007】
また、前記遮蔽体が前記光学素子よりもやわらかい材料で構成されていることは好ましい。遮蔽体を柔らかい材料とすることにより、接触する光学素子表面が傷つくことを防止できる。
【0008】
また、この場合に、前記遮蔽体がガラス、金属、樹脂のいずれかであることは好ましい。
なお、極端紫外線露光装置用の光学素子とはガラスなどの基板上に屈折率の異なるSi、Mo、C、Sr、Y、Ru、Rhなどの金属、B4Cといった炭化物、その他化合物が交互に積層された所謂多層膜ミラー、多層膜マスクや全反射ミラーなどを示す。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、酸素透過度が300mL/m2・24h・MPa、水蒸気透過度が100ml/m2・24h以下の遮蔽体を光学素子に密着させることにより、光学素子表面を構成する物質とガスとの接触を抑制することができる。接触が少なくなれば、有害なガスが光学素子を構成する物質への吸着、侵入、化学反応をおこしたりする確率が大幅に抑制されるので劣化を抑制することが出来る。従って、厳密な保管環境管理や保護膜が不要になり、簡単に光学素子の劣化抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態の例を、図を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態の1例である光学素子の保管例を示す概略断面図である。本例では光学素子としてミラーを例にあげ説明する。
【0011】
1はミラー基板、2はミラーに形成された多層膜(本例ではMoとSiの交互多層膜)、3は遮蔽体、4は遮蔽体抑え治具である。ミラー基板1と多層膜2によってミラー5が構成される。本例ではミラー5は説明の便宜上、平面ミラーとして説明するが、球面や非球面等の形状を有するミラーも同様に扱うことができ、その場合は遮蔽体の光学素子に密着する表面は球面あるいは非球面形状と同じ形状とすることが好ましい。また、本例ではミラー5の外径は円としているが、他の形状であってもよい。遮蔽体抑え治具4は遮蔽体3に接触して図面下側から挟み込む円環状の下側抑え板41と、ミラー5の裏面に接触する円形状の上側第3抑え板46,抑え板46を更に抑える第2抑え板42,第2抑え板42を上側から抑える円環状の第1抑え板43と、第1抑え板43と下側抑え板41とを固定するための棒ネジ45とナット44とからなる。第1抑え板43と下側抑え板41とは棒ネジ45とナット44により3カ所で固定されている。なお、ミラー5の裏面と接触する第3抑え板46はミラー5の裏面を傷つけないように柔らかい材料で構成されている。ミラー5を遮蔽体3に密着させた後に遮蔽体抑え治具4により固定する。なお、遮蔽体抑え治具4は本実施の形態の例に限られるわけではなく、遮蔽体3をミラー5に密着させた状態を保つことができるものであればどのようなものでもよい。
【0012】
光学素子に密着させる遮蔽体3とは、ガラス・金属・樹脂など気体透過度が低いものである。ガス透過性は低ければ低いほど良い。ガスの透過性の表し方は幾つかあるが、例えば、JIS-Z-0208・JIS-K-7126に基づく気体透過度、水蒸気透過度の試験法で測定して それぞれが300mL/m2・24h・MPa(酸素ガス)、100ml/m2・24h以下であれば良い。上記の値を満たせば、ガスを十分遮蔽することができる。ただし、光学素子表面を構成する物質と反応したり、悪影響を与えたりするガスを放出しないものを遮蔽体として光学素子に合わせて選ぶ必要がある。
【0013】
光学素子に密着させることで、光学素子表面を構成する物質と有害なガスとの接触を抑制することができる。接触が少なくなれば、有害なガスが光学素子表面を構成する物質に吸着したり、膜内侵入したり、化学反応をおこしたりする確率が大幅に抑制されるので劣化を抑制することが出来る。光学素子に密着させる際、光学素子を予め溶液や光照射などで洗浄しておくと、密着性は高まる。光学素子の保管が終わり使用する際には、遮蔽体を手などではずせば良い。ただし、取りつけ・取り外しの際に光学素子表面を傷つける可能性があるので注意が必要である。そのため、光学素子表面より柔らかい遮蔽体を選び、表面形状を正確に合わせることが望ましい。その点、樹脂であれば柔らかいので有利である。また、後に硬化する塗布できる樹脂も存在しており、それらを利用することで光学素子と樹脂を密着させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の形態概略図である。
【符号の説明】
【0015】
1 ミラー基板
2 多層膜
3 遮蔽体
4 遮蔽体抑え治具
5 ミラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
極端紫外線露光装置に用いられる光学素子の表面に、遮蔽体を密着して配置することにより光学素子の劣化を抑制する方法であって、
前記遮蔽体は酸素透過度が300mL/m2・24h・MPa、水蒸気透過度が100ml/m2・24h以下の材料からなることを特徴とする方法
【請求項2】
前記遮蔽体の前記光学素子に接触する面は前記光学素子と同一の面形状を有することを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記遮蔽体が前記光学素子よりもやわらかい材料で構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記遮蔽体がガラスであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記遮蔽体が金属であることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記遮蔽体が樹脂であることを特徴とする請求項1に記載の方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−49563(P2006−49563A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−228296(P2004−228296)
【出願日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度新エネルギー・産業技術総合開発機構「極端紫外線(EUV)露光システムの開発」に関する委託研究)産業活力再生特別措置法第30条の規定を受ける特許出願
【出願人】(000004112)株式会社ニコン (12,601)
【Fターム(参考)】